【文献】
金属元素の物理的性質一覧表,日本,日本金属化学株式会社[オンライン],2012年 5月31日,P1-2,URL,http://www.nikkin-flux.co.jp/technology/up_img/1338425712-232811.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6は、従来のイオンビーム断面加工装置1の構成を模式的に示す図である。イオンビーム断面加工装置1では、試料Sを冷却しながら試料Sをイオンビームで加工することができる。すなわち、イオンビーム断面加工装置1は、いわゆるクライオイオンビーム断面加工装置である。
【0006】
イオンビーム断面加工装置1は、
図6に示すように、イオン源2と、遮蔽板4と、熱伝導性基板(試料保護部材)6と、試料ホルダー8と、を含んで構成されている。
【0007】
イオン源2は、イオンビームIBを発生させる。イオンビームIBは、例えばArイオンビームである。遮蔽板4は、試料Sの一部を遮蔽するための部材であり、高融点材料からなる。熱伝導性基板6は、イオンビームIBの照射により試料Sに発生する熱を放熱する。熱伝導性基板6は、イオンビームIBの照射による温度上昇が原因で試料Sの破壊や変質が引き起こされることを防止するために設けられたものである。熱伝導性基板6は、冷却手段(図示せず)により冷却されている。熱伝導性基板6は、イオンビームIBの照射により切削される。熱伝導性基板6の材質は、例えば、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、ガラスなどである。試料ホルダー8は、試料Sを保持するための部材であり、図示の例では熱伝導性基板6を介して試料Sを保持している。
【0008】
イオンビーム断面加工装置1による試料の加工方法について説明する。
【0009】
まず、試料Sが固定された熱伝導性基板6を試料ホルダー8に取り付ける。そして、試料ホルダー8を、イオンビーム断面加工装置1の試料ステージ(図示せず)に差し込む。次に、遮蔽板移動機構(図示せず)を用いて遮蔽板4の位置調整を行い、試料Sの断面加工位置を決定する。遮蔽板4の位置調整が完了したら、イオンビームIBを試料Sに照射して、試料Sの断面加工を行う。
【0010】
熱伝導性基板6の、遮蔽板4の先端部から突き出た部分は、遮蔽板4で覆われていないため、イオンビームIBによって徐々に切削される。熱伝導性基板6が切削されて試料S
が露出すると、試料SにイオンビームIBが照射され、試料Sが徐々に切削される。このとき、冷却手段(図示せず)で冷却されている熱伝導性基板6によって、試料Sは冷却される。このように試料Sは冷却されながら切削され、最終的に遮蔽板4の先端部と同じ位置まで切削される。
【0011】
上記の例では、イオンビームIBの照射により試料Sに発生した熱を熱伝導性基板6により除熱しているが、試料Sが有機材料等の熱伝導率が低い材料からなる場合、その効果が低減してしまう。試料Sが熱伝導率が低い材料である場合、試料Sを冷却しながらイオンビームIBで加工しても、試料S中に熱が蓄積してしまう。これにより、試料Sが本来の形態を保つことができずに形態が変化してしまうなど、試料に熱による損傷が生じてしまう。
【0012】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、試料の熱損傷を低減することができる加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明に係る加工方法は、
熱伝導性を有する材料を、試料に含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程の後に、
前記試料を、熱伝導性基板に取り付ける試料取付工程と、
前記熱伝導性基板および前記試料に跨がる熱伝導性箔を取り付ける箔取付工程と、
前記試料が取り付けられた前記熱伝導性基板を試料ホルダーに取り付け、前記試料ホルダーを試料ステージに取り付ける試料ホルダー取付工程と、
前記熱伝導性基板に取り付けられた前記試料を冷却しつつ前記試料にイオンビームを照射して、前記試料を加工する加工工程と、
を含
み、
前記試料取付工程では、
前記熱伝導性基板の第1面に、前記試料を取り付け、
前記箔取付工程では、
前記熱伝導性基板の前記第1面および前記試料の前記熱伝導性基板側とは反対側の第2面に跨がるように、前記熱伝導性箔を取り付け、
前記加工工程では、
前記試料の一部を遮蔽板で覆い、前記遮蔽板側から前記試料に前記イオンビームを照射して、前記試料の前記遮蔽板に遮蔽されていない部分を切削し、
