特許第6454849号(P6454849)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6454849
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】柱状母材への金属皮膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/18 20060101AFI20190110BHJP
   C23C 4/06 20160101ALI20190110BHJP
【FI】
   C23C4/18
   C23C4/06
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-74989(P2014-74989)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-74923(P2016-74923A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】596132721
【氏名又は名称】一般財団法人近畿高エネルギー加工技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】514082424
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502284162
【氏名又は名称】日本サーマルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129986
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓生
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴博
(72)【発明者】
【氏名】周 展
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−087211(JP,A)
【文献】 特開2007−294466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C4/00−6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端面の周縁に角部を有する柱状母材に対して金属皮膜を形成する方法であって、
前記先端面及び角部を含む柱状母材の端部全体に、金属粉末の溶射によって溶射被膜を定着させる溶射工程と、
柱状母材の側周部を囲う加熱子によって前記溶射皮膜を再溶融することにより、溶射皮膜を変性させて、前記角部を含む母材表面に金属皮膜を形成する再溶融工程と、を具備してなり、
前記再溶融工程においては、柱状母材を、前記角部を含む先端面が所定の対水平傾斜角で斜め方向を向いた傾斜状態に保持し、かつ、柱状母材の柱軸周りに回転させながら再溶融するものであって、前記対水平傾斜角は0度超45度以下に固定されることを特徴とする、柱状母材への金属皮膜の形成方法。
【請求項2】
前記再溶融工程は、高圧環境下の再溶融室内に設けられた固定ヘッドによって、柱状母材を、前記角部を含む先端面が所定範囲の対水平傾斜角で斜め方向を向いた傾斜状態に保持し、かつ、固定ヘッドの少なくとも内部を軸回転させる軸回転手段によって、柱状母材を保持したまま柱軸周りに回転させながら再溶融するものであって、
前記固定ヘッドは柱状母材と共に加熱子を保持するものであり、スライド機構によって再溶融室内を往復走行可能に取り付けられる請求項1に記載の柱状母材への金属皮膜の形成方法。
【請求項3】
前記固定ヘッドは、所定の角度範囲内で回動可能なチャックによって、柱状母材を、対水平傾斜角が自由変動可能な状態で挟持するものであり、
前記再溶融工程において、軸回転手段によってチャックが軸回転することで、柱状母材を、柱軸の対水平傾斜角が可変しながら軸回転する請求項1又は2のいずれかに記載の柱状母材への金属皮膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の母材の表面に定着させた溶射被膜を溶融処理して金属皮膜を得るための金属皮膜の形成方法に関する。特に、先端隅に角部を有する柱状母材を対象とし、この対象の母材表面へ、金属材表面の摩耗、傷付き、表面劣化の修復を目的とした金属皮膜を形成する場合の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、母材表面に、金属粉末の溶射によって溶射被膜を定着させ、この定着させた溶射皮膜を高圧下で再溶融することにより、溶射皮膜を変性させて耐摩耗性、耐熱性、耐食性のある金属皮膜を形成する方法が知られている。この溶射被膜の変性は、再溶融によって溶射皮膜中に含まれる微細気泡やガスを脱気し、また溶射皮膜中の金属酸化物を表面側に浮き上がらせて緻密な金属皮膜を形成すると共に、母材表面への定着力を上げるものである。従来の溶射被膜の再溶融処理を行う際には、ガス炎による加熱、誘導加熱、炉による加熱、或いは、環状の誘導コイルによる誘導加熱が行われる。
【0003】
