特許第6454282号(P6454282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6454282-工程シート 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6454282
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】工程シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20190107BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20190107BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20190107BHJP
   C08L 101/06 20060101ALI20190107BHJP
   C08K 5/3477 20060101ALI20190107BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20190107BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20190107BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   B32B27/00 L
   B32B27/20 Z
   C08K3/36
   C08L101/06
   C08K5/3477
   C08L63/00 C
   C08L67/00
   C08J7/04 ZCFD
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-541589(P2015-541589)
(86)(22)【出願日】2014年10月7日
(86)【国際出願番号】JP2014076830
(87)【国際公開番号】WO2015053274
(87)【国際公開日】20150416
【審査請求日】2017年8月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-213526(P2013-213526)
(32)【優先日】2013年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−115972(JP,A)
【文献】 特開2006−306087(JP,A)
【文献】 特開2011−245739(JP,A)
【文献】 特開2012−121969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08J 7/04
C08K 3/36
C08K 5/3477
C08L 63/00
C08L 67/00
C08L 101/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び粒子含有離型層を有する工程シートであって、
前記粒子含有離型層が、水酸基を有する熱硬化性樹脂及び架橋剤を含む成分から形成されてなる樹脂層(A)と、少なくとも表面にメラミン系化合物を含む粒子(B)とを有し、
粒子(B)が、メラミン系化合物及びシリカを含む複合粒子である、工程シート。
【請求項2】
前記粒子含有離型層の粒子(B)の含有率が、6〜45質量%である、請求項1に記載の工程シート。
【請求項3】
水酸基を有する熱硬化性樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂エステル、及びアルキド系樹脂から選ばれる1種以上の樹脂である、請求項1又は2に記載の工程シート。
【請求項4】
架橋剤が、メラミン系化合物である、請求項1〜のいずれか一項に記載の工程シート。
【請求項5】
前記架橋剤のメラミン系化合物が、ヘキサメトキシメチルメラミン又はその重合体である、請求項に記載の工程シート。
【請求項6】
前記粒子含有離型層の算術平均表面粗さ(Ra)が、0.25〜1.50μmである、請求項1〜のいずれか一項に記載の工程シート。
【請求項7】
前記粒子含有離型層の最大山高さ(Rp)が、1.50〜8.00μmである、請求項1〜のいずれか一項に記載の工程シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材、及び該基材の少なくとも一方の面上に設けられた粒子含有離型層を有する工程シートに関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革、化粧シート、内装材及び電磁波シールドフィルム等のような表面にマット感(凹凸)を有する樹脂シートを作製する場合、一般的に、樹脂フィルム上に離型処理がされた離型層を有する工程シート(離型シート)が使用される。
マット感を有する樹脂シートの製造方法として、例えば、工程シートの離型層の表面に、転写樹脂を塗布し、乾燥又は硬化させて樹脂シートとし、その後形成した樹脂シートを工程シートから剥離して得る方法が挙げられる。
