特許第6453635号(P6453635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6453635アゾベンゼン化合物を用いたヒートポンプシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6453635
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】アゾベンゼン化合物を用いたヒートポンプシステム
(51)【国際特許分類】
   F25B 23/00 20060101AFI20190107BHJP
   C07C 245/08 20060101ALN20190107BHJP
   C09K 5/06 20060101ALN20190107BHJP
【FI】
   F25B23/00 Z
   !C07C245/08
   !C09K5/06 J
【請求項の数】3
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-252671(P2014-252671)
(22)【出願日】2014年12月15日
(65)【公開番号】特開2015-163598(P2015-163598A)
(43)【公開日】2015年9月10日
【審査請求日】2017年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-17286(P2014-17286)
(32)【優先日】2014年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】特許業務法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川北 美香
(72)【発明者】
【氏名】外山 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】君塚 信夫
(72)【発明者】
【氏名】森川 全章
(72)【発明者】
【氏名】石場 啓太
(72)【発明者】
【氏名】長尾 侑弥
【審査官】 齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−082651(JP,A)
【文献】 英国特許第00726260(GB,B)
【文献】 Zinchenko, Anatoly A. et al.,,Photochemical Modulation of DNA Conformation by Organic Dications,ChemBioChem,2012年,(2012), 13(1), 105-111
【文献】 Takahashi, Yutaka et al.,,Photoinduced Demulsification of Emulsions Using a Photoresponsive Gemini Surfactant,Langmuir,2014年,(2014), 30(1), 41-47
【文献】 Hubbard, F. Pierce, Jr. et al.,,Effect of Light on Self-Assembly of Aqueous Mixtures of Sodium Dodecyl Sulfate and a Cationic, Bolaform Surfactant Containing Azobenzene,Langmuir,2007年,(2007), 23(9), 4819-4829
【文献】 Kurihara, Kensuke et al.,Self-reproduction of supramolecular giant vesicles combined with the amplification of encapsulated DNA,Nature Chemistry,2011年,(2011), 3(10), 775-781
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C09K
F25B
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるアゾベンゼン化合物を含有する熱媒体が内部で循環し、低温側と高温側に跨って配置される循環回路(10)と、
前記循環回路(10)における低温側に設けられ、外部からの熱を前記熱媒体に伝える低温側熱交換器(11)と、
前記循環回路(10)における高温側に設けられ、前記熱媒体からの熱を外部に放出する高温側熱交換器(12)とを備え、
前記アゾベンゼン化合物は、トランス体への紫外光照射によってシス体に変化し、シス体への可視光照射によってトランス体に変化することを特徴とするヒートポンプシステム。
【化1】
一般式(1)において、
Y:NもしくはCHである。
1〜R3、R10〜R12:炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖のアルキル基、R13−O−(R14n−R15(但しnは1〜2の整数)、HまたはC24OHの何れかである。
13:炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニル基またはベンジル基の何れかである。
14:CH2CH2O、CH2CH2CH2OまたはCH2C(CH3)HOの何れかである。
15:炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、HまたはOHの何れかである。
4、R9:(OCH2CH2n(但しnは1〜3の整数)、(OCH2CH2CH2n(但しnは1〜3の整数)、R16、O−R16、NHR16、N(R16)(R17)、COOR16またはCONHR16の何れかである。
16、R17:炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。
5〜R8:H、F、R18、OR18またはN(R182の何れかである。
18:H、CH3、C25、C37またはi−C37の何れかである。
