特許第6453757号(P6453757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6453757
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/385 20060101AFI20190107BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20190107BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20190107BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20190107BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20190107BHJP
【FI】
   A61K39/385
   A61K39/00 H
   A61K39/39
   A61K9/50
   A61K47/34
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-543011(P2015-543011)
(86)(22)【出願日】2013年11月11日
(65)【公表番号】特表2016-500071(P2016-500071A)
(43)【公表日】2016年1月7日
(86)【国際出願番号】SG2013000478
(87)【国際公開番号】WO2014077781
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2016年11月10日
(31)【優先権主張番号】201208483-6
(32)【優先日】2012年11月19日
(33)【優先権主張国】SG
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100104721
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 俊明
(72)【発明者】
【氏名】ナラーニ、マドハバン
(72)【発明者】
【氏名】ディケイヨット、ファビエン
(72)【発明者】
【氏名】フー、ジカン
(72)【発明者】
【氏名】スー、シンファン
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−500192(JP,A)
【文献】 Polymer Chemistry,2011年,Vol.2,p.1482-1485
【文献】 Biointerphases,2011年,Vol.6, No.4,p.153-157
【文献】 Bioconjugate Chem.,2007年,Vol.18,p.31-40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/39
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫原に対する免疫応答を対象において惹起するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は周囲を取り巻く両親媒性ポリマの膜を有するポリマーソームキャリアおよび前記ポリマーソームキャリアの前記周囲を取り巻く両親媒性ポリマの膜に封入された免疫原を含んでおり、前記免疫原が膜関連タンパク質または脂質抗原であり、前記両親媒性ポリマがポリ(ブタジエン)−ポリ(エチレンオキサイド)(PB−PEO)ジブロック共重合体であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記対象は、前記組成物を注入されるものであることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記注入することは、皮内、腹腔内、皮下、静脈内もしくは筋肉内、または、非侵襲性の投与を含むことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記膜関連タンパク質は、膜横断タンパク質、Gタンパク質結合レセプタ、神経伝達物質レセプタ、キナーゼ、ポリン、ABC輸送体、イオン輸送体、アセチルコリンレセプタまたは細胞接着レセプタであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記免疫原は、合成脂質であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記免疫原は、天然脂質であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記PB−PEOジブロック共重合体は、5−50ブロックのPBおよび5−50ブロックのPEOを含むことを特徴とする請求項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ポリマーソームキャリアは、1またはそれ以上の隔室を包含することを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記1またはそれ以上の隔室のそれぞれ1つは、ペプチド、タンパク質および核酸の少なくとも1つをカプセル化していることを特徴とする請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ペプチド、タンパク質および核酸の少なくとも1つは、免疫原性であることを特徴とする請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記1またはそれ以上の隔室のそれぞれ1つは、同じまたは異なる両親媒性ポリマで構成されることを特徴とする請求項ないし請求項10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
2またはそれ以上の異なる免疫原は、前記周囲を取り巻く両親媒性ポリマの膜に統合されていることを特徴とする請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ポリマーソームキャリアは、1隔室以上を包含し、前記隔室は、1つの外側ブロック共重合体ベシクルおよび少なくとも1つの内側ブロック共重合体ベシクルを含み、前記少なくとも1つの内側ブロック共重合体ベシクルは、前記外側ブロック共重合体ベシクルの内側にカプセル化されていることを特徴とする請求項ないし請求項12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記外側ブロック共重合体ベシクルは、ポリ[スチレン−b−ポリ(L−イソシアノアラニン(2−チオフェン−3−イル−エチル)アミド)](PS−PIAT)、ポリ(ブタジエン)−ポリ(エチレンオキサイド)(PBD−PEO)、ポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(カプロラクトン)(PEO−PCL)、ポリ(エチルエチレン)−ポリ(エチレンオキサイド)(PEE−PEO)、ポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(乳酸)(PEO−PLA)、ポリ(イソプレン)−ポリ(エチレンオキサイド)(PI−PEO)、ポリ(2−ビニルピリジン)−ポリ(エチレンオキサイド