【0003】
通常、工程シートの離型層には、樹脂等にマット感を付与するため、シリカ粒子やシリコーン粒子等が含まれ、当該離型層の表面には凹凸が形成されている。
例えば、特許文献1には、漆黒性の高い艶消し面を有するマット調合成皮革の製造に好適な離型シートの提供を目的として、熱硬化性樹脂、艶消し剤と共に、特定の粒径及び表面積の多孔性シリカ微粒子を所定量含むマット層形成用組成物を塗布してなるマット層(離型層)を有する離型シートが開示されている。
また、特許文献2には、離型層の剥離性を適度な剥離強度になるように制御可能であり、且つ剥離性が経時変化しない離型シートの提供を目的として、三次元に伸びたシロキサン結合からなる網状形状を有する特定の平均粒径を有するシリコーン樹脂微粒子を含有せしめた離型層が基材シート表面に形成された離型シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4330320号公報
【特許文献2】特許第3109532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された離型シートは、粒子密着性が劣る。つまり、特許文献1及び2に記載の離型シートの離型層中の粒子が、転写樹脂や樹脂シートとの摩擦により脱落し、転写樹脂や樹脂シートの表面に異物として混入してしまう場合がある。
本発明は、粒子の脱落を抑制し得る優れた粒子密着性を有し、マット感付与性が良好な工程シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、基材の少なくとも一方の面上に配置された粒子含有離型層が、水酸基を有する熱硬化性樹脂及び架橋剤を含む成分から形成されてなる樹脂層と、少なくとも表面にメラミン系化合物を含む粒子とを有する工程シートが、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、下記〔1〕〜〔8〕を提供するものである。
〔1〕基材及び粒子含有離型層を有する工程シートであって、前記粒子含有離型層が、水酸基を有する熱硬化性樹脂及び架橋剤を含む成分から形成されてなる樹脂層(A)と、少なくとも表面にメラミン系化合物を含む粒子(B)とを有する、工程シート。
〔2〕粒子(B)が、メラミン系化合物及びシリカを含む複合粒子である、上記〔1〕に記載の工程シート。
〔3〕前記粒子含有離型層の粒子(B)の含有率が、6〜45質量%である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の工程シート。
〔4〕水酸基を有する熱硬化性樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂エステル、及びアルキド系樹脂から選ばれる1種以上の樹脂である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の工程シート。
〔5〕架橋剤が、メラミン系化合物である、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の工程シート。
〔6〕前記架橋剤のメラミン系化合物が、ヘキサメトキシメチルメラミン又はその重合体である、上記〔5〕に記載の工程シート。
〔7〕前記粒子含有離型層の算術平均表面粗さ(Ra)が、0.25〜1.50μmである、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の工程シート。
〔8〕前記粒子含有離型層の最大山高さ(Rp)が、1.50〜8.00μmである、上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の工程シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明の工程シートは、粒子の脱落を抑制し得る優れた粒子密着性を有し、良好なマット感付与性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の工程シートの一実施形態である、工程シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔工程シート〕
本発明の工程シートは、基材及び粒子含有離型層を有し、粒子含有離型層は、水酸基を有する熱硬化性樹脂及び架橋剤を含む成分から形成されてなる樹脂層(A)と、少なくとも表面にメラミン系化合物を含む粒子(B)とを有する。
図1は、本発明の工程シートの一実施形態である、工程シートの断面図である。
本発明の工程シートとしては、例えば、基材2と、該基材2の少なくとも一方の面上に設けられた粒子含有離型層3を有し、該粒子含有離型層3が、樹脂層4及び粒子5とを有する工程シート1が挙げられる。
【0011】
図1の工程シート1では、基材2と粒子含有離型層3とは直接積層した構造を有しているが、これら以外の層を有していてもよい。
