【実施例】
【0040】
本発明を容易に理解し、実際の効果につなげるために、格別な実施形態を以下の非制限的な実施例を通じて記載する。
【0041】
(実施例1)
アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを用いることでマウスにアルファ−ヘモリシンに対する免疫応答を惹起するための方法を以下の段落に記載する。
【0042】
<材料および方法>
ポリ(ブタジエン−b−エチレンオキサイド)(PBd
21−PEO
14)BD21両親媒性ブロック共重合体は、ポリマソース(Polymer Source)社(カナダ)から入手した。黄色ブドウ球菌(staphylococcus aureus)由来のアルファ−ヘモリシン、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(Tris)、塩化マグネシウムおよび塩化ナトリウムは、すべて、シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich)社(シンガポール)から購入した。テトラヒドロフラン(THF)は、テディア(Tedia)社(米国、オハイオ州)から入手した。
【0043】
<ポリマーソームの調製>
ポリマーソームをフィルム再水和法により調製した。BD21ポリマをTHFに溶解させ、窒素ガス流下で、底部円錐状(conical bottom)ガラスチューブの壁に薄いフィルムとして乾燥させた。ポリマフィルムを減圧下でさらに乾燥させた。続いて、フィルムを再水和させポリマーベシクルの自発的形成を許容するために、超純水をチューブに添加し攪拌し、結果として均一な懸濁液を得た。得られたベシクル分散液を、0.45μmのPVDFフィルタ(ミリポア(Millipore)社)で押し出し、残留する溶媒を除去するために超純水に対する透析を行った。アルファ−ヘモリシンをMOPS−NaClバッファ(buffer、緩衝液)(0.01MのMOPS、0.1Mの塩化ナトリウム、pH7)に溶解させた。
【0044】
ポリマーベシクル分散液にアルファ−ヘモリシン溶液の一定分量を添加することにより、ポリマーソームを形成させた。そのとき、アルファ−ヘモリシンのポリマーソームへの再構成を許容するために混合液をインキュベートした。続いて、遠心濾過を用いて、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームからフリーなアルファ−ヘモリシンを分離した。そして、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを50μlのTMNバッファ(100mMのTris、50mMの塩化マグネシウムおよび100mMの塩化ナトリウム、pH7.5に調整)に再懸濁させた。
【0045】
<アルファ−ヘモリシン濃度の定量>
アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームに挿入されたアルファ−ヘモリシン量の定量は、既知濃度のフリーなヘモリシンで得られた標準曲線を用いて測定した(
図1)。コーティングバッファ(0.1MのCO
3/HCO
3、pH9−9.8)中のポリクローナル抗アルファ−ヘモリシン抗体の100ng/wellにより、96ウェルプレートを4℃で一晩コートした。次の日に、ブロッキングバッファ(1×PBS中に1%BSA)により、ウェルを室温(RT)で1時間ブロックした。ブロッキングバッファ中の500ng/100μlからはじめた、異なる濃度のフリーなアルファ−ヘモリシンをRTで1時間インキュベートした。さらに、同じバッファ(1:10希釈)中でアルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームサンプルを調製し、同様にインキュベートした。続いて、ブロッキングバッファ中の抗アルファ−ヘモリシンマウス血清(1:1000)、さらに抗マウスHRP結合抗体(1:4000)を適用した。TMB基質での三重測定(triplicate measurements)を通して、ペルオキシダーゼ活性を定量した。非特異的結合(NSB)を明らかにするために、アルファ−ヘモリシン無コートのウェルでも三重測定を行った。得られた標準曲線を用いた外挿法により、プロテオポリマーソームに挿入されたアルファ−ヘモリシン量が1.32μg/ml+/−0.6(n=4)であることを推定することができた。
【0046】
<ポリマーソームの注入>
マウス1匹あたり100−150ngのアルファ−ヘモリシン含有プロテオポリマーソームを、C57Bマウス/6匹(1グループあたり3匹)に腹腔内または皮内に以下のように注入した:第1日に1回目のブースト(boost)、第14日に2回目のブースト、続いて、7日ごとのブーストをさらに4週間行った。血液サンプルを各免疫化の前にキャピラリを用いてマウスの頬(cheek)からサンプリングし収集した。
【0047】