)(P2VP−PEO)、ポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PEO−PNIPAm)、ポリ(スチレン)−ポリ(アクリル酸)(PS−PAA)、ポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレンサルファイド)(PEG−PPS)、ポリ(2−メチルオキサゾリン)−ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(2−メチルオキサゾリン)(PMOXA−PDMS−PMOXA)、ポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(2−メチルオキサゾリン)(PEO−PDMS−PMOXA)およびポリ(メチルフェニルシラン)−ポリ(エチレンオキサイド)(PMPS−PEO−PMPS−PEO−PMPS)で構成するグループから選択された共重合体で形成されたポリマーソームであることを特徴とする請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記少なくとも1つの内側ブロック共重合体ベシクルは、ポリ[スチレン−b−ポリ(L−イソシアノアラニン(2−チオフェン−3−イル−エチル)アミド)](PS−PIAT)、ポリ(ブタジエン)−ポリ(エチレンオキサイド)(PBD−PEO)、ポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(カプロラクトン)(PEO−PCL)、ポリ(エチルエチレン)−ポリ(エチレンオキサイド)(PEE−PEO)、ポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(乳酸)(PEO−PLA)、ポリ(イソプレン)−ポリ(エチレンオキサイド)(PI−PEO)、ポリ(2−ビニルピリジン)−ポリ(エチレンオキサイド)(P2VP−PEO)、ポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PEO−PNIPAm)、ポリ(スチレン)−ポリ(アクリル酸)(PS−PAA)、ポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレンサルファイド)(PEG−PPS)、ポリ(2−メチルオキサゾリン)−ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(2−メチルオキサゾリン)(PMOXA−PDMS−PMOXA)、ポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(ジメチルシロキサン)−ポリ(2−メチルオキサゾリン)(PEO−PDMS−PMOXA)およびポリ(メチルフェニルシラン)−ポリ(エチレンオキサイド)(PMPS−PEO−PMPS−PEO−PMPS)で構成するグループから選択された共重合体で形成されたポリマーソームであることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2012年11月19日に提出されたシンガポール特許出願番号201208483−6の優先権の利益を主張し、これにより、その内容がすべての目的のためにそっくりそのまま参照により組み込まれる。
【0002】
本発明は、免疫原に対する免疫応答を惹起するための医薬組成物に関し、特に、当該免疫原用のキャリア(担体)としてポリマーソームを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
免疫化は十分に確立されたプロセスであるものの、種々の免疫原や抗原(ここでは互換的に用いられる。)間で惹起された応答レベルに差異がある。興味あることに、膜タンパク質は低応答レベルを産生する部類の抗原を形成しており、そのことは免疫応答を所望のレベルに生成または惹起するために多くの膜タンパク質を要することを意味する。膜タンパク質は評判のとおり合成することが難しく、界面活性剤(detergent)の存在無くして水に不溶性である。このことは、免疫化の目的のために十分な量の膜タンパク質を得ることを高価で難しくする。
【0004】
また、膜タンパク質は、正確に機能するために適正な折りたたみを要する。正確に折りたたまれた膜タンパク質の免疫原性は、生理学的に妥当な様式で折りたたまれていない、可溶化された膜タンパク質と比べて一層優れている。このため、そのような可溶化された膜タンパク質の免疫原性を増大させるためにアジュバントが用いられるものの、それは、非効率的な方法であり、それほど多くの有利性を提供するものではない。
【0005】
さらに、膜タンパク質に対する抗体を上昇させるための一般的な手法は、しばしば、免疫化に用いることのできる適当なエピトープ(epitopes、抗原決定基)を設計するために、膜内での本来の構造についての事前情報を要する。この免疫化は、通常、分離されたペプチドを用いて独立して行われるが、当該ペプチドがその本来の膜の存在場所における完全なタンパク質で生じるコンホメーションと極めて異なるコンホメーションを有する。それゆえ、分離されたペプチドにより上昇した抗体は、結局のところ、生体内(in vivo、インビボ)でターゲットのタンパク質を認識しないかも知れない、という高いリスクがある。
【0006】
感染した細胞や脂質ベースのシステムは、生体内で効率的な抗体を分離する機会を増加させるための膜タンパク質抗原を発現させるために用いられているものの、これらのシステムは、しばしば、不安定であり、冗長であり、高価である。さらに、そのような膜タンパク質抗原についての技術の現状は、免疫化のために不活性なウイルス様粒子を用いることである。
【発明の概要】
【0007】
従って、上述した問題を解決する、または、少なくとも軽減するための医薬組成物を提供する必要が残されている。
【0008】
ここに記載された本発明は、プロテオポリマーソームを用い既知のアジュバントの添加無くして免疫応答を引き起こすために膜タンパク質を発現させるための医薬組成物を提供する。本発明者らは、驚くべきことに、膜タンパク質抗原に適正に折りたたまれることを許容するためにポリマーソームの周囲を取り巻く膜を供給することにより、フリーな膜タンパク質抗原より強い免疫応答が引き起こされることを見いだした。その結果、哺乳動物等の対象における抗体産生の効率の上昇が達成される。効率の上昇は、アジュバントの使用があってもなくても引き起こされ得る。完全長で適正に折りたたまれた膜タンパク質抗原が発現されるため、ここに記載された本発明を用いることにより産生された抗体は、生体内での膜タンパク質ターゲットに対してより高い親和性も有しており、その抗体がウイルス抗原で上昇するのであれば、そのウイルスを中和することも可能となり得る。
【0009】
従って、本発明の一態様によれば、免疫原に対する免疫応答を対象において惹起するための医薬組成物が開示される。その組成物は、周囲を取り巻く両親媒性ポリマの膜を有するポリマーソームキャリア(polymersome carrier)を含んでいる。組成物は、ポリマーソームキャリアの周囲を取り巻く両親媒性ポリマの膜に統合された免疫原をさらに含んでいる。免疫原を膜関連タンパク質または脂質抗原としてもよい。
【0010】