例えば、基材2と粒子含有離型層3との層間密着力を向上させるために、基材2と粒子含有離型層3との間に易接着層を有する工程シートとしていてもよい。当該易接着層を形成する材料としては、樹脂層(A)を構成する熱硬化性樹脂を含む組成物等が挙げられる。
また、本発明の工程シートは、帯電防止剤を含有した帯電防止層を有していてもよい。
本発明に工程シートにおいて、帯電防止層は、基材2と粒子含有離型層3との間、もしくは基材2の粒子含有離型層3が積層された面とは反対側の面上等に設けることができる。
当該帯電防止剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1〜第3アミノ基等のカチオン性化合物;スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基等のアニオン性化合物;アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系等の両性化合物;アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系等のノニオン性化合物等が挙げられる。
【0012】
<基材>
本発明で用いる基材としては、後述の粒子含有離型層を支持できるものであれば、工程シートの用途に応じて適宜選択し得る。
基材としては、例えば、紙基材、樹脂フィルム又はシートからなる基材、紙基材を樹脂でラミネートした基材等が挙げられる。
紙基材を構成する紙としては、例えば、薄葉紙、中質紙、上質紙、含浸紙、コート紙、アート紙、硫酸紙、グラシン紙等が挙げられる。
樹脂フィルム又はシートを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、三酢酸セルロース、ポリカーボネート等が挙げられる。
紙基材を樹脂でラミネートした基材としては、上記の紙基材を、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂でラミネートしたラミネート紙等が挙げられる。
【0013】
これらの基材の中でも、樹脂フィルム又はシートからなる基材が好ましく、ポリエステル系樹脂フィルム又はシートからなる基材がより好ましく、適度な強度を有し、入手が容易であるとの観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム又はシートからなる基材が更に好ましい。
【0014】
なお、基材として樹脂フィルム又はシートからなる基材を用いる場合、基材と粒子含有離型層との密着性を向上させる観点から、基材の粒子含有離型層が設けられる側の面に、酸化法等の物理的又は化学的表面処理を施してもよい。
上記酸化法としては、例えば、コロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられる。
これらの表面処理法は、基材の種類に応じて適宜選ばれるが、コロナ放電処理法が好ましい。また、プライマー処理を施すこともできる。
【0015】
基材の厚みは、工程シートの用途に応じて適宜設定されるが、取扱性及び経済性の観点から、好ましくは1〜300μm、より好ましくは5〜200μm、更に好ましくは10〜125μmである。
基材の厚みが1μm以上であれば、シワが生じやすい等の問題が生じ難く、取扱性が良好となる。一方、基材の厚みが300μm以下であれば、コストが抑えられ、経済性の観点において好ましい。
【0016】
<粒子含有離型層>
本発明の工程シートが有する粒子含有離型層は、水酸基を有する熱硬化性樹脂及び架橋剤を含む成分から形成されてなる樹脂層(A)と、少なくとも表面にメラミン系化合物を含む粒子(B)とを有する。
粒子含有離型層を構成する樹脂層(A)は、水酸基を有する熱硬化性樹脂を含む成分から形成されている。樹脂層(A)中のこの熱硬化性樹脂の水酸基と、粒子(B)の表面に有するメラミン系化合物とは、熱硬化時に反応するため、樹脂層(A)と粒子(B)とが強固に結合し、本発明の工程シートは、粒子(B)の脱落を抑制し得る優れた粒子密着性が発現されると考えられる。
【0017】
また、粒子含有離型層は、粒子(B)が点在されているため、粒子含有離型層の表面には凹凸が形成されており、この凹凸により、工程シートに塗布される転写樹脂等の表面にマット感を付与することができる。
【0018】
本発明の工程シートの粒子含有離型層の算術平均表面粗さ(Ra)は、好ましくは0.25〜1.50μm、より好ましくは0.30〜1.30μm、更に好ましくは0.40〜1.00μmである。
Raが0.25μm以上であれば、マット感付与性が良好な工程シートとすることができる。一方、Raが1.50μm以下であれば、粒子含有離型層から粒子(B)が脱落することを抑制することができる。
【0019】
本発明の工程シートの粒子含有離型層の最大山高さ(Rp)は、好ましくは1.50〜8.00μm、より好ましくは1.70〜7.50μm、更に好ましくは2.00〜7.00μmである。
