(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6453868
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】セルロース懸濁物、その調製方法、及び使用
(51)【国際特許分類】
C08B 15/00 20060101AFI20190107BHJP
D01F 2/00 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
C08B15/00
D01F2/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-521749(P2016-521749)
(86)(22)【出願日】2014年11月14日
(65)【公表番号】特表2016-535123(P2016-535123A)
(43)【公表日】2016年11月10日
(86)【国際出願番号】AT2014000203
(87)【国際公開番号】WO2015054712
(87)【国際公開日】20150423
【審査請求日】2017年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】500077889
【氏名又は名称】レンツィング アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】マナー、 ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】オピートニク、 マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】イナーローインガー、 ヨセフ
(72)【発明者】
【氏名】ライター、 ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】ヘーゲル、 マルクス
【審査官】
山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−539301(JP,A)
【文献】
特開平10−088432(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/118746(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/006876(WO,A1)
【文献】
MARTINA OPIETNIK ET AL,Lenzinger Berichte,2013年,91,pp.89 - 92,https://www.lenzing.com/index.php?type=88245&tx_filedownloads_file%5bfileName%5d=fileadmin/content/PDF/03_Forschung_u_Entwicklung/Ausgabe_91_2013.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
C08L
D01F
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高い保水容量を有するセルロースIIの相安定水懸濁物を調製する方法であって、下記の工程:
(a)リヨセル法により10重量%〜15重量%のセルロースを含む紡糸液を調製する工程;
(b)前記セルロースを沈殿させることによってN−メチル−モルホリン−N−オキシドとセルロースとを含む材料を得る工程;
(c)実質的にN−メチル−モルホリン−N−オキシドが除去されるまで前記材料を洗浄する工程;
(d)洗浄されてN−メチル−モルホリン−N−オキシドが除去された、水分を含む前記材料を、エンドグルカナーゼ又はエンドグルカナーゼとエキソグルカナーゼとの混合物を使用して酵素処理する工程;
(e)粉砕部における粉砕によって粗いセルロース懸濁物を得る工程;及び
(f)高圧ホモジナイザーによる微粉砕によって安定な微細懸濁物にする工程;
を特徴とする方法。
【請求項2】
