(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6454564
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】ターボ冷凍機
(51)【国際特許分類】
F25B 1/10 20060101AFI20190107BHJP
F25B 1/053 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
F25B1/10 Q
F25B1/053 B
F25B1/053 J
F25B1/10 E
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-27771(P2015-27771)
(22)【出願日】2015年2月16日
(65)【公開番号】特開2015-161499(P2015-161499A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年9月21日
(31)【優先権主張番号】201410066388.5
(32)【優先日】2014年2月26日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】503164502
【氏名又は名称】荏原冷熱システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】荒井 憲雄
(72)【発明者】
【氏名】能勢 真弘
(72)【発明者】
【氏名】平田 甲介
(72)【発明者】
【氏名】于 ▲暁▼兵
【審査官】
森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−212040(JP,A)
【文献】
特開昭53−064854(JP,A)
【文献】
特開2013−194999(JP,A)
【文献】
特開2009−236430(JP,A)
【文献】
特開平11−051502(JP,A)
【文献】
特開2011−102668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/10
F25B 1/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却流体から熱を奪って冷媒が蒸発し冷凍効果を発揮する蒸発器と、多段羽根車と該多段羽根車への冷媒ガスの吸込流量を調整する開度可変のベーンとを有し冷媒ガスを多段の羽根車によって圧縮する多段ターボ圧縮機と、圧縮された冷媒ガスを冷却流体で冷却して凝縮させる凝縮器と、凝縮した冷媒液の一部を蒸発させて蒸発した冷媒ガスを前記多段ターボ圧縮機の多段圧縮段の中間部分に供給するエコノマイザとを備えたターボ冷凍機において、
前記凝縮器と前記蒸発器の圧力差を測定する測定手段と、
前記エコノマイザと前記多段ターボ圧縮機の多段圧縮段の中間部分とを連通する流路に設けられ、前記流路を開閉するエコノマイザ蒸気弁と、
前記多段ターボ圧縮機への吸込流量を調整する前記ベーンの開度を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、予め設定された凝縮器と蒸発器の圧力差と前記ベーンの下限開度との関係に基づいて、前記測定手段によって測定された圧力差から前記ベーンの下限開度を可変制御し、
前記制御装置は、複数のターボ冷凍機を並列運転制御する際に、先発機が運転されている状態で後発機を起動し、後発機の起動直後から、前記測定手段によって測定された圧力差から求めた前記ベーンの下限開度まで該ベーンを開くように制御することを特徴とするターボ冷凍機。
【請求項2】
被冷却流体から熱を奪って冷媒が蒸発し冷凍効果を発揮する蒸発器と、多段羽根車と該多段羽根車への冷媒ガスの吸込流量を調整する開度可変のベーンとを有し冷媒ガスを多段の羽根車によって圧縮する多段ターボ圧縮機と、圧縮された冷媒ガスを冷却流体で冷却して凝縮させる凝縮器と、凝縮した冷媒液の一部を蒸発させて蒸発した冷媒ガスを前記多段ターボ圧縮機の多段圧縮段の中間部分に供給するエコノマイザとを備えたターボ冷凍機において、
前記凝縮器と前記蒸発器の圧力差を測定する測定手段と、
前記エコノマイザと前記多段ターボ圧縮機の多段圧縮段の中間部分とを連通する流路に設けられ、前記流路を開閉するエコノマイザ蒸気弁と、
