(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記第1の温度と前記第2の温度との前記差分と前記内燃機関の前記運転状態の所定の閾値との大小関係に応じて、前記差分の値を制限することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の内燃機関制御装置。
前記制御部は、前記内燃機関の前記燃焼室の壁表面温度に対応した第3の温度と前記第1の温度との差分に応じて、前記第3の温度と前記第1の温度とが一致するように前記混合気への前記点火の時期を制御することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の内燃機関制御装置。
前記第3の温度は、前記内燃機関の吸気バルブ側における前記燃焼室の前記壁表面温度として、前記吸気バルブ側の前記内燃機関の装着部位に装着された温度センサにより検出されるものであることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関制御装置。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態における内燃機関及びそれに適用される内燃機関制御装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の内燃機関制御装置における冷機電源投入時のセンサ補正処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本実施形態の内燃機関制御装置における内燃機関運転中の内燃機関運転状態制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4(a)は、本実施形態の内燃機関制御装置における内燃機関運転状態制御処理で用いる内燃機関の瞬時トルクと燃焼室の想定壁表面温度との関係を示すテーブルデータの模式図であり、
図4(b)は、本実施形態の内燃機関制御装置における内燃機関運転状態制御処理で用いる内燃機関回転数及びスロットル開度とノック発生閾値との関係を示すテーブルデータの模式図であり、
図4(c)は、本実施形態の内燃機関制御装置における内燃機関運転状態制御処理で用いる内燃機関の燃料噴射量と燃焼室の想定壁表面温度との関係を示すテーブルデータの模式図であり、また、
図4(d)は、本実施形態の内燃機関制御装置における内燃機関運転状態制御処理で用いる内燃機関回転数及びスロットル開度とノック発生閾値との関係を示すテーブルデータの模式図である。
【0021】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態における内燃機関制御装置につき、詳細に説明する。
【0022】
〔内燃機関の構成〕
まず、
図1を参照して、本実施形態における内燃機関制御装置が適用される内燃機関の構成について説明する。
【0023】
図1は、本実施形態における内燃機関及びそれに適用される内燃機関制御装置の構成を示す模式図である。
【0024】
図1に示すように、内燃機関1は、図示を省略する二輪自動車等の車両に搭載され、1又は複数の気筒2aを有するシリンダブロック2を備えている。シリンダブロック2の気筒2aに対応する部分の側壁内には、シリンダブロック2を冷却するためのクーラントが流通するクーラント通路3が形成されている。なお、
図1中では、便宜上、気筒2aの個数を1個のみとした例を示している。
【0025】
気筒2aの内部には、ピストン4が配置されている。ピストン4は、コンロッド5を介してクランクシャフト6に連結されている。クランクシャフト6には、それと共に同軸に回転するリラクタ7が設けられている。リラクタ7の外周面には、その周方向に所定のパターンで並置された複数の歯部7aが立設されている。
【0026】
シリンダブロック2の上部には、シリンダヘッド8が組み付けられている。シリンダブロック2の内壁面、ピストン4の上面、及びシリンダヘッド8の内壁面は、協働して気筒2aの燃焼室9を画成している。
【0027】