-:Cl-、Br-、I-、BF4-、PF6-、CH3(CH2nSO3-(但しnは0〜2の整数)、TsO-、(YSO22-(但しY=F、CF3、C25の何れか)、C36(SO22-、(NC)2-の何れかである。
【請求項2】
前記アゾベンゼン化合物は、トランス体に紫外光を照射することでシス体に変化し、シス体に可視光を照射することでトランス体に変化することを特徴とする請求項に記載のヒートポンプシステム。
【請求項3】
前記アゾベンゼン化合物は、シス体の融点がトランス体の融点よりも低くなっており、シス体の融点より高くトランス体の融点より低い温度範囲において、固相のトランス体への紫外光照射によって液相のシス体に変化し、シス体への可視光照射によって固相のトランス体に変化することを特徴とする請求項に記載のヒートポンプシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によって構造変化するアゾベンゼン化合物を用いたヒートポンプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アゾベンゼン化合物に所定の波長の光を照射することで、シス体からトランス体あるいはトランス体からシス体に異性化することが知られている。このようなアゾベンゼン化合物において、紫外光の照射によって固体状態のトランス体から液体状態のシス体に変化する環状アゾベンゼン誘導体が報告されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−256155号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chemical Communications, 2011, 47, 1770-1772
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の環状アゾベンゼン誘導体は、紫外光の照射によって固体から液体に相変化することから、相変化に伴う潜熱を利用してヒートポンプシステムの熱媒体として用いることが考えられる。ところが、液体状のシス体となった環状アゾベンゼン誘導体を固体状のトランス体に変化させるためには加熱する必要がある。すなわち、紫外光照射によって汲み上げられた熱を放出するために、外部から熱を加える必要がある。結果、低温側から高温側に有効に移動できる熱量が少なくなるため、ヒートポンプシステムの熱媒体としては好ましくない。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、加熱することなく繰り返し構造変化が可能なアゾベンゼン化合物を用いたヒートポンプシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載のヒートポンプシステムは、一般式(1)で表されるアゾベンゼン化合物を含有する熱媒体が内部で循環し、低温側と高温側に跨って配置される循環回路(10)と、循環回路(10)における低温側に設けられ、外部からの熱を熱媒体に伝える低温側熱交換器(11)と、循環回路(10)における高温側に設けられ、熱媒体からの熱を外部に放出する高温側熱交換器(12)とを備え、アゾベンゼン化合物は、トランス体への紫外光照射によってシス体に変化し、シス体への可視光照射によってトランス体に変化することを特徴としている。
【0008】
【化1】
一般式(1)において、
Y:NもしくはCHである。
【0009】
1〜R3、R10〜R12:炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖のアルキル基、R13−O−(R14n−R15(但しnは1〜2の整数)、HまたはC24OHの何れかである。
【0010】
13:炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニル基またはベンジル基の何れかである。
【0011】
14:CH2CH2O、CH2CH2CH2OまたはCH2C(CH3)HOの何れかである。
【0012】
15:炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、HまたはOHの何れかである。
【0013】
4、R9:(OCH2CH2n(但しnは1〜3の整数)、(OCH2CH2CH2n(但しnは1〜3の整数)、R16、O−R16、NHR16、N(R16)(R17)、COOR16またはCONHR16の何れかである。
【0014】
16、R17:炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。
【0015】
5〜R8:H、F、R18、OR18またはN(R182の何れかである。
【0016】
18:H、CH3、C25、C37またはi−C37の何れかである。
【0017】
-:Cl-、Br-、I-、BF4-、PF6-、CH3(CH2nSO3-(但しnは0〜2の整数)、TsO-、(YSO22-(但しY=F、CF3、C25の何れか)、C36(SO22-、(NC)2-の何れかである。
【0018】
上記一般式(1)で表されるアゾベンゼン化合物は、第1の光照射トリガーとして紫外光を照射することでトランス体からシス体に異性化し、第2の光照射トリガーとして可視光を照射することでシス体からトランス体に異性化するという特性を備えている。このため、シス体の融点とトランス体の融点との間の温度範囲でトランス体とシス体の異性化を行うことで、アゾベンゼン化合物の固相から液相あるいは液相から固相への相変化を誘発することができる。
【0019】
一般式(1)で表されるアゾベンゼン化合物は、固相のトランス体から液相のシス体に相変化する際に、融解潜熱による吸熱が起こり、液相のシス体から固相のトランス体に相変化する際に、相変化に伴う発熱が起こる。このため、低温環境下で固相のトランス体に紫外光を照射することで、液相のシス体に相変化させて吸熱させることができ、高温環境下で液相のシス体に可視光を照射することで、固相のトランス体に相変化させて発熱させることができる。
