特許第6454314号(P6454314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6454314中空糸型バイオリアクターで成長させた間葉系幹細胞を収集するための収集培地及び細胞収集バッグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6454314
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】中空糸型バイオリアクターで成長させた間葉系幹細胞を収集するための収集培地及び細胞収集バッグ
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20190107BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   C12N5/0775
   C12M3/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-216385(P2016-216385)
(22)【出願日】2016年11月4日
(62)【分割の表示】特願2013-509222(P2013-509222)の分割
【原出願日】2011年5月4日
(65)【公開番号】特開2017-18148(P2017-18148A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年11月4日
(31)【優先権主張番号】61/331,660
(32)【優先日】2010年5月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507114521
【氏名又は名称】テルモ ビーシーティー、インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(72)【発明者】
【氏名】アントウィラー、グレン、デルバート
(72)【発明者】
【氏名】ウィンドミラー、デイビッド、エー.
(72)【発明者】
【氏名】ギブンス、モニク
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−518378(JP,A)
【文献】 特開2000−125848(JP,A)
【文献】 特表2005−502352(JP,A)
【文献】 特開2006−141336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00−5/28
C12M 3/00−3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸型バイオリアクターで成長させた間葉系幹細胞を収集するための収集培地であって、
基礎培地と、
前記中空糸型バイオリアクターから回収した培地に含まれるトリプシンを中和可能な量のウシ胎仔血清(FBS)を含むタンパク質と、
3.9mMの塩化カルシウムと、
9.91mMの無水D−グルコースと、
2.24mMの硫酸マグネシウムと、を備える、
ことを特徴とする収集培地。
【請求項2】
請求項1記載の収集培地において、
前記基礎培地は、α−MEMを含む、
ことを特徴とする収集培地。
【請求項3】
請求項1記載の収集培地において、
前記タンパク質は、ヒト血小板溶解物、ヒト血漿、ウシ胎仔血清(FBS)及びウシ胎仔血清(FCS)からなる群から選択される1つ以上を含む完全培地によって希釈されている、
ことを特徴とする収集培地。
【請求項4】
請求項1記載の収集培地において、
前記収集培地は、収集手順中に代謝産物の損失を補うために用いられる、
ことを特徴とする収集培地。
【請求項5】
中空糸型バイオリアクターで成長させた間葉系幹細胞を収集するための細胞収集バッグであって、前記中空糸型バイオリアクターから回収した培地に含まれるトリプシンを中和可能な量のウシ胎仔血清(FBS)を内部に含むとともに、前記細胞収集バッグ内の前記ウシ胎仔血清(FBS)は、前記中空糸型バイオリアクターから前記間葉系幹細胞を押し出すために用いた培地によって希釈された際に前記間葉系幹細胞にとって正常な環境を作り出すように濃縮されていることを特徴とする細胞収集バッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸型バイオリアクターで成長させた間葉系幹細胞を収集するための収集培地及び細胞収集バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な処置及び治療における幹細胞の使用に対して注目が集まっている。幹細胞は、損傷を受けた組織若しくは欠陥のある組織を修復又は交換するために用いることができ、広範な疾患を治療するための幅広い臨床応用を有する。
