(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヒト組織因子経路阻害剤(TFPI)に特異的に結合するヒトモノクローナルIgG抗体の変異体であって、該変異体は可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを含み、親ヒトモノクローナルIgG抗体に比較して延長した血漿半減期を有し、該変異体は更に、Y102H、Y32HおよびY100Hならびにそれらの組み合わせから成る群より選択されるヒスチジン置換を含む親配列番号10によって決定される可変重鎖ドメインを含み、且つ、pH7.0でpH6.0の場合よりも少なくとも2倍高い親和性でTFPIに結合し、可変軽鎖ドメインが配列番号17のアミノ酸配列を有することを特徴とする、前記変異体。
ヒト組織因子経路阻害剤(TFPI)に特異的に結合するヒトモノクローナルIgG抗体の変異体であって、該変異体は可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを含み、親ヒトモノクローナルIgG抗体に比較して延長した血漿半減期を有し、該変異体抗体は更に、Y31H、F48H、Y49H、L27H、V45H、W90Hおよびそれらの組み合わせから成る群より選択されるヒスチジン置換を含む親配列番号17によって決定される可変軽鎖ドメインを含み、且つ、pH7.0でpH6.0の場合よりも少なくとも2倍高い親和性でTFPIに結合し、可変重鎖ドメインが配列番号10のアミノ酸配列を有することを特徴とする、前記変異体。
【背景技術】
【0002】
現在、血友病Aおよび血友病B患者の予防的管理は、FVIIIまたはFIXの何れか(組み換えまたは血漿由来生成物)の補充である。これらの処置は、週に2または3回施され、それらの予防レジメを順守するには患者に重い負担を与える。厳格な管理および厳守にもかかわらず、患者は通常、時として破綻出血を経験し、必要性に応じた処置が求められる。的確に管理されない場合、頻繁で重篤な出血は、重大な病的状態、特にヘムアルスロパシー(hemarthropathy)につながる。血友病Aおよび血友病B患者を処置するために使用される既存の薬物の効果は証明されているにもかかわらず、殆どの成人、10代および高齢者は、定期的に行われる注射の回数を減少させることにより予防の負担を軽減することを選択する。このアプローチは、的確に出血を管理するために必要とされる防御をさらに危うくする。
【0003】
結果として、顕著に防御性をもたらし、且つ、必要な投与頻度が比較的少ない薬物が最も望まれる。最適な治療は、週1回以下の頻度の投与によって防御を提供すべきものである。現在の競争的環境を考えると、治療薬が週1回、静脈内(i.v.)または皮下(s.c.)投与されるというものが、今後3から4年にわたっては現実的であり得る。したがって、i.v.またはs.c.投与される薬物は、同等の防御力がある優れた投与プロファイルを提供すべきである。皮下投与が達成され得た場合には、週1回投与は、このアプローチの低侵襲性ゆえに、将来的な治療状況に対しても多大な価値を与える。
【0004】
最新の血友病治療に対する別の大きな課題は、第VIII因子または第IX因子に対する阻害性抗体の発現である。FVIII処置患者のおよそ25%が、FVIIIに対する阻害性または中和抗体を産生する。阻害物質は、頻度は低いものの、FIX処置患者でも見られる。阻害物質の発現によって、補充療法の有効性が顕著に低下し、血友病患者における出血管理は困難になる。FVIIIまたはFIXに対する阻害物質を有する患者での出血に対する現在の処置は、組み換え第VIIa因子または血漿由来FEIBAによる迂回療法である。rFVIIaの半減期は極めて短く(−2時間)、したがってこれらの患者における予防的処置は一般的ではない[Blanchette,Haemophilia 16(supplement 3):46−51,2010]。
【0005】
未だ対処されていないこれらの医療ニーズに取り組むために、長時間作用薬物としての組織因子経路阻害剤(TFPI)に対する抗体が開発された。WO2010/017196;WO2011/109452;WO2012/135671を参照。TFPIは、組織因子開始凝固経路の主要な阻害剤であり、これは血友病患者(PWH)において損傷を受けておらず、故にTFPIの阻害は、FVIIIまたはFIXに対する阻害性抗体を示すPWHにおいて止血を回復させ得る。モノクローナル抗体(mAb)治療薬は、この標的への接近を可能にすることに加えて、組み換え補充因子よりも顕著に長い循環半減期(最長3週間)を有することが示されている。TFPIを阻害する抗体はまた、皮下注射後に顕著なバイオアベイラビリティを有する。したがって、抗TFPIモノクローナル抗体療法は、PWHおよび阻害物質を有するPWHのための、皮下の、長時間作用型の止血的防御に対する重要な未だ対処されていない医療ニーズに対応する。