また、本発明では、免疫原の皮内、腹腔内、皮下、静脈内もしくは筋肉内の注入、または、非侵襲性の投与のための医薬組成物が提供される。医薬組成物を、抗体検出(antibody discovery)またはワクチン検出に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図面において、同様の参照記号は、通常、異なる図面を通じて同じ部分を参照する。図面は必ずしもスケール通りに描かれたものではなく、それに代えて一般に種々の実施形態の原理を描写することが強調されている。以下の記述では、本発明の種々の実施形態が以下の図面を参照して記載される。
【0012】
図1】アルファ−ヘモリシン(溶血素)濃度の標準曲線を示す。
図2A】アルファ−ヘモリシンコートしたプレートを用いた抗体力価O.D.測定の光学密度測定を示す。3匹のマウスにアルファ−ヘモリシン含有ポリマーソーム(黒四角が付された「Ves−Hemo」)を注入し、他の3匹のマウスに空のポリマーソーム(白三角が付された「Ves.alone」)を投与した。血清を希釈し(1:1000)、抗マウスHRP結合抗体を二次抗体として用いた。抗アルファ−ヘモリシン力価の増大が免疫化の反復で長い間観察された。
図2B】無コートのプレートを用い図2Aと同様の実験手法で行った結果を示す。抗体結合が検出されなかった。
図3】免疫応答の光学密度測定を示す。アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソーム(黒四角が付された「Ves+Hemo」)では、フリーなアルファ−ヘモリシン(白四角が付された「Hemo」)と比べて、3回目の採血(bleed)まではより高い応答を示したが、その後はいずれも免疫応答の飽和に達した。興味深いことに、アジュバントを伴うアルファ−ヘモリシン(白丸が付された「Hemo+adj」)は、フリーなアルファ−ヘモリシンより低い免疫応答を示した。空のポリマーソーム(白三角が付された「Ves」)は、非免疫原性のままであった。
図4】免疫応答の光学密度測定を示す。アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソーム(黒四角が付された「Ves−Hemo」)は、皮内注入が行われたときに、2回目および3回目の採血のいずれにおいても、フリーなアルファ−ヘモリシン(白四角が付された「FreeHemo」)より高い免疫応答を惹起した。
図5】ヘマグルチニン(HA)(赤血球凝集素)濃度の標準曲線を示す。
図6】HA挿入ポリマーソームおよび空のポリマーソーム(コントロール)についてのELISAを示す。
図7】抗体力価の光学密度測定を示す。HAポリマーソーム(三角)では、100ngHAの同じ投与量での追加(boost)(2回目の採血)後に、フリーなHA(丸)と比べて高い免疫応答を惹起した(PBSグループについて有意水準***p<0.001)。未コートのウェルでは抗体結合が検出されなかった(データ不掲載)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明は、本発明が実施される具体的な詳細および実施形態を実例を通して示す添付した図面を参照する。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施することを可能とするために十分詳細に記載されている。本発明の範囲を逸脱することなく、他の実施形態が用いられてもよく、構造的、論理的、電気的変更がなされてもよい。種々の実施形態は、必ずしも相互に排他的ではなく、新たな実施形態をつくり出すために、ある実施形態が1またはそれ以上の他の実施形態と組み合わされ得る。
【0014】
本文脈において、ポリマーソームは、ポリマ性の膜を有するベシクル(vesicles)であり、一般的には、常に必然的ではないものの、ジブロックやトリブロック(A−B−AやA−B−C)等の種々のタイプも可能な両親媒性ブロック共重合体の希釈溶液の自己集合(self-assembly)から形成される。また、ポリマーソームは、テトラブロックやペンタブロック共重合体で形成されてもよい。トリブロック共重合体に関し、中央ブロックは、しばしば、その隣接ブロックにより環境から保護されているものの、ジブロック共重合体は、2つの疎水性ブロックがテールツーテール(tail-to-tail)に位置する二分子膜に自己集合しており、ほとんど同じ効果をもたらす。多くの場合、ベシクル膜は、不溶性の中間層および可溶性の外層を有している。自己集合によるポリマーソーム形成の推進力は、不溶性ブロックがそれ自身を水との接触から保護するために会合しようとするミクロ相分離であると考えられている。ポリマーソームは、構成する共重合体の大きな分子量のために注目すべき性質を有している。ベシクル形成は、ブロック共重合体の全分子量の増加で有利となる。結果として、これらのベシクルにおける(ポリマ性の)親媒質の拡散性は、脂質や表面活性剤(surfactants)により形成されたベシクルと比べて非常に低くなる。ベシクル構造に凝集したポリマ鎖のこのような低移動性のために、安定なポリマーソーム形態を得ることが可能となる。他に明確に示されていない限り、これ以降に用いられる用語「ポリマーソーム」および「ベシクル」は、類似するものとして取り扱われ、互換的に用いられる。
【0015】
本文脈において、抗原は、免疫系の成分に特異的に結合され得る物質であり、免疫応答を惹起する(eliciting)(または、引き起こす(evoking)、誘導する(inducing))ことのできる抗原のみが免疫原性であると言われ、免疫原と呼称される。膜タンパク質は、低応答レベルを産生する部類の抗原を形成する。特に興味深いことに、膜関連タンパク質(つまり、ここで述べる抗原)は、その膜関連タンパク質が生理学的に適切な様式で折りたたまれることを許容するポリマーソームの壁に統合もしくは内包(integrated)(または、封入(incorporated)、包含(carried))されている(つまり、ポリマーソームキャリアや抗原含有ポリマーソームと呼称される用語は、いずれも、以下、互換的に用いられる。)。このことは、膜タンパク質の免疫原性を大きく増大させ、フリーな膜タンパク質と比べたときに、より少量の膜タンパク質が同じレベルの免疫応答を産生するために用いられ得る。また、(フリーな膜タンパク質と比べて)より大きなサイズのポリマーソームは、免疫系により一層容易に検出されることをそれらに許容する。
【0016】
完全タンパク質を(そのフラグメントに代えて)用い、その適正な折りたたみを許容する合成的な環境で免疫化が行われるため、生体内で膜タンパク質を検出することが可能な抗体を分離する確率は、一層高くなる。また、免疫化および抗体生成は、膜タンパク質構造の事前情報がなくても行われ得るものであり、ペプチドベースの免疫化アプローチを用いるときにはそれと違ってその情報が必要である。
【0017】
また、他の技術と比べたときに、本アプローチは、安定な膜環境に挿入された膜タンパク質の速やかでコスト効果的な産生を許容する。
【0018】
従って、本発明の一態様によれば、免疫原に対する免疫応答を対象において惹起するための方法が開示される。その方法は、周囲を取り巻く両親媒性ポリマの膜を有するポリマーソームキャリアを含む組成物を対象に注入することを含んでいる。組成物は、ポリマーソームキャリアの周囲を取り巻く両親媒性ポリマの膜に統合された免疫原をさらに含んでいる。免疫原は、膜関連タンパク質である。これに代えて、免疫原を脂質抗原としてもよい。そのような実施形態では、免疫原を合成脂質または天然脂質とすることができる。