シリンダヘッド8には、燃焼室9内の燃料及び空気から成る混合気に点火する点火プラグ10が設けられている。各燃焼室9に対する点火プラグ10の個数は、複数であってもよい。
【0028】
シリンダヘッド8には、燃焼室9と対応して連通する吸気管11が組み付けられている。シリンダヘッド8内には、燃焼室9と吸気管11とを対応して連通する吸気通路11aが形成されている。燃焼室9と吸気通路11aとの対応する接続部位には、吸気バルブ12が設けられている。なお、吸気管11は、気筒2aの個数に応じた多岐管であってもよく、吸気通路11aの個数は、気筒2aの個数に等しくなる。各燃焼室9に対する吸気バルブ12の個数は、複数であってもよい。
【0029】
吸気管11には、その内部に燃料を噴射するインジェクタ13が設けられている。吸気管11には、インジェクタ13の上流側にスロットルバルブ14が設けられている。スロットルバルブ14は、図示を省略するスロットル装置の構成部品であり、スロットル装置の本体部が吸気管11に組み付けられている。なお、インジェクタ13は、対応する燃焼室9に燃料を直接噴射するものであってもよい。また、インジェクタ13及びスロットルバルブ14の個数は、各々複数であってもよい。
【0030】
また、シリンダヘッド8には、燃焼室9と対応して連通する排気管15が組み付けられている。シリンダヘッド8内には、燃焼室9と排気管15とを対応して連通する排気通路15aが形成されている。燃焼室9と排気通路15aとの対応する接続部位には、排気バルブ16が設けられている。なお、排気管15は、気筒2aの個数に応じた多岐管であってもよく、排気通路15aの個数は、気筒2a及び排気管15の個数に等しくなる。なお、各燃焼室9に対する排気バルブ16の個数は、複数であってもよい。
【0031】
〔内燃機関制御装置の構成〕
次に、
図1を参照して、本実施形態における内燃機関制御装置の構成について説明する。
【0032】
図1に示すように、本実施形態における内燃機関制御装置100は、クランク角センサ101、吸気温センサ102、スロットル開度センサ103、及び吸気側温度センサ104に電気的に接続されたECU(Electronic Control Unit)105を備えている。
【0033】
クランク角センサ101は、リラクタ7の外周面に形成されている歯部7aに対向した態様でシリンダブロック2の下部に組み付けられた図示を省略するロアケース等に装着され、クランクシャフト6の回転に伴って回転する歯部7aを検出することによって、クランクシャフト6の回転速度を内燃機関1の回転速度(内燃機関回転速度NE)として検出する。クランク角センサ101は、このように検出した内燃機関回転速度NEを示す電気信号をECU105に入力する。
【0034】
吸気温センサ102は、吸気管11内に侵入した態様で吸気管11に装着され、吸気管11内に流入する空気の温度を吸気温TAとして検出し、このように検出した吸気温TAを示す電気信号をECU105に入力する。
【0035】
スロットル開度センサ103は、スロットル装置の本体部に装着され、スロットルバルブ14の開度をスロットル開度THとして検出し、このように検出したスロットル開度THを示す電気信号をECU105に入力する。
【0036】
吸気側温度センサ104は、燃焼室9内の混合気に点火プラグ10により点火されてそれが着火されることにより生成された火炎が伝播しにくい部位である吸気バルブ12側の壁表面温度(シリンダブロック2又はシリンダヘッド8における吸気バルブ12側であって燃焼室9側の内壁表面温度)TCCを検出するようにシリンダブロック2又はシリンダヘッド8に装着され、このように検出した吸気バルブ12側の壁表面温度TCCを示す電気信号をECU105に入力する。ここで、吸気バルブ12側の壁表面温度TCCは、燃焼室9内の混合気が着火されることにより生成された火炎が伝播しにくい部位の温度であるため、燃焼室9内の混合気の燃焼の状態に敏感に反応する温度である。一方で、いずれも詳細は後述するが、内燃機関1の瞬時トルクから算出される燃焼室9の想定壁表面温度TCCTQは、内燃機関1のベストトルクを発生させる燃焼室9内の混合気の燃焼の状態を反映する温度であり、内燃機関1の燃料噴射量から算出される燃焼室9の想定壁表面温度TCCTIは、内燃機関1の燃料噴射量に対応して生じる燃焼室9内の混合気の燃焼の状態を反映する温度である。なお、燃焼室9内の混合気の燃焼の状態に敏感に反応する温度となるものであれば、吸気側温度センサ104以外の温度センサで検出されるシリンダブロック2等の壁表面温度を壁表面温度TCCとして採用することも可能であり、内燃機関1のベストトルクを発生させる燃焼室9内の混合気の燃焼の状態を反映する温度であれば、瞬時トルク以外のものから算出される燃焼室9の想定壁表面温度を想定壁表面温度TCCTQとして採用することも可能である。