<免疫応答の定量>
コーティングバッファ中のフリーなアルファ−ヘモリシンの1ウェルあたり100ngにより、96ウェルプレートを一晩コートした。次の日にブロッキングバッファを用いてウェルをブロックした。各血液サンプルをブロッキングバッファで希釈し(1:100または1:1000)、アルファ−ヘモリシンでコートしたウェルおよび無コートのウェルでRTにて1時間インキュベートした。3回洗浄(PBS、1×)後、抗マウスHRP結合抗体(1:4000)をRTで1時間インキュベートした後、3回洗浄しTMB基質反応を行った。
【0048】
<結果および考察>
膜タンパク質抗原含有ポリマーソームを用い免疫応答を惹起するための本発明の方法を立証するために、アルファ−ヘモリシン(抗原)をBD22ポリマーソームに封入し、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを形成させた。
【0049】
アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームの免疫原性を立証するために、それらを3匹のマウスの腹腔内に注入し、タンパク質を有していないポリマーソームを他の3匹のマウスに与えた。血清をアルファ−ヘモリシンコートしたプレートに対して滴定した(
図2A)。空のポリマーソームでは実験を通じて効果のないままであったものの、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームの3回目の注入後に強固な抗体力価が得られた。アルファ−ヘモリシンでコートしていないプレートで血清をテストしたときは力価が検出されなかったことから、その抗体力価がアルファ−ヘモリシンに特異的であることを示している(
図2B)。このことは、用いたアルファ−ヘモリシン量(100−150ng)が通常のマイクログラム投与量より大幅に少ないものの、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームが、免疫化や抗体産生でアルファ−ヘモリシンに対する抗体を上昇させる免疫応答を惹起することが可能であることを示している。
【0050】
アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームの免疫原性をさらに分析するために、そのポリマーソームを3匹のマウスに注入し、種々のコントロールを他の9匹のマウス(TMNバッファを3匹のマウス、フリーなアルファ−ヘモリシンを3匹のマウス、アルファ−ヘモリシンおよび完全フロイントアジュバントを3匹のマウス)に注入した。5回の注入によるマウスの免疫原性の応答を
図3に示す。先の実験と同じように、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームは免疫応答を惹起することが可能であった。驚くべきことに、同等量(100ng)のフリーなアルファ−ヘモリシンでも、はじめの3回の注入に対しては応答が幾分低いものの、アジュバントの使用無くして免疫応答を惹起することが可能であった。空のポリマーソームが非免疫原性のままであるものの、アジュバントと共に注入したフリーなアルファ−ヘモリシンでは、より低効率な応答となった。それゆえ、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを用いることで得られ観察された免疫応答の一部は、アルファ−ヘモリシン自体の免疫原性によるものである。マウスを免疫化するために短縮型(a truncated version)アルファ−ヘモリシンを用いた研究においても、より多くの投与量(5μg)が用いられているものの、そのような免疫原性がアジュバントを伴うことなく観察された。
【0051】
アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームの免疫原性をさらに分析するために、皮内注入を行った。皮膚には樹状細胞やマクロファージ等の抗原提示細胞が豊富なため、皮膚の種々の層で行われる免疫化には昨今大きな注目が集められており、皮下や皮内の注入が腹腔内や筋肉内のルートと比べて流行を取り戻している。さらに、皮膚を通じたワクチンデリバリを許容する、使用が簡単でニードルフリーなデバイスを開発することに多くの努力が傾けられている。このような興味のために、ここでのさらなる実験において、皮内注入を行った。アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを3匹のマウスに注入し、フリーなアルファ−ヘモリシンを2匹のマウスに注入した。3回の注入を通じたマウスの免疫原性の応答を