【0006】
しかし、TFPIの阻害は、血友病性血漿および血友病性動物において凝固を促進することが示されている一方で、TFPIに対する抗体は、急速に除去される標的とのその相互作用ゆえに、または抗体:抗原複合体の、その標的とのその共局在ゆえに血漿から隔絶されることによって抗体が循環から除去される過程である、標的介在性薬物消失(TMDD)として知られる現象ゆえに、比較的短い非線形的半減期を有する。したがって、TFPI介在性TMDDを回避し、且つ、延長した半減期を有する抗体は、投与頻度を減少させ、投与あたりに必要とされる物質量を減少させる。さらに、より低用量への必要性によって、投与体積が制限段階となる皮下投与も実現可能になる。例えば、最適化抗TFPI抗体2A8−g200(WO2011/109452)の半減期は、5mg/kgで投与した場合、28時間であり、非ヒト霊長類で20mg/kgで投与した場合、67時間である。
【0007】
この比較的短い半減期およびTMDDを克服するためのより多量の用量の必要性により、患者における注射の負担が増加し、皮下投与に対する処方が制限され、物品コストが上昇する。非ヒト霊長類におけるこれらの抗体の薬物動態学的分析から、循環半減期が用量に対して、および特により低用量で線形ではなく、抗体薬に典型的なものよりも短いことが示される。同様の薬物動態学的プロファイルが、別の抗TFPI抗体に対してUS2011/0318356A1に記載された。より低用量でのT1/2が著しく短縮しているというこの違いは、TMDDの特徴であり、高用量ほどクリアランスが遅いのは標的の飽和ゆえである。
【0008】
したがって、中度から重度の血友病AおよびBに対する、特にFVIIIまたはFIXに対する阻害物質を有する患者のためのより優れた予防的処置に対する医療ニーズは満たされていない。このニーズは、静脈内または皮下に、低頻度、好ましくは週に1回以下で投与され得る、特性が改良された抗TFPI抗体によって満たされよう。
【発明を実施するための形態】
【0020】
「組織因子経路阻害剤」または「TFPI」という用語は、本明細書中で使用される場合、細胞により天然に発現されるヒトTFPIの、何らかの変異体、アイソフォームおよび種ホモローグを指す。本発明の好ましい実施形態において、TFPIに対する本発明の抗体の結合は、血液凝固時間を短縮させる。
【0021】
本明細書中で使用される場合、「抗体」は、全抗体および何らかの抗原結合断片(すなわち「抗原−結合部分」)またはその1本鎖を指す。この用語は、天然であるかまたは正常な免疫グロブリン遺伝子断片組み換え過程により形成される全長免疫グロブリン分子(例えばIgG抗体)または、特異的な結合活性を保持する免疫グロブリン分子の免疫学的に活性である部分、例えば抗体断片など、を含む。構造にかかわらず、抗体断片は、全長抗体により認識されるものと同じ抗原と結合する。例えば、抗TFPIモノクローナル抗体断片は、TFPIのエピトープに結合する。抗体の抗原−結合機能は、全長抗体の断片により果たされ得る。抗体の「抗原−結合部分」という用語内に包含される結合断片の例としては、(i)Fab断片、V
L、V
H、C
LおよびC
H1ドメインからなる一価断片;(ii)F(ab’)
2断片、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋により連結される2個のFab断片を含む二価断片;(iii)V
HおよびC
H1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体のシングルアームのV
LおよびV
HドメインからなるF
V断片、(v)V
HドメインからなるdAb断片(Wardら、(1989)Nature 341:544−546);(vi)単離相補性決定領域(CDR);(vii)ミニボディー、ダイアボディー、トリアボディー、テトラボディーおよびカッパ・ボディー(例えばIllら、Protein Eng 1997;10:949−57);(viii)ラクダIgG;および(ix)IgNARが挙げられる。さらに、F
V断片の2つのドメイン、V
LおよびV
Hが個別の遺伝子によりコードされるにもかかわらず、これらは、組み換え法を用いて、それらを、V
LおよびV
H領域が対形成して一価分子を形成する1本のタンパク質鎖(1本鎖Fv(scFvとして知られる。)として形成されるようにすることができる合成リンカーにより、連結され得る;例えば、Birdら(1988)Science 242:423−426;およびHustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883)を参照。このような1本鎖抗体もまた、抗体の「抗原−結合部分」という用語内に包含されるものとする。これらの抗体断片は当業者にとって公知の従来技術を用いて得られ、インタクトな抗体と同じように有用性について断片が分析される。