Rpが1.50μm以上であれば、マット感付与性が良好な工程シートとすることができる。一方、Rpが8.00μm以下であれば、粒子含有離型層から粒子(B)が脱落することを抑制することができる。
なお、本発明において、粒子含有離型層のRa、Rpの値は、JIS B 0601−1994に準拠して測定された値であり、具体的には実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
【0020】
粒子(B)の平均粒径(直径)と樹脂層(A)の膜厚との比〔粒子(B)/樹脂層(A)〕は、好ましくは1.2/1.0〜8.0/1.0、より好ましくは1.6/1.0〜7.3/1.0、更に好ましくは2.0/1.0〜6.8/1.0である。
当該比が1.2/1.0以上であれば、マット感付与性が良好な工程シートとすることができる。一方、当該比が8.0/1.0以下であれば、樹脂層(A)と粒子(B)との接着面積が十分となり、粒子(B)の脱落を抑制し得る優れた粒子密着性が発現される。
なお、樹脂層(A)の膜厚は、図1のXで表される厚みであり、粒子含有離型層3における粒子(B)が存在しない部分の樹脂層4の厚みを示す。
【0021】
<樹脂層(A)>
樹脂層(A)は、水酸基を有する熱硬化性樹脂及び架橋剤を含む成分から形成されてなる。
水酸基を有する熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、クレゾール樹脂、レゾルシン樹脂、キシレノール樹脂、ナフトール樹脂、ビスフェノールA樹脂、ビスフェノールF樹脂、エポキシ樹脂アラルキルフェノール樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール樹脂等のフェノール系樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂エステル、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等の水酸基含有エポキシ樹脂;水酸基含有ポリエステル樹脂;水酸基含有ウレタン樹脂;水酸基含有シリコーン樹脂;アルキド樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、硬化後の樹脂層(A)の強度、及び基材と樹脂層(A)との密着性の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂エステル、水酸基含有ポリエステル樹脂、及びアルキド系樹脂から選ばれる1種以上の樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂エステル又はアルキド系樹脂がより好ましい。
【0022】
架橋剤としては、上述の水酸基を有する熱硬化性樹脂を架橋させることができる化合物であればよいが、粒子(B)とも反応し、更に粒子(B)の脱落を抑制し得る優れた粒子密着性を向上させる観点から、メラミン系化合物が好ましい。
メラミン系化合物としては、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサプロポキシメチルメラミン、ヘキサブトキシブチルメラミン、及びこれらの重合体(樹脂)等が挙げられる。
これらの中でも、樹脂層(A)の耐溶剤性を向上させる観点から、ヘキサメトキシメチルメラミン又はその重合体が好ましい。
【0023】
樹脂層(A)を構成する成分中の水酸基を有する熱硬化性樹脂と架橋剤との含有量比〔水酸基を有する熱硬化性樹脂/架橋剤〕(質量比)は、耐溶剤性と剥離性の双方に優れた樹脂層を形成する観点から、好ましくは15/85〜98/2、より好ましくは40/60〜95/5、更に好ましくは60/40〜90/10、より更に好ましくは70/30〜85/15である。
また、水酸基を有する熱硬化性樹脂及び架橋剤の合計含有量は、樹脂層(A)を構成する成分の全量に対して、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは70〜99.9質量%、更に好ましくは80〜99.5質量%、より更に好ましくは90〜99質量%である。
【0024】
樹脂層(A)を構成する成分としては、樹脂層(A)の形成時の反応を促進させる観点から、さらに酸触媒が含まれていることが好ましい。
酸触媒としては、水酸基を有する熱硬化性樹脂と架橋剤との架橋反応触媒として知られている公知の酸触媒の中から適宜選択して用いることができるが、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸が好ましい。
酸触媒の使用量は、水酸基を有する熱硬化性樹脂及び架橋剤の合計100質量部に対して、好ましくは0.1〜15質量部、より好ましくは0.5〜10質量部、更に好ましくは1〜5質量部である。
【0025】
なお、樹脂層(A)を構成する成分として、上述の水酸基を有する熱硬化性樹脂、架橋剤、酸触媒以外のその他の成分を使用してもよい。
その他の成分としては、水酸基を有さないアクリル系樹脂等の熱硬化性樹脂、帯電防止剤、等が挙げられる。
