(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
0.45〜0.55質量%のCと、0.15〜0.35質量%のSiと、0.65〜0.95質量%のMnと、0.80〜1.10質量%のCrと、0.25質量%以下のVと、0.010質量%未満のPと、Fe及び不可避的不純物を含む残部と、からなる鋼材から構成される、環状の本体部を備える、
圧力リング。
0.45〜0.55質量%のCと、0.15〜0.35質量%のSiと、0.65〜0.95質量%のMnと、0.80〜1.10質量%のCrと、0.25質量%以下のVと、0.010質量%未満のPと、0.02〜0.25質量%のCuと、Fe及び不可避的不純物を含む残部と、からなる鋼材から構成される、環状の本体部を備える、
圧力リング。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の圧力リングを実施するための形態を説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
(第一実施形態)
第一実施形態に係る圧力リングは、内燃機関(例えば自動車エンジン)用のピストンリングである。圧力リングは、例えば、内燃機関が備える円柱状のピストンの側面に形成されたリング溝に嵌合する。このピストンはエンジンの燃焼室(シリンダー)内に挿入される。圧力リングは、特にエンジンの熱負荷の高い環境に晒されるリングであってもよい。
【0019】
本実施形態に係る圧力リングの構造を説明する。
図6、
図7a、及び
図7bに示されるように、圧力リング11は、環状の本体部12(母材)と、第1膜14と、を備える。環状の本体部12には合口部13が形成されている。つまり、「環状」とは、必ずしも閉じた円を意味するものではない。環状の本体部12は、真円状でもよいし、楕円状でもよい。本体部12は、互いに平行に対向する平面状の側面12a、12bと、外周面12cと、内周面12dとを有する。
【0020】
本体部12は、Feを主成分とする鋼材から構成されている。鋼材とは、鉄を主成分として含有する合金材と言い換えられる。本体部12を構成する鋼材は、0.45〜0.55質量%のC(炭素)と、0.15〜0.35質量%のSi(ケイ素)と、0.65〜0.95質量%のMn(マンガン)と、0.80〜1.10質量%のCr(クロム)と、0.25質量%以下のV(バナジウム)と、0.010質量%未満のP(リン)と、Fe(鉄)及び不可避的不純物を含む残部と、からなる。
【0021】
上記鋼材を伸線して、所定の断面形状を有する線材を作製し、この線材の加工によって、本体部12は形成される。例えば、当線材をカム成形機によってリングの自由形状に成形した後、歪取りのために線材の熱処理を行う。熱処理後、リング状の線材の側面、外周、及び合口部等を研削し、さらに線材を所定のリング形状に加工することによって、本体部12が得られる。
【0022】
図7bに示されるように、第1膜14が、本体部12の側面12aに設けられている。第1膜14は、本体部12の側面12aの一部又は全部を覆っていてよい。第1膜14は、ピストン材(例えばアルミニウム)の圧力リングへの凝着を抑制する。また、第1膜14は、圧力リングにおける錆の発生を抑制する。第1膜14はリン酸塩を含む。リン酸塩は、例えば、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、及びリン酸鉄からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。第1膜14がリン酸塩のみからなってもよい。第1膜14の厚さは、例えば1.0〜5.0μmである。
【0023】
第1膜14は、例えば、本体部12の側面12aに対して化成処理を施すことによって形成されてよい。化成処理とは、調整した酸性の化成処理液に被処理材を浸漬し、材料表面での化学反応により、材料表面に固着性のある不溶性の生成物を析出させる処理のことである。例えば、化学的方法により、本体部12の側面12a又は12bの表面をリン酸塩で被覆する処理(リン酸塩処理)を意味する。リン酸塩は、例えば、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸鉄又はリン酸亜鉛カルシウムであってよい。化成処理では、例えば、本体部12を、リン酸塩を含む酸性の処理液に浸漬すると、アノード反応(溶解反応)及びカソード反応(還元反応)により本体部12の表面のpHが上昇し、不溶性の化合物が側面12a、12b及び内周面12dに析出する。または還元反応により、不溶性の化合物が本体部12の表面に直接析出する。第1膜14は、本体部12の側面12aのみに設けられていてもよく、側面12bのみに設けられていてもよい。第1膜14は、側面12a及び側面12bの両面に設けられていてよい。第1膜14が、側面12a又は12bのみならず、内周面12dに設けられていてもよい。
【0024】