【0003】
細胞増殖システムを用いて、幹細胞や他の種類の細胞を接着性及び非接着性の両方において増殖させることができる。接着細胞は、成長・分裂する前に、接着するための表面を必要とする。非接着細胞は、懸濁液中で浮遊しながら成長・分裂する。
【0004】
細胞増殖システムは、成長細胞に栄養を与え、代謝物を除去し、細胞成長を促す生理化学的環境を提供する。細胞増殖システムは当該技術分野で公知である。
【0005】
細胞増殖システムの構成要素として、バイオリアクターすなわち細胞成長チャンバーは、成長細胞に対して最適環境を提供する重要な役割を担う。多くの種類のバイオリアクターが当該技術分野で公知である。バイオリアクター装置には、培養フラスコ、ローラーボトル、振とうフラスコ、撹拌槽型反応器、エアリフトリアクター及び中空糸型バイオリアクターがある。
【0006】
バイオリアクター内で増殖した細胞がコンフルエンス又は所望の細胞数のいずれかに達すると、これらの細胞を収集しなければならず、さらに増殖させたい場合、これらの細胞を同じか又は異なるバイオリアクターに再播種しなければならない。
【0007】
バイオリアクター装置の種類にかかわらず、接着細胞を収集するには、まず、これらの細胞を、細胞が成長する該表面から除去(取り離す)しなければならない。成長表面から接着細胞を除去するために、最初に、細胞を洗浄して、トリプシンを抑制するイオン(マグネシウム、カルシウム)を除去する。次いで、洗浄した細胞にトリプシンを添加し、表面に対する細胞の付着を緩める。これらの細胞付着が緩むと、細胞は膜表面から除去され、これら除去細胞を洗浄するか、又は細胞をスピンダウンしてペレット状にし、周囲の液体を除去して、新しい増殖培地に細胞を懸濁するかのいずれかによってトリプシンを除去する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この手順は、層流フード内で行う培養フラスコのような、細胞が平板上に成長する開放システムでは容易に行われる。しかし、中空糸型バイオリアクターを用いる閉鎖システムでは、このシステムは大気に対して閉鎖される。このシステムに対する液体の添加や除去は容易ではなく、細胞増殖に必要な増殖培地中に含まれるイオンは、中空糸を透過する限外濾過により細胞成長空間から失われる。そのため、これらの細胞は、(細胞の最初の洗浄からこのシステムへの液体の添加による)希釈された培地環境、さらに(細胞の膜への付着を緩めるのに用いられるトリプシンに由来する)トリプシンによって囲まれる環境、さらにまた限外濾過の結果としてイオン(例えば、カルシウム及びマグネシウム)が含まれない環境において生存することになる。
【0009】
これらの要因は、中空糸型バイオリアクターに直接再播種される収集した接着細胞が、細胞増殖することができないことの要因となり得る。
【0010】
従って、中空糸型バイオリアクターを用いる細胞増殖システムで使用するための新しい再播種プロトコルを開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、中空糸型バイオリアクターで成長させた間葉系幹細胞を収集するための収集培地であって、基礎培地と、前記中空糸型バイオリアクターから回収した培地に含まれるトリプシンを中和可能な量のウシ胎仔血清(FBS)を含むタンパク質と、3.9mMの塩化カルシウムと、9.91mMの無水D−グルコースと、2.24mMの硫酸マグネシウムと、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記基礎培地は、α−MEMを含むことが好ましい。前記タンパク質は、ヒト血小板溶解物、ヒト血漿、ウシ胎仔血清(FBS)及びウシ胎仔血清(FCS)からなる群から選択される1つ以上を含む完全培地によって希釈されていることが好ましい。前記収集培地は、収集手順中に代謝産物の損失を補うために用いられることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に使用される中空糸型バイオリアクターの概略図である。
図2図2は、本発明と共に用いることができる細胞増殖システムの概略図である。