前記と同様の溶射被覆方法として従来、金属円柱体の外周面に金属基溶射材料を高速溶射ガンにより溶射して緻密な被覆を形成させる被覆方法であって、移動方式による溶射操作を、前記外周面に対する高速ガンの相対走査速度を30〜80dm/minとして溶射スポット内の溶射面の温度上昇を抑えて行うことにより、気孔のない溶射被覆を形成させる方法が開示される。これは溶射したままの状態で緻密な被覆を形成することのできる高速溶射ガンを従来よりも速い速度で走査させて溶射を行うことにより、有害な大きさの気孔が含まれないレベル迄被覆の緻密度を向上させることができる、とされる。
【0004】
また金属被覆層の形成方法として従来、母材の表面に、金属材料の一次被覆層を溶射法等を用いて形成し、その後、前記一次被覆層の小領域を局部的に誘導子を用いて誘導加熱し、前記一次被覆層を溶融させると共にその誘導子を前記一次被覆層に沿って相対的に移動させることによってその溶融部を一次被覆層に沿って移動させてゆき、前記溶融部に作用する
電磁攪拌力を利用して、前記一次被覆層に存在していた気孔及び酸化物を除去し、緻密な二次被覆層とする方法が開示される。同方法においては少なくとも前記一次被覆層の溶融時に
おける誘導電流の電流浸透深さを前記一次被覆層の厚さの1.5倍以上とする。そして少なくとも一次被覆層を誘導加熱して溶融させている時における誘導電流の電流浸透深さを一次被覆層の厚さの1.5倍以上とすることにより、一次被覆層の誘
導電流密度を、特に表層の誘導電流密度を小さくでき、これによって溶融層に作用する電磁攪拌力を小さくして被覆層の凹み、くびれ等の発生を防止でき、良好
な品質の金属被覆層を形成できるという効果を有している、とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−248606号公報
【特許文献2】特開平11−209865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、円柱或いは多角形柱といった、先端隅に角部を有する柱状母材に再溶融処理を行う場合には、上記従来の溶射被覆方法或いは金属被覆層の形成方法を適用すると、角部周辺で再溶融後の皮膜厚さに偏りがでたり、或いは平坦部と角部とで組成の緻密度に偏りがでたりする場合があった。これは表面から溶融を行って溶融による変性が表面から進むという関係上、角部の中央近傍では溶融熱が部分的に集中し、溶融エネルギーの過多付与部となる一方、角部の周辺近傍や角部以外の平坦部では逆に溶融熱が比較的不足し、溶融エネルギーの過少付与部となることに基づく、と考えられる。
特に溶射被膜厚さが3〜5mm以上の厚い溶射被膜の場合には、再溶融による被膜厚さや緻密度の偏りが顕著に出やすい傾向がある。前記偏りによって、耐摩耗性、耐熱性、耐食性といった金属皮膜の性状の低下、或いは金属皮膜の表面平滑度の低下を招く可能性がある。そして、再溶融による金属皮膜層を母材の修復補強に用いる場合には、これら性状の低下や表面平滑度の低下は致命的な欠陥に繋がることとなる。
【0007】
そこで本発明では、金属皮膜の形成方法において、円柱或いは多角形柱といった、先端隅に角部を有する柱状母材に再溶融処理を行う場合において、溶融熱の部分的な集中や不足を解消し、溶融エネルギーの過多付与部分や過少付与部分の発生を抑制することで、再溶融後の皮膜厚さや組成の緻密度の偏りを解消することを課題とする。また前記偏りに基づく金属皮膜の性状の低下、或いは金属皮膜の表面平滑度の低下を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明では下記(1)〜(6)の手段を講じている。
【0009】
(1)本発明の柱状母材への金属皮膜の形成方法は、先端面(11)の周縁に角部(1C)を有する柱状母材(1)に対して金属皮膜を形成する方法であって、
前記先端面(11)及び角部(1C)を含む柱状母材(1)の端部全体に、金属粉末の溶射によって溶射被膜を定着させる溶射工程と、
柱状母材(1)の側周部を囲う加熱子(C)によって前記溶射皮膜を再溶融することにより、溶射皮膜を変性させて、前記角部を含む母材表面に金属皮膜を形成する再溶融工程と、を具備してなり、
前記再溶融工程においては、柱状母材(1)を、前記角部を含む先端面(11)が鉛直下方を向いた垂下状態(a)、又は所定の対水平傾斜角(θ)で斜め方向を向いた傾斜状態(b/c)のいずれかの状態で保持し、かつ、柱状母材(1)の柱軸(1A)周りに回転させながら再溶融することを特徴とする。
上記方法によって垂下状態又は傾斜状態とし、かつ柱軸(1A)周りに回転させながら再溶融することで、柱状母材(1)表面の溶射被膜が再溶融時に除かれるのを防ぐことができる。特に角部の溶射被膜は、再溶融時の自重によって膜厚さが薄くなったり偏ったりすることがなく、母材の角部形状に影響されずに他の部分の溶射被膜と同じ状態を保つことができる。すなわち図2に示すように、垂下状態又は傾斜状態で軸回転した状態では、先端面(11)が鉛直下方又は斜め方向を向いたまま角部(1C)が鉛直軸周り又は斜め軸周りに周回転することとなる。軸回転によって再溶融した溶射皮膜層が自重によって流れ落ちるように流動することで、被膜内部が緩やかな速度で混練され、溶射被膜全体で比較的均一に変性される。
