特許第6453669号(P6453669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6453669
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】車両用前照灯制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/14 20060101AFI20190107BHJP
【FI】
   B60Q1/14 A
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-38613(P2015-38613)
(22)【出願日】2015年2月27日
(65)【公開番号】特開2016-159709(P2016-159709A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】水野 龍
(72)【発明者】
【氏名】望月 清隆
【審査官】 下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−269511(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/063365(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/080363(WO,A1)
【文献】 特開2012−166633(JP,A)
【文献】 特開2011−031807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前照灯の配光を制御する車両用前照灯制御装置であって、
自車両の前方に存在する前方車両の位置自車両から前方車両までの車間距離、および前方車両の状態や特徴に関する車両情報を取得する取得部と、
前記前方車両の位置に基づいて前記前照灯の配光を変化させ、光照射領域と、前記前方車両を含む前記前方車両の周囲に、車体端から所定の間隔を有した非光照射領域とを、設定する配光制御部とを備え、
前記配光制御部は
記光照射領域と前記非光照射領域との境界と、前記前方車両の左右側端との、車幅方向の間隔を、前記車間距離が大きくなるにつれて小さくするように決定し、
前記前方車両の位置、自車両から前記前方車両までの車間距離、および前記前方車両の車両情報から、前記前方車両が受ける光量を推定し、
前記前方車両が受けると推定される光量が、前記車間距離を有する前記前方車両においてグレアが許容される光量以下となるように、前記間隔を決定することを特徴とする、車両用前照灯制御装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記車両情報として前記前方車両が先行車両であるか対向車両であるかを示す情報をさらに取得し、
前記配光制御部は、さらに前記前方車両が先行車両であるか対向車両であるかに基づいて前記間隔を決定することを特徴とする、請求項に記載の車両用前照灯制御装置。
【請求項3】
前記取得部は、自車両と前記前方車両との進行方向軸の車幅方向における相対位置ずれをさらに取得し、
前記配光制御部は、さらに前記相対位置ずれに基づいて前記間隔を決定することを特徴とする、請求項1または2に記載の車両用前照灯制御装置。
【請求項4】
前記配光制御部は、さらに、前記光照射領域と前記非光照射領域との境界と、前記前方車両の上下側端との、車高方向の間隔を、前記車間距離が大きくなるにつれて小さくするように決定することを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の車両用前照灯制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前照灯の配光を制御する車両用前照灯制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラなどを用いて自車両の前方にいる他の車両(先行車両や対向車両などの前方車両)を検出し、その検出結果に基づいて、車両の前照灯(ヘッドランプ)から光を照射する領域を変化させる、いわゆる配光制御を行う車両用前照灯制御装置が知られている。例えば、特許文献1、特許文献2、および特許文献3を参照。
【0003】
このような車両用前照灯制御装置では、夜間走行時において、自車両のドライバーの前方視野を確保しつつ、前方車両のドライバーを眩惑させる不快なグレア(眩光)の発生を抑制するように、ヘッドランプの配光を制御している。例えば、カメラで検出された前方車両がいる周囲に、光を照射しない非光照射領域(または遮光領域と称されることもある)が形成され、非光照射領域以外に、光を照射する光照射領域が形成されるように、ヘッドランプの配光が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−168984号公報
【特許文献2】特開2012−166633号公報
【特許文献3】特開2014−168985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
配光を制御する車両用前照灯制御装置においては、部品(センサ、ヘッドランプなど)の取り付けばらつきなどに起因する照射軸のずれや、部品の性能ばらつきなどに起因する配光制御の遅延など、が生じる。そこで、従来の車両用前照灯制御装置では、前方車両の車幅の範囲だけを遮光して前方車両のすぐ横に光照射領域を設定するのではなく、前方車両の左右側端から車幅方向に所定の間隔(以下「マージン間隔」と記す)を与えて光照射領域を設定している。このマージン間隔を有することにより、従来の車両用前照灯制御装置では、上述したばらつきによる前方車両への不快グレアの発生を抑制している。なお、マージン間隔は、マージン角と表現されることもある。
