(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、底面に被検査電極が配置された半導体パッケージの場合、真空チャックが半導体パッケージと接続電極との間に位置することとなり、電気的接続ができないなど適応できる検査対象が限定されてしまう問題がある。
【0012】
また、特許文献2に開示された電気的接続装置においては、空気を抜いて減圧状態とし、大気圧との差圧を生じさせるために別途シール材が必要であり、このシール材が接続電極と一体化していないため、位置ずれを起こしたり、空気漏れを起こしたりすることがあり、電気的接続に影響を及ぼすことがある。また、係るシール材のコストや電気的接続装置に取り付けるための手間やコストの問題もある。
【0013】
さらに、特許文献3に開示された電気的接続装置においては、接続電極の下部に弾性体等が配置されているため、被検査電極の高さのばらつきが大きかったり、被検査電極の高さが高かったりする場合には、気密性を確保するための弾性体等と被検査基板との間に隙間が生じ、気密性不良となって電気的接続に問題が生じることがある。
【0014】
また、被検査電極が被検査基板の凹んだ位置に配置されている場合、気密性を確保する弾性体等が密封空間を形成できず、大気圧との差圧(負圧)を用いて被検査電極と接続電極とを圧着することができないことがある。
【0015】
本発明はこのような実情に鑑み、適応できる検査対象の制限が少なく、別途シール材を使用する必要もなく、さらに被検査電極の高さの制限も少ない異方導電性シートおよび異方導電性シートを用いた電気的接続装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、弾性高分子物質を含む素材からなり、接続電極を取り囲む凸部を、少なくとも被検査基板に対向する異方導電層の一方側面に設けることで、上記した課題を解決することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0017】
すなわち、本発明の異方導電性シートは、
被検査基板の被検査電極と電気的に接続されて用いられる異方導電性シートであって、
前記異方導電性シートは、
弾性高分子物質中に導電性物質が含有され、厚み方向に導電路が形成されて接続電極を構成するシート状の異方導電層を有し、
さらに少なくとも前記異方導電層の被検査基板と対向する一方側面には、前記接続電極を
複数まとめて取り囲む凸部を備え、
前記凸部が、弾性高分子物質を含む素材から
成り、
前記凸部の内方に、空気抜き穴が貫通形成されていることを特徴とする。
【0018】
このように異方導電性シートにおいて、被検査基板と対向する一方側面に、弾性高分子物質を含む素材からなり接続電極を取り囲む凸部を設ければ、この凸部が、被検査基板と異方導電性シートとの間のシール材として機能することとなり、従来のようにシール材を別に用意する必要がなく、取付時の調整作業も不要とすることができる。
さらに、異方導電性シートにおいて、被検査基板と対向する一方側面に、弾性高分子物質を含む素材からなり接続電極を取り囲む凸部を設ければ、この凸部が、シール材として機能し、空気抜き穴より異方導電性シートと被検査基板との間の空気を抜くことで、大気圧との差圧(負圧)を用いた電気的接続を容易に達成することができる。
【0019】
また、本発明の異方導電性シートは、
前記異方導電層と前記凸部とが、一体的に構成されていることを特徴とする。
このように凸部が異方導電層と一体化していれば、被検査基板との位置ずれや、被検査基板との空気漏れが生じ難く、また従来行っていたような、シール材の異方導電性シートと被検査基板との間への取り付けが不要であり、取付時の調整作業も不要とすることができる。
さらに、接続電極を取り囲む位置に凸部があり、被検査電極の高さに応じて凸部の高さを設定することができるため、被検査電極の高さに制限が生じ難い。
【0020】
また、本発明の異方導電性シートは、
前記弾性高分子物質が、シリコーンゴムであることを特徴とする。
このようにシリコーンゴムであれば、耐熱性や耐久性に優れ、また加熱して固化するだけでシート状に成形することができるため、製造コストを抑えることができる。
【0021】
また、本発明の異方導電性シートは、
前記異方導電層の周縁部に、剛性を有する支持体が配設されていることを特徴とする。
このように、支持体が配設された異方導電性シートを用いると、異方導電層の伸縮や変形が抑制され、取り付けや取り外しなどの際のハンドリングが容易となる。