ここで前記傾斜状態は、対水平傾斜角度(θ)が下方へ正値を有するように先端面(11)が下方を向いて傾斜した下方傾斜状態(b)であることが好ましい。下方傾斜状態(b)のとき、角部(1C)上に定着した金属皮膜は、再溶融工程において、必ず母材角部の下面又は側面に定着したまま角部から角部表面上に滞留したまま垂下して、結果的に溶射被膜の膜厚さを維持するか膜厚さが大きくなる状態で溶融することとなる。特に対水平傾斜角度(θ)が下方へ15度以上となった下方傾斜状態(b)では、角部(1C)上に定着した金属皮膜は、再溶融時に受ける重力の角度が順次変わっていくため、内部流動によって金属皮膜が均一にローテーションされる。
【0010】
(2)前記柱状母材への金属皮膜の形成方法において、
前記再溶融工程は、柱状母材(1)がそれ自体の柱軸(1A)と交わる所定の往復方向へ一往復以上往復変位しながら再溶融することが好ましい。
上記方法によって、再溶融した溶射皮膜層が回転による慣性力を受けながら、左側方及び右側方への直進的な慣性力を交互に受けることとなる。このため内部流動によって金属皮膜が均一にローテーションされ、角部全体に比較的均一な変性が行われることとなる。
なお、後述の実施例では加熱子(C)と共に水平方向へ2往復以上繰り返し往復変位させながら再溶融させることで、より均一な変性を可能としている。但し、一往復のみ往復変位させながら再溶融したものでもよい。
【0011】
(3)前記柱状母材への金属皮膜の形成方法において、
前記再溶融工程は、加熱子(C)が柱状母材(1)に対し、柱状母材(1)の柱軸(1A)上の位置を相対変位させる相対変位方向へ相対変位しながら再溶融することが好ましい。
上記方法によって、加熱子(C)が柱状母材(1)の周部を覆った状態のまま柱状母材(1)の柱軸(1A)上の位置を相対変位させる方向へ相対変位することで、軸方向に亘ってより均等な加熱が可能となる。本方法は例えば、加熱子(C)を保持する加熱ホルダー(CH)が再溶融室の室内壁面に固定され、再溶融室内にはフレーム上を往復走行移動可能な固定ヘッド(H)が設けられ、柱状母材(1)が前記固定ヘッド(H)に取り付け固定されたまま、再溶融室内を往復動することによって達成される。
なお後述の実施例では、柱状母材(1)自体が固定ヘッド(H)によって往復スライド走行可能であると共に、加熱子(C)は固定ヘッド(H)先端にて固定ヘッド(H)に対して往復動可能に保持される。すなわち後述の実施例では、複数の棒状枠からなる加熱ホルダー(CH)が、柱状母材(1)の柱軸に沿って柱状母材(1)の取り付け基部周囲を囲うホルダーバンド(HB)によって固定ヘッド(H)の先端側へ延伸固定される。そして加熱子(C)が、この加熱ホルダー(CH)の棒上へスライド可能に保持される。再溶融工程においては、この加熱子(H)が加熱ホルダー(CH)上を往復動することで、固定ヘッド(H)に対して繰り返し相対変位する。このときさらに、固定ヘッド(H)は往復変位しているため、加熱子(H)の絶対速度及び絶対加速度は相対変位速度よりもおおきく、これにより内部流動が積極的に促される。
なお上記形態とは別に、取り付け基部周囲を囲うホルダーバンド(HB)によってヘッド(H)先端に固定されたものとしてもよい。この場合、加熱子(C)は再溶融時に柱状母材(1)に対して相対変位することはない。
【0012】
(4)前記いずれかの柱状母材への金属皮膜の形成方法において、
前記再溶融工程は、柱状母材(1)を、前記角部を含む先端面(11)が所定の対水平傾斜角(θ)で斜め方向を向いた傾斜状態(b)に保持し、かつ、柱状母材(1)の柱軸(1A)周りに回転させながら再溶融するものであって、前記対水平傾斜角(θ)は0度超45度以下に固定されることが好ましい。
角部の溶射被膜は、傾斜状態のままの軸回転と共に重力による外力方向が可変するのであるが、上記方法であれば、柱状母材(1)が水平傾斜角θ:0度超45度以下の所定の傾斜角度、すなわち横向きに近い傾斜状態を保持したまま回転するため、外力方向の可変範囲が90度を超える比較的大きな角度範囲となり、流動による溶射金属の再溶融がより促されるものとなる。
【0013】
(5)或いは、本発明の柱状母材への金属皮膜の形成方法において、
前記再溶融工程は、高圧環境下の再溶融室内に設けられた固定ヘッド(H)によって、柱状母材(1)を、前記角部を含む先端面(11)が所定範囲の対水平傾斜角(θ)で斜め方向を向いた傾斜状態(b)に保持し、かつ、固定ヘッド(H)の少なくとも内部を軸回転させる軸回転手段(RM)によって、柱状母材(1)を保持したまま柱軸(1A)周りに回転させながら再溶融するものであって、
前記固定ヘッド(H)は柱状母材(1)と共に加熱子(C)を保持するものであり、スライド機構(SF)によって再溶融室内を往復走行可能に取り付けられることが好ましい。
【0014】
(6)或いは、本発明の柱状母材への金属皮膜の形成方法において、
前記固定ヘッド(H)は、所定の角度範囲内で回動可能なチャック(CK)によって、柱状母材(1)を、対水平傾斜角(θ)が自由変動可能な状態で挟持するものであり、