【0006】
しかしながら、従来の車両用前照灯制御装置では、自車両から前方車両までの車間距離に関わらず、一定幅のマージン間隔が前方車両の左右側端に設けられる。すなわち、前方車両が自車両に近い場合でも、前方車両が自車両から遠い場合でも、光照射領域から前方車両の左右側端まで同じマージン間隔が設けられる。
【0007】
このように設定された光照射領域では、図8(a)に示すように、自車両の近傍にいる前方車両201に関しては、前方車両201の車幅W1に対する左右のマージン間隔mの比率(m/W1)は小さくなる。よって、例えば前方車両201の近傍にいる人物202にも光を照射させることができ、車両前方の視認性は良好となる。ところが、図8(b)に示すように、自車両の遠方にいる前方車両203に関しては、前方車両203の車幅W2に対する左右のマージン間隔mの比率(m/W2)は大きくなる。よって、この場合には、例えば前方車両203の近傍にいる人物204には光が全くまたは十分に照射されず、車両前方の視認性が悪化する。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、自車両から前方車両までの車間距離に基づいて前照灯の配光を制御することによって、車両前方の視認性を向上させることができる車両用前照灯制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示における第1の発明は、前照灯の配光を制御する車両用前照灯制御装置であって、自車両の前方に存在する前方車両の位置および自車両から前方車両までの車間距離を取得する取得部と、前方車両の位置に基づいて前照灯の配光を変化させ、光照射領域と、前方車両を含む前方車両の周囲に、車体端から所定の間隔を有した非光照射領域とを、設定する配光制御部とを備え、配光制御部が、光照射領域と非光照射領域との境界と、前方車両の左右側端との車幅方向の間隔を、車間距離が大きくなるにつれて小さくするように決定することを特徴とする。
【0010】
この第1の発明による車両用前照灯制御装置では、前照灯の配光制御に、取得した自車両から前方車両までの車間距離を用いる。本配光制御では、前方車両を含む前方車両の周囲に車体端から所定の間隔(マージン間隔)を有した非光照射領域を設定するにあたり、光照射領域と非光照射領域との境界と、前方車両の左右側端との車幅方向の間隔を、車間距離に基づいて決定する。例えば、車間距離が大きくなるにつれてマージン間隔が徐々に小さくなるように設定する。これにより、夜間走行時において、自車両の遠方にいる前方車両に対して配光制御を行った場合において、遠方における自車両の前方視野を拡大し、車両前方の視認性を向上させることができる。
【0011】
また、本開示における第2の発明は、配光制御部が、前方車両が受けると推定される光量が、前記車間距離を有する前記前方車両においてグレアが許容される光量以下となるとなるように、間隔を決定することを特徴とする。
【0012】
この第2の発明による車両用前照灯制御装置では、マージン間隔を、前方車両が受ける光量にも基づいて決定する。前方車両が受ける光量は、例えば前方車両に関する情報(自車両から前方車両までの車間距離など)から推定することができる。よって、前方車両(のドライバー)が自車両のヘッドランプからの照射光によって受ける光量が、前方車両においてグレアが許容される光量以下となるようにマージン間隔を決定する。これにより、夜間走行時において、前方車両のドライバーに不快なグレアを感じさせることなく、遠方における自車両の前方視野を拡大し、車両前方の視認性を向上させることができる。
【0013】
また、本開示における第3の発明は、取得部が、前方車両が先行車両であるか対向車両であるかを示す車両情報をさらに取得し、配光制御部が、さらに車両情報に基づいてマージン間隔を決定することを特徴とする。
【0014】
この第3の発明による車両用前照灯制御装置では、マージン間隔を、前方車両が先行車両であるか対向車両であるかにも基づいて決定する。一般に、ヘッドランプの光は、先行車両のドライバーよりも対向車両のドライバーの方が眩しく感じる。よって、例えば、前方車両が対向車両である場合には、マージン間隔を大きくする。これにより、対向車両のドライバーが感じる眩しさを抑制することができる。
【0015】
また、本開示における第4の発明は、取得部が、自車両と前方車両との進行方向軸の車幅方向における相対位置ずれをさらに取得し、配光制御部が、さらに相対位置ずれに基づいてマージン間隔を決定することを特徴とする。
【0016】
この第4の発明による車両用前照灯制御装置では、マージン間隔を、自車両と前方車両との相対位置ずれにも基づいて決定する。一般に、ヘッドランプの光は、左前方のヘッドランプと右前方のヘッドランプとが重なる照射範囲(自車両の中心軸近傍)の光量が多くなる。よって、例えば、自車両と前方車両との相対位置ずれが少ない場合には、マージン間隔を大きくする。これにより、対向車両のドライバーが感じる眩しさを抑制することができる。
【0017】
また、本開示における第5の発明は、配光制御部が、さらに、光照射領域と非光照射領域との境界と、前方車両の上下側端との、車高方向の間隔を、車間距離が大きくなるにつれて小さくするように決定することを特徴とする。
【0018】
この第5の発明による車両用前照灯制御装置では、配光制御部が、前方車両の上下側端から車高方向のマージン間隔についても配光制御を行う。これにより、例えば、高い位置にある道路標識や案内看板などに関して、車両前方の視認性をさらに向上させることができる。