工程(d)における酵素濃度はセルロース量に対して0.1重量%〜10.0重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(f)における前記高圧ホモジナイザーにおける圧力は100bar〜2000barである、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(f)において、懸濁物を1回〜10回、前記高圧ホモジナイザーに通過させる、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(f)において、懸濁物を1回〜4回、前記高圧ホモジナイザーに通過させる、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)においてセルロース濃度は12重量%〜14重量%である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
セルロースII構造を有し、球状であり、平均直径x50が1μm〜4μmであるセルロース粒子を、スプレー乾燥により調製するための、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ、セルロースII構造を含む新規セルロース懸濁物、前記セルロース懸濁物の費用効率が高い調製方法、及びセルロース粒子の調製のための前記セルロース懸濁物の使用に関する。このような懸濁物はしばしば「ゲル」と称され、本発明では両方の用語が同じ意味を有すると解釈されるべきである。
【背景技術】
【0002】
いわゆるリヨセル法に従って、水性有機溶媒におけるセルロース溶液から繊維及びその他の成形品が得られることは古くから知られている。より具体的には、NMMO(N−メチル−モルホリン−N−オキシド)の水性溶液が20年を超える期間にわたって商業的に使用されてきた。典型的には、約13重量%のセルロースを含む紡糸液が関連する生産設備において使用されている。パルプは好適なセルロース原料であるが、状況に応じて、コットンリンターなどその他のセルロース原料を使用してもよい。
【0003】
天然由来のセルロース原料はすべて、いわゆるセルロースI構造を有する。前記構造を有することは公知のX線散乱法に基づいて明確に決定され得るが、前記構造は、リヨセル法に従って製造される成形品が最終的に有するセルロースII構造と大きく異なる。
【0004】
国際公開第2013/006876(A1)号公報では、ナノ繊維性セルロースからの懸濁物の調製及びパルプ由来の繊維状セルロースゲルの調製についてそれぞれ記載されている、様々な先行特許及び刊行物が最初に引用されている。これらの製品はすべて、溶解を行うことなく天然セルロース原料から製造されるため、セルロースI構造を有する。
【0005】
更に、国際公開第2013/006876(A1)号公報では、2%リヨセル紡糸液から、セルロースII構造を含むセルロースゲルの調製について記載されている。先行技術によると、2%リヨセル紡糸液からのセルロースゲルの調製のために、前記紡糸液は最初の工程において撹拌反応器内の水中に沈殿させてもよい。代替法として、国際公開第2013/006876(A1)号公報によると、流動性を有する紡糸液をその固形化温度より低い温度に冷却し、固形化したセルロース溶液を粉砕して顆粒にする。このようにして製造した、2%セルロースの濃度であるセルロース顆粒を洗浄してNMMOを除去し、続いて、脱イオン水を用いてコロイドミル内で湿式破砕を行うことにより粉砕する。これにより、安定なゲル様特性を有する微細懸濁物が得られる。関連して、セルロースゲルの特性は、保水容量(WRC)及びレーザー回折によって測定される粒径によって説明される。
【0006】
国際公開第2013/006876(A1)号公報では、その発明に係る2%紡糸液ではなく13%紡糸液から作製した顆粒又は繊維からゲル様特性を有する等価なセルロース懸濁物を製造するには、同じ方法を採用することは不可能であることが実施例に基づいて説明されている。比較のために、国際公開第2013/006876(A1)号公報では、表1がWRCの結果を示している。国際公開第2013/006876(A1)号公報に係る発明の方法において、2%紡糸液ではなく13%紡糸液を使用すると、WRCがわずか250%であるセルロース懸濁物が得られる。このWRCは、リヨセルリボン繊維を粉砕することによって作製された懸濁物(WRC=270%)又はサイコー(Saiccor)パルプを粉砕することによって作製された懸濁物(WRC=180%)の範囲と同じ範囲内にある。対照的に、国際公開第2013/006876(A1)号公報に係る、2%紡糸液から作製される懸濁物は、相分離することなく安定であり、WRCが約800%である。