【0037】
ECU105は、車両が備えるバッテリからの電力を利用して動作する。ECU105は、マイコン106を備え、マイコン106は、メモリ106a及びCPU(Central Processing Unit)106bを備えている。CPU106bは、センサ補正処理や内燃機関運転状態制御処理等の車両の各種制御処理を実行する制御部として機能する。
【0038】
メモリ106aは、不揮発性の記憶装置によって構成され、センサ補正処理や内燃機関運転状態制御処理用等の制御プログラムや制御データを格納している。
【0039】
CPU106bは、クランク角センサ101、吸気温センサ102、スロットル開度センサ103、及び吸気側温度センサ104からの電気信号を用いて、ECU105全体の動作を制御する。
【0040】
以上のような構成を有する内燃機関制御装置100は、以下に示す冷機電源投入時におけるセンサ補正処理や内燃機関運転中における内燃機関運転状態制御処理を実行することによって、簡便な構成で、燃焼室9内の燃焼状態を検出して内燃機関1の運転状態を制御する。以下、更に
図2から
図4をも参照して、冷機電源投入時におけるセンサ補正処理及び内燃機関運転中における内燃機関運転状態制御処理を実行する際の内燃機関制御装置100の動作について、詳細に説明する。
【0041】
〔冷機電源投入時のセンサ補正処理〕
まず、
図2を参照して、冷機電源投入時のセンサ補正処理を実行する際の内燃機関制御装置100の動作について説明する。なお、かかる冷機電源投入時のセンサ補正処理は、内燃機関運転中の内燃機関運転状態制御処理をより精度よく実行するために、実行されることが好ましいものである。つまり、かかる冷機電源投入時のセンサ補正処理が実行される場合には、その完了後に内燃機関運転中の内燃機関運転状態制御処理が実行されるものである。
【0042】
図2は、本実施形態の内燃機関制御装置100における冷機電源投入時のセンサ補正処理の流れを示すフローチャートである。
【0043】
図2に示すフローチャートは、車両の図示を省略するイグニッションスイッチがオンされて内燃機関制御装置100が稼働されたタイミングで開始となり、冷機電源投入時のセンサ補正処理はステップS1の処理に進む。
【0044】
ステップS1の処理では、CPU106bが、車両のイグニッションスイッチが初めてオンされたか否か、つまり車両が製造されてから初めて冷機電源が投入されたか否かを判別する。車両が製造されてから初めて冷機電源が投入されたか否かは、例えば、車両が製造されてから初めて冷機電源が投入されたタイミングでオンされるメモリ106a中のフラグのオン/オフ情報を参照することによって判別することができる。判別の結果、既に冷機電源が投入されたことがある場合には、CPU106bは、今回の一連のセンサ補正処理を終了する。一方、初めての冷機電源の投入である場合には、CPU106bは、センサ補正処理をステップS2の処理に進める。
【0045】
ステップS2の処理では、CPU106bが、クランク角センサ101から入力される電気信号に基づいて内燃機関回転速度NEを検出し、その内燃機関回転速度NEに基づいて内燃機関1の始動前であるか否かを判別する。判別の結果、既に内燃機関1が始動している場合には、CPU106bは、今回の一連のセンサ補正処理を終了する。一方、内燃機関1がまだ始動していない場合には、CPU106bは、センサ補正処理をステップS3の処理に進める。
【0046】