【0023】
また、本発明の電気的接続装置は、
上記いずれかに記載の異方導電性シートを用いた電気的接続装置であって、
前記電気的接続装置は、
前記異方導電性シートの前記凸部が形成された一方側面に、被検査基板が配設され、
前記異方導電性シートと被検査基板とを当接させて、異方導電性シートの接続電極と被検査基板の被検査電極とを電気的に接続させるよう構成されていることを特徴とする。
【0024】
このような電気的接続装置であれば、異方導電性シートと被検査基板との間にシール材を別に用意する必要がなく、取付時の調整作業も不要とすることができ、確実に被検査電極の電気的検査を行うことができる。
【0025】
また、本発明の電気的接続装置は、
前記異方導電性シートの他方側面に、空気抜き穴を有する検査用基板の一方側面が配設され、
さらに前記検査用基板の他方側面に、真空ポンプが配設され、
前記真空ポンプを起動することにより、
前記検査用基板に設けられた空気抜き穴および前記異方導電性シートの凸部の内方に貫通形成された空気抜き穴を介して、前記異方導電性シートと前記被検査基板との間が真空化されることを特徴とする。
【0026】
このような異方導電性シートを用いた電気的接続装置であれば、異方導電性シートの凸部がシール材として機能し、空気抜き穴より異方導電性シートと被検査基板との間の空気を抜いて大気圧との差圧(負圧)を用いた電気的接続が容易に達成できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、接続電極を取り囲む凸部を、被検査基板と対向する異方導電層の一方側面に設けることにより、この凸部が、シール材として機能し、空気抜き穴より異方導電性シートと被検査基板との間の空気を抜いて大気圧との差圧(負圧)を用いた電気的接続を容易に達成することのできる異方導電性シート、およびこの異方導電性シートを用いた電気的接続装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
本発明は、半導体装置やプリント基板などの被検査基板の電気的特性を検査する場合に用いられる異方導電性シート、およびこの異方導電性シートの接続電極と、被検査基板の被検査電極とを、大気圧との差圧(負圧)を用いて一時的に接続することのできる電気的接続装置である。
【0030】
<異方導電性シート10>
図1に示したように、本発明の異方導電性シート10は、弾性高分子物質14中に導電性物質16が含有され、厚み方向に導電路18が形成されて接続電極20を構成するシート状の異方導電層12を有し、さらに少なくとも異方導電層12の被検査基板70と対向する一方側面40には、接続電極20を取り囲む凸部30を備え、この凸部30が、弾性高分子物質32を含む素材から成っている。
【0031】
なお、異方導電層12の周縁部には、剛性を有する支持体50が配設されており、また凸部30の内方には、空気抜き穴60が厚さ方向に貫通形成されている。
図1において、接続電極20を取り囲む凸部30は、複数の接続電極20をまとめて取り囲むように設けられているが、接続電極20毎に個別に設けられていても良いものである。しかしながら製造の容易さや大気圧との差圧(負圧)を発生させるための空気抜きの容易さから、複数の接続電極20をまとめて取り囲むように設けることが好ましい。
【0032】
また凸部30は、接続電極20を連続的に取り囲む構造であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、凸部30の一部に段差や切れ目があっても良いものである。
このような凸部30は、接続電極20や被検査電極72が設けられた被検査基板70の構造に対応して適宜設計されれば良い。
【0033】
<異方導電性シート10を用いた電気的接続装置90>
電気的接続装置90においては、
図2に示したように、上記した異方導電性シート10の凸部30が形成された一方側面40に、被検査基板70が配設される。
【0034】
そして、異方導電性シート10の他方側面42には、空気抜き穴86を有する検査用基板80の一方側面82が配設され、さらに検査用基板80の他方側面84には、真空ポンプ98が配設される。なお検査用基板80の空気抜き穴86は、
図2においては異方導電性シート10の空気抜き穴60と同様の位置に設けられているが、場合によっては厚さ方向ではなく、水平方向に設けても良いものであり、位置や形状は限定されないものである。