以下では、本体部12を構成する鋼材に含まれる各元素について詳しく説明する。以下では、本体部12を構成する鋼材に含まれる元素のうち、残部を除く元素を「合金元素」と記す。
【0025】
Cは、Fe中に固溶し、圧力リングの強度向上に寄与する。また、Cは、炭化物を形成し、圧力リングの耐摩耗性に寄与する。鋼材中に少なくとも0.45質量%以上のCが含まれる場合、本体部12中に炭化物が形成され、圧力リングの強度及び耐摩耗性が向上する。しかしCは、N(窒素)と同様に、Feと共に侵入型固溶体を形成する元素であるため、Cの含有量が多過ぎると、ピストンリングの形成に用いる鋼材又はピストンリング自体の伸ばし加工又は絞り加工が困難になる。また、Cの含有量が多過ぎると、本体部12におけるCrの炭化物の含有量が多くなり、C及びCr各々に固有の効果が弱まる。これらの問題の発生を抑制するため、鋼材におけるCの含有量は0.55質量%以下であることが必要である。鋼材におけるCの含有量は、0.47〜0.52質量%であってもよい。
【0026】
Siは、Fe中に固溶し、圧力リングの耐熱性を向上させる。鋼材中に少なくとも0.15質量%以上のSiが含まれる場合、圧力リングの耐熱性が向上し易い。一方、鋼材におけるSiの含有量を0.35質量%以下とすることにより、圧力リングの冷間加工性の低下が抑制され、圧力リングの熱伝導率の低下も抑制される。これにより、圧力リングの摺動面(ピストンと接触する面)の昇温が抑制され、摺動面の耐焼付性が向上する。鋼材におけるSiの含有量は、0.22〜0.27質量%であってもよい。
【0027】
Mnは、鋳塊(鋼材)の製造時における脱酸剤として、鋼材中に含有される。Mnは、Siの酸化を防止し、SiのFeへの固溶を促進する。つまり、Mnは、Siの固溶に好ましい条件を整える。鋼材中に0.65質量%以上のMnが含まれる場合、含有量が少ないSiが酸化せずにFe中に固溶し、Siに係る上記効果が発揮される。一方、鋼材におけるMnの含有率を0.95質量%以下とすることにより、圧力リングの熱間加工性の低下が抑制される。鋼材におけるMnの含有量は、0.82〜0.88質量%であってもよい。
【0028】
Crは、炭化物を形成して、圧力リングに耐摩耗性を付与する。鋼材中に0.80質量%以上のCrが含まれる場合、圧力リングの耐摩耗性が向上し易い。一方、鋼材におけるCrの含有量を1.10質量%以下とすることにより、過多量の炭化物の形成に伴う圧力リングの靭性の低下が抑制される。また、圧力リングの本体部中にα−Feが多量に固溶することが抑制され、圧力リングの加工性の低下が抑制される。鋼材におけるCrの含有量は、0.95〜1.08質量%であってもよい。
【0029】
Vは、C及び/又はNと結合して本体部中の鋼の組織を微細化し、分散させ、本体部中の結晶粒の粗大化を防止する。鋼材中に0.15質量%以上のVが含まれる場合、圧力リングの強靱性が向上し易い。一方、Vは高価な元素であるため、鋼材におけるVの含有量を0.25質量%以下とすることにより、圧力リングに掛かるコストが抑制される。鋼材におけるVの含有量は、0.15〜0.25質量%又は0.15〜0.20質量%であってもよい。尚、Vは高価な元素であることから、それほど熱負荷の高くない環境下にて用いられる圧力リングの場合、鋼材におけるVの含有量は、0質量%以上0.15質量%未満であってもよい。
【0030】
鋼材におけるPの含有量を0.010質量%未満とすることにより、本体部の結晶粒界に沿ったFe3P等の析出(偏析)が抑制される。Fe3P等が偏析した場合、圧力リングの疲労強度が低下する。また、本体部(母材)に化成処理を施す際、偏析したFe3Pは酸に溶解し難いため、本体部12(側面12a)が局所的に溶解されるおそれがある。つまり、本体部12の化成処理時の反応性が局所的に悪くなり、化成処理後の本体部(側面12a)の表面粗さが大きくなる。このような問題の発生を抑制するため、鋼材におけるPの含有量は、0.010質量%未満である必要がある。圧力リングに対して安定した化成処理を施すためには、Pの含有量は、少なければ少ないほど好ましい。しかし、鋼材におけるPの含有量を低減するためには多大なコストを要する。現実的な少ないコストによって達成可能なPの含有量の下限値は、例えば、0.002質量%程度である。鋼材におけるPの含有量は、0.002〜0.009質量%、0.002〜0.008質量%、0.003〜0.009質量%、0.003〜0.008質量%、0.004〜0.009質量%、又は0.004〜0.008質量%であってもよい。
【0031】
上述のように、Pは、酸へ溶解し難いFe3Pの著しい偏析を起こし、Fe3Pの偏析は、化成処理における上記問題を起こす。この問題の発生を抑制するため、従来のリン酸マンガン系の化成処理では、反応を促進させるような処理条件の調整を必要とした。しかし、当該調整によって、第1膜14(又は側面12a及び12b)の表面粗さが大きくなってしまう。このような圧力リングをピストンに取り付けた場合、ピストンのリング溝の摩耗が増大し、ピストン材(例えばアルミニウム)が圧力リングに凝着し易くなる。