【0007】
国際公開第2013/006876(A1)号公報に記載されている別の特徴としてWRC及び粘度の関係が挙げられ、前記関係は、1重量%〜3重量%のセルロースを含む微細懸濁物のセルロース濃度の関数である(国際公開第2013/006876(A1)号公報の表4)。これらの値によって、国際公開第2013/006876(A1)号公報の発明に係るセルロースゲルにおいて、セルロース濃度が高くなるとWRCは上昇することが示されているが、粘度も大幅に上昇し、高いセルロース濃度を有するゲルは高い粘度を有するため実質的にそれ以上加工することができないことが示されている。
【0008】
2%リヨセル紡糸液からのゲルの調製における実質的な短所は、NMMOの回収に伴う高い費用である。13%紡糸液の場合と比較すると、2%紡糸液の場合でのNMMO回収に伴う費用は6倍よりも高く、このことは約1:6というより低いセルロース/NMMO比に起因する。このことは変動運転費用及び固定運転費用(例えば、エネルギーコスト)の両方に当てはまるが、投資費用及び減価償却にもそれぞれ当てはまる。
【0009】
別の短所は、既存のリヨセル製造設備では約13重量%のセルロースを含む紡糸液を製造するに過ぎないことである。このことは、2%紡糸液の調製のために別の製造設備を構築しなくてはならないことを意味する。
【0010】
国際公開第2009/036480(A1)号公報では、リヨセル法に基づいて沈殿させ、洗浄してNMMOを除去し、乾燥したセルロース顆粒を破砕することによって、実質的に球状のセルロースII粉末を調製することについて記載されている。得られたセルロースII粉末は1μm〜400μmの平均粒径を有する。
実際には、国際公開第2009/036480(A1)号公報に係るセルロース粒子の調製は下記の通りである:造粒ミル内で、水中でリヨセル紡糸液を凝固させて、0.5mm〜1.5mmの粒径を有する不規則な顆粒にする;前記顆粒を水で洗浄してNMMOを除去し、乾燥する;衝撃ミル又はロングギャップミルを使用する第1の粗粉砕工程において、乾燥させた顆粒をすり潰して平均粒径で50μm〜200μmの粒径にする;続いて、ジェットミルを使用する第2の微粉砕工程において、5μmほどの平均粒径とする。前記微粉砕工程は非常に時間がかかるものであり、このことにより生産能力が非常に低くなり、そのために非常に費用がかかる。
【0011】
米国特許第5064950号明細書では、架橋セルロースII粒子の調製について記載されている。
【0012】
国際公開第2004/043329(A2)号公報では、直径が約15μmであるセルロースマイクロビーズの調製及び使用について記載されている。前記セルロースマイクロビーズは、ビスコースとポリアクリル酸ナトリウムとの混合物からセルロースを沈殿させ、続いて酸加水分解を行うことによって得られる。
【0013】
米国特許第5024831号公報でも、平均直径が3μm〜50μmである球状のセルロース粒子について記載されており、前記セルロース粒子の調製に関して様々な日本国特許が参照されている。ビスコース法に従った沈殿により、前記公報に記載されている粒子は部分的にセルロース誘導体及びセルロースIIからなる。
【0014】
最後の3つの引用刊行物ではすべて、最終製品がセルロースを含む方法について記載されているが、前記最終製品は、セルロースのみならず様々な用途において望ましくないその他の物質も含んでいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この先行技術と比較して、本願発明の課題は、先行技術のセルロース懸濁物よりも費用効率よく製造することができ、処理が簡単であるセルロース懸濁物を提供することである。更に、本願発明の課題は、そのような懸濁物の適切な調製方法、及びそのための新規な使用を提供することであり、特に、セルロースとは別のいかなる望ましくない物質も存在しない調製方法及び使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、非誘導体型セルロースIIの相安定水懸濁物によって解決され、前記懸濁物は高い保水容量(WRC)を有し、セルロース濃度が0.1重量%〜4.0重量%であり、セルロース濃度x(前記懸濁物の総量に対する重量%)の関数である粘度(50s