前記再溶融工程において、軸回転手段(RM)によってチャック(CK)が軸回転することで、柱状母材(1)を、柱軸の対水平傾斜角(θ)が可変しながら軸回転することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記手段によって、円柱或いは多角形柱といった、先端隅に角部を有する柱状母材に再溶融処理を行う場合において、溶融熱の部分的な集中や不足を解消し、溶融エネルギーの過多付与部分や過少付与部分の発生を抑制することで、再溶融後の皮膜厚さや組成の緻密度の偏りを解消し得る金属皮膜の形成方法を提供することとなった。また前記偏りに基づく金属皮膜の性状の低下、或いは金属皮膜の表面平滑度の低下を防止し得る金属皮膜の形成方法を提供することとなった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1の金属皮膜の形成方法の溶射工程における溶射室内の斜視状態図。
図2】実施例1の金属皮膜の形成方法の溶射工程における溶射部分の一部拡大斜視図。
図3】実施例1の金属皮膜の形成方法の溶射工程における移動ステップの移動方向制御を示す平面図。
図4】実施例1の金属皮膜の形成方法の再溶融工程における再溶融室内の側面状態図。
図5】実施例1の再溶融工程における垂下状態(a)及び傾斜状態(b)の柱状母材(1)先端の状態を示す部分拡大側面図。
図6】上方傾斜状態の柱状母材(1)先端の状態を示す部分拡大側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態例につき、実施例として示す図面と共に説明する。図1は実施例1の金属皮膜の形成方法の溶射工程における溶射室内の斜視状態図であり、図2はその溶射部分の一部拡大斜視図であり、図3は実施例1の金属皮膜の形成方法の溶射工程における移動ステップの移動方向制御を示す平面図である。また図4は本発明の実施例1の柱状母材への金属皮膜の形成方法の再溶融工程における再溶融室内の側面状態図であり、図5は実施例1の再溶融工程における垂下状態(a)及び下傾斜状態(b)の柱状母材(1)先端の状態を示す部分拡大側面図である。図6は上傾斜状態の柱状母材(1)先端の状態を示す部分拡大側面図である。
【0018】
以下いずれの実施例においても、本発明の柱状母材への金属皮膜の形成方法は、先端面(11)の周縁に角部(1C)を有する柱状母材(1)に対して金属皮膜を形成する方法である。実施例では先端に段付きによる縮径の短円柱状の先端を有する棒状の円柱体からなる。そして、少なくとも下記基本工程を順に具備する。
(基本工程)
・先端面(11)及び角部(1C)を含む柱状母材(1)の端部全体に、金属粉末の溶射によって溶射被膜を定着させる溶射工程と、
・柱状母材(1)の側周部を囲う加熱子(C)によって前記溶射皮膜を再溶融することにより、溶射皮膜を変性させて、前記角部を含む母材表面に金属皮膜を形成する再溶融工程。
【0019】
(溶射工程)
溶射工程は、ニッケル、コバルトを含むW系自溶性合金の金属マトリックスを含む金属混合粉末を、100TorrのAr減圧雰囲気で密閉した溶射室内に切り出し(吹き出させ)、円柱母材(1)の先端の対象面へ溶射する工程である。自溶性合金は、ニッケル基・コバルト基からなる合金に、ボロン(B)やシリコン(Si)などのフラックス成分を含有させたもので、溶射後にフュージング処理を行うことにより、気孔が少なく、密着強度の高い溶射被膜を得る事が出来る。
【0020】
特に本実施例では、金属混合粉末の切り出し溶射と同時に、母材の対象面の溶射範囲内を焦点とするレーザー補助照射を行う、いわゆる複合溶射工程としている(図1)。レーザーは高いエネルギー密度を有し、ビームの照射強度、照射一及びタイミングを制御することができるため、良好な高密度の溶射被膜を形成し、かつ母材への良好な密着性を確保することができる。複合溶射とはすなわち、所定の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を所定の混合割合(Rwc)で結合剤粉末(mc)と混合させた金属粉末(mm)のプラズマ溶射(P)と、レーザービームによるレーザー照射(L)とを、円柱母材(1)表面内の同一の溶射スポット(p)に重畳させて複合照射を行うことで、円柱母材(1)上に溶射皮膜を形成する工程である。本発明の特徴と複合溶射とを組み合わせることで、母材への定着性を確保しつつ、より均一な高密度の金属皮膜を形成することができる。
【0021】
具体的には、溶射室内の上部一側方から斜め下方向きに固定したレーザーガン(LG)と、同じ溶射室内の上部他側方から反対の斜め下方向きに固定した溶射ガン(PG)と、柱状母材(1)を立設状態で保持する保持穴(FH)付の保持フレーム(F)と、から構成される。保持フレーム(F)は、溶射室内を保持レールに沿って平面視二軸方向へ移動制御可能な直方体からなり、上面から、鉛直方向に穿穴された二本の保持穴(FH)が設けられる。各保持穴(FH)には、円柱の柱状母材(1)(1´)が一本ずつ挿入される。挿入状態では柱状母材(1)の先端の縮径した短円柱部のみが保持穴(FH)の穴縁から上方へ突出した状態となり、他の部分が不要にレーザーや溶射の影響を受けないようにしている。
【0022】