【0035】
これらの部材を
図3に示したように互いに当接させ、この状態で真空ポンプ98を起動することにより、検査用基板80に設けられた空気抜き穴86および異方導電性シート10の凸部30の内方に貫通形成された空気抜き穴60を介して、異方導電性シート10と被検査基板70との間が真空化され、これにより確実に被検査基板70の被検査電極72と異方導電性シート10の接続電極20とを密着させ、被検査基板70の導通検査を確実に行うことができる。
【0036】
なお、被検査基板70の被検査電極72が、バンプやピラー等の凸状の場合(
図2および
図3に示した形態の場合)、接続電極20を取り囲む凸部30がないと、空気抜きのための空間が確保できず、大気圧との差圧(負圧)による電気的接続が困難となる。
【0037】
また、被検査基板70の被検査電極72が凹状の場合(図示せず)、異方導電性シート10の接続電極20を凸状にして対応することが多いが、このような場合も、接続電極20を取り囲む凸部30がないと、空気抜きのための空間が確保できず、異方導電性シート10と被検査基板70との間における、大気圧との差圧(負圧)による電気的接続が困難となる。
【0038】
一方、異方導電性シート10の他方側面42に設けられる検査用基板80については、ネジ等の締結部材を用いて異方導電性シート10に機械的に固定し、異方導電性シート10と検査用基板80との電気的接続を確保することが可能である。
【0039】
また異方導電性シート10の異方導電層12が弾性高分子物質14を含み弾性を有するので、気密性も確保できることがあり、必ずしも他方側面42に接続電極20を取り囲む凸部30は必要ではない。
【0040】
もちろん本発明においては、
図4に示したように、検査用基板80側(他方側面42)にも、接続電極20を取り囲む凸部30を設けても良いものである。
検査用基板80の検査用電極88の高さが高いなど、その構造によっては本発明の凸部30がないと気密性が確保できないこともあり、このような場合には本発明の凸部30が他方側面42にも必要となる。
【0041】
また、一方側面40と他方側面42の両面に、それぞれ接続電極20を取り囲む凸部30を設けると、検査用基板80の取り外しや交換が容易となり、電気的接続装置90のメンテナンス性や検査する被検査基板70の切り替えに伴う調整の作業性が向上する。
【0042】
本発明の異方導電性シート10における一方側面40の凸部30の高さ(H)は、被検査電極72もしくは接続電極20の高さばらつきや構造あるいは被検査電極72が設けられた被検査基板70の構造等に依存し、特に限定されるものではないが、被検査電極72の平均高さ(h1)と接続電極20の平均高さ(h2)とにより決定される。
【0043】
ここで被検査電極72が凸状(h1>0)の場合、通常凸部30の高さ(H)は、0.8×(h1+h2)≦H≦2×(h1+h2)の範囲内、好ましくはh1+h2≦H≦1.5×(h1+h2)の範囲内である。
【0044】
一方、被検査電極72が凹状(h1≦0)の場合、通常凸部30の高さ(H)は、0<H≦1.2×h2の範囲内、好ましくは0<H≦h2の範囲内である。
このような範囲内に凸部30の高さ(H)があると、被検査電極72もしくは接続電極20の高さに多少ばらつきがあっても、大気圧との差圧(負圧)により、確実に異方導電性シート10と被検査基板70との電気的接続を確保することができる。
【0045】
なお、
図4に示した異方導電性シート10のように、検査用基板80側(他方側面42)に接続電極20を取り囲む凸部30を設ける場合の凸部30の高さ(H)も、
図5に示した電気的接続装置90のように、検査用電極88の平均高さをh3とすれば、上記した被検査基板70側(一方側面40)の凸部30と同様の範囲内である。
【0046】
すなわち、検査用電極88が凸状(h3>0)の場合、通常、他方側面42の凸部30の高さ(H)は、0.8×(h3+h2)≦H≦2×(h3+h2)の範囲内、好ましくはh3+h2≦H≦1.5×(h3+h2)の範囲内である。
【0047】
一方、検査用電極88が凹状(h3≦0)の場合、通常、他方側面42の凸部30の高さ(H)は、0<H≦1.2×h2の範囲内、好ましくは0<H≦h2の範囲内である。
一方側面40と他方側面42の凸部30の高さHがこのような範囲よりも高くなると、大気圧との差圧(負圧)により凸部30が変形しても被検査電極72と接続電極20とが、あるいは検査用電極88と接続電極20とが接触せず、電気的接続が確保できないことがある。