−1のせん断速度における[Pa・s])及び保水容量(%)が下記の関係を有する。
(50s
−1における粘度/WRC)×10000<0.4038×x
2.8132
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】懸濁物中のセルロースの重量%と、WRC(保水容量)又は粘度との関係を示す図である。
【
図2】懸濁物中のセルロースの重量%と、(粘度/WRC(保水容量))との関係を示す図である。
【
図6】走査電子顕微鏡で粒子を観察した際の画像を示す図である。
【
図9】走査電子顕微鏡で粒子を観察した際の画像を示す図である。
【
図10】WRC(保水容量)を測定するために使用する備品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記のように記載することができ、且つ、本発明に係る懸濁物について明らかとなった前記関係は、特に非誘導体型セルロースに固有のものである。最新技術、例えば国際公開第2013/006876(A1)号公報に基づいて、2重量%のセルロースIIを含む紡糸液から調製された懸濁物は、どの場合でも、前記式によって定められている範囲を大きく上回っている(
図2)。
【0019】
更に、本発明に係る特性範囲は下記の関係によって領域の下限も規定される。
(50s
−1における粘度/WRC)×10000>0.0201×x
2.366
【0020】
基本的に、懸濁物を作製するための紡糸液のセルロース濃度が低いほど、懸濁物はより領域の上限に近づくことが理解されるだろう。
【0021】
前記懸濁物中のセルロース濃度は、0.5重量%〜5.0重量%が好ましく、特に1.0重量%〜4.0重量%が好ましい。
【0022】
特性の観点では、本発明に係る懸濁物は、例えば国際公開第2013/006876(A1)号公報に記載されている2%紡糸液から作製されるセルロースII懸濁物と著しく異なり、特に、本発明に係る懸濁物は極めて高い保水容量(WRC)及び低い粘度レベルを有する点で異なる。本発明に係るセルロース懸濁物において初めて達成された特性の前記組合せによって、懸濁物調製工程における生産性及び懸濁物の処理性の両方がかなり向上することになる。先行技術において知られているセルロース懸濁物では、懸濁物におけるセルロース含有量が増加するとWRCは高くなる一方、本発明に係る懸濁物では、セルロース含有量が増加するとWRCは典型的には小さくなることさえあり得る(
図1)。
【0023】
本発明によると、セルロース濃度x(懸濁物の総量に対する重量%)の関数である、粘度(50s
−1のせん断速度におけるPa・s)及び保水容量(%)は下記の関係を有する懸濁物が好ましい。
(50s
−1における粘度/WRC)×10000<0.3057×x
2.5698
【0024】
更に、上記特性を有するセルロースII懸濁物等も好ましく、前記懸濁物はWRCが500%〜5000%であり、特に1000%〜4000%である。
【0025】
本発明は、高い保水容量を有する、セルロースIIの相安定水懸濁物を調製する方法に関するものでもあり、前記方法は下記の工程を特徴とする。
(a)リヨセル法に基づいて10重量%〜15重量%のセルロースを含む紡糸液を調製する工程、
(b)前記セルロースを沈殿させることによってNNMOとセルロースとを含む材料を得る工程、
(c)実質的にNMMOが除去されるまで前記材料を洗浄する工程、
(d)洗浄されてNMMOが除去された湿潤材料を酵素処理する工程、
(e)粉砕部における粉砕によって粗いセルロース懸濁物を得る工程、
(f)高圧ホモジナイザー中での微粉砕によって安定な微細懸濁物にする工程
【0026】
上記方法によって上記新規で有利なセルロースII懸濁物が製造されるだけでなく、上記方法は、例えば国際公開第2013/006876(A1)号公報に記載されている方法よりも費用面で極めて効率的である。紡糸液中のセルロース濃度が10重量%未満であると、NMMO回収は費用面で効率的ではなく、投資費用が高くなり過ぎ、セルロース濃度が15重量%を超えると紡糸液はもはや容易に加工できない。
【0027】
