【文献】
CHRISTIAN ELABD,STEM CELLS,米国,ALPHAMED PRESS,2009年11月 1日,V27 N11,P2753-2760
【文献】
DIDIER F. PISANI,FRONTIERS IN ENDOCRINOLOGY,2011年 1月 1日,V2,P1-9
【文献】
Gburcik, V., et al.,An essential role for Tbx15 in the differentiation of brown and ''brite'' but not white adipocytes,Am J Physiol Endocrinol Metab,2012年 8月21日,Vol.303, No.4,pp.E1053-E1060
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成体脂肪由来幹細胞からBAT細胞を得るための方法であって、間葉系幹細胞成長培地において前記幹細胞を培養するステップと、ロシグリタゾン、トリヨードチロニン(T3)、デキサメタゾン、IBMXおよびBMP−7を含む培地に前記細胞を移すステップとを含む方法。
【背景技術】
【0002】
肥満のネガティブな健康効果に関しての理解が深まるにつれて、世界的に肥満の懸念が高まりつつある。理想体重を50Kg以上上回る重度肥満は、特に、深刻な健康問題について顕著なリスクをもたらす。従って、肥満患者の処置には多大な注目が集まっている。
【0003】
肥満は、エネルギー支出を上回る過剰なエネルギー摂取によるものと考えられているため、食欲抑制経路は、抗肥満薬開発の焦点であった。しかし、カロリー摂取の限定は、減量に抵抗する代償性の適応を誘導する。栄養知覚性ニューロン(nutrient−sensing neuron)は、認知および行動的要素とクロストークするため、食欲抑制薬は、容認できない精神医学的副作用を生じる傾向がある。しかし、脂肪生成の調節の複雑さのため、他の経路は殆ど調査されていない。
【0004】
糖尿病は、相対的インスリン欠乏およびインスリン抵抗性と組み合わされた高血糖値によって特徴づけられた代謝性障害である。糖尿病患者の大部分は、遅発性糖尿病としても公知の2型糖尿病を患い、この型の糖尿病の発生率は、この数年間、肥満の増加と一致して悪循環に陥った。
【0005】
BATの機能は、食物から熱へとエネルギーを移動させることである。生理学的には、生じた熱およびその結果としての代謝効率減少の両方が重要となり得る。褐色脂肪組織からの熱生成は、生物が余分な熱を必要とするときはいつでも、例えば、出生後に、発熱状態への進行の際に、および冬眠からの覚醒の際に活性化され、熱発生の速度は、視床下部において開始される経路を介して中枢制御される。
【0006】
BATは、齧歯類およびヒトの新生児において豊富であるが、成人は、BATを殆ど保有せず、量は加齢と共に減少する。BAT生成および機能を促進する遺伝子が欠損した齧歯類が肥満する傾向があるように、また、ヒトにおいて、より若年のより痩せた個体においてより老齢の過体重対象よりも多量のBATが観察されるように、齧歯類およびヒトの両方におけるBATの量は、肥満と逆に相関する。従って、肥満個体においてBAT組織を活性化するため、あるいはBAT量を増加させるための方法は、減量および肥満関連罹患率に対する感受性にプラスの効果を有することが予想されるであろう。従って、肥満に対抗するための成人にBATを導入するために、多数の提案が為された。例えば、米国特許第6,645,229号は、「褐色脂肪組織(BAT)」が、エネルギー支出の調節における役割を果たすこと、また、BATの刺激が、患者の痩身をもたらし得ることを記述する。BAT活性化は、交感神経系および他の生理学的影響、例えばホルモン性や代謝性の影響などによって調節される。活性化されると、BATは、熱の生成のために血液供給から遊離脂肪酸(FFA)および酸素を取り出す。新生児BATおよび成人BATは、ある特定の特徴が異なると思われる。例えば、新生児または古典的BATは、Myf5を発現する筋肉様細胞系列に由来する。いわゆるベージュ脂肪またはブライト脂肪は、白色脂肪組織(WAT)内の異なる系列に由来する。近年、全成人BATが、古典的BATではなくベージュ/ブライトであると提唱された(Wuら、2012 Cell 150:1〜11)。
【0007】
BATの活性化またはBAT量の増加は、BATに関連する疾患、特に糖尿病にポジティブな効果を有することもできる(Vegiopoulosら、2010、Science 328(1158〜61);Sealeら、2001、JCI 121(96〜105);Bostromら、2012 Nature 481(463〜68))。最も単純なシナリオにおいて、BATは、肥満を減少させ、従ってWAT貯蔵物を低下させ、その結果そのインスリン抵抗性誘導を低下させることにより、II型糖尿病を改善することができる。しかし、BATは、肥満単独の低下によって予想される結果を超えて代謝性機能不全を改善することもできる。これは、BATの増加が、減量しなかった場合であっても、過体重マウスにおけるインスリン感受性を改善したという事実によって証明される。BATが、グルコースに応答した島細胞からのインスリン分泌にも直接的に影響を与え、グルコース恒常性を改善し得ることが示された(Guerraら、JCI、2001、108(1205〜1213)。
【0008】