ステップS3の処理では、CPU106bが、吸気温センサ102、及び吸気側温度センサ104から入力された電気信号に基づいて、吸気温TA、吸気バルブ12側の壁表面温度TCCが、所定の誤差範囲内にあるか否かを判別する。判別の結果、これらの温度が各々の所定の誤差範囲内にない場合には、CPU106bは、今回の一連のセンサ補正処理を終了する。一方、これらの温度が各々の所定の誤差範囲内にある場合には、CPU106bは、センサ補正処理をステップS4の処理に進める。
【0047】
ステップS4の処理では、CPU106bが、メモリ106aに格納されていたマスタデータを対応して参照しながら、吸気温TAと吸気バルブ12側の壁表面温度TCCとを比較することにより、吸気バルブ12側の壁表面温度TCCの誤差を各々補正する。例えば、壁表面温度TCCが吸気温TAを用いて得られるべきそのマスタデータ中の標準温度よりも2℃高い場合には、CPU106bは、壁表面温度TCCを2℃低くなるように補正する。ここで、マスタデータとしては、量産中央値の出力特性を発揮する内燃機関1における吸気温TAと吸気バルブ12側の壁表面温度TCCとの対応関係をこれらの実測検出温度に基づき予め設定してメモリ106aに格納されていたものを用いる。なお、かかる補正は、必要に応じて、更に別の基準温度を用いてなされていてもよい。この結果、吸気側温度センサ104の補正が、内燃機関1の量産中央仕様の性能が発揮できるように精度よくなされることになり、内燃機関運転中の内燃機関運転状態制御処理が、精度よく実行される結果につながることになる。これにより、ステップS4の処理は完了し、今回の一連のセンサ補正処理は終了する。
【0048】
〔内燃機関運転中の内燃機関運転状態制御処理〕
次に、
図3から
図4をも更に参照して、内燃機関運転中の内燃機関運転状態制御処理を実行する際の内燃機関制御装置100の動作について説明する。
【0049】
図3は、本実施形態の内燃機関制御装置100における内燃機関運転中の内燃機関運転状態制御処理の流れを示すフローチャートである。
図4(a)は、本実施形態の内燃機関制御装置100における内燃機関運転状態制御処理で用いる内燃機関1の瞬時トルクと燃焼室9の想定壁表面温度との関係を示すテーブルデータの模式図であり、
図4(b)は、本実施形態の内燃機関制御装置100における内燃機関運転状態制御処理で用いる内燃機関回転数及びスロットル開度とノック発生閾値との関係を示すテーブルデータの模式図であり、
図4(c)は、本実施形態の内燃機関制御装置100における内燃機関運転状態制御処理で用いる内燃機関1の燃料噴射量と燃焼室の想定壁表面温度との関係を示すテーブルデータの模式図であり、また、
図4(d)は、本実施形態の内燃機関制御装置100における内燃機関運転状態制御処理で用いる内燃機関回転数及びスロットル開度とノック発生閾値との関係を示すテーブルデータの模式図である。
【0050】
図3に示すフローチャートは、車両の図示を省略するイグニッションスイッチがオンされて内燃機関制御装置100が稼働されたタイミングで開始となり、内燃機関運転中の内燃機関運転状態制御処理はステップS11の処理に進む。内燃機関運転中の内燃機関運転状態制御処理は、内燃機関制御装置100が稼働している間、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0051】
ステップS11の処理では、CPU106bが、クランク角センサ101から入力される電気信号に基づいて内燃機関回転速度NEを検出し、その内燃機関回転速度NEに基づいて内燃機関1が運転中であるか否かを判別する。判別の結果、内燃機関1が運転中でない場合には、CPU106bは、今回の一連の内燃機関運転状態制御処理を終了する。一方、内燃機関1が運転中である場合には、CPU106bは、内燃機関運転状態制御処理をステップS12の処理に進める。
【0052】
ステップS12の処理では、CPU106bが、吸気側温度センサ(燃焼室温度センサ)104を介して吸気バルブ12側の壁表面温度TCCに関する情報を取得する。これにより、ステップS12の処理は完了し、燃焼室温度制御処理はステップS13の処理に進む。
【0053】
