【文献】
BASCOUL,J. et al,"Dimensional analogs of steroid hormones",COMPTES RENDUS DES SEANCES DE L'ACADEMIE DES SCIENCES, SERIE C: SCIENCES CHIMIQUES,1967年,Vol.264, No.7,pp.629-632
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、主として、光透過性と耐熱性に優れた高分子材料の提供に有効に利用し得る脂環式ジエポキシ化合物並びにその製造方法および製造中間体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、基本骨格となる脂環構造に、対称性を導入する一方で、自由回転を生じる可能性のある炭素−炭素単結合を除外することにより得られる脂環式ジエポキシ化合物が、光透過性と耐熱性の両面で、極めて優れた高分子材料の製造に有効に利用し得ることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明の第一は、下記一般式(1)で表される脂環式ジエポキシ化合物に関する。
【0008】
【化1】
【0009】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、nは2〜5の整数を示す。)
【0010】
すなわち本発明の第二は、前記一般式(1)において、n=2または3である、本発明第一に記載の脂環式ジエポキシ化合物に関する。
【0011】
すなわち本発明の第三は、前記一般式(1)において、n=2である、本発明第一に記載の脂環式ジエポキシ化合物に関する。
【0012】
すなわち本発明の第四は、下記一般式(2)で表されるビススピロノルボルネン構造を有する化合物中の一つの炭素−炭素不飽和結合をエポキシ化して、下記一般式(3)で表されるモノエポキシ化合物を得、得られた当該化合物のもう一方の炭素−炭素不飽和結合をエポキシ化することにより下記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン構造を有するジエポキシ化合物を得る、下記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン構造を有する脂環式ジエポキシ化合物の製造方法に関する。
【0013】
【化2】
【0014】
(一般式(2)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、nは2〜5の整数を示す。)
【0015】
【化3】
【0016】
(一般式(3)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、nは2〜5の整数を示す。)
【0017】
【化4】
【0018】
(一般式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、nは2〜5の整数を示す。)
【0019】
すなわち本発明の第五は、上記一般式(1)
〜(3)において、n=2または3である、本発明第四に記載の脂環式ジエポキシ化合物の製造方法に関する。
【0020】
すなわち本発明の第六は、上記一般式(1)
〜(3)において、n=2である、本発明第四に記載の脂環式ジエポキシ化合物の製造方法に関する。
【0021】
すなわち本発明の第七は、下記一般式(3)で表されるエポキシ基を有する脂環式モノエポキシ化合物に関する。
【0022】
【化5】
【0023】
(一般式(3)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、nは2〜5の整数を示す。)
【0024】
すなわち本発明の第八は、前記一般式(3)において、n=2または3である、本発明第七に記載のビススピロノルボルナン構造を有する脂環式モノエポキシ化合物に関する。
【0025】
すなわち本発明の第九は、前記一般式(3)において、n=2である、本発明第七に記載のビススピロノルボルナン構造を有する脂環式モノエポキシ化合物に関する。
【0026】
すなわち本発明の第十は、過酸化水素水、ヘテロポリ酸触媒、界面活性剤の存在下に、エポキシ化反応を行う、本発明第四乃至第六に記載の脂環式ジエポキシ化合物の製造方法に関する。
【0027】
すなわち本発明の第十一は、本発明第1乃至第3の何れかに記載の脂環式ジエポキシ化合物の高分子材料モノマーとしての使用に関する。言い換えると、本発明の第十一は、本発明第1乃至第3の何れかに記載の脂環式ジエポキシ化合物からなる、高分子材料の製造用モノマーに関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、光透過性と耐熱性に優れた高分子材料の提供に有効に利用し得る脂環式ジエポキシ化合物並びにその製造方法および製造中間体を提供することが可能となる。