ことができる。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明の車両用前照灯制御装置によれば、自車両から前方車両までの車間距離に基づいて前照灯の配光を制御する。これにより、車両前方の視認性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用前照灯制御装置の概略構成例を示す図
図2】ヘッドランプによる車両の前方に形成されるロービーム照射範囲およびハイビーム照射範囲の一例を示す図
図3】本実施形態の車両用前照灯制御装置による配光制御で形成される光照射領域および非光照射領域の一例を示す図
図4】車間距離とマージン間隔とを対応付けた配光制御特性の一例を示す図
図5A】LEDアレイ構造の右前方用のヘッドランプの一例を示した図
図5B図5Aのヘッドランプによる光照射領域を説明する図
図6】本実施形態の車両用前照灯制御装置が行う配光制御の処理手順の一例を示すフローチャート
図7A】応用例1による光照射領域および非光照射領域の一例を示した図
図7B】応用例2による光照射領域および非光照射領域の一例を示した図
図8】従来の車両用前照灯制御装置による配光制御で形成される光照射領域および非光照射領域の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
[概要]
本発明の車両用前照灯制御装置は、前照灯(ヘッドランプ)の配光制御を、自車両から前方車両までの車間距離に基づいて行う。本配光制御では、前方車両を外して光照射領域を設定する際に、車間距離に基づいたマージン間隔を設ける。マージン間隔とは、光照射領域の端(つまり光照射領域と非光照射領域との境界)から前方車両の車体端までの間隔である。前方車両が自車両に近ければマージン間隔を大きくし、遠ければマージン間隔を小さくする。これにより、夜間走行時において、自車両の遠方にいる前方車両に対して配光制御を行った場合、遠方における自車両の前方視野を拡大し、車両前方の視認性を向上させることができる。
【0022】
[実施形態の説明]
以下、本発明が提供する車両用前照灯制御装置の一実施形態について、図面を参照しながら順に説明する。
【0023】
1.車両用前照灯制御装置の構成例
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用前照灯制御装置1の構成を概略的に説明する図である。図1において、本実施形態に係る車両用前照灯制御装置1は、前方車両情報取得部10と、配光制御部20と、ヘッドランプ30(L、R)と、ヘッドランプスイッチ40とを備えている。まず、本実施形態に係る車両用前照灯制御装置1が備えている各構成について、それぞれ説明を行う。
【0024】
1−1.前方車両情報取得部10
前方車両情報取得部10は、自車両の前方に存在する他の車両(以下「前方車両」と記す)を検出して、前方車両に関する情報を取得する。前方車両には、自車両の進行方向と同じ方向に走行する先行車両、および自車両の進行方向と反対の方向に走行する対向車両などが該当する。この前方車両情報取得部10は、車両検出部11と、車間距離検出部12と、車両情報検出部13とを含んでいる。
【0025】
車両検出部11は、前方車両の位置を検出する。前方車両の位置には、予め定めた座標系における前方車両の位置を示す座標や、前方車両の横幅などが含まれる。また、車両検出部11は、前方車両の進行方向軸と自車両の進行方向軸との間の車幅方向における相対的な位置ずれを検出してもよい。前方車両の位置や前方車両の位置ずれの検出には、画像センサを備えたカメラ(図示せず)などが用いられる。画像センサとしては、例えば、CCD(Charge-Coupled Device)や、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などが挙げられる。画像センサは、撮像面が車両の進行方向に向けられた態様で車体の前部または車室内などに設置されて、車両周辺の前方画像を撮像する。この画像センサは、例えば、ドライバーの運転の妨げにならない場所(フロントガラスの上方、ルームミラーの裏側など)に設置される。車両検出部11は、画像センサで撮像された画像に基づいて、前方車両の位置や前方車両の位置ずれを検出する。この車両検出部11で検出された前方車両の位置や前方車両の位置ずれは、配光制御部20に出力される。
【0026】
車間距離検出部12は、自車両と前方車両との相対的な距離、つまり自車両から前方車両までの車間距離を検出する。この車間距離の検出には、レーダセンサ(図示せず)などが用いられる。レーダセンサとしては、例えば、レーザレーダ、マイクロ波レーダ、ミリ波レーダ、または超音波レーダなどが挙げられる。レーダセンサは、電磁波を送受信する面が車両の進行方向に向けられた態様で車体の前部または車室内などに設置されて、車両の前方へ電磁波を放射し、また車両の前方から到来する電磁波を受信する。具体的には、レーダセンサは、自車両の前方周辺に向けて電磁波を照射し、前方車両で反射して戻ってくる電磁波を受信する。車間距離検出部12は、レーダセンサにおける電磁波の送受信結果に基づいて、自車両から前方車両までの車間距離を検出する。この車間距離検出部12で検出された車間距離は、配光制御部20に出力される。
【0027】
なお、車間距離の検出には、電磁波を利用するレーダセンサを用いる以外にも、同じ前方車両を異なる2つの視点から撮影した2つの画像を取得できるステレオカメラを使用することも可能である。この場合には、2つの画像の視差に基づいて、自車両から前方車両までの車間距離を検出することができる。
【0028】
