(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6455032
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】既設杭の引抜き工法
(51)【国際特許分類】
E02D 9/02 20060101AFI20190110BHJP
【FI】
E02D9/02
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-177933(P2014-177933)
(22)【出願日】2014年9月2日
(65)【公開番号】特開2016-50457(P2016-50457A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】増井 直樹
【審査官】
西田 光宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−083720(JP,A)
【文献】
特開昭61−049024(JP,A)
【文献】
特開平06−101395(JP,A)
【文献】
米国特許第07090434(US,B1)
【文献】
特開2006−077567(JP,A)
【文献】
特開昭51−148206(JP,A)
【文献】
特開平08−027791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 9/02
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に打ち込まれた既設杭を引き抜く既設杭の引抜き工法であって、
前記既設杭の内空断面に収まる形状の閉塞版を、頭部から前記既設杭の中空部に挿入させ、前記既設杭の中空部に位置する中空部地盤に着地させる閉塞版設置工程と、
密閉板を用いて前記既設杭の頭部を密閉する頭部密閉工程と、
前記既設杭の中空部に注水することで、前記閉塞版に水圧を作用させ、前記既設杭を押し上げる引抜力を発生させる注水工程とを有し、
前記密閉板の下面に取り付けられた圧力センサーを用いて前記既設杭の中空部内の水圧を測定させ、
水圧報知手段を用いて前記圧力センサーによって測定された水圧を報知させることを特
徴とする既設杭の引抜き工法。
【請求項2】
流量センサーを用いて前記既設杭の中空部に注水する注水量を測定させ、
注水量報知手段を用いて前記流量センサーによって測定された注水量を報知させることを特徴とする請求項1記載の既設杭の引抜き工法。
【請求項3】
前記閉塞版による前記中空部地盤の閉塞率は、0.90以上であることを特徴とする請
求項1又は2記載の既設杭の引抜き工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に打ち込まれた既設杭を引き抜く既設杭の引抜き工法に関する。
【背景技術】
【0002】
海、河川、湖等の水上や陸上の地盤に打ち込まれた鋼管杭等の既設杭は、供用が終了すると引抜いて撤去することが最も望ましいとされている。既設杭を引抜く場合、既設杭と地盤との摩擦力と、既設杭の重量と、既設杭内部の土の重量とが荷重となり、この荷重を超える吊上げ荷重を有する大型の起重機(起重船)が必要であった。特に大きな既設杭の場合には、荷重が巨大なものになるため、この巨大な荷重を超える吊上げ荷重を有する起重機(起重船)が得られないか、得られても借料が極めて高額になり、引き抜き作業を行うことが困難であった。また、引き抜き作業を行う場合、既設杭にわずかに引抜きが生じると、既設杭と地盤との摩擦力が急激に減少するため、起重機(起重船)の制御が煩雑になるという困難性があった。
【0003】
そのため、既設杭の引き抜きを行うことなく、既設杭を支障のない深さで切断し、部分的に残置することが、運用上行われていた。場合によっては、既設杭の内部土を一部除去した後に、地中部で既設杭を切断することもあった。しかし、既設杭が水上の地盤に打ち込まれている場合には、水中切断となり、危険を伴う。また、地中部での切断は、更に難しい作業であった。
【0004】