図4に示す。興味深いことに、免疫応答を惹起することにおいては、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームがフリーなアルファ−ヘモリシンと比べてより一層効率的であり、2回目および3回目の採血では、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームがフリーなアルファ−ヘモリシンより高い免疫応答を惹起した。アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームがまだ免疫応答を生成することが可能であるものの、フリーなアルファ−ヘモリシンの免疫原性が皮内注入により弱められることが明らかである。このことは、おそらく、比較的大きなポリマーソームが真皮に存在する樹状細胞を集合させることが可能なためである。
【0052】
結論として、本発明者らは、一実施例として、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを用いることにより、膜タンパク質抗原含有ポリマーソームを用い免疫応答を惹起するための方法を立証した。アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームでは、フリーなアルファ−ヘモリシン、および、アジュバントと共に注入したアルファ−ヘモリシンのいずれと比べても、より効率的に免疫応答を惹起することが可能であった。膜タンパク質抗原含有ポリマーソームは、免疫化および抗体産生のいずれでも用いられ得るものである。
【0053】
<実施例2>
ヘマグルチニン含有ポリマーソームを用いマウスに免疫応答を惹起するための方法を以下の段落に記載する。
【0054】
<ヘマグルチニンポリマーソームの調製>
フィルム再水和法によりポリマーソームを調製した。BD21ポリマをクロロホルムに溶解させ、薄いフィルムとして乾燥させた。続いて、フィルムを再水和させポリマーベシクルの自発的形成を許容するために超純水を添加した。そして、得られたベシクル分散液を0.45μmおよび0.22μmのメンブランで押し出し、残存する溶媒を除去するために超純水に対して透析した。
【0055】
組換ヘマグルチニン(HA)タンパク質(インフルエンザAウイルス H3N2 ウィスコンシン 67/05、マイバイオソース)(Influenza A Virus H3N2 Wisconsin 67/05, MyBioSource)を、10mMのリン酸ナトリウム、pH7.4、150mMの塩化ナトリウムおよび0.005%のツイン20(Tween-20)中の無菌濾過した溶液として供給した。
【0056】
ポリマーベシクル分散液にHA溶液の一定分量を添加することにより、HAポリマーソームを形成させた。そのとき、ポリマーソームへのHAの再構成を許容するために混合物をインキュベートした。続いて、遠心濾過を用いて、HA含有ポリマーソームからフリーなHAを分離した。そして、HA含有ポリマーソームをPBSバッファに再懸濁させた。
【0057】
<HA濃度の定量>
HA含有ポリマーソームに挿入されたHA量の定量は、既知濃度のフリーなHAで得られた標準曲線(
図5)を用いて測定した。フリーなHAについて5μg/mlではじめた希釈系列およびコーティングバッファ(0.1MのCO
3/HCO
3、pH9−9.8)での1:10の希釈ではじめたHAポリマーソーム(
図6)により、384ウェルプレートを4℃で一晩コートした。次の日に、ウェルをPBSで洗浄し、室温(RT)で1時間、ブロッキングバッファ(1×PBS中の1%BSA、50μl/ウェル)でブロックした。続いて、ブロッキングバッファ中の抗HA抗体を供給し、室温(RT)で1時間インキュベートし、PBSで洗浄後、抗ウサギHRP結合抗体(1:2000)で同様に処理した。OPD基質での三重測定を通じて、ペルオキシダーゼ活性を定量した。バックグラウンドのシグナルを明らかにするために、無コートのウェルでも三重測定を行った。HAが挿入されていないポリマーソームについても、得られたシグナルがHA特異的であることを保証するためのコントロールとして含めた。飽和未満のシグナルとなるHAポリマーソームの希釈において、得られた標準曲線を用いた外挿法を行い、ポリマーソームに挿入されたHA量が10.908μg/ml+/−1.43(n=3)であることを推定することができた。
【0058】
<HAポリマーソームでのマウスの免疫化>
可溶性またはポリマーソーム中のHAを、マウス1匹あたり100ngでBALB/cマウス(1グループあたり3匹)に以下のように皮下注入した:第1日に1回目の投与(初期、prime)、第21日に2回目の投与(追加、boost)を行った。ポジティブコントロールとして、1グループのマウスを、500ngのHAおよびアジュバント(初期では完全フロイントアジュバント、追加では不完全フロイントアジュバント、製造者の指示により1:1の容積比で調製した。)で免疫化し、ネガティブコントロールとしてPBSでマウスを免疫化した。血清サンプルを免疫化の前、追加の直前、追加の1週間後にキャピラリを用いてマウスの頬からサンプリングし収集した。
【0059】
<免疫応答の定量>