図3図3は、本発明による完全な再播種手順の前、その間、及びその後の代謝産物濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、一般に、閉鎖した細胞増殖システムの中空糸型細胞成長チャンバー/バイオリアクターから、接着細胞、特に、間葉系幹細胞を収集し、及び/又は再播種するための滅菌された方法を対象とする。閉鎖したシステムとは、システムが直接大気にさらされていないことを意味する。
【0015】
細胞増殖システムから増殖細胞を収集することには、バイオリアクターから全ての増殖細胞を除去することが含まれる。収集した細胞を再播種することには、さらなる増殖のために、同一の若しくは異なるバイオリアクターにこれらの除去細胞の全てを再添加すること、又は、同一若しくは異なるバイオリアクターに収集細胞の一部を再添加し、同時に、後の使用のために、除去細胞の残りの部分を保持しておくことが含まれる。
【0016】
ここで図1を参照して、本発明と共に用いることができる中空糸型細胞成長チャンバー100の例を、正面図で示す。細胞成長チャンバー100は、縦軸LA−LAを有し、細胞成長チャンバーハウジング104を含む。少なくとも1つの実施形態において、細胞成長チャンバーハウジング104は、4つの開口部又はポートを含む:すなわち、IC入口ポート108、IC出口ポート120、EC入口ポート128、及びEC出口ポート132である。図において、同じ構成要素は同じ参照符号で表されることに留意すべきである。バイオリアクター100(図1)及び細胞増殖システム200(図2)を通る流体の流れの方向を矢印で示す。
【0017】
複数の中空糸116が、細胞成長チャンバーハウジング104内に配置される。中空糸116を作製するのに用いられる物質は、中空糸に加工可能な任意の生体適合性高分子材料でよい。「中空糸」、「中空糸毛細管」、及び「毛細管」という用語は、交換可能である。複数の中空糸は膜と呼ばれる。
【0018】
中空糸116の端部は、(本明細書で「ポッティング」又は「ポッティング材」とも呼ぶ)接続材によって細胞成長チャンバーハウジング104の両端にポッティングされる。ポッティング材は、中空糸内の培地(及び、必要に応じて細胞)の流れを妨害しないのであれば、中空糸116を束ねるのに適する任意の材料でよい。ポッティング材の例として、ポリウレタン又は他の適切な結束材又は接着材が挙げられるが、これらに限定されない。端部キャップ112及び124が、それぞれ、物質移動装置の各端部に配置される。
【0019】
第1の循環路202(図2参照)内の細胞成長培地は、細胞成長チャンバー100の第1の長手方向端部112におけるIC入口ポート108を通って細胞成長チャンバー100に入り、中空糸116の(種々の実施形態において、毛細管内(「IC」)側又は「IC空間」とも呼ばれる)毛細管内側を通過し、細胞成長チャンバー100の第2の長手方向端部124に位置するIC出口ポート120を通って細胞成長チャンバー100から出る。IC入口ポート108とIC出口ポート120との間の流体路は、細胞成長チャンバー100のIC部126を構成する。
【0020】
第2の循環路204(図2参照)内の流体は、EC入口ポート128を通って細胞成長チャンバー100に流入し、中空糸116の(「EC側」又は「EC空間」とも呼ばれる)毛細管外側又は外面と接触し、EC出口ポート132を経て細胞成長チャンバー100を出る。EC入口ポート128とEC出口ポート132との間の流体路は、細胞成長チャンバー100のEC部136を含む。EC入口ポート128を経て細胞成長チャンバーに入る流体は、中空糸116の外側と接触している。
【0021】
小分子(例えば、イオン、水、酸素、乳酸塩等)は、中空糸を透過して、IC空間からEC空間に、又はEC空間からIC空間に拡散することができる。成長因子等の分子量の大きい分子は、一般的に大きいので中空糸膜を透過できず、中空糸のIC空間に残る。必要に応じて、培地を交換してもよい。必要に応じて、ガスを交換するために、ガス輸送モジュール/酸素供給器232を介して培地を循環させてもよい。
【0022】
細胞は、一般的に、第1の循環路202における中空糸のIC空間内に含まれるが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱しなければ、第2の循環路204の中のEC空間内に含まれてもよい。細胞は、これらの細胞がIC空間で成長するか又はEC空間で成長するかにかかわらず、細胞成長空間で成長する。