車両情報検出部13は、前方車両の状態や特徴に関する車両情報を検出する。この車両情報には、例えば、前方車両が、自車両の進行方向と同じ方向に走行する先行車両なのか、自車両の進行方向と反対の方向に走行する対向車両なのかを示す情報が含まれる。前方車両が先行車両か対向車両かの検出には、車両検出部11に用いられるカメラで撮像された画像などが利用できる。例えば、自車両から先行車両を見た場合、光量の少ない赤色のテールランプの光が検知でき、自車両から対向車両を見た場合、光量の多い白色のヘッドランプの光が検知できる。よって、撮像画像において色彩を認識したり、輝度を認識したりすることで、前方車両が先行車両か対向車両かを検出することができる。
【0029】
また、この車両情報には、前方車両の種類、例えば小型車両なのか、大型車両なのか、二輪車なのかを示す情報が含まれていてもよい。前方車両の種類の検出にも、車両検出部11に用いられるカメラで撮像された画像などが利用できる。例えば、自車両から先行車両を見た場合には、左右のテールランプの光の間隔や数によって、また自車両から対向車両を見た場合には、左右のヘッドランプの光の間隔や数によって、前方車両が小型車両なのか大型車両なのか、または二輪車なのかを検出することができる。
【0030】
なお、上述した前方車両情報取得部10に用いられるカメラやセンサなどは、前照灯制御専用として車両に設けられてもよいし、車両に搭載される他のシステム、例えば走行車線維持システムやブレーキアシストシステムなどに使用されるカメラやセンサを兼用してもよい。また、画像センサで撮像される画像は、カラーであってもモノクロであっても構わない。
【0031】
また、図1の構成では、前方車両情報取得部10が、車両検出部11、車間距離検出部12、および車両情報検出部13を含むように記載した。しかし、図1の構成は一例であり、例えば後述するヘッドランプ30の配光制御において、マージン間隔の決定に車両情報を用いる必要がなければ、図1の構成から車両情報検出部13を省いてもよい。
【0032】
1−2.配光制御部20
配光制御部20は、ヘッドランプスイッチ40を介したドライバーからの指示に従い、前方車両情報取得部10が検出した前方車両に関する情報に基づいて、ヘッドランプ30によるハイビームの配光を制御する。具体的には、配光制御部20は、ヘッドランプ30によるハイビームの照射可能範囲において、前方車両情報取得部10で検出された前方車両がいない範囲を光が照射される光照射領域とするように、ヘッドランプ30の配光を制御する。換言すれば、配光制御部20は、前方車両検出部10で検出された前方車両を含む前方車両の周囲の範囲を光が照射されない非光照射領域とするように、ヘッドランプ30の配光を制御する。この配光制御部20は、マージン間隔決定部21と、ヘッドランプ制御部22とを含んでいる。
【0033】
マージン間隔決定部21は、前方車両情報取得部10から、前方車両の位置、自車両から前方車両までの車間距離、および前方車両の車両情報を取得する。そして、マージン間隔決定部21は、少なくとも前方車両の位置および車間距離に基づいて、マージン間隔(マージン角)を決定する。マージン間隔とは、上述したように、光照射領域と非光照射領域との境界から前方車両の車体端までの間隔である。例えば、マージン間隔は、前方車両の左右側端から車幅方向の間隔である。マージン間隔の決定手法については、後述する。なお、マージン間隔決定部21は、車間距離に加えて車両情報に基づいてマージン間隔を決定してもよい。また、マージン間隔決定部21は、自車両の進行方向軸と前方車両の進行方向軸との車幅方向における相対的な位置ずれをさらに考慮して、マージン間隔を決定してもよい。
【0034】
ヘッドランプ制御部22は、配光制御の対象となる前方車両に対して、マージン間隔決定部21で決定されたマージン間隔を有する光照射領域および非光照射領域を設けるために、ヘッドランプ30へ必要な指示を与える。この必要な指示は、ヘッドランプ30の構造に依存する。例えば、ヘッドランプ30が、照射方向が異なる複数のランプを点灯/消灯することで光照射領域および非光照射領域を変化させる構造である場合には、点灯または消灯させるランプの数や位置などが指示される。また例えば、ヘッドランプ30が、ランプの前方に設けられたシェード機構を用いて照射光の一部を遮蔽することで光照射領域および非光照射領域を変化させる構造である場合には、シェード機構の移動量やランプのスイブル量などが指示される。
【0035】
上述した配光制御部20は、典型的には、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)、メモリ、および入出力インタフェース(すべて図示せず)などで構成された電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。この配光制御部20は、メモリに格納されたプログラムをCPUが読み出して解釈実行することにより、上述したマージン間隔決定部21およびヘッドランプ制御部22としての機能を発揮する。
【0036】
1−3.ヘッドランプ30
ヘッドランプ30は、車両の左右に一対で設けられて車両の前方を照射する前照灯である。左前方のヘッドランプ30(L)と右前方のヘッドランプ30(R)とは、基本的に同一の構成を左右対称に配置させた構造である。これらのヘッドランプ30は、例えば、ランプハウジング(図示せず)と透光性を有するランプカバー(図示せず)とで形成される灯室内に、ランプユニット31および灯火制御器32を備える。
【0037】
ランプユニット31は、例えばハロゲンランプ、HID(High Intensity Discharge)ランプ、またはLED(Light Emitting Diode)ランプなどの光源を含む。このランプユニット31は、図2に示すように、ランプから光を照射して、車両の前方に、ロービームによる照射範囲100およびハイビームによる照射範囲101および102をそれぞれ形成する。なお、図2では、ハイビーム照射については、左前方のヘッドランプ30(L)による照射範囲101および右前方のヘッドランプ30(R)による照射範囲102の両方を示しているが、ロービーム照射については簡易的に1つの照射範囲100を示している。