【0029】
なお、本発明に係る上記一般式(1)で表される新規脂環式ジエポキシ化合物は、基本骨格となる脂環構造がビススピロノルボルナン構造を有し、対称性を有する一方で、自由回転を生じる可能性のある炭素−炭素単結合を有さず、高度の透明性と耐熱性とを有する高分子材料を製造モノマーとして有用である。また、耐熱性高分子材料として使用されている他の多官能化合物と比較して、モノマー分子としての適切な大きさ、有機溶媒への溶解性を有しており、前記高分子材料の製造工程において、取扱い易く、また、これら化合物は、その中間体を含め、医農薬等各種有用化合物の反応中間体の分野においても応用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(本発明の脂環式ジエポキシ化合物の構造)
本発明に係る脂環式ジエポキシ化合物は、下記一般式(1)で表される。
【0033】
(一般式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、nは2〜5の整数を示す。)
【0034】
本発明に係る脂環式ジエポキシ化合物は、シクロアルカノンの対称位置にノルボルナン環を有し、対称性が強く、かつ、自由回転可能な炭素−炭素結合を持たないビススピロノルボルナン構造を基本構造として有する。現在まで、当該基本構造を有する脂環式ジエポキシ化合物の製造例は知られていない。
【0035】
なお、前記一般式(1)は、シクロアルカノン環とノルボルナン環、およびノルボルナン環とエポキシ基との立体配座の関係から生じる複数異性体を一括して表している。
【0036】
耐熱性高分子材料の分野では、高分子材料分子鎖の剛直性や対称性を阻害する構造を有する化合物(モノマー)が、高分子材料の耐熱性を低下させる可能性が高いことが、経験的に知られている。また、自由回転可能な、炭素−炭素結合を有する化合物(モノマー)にも同様の傾向があることが経験的に知られている。
【0037】
また、化合物(構成モノマー)が、高分子材料を構成する他の化合物(構成モノマー)より嵩高い構造を有する場合、あるいは反応系溶媒に対する溶解性が劣る場合、これら化合物が高分子材料中に適切に取り込まれないことがあることも知られている。
【0038】
本発明に係る脂環式ジエポキシ化合物においては、これらの課題を、耐熱性高分子材料に含有される芳香族化合物(モノマー)中の芳香環と近似した炭素数の脂環構造を対称構造に配置し、これらを、自由回転の生じ得ないスピロ結合を介して連結することで解決している。また、不対電子対を有する酸素を含むカルボニル基を含有するので、高分子鎖分子内、高分子分子鎖間の水素結合の生成により耐熱性が向上する。
【0039】
このように、本発明の脂環式ジエポキシ化合物は、高分子材料を製造するためのモノマーとして有用であり、特に、高度の透明性と耐熱性とを有する高分子材料を製造するためのモノマーとして有用である。
【0040】
なお、前記一般式(1)中のR
1、R
2として選択され得るアルキル基は、炭素数が1〜10のアルキル基である。このような炭素数が10を超えると、エポキシ樹脂用のモノマーとして用いた場合に、得られる硬化物の耐熱性が低下する。また、このようなR
1、R
2として選択され得るアルキル基の炭素数としては、エポキシ硬化物を製造した際に、より高度な耐熱性が得られるという観点から、1〜6であることが好ましく、1〜5であることがより好ましく、1〜4であることが更に好ましく、1〜3であることが特に好ましい。また、このようなR
1、R2として選択され得るアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0041】
前記一般式(1)中のR
1、R
2としては、エポキシ硬化物を製造した際に、より高度な耐熱性が得られるといった観点から、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基であることが特に好ましい。また、このような式中のR
1、R
2は、それぞれ、同一のものであってもあるいは異なるものであってもよいが、精製の容易さ等の観点からは、同一のものであることが好ましい。
【0042】
また、前記一般式(1)中のnは2〜5の整数を示す。このようなnの値が前記上限を超えると、前記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン類の精製が困難となる。また、前記下限未満では前記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン類の合成が困難となる。更に、このようなnの値は、前記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン化合物の構造安定性の観点から、2または3であることが好ましく、2であることが特に好ましい。