【0048】
一方、このような範囲よりも低くなると、接続電極20が変形しても被検査基板70や検査用基板80との間に隙間が生じ気密性不良となる。あるいは密封空間そのものが形成できず、大気圧との差圧(負圧)が十分に発生せず荷重不足となって電気的接続が確保できないことがある。
【0049】
本発明の異方導電性シート10の一方側面40と他方側面42の凸部30の厚さ(t)は、本発明の効果を妨げない限り特に限定はされないが、通常0.001〜1mm、好ましくは0.01〜0.5mmである。
【0050】
凸部30の厚さ(t)が薄すぎると、繰返し使用した場合に凸部30が崩れて気密性不良となり、電気的接続に問題が生じることがある。
一方、凸部30の厚さ(t)が厚すぎると、大気圧との差圧(負圧)による荷重では凸部30が十分に変形できず、被検査電極72と接続電極20とが接触できなかったり、あるいは検査用電極88と接続電極20とが接触できなかったり、被検査基板70と異方導電性シート10との間や検査用基板80と異方導電性シート10との間に隙間が生じ、気密性不良となったりして電気的接続に問題が生じることがある。
【0051】
なお凸部30の厚み(t)は、一律の厚みでも良く、部分的に異なる厚みでも良く、被検査基板70や被検査電極72の構造等により適宜設計される。
本発明の異方導電性シート10における凸部30は、接続電極20を取り囲むように設けられていればよく、異方導電性シート10を構成する異方導電層12の上(一方側面40)、異方導電層12の上(一方側面40)および異方導電層12の下(他方側面42)の両方、支持体50の上、および支持体50の上と下の両方、さらには異方導電層12と支持体50の両方にまたがって設けられていてもよい。
【0052】
なお、異方導電層12に凸部30を設ける場合は、凸部30に使用する弾性高分子物質32が、異方導電層12に使用する弾性高分子物質14と同種であると、凸部30と異方導電層12との密着性がより高まり、耐久性が向上することがあり好ましい。
【0053】
また凸部30に使用する弾性高分子物質32は、接続電極20に使用する弾性高分子物質14よりも硬度が低いと、気密性の確保や電気的接続の安定性を高めることができることがある。
さらに本発明の異方導電性シート10に用いられる支持体50としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、熱可塑性樹脂、例えば塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ABS樹脂などのスチレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、あるいは熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、BT樹脂などの公知の硬質樹脂、もしくは、これら樹脂にガラスやセラミック等の無機物質からなるフィラーや繊維等を配合した組成物からなる板やフィルムを用いることができる。
【0054】
また、これらの表面に銅箔等金属箔が配置されていてもよい。さらに、ガラスやセラミックス、ステンレスやアルミなどの非磁性金属も使用できる。
これらのうち、環状オレフィン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、BT樹脂もしくはこれらにガラスやセラミック等の無機物質からなるフィラーや繊維等を配合した組成物からなる板もしくはフィルムが、耐熱性や高分子弾性体との密着性に優れ、加工が容易で取り扱いやすく好ましい。
【0055】
特に、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂またはBT樹脂もしくはこれらにガラスやセラミック等の無機物質からなるフィラーや繊維等配合した組成物からなる板もしくはフィルムは、電気的回路基板の基板材料として古くから使用されている実績もあり好ましい。
【0056】
本発明の異方導電性シート10に用いることのできる弾性高分子物質14,32としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えばシリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、天然ゴムなど公知の弾性高分子物質が挙げられる。