コーティングバッファ中のフリーなHAの1ウェルあたり15ngにより、384ウェルプレートを4℃で一晩コートした。次の日に、ウェルをPBSで洗浄し、室温(RT)で1時間、ブロッキングバッファ(1×PBS中の1%BSA)でブロックした。各時点での個々のマウスの血清サンプルを、ブロッキングバッファで希釈し(1:100、1:1000または1:10000)、HAコートしたウェルまたは無コートのウェルで、RTで1時間インキュベートした(
図7)。3回洗浄後(1×PBS)、HRP結合抗マウスIgG(1:4000)をRTで1時間インキュベート後、3回洗浄した。そして、OPD基質でペルオキシダーゼ活性を測定した。HAポリマーソームでは、100ngHAの同量の投与量での追加(2回目の採血)後にフリーなHAより高い抗体応答を惹起した。
【0060】
<まとめ>
本実施例では、モデル抗原としてHAを用いることにより、膜タンパク質含有ポリマーソームを用い免疫応答を惹起するための方法を立証した。HAポリマーソームでは、同量の免疫化投与量でのフリーなHAと比べて、より効率的に抗体応答を惹起することが可能であった。膜タンパク質抗原含有ポリマーソームは、防御免疫応答を誘導するためのワクチン接種用として、同様に、一方では誘導することが難しい膜タンパク質に対する抗体生成用として、潜在的に用いられ得るものである。
【0061】
また、生体外での合成を介して周囲を取り巻く膜に挿入される膜タンパク質抗原のために抗体が生成され得ることを立証するために、本発明者らは、CXCR4に対する抗体を惹起するためのCXCR4ポリマーソームを用いた。
【0062】
ここでの実験において生成された抗体の機能性をテストするための、インフルエンザウイルス(同じ株)での赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition)およびマイクロ中和反応(microneutralization)アッセイは、それらがウイルスを中和することが可能であることを証明するために目下行われている。
【0063】
本研究が膜タンパク質抗原に対する抗体を生成するためのツールとして用いられ得ることを実証するために、本研究におけるCXCR4ポリマーソームに対して上昇した抗体が、細胞内で産生されたCXCR4抗原に対する一層特異的な親和性を有するかどうかを確かめることも、目下調査されている。
【0064】
「含む(comprising)」により、制限されるものではないが、用語「含む」に続く事項を含有することを意味している。このため、用語「含む」の使用は、列挙された要素が要求されるものであるか、または、欠かせないものであることを示しているが、他の要素が選択的であり、存在してもよく存在しなくてもよい。
【0065】
「構成する(consisting of)」により、制限されるものではないが、フレーズ「構成する」に続く事項を含有することを意味している。このため、フレーズ「構成する」は、列挙された要素が要求されるものであるか、または、欠かせないものであることを示しており、他の要素が存在しなくてもよい。
【0066】
ここに実例的に記載された発明は、ここに特に開示されていない要素や複数の要素、制限や複数の制限がなくても、適正に実行され得る。このため、例えば、用語「含む(comprising)」、「含有する(including)」、「包含する(containing)」等は、拡張的に、制限なく読み取られるべきである。さらに、ここに用いられる用語や表現は、記述の用語として制限なく用いられるものであり、開示、記載された特徴の同等物やその一部を除くそのような用語や表現の使用を意図しているものではなく、クレームされた本発明の範囲内で種々の変更が可能であることが認識されるものである。このため、本発明が好適な実施形態および選択的事項により特別に開示されているとしても、ここに開示され具体的に示された本発明の変更や変動が当業者により行われてもよく、そのような変更や変動が本発明の範囲内であると考えられるべきである。
【0067】
温度や時間についての所与の数値に関する「約(about)」により、特定された数値の10%の範囲内の数値を含有することを意味している。
【0068】
本発明は、ここに概括的に包括的に記載されている。包括的開示の範囲内となるようなより狭いスピーシーズ(species)やサブジェネリック(sub-generic)グループのそれぞれについても本発明の一部を形成する。このことは、削除される材料が特別にここに列挙されているか否かにかかわらず、いずれかの主題を本発明から除去する条件や否定的な制限を伴う発明の包括的な記載を含んでいる。
【0069】
他の実施形態は、以下のクレームおよび非制限的な実施例の範囲内である。さらに、本発明の特徴や態様がマーカッシュグループで記載されている場合に、当業者は、それにより、マーカッシュグループの個々のメンバやメンバのサブグループに関して本発明が記載されていることも認識する。