【0023】
中空糸膜を作製するのに用いられる物質は、中空糸にすることができる任意の生体適合性高分子物質でよい。
【0024】
図2は、本発明と共に用いることができる細胞増殖システムの一実施形態の概略図を示す。
【0025】
第1の流体流路206は、細胞成長チャンバー100と流動的に結合して、第1の流体循環路202を形成する。培地は、細胞成長チャンバー100の中空糸の内側と接触している。流体は、IC入口ポート108を通って細胞成長チャンバー100に流入し、細胞成長チャンバー100の中空糸を通って、IC出口ポート120を経て出る。圧力計210は、細胞成長チャンバー100から出てくる培地の圧力を測定する。培地は、ICループ202内の培地の流量を制御するために用いることができるIC循環ポンプ212を介して流れる。その後、培地は弁214を通って流れる。当業者が理解するように、追加の弁及び/又は他の装置を様々な位置に配置して、流体路の部分に沿って培地を隔離したり、及び/又は培地の特性を測定したりすることができる。従って、示した図は、この細胞増殖システムの種々の構成要素に対する複数の可能な構成のうちの1つを表し、示した図に対する変形は、本発明の範囲内であることが理解されるべきである。
【0026】
ICループに関しては、培地のサンプルは、動作中にサンプルコイル218から取得することができる。第1の流体循環路202に配置された圧力/温度計220によって、動作中に培地の圧力及び温度を検出することができる。その後、培地は、IC入口ポート108に戻って、流体循環路202を終える。細胞成長チャンバー100において成長/増殖した細胞を、細胞成長チャンバー100から流出させ、収集バッグ299内に流入させることができる、或いは、さらに成長させるために中空糸内に再分配することができる。これを以下で詳細に説明する。
【0027】
第2の流体循環路204には、ループ形態で細胞成長チャンバー100と流動的に結合された第2の流体流路284が含まれる。第2の流体循環路204内の流体は、EC入口ポート128を経て細胞成長チャンバー100に入り、EC出口ポート132を経て細胞成長チャンバー100から出る。
【0028】
第2の流体循環路204内に配置された圧力/温度計224によって、培地が細胞成長チャンバー100のEC空間に入る前に、培地の圧力及び温度を測定することができる。圧力計226によって、培地が細胞成長チャンバー100から出た後に、第2の流体循環路204内の培地の圧力を測定することができる。ECループに関しては、培地のサンプルを、動作中にサンプルポート230又はサンプルコイル(図示せず)から取得することができる。
【0029】
細胞成長チャンバー100のEC出口ポート132から出た後、第2の流体循環路204内の流体は、EC循環ポンプ228を介してガス輸送モジュール232に入る。第2の流体流路222は、ガス輸送モジュールの入口ポート234及び出口ポート236を介して、ガス輸送モジュール232と流動的に結合している。動作中、流体培地は入口ポート234を経てガス輸送モジュール232に流入し、出口ポート236を経てガス輸送モジュール232を出る。ガス輸送モジュール232は、細胞増殖システム内の培地にガスを加え、また該培地から余分なガス(気泡)を除去する。種々の実施形態において、第2の流体循環路204内の培地は、ガス輸送モジュール232に入るガスと平衡状態にある。ガス輸送モジュール232は、当技術分野で公知の任意の適切なサイズのモジュールでよい。空気又はガスは、フィルタ238を経てガス輸送モジュール232に流入し、フィルタ240を経てガス輸送モジュール232から出る。フィルタ238及び240は、ガス輸送モジュール232及び関連培地の汚染を低減又は防止する。プライミングシーケンスのある期間においてシステム200からパージされる空気又はガスは、ガス輸送モジュール232を経て大気に放出することができる。
【0030】
示した構成において、第1の流体循環路202及び第2の流体循環路204内の流体培地は、細胞成長チャンバー100を通って同じ方向に流れる(並流構成)。細胞増殖システム200を、異なる方向(逆流構成)に流れるように構成することもできる。
【0031】