【0057】
これらのうち、常温で液状であり、加熱により硬化して固形ゴムとなる熱硬化型シリコーンゴムや熱硬化性ウレタンゴムは、シート製造時の温度で流動性を有する組成物を容易に得ることができ、加熱するだけで固化してシートを得られるので、シート製造工程が簡略化でき好ましい。
【0058】
さらに、熱硬化型シリコーンゴムは、得られるシートが耐熱性に優れ、また導電路18や異方導電層12の劣化を抑制し、耐久性にも優れるのでより好ましい。
本発明の異方導電性シート10において使用できる導電性物質16としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、単体もしくは2種以上混合された金属粒子あるいは金属フィラー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンフィラー、無機あるいは有機材料を導電性物質で被覆してなる被覆粒子あるいは被覆フィラー、もしくはこれらを複数種混合したものなどを挙げることができる。
【0059】
これらの中で強磁性を示す導電性物質16が、シート製造時に磁場を印加することでシートの厚み方向に導電性物質16を配向させることができるため好ましい。また、配向した導電材料同士が相互に接触して導電性を発現する際、粒子形状の方が安定的に接触するので好ましい。粒子の形状は特に限定されるものではなく、球状、塊状、フレーク状、棒状などが使用できる。
【0060】
係る強磁性を示す粒子形状の導電性物質16は、粒子全体が導電性物質16で形成されている必要はなく、少なくとも粒子表面が導電性物質16で形成されていればよい。粒子表面を導電性物質16で被覆する手段としては、特に限定されるものではなく、電気メッキ、無電解メッキ、スパッタ、蒸着などが挙げられる。
【0061】
このような強磁性導電性粒子としては、具体的には下記の1),2)が挙げられる。
1)ニッケル、鉄、コバルトなどの強磁性物質もしくはこれらを含む強磁性の合金であって導電性を有する物質の粒子。
2)強磁性物質を含む無機または有機材料の粒子(芯粒子)の表面の少なくとも一部を導電性物質で被覆した粒子。
【0062】
2)で用いられる導電性物質としては、例えば、金、銀、銅、白金、錫、パラジウム、ロジウムなど強磁性を示さない金属もしくはこれらの合金の他、上記1)で用いられる導電性を有する強磁性物質も用いることができる。
【0063】
これらのうち、1)の表面を電気抵抗の低い導電性物質で被覆した強磁性導電粒子を用いると、磁場配向しやすいので異方導電性シート10の製造が容易であり、かつ導電路18の電気抵抗を低く抑えることができ適用できる用途が広がるので好ましい。
【0064】
さらに、金で被覆した場合、シート中の強磁性導電粒子の酸化劣化などが抑制されて耐久性が向上するので好ましい。また、ニッケル、鉄またはこれらの合金を芯粒子として用い、金で被覆した粒子は、製造コストと導電路の特性および耐久性のバランスの面で優位である。
【0065】
金の被覆量としては、被覆される粒子の材質や比重にもよるが、例えば、ニッケル、鉄またはこれらの合金が芯粒子である2)の場合、芯粒子の重量に対して金の被覆量は1〜50重量%、好ましくは1.5〜35重量%、より好ましくは2〜25重量%である。
【0066】
金の被覆量が1重量%未満の場合、被覆欠陥が生じて得られる異方導電性シート10の通電性能が低下することがある。一方、50重量%以上の場合、コスト的に不利となる。
強磁性導電性粒子の大きさとしては、適用する用途やサイズに応じて適宜選択されるが、レーザー回折・散乱法により測定されるメジアン径(d50)が、通常5〜100μm、好ましくは8〜70μm、さらに好ましくは10〜50μmである。
【0067】
メジアン径がこのような範囲にあると、得られる異方導電性シート10は電気的安定性に優れたものとなる。
本発明の異方導電性シート10は、厚み方向に導通する導電路18が形成される必要であるが、係る導電路18は、厚み方向への荷重により導通するもの(以下、「荷重導通型」という。)であっても、荷重なしで導電するもの(以下、「常導通型」という。)であってもよい。
【0068】
荷重導通型異方導電性シートを製造する場合、磁場配向しながら弾性高分子物質の硬化を行うことは、得られる異方導電性シートの電気的特性を優れたものにする上で重要である。
【0069】