【0022】
さらに、抗体模倣物において抗原結合断片が包含され得ることが企図される。「抗体模倣物」または「模倣物」という用語は、本明細書中で使用される場合、抗体と同様の結合を示すが、より小さな代替的抗体または非抗体タンパク質であるタンパク質を意味する。このような抗体模倣物は、骨格に含まれ得る。「骨格」という用語は、目的に合った機能および特徴がある新しい生成物の操作のためのポリペプチドプラットフォームを指す。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「結合を阻害する」および「結合を阻止する」(例えばTFPIに対するTFPIリガンドの結合の阻害/阻止を指す。)という用語は、交換可能に使用され、部分的および完全の両方の阻害および阻止を包含する。阻害および阻止はまた、抗TFPI抗体と接触させられていないTFPIと比較した場合の、抗TFPI抗体との接触時の生理的基質に対するTFPIの結合親和性の何らかの測定可能な減少、例えば、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の、第Xa因子とのTFPIの相互作用の阻止または、組織因子、第VIIa因子または組織因子/第VIIa因子の複合体とのTFPI−第Xa因子複合体の相互作用の阻止を含むものとする。
【0024】
「Continuous Cultures of Fused Cell Secreting Antibody of Predefined Specificity」,Nature 256,495−497(1975)においてKoehlerおよびMilsteinにより記載されているハイブリドーマ技術を通じて治療用抗体を作製した。完全ヒト抗体はまた、原核細胞および真核細胞での組み換えによっても作製され得る。ハイブリドーマ産生ではなく宿主細胞における抗体の組み換え産生は、治療用抗体にとって好ましい。組み換え産生には、生成物の一貫性に優れていること、産生レベルがより高くなり得ることおよび動物由来タンパク質の存在を最小化するかまたは排除する制御製造という長所がある。これらの理由のために、組み換え産生モノクローナル抗TFPI抗体を有することが望ましい。「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、本明細書中で使用される場合、単分子組成物の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す。一般に、ヒト疾患に対する治療用抗体は、マウス、キメラ、ヒト化または完全ヒト抗体を作製するために、遺伝子操作を用いて作製してきた。マウスモノクローナル抗体は、血清半減期が短く、ヒトエフェクター機能を惹起できないことおよびヒト抗マウス−抗体の産生のために、治療剤としての使用が限定的であることが示された(BrekkeおよびSandlie,「Therapeutic Antibodies for Human Diseases at the Dawn of the Twenty−first Century」,Nature 2,53,52−62,Jan.2003)。キメラ抗体は、ヒト抗キメラ抗体反応を生じさせることが示されている。ヒト化抗体は、抗体のマウス構成要素をさらに最小化する。しかし、完全ヒト抗体は、マウス要素に付随する免疫原性を完全に回避する。したがって、ヒトである抗体かまたは遺伝子操作モノクローナル抗体の他の形態に付随する免疫原性を回避するのに必要な程度までヒト化されている抗体を開発する必要性がある。特に、抗TFPIモノクローナル抗体による血友病処置に必要とされるであろうものなどの長期的な予防処置は、頻回投与が必要であり、治療が長期に及ぶため、マウス構成要素またはマウス起源のものを伴う抗体が使用される場合、治療薬に対する免疫反応の発現のリスクが高くなる。例えば、血友病Aに対する抗体療法は、患者の一生涯にわたり毎週投与することを必要とし得る。これは、免疫系に対する継続的な負荷である。したがって、血友病および凝固における関連する遺伝的および後天性不全または欠損に対する抗体療法のための完全ヒト抗体が必要とされている。したがって、「ヒトモノクローナル抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変および定常領域の少なくとも一部を有する単一の結合特異性を示す抗体を指す。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によりコードされていないアミノ酸残基を含み得る(例えば、インビトロでのランダムまたは部位特異的な突然変異誘発によるかまたはインビボでの体細胞突然変異により導入される突然変異)。これらのヒト抗体は、キメラ抗体、例えばマウス/ヒトおよび非ヒト配列を保持するヒト化抗体を含む。