レーザーガン(LG)によるレーザー光と、溶射ガン(PG)による溶射粉末(P)は、柱状母材(1)の先端面(11)内の一部である所定面積範囲(PA)に複合照射される。保持フレーム(F)が平面視にて直交する2軸方向へ平行移動制御可能に載置保持されており、往復方向と垂直な位置すなわち往復動線(図3のR1,R2,R3,R4)を所定間隔ずつずらしながら、溶射室内を平行に往復移動しながら移動可能となっている(図3のR1,R2,R3,R4参照)。そして、中将母材(1)の先端面(11)上にて複合照射された所定面積範囲(PA)が、中将母材(1)の先端面(11)上を、往復動線()
を変えながら並行に往復動する(図2)。これにより先端面(11)全体が先端面の形状縁すなわち角部にまで亘って溶射され、図5図6に示すような、先端面から角部周囲の側面に亘った溶射被膜が形成される。
【0023】
なお溶射工程においては、
前記プラズマ溶射(P)における金属粉末(mm)の粉末供給速度(mm1)、並びに前記レーザー照射(L)におけるレーザー照射速度(L1)、及びレーザー出力(L2)、のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の設定値に設定して制御手段に記憶させる設定ステップと、
前記設定ステップによって設定された設定要素の各設定値に従って前記複合溶射を行いながら溶射スポット(p)を基材表面上で移動させる、複合溶射中の移動ステップと、を含んでなる。
そして前記設定ステップは、エネルギー密度(ED)〔J/mm〕、パワー密度(PD)〔W/mm〕、及び一次増加率Aからなる一次相関関係に従って、所定の混合割合条件に応じた設定要素の各設定値を設定することを特徴とする。
【0024】
〔条件1〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が50%以上80%未満の場合:ED〔J/mm〕が3以上7以下、PD〔W/mm2〕が20以上90以下の範囲内であって、かつPDはEDの単位増加あたり4以上15以下の一次増加率A〔W/J〕に応じたPD値に設定される。
〔条件2〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が80%以上95%未満の場合:ED〔J/mm〕が6以上16以下、PD〔W/mm2〕が55以上115〔W/mm2〕以下の範囲内であって、かつPDはED〔J/mm〕の単位増加あたり−24〜−6の一次増加率A〔W/J〕に応じたPD値に設定される。
或いは前記設定ステップは、
エネルギー密度(ED)〔J/mm〕及びパワー密度(PD)〔W/mm〕の一次相関関係に従って、以下の混合割合条件に応じた設定要素の各設定値を設定することを特徴とする金属皮膜の形成方法。
〔条件3〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が50%以上80%未満の場合:ED〔J/mm〕が3以上12以下、PD〔W/mm〕が60以上120以下の範囲内であって、かつPDがEDの単位増加あたり7〜33の一次減少率−A〔W/J〕(A:正値の一次係数)に応じて設定される。
〔条件4〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が80%以上95%未満の場合:ED〔J/mm〕が3以上12以下、PD〔W/mm〕が25以上60以下の範囲内であって、かつPDがEDの単位増加あたり2.5〜5の一次減少率−A〔W/J〕(A:正値の一次係数)に応じて設定される。
【0025】
また前記設定ステップは、プラズマ溶射における粉末供給ガス流量〔l/min〕が3.0〜4.0以内であって、前記「粉末供給速度(mm1)」〔rpm〕が0.5〔rpm〕以上1.0〔rpm〕以下の場合において、前記「相対移動速度(pV)」〔mm/s〕を10以上30以下に設定するものである。
或いは前記設定ステップは、プラズマ溶射及びレーザー溶射の各溶射距離〔mm〕が共に150mm170以下の場合において、前記「レーザー出力(L2)」〔kw〕を0.5以上40.0以下の範囲内に設定するものである。
【0026】
(装置構成)
複合溶射を行う装置構成として例えば、
一定の溶射距離で前記金属粉末のプラズマ溶射を行うプラズマ溶射機(P)と、
一定の溶射距離でレーザー光を溶射スポット(p)範囲に合わせて焦点化させたレーザー溶射を行うレーザー照射機(L)と、
プラズマ溶射機及びレーザー照射機(L)による溶射スポットへの複合溶射状態を保ったまま、基材上の溶射スポットの位置を相対移動させる保持移動機(V)と、
少なくとも前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」、並びに、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」、並びに、溶射スポット(p)を円柱母材(1)の先端面(11)上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の値に可変制御する制御手段と、を具備してなるものが挙げられる(図1)。
【0027】
制御手段は、使用する金属粉末(mm)の炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)、及び、最大粒径(mwΦ)の各入力値、のそれぞれを記憶する第一記憶領域と、
少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」と、照射スポット(p)の面積値(PA)と、のそれぞれを記憶する第二記憶領域と、を有してなる。