【0032】
一方、本実施形態では、Pの含有量が0.010質量%未満に予め調整されているため、化成処理における本体部12の局部的な溶解が抑制され、第1膜14(又は側面12a)の表面粗さが低減され、安定な寸法を有する圧力リングが得られる。その結果、ピストン材の圧力リングへの凝着が抑制され、また圧力リングの張力の低下を抑制することもできる。また、安定な寸法を有する圧力リングをピストンに取り付けた場合、ブローバイガスの発生が抑制される。さらに、第1膜14の表面粗さが小さく、第1膜14の厚さが均一であることによって、圧力リングの防錆機能及び初期なじみ機能が向上する。
【0033】
仮にFe3Pが本体部12内の結晶粒界に沿って析出している場合、圧力リングに対して繰り返し又は連続的に歪みを与えると、圧力リングは実際に加えられた歪みよりも大きい歪みが加えられた時と同じ挙動を示す。この挙動は、特に高温状態にある本体部12の弾性領域においても発生し得る。その結果、本体部12中に転位(線状の格子欠陥)が多数発生し、圧力リングの強度が低下するおそれがある。一方、本実施形態においては、Pの含有量が0.010質量%未満であるため、Fe3Pの偏析が抑制され、歪みに起因する圧力リングの強度の低下が抑制される。
【0034】
上記鋼材は、不可避的に残部としてS(硫黄)を含む場合がある。鋼材がSを含有すると、FeSが偏析して、本体部12の化成処理時の反応性が悪化する。したがって、Sの含有量は、Pと同様に、少なければ少ないほど好ましい。Sに係る上記問題の発生を抑制するためには、鋼材におけるSの含有量は、例えば、0.002〜0.020質量%であればよい。鋼材におけるSの含有量が0.002〜0.020質量%であることによって、FeSの偏析が抑制され、本体部12の化成処理時の反応性の低下が抑制される。0.002質量%というSの含有量は、現実的な少ないコストによって達成可能な下限値である。鋼材におけるSの含有量と、上述のPの含有量とを調整することによって、本体部12の化成処理時の反応性を大きく改善させる相乗効果を得ることが可能になる。鋼材におけるSの含有量は、0.002〜0.015質量%であってもよく、0.002〜0.016質量%であってもよく、0.008〜0.020質量%であってもよく、又は0.008〜0.015質量%であってもよい。
【0035】
エンジンの燃焼室壁の温度を低下させるためには、圧力リングの高い熱伝導性が要求される。圧力リングの熱伝導機能は、本体部12を構成する鋼材の熱伝導率、並びに第1膜の熱伝導率及び形状等に依存する。鋼材の熱伝導率は、鋼材に含まれる合金元素の含有量に依存する。下記表1に、鋼材に含まれる合金元素の含有量、窒素の含有量、これ等の含有率の和(組成和)、及び200℃における各鋼材の熱伝導率を示す。各鋼材の熱伝導率と組成和との関係を、
図5に示す。なお、下記表1中の鋼材A〜Gのうち、鋼材C以外の鋼材の組成は、本実施形態に係る本体部を構成する鋼材の要件を満たすものではない。表1及び
図5に示されるように、鋼材における組成和が少ないほど鋼材の熱伝導率が高い。
【0037】
本体部12を構成する鋼材に含まれる合金元素の含有量は、圧力リングの熱ヘタリ率(thermal settling ratio)に影響する。熱ヘタリ率とは、JIS B 8032−5に基づく圧力リングの接線張力の減退率(接線張力減退度)である。鋼材における合金元素量の減少に伴って、圧力リングの熱ヘタリ率が高くなる傾向にある。圧力リングの熱ヘタリ率が高い場合、熱負荷の高い環境では圧力リングの張力の減退、及び圧力リングの変形等が起こり易くなる。熱ヘタリ率は、約300℃程度の高温に晒されても圧力リングの機能を維持できる程度に小さいことが好ましい。したがって、鋼材の選定にあたっては、熱伝導率のみならず、熱ヘタリ率及び疲労強度等が考慮されてもよい。例えば、圧力リング11の熱伝導率が35W/m・K以上であり、300℃で3時間加熱した後の圧力リング11の接線張力の減退率が、4%以下であってよい。35W/m・Kという熱伝導率は、従来の片状黒鉛鋳鉄から構成される従来のピストンリングの熱伝導率に匹敵する優れた値である。4%以下である熱ヘタリ率は、Si−Cr鋼の熱ヘタリ率と同程度である。なお、JIS B 8032−5では、300℃で3時間加熱されたスチールリングの線張力減退度は8%以下であると規定されている。
【0038】
鋼材のコストは、一般に合金元素量が少ないほど安価である。市場経済の観点からいえば、大量生産されている鋼材ほど安価である。本実施形態に係る圧力リングがピストンリングのような自動車部品に用いられる場合、圧力リングには、優れた特性だけでなく、競争力のある価格も要求されている。すなわち、いかに圧力リングの製造コストを低減できるかを考慮してもよい。
【0039】