【0025】
「単離抗体」は、本明細書中で使用される場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すものとする(例えば、TFPIに結合する単離抗体は、TFPI以外の抗原に結合する抗体を実質的に含まない。)。しかし、ヒトTFPIのエピトープ、アイソフォームまたは変異体に結合する単離抗体は、他の関連抗原、例えば他の種由来のもの(例えばTFPI種ホモローグ)に対する交差反応性を有し得る。さらに、単離抗体は、他の細胞性物質および/または化学物質を実質的に含み得ない。
【0026】
本明細書中で使用される場合、「特異的な結合」は、所定の抗原に対する抗体結合を指す。一般的には、抗体は、少なくとも約10
5の親和性で結合し、所定抗原または近縁抗原以外の無関係の抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合に対するその親和性よりも高い、例えば少なくとも2倍高い、親和性で所定の抗原に結合する。「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」という句は、「抗原に特異的に結合する抗体」という用語と、本明細書中で交換可能に使用される。
【0027】
本明細書中で使用される場合、IgG抗体に対する「高親和性」という用語は、少なくとも約10
7の結合親和性を指し、いくつかの実施形態において、少なくとも約10
8、いくつかの実施形態において少なくとも約10
9、10
10、10
11またはそれを超える、例えば最大10
13またはそれを超えるものである。しかし、「高親和性」結合は他の抗体アイソタイプに対して変動し得る。例えば、IgMアイソタイプに対する「高親和性」結合は、少なくとも約1.0×10
7の結合親和性を指す。本明細書中で使用される場合、「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によりコードされる抗体クラス(例えばIgMまたはIgG1)を指す。
【0028】
「相補性決定領域」または「CDR」は、結合抗原の三次元構造に対して相補的であるN末端抗原−結合面を形成する抗体分子の重鎖の可変領域または軽鎖の可変領域内の3つの超可変領域のうち1つを指す。重または軽鎖のN−末端から進めて、これらの相補性決定領域はそれぞれ、「CDR1」、「CDR2」および「CDR3」として示される。CDRは抗原−抗体結合に関与し、CDR3は、抗原−抗体結合に特異的な特有の領域を含む。したがって、抗原−結合部位は、重および軽鎖V領域のそれぞれからのCDR領域を含む、6個のCDRを含み得る。
【0029】
本明細書中で使用される場合、下記の個々のまたは複数のヒスチジン置換に関する場合を除き、「保存的置換」は、結果としてポリペプチドの生物学的または生化学的機能を喪失しない、同様の生化学的特性を有するアミノ酸に対する1以上のアミノ酸の置換を含むポリペプチドの修飾を指す。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が同様の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野で定められている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β−分岐状側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を伴うアミノ酸を含む。本発明の抗体は、保存的アミノ酸置換を有し得、依然として活性を保持することが想定される。
【0030】
「実質的な相同性」という用語は、2つのポリペプチドまたはそれらの指定配列が、最適にアライメントされ、比較される場合に、適切なアミノ酸挿入または欠失を伴い、少なくともアミノ酸の約80%、通常は少なくともアミノ酸の約85%、好ましくは約90%、91%、92%、93%、94%または95%、より好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%または99.5%同一であることを示す。本発明は、本明細書中で引用される特異的なアミノ酸配列に対して実質的な相同性を有するポリペプチド配列を含む。
【0031】
