特許第6454549号(P6454549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6454549
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】メタロセン錯体を調製するプロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/32 20060101AFI20190107BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20190107BHJP
   C07C 13/32 20060101ALI20190107BHJP
   C07F 5/04 20060101ALI20190107BHJP
   C07F 7/00 20060101ALI20190107BHJP
   C07F 17/00 20060101ALI20190107BHJP
   C07F 19/00 20060101ALI20190107BHJP
   C08F 4/6592 20060101ALI20190107BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   C07C1/32
   C07B61/00 300
   C07C13/32
   C07F5/04 C
   C07F7/00 A
   C07F17/00
   C07F19/00
   C08F4/6592
   C08F10/00 510
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-546362(P2014-546362)
(86)(22)【出願日】2012年12月13日
(65)【公表番号】特表2015-505846(P2015-505846A)
(43)【公表日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】EP2012005232
(87)【国際公開番号】WO2013091837
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年12月14日
【審判番号】不服2017-15751(P2017-15751/J1)
【審判請求日】2017年10月25日
(31)【優先権主張番号】11009974.4
(32)【優先日】2011年12月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502132128
【氏名又は名称】サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】アル−ハミディ,アブデュラズィズ ハマド
(72)【発明者】
【氏名】アブラカバ,アティエ
(72)【発明者】
【氏名】ゲール,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】アルト,ヘルムート
【合議体】
【審判長】 佐々木 秀次
【審判官】 瀬良 聡機
【審判官】 関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−26598(JP,A)
【文献】 特表平8−503457(JP,A)
【文献】 特開2005−256002(JP,A)
【文献】 特開2000−53691(JP,A)
【文献】 特表2009−504859(JP,A)
【文献】 特表2008−542507(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/72791(WO,A1)
【文献】 特表2010−534654(JP,A)
【文献】 特表2006−528661(JP,A)
【文献】 特開2011−93864(JP,A)
【文献】 特表2008−528580(JP,A)
【文献】 Journal of Organic Chemistry,2002年,Vol.67(1),p.169−176
【文献】 Journal of Organometallic Chemistry,2002年,Vol.651(1−2),p.80−89
【文献】 Angewandte Chemie,International Edition,2007年,Vol.46(26),p.4905−4908
【文献】 Bulletin of the Korean Chemical Society,2004年,Vol.25(1),p.29−30
【文献】 鈴木−宮浦カップリング(SMC)の問題点,TCIメール,東京化成工業株式会社,2009年,No.142,p.2〜23
【文献】 Organometallics,2010年,Vol.29(4),p.860−866
【文献】 Organic & Biomolecular Chemistry,2007年,Vol.5(12),p.1952−1960
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
REGISTRY STN,CAPLUS STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋したビス(インデニル)配位子を調製するプロセスであって、
溶媒中において、Pd触媒および塩基の存在下で、式(1)
の2−インデニルピナコリルボラン化合物(式中、R1、R2、R3、R4の各々が、独立して、H、1〜20のC原子を有する炭化水素、ハロゲン化物、1〜6のC原子を有するアルコキシ基、アミノ、トリメチルシリル(Me3Si)、ジエチルボロ(Et2B)、ジメチルホスフィド(Me2P)、またはジフェニルホスフィド(Ph2P)を表し、R5、R6の各々が独立してHを表す)を、
式(2)
の臭素置換化合物(式中、Rは、ビフェニリデン基を表す)と反応させて、式(3)
の対応する架橋したビス(インデニル)配位子(式中、R、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6が上述したものである)を形成する工程を含むプロセス。
【請求項2】
前記Pd触媒が、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド((PPh32PdCl2)である、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
前記塩基がトリエチルアミン(Et3N)である、請求項1または2記載のプロセス。
【請求項4】
使用される前記溶媒がジオキサンである、請求項1から3いずれか1項記載のプロセス。
【請求項5】
1、R2、R3、R4、R5、およびR6の全てがHを表す、請求項1から4いずれか1項記載のプロセス。
【請求項6】
溶媒中において、Pd触媒および塩基の存在下で、式(4)
の2−ブロモインデン化合物を、
ピナコールボラン(式(5)により表される)
と反応させて、式(1)
の対応する2−インデニルピナコリルボラン化合物(式中、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は、上記に定義されたものである)を形成する工程をさらに含む、請求項1、3、4および5いずれか1項記載のプロセス。