【0038】
ランプユニット31には、ロービーム照射用のランプとハイビーム照射用のランプとが独立して設けられてもよいし、ロービーム照射/ハイビーム照射兼用のランプが設けられてもよい。また、ランプの数も限定されるものではなく、例えば複数のLEDランプを一列または複数列に並べたLEDアレイであっても構わない。
【0039】
灯火制御器32は、配光制御部20からの指示に基づいて、ランプユニット31の灯火状態を制御して、ハイビーム照射範囲101および102に設定する光照射領域および非光照射領域を変化させる。具体的には、灯火制御器32は、配光制御部20において前方車両に関する情報に基づいて決定されたマージン間隔を有する光照射領域および非光照射領域を、前方車両の位置に対応させて自車両の前方に設定するために、ヘッドランプ30の灯火状態を左右独立して制御する。
【0040】
例えば、ヘッドランプ30が複数のLEDランプからなるLEDアレイ構造である場合には、灯火制御器32は、複数のLEDランプの通電状態を個別に切り替えるスイッチ機構(リレーなど)となる。また例えば、ヘッドランプ30がHIDランプとランプシェードとからなる構造である場合には、灯火制御器32は、ランプシェードを移動させるアクチュエータ機構(駆動モータなど)となる。
【0041】
1−4.ヘッドランプスイッチ40
ヘッドランプスイッチ40は、ヘッドランプ30の点灯/消灯を切り替えたり、ハイビーム/ロービームの照射状態を切り替えたり、ハイビームの配光制御を行うか否かを切り替えたりする、操作スイッチである。このヘッドランプスイッチ40は、例えばステアリングコラムなどの車室内の適切な位置に配置される。なお、ハイビームの配光制御は、ヘッドランプ30の点灯に連動して自動的に行われるようにしてもよいし、ハイビーム照射状態への切り替えに連動して自動的に行われるようにしてもよい。
【0042】
2.車両用前照灯制御装置が行う配光制御
次に、配光制御部20が、前方車両情報取得部10によって検出された前方車両に関する情報に基づいて行う、ヘッドランプ30におけるハイビームの配光制御を、図3図4をさらに参照して説明する。
【0043】
2−1.マージン間隔の決定手法
上記解決課題で述べた一定値のマージン間隔による配光制御では、図8に示すように、自車両の遠方にいる前方車両203に対して配光制御を行った場合の、前方車両203の車幅W2に対する左右のマージン間隔mの比率(m/W2)は、自車両の近傍にいる前方車両201に対して配光制御を行った場合の、前方車両201の車幅W1に対する左右のマージン間隔mの比率(m/W1)よりも、大きくなる。このため、例えば、この遠方の前方車両203の近くにいる人物204には、全く光を照射させることができないか十分に光を照射させることができない。よって、自車両の遠方にいる前方車両に対して配光制御を行った場合、自車両から遠方にいる前方車両の周辺における車両前方の視認性は悪い。
【0044】
そこで、上記課題を解決するために、本発明では、前方車両に関する情報に基づいてマージン間隔を変化させる制御を行う。基本的な制御としては、自車両から前方車両までの車間距離に基づいてマージン間隔を決定する。例えば、自車両から前方車両までの車間距離が大きくなるにつれて、左右のマージン間隔を徐々に小さくする。図3の例では、車間距離d2の前方車両203に対して配光制御を行った場合のマージン間隔m2は、車間距離d1(<d1)の前方車両201に対して配光制御を行った場合のマージン間隔m1よりも小さくなる(m1>m2)。この制御により、自車両の遠方にいる前方車両203に対して配光制御を行った場合でも(図3(b))、前方車両203の車幅W2に対する左右のマージン間隔m2の比率(m2/W2)を、自車両の近傍にいる前方車両201に対して配光制御を行った場合(図3(a))の同比率に比べ、小さくすることができる。よって、自車両の遠方にいる前方車両に対して配光制御を行った場合において、自車両から遠方の範囲における車両前方の視認性を向上させることができる。
【0045】
また、自車両から前方車両までの車間距離に基づいたマージン間隔をより精度良く決定するために、前方車両の状態や特徴に関する車両情報を用いてもよい。車両情報とは、例えば、前方車両が先行車両か対向車両かである。また、さらなるマージン間隔の決定精度を向上させるため、自車両の進行方向軸と前方車両の進行方向軸との車幅方向における相対的な位置ずれを用いてもよい。
【0046】
さらに、自車両から前方車両までの車間距離に基づいてマージン間隔を決定するにあたり、自車両のヘッドランプ30から照射される光によって前方車両のドライバーを眩惑させる不快なグレア(眩光)が発生しているか否かを考慮してもよい。例えば、前方車両のドライバーに対して不快なグレアを発生させないよう、車間距離が大きくなるにつれてマージン間隔が小さくなるように間隔の値を決定しても構わない。前方車両のドライバーを眩惑させる不快なグレア(眩光)を発生させないために、本実施形態では、光照射領域に照射される光によって前方車両が受ける光量(例えば、前方車両のドライバーポジションで観測される光量)を推定する。この前方車両が受ける光量は、光量の変動に関連する自車両と前方車両との関係に基づいて推定することができる(後述する)。
【0047】
ここで、ドライバーがグレアをどのように感じるかは、瞳に入射される光量によって定まる。今、万人におけるグレアの感じ方が(個人差なく)一律に同じであると仮定すれば、ドライバーがグレアを不快であると感じ始める光量を、一定の値として定義できる。よって、前方車両のドライバーが受けるであろうと推定される光量が、ドライバーが不快グレアと感じる始める限界値、つまりグレアが許容される光量以下になれば、前方車両のドライバーが不快グレアを感じなくて済むことになる。