2つの配列間のパーセント同一性は、配列により共有される同一である位置の数の関数(すなわち、%相同性=同一である位置の数/位置の総数×100)であり、2つの配列の最適アライメントのために導入する必要があるギャップ数および各ギャップの長さが考慮される。2つの配列間の配列の比較およびパーセント同一性の決定は、数学アルゴリズム、例えばVectorNTITMのAlignXTMモジュール(Invitrogen Corp.,Carlsbad,CA)を用いて遂行され得る。AlignXTMの場合、複数アライメントの初期設定パラメーターは:ギャップ・オープニング・ペナルティー:10;ギャップ伸長ペナルティー:0.05;ギャップ分離ペナルティー範囲:8;アライメント遅延(alignment delay)に対する%同一性:40。(さらなる詳細は、http://www.invitrogen.com/site/us/en/home/LINNEA−Online−Guides/LINNEA−Communities/Vector−NTI−Community/Sequence−analysis−and−data−management−software−for−PCs/AlignX−Module−for−Vector−NTI−Advance.reg.us.htmlで見出される。)。
【0032】
クエリー配列(本発明の配列)と対象配列との間の最良の全体的適合(best overall match)を決定するための別の方法は、グローバル配列アライメントとも呼ばれ、CLUSTALWコンピュータプログラム(Thompsonら、Nucleic Acids Research,1994,2(22):4673−4680)を用いて決定することができ、これはHigginsら(Computer Applications in the Biosciences(CABIOS),1992,8(2):189−191)のアルゴリズムに基づく。配列アライメントにおいて、クエリーおよび対象配列は、両DNA配列である。前記のグローバル配列アライメントの結果は、パーセント同一性によるものである。ペアワイズアライメントを介してパーセント同一性を計算するためにDNA配列のCLUSTALWで使用される好ましいパラメーターは、マトリクス=IUB、k−組=1、トップ・ディアゴナル(Top Diagonals)数=5、ギャップペナルティー=3、ギャップ・オープン・ペナルティー=10、ギャップ伸長ペナルティー=0.1である。複数アライメントの場合、次のCLUSTALWパラメーターが好ましい:ギャップ・オープニング・ペナルティー=10、ギャップ伸長パラメーター=0.05;ギャップ分離ペナルティー範囲=8;アライメント遅延(Alignment Delay)に対する%同一性=40。
【0033】
治療的有効量の抗TFPIモノクローナル抗体および医薬的に許容可能な担体を含む医薬組成物も提供される。本明細書中で使用される場合、「治療的有効量」は、インビボでの凝固時間を効果的に向上させるかまたは必要とする患者に対してインビボで測定可能な利益を生じさせるために必要とされる、抗TFPIモノクローナル抗体変異体またはこのような抗体および第VIII因子または第IX因子の組み合わせの量を意味する。正確な量は、治療用組成物の構成要素および物理的特性、意図される患者集団、個々の患者の検討事項などを含むが限定されない多くの要因に依存し、当業者により容易に決定され得る。「医薬的に許容可能な担体」は、処方を促進するか、調製物を安定化し、患者に対して顕著な有害毒性効果を生じさせないために活性成分に添加され得る物質である。このような担体の例は当業者にとって周知であり、水、糖、例えばマルトースまたはスクロースなど、アルブミン、塩、例えば塩化ナトリウムなどが挙げられる。他の担体は、例えばE.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。このような組成物は、治療的有効量の少なくとも1つの抗TFPIモノクローナル抗体を含有する。
【0034】
医薬的に許容可能な担体としては、滅菌水溶液または分散液および滅菌注射用溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。医薬的に活性のある物質に対するこのような媒体および薬剤の使用は当技術分野で公知である。本組成物は、好ましくは非経口注射用に処方される。本組成物は、高薬物濃度に適切な、溶液、マイクロエマルジョン、リポソームまたは他の秩序構造として処方され得る。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)およびそれらの適切な混合物を含有する、溶媒または分散媒であり得る。一部の場合において、これは、組成物中の、等張剤、例えば糖、多価アルコール、例えばマンニトール,ソルビトールなど、または塩化ナトリウムを含む。
【0035】
滅菌注射用溶液は、上記の成分の1つまたは組み合わせとともに適切な溶媒中で必要量の活性化合物を組み込み、必要に応じて、続いて滅菌精密ろ過を行うことによって調製され得る。一般に、分散液は、基本的な分散媒および上述のものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに活性化合物を組み込むことによって調製される。滅菌注射用溶液の調製用の滅菌粉末の場合、あるいくつかの調製方法は、前もって滅菌ろ過されたその溶液から活性成分+何らかのさらなる所望の成分の粉末を生じさせる、真空乾燥および凍結−乾燥(凍結乾燥)である。