前記多段ターボ圧縮機への吸込流量を調整する前記ベーンの開度を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、予め設定された凝縮器と蒸発器の圧力差と前記ベーンの下限開度との関係に基づいて、前記測定手段によって測定された圧力差から前記ベーンの下限開度を可変制御し、
前記制御装置は、蓄熱槽を備えたターボ冷凍機を起動する際に、起動直後から、前記測定手段によって測定された圧力差から求めた前記ベーンの下限開度まで該ベーンを開くように制御することを特徴とするターボ冷凍機。
【請求項3】
前記凝縮器と蒸発器の圧力差と前記ベーンの下限開度との関係は、前記制御装置にテーブルとして予め設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のターボ冷凍機。
【請求項4】
前記凝縮器と蒸発器の圧力差と前記ベーンの下限開度との関係は、前記制御装置にテーブルとして予め設定されていて、前記テーブルは、高ヘッド仕様ターボ冷凍機サージング境界線上のうち部分負荷のある運転状態の点をA点とし冷房用ターボ冷凍機のIGV(インレットガイドベーン)の下限開度の5度近傍を通過する点をB点とした場合の線分ABであることを特徴とする請求項1または2記載のターボ冷凍機。
【請求項5】
前記測定手段は、前記凝縮器に設置された圧力センサと前記蒸発器に設置された圧力センサとからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のターボ冷凍機。
【請求項6】
前記測定手段は、前記凝縮器の圧力に平衡な凝縮器内冷媒温度を計測する温度計と前記蒸発器の圧力に平衡な蒸発器内冷媒温度を計測する温度計とからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のターボ冷凍機。
【請求項7】
前記制御装置は、前記ベーンを下限開度まで閉じた後も冷凍機容量が設備側負荷容量より高いときに前記エコノマイザ蒸気弁を閉じる制御を行うことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のターボ冷凍機。
【請求項8】
前記制御装置は、前記多段ターボ圧縮機の電動機の電流値を監視して電流振幅比を求め、該電流振幅比が所定値になったときに前記エコノマイザ蒸気弁を閉じる制御を行うことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のターボ冷凍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ冷凍機に係り、特にサージングを回避しつつ、低ヘッド時かつ部分負荷時に運転領域を確保することができる高ヘッド仕様ターボ冷凍機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍空調装置などに利用されるターボ冷凍機は、冷媒を封入したクローズドシステムで構成され、被冷却流体から熱を奪って冷媒が蒸発して冷凍効果を発揮する蒸発器と、前記蒸発器で蒸発した冷媒ガスを圧縮して高圧の冷媒ガスにする圧縮機と、高圧の冷媒ガスを冷却流体で冷却して凝縮させる凝縮器と、前記凝縮した冷媒を減圧して膨張させる膨張弁(膨張機構)とを、冷媒配管によって連結して構成されている。そして、圧縮機として冷媒ガスを多段の羽根車によって多段に圧縮する多段圧縮機を用いた場合は、凝縮器と蒸発器の間の冷媒配管中に設置した中間冷却器であるエコノマイザで生じる冷媒ガスを圧縮機の中間段(多段の羽根車の中間部分)に導入することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−102668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ターボ冷凍機では、圧縮機があり、吸込みと吐出がある。吸込みは蒸発器とつながっていて、吸込み圧は蒸発器内の圧力にほぼ一致している。また、吐出は凝縮器とつながっていて、吐出圧は凝縮器内の圧力にほぼ一致している。吐出圧をPHとし、吸込み圧をPLとすると、PH>PLであり、PH−PL=ヘッドと呼ぶことにする。ヘッドは、PHとPLの差圧を云う。ここでは、圧縮機のポリトロープ圧縮仕事に相当する物理量として用いる。