加えて近年、マウスにおけるBAT移植が、肥満したインスリン抵抗性マウスの代謝状態を確実に改善し(Liuら、(2013)Cell research、1〜4;Stanfordら、(2013)The Journal of clinical investigation、123(1)、215〜223)、ストレプトゾトシン誘導性糖尿病マウスにおける正常血糖および耐糖能を回復する(Gunawardana&Piston、2012、Diabetes、61(3)、674〜82)ことが示された。グルコースおよびエネルギーシンクとして作用することに加えて、褐色脂肪細胞は、IL−6等、グルコース代謝/インスリン感受性および全体的なエネルギー収支に有益な効果を有し得る因子を分泌する(局所的におよび/または循環において)可能性も高い(Stanfordら、2013)。
【0009】
WO2009137613は、1種または複数種の骨形成タンパク質(BMP)で処理した幹細胞抗原−1陽性(Sca−1+)前駆細胞が、BAT細胞に分化またはそれに向けて分化するという発見に基づく、BATを作製するための方法について記載する。これらのBAT細胞は、BAT細胞熱発生プログラムをオンにすることによりカテコラミン刺激に応答する完全な能力を有する、真のBAT細胞として記載されている。
【0010】
Nishioら、Cell Metabolism 16:394、2012は、ヒト多能性幹細胞からのBAT細胞の作製について記載する。作製されたBATは、ブライトではなく古典的BAT系列のものである。
【0011】
さらに近年、WO2013/123214は、内胸動脈由来細胞(iMAC)を脂肪細胞分化誘導培地(adipogenic instruction medium)に曝露することによる、動脈由来細胞からのヒトBATの作製について記載した。
【発明の概要】
【0012】
治療目的で設計されたBATは、患者に導入されることが企図されるため、患者自身の組織からBATを作製できる、即ち、自家療法を開発することは利点となろう。従って、BATが乳児に豊富であり成体には少ないことからBATを作製するその潜在的効力にもかかわらず、ES細胞または胚性/胎児幹細胞の使用は適さない。成体脂肪組織は、脂肪吸引によってルーチンに除去されるため、WATに由来する細胞からBATを作製できることは有利となろう。最後に、BATは、ヒトに再導入されることが企図されるため、導入遺伝子の使用は、回避されるべきである。
【0013】
従って、本発明の第1の態様において、脂肪由来成体幹細胞から作製された分化した褐色脂肪組織(BAT)細胞が提供される。本出願人らは、WATに存在する脂肪由来幹細胞(ADSC)から開始する、成体WATからBAT細胞を作製するためのプロトコールを開発した。成体幹細胞は、トランスジェニックではない。
【0014】
一実施形態において、成体幹細胞は、脂肪由来幹細胞(ADSC)または脂肪前駆細胞、例えば、前脂肪細胞またはadMSC(脂肪組織由来間葉系幹細胞)である。
【0015】
一実施形態において、UCP1の基底発現は、白色脂肪組織(WAT)の少なくとも10倍のレベルである。UCP1の発現は、BAT表現型の一般マーカーである。一実施形態において、UCP1の基底発現は、WATにおけるUCP1の基底発現の少なくとも20倍である。UCP1の発現は、cAMPおよびそのアナログによってさらに誘導され得る。
【0016】
一般に、遺伝子発現レベルは、本発明に従って成体幹細胞から得られた細胞の培養物において測定される。好ましくは、図面は、総細胞数に対して正規化され、従って、等しい細胞総数の培養物の間で相対的な比較が為される。例えば、培養物における細胞数にわたる結果を平均化することにより、100細胞当たりまたは1細胞当たりの発現レベルを計算することができる。細胞数は、培養物におけるハウスキーピング遺伝子の発現レベルにより推測される。ハウスキーピング遺伝子は、全細胞において同じレベルで発現される。従って、各培養物におけるハウスキーピング遺伝子発現のレベルに対する遺伝子発現レベルの正規化は、異なる培養物にわたる比較を可能にする。
【0017】
一実施形態において、BAT培養物は、WATと比較して増加した基底レベルでPDRM16を発現する。一部の例において、PDRM16は、WATにおける基底レベルよりも約2倍高いレベルで発現される。
【0018】
一実施形態において、BAT培養物は、WATにおける基底発現レベルと比較して増加した基底レベルでPPARGC1aを発現する。例えば、PPARGC1aは、WATよりも約20倍高いレベルで発現される。一部の例において、PPARGC1aは、WATよりも約40倍高いレベルで発現され得る。
【0019】
一実施形態において、BAT培養物は、白色脂肪組織(WAT)と比較して増加したレベルではCIDEAを発現しない。古典的BAT遺伝子(Eva1、FBXO31、EBF3、ZIC1)およびベージュ特異的遺伝子(TMEM26、Tbx15、Shox2、HoxC9)の比較は、本発明のBAT細胞に関して、古典的BAT系列よりも寧ろベージュを示唆する。一実施形態において、ベージュ脂肪においてより高いレベルで発現されるCD137は、本発明の細胞において検出されない。
【0020】
他の実施形態において、WATと比較して次の遺伝子のうち1種または複数種の上昇した基底発現が観察される。TBX15、FBXO31、EBF3、SHOX2およびTMEM26。
【0021】
本発明の第2の態様において、成体脂肪由来幹細胞からBAT細胞を得るための方法であって、間葉系幹細胞成長培地において幹細胞を培養するステップと、前記細胞を、Dex、IBMXおよびBMP−7を含む培地に移すステップとを含む方法が提供される。
【0022】
一実施形態において、細胞は、導入遺伝子をトランスフェクトされていない。
【0023】