例えば、上下に設けた平板状の磁極金型の間に、導電性物質を配合した弾性高分子組成物を配置し平行磁場を印加すると、導電路18が水平方向にランダムに分布した異方導電性シート(以下、「分散型異方導電性シート」という。)が得られる。
【0070】
一方、上下相対する特定の位置に磁極を設けた金型を用い磁場を印加すると、磁極に対応した位置に導電路18が形成された異方導電性シート(以下、「偏在型異方導電性シート」という。)が得られる。
【0071】
荷重導通型異方導電性シートの場合、例えば、導電性物質の形状が粒子であり、メジアン径(d50)が10〜50μmの場合、弾性高分子物質に配合する導電性物質の量は体積分率で、通常3〜45%、好ましくは5〜30%、より好ましくは7〜25%である。
【0072】
配合量が少ないと、シートに荷重をかけても電気抵抗が十分に低下せず所望の電気特性を得られないことがある。これに対して配合量が多いと、水平方向への導通が発生して複数の導電路間でショートし、異方導電性シートとしての機能を失することがある。
【0073】
一方、弾性高分子物質のシートに、例えば、レーザー光などで所定の位置に貫通孔をあけ、そこに導電性物質を配合した弾性高分子組成物を充填し硬化して導電路を形成することによっても、本発明に使用できる異方導電性シートを得ることができる。このような方法で異方導電性シートを得る場合、電気的に絶縁された貫通孔に導電路が形成されるので複数の導電路間でのショートの発生の可能性がない。配合する導電性物質の量は、例えば、導電性物質の形状が粒子であり、メジアン径(d50)が10〜50μmの場合、体積分率で通常3〜85%、好ましくは5〜80%、より好ましくは7〜75%である。
【0074】
また、この場合には、導電性物質の量に応じて異方導電性シートの機能が変わり、荷重導通型(偏在型)異方導電性シートもしくは常導通型異方導電性シートとして機能させることができる。例えば、導電性物質の量が体積分率で50%を超えると、常導通型異方導電性シートとして機能することが多い。
【0075】
なお、常導通型異方導電性シートを製造する場合には、磁場配向は必ずしも必要ではないが、磁場配向した方が得られる異方導電性シートの電気的特性が優れることがある。
【0076】
分散型異方導電性シートの場合、対応する被検査基板70の接点位置に拘わらず平板状の磁極金型のみで製造でき、また被検査基板70をセットする際に位置合わせが不要であるため、コスト的に有利である。
【0077】
しかしながら、接続電極20の電極間ピッチが小さくなったり、異方導電層12のシート厚が厚くなったりすると、隣接する接続電極20の電極間(導電路間)でショートが発生することがある。
【0078】
一方、偏在型異方導電性シートの場合、上記した分散型異方導電性シートでの問題が生じ難くなる他、導電路18の導電性粒子密度が高く電流パスが増えるので、分散型異方導電性シートより高電流を流すことが可能となる。
【0079】
しかしながら、対応する被検査基板70の接点位置に応じた磁極を備えた金型が必要となる他、被検査基板70の被検査電極72と導電路18との位置合わせが必須となり、製造や組立に手間やコストがかかるという問題が生じることがある。
【0080】
また、常導通型異方導電性シートの場合、偏在型異方導電性シートよりもさらに低抵抗、高電流対応が可能となるが、製造や組立に手間やコストがかかるという問題の他、接続電極20の押込み可能範囲(ストローク)が小さく、被検査電極72の高さやばらつきへの対応が制限されるという問題が生じることがある。
【0081】
本発明においては、各異方導電性シート10の特徴と適用する検査対象や検査システムに求められている性能や特性を鑑みて、上記何れかを適宜選択することが好ましい。
このように本発明の異方導電性シート10および異方導電性シート10を用いた電気的接続装置90は、特に異方導電性シート10に接続電極取り囲む凸部30を設けることにより、この凸部30がシール材として機能し、空気抜き穴60より異方導電性シート10と被検査基板70との間の空気を抜いて大気圧との差圧(負圧)を用いた電気的接続を容易に達成することができるものである。
【0082】
なお、本発明は上記した構成に限定されるものではなく、例えば、異方導電性シート10の一方側面40において、接続電極20が平に形成されていても良く、あるいは、異方導電性シート10の一方側面40と他方側面42の両面において、接続電極20が平に形成されていても良い。さらには検査用基板80の検査用電極88が平に形成されていても良いなど、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能なものである。