【0048】
a.前方車両が受ける光量の推定
配光制御部20のマージン間隔決定部21は、自車両と前方車両との関係に基づいて、前方車両が受けるグレア量を推定することができる。具体的には、マージン間隔決定部21は、前方車両情報取得部10から取得する、前方車両の位置、自車両から前方車両までの車間距離、および前方車両の車両情報から、前方車両が受ける光量を推定することが可能である。
【0049】
光源から受ける光量は、光源から離れるほど低下する。つまり、自車両のヘッドランプ30から照射されるハイビームの光量も、自車両から離れるほど(定説では距離の二乗に反比例して)低下する。よって、この現象に基づいて、光照射領域に照射される光によって前方車両が受ける光量を推定することができる。
【0050】
例えば、自車両のヘッドランプ30から照射されるハイビームの光量をLoとし、車間距離dに応じた光量の減衰率を示す関数をf(d)(0<f(d)<1)とすれば、前方車両が受ける光量Lは「L=Lo×f(d)」と表せる。従って、車間距離dが大きくなって前方車両が自車両から離れるほど、関数f(d)の値が小さくなり、前方車両が受ける光量Lが小さくなる。
【0051】
また、光源から受ける光量は、ミラーに反射したり、ガラスを透過や屈折したり、するごとに低下する。例えば、対向車両(のドライバー)は、自車両のヘッドランプ30から照射されるハイビームの光を、フロントガラスを1度透過するだけで受け取る。一方、先行車両(のドライバー)は、自車両のヘッドランプ30から照射されるハイビームの光を、ドアミラーとドアガラスと(あるいはリアガラスとルームミラーと)で2度反射や透過/屈折して受け取る。つまり、自車両のヘッドランプ30から先行車両が受ける光量は、対向車両が受ける光量よりも、小さくなる。よって、この現象に基づいて、光照射領域に照射される光によって前方車両が受ける光量を、さらに詳細に推定することもできる。
【0052】
例えば、自車両のヘッドランプ30から照射されるハイビームの光量をLoとし、先行車両aである場合に光量の減衰率を示す係数をCa(0<Ca<1)とすれば、先行車両が受ける光量Lは「L=Lo×Ca」と表せる。従って、対向車両よりも先行車両が受ける光量Lが小さくなる。
【0053】
さらに、ヘッドランプ30は、車両の左右に一対で設けられて車両の前方を照射する。このため、一般的には図2に示すように、左前方のヘッドランプ30(L)のハイビームによる照射範囲101と右前方のヘッドランプ30(R)のハイビームによる照射範囲102とが重なり、この重なる照射範囲105の光量が多くなる。つまり、自車両の幅方向中心軸から所定の距離内の位置では、他の位置と比べて光量が多くなり、不快グレアを生じさせる可能性が高くなる。よって、この事実に基づいて、光照射領域に照射される光によって前方車両が受ける光量を、さらに詳細に推定することもできる。
【0054】
例えば、自車両のヘッドランプ30から照射されるハイビームの光量をLoとし、自車両の進行方向軸と前方車両の進行方向軸との車幅方向における相対位置ずれsに応じた光量の減衰率を示す関数をf(s)(0<f(s)≦1)とすれば、前方車両が受ける光量Lは「L=Lo×f(s)」と表せる。従って、相対位置ずれsが大きく前方車両が自車両から離れるほど、関数f(s)が小さくなり、前方車両が受ける光量Lが小さくなる。なお、対向車両は自車両との進行方向軸の車幅方向における相対位置ずれが元々大きいため、この関数f(s)を適用させなくてもよい。
【0055】
なお、上記例では、自車両から前方車両までの車間距離、前方車両の車両情報、および自車両の進行方向軸と前方車両の進行方向軸との車幅方向における相対位置ずれの、すべてを判断して前方車両が受ける光量を推定するように記載した。しかしながら、前方車両が受ける光量は、自車両から前方車両までの車間距離の判断だけで推定することが可能である。前方車両の車両情報または自車両の進行方向軸と前方車両の進行方向軸との車幅方向における相対位置ずれの判断は、前方車両が受ける光量の推定精度向上のために適宜用いればよい。
【0056】
また、上記例では、マージン間隔決定部21において、前方車両が受ける光量を推定するように記載した。しかし、車両の実走行中において、前方車両が受ける光量を実際に推定しなくてもよい。例えば、シミュレーションなどによって、様々な車間距離、車両情報、および相対位置ずれの前方車両パターンについて、前方車両が受けると推定される光量が許容される光量以下となる車間距離とマージン間隔との関係を対応付けたデータを、予め演算する。そして、予め演算したデータをメモリ(図示せず)などに保持しておく。これにより、マージン間隔決定部21では、記憶されているデータを参照して、前方車両情報取得部10から取得する自車両から前方車両までの車間距離に対応したマージン間隔を決定することができる。
【0057】
b.マージン間隔の算出
マージン間隔決定部21は、前方車両情報取得部10で検出された前方車両に関して、上述した手法で推定される前方車両が受ける光量が、前方車両においてグレアが許容される光量以下となるマージン間隔を求める。このマージン間隔の求め方としては、例えば次のような手法が考えられる。
【0058】
前方車両が受ける光量を推定する場合、マージン間隔をゼロから漸増させながら、前方車両に関する情報に基づいて先行車両が受ける光量を順次推定していく。推定した光量が限界値以下となる、つまり前方車両が受ける光量がグレアが許容される光量以下となったマージン間隔を判断する。そして、この判断したマージン間隔を、前方車両に対して設定する光照射領域および非光照射領域のマージン間隔として決定する。