前記試料と前記遮蔽板との間に配置された前記熱伝導性基板を冷却することにより、前記試料を冷却し、
前記試料ホルダーには、液体窒素収容容器から供給される液体窒素が流れる液体窒素用管が接しており、前記液体窒素用管に液体窒素を供給することによって、前記熱伝導性基板を冷却する。
【0014】
このような加工方法では、熱伝導性を有する材料を試料に含浸させることにより、例えば試料に熱伝導性を有する材料を含浸させる前と比べて、熱伝導率を高めることができる。そのため、このような加工方法では、加工工程において試料の冷却効果を高めることができ、試料に熱が蓄えられることを抑えることができる。したがって、このような加工方法によれば、試料の熱損傷を低減することができる。
【0015】
(2)本発明に係る加工方法において、
前記材料は、染色剤であり、
前記含浸工程では、前記染色剤を用いて、前記試料を電子染色してもよい。
【0016】
このような加工方法では、含浸工程において、染色剤を用いて試料を電子染色するため、試料の冷却効果を高めることができるとともに、電子顕微鏡等で試料の観察を行う際に、コントラストの付いた良好な像を得ることができる。
【0017】
(3)本発明に係る加工方法において、
前記染色剤は、四酸化ルテニウム、四酸化オスミウム、または酢酸ウランであってもよい。
【0018】
このような加工方法では、試料を良好に電子染色することができるとともに、試料の熱伝導率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0027】
図1は、本実施形態に係る加工方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態では、熱による損傷を受けやすい試料を加工する例について説明する。このような試料としては、例えば、ポリマー試料や、生物試料などの有機材料を含んで構成される試料が挙げられる。
【0028】
まず、熱伝導性を有する材料を試料に含浸させる(ステップS10)。
【0029】
ここで、材料を試料に含浸させるとは、試料に材料を浸して含ませることをいう。試料に含浸させる材料は、試料よりも高い熱伝導率を有している。
【0030】
本工程では、試料に含浸させる材料として、例えば、熱伝導性を有する染色剤を用いる。このような染色剤としては、例えば、四酸化ルテニウム、四酸化オスミウム、酢酸ウランなどが挙げられる。なお、本工程で用いられる染色剤はこれらに限定されず、試料に応じて適宜選択することができる。本工程で試料に含浸させる材料としては、さらに、過マンガン酸カリウム、クエン酸鉛、アスパラギン酸鉛等が挙げられる。
【0031】
本工程では、上記の染色剤を用いて、試料を電子染色する。ここで、電子染色とは、試料の特定の部位に電子の散乱を促す物質(重金属等)を吸着または結合させることをいう
。
【0032】
例えば試料を四酸化ルテニウムで電子染色する場合、まず、適切な量に薄められた四酸化ルテニウムの溶液をビーカー等に入れ、この溶液中に、一定時間、試料を浸漬させる。そして、電子染色された試料をビーカーから取り出して乾燥させる。以上の工程により、試料を電子染色することができる。
【0033】
試料を電子染色することにより、例えば試料を電子染色する前と比べて、熱伝導率を高めることができる。すなわち、電子染色された試料の熱伝導率は、電子染色される前の試料の熱伝導率よりも高い。
【0034】
なお、上記では、染色剤を用いて試料を電子染色することにより、熱伝導率を高める例について説明したが、試料に含浸させる材料は、染色剤に限定されない。試料に含浸させる材料は、上述したように試料に含浸させることで熱伝導率を高めることができる材料であればよい。
【0035】
次に、イオンビーム断面加工装置を用いて、電子染色された試料を加工する。ここでは、まず、本実施形態に係る加工方法で用いるイオンビーム断面加工装置の構成について説明する。
【0036】
図2は、本実施形態に係る加工方法で用いるイオンビーム断面加工装置100の一例を模式的に示す図である。イオンビーム断面加工装置100は、
図2に示すように、イオン源10と、遮蔽板20と、熱伝導性基板30と、試料ホルダー40と、試料ステージ50と、を含んで構成されている。
【0037】
イオン源10は、イオンビームIBを発生させる。イオンビームIBは、例えばArイオンビームである。なお、イオンビームIBは、Arイオンビームに限定されず、イオンの種類としては、He、Ne、Kr、Xe、Ga等を用いることができる。イオンビーム断面加工装置100では、レンズ系による集束作用を受けないブロードイオンビームを用いて、試料Sの加工を行う。
【0038】
遮蔽板20は、試料Sの一部を遮蔽するための部材であり、高融点材料からなる。
