【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、交絡又は編成された繊維状消失材を消失させた形態を有する中空状の芯部と、上記芯部の周りに保持された第1の焼結粉体を焼結して形成されるとともに上記芯部の長手方向に連なる焼結壁部と、上記焼結壁部間に形成された空隙部とを備え、上記芯部と上記空隙部とが、上記焼結壁部に形成された欠損部を介して連通させられている多孔質焼結体であって、上記焼結壁部の表面に、上記第1の焼結粉体より径の小さい第2の焼結粉体を
含んで構成されるとともに、亀裂状又は皺状の形態を有する所定の空孔が形成された微粒子焼結層が設けられている。上記第1の焼結粉体は、上記繊維状消失材の直径の1/5〜1/50の粒径を有するとともに、上記第2の焼結粉体は、20nm〜1000nmの粒径を有する。
【0012】
本願発明に係る多孔質焼結体の基本的な骨格は、交絡する繊維状消失材の表面に焼結可能な第1の焼結粉体を保持させ、上記繊維状消失材を消失させるとともに、上記繊維表面に保持された第1の焼結粉体を焼結させることにより形成される。
【0013】
上記多孔質焼結体は、上記繊維状消失材が消失することにより生じる中空の芯部と、上記芯部の周りにおいて粉体を焼結して形成された焼結壁部と、上記焼結壁部間に形成された空隙部とを備えて構成される。上記空隙部は、上記繊維状消失材間の隙間に対応するものである。上記焼結壁部は、上記芯部の長手方向に連なるように形成されている。すなわち、上記焼結壁部は、繊維状消失材の外周形態及び交絡形態に対応した多孔質体を構成している。本願発明に係る多孔質体は、上記繊維状消失材の長手方向に連なった形態を備えるとともに、粉体を焼結して構成される上記焼結壁部の内側と外側の双方に空隙が形成される。したがって、上記繊維状消失材を交絡させて形成される多孔質体の空孔率より大きい空孔率を備える多孔質焼結体を得ることができる。さらに、上記焼結壁部の内側と外側が表面となるため、非常に大きな表面積を有する多孔質焼結体を形成できる。
【0014】
さらに、上記焼結壁部は、欠損部を介して上記芯部と上記空隙部とが連通するように構成されている。たとえば、上記繊維状消失材の外周部に焼結粉体を1層〜3層積層保持させた状態では、上記外周部に上記焼結粉体が積層されていない部位が生じ、この部分が欠損部となる。また、焼結温度を調節することにより、焼結の際の収縮を利用して上記焼結壁部に欠損部を生じさせることができる。特に、ネッキング焼結させることにより、粉体の積層状態やネッキング焼結の形態に応じた欠損部を形成することができる。上記欠損部を介して、上記芯部と上記空隙部とが連通させられるため、上記焼結壁部の外面のみならず、上記繊維状消失材が消失した後の内面も多孔質体の表面となる。このため、多孔質体の表面を触媒等として利用する場合に、反応面積を大幅に増加させることが可能となる。上記欠損部は、上記第1の焼結粉体の積層量及び焼結温度等を調節することにより、所要の割合に調節することができる。骨格の強度を確保するため、上記欠損部を50〜20%となるように形成するのが好ましい。
【0015】
また、本願発明では、上記繊維状消失材の外周に保持される上記第1の焼結粉体の平均粒径を小さく設定したり、第1の焼結粉体の積層厚みを小さく設定することにより、上記焼結壁部の厚みをより小さく設定することもできる。このため、空孔率や表面積を極めて大きく設定することも可能となる。
【0016】
さらに、上記繊維状消失材の周りに積層された上記第1の焼結粉体をネッキング状に焼結させると、粒子形態の少なくとも一部を残した状態で焼結されるため、上記第1の焼結粉体の径に応じた凹凸が焼結壁部の表面に形成される。この構成によって、多孔質体内の表面積をさらに大きくすることが可能となる。