そこで、既設杭の頭部を閉塞して既設杭の中空部を密閉し、既設杭の中空部に注水することで、既設杭の中空部に位置する地盤に水圧を作用させ、発生する引抜力を利用することで、大型の起重機(起重船)を用いることなく既設杭を引抜く技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08-27791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術のように、水圧を地盤に作用させる場合、地盤の種類によっては、十分な引抜力を得ることができないという問題点があった。例えば、水圧を作用させる地盤が砂地盤である場合には、砂地盤に水が浸透して既設杭内の水が逸水し、十分な引抜力が得られない。また、水圧によって軟弱化してしまうような地盤である場合には、地盤に均等に水圧を作用させられないため、引き抜けないか、あるいは既設杭が傾いて引き抜き作業が困難なものになっていた。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消し、水圧によって既設杭を効率良く引き抜くことができる既設杭の引抜き工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の既設杭の引抜き工法は、地盤に打ち込まれた既設杭を引き抜く既設杭の引抜き工法であって、前記既設杭の内空断面に収まる形状の閉塞版を、頭部から前記既設杭の中空部に挿入させ、前記既設杭の中空部に位置する中空部地盤に着地させる閉塞版設置工程と、
密閉板を用いて前記既設杭の頭部を密閉する頭部密閉工程と、前記既設杭の中空部に注水することで、前記閉塞版に水圧を作用させ、前記既設杭を押し上げる引抜力を発生させる注水工程とを有
し、前記密閉板の下面に取り付けられた圧力センサーを用いて前記既設杭の中空部内の水圧を測定させ、水圧報知手段によって前記圧力センサーを用いて測定された水圧を報知させても良い。
さらに、本発明の既設杭の引抜き工法は、流量センサーを用いて前記既設杭の中空部に注水する注水量を測定させ、注水量報知手段を用いて前記流量センサーによって測定された注水量を報知させても良い。
さらに、本発明の既設杭の引抜き工法は、前記閉塞版による前記中空部地盤の閉塞率は、0.90以上であっても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、閉塞版を介して中空部地盤に水圧を作用させることで、既設杭を押し上げる引抜力を効率よく発生させることができるため、水圧によって既設杭を効率良く引き抜くことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る既設杭の引抜き工法における閉塞版設置工程及び頭部密閉工程を説明する作業工程説明図である。
【
図2】
図1に示す閉塞版設置工程によって既設杭の中空部に位置する地盤に閉塞版を着地させた状態を示す図である。
【
図3】
図1に示す密閉板の構成を示す側面図である。
【
図4】本発明に係る既設杭の引抜き工法における注水工程を説明する作業工程説明図である。
【
図5】本発明に係る既設杭の引抜き工法における注水工程で中空部地盤に浸透する浸透流を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」という)を、図面を参照して具体的に説明する。
【0012】
本実施の形態の既設杭の引抜き工法は、
図1に示すように、中空部を有する既設杭1を水圧によって引き抜く引抜き工法である。以下、海上の地盤である海底面に打ち込まれた既設杭1の引き抜き例について詳細に説明する。
【0013】
まず、
図1(a)に示すように、閉塞版2を起重機3で吊り、既設杭1の解放された頭部から中空部に挿入させる閉塞版設置工程を行う。閉塞版2は、既設杭1の内空断面に収まる形状を有し、既設杭1を引き抜く際に用いられる水圧に耐えうる剛性を備えたコンクリート版や鋼版が用いられる。なお、本実施の形態では、既設杭1は、断面形状や中空断面形状が円形である円筒状である。そして、閉塞版2は、既設杭1の内径より若干小さい直径を有する円形で構成されている。閉塞版2の既設杭1の中空部への挿入は、既設杭1の軸に対して閉塞版2をほぼ垂直に吊り下げ、この状態を保ちながら既設杭1の中空部内をゆっくり下降させる。閉塞版2をゆっくり下降させることで、既設杭1の中空部に海水が存在している場合でも、既設杭1と閉塞版2との間隙を通って海水が閉塞版2の下方から上方に移動され、閉塞版2を既設杭1の軸に対してほぼ垂直な状態に保つことができる。
【0014】
閉塞版設置工程では、
図1(b)及び