【0020】
そして、上記一般式(1)のアゾベンゼン化合物をヒートポンプシステムの熱媒体として用い、光照射によるアゾベンゼン化合物の相変化に伴う潜熱を利用することで、圧縮機のような機器を用いて外部からエネルギーを投入することなく、低温環境から高温環境への熱の移動を行うことができる。これにより、より少ないエネルギーで熱の移動が可能となるヒートポンプシステムを提供することができる。
【0021】
また、アゾベンゼン化合物は光刺激に対する応答速度が速いので、相変化に伴う吸熱と発熱が短時間で行われ、ヒートポンプシステムの熱媒体として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係るヒートポンプシステムの概念図である。
図2】アゾベンゼン化合物の異性体を示す図である。
図3】アゾベンゼン化合物のギブスの自由エネルギーを示す図である。
図4】第2実施例のアゾベンゼン化合物の単結晶構造解析の結果から計算した粉末X線回折像を示すグラフである。
図5】第2実施例のアゾベンゼン化合物の結晶構造情報を示す図表である。
図6】第2実施例のアゾベンゼン化合物の構成元素の座標を示す図表である。
図7】第2実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光および可視光を照射する前後の吸光スペクトルを示すグラフである。
図8】第3実施例のアゾベンゼン化合物の結晶構造情報を示す図表である。
図9】第3実施例のアゾベンゼン化合物の構成元素の座標を示す図表である。
図10】第3実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光および可視光を照射する前後の吸光スペクトルを示すグラフである。
図11】第3実施例のアゾベンゼン化合物のX線回折パターンを示す図である。
図12】第3実施例のアゾベンゼン化合物の紫外光照射前の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図13】第3実施例のアゾベンゼン化合物の紫外光照射後の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図14】第3実施例のアゾベンゼン化合物の可視光照射後の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図15】第4実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光および可視光を照射する前後の吸光スペクトルを示すグラフである。
図16】第4実施例のアゾベンゼン化合物の紫外光照射前の光学顕微鏡画像を示す図である。
図17】第4実施例のアゾベンゼン化合物の紫外光照射前の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図18】第4実施例のアゾベンゼン化合物の紫外光照射後の光学顕微鏡画像を示す図である。
図19】第4実施例のアゾベンゼン化合物の紫外光照射後の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図20】第4実施例のアゾベンゼン化合物の可視光照射後の光学顕微鏡画像を示す図である。
図21】第4実施例のアゾベンゼン化合物の可視光照射後の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図22】第5実施例のアゾベンゼン化合物の紫外光照射前の光学顕微鏡画像を示す図である。
図23】第5実施例のアゾベンゼン化合物の紫外光照射前の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図24】第5実施例のアゾベンゼン化合物の紫外光照射後の光学顕微鏡画像を示す図である。
図25】第5実施例のアゾベンゼン化合物の紫外光照射後の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図26】第5実施例のアゾベンゼン化合物の可視光照射後の光学顕微鏡画像を示す図である。
図27】第5実施例のアゾベンゼン化合物の可視光照射後の偏光顕微鏡画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のアゾベンゼン化合物をヒートポンプシステムの熱媒体として用いた実施形態について図1図3に基づいて説明する。
【0024】
図1に示すように、ヒートポンプシステムは、循環経路10、低温側熱交換器11、高温側熱交換器12、循環ポンプ13を備えている。ヒートポンプシステムは、低温環境および高温環境のような温度勾配が存在する環境下で用いられる。
【0025】
図1では、左側が低温側であり、右側が高温側となっている。循環経路10は、低温側と高温側に跨って配置されている。低温側熱交換器11は循環経路10における低温側に配置され、高温側熱交換器12は循環経路10における高温側に配置されている。
【0026】
本実施形態のヒートポンプシステムは、冬季に用いられる室内暖房装置として構成されている。つまり、外気温が低くなる冬季において、低温側熱交換器11を室外(例えば0℃)に配置し、高温熱交換器12を室内(例えば25℃)に配置することで、室内暖房に用いることができる。
【0027】
循環経路10には、内部に熱媒体が封入されており、熱媒体が低温側熱交換器11と高温側熱交換器12との間を循環可能となっている。本実施形態では、熱媒体としてアゾベンゼン化合物を用いている。アゾベンゼン化合物は、例えばクロロホルム等の有機溶媒に溶解させたものをマイクロカプセルに封入して用いることができる。
【0028】
循環経路10には、アゾベンゼン化合物が封入されたマイクロカプセルを輸送するための輸送用流体も封入されている。輸送用流体としては、エチレングリコール等の不凍液を用いることができる。熱媒体は輸送用流体とともに循環ポンプ13によって送出され、循環経路10を循環する。
【0029】