ブライン用ターボ冷凍機やヒートポンプ用ターボ冷凍機のヘッドは、通常、冷房用ターボ冷凍機のヘッドに比べて大きい。本発明においては、ブライン用ターボ冷凍機やヒートポンプ用ターボ冷凍機のヘッドを高ヘッドと定義し、ブライン用ターボ冷凍機やヒートポンプ用ターボ冷凍機を高ヘッド仕様ターボ冷凍機とする。また、本発明において負荷とは、ブライン用ターボ冷凍機の場合は冷凍負荷を云い、ヒートポンプ用ターボ冷凍機の場合は暖房負荷を云う。
【0005】
高ヘッドで運転している高ヘッド仕様ターボ冷凍機は、負荷の減少により圧縮機入口の吸込み風量を制御するベーン(以下、適宜IGV(インレットガイドベーン)と称す)を閉じてくると、或る開度から流れの失速により振動・騒音が徐々に激しくなる所謂サージング現象に至る。そこでサージング領域までIGVが閉まらないようにするため、IGV下限開度を設定し、制御を行う場合がある。
【0006】
しかしながら、高ヘッド運転状況時に合わせて、IGVの下限開度を高い位置で設定してしまうと、ヘッドが低い条件で運転する状況においても、サージングの可能性が低いにも拘わらず、冷凍機の容量を設備側の負荷容量まで下げることができないために、冷凍機が制御する冷水または温水が目標温度を超過して自動停止温度に至り、その後も自動再起動と停止を繰返す状態となり、安定した制御ができないという問題がある。
具体的には、IGV開度と圧縮機のヘッドとの関係を示す
図2において、デルタ領域、いわゆる高ヘッド仕様ターボ冷凍機において低ヘッドかつ低負荷運転状態の領域が運転不可能になることである。
ここで云う低ヘッド運転状態とは、具体的にはヘッドが定格温度条件時よりも小さい状態で運転を行っている状況であり、例えば、ブライン用ターボ冷凍機の運転において、中間期などで設備側の負荷が少なく、ブライン出口温度が定格よりも高い場合または気温等の周囲環境温度が低い為に冷却水出口温度が定格よりも低い場合に生じる状況である。
同様に、ヒートポンプ用ターボ冷凍機においても、設備側の負荷状況により温水出口温度を定格よりも下げた場合や定格よりも高温の熱源水を用いて運転される場合はヘッドが小さい状態となる。
【0007】
また、冷凍機を再起動する際は、通常の起動時はヘッドが小さいため、IGVを徐々に開いて行くことにより、圧縮機の軸受やギア等の摺動部に急激な負荷がかからないように制御するが、高ヘッドの状態から再起動する場合は、IGVが低開度のままでは、サージングを発生してしまう問題がある。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたもので、様々な設備側の負荷状況や冷却水等の温度条件に対し、サージングを回避しつつ低ヘッド運転時に冷凍機の容量を設備側の負荷容量まで下げることができる高ヘッド仕様ターボ冷凍機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、被冷却流体から熱を奪って冷媒が蒸発し冷凍効果を発揮する蒸発器と、多段羽根車と該多段羽根車への冷媒ガスの吸込流量を調整する開度可変のベーンとを有し冷媒ガスを多段の羽根車によって圧縮する多段ターボ圧縮機と、圧縮された冷媒ガスを冷却流体で冷却して凝縮させる凝縮器と、凝縮した冷媒液の一部を蒸発させて蒸発した冷媒ガスを前記多段ターボ圧縮機の多段圧縮段の中間部分に供給するエコノマイザとを備えたターボ冷凍機において、前記凝縮器と前記蒸発器の圧力差を測定する測定手段と、前記エコノマイザと前記多段ターボ圧縮機の多段圧縮段の中間部分とを連通する流路に設けられ、前記流路を開閉するエコノマイザ蒸気弁と、前記多段
ターボ圧縮機への吸込流量を調整する前記ベーンの開度を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、予め設定された凝縮器と蒸発器の圧力差と前記ベーンの下限開度との関係に基づいて、前記測定手段によって測定された圧力差から前記ベーンの下限開度を可変制御
し、前記制御装置は、複数のターボ冷凍機を並列運転制御する際に、先発機が運転されている状態で後発機を起動し、後発機の起動直後から、前記測定手段によって測定された圧力差から求めた前記ベーンの下限開度まで該ベーンを開くように制御することを特徴とする。
本発明によれば、IGV下限開度制御により、ヘッドが高い運転状況でサージングを回避するため、異常振動や騒音によるエラー発生を防止し、ヘッドが下がった後は、自動的に冷凍機容量を低負荷まで絞ることが可能になる高ヘッド仕様ターボ冷凍機を提供することができる。