【0019】
注入の頻度は、当業者により決定され調整されればよく、所望の応答レベルに依存する。例えば、ポリマーソームキャリアの毎週または隔週(bi-weekly)の注入が哺乳動物を含む対象に与えられてもよい。免疫応答は、ポリマーソームキャリアに包含された免疫原の初期量に対し、その哺乳動物における抗体の血中濃度レベルを定量することにより測定され得る。ポリマーソームの構造は、ベシクル形式に自己集合し当該ベシクルの壁に拡がる膜タンパク質を統合した両親媒性ブロック共重合体を含んでいてもよく、それにより、膜タンパク質は、発現されるべき抗原であり、再構成、生体外(in vitro、インビトロ)合成または自発的(spontaneous)挿入の方法により封入される。膜タンパク質は、界面活性剤、表面活性剤、温度変化やpH変化の助力により再構成され得る。両親媒性ブロック共重合体により提供されるベシクル構造は、膜タンパク質抗原に、ターゲットである哺乳動物の免疫系に当該抗原を検出することを許容しそれにより強力な免疫応答を産生する、生理学的に正しく機能的な様式で折りたたまれることを許容する。
【0020】
種々の実施形態では、組成物の注入が腹腔内、皮下、もしくは静脈内、筋肉内の注入または非侵襲性の投与を含んでもよい。
【0021】
別の実施形態では、組成物の注入が皮内注入を含んでもよい。驚くべきことに、本発明者らにより、皮内に注入したマウスを含む実験において、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームがフリーなアルファ−ヘモリシンと比べて、免疫応答を惹起することに一層効率的であることが見いだされており、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームは、フリーなアルファ−ヘモリシンと比べて、2回目および3回目の採血においてより高い免疫応答を惹起した(以下の実施例欄を参照)。
【0022】
免疫応答レベルは、免疫原を包含するポリマーソームキャリアを含む組成物にアジュバントを含むことによりさらに高められ増大される。そのような実施形態では、免疫原を包含するポリマーソームキャリアおよびアジュバントが同時に対象に投与される。
【0023】
別の実施形態では、免疫原を包含するポリマーソームキャリアを含む組成物の投与とは別にアジュバントが投与されてもよい。アジュバントは、免疫原を包含するポリマーソームキャリアを含む組成物の投与の前、同時、後でもよい。例えば、アジュバントは、免疫原を包含するポリマーソームキャリアを含む組成物の注入後に対象に注入されてもよい。
【0024】
当業者は、注入されるアジュバントのタイプが注入される免疫原のタイプに依存することを容易に認知し、認識するであろう。免疫原は、細菌、ウイルスまたは真菌起源の抗原であってもよい。例えば、抗原がアルファ−ヘモリシンである場合に、アジュバントが完全フロイントアジュバントであってもよい。他の抗原−アジュバントのペアでも、本発明の方法における使用に適している。ある実施形態では、アジュバントの使用を必要としない。さらに、ある実施形態では、本発明の方法がより優れた、つまり、アジュバントの使用無くしてより強い免疫応答を引き起こす作用を示す。
【0025】
他の実施形態では、膜関連タンパク質を、膜横断(膜貫通)タンパク質、Gタンパク質結合レセプタ、神経伝達物質レセプタ、キナーゼ、ポリン、ABC輸送体、イオン輸送体、アセチルコリンレセプタまたは細胞接着レセプタとしてもよい。また、膜タンパク質は、タグが結合されていてもよく、タグフリーであってもよい。膜タンパク質がタグを有していれば、タグをVSV、Hisタグ(His tag)、ストレプタグ(Strep tag)、フラグタグ(Flag tag)、インテインタグ(Intein tag)やGSTタグ(GST tag)等のエピトープ、または、ビオチンやアビジン等の高親和性結合ペアのパートナから選択してもよく、蛍光ラベル、酵素ラベル、NMRラベルやアイソトープラベル等のラベルから選択してもよい。
【0026】
膜タンパク質は、封入前に発現されてもよく、無細胞(cell-free)発現系を通じたタンパク質の産生と同時に封入されてもよい。無細胞発現系を生体外での転写および翻訳システムとしてもよい。
【0027】
また、無細胞発現系は、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽抽出物や昆虫抽出物をベースとしたTNT(登録商標)システム等の真核性無細胞発現系、原核性無細胞発現系や初期の(archaic)無細胞発現系とすることができる。
【0028】
上述したように、ポリマーソームは、両親媒性のジブロックまたはトリブロック共重合体で形成されてもよい。種々の実施形態では、両親媒性ポリマがカルボン酸、アミド、アミン、アルキレン、ジアルキルシロキサン、エーテルまたはアルキレンサルファイドの少なくとも1つのモノマユニットを含んでいてもよい。
【0029】
ある実施形態では、両親媒性ポリマが、オリゴ(オキシエチレン)ブロック、ポリ(オキシエチレン)ブロック、オリゴ(オキシプロピレン)ブロック、ポリ(オキシプロピレン)ブロック、オリゴ(オキシブチレン)ブロックおよびポリ(オキシブチレン)ブロックで構成するグループから選択されたポリエーテルブロックであってもよい。ポリマに含まれてもよいブロックの別の例としては、制限されるものではないが、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリスチレン、ポリ(ブタジエン)、ポリ(2−メチルオキサゾリン)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(プロピレンサルファイド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(2−(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート)、ポリ(2−(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレート)、ポリ(2−(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン)およびポリ(乳酸)を含む。適当な両親媒性ポリマの例としては、制限されるものではないが、ポリ(エチルエチレン)−b−ポリ(エチレンオキサイド)(PEE−b−PEO)、ポリ(ブタジエン)−b−ポリ(エチレンオキサイド)(PBD−b−PEO)、ポリ(スチレン)−b−ポリ(アクリル酸)(PS−PAA)、ポリ(2−メチルオキサゾリン)−b−ポリ(ジメチルシロキサン)−b−ポリ(2−メチルオキサゾリン)(PMOXA−b−PDMS−b−PMOXA)、ポリ(2−メチルオキサゾリン)−b−ポリ(ジメチルシロキサン)−b−ポリ(エチレンオキサイド)(PMOXA−b−PDMS−b−PEO)、ポリ(エチレンオキサイド)−b−ポリ(プロピレンサルファイド)−b−ポリ(エチレンオキサイド)(PEO−b−PPS−b−PEO)およびポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(ブチレンオキサイド)ブロック共重合体を含む。ブロック共重合体は、共重合体に含まれるそれぞれのブロックの平均ブロック長によりさらに特定され得る。このため、PBPEOは、長さMのポリブタジエンブロック(PB)と、長さNのポリエチレンオキサイド(PEO)ブロックとの存在を示している。MおよびNは、独立して選択される整数であり、例えば、約6から約60までの範囲で選択されてもよい。従って、PB35PEO18は、平均長さ35のポリブタジエンブロックと、平均長さ18のポリエチレンオキサイドブロックとの存在を示している。ある実施形態では、PB−PEOジブロック共重合体が5−50ブロックのPBと5−50ブロックのPEOとを含んでいる。同様に、PB10PEO24は、平均長さ10のポリブタジエンブロックと、平均長さ24のポリエチレンオキサイドブロックとの存在を示している。別の例としてEは、長さOのエチレンブロック(E)と、長さPのブチレンブロック(B)との存在を示している。OおよびPは、例えば約10から約120までの範囲で、独立して選択される整数である。従って、E1622は、平均長さ16のエチレンブロックと、平均長さ22のブチレンブロックとの存在を示している。