低温側熱交換器11は、少なくとも紫外光を透過可能な紫外光透過部が設けられており、内部を通過するアゾベンゼン化合物に外部から紫外光を照射可能となっている。また、高温側熱交換器12は、少なくとも可視光を透過可能な可視光透過部が設けられており、内部を通過するアゾベンゼン化合物に外部から可視光を照射可能となっている。
【0030】
本実施形態で用いるアゾベンゼン化合物は、下記一般式(1)で表される。
【0031】
【化1】
一般式(1)において、YはNもしくはCHである。
【0032】
1〜R3、R10〜R12は、炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖のアルキル基、R13−O−(R14n−R15(但しnは1〜2の整数)、HまたはC24OHの何れかである。R13は、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニル基またはベンジル基の何れかである。R14は、CH2CH2O、CH2CH2CH2OまたはCH2C(CH3)HOの何れかである。R15は、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、HまたはOHの何れかである。
【0033】
4、R9は、(OCH2CH2n(但しnは1〜3の整数)、(OCH2CH2CH2n(但しnは1〜3の整数)、R16、O−R16、NHR16、N(R16)(R17)、COOR16またはCONHR16の何れかである。R16、R17は、炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖のアルキル基である。
【0034】
5〜R8は、H、F、R18、OR18またはN(R182である。R18は、H、CH3、C25、C37またはi−C37の何れかである。
【0035】
-は、Cl-、Br-、I-、BF4-、PF6-、CH3(CH2nSO3-(但しnは0〜2の整数)、TsO-、(YSO22-(但しY=F、CF3、C25の何れか)、C36(SO22-、(NC)2-の何れかであり、好ましくはCl-又はBr-である。
【0036】
図2に示すように、アゾベンゼン化合物には、トランス体およびシス体の異性体が存在していることが知られている。そして、トランス体の方がシス体よりも50kJ/mol程度安定である。本実施形態のアゾベンゼン化合物は、第1の光照射トリガーとして紫外光(例えば波長365nm)を照射することでトランス体からシス体に異性化し、第2の光照射トリガーとして可視光(例えば波長500nm)を照射することでシス体からトランス体に異性化する。また、アゾベンゼン化合物は、光刺激に対する応答速度が速いという特性を有している。
【0037】
次に、本実施形態のアゾベンゼン化合物の相変化を図3に基づいて説明する。図3の縦軸はギブスの自由エネルギーを示し、横軸は温度を示している。図3に示すように、本実施形態のアゾベンゼン化合物は、シス体の融点Tmcisがトランス体の融点Tmtransよりも低くなっている。つまり、シス体の融点Tmcisより高くトランス体の融点Tmtransより低い温度範囲では、シス体のアゾベンゼン化合物は液相となっており、トランス体のアゾベンゼン化合物は固相となっている。このため、本実施形態のアゾベンゼン化合物は、シス体の融点Tmcisとトランス体の融点Tmtransとの間の温度範囲でトランス体とシス体の異性化を行うことで、アゾベンゼン化合物の固相から液相あるいは液相から固相への相変化を誘発することができる。
【0038】
本実施形態のアゾベンゼン化合物は、固相のトランス体に紫外光を照射することで、液相のシス体に相変化させることができ、液相のシス体に可視光を照射することで、固相(結晶)のトランス体に相変化させることができる。液相のシス体に可視光を照射することで固相(結晶)のトランス体に異性化するアゾベンゼン化合物は、これまで報告されておらず、本実施形態のアゾベンゼン化合物に特徴的な性質である。
【0039】
アゾベンゼン化合物は、固相のトランス体から液相のシス体に相変化する際に、融解潜熱による吸熱が起こり、液相のシス体から固相のトランス体に相変化する際に、相変化に伴う発熱が起こる。このため、低温環境下で固相のトランス体に紫外光を照射することで、液相のシス体に相変化させて吸熱させることができ、高温環境下で液相のシス体に可視光を照射することで、固相のトランス体に相変化させて発熱させることができる。
【0040】
このため、本実施形態のヒートポンプシステムは、シス体の融点Tmcisとトランス体の融点Tmtransとの間の温度範囲となる条件下で使用することで、アゾベンゼン化合物の相変化に伴う吸熱及び発熱を利用することができる。つまり、ヒートポンプシステムは、低温側熱交換器11が配置された低温側の温度がシス体の融点Tmcisより高く、高温側熱交換器12が配置された高温側の温度がトランス体の融点Tmtransより低い条件下で使用する。
【0041】
このような条件下において、ヒートポンプシステムは次のように作動する。まず、低温側熱交換器11の紫外光透過部(図示せず)を介して内部のアゾベンゼン化合物に紫外光を照射することで、アゾベンゼン化合物がトランス体からシス体に変化する。このトランス体(固体)からシス体(液体)への相変化に伴う融解潜熱によって、アゾベンゼン化合物は低温環境下で吸熱する。
【0042】
シス体のアゾベンゼン化合物は、循環ポンプ13によって低温側熱交換器11から高温側熱交換器12に移動する。そして、高温側熱交換器12の可視光透過部(図示せず)を介して内部のアゾベンゼン化合物に可視光を照射することで、アゾベンゼン化合物がシス体からトランス体に変化する。このシス体(液体)からトランス体(固体)への相変化に伴って、アゾベンゼン化合物は高温環境下で放熱する。このように、光照射によるアゾベンゼン化合物の相変化に伴う潜熱を利用することで、低温環境から高温環境への熱の移動を行うことができる。
【0043】