また、本発明によれば、複数の冷凍機が運転している状況などで設備側の冷水と冷却水または温水の温度差が大きく、冷凍機が起動した直後からヘッドが高いような状況においてもサージングを起こすこと無く、また冷水温度または温水温度を安定した状態で冷凍機の運転を継続できる。
本発明の他の態様は、被冷却流体から熱を奪って冷媒が蒸発し冷凍効果を発揮する蒸発器と、多段羽根車と該多段羽根車への冷媒ガスの吸込流量を調整する開度可変のベーンとを有し冷媒ガスを多段の羽根車によって圧縮する多段ターボ圧縮機と、圧縮された冷媒ガスを冷却流体で冷却して凝縮させる凝縮器と、凝縮した冷媒液の一部を蒸発させて蒸発した冷媒ガスを前記多段ターボ圧縮機の多段圧縮段の中間部分に供給するエコノマイザとを備えたターボ冷凍機において、前記凝縮器と前記蒸発器の圧力差を測定する測定手段と、前記エコノマイザと前記多段ターボ圧縮機の多段圧縮段の中間部分とを連通する流路に設けられ、前記流路を開閉するエコノマイザ蒸気弁と、前記多段ターボ圧縮機への吸込流量を調整する前記ベーンの開度を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、予め設定された凝縮器と蒸発器の圧力差と前記ベーンの下限開度との関係に基づいて、前記測定手段によって測定された圧力差から前記ベーンの下限開度を可変制御し、前記制御装置は、蓄熱槽を備えたターボ冷凍機を起動する際に、起動直後から、前記測定手段によって測定された圧力差から求めた前記ベーンの下限開度まで該ベーンを開くように制御することを特徴とする。
【0010】
本発明の好ましい態様は、前記凝縮器と蒸発器の圧力差と前記ベーンの下限開度との関係は、前記制御装置にテーブルとして予め設定されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記凝縮器と蒸発器の圧力差と前記ベーンの下限開度との関係は、前記制御装置にテーブルとして予め設定されていて、前記テーブルは、高ヘッド仕様ターボ冷凍機サージング境界線上のうち部分負荷のある運転状態の点をA点とし冷房用ターボ冷凍機のIGV(インレットガイドベーン)の下限開度の5度近傍を通過する点をB点とした場合の線分ABであることを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい態様は、前記測定手段は、前記凝縮器に設置された圧力センサと前記蒸発器に設置された圧力センサとからなることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記測定手段は、前記凝縮器の圧力に平衡な凝縮器内冷媒温度を計測する温度計と前記蒸発器の圧力に平衡な蒸発器内冷媒温度を計測する温度計とからなることを特徴とする。
【0012】
本発明の好ましい態様は、前記制御装置は、前記ベーンを下限開度まで閉じた後も冷凍機容量が設備側負荷容量より高いときに前記エコノマイザ蒸気弁を閉じる制御を行うことを特徴とする。
本発明によれば、エコノマイザ蒸気弁開閉制御によって、低負荷高ヘッド状況時にエコノマイザ蒸気弁を閉じることで2段圧縮エコノマイザサイクルから単段圧縮サイクルに切り替わるため、圧縮機の吸込み風量は同じでも蒸発器エンタルピ差が小さくなることにより、能力が低下し、容量を絞ることが可能になる。
【0013】
本発明の好ましい態様は、前記制御装置は、前記多段ターボ圧縮機の電動機の電流値を監視して電流振幅比を求め、該電流振幅比が所定値になったときに前記エコノマイザ蒸気弁を閉じる制御を行うことを特徴とする。
本発明によれば、サージング発生回避機能により、設備側負荷の急激な減少時にIGV下限開度制御が追い付かず、サージング領域に近づき過ぎた場合においても、サージングを初期段階で検知して回避するため、サージングによるエラー発生を防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、様々な設備側の負荷状況や冷却水等の温度条件に対し、サージングを回避し、冷凍機異常を起こすこと無く運転を継続することが可能であり、また低負荷時の運転範囲をヘッドに応じて広げることにより、安定した運転が可能となる高ヘッド仕様ターボ冷凍機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明に係る高ヘッド仕様ターボ冷凍機の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】