【0017】
上記繊維状消失材の材料及び形態は、上記第1の焼結粉体の焼結が完了するまでに消失するものであれば、特に限定されることはない。みつまた、こうぞ等の天然繊維のみならず、レーヨン等の化学繊維を採用することができる。一方、上記第1の焼結粉体の焼結が開始するまで、上記繊維状消失材が残留するように設定するのが望ましい。上記第1の焼結粉体が溶着するまで残留する必要はなく、隣接する第1の焼結粉体の拡散接合が開始するまで残留しておれば足りる。また、上記繊維状消失材の繊維状形態のまま残留する必要はなく、繊維状消失材の残滓成分、たとえば繊維状消失材が消失する過程で生成された炭化物等が上記第1の焼結粉体間に保形成分として残留している形態でもよい。上記第1の焼結粉体の拡散接合が開始する温度は溶着する温度より低いため、上記第1の焼結粉体を上記繊維状消失材の外周に沿った形態で保持しつつ、焼結を進行させることができる。なお、第1の焼結粉体の焼結が開始するまで、第1の焼結粉体間に残留して保形性を確保できる成分を、上記第1の焼結粉体を繊維状消失材に付着させるスラリー中に配合しておくこともできる。
【0018】
上記繊維状消失材の寸法及び形態を選定するとともに交絡形態を設定することにより、所要の寸法及び形態の多孔質体を得ることができる。また、この繊維状消失材の外周面に第1の焼結粉体が保持された状態で焼結されるため、種々の形状の多孔質焼結体を得ることができる。さらに、多孔質焼結体の各部の空孔率を一定にすることができる。たとえば、厚さが非常に小さいシート状多孔質焼結体から、厚みのある3次元多孔質焼結体まで、一定の空孔率を備えるとともに所要の形態を備える多孔質焼結体を形成することが可能となる。
【0019】
上記第1の焼結粉体を構成する材料も特に限定されることはない。また、異なる2種類以上の焼結粉体を混合して上記第1の焼結粉体を構成し、上記焼結壁部を形成することもできる。また、第1の焼結粉体に焼結しない粉体を混合したものから上記焼結壁部を形成することもできる。
【0020】
上記第1の焼結粉体の粒径も特に限定されることはないが、上記繊維状消失材の周りに、焼結可能な密度で保持できる大きさに設定する必要がある。たとえば、上記繊維状消失材の直径の1/5〜1/50の平均粒径を有する粉体を採用することができる。
【0021】
上記第1の焼結粉体の粒径が、繊維状消失材の直径の1/5を超えると、上記繊維状消失材の周りに第1の粉体を保持することが困難である。一方、上記第1の粉体の平均粒径が、繊維状消失材の直径の1/50未満であると、焼結する際や焼結後の保形性や強度を確保できない。
【0022】
上記第1の焼結粉体を、焼結開始温度が高い第1の粉体要素と、焼結開始温度が低い第2の粉体要素を含んで構成することができる。焼結開始温度の異なる粉体を採用することにより、焼結する際の保形性を確保することができる。
【0023】
上記第1の粉体要素と上記第2の粉体要素とを、異なる金属粉体から選定することができる。また、同一の粉体であっても、粒径を異ならせることにより焼結開始温度を低下させることができる。たとえば、上記第2の粉体要素として、上記第1の粉体要素の平均粒径の10分の1以下の平均粒径を備えるものを採用することにより、表面活性が高まり、焼結開始温度を低下させることが可能となる。また、焼結開始温度は、粉体要素の溶融温度である必要はなく、第1の粉体要素に対して所要の保形性を発揮できる温度であれば良い。たとえば、表面活性が高まると第1の粉体要素と第2の粉体要素の接触部分に付着力が発生する。このため、粉体自体が溶融しなくとも、繊維状消失材の長手方向に連なった形態における保形性を得ることが可能となる。
【0024】