【0030】
ある実施形態では、ポリマーソームキャリアが1またはそれ以上の隔室(compartments)(他には「マルチ隔室」と称される。)を含んでいてもよい。ポリマーソームのベシクル構造の隔室化は、生細胞における複合反応経路の共存を許容し、細胞内部で多くの活性の空間的で一時的な分離を提供することを補助する。従って、1タイプ以上の免疫原をポリマーソームキャリアに封入することができる。異なる免疫原は、同じまたは異なるアイソフォーム(isoform)を有していてもよい。各隔室は、同じまたは異なる両親媒性ポリマで形成されてもよい。種々の実施形態では、2またはそれ以上の異なる免疫原が周囲を取り巻く両親媒性ポリマの膜に統合される。各隔室は、ペプチド、タンパク質および核酸の少なくとも1つをカプセル化することができる。ペプチド、タンパク質または核酸は、免疫原性を有していてもよい。
【0031】
ポリマーソームキャリアが1隔室以上を包含する場合は、隔室が1つの外側ブロック共重合体ベシクルおよび少なくとも1つの内側ブロック共重合体ベシクルを含んでいてもよく、少なくとも1つの内側ブロック共重合体ベシクルがその外側ブロック共重合体ベシクルの内部にカプセル化されている。ある実施形態では、外側ベシクルおよび内側ベシクルのブロック共重合体のそれぞれが、ポリ(オキシエチレン)ブロック、ポリ(オキシプロピレン)ブロックやポリ(オキシブチレン)ブロック等のポリエーテルブロックを含む。共重合体に含まれてもよいブロックの別の例としては、制限されるものではないが、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリスチレン、ポリ(ブタジエン)、ポリ(2−メチルオキサゾリン)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(L−イソシアノアラニン(2−チオフェン−3−イル−エチル)アミド)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(プロピレンサルファイド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(2−(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート)、ポリ(2−(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレート)、ポリ(2−(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン)およびポリ(乳酸)を含む。適当な外側ベシクルおよび内側ベシクルの例としては、制限されるものではないが、ポリ(エチルエチレン)−b−ポリ(エチレンオキサイド)(PEE−b−PEO)、ポリ(ブタジエン)−b−ポリ(エチレンオキサイド)(PBD−b−PEO)、ポリ(スチレン)−b−ポリ(アクリル酸)(PS−b−PAA)、ポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(カプロラクトン)(PEO−b−PCL)、ポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(乳酸)(PEO−b−PLA)、ポリ(イソプレン)−ポリ(エチレンオキサイド)(PI−b−PEO)、ポリ(2−ビニルピリジン)−ポリ(エチレンオキサイド)(P2VP−b−PEO)、ポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PEO−b−PNIPAm)、ポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレンサルファイド)(PEG−b−PPS)、ポリ(メチルフェニルシラン)−ポリ(エチレンオキサイド)(PMPS−b−PEO−b−PMPS−b−PEO−b−PMPS)、ポリ(2−メチルオキサゾリン)−b−ポリ(ジメチルシロキサン)−b−ポリ(2−メチルオキサゾリン)(PMOXA−b−PDMS−b−PMOXA)、ポリ(2−メチルオキサゾリン)−b−ポリ(ジメチルシロキサン)−b−ポリ(エチレンオキサイド)(PMOXA−b−PDMS−b−PEO)、ポリ[スチレン−b−ポリ(L−イソシアノアラニン(2−チオフェン−3−イル−エチル)アミド)](PS−b−PIAT)、ポリ(エチレンオキサイド)−b−ポリ(プロピレンサルファイド)−b−ポリ(エチレンオキサイド)(PEO−b−PPS−b−PEO)およびポリ(エチレンオキサイド)−ポリ(ブチレンオキサイド)(PEO−b−PBO)ブロック共重合体を含む。ブロック共重合体は、共重合体に含まれるそれぞれのブロックの平均数によりさらに特定され得る。このため、PS−PIATは、繰り返しユニットMのポリスチレンブロック(PS)と、繰り返しユニットNのポリ(L−イソシアノアラニン(2−チオフェン−3−イル−エチル)アミド)(PIAT)ブロックとの存在を示している。MおよびNは、独立して選択される整数であり、例えば、約5から約95までの範囲で選択されてもよい。従って、PS40−PIAT50は、繰り返しユニットが平均40のPSブロックと、繰り返しユニットが平均50のPIATブロックとの存在を示している。
【0032】
「カプセル化された」ことにより、内側ベシクルは、外側ベシクルの内部に完全に包含されており、外側ベシクルのベシクル膜により周囲を囲まれている。外側ベシクルのベシクル膜により周囲を囲まれた制限された空間は、1つの隔室を形成する。内側ベシクルのベシクル膜により周囲を囲まれた制限された空間は、他の隔室を形成する。
【0033】
適当なマルチ隔室化されたポリマーソームのさらなる詳細は、国際出願の公開公報WO2012/018306に見いだすことができ、これにより、その内容がすべての目的のためにそっくりそのまま参照により組み込まれる。
【0034】
また、ポリマーソームは、国際出願の公開公報WO2010/123462に記載されているように、フリーな状態または表面に固定された状態であってもよく、これにより、その内容がすべての目的のためにそっくりそのまま参照により組み込まれる。
【0035】
さらなる実施形態では、膜タンパク質抗原と複合化した二次タンパク質がポリマーソームキャリアの内腔(lumen)にカプセル化ないし封入されていてもよい。都合のよいことに、二次タンパク質は、膜タンパク質抗原を特異的なコンホメーションに安定化させる。