【0036】
ヒトモノクローナル抗体は、凝固における遺伝的および後天性不全または欠損を処置するための治療目的のために使用され得る。例えば、ヒトモノクローナル抗体は、FXaとのTFPIの相互作用を阻止するかまたはTF/FVIIa活性のTFPI−依存性阻害を防止するために使用され得る。さらにヒトモノクローナル抗体はまた、FVIII−またはFIX−依存性のFXa増幅の不足を迂回するため、TF/FVIIaにより起動されるFXa産生を回復させるためにも使用され得る。
【0037】
ヒトモノクローナル抗体は、血小板減少症、血小板障害および出血性障害(例えば、血友病A、血友病Bおよびヘモフリア(hemophlia)C)などの止血の障害の処置において、治療用途を有する。このような障害は、それを必要とする患者に治療的有効量の抗TFPIモノクローナル抗体変異体を投与することによって処置され得る。ヒトモノクローナル抗体はまた、外傷および出血性脳卒中などの兆候における制御不良の出血の処置においても治療用途を有する。したがって、出血時間を短縮することを必要とする患者に、治療的有効量の本発明の抗TFPIヒトモノクローナル抗体変異体を投与することを含む、出血時間を短縮するための方法もまた提供される。
【0038】
本抗体は、止血性障害に対処するために、単剤療法として、または他の治療剤と組み合わせて使用され得る。例えば、凝固因子、例えば第VIIa因子、第VIII因子または第IX因子などと1以上の本発明の変異体抗体の同時投与は、血友病を処置するのに有用であると考えられる。個々の実施形態において、第VIII因子または第IX因子は、第VII因子の実質的な非存在下で投与される。「第VII因子」は、第VII因子および第VIIa因子を含む。
【0039】
凝固における遺伝的および後天性不全または欠損を処置するための方法は、(a)ヒト組織因子経路阻害剤に結合する、第一の量の変異体モノクローナル抗体および(b)第二の量の第VIII因子または第IX因子を投与することを含み、この第一および第二の量は、一緒に、この不全または欠損を処置するために有効である。同様に、凝固における遺伝的および後天性不全または欠損を処置するための方法は、(a)ヒト組織因子経路阻害剤に結合する、第一の量のモノクローナル抗体変異体および(b)第二の量の第VIII因子または第IX因子を投与することを含み、この第一および第二の量は、一緒に、この不全または欠損を処置するために有効であり、さらに第VII因子は同時投与されない。本発明はまた、治療的有効量の本発明のモノクローナル抗体変異体および第VIII因子または第IX因子の組み合わせを含む医薬組成物も含み、本組成物は、第VII因子を含有しない。
【0040】
これらの併用療法は、凝固因子の必要な点滴頻度を減少させると思われる。同時投与または併用療法とは、それぞれが個別に処方されるかまたは1つの組成物中で一緒に処方される2種類の治療薬物の投与を意味し、個別に処方される場合、ほぼ同時に、または異なる時間であるが同じ治療期間にわたるかの何れかで投与される。
【0041】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載の1以上の抗体変異体は、止血性障害に対処するために組み合わせて使用され得る。例えば、2以上の本明細書中に記載の抗体変異体の同時投与は、血友病または他の止血性障害を処置するために有用であると考えられる。
【0042】
本医薬組成物は、出血エピソードの重症度により変動し得るか、または予防的治療の場合、患者の凝固欠損の重症度により変動し得る投与量および頻度で、血友病AまたはBに罹患している対象に非経口投与され得る。
【0043】
本組成物は、ボーラスとして、または連続点滴によって、必要とする患者に投与され得る。例えば、Fab断片として存在する抗体変異体のボーラス投与は、0.0025から100mg/kg体重、0.025から0.25mg/kg、0.010から0.10mg/kgまたは0.10から0.50mg/kgの量であり得る。連続点滴の場合、Fab断片として存在する抗体変異体は、1から24時間、1から12時間、2から12時間、6から12時間、2から8時間または1から2時間にわたり、0.001から100mg/kg体重/分、0.0125から1.25mg/kg/分、0.010から0.75mg/kg/分、0.010から1.0mg/kg/分または0.10から0.50mg/kg/分で投与され得る。(完全な定常領域がある)全長抗体として存在する抗体変異体の投与の場合、投与量は、約1から10mg/kg体重、2から8mg/kgまたは5から6mg/kgであり得る。このような全長抗体は、一般的には、30分から3時間にわたる点滴によって投与される。投与頻度は、状態の重症度に依存する。頻度は、週に3回から、2週間から6カ月ごとに1回の範囲であり得る。
