(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
筒状の芯金と、前記芯金の内周側に配置されている、溶湯通路を形成する筒状のれんが層と、前記芯金の外周側及び下方側に配置されている筒状のキャスタブル層と、を備える浸漬管であって、
前記キャスタブル層が、
溶湯が浸る下部に設けられた、第一アルミナ系材質により構成されている浸漬部と、
溶湯が浸らない上部に設けられた、前記第一アルミナ系材質よりも耐食性の低い第二アルミナ系材質により構成されている非浸漬部と、
前記浸漬部と前記非浸漬部との間に介在する、前記第一アルミナ系材質と前記第二アルミナ系材質とが均一に又は前記浸漬部側から前記非浸漬部側にかけて前記第二アルミナ系材質の混合比が高くなるように混合された材質により構成されている中間部と、
を有することを特徴とする浸漬管。
前記浸漬部の材質が、アルミナの純度が90質量%以上であるアルミナ系の材質、又は、アルミナマグネシア質、アルミナスピネル質、若しくはアルミナマグネシアスピネル質の材質であり、
前記非浸漬部の材質が、アルミナの純度が50質量%以上かつ90質量未満であるアルミナ系の材質であることを特徴とする請求項1記載の浸漬管。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、浸漬管のキャスタブル層は、上記の如く使用時にその下部が高温の溶湯に浸るので、耐久性を確保するうえでは耐食性の比較的高い材質により構成されることが望ましい。しかし、耐食性の高い材質は比較的高価であるので、キャスタブル層の全体が耐食性の高い材質により構成されるものとすると、製品コストが増大してしまう。一方、キャスタブル層の上部は使用時でも高温の溶湯に浸る機会は少ない或いはほとんどないので、その上部だけ耐食性の比較的低い材質により構成することとすれば、高い耐久性を確保しつつ、安価な浸漬管を実現することが可能となる。
【0005】
しかしながら、キャスタブル層において耐食性の比較的高い材質により構成される下部と耐食性の比較的低い材質により構成される上部との境界が明確に定められているものとすると、その境界で両側間の熱膨張差が大きくなるので、その境界で亀裂や損傷が生じ易くなってしまう。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、キャスタブル層の耐久性を高く維持しつつ製品コストを低減させると共に、キャスタブル層での亀裂や損傷を抑制することが可能な浸漬管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するためになされた請求項1記載の発明は、筒状の芯金と、前記芯金の内周側に配置されている、溶湯通路を形成する筒状のれんが層と、前記芯金の外周側及び下方側に配置されている筒状のキャスタブル層と、を備える浸漬管であって、前記キャスタブル層が、溶湯が浸る下部に設けられた、
第一アルミナ系材質により構成されている浸漬部と、溶湯が浸らない上部に設けられた、
前記第一アルミナ系材質よりも耐食性の低い
第二アルミナ系材質により構成されている非浸漬部と、前記浸漬部と前記非浸漬部との間に介在する、前記
第一アルミナ系材質と前記
第二アルミナ系材質と
が均一に又は前記浸漬部側から前記非浸漬部側にかけて前記第二アルミナ系材質の混合比が高くなるように混合された材質により構成されている中間部と、を有する浸漬管
である。
【0008】
この構成によれば、キャスタブル層の下部にある浸漬部が耐食性の高い材質により構成されると共に、キャスタブル層の上部にある非浸漬部が耐食性の低い材質により構成されるので、キャスタブル層の耐久性を高く維持しつつ、製品コストを低減させることができる。また、浸漬部と非浸漬部との間に、それら浸漬部の材質と非浸漬部の材質との中間材質により構成されている中間部が介在する。このため、本発明によれば、キャスタブル層が中間部の介在しない浸漬部と非浸漬部とに2分されているだけの構成に比べて、キャスタブル層での亀裂や損傷を抑制することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の浸漬管において、前記浸漬部の材質が、アルミナの純度が90質量%以上であるアルミナ系の材質、又は、アルミナマグネシア質、アルミナスピネル質、若しくはアルミナマグネシアスピネル質の材質であり、前記非浸漬部の材質が、アルミナの純度が50質量%以上かつ90質量未満であるアルミナ系の材質である浸漬管である。