原理上、工程(b)において得られる材料は様々な形状を有し得る。例えば、前記材料は顆粒であっても、繊維であっても、羊毛状構造体であっても、繊維状構造体であってもよく、更にはスポンジ様構造体であってもよい。例えば水中造粒機又は造粒ミルを使用して粗い顆粒を作製する場合、費用は最低になるだろう。
【0028】
工程(d)において使用される酵素は、エンドグルカナーゼ又はエンドグルカナーゼとエキソグルカナーゼとの混合物であることが好ましい。工程(d)における酵素濃度は、0.1重量%〜10.0重量%であることが好ましいであろう。
【0029】
工程(e)における粉砕は、別の造粒ミル、コロイドミル、又は精製機などの粉砕部において実施することが好ましい。
【0030】
本発明に係るセルロース濃度であるリヨセル紡糸液を水又は水とNMMOとの混合物中に沈殿させると、成形品は、適用された沈殿条件にもよるが、概ね圧縮された外層構造を有する。各場合において、成形品は結晶質領域及び非晶質領域の比率が様々であるセルロースII構造体である。国際公開第2013/006876(A1)号公報に記載されている、例えばコロイドミルによる湿式粉砕処理を行うと、10重量%〜15重量%のセルロースを含むセルロース溶液を沈殿させることにより得られる材料等から微細懸濁物を調製することは不可能であった。
【0031】
本発明によると、最後の粉砕工程において高圧ホモジナイザーを使用する。この種の装置では、せん断、衝撃、又はローター・ステーターの原理に基づいて粉砕するのではなく、高圧粉砕液の自然発生的な弛緩及びそれにより生じる空洞形成と乱流によって粉砕することが典型的である。工程(f)における前記高圧ホモジナイザーにおける圧力が100bar〜2000barである場合、本発明の方法は特に効果的である。高圧ホモジナイザーの有効性を更に高めるために、高圧ホモジナイザーはロープ反応器の形態で作動するべきである。関連して、工程(f)において、1回〜10回、好ましくは1回〜4回、懸濁物を高圧ホモジナイザーに通過させることが特に好ましい。このため、懸濁物はかなり加熱されることになる。懸濁物のいかなる劣化も回避するために、例えば熱交換器を装着することにより懸濁回路に冷却オプションを備える必要があろう。
【0032】
商業的には、ステープル・ファイバーの製造に適した紡糸液を使用して懸濁物を調製することもできるならば、本発明の方法は特に興味深い。従って、本発明の方法の工程(a)において紡糸液中のセルロース濃度が12重量%〜14重量%であるならば、本発明の方法は有利である。
【0033】
本発明は、セルロースII構造であり、球状であり、1μm〜4μmの平均直径x
50である実質的に球状のセルロース粒子の調製のための本発明の上記懸濁物の使用に関するものでもあり、本発明に係るセルロース粒子はスプレー乾燥により形成される。
【0034】
原理上では、国際公開第2013006876(A1)号公報において知られている(2%紡糸液に由来する)セルロース懸濁物の使用又はその他同等のセルロース懸濁物の使用は、本発明との関連においてまた可能である。しかしながら、ほとんどの場合、前記懸濁物の調製は費用効率が小さいため、前記懸濁物はおそらく使用されないだろう。
【0035】
乾燥される基質、即ち、本発明に係るセルロース懸濁物はノズルを介して微細化され細かい液滴になる。前記液滴は高温の空気流と共に分離サイクロンへ放出され、この処理において水を蒸発させる。粒子構造は、セルロース濃度、スプレーノズルサイズ、又は供給温度と排出温度との差などの様々なパラメーターによって影響を受け得る。この処理において得られるセルロース粒子は、ほぼ球状であり、平均直径が1μm〜5μm未満である。ほぼ球状であることは、主に1〜2.5の軸比率(I:d)に反映される。前記粒子の表面は不規則であり、顕微鏡を用いると角及び尖りが明らかに見られる。しかしながら、顕微鏡では、前記粒子がいかなる繊維状のほつれ又は小線維も示さない。従って、滑らかな表面を有する球体を決して取り扱うことがない。
【0036】
スプレー乾燥工程の原理及び概要は
図3に示されており、図中、
A:セルロース懸濁物の供給
B:スプレー空気(即ち、圧縮空気)の供給
T
E:給気用温度測定
T
A:排気用温度測定
1:給気用吸引ポート
2:電気ヒーター
3:スプレーノズル
4:スプレーシリンダー
5:排気
6:分離サイクロン
7:排気口フィルター