【0039】
熱伝導性基板30は、熱伝導性を有する基板である。熱伝導性基板30は、例えば、板状である。熱伝導性基板30は、試料で発生した熱を拡散させる。試料で発生した熱は、熱伝導性基板30を介して、試料ホルダー40に伝達される。熱伝導性基板30の熱伝導率は、電子染色された試料Sの熱伝導率よりも高いことが望ましい。
【0040】
熱伝導性基板30は、
図2に示すように、試料Sと遮蔽板20との間に配置される。図示の例では、熱伝導性基板30の上面31aには遮蔽板20が当接され、熱伝導性基板30の下面31bには試料Sが当接されている。熱伝導性基板30は、イオンビームIBの照射により切削される。
【0041】
熱伝導性基板30の材質は、試料Sで発生した熱を効率よく試料ホルダー40に伝達することができる熱伝導性の良い材料であり、かつ、イオンビームIBによる選択エッチングが生じないようにアモルファスもしくは単結晶であることが望ましい。熱伝導性基板30の材質は、例えば、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボンなどである。
【0042】
試料ホルダー40は、試料Sを保持するための部材であり、図示の例では熱伝導性基板
30を介して試料Sを保持している。試料ホルダー40には、液体窒素用管43が接している。液体窒素用管43には、液体窒素収容容器42から供給される液体窒素が流れているため、試料ホルダー40は冷却される。試料ホルダー40が冷却されることにより、熱伝導性基板30が冷却される。熱伝導性基板30が冷却されることにより、試料Sが冷却される。
【0043】
試料ステージ50は、試料Sを保持する。図示の例では、試料ステージ50は、試料ホルダー40および熱伝導性基板30を介して試料Sを保持している。
【0044】
熱伝導性基板30および試料ホルダー40は、試料ステージ50に対して着脱可能である。そのため、後述する試料Sを熱伝導性基板30に取り付ける工程(ステップS12)や、金属箔32を取り付ける工程(ステップS14)を、熱伝導性基板30および試料ホルダー40を試料ステージ50から取り外した状態で行ってもよい。
【0045】
次に、イオンビーム断面加工装置100を用いて、電子染色された試料を加工する工程について説明する。
【0046】
まず、電子染色された試料Sを熱伝導性基板30に取り付ける(ステップS12)。
【0047】
図3は、熱伝導性基板30に試料Sを固定した状態を模式的に示す斜視図である。試料Sは、熱伝導性基板30にカーボンペースト等の熱伝導性を有する固定材で固定される。本工程では、
図3に示すように、熱伝導性基板30の下面31bに試料Sを当接させる。すなわち、試料Sは、熱伝導性基板30に接している。図示の例では、試料Sは、熱伝導性基板30の下面31bに面接触している。
【0048】
なお、ここでは、試料Sを熱伝導性基板30に当接させる例について説明したが、試料Sを熱伝導性基板30に熱的に接続することができれば試料Sを熱伝導性基板30に当接させなくてもよい。例えば試料Sと熱伝導性基板30とが直接接しておらず、試料Sと熱伝導性基板30とが熱伝導性を有する固定材等を介して接続されていてもよい。
【0049】
次に、熱伝導性基板30および試料Sに跨がる金属箔(熱伝導性箔の一例)32を取り付ける(ステップS14)。
【0050】
金属箔32は、例えば、帯状である。金属箔32は、熱伝導性が良く、かつ柔らかいものが好ましい。金属箔32の熱伝導率は、電子染色された試料Sの熱伝導率よりも高いことが望ましい。金属箔32としては、例えば、銅箔、アルミ箔、または金箔等を用いることができる。
図3に示すように、金属箔32は、熱伝導性基板30および試料Sに跨がるように取り付けられる。図示の例では、金属箔32は、熱伝導性基板30の下面31bおよび試料Sの熱伝導性基板30側の面とは反対側の面S1に跨がるように取り付けられている。金属箔32は、熱伝導性基板30の下面31bおよび試料Sの面S1に密着している。
【0051】
金属箔32は、例えば、銀ペーストや、結晶性を有さないカーボン材料が混合されたカーボンペーストなどの導電性ペーストにより熱伝導性基板30に固定されている。金属箔32は、
図3に示すように、2点(試料Sを挟む下面31bの2つの領域)で熱伝導性基板30に固定されている。なお、金属箔32を樹脂系接着剤(絶縁性)で固定した後に、金属コーティングを行ってもよい。
【0052】
熱伝導性基板30と試料Sとは、熱伝導性基板30に試料Sが当接していることにより熱的に接続されている。さらに、熱伝導性基板30と試料Sとは、熱伝導性基板30およ