【請求項7】
式(1)の2−インデニルピナコリルボラン化合物の調製において、前記Pd触媒として、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド((PPh32PdCl2)が使用される、請求項6記載のプロセス。
【請求項8】
式(1)の2−インデニルピナコリルボラン化合物の調製において、前記塩基として、K3PO4が使用される、請求項6または7記載のプロセス。
【請求項9】
式(1)の2−インデニルピナコリルボラン化合物の調製において使用される溶媒が、テトラヒドロフランである、請求項6から8いずれか1項記載のプロセス。
【請求項10】
式(3)
の架橋したビス(インデニル)配位子を、式(6)
の対応するメタロセン錯体(式中、Mは、元素の周期表の3、4、5または6族からのまたはランタニド系元素の群からの遷移金属を表し、Qは、Mに対する陰イオン配位子を表し、kは、整数を表し、かつ陰イオン配位子の数を示し、R、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は、上記に定義されたものである)に転化する工程をさらに含む、請求項1から9いずれか1項記載のプロセス。
【請求項11】
式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子が、有機金属化合物、アミン、金属水素化物、アルカリ土類金属、ナトリウムまたはカリウムを使用して、対応するジアニオンに転化され、形成された該アニオンが、遷移金属Mの化合物により金属交換されて、式(6)
の対応するメタロセン錯体(式中、Mは、元素の周期表の3、4、5または6族からのまたはランタニド系元素の群からの遷移金属を表し、Qは、Mに結合した陰イオン配位子を表し、kは、整数を表し、かつ陰イオン配位子の数を示し、R、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は、上記に定義されたものである)を形成する、請求項10記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタロセン錯体の調製プロセスに関し、特に、本発明は、メタロセン錯体の調製に使用できる架橋したビス(インデニル)配位子の調製プロセス、そのプロセスにより得られたまたは得られるメタロセン錯体、およびポリオレフィン重合におけるそのように得られたまたは得られるメタロセン錯体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋したビス(インデニル)配位子を有するメタロセン錯体は、アルミノキサン助触媒による活性化後に、エチレンなどのα−オレフィンの重合において極めて活性であることが実証された。しかしながら、これらのメタロセン錯体の合成に使用される配位子の公知の合成法は、不安定な中間体を含むので、および/または工業的に魅力のない化合物が必要なので、うんざりする。したがって、これらの価値のあるメタロセン錯体を容易に入手できるようにする合成経路が望まれている。
【0003】
非特許文献1には、架橋したビス(インデニル)配位子の調製プロセスが数多く記載されている。これらの論理的な経路の多くはうまくいかず、たった1つの反応しか、所望の配位子前駆体2,2’−ビス(2−インデニル)ビフェニルを生成しない。しかしながら、Ijpeij,E.G.等により得られたこの経路の収率は、最後の工程だけで、たった79%であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】E. G. Ijpeji et al., A Suzuki coupling based route to 2,2’-bis(2-indenyl)biphenyl derivatives, J. Org. Chem., 2002, 67, 167
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、架橋したビス(インデニル)配位子を調製する改良プロセスを提供することにある。本発明の別の課題は、架橋したビス(インデニル)配位子を有するメタロセン錯体を調製する改良プロセスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、溶媒中において、Pd触媒および塩基の存在下で、式(1)
【0007】
の2−インデニルピナコリルボラン化合物(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6の各々が、独立して、H、1〜20のC原子を有する炭化水素ラジカル、ハロゲン化物、1〜6のC原子を有するアルコキシ基、アルキル硫化物、アミン、SiまたはB含有基、もしくはP含有基を表す)を、
式(2)
【0008】
の臭素置換化合物(式中、Rは、インデニル基の2位に結合されるsp2−混成軌道にある炭素原子を少なくとも2つ含有する架橋基を表す)と反応させて、式(3)
【0009】
の対応する架橋したビス(インデニル)配位子(式中、R、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6が上述したものである)を形成する工程を含むプロセスによって達成される。
【0010】
意外なことに、本発明にプロセスにより、式(3)の所望の配位子から分離するのに多くの時間と労力を要する(ホモカップリングした)副生成物がそれほど形成されないことが分かった。それゆえ、本発明のプロセスを使用して、良好な収率が得られる。
【0011】
式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子の調製に使用できるPd触媒は、原則的に、鈴木カップリングに適していることが知られている全てのPd触媒である。Pd(0)触媒または(より安定な)Pd(II)化合物の還元によってPd(0)がその場で生成される触媒が使用されることが好ましい。Pd触媒の例としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム((Ph3P)4Pd)、酢酸パラジウム(II)(Pd(O2CCH32またはPd(Oac)2)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(PD(dba)2)およびビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド((PPh32PdCl2)が挙げられる。Pd触媒として、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド((PPh32PdCl2)が使用されることが好ましい。何故ならば、この触媒により良好な収率がもたらされることに加えて、この触媒は、工業的に魅力的であるからである。
【0012】