図2は、IGV開度と圧縮機のヘッドとの関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、ヘッド(蒸発器と凝縮器の圧力差)とIGV下限開度との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、
図1に示すように構成されたターボ冷凍機を並列接続したシステムを示す模式図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すように構成されたターボ冷凍機を蓄熱槽を備えた低温ブライン仕様機として用いた場合を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るターボ冷凍機及びその制御方法の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至5において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明に係るターボ冷凍機の一実施形態を示す模式図である。本実施形態においては、ターボ冷凍機は、ブライン用ターボ冷凍機やヒートポンプ用ターボ冷凍機のいわゆる高ヘッド仕様のターボ冷凍機について説明する。
図1に示すように、ターボ冷凍機は、冷媒を圧縮する多段ターボ圧縮機TCと、圧縮された冷媒ガスを冷却水(冷却流体)で冷却して凝縮させる凝縮器4と、ブライン(被冷却流体)から熱を奪って冷媒が蒸発し冷凍効果を発揮する蒸発器5と、凝縮器4と蒸発器5との間に配置される中間冷却器であるエコノマイザ6と、エコノマイザ6の前後に設置され凝縮冷媒を減圧して膨張させる膨張機構8,8とを備え、これら各機器を冷媒が循環する冷媒配管9によって連結して構成されている。
【0019】
図1に示す実施形態においては、多段ターボ圧縮機TCは、二段ターボ圧縮機からなり、一段目羽根車1と、二段目羽根車2と、これらの羽根車1,2を回転させる圧縮機モータ3と、圧縮機モータ3を駆動するインバータ14とから構成されている。圧縮機モータ3およびこれに連結された羽根車1,2の回転速度は、インバータ14によって変速可能となっている。さらに、インバータ14は制御装置20に接続されており、圧縮機モータ3および羽根車1,2の回転速度は、インバータ14を介して制御装置20によって制御される。
【0020】
一段目羽根車1の吸込側には、冷媒ガスの羽根車1,2への吸込風量を制御するIGVが設けられている。このIGVは放射状に配置されており、各IGVが自身の軸心を中心として互いに同期して所定の角度だけ回転することにより、IGVの開度が変更される。多段ターボ圧縮機TCのサージング防止のためにIGVの最小開度は0°ではなく、IGVが完全に閉じないようになっている。IGVの最小開度は、通常、一定値である(後述する)。
【0021】
一段目羽根車1の吐出側と二段目羽根車2の吸込側とは、流路10によって接続されている。多段ターボ圧縮機TCにおいては、蒸発器5から一段目羽根車1に導入された冷媒ガスは一段目羽根車1により一段目の圧縮が行われ、次に流路10によって二段目羽根車2に導入された冷媒ガスは二段目羽根車2により二段目の圧縮が行われ、その後、凝縮器4に送られる。
【0022】
エコノマイザ6と前記流路10とは流路11によって接続されており、エコノマイザ6で分離された冷媒ガスは多段ターボ圧縮機TCの多段の圧縮段(この例では2段)の中間部分(この例では一段目と二段目の間の部分)に導入されるようになっている。エコノマイザ6と多段ターボ圧縮機TCとを接続する流路11には、電動式のエコノマイザ蒸気弁7が設けられており、エコノマイザ6から多段ターボ圧縮機TCの圧縮段への冷媒ガスの供給および供給停止が制御できるようになっている。エコノマイザ蒸気弁7は制御装置20により開閉制御される。
【0023】