本発明に係る方法は、非常に効率的である。一実施形態において、UCP−1等、BAT関連遺伝子の発現に関する細胞培養物の抗体染色によって評価される通り、幹細胞の20%以上が、BAT細胞に分化する。好ましくは、幹細胞の25%、30%、40%、50%以上が、BATに分化する。
【0024】
本方法は、実施形態において、次の培地の組合せに幹細胞を曝露するステップを含む。
(i)StemPro MSC SFM(invitrogen)およびBMP−7;
(ii)DMEM/F12(w Glutamax)、インスリン、トランスフェリン、BMP−7、トリヨードチロニン(T3)、デキサメタゾン、ロシグリタゾンおよび3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX);ならびに
(iii)DMEM/F12(w Glutamax)、インスリン、トランスフェリン、BMP−7、T3、デキサメタゾンおよびロシグリタゾン。
【0025】
上述のステップ(iii)は、培地を交換することにより反復することができる。
【0026】
有利には、細胞は、3日間隔で逐次的に培地に曝露される。しかし、経験的解析により、特異的条件に対し異なるタイミングを決定することができる。
【0027】
一実施形態において、成分を単一カクテルとして混合し、一段階手順においてADSCの分化に用いることができる。これは、本明細書において「混合式」プロトコールと称される。
【0028】
別の実施形態において、プロトコールは、次の通り3種の培地の組合せを含む。
(i)StemPro MSC SFM(invitrogen);
(ii)DMEM/F12、インスリン、トランスフェリン、BMP−7、T3、デキサメタゾン、ロシグリタゾンおよびIBMX;ならびに
(iii)DMEM/F12、インスリン、トランスフェリン、T3、デキサメタゾンおよびロシグリタゾン。
【0029】
全培地において、抗生物質および/または抗真菌剤を用いて、感染を防止することができる。例えば、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを用いることができる。
【0030】
第3の態様において、本発明は、本発明の第2の態様に係る方法によって得られる分化したBAT細胞を提供する。実施形態において、BAT細胞は、本発明の第1の態様に係るBAT細胞となり得る。
【0031】
第4の実施形態において、細胞が患者にインプラントされる、過剰な脂肪組織蓄積によって特徴づけられる疾患を患う患者の処置における使用のための、第1の実施形態に係る分化したBAT細胞が提供される。
【0032】
第5の実施形態において、過剰な脂肪組織蓄積によって特徴づけられる疾患を患う患者を処置するための方法であって、前記処置を必要とする患者に、第1の実施形態に係る1個または複数個の細胞をインプラントするステップを含む方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、他に断りがなければ、分子生物学、微生物学および組換えDNAの従来技法を当業者の技能範囲内で利用する。そのような技法は、文献において説明されている。例えば、J.Sambrook、E.F.Fritsch and T.Maniatis、1989、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、ブック1〜3、Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel,F.M.ら(1995年および定期的な補冊;Current Protocols in Molecular Biology、第9、13および16章、John Wiley&Sons、New York、N.Y.);B.Roe、J.Crabtree and A.Kahn、1996、DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques、John Wiley&Sons;M.J.Gait(編)、1984、Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach、IrI Press;ならびにD.M.J.Lilley and J.E.Dahlberg、1992、Methods of Enzymology:DNA Structure Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology、Academic Pressを参照されたい。
【0035】
[定義]
分化した:本発明において、分化した組織または細胞とは、単能性、多分化能性(multipotent)、多能性または全能性細胞に由来する、規定の組織型(本発明の場合は褐色脂肪組織またはBATである)の細胞になった細胞である。
【0036】
BAT:褐色脂肪組織は、本明細書または例えばSvenssonら、Int J Mol Med.2011年2月;27(2):227〜32に記載されている通り、褐色脂肪に関連する遺伝子発現プロファイルに代表される褐色脂肪、好ましくは、ヒト褐色脂肪の特徴を有し、褐色脂肪のエネルギー利用プロファイルを有する組織である。BATは、典型的に、白色脂肪組織およびADSC BAT前駆体細胞よりも優れたレベルでUCP1遺伝子を発現する。BATは、古典的またはブライト(ベージュ)系列のものとなり得る。古典的系列は、筋肉様系列のものであるMyf5発現細胞に由来し、一方、ブライトまたはベージュ系列は、WATにおける細胞に由来する。実施形態において、本発明のBAT細胞は、ブライト/ベージュ系列のものである。
【0037】