さらに、上記第1の粉体要素の焼結開始温度が、上記繊維状消失材の消失完了温度より高いものを採用するとともに、上記第2の粉体要素の焼結開始温度が、上記繊維状消失材の消失完了温度より低いものを採用することができる。
【0025】
焼結温度が高い粉体要素を採用した場合、上記粉体要素が焼結を開始するまでに、上記繊維状消失材が完全に消失するため、焼結粉体を上記繊維状消失材の外周に沿った位置に保持した状態で焼結できなくなる場合がある。このような状態で焼結すると、焼結壁部の変形が大きくなり、所要の空孔率や所要の形態を備えた多孔質焼結体を得ることができなくなる恐れがある。
【0026】
第2の粉体要素として、上記繊維状消失材の消失完了温度より焼結開始温度が低いもの、あるいは、表面特性による凝集力等によって粉体同士を連結できるものを採用することにより、上記繊維状消失材が消失する前に、上記第1の粉体要素を、第2の粉体要素を介して、上記繊維状消失材の外周部に保持した状態で固定することが可能となる。その後、上記第1の粉体要素同士の焼結を行うことにより、第1の焼結粉体を上記繊維状消失材の外周面に沿って保持した状態で焼結することが可能となる。
【0027】
また、上記第2の粉体要素を、上記第1の粉体に掛け渡し状に焼結するように構成できる。第2の粉体要素の焼結開始温度を第1の粉体要素の焼結開始温度より低く設定するとともに、配合量を所定の割合に設定すると、第2の粉体要素を第1の粉体要素に掛け渡し状に焼結させることができる。この構成を採用すると、第1の粉体要素が高い焼結開始温度を有する場合であっても、第2の粉体要素によって上記第1の粉体要素の位置関係を保持した状態で焼結することが可能となり、一定の空孔率を備える多孔質焼結体を得ることができる。
【0028】
さらに、焼結しにくい、あるいは
固相では焼結しない粉体を含む多孔質焼結体を形成したい場合がある。たとえば、焼結温度が非常に高い機能性セラミック粉体を第1の焼結粉体として採用する場合、繊維状消失材が完全に消失した後にも上記セラミック粉体が焼結されない。このため、繊維状消失材の形態に対応した焼結体を得ることができない。このような場合、上記セラミック粉体を第1の粉体要素として設定し、焼結温度の低い第2の粉体要素を、上記第1の粉体に掛け渡し状に焼結する。これにより、上記第1の粉体要素同士が互いに焼結されていない焼結構造を備える焼結壁部を形成することもできる。
【0029】
さらに、本願発明では、上記焼結壁部の表面に、上記第1の焼結粉体より径の小さい第2の焼結粉体を含んで形成されるとともに、
亀裂状又は皺状の形態を有する所定の空孔が形成された微粒子焼結層が設けられている。
【0030】
上記第2の焼結粉体として、たとえば、20nmから1000nmの粒径を有するいわゆるナノ粒子を採用するのが好ましい。ナノ粒子の焼結温度は、上記焼結壁部を形成する場合の焼結温度に比べてはるかに低い。このため、上記焼結壁部の形態を変更することなく、上記微粒子焼結層を形成することができる。しかも、本願発明に係る上記焼結壁部は、非常に大きな表面積を有するため、多量の微粒子を焼結壁部の表面に保持させて焼結することができる。
【0031】
上記微粒子焼結層は、上記焼結壁部の形態に応じた多孔質状に形成される。このため、上記焼結壁部の多孔質形態に応じた空孔が形成されることになる。さらに、本願発明では、上記微粒子層自体に空孔を形成することができる。
【0032】
ナノ粒子等の微粒子は、液中に分散された状態で本願発明に係る多孔質焼結基材に含浸させ、上記多孔質焼結基材の表面に積層付着させることができる。上記微粒子は、そのままでは液中で分散させることが困難である。このため、たとえば、微粒子表面に厚みの薄い樹脂被覆層を形成し、この樹脂被覆層に反発しあう電荷等を付加することにより、微粒子が液中で分散状態とすることができる。
【0033】