図2に示すように、既設杭1の中空部に位置する地盤(以下、中空部地盤と称す)に閉塞版2を着地させる。なお、
図2において、(a)は閉塞版2を中空部地盤に着地させた状態を横方向から見た既設杭1の縦断面図であり、(b)は上方向から見た既設杭1の横断面図である。閉塞版2を中空部地盤に着地させた状態では、閉塞版2によって、中空部地盤の大部分が閉塞される。閉塞版2による中空部地盤の閉塞率(中空部地盤の面積/閉塞版2の面積)は、0.90以上であることが好ましい。例えば、既設杭1の内径Lを3,000mm、閉塞版2の直径を2,940mmとすると、既設杭1と閉塞版2との間隙Wは、0〜60mmとなる。そして、中空部地盤の面積は、既設杭1の内径断面積となるため、閉塞版2による中空部地盤の閉塞率は、(2,940/3,000)
2=0.96となる。なお、本実施の形態のように、閉塞版2の形状を既設杭1の内空断面と同一形状とすることで、閉塞版2による中空部地盤の閉塞率を高くすることができる。
【0015】
次に、密閉板4を用いて既設杭1の頭部を密閉する頭部密閉工程を行う。密閉板4は、既設杭1の外径とほぼ同一の直径を有し、既設杭1を引き抜く際に用いられる水圧に耐えうる剛性を備えたコンクリート版や鋼版を用いることができる。そして、密閉板4は、溶接等の既知の方法を用いて、既設杭1の頭部に強固に取り付ける。
【0016】
密閉板4には、
図3に示すように、既設杭1の中空部に海水を注水するための注水穴41が形成されていると共に、既設杭1の中空部から空気を排出する空気抜パイプ42が設けられている。そして、空気抜パイプ42には、空気抜パイプ42を開閉する空気抜バルブ43が設けられている。密閉板4の下面には、既設杭1の中空部の水圧を測定する圧力センサー44が取り付けられている。
【0017】
次に、
図4に示すように、密閉板4の注水穴41に水圧ポンプ5から引き回された注入パイプ6を差し込み、水圧ポンプ5によって既設杭1の中空部に注水する注水工程を行う。なお、海上の地盤である海底面に打ち込まれた既設杭1に対しては、
図4に示すように、水圧ポンプ5を積んだポンプ船によって、海水を用いて既設杭1の中空部に注水することができる。また、既設杭1の中空部内の空気は、空気抜バルブ43を開いて空気抜パイプ42から排出し、全ての空気が排出された後、空気抜バルブ43を閉じる。これにより、既設杭1の中空部が注水された海水によって満たされた満水状態となる。
【0018】
既設杭1の中空部が状態になった後も、水圧ポンプ5によって注水を継続すると、
図4に矢印で示すように、既設杭1の内周面と、閉塞版2と、密閉板4とに水圧が均一に作用する。そして、閉塞版2に水圧が作用することで、既設杭1を押し上げる(引抜く)引抜力が発生する。この水圧による引抜力が、既設杭1と地盤との摩擦力、既設杭1の自重、既設杭1内部の土の重量等の荷重を上回ると、既設杭1の押し上げ(引抜き)が開始される。なお、閉塞版2の直径は、既設杭1の内径よりも若干小さいため、既設杭1の押し上げ(引抜き)時に閉塞版2に接して摩擦力が作用することを回避される。
【0019】
水圧は、既設杭1の押し上げ(引抜き)が開始される直前が最も高くなり、既設杭1の押し上げ(引抜き)が開始されると、既設杭1の中空部が拡がるため、低下する。従って、この水圧の変化を、圧力センサー44に接続されたディスプレイ等の報知部7で観測することで、既設杭1の押し上げ(引抜き)の開始を正確に把握することができる。
【0020】
また、既設杭1の押し上げ(引抜き)が開始された後、既設杭1の中空部に注水した注水量にほぼ比例して既設杭1は押し上げられる。従って、注入パイプ6等に注水量を測定する流量センサー8を設け、流量センサー8に接続されたディスプレイ等の報知部7を見ながら注水量を管理することで、既設杭1の引抜速度を容易に制御することができる。
【0021】
なお、海底面の地盤が砂質土地盤である場合には、