【0036】
本発明の他の態様では、免疫原の皮内、腹腔内、皮下、静脈内もしくは筋肉内の注入、または、非侵襲性の投与のための組成物が提供される。組成物は、周囲を取り巻く両親媒性ポリマの膜を有するポリマーソームキャリアを含んでいる。組成物は、ポリマーソームキャリアの周囲を取り巻く両親媒性ポリマの膜に統合された免疫原をさらに含んでいる。免疫原を膜関連タンパク質または脂質抗原としてもよい。組成物を、抗体検出、ワクチン検出またはターゲットデリバリに用いることができる。
【0037】
まとめると、本発明は、免疫応答を生成するためのポリマーソーム内に封入された膜タンパク質の使用をはじめて実証したものである。ポリマーソームと膜タンパク質抗原との組み合わせは、以前から免疫応答を惹起するために用いられているものの、ポリマーソームが既知のアジュバント分子と共に用いられており、膜タンパク質が生理学的に適切な様式で存在していない。一方、本発明のポリマーソームキャリアは、アジュバントとして用いられるものではなく;むしろ、ポリマーソームキャリアが膜タンパク質抗原を収容するための媒体(vehicles)として用いられており、それにより膜タンパク質抗原のその中での適切な折りたたみを許容し、結果として従来の界面活性剤で可溶化された膜タンパク質抗原と比べて、より優れた免疫応答が引き起こされることを可能とする。
【0038】
現存する技術と比べて、本発明は、以下の有利性を示す:
・アジュバントを用いることにより免疫応答をさらに増大させることができる。
・ポリマは、本質的に強靱であり、生体におけるその循環時間を増加させるために適合させ、機能化することができる。
・ポリマは合成することが安価で迅速である。
・免疫応答を惹起するために要する膜タンパク質の量が減少する。
・完全長の膜タンパク質抗原が用いられ、生成した抗体が生体内で膜タンパク質を検出することが可能となることをより現実的にさせる。
・扱いにくい膜タンパク質抗原に対する抗体を上昇させるために有利性を有する、生体外での翻訳や転写を介して膜タンパク質がポリマーソームキャリアに封入され得る。
【0039】
これらの有利性とともに、ここに開示された本発明は、現状の技術と比べて、急速に、安価に、より正確に、簡便に、膜タンパク質抗原から免疫応答を引き起こすための方法を提供する。本発明の可能な応用としては、ワクチン接種での抗体の産生や治療上の抗体を生成することを含む。
【実施例】
【0040】
本発明を容易に理解し、実際の効果につなげるために、格別な実施形態を以下の非制限的な実施例を通じて記載する。
【0041】
(実施例1)
アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを用いることでマウスにアルファ−ヘモリシンに対する免疫応答を惹起するための方法を以下の段落に記載する。
【0042】
<材料および方法>
ポリ(ブタジエン−b−エチレンオキサイド)(PBd21−PEO14)BD21両親媒性ブロック共重合体は、ポリマソース(Polymer Source)社(カナダ)から入手した。黄色ブドウ球菌(staphylococcus aureus)由来のアルファ−ヘモリシン、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(Tris)、塩化マグネシウムおよび塩化ナトリウムは、すべて、シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich)社(シンガポール)から購入した。テトラヒドロフラン(THF)は、テディア(Tedia)社(米国、オハイオ州)から入手した。
【0043】
<ポリマーソームの調製>
ポリマーソームをフィルム再水和法により調製した。BD21ポリマをTHFに溶解させ、窒素ガス流下で、底部円錐状(conical bottom)ガラスチューブの壁に薄いフィルムとして乾燥させた。ポリマフィルムを減圧下でさらに乾燥させた。続いて、フィルムを再水和させポリマーベシクルの自発的形成を許容するために、超純水をチューブに添加し攪拌し、結果として均一な懸濁液を得た。得られたベシクル分散液を、0.45μmのPVDFフィルタ(ミリポア(Millipore)社)で押し出し、残留する溶媒を除去するために超純水に対する透析を行った。アルファ−ヘモリシンをMOPS−NaClバッファ(buffer、緩衝液)(0.01MのMOPS、0.1Mの塩化ナトリウム、pH7)に溶解させた。
【0044】
ポリマーベシクル分散液にアルファ−ヘモリシン溶液の一定分量を添加することにより、ポリマーソームを形成させた。そのとき、アルファ−ヘモリシンのポリマーソームへの再構成を許容するために混合液をインキュベートした。続いて、遠心濾過を用いて、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームからフリーなアルファ−ヘモリシンを分離した。そして、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを50μlのTMNバッファ(100mMのTris、50mMの塩化マグネシウムおよび100mMの塩化ナトリウム、pH7.5に調整)に再懸濁させた。
【0045】
<アルファ−ヘモリシン濃度の定量>
アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームに挿入されたアルファ−ヘモリシン量の定量は、既知濃度のフリーなヘモリシンで得られた標準曲線を用いて測定した(図1)。コーティングバッファ(0.1MのCO/HCO、pH9−9.8)中のポリクローナル抗アルファ−ヘモリシン抗体の100ng/wellにより、96ウェルプレートを4℃で一晩コートした。次の日に、ブロッキングバッファ(1×PBS中に1%BSA)により、ウェルを室温(RT)で1時間ブロックした。ブロッキングバッファ中の500ng/100μlからはじめた、異なる濃度のフリーなアルファ−ヘモリシンをRTで1時間インキュベートした。さらに、同じバッファ(1:10希釈)中でアルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームサンプルを調製し、同様にインキュベートした。続いて、ブロッキングバッファ中の抗アルファ−ヘモリシンマウス血清(1:1000)、さらに抗マウスHRP結合抗体(1:4000)を適用した。TMB基質での三重測定(triplicate measurements)を通して、ペルオキシダーゼ活性を定量した。非特異的結合(NSB)を明らかにするために、アルファ−ヘモリシン無コートのウェルでも三重測定を行った。得られた標準曲線を用いた外挿法により、プロテオポリマーソームに挿入されたアルファ−ヘモリシン量が1.32μg/ml+/−0.6(n=4)であることを推定することができた。
【0046】
<ポリマーソームの注入>
マウス1匹あたり100−150ngのアルファ−ヘモリシン含有プロテオポリマーソームを、C57Bマウス/6匹(1グループあたり3匹)に腹腔内または皮内に以下のように注入した:第1日に1回目のブースト(boost)、第14日に2回目のブースト、続いて、7日ごとのブーストをさらに4週間行った。血液サンプルを各免疫化の前にキャピラリを用いてマウスの頬(cheek)からサンプリングし収集した。