【0043】
(本発明の脂環式ジエポキシ化合物の製造方法)
本発明に係る脂環式ジエポキシ化合物の製造は、これらに対応する構造を有するビススピロノルボル
ネン化合物、すなわち、下記一般式(2)で表さるビススピロノルボルネン化合物を原料とし、当該化合物中の不飽和結合の化学修飾を経て製造することが好ましい。下記一般式(2)で表される化合物の製造方法は、本出願人によって出願された特許文献7(段落[0119]〜[0132])に開示されている。
【0045】
(一般式(2)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、nは2〜5の整数を示す。)
【0046】
特許文献7に開示する製造方法によって製造された(後述の実施例も参照)、ビススピロノルボルネン構造を有する化合物は、単離せず、反応混合液をそのまま使用することもできるし、単離・精製してから以降の反応に使用してもよい。
【0047】
なお、シクロヘプタノン、シクロオクタノンを骨格とするビススピロノルボルネン構造を有する化合物も上記と同様にして合成することができる。
【0048】
以下、上記ビススピロノルボルネン化合物から、本発明に係る脂環式ジエポキシ化合物を製造する方法を述べる。
【0049】
上記ビススピロノルボルネン化合物から、本発明に係る脂環式ジエポキシ化合物を製造するには、炭素−炭素二重結合をエポキシ化することが好ましく、これには公知の方法を用いて行うことができる。その中でも、ヘテロポリ酸触媒と過酸の組み合わせが簡便であり、好ましい。なお、このようなビススピロノルボルネン化合物の炭素−炭素二重結合をエポキシ化することが可能な方法としては、ヘテロポリ酸触媒と過酸の組み合わせて利用する方法に限定されるものではなく(ヘテロポリ酸触媒の使用が必ずしも必須となる訳ではなく)、種々の方法を適宜採用することが可能であり、例えば、メタクロロ過安息香酸を用いた酸化反応を利用して炭素−炭素二重結合をエポキシ化する方法を採用することも可能である。
【0050】
過酸では、例えば、過酸化水素水などの無機酸、過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸、過マレイン酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸、過フタル酸などの有機過酸、及び、それらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素水を用いるのが好ましい。
【0051】
過酸化水素水は、市販のものをそのまま使用することができる。過酸化水素の使用量は、原料化合物のビススピロノルボルネン化合物中の炭素−炭素不飽和結合に対して2.0〜5.0倍モルの範囲であるのが好ましく、2.2〜3.0倍モルの範囲であるのがより好ましい。2.0倍モルより少ない場合、反応が十分に進行せず、また5.0倍モルを超える場合、生成した脂環式ジエポキシ化合物のエポキシ環の酸化分解などの副反応が進行して収率が低下する傾向となる。
【0052】
反応温度としては、30〜80℃の範囲が好ましい。30℃未満の場合、反応速度が極めて小さく、反応効率が悪く、80℃を超える場合、原料、および生成物の分解が生じることがある。
【0053】
ヘテロポリ酸と過酸化水素水のモル比割合は、過酸化水素に対して1:100〜1:400の範囲であるのが好ましく、反応の効率を考慮すれば、1:150〜1:250の範囲であるのがより好ましい。
【0054】
以下、より詳細に、本発明の上記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン構造を有する脂環式ジエポキシ化合物の製造方法(以下、場合により単に「脂環式ジエポキシ化合物の製造方法」と称する。)について説明する。
【0055】
本発明の脂環式ジエポキシ化合物の製造方法は、上記一般式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物中の一つの炭素−炭素不飽和結合をエポキシ化して、上記一般式(3)で表される脂環式モノエポキシ化合物を得た後、得られた当該化合物のもう一方の炭素−炭素不飽和結合をエポキシ化することにより、上記一般式(1)で表される脂環式ジエポキシ化合物を得る方法である。
【0056】
なお、このような脂環式ジエポキシ化合物の製造方法に用いる上記一般式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物に関して、上記一般式(2)中のR
1、R