ステップS13の処理では、CPU106bが、クランク角センサ101から入力される電気信号に基づいて、内燃機関1の動作行程の所定周期におけるクランクシャフト6の回転速度の最大値から回転速度の最小値を引いた値(回転速度変動値)を算出し、この算出値に応じて内燃機関1が実際に発生させているべきトルクを内燃機関1の瞬時トルクとして算出する。これにより、ステップS13の処理は完了し、燃料室温度制御処理はステップS14の処理に進む。
【0054】
ステップS14の処理では、CPU106bが、ステップS13の処理において算出された内燃機関1の瞬時トルクから燃焼室9の想定壁表面温度TCCTQを算出する。詳しくは、本実施形態では、メモリ106a内に
図4(a)に示すような量産中央値の出力特性を発揮する内燃機関1の温度特性に基づいて予め設定された瞬時トルクと想定壁表面温度TCCTQとの関係を示す特性曲線L1を規定したテーブルデータが格納されている。CPU106bは、ステップS13の処理において算出された内燃機関1の瞬時トルクに対応する想定壁表面温度TCCTQを
図4(a)に示すテーブルデータから読み出すことにより、想定壁表面温度TCCTQを算出する。このようなマスタテーブルデータを参照して想定壁表面温度TCCTQを算出することにより、内燃機関1に存在する性能のばらつき、具体的には内燃機関1に関する機械的公差及び電気的交差に起因する点火時期の公差を吸収することができる。ここで、想定壁表面温度TCCTQは、内燃機関1の瞬時トルクに応じた熱量がセンサに伝わって検出されるまでの遅れ時間及び減衰量を加重平均やディレイタイマ等で再現しながら算出することがより好ましい。これにより、ステップS14の処理は完了し、燃焼室温度制御処理はステップS15の処理に進む。
【0055】
ステップS15の処理では、CPU106bが、ステップS12の処理において取得した吸気バルブ12側の壁表面温度TCCとステップS14の処理において算出された想定壁表面温度TCCTQとの差分TCCDIGDを算出する。ここで、吸気バルブ12側の壁表面温度TCCは、燃焼室9内の混合気が着火されることにより生成された火炎が伝播しにくい部位の温度であって燃焼室9内の混合気の燃焼の状態に敏感に反応する温度であり、想定壁表面温度TCCTQは、内燃機関1のベストトルクを発生させる燃焼室9内の混合気の燃焼の状態を反映する温度であるから、これらの差分TCCDIGDは、所定の範囲内に収まっていることが好ましい。これ故、吸気バルブ12側の壁表面温度TCCと想定壁表面温度TCCTQとの差分TCCDIGDの値は、燃焼室9内の燃焼状態の良・不良を示す指標となる。これにより、ステップS15の処理は完了し、燃焼室温度制御処理はステップS16の処理に進む。
【0056】
ステップS16の処理では、CPU106bが、ステップS15の処理において算出された差分TCCDIGDの値が内燃機関1の所定の閾値以上であるか否かを判別する。具体的には、かかる所定の閾値としては、本実施形態では、想定壁表面温度TCCTQに一致するように吸気バルブ12側の壁表面温度TCCを制御することで内燃機関1のベストトルクでの運転状態を実現すること企図しているため、内燃機関1のトルクが最大となる点火時期に対応する閾値(MBT(Minimum advance for the Best Torque)閾値)や内燃機関1の所定(例えば50%)の質量燃焼クランク角に対応する閾値(質量燃焼点閾値)よりも大きな値となる内燃機関1のノッキングレベルに対応する閾値(ノック発生閾値)を採用することが好ましい。詳しくは、メモリ106a内に
図4(b)に示すような内燃機関回転数NE及びスロットル開度THに対するノック発生閾値の値に対応した特性曲線L2を規定したテーブルデータが格納されている。CPU106bは、クランク角センサ101及びスロットル開度センサ103から入力された電気信号に基づいて、内燃機関回転数NE及びスロットル開度THに対応する特性曲線L2上の値であるノック発生閾値を
図4(b)に示すテーブルデータから読み出す。そして、CPU106bは、差分TCCDIGDの値が読み出されたノック発生閾値以上であるか否かを判別する。判別の結果、差分TCCDIGDの値がノック発生閾値以上である場合には、CPU106bは、内燃機関運転状態制御処理をステップS17の処理に進める。一方、差分TCCDIGDの値がノック発生閾値未満である場合には、CPU106bは、内燃機関運転状態制御処理をステップS18の処理に進める。なお、所定の閾値としては、必要に応じて、MBT閾値及び質量燃焼点閾値を組み合わせて採用してもよい。