WAT:白色脂肪組織は、成体白色脂肪の特徴を有する組織である。好ましくは、これはヒトWATである。
【0038】
細胞:本明細書に言及されている通り、細胞は、全て半透性細胞膜または細胞壁に包まれた1個または複数個の核、細胞質および様々な細胞小器官からなる、独立的に機能することのできる生物の最小の構造単位または単細胞生物として定義されている。
【0039】
本発明に係るBAT細胞が由来する出発細胞は、成体ヒト幹細胞または前駆細胞、好ましくは、脂肪組織に由来する幹細胞または前駆細胞に由来する。本発明の実施形態において、細胞は、遺伝子操作されていない。一実施形態において、それらは、間葉系幹細胞である。幹細胞は、より詳細に下に定義されており、全能性、2種以上の分化細胞型を生じることのできる多能性または多分化能性細胞である。幹細胞は、インビトロで分化させて、それ自身が多分化能性であっても終分化していてもよい分化細胞を生じることができる。インビトロで分化した細胞は、細胞分化を促進する1種または複数種の薬剤に幹細胞を曝露することにより人為的に作製された細胞である。
【0040】
成体:本発明の文脈において、境界線は、胚性、新生児および新生児期後の組織の間に引かれる。新生児期後組織は、成体と称される。例えば、新生児期後は、誕生から1カ月後の(ヒト)乳児を指す。
【0041】
トランスジェニック:本明細書に言及されている通り、トランスジェニック細胞は、外来性遺伝子をトランスフェクトまたは形質転換された細胞である。
【0042】
全能性:全能性細胞は、生物および胚体外組織に存在するいかなる種類の体細胞または生殖細胞にも分化する潜在力を有する細胞である。よって、いかなる所望の細胞も、何らかの手段により、全能性細胞から派生させることができる。
【0043】
多能性:多能性細胞は、発生中の胚および成体生物のあらゆる細胞型に分化し得るが、胚体外組織には分化しない細胞である。
【0044】
体細胞:本明細書において、用語「体細胞」は、本技術分野で理解されているものと同じ意義を有する、即ち、生殖系列細胞を除く生物の身体を構成するいずれかの細胞である。哺乳類において、生殖系列細胞(配偶子としても公知)は、受精の際に融合して接合子と呼ばれる細胞を産生する精子および卵子であり、接合子から哺乳類胚全体が発生する。
【0045】
培養培地:本発明に係るBAT細胞は、特定の薬剤の存在下における培養培地において脂肪由来幹細胞を培養することにより得ることができる。培地は、細胞の増殖および/または継代に用いられる培養培地となり得る。場合によっては、培地は、典型的に未知組成の血清を含むことがあるため、培養培地の組成は未知のものとなるであろう。しかし、好ましい実施形態において、培養培地の成分のそれぞれは、その量または濃度の観点から公知のものとなるであろう。一実施形態において、培養培地は、StemPro(登録商標)MSC SFM(Invitrogen)またはDMEM/F12等、幹細胞の培養に適した無血清培地となり得る。
【0046】
脂肪由来幹細胞(ADSC):本明細書に言及されている通り、脂肪由来幹細胞またはADSCは、脂肪組織に由来する幹細胞である。そのような細胞は、脂肪由来間葉系幹細胞(adMSC)と、一般的に、脂肪起源の他の多分化能性細胞を含む。ADSCは、Lonza(カタログ番号PT−5006)およびInvitrogen(StemPro ADSCキット)から市販されている。adMSCは、PromoCell(カタログ番号C−12978)から入手できる。ADSCは、例えば、本明細書に表記されている通り、WATから単離することができる。
【0047】
成体幹細胞:本明細書に定義されている通り、成体に由来するいずれかの幹細胞である。好ましくは、成体幹細胞はADSCである。
【0048】
薬剤:用語「薬剤」は、adMSC等の細胞が含有されている培地に添加される(例えば、外来的に添加または補充される)要素を指す。薬剤は、通常、細胞または細胞が含有されている培地に存在しなくてよい。薬剤は、単一薬剤であっても、2種以上の異なる薬剤の組合せ等、薬剤の組合せであってもよい。
【0049】
本開示は、成体細胞からBAT細胞を得るための方法と、そのような方法によって得ることができるBAT細胞を提供する。本発明のBAT細胞は、本明細書に記載されている適用において有利な特定の特徴を有する。これらの方法は、幹または前駆細胞からBAT細胞系列への分化を促進するステップを含む。より具体的には、本開示は、少なくとも部分的に、WAT由来の幹または前駆細胞を分化させて、規定の条件を用いてBATを産生することができるという発見に基づく。
【0050】
<細胞>
<幹細胞>
幹細胞は、Stem Cells:Scientific Progress and Future Research Directions.Department of Health and Human Services、2001年6月、http://www.nih.govlnews/stemcell/scireport.htmに詳細に記載されている。幹細胞は、分化して、少なくとも1種、場合によっては多くの特殊化した細胞型を形成することのできる細胞である。
【0051】
現在までに、3種類の哺乳類多能性幹細胞が単離されており、あるいは人工多能性幹細胞(iPS細胞)を含めるのであれば、4種類の哺乳類多能性幹細胞が単離されている。これらの細胞は、通常、胚の全3胚葉(内胚葉、中胚葉および外胚葉)に由来する細胞型を生じることができる。3種類の幹細胞は、精巣腫瘍に由来する胚性癌腫(EC)細胞、着床前胚(通常、胚盤胞)に由来する胚性幹(ES)細胞、および着床後胚(通常、生殖腺の一部となることが運命づけられた胎児の細胞)に由来する胚性生殖(EG)細胞である。これらの細胞は、真に多能性であるため、分化を方向づける試みにおいて特に注目を集める。しかし、これらは本発明の焦点ではない。