本体部12の金属組織(鋼材の金属組織)は、焼戻マルテンサイトマトリックス(焼戻マルテンサイト基地)と、焼戻マルテンサイトマトリックス中に分散した複数の球状セメンタイトと、を有してよい。球状セメンタイトの平均粒径は0.1〜1.5μmであってよい。当該金属組織を有する鋼材における合金元素の総量は少ないため、鋼材の熱伝導率が高い。しかし、このような鋼材におけるCrとVとの含有量は僅かであるため、本体部の熱ヘタリ率が高くなる場合がある。熱伝導率が高い鋼材の熱ヘタリ率を低減するために、圧力リングの製造過程において、上記鋼材から形成した線材のオイルテンパー処理を行う前に、線材を焼鈍し、線材中に球状セメンタイトを析出させてもよい。オイルテンパー処理とは、鋼材の伸線工程の最終段階で行う処理である。また、オイルテンパー処理の条件を最適化することにより、線材中の焼戻マルテンサイトマトリックス中に比較的大きな球状セメンタイトを適量分散させてもよい。球状セメンタイトの一種として、例えばオイルテンパー処理が施されるバネ鋼の残留セメンタイトがある。残留セメンタイトは応力の集中源であって、鋼線の機械的性質を低下させる一因である。しかしながら、球状セメンタイトが圧力リングの本体部中に分散されている場合、本体部の熱ヘタリ率が低減する。オイルテンパー後の金属組織における焼戻マルテンサイトマトリックス中に残った球状セメンタイトによって結晶格子の歪みが生じるため、300℃でも転位の移動及びクリープが抑制され、その結果熱ヘタリ率が低減される、と推測される。
【0040】
球状セメンタイトの平均粒径が0.1μm以上である場合、球状セメンタイトは、オイルテンパー処理の一部である溶体化処理において、オーステナイト中に溶け込まない。このため、平均粒径が0.1μm以上である球状セメンタイトは、完成後の圧力リングの本体部の断面において観測される。球状セメンタイトの平均粒径が1.5μm以下である場合、球状セメンタイトに起因する本体部の疲労破壊が抑制される。つまり、圧力リングの疲労強度の低減が抑制される。球状セメンタイトの平均粒径は、0.4〜1.2μm、0.8〜1.2μm、又は0.5〜1.0μmであってもよい。
【0041】
金属組織(焼戻マルテンサイトマトリックス)の断面における球状セメンタイトの面積の占有率は、1〜6%であってよい。この占有率は、金属組織の断面に現れる顕微鏡組織の観察によって測定される。球状セメンタイトの面積の占有率が上記範囲内である場合、圧力リング11の熱伝導率が35W/m・K以上となり易く、圧力リング11の熱ヘタリ率も4%以下になり易い。合金における熱伝導率は、主に合金を構成する金属の結晶粒内の自由電子の運動に支配される。このため、固溶元素が少ないほど合金の熱伝導率は向上する。本実施形態に係る本体部12の金属組織では、固溶強化性を有するSiの含有量が、従来のSi−Cr鋼に比べて少なく、且つ侵入型固溶体を形成するCの含有量が0.55質量%以下である。したがって、圧力リング11の熱伝導率は、従来のSi−Cr鋼の熱伝導率よりも高い、と考えられる。なお従来のSi−Cr鋼は、圧力リングを構成する鋼材として使用されており、従来のSi−Cr鋼の熱伝導率は31W/m・K程度である。
【0042】
圧力リング11が上記金属組織を有する鋼材から構成される本体部12を備えるため、圧力リング11の高い熱伝導率と小さい熱ヘタリ率とが両立する。つまり、高圧縮比エンジンのような熱負荷の高い環境においても、圧力リング11の張力は減退し難く、圧力リング11が、ピストンヘッドの熱を、冷却されたシリンダー壁に効率良く逃すことができる。したがって、点火時期を遅らせるような調整をすることなくノッキングを抑制でき、高い熱効率でエンジンを駆動させることができる。また、高い熱伝導率を有する圧力リングを用いることによって、ピストンのリング溝の温度を下げることもできる。これにより、リング溝の摩耗が一層抑制され、ピストン材(例えばアルミニウム)の圧力リングへの凝着が一層抑制される。
【0043】
第1膜14の表面粗さRzは、4.5μm以下、4.0μm以下、3.7μm以下、3.5μm以下、3.3μm以下、3.1μm以下、又は3.0μm以下であってもよい。第1膜14の表面粗さRzが上記範囲である圧力リング11をピストンに取り付けた場合、ピストンのリング溝の摩耗が抑制され易く、リング溝の摩耗に伴うピストン材の圧力リングへの凝着が抑制され易い。表面粗さRzは、JIS B0601:1982に基づいて測定される。
【0044】