【0047】
<免疫応答の定量>
コーティングバッファ中のフリーなアルファ−ヘモリシンの1ウェルあたり100ngにより、96ウェルプレートを一晩コートした。次の日にブロッキングバッファを用いてウェルをブロックした。各血液サンプルをブロッキングバッファで希釈し(1:100または1:1000)、アルファ−ヘモリシンでコートしたウェルおよび無コートのウェルでRTにて1時間インキュベートした。3回洗浄(PBS、1×)後、抗マウスHRP結合抗体(1:4000)をRTで1時間インキュベートした後、3回洗浄しTMB基質反応を行った。
【0048】
<結果および考察>
膜タンパク質抗原含有ポリマーソームを用い免疫応答を惹起するための本発明の方法を立証するために、アルファ−ヘモリシン(抗原)をBD22ポリマーソームに封入し、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを形成させた。
【0049】
アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームの免疫原性を立証するために、それらを3匹のマウスの腹腔内に注入し、タンパク質を有していないポリマーソームを他の3匹のマウスに与えた。血清をアルファ−ヘモリシンコートしたプレートに対して滴定した(図2A)。空のポリマーソームでは実験を通じて効果のないままであったものの、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームの3回目の注入後に強固な抗体力価が得られた。アルファ−ヘモリシンでコートしていないプレートで血清をテストしたときは力価が検出されなかったことから、その抗体力価がアルファ−ヘモリシンに特異的であることを示している(図2B)。このことは、用いたアルファ−ヘモリシン量(100−150ng)が通常のマイクログラム投与量より大幅に少ないものの、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームが、免疫化や抗体産生でアルファ−ヘモリシンに対する抗体を上昇させる免疫応答を惹起することが可能であることを示している。
【0050】
アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームの免疫原性をさらに分析するために、そのポリマーソームを3匹のマウスに注入し、種々のコントロールを他の9匹のマウス(TMNバッファを3匹のマウス、フリーなアルファ−ヘモリシンを3匹のマウス、アルファ−ヘモリシンおよび完全フロイントアジュバントを3匹のマウス)に注入した。5回の注入によるマウスの免疫原性の応答を図3に示す。先の実験と同じように、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームは免疫応答を惹起することが可能であった。驚くべきことに、同等量(100ng)のフリーなアルファ−ヘモリシンでも、はじめの3回の注入に対しては応答が幾分低いものの、アジュバントの使用無くして免疫応答を惹起することが可能であった。空のポリマーソームが非免疫原性のままであるものの、アジュバントと共に注入したフリーなアルファ−ヘモリシンでは、より低効率な応答となった。それゆえ、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを用いることで得られ観察された免疫応答の一部は、アルファ−ヘモリシン自体の免疫原性によるものである。マウスを免疫化するために短縮型(a truncated version)アルファ−ヘモリシンを用いた研究においても、より多くの投与量(5μg)が用いられているものの、そのような免疫原性がアジュバントを伴うことなく観察された。
【0051】
アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームの免疫原性をさらに分析するために、皮内注入を行った。皮膚には樹状細胞やマクロファージ等の抗原提示細胞が豊富なため、皮膚の種々の層で行われる免疫化には昨今大きな注目が集められており、皮下や皮内の注入が腹腔内や筋肉内のルートと比べて流行を取り戻している。さらに、皮膚を通じたワクチンデリバリを許容する、使用が簡単でニードルフリーなデバイスを開発することに多くの努力が傾けられている。このような興味のために、ここでのさらなる実験において、皮内注入を行った。アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを3匹のマウスに注入し、フリーなアルファ−ヘモリシンを2匹のマウスに注入した。3回の注入を通じたマウスの免疫原性の応答を図4に示す。興味深いことに、免疫応答を惹起することにおいては、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームがフリーなアルファ−ヘモリシンと比べてより一層効率的であり、2回目および3回目の採血では、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームがフリーなアルファ−ヘモリシンより高い免疫応答を惹起した。アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームがまだ免疫応答を生成することが可能であるものの、フリーなアルファ−ヘモリシンの免疫原性が皮内注入により弱められることが明らかである。このことは、おそらく、比較的大きなポリマーソームが真皮に存在する樹状細胞を集合させることが可能なためである。
【0052】
結論として、本発明者らは、一実施例として、アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームを用いることにより、膜タンパク質抗原含有ポリマーソームを用い免疫応答を惹起するための方法を立証した。アルファ−ヘモリシン含有ポリマーソームでは、フリーなアルファ−ヘモリシン、および、アジュバントと共に注入したアルファ−ヘモリシンのいずれと比べても、より効率的に免疫応答を惹起することが可能であった。膜タンパク質抗原含有ポリマーソームは、免疫化および抗体産生のいずれでも用いられ得るものである。
【0053】
<実施例2>
ヘマグルチニン含有ポリマーソームを用いマウスに免疫応答を惹起するための方法を以下の段落に記載する。
【0054】
<ヘマグルチニンポリマーソームの調製>
フィルム再水和法によりポリマーソームを調製した。BD21ポリマをクロロホルムに溶解させ、薄いフィルムとして乾燥させた。続いて、フィルムを再水和させポリマーベシクルの自発的形成を許容するために超純水を添加した。そして、得られたベシクル分散液を0.45μmおよび0.22μmのメンブランで押し出し、残存する溶媒を除去するために超純水に対して透析した。
【0055】
組換ヘマグルチニン(HA)タンパク質(インフルエンザAウイルス H3N2 ウィスコンシン 67/05、マイバイオソース)(Influenza A Virus H3N2 Wisconsin 67/05, MyBioSource)を、10mMのリン酸ナトリウム、pH7.4、150mMの塩化ナトリウムおよび0.005%のツイン20(Tween-20)中の無菌濾過した溶液として供給した。
【0056】