び試料Sに跨がる金属箔32によっても熱的に接続されている。図示の例では、金属箔32は、熱伝導性基板30の下面31bと試料Sの面S1との間を熱的に接続している。このように、金属箔32によって熱伝導性基板30と試料Sとの間を熱的に接続することにより、試料Sの冷却効果を高めることができる。
【0053】
試料Sを熱伝導性基板30に取り付けた後、熱伝導性基板30を試料ホルダー40に取り付けて、試料ホルダー40を試料ステージ50に差し込む。これにより、熱伝導性基板30が遮蔽板20と試料Sとの間に位置するように取り付けられる。
【0054】
次に、遮蔽板20の位置決めを行う(ステップS16)。
【0055】
具体的には、イオンビーム断面加工装置100の遮蔽板移動機構(図示せず)を用いて遮蔽板20の位置調整を行い、試料Sの断面加工位置を決定する。
【0056】
次に、試料SにイオンビームIBを照射して、試料Sを加工する(ステップS18)。
【0057】
イオン源10からのイオンビームIBは、遮蔽板20側から熱伝導性基板30および試料Sに照射され、熱伝導性基板30および試料Sの遮蔽板20に遮蔽されていない部分を切削する。
【0058】
図2に示すように、熱伝導性基板30の遮蔽板20の先端部から突き出た部分は、遮蔽板20で覆われていないため、イオンビームIBによって徐々に切削される。熱伝導性基板30が切削されて試料Sが露出すると、試料SにイオンビームIBが照射され、試料Sが徐々に切削される。
【0059】
このとき、イオンビームIBの照射により試料Sで発生した熱は、試料Sに接触(図示の例では面接触)している熱伝導性基板30に伝わる。さらに、試料Sで発生した熱は、試料Sに接触している金属箔32を介して熱伝導性基板30に伝わる。すなわち、イオンビームIBの照射により試料Sで発生する熱を、熱伝導性基板30および金属箔32を介して逃がすことができる。また、熱伝導性基板30は試料ホルダー40を介して冷却されるため、試料Sは熱伝導性基板30および金属箔32を介して冷却される。このようにして、加工工程において、試料Sが冷却される。
【0060】
ここで、電子染色された試料Sは、例えば電子染色される前の試料と比べて熱伝導率が高い。そのため、加工工程における冷却効果を高めることができ、試料Sに熱が蓄えられることを抑えることができる。
【0061】
このようにして、試料Sの所望の断面が得られるまで、試料Sを冷却しつつイオンビームIBの照射により試料Sの加工を行う。試料Sの所望の断面が得られた場合、イオンビームIBの照射を停止して加工を終了する。
【0062】
以上の工程により、試料Sを加工することができる。
【0063】
本実施形態に係る加工方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0064】
本実施形態に係る加工方法では、熱伝導性を有する材料を、試料Sに含浸させる含浸工程(ステップS10)と、含浸工程の後に、試料Sを冷却しつつ試料SにイオンビームIBを照射して、試料Sを加工する加工工程(ステップS18)と、を含む。このように、熱伝導性を有する材料を試料Sに含浸させることにより、例えば試料Sに熱伝導性を有する材料を含浸させる前と比べて、熱伝導率を高めることができる。そのため、上述したよ
うに、加工工程において、試料Sの冷却効果を高めることができ、試料Sに熱が蓄えられることを抑えることができる。したがって、本実施形態に係る加工方法によれば、試料の熱損傷を低減することができる。
【0065】
本実施形態に係る加工方法では、含浸工程において、染色剤を用いて試料Sを電子染色する。そのため、試料Sの冷却効果を高めることができるとともに、電子顕微鏡等で試料Sの観察を行う際に、コントラストの付いた良好な像を得ることができる。
【0066】
本実施形態に係る加工方法では、染色剤は、四酸化ルテニウム、四酸化オスミウム、または酢酸ウランである。そのため、試料Sを良好に電子染色することができるとともに、試料Sの熱伝導率を高めることができる。
【0067】
本実施形態に係る加工方法では、試料Sの一部を遮蔽板20で覆い、遮蔽板20側から試料SにイオンビームIBを照射して、試料Sの遮蔽板20に遮蔽されていない部分を切削する。そのため、本実施形態に係る加工方法によれば、例えば試料Sの広い領域で凹凸の少ない加工面を得ることができる。
【0068】
本実施形態に係る加工方法では、加工工程において試料Sと遮蔽板20との間に配置された熱伝導性基板30を冷却することにより、試料Sを冷却する。電子染色された試料Sは、例えば電子染色される前の試料と比べて熱伝導率が高いため、熱伝導性基板30を冷却して試料Sを冷却する際に、冷却効果を高めることができる。したがって、試料の熱損傷をより低減することができる。