以上説明した本実施形態では、低温環境下で紫外光照射を行うことで吸熱し、高温環境下で可視光照射を行うことで発熱する特性を備えた上記一般式(1)で表されるアゾベンゼン化合物をヒートポンプシステムの熱媒体として用いることで、圧縮機のような機器を用いて外部からエネルギーを投入することなく、吸熱及び発熱を行うことができる。これにより、より少ないエネルギーで熱の移動が可能となる。
【0044】
また、アゾベンゼン化合物は光刺激に対する応答速度が速いので、相変化に伴う吸熱と発熱が短時間で行われ、ヒートポンプシステムの熱媒体として好適に用いることができる。
【0045】
また、本実施形態のアゾベンゼン化合物はイオン液体であるため、揮発しにくく高温で安定である。また、マーデルングエネルギーの効果により、類似構造を有する他の非イオン性化合物に比べて潜熱が大きくなることが期待できる。
【0046】
ここで、「融点」とは、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry : DSC)において試料が固体状態から液体状態に変化する際に観測される吸熱ピークについて、ベースラインと、ピークの立ち上がり側の変曲点に引いた接線の交点の温度のことをいう。
【0047】
また、ある温度が「融点より高い」「融点より低い」とは、その温度が、それぞれ融点を含まない高温側、融点を含まない低温側に存在していることをいう。
【実施例】
【0048】
(第1実施例)
次に、本発明の第1実施例について説明する。第1実施例では、下記一般式(2)で示されるN,N,N,N’,N’,N’−ヘキサキス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]−2,2’−[(4,4’−ジアゼンジイル)ビスフェノキシ]ビスエチルアンモニウム ジブロマイド(以下、「[(mee)3NC2AzoC2N(mee)32+Br2」という。)について説明する。
【0049】
【化2】
ここで、一般式(2)で示されるアゾベンゼン化合物[(mee)3NC2AzoC2N(mee)32+Br2の製造方法について説明する。
【0050】
【化3】
上記合成スキームで示されるように、[(mee)3NC2AzoC2N(C71532+Br2は、4,4’−ジヒドロキシアゾベンゼン、1,2−ビス(4−((2−ブロモエチル)オキシ)フェニル)ジアゼンといった中間生成物を経て合成される。
【0051】
まず、4,4’−ジヒドロキシアゾベンゼンの合成について説明する。
【0052】
【化4】
1M塩酸水溶液150mlに4−アミノフェノール(M.W.109.13)9.57グラム(87.7mmol)を溶解させ、1000mlビーカーに加えた。この時、ビーカーを氷浴中に浸し、溶液の温度を5℃以下に保った。そこに、亜硝酸ナトリウム(M.W.69.01)6.10グラム(88.4mmol)を水30mlに溶かした溶液(5℃以下)を、氷浴中で撹拌しながら滴下した。更に、5℃以下に冷却したメタノールを300ml加えた。また、水酸化ナトリウム(M.W.39.9)6.65グラム(166.3mmol)とフェノール(M.W.94.11)8.25グラム(87.7mmol)をメタノール60mlに溶かした溶液(5℃以下)を先の溶液に加え、氷浴下で3時間撹拌した。室温で一晩撹拌した後、4N塩酸を加え、pHを4〜5に調節した。アセトンを減圧留去した後、生じた沈殿を濾別し、エタノール:水=3:2(v/v)混合溶媒150mlで再結晶した。得られた結晶を濾別した後、減圧乾燥し、紫色結晶7.59グラム(35.4mmol)を得た。
【0053】
得られた紫色結晶の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属された。これにより、4,4’−ジヒドロキシアゾベンゼンの合成を確認した。
【0054】
次に、「5a」で示す1,2−ビス(4−((2−ブロモエチル)フェニル)ジアゼンの合成について説明する。
【0055】
【化5】
200mlナスフラスコに4,4’−ジヒドロキシアゾベンゼン(M.W.214.22)1.00グラム(4.65mmol)、炭酸カリウム(M.W.225.65)6.40グラム(46.5mmol)、CH3CN15ml、1,2−ジブロモエタン(M.W.244.00)8.8グラム(46.5mmol)を加え、窒素置換した後にマイクロウェーブ合成装置を用いて150℃で3h撹拌を行った。反応後、反応溶液を水洗した後減圧留去し、得られた固体を再結晶(EtOAc:ジクロロメタン=1:1)により精製し、黄色固体810ミリグラムを得た。薄層クロマトグラフィー(TLC)により単一成分であることが確認されたため、これを次の反応に用いた。
【0056】
次に、[(mee)3NC2AzoC2N(mee)32+Br2の合成について説明する。
【0057】
【化6】
30mlバイアル管に「5a」で示す化合物(Mw:428.19)810ミリグラム(1.89mmol)、トリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アミン(Mw:323.43)3.6ml(11.34mmol)、CH3CN10mlを加え、窒素置換した後にマイクロウェーブ合成装置を用いて150℃で3h撹拌を行った。反応後、反応溶液を減圧留去した後に水に溶解させて不溶成分をろ過により取り除き、減圧留去したものをヘキサンで洗浄した。更にこれをジクロロメタンに溶解させ1M NaBr水溶液を用いて洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥後減圧留去して再度ヘキサンで洗浄することで、褐色の油状物質1.01gを得た。NMRおよび元素分析により、「5b」で示す[(mee)3NC2AzoC2N(mee)32+Br2の合成を確認した。
【0058】
(第2実施例)
次に、本発明の第2実施例について説明する。第2実施例では、下記一般式(3)で示されるN,N,N,N’,N’,N’−ヘキサエチル−2,2’−[(4,4’−ジアゼンジイル)ビスフェノキシ]ビスエチルアンモニウム ジブロマイド(以下、「[(C253NC2AzoC2N(C2532+Br2」という。)について説明する。
【0059】
【化7】