図5(a)に示すように、注水された海水が既設杭1と閉塞版2との間隙を通って中空部地盤に浸透する浸透流が形成される。しかしながら、閉塞版2による中空部地盤の閉塞率が高い場合(例えば0.90以上)には、海水の通過率が低く(例えば0.10未満)になる。そして、中空部地盤の見かけの透水係数は、中空部地盤の実際の透水係数kに通過率を乗じた値となる。従って、中空部地盤の見かけの透水係数は、中空部地盤の実際の透水係数よりも低くなり、閉塞版2の設置で浸透流が軽減されたことが分かる。このことは、閉塞版2の設置が、水圧を作用させやすい土質に中空部地盤を改善することと同義であることを意味する。例えば、閉塞版2による中空部地盤の閉塞率が0.96である場合には、海水の通過率が0.04になるため、中空部地盤の見かけの透水係数は、中空部地盤の実際の透水係数kに通過率0.04を乗じた値となる。これにより、中空部地盤の見かけの透水係数は、中空部地盤の実際の透水係数kよりも2桁近く低くなり、中空部地盤が砂質土地盤であっても、ほぼ粘性土地盤に近似される。また、閉塞版2に作用する水圧によって中空部地盤が締め固められ、中空部地盤が補強される。これにより、浸透流が軽減されるという効果も得られる。
【0022】
既設杭1と閉塞版2との間隙を通って中空部地盤に浸透する浸透流の流量は、既設杭1の押し上げ(引抜き)が開始されるまでの、注水量に応じた水圧の上昇を圧力センサー44及び流量センサー8に接続された報知部7によって観測することで推定することができる。そして、推定した浸透流の流量を勘案して注水量を管理することで、既設杭1の引抜速度をより正確に制御することができる。
【0023】
また、海底面の地盤が粘性土地盤である場合には、
図5(b)に示すように、注水された海水が既設杭1と閉塞版2との間隙を通って中空部地盤に浸透することがほとんどないが、閉塞版2に作用する水圧によって中空部地盤が締め固められ、中空部地盤が補強される。
【0024】
以上説明したように、本実施の形態によれば、地盤に打ち込まれた既設杭1を引き抜く既設杭の引抜き工法であって、既設杭1の内空断面に収まる形状、すなわち既設杭1の内径Lより小さい直径Mを有する閉塞版2を、頭部から既設杭1の中空部に挿入させ、既設杭1の中空部に位置する中空部地盤に着地させる閉塞版設置工程と、既設杭1の頭部を密閉する頭部密閉工程と、既設杭1の中空部に注水することで、閉塞版2に水圧を作用させ、既設杭1を押し上げる引抜力を発生させる注水工程とを有する。
この構成により、閉塞版2を介して中空部地盤に水圧を作用させることで、既設杭1を押し上げる引抜力を効率よく発生させることができるため、大型の起重機(起重船)を用いることなく、周囲にある水とポンプ等の簡易な資機材のみで既設杭1を効率良く引き抜くことができる。
【0025】
さらに、本実施の形態は、圧力センサー44を用いて既設杭1の中空部内の水圧を測定させ、水圧報知手段である報知部7を用いて圧力センサー44によって測定された水圧を報知させる。
この構成により、水圧の変化を観測することができ、既設杭1の押し上げ(引抜き)の開始を正確に把握することができる。
【0026】
さらに、本実施の形態は、流量センサー8を用いて既設杭1の中空部に注水する注水量を測定させ、注水量報知手段である報知部7を用いて流量センサー8によって測定された注水量を報知させる。
この構成により、注水量を管理することで、既設杭1の引抜速度を容易に制御することができる。
また、圧力センサー44と流量センサー8を併用すると、既設杭1と閉塞版2との間隙を通って中空部地盤に浸透する浸透流の流量を推定することができる。そして、推定した浸透流の流量を勘案して注水量を管理することで、既設杭1の引抜速度をより正確に制御することができる。
【0027】
さらに、本実施の形態は、閉塞版2による中空部地盤の閉塞率は、0.90以上である。
この構成により、閉塞版2に作用する水圧によって、既設杭1を押し上げる引抜力を効率よく発生させることができる。
【0028】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
例えば、本実施の形態では、断面形状や中空断面形状が円形である円筒状の既設杭1を引抜く例について説明したが、引き抜く対象の既設杭1は、中空部地盤に至る中空部を有していれば、断面形状や中空断面形状が矩形や楕円形等の任意の形状であっても良い。
また、本実施の形態では、閉塞版2の形状を既設杭1の内空断面と同一の円形で構成したが、閉塞版2の形状は、既設杭1を内空断面と異なる形状で構成することもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 既設杭
2 閉塞版
3 起重機
4 密閉板
5 水圧ポンプ
6 注入パイプ
7 報知部
8 流量センサー
41 注水穴
42 空気抜パイプ
43 空気抜バルブ
44 圧力センサー