【0069】
さらに、本実施形態に係る加工方法では、熱伝導性基板30および試料Sに跨がる金属箔32を取り付ける工程(ステップS14)を含む。そのため、試料Sで発生した熱を逃がす経路を増やすことができる。したがって、本実施形態に係る加工方法では、試料Sの冷却効果をより高めることができる。
【0070】
特に、
図3に示すように、金属箔32を熱伝導性基板30および試料Sの熱伝導性基板30側の面とは反対側の面S1に跨がるように取り付けることで、試料Sの面S1側からも熱を逃がすことができる。したがって、試料Sの冷却効果をより高めることができる。
【0071】
以下、本発明を実験例により具体的に説明するが、本発明は下記の実験例により限定されるものではない。
【0072】
ここでは、リチウムイオン電池のセパレータを加工する例について説明する。リチウムイオン電池のセパレータは、リチウムイオン電池の正極材と負極材とを分離するための部材である。本実験例では、ポリプロピレンで構成されているセパレータを用いた。
【0073】
まず、セパレータを、四酸化ルテニウムの溶液でルテニウム染色した。そして、ルテニウム染色したセパレータを、
図2に示すイオンビーム断面加工装置100を用いて加工して、ルテニウム染色されたセパレータの断面を得た。
【0074】
加工は、Arイオンビームを用いて、加速電圧5kV、照射電流量12μAで行った。加工時間は、4時間とした。セパレータは、熱伝導性基板30にカーボンペーストで固定し、熱伝導性基板30およびセパレータに跨がる銅箔を取り付けた。熱伝導性基板30の材質は、アモルファスシリコンとした。セパレータの冷却は、上述したように、液体窒素で冷却された試料ホルダー40によって熱伝導性基板30を冷却することで行った。
【0075】
比較例として、セパレータを電子染色せずに上記と同じ条件で加工して、無染色のセパ
レータの断面を得た。
【0076】
このようにして得られたルテニウム染色されたセパレータの加工断面、および無染色のセパレータの加工断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0077】
図4は、ルテニウム染色されたセパレータの加工断面のSEM像I1を模式的に示す図である。
図5は、無染色のセパレータの加工断面のSEM像I2を模式的に示す図である。
【0078】
図5に示すように、無染色のセパレータの加工断面のSEM像I2では、セパレータに形成された孔が塞がったり、孔が変形したりしている様子がみられた。
【0079】
これに対して、
図4に示すように、ルテニウム染色されたセパレータの加工断面のSEM像I1では、セパレータに形成された孔が塞がったり変形したりしている様子は見られず、孔の形状を明瞭に観察することができた。
【0080】
この結果から、ルテニウム染色されたセパレータでは、無染色のセパレータに比べて、熱損傷が大幅に低減されていることがわかった。本実験例では、液体窒素を用いたクライオイオンビーム加工が困難であったリチウムイオン電池のセパレータの断面加工を、当該セパレータを電子染色することにより、変質させることなく行えることがわかった。
【0081】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0082】
例えば、上述した実施形態において、熱伝導性を有する材料を試料に含浸させた後に(ステップS10の後に)、当該試料の表面を、試料よりも熱伝導性の良い膜で覆ってもよい(コーティングしてもよい)。試料を覆う膜の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、金等が挙げられる。試料を覆う膜は、例えば、スパッタ法、真空蒸着法等を用いて形成することができる。試料の表面を熱伝導性の良い膜で覆うことにより、冷却効果をより高めることができる。
【0083】
また、例えば、上述した実施形態では、
図2に示すように、イオンビーム断面加工装置100で試料Sを加工する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明に係る加工方法を、試料を冷却する手段を備えた集束イオンビーム装置(Focused Ion Beam sysytem、FIB装置)で試料の加工を行う際に適用してもよい。すなわち、例えば熱伝導性を有する材料が含浸された試料(電子染色された試料)を、冷却しつつFIB装置で加工してもよい。このような場合でも、上述した実施形態と同様に、試料の熱損傷を低減することができる。
【0084】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。