本体部12の外周面12cに対して、様々な表面処理が行われていてよい。表面処理により、本体部12の耐摩耗性又は耐スカッフ性が向上する。例えば、表面処理によって、本体部12の外周面12c(外周摺動面)に、第2膜15を設けてよい。第2膜15は、本体部12の外周面12cの一部又は全体を覆っていてよい。第2膜15は、窒化チタン(Ti−N)膜、窒化クロム(Cr−N)膜、炭窒化チタン(Ti−C−N)膜、炭窒化クロム(Cr−C−N)膜、クロム(Cr)膜、チタン(Ti)膜、及びダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜からなる群より選ばれる少なくとも一つの膜であってよい。第2膜15は、窒化チタン膜、窒化クロム膜、炭窒化チタン膜、炭窒化クロム膜、クロム膜、チタン膜、及びダイヤモンドライクカーボン膜からなる群より選ばれる複数の膜を含んでよい。つまり、第2膜15は、積み重なった、組成の異なる複数の膜を含んでよい。なお、第2膜15の代わりに第1膜14が本体部12の外周面12cに設けられてよい。また、本体部12の側面12a、12b、外周面12c及び内周面12dの全てに第1膜14が設けられてよい。つまり、本体部12の表面全体に第1膜14が設けられてよい。
【0045】
圧力リング11と摺動する相手材又は圧力リング11の使用環境等に応じて、表面処理の方法、及び第2膜15の組成は選択される。第2膜15がクロム膜を含む場合、圧力リング11の熱伝導率が向上し易い。第2膜15が窒化クロム膜を含む場合、圧力リング11の耐摩耗性及び耐スカッフ性が向上し易い。アルミニウムシリンダーに挿入されるピストンに圧力リング11を用いる場合、第2膜15としてはDLC膜が適している。
【0046】
第2膜15の厚さは、例えば10〜40μmである。第2膜15は、例えば、イオンプレーティング法等のPVD法(Physical Vapor Deposition)、めっき又は窒化処理によって形成される。
【0047】
(第二実施形態)
第二実施形態に係る圧力リングは、本体部を構成する鋼材がCuを含有する点を除いて、第一実施形態に係る圧力リングと同様である。以下には、第二実施形態に係る圧力リングに固有の特徴のみを記載する。
【0048】
第二実施形態に係る圧力リングが備える本体部12は、0.45〜0.55質量%のCと、0.15〜0.35質量%のSiと、0.65〜0.95質量%のMnと、0.80〜1.10質量%のCrと、0.25質量%以下のVと、0.010質量%未満のPと、0.02〜0.25質量%のCu(銅)と、Fe及び不可避的不純物を含む残部と、からなる鋼材から構成される。鋼材におけるCuの含有量は、0.02〜0.25質量%、0.02〜0.20質量%、0.02〜0.16質量%、0.04〜0.25質量%、0.04〜0.20質量%、0.04〜0.16質量%、又は0.16〜0.25質量%であってもよい。
【0049】
第二実施形態に係る圧力リングの製造では、第一実施形態と同様に、鋼材の伸線によって線材を作製する。この線材中に過飽和状態で固溶しているCuは、線材の焼入れ及び焼戻しを行った後、
図8に示されるように、Cu21の単体として結晶粒界に析出する。結晶粒界に析出したCuは非常に柔らかいため、隣り合う結晶粒22同士を整合させる機能を示す。このようなCu単体が析出した線材から本体部12を形成することにより、金属疲労による本体部12の破壊(疲労破壊)の発生が抑制される。Cuは300℃程度の高温下においても析出し易いため、高温下における圧力リングの疲労強度が向上する。以上のようなCuに係る効果を得るためには、鋼材におけるCuの含有量が0.02質量%以上であることが必要である。同様の理由から、鋼材におけるCuの含有量は0.04質量%以上であることが好ましい。鋼材におけるCuの含有量が0.25質量%以下である場合、第1膜14を形成するための化成処理時の反応性が向上し易く、また第2膜15を形成するためのCrメッキの際の本体部12の反応性も向上し易い。
【0050】
Cuは、圧力リング11の耐食性を向上させる。上記鋼材がCuを含有することにより、鋼材中において、Cuを含む非晶質皮膜がFe相の表面に形成される。この非晶質皮膜は、圧力リングの耐食性を向上させる。圧力リング11の製造過程において、Cuを含む非晶質皮膜が鋼材の表面における錆の発生を抑制する。また、Cuを含む非晶質皮膜は、化成処理における本体部12の反応性を緩和し、本体部12の局部的な反応が抑制される。その結果、本体部12の表面(側面12a又は12b)に形成されるピット(喰われ)の数が少なくなると共にピットの深さが浅くなる。したがって、腐食ピット(切り欠き)に起因する疲労強度の低減が抑制される。またピットの低減により、圧力リングのピストン溝への攻撃性が緩和され、ピストン溝の摩耗が抑制される。
【実施例】
【0051】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1〜4、比較例1)
下記表2に示す組成を有する鋼材J1、J2、J3、J4及びC1其々を用いて、下記の方法で圧力リングを作製した。なお、いずれの鋼材も、下記表2に示す元素以外に、当然に鉄を含む。鋼材J1を用いた圧力リングは実施例1である。鋼材J2を用いた圧力リングは実施例2である。鋼材J3を用いた圧力リングは実施例3である。鋼材J4を用いた圧力リングは実施例4である。鋼材C1を用いた圧力リングは比較例1である。鋼材C1はSUP10に相当する。以下では、場合により、実施例1をJ1と記し、実施例2をJ2と記し、実施例3をJ3と記し、実施例4をJ4と記し、比較例1をC1と記す。