【0057】
ステップS17の処理では、CPU106bが、差分TCCDIGDの値をステップS16の処理において求められた好ましくはノック発生閾値である所定の閾値に設定する。これにより、ステップS17の処理は完了し、燃焼室温度制御処理はステップS19の処理に進む。
【0058】
ステップS18の処理では、CPU106bが、ステップS15の処理において算出された差分TCCDIGDの値をそのまま維持する。これにより、ステップS18の処理は完了し、燃焼室温度制御処理はステップS19の処理に進む。
【0059】
ステップS19の処理では、CPU106bが、ステップS15の処理において算出された差分TCCDIGDの値、又はステップS17の処理において好ましくはノック発生閾値である所定の閾値に設定された差分TCCDIGDの値に応じて、吸気バルブ12側の壁表面温度TCCと想定壁表面温度TCCTQとが一致するように燃焼室9内の混合気への点火時期をフィードバック制御することにより内燃機関1の運転状態を制御する。詳しくは、吸気バルブ12側の壁表面温度TCCが想定壁表面温度TCCTQより大きい場合には、CPU106bは、点火時期は進角傾向にあると判断し、点火時期を遅角する。一方、吸気バルブ12側の壁表面温度TCCが想定壁表面温度TCCTQより小さい場合には、CPU106bは、点火時期は遅角(リタード)傾向にあると判断し、点火時期を進角する。ここで、一般に、内燃機関1において、ベストトルクとなる平均有効圧(IMEP)に対応するピーク筒内圧は一義的に定まり、このピーク筒内圧と瞬時トルクから求めた想定壁表面温度TCCTQとは正の相関関係を有するものである。このため、想定壁表面温度TCCTQに一致するように吸気バルブ12側の壁表面温度TCCを制御することは、内燃機関1のベストトルクでの運転状態を実現することと同義になる。これにより、ステップS19の処理は完了し、燃焼室温度制御処理はステップS20の処理に進む。
【0060】
ステップS20の処理では、CPU106bが、インジェクタ13から吐出される内燃機関1の燃料噴射量を取得し、その燃料噴射量に応じた燃焼室9の想定壁表面温度TCCTIを算出する。詳しくは、本実施形態では、メモリ106a内に
図4(c)に示すような量産中央値の出力特性を発揮する内燃機関1の温度特性に基づいて予め設定された燃料噴射量と想定壁表面温度TCCTIとの関係を示す特性曲線L3を規定したテーブルデータが格納されている。CPU106bは、取得した燃料噴射量に対応する想定壁表面温度TCCTIを
図4(c)に示すテーブルから読み出すことにより、想定壁表面温度TCCTIを算出する。このようなマスタテーブルデータを参照して想定壁表面温度TCCTIを算出することにより、内燃機関1に存在する性能のばらつき、具体的には内燃機関1に関する機械的公差及び電気的交差に起因する点火時期の公差を吸収することができる。ここで、想定壁表面温度TCCTIは、燃料噴射量に応じた熱量がセンサに伝わり検出されるまでの遅れ時間及び減衰量を加重平均やディレイタイマ等で再現しながら算出することが好ましい。これにより、ステップS20の処理は完了し、燃焼室温度制御処理はステップS21の処理に進む。
【0061】
ステップS21の処理では、CPU106bが、ステップS14の処理において算出された想定壁表面温度TCCTQとステップS20の処理において算出された想定壁表面温度TCCTIとの差分TCCDTIDを算出する。ここで、想定壁表面温度TCCTQは、内燃機関1のベストトルクを発生させる燃焼室9内の混合気の燃焼の状態を反映する温度であり、想定壁表面温度TCCTIは、内燃機関1の燃料噴射量に対応して生じる燃焼室9内の混合気の燃焼の状態を反映する温度であるから、これらの差分TCCDTIDは、所定の範囲内に収まっていることが好ましい。これ故、想定壁表面温度TCCTQと想定壁表面温度TCCTIとの差分TCCDTIDの値は、燃焼室9内の燃焼状態の良・不良を示す指標となる。これにより、ステップS21の処理は完了し、燃焼室温度制御処理はステップS22の処理に進む。