ポリマーベシクル分散液にHA溶液の一定分量を添加することにより、HAポリマーソームを形成させた。そのとき、ポリマーソームへのHAの再構成を許容するために混合物をインキュベートした。続いて、遠心濾過を用いて、HA含有ポリマーソームからフリーなHAを分離した。そして、HA含有ポリマーソームをPBSバッファに再懸濁させた。
【0057】
<HA濃度の定量>
HA含有ポリマーソームに挿入されたHA量の定量は、既知濃度のフリーなHAで得られた標準曲線(図5)を用いて測定した。フリーなHAについて5μg/mlではじめた希釈系列およびコーティングバッファ(0.1MのCO/HCO、pH9−9.8)での1:10の希釈ではじめたHAポリマーソーム(図6)により、384ウェルプレートを4℃で一晩コートした。次の日に、ウェルをPBSで洗浄し、室温(RT)で1時間、ブロッキングバッファ(1×PBS中の1%BSA、50μl/ウェル)でブロックした。続いて、ブロッキングバッファ中の抗HA抗体を供給し、室温(RT)で1時間インキュベートし、PBSで洗浄後、抗ウサギHRP結合抗体(1:2000)で同様に処理した。OPD基質での三重測定を通じて、ペルオキシダーゼ活性を定量した。バックグラウンドのシグナルを明らかにするために、無コートのウェルでも三重測定を行った。HAが挿入されていないポリマーソームについても、得られたシグナルがHA特異的であることを保証するためのコントロールとして含めた。飽和未満のシグナルとなるHAポリマーソームの希釈において、得られた標準曲線を用いた外挿法を行い、ポリマーソームに挿入されたHA量が10.908μg/ml+/−1.43(n=3)であることを推定することができた。
【0058】
<HAポリマーソームでのマウスの免疫化>
可溶性またはポリマーソーム中のHAを、マウス1匹あたり100ngでBALB/cマウス(1グループあたり3匹)に以下のように皮下注入した:第1日に1回目の投与(初期、prime)、第21日に2回目の投与(追加、boost)を行った。ポジティブコントロールとして、1グループのマウスを、500ngのHAおよびアジュバント(初期では完全フロイントアジュバント、追加では不完全フロイントアジュバント、製造者の指示により1:1の容積比で調製した。)で免疫化し、ネガティブコントロールとしてPBSでマウスを免疫化した。血清サンプルを免疫化の前、追加の直前、追加の1週間後にキャピラリを用いてマウスの頬からサンプリングし収集した。
【0059】
<免疫応答の定量>
コーティングバッファ中のフリーなHAの1ウェルあたり15ngにより、384ウェルプレートを4℃で一晩コートした。次の日に、ウェルをPBSで洗浄し、室温(RT)で1時間、ブロッキングバッファ(1×PBS中の1%BSA)でブロックした。各時点での個々のマウスの血清サンプルを、ブロッキングバッファで希釈し(1:100、1:1000または1:10000)、HAコートしたウェルまたは無コートのウェルで、RTで1時間インキュベートした(図7)。3回洗浄後(1×PBS)、HRP結合抗マウスIgG(1:4000)をRTで1時間インキュベート後、3回洗浄した。そして、OPD基質でペルオキシダーゼ活性を測定した。HAポリマーソームでは、100ngHAの同量の投与量での追加(2回目の採血)後にフリーなHAより高い抗体応答を惹起した。
【0060】
<まとめ>
本実施例では、モデル抗原としてHAを用いることにより、膜タンパク質含有ポリマーソームを用い免疫応答を惹起するための方法を立証した。HAポリマーソームでは、同量の免疫化投与量でのフリーなHAと比べて、より効率的に抗体応答を惹起することが可能であった。膜タンパク質抗原含有ポリマーソームは、防御免疫応答を誘導するためのワクチン接種用として、同様に、一方では誘導することが難しい膜タンパク質に対する抗体生成用として、潜在的に用いられ得るものである。
【0061】
また、生体外での合成を介して周囲を取り巻く膜に挿入される膜タンパク質抗原のために抗体が生成され得ることを立証するために、本発明者らは、CXCR4に対する抗体を惹起するためのCXCR4ポリマーソームを用いた。
【0062】
ここでの実験において生成された抗体の機能性をテストするための、インフルエンザウイルス(同じ株)での赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition)およびマイクロ中和反応(microneutralization)アッセイは、それらがウイルスを中和することが可能であることを証明するために目下行われている。
【0063】
本研究が膜タンパク質抗原に対する抗体を生成するためのツールとして用いられ得ることを実証するために、本研究におけるCXCR4ポリマーソームに対して上昇した抗体が、細胞内で産生されたCXCR4抗原に対する一層特異的な親和性を有するかどうかを確かめることも、目下調査されている。
【0064】
「含む(comprising)」により、制限されるものではないが、用語「含む」に続く事項を含有することを意味している。このため、用語「含む」の使用は、列挙された要素が要求されるものであるか、または、欠かせないものであることを示しているが、他の要素が選択的であり、存在してもよく存在しなくてもよい。
【0065】
「構成する(consisting of)」により、制限されるものではないが、フレーズ「構成する」に続く事項を含有することを意味している。このため、フレーズ「構成する」は、列挙された要素が要求されるものであるか、または、欠かせないものであることを示しており、他の要素が存在しなくてもよい。
【0066】
ここに実例的に記載された発明は、ここに特に開示されていない要素や複数の要素、制限や複数の制限がなくても、適正に実行され得る。このため、例えば、用語「含む(comprising)」、「含有する(including)」、「包含する(containing)」等は、拡張的に、制限なく読み取られるべきである。さらに、ここに用いられる用語や表現は、記述の用語として制限なく用いられるものであり、開示、記載された特徴の同等物やその一部を除くそのような用語や表現の使用を意図しているものではなく、クレームされた本発明の範囲内で種々の変更が可能であることが認識されるものである。このため、本発明が好適な実施形態および選択的事項により特別に開示されているとしても、ここに開示され具体的に示された本発明の変更や変動が当業者により行われてもよく、そのような変更や変動が本発明の範囲内であると考えられるべきである。
【0067】
温度や時間についての所与の数値に関する「約(about)」により、特定された数値の10%の範囲内の数値を含有することを意味している。
【0068】
本発明は、ここに概括的に包括的に記載されている。包括的開示の範囲内となるようなより狭いスピーシーズ(species)やサブジェネリック(sub-generic)グループのそれぞれについても本発明の一部を形成する。このことは、削除される材料が特別にここに列挙されているか否かにかかわらず、いずれかの主題を本発明から除去する条件や否定的な制限を伴う発明の包括的な記載を含んでいる。
【0069】
他の実施形態は、以下のクレームおよび非制限的な実施例の範囲内である。さらに、本発明の特徴や態様がマーカッシュグループで記載されている場合に、当業者は、それにより、マーカッシュグループの個々のメンバやメンバのサブグループに関して本発明が記載されていることも認識する。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7