2、nは、上記一般式(1)中のR
1、R
2、nと同義であり、その好適なものも同様のものである。また、このような脂環式ジエポキシ化合物の製造方法により得られる、上記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン構造を有する脂環式ジエポキシ化合物は、前述の本発明の脂環式ジエポキシ化合物と同様のものである(式(1)中のR
1、R
2、nの好適なものも同様である。)。
【0057】
また、このような脂環式ジエポキシ化合物の製造方法においては、先ず、上記一般式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物中の一方の炭素−炭素二重結合をエポキシ化して、上記一般式(3)で表される脂環式モノエポキシ化合物を得る。このような一般式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物中の一方の炭素−炭素二重結合をエポキシ化する方法としては特に制限されず、炭素−炭素二重結合をエポキシ化することが可能な公知の方法適宜利用することができ、例えば、上述のような、ヘテロポリ酸触媒と過酸の組み合わせて利用してエポキシ化する方法を採用してもよい。なお、このようなヘテロポリ酸触媒や過酸の使用方法や反応条件としては上述の条件を適宜採用することができる。また、このようなエポキシ化の工程においては、反応温度を維持すると、エポキシ化により脂環式モノエポキシ化合物が形成された後も反応が進み、その脂環式モノエポキシ化合物が更にエポキシ化されて脂環式ジエポキシ化合物となる。ここにおいて、反応を途中で止めること(例えば、加熱工程を十分な時間施さず、加熱を途中で止めること等)により、生成物中に脂環式モノエポキシ化合物を混在させることも可能となり、これにより、脂環式モノエポキシ化合物(反応中間体)を得ることも可能である。
【0058】
また、このような脂環式ジエポキシ化合物の製造方法においては、エポキシ化する際に、過酸化水素水、ヘテロポリ酸触媒、界面活性剤の存在下に、エポキシ化反応を行うことがより好ましい。
【0059】
このような界面活性剤としては、塩化テトラヘキシルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリオクチルエチルアンモニウム、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化トリカプリルメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ジセチルジメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウ、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、塩化ブチルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム、セチルピリジニウムクロリド等の塩化物;臭化テトラヘキシルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化トリオクチルメチルアンモニウム、臭化トリオクチルエチルアンモニウム、臭化ジラウリルジメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、臭化ジステアリルジメチルアンモニウム、臭化トリカプリルメチルアンモニウム、臭化ジデシルジメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化ジセチルジメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、セチルピリジニウムブロリド等の臭化物;ヨウ化テトラヘキシルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化トリオクチルメチルアンモニウム、ヨウ化トリオクチルエチルアンモニウム、ヨウ化ジラウリルジメチルアンモニウム、ヨウ化ラウリルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ステアリルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、ヨウ化ジステアリルジメチルアンモニウム、ヨウ化トリカプリルメチルアンモニウム、ヨウ化ジデシルジメチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリエチルアンモニウム、ヨウ化ジセチルジメチルアンモニウム、テトラブチルホスホニウムアイオダイド、テトラフェニルホスホニウムアイオダイド等のヨウ化物;リン酸水素化トリオクチルメチルアンモニウム、リン酸水素化トリオクチルエチルアンモニウム、リン酸水素化ジラウリルジメチルアンモニウム、リン酸水素化ラウリルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ステアリルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、リン酸水素化ステアリルジメチルアンモニウム、リン酸水素化トリカプリルメチルアンモニウム、リン酸水素化ジデシルジメチルアンモニウム、リン酸水素化テトラブチルアンモニウム、リン酸水素化ベンジルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ベンジルトリエチルアンモニウム、テトラブチルホスホニウムハイドロ
ゲンホスフェート、テトラフェニルホスホニウム
ハイドロゲンホスフェート等のリン酸水素化物;硫酸水素化テトラヘキシルアンモニウム、硫酸水素化テトラブチルアンモニウム、硫酸水素化テトラプロピルアンモニウム、硫酸水素化テトラエチルアンモニウム、硫酸水素化テトラメチルアンモニウム、硫酸水素化トリオクチルメチルアンモニウム、硫酸水素化トリオクチルエチルアンモニウム、硫酸水素化ジラウリルジメチルアンモニウム、硫酸水素化ラウリルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ステアリルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、硫酸水素化ジステアリルジメチルアンモニウム、硫酸水素化トリカプリルメチルアンモニウム、硫酸水素化ジデシルジメチルアンモニウム、硫酸水素化ベンジルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ベンジルトリエチルアンモニウム、硫酸水素化セチルジメチルアンモニウム、硫酸水素化セチルトリメチルアンモニウム、テトラブチルホスホニウムハイドロ
ゲンサルフェート、テトラフェニルホスホニウム
ハイドロゲンサルフェート等の硫酸水素化物;水酸化テトラヘキシルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化トリオクチルメチルアンモニウム、水酸化トリオクチルエチルアンモニウム、水酸化ジラウリルジメチルアンモニウム、水酸化ラウリルトリメチルアンモニウム、水酸化ステアリルトリメチルアンモニウム、水酸化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、水酸化ジステアリルジメチルアンモニウム、水酸化トリカプリルメチルアンモニウム、水酸化ジデシルジメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリエチルアンモニウム、水酸化ジセチルジメチルアンモニウム、水酸化セチルトリメチルアンモニウムカチオン等の水酸化物等;が挙げられ、中でも、反応性の観点から、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロミドが好ましく、セチルピリジニウムクロライドがより好ましい。
【0060】
このようなヘテロポリ酸触媒としては、H
3PW
12O
40、H
4SiW
12O
40、H
3PMo
12O
40、Na
3PMo
12O
40、H
3PW
12−XMo
xO
40、H
15−XPV
12−XMo
xO
40が挙げられ、中でも、反応性の観点から、H
3PW
12O
40、H
3PMo
12O
40が好ましく、H
3PW
12O
40がより好ましい。
【0061】
なお、このようなエポキシ化反応に際しては、前述のように、中間体として上記一般式(3)で表される脂環式モノエポキシ化合物が形成され、その後、更にエポキシ化反応を進めることで、上記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン構造を有する脂環式ジエポキシ化合物が生成されることとなる。例えば、溶媒中に、上記一般式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物、界面活性剤、過酸化水素水、ヘテロポリ酸触媒を導入し、界面活性剤、過酸化水素水、ヘテロポリ酸触媒の存在下において加熱することにより、エポキシ化反応を進行させる場合、エポキシ化が完全に進行する前の段階において、中間体として上記一般式(3)で表される脂環式モノエポキシ化合物が形成され(反応を途中で止めた場合に反応系中から中間体を取り出すことも可能である。)、その後、更に加熱し続けて反応を進行せしめることで、上記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン構造を有する脂環式ジエポキシ化合物を生成することが可能である。