第一記憶領域に記憶された各入力値を、予め棲み分け設定された各入力値範囲の組み合わせからなる複数の入力域のいずれかに分類し、
分類した入力域に応じて、
第二記憶領域に記憶された少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」と、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」と、照射スポット(p)を円柱母材(1)の先端面(11)上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」と、のそれぞれを含む設定要素を、照射スポット(p)の面積値(PA)を用いた以下の演算式に従って演算する。
そして、同演算式に基づく各算出値を所定の設定値に自動設定し、表示する。
【0028】
〔演算式〕 (L2/PA)=A・(pV/(L2・√PA))+B
但し数式1中のAは、炭化タングステン粉末(mw)及び結合剤粉末(mc)の混合割合(Rwc)に応じ、A1,A2,A3,A4のいずれかから選択される。
(1)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:−7<A1<−35(中心値−18)
(2)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:-2.5<A2<−5(中心値−7)
(3)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:4<A3<6(中心値8)
(4)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:
E2(L2、PA)=A1・E1(L1,L2,PL);但し−5.5<A4<−24(中心値−10)
【0029】
また前記設定ステップは、炭化タングステン粉末(mw)及び結合剤粉末(mc)の混合割合(Rwc)に応じた、
下記エネルギー密度(E1)〔J/mm〕及びパワー密度(E2)〔W/mm〕の相関関係に従って設定要素の各設定値を設定する。
【0030】
(粒径が比較的小さいとき)
特に0.1μm以上0.9μm以下の範囲内の最大粒径(mwΦ)では、炭化タングステン粉末の混合割合に応じて、高域パワー密度かつ低域エネルギー密度の第一条件域と、低域パワー密度かつ高域エネルギー密度の第二条件域とに済み分けた、以下の対応値を設定することが好ましいことが判明した。
(条件1)50%≦混合割合R≦80%の場合:PD〔W/mm〕は70以上110以下の範囲内、EDは3以上7以下の範囲内であって、PDはEDの増加に伴って4〜15の一次増加率A〔W/J〕で増加する対応値。
(条件2)80%≦混合割合R≦95%の場合:PD〔W/mm〕は30以上60以下の範囲内、ED〔J/mm〕は6以上16以下の範囲内であって、PDはED〔J/mm〕の増加に伴って−6〜−24の一次増加率A〔W/J〕で減少する対応値。
【0031】
(粒径が比較的大きいとき)
また特に、1.0μm以上2.0μm以下の範囲内の最大粒径(mwΦ)では、
PD〔W/mm2〕が55以上90以下、かつED〔J/mm〕が55以上90以下の範囲内の共通条件域において、炭化タングステン粉末の混合割合に応じた以下の対応値を設定することが好ましいことが判明した。
(条件3)50%≦混合割合R≦80%の場合:PD〔W/mm〕はED〔J/mm〕の増加に伴って4〜15の一次増加率A〔W/J〕で増加する対応値。
(条件4)80%≦混合割合R≦95%の場合:PD〔W/mm〕はED〔J/mm〕の増加に伴って−6〜−24の一次増加率A〔W/J〕で減少する対応値。
【0032】
前記設定ステップは、
エネルギー密度(ED)〔J/mm2〕及びパワー密度(PD)〔W/mm2〕の一次相関関係に従って設定要素の各設定値を設定することを特徴とする。
〔case1〕0.1μm以上0.9μm以下の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:PDはEDの増加に伴って4〜15の増加率A〔W/J〕で増加する。
[case2]最大粒径(mwΦ)が1μm以上2μm以下の場合:
E2(L2、PA)=A・E1(L1,L2,PL)
(1)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:−7<A1<−35(中心値−18)
(2)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:-2.5<A2<-5(中心値−7)
(3)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:4<A3<6(中心値8)
(4)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:
E2(L2、PA)=A1・E1(L1,L2,PL);但し−5.5<A4<−24(中心値−10)
【0033】
ここで発明者は、下記パワー密度(PD)〔W/mm〕及びエネルギー密度(ED)〔J/mm〕の相関関係に従うことで好ましい被膜組織を形成できることを見出した。