(バッグ262からの)細胞及び(バッグ246からの)IC流体培地は、第1の流体流路206を経て第1の流体循環路202に導入することができる。流体容器244(例えば、試薬)及び246(例えば、IC培地)は、それぞれ、弁248及び弁250を介して第1の流体流入路242、又は弁270及び弁276を介して第2の流体流入路274のいずれかと流動的に結合していてもよい。種々の流入路に対するプライミングの目的のために、第1及び第2の無菌密閉可能な入力プライミング路208及び209が設けられる。空気除去チャンバー256は、第1の循環路202と流動的に結合している。空気除去チャンバー256は、空気除去チャンバー256内の複数の測定位置において空気を検出又は流体の不足を検出するために、1以上の超音波センサーを含んでもよい。例えば、超音波センサーを、空気除去チャンバー256の底部付近及び/又は上部付近で用いて、これらの場所で空気又は流体を検出してもよい。プライミングシーケンスのある期間において細胞増殖システム200からパージされる空気又はガスは、空気除去チャンバー256と流動的に結合しているライン258を経て空気弁260から大気に放出することができる。
【0032】
流体容器262(例えば、細胞注入バッグ(又は生理食塩水プライミング流体))は、弁264を介して第1の流体循環路202と流動的に結合している。(バッグ268からの)EC培地又は(バッグ266からの)洗浄液を、第1又は第2の流体流路のいずれかに添加してもよい。
【0033】
流体容器266は、分配弁272及び第1の流体流入路242を介して第1の流体循環路202と流動的に結合している弁270と流動的に結合してもよい。或いは、流体容器266は、弁270を開いて、分配弁272を閉じることにより、第2の流体流入路274及び第2の流体流路284を介して、第2の流体循環路204と流動的に結合することもできる。同様に、流体容器268は、第1の流体流入路242を介して第1の流体循環路202と流動的に結合することができる弁276と流動的に結合している。或いは、流体容器268は、弁276を開いて、分配弁272を閉じることによって、第2の流体流入路274と流動的に結合することができる。
【0034】
ICループにおいては、流体は、最初、IC入口ポンプ254によって進められる。ECループにおいては、流体は、最初、EC入口ポンプ278によって進められる。超音波センサー等の空気検出器280は、第2の流体流路284と結合していてもよい。
【0035】
少なくとも1つの実施形態において、第1及び第2の液体循環路202及び204は、廃棄ライン288と連結している。弁290が開放されると、IC培地は廃棄ライン288を通って廃棄バッグ286に流れることができる。同様に、弁292が開放されると、EC培地は、廃棄ライン288を通って廃棄バッグ286に流れることができる。
【0036】
細胞は、細胞収集路296を経て収集することができる。ここでは、細胞を含むIC培地を細胞収集路296及び弁298を介して細胞収集バッグ299へポンピングすることにより、細胞成長チャンバー100から細胞を収集することができる。
【0037】
細胞増殖システム200の種々の構成要素を、培養器300内に含めるか、又は収容させることができ、その際、この培養器は、細胞及び培地を所望の温度に維持する。
【0038】
当業者が理解するように、任意の数の流体容器(例えば、培地バッグ)を、任意の組み合わせで、細胞増殖システムと流動的に結合することができる。
【0039】
このシステム(IC側及びEC側の両方)で用いられる細胞成長培地は一般に完全培地である。完全培地とは、培地が少なくともある一定の割合のタンパク質を含んでいることを意味する。細胞成長培地に一般に用いられるタンパク質の例としては、ヒト血小板溶解物(human platelet lysate)、ヒト血漿、ウシ胎仔血清(FBS)及び/又はウシ胎仔血清(FCS)が挙げられる。細胞成長培地及び完全培地という用語は、交換可能に使用される。基礎培地は、タンパク質源を含まない細胞成長培地である。本発明に使用される基礎培地の例としてはα−MEM(アルファMEM)が挙げられるが、タンパク質を含まない任意の一般的に用いられる培地を、本発明で用いてもよい。
【0040】
さらなる細胞増殖のためにこのバイオリアクターに再播種する/再添加すること、又は最終的な臨床使用のために増殖細胞を収集することが望まれる場合には、膜から細胞を除去するための細胞収集プロトコルを開始する必要がある。所望される細胞の最終個数に応じて、バイオリアクターには、完全に又は部分的に再播種される。バイオリアクターに再播種する目的は、膜表面から細胞を解放して、同一又は異なるバイオリアクターに解放した細胞を再添加して、増殖させ続けることである。