なお、本発明においては、より効率よく上記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン構造を有する脂環式ジエポキシ化合物を生成するといった観点から、一連の工程として、溶媒中に、上記一般式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物、界面活性剤、過酸化水素水、ヘテロポリ酸触媒を導入し、界面活性剤、過酸化水素水、ヘテロポリ酸触媒の存在下に加熱を続けてエポキシ化を十分に進行させることにより、上記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン構造を有する脂環式ジエポキシ化合物を生成することが好ましい。
【0062】
このようなエポキシ化反応においては、反応制御の観点から、溶媒を利用することが好ましい。このような溶媒としては特に制限されず、炭素−炭素二重結合をエポキシ化する際に利用することが可能な公知の溶媒を適宜利用することができ、例えば、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、ノルマルまたはイソプロパノール、第三級ブタノール等の炭素数3〜6の第一、二、三級の一価アルコール;プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の多価アルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、安息香酸メチル等のエステル類、アセトニトリルを適宜利用することができる。
【0063】
また、前記界面活性剤の使用量としては特に制限されないが、上記一般式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物1モルに対して0.01〜0.10モル(より好ましくは0.02〜0.05モル)となる割合で利用することが好ましい。このような界面活性剤の使用量が前記下限未満では反応速度の低下により収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると精製工程が煩雑になる傾向にある。
【0064】
また、前記ヘテロポリ酸触媒の使用量としては特に制限されないが、上記一般式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物1モルに対して0.005〜0.050モル(より好ましくは0.01〜0.03モル)となる割合で利用することが好ましい。このようなヘテロポリ酸触媒の使用量が前記下限未満では反応速度の低下により収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると反応が急激に進行して反応選択性が悪化し、収率が低下する傾向にある。
【0065】
また、過酸化水素水の使用量は、前述のように、上記一般式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物中の炭素−炭素不飽和結合に対して過酸化水素の量が2.0〜5.0倍モルとなる範囲であるのが好ましく、2.2〜3.0倍モルとなる範囲であるのがより好ましい。2.0倍モルより少ない場合、反応が十分に進行せず、また5.0倍モルを超える場合、生成した脂環式ジエポキシ化合物のエポキシ環の酸化分解などの副反応が進行して収率が低下する傾向となる。
【0066】
なお、溶媒中に、上記一般式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物、界面活性剤、過酸化水素水、ヘテロポリ酸触媒を導入し、界面活性剤、過酸化水素水、ヘテロポリ酸触媒の存在下に加熱の際の温度条件は特に制限されないが、上記反応温度となるように温度条件を適宜設定することが好ましい。
【0067】
(本発明の脂環式モノエポキシ化合物)
本発明の脂環式モノエポキシ化合物は、上記一般式(3)で表されるものである。このような一般式(3)中のR
1、R
2、nは、上記一般式(1)中のR
1、R
2、nと同義であり、その好適なものも同様のものである。
【0068】
なお、上記一般式(3)で表される脂環式モノエポキシ化合物は、前述のように、上記一般式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物を原料化合物として、上記一般式(1)で表されるビススピロノルボルナン構造を有する脂環式ジエポキシ化合物を製造する際に、反応中間体(製造中間体)として得ることが可能である。
【0069】
(本発明の高分子材料の製造用モノマー)