(相関式)PD(L2、PA)=A・ED(L1,L2,PL)+B
但し数式1中のAは、炭化タングステン粉末(mw)及び結合剤粉末(mc)の混合割合(Rwc)に応じ、A1,A2,A3,A4のいずれかから選択される。
(1)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:−7<A1<−35(中心値−18)
(2)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:−2.5<A2<−5(中心値−7)
(3)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:4<A3<6(中心値8)
(4)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:
E2(L2、PA)=A1・E1(L1,L2,PL);但し−5.5<A4<−24(中心値−10)
【0034】
(再溶融工程)
しかして複合溶射工程後の再溶融工程においては、角部を含む先端面(11)及び側面の全体に亘って均一な溶射被膜を形成した柱状母材(1)を、先端面(11)が鉛直下方を向いた垂下状態(a)、又は所定の対水平傾斜角(θ)で斜め方向を向いた傾斜状態(b/c)のいずれかの状態で保持し、かつ、柱状母材(1)の柱軸(1A)周りに回転させながら再溶融する工程である(図5,6)。特に本発明では減圧雰囲気下で高周波誘導加熱を行う、いわゆるヒュージング加熱処理を行っている。
【0035】
特に図5に示す垂下状態(a)又は下傾斜状態(b)とし、かつ柱軸(1A)周りに回転させながら再溶融することで、柱状母材(1)表面の溶射被膜が再溶融時に除かれるのを防ぐことができる。特に角部の溶射被膜は、再溶融時の自重によって膜厚さが薄くなったり偏ったりすることがなく、母材の角部形状に影響されずに他の部分の溶射被膜と同じ状態を保つことができる。すなわち図5に示すように、垂下状態又は下傾斜状態で軸回転した状態では、図6に示す上傾斜状態で軸回転した状態と異なり、先端面(11)が鉛直下方又は斜め方向を向いたまま角部(1C)が鉛直軸周り又は斜め軸周りに周回転することとなる。軸回転によって再溶融した溶射皮膜層が自重によって流れ落ちるように流動することで、被膜内部が緩やかな速度で混練され、溶射被膜全体で比較的均一に変性される。
【0036】
ここで傾斜状態は、対水平傾斜角度(θ)が上方へ正値を有するように先端面(11)が上方を向いて傾斜した上方傾斜状態(c:図6)と、対水平傾斜角度(θ)が下方へ正値を有するように先端面(11)が下方を向いて傾斜した下方傾斜状態(b:図5(b))と、が存在する。このうち特に上方傾斜状態(c:図6)よりも下方傾斜状態(b:図5(b))が更に好ましい。なぜなら、下方傾斜状態(b)のとき、角部(1C)上に定着した金属皮膜は、再溶融工程において、必ず母材角部の下面又は側面に定着したまま角部から角部表面上に滞留したまま垂下して、結果的に溶射被膜の膜厚さを維持するか膜厚さが大きくなる状態で溶融することとなるからであり、再溶融後の金属皮膜厚さを安定して確保することができる。特に対水平傾斜角度(θ)が下方へ15度以上となった下方傾斜状態(b)では、角部(1C)上に定着した金属皮膜は、再溶融時に受ける重力の角度が順次変わっていくため、内部流動によって金属皮膜が均一にローテーションされる。
【0037】
また再溶融工程は、柱状母材(1)がそれ自体の柱軸(1A)と交わる所定の往復方向へ一往復以上往復変位しながら再溶融することが好ましい。これによって、再溶融した溶射皮膜層が回転による慣性力を受けながら、左側方及び右側方への直進的な慣性力を交互に受けることとなる。このため内部流動によって金属皮膜が均一にローテーションされ、角部全体に比較的均一な変性が行われることとなる。
なお、図4に示す実施例では、スライドモーター(SM)に機械制御されたスライド機構(SF)によって、柱状母材(1)と加熱子(C)とが共に水平方向へ一往復のみ、あるいは2往復以上繰り返し所定の往復長(SL)で往復変位させながら再溶融させることで、より均一な変性を可能としている。スライド機構(SF)は再溶融室内の床面に固定設置されたスライドレール上に嵌入された、複数のスライドアングル(SA)を具備し、このスライドアングル(SA)のスライド移動を、スライドモーター(SM)によって制御する機構となっている。スライドアングル(SA)によって架台支持されたスライドベース(SB)がスライド移動することで、スライドベース(SB)、スライドベース(SB)と一体化して上方延出されたアーム(A)、及びアーム(A)上部に固定された固定ヘッド(H)が一体的構造として並行に往復走行するものとなっている。
【0038】
また再溶融工程は、加熱子(C)が柱状母材(1)に対し、柱状母材(1)の柱軸(1A)上の位置を相対変位させる相対変位方向へ相対変位しながら再溶融することが好ましい。この方法によって、加熱子(C)が柱状母材(1)の周部を覆った状態のまま柱状母材(1)の柱軸(1A)上の位置を相対変位させる方向へ相対変位することで、軸方向に亘ってより均等な加熱が可能となる。本方法は例えば、加熱子(C)を保持する加熱ホルダー(CH)が再溶融室の室内壁面に固定され、再溶融室内にはフレーム上を往復走行移動可能な固定ヘッド(H)が設けられ、柱状母材(1)が前記固定ヘッド(H)に取り付け固定されたまま、再溶融室内を往復動することによって達成される。