【0053】
鋼材に対して伸線工程を施した。伸線工程では、900℃での熱処理、600℃でのパテンチング処理、酸洗処理、伸線処理、加熱処理、700℃での焼鈍処理、酸洗処理、伸線処理、及びオイルテンパー処理を、この順序で実施した。オイルテンパー処理では、930℃での鋼材の加熱、オイル中での鋼材の焼入、及び焼き戻しを、この順序で実施した。
【0054】
上記の伸線工程により、矩形状の断面を有する線材を得た。線材の断面の厚さは1.0mmであり、断面の幅は2.3mmであった。線材を成形して、直径が73mmφである環状の本体部を作製した。イオンプレーティングにより、CrN膜(第2膜)を本体部の外周面に形成した。また、化成処理により、リン酸マンガンを含む第1膜を本体部の側面に形成した。
【0055】
以上の工程を得て、圧力リングを作製した。
【0056】
各圧力リングの第1膜の表面粗さRz、及び第1膜を除去した後の本体部の側面の表面粗さRzを測定した。測定結果を表2に示す。表2の「化成処理直後」の欄に記載された数値は、第1膜の表面粗さである。表2の「皮膜除去後」の欄に記載された数値は、第1膜を除去した後の本体部の側面の表面粗さである。
【0057】
下記表2に示すように、実施例1〜4の第1膜の表面粗さは、比較例1の第1膜の表面粗さよりも小さいことが確認された。また、実施例1〜4の第1膜を除去した後の本体部の側面の表面粗さは、比較例1の第1膜を除去した後の本体部の側面の表面粗さよりも小さいことが確認された。
【0058】
各圧力リングの本体部の側面に垂直な断面を観察して、側面(本体部の側面と第1膜との界面)の平滑性及び側面におけるピット(喰われ)の数を評価した。実施例1及び2の側面は、実施例3及び4の側面よりも平滑であった。実施例1及び2の側面におけるピット(喰われ)の数は、実施例3及び4の側面におけるピットの数よりも少なかった。実施例3及び4の側面は、比較例1の側面よりも平滑であった。実施例3及び4の側面におけるピット(喰われ)の数は、比較例1の側面におけるピットの数よりも少なかった。比較例1の側面は、実施例1〜4の側面よりも粗かった。比較例1の側面におけるピットの数は、実施例1〜4の側面におけるピットの数よりも多かった。
【0059】
[リング溝の摩耗試験、及びアルミニウムの凝着試験]
各圧力リング、及び
図4に示す装置(株式会社リケン製のトライボリック4)を用いて、下記のリング溝の摩耗試験、及びアルミニウムの凝着試験を行った。
【0060】
圧力リング3を回転台2上に載置し、圧力リング3の中心と回転台2の回転軸を一致させた。回転台2を低速で一方向に回転させ、ヒーター5、熱電対6及び温度調節器7を用いて、ピストン材4の温度を240℃に調節し、ピストン材4を一定の周期で回転台2の回転軸方向に往復動させた。このような操作により、圧力リング3の側面をピストン材4の表面に接触させて、圧力リング3の側面、及びピストン材4の表面に対して周期的に面圧負荷を加えた。つまり、
図4に示す面圧荷重サイクルを繰り返した。面圧荷重の振れ幅は1.1MPaに調整した。ピストン材としては、アルミ合金鋳物であるAC8A材を用いた。試験開始前に、ピストン材4の表面に接触する圧力リング3表面に潤滑剤を塗布した。潤滑剤としては、無添加ベースオイルSAE30を用いた。以上の試験方法は、リング溝の摩耗試験、及びアルミニウムの凝着試験に共通する。
【0061】
リング溝の摩耗試験では、回転台2の回転及びピストン材4の往復動を1時間繰り返した。その後、圧力リング3との摺動によって形成されたピストン材4の表面における溝の深さを測定した。この溝の深さを、リング溝の磨耗量とみなした。各圧力リングを用いた場合のリング溝の磨耗量を下記表2に示す。
【0062】
下記表2に示すように、実施例1〜4のリング溝の磨耗量は、比較例1のリング溝の磨耗量の半分未満であった。
【0063】
アルミニウムの凝着試験では、ピストン材4に含まれるアルミニウムが圧力リング3に凝着するまで、回転台2の回転及びピストン材4の往復動を繰り返した。そして、アルミニウムが圧力リング3に凝着するまでのピストン材4の往復動の回数を測定した。測定結果を下記表2に示す。アルミニウムが圧力リング3に凝着する時点では、回転台2のトルクが変動し、またピストン材4の温度も急上昇する。この時点までのピストン材4の往復動の回数が多いことは、ピストン材4が圧力リング3に凝着し難いことを意味する。また、ピストン材4の往復動の回数が多いことは、ピストン材4の寿命が長いことを意味する。
【0064】
下記表2に示すように、実施例1〜4のピストン材4の往復動の回数は、比較例1のピストン材4の往復動の回数よりも多かった。
【0065】
【表2】
【0066】
実施例1の線材の断面における金属組織を走査電子顕微鏡によって観察した。実施例1の金属組織(顕微鏡組織)の画像を
図1に示す。観察の結果、実施例1の金属組織は、焼戻マルテンサイト基地と、焼戻マルテンサイト基地中に分散した複数の微細な球状セメンタイト1と、を有することが確認された。画像中の球状セメンタイト1であった。また、この金属組織の画像を拡大して解析することにより、球状セメンタイトの平均粒径を求めた。平均粒径は、約3000〜5000個の球状セメンタイトの粒径の平均である。同様の方法で、金属組織の断面における球状セメンタイトの面積の占有率(面積率)を測定した。測定された平均粒径及び面積率を下記表3に示す。
【0067】
比較例1の線材の断面における金属組織を走査電子顕微鏡によって観察した。比較例1の金属組織(顕微鏡組織)の画像を
図2に示す。観察の結果、比較例1の金属組織は、均一な焼戻マルテンサイトマトリックスであった。比較例1の金属組織において球状セメンタイトは観察されなかった。
【0068】
(実施例5、6)
オイルテンパー処理において焼入前の加熱温度を980℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例5(J5)の圧力リングを作製した。オイルテンパー処理において焼入前の加熱温度を820℃に調整したこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例6(J6)の圧力リングを作製した。オイルテンパー処理における焼入前の加熱温度の調整は、焼戻マルテンサイト基地と、焼戻マルテンサイト基地中に分散する球状セメンタイトと、を有する鋼材の金属組織を形成することを目的とするものである。
【0069】
実施例5及び6の線材の断面における金属組織を走査電子顕微鏡によって観察した。観察の結果、実施例5及び6其々の金属組織は、焼戻マルテンサイト基地と、焼戻マルテンサイト基地中に分散した複数の微細な球状セメンタイトと、を有することが確認された。実施例1と同様の方法で、実施例5及び6其々の球状セメンタイトの平均粒径を求めた。実施例1と同様の方法で、実施例5及び6其々の金属組織の断面における球状セメンタイトの面積の占有率(面積率)を測定した。測定された平均粒径及び面積率を下記表3に示す。
【0070】
(比較例2〜4)
比較例2の圧力リングの作製では、鋼材として、比較例1と同じ鋼材C1(SUP10相当材)を用いた。比較例2の伸線工程では、焼鈍処理の代わりに、600℃でのパテンチング処理を行った。つまり、比較例2では、2度のパテンチング処理を行った。これらの事項以外は実施例1と同様の方法で、比較例2(C2)の圧力リングを作製した。鋼材としてSi−Cr鋼(JIS SWOSC−V)を用いたこと以外は比較例2と同様の方法で、比較例3(C3)の圧力リングを作製した。鋼材として硬鋼線(JIS SWRH62A)を用いたこと以外は比較例2と同様の方法で、比較例4(C4)の圧力リングを作製した。
【0071】
[熱伝導率の測定]
実施例1、5、6及び比較例2〜4其々の圧力リングの熱伝導率を、レーザーフラッシュ法により測定した。測定結果を下記表3に示す。下記表3に示すように、実施例1、5及び6の熱伝導率は、比較例2の熱伝導率と同程度であった。実施例1、5、6の熱伝導率は、比較例3の熱伝導率よりも高く、比較例4の熱伝導率よりも低かった。これらの測定結果から、圧力リングの熱伝導率は、圧力リングの作製に用いる鋼材の組成(鋼材中の合金元素量)に依存することが確認された。
【0072】
[熱ヘタリ試験]
実施例1、5、6及び比較例2〜4其々の圧力リングを用いた下記の熱ヘタリ試験を行った。
【0073】
熱ヘタリ試験とは、JIS B 8032−5に基づいた、圧力リングの接線張力の減退率を測定する試験である。熱ヘタリ試験では、最初に圧力リングの接線張力を測定した。次に、圧力リングの合口部を閉じて、圧力リングを300℃で3時間加熱した。加熱後、再び圧力リングの接線張力を測定した。これらの測定結果から、加熱に伴う接線張力の減退率(接線方向張力減退度)を求めた。
【0074】
各圧力リングを用いた上記試験を5回実施して接線張力の減退率を求めて、これらの平均値を求めた。各実施例及び比較例の接線張力の減退率の平均値(熱ヘタリ率)を下記表3に示す。また、比較例2の熱ヘタリ率を100としたときの、各実施例及び比較例の熱ヘタリ率の相対値を、下記表2の「対比」の欄に示す。
【0075】
実施例1、5及び6の熱伝導率は、比較例2の熱伝導率と同程度であるにもかかわらず、実施例1、5及び6の熱ヘタリ率は、比較例2の熱ヘタリ率よりも低かった。実施例1及び6の熱ヘタリ率は、目標値である4%以下であった。なお、実施例1及び6では、5回測定された接線張力の減退率のバラツキが小さかった。
【0076】
熱ヘタリ率と熱伝導率の関係を
図3に示す。
図3に示すに、比較例2〜4は、熱伝導率の増加に伴い熱ヘタリ率が増加する傾向を示している。
図3は、実施例1及び6の熱伝導率は、比較例2の熱伝導率と同程度であるにもかかわらず、実施例1及び6の熱ヘタリ率は比較例2の熱ヘタリ率よりも低いことを明示している。
【0077】
【表3】