本発明の高分子材料の製造用モノマーは、上記本発明の脂環式ジエポキシ化合物からなるものである。このように、上記本発明の脂環式ジエポキシ化合物は、高分子材料の製造用のモノマーとして好適に利用することができる。例えば、上記本発明の脂環式ジエポキシ化合物を、高分子材料の製造用のモノマー(主剤または主剤となる複数モノマー成分の1種類)として硬化剤や硬化促進剤等と混合させて、硬化させることで、透明性と耐熱性に優れたエポキシ樹脂組成物を得ることも可能である。
【0070】
(本発明の脂環式ジエポキシ化合物、および、その中間体である、脂環式モノエポキシ化合物の用途等)
本発明の脂環式ジエポキシ化合物は、例えば、エポキシ樹脂組成物中で、エポキシ化合物として、他のエポキシ化合物と併用して硬化剤として、助触媒、硬化促進剤、必要に応じて添加する充填材等を適宜混合させた組成物とした後、これを硬化させて透明性と耐熱性に優れたエポキシ樹脂組成物とすることができる。当該エポキシ樹脂組成物は発光ダイオード等の発光素子を被覆する透光性樹脂(封止剤)を初めとする電子材料および光学材料に用いることができる。また、本発明に係る脂環式ジエポキシ化合物は、ビスフェノールA等の各種ビスフェノール類と反応させて、特殊エポキシ樹脂の中間体(プレポリマー)として使用することができる。
【0071】
本発明の脂環式ジエポキシ化合物、および、その中間体である、脂環式モノエポキシ化合物は、各種エポキシ開環反応による化学修飾が可能であり、反応中間体として有用である。例えば、ジエポキシ化合物を酸触媒存在下で、加水分解するとエポキシ基はトランス構造のジオールとなる。
【0072】
<本発明の脂環式ジエポキシ化合物の製造方法の好適な一実施形態>
(シクロヘキサノン型ビススピロノルボルネンの合成):
シクロヘキサノン型ビススピロノルボルネンは、例えば、特許文献7(段落[0126]〜[0132])に記載の実施例2に従って合成される(特許文献7では「56%」)。ここにいう「シクロヘキサノン型ビススピロノルボルネン」は、上記一般式(2)中のnが3であり、R
1及びR
2がいずれも水素原子である化合物である。このように、シクロヘキサノン型ビススピロノルボルネンは、特許文献7(段落[0126]〜[0132])に記載の実施例2に従って合成できる。
【0073】
(脂環式ジエポキシ化合物の合成):
上記シクロヘキサノン型のビススピロノルボルネンを原料として、上記の方法や後述の実施例1で採用する方法と同様にして、シクロヘキサノン型のビススピロノルボルナン構造を有する脂環式ジエポキシドが合成される(このようにして、シクロヘキサノン型のビススピロノルボルナン構造を有する脂環式ジエポキシドを合成することもできる。)。IR、
1H−NMR、
13C−NMR、MSスペクトルによって、得られた化合物は下記化学式(7)で表される脂環式ジエポキシ化合物構造であることが確認できる。
【0075】
<本発明の脂環式ジエポキシ化合物の製造方法の好適な他の実施形態>
(その他の脂環式ジエポキシ化合物の合成):
一般式(1)において、シクロアルカノン環のn=4(シクロヘプタノン),5(シクロオクタノン)の場合も、上記の方法や後述の実施例の欄で採用する方法と同様にして、シクロヘプタノン型、シクロオクタノン型のビススピロノルボル
ネン構造を有する化合物を経て、脂環式ジエポキシドが合成される(このようにして、他の脂環式ジエポキシドを合成することもできる。)。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
なお、以下において、各実施例で得られた化合物の分子構造の同定は、IR測定機(日本分光株式会社製、商品名:FT/IR−460、FT/IR−4100)、NMR測定機(VARIAN社製、商品名:UNITY INOVA−600及び日本電子株式会社製JNM−Lambda500)及びFD−MS測定機(日本電子株式会社製、商品名:JMS−700V)を用いて、IR、NMR、FD−MSスペクトルを測定することにより行った。
【0078】
(原料「シクロペンタノン型ビススピロノルボルネン」の合成)
<第一工程>
まず、1Lの三口フラスコにジメチルアミン塩酸塩を30.86g(378.5mmol)添加した。次に、前記三口フラスコ中に、パラホルムアルデヒド12.3g(385mmol)と、エチレングリコール23.9g(385mmol)と、シクロペンタノン12.95g(154mmol)とを更に添加した。次いで、前記三口フラスコ中に、メチルシクロヘキサン16.2g(165mmol)を添加した後、35質量%塩酸0.4g(HCl:3.85mmol)を添加して第一混合液を得た。なお、前記第一混合液中の酸(HCl)の含有量は、シクロペンタノン中のケトン基に対して0.025モル当量(3.85[HClのモル量]/154[シクロペンタノンのモル量]=0.025)であった。
【0079】