図1に示すように構成されたターボ冷凍機の冷凍サイクルでは、多段ターボ圧縮機TCと凝縮器4と蒸発器5とエコノマイザ6とを冷媒が循環し、蒸発器5で得られる冷熱源でブラインが製造されて負荷に対応し、冷凍サイクル内に取り込まれた蒸発器5からの熱量および圧縮機モータ3から供給される多段ターボ圧縮機TCの仕事に相当する熱量が凝縮器4に供給される冷却水に放出される。一方、エコノマイザ6にて分離された冷媒ガスは多段ターボ圧縮機TCの多段圧縮段の中間部分に導入され、一段目羽根車1からの冷媒ガスと合流して二段目羽根車2により圧縮される。2段圧縮単段エコノマイザサイクルによれば、エコノマイザ6による冷凍効果部分が付加されるので、その分だけ冷凍効果が増加し、エコノマイザ6を設置しない場合に比べて冷凍効果を増加させることができる。
【0024】
凝縮器4には、凝縮器4内の圧力、すなわち凝縮圧力を測定する圧力センサPcが設置されている。蒸発器5には、蒸発器5内の圧力、すなわち蒸発圧力を測定する圧力センサPeが設置されている。圧力センサPc,Peは制御装置20に接続されている。
【0025】
次に、
図1に示すように構成されたターボ冷凍機の制御方法について説明する。
(1)IGV下限開度制御
通常、冷房用ターボ冷凍機は、ほとんどの運転状態で、サージング境界線に近づくことはないので、IGV(インレットガイドベーン)の下限開度は5度程度である。しかしながら、ブライン用ターボ冷凍機やヒートポンプ用ターボ冷凍機の高ヘッド仕様のターボ冷凍機は、50%負荷以下では、サージング境界線近くでの運転状態である。従って、IGV(インレットガイドベーン)の下限開度を上げざるをえなく、IGVの下限開度を20度程度にすることが一般的である。
【0026】
高ヘッド仕様ターボ冷凍機の運転状態が、ヘッドの低い状態での運転の場合、サージング境界線から乖離する。従って、高ヘッド仕様に設定していたIGV(インレットガイドベーン)の下限開度では開度が大きすぎてしまう。各々の低ヘッド運転時におけるIGV(インレットガイドベーン)の下限開度を設定する必要がある。
【0027】
以下、各々の低ヘッド運転時におけるIGV(インレットガイドベーン)の下限開度を設定する方法について説明する。
1)高ヘッド仕様(ブライン用ターボ冷凍機やヒートポンプ用ターボ冷凍機)のターボ圧縮機のヘッドとIGV(インレットガイドベーン)の開度とサージング境界線の関係がわかるテーブル(理論計算または実機試験により描くことができる)を持っている。
図2は、IGV開度と圧縮機のヘッドとの関係を示すグラフである。
図2において、横軸はIGV開度(deg)を示し、縦軸は圧縮機のヘッドを示す。
図2には、ターボ圧縮機におけるサージング境界線が実線で図示されている。ターボ圧縮機は、サージング境界線を境として、サージング境界線より左側および上側の運転継続は不可能となる。
2)
図2において、高ヘッド仕様ターボ冷凍機のサージング境界線上のうち、部分負荷のある運転状態の点を点Aとし、通常冷房用ターボ冷凍機のIGV(インレットガイドベーン)の下限開度の5度近傍を通過する点を点Bとする。ここで、点Aと点Bとをつなぐことにより、太い実線で示す線分ABができ、IGV下限開度線ができる。この線分ABで示すIGV下限開度線の線上に沿ってIGV下限開度を制御することによって、サージング境界線から逃げることができるとともに、
図2にあるデルタ領域いわゆる高ヘッド仕様ターボ冷凍機において低ヘッドかつ低冷凍運転状態の領域で、安定した運転状態を維持することが可能になる。
勿論、IGV下限開度線は、サージング境界線に沿って3点以上の線分又は関数を用いた曲線でもよい。
ただし、高ヘッド仕様ターボ冷凍機において低ヘッドかつ低負荷運転領域でのサージング境界線は不安定なことが多く
図2において左右に多少ずれることがあるので、線分ABのテーブルを用いることにより、簡易的に2点間直線近似を行いIGV下限開度をサージング境界線から少し乖離させることができ、低ヘッドかつ低負荷運転領域でより好ましい安定した運転状態を維持することが可能になる。
【0028】
図3は、蒸発器と凝縮器の圧力差とIGV下限開度との関係を示すグラフである。
図3において、横軸は蒸発器と凝縮器の圧力差(MPa)を示し、縦軸はIGV下限開度(°)を示す。制御装置20には、
図3に示す関係がテーブルとして記憶されている。
制御装置20は、圧力センサPeの測定信号と圧力センサPcの測定信号とから蒸発器と凝縮器の圧力差、すなわちターボ圧縮機のヘッドを演算し、この演算したヘッドから、