式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子の調製に使用できる塩基は、原則として、どのような塩基であっても、例えば、無機または有機塩基であっても差し支えない。式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子の調製において、例えば、第四級アンモニウム塩、例えば、酢酸テトラ−n−ブチルアンモニウムまたは第三級アミン、例えば、トリエチルアミン(Et3N)などの有機塩基が使用されることが好ましい。適切な塩基の他の例としては、以下に限られないが、ナトリウムtert−ブトキシド、炭酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムエトキシド、フッ化カリウム、およびリン酸カリウムが挙げられる。
【0013】
上述した式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子を形成するプロセスは、原則的に、鈴木カップリングに適していることが公知のどのような溶媒中で行ってもよい。アルコール、例えば、メタノールまたはエタノール;芳香族溶媒、例えば、ベンゼン、トルエンまたはキシレン;エーテル、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサンまたはジメトキシエタン;アミド、例えば、ジメチルホルムアミド。有機溶媒が使用されることが好ましく、エーテルがより好ましく、ジオキサンがさらに好ましい。ここに挙げた溶媒などの溶媒の混合物を使用してもよい。
【0014】
原則的に、式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子を形成するプロセスに関する反応条件は重要ではなく、鈴木カップリングに適していることが公知の温度、圧力および反応時間を当業者が使用してよく、日常の実験を使用して、最適条件を見つけることができる。例えば、60℃より低い温度では反応がほとんど進行せず、120℃より高い温度ではターリング(tarring)が生じるかもしれないので、温度は60から120℃であろう。温度は、少なくとも60℃、好ましくは少なくとも75℃および/または高くとも100℃、好ましくは高くとも85℃であるように選択されることが好ましい。プロセスが行われる圧力は、大気圧(1バール)であることが好ましい。反応時間は、例えば、36から48時間の範囲にあるであろう。
【0015】
Rは、インデニル基の2位に結合されるsp2−混成軌道にある炭素原子を少なくとも2つ含有する架橋基を表す。
【0016】
一般に、この説明において、インデニル環の置換位置表示は、IUPACの有機化学の命名法、1979年規則A21.1(IUPAC Nomenclature of Organic Chemistry, 1979, rule A 21.1)にしたがって番号がつけられている。インデンの置換の番号付けが、以下の式(7)に与えられている。この番号付けは、インデニル配位子の場合おいて類似である:
【0017】
R基は、式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子における2つのインデニル基を接続する。sp2−混成軌道にある炭素原子は、平面三角形構造の炭素原子(trigonal carbon atoms)としても知られている。sp2−混成軌道にある炭素原子に関する化学的性質は、例えば、S.N. Ege, Organic Chemistry, D.C. Heath and Co., 1984, p. 51-54により記載されている。sp2−混成軌道にある炭素原子は、3つの他の原子と結合した炭素原子である。式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子において、sp2−混成軌道にある炭素原子は、どの場合においても、インデニル基の2位に結合している。
【0018】
sp2−混成軌道にある炭素原子は、例えば、アルキレン含有架橋基Rの一部、またはアリール含有架橋基Rの一部であってよい。
【0019】
アルキレン含有架橋基の例としては、以下に限られないが、必要に応じて置換されたエチレンおよびプロピレンが挙げられる。
【0020】
アリール基含有架橋基Rの例としては、以下に限られないが、フェニレン、ビフェニレン、ピリジル、フリル、チオフィル(thiophyl)およびN−フェニルピロールなどのN−置換ピロール、または芳香族基を含有する無機化合物、例えば、メタロセン化合物またはフェロセン化合物が挙げられる。
【0021】
架橋基Rは少なくとも1つのアリール基を含有することが好ましい;例えば、そのアリール基は、モノアリール基、例えば、フェニレンまたはナフタレン、もしくはビアリール基、例えば、ビフェニリデンまたはビナフチルであってよい。架橋基Rがアリール基を表すことが好ましく、Rがフェニレンまたはビフェニレン基を表すことが好ましい。架橋基Rは、どのようなsp2−混成軌道にある炭素原子を介してインデニル基に接続されていてもよく、例えば、フェニレン基は、1位と2位を介して接続されていてもよく、ビフェニレン基は、2位と2’位を介して接続されていてもよく、ナフタレン基は、2位と3位を介して接続されていてもよく、ビナフチル基は、2位と2’位を介して接続されていてもよい。Rが、1位と2位を介してインデニル基に接続されたフェニレン基を表す(R1、R2、R3、R4、R5、およびR6の全てがHを表す場合、式(3)の化合物は、1,2−ビス(2−インデニル)ベンゼンである)か、またはRが、2位と2’位を介して接続されたビフェニレン基を表す(R1、R2、R3、R4、R5、およびR6の全てがHを表す場合、式(3)の化合物は、2,2’−ビス(2−インデニル)ビフェニルである)ことが好ましい。
【0022】
式(2):
【0023】
の化合物(Rはここに定義されたものである)は、市販されている、および/または当該技術分野で公知の方法を使用して容易に合成できる(例えば、the Journal of the America Chemical Society, 133 (24), 9204-9207; 2011に記載されているように)。例えば、2,2’−ジブロモビフェニル(Rはビフェニルを表す)は、有機溶媒中、例えば、テトラヒドロフランおよび/またはn−ヘキサン中において、0℃より十分に低い温度、例えば、−40℃より低い温度、例えば、約−65℃の温度で、1モルのn−ブチル−リチウムに対する2モルの1,2−ジブロモベンゼンのモル比で、1,2−ジブロモベンゼンをn−ブチル−リチウムと反応させることによって調製されるであろう。本発明のプロセスにより、非常に不安定なジリチオ化合物の使用が避けられる。
【0024】