【0052】
幹細胞は、成体生物にも存在する。成体幹細胞は、分化した(特殊化した)組織において生じ、自身を再生し、分化してより特殊化した細胞を生じることができる未分化細胞である。従って、これは、患者の組織から得てBATの作製に用いることができるため、本発明における使用に理想的である。成体幹細胞に加えて、多くの種類の前駆細胞または前駆体細胞が存在する。これらは、その分化潜在力が部分的に制限され、恐らく身体のあらゆる組織において生じる細胞であり、分化することができるが、そのレパートリーが幹細胞ほど広範ではなく、定義によると、自己再生できないと言う点において幹細胞とは異なる。これらの細胞も、本発明の文脈において有用である。
【0053】
様々な組織から試料を得るための方法と、初代細胞株を樹立するための方法は、本技術分野において周知である(例えば、Jones GE、Wise CJ.、「Establishment, maintenance, and cloning of human dermal fibroblasts.」Methods MoI Biol.1997;75:13〜21を参照)。体細胞株は、例えば、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、ドイツ微生物・細胞培養コレクション(DSMZ)またはPromoCell GmbH、Sickingenstr.63/65、D−69126 Heidelberg等、多数のサプライヤーから購入することができる。
【0054】
<半分化(semi−differentiated)細胞>
この細胞は、機能的BAT細胞を生じることができる多分化能性前駆細胞等、前駆細胞となり得る。幹細胞と同様に、前駆細胞は、特異的な種類の細胞型に分化する能力を有する。しかし、幹細胞とは対照的に、これは、既にはるかに特異的になっており、その「標的」細胞に分化するよう押し進められている。幹細胞および前駆細胞の間の最も重要な差異は、幹細胞が、無制限に複製することができる一方、前駆細胞は、限られた回数しか分裂できないことである。大部分の前駆細胞は、単能性または多分化能性として記載されている。この観点において、これは、成体幹細胞と比較することができる。しかし、前駆細胞は、細胞分化のより進んだステージにあると考えられる。これは、幹細胞と完全に分化した細胞との間の「中央」に位置する。これが有する効力の種類は、その「親」幹細胞の種類と、また、そのニッチに依存する。幹細胞と同様に、これは、大部分において、これが成長しその標的組織に分化するための正しい条件により、コロニーにおいて形成および発生される。前駆細胞は、成体生物に存在し、身体の修復系として作用する。これは、特殊な細胞を補充するが、同様に、血液、皮膚および腸管組織を維持する。これは、発生中の胚性膵臓組織に見出すこともできる。
【0055】
ヒト脂肪由来幹細胞は、例えば、Liら、Experimental Biology and Medicine 2012、237:845〜852およびUS2012208274に表記されている手順により、脂肪組織から単離することができる。
【0056】
<細胞培養技法>
細胞培養は、いずれかの適した技法によって行うことができる。ADSCまたはadMSCを含む、成体幹または前駆細胞からBATを分化させるために用いることのできる本明細書に開示されている薬剤は、順次または同時期に添加することができる。
【0057】
本出願人らは、例えば、EP1917349、WO2004031369、EP2491386およびEP2464720において、種々の培地における細胞の逐次的培養のための技法およびツールを以前に開示した。そのような技法は、本発明の文脈において用いることができるが、これは必須ではなく、よって、本願は、脂肪前駆体をBATに分化させるために必要な条件を提供する。
【0058】
従って、細胞培養は、本明細書に記載されている薬剤に細胞を曝露するための標準培養技法を用いて、標準細胞培養プレートにおいて行うことができる。
【0059】
細胞培養における1種または複数種の薬剤の量(例えば、濃度または用量)および曝露時間は、脂肪細胞前駆体の集団におけるBAT細胞または成熟BAT細胞の特徴を有する細胞の数を増加させるのに十分なものとなろう。濃度および曝露時間の両方は、当業者によって経験的に決定することができる。
【0060】
典型的には、細胞は、最大3日間、例えば1日間、2日間または3日間の期間、薬剤に曝露される。より長いインキュベーション時間を用いてもよい。
【0061】
BATは、脱共役タンパク質1(UCP1)、細胞死誘導性DFF45様エフェクターA(CIDEA)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ、コアクチベーター1アルファ(PGC)−1アルファ、および/またはPPARガンマコアクチベーター(camp)−1ベータおよび/またはPRDM−16等、1種または複数種のBAT特異的マーカーを測定することにより同定することができる。BATを同定するための代替方法は、BAT形態(例えば、視覚による、例えば、細胞の顕微鏡検査);またはBAT熱力学、例えば、チトクロム酸化酵素活性、Na+−K+−ATPase酵素単位の測定またはBAT熱発生に関与する他の酵素のアッセイおよび動物移植後の機能解析を含む。
【0062】
<薬剤>