ここで、一般式(3)で示されるアゾベンゼン化合物[(C253NC2AzoC2N(C2532+Br2の製造方法について説明する。
【0060】
【化8】
30mlバイアル管に上記第1実施例で合成した1,2−ビス(4−((2−ブロモエチル)フェニル)ジアゼン(Mw:428.19)1.00g(2.34mmol)、トリエチルアミン(Mw:101.19)2.37g(23.4mmol)、CH3CN10mlを加え、窒素置換した後にマイクロウェーブ合成装置を用いて150℃で6h撹拌を行った。反応後、反応溶液を減圧留去した後水に溶解させて不溶成分をろ過により取り除き、濾液を濃縮しアセトンと水を用いて再結晶を行い、橙色固体1.21gを得た。NMRおよび元素分析により、「6」で示す[(C253NC2AzoC2N(C2532+Br2の合成を確認した。また、[(C253NC2AzoC2N(C2532+Br2の単結晶構造解析から、図4に示す計算から求めた粉末X線回折像、図5に示す結晶構造情報、図6に示す構成元素の座標を確認した。
【0061】
次に、本第2実施例の[(C253NC2AzoC2N(C2532+Br2(以下、本第2実施例において「アゾベンゼン化合物」と略す)のトランス体に紫外光を照射する前後の吸光スペクトルと、本第2実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射する前後の吸光スペクトルを測定した結果を、図7に基づいて説明する。吸光スペクトルは、光路長1cmのセルを用いて25μMメタノール溶液中25℃で測定した。
【0062】
図7の実線はアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前の吸光スペクトルを示し、図7の一点鎖線はアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射してから10分経過後の吸光スペクトルを示している。本第2実施例では、照射する紫外光の波長を365nmとしている。図7の実線に示すように、紫外光を照射する前の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する351nm付近で吸光度の大きなピークが出現している。そして、図7の一点鎖線に示すように、紫外光を照射してから10分経過後の吸光スペクトルでは、351nm付近の吸光度が減少し、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する450nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本第2実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射することで、シス体に変化することが明らかである。
【0063】
また、図7の破線はアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射してから10分経過後の吸光スペクトルを示している。本第2実施例では、照射する可視光の波長を480nmとしている。上述のように、図7の一点鎖線に示すように、可視光を照射する前の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する450nm付近で吸光度の小さなピークが出現している。そして、図7の破線に示すように、可視光を照射してから10分経過後の吸光スペクトルでは、450nm付近で吸光度が減少し、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する351nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本第2実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射することで、トランス体に変化することが明らかである。
【0064】
(第3実施例)
次に、本発明の第3実施例について説明する。第3実施例では、下記一般式(4)で示されるN,N,N,N’,N’,N’−ヘキサエチル−2,2’−[(4,4’−ジアゼンジイル)ビスフェノキシ]ビスエチルアンモニウム ビス[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド](以下、「[(C253NC2AzoC2N(C2532+TFSA2」という。)について説明する。
【0065】
【化9】
ここで、一般式(4)で示されるアゾベンゼン化合物[(C253NC2AzoC2N(C2532+TFSA2の製造方法について説明する。
【0066】
【化10】
上記第2実施例で合成した「6」で示す[(C253NC2AzoC2N(C2532+Br2(M.W.630.5)189ミリグラム(0.3mmol)を水10mlに溶解し、そこへ リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(M.W.287.08)258.4ミリグラム(0.9mmol)を水10mlに溶解させたものを滴下した。これを3時間室温で撹拌し、黄色の沈殿物を得た。反応終了後減圧濾過し、水を用いて洗浄を行い、黄色固体294ミリグラムを得た。NMRスペクトル測定結果により、「7」で示す[(C253NC2AzoC2N(C2532+TFSA2の合成を確認した。また、[(C253NC2AzoC2N(C2532+TFSA2の単結晶構造解析から、図8に示す結晶構造情報、図9に示す構成元素の座標を確認した。
【0067】
次に、本第3実施例の[(C253NC2AzoC2N(C2532+TFSA2(以下、本第3実施例において「アゾベンゼン化合物」と略す)に紫外光および可視光を照射する前後の吸光スペクトルの変化を、図10に基づいて説明する。
【0068】