1、R2、R3、R4、R5、およびR6の各々が、独立して、H、1〜20のC原子を有する炭化水素ラジカル、ハロゲン化物、1〜6のC原子を有するアルコキシ基、アルキル硫化物、アミン、SiまたはB含有基、もしくはP含有基を表してよく、H、1〜20のC原子を有する炭化水素ラジカル、またはハロゲン化物を表すことが好ましい。炭化水素ラジカルの例としては、アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシルおよびデシル;アリール基、例えば、フェニル、メシチル、トリルおよびクメニル;アラルキル基、例えば、ベンジル、ペンタメチルベンジル、キシリル、スチリルおよびトリチル;およびアルカリル基が挙げられる。炭化水素ラジカルは、1〜6のC原子を有することが好ましく、メチルであることが最も好ましい。ハロゲン化物の例としては、塩化物、臭化物およびフッ化物が挙げられる。1〜6のC原子を有するアルコキシ基の例としては、以下に限られないが、メトキシ、エトキシおよびフェノキシが挙げられる。アルキル硫化物の例としては、メチル硫化物、フェニル硫化物およびn−ブチル硫化物が挙げられる。アミンの例としては、ジメチルアミン、n−ブチルアミンが挙げられる。SiまたはB含有基の例としては、トリメチルケイ素(Me3Si)およびジエチルホウ素(Et2B)が挙げられる。P含有基の例としては、ジメチルリン(Me2P)およびジフェニルリン(Ph2P)が挙げられる。R5および/またはR6がHを表すことが好ましい。R1および/またはR2および/またはR3および/またはR4および/またはR5および/またはR6がHを表すことがより好ましい。R1、R2、R3、R4、R5、およびR6の全てがHを表すことが最も好ましい。
【0025】
式(1)の2−インデニルピナコリルボラン化合物(式中、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6がここに定義されたものである)は、Pd触媒および塩基の存在下で、式(4)
【0026】
の2−ブロモインデン化合物を、
ピナコールボラン(式(5)により表される)
【0027】
と反応させて、式(1)
【0028】
の対応する2−インデニルピナコリルボラン化合物を形成することによって、調製されるであろう。
【0029】
いろいろな場所で入手できる式(4)の2−ブロモインデン化合物を使用することによって、式(1)の対応するかなり安定な2−インデニルピナコリルボラン化合物を調製することができる。
【0030】
式(1)の2−インデニルピナコリルボランは、架橋したビス(インデニル)配位子の調製のための中間体として使用できる。
【0031】
それゆえ、本発明は、式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子の調製のための容易な二段階プロセスも提供する。
【0032】
したがって、特別な実施の形態において、本発明は、Pd触媒および塩基の存在下で、式(4)
【0033】
の2−ブロモインデン化合物を、ピナコールボラン(式(5)により表される)
【0034】
と反応させて、式(1)
【0035】
の対応する2−インデニルピナコリルボラン化合物(式中、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6はここに定義されたものである)を形成する工程をさらに含む、本発明によるプロセスに関する。
【0036】
本発明はまた、溶媒中において、Pd触媒および塩基の存在下で、式(4)
【0037】
の2−ブロモインデン化合物を、ピナコールボラン(式(5)により表される)
【0038】
と反応させて、式(1)の対応する2−インデニルピナコリルボラン化合物を形成する工程、および
Pd触媒および塩基の存在下で、式(1)
【0039】
の2−インデニルピナコリルボラン化合物(式中、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6の各々は、独立して、H、1〜20のC原子を有する炭化水素ラジカル、ハロゲン化物、1〜6のC原子を有するアルコキシ基、アルキル硫化物、アミン、SiまたはB含有基、もしくはP含有基を表す)を、式(2)
【0040】
の臭素置換化合物(式中、Rは、インデニル基の2位に結合されるsp2−混成軌道にある炭素原子を少なくとも2つ含有する架橋基を表す)と反応させて、式(3)
【0041】
の対応する架橋したビス(インデニル)配位子(式中、R、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は上述したものである)を形成する工程、
を含むプロセスにも関する。
【0042】
式(1)の2−インデニルピナコリルボラン化合物の調製に使用できるPd触媒は、原則的に、例えば、ヘックカップリング、薗頭カップリングまたは鈴木カップリングなどの遷移金属を使用したカップリング手法に適していることが知られている全てのPd触媒である。Pd(0)触媒またはPd(0)が(より安定な)Pd(II)化合物の還元によってその場で生成される触媒が使用されることが好ましい。Pd触媒の例としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム((Ph3P)4Pd)およびビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド((PPh32PdCl2)が挙げられる。Pd触媒として、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド((PPh32PdCl2)が使用されることが好ましい。
【0043】
式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子の調製と、式(1)の2−インデニルピナコリルボラン化合物の調製の両方にとって対費用効果的なPd触媒であるビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリドを使用することによって、架橋したビス(インデニル)配位子の調製のための二段階プロセスは、良好な収率を有し、工業的に魅力的でもある。
【0044】
式(1)の2−インデニルピナコリルボラン化合物の調製に使用できる塩基は、原則的に、どのような塩基であっても、例えば、無機または有機塩基であっても差し支えない。式(1)の2−インデニルピナコリルボラン化合物の調製に無機塩基を使用することが好ましい。無機塩基の例としては、以下に限られないが、K3PO4が挙げられる。
【0045】
上述したような式(1)の2−インデニルピナコリルボランを形成するプロセスは、原則的に、例えば、ヘックカップリング、薗頭カップリングまたは鈴木カップリングなどの遷移金属を使用したカップリング技法に適していることが公知のどのような溶媒中で行われてもよい。そのプロセスのための溶媒の例としては、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒が挙げられる。
【0046】
式(1)の2−インデニルピナコリルボラン化合物を形成するプロセスに関する反応条件は重要ではなく、当業者は、例えば、ヘックカップリング、薗頭カップリングまたは鈴木カップリングなどの遷移金属を使用したカップリング技法に適していることが公知の温度、圧力および反応時間を使用してよく、日常の実験を使用して、最適な条件が見つけられる。例えば、60℃より低い温度では反応がほとんど進行せず、120℃より高い温度ではターリングが生じるかもしれないので、温度は60から120℃であろう。温度は、少なくとも60℃、好ましくは少なくとも75℃および/または高くとも100℃、好ましくは高くとも85℃であるように選択されることが好ましい。プロセスが行われる圧力は、大気圧(1バール)であることが好ましい。反応時間は、例えば、36から48時間の範囲にあるであろう。
【0047】