【0059】
または、前方車両が受ける光量を推定しない場合、前方車両が受ける光量がグレアが許容される光量以下となる車間距離とマージン間隔との関係を対応付けた配光制御特性(例えば図4)を、図示しないメモリなどに予め保持しておく。配光制御特性に基づいて、前方車両情報取得部10で検出された車間距離に対応したマージン間隔を判断する。そして、この判断したマージン間隔を、前方車両に対して設定する光照射領域および非光照射領域のマージン間隔として決定する。
【0060】
なお、上述した例は、あくまでマージン間隔を決定する一例である。よって、この他の手法でマージン間隔を決定しても構わない。また、光照射領域と非光照射領域との境界から前方車両の車体端までに設けるマージン間隔は、車体の場所に関わらず同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。例えば、前方車両の左側端に設けるマージン間隔と右側端に設けるマージン間隔とを、異なる値に設定してもよい。
【0061】
c.光照射領域および非光照射領域の設定
マージン間隔決定部21においてマージン間隔が決定されると、ヘッドランプ制御部22は、マージン間隔に基づいて光照射領域および非光照射領域を設定する。例えば、ヘッドランプ制御部22は、前方車両情報取得部10で検出された前方車両の位置(座標および車幅)から求まる前方車両の左右側端に対し、決定されたマージン間隔を加える。そして、ヘッドランプ制御部22は、前方車両の左側端の左にマージン間隔を加算した位置と、前方車両の右側端の右にマージン間隔を加算した位置との間を、非光照射領域として設定する。すなわち、前方車両の周囲にマージン間隔を有した非光照射領域を設定する。そして、ヘッドランプ制御部22は、非光照射領域以外を光照射領域として設定する。
【0062】
なお、マージン間隔を加算した位置を実際に光照射領域と非光照射領域との境界とすることができるか否かは、ヘッドランプ30の照射性能に依存する。よって、後述するヘッドランプ30の制御において、上述のように設定した光照射領域および非光照射領域を形成できないのであれば、ヘッドランプ30において実現可能な範囲において、近似する代替光照射領域および代替非光照射領域を適切に設定すればよい。
【0063】
2−2.ヘッドランプの制御
光照射領域および非光照射領域が設定されると、この光照射領域および非光照射領域を含んだハイビーム照射を実行するために、ヘッドランプ制御部22によってヘッドランプ30におけるハイビームの配光制御が行われる。以下の実施例では、ヘッドランプ30のランプユニット31が、複数のLEDランプを一列に並べたLEDアレイ構造である場合を一例に挙げて、ハイビームの配光制御を説明する。
【0064】
図5Aは、LEDアレイ構造の右前方のヘッドランプ30(R)の一例を簡易的に示した図である。図5Aに例示する右前方のヘッドランプ30(R)は、ランプユニット31として、ロービーム照射用の1個のランプLBと、ハイビーム照射用の8個のLEDランプHB1〜HB8とを有している。なお、左前方のヘッドランプ30(L)については、説明を省略する。
【0065】
ランプLBは、図5Bに示すように、ロービームの照射範囲100に光を照射する。LEDランプHB1〜HB8は、図5Bに示すように、ハイビームの照射範囲102に光を照射する。このLEDランプHB1〜HB8は、光の照射方向にそれぞれ異なる指向性を有しており、それぞれ定められた領域に向けて光を照射することができる。例えば、図5Bでは、LEDランプHB1は領域a1に、LEDランプHB2は領域a2に、というようにそれぞれ光を照射することができる。すなわち、LEDランプHB1〜HB8を消灯することで、対応する領域に光を照射させなくする(遮光する)ことができる。なお、図5Bの例では、各LEDランプHB1〜HB8が照射する領域は重なっていないが、領域は重なっていてもよい。
【0066】
例えば、図3(a)で示した光照射領域および非光照射領域を形成するような場合、ヘッドランプ制御部22は、ヘッドランプ30に対して、LEDランプHB1〜HB3を点灯させ、かつ、LEDランプHB4〜HB8を消灯させる指示を行う。また例えば、図3(b)で示した光照射領域および非光照射領域を形成するような場合、ヘッドランプ制御部22は、ヘッドランプ30に対して、LEDランプHB1〜HB5を点灯させ、かつ、LEDランプHB6〜HB8を消灯させる指示を行う。
【0067】
この指示により、ヘッドランプ30の光を、非光照射領域には照射させずに、光照射領域にだけ照射させることができる。よって、夜間走行時において、前方車両のドライバーに不快なグレアを感じさせることなく、自車両の前方視界を拡大させ、車両前方の視認性を向上させることができる。
【0068】
なお、上述したように、光照射領域と非光照射領域との境界を設定通りに形成できるか否かは、ヘッドランプ30の照射性能に依存する。よって、例えば上述した図3(a)の例において、LEDランプHB1〜HB5を点灯させると、設定した非光照射領域に光が当たるような場合には、ヘッドランプ制御部22は、LEDランプHB1〜HB4を点灯させ、かつ、LEDランプHB5〜HB8を消灯させる指示を行えばよい。
【0069】
2−3.配光制御の処理手順
以上述べた車両用前照灯制御装置1が行う配光制御を一連の処理手順として説明する。図6は、本発明の一実施形態に係る車両用前照灯制御装置1が行う配光制御の処理手順の一例を説明するフローチャートである。なお、以下の処理では、ヘッドランプ30の点灯と共にハイビームの配光制御が作動する場合を一例に挙げて、説明する。
【0070】