図3に示すIGV下限開度線に基づいてIGV下限開度を設定する。そして、制御装置20は、IGV開度が設定したIGV下限開度以下にはならないように制御する。本実施形態によれば、ヘッドが低下した場合、IGV下限開度線に従い、IGVは低開度まで閉じるため、容量制御範囲が広くなる。
なお、圧力センサPeおよび圧力センサPcに代えて、凝縮器の圧力に平衡な凝縮器内冷媒温度を計測する温度計と蒸発器の圧力に平衡な蒸発器内冷媒温度を計測する温度計を設け、これら温度計の測定信号から蒸発器と凝縮器の圧力差、すなわちターボ圧縮機のヘッドを演算してもよい。
【0029】
(2)エコノマイザ蒸気弁開閉制御
制御装置20は、設備側負荷の低下に応じてIGVを(1)において設定されたIGV下限開度まで閉じるが、IGV下限開度まで閉じた後も、冷凍機容量が設備側負荷容量よりも高い場合は、エコノマイザ蒸気弁7を閉じる。
エコノマイザ蒸気弁7を閉じると、エコノマイザ6による冷凍効果が失われるので、IGVを閉じずに冷媒の多段ターボ圧縮機TCへの吸込流量を減ずることなく、冷凍機容量を低下させることが可能となり、低負荷運転時での著しい効率低下を防ぐことができる。設備側負荷容量が増加してきた場合は、逆に、エコノマイザ蒸気弁7を開く。
【0030】
(3)サージング発生回避制御
暖房およびブライン仕様による高ヘッド運転中、サージング発生領域に近づき過ぎると、初期サージングが発生する場合がある。
本発明においては、サージング初期の状態を検知し、エコノマイザ蒸気弁7を閉じることにより、サージングを回避する。サージング初期の状態の検知は、ターボ圧縮機を駆動する圧縮機モータ3の電流値を制御装置20により監視し、主電動機の定格電流値を1とした場合、電流振幅比が1.2倍以上になったら、サージング初期の状態と判断する。ここで云う、電流振幅比とは、運転中の電流値の振幅に対し、基準となる電流値で除した値を云い、ここでは基準電流値を一定期間の平均値としたり、電動機の定格電流値等を用いる。
上述したように、サージング初期の状態を検知してエコノマイザ蒸気弁7を閉じることにより、多段サーボ圧縮機TCの二段目羽根車2の風量が減少してヘッドが増加することにより、一段目羽根車1のヘッドを下げて一時的にサージング発生を回避する。
【0031】
図4は、
図1に示すように構成されたターボ冷凍機を並列接続したシステムを示す模式図である。
図4に示す例では、
図1に示す構成を具備するターボ冷凍機を2台並列接続する。2台のターボ冷凍機TR1,TR2は、入口側集合ヘッダー30および出口側集合ヘッダー31によって並列接続されている。ターボ冷凍機TR1が先発機であり、ターボ冷凍機TR2が後発機である。
図4に示すように、ターボ冷凍機からなるヒートポンプ機を複数台設置した場合において、設備側の付加が増加し、先発機TR1が高負荷で運転中に後発機TR2が運転開始した場合、後発機TR2は起動時から高温の温水がヒートポンプ機に入ってくるため、はじめから高ヘッド運転状況になる。そのため、本発明においては、後発機TR2を起動する際に、サージングを回避するため、起動直後からIGVを圧縮ヘッド状況に応じた開度まで開く。この時の開度は、前記IGV下限開度制御機能により、蒸発器5と凝縮器4の圧力差から得られた値を用いる。
【0032】
図5は、
図1に示すように構成されたターボ冷凍機を蓄熱槽を備えた低温ブライン仕様機として用いた場合を示す模式図である。
図5に示すように、ターボ冷凍機TRは蓄熱槽40を備えている。
図5に示すように構成された低温ブライン仕様機としてのターボ冷凍機TRが起動して蓄熱槽40より低温ブラインが入ってきた場合、ターボ冷凍機TRは起動直後から高ヘッド運転状況になる。そのため、本発明においては、ターボ冷凍機TRを起動する際に、サージングを回避するため、起動直後からIGVを圧縮ヘッド状況に応じた開度まで開く。この時の開度は、前記IGV下限開度制御機能により、蒸発器5と凝縮器4の圧力差から得られた値を用いる。
【0033】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
1 一段目羽根車
2 二段目羽根車
3 圧縮機モータ
4 凝縮器
5 蒸発器
6 エコノマイザ
7 エコノマイザ蒸気弁
8 膨張機構
9,10,11 流路
14 インバータ
15 IGV(インレットガイドベーン)
20 制御装置
30 入口側集合ヘッダー
31 出口側集合ヘッダー
40 蓄熱槽
TC 多段ターボ圧縮機
Pc,Pe 圧力センサ