次いで、前記三口フラスコの内部を窒素置換し、常圧(0.1MPa)で前記三口フラスコ内の温度を85℃にして、前記第一混合液を8時間加熱攪拌して、下記化学式(4):
【0080】
【化9】
【0081】
で表されるマンニッヒ塩基を含有する反応液を得た。
【0082】
<第二工程>
次に、前記三口フラスコ中の前記反応液を50℃に冷却した後、前記三口フラスコ中の前記反応液に対してメタノール(250ml)と、50質量%ジメチルアミン水溶液4.17g(ジメチルアミン:46.2mmol)と、シクロペンタジエン30.5g(461.5mmol)とを添加し、第二混合液を得た。次いで、前記三口フラスコの内部を窒素置換し、常圧(0.1MPa)で前記三口フラスコ内の温度を65℃にして、前記第二混合液を65℃で5時間加熱撹拌して化合物を生成させた。
【0083】
次いで、前記三口フラスコ内の前記第二混合液を、メチルシクロヘキサンとメタノールとの共沸により濃縮し、前記第二混合液から液体を100mL除去した。なお、このような液体100mLの除去により、前記第二混合液からメチルシクロヘキサンの大部分(濃縮前の前記第二混合液中のメチルシクロへキサンの全量に対して75質量%)が除去された。次に、このようなメチルシクロヘキサン除去後の前記第二混合液を−20℃の温度条件で12時間冷却して結晶を析出させた後、減圧濾過して結晶を得た。このようにして得られた結晶に対して、−20℃のメタノール20mLを用いて洗浄する工程を3回施した後、蒸発させることによりメタノールを除去し、生成物を17.4g(収率47%)得た。
【0084】
このようにして得られた化合物の構造を確認するために、IR及びNMR(
1H−NMR及び
13C−NMR)測定を行ったところ、下記化学式(5):
【0085】
【化10】
【0086】
で表される5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロペンタノン−5’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネンであることが確認された。
【0087】
(実施例1)
(脂環式ジエポキシ化合物の合成)
還流管を装着した1Lの二口フラスコに、セチルピリジニウムクロライド(467mg、1.37mmol)と5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロペンタノン−5’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン(10.0g、41.6mmol)とクロロホルム400mLを加え、室温で攪拌した。また、還流管を装着した200mLのナスフラスコにH
3PW
12O
40(1.32g、0.458mmol)と過酸化水素水(濃度30wt%、21.1g、186mmol)を加え、60℃に加熱して30分間攪拌し、室温まで冷やすことで黄色の溶液を得た。この溶液を前述の1Lの二口ナスフラスコに加え、40℃に加熱しながら攪拌した。反応の進行を確認するために、途中で反応溶液を一部採取し、
1H−NMRを測定した。その結果、中間体のモノエポキシドと生成物のジエポキシドの生成を確認したので、反応を継続した。加熱開始から4.5時間後、反応の終了を確認できたので、攪拌を止めて室温まで放冷した。溶液を分液ロートに移し、分液操作を行って、水層を除いた。次に、濃度10wt%のチオ硫酸ナトリウム水溶液50mLを調製した。これを有機層に加えて、分液操作を行い、水層を除いた。次に、濃度5wt%の炭酸ナトリウム水溶液50mLを調製した。これを有機層に加えて分液操作を行い、水層を捨てた。次に、有機層に純水100mLを加えて分液操作を行い、水層を捨てた。有機層を1L三角フラスコに移し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、ろ過を行い、ろ液を濃縮すると、淡黄色の粉状粗生成物を得た。これを再結晶操作(使用溶媒はメタノール)により精製することで、白色生成物を7.38g得た(収率65.1%)。
【0088】
このようにして得られた化合物の構造を確認するために、IR、NMR(
1H−NMR及び
13C−NMR)およびMS測定を行った。このようにして得られた化合物のIRスペクトルを
図1に示し、
1H−NMR(CDCl
3)スペクトルを
図2に示し、
13C−NMR(CDCl
3)スペクトルを
図3に示し、MSスペクトルを
図4に示す。
図1〜4に示す結果から、得られた化合物は下記化学式(6):
【0089】
【化11】
【0090】
で表される脂環式ジエポキシ化合物であることが確認された。なお、
図4に示すMSスペクトルにおいては、上記化学式(6)で表される脂環式ジエポキシ化合物に相当するピークが272(m/z)の位置において確認された。