図10に示すように、紫外光を照射する前の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する353nm付近で吸光度の大きなピークが出現している。そして、紫外光(365nm±10nm)を照射してから10分経過後の吸光スペクトルでは、353nm付近の吸光度が減少し、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する309nm付近および444nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本第3実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射することで、シス体に変化することが明らかである。
【0069】
また、可視光(450nm〜490nm)を照射してから10分経過後の吸光スペクトルでは、309nm付近および444nm付近で吸光度が減少し、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する353nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本第3実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射することで、トランス体に変化することが明らかである。
【0070】
次に、本第3実施例のアゾベンゼン化合物をX線回折で測定した結果を図11に基づいて説明する。図11(a)は本第3実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前のX線回折パターンを示している。図11(a)に示すX線回折パターンでは、複数の明確なピークが観測され、アゾベンゼン化合物が結晶状態となっていることが示されている。また、図11(b)は本第3実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した後のX線回折パターンを示している。図11(b)に示すX線回折パターンでは、明確なピークが観測されず、結晶状態のアゾベンゼン化合物が液体状態となったことが示されている。また、図11(c)は本第3実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射した後のX線回折パターンを示している。図11(c)に示すX線回折パターンでは、図11(a)と同様、複数の明確なピークが観測され、液体状態のアゾベンゼン化合物が結晶状態となったことが示されている。
【0071】
次に、本第3実施例のアゾベンゼン化合物を偏光顕微鏡(POM)のクロスニコル条件で観察した結果を図12図14に基づいて説明する。図12に示すアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前のPOM画像では、アゾベンゼン化合物が結晶状態となっていることが示されている。また、図13に示すアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した後のPOM画像では、中央部分に暗視野が観測され、結晶状態のアゾベンゼン化合物において紫外光が照射された部位が液体状態となったことが示されている。また、図14に示すアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射した後のPOM画像では、図13で暗視野として観測された部位が、可視光を照射することによって再度結晶化したことが確認できる。
【0072】
(第4実施例)
次に、本発明の第4実施例について説明する。第4実施例では、下記一般式(5)で示される4,4’−((ジアゼン−1,2−ジイルビス(4,1−フェニレン))ビス(オキシ))ビス(N,N,N−トリエチルブタン−1−アミニウム)ビス((ペンタフルオロスルホニル)アミド(以下、「[(C253NC2AzoC2N(C2532+PFSA2」という。)について説明する。
【0073】
【化11】
ここで、一般式(5)で示されるアゾベンゼン化合物[(C253NC2AzoC2N(C2532+PFSA2の製造方法について説明する。
【0074】
【化12】
リチウム ビス((ペンタフルオロエチル)スルホニル)アミド(LiPFSA,MW.387.71,キシダ化学)348.4ミリグラム(0.9mmol)を純水10mlに溶解し、そこへ上記第2実施例で合成した「6」で示す[(C253NC2AzoC2N(C2532+Br2(M.W.630.5)189ミリグラム(0.3mmol)を純水10mlに溶解させたものを滴下した。この懸濁液が均一になるまでアセトンを加え、3日間静置することで黄色の結晶を得た。反応終了後減圧濾過し、純水を用いて洗浄を行い、黄色固体343ミリグラムを得た。単結晶X線構造解析および元素分析により、目的物の合成を確認した。
【0075】
次に、本第4実施例の[(C253NC2AzoC2N(C2532+PFSA2(以下、本第4実施例において「アゾベンゼン化合物」と略す)に紫外光および可視光を照射する前後の吸光スペクトルの変化を、図15に基づいて説明する。
【0076】
図15に示すように、結晶状態のアゾベンゼン化合物に紫外光を照射する前の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する350nm付近で吸光度の大きなピークが出現している。そして、結晶状態のアゾベンゼン化合物(トランス体)に紫外光を照射すると、融解するとともに吸光スペクトルが変化した。具体的には、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する350nm付近の吸光度が減少し、シス体に由来する309nm付近および442nm付近の吸光度が増大した。この吸光スペクトルの変化から、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射することで、シス体に変化することが明らかである。
【0077】