【0039】
実施例では、柱状母材(1)自体が固定ヘッド(H)によって往復スライド走行可能であると共に、加熱子(C)は固定ヘッド(H)先端にて固定ヘッド(H)に対して往復動可能に保持される。すなわち後述の実施例では、複数の棒状枠からなる加熱ホルダー(CH)が、柱状母材(1)の柱軸に沿って柱状母材(1)の取り付け基部周囲を囲うホルダーバンド(HB)によって固定ヘッド(H)の先端側へ延伸固定される。そして加熱子(C)が、この加熱ホルダー(CH)の棒上へスライド可能に保持される。再溶融工程においては、この加熱子(H)が加熱ホルダー(CH)上を往復動することで、固定ヘッド(H)に対して繰り返し相対変位する。このときさらに、固定ヘッド(H)は往復変位しているため、加熱子(H)の絶対速度及び絶対加速度は相対変位速度よりもおおきく、これにより内部流動が積極的に促される。
【0040】
なお上記形態とは別に、取り付け基部周囲を囲うホルダーバンド(HB)によってヘッド(H)先端に固定されたものとしてもよい。この場合、加熱子(C)は再溶融時に柱状母材(1)に対して相対変位することはない。
【0041】
また再溶融工程は、柱状母材(1)を、前記角部を含む先端面(11)が所定の対水平傾斜角(θ)で斜め方向を向いた傾斜状態(b)に保持し、かつ、柱状母材(1)の柱軸(1A)周りに回転させながら再溶融するものであって、前記対水平傾斜角(θ)は0度超45度以下に固定されることが好ましい。角部の溶射被膜は、傾斜状態のままの軸回転と共に重力による外力方向が可変するのであるが、この方法であれば、柱状母材(1)が水平傾斜角θ:0度超45度以下の所定の傾斜角度、すなわち横向きに近い傾斜状態を保持したまま回転するため、外力方向の可変範囲が90度を超える比較的大きな角度範囲となり、流動による溶射金属の再溶融がより促されるものとなる。
【0042】
実施例では、アーム(A)の上部にアーム(A)と直交する保持軸が組み込まれ、保持軸の一端側に回転締付式のアームヒンジ(AH)を介して、略円筒状の固定ヘッド(H)が固定されてなる(図4)。保持軸の他端側には軸回転手段(RM)たる、駆動軸を有した回転モーターが機械連結されてなる。保持軸内を通る駆動軸の回転駆動によって、固定ヘッド(H)内のチャック(CK)が回転するものとなっている。固定ヘッドはアームヒンジ(AH)の締付調整によって、保持軸と直交する水平なアームヒンジ軸周りに回転し、所定の回転角度(対水平傾斜角(θ))を保持することが可能となっている。
【0043】
また固定ヘッド(H)の内部から側方先部へ突出するように複数のチャック(CK)が固定ヘッド(H)の円筒周方向に分散内蔵され、各チャック(CK)同士の近接距離が調節固定されることで、柱状母材(1)をその先端面(11)が側方へ突出した状態で挟持する。またチャック(CK)と軸回転手段(RM)の駆動軸とは、ユニオンソケットを介して軸連結されてなり、固定ヘッド(H)がアームヒンジ(AH)によって0度を超える対水平角度(θ)に固定された場合でも、軸回転手段(RM)の回転軸の駆動力はチャック(CK)の回転力として伝達される。
【0044】
上記構成により、再溶融工程は、高圧環境下の再溶融室内に設けられた固定ヘッド(H)によって、柱状母材(1)を、前記角部を含む先端面(11)が所定範囲の対水平傾斜角(θ)で斜め方向を向いた傾斜状態(b)に保持し、かつ、固定ヘッド(H)の少なくとも内部を軸回転させる軸回転手段(RM)によって、柱状母材(1)を保持したまま柱軸(1A)周りに回転させながら再溶融するものとなっている。
なお前記固定ヘッド(H)は柱状母材(1)と共に加熱子(C)を保持するものであり、スライド機構(SF)によって再溶融室内を往復走行可能に取り付けられる。
【0045】
(他の実施例)上記実施例とは異なる構成として、固定ヘッド(H)は、所定の角度範囲内で回動可能なチャック(CK)によって、柱状母材(1)を、対水平傾斜角(θ)が自由変動可能な状態で挟持するものであり、
前記再溶融工程において、軸回転手段(RM)によってチャック(CK)が軸回転することで、柱状母材(1)を、柱軸の対水平傾斜角(θ)が可変しながら軸回転するものとすることもできる。軸回転の回転位相によって中将母材(1)の対水平傾斜角(θ)が、加熱子(C)と共に自由可変するため、再溶融工程中に溶射被膜が受ける、重力による外力方向を駆動力を用いずに自由可変させることができる。
【0046】
本発明は上述した実施例に限られることなく、各実施例の方法要素、各実施器具の構成ないし一部要素の一部省略・抽出、他の公知構成ないし他の知られた要素同士の組み合わせ、一部要素の代替置換など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0047】
先端面(11)
角部(1C)
柱状母材(1)
加熱子(C)
柱軸(1A)
垂下状態(a)
傾斜状態(b)
固定ヘッド(H)
対水平傾斜角(θ)
軸回転手段(RM)
スライド機構(SF)
チャック(CK)
図1
図2
図3
図4
図5
図6