【0041】
しかしながら、収集手順を経た後にバイオリアクターから流出した細胞を、同じ又は異なるバイオリアクターに直接再播種する場合、細胞は成長しない。ここで、直接再播種するとは、再播種される前に、バイオリアクターから除去された細胞に対して如何なる追加処理も行わないことを意味する。これを、以下の表1に示す。
【0042】
この実験において、ICループ202及びECループ204内の培地をPBSに交換し、このシステムのICループ及びECループの両方から完全培地並びにマグネシウムイオン及びカルシウムイオンを除去した。トリプシン溶液を、バッグ244(又は246、266又は268)から第1の流体循環路202に導入した。トリプシンによって細胞をIC膜から分離することのできる休止期間(dwell period)の後、完全培地をバッグ246(又は244、266又は268)から第1の流体循環路202に再導入し、トリプシンを不活性化し、これらの細胞をチューブライン296を介してバイオリアクターのIC側から出し、細胞収集バッグ299に入れた。これらの細胞を細胞収集バッグ299から直接取り出し、新しいバイオリアクターに直接添加するか、又は新しいバイオリアクターに添加する前にスピンダウンして、基礎培地100mLで洗浄した。
【0043】
表1に見られるように、新しいバイオリアクターに細胞を添加する前に、流体を交換する洗浄ステップを施した細胞産物を添加した場合、バイオリアクターにおける成長は、良好だった。
【0044】
【表1】
【0045】
表から分かるように、中空糸型バイオリアクターに細胞を再播種する前に収集した細胞を洗浄することにより、中空糸型バイオリアクターに細胞を直接添加した場合よりも、大きな細胞増殖がもたらされる。しかしながら、洗浄ステップにおいては、増殖細胞の汚染が起こる可能性があり、また、洗浄ステップは、細胞増殖プロセスにおいて追加ステップとなる。洗浄ステップを追加せずに、収集した細胞を直接再播種することができる手順であれば、好都合である。
【0046】
従って、細胞洗浄に代わるものとして、細胞増殖システム200に接続する前に、FBS(一例であり、限定することを意図しない)等のタンパク質源を収集バッグ299に添加する(これにより、収集バッグ内のタンパク質の濃度は100%になる)。収集した細胞がこのバッグに流入する前に、1〜100%の間の任意の濃度で(完全培地を作製するために)タンパク質を基礎培地に添加してもよい。タンパク質の添加濃度は、収集した細胞(及びトリプシン及びバイオリアクターから細胞を押し出すために用いた培地)によって収集バッグ内で希釈され、細胞にとってより正常な環境を作り出すのに役立ち、細胞を直接再播種できるようになる。
【0047】
別の実施形態において、収集手順を開始する前に、バッグ244、246、266又は268のいずれかから完全培地又はタンパク質のみのいずれか一方を、ポンプ212又は254を介して収集バッグ299にポンピングする。完全培地又はタンパク質は、細胞を含む培地がバイオリアクターのIC側を通って移動する速度よりも速い速度で収集バッグ299にポンピングされる。その結果、収集した細胞が収集バッグに到達する時間までには、このバッグは完全培地又はタンパク質ですでに満たされる。
【0048】
タンパク質のみ又は完全培地を、バイオリアクターから収集バッグ299に細胞を運ぶチューブライン296に直接追加してもよい。この実施形態において、タンパク質又は完全培地は、ライン296に沿った任意の点でバッグ310からライン296に直接ポンピングされる。これらの細胞は、ポート120を経てバイオリアクター100から洗い流され、ライン296に入る。これらの細胞が、チューブ296でタンパク質源又は完全培地と混合され、すぐに、細胞増殖を促す環境になる。これらの細胞は直接再播種することができる。
【0049】
記載した実施形態において、収集された細胞を懸濁する培地に含まれるトリプシンは、タンパク源に曝露されると、すぐに中和され、収集された細胞は、洗浄ステップを追加せずに、新しい又は同じバイオリアクターに直接再接種することができる。本発明の前に、すでに実施されていたように、収集手順中に全てのタンパク質を細胞環境から除去したようなタンパク質のない環境下で、細胞は、ある程度の期間生存しているので、上記の手順であれば、収集手順直後における、細胞の生存可能性はより高まる。タンパク質の不足は細胞成長を促すことはない。
【0050】