上記第2の焼結粉体は、少なくとも上記樹脂被覆層の厚み分だけ離間した状態で焼結壁部の表面に付着させられる。このため、上記樹脂被覆層が消失する際や焼結する際に、近接する微粒子同士が移動して接合する一方、これら接合微粒子の周りに亀裂状あるいは皺状の空孔が形成される。上記空孔は、上記第2の焼結粉体をネッキング焼結させることにより顕著に出現する。この結果、上記微粒子焼結層自体を多孔質状に形成することが可能となり、多孔質焼結体の表面積をより増加させることが可能となる。しかも、本願発明において基材となる多孔質体(焼結壁部)の表面は非常に複雑で不規則な形態の凹凸が存在するため、表面全体により多数の上記空孔が形成される。
【0034】
すなわち、本願発明に係る多孔質焼結体は、繊維状消失材間の隙間に対応した上記空隙部と、上記焼結壁部の中空形態による空隙と、上記焼結壁部表面に設けた上記微粒子焼結層に形成される空孔の3種類の空孔を備えて構成することが可能であり、これまでにない大きな表面積を備える多孔質焼結体を形成することが可能となる。
【0035】
上記微粒子焼結層を他の手法を用いて多孔質化することもできる。たとえば
、上記焼結壁部の表面に、所定の径を有する微粒子状空孔形材を上記第2の焼結粉体とともに保持させ、上記第2の焼結粉体を焼結させる上記第2の焼結工程において、あるいは上記第2の焼結工程を行う前に行われる空孔形成材消失工程において、上記微粒子状空孔形成材を消失させることにより、上記微粒子状空孔形成材に対応した空孔を形成することができる。
【0036】
上記微粒子状空孔形成材を構成する材料、形態及び寸法等は、上記第2の焼結粉体の焼結温度や、第2の焼結粉体を分散したスラリーにおける濃度や分散性能等に応じて設定することができる。上記微粒子状空孔形成材を用いることにより、所要の大きさの径を有する空孔を精度高く形成することができる。
【0037】
さらに、上記空孔を、上記微粒子焼結層の少なくとも表面側、すなわち、上記空隙部に面する部分に形成することができる。上記空孔を表面側に形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、焼結壁部表面に対する付着速度が異なる複数の微粒子を混合し、表面側に空孔が形成されやすい第2の焼結粉体や微粒子状の空孔形成材を積層することができる。
【0038】
また、第2の付着工程を2回以上行い、表面側に微粒子状空孔形成材を含む第2の焼結粉体の層を形成することができる。
【0039】
上記微粒子焼結層の空孔の大きさは特に限定されることはない。
上記空孔は、上記微粒子焼結層の外面における幅方向最大孔径が、上記第2の焼結粉体の平均粒径より大きな平均孔径を有するように構成するのが望ましい。たとえば、
上記微粒子焼結層の外面における幅方向最大孔径を、少なくとも上記微粒子の平均粒径の1〜100倍程度の大きさで形成することができる。たとえば、孔径が5nm〜1μmの空孔を備えて構成するのが好ましい。
【0040】
上記微粒子焼結層を、少なくとも2種類以上の異なる微粒子粉体を含んで構成することができる。上記2種類以上の微粒子粉体は、少なくとも焼結粉体を含んで構成される。上記異なる微粒子粉体として、材料が異なるもの、寸法や形態が異なるものを採用することができる。たとえば、Ni微粒子とCr微粒子を含んで第2の焼結粉体を構成する場合、多孔質基材の表面に、耐食性の高いNi−Cr合金からなる微粒子焼結層を形成することができる。
【0041】
また
、上記微粒子焼結層を、
少なくとも同一微粒子間では固相焼結しない非焼結微粒子粉体を含んで構成することができる。たとえば、酸化チタン等の焼結壁部の焼結温度より高い温度でしか焼結しないような触媒粒子を、Ni等の低温で焼結する第2の焼結粉体と混合して焼結壁部に付着させて焼結することにより、Ni微粒子で掛け渡し状に接合固定することができる。さらに、非焼結微粒子粉体を微粒子焼結層内に固定することができる。このため、上記非焼結微粒子を、その触媒機能等を損なうことなく固定することができる。