また、液体状態のアゾベンゼン化合物(シス体)に可視光を照射すると、液体状態のまま吸光スペクトルが変化した。具体的には、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する309nm付近および442nm付近で吸光度が減少し、トランス体に由来する358nm付近の吸光度が増大した。この吸光スペクトルの変化から、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射することで、トランス体に変化することが明らかである。
【0078】
なお、アゾベンゼン化合物のシス体(液体状態)に可視光を照射して得られた液体状態のトランス体を一晩静置することで、結晶化が生じることを確認した。
【0079】
次に、本第4実施例のアゾベンゼン化合物を光学顕微鏡で観察した結果および偏光顕微鏡(POM)のクロスニコル条件で観察した結果を図16図21に基づいて説明する。図16図18図20が光学顕微鏡で観察した明視野像であり、図17図19図21が偏光顕微鏡で観察したPOM画像である。
【0080】
まず、アゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前の明視野像(図16)およびPOM画像(図17)では、アゾベンゼン化合物が結晶状態となっていることが示されている。また、アゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光(365nm±10nm)を照射した後の明視野像(図18)およびPOM画像(図19)では、結晶状態のアゾベンゼン化合物が紫外光を照射されることで液体状態となったことが示されている。また、アゾベンゼン化合物のシス体(液体状態)に可視光を照射してから一晩静置した後の明視野像(図20)およびPOM画像(図21)では、図18および図19で液体状態として観測されたアゾベンゼン化合物が再度結晶化したことが確認できる。
【0081】
(第5実施例)
次に、本発明の第5実施例について説明する。第5実施例では、下記一般式(6)で示される4,4’−((ジアゼン−1,2−ジイルビス(4,1−フェニレン))ビス(オキシ))ビス(N,N,N−トリエチルブタン−1−アミニウム)1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホンアミド(以下、「[(C253NC2AzoC2N(C2532+CPFSA2」という。)について説明する。
【0082】
【化13】
ここで、一般式(6)で示されるアゾベンゼン化合物[(C253NC2AzoC2N(C2532+CPFSA2の製造方法について説明する。
【0083】
【化14】
リチウム 1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホンアミド(LiCPFSA,MW.287.08,東京化成)269.2ミリグラム(0.9mmol)を純水10mlに溶解し、そこへ上記第2実施例で合成した「6」で示す[(C253NC2AzoC2N(C2532+Br2(MW.630.5)189 ミリグラム(0.3mmol)を純水10mlに溶解させたものを滴下した。この懸濁液が均一になるまでメタノールを加え、4日間静置することで黄色の結晶を得た。反応終了後減圧濾過し、純水を用いて洗浄を行い、黄色固体273ミリグラムを得た。単結晶X線構造解析および元素分析により、目的物の合成を確認した。
【0084】
次に、本第5実施例の[(C253NC2AzoC2N(C2532+CPFSA2(以下、本第5実施例において「アゾベンゼン化合物」と略す)を光学顕微鏡で観察した結果および偏光顕微鏡(POM)のクロスニコル条件で観察した結果を図22図27に基づいて説明する。図22図24図26が光学顕微鏡で観察した明視野像であり、図23図25図27が偏光顕微鏡で観察したPOM画像である。
【0085】
まず、アゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前の明視野像(図22)およびPOM画像(図23)では、アゾベンゼン化合物が結晶状態となっていることが示されている。また、アゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光(365nm±10nm)を照射した後の明視野像(図24)およびPOM画像(図25)では、結晶状態のアゾベンゼン化合物が紫外光を照射されることで液体状態となったことが示されている。
【0086】
本第5実施例のアゾベンゼン化合物においても、液体状態のアゾベンゼン化合物(シス体)に可視光を照射することで得られた液体状態のトランス体を一晩静置することで、結晶化が生じることを確認した。
【0087】
アゾベンゼン化合物のシス体(液体状態)のシス体に可視光を照射してから一晩静置した後の明視野像(図26)およびPOM画像(図27)では、図24および図25で液体状態として観測されたアゾベンゼン化合物が再度結晶化したことが確認できる。
【0088】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。
【0089】
例えば、上記実施形態では、本発明のアゾベンゼン化合物をヒートポンプシステムの熱媒体として用いた例について説明したが、アゾベンゼン化合物をヒートポンプシステムの熱媒体以外の用途に用いてもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、アゾベンゼン化合物を熱媒体として用いたヒートポンプシステムを室内暖房に用いた例について説明したが、これに限定されることなく、低温側と高温側とが存在する環境下において、低温側で吸熱して高温側で放熱する構成であれば、アゾベンゼン化合物を熱媒体として用いたヒートポンプシステムを他の用途にも用いることができる。
【0091】
また、上記実施形態では、アゾベンゼン化合物をマイクロカプセルに封入して使用した例について説明したが、これに限らず、異なる態様でアゾベンゼン化合物を使用してもよい。
【符号の説明】
【0092】
10 循環経路
11 低温側熱交換器
12 高温側熱交換器
13 循環ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27