閉鎖した中空糸型システム内の細胞を収集する結果として生じる細胞環境におけるイオンの不足を補うために、新規収集培地を開発した。中空糸型バイオリアクターから収集した間葉系幹細胞等の接着細胞を直接再播種するためにこの収集培地を用いる利点は、この収集培地には、細胞環境中のイオンの不足を補い且つ再播種直後に細胞を成長させることができるだけの十分な代謝産物が存在する。
【0051】
下記の表2は、新規収集培地中のイオン濃度と基礎培地中のイオン濃度を比較したものである。この実施例で用いる基礎培地はα−MEMである。この表に見られるように、基礎培地及び収集培地の構成成分は同じであるが、この収集培地は、収集手順中に中空糸を介してそれらの代謝産物の損失を補うために、より高濃度のカルシウム、マグネシウム及びグルコースを有する。
【0052】
【表2】
【0053】
上記の実施例の収集培地は以下のとおりに調製される:
【0054】
1.無水D−グルコース(Sigma#G5767)7.41g及び塩化カルシウム二水和物(Sigma#C3306)3.37gを、α−MEM(Lonza#12−169−F)最終体積50mLに添加する。溶解するまで混合する。別の試験管において、硫酸マグネシウム7水和物(Sigma#M1880)3.25gをα−MEM最終体積50mLに添加する。溶解するまで混合する。
【0055】
2.別のα−MEM3060mL、100xグルタマックス(glutamax)(Gibco#35050)50mL及びFBS(Gibco#12662−029)800mLに上記のグルコース/カルシウム溶液50mLを添加する。グルコース/カルシウム溶液を添加した後、マグネシウム溶液50mLを添加する。4℃で保存する。
【0056】
表3は、収集し、収集培地に直接再播種した細胞が、膜への付着後すぐに増殖できることを示す。示したデータは、完全再播種手順のデータである。
【0057】
【表3】
【0058】
図3は、完全再播種手順の前、その間及びその後のIC培地中の代謝産物濃度を示すグラフである。再播種手順の前は、増殖培地中のカルシウム濃度はベースライン付近であった。ここで、ベースラインは、基礎培地α−MEM中に見られるカルシウム量を表す。グルコースの濃度はベースラインより低く、乳酸塩の濃度はベースラインより高かったが、これは、間葉系幹細胞を成長させる代謝活性を反映している。この手順におけるトリプシン/EDTA(エチレンジアミン四酢酸)の洗い流しステップの前は、カルシウムは検出限界以下であった。グルコース及び乳酸塩のレベルも、PBSでの培地交換により著しく減少した。トリプシン/EDTAがグルコースを含むため、グルコースレベルは乳酸塩よりも高かった。基礎培地はグルコースを含むが、乳酸塩を含まないので、トリプシン/EDTAの洗い流しの間において、基礎培地がこのシステムに流入すると、グルコースレベルが上昇し始め、乳酸塩レベルは検出限界以下に低下した。洗い流し後、カルシウム及びグルコースのレベルはベースラインに戻った。再播種手順が完了した後、乳酸塩レベルもベースラインに戻った。
【0059】
この実施例において、使用した基礎培地は、α−MEMである。しかしながら、当業者であれば、追加量のカルシウム、マグネシウム及びグルコースを、所望の任意の基礎培地に添加できることは理解できよう。
【0060】
α−MEM以外の他の培地を用いる場合、以下の式を用いて、任意の基礎培地を中空糸型システムで使用するための収集培地にするのに必要なイオン及びタンパク質の追加量を計算することができる。
hh+0vcircuit=cfh+ccc
式中、Ch=収集培地の初期濃度
h=システムから除去される収集培地の体積
0=タンパク質(システム中に含まれないので)
Ca++及びMg++も0である(システム中に含まれないので)
f=所望の収集培地の濃度(最終)
h=システムに加えられる収集培地の体積
c=最終混合濃度(cICIC+cECEC
c=ICループの最終体積
【0061】
本発明の記載には、1以上の実施形態並びに変更及び変形の記載が含まれているが、他の変更及び変形は、当業者の技術及び知識の範囲内である発明の範囲内で行われる。クレームされているものに対して、代替的、互換的及び/又は同等の構造、機能、範囲又はステップを含む代替の実施形態を許容される範囲で包含する権利を取得することを意図する。この場合、かかる代替的、互換的及び/又は同等の構造、機能、範囲又はステップが本明細書に開示されているか否かは関係がなく、また、特許可能な任意の発明の対象を公的に献納するという意図はない。
図1
図2
図3