【0026】
樹脂層(A)の膜厚(図1のXのように粒子による突起を除いた平坦部の厚み)は、好ましくは0.3〜5.0μm、より好ましくは0.4〜4.0μm、更に好ましくは0.5〜2.5μmである。
【0027】
<粒子(B)>
粒子(B)は、少なくとも表面にメラミン系化合物を含む粒子である。
粒子(B)の表面に存在するメラミン系化合物が、樹脂層(A)の熱硬化性樹脂の水酸基と反応することで、粒子の脱落が抑制された粒子含有離型層が形成され、優れた粒子密着性を有する工程シートとなり得る。
メラミン系化合物としては、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサプロポキシメチルメラミン、ヘキサブトキシブチルメラミン、及びこれらの重合体(樹脂)等が挙げられる。
これらの中でも、樹脂層(A)の耐溶剤性を向上させる観点から、ヘキサメトキシメチルメラミン又はその重合体が好ましい。
【0028】
粒子(B)は、少なくとも表面にメラミン系化合物を含む粒子であればよく、メラミン系化合物のみからなる単一粒子であってもよく、メラミン系化合物と共に、無機材料及び/又は有機材料を含む複合粒子であってもよい。
無機材料としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウム等が挙げられる。
有機材料としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、四フッ化エチレン樹脂、シリコーン樹脂、澱粉、及びアクリル樹脂等が挙げられる。
【0029】
複合粒子の形態としては、無機材料及び/又は有機材料からなる核粒子の表面の一部又は全部にメラミン系化合物が被覆された複合粒子や、メラミン系化合物からなる粒子の内側に、無機材料及び/又は有機材料が層状に点在している構造を有する複合粒子等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、工程シートがプレス機等に加熱圧縮されても、粒子(B)の形状が潰れない強度を有し、耐熱性にも優れているとの観点から、メラミン系化合物及びシリカを含む複合樹脂が好ましく、メラミン系化合物からなる粒子の内側にシリカが層状に点在している構造を有する複合樹脂がより好ましい。
【0031】
粒子(B)の平均粒径(直径)は、好ましくは1.0〜8.0μm、より好ましくは1.3〜7.5μm、より好ましくは1.7〜7.0μmである。
なお、粒子(B)の平均粒径の値は、実施例に記載の方法により測定した値を意味する。
また、本発明において、上記範囲内の平均粒径の粒子(B)を2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0032】
粒子含有離型層の粒子(B)の含有率は、好ましくは6〜45質量%、より好ましくは7〜40質量%、更に好ましくは8〜35質量%、より更に好ましくは9〜30質量%である。
粒子(B)の含有率が6質量%以上であれば、樹脂シートの表面へのマット感付与性が良好な工程シートとすることができる。一方、粒子(B)の含有率が45質量%以下であれば、粒子含有離型層から粒子(B)が脱落することを抑制することができる。また、均一な塗布面を形成することができる。
【0033】
〔工程シートの製造方法〕
本発明の工程シートの製造方法は、特に限定されない。
例えば、樹脂層(A)を構成する水酸基を有する熱硬化性樹脂、架橋剤、酸触媒等の各成分、並びに、粒子(B)を配合し、有機溶媒で希釈して、粒子含有離型層形成用溶液を調製した後、当該溶液を基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥・硬化することで製造することができる。
【0034】
上記の有機溶媒としては、樹脂層(A)を構成する成分との溶解性が良好であって、それら成分に対して不活性なものの中から適宜選択して用いることができ、例えば、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブタノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
これらの有機溶媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
粒子含有離型層形成用溶液の固形分濃度としては、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%、更に好ましくは15〜30質量%である。
【0036】
塗布方法としては、例えば、バーコート法、リバースロールコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、グラビアコート法、エアドクターコート法、ドクターブレードコート法等が挙げられる。
【0037】
塗膜形成後、該塗膜を加熱することで、塗膜内部の有機溶媒が除去されると共に、熱硬化性樹脂の水酸基と粒子(B)のメラミン系化合物とが反応し、粒子の脱落が抑制された粒子含有離型層が形成される。