【実施例】
【0083】
[実施例1]
<組成物の調整>
熱硬化性シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製:KE−1950−70(A/B))に体積分率で15%の量の金メッキしたニッケル粒子を配合して均一に分散するように撹拌し、その後減圧下で脱泡して組成物を得た。
使用したニッケル粒子の金被覆量は芯粒子に対して5重量%、メジアン径(d50)は20μmであった。なお、メジアン径はレーザー回折・散乱式粒度分析計(マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名「マイクロトラックMT3300」)を用いて測定した。
【0084】
<被検査基板70>
厚さ0.3mmのBT樹脂板(三菱瓦斯化学株式会社製:CCL−830)を用い、
図6に示した黒丸の位置に、高さ0.1mm、直径1mm、先端が平坦で表面全体を金メッキした銅製の被検査電極72を設け、被検査基板70を作成した。
【0085】
<検査用基板80>
厚さ0.3mmのBT樹脂板(三菱瓦斯化学株式会社製:CCL−830)を用い、
図7に示した形状で、銅箔表面を金メッキした検査用基板80を作成した。
金メッキ部分全体を検査用電極88とする。なお、空気抜き穴86は直径2.5mmとした。
【0086】
<異方導電性シート>
表面が鏡面に研磨され、
図8に示した形状で深さ0.1mm、幅0.3mmの溝を有する厚さが6mmの鉄板からなる金型92の溝部分94に、熱硬化性シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製:KE−1950−30(A/B))を充填した。
【0087】
次いで、
図9に示した厚さ0.5mmのテフロン製のスペーサー96を設置して、開口部に組成物を充填した後、
図10に示した厚さ0.3mmのBT樹脂板(三菱瓦斯化学株式会社製:CCL−830、銅箔は事前にエッチング処理して除去)製の支持体50を重ね、開口部に組成物を充填した。
その後、厚さ6mmで表面が鏡面に研磨された鉄板(平面金型)を重ね、ヒーターを備えた一対の電磁石の間に配置した。
【0088】
次いで、組成物の厚み方向に平均で2T(テスラ)の平行磁場を2分サイクルで反転させて作用させながら180℃で120分加熱処理した後、上下の金型およびスペーサーを外して分散型異方導電性シートAを得た。
得られた
図11に示した分散型異方導電性シートAの他方側面42の「〇」で示した位置に、炭酸ガスレーザーで直径2mmの空気抜き穴60を設けた。
【0089】
[比較例1]
図8に示した金型92の代わりに、平面金型(図示せず)を使用し、凸部30用の熱硬化性シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製:KE−1950−30(A/B))を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、空気抜き穴を設けた分散型異方導電性シートXを作成した。
【0090】
<異方導電性シートA,Xの評価>
[機械的荷重]
被検査基板70、異方導電性シート10、検査用基板80を重ね、被検査基板70側から被検査基板70の全体に機械的に9kgの荷重をかけて
図3に示したような状態とし、被検査電極72A〜72Iと検査用電極88との間の電気抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
異方導電性シートAおよび異方導電性シートXにおける9箇所の被検査電極72A〜72Iと検査用電極88との間の電気抵抗値は、全て100mΩ以下であった。
【0092】
[減圧荷重]
次いで、機械的荷重をかける代わりに、検査用基板80側から手動式の真空ポンプ98(NALGENE製 6132−0010A型)を用いて被検査基板70と異方導電性シート10との間の空気を抜き、同様に被検査電極72A〜72Iと検査用電極88との間の電気抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0093】
凸部30が設けられた異方導電性シートAの場合、真空ポンプ98を稼働してすぐに被検査電極72A〜72Iと検査用電極88との間の電気抵抗値は全て100mΩ以下となり、その値は安定していた。