式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子はさらに、それ自体公知のプロセスにしたがって、式(6)
【0048】
のメタロセン錯体(式中、Mは、元素の周期表の3、4、5または6族からのまたはランタニド系元素の群からの遷移金属を表し、Qは、Mに対する陰イオン配位子を表し、kは、整数を表し、かつ陰イオン配位子の数を示し、R、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は、上述したものである)に転化させてもよい。
【0049】
例えば、式(6)のメタロセン錯体は、例えば、ここに引用する欧州特許出願公開第1059300A1号明細書に記載されたような二段階手法で調製してもよい。具体的に、欧州特許出願公開第1059300A1号明細書の段落[0036]において、例えば、有機金属化合物、アミン、金属水素化物、アルカリ土類金属またはアルカリ土類金属を使用して、式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子を最初にそのジアニオンに転化してよいと記載されている。
【0050】
例えば、有機リチウム、有機マグネシウムおよび有機ナトリウム化合物を使用してよいが、ナトリウムまたはカリウムも使用してよい。メチルリチウムまたはn−ブチルリチウムなどの有機リチウム化合物が、式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子をそのジアニオンに転化するのに特に適している。欧州特許出願公開第1059300A1号明細書の段落[0037]において、ここに定義されたような遷移金属Mの化合物との金属交換反応によって、架橋したビス(インデニル)配位子に対応するジアニオンを、対応するメタロセン錯体に転化してもよいと記載されている。例えば、欧州特許出願公開第420436号および同第427697号の各明細書を参照のこと。オランダ国特許出願第A−91011502号明細書に記載されたプロセスが特に適している。遷移金属Mの化合物の例としては、以下に限られないが、TiCl4、HfCl4、Zr(OBu)4およびZr(OBu)2Cl2が挙げられる。金属交換反応は、溶媒中、または共役酸が−2.5より大きいpKaを有するルイス塩基の、出発した遷移金属化合物に対して多くとも1モル当量で、元素の周期表の3、4、5または6族からの遷移金属に弱く配位する溶媒の組合せ中で、オランダ国特許出願第A−91011502号明細書におけるように行ってもよい。そのような金属交換反応に適切に使用してよい溶媒/分散剤(共役酸のpKa≦−2.5)の例としては、以下に限られないが、エトキシエタン、ジメトキシエタン、イソプロポキシイソプロパン、n−プロポキシ−n−プロパン、メトキシベンゼン、メトキシメタン、n−ブトキシ−n−ブタンおよびジオキサンが挙げられる。金属交換反応に使用される反応媒体の一部は、炭化水素(ヘキサンなど)からなってよい。
【0051】
したがって、本発明は、それ自体公知のプロセスにしたがって、式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子を式(6)
【0052】
の対応するメタロセン錯体(式中、Mは、元素の周期表の3、4、5または6族からのまたはランタニド系元素の群からの遷移金属を表し、Qは、Mに結合した陰イオン配位子を表し、kは、整数を表し、かつ陰イオン配位子の数を示し、R、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は、上述したものである)に転化する工程をさらに含む本発明のプロセスにも関する。
【0053】
特に、本発明は、有機金属化合物、アミン、金属水素化物、アルカリ土類金属またはアルカリ土類金属を使用して、式(3)の架橋したビス(インデニル)配位子をその対応するジアニオンに転化する工程、および形成されたジアニオンを、ここに定義された遷移金属Mの化合物により金属交換反応を行って、式(6)
【0054】
の対応するメタロセン錯体を形成する工程、
をさらに含む本発明のプロセスにも関する。
【0055】
遷移金属Mは、元素の周期表の3、4、5または6族からのまたはランタニド系元素の群から選択される。元素の周期表は、the Handbook of Chemistry and Physics, 70th edition, CRC Press, 1989-1990の内表紙に印刷された新しいIUPAC版であると理解される。
【0056】
Mが、Ti、Zr、Hf、VまたはSmを表すことが好ましく、Ti、Zr、Hfがより好ましく、ZrまたはHfがさらにより好ましく、Zrが一層より好ましい。MがZrまたはHfを表す式(6)のメタロセンの錯体が、ポリエチレンの合成またはポリプロピレンの合成における触媒としてうまく使用されるであろう。ここで称される「ポリエチレンの合成/調製」という表現は、エチレンの単独重合または3〜12のC原子を有する1種類以上のα−オレフィンおよび必要に応じて1種類以上の非共役ジエンとの共重合として定義されることに留意されたい。
【0057】
Qは、遷移金属Mの陰イオン配位子を表す。この陰イオン配位子は、1種類以上の一価または多価の陰イオン配位子を含んでよい。そのような配位子の例としては、以下に限られないが、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、および例えば、アミン基またはアミド基などの元素の周期表の14、15または16族から選択されたヘテロ原子を有する基;硫黄含有基、例えば、硫化物または亜硫酸塩;リン含有基、例えば、ホスフィンまたは亜リン酸塩が挙げられる。
【0058】
Qは、金属−炭素の共有結合を介して遷移金属に結合し、さらに一価以上の基を通じてMと非共有的に相互作用できるモノアニオン性配位子であってもよい。上述した官能基は、1つの原子であっても、互いに結合した原子の基であっても差し支えない。その官能基は、元素の周期表の17族の原子または元素の周期表の15、16または17族からの1つ以上の元素を含有する基であることが好ましい。官能基の例には、F、Cl、Br、ジアルキルアミン基およびアルコキシ基がある。
【0059】
Qは、例えば、オルト位置の少なくとも1つが、遷移金属Mに電子密度を供与できる官能基で置換されているフェニル基であってよい。Qは、アルファ位の1つ以上が、遷移金属Mに電子密度を供与できる官能基で置換されているメチル基であってもよい。アルファ位の1つ以上で置換されたメチル基の例には、遷移金属Mに電子密度を供与できる官能基で置換されたベンジル、ジフェニルメチル、エチル、プロピルおよびブチルがある。ベンジル基のオルト位置の少なくとも1つが、遷移金属Mに電子密度を供与できる官能基で置換されていることが好ましい。
【0060】
これらのQ基の例としては、以下に限られないが、2,6−ジフルオロフェニル、2,4,6−トリフルオロフェニル、ペンタフルオロフェニル、2−アルコキシフェニル、2,6−ジアルコキシフェニル、2,4,6−トリ(トリフルオロメチル)フェニル、2,6−ジ(トリフルオロメチル)フェニル、2−トリフルオロメチルフェニル、2−(ジアルキルアミノ)ベンジルおよび2,6−(ジアルキルアミノ)フェニルが挙げられる。
【0061】