【0042】
さらに
、上記微粒子焼結層を、組成の異なる複数の層を備えて構成することができる。たとえば、上記微粒子焼結層の表面側と上記焼結壁部側を構成する微粒子粉体の組成が異なるように構成することもできる。たとえば、多孔質焼結基材の表面に焼結温度(溶融温度)の低い第1の微粒子焼結層を設けておき、この第1の微粒子焼結層の表面に、非焼結微粒子からなる第2の微粒子層を設けることができる。具体的には、多孔質基材の表面にNiからなる第1の微粒子焼結層を設けておき、酸化チタン微粒子を上記第1の微粒子焼結層に積層して焼結することにより、異なる組成を備える複数の微粒子焼結層を形成することができる。
【0043】
上記微粒子焼結層を、これを構成する上記第2の焼結粉体の一部又は全部について、
隣接する粒子をネッキング焼結することができる。ネッキング焼結することにより、粒子形態の少なくとも一部を残した状態で焼結して形成することができる。また
、上記微粒子焼結層を構成する上記第2の焼結粉体の少なくとも一部が、粒子形態を残すことなく
完全に溶融させられて一体化されるように形成することもできる。
【0044】
本願発明に係る上記焼結壁の形態や寸法は特に限定されることはない。上記焼結壁部は、繊維状消失材の直径、第1の焼結粉体の形態及び寸法に対応して形成される。たとえば
、上記芯部の直径を5μm〜100μmに設定することができる。さらに、上記芯部の直径を10μm〜50μmに設定するのがより好ましい。また、上記焼結壁部は、平均粒径が0.5μm〜30μmの第1の焼結粉体を焼結して形成することができる。なお、平均粒径が1μm〜10μmの第1の焼結粉体を焼結して形成するのがより好ましい。また、上記焼結壁部の平均厚みを、0.5μm〜50μmに設定することができる。なお、上記焼結壁部の平均厚みを、1μm〜10μmに設定するのがより好ましい。これにより、種々の繊維状消失材を用いて、所要の空孔率との所要の強度を備える多孔質焼結基材を形成できる。
【0045】
上記微粒子焼結層の構成も特に限定されることはない。たとえば、上記微粒子焼結層
を20nm〜1000nmである第2の焼結粉体を焼結して形成することができる。さらに、第2の焼結粉体として、いわゆるサブミクロン粒子を採用するのが好ましい。たとえば
、30nm〜900nmの第2の焼結粉体を採用するのがより好ましい。これにより、低温で焼結することができるとともに、所要の気孔を備える微粒子焼結層を得ることができる。微粒子焼結層の厚みも特に限定されることはなく、20nm〜1000nmの厚みで形成することができる。また、触媒層等として利用する場合、微粒子焼結層の厚みを、300nm〜1000nmに設定するのがより好ましい。これにより、多孔質焼結基材の表面に、触媒層等として充分に機能する微粒子焼結層を形成できる。なお、触媒によっては、多孔質基材の表面の全域を覆う必要がない場合もある。このような場合は、多孔質焼結基材の表面に間欠的に微粒子焼結層を設けることもできる。
【0046】
本願発明に係る多孔質焼結体の形態及び寸法も特に限定されることはない。採用される繊維状消失材を交絡させて形成できるものであれば、種々の形態及び寸法の多孔質焼結体を得ることができる。たとえば、湿式抄紙法を利用すると
、厚み30μm〜1000μmのシート状の多孔質体を得ることができる。
【0047】
一方、水流や空気流を利用して上記繊維状消失材を集積して交絡させることにより、複雑な形態や、立体的な形態の繊維成形体を形成することもできる。そして、上記各繊維の表面に焼結体を保持させることにより、所要の形態の多孔質焼結体を得ることができる。