本発明における細胞培養において用いられる薬剤は、いずれかの従来の様式で、例えば、細胞集団への投与のための担体系において製剤化することができる。担体は、リポソーム等、コロイド系となり得る。担体は、ポリマー、例えば、生分解性、生体適合性ポリマーマトリックスとなることもできる。一部の実施形態において、タンパク質は、タンパク質統合性を維持しつつポリマーマトリックスに包埋することができる。ポリマーは、ポリペプチド、タンパク質または多糖等、天然のものであっても、ポリ(アルファ−ヒドロキシ)酸等、合成のものであってもよい。例として、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、多糖、フィブリン、ゼラチンおよびこれらの組合せで作製された担体が挙げられる。一部の実施形態において、ポリマーは、ポリ−乳酸(PLA)またはco−ポリ乳酸/グリコール酸(PGLA)である。ポリマーマトリックスは、マイクロスフェアおよびナノスフェアを含む、種々の形態およびサイズで調製および単離することができる。ポリマー製剤は、治療効果の持続時間の延長をもたらすことができる。
【0063】
しかし、一般に、薬剤は、細胞培養培地に直接的に添加することができ、細胞に取り込まれる。
【0064】
一部の実施形態において、薬剤は、BMP、インスリン、トランスフェリン、BMP−7、T3、デキサメタゾン、ロシグリタゾンおよびIBMXのうち1種または複数種を含むことができる。
【0065】
<BATの派生>
BAT細胞は、本明細書に表記されている方法に従って、脂肪組織幹または前駆細胞から得ることができる。例えば、上述の通りに単離されたADSCは、MSC培養に適した基礎培地において培養することにより、薬剤に曝露することができる。
【0066】
adMSCを含む脂肪由来幹または前駆細胞は、1種の薬剤、または組み合わせたおよび/または連続した1種または複数種の薬剤により、BATに分化させることができる。上に明示されている通り、薬剤は、インスリン、トランスフェリン、T3、デキサメタゾン、BMP−7、IBMXおよびロシグリタゾンのうち1種または複数種を含むことができる。細胞培養培地において用いられるT3の濃度は、0.1〜2nMに及ぶことができ;デキサメタゾンの濃度は、1uM〜500nMに及ぶことができ;IBMXの濃度は、100uM〜1mMに及ぶことができ;BMP−7の濃度は、10ng/ml〜200ng/mlに及ぶことができ;ロシグリタゾンの濃度は、10nM〜1mMの間に及ぶことができる。培養培地は、細胞培養に適したいずれかの培地となり得る。培養培地の例として、LDMEM(低グルコースDMEM)、HDMEM(高グルコースDMEM)およびDMEM/F12が挙げられる。培養培地は、血清または血清タンパク質を補充することができる。あるいは、細胞は、血清または血清タンパク質を添加しない培養培地において成長させることができる。適した培地の例として、StemPro(登録商標)MSC SFM(Invitrogen)無血清培地、Stem cell Technologies製のMesencult(登録商標)幹細胞基礎培地および細胞培養のための他の市販の培地が挙げられる。培地は、最適な分化のために3日毎に換えることができる。分化は、本技術分野において公知の種々の方法によってモニターすることができる。幹細胞および分化処理した細胞の間のパラメータの変化は、処理細胞が分化したことを示すことができる。顕微鏡を用いて、分化における細胞の形態を直接的にモニターすることができる。例として、分化している脂肪細胞は、BAT脂肪細胞に典型的な多胞性(multilocular)細胞高次構造を採ることができ、この構造において、脂肪の液滴が細胞質中に分散している。細胞は典型的に、多角形の形状も採る。細胞は、本技術分野において周知の方法を用いて免疫染色することができる。特に、UCP1は、BATのマーカーである。例えば、UCP1に特異的な一次抗体は、直接検出のためにフルオロフォアまたは発色団で標識することができる。あるいは、一次抗体は、フルオロフォアもしくは発色団で標識されたまたは酵素に連結された二次抗体により検出することができる。フルオロフォアは、フルオレセイン、FITC、ローダミン、Texas Red、Cy−3、Cy−5、Cy−5.5、Alexa488、Alexa594、QuantumDot525、QuantumDot565またはQuantumDot653となり得る。二次抗体に連結された酵素は、HRP、B−ガラクトシダーゼまたはルシフェラーゼとなり得る。標識された細胞は、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡または共焦点顕微鏡下で検査することができる。細胞または細胞培地の蛍光または吸光度は、蛍光光度計または分光光度計(spectrophotomer)において測定することができる。遺伝子発現の変化は、RT−PCRまたは定量的リアルタイムPCRを用いて、メッセンジャーRNA(mRNA)のレベルでモニターすることもできる。BATのいかなるマーカーを用いてもよい。例えば、UCP1発現をモニターすることができる。本技術分野において公知の方法を用いて細胞からRNAを単離することができ、本技術分野において周知のPCR条件およびパラメータを用いて所望の遺伝子産物を増幅することができる。増幅することができる遺伝子産物は、脱共役タンパク質(UCP1)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ、コアクチベーター1アルファ(PGC)−1アルファ、および/またはPPARガンマコアクチベーター(PGC)−1ベータおよび/またはPRDM−16を含む。
【0067】
<BATの増殖>