Qは、例えば、モノアニオン性配位子、例えば、メチルまたはCl、好ましくはClを表してよい。
【0062】
式(6)のメタロセン錯体におけるQ基の数(式(6)における整数kにより表される)は、遷移金属Mの価数とQ基の価数により決定される。式(6)のメタロセン錯体において、kは、Mの価数から2を引いて、Qの価数で割ったものに等しい。例えば、MがZrを表し、QがClを表す場合、kは2である。
【0063】
必要に応じて、1種類以上のα−オレフィンの重合、好ましくは、エチレンの重合、例えば、エチレンの溶液または懸濁重合のための助触媒の存在下で、式(6)のメタロセン錯体を使用してよい。
【0064】
前記α−オレフィンは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテンおよびオクテンを含む群から選択されることが好ましく、一方で、混合物を使用しても差し支えない。エチレンおよび/またはプロピレンをα−オレフィンとして使用することがより好ましい。そのようなα−オレフィンの使用により、結晶質ポリエチレンホモポリマーおよび低密度と高密度両方のコポリマー(HDPE、LDPE、LLDPEなど)、並びにポリプロピレンホモポリマーおよびコポリマー(PPおよびEMPP)が形成される。そのような生成物および使用すべきプロセスに必要なモノマーは、当業者に公知である。
【0065】
式(6)のメタロセン錯体は、エチレンおよび別のα−オレフィンに基づく非晶質またはゴム状コポリマーの調製にも適している。プロピレンは、EPMゴムが形成されるように、他のα−オレフィンとして使用されることが好ましい。そのような使用および助触媒の例の詳細が、ここに引用する、欧州特許出願公開第1059300A1号明細書の段落[0038]〜[0057]に見つかるであろう。
【0066】
本発明の好ましい実施の形態によれば、本発明によるメタロセン錯体は、気相重合におけるLLDPEの調製に使用される。
【0067】
1種類以上のα−オレフィンの重合のための助触媒は、有機金属化合物であって差し支えない。有機金属化合物の金属は、元素の周期表の1、2、12または13族から選択することができる。適切な金属としては、ナトリウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、およびアルミニウムが挙げられ、アルミニウムが好ましい。少なくとも1つの炭化水素ラジカルが金属に直接結合して、炭素−金属結合を提供する。そのような化合物に使用される炭化水素基は、好ましくは1〜30の、より好ましくは1〜10の炭素原子を含有する。適切な化合物の例としては、アミルナトリウム、ブチルリチウム、ジエチル亜鉛、塩化ブチルマグネシウム、およびジブチルマグネシウムが挙げられる。例えば、制限するものではなく、トリエチルアルミニウムおよびトリ−イソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム化合物;水素化ジイソブチルアルミニウムなどの水素化アルキルアルミニウム;アルキルアルコキシ有機アルミニウム化合物;および塩化ジエチルアルミニウム、塩化ジイソブチルアルミニウム、およびセスキ塩化エチルアルミニウムなどのハロゲン含有有機アルミニウム化合物を含む有機アルミニウム化合物が優先される。アルミノキサンが有機アルミニウム化合物として選択されることが好ましい。
【0068】
前記アルミノキサンは、少量のトリアルキルアルミニウム、好ましくは0.5から15モル%のトリアルキルアルミニウムを含有するアルミノキサンであっても差し支えない。この場合、トリアルキルアルミニウムの量が1〜12モル%のトリアルキルアルミニウムであることがより好ましい。
【0069】
助触媒としての有機金属化合物に加えまたはその代わりに、非配位陰イオンまたは配位が不十分な陰イオンを含有する化合物、または式(6)のメタロセン錯体との反応において先の陰イオンを生じる化合物の存在下で、重合を行ってもよい。そのような化合物が、例えば、その完全な開示がここに引用される、欧州特許出願公開第426637号明細書に記載されてきた。そのような陰イオンは、共重合中に不飽和モノマーにより交換されるように、十分に不安定に結合されている。そのような化合物が、その完全な開示がここに引用される、欧州特許出願公開第277003号および同第277004号の各明細書にも述べられている。そのような化合物が、トリアリールボランまたはホウ酸テトラアリールもしくはそのアルミニウムまたはケイ素同等物を含有することが好ましい。適切な助触媒化合物の例としては、制限するものではなく:
・ホウ酸ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)[C65N(CH32H]+[B(C654-
・コバルト酸(III)−ジメチルアニリニウムビス(7,8−ジカルバウンデカホウ酸);
・ホウ酸トリ(n−ブチル)アンモニウムテトラフェニル;
・ホウ酸トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル);
・ホウ酸ジメチルアニリニウムテトラフェニル;
・トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン;および
・ホウ酸テトラキス(ペンタフルオロフェニル)
が挙げられる。
【0070】
例えば、その完全な開示がここに引用される欧州特許出願公開第500944号明細書に記載されているように、ハロゲン化遷移金属錯体と、例えば、トリエチルアルミニウム(TEA)などの有機金属化合物との反応生成物も使用して差し支えない。
【0071】
有機金属化合物が助触媒として選択された場合、遷移金属錯体(式(6)のメタロセン錯体)に対する助触媒のモル比は、通常は約1から約10,000の範囲にあり、好ましくは約1から約2,500の範囲にある。非配位陰イオンまたは配位が不十分な陰イオンを含有する化合物または生成する化合物が助触媒として選択された場合、そのモル比は、通常は約0.01から約1,000の範囲にあり、好ましくは約0.5から約250の範囲にある。
【0072】
式(6)のメタロセン錯体並びに助触媒は、単一成分として、またはいくつかの成分の混合物として、α−オレフィンの重合に使用してよい。当業者に公知のように、例えば、分子量、特に分子量分布などのポリマーの分子特性に影響を与える必要がある場合、混合物が望ましいであろう。式(6)のメタロセン錯体は、担持された状態と、担持されていない状態で使用することができる。担持された触媒は、主に、気相およびスラリープロセスで使用される。使用される担体は、触媒の担体材料として知られているどのような担体、例えば、シリカ、アルミナまたはMgCl2であってよい。担体材料がシリカであることが好ましい。
【0073】
α−オレフィンの重合は、公知の様式で、気相で、並びに液体反応媒質中で行うことができる。後者の場合、溶液重合と懸濁重合の両方が適しており、一方で、使用すべき遷移金属の量は、一般に、分散剤中のその濃度が10-8〜10-4モル/l、好ましくは10-7〜10-3モル/lになるようなものである。
【0074】
式(6)のメタロセン錯体を使用した重合は、以後、それ自体公知のポリエチレン調製を参照してさらに詳しく説明され、その調製は、ここで意味するα−オレフィン重合を表す。α−オレフィンに基づく他のポリマーの調製について、読者には、この主題についての数多くの出版物が明白に参照される。