【0048】
また、交絡する繊維状消失材の外周面に焼結粉体を保持させるため、種々の手法を採用できる。たとえば、まず、繊維状消失材から所定形状の多孔質体を形成し、この多孔質体の各繊維状消失材の外周面に焼結粉体を保持させて焼結することができる。一方、シート状の多孔質成形体を湿式抄紙法で形成する場合、シート状の多孔質体を形成すると同時に、交絡する繊維状消失材の外周面に焼結粉体を保持させることができる。これら手法を採用することにより、空孔率が一定で、種々の3次元形状の多孔質焼結体を得ることが可能となる。
【0049】
本願発明に係る多孔質焼結体の製造方法においては、繊維状消失材を交絡させあるいは編成して所要の形態の多孔質体を形成する繊維状消失材成形工程と、上記繊維状消失材の外周表面に第1の焼結粉体を付着させる第1の焼結粉体付着工程と、上記繊維状消失材を消失させる消失材消失工程が行われる。そして、上記工程において形成された多孔質体を焼結することにより、上記繊維状消失材が消失して形成される中空芯部と、上記芯部と上記空隙部とが欠損部を介して連通させられた焼結壁部と、上記焼結壁部間に形成された空隙部とを備える多孔質焼結基材を形成する第1の焼結工程が行われる。次に、上記焼結壁部の表面に、上記第1の焼結粉体より径の小さい第2の焼結粉体を含む粉体を付着させる第2の焼結粉体付着工程と、上記第2の焼結粉体を焼結することにより、上記焼結壁部の外周に所定の空孔が形成された微粒子焼結層を形成する第2の焼結工程が行われ、多孔質基材の表面に微粒子焼結層を備える多孔質焼結体が製造される。
【0050】
第1の焼結粉体付着工程は、上記繊維状消失材の外周表面に1層〜3層の焼結粉体を付着させるのが好ましい。繊維状消失材の外周面に1層〜3層の焼結粉体を付着させることにより、焼結壁部に上記欠損部が形成されやすくなり、空孔率の大きな多孔質焼結基材を得ることができる。
【0051】
上記焼結温度及び焼結時間を調節することにより、上記焼結壁部を所定量収縮させ、欠損部を形成することができる。上記欠損部を設けることにより、上記芯部と上記空隙部とが連通させられ、触媒反応等に関与できる表面積をさらに増大させることができる。
【0052】
上記第1の焼結工程において、隣接する粉体をネッキング焼結させるのが好ましい。これにより、上記焼結壁部の表面に凹凸が形成され、内部の表面積が非常に大きな多孔質焼結基材を得ることができる。上記ネッキング焼結は、焼結温度及び時間を設定することにより容易に行うことができる。
【0053】
上記繊維状消失材成形工程は特に限定されることはない。たとえば、シート状成形体を形成する場合、湿式抄紙法等の紙を形成する手法や、不織布を形成する手法を採用することができる。また、上記第1の焼結粉体付着工程も特に限定されることはない。たとえば、焼結粉体を分散させたスラリーを上記繊維状消失材から形成された成形体に含浸させる等することにより行うことができる。
【0054】
上記繊維状消失材成形工程を、繊維状消失材と、上記第1の焼結粉体と、これら成分を分散して混入できる分散液とを混合してスラリー調整するスラリー調整工程と、上記スラリーから湿式抄紙法によってシート状形成体を成形する抄紙工程とを含んで行うことができる。上記第1の焼結粉体付着工程を、上記スラリーを含む上記シート状成形体を脱水及び/又は乾燥することにより、交絡する上記繊維状消失材の外周表面に上記第1の焼結粉体を保持させる脱水乾燥工程を含んで行うことができる。
【0055】
また
、上記第1の焼結粉体付着工程を、上記繊維状消失材成形工程において所要の形態に成形された多孔質体に、焼結可能な粉体を分散させたスラリーを含浸させる含浸工程と、上記スラリーを含む上記成形体を脱水及び/又は乾燥することにより、交絡する上記繊維状消失材の外周表面に上記粉体を保持させる脱水乾燥工程とを含んで行うことができる。