【0062】
ステップS22の処理では、CPU106bが、ステップS21の処理において算出された差分TCCDTIDの値が内燃機関1の所定の閾値以上であるか否かを判別する。具体的には、かかる所定の閾値としては、本実施形態では、想定壁表面温度TCCTQと想定壁表面温度TCCTIとを一致させるように制御することで燃料噴射量に対応するトルクを内燃機1に発生させること企図しているため、MBT閾値質や量燃焼点閾値よりも大きな値となるノック発生閾値を採用することが好ましい。詳しくは、メモリ106a内に
図4(d)に示すような内燃機関回転数NE及びスロットル開度THに対するノック発生閾値の値に対応した特性曲線L4を規定したテーブルデータが格納されている。CPU106bは、クランク角センサ101及びスロットル開度センサ103から入力された電気信号に基づいて、内燃機関回転数NE及びスロットル開度THに対応する特性曲線L4上の値であるノック発生閾値を
図4(d)に示すテーブルデータから読み出す。そして、CPU106bは、差分TCCDIGDの値が読み出されたノック発生閾値以上であるか否かを判別する。判別の結果、差分TCCDTIDの値がノック発生閾値以上である場合には、CPU106bは、内燃機関運転状態制御処理をステップS23の処理に進める。一方、差分TCCDTIDの値がノック発生閾値未満である場合には、CPU106bは、内燃機関運転状態制御処理をステップS24の処理に進める。
【0063】
ステップS23の処理では、CPU106bが、差分TCCDTIDの値をステップS22の処理において求められた好ましくはノック発生閾値である所定の閾値に設定して制限する。これにより、ステップS23の処理は完了し、燃焼室温度制御処理はステップS25の処理に進む。
【0064】
ステップS24の処理では、CPU106bが、ステップS21の処理において算出された差分TCCDTIDの値をそのまま維持する。これにより、ステップS24の処理は完了し、燃焼室温度制御処理はステップS25の処理に進む。
【0065】
ステップS25の処理では、CPU106bが、ステップS21の処理において算出された差分TCCDTIDの値、又はステップS23の処理において好ましくはノック発生閾値である所定の閾値に設定された差分TCCDTIDの値に応じて、想定壁表面温度TCCTQと想定壁表面温度TCCTIとが一致するように燃焼噴射量をフィードバック制御することにより内燃機関1の運転状態を制御する。詳しくは、想定壁表面温度TCCTQが想定壁表面温度TCCTIより大きい場合には、CPU106bは、燃焼室9内の混合気はリーン傾向にあると判断し、燃料噴射量を増量する。一方、想定壁表面温度TCCTQが想定壁表面温度TCCTIより小さい場合には、CPU106bは、燃焼室9内の混合気はリッチ傾向にあると判断し、燃料噴射量を減量する。つまり、このように想定壁表面温度TCCTQと想定壁表面温度TCCTIとを一致させるフィードバック制御は、燃料噴射量に対応するトルクを内燃機1に発生させることを意味し、このことは、実トルクに対応した温度を目標として燃料噴射量を制御することにより、マスタの内燃機関1の運転状態に応じた空燃比を呈する燃焼室9内の良好な燃焼状態を、量産における個別の内燃機関1でも実現することができることを意味する。これにより、ステップS25の処理は完了し、今回の一連の燃焼室温度制御処理は終了する。
【0066】
なお、内燃機関運転中の内燃機関運転状態制御処理を簡素化するために、ステップS15の処理において算出された差分TCCDIGDの値に直接的に基づいて、点火時期を制御することも可能であり、かかる場合には、ステップS16からステップS18の各々の処理を省略することも可能である。また、ステップS21の処理において算出された差分TCCDTIDの値に直接的に基づいて、燃料噴射量を制御することも可能であり、かかる場合には、ステップS22からステップS24の各々の処理を省略することも可能である。また、内燃機関1の運転状態を制御するパラメータには、点火時期や燃料噴射量の他に空気供給量が挙げられるため、点火時期や燃料噴射量の調整の他に空気供給量を調整して内燃機関1の運転状態を制御してもよいし、これらを適宜組み合わせて内燃機関1の運転状態を制御してもよい。