BAT細胞は、Cosmo Bio Ltd.製の褐色脂肪細胞維持培地等、市販の培地を用いた培養において増殖させることができる。あるいは、DMEM等、一般に入手できる培養培地を用いて、脂肪細胞を増殖させることができる。
【0068】
<キット>
本発明は、脂肪組織由来幹または前駆細胞からBAT細胞を作製するためのキットを提供する。一部の実施形態において、キットは、脂肪由来幹または前駆細胞;1種または複数種の幹細胞または前駆細胞からBAT細胞系列への分化を促進させることができる1種または複数種の薬剤;必要に応じて、対象に細胞を投与するための装置および/または投与のための説明書を含むことができる。キットの異なる成分は、別々の容器に包装し、使用直前に混合することができる。2種以上の薬剤が特定のキットに含まれる場合、薬剤は、別々に包装し、使用前に別々に混合することができる、あるいはその結果得られる混合物の成分が組み合わせたときに安定的であるならば、一体に包装することができる。一実施形態において、本発明に係るキットは、Dex、IBMXおよびBMP−7のうち2種以上を含む。一実施形態において、キットは、上に表記されている薬剤、BMP、インスリン、トランスフェリン、BMP−7、T3、デキサメタゾン、ロシグリタゾンおよびIBMXのうち2、3、4、5または6種以上を含むことができる。
【0069】
キットは、StemPro SFM、DMEM/F12および/またはDMEM等、基礎培地をさらに含むことができる。
【0070】
必要に応じて、キットは、BAT細胞を派生させることができる前脂肪細胞またはadMSC等の細胞、ならびに脂肪組織の抽出およびそれから幹細胞を派生させるための器具、説明書および薬剤を含むことができる。
【0071】
<治療適用>
本発明によって得られるBATは、患者への導入または再導入のための治療目的に用いて、個体における褐色脂肪含有量を増加させることができる。
【0072】
脂肪組織の送達のための方法は、本技術分野において公知のものである。方法は、処置すべき対象にBAT細胞をインプラントするステップを含むことができる。そのような方法は、患者における肥満およびインスリン抵抗性の処置に、あるいは肥満に関連する疾患、例えば、糖尿病、がん、神経変性および加齢の処置に有用である。BAT細胞をインプラントするための方法は、本技術分野において公知のものであり、例えば、針を備えるシリンジまたは他の送達装置等、対象への細胞の導入を可能にするよう構成された送達系を用いるステップを含む。典型的には、BAT細胞は、細胞が付着することができる足場、マトリックスまたは他のインプラント式装置ありまたはなしで、薬学的に許容される培地または担体中に存在するであろう(例として、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、多糖、フィブリン、ゼラチンおよびこれらの組合せで作製された担体が挙げられる)。
【0073】
様々な投与経路および様々な投与部位は、当業者にとって明らかであり、腎臓被膜下、皮下、中枢神経系(くも膜下腔内を含む)、血管内、肝内、臓器内(intrasplanchnic)、腹腔内(網内(intraomental)を含む)および筋肉内部位を含む、脂肪細胞が存在するいずれかの部位を含む。例えば、BAT細胞は、患者の皮下にインプラントすることができる。
【0074】
インプラントされた細胞が、患者自身の細胞に由来することができ、従って、免疫学的に適合性となるであろうことは、本発明の利点である。免疫学的に適合性でない細胞が用いられる場合、免疫抑制化合物を投与することができる。
【実施例1】
【0075】
<ヒトadMSCの単離>
待機的外科手術手技を受けている若年ドナーから得た皮下脂肪組織からヒトadMSCを単離した。およそ1.5gの脂肪組織をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、細かく刻み、続いて37℃で30分間、ウォーターバス振盪機(200rpm)において0.15%コラゲナーゼI型(Sigma、米国ミズーリ州セントルイス)で消化した。10%ウシ胎仔血清、ペニシリン(50U/mL)およびストレプトマイシン(streptoymcin)(50mg/mL)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)の添加により、コラゲナーゼを不活性化した。adMSC含有細胞懸濁液を600gで5分間、遠心分離した。単離した細胞を、25cm
2細胞培養フラスコに2.5×10
4細胞の密度で蒔き、標準培養培地において37℃、5%CO
2で培養した。48時間後に培養物をPBSで洗浄して、付着していない細胞を除去し、新鮮な培地を再供給した。adMSCを増やし、脂肪生成分化によって特徴づけた。脂肪生成キット(Cyagen Biosciences)を用いて、培養14日後に、脂質液滴のオイルレッドO(Sigma)染色によりADMSCの脂肪生成分化を確認した(
図1c)。適切な量の滅菌HCl(1mol/L)およびNaOH(1mol/L)をDMEMに添加し、市販のpH微小電極(Lazarlab、米国カリフォルニア州ロサンゼルス)(0.01のpH単位に感受性)を用いてモニターすることにより、異なるpH値を有する培養培地を調製した。7.4(標準条件)、7.1(正常IVD)、6.8(軽度変性IVD)および6.5(重度変性IVD)を含む、4種のpH値を有する培地を得た。培養培地を37℃、5%CO
2で3日間維持して、pHを平衡化した(CO
2依存性)。細胞増殖アッセイのための24ウェルプレート、あるいは細胞生存率ならびに遺伝子およびタンパク質発現解析のための25cm