【0056】
上記第1の焼結粉体を、焼結温度の異なる第1の粉体要素と第2の粉体要素を含んで構成するとともに、上記焼結工程を、上記第1の粉体要素が焼結を開始する前に、上記第2の粉体要素が上記第1の粉体に掛け渡し状に焼結する第1の焼結工程を行うこともできる。
【0057】
また、上記第1の焼結工程を、上記繊維状消失材が消失する前に開始するように構成できる。上記第1の焼結工程を、上記繊維状消失材が消失するまでに開始させることにより、上記繊維状消失材の外周面に沿って上記第1の粉体要素を保持することが可能となる。このため、上記繊維状消失材の外周面に沿う筒状の焼結壁を形成することが可能となる。なお、上記第1の焼結工程は、上記第2の粉体要素が溶融する必要はなく、所要の保形力が発揮できるように接合されればよい。たとえば、加熱によって表面が活性化されて、第2の粉体要素が第1の粉体要素の表面に対して所要の付着力が生じるように構成することにより、上記第1の粉体要素を保持できればよい。また、第1の粉体要素を上記繊維状消失材の外周面に沿って保持できる粒径に設定するとともに、上記第2の粉体要素を、上記繊維状消失材の外周面に沿って保持された上記第1の粉体要素間の隙間に入り込む程度の大きさの粒径に設定することもできる。これにより、上記第1の粉体要素に対して上記第2の粉体要素を掛け渡し状に焼結させることができる。
【0058】
上記第2の粉体要素と同様の機能を発揮する粉体要素が、焼結過程において生じるように構成することもできる。たとえば、第1の焼結工程において、上記繊維状消失材が完全に消失する前に上記第1の焼結粉体間に出現して、これら第1の焼結粉体が焼結するまで保持できる成分が出現するように構成することができる。たとえば、上記第1の焼結粉体を含むスラリーに、上記焼結粉体間にこれらが焼結するまで相対位置を保持する炭素あるいは炭化物等が生成される成分を含ませることもできる。
【0059】
上記繊維状消失材が消失した後に、上記第1の粉体要素が互いに焼結する第1の焼結工程を行うことができる。また、必要に応じて、第1の粉体要素が焼結しない状態で焼結工程を止め、互いに焼結していない第1の粉体要素が第2の粉体要素を介して掛け渡し焼結された形態の多孔質焼結基材を形成することもできる。
【0060】
上記焼結壁部は、上記脱水乾燥工程を終えた複数の成形体を積層して所要の形態の積層体を形成し、一度の第1の焼結工程を行って多孔質焼結体を形成することができる。
【0061】
上記脱水乾燥工程を終えた成形体は、交絡する繊維状消失材の外周面に焼結可能な粉体が保持されて構成される。このため、これら成形体を複数組み合わせて焼結することにより、所要の形態の成形体を容易に形成することができる。なお、繊維状消失材を交絡させた複数の多孔質体を組み合わせたものに、焼結粉体を保持させる工程を行うこともできる。
【0062】
また、上記第1の焼結粉体付着工程を、異なる焼結粉体を付着させる複数の工程を含んで構成することもできる。たとえば、比重が大きく異なる粉体を付着させる場合等には、複数の焼結粉体付着工程を行うことにより、繊維状消失材の外周面に上記粉体を均一に保持させることができる。
【0063】
上記第2の焼結粉体付着工程を、第1の焼結工程を終えた上記多孔質焼結基材に、第2の焼結粉体を分散させた第2のスラリーを含浸させる第2の含浸工程と、上記第2のスラリーを含む上記多孔質焼結基材を脱水及び/又は乾燥することにより、上記多孔質焼結基材の焼結壁部の表面に上記第2の焼結粉体を保持させる第2の脱水乾燥工程とを含んで行うものである。
【0064】
上記第2のスラリーを構成する分散液は特に限定されることはない。たとえば、純水やイソプロピルアルコール等を採用することができる。