【0067】
以上の説明から明らかなように、本実施形態における内燃機関制御装置100では、制御部106bが、内燃機関1の瞬時トルクから算出した内燃機関1の燃焼室9の第1の想定壁表面温度に対応した第1の温度TCCTQと内燃機関1の燃料の噴射量から算出した内燃機関1の燃焼室9の第2の想定壁表面温度に対応した第2の温度TCCTIとの差分に応じて、第1の温度TCCTQと第2の温度TCCTIとが一致するように燃料の噴射量を制御するものであるため、簡便な構成で、燃焼室9内の燃焼状態を検出しその燃焼状態に応じて内燃機関1の運転状態を制御することができる。特に、内燃機関1の瞬時トルクから算出した内燃機関1の燃焼室9の第1の想定壁表面温度TCCTQと、内燃機関1の燃料の噴射量から算出した内燃機関1の燃焼室9の第2の想定壁表面温度TCCTIと、の差分は、燃焼室9内の燃焼状態の良・不良を示す適切な指標として用いることができるため、内燃機関1の暖機中等の過渡的な温度状態や内燃機関1が比較的低負荷で運転されることに起因する低温度状態においても、燃焼室9内の燃焼状態を精度よく把握して内燃機関1の運転状態を制御することができる。また、このように内燃機関1の運転状態を適切に制御することにより、内燃機関1の燃料消費率を向上することができる。
【0068】
また、本実施形態における内燃機関制御装置100では、制御部106bが、内燃機関1の燃焼室9の構成部の伝熱特性を反映した所定の時間遅れを加味して、第2の温度TCCTIを算出するものであるため、内燃機関1の燃料噴射量から第2の温度TCCTIを適切に算出することができ、かかる第1の温度TCCTIを用いて、適切に連量噴射量を制御しながら内燃機関1の運転状態を適切に制御することができる。
【0069】
また、本実施形態における内燃機関制御装置100では、制御部106bが、第1の温度TCCTQと第2の温度TCCTIとの差分TCCDTIDと内燃機関1の運転状態の所定の閾値との大小関係に応じて、差分の値TCCDTIDを制限するものであるため、精度よく燃料噴射量を制御しながら内燃機関1の運転状態をノック等の異常燃焼状態の発生を抑制するように精度よく制御することができる。
【0070】
また、本実施形態における内燃機関制御装置100では、制御部106bが、内燃機関1の燃焼室9の壁表面温度に対応した第3の温度TCCと第1の温度TCCTQとの差分TCCDIGDに応じて、第3の温度TCCと第1の温度TCCTQとが一致するように混合気への点火の時期を制御するものであるため、適切に点火時期を制御しながら内燃機関1の運転状態を適切に制御することができる。特に、燃焼室9内の混合気に着火生成された火炎が伝播しにくい燃焼室9の壁表面温度TCCと、内燃機関1の瞬時トルクから算出した内燃機関1の燃焼室の想定壁表面温度TCCTQと、の差分は、燃焼室9内の燃焼状態の良・不良を示す適切な指標として用いることができるため、内燃機関1の暖機中等の過渡的な温度状態や内燃機関1が比較的低負荷で運転されることに起因する低温度状態においても、燃焼室9内の燃焼状態を精度よく把握して内燃機関1の運転状態を制御することができる。また、このように内燃機関1の運転状態を適切に制御することにより、内燃機関1の燃料消費率を向上することができる。
【0071】
また、本実施形態における内燃機関制御装置100では、第3の温度TCCが、内燃機関1の吸気バルブ12側における燃焼室の壁表面温度として、吸気バルブ12側の内燃機関の装着部位に装着された温度センサ104により検出されるものであるため、第3の温度TCCとして、燃焼室9内の混合気に着火生成された火炎が伝播しにくい傾向が顕著に現れる内燃機関1の吸気バルブ12側における燃焼室9の壁表面温度を用いることができ、かかる第3の温度TCCを用いて、燃焼室9内の燃焼状態を確実に検出しその燃焼状態に応じて内燃機関1の運転状態を制御することができる。
【0072】
なお、本発明は、部材の種類、形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。