【0078】
(実施例11〜14、比較例11)
下記表4に示す組成を有する鋼材J11、J12、J13、J14及びC11其々を用いて、圧力リングを作製した。なお、いずれの鋼材も、下記表4に示す元素以外に、当然に鉄を含む。鋼材J11を用いた圧力リングは実施例11である。鋼材J12を用いた圧力リングは実施例12である。鋼材J13を用いた圧力リングは実施例13である。鋼材J14を用いた圧力リングは実施例14である。鋼材C11を圧力リングは比較例11である。以下では、場合により、実施例11をJ11と記し、実施例12をJ12と記し、実施例13をJ13と記し、実施例14をJ14と記し、比較例11をC11と記す。
【0079】
実施例11〜14及び比較例11其々の圧力リングの作成方法は、鋼材の組成を除いて実施例1と同じであった。
【0080】
各圧力リングの第1膜の表面粗さRz、及び第1膜を除去した後の本体部の側面の表面粗さRzを測定した。測定結果を表4に示す。表4の「化成処理直後」の欄に記載された数値は、第1膜の表面粗さである。表4の「皮膜除去後」の欄に記載された数値は、第1膜を除去した後の本体部の側面の表面粗さである。
【0081】
下記表4に示すように、実施例11〜14の第1膜の表面粗さは、比較例11の第1膜の表面粗さよりも小さいことが確認された。また、実施例11〜14の第1膜を除去した後の本体部の側面の表面粗さは、比較例11の第1膜を除去した後の本体部の側面の表面粗さよりも小さいことが確認された。
【0082】
各圧力リングの本体部の側面に垂直な断面を観察して、側面(本体部の側面と第1膜との界面)の平滑性及び側面におけるピット(喰われ)の数を評価した。実施例11〜13の側面は、実施例14の側面よりも平滑であった。実施例11〜13の側面におけるピット(喰われ)の数は、実施例14の側面におけるピットの数よりも少なかった。実施例14の側面は、比較例11の側面よりも平滑であった。実施例14の側面におけるピット(喰われ)の数は、比較例11の側面におけるピットの数よりも少なかった。比較例11の側面は、実施例11〜14の側面よりも粗かった。比較例1の側面におけるピットの数は、実施例11〜14の側面におけるピットの数よりも多かった。
【0083】
実施例11〜14及び比較例11其々の化成処理直前の本体部の幅W0を測定した。幅W0とは、第1膜が形成されるべき本体部の側面の幅である。実施例11〜14及び比較例11其々の化成処理直前の本体部の厚さT0を測定した。厚さT0とは、本体部の側面に垂直な方向における本体部の厚さである。
【0084】
実施例11〜14及び比較例11其々の圧力リングから第1膜を除去した後の本体部の幅W1を測定した。幅W1は、幅W0に対応する。実施例11〜14及び比較例11其々の圧力リングから第1膜を除去した後の本体部の厚さT1を測定した。厚さT1は、厚さT0に対応する。
【0085】
各実施例及び比較例の(W0−W1)を、下記表4の「リング幅寸法」の欄に記載する。各実施例及び比較例の(T0−T1)を、下記表4の「リング厚さ寸法」の欄に記載する。(W0−W1)及び(T0−T1)は、化成処理に伴う本体部の寸法の変化量を意味する。下記表4に示すように、実施例11〜14の寸法の変化量は、比較例11の寸法の変化量よりも小さいことが確認された。
【0086】
[圧力リングの疲労試験]
実施例11〜14及び比較例11其々の圧力リングを用いて、下記の疲労試験を行った。
【0087】
圧力リングの疲労試験では、
図9に示される装置を用いた。
図9に示されるように、装置30は、圧力リング31を固定する固定部34と、稼働部35と、圧力リング31を加熱するヒーター36とを備える。疲労試験では、まず合口部33に位置する圧力リング31の一方の端部33aを、固定部34に取り付けた。また、合口部33に位置する圧力リング31の他方の端部33bを、稼働部35に取り付けた。圧力リング31の温度を室温に維持した状態で、圧力リング31の合口部33を開閉するように、稼働部35を矢印35aの方向に沿って往復動させた。稼働部35の往復動を10
7回繰り返した。往復動を繰り返した後、合口部33を広げるような応力を稼働部35において圧力リング31に加えた。応力を徐々に増加させて、圧力リング31の本体部において合口部33の反対側に位置する部分32eに疲労亀裂が発生した時の応力(疲労限度応力)を測定した。室温での各圧力リングの疲労限度応力を、下記表4に示す。
【0088】
圧力リング31の温度をヒーター36によって300℃に維持したこと以外は上記と同様の方法で、300℃での各圧力リングの疲労限度応力を測定した。測定結果を下記表4に示す。
【0089】
下記表4に示すように、300℃での実施例11〜14の疲労限度応力は、300℃での比較例11の疲労限度応力よりも大きいことが確認された。つまり、実施例11〜14の圧力リングでは、比較例11の圧力リングに比べて、高温下における疲労破壊の発生が抑制されたことが確認された。
【0090】
【表4】