【0044】
さらに、本組成物は、皮下注射を介して患者に投与され得る。例えば10から100mg抗TFPI抗体の1回用量が、週に1回、2週間に1回または1カ月に1回、皮下注射を介して患者に投与され得る。
【0045】
ヒト組織因子経路阻害剤(TFPI)に対する変異体モノクローナル抗体が提供される。同上をコードする単離核酸分子もさらに提供される。変異体抗TFPIモノクローナル抗体を含む医薬組成物および血友病AおよびBなどの凝固における遺伝的および後天性不全または欠損の処置の方法も提供される。出血時間の短縮を必要とする患者に抗TFPIモノクローナル抗体を投与することによって、出血時間を短縮するための方法も提供される。本開示によるヒトTFPIに結合する変異体モノクローナル抗体を作製する方法も提供される。
【0046】
治療用組成物は、親配列で定められるとおりの少なくとも1個のネイティブアミノ酸に対するアミノ酸ヒスチジン(H、HIS)の1以上の置換の企図的な[判読不能]選択または操作により、非経口TFPI結合抗体の配列とは異なる結合領域を有する抗体を含む。アミノ酸変化は、親分子と比較してより長い循環半減期T1/2を付与する。
【0047】
pH7.0よりもpH6.0で有効性が少なくとも20%低い、TFPIに結合するTFPIに特異的な抗体が開示され、これはおよそ400%の循環T1/2の改善を示す。親配列と比較して、定められるとおりの少なくとも1個のネイティブアミノ酸に対するアミノ酸ヒスチジン(H、HIS)の置換により2A8−g200または4B7−gB9.7などの標的抗体の配列とは異なる抗体または抗体結合領域に対して、TMDDを軽減する有益な効果が明らかにされる。具体的に、2A8−g200の変異体は、次の置換の何れか1つ:VL−Y31H、VH−Y102H、VH−Y100H、VH−Y32H、VL−F48H、VL−S50H、VL−Y49H、VL−L27H、VL−V45H、VL−W90Hおよびそれらの組み合わせを有し得る。
【0048】
抗TFPI抗体2A8−g200および4B7−gB9.7変異体は、インビボで高親和性および高特異性でTFPIに結合し得る(WO2011/109452参照)。
図1は、2A8−g200および4B7−gB9.7ならびにWO2011/109452に記載の他の2A8および4B7変異体に対するアミノ酸配列情報を示す。表1は、
図1で示される2A8および4B7変異体に対する可変重鎖および可変軽鎖に対する対応する配列番号を示す。
【0049】
表1:
図1で示されるヒト抗TFPI抗体の可変重鎖および可変軽鎖の対応する配列番号
【表1】
【0050】
選択部位での突然変異誘発時にCDRドメインおよびTFPIと接触する残基の両方を結合の特徴に関する分析に供することによって、2A8−g200および4B7−gB9.7のpH感受性変異体を作製した。
図2は、A.2A8−g200(
図2AにおいてA200と表す。)可変重鎖;B.2A8−g200(
図2BにおいてA200と表す。)可変軽鎖;C.4B7−gB9.7可変重鎖;およびD.4B7−gB9.7可変軽鎖に対する、可能性のあるHis突然変異の位置を示す。1)
図2の下線付きアミノ酸により示されるようなTFPIに対する接触残基または2)抗TFPI抗体2A8−g200および4B7−gB9.7に対して
図2で星印により示されるような、CDR1から3残基の何れかで、アミノ酸のそれぞれに対して1個のヒスチジン残基を置換した。
図2Aおよび2Bで示されるように、重鎖からの四十(40)残基および軽鎖からの二十九(29)残基が、2A8−g200における突然変異誘発に対する位置として同定された。
図2Cおよび2Dで示されるように、四十(40)個の重鎖および三十二(32)個の軽鎖変異体が4B7−gB9.7において同定された。
【0051】
2A8−g200Fabヒスチジンスキャニングライブラリを合成した。ライブラリは、69種類のメンバーを含有した。2A8−g200Fabヒスチジンライブラリを細菌発現ベクターにクローニングし、アミノ酸配列を確認した。
【0052】
Hisスキャンライブラリからの六十九(69)個のクローンをE.コリ(E.coli)ATCC株9637に形質転換し、カルベネシリン(carbenecillin)(100μg/mL)を含有する選択培地上で増殖させた。単コロニーを使用して、LB−カルベネシリン(Carbenecillin)−100培地に接種した。培養物を37℃でOD600=0.5になるまで増殖させ、0.25mM IPTGを用いて誘導し、30℃で一晩増殖させた。4℃で、5,000×gで15分間の遠心によって細菌発現培養物を回収した。容器を傾けて発現培地をペレットから除去した。ペレットおよび透明化発現培地の両方を−20℃で凍結させた。プロテインAを用いて発現培地からHis突然変異タンパク質を精製した。精製した突然変異タンパク質をSDS−PAGEによって分析し、A280によって濃度を調べた。