【0010】
この構成によれば、非浸漬部の材質を浸漬部の材質に比べて安価なものとすることができるので、製品コストを確実に低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の浸漬管の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る浸漬管10が用いられる真空脱ガス装置12の構成図を示す。また、
図2は、本実施形態の浸漬管10の構成図を示す。
【0014】
本実施形態の真空脱ガス装置12は、真空下で溶鋼などの溶湯を環流させることにより、その溶湯内から水素ガス(H
2ガス)や酸素ガス(O
2ガス)などを排出させる脱ガスを行う装置である。
【0015】
図1に示す如く、真空脱ガス装置12は、上部槽14と、下部槽16と、2個一対の浸漬管10と、を備えている。上部槽14は、高い真空状態に減圧されている。下部槽16は、上部槽14の下方においてその上部槽14に連通されている。一対の浸漬管10はそれぞれ、下部槽16の下方においてその下部槽16に連通されていると共に、取鍋18内の溶湯20に浸漬されている。一対の浸漬管10は、互いに並設されている。一方の浸漬管10(
図1においては左側)は、溶湯20が上昇する上昇管であり、他方の浸漬管10(
図1においては右側)は、溶湯20が下降する下降管である。以下、上昇管である浸漬管10を上昇管10aと、下降管である浸漬管10を下降管10bと、それぞれ称す。
【0016】
上記構造を有する真空脱ガス装置12において、使用中すなわち操業中は、配管22を介して上昇管10aに不活性ガス(例えば、アルゴンガスや窒素ガスなど)が吹き込まれる。上昇管10aに不活性ガスが吹き込まれると、取鍋18内の溶湯20が、上部槽14の真空状態により下部槽16側に引き込まれて上昇管10aの溶湯通路を上昇し、その後、下降管10bの溶湯通路を下降して取鍋18に戻って環流される。この環流の過程では、溶湯20の脱ガスが進行すると共に、そのガスが真空脱ガス装置12の外部に排出される。
【0017】
図2に示す如く、浸漬管10は、芯金24と、耐火物層26と、を備えている。芯金24は、金属(例えば、炭素鋼や合金鋼など)により構成されている。芯金24は、周方向に連続した円筒状に形成されている。芯金24は、耐火物層26の芯体として機能すると共に、浸漬管10の外周側に存在する外気を後述の溶湯通路に向けて浸透させるのを抑制する外気遮断機能を有している。尚、
図2においては、一対の浸漬管10のうちの上昇管10aが示されている。
【0018】
耐火物層26は、耐火物としてのれんが層30を有している。れんが層30は、芯金24の内周側に配置されている。れんが層30は、中心軸線の回りで周方向に並べて配置された複数個の定形れんがにより構成されている。この定形れんがは、マグネシアカーボン質若しくは高温で焼成されたマグネシアクロム質の耐火物であって、耐熱性及び高強度を有している。れんが層30は、円筒状に形成されている。れんが層30の内周側には、溶湯20が流通する溶湯通路32が形成されている。れんが層30は、芯金24から内周側に向けて突設されたアーム状の支持部34に支持されている。
【0019】
耐火物層26は、また、耐火物としてのキャスタブル層36,38を有している。キャスタブル層36,38は、流動性を有するアルミナなどのキャスタブル材料を型枠に流し込んで(すなわち、鋳込んで)形成したものである。キャスタブル層36,38はそれぞれ、円筒状に形成されている。キャスタブル層36は、芯金24の内周側に配置されている。すなわち、キャスタブル層36は、芯金24の内周面とれんが層30の外周面との間に介在して配置されている。