【0075】
ここで参照されるポリエチレンの調製(重合)は、エチレンの単独重合またはエチレンの3〜12の炭素原子を有する1種類以上のα−オレフィンおよび必要に応じて1種類以上の非共役ジエンとの共重合と定義される。特に適したα−オレフィンの例としては、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテンが挙げられる。適切なジエンの例としては、1,7−オクタジエンおよび1,9−デカジエンが挙げられる。
【0076】
重合における分散剤として、触媒系(式(6)のメタロセン錯体および随意的な助触媒)に対して不活性などのような液体を使用してもよい。ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ペンタメチルヘプタンなどの1種類以上の飽和した直鎖または分岐鎖脂肪族炭化水素、または軽質またはレギュラーガソリン、ナフサ、ケロシンまたは軽油などの鉱油留分が、その目的に適している。芳香族炭化水素、例えば、ベンゼンおよびトルエンを使用しても差し支えないが、そのコストのためと、安全性の検討のために、技術的規模での生産のためにそのような溶媒を使用しないことが好ましい。したがって、技術的規模での重合プロセスにおいて、石油化学工業によりマーケティングされているように、低価格の脂肪族炭化水素またはその混合物を溶媒として使用することが好ましい。脂肪族炭化水素が溶媒として使用される場合、その溶媒は、微量の芳香族炭化水素、例えば、トルエンを含有していてもよい。それゆえ、例えば、助触媒としてメチルアルミノキサン(MAO)を使用する場合、溶解形態でMAOを重合反応器に供給するために、トルエンを溶媒として使用しても差し支えない。そのような溶媒を使用する場合、乾燥または精製が望ましい;これは、当業者が問題なく行うことができる。
【0077】
溶液重合が150℃と250℃の間の温度で行われることが好ましい;一般に、懸濁重合は、それより低い温度、好ましくは100℃未満で行われる。
【0078】
重合から得られるポリマー溶液は、それ自体公知の方法によって、精製しても差し支えない。一般に、その触媒系は、ポリマーの加工中のある時点で、失活される。失活は、それ自体公知の様式で、例えば、水またはアルコールによって、行うことができる。触媒系の残留物の除去は、通常、ポリマー中の式(6)のメタロセン錯体の量、特に、ハロゲンと遷移金属の含有量が非常に少ない場合、省いても差し支えない。
【0079】
重合は、大気圧だけでなく、500MPaまでの高圧で、連続的にまたは断続的に行うことができる。重合が加圧下で行われる場合、ポリマーの収率をさらに上昇させることができ、触媒の残留物の含有量がさらに低下する。重合は、0.1MPaと25MPaの間の圧力で行うことが好ましい。重合が、いわゆる高圧反応器内で行われる場合、100MPa以上の高圧を適用することができる。そのような高圧において、式(6)のメタロセン錯体も、良好な結果で使用できる。
【0080】
重合は、いくつかの工程で、連続して、並びに並行に、行うことができる。要求があれば、触媒の組成、温度、水素濃度、圧力、滞留時間などを工程毎に変えてもよい。このようにして、幅広い分子量分布を有する生成物を得ることも可能である。
【0081】
本発明のプロセスにより、より高い純度で、副生成物がより少なく、式(6)のメタロセン錯体が得られる。そのように得られた式(6)のこれらのメタロセン錯体は、公知の錯体よりも高い活性(時間当たりの式(6)の錯体モル当たりのkgで表された生成物のポリエチレン)を有する。したがって、本発明は、本発明のプロセスにより得られる式(6)のメタロセン錯体にも関する。本発明は、本発明のプロセスにより得られたまたは得られる式(6)のメタロセン錯体を含む組成物にも関する。
【0082】
別の実施の形態において、本発明は、以下の条件:Al/Zr=2500、250mlのn−ペンタン、10バール(1MPa)のエチレン、60℃、1時間を使用して決定された、時間当たりの触媒モル当たりに製造された少なくとも95,000kgのポリエチレン(PE)の活性を有する式(6)のメタロセン錯体に関する。本発明は、以下の条件:Al/Zr=2500、250mlのn−ペンタン、10バール(1MPa)のエチレン、60℃、1時間を使用して決定された、時間当たりの触媒モル当たりに製造された少なくとも95,000kgのポリエチレン(PE)の活性を有する、式(6)のメタロセン錯体を含む組成物にも関する。重合活性が決定された(時間当たりの触媒モル当たりに製造されたkgのポリエチレン(PE))。
【0083】
別の実施の形態において、本発明は、必要に応じて助触媒の存在下での、1種類以上のα−オレフィン、好ましくはエチレンの重合、例えば、エチレンの溶液または懸濁重合のための、本発明のプロセスにより得られたまたは得られる式(6)のメタロセン錯体の使用に関する。
【0084】
本発明は、必要に応じて助触媒の存在下での、1種類以上のα−オレフィン、好ましくはエチレンの重合、例えば、エチレンの溶液または懸濁重合のための、本発明のプロセスにより得られたまたは得られる式(6)のメタロセン錯体を含む組成物の使用に関する。
【0085】
本発明をここで、以下の実施例によりさらに説明するが、それらには制限されない。
【実施例】
【0086】
1. 2,2’−ビス(2−インデニル)−ビフェニルの合成
1.1 2,2’−ジブロモビフェニルの合成
1,2−ジブロモベンゼンからの2,2’−ジブロモビフェニルの合成が、反応1に図解されている:
【0087】
【化1】
【0088】
温度を−65℃より低く維持しながら、アルゴン雰囲気下で、80mLのTHF中の10.00g(42.39ミリモル)のo−ジブロモベンゼンの溶液に、n−ヘキサン中のn−BuLiの1.6M溶液(21.2ミリモル)を滴下した。添加後、その混合物を0℃まで暖め、その後、100mLの1MのHCl溶液で加水分解した。回転蒸発によって有機溶媒を除去し、残留物をジエチルエーテルで抽出した。混合有機層を洗浄し(塩水)、乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、蒸発乾固させた。茶色の残留物をEtOHから結晶化させ、3.96g(58%)の白色固体(融点78.8〜79.2℃、lit.27 80〜81℃)を精製した。これは、1H NMRおよび13C NMR分光法並びにGC/MSにより、純粋な2,2’−ジブロモビフェニルと特徴付けられた:1H NMR (CDCl3, 200.1 MHz, 基準CHCl3 7.27 ppm) 7.44 (m, 6H), 7.66-7.71 (m, 2H); GC/MS m/z (相対強度) 310 (M+, C12H879Br2, 25), 231 (C12H8Br+, 64), 152, (C12H8+,100)。
【0089】
1.2 ボロン酸2−インデニルの合成
2−ブロモインデンおよびピナコールボランからのボロン酸2−インデニル(2−インデニルピナコリルボラン)の合成が、下記の反応2により図解されている:
【0090】
【化2】
【0091】