図6に示す処理は、ドライバーからヘッドランプスイッチ40の操作を介したヘッドランプ30の点灯指示が入力されることで開始される。処理が開始されると、ヘッドランプ30の点灯指示がハイビーム点灯なのかロービーム点灯なのかが判断される(ステップS61)。本発明は、ハイビーム点灯時におけるランプの配光制御を行う技術であるため、ヘッドランプ30がロービームで点灯している期間は、ヘッドランプ30の配光制御は行われない(ステップS61:No、ステップS69:No)。
【0071】
ヘッドランプ30がハイビーム点灯である場合(ステップS61:Yes)、前方車両の検出処理が行われる(ステップS62)。この検出処理において前方車両が検出された場合(ステップS63:Yes)、前方車両に関する情報が取得される(ステップS64)。前方車両に関する情報は、前方車両の位置、自車両から前方車両までの車間距離、および/または前方車両の車両情報である。一方、ステップS62の検出処理において前方車両が検出されなかった場合(ステップS63:No)、ヘッドランプ30のハイビームの配光がすでに制御されていれば、制御が解除されてステップS61に戻る(ステップS68)。次に、取得された前方車両に関する情報に基づいて、前方車両の左右側端から車幅方向に設けるマージン間隔が決定される(ステップS65)。次に、決定されたマージン間隔に従って光照射領域および非光照射領域が設定される(ステップS66)。そして、設定された光照射領域および非光照射領域に基づいて、ヘッドランプ30のハイビームの配光が制御される(ステップS67)。以上の処理は、ハイビーム点灯からロービーム点灯に切り替わるか、ヘッドランプ30の消灯指示がされるまで繰り返し行われる。
【0072】
[実施の形態の効果]
上述した本実施形態に係る車両用前照灯制御装置1では、自車両から前方車両までの車間距離に基づいたヘッドランプ30の配光制御を行う。この配光制御では、光照射領域と非光照射領域との境界から前方車両の車体端までの間に設けるマージン間隔を、車間距離に基づいて変化させる。より具体的には、車間距離が大きくなるにつれてマージン間隔を徐々に小さくする。これにより、夜間走行時において、自車両の遠方にいる前方車両に対して配光制御を行った場合において、遠方における自車両の前方視野を拡大し、車両前方の視認性を向上させることができる。
【0073】
また、この配光制御では、自車両のヘッドランプ照射によって前方車両(のドライバー)が受ける光量を推定し、推定した光量がグレアが許容される光量以下となるようにマージン間隔を決定する。これにより、夜間走行時において、前方車両のドライバーに不快なグレアを感じさせることなく、遠方における自車両の前方視野を拡大し、車両前方の視認性を向上させることができる。
【0074】
[応用例1]
上述した実施例では、検出された前方車両が1台である場合について説明した。しかし、本発明の車両用前照灯制御装置1は、複数台の前方車両を検出した場合にも同様に処理することができる。すなわち、検出した前方車両ごとに、前方車両が受ける光量を推定し、マージン間隔を決定し、光照射領域および非光照射領域を設定する。そして、複数台の前方車両に対応して設定された複数の非光照射領域を含んだハイビーム照射を実行するために、ヘッドランプ30におけるハイビームの配光制御が行われる。
【0075】
例えば図7Aは、2台の前方車両に対してハイビーム照射を行った場合の一例を示す図である。この図7Aに示すような光照射領域および非光照射領域を実現させるためには、例えば図5Aおよび図5Bに示したヘッドランプ30の場合、右前方のヘッドランプ30(R)について、LEDランプHB1、HB4、HB5を点灯させ、かつ、LEDランプHB2、HB3、HB6〜HB8を消灯させる指示を行えばよい。
【0076】
[応用例2]
上述した実施例では、検出された前方車両に対して左右側端から車幅方向に付与するマージン間隔を変化させる制御を説明した。この制御は、光照射領域を分断するスリット形状で非光照射領域を設定することを前提にしている。しかしながら、ヘッドランプ30のランプの配置を工夫する(例えば二次元配置など)ことで、光照射領域を分断することなく非光照射領域を設定することも可能である。
【0077】
例えば図7Bは、前方車両のルーフ上にも光照射領域を設けた場合の一例を示す図である。このような光照射領域を設ければ、例えば、高い位置にある道路標識や案内看板などに関して、車両前方の視認性をさらに向上させることができる。この図7Bに示すような非光照射領域を設定できるのであれば、検出された前方車両に対して上側端から車高方向に付与するマージン間隔を変化させるようにしてもよい。また、前方車両の車体の下側にも光照射領域を設けてもよい。
【0078】
[応用例3]
上述した実施例では、検出された前方車両に対して光照射領域および非光照射領域を設ける制御を説明した。しかし、不快なグレアを感じるのは、歩行者や自転車のドライバーなども同じである。よって、前方車両情報取得部10において歩行者や自転車なども検出し、歩行者や自転車のドライバーの頭部に非光照射領域を設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、前照灯の配光を制御する車両用前照灯制御装置において、車両前方の視認性を向上させたい場合などに有用である。
【符号の説明】
【0080】
1 車両用前照灯制御装置
10 前方車両情報取得部
11 車両検出部
12 車間距離検出部
13 車両情報検出部
20 配光制御部
21 マージン間隔決定部
22 ヘッドランプ制御部
30 ヘッドランプ
31 ランプユニット
32 灯火制御器
40 ヘッドランプスイッチ
100、101、102、105 照射範囲
201、203 前方車両
202、204 人物
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8