【0020】
キャスタブル層38は、芯金24の外周側及び下方側に配置されている。上記のれんが層30の下面は、支持部34に接していると共に、キャスタブル層38の、芯金24に対する下方側部位に接している。キャスタブル層38の、芯金24に対する下方側部位の内周側には、溶湯20が流通する溶湯通路40が形成されている。溶湯通路40は、上記の溶湯通路32に連通している。溶湯通路40は、溶湯通路32の径と一致する径を有している。すなわち、れんが層30の内径とキャスタブル層38の下方側部位の内径とは、一致している。
【0021】
芯金24の外周には、径方向外側に延びるスタッド42が固定されている。スタッド42は、V字状やY字状に形成されている。スタッド42は、芯金24の外周のほぼ全域において所定間隔を隔てて複数個設けられている。スタッド42の芯金24への固定は、溶接やボルトにより実現されている。スタッド42は、キャスタブル層38の、芯金24に対する外周側部位に埋設されている。スタッド42は、キャスタブル層38の、芯金24に対する外周側部位の脱落を抑止する機能を有している。
【0022】
キャスタブル層38は、浸漬部44と、非浸漬部46と、中間部48と、を有している。浸漬部44は、浸漬管10が取鍋18に浸漬されている際にその取鍋18内の溶湯20が浸るキャスタブル層38の下部に設けられた部位であって、上記した芯金24に対する下方側部位を含む。浸漬部44の上端位置は、取鍋18内の溶湯20の上端位置に合わせて設定されている。非浸漬部46は、浸漬管10が取鍋18に浸漬されている際にその取鍋18内の溶湯20が浸る機会が少ない或いはほとんどないキャスタブル層38の上部に設けられた部位である。非浸漬部46の下端位置は、取鍋18内の溶湯20の上端位置よりも上方となるように設定されている。また、中間部48は、浸漬部44と非浸漬部46との間に介在する部位であって、キャスタブル層38の下部と上部との中間部位である。
【0023】
浸漬部44は、取鍋18内の溶湯20の温度に耐え得る耐食性の比較的高い材質により構成されている。浸漬部44の材質は、例えば、アルミナの純度が90質量%以上であるアルミナ系の材質であり、又は、アルミナマグネシア質、アルミナスピネル質、若しくはアルミナマグネシアスピネル質の材質である。浸漬部44は、当該材質が型枠に流し込まれて形成される。
【0024】
非浸漬部46は、浸漬部44の材質に比して耐食性の低い材質により構成されている。非浸漬部46の材質は、優れた耐スポーリング性を有するものであって、例えば、アルミナの純度が浸漬部44のものに比して低い50質量%以上かつ90質量%未満であるアルミナ系の材質である。非浸漬部46の材質は、アルミナの純度が比較的低いものであるため、浸漬部44の材質に比べて単価の低い安価な材質である。非浸漬部46は、当該材質が型枠に流し込まれて形成される。
【0025】
また、中間部48は、浸漬部44の材質と非浸漬部46の材質との中間材質により構成されている。尚、この中間材質は、浸漬部44の材質の特性と非浸漬部46の材質の特性との間の特性を示すものであってよい。また、中間部48は、例えば、浸漬部44の材質と非浸漬部46の材質とが適切な比率で混合されることにより形成されることとしてよい。また、この場合、中間部48の形成は、浸漬部44の材質と非浸漬部46の材質とが練り込まれて混合された後にその混合材質が型枠に流し込まれることにより実現されてよい。
【0026】
キャスタブル層38は、非浸漬部46の材質と中間部48の材質と浸漬部44の材質とがその順序で連続して型枠に流し込まれることにより形成される。尚、浸漬管10の製造時、キャスタブル層38の形成は、浸漬管10の使用時におけるキャスタブル層38とは上下方向を逆にして行われ、具体的には、非浸漬部46が下側に形成されかつ浸漬部44が上側に形成されるように行われる。
【0027】