【0053】
ヒトTFPI、1μg/mLを使用して、MaxisorbTMマイクロタイタープレートをコーティングした。Hisスキャンライブラリの各メンバーからの発現培地、100μLをプレート上の2個のウェルに対になるように添加した。振盪機上で室温で1時間、プレートを温置した。PBSTによりプレートを3x洗浄した。PBS(pH7.0)を対のうち一方のウェルに添加し、100mM pH6.0クエン酸緩衝液を同じ対の第二のウェルに添加した。プレートを振盪しながら37℃で1時間温置した。プレートをPBSTで3x洗浄し、アンプレックス・レッドを用いて発色させた。pH7.0/pH6.0比を確立して、感受性突然変異タンパク質をランク付けした。野生型2A8−g200Fabの場合の比は1.0であった。pH7.0とpH6.0との間の比が1.78より大きかった10個のクローンを下の表2で示す。
【0054】
表2:pH6.0 TFPI解離ELISA
【表2】
【0055】
表面プラズモン共鳴(Biacore)を用いて、Fab型の精製2A8−g200変異体(表1でwt gA200Fabと呼ぶ。)を試験した。表面プラズモン共鳴(Biacore T200)を使用して、抗体の解離速度を測定した。Biacoreにより示唆される方法を用いて、ヒトTFPI(American Diagnostica)をCM4またはCM5チップ上でアミンカップリングさせ、その結果、100から300RUの固定化TFPIが得られた。精製した2A8−g200変異体を注入し、続いてpH7.4またはpH6.0緩衝液の何れかにおいて40分間解離を行った。異なる濃度でHBS−P緩衝液中で抗体を希釈し、流速を50μL/分に設定した。各回の抗体注射後、90μLのpH1.5グリシンを注入することによってチップを再生した。BIAevaluationソフトウェアを用いてデータセットを評価した。
【0056】
次の式により、モデルを用いることによって、各2A8−g200変異体抗体に対する解離定数(kd)を決定した。
【数1】
【0057】
(式中、Rは、時間tでの反応であり、R
0は時間t
0−解離の開始時の反応である。)、オフセットによって、完全解離の終了時の残留反応が考慮に入れられる。各2A8−g200変異体に対して、pH6.0でのkdとpH7.4でのkdとの比を計算した。実測比が2である突然変異は、pH感受性突然変異とみなし、2A8−g200のIgG変異体の構築に使用することができた。
【0058】
例えば、
図3を参照して、2つの異なるpH(pH6.0およびpH7.4)におけるbiocoreアッセイにおける解離定数反応の実測変動を2つの代表的な2A8−g100軽鎖ヒスチジン置換突然変異:A.L−L27HおよびB.L−Y31Hに対して示す。
【0059】
2mg/kgでのHemAマウスへの静脈内(i.v.)ボーラス投与後に抗体の薬物動態学的パラメーターを決定した。薬物動態学的パラメーターは全て、WinNonLin ソフトウェアバージョン5.3.1(Pharsight Corporation,Mountain View,CA)非コンパートメントモデルを用いて計算した。マウス血漿中での抗TFPIモノクローナル抗体の実測半減期におけるヒスチジン突然変異の効果は
図4で示す。ヒスチジン突然変異TPP2256(L−Y31H/Y49H)およびTPP2259(L−Y31H)がある2A8−g200は、ヒスチジン置換が全くない2A8−g200の対応するpKプロファイルと比較した場合、500時間の期間にわたり実測pKプロファイルを向上させた。表3は、
図4のデータにおいて観察される半減期延長を数値化する。
【0061】
したがって、上記で示す、TFPI介在性TMDDが減少し、T1/2が延長している抗体によって、投与頻度の減少および1回の投与あたり必要とされる物質の量の減少が可能となる。さらに、より低用量とする必要性により、用量体積が、急速に除去される標的とのその相互作用のために、またはその標的とのその共局在ゆえに血漿から隔絶されることによって抗体が循環から除去される過程である、制限段階となる皮下投与が実現可能なり得る。
【0062】
開示される発明の様々な改変、改良および適用があることは、当業者にとって当然であり、本願は、法律により許容される程度までかかる実施形態を包含する。ある一定の好ましい実施形態の文脈において本発明を記載してきたが、本発明の完全な範囲はそのように限定されず、次の特許請求の範囲に従う。全ての参考文献、特許または他の刊行物は、本明細書中で参照により具体的に組み込まれる。