【0094】
一方、凸部30が設けられていない異方導電性シートXの場合、真空ポンプ98を稼働しても空気漏れが発生してほとんど減圧されず、荷重不足で導通がとれなかったため、電気抵抗値が測定できなかった。
【0095】
以上の結果から、減圧荷重の場合には、接続電極20を取り囲む凸部30を設けることによって、はじめて大気圧との差圧(負圧)を用いて安定した電気的接続を行うことが可能であることが確認できた。
【0096】
[実施例2]
<異方導電性シート>
厚さ6mmで表面が鏡面に研磨された鉄板(平面金型)の上に、
図9に示した厚さ0.5mmのテフロン製のスペーサー96を設置して、開口部に熱硬化性シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製:KE−1950−70(A/B))を充填した後、
図10に示した厚さ0.3mmのBT樹脂板(三菱瓦斯化学株式会社製:CCL−830、銅箔は事前にエッチング処理して除去)製の支持体50を重ね、支持体50の開口部に熱硬化性シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製:KE−1950−70(A/B))を充填した。
【0097】
その後、支持体50上に平面金型を重ね、180℃で120分加熱処理した後、上下の平面金型およびスペーサー96を外して支持体付シリコーンゴムシートを得た。
得られた支持体付シリコーンゴムシートの支持体50の反対側から、炭酸ガスレーザーを用いて、
図16に示した被検査基板75の被検査電極78に相当する位置に直径1.5mmの貫通孔を設け、貫通孔を有する支持体付シリコーンゴムシートを得た。
【0098】
得られた貫通孔を有する支持体付シリコーンゴムシートを、再び平面金型の上に、支持体側を下にして設置し、次いで支持体付シリコーンゴムシートの支持体50上に位置するゴムシートの端部に合わせて、スペーサー96を設置し、支持体付シリコーンゴムシートの貫通孔内に、実施例1で用いたのと同じ組成物を充填した。
【0099】
一方、表面が鏡面に研磨され、
図12に示した形状で深さ0.1mmの凹部95を有する厚さが6mmの鉄板からなる金型93の凹部95に、
図13に示した厚さ1mmのテフロン製スペーサー97を設置し、次いでスペーサー97の内方に、
図14に示した厚さ0.1mm、開口部99の直径1mmのテフロン製スペーサー100を設置し、スペーサー100の開口部99に実施例1で用いたのと同じ組成物を充填した。
その後、スペーサー97を外して金型93の凹部95の壁とスペーサー100との隙間に、凸部30形成用に熱硬化性シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製:KE−1950−30(A/B))を充填した。
【0100】
次いで、上記調整された金型93を、上記支持体付シリコーンゴムシートが設置された平面金型に、スペーサー100の開口部99と、支持体付シリコーンゴムシートの貫通孔との位置を合わせて重ね、ヒーターを備えた一対の電磁石の間に配置した。
【0101】
その後、組成物の厚み方向に平均で2T(テスラ)の平行磁場を2分サイクルで反転させて作用させながら180℃で120分加熱処理した後、上下の金型およびスペーサーを外して偏在型異方導電性シートBを得た。
得られた
図15に示した偏在型異方導電性シートBの他方側面42の「〇」で示した位置に、炭酸ガスレーザーで直径2mmの空気抜き穴60を設けた。なお、
図15は偏在型異方導電性シートBの他方側面42から視た図である。したがって一方側面40に形成された凸部30は、当然図示されないものである。
【0102】
<異方導電性シートBの評価>
図16に示したように、被検査電極78の高さを0.03mmとしたこと以外は実施例1で用いた被検査基板70と同様にして作成した被検査基板75を用いて、実施例1と同様にして評価を実施した。
結果を表2に示した。
【0103】
【表2】
表2より明らかなように、機械的荷重、減圧荷重の何れの場合も、被検査電極78A〜78Iと検査用電極88との間の電気抵抗値は全て100mΩ以下となり、その値は安定していた。
【0104】
以上の結果から、接続電極20が凸構造の偏在型異方導電性シートであっても、接続電極20を取り囲む凸部30を設けることによって、大気圧との差圧(負圧)を用いて安定した電気的接続を行うことが可能であることが確認できた。