上記した構造を有する浸漬管10においては、芯金24の外周側及び下方側に配置されているキャスタブル層38が、上下方向で異なる材質により区分けされている。具体的には、取鍋18内の溶湯20が浸る下部に、耐食性の高い材質により構成された浸漬部44が設けられ、取鍋18内の溶湯20が浸らない上部に、耐食性の低い材質により構成された非浸漬部46が設けられ、かつ、浸漬部44と非浸漬部46との間に、浸漬部44の材質と非浸漬部46の材質との中間材質により構成された中間部48が介在している。
【0028】
上記の如く、非浸漬部46の材質は、アルミナの純度が比較的低いものであるため、浸漬部44の材質に比べて単価の低い安価な材質である。このため、浸漬管10によれば、キャスタブル層38が浸漬部44の材質のみにより構成されるものに比べて、安価な浸漬管を実現することができる。また、取鍋18内の溶湯20が浸る部位は、キャスタブル層38の下部のみである。このため、取鍋18内の溶湯20による溶損に耐えて浸漬管10の高い耐久性を確保するうえでは、そのキャスタブル層38の下部を耐食性の高い材質により構成することとすれば十分である。従って、浸漬管10によれば、耐久性を高く維持しつつ製品コストを低減させたキャスタブル層38を実現することができる。
【0029】
また、上記の如く、浸漬部44と非浸漬部46との間に、浸漬部44の材質と非浸漬部46の材質との中間材質により構成された中間部48が介在している。かかる構成においては、浸漬部44と非浸漬部46との間に、それら両部44,46それぞれの材質の中間特性を示す材質からなるぼかし領域が形成されるので、浸漬部44と非浸漬部46との境界が明確に定められている構成と比較して、浸漬部44から非浸漬部46にかけての熱膨張差の平均的な変化勾配を小さくすることができる。このため、キャスタブル層38の特に浸漬部44と非浸漬部46との間での亀裂や損傷を生じ難くすることができる。
【0030】
また、一般に、耐火物としてのキャスタブル層38は、表面に形成されているスラグコーティングにより保護される。このため、仮に上記の中間部48に取鍋18内の溶湯20の湯面が到達してその中間部48が溶湯20に浸る場合でも、キャスタブル層38がスラグコーティングにより保護されていれば、その中間部48が大きく損傷することは回避される。
【0031】
従って、本実施形態の浸漬管10によれば、キャスタブル層38の耐久性を高く維持しつつ製品コストを低減させると共に、そのキャスタブル層38での亀裂や損傷を抑制することができる。
【0032】
ところで、上記の実施形態においては、キャスタブル層38が特許請求の範囲に記載した「キャスタブル層」に相当している。
【0033】
尚、本発明は、上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【0034】
例えば、上記の実施形態においては、中間部48を、浸漬部44の材質と非浸漬部46の材質との中間材質により構成することとした。この点、中間部48は、その全体が浸漬部44の材質と非浸漬部46の材質とが均一に混合された材質により構成されるものとしてもよい。また、中間部48は、浸漬部44側から非浸漬部46側にかけて材質の混合比率が変化されるもの、具体的には、浸漬部44側で浸漬部44の材質比率がより高くかつ非浸漬部46側で非浸漬部46の材質比率がより高いものとしてもよい。かかる構成によれば、浸漬部44から非浸漬部46にかけての熱膨張差の変化勾配を常に小さく抑えることができる。このため、キャスタブル層38の特に浸漬部44と非浸漬部46との間での亀裂や損傷の発生を防止することができる。
【0035】
また、上記の実施形態においては、浸漬部44の例としてアルミナの純度が90質量%以上であるアルミナ系を挙げると共に、非浸漬部46の例としてアルミナの純度が50質量%以上かつ90質量%未満であるアルミナ系を挙げた。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、浸漬部44が耐食性の比較的高い材質により構成されかつ非浸漬部46が耐食性の比較的低い材質により構成されるものであれば、浸漬部44の材質及び非浸漬部46の材質は何れであってもよい。