この際の加熱温度は、好ましくは80〜180℃、より好ましくは100〜160℃であり、加熱時間は、好ましくは15秒間〜5分間、より好ましくは20秒間〜3分間である。
【0038】
本発明の工程シートは、転写樹脂が塗布、製膜されて、マット感を与えられた表面形状を有する樹脂シートを製造するために使用される。このようにマット感を与えられた樹脂シートとしては、合成皮革、化粧シート、内装材及び電磁波シールドフィルム等が挙げられる。
前記転写樹脂として使用される樹脂としては、例えばポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、ポリカーボネート及びポリビニルアルコール等が挙げられる。
これらの樹脂を有機溶媒や水系溶媒等の溶媒に溶解または分散媒に分散し、必要に応じて可塑剤等の各種添加剤を溶解して、塗布可能な粘度を有する転写樹脂が調製される。前記転写樹脂を、工程用シートの離型処理面上に塗布、乾燥して製膜したのち、該工程用シートを剥離することにより、所望のマット感を有する樹脂シートが得られる。
マット感を有する樹脂シートの製造において、本発明の工程シートが用いられれば、離型層中の粒子の脱落が抑制されているため、マット感が失われた箇所がなく、粒子が異物として混入することのない意匠性に優れた樹脂シートが得られる。
【実施例】
【0039】
以下の実施例及び比較例における各種物性の測定法、及び得られた工程シートの評価方法は、以下のとおりである。
【0040】
<樹脂層の膜厚>
走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス社製、製品名「VE−9800S」)を用いて、工程シートの樹脂層面から突起部分を除いた平坦部の厚みを測定し、樹脂層の膜厚とした。
【0041】
<粒子成分の平均粒径>
分散媒としてメチルエチルケトンを用い、固形分濃度5質量%の粒子成分の分散液を調製した。そして、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、製品名「LA−920」)を用いて、粒子成分の平均粒径を測定した。
【0042】
<工程シートのRa、Rp>
接触式表面粗さ計((株)ミツトヨ製、製品名「SV3000S4」)を用いて、JIS B 0601−1994に準拠して、実施例及び比較例で作製した工程シートの粒子含有離型層の表面の算術平均表面粗さ(Ra)及び最大山高さ(Rp)を測定した。
【0043】
<粒子密着性>
摩擦堅牢試験機「RT−200」(製品名、(株)大栄化学精機製作所製)を圧接し摺動擦過するように、実施例及び比較例で作製した工程シートの粒子含有離型層の表面に対して、厚さ80μmの無延伸ポリプロピレンフィルムを用いて、荷重1kg、往復50回の研磨を行った。
そして、研磨後の工程シートの粒子含有離型層の表面を、目視及び走査型電子顕微鏡による観察にて、粒子成分の脱落(粉落ち)を確認し、以下の基準により、工程シートの粒子密着性を評価した。
A:工程シートの粒子含有離型層表面の粒子成分の有無を観察し、脱落(粉落ち)した粒子成分の個数の割合が3%未満であった。
B:工程シートの粒子含有離型層表面の粒子成分の有無を観察し、脱落(粉落ち)した粒子成分の個数の割合が3%以上10%未満であった。
C:工程シートの粒子含有離型層表面の粒子成分の有無を観察し、脱落(粉落ち)した粒子成分の個数の割合が10%以上であった。
【0044】
<樹脂シートのヘーズ値>
実施例及び比較例で作製した工程シートに、転写樹脂を塗布後、剥離して樹脂シートを得、当該樹脂シートのヘーズ値を測定することで、工程シートのマット感付与性を評価した。
転写樹脂として、メチルメタクリレート(MMA)及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)からなるアクリル共重合体(MMA/2HEMA=95/5(質量%))を使用した。
具体的には、実施例及び比較例の工程シートの粒子含有離型層の表面に、上記の転写樹脂の溶液(固形分30質量%)を塗布し乾燥して、膜厚60μmの樹脂シートを形成した。そして、工程シートから当該樹脂シートを剥離し、当該樹脂シートのヘーズ値を、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製、製品名「NDH2000」)を用いて、JIS K 7136−2000に準拠して測定した。
樹脂シートのヘーズ値は、樹脂シートの表面の凹凸の程度を示す指標となる。樹脂シートのヘーズ値が大きい場合、樹脂シートの表面の凹凸の程度は大きく、樹脂シートのヘーズ値が小さい場合、樹脂シートの表面の凹凸の程度は小さい。つまり、樹脂シートのヘーズ値の大きさにより、工程シートのマット感付与性を評価することができる。
【0045】
なお、離型処理したガラス上に上記樹脂シートを形成した際の樹脂シートのヘーズ値は、0.1%であった。