2細胞培養フラスコのいずれかにおいて、継代2におけるadMSCを培養した。3日目に細胞に新鮮な培地を再供給し、6日目に解析のために収集した。
【実施例2】
【0076】
<BATの分化>
標準成長培地(StemPro SFM、Invitrogen)において30,000細胞/cm
2(0日目)で脂肪由来幹細胞を播種する。3日後および下に示すその後の日数において、次の培地処方を細胞に添加する。細胞培養成分は市販されている。BMP7は、骨形成タンパク質7bである。培養培地は、感染を防止するためにペニシリンおよびストレプトマイシン(1%)を含む。
【0077】
【表1】
【0078】
17日目に細胞を固定し、BAT遺伝子発現および形態に関して解析する。
【0079】
<結果>
図1および
図2は、ADSC(Lonza)に由来する細胞におけるUCP1およびPRMD1発現を示す。細胞は、BATの特徴を全て示す。
【0080】
図3は、上に表記されている通りに得られた細胞におけるUCP1およびチトクロムC酸化酵素染色の結果を示す。再度、細胞は、BATの特徴を示す。
【0081】
図4は、上述の通りに得られたBAT細胞のqPCR遺伝子発現解析の結果を示す。これらの結果は、BAT表現型の存在を確認する。興味深いことに、CIDEAは、WATと比較して過剰発現されていない。本発明に従って得られるBAT細胞において発現される遺伝子と、その関連する系列を下表2に表記する。
【0082】
【表2】
【実施例3】
【0083】
<一段階プロトコール>
逐次培養プロトコールを一段階(「混合式」)プロトコールに置き換えて、実施例1に概要を述べた手順を反復した。本実験において、MSC SFM培地においてADSCをインキュベートし、続いて分化期間の持続時間(15〜16日間)、分化培地に直接的に移した。
【0084】
【表3】
【0085】
ITSEは、トランスフェリンおよびインスリンを含有する市販の細胞培養培地サプリメントであるが、残りの成分は、実施例2において用いられる試薬と同一である。
【0086】
図5〜図
8に結果を表記し、これについて実施例4でさらに説明する。
【実施例4】
【0087】
<第2のプロトコールを用いたBATの分化>
StemPro SFM(Invitrogen)において50,000細胞/cm
2(0日目)で脂肪由来幹細胞を播種し、2日後に、1%ペニシリンおよびストレプトマイシンを再度含有する、次の処方に従った分化培地に培地を置き換える。6日目の後には、分化14または15日目まで2〜3日毎に培地を交換する。
【0088】
【表4】
【0089】
BATの作製をモニターするために、BAT細胞型に関連する様々な遺伝子の発現に関して細胞を解析した。
図5は、実施例2、3および4のプロトコールに従って単離された組織のUCP−1発現のウエスタンブロットを図解する。本実施例4のプロトコールは、「MR」と称される。
【0090】
図6は、qPCRによって評価される、3種のプロトコールにより得られる遺伝子発現の変化を示す。各事例において、UCP−1発現は、細胞がBATに分化するにつれて有意に増加する。他のマーカーの発現の増加は、用いたプロトコールに応じて変動する。
【0091】
BATにおけるUCP−1発現は、典型的にcAMP誘導性である。従って、cAMPにより誘導された場合の、3種のプロトコールによって得られた細胞におけるUCP−1の誘導を解析した。結果を
図7に示す。全3種のプロトコールは、cAMP誘導性遺伝子発現を示す細胞の作製をもたらし、MRプロトコールが、最も優れた程度の誘導能を生じた。
【0092】
BAT細胞の特徴の最終アッセイは、天然に得られるBATと比較した、細胞の酸素消費の解析に関与した。褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞よりも高いミトコンドリア含有量を有し、より高レベルのUCP1を発現する。UCP1タンパク質は、ミトコンドリア内膜を通してH+を流し、熱を生じることにより、酸化的リン酸化からATP産生を脱共役し、よって、BAT細胞は、白色脂肪細胞よりも高い呼吸数を示す。呼吸能力を評価する最良の仕方の1つは、インタクト細胞における酸素消費を直接的に測定することによるものである。この理由により、Seahorse技術を用いた。Seahorse Biosciences(マサチューセッツ州ノース・ビレリカ)製のXF Cell Mito Stress Testキットを用いて、マイクロプレートにおいてミトコンドリア機能の4種の重要なパラメータを測定した(基礎呼吸、ATPターンオーバー、プロトンリークおよび最大呼吸)。これらのパラメータは全て、先に言及した通り、より多数のミトコンドリアおよびより高いUCP1タンパク質発現のため、通常、WAT細胞と比較してBAT細胞においてより高い(Ahfeldtら、(2012)、Nat Cell Biol、14(2)、209〜219)。結果を
図8に示す。
【0093】
他に記述がなければ、本明細書に用いられているあらゆる技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているものと同じ意義を有する。本発明の実施または検査において、本明細書に記載されているものと類似または均等ないかなる方法および材料を用いてもよい。そのような使用に適した方法、装置および材料は、上に記載されている。本明細書に引用されているあらゆる刊行物は、本発明に関連して用いることのできる刊行物において報告されている方法論、試薬およびツールを説明および開示する目的のため、ここに本明細書の一部を構成するものとしてその内容全体を援用する。