8:乾燥粒子の収集容器
である。
【0037】
以下、実施例により本発明を説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に明らかに限定されるものではなく、同様な発明概念に基づいたその他全ての実施形態を含む。
【実施例】
【0038】
<保水容量(WRC)測定>
WRCを決定するために、規定の量の懸濁物を(放水口を有する)特別な遠心管に入れる。次に、3,000rpmで15分間にわたって遠心分離し、その後すぐに湿潤セルロースを秤量する。湿潤セルロースを105℃で4時間にわたって乾燥し、その後すぐに乾燥重量を決定する。下記の式に従ってWRCを計算する。
WRC[%]=(m
f−m
t)/m
t×100 (m
f=湿潤質量、m
t=乾燥質量)
【0039】
以下、WRCを決定するために使用する処理工程を詳細に説明する。
【0040】
保水容量(WRC)は、遠心分離後に試料がどのくらいの量の水を保持しているかを示す測定値である。保水容量は、乾燥重量に対する割合で表される。下記の備品が使用される:実験室用遠心分離機(例えば、Hettich社製);第4号の多孔性を有する15mlの焼結ガラスるつぼ(例えば、ホウケイ酸ガラス3.3であるROBU H11);エッペンドルフピペット;10mlのエッペンドルフピペットチップ;前記焼結ガラスるつぼに適合する(切断された遠心分離用ビーカーからなる)支持スリーブ管(
図10);再循環式エアオーブン;及び、分析用天秤。
【0041】
分析前に、試料をよく振らなければならない。測定前に、支持スリーブ管の中に水が残留していないことを確実にしなければならない。8個の、清潔で乾燥され、番号が振られた焼結ガラスるつぼを0.0001gの精度で秤量する。支持スリーブ管と焼結ガラスるつぼを遠心分離用ビーカー内に配置する。エッペンドルフピペットを使用して、分析される懸濁物を5mlずつ焼結ガラスるつぼのそれぞれに分注する。次に、実験室用遠心分離機において3,000rpmで15分にわたって遠心分離を行う。遠心分離の直後にるつぼの底を拭き取らなければならない。その後すぐに、分析用天秤を用いてるつぼを秤量し、総重量を記録する。精度は0.0001gでなければならない。次に、再循環式エアオーブンにおいてるつぼを放置して105℃で4時間にわたって乾燥し、乾燥器内で少なくとも30分にわたって放冷する。その後、乾燥試料を再度秤量する(精度:0.0001g)。その測定を4回繰り返し実施する。分析後、熱水(60〜70℃)及び硫酸クロムを用いてるつぼを完全に清浄しなければならない。続いて、再循環式エアオーブンにおいてるつぼを105℃で4時間にわたって乾燥する。
【0042】
<粘度測定>
コーン・プレート測定システム(CP4/40 S0687 SS)を有するMalvern Kinexusレオメーターを使用して、50s
−1のせん断速度における粘度を測定した。
<実施例1>
【0043】
水中造粒機を使用して、沈殿浴媒体としての50%NMMOにおいて13%リヨセル紡糸液を凝固させてボール状の顆粒にし、前記顆粒を沈殿槽から分離し、脱イオン(DI)水で洗浄してNMMOを除去し、遠心分離により残留している洗浄水から分離する。湿潤顆粒を、穏やかに撹拌しながら、1:15の浴比で1%酵素(エンドグルカナーゼ ノボザイム 476)を用いて60℃で90分間にわたって処理する。次に、遠心分離により酵素を分離し、洗い流し、除去する。残留している酵素を短時間で90℃に加熱して不活化する。次に、IKA MK2000/10コロイドミルを使用して、脱イオン水中で、顆粒を2%セルロースの濃度で15分間にわたって予備粉砕し、次にGEA Niro Soavi NS 1001L−2K高圧ホモジナイザーを使用して、1000barで4回通過させて微細乳濁液を形成する。得られた材料はWRCが1661%であり、2週間を超える期間にわたって相分離することなく安定である。
<実施例2>
【0044】