上記の「離型処理したガラス」は、ソーダライムガラス(100mm×100mm×5mm)上に、固形分濃度2質量%の離型剤のトルエン溶液をマイヤーバー#4で塗布して塗膜を形成し、該塗膜を150℃で1分加熱し硬化したものである。使用した離型剤の種類及び配合量を以下に示す。
・「KS−847H」(商品名、信越化学(株)製、固形分濃度:30質量%):100質量部(固形分)
・「PL−50T」(商品名、信越化学(株)製、固形分濃度:2質量%):1質量部(固形分)
【0046】
実施例1〜11、比較例1〜2
水酸基を有する熱硬化性樹脂であるビスフェノールA型エポキシ樹脂エステル80質量部と、架橋剤であるメラミン樹脂20質量部との混合物(日立化成ポリマー(株)製、商品名「TA31−059D」、固形分濃度50%、溶媒:キシレン/トルエン/イソブタノール=36/32/32(質量比)の混合溶媒)の固形分100質量部に対して、酸触媒として、p−トルエンスルホン酸のメタノール溶液(固形分濃度:50質量%)を2.5質量部(固形分)添加して、樹脂組成物の溶液を調製した。
次に、当該樹脂組成物の溶液に、表1に示す種類及び配合量の粒子成分を加え、トルエン/メチルエチルケトン=30/70(質量比)の混合溶媒で希釈して、離型層形成用溶液を調製した。なお、当該離型層形成用溶液の固形分濃度は、実施例1〜3、10、11及び比較例1〜2においては18質量%、実施例4〜9においては24質量%に調製した。また、実施例10~11においては、メラミン系化合物を含む粒子(B)を2種併用して離型層形成用溶液を調整した。
そして、基材である、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)製、商品名「S10」)の一方の面上に、上記の粒子含有離型層形成用溶液を、各種マイヤーバーにて塗布し、塗膜を形成した。そして、当該塗膜を、150℃で1分間、加熱硬化させ、表1に記載の膜厚の樹脂層を形成し、PETフィルム上に粒子含有離型層を有する工程シートを作製した。
【0047】
実施例12
水酸基を有する熱硬化性樹脂であるアルキド樹脂(日立化成(株)製、商品名「テスラック2052−60T」、固形分濃度60質量%、溶媒:トルエン/キシレン=85/15(質量比)の混合溶媒)の固形分80質量部に対して、架橋剤として、メラミン樹脂(日本サイテックインダストリーズ(株)製、商品名「サイメル303」、固形分濃度100%)を20質量部(固形分)配合し、さらに酸触媒として、p−トルエンスルホン酸のメタノール溶液(固形分濃度:50質量%)を2.5質量部(固形分)添加して、樹脂組成物の溶液を調製した。
次に、当該樹脂組成物の溶液に、表1に示す種類及び配合量の粒子成分を加え、トルエン/メチルエチルケトン=30/70(質量比)の混合溶媒で希釈して、固形分濃度18質量%の離型層形成用溶液を調製した。
そして、調製した離型層形成用溶液を用いて、上述の実施例1等と同様にして、PETフィルム上に粒子含有離型層を有する工程シートを作製した。
【0048】
実施例及び比較例で使用した粒子成分は、以下のとおりである。
・「オプトビーズ(R)2000M」:商品名、日産化学工業(株)製、メラミン樹脂粒子の最表面から約100nm内側に層状でシリカが点在した構造を有する複合粒子、真比重:1.65、平均粒径:2.0μm。
・「オプトビーズ(R)3500M」:商品名、日産化学工業(株)製、メラミン樹脂粒子の最表面から約100nm内側に層状でシリカが点在した構造を有する複合粒子、真比重:1.65、平均粒径:3.5μm。
・「オプトビーズ(R)6500M」:商品名、日産化学工業(株)製、メラミン樹脂粒子の最表面から約100nm内側に層状でシリカが点在した構造を有する複合粒子、真比重:1.65、平均粒径:6.5μm。
・「ニップシールSS−50B」:商品名、東ソー・シリカ(株)製、多孔質不定形シリカ粒子。
・「トスパール120」:商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(株)製、シリコーン粒子、平均粒径:2.0μm、真比重:1.32。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1〜12の工程シートは、優れた粒子密着性を有しており、また、樹脂シートのヘーズの値が高く、当該工程シートのマット感付与性も良好であった。
一方、比較例1及び2の工程シートは、無延伸ポリプロピレンフィルムとの摩擦により、粒子含有離型層から粒子の脱落が目立ち、粒子密着性が劣る結果となった。特に、比較例1の工程シートは、粒子成分の多孔質不定形シリカの摩擦による破壊が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の工程シートは、合成皮革、化粧シート、内装材及び電磁波シールドフィルム等の表面にマット感(凹凸)を有する樹脂シートの作製に使用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 工程シート
2 基材
3 粒子含有離型層
4 樹脂層(A)
5 粒子(B)
X 樹脂層(A)の膜厚
図1