【0065】
上記第2の焼結粉体付着工程において、上記多孔質焼結基材の焼結壁部の表面に、所定の径を有する微粒子状の空孔形成材を上記第2の焼結粉体とともに保持させ、上記第2の焼結工程において、あるいは第2の焼結工程を行う前に行われる空孔形成材消失工程において、上記空孔形成材を消失させるものである。
【0066】
上記第2の焼結粉体とともに、焼結壁部の表面に付着させることができるものであれば、上記微粒子状の空孔形成材を構成する材料、寸法及び形態等は特に限定されることはない。たとえば、上記第2の焼結粉体の径以上の径を有する微粒子状空孔形成材を採用するのが望ましい。また、上記空孔形成材を消失させる焼結工程あるいは空孔形成材消失工程において、上記焼結壁部が変形しない温度で消失させることができるものを採用するのが望ましい。上記空孔形成材は、上記第2の焼結粉体が焼結する前に消失させられる。
【0067】
上記微粒子状空孔形成材は、上記第2の焼結粉体の焼結が終了するまでに消失するものであれば、種々の材料を採用できる。たとえば、PMMA樹脂(Poly methacrylate)、PS樹脂(Polystyrene)、PVC樹脂(Polyvinyl chloride)等を採用することができる。
【0068】
上記第2の焼結粉体付着工程を、上記第2の焼結粉体を含む少なくとも2種類以上の異なる微粒子粉体を上記焼結壁部の表面に保持させる1又は2以上の粉体付着工程を含んで行うことができる。
【0069】
上記2種以上の微粒子粉体は、一度の粉体付着工程において付着させることもできるし、複数の粉体付着工程において付着させることもできる。複数の微粒子粉体から微粒子焼結層を形成することにより、種々の機能を有する多孔質焼結体を形成することができる。複数の微粒子粉体として、組成が異なるもののみならず、組成は同一であるが、寸法形態が異なるものを採用できる。
【0070】
第2の焼結粉体は、外周に樹脂被覆層が設けられることが多く、上記樹脂被覆層には、互いに反発する電荷が付加されている。これにより、スラリー中の分散性が確保される。上記第2の焼結粉体付着工程を、上記多孔質焼結基材に所定の電位を印加して行うことができる。電圧を印加することにより、焼結壁部の表面に上記第2の焼結粉体を確実に付着させることができる。また、電圧によって、2種以上の微粒子粉体の付着速度を異ならせ、組成勾配を有する微粒子焼結層を形成することも可能となる。
【0071】
上記第1の焼結粉体付着工程及び/又は上記第2の焼結粉体付着工程は、真空環境下で焼結粉体を含むスラリーを含浸させて行うのが望ましい。これにより、所要量の第1の焼結粉体を上記繊維状消失材の表面に付着させることができるとともに、所要量の第2の焼結粉体を焼結壁部の外周に付着させることが可能となる。
【0072】
第2の焼結工程を行う手法も特に限定されることはない。たとえば
、上記第2の焼結工程において、上記微粒子焼結層を構成する上記第2の焼結粉体の一部又は全部を、
隣接する粒子をネッキング焼結して焼結することができる。ネッキング焼結することにより、粒子形態の少なくとも一部を残した状態で焼結
することができる。また
、上記第2の焼結工程において、上記微粒子焼結層を構成する上記第2の焼結粉体の少なくとも一部
の粉体を、完全に溶融させて一体化させることもできる。これにより、上記微粒子焼結層を構成する上記第2の焼結粉体の少なくとも一部を、粒子形態を残すことな
く一体化することができる。
【0073】
また、上記2以上の第2の焼結粉体付着工程において付着させられる第2の焼結粉体に応じて、2以上の第2の焼結工程を行うこともできる。2種以上の第2の焼結粉体の焼結温度に応じた複数の第2の焼結工程を行うことにより、第2の焼結粉体を確実に焼結させることができる。