造粒ミルを使用して、沈殿浴媒体としての水中で13%リヨセル紡糸液を凝固させて不規則な顆粒にし、沈殿槽から分離し、脱イオン水で洗浄してNMMOを除去し、遠心分離により残留している洗浄水から分離する。湿潤顆粒を、穏やかに撹拌しながら、1:15の浴比で1%酵素(エンドグルカナーゼ ノボザイム476)を用いて、60℃で90分間にわたって処理する。次に、遠心分離により酵素を分離し、洗い流し、除去する。残留している酵素を、湿潤顆粒において短時間で90℃に加熱して不活化する。次に、コロイドミルを使用して、脱イオン水中で、顆粒を2重量%のセルロースの濃度で15分間にわたって予備粉砕し、次に、高圧ホモジナイザーを使用して1000barで5回通過させて微細乳濁液を形成する。得られた材料はWRCが1524%であり、2週間を超える期間にわたって相分離することなく安定である。
<実施例3>
【0045】
造粒ミルを使用して、沈殿媒体としての水中で13%リヨセル紡糸液を凝固させて不規則な顆粒にし、沈殿槽から分離し、脱イオン水で洗浄してNMMOを除去し、遠心分離により残留している洗浄水から分離する。湿潤顆粒の懸濁物を、1重量%、2重量%、3重量%、及び4重量%のセルロース濃度となるようにそれぞれ脱イオン水で希釈し、乾燥セルロースに対して1%の酵素(ノボザイム476)を添加し、コロイドミル内において50℃で90分間にわたって処理する。残留している酵素を短時間で90℃に加熱して不活化する。次に、予備破砕した顆粒を高圧ホモジナイザーにおいて1000barで4回通過させて微細乳濁液に加工する。得られた懸濁物は2週間を超える期間にわたって相分離することなく安定である。WRC及び粘度を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
実施例3におけるセルロース懸濁物のWRC及び粘度と、国際公開第2013/006876(A1)号公報における結果(表4;2重量%のセルロースを含む紡糸液)とを比較すると、実施例3の試料の特性データは国際公開第2013/006876(A1)号公報と著しく異なることが明らかである(表2)。この異なる挙動は
図1において図示もされている。
【0049】
図2は、本発明の範囲の限界線(各等式が付与されている点線)と比較した、本発明に係る実施例3の懸濁物の位置(実線)を示しており、国際公開第2013/006876(A1)号公報に係る懸濁物の位置(破線)も示している。
【0050】
下記の実施例において、異なるセルロース含有量であるセルロース微細懸濁物を実験室用スプレー乾燥機(Buechiミニスプレー乾燥機B−290;「ue」はウー・ウムラウトを表す)において様々な条件で乾燥した。得られた試料の粒径分布を、エタノール中でレーザー回折により測定した(Helos社製の測定機器)。
<実施例4>
【0051】
実施例2に従って調製され、且つ、2重量%のセルロースを含む、本発明に係るセルロース微細懸濁物を180℃の給気温度及び62℃の排気温度で乾燥させた。ノズルサイズは1.5mmであった。粒径分析によって下記の値が得られた:x
10=1.09μm、x
50=3.13μm、x
90=7.6μm。
図4は粒径分布を示している。
<実施例6>
【0052】
実施例2に従って調製され、且つ、0.25重量%のセルロースを含む、本発明に係るセルロース微細懸濁物を220℃の給気温度及び124℃の排気温度で乾燥させた。ノズルサイズは1.5mmであった。粒径分析によって下記の値が得られた:x
10=0.59μm、x
50=2.1μm、x
90=11.93μm。
図5は粒径分布を示しており、
図6は製造した粒子の走査電子顕微鏡での画像を示している。粒子は実質的に球状であるが、不規則な表面を有するためボール形状ではない。顕微鏡での画像では、角及び尖りが明らかに見られる。
<実施例7>
【0053】
実施例2に従って調製され、且つ、0.5重量%のセルロースを含む、本発明に係るセルロース微細懸濁物を180℃の給気温度及び83℃の排気温度で乾燥させた。ノズルサイズは1.4mmであった。粒径分析によって下記の値が得られた:x
10=1.07μm、x
50=2.22μm、x
90=4.91μm。
図7は粒径分布を示している。
<実施例8>
【0054】
実施例2に従って調製され、且つ、4重量%のセルロース及び乳化剤として0.04%のSokolan PA30CLを含む、本発明に係るセルロース微細懸濁物を180℃の給気温度及び72℃の排気温度で乾燥させた。ノズルサイズは1.4mmであった。粒径分析によって下記の値が得られた:x
10=0.76μm、x
50=2.02μm、x
90=4.64μm。
図8は粒径分布を示している。
図9は走査電子顕微鏡での画像を示している。