オーブン乾燥したシュレンクフラスコ内に(PPh32PdCl2(0.54g、0.77ミリモル)および2−ブロモインデン(4.98g、25.54ミリモル)を入れ、ジオキサン(50mL)を加えた。窒素雰囲気下において室温(25℃)で注射器によりトリエチルアミン(10.7mL、76.6ミリモル)および4,4,5,5−テトラメチル−ジオキサボロラン(5.56mL、38.31ミリモル)を連続的に加えた。反応フラスコを5.5時間に亘り80℃で撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、水で急冷し、飽和塩水(20mL)を加えた。有機層を分離し、水層をエチルエーテルで抽出した(2×50mL)。混合有機層を塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濃縮した。残留物をクーゲルロール蒸留により精製して、69%の収率で白色固体(融点73〜74℃)としてボロン酸2−インデニルを得た。この生成物は、空気中で貯蔵し、取り扱うことができる。1H NMR (300 MHz, CDCl3) 7.58 (s, 1H), 7.50 (d, J = 7Hz, 1H), 7.46 (d, J = 7 Hz, 1H), 7.30-7.21 (m, 2H), 3.54 (s, 2H), 1.33 (s, 12H); 13C NMR (75 MHz, CDCl3) 147.0, 145.7, 145.0, 126.3, 126.0, 124.0, 122.0, 83.6, 41.7, 25.1。
【0092】
1.3 2,2’−ジブロモビフェニルのボロン酸2−インデニルとのカップリング
対応するフェニリデン架橋ビス(インデニル)配位子を形成するための2,2’−ジブロモビフェニルの2−インデニルピナコリルボラン(ボロン酸2−インデニル)との反応が、下記の反応3に図解されている:
【0093】
【化3】
【0094】
オーブン乾燥した解除式シュレンク管に(PPh32PdCl2(26mg;0.037ミリモル;ボロン酸塩に対して5モル%)、ボロン酸2−インデニル(0.18g;0.74ミリモル)およびK3PO4(0.47g;2.23ミリモル)を装填した。シュレンク管を排気し、アルゴンを充填し直し、THF(10ml)および2,2’−ジブロモビフェニル(0.115g;0.37ミリモル)を加えた。シュレンク管を密封し、48時間に亘り80℃に加熱した。その後、反応混合物を室温まで冷却し、溶媒の体積を減少させた。反応混合物を、ジエチルエーテル/THFの比率を4:1にして、SiO2のプラグに通して濾過した。溶媒を除去した後、粗生成物をエタノールから再結晶化した。NMRデータは、文献(Ellis, W.W. et al, Synthesis, structure and properties of chiral titanium and zirconium complexes bearing biaryl strapped substituted cyclopentadienyl ligands, Organometallics (1993), 12(11), 4391-4401)から公知の値と一致した。収量:0.086g(61%)。
【0095】
この収率は、今まで公知のプロセスを使用したフェニリデン架橋ビス(インデニル)配位子の調製において得られた収率よりも高い。例えば、Ellis, W.W. et al, Synthesis, structure and properties of chiral titanium and zirconium complexes bearing biaryl strapped substituted cyclopentadienyl ligands, Organometallics (1993), 12(11), 4391-4401により得られる収率は、3段階後に40%(計算:87%×62%×74%)であった。例えば、欧州特許出願公開第1059300A1号明細書における3段階後に得られたる収率は6%(計算:49%×53%×23%)であった。例えば、Ijpeij, E. G., et al. in A Suzuki coupling based route to 2,2’-bis(2-indenyl)biphenyl derivatives, J. Org. Chem., 2002, 67, 169により得られた収率は、最後の工程だけで、79%であった。
【0096】
1.4 2,2’−ビス(2−インデニル)ビフェニルZrCl2の合成
ビス(インデニル)配位子からのジルコニウム錯体の合成が、ここに引用する欧州特許出願公開第1059300A1号明細書に記載されている。その合成の図解が、下記の反応4に与えられている。上述した2,2’−ビス(2−インデニル)ビフェニル配位子をn−ブチルリチウムで脱プロトン化し、その後、四塩化ジルコニウムと反応させて、目的の架橋メタロセン触媒2,2’−ビス(2−インデニル)ビフェニルZrCl2(触媒A)を得た。
【0097】
【化4】
【0098】
2. ボロン酸2−インデニルおよび1,2−ジブロモベンゼンのカップリングのための手法
同様に、類似の手法を1,2−ビス(2−インデニル)ベンゼンの合成(下記の反応5に図示した反応を参照のこと)について試験し、ホモカップリングした副生成物が形成せずに、所望の化合物が得られた。合成と結果が下記に記載されている。
【0099】
【化5】
【0100】
オーブン乾燥した解除式シュレンク管内に(PPh32PdCl2(0.15g、0.21ミリモル)、ボロン酸2−インデニル(2.16g;8.93ミリモル)およびK3PO4(5.60g;26.35ミリモル)を装填した。シュレンク管を排気し、アルゴンを充填し直し、THF(10ml)および1,2−ジブロモベンゼン(1.00g;4.25ミリモル)をゴム隔膜を通じて加えた。反応シュレンク管を密封し、20時間に亘り80℃に加熱した。その後、反応混合物を室温まで冷却し、SiO2のプラグに通して濾過した(カラムからの生成物を洗浄するために、ジエチルエーテル/THFの比率が4:1の混合物を使用することが好ましい)。GC/MSは、反応が不完全であることを示し、それゆえ再び、(PPh32PdCl2(0.15g、0.21ミリモル)およびTHF(10ml)を加えた。
【0101】
24時間後、GC/MSは完全な転化を示した。この混合物を濃縮し、ジエチルエーテルを加えた(最終比エーテル/THF 4:1)。混合物をSiO2のプラグに通して濾過した。濾液を濃縮し、得られた残留物をカラムクロマトグラフィーによって精製した。収量:0.98g(76%)。ジルコニウム錯体(触媒B)は、欧州特許出願公開第1059300A1号明細書におけるように合成した。
【0102】
3. 触媒Aまたは触媒Bを使用したエチレンの重合
上述した実施例において調製したジルコニウム錯体(触媒Aまたは触媒B)を使用して、エチレンを単独重合した。重合条件は以下の様に選択した:Al/Zr=2500、25mlのn−ペンタン、10バール(1MPa)のエチレン、60℃、1時間。重合活性を決定した(時間当たりの触媒モル当たりに製造されたkgのポリエチレン(PE))。その結果が、下記の表1に与えられている。
【0103】
【表1】