(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
<歯間清掃具>
本発明の歯間清掃具は、エラストマからなる被覆層(清掃用軟質部)を表面に有し、歯間に挿入してこれを清掃する清掃部と、清掃用軟質部表面に放出可能に固着された特定のカチオン性殺菌剤(グルコン酸クロルヘキシジン及び塩化ベンザルコニウムから選択される少なくとも1種)からなる固着層と、を有することを特徴とし、それ以外は従来の歯間清掃具と同じ構成とすることができる。本発明の歯間清掃具では、該カチオン性殺菌剤が清掃用軟質部表面に比較的強く固着しているので、その流通時及び保存時には該カチオン性殺菌剤の清掃用軟質部表面からの脱落が起こり難く、かつ、歯間清掃時には歯や唾液等との接触により該カチオン性殺菌剤が清掃用軟質部表面から比較的容易に放出されるので、該カチオン性殺菌剤による殺菌効果が十分に発揮される。
【0014】
以下、本発明の実施形態を、適宜図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係る第1実施形態の歯間清掃具1の構成を模式的に示す図面であり、(a)は正面図及び(b)は右側側面図である。
図2は清掃部10を説明する図面であり、(a)は
図1(a)における清掃部10の拡大図、(b)は
図1(b)における清掃部10の拡大図、(c)は
図2(a)のII−II線近傍の拡大図である。
図3は、
図2(a)のI−I断面図である。
図4は、
図2(a)のII−II断面図である。
図5は、本発明の他の実施形態である、歯間清掃具1の連結体1Aを模式的に示した正面図である。
【0015】
図5に示す連結体1Aは、歯間清掃具1を切り離し可能に複数個並列状に連結した代表的な市場流通形態である。連結体1Aから歯間清掃具1を連結部13で切り離すことにより、歯間清掃具1を1個ずつ使用可能である。なお、連結部13の構造としては特に限定されず公知の構造をいずれも採用できるが、例えば、国際公開第2013/176297号公報、
図4に記載の構造が挙げられる。また、1又は複数の歯間清掃具1を連結体1Aにすることなく包装体等に封入してもよい。
【0016】
歯間清掃具1は、大略、合成樹脂からなる基材部10と、基材部10の少なくとも一部を被覆するエラストマからなる軟質部20と、を備える。また、歯間清掃具1は、機能で区別すると、歯間に挿入して清掃するための清掃部2と、持ち手としてのハンドル部3と、を備える。以下、歯間清掃具1の主要な各構成部材を、さらに詳しく説明する。
【0017】
(基材部)
基材部10は、持ち手としてのハンドル部3を構成するハンドル基材部11と、ハンドル基材部11の先端部に連設した細長い軸状の芯基材部12とを備える。
【0018】
ハンドル基材部11は、把持し易さ、歯間清掃時における歯間清掃具1の操作性等の観点から、本実施形態では芯基材部12よりも幅広でかつ扁平板状の形状を有しているが、これに限定されず、例えば円形や楕円形や多角形等の任意の形状とすることができる。ハンドル基材部11の先端部は芯基材部12側へ行くにしたがって幅狭に構成されて、芯基材部12に滑らかに連設されている。ハンドル基材部11の寸法は、手で保持して歯間を清掃し易い寸法であれば任意の寸法に設定でき、
図1に示す形状のハンドル基材部11では、例えば長さL1は10mm〜25mm、幅W1は4mm〜10mm、把持部分の厚さt1は1.0mm〜2.0mmに設定できる。ハンドル基材部11を薄肉に構成しているので、基材部10を成形するときに、ハンドル基材部11の収縮による寸法バラツキを少なくできるとともに、ヒケを防止して、軟質部20を成形するための後述する金型への基材部10の装填不良を防止できる。
【0019】
芯基材部12は、略直線状の細長い軸状に形成され、ハンドル基材部11からその先端部に向かう方向において、一端がハンドル基材部11の先端部に連設され、その表面が外部に露出する芯露出部12aと、芯露出部12aに連設された芯本体12bとから構成される。芯本体12bの表面は、エラストマからなる軟質清掃部21で覆われ、歯間に挿入可能な清掃部2を構成する。なお、軟質清掃部21の詳細については後述する。
【0020】
芯基材部12は細長い円柱状や角柱状に形成してもよいが、清掃部2の歯間挿入性の向上、歯間清掃時に各々大きさの異なる歯間鼓形空隙部の歯間乳頭部を1本の歯間清掃具1で無理なくマッサージできるという付加的効果等を考慮すると、ハンドル基材部11から芯基材部12の先端に向かう方向において、次第に縮径するテーパ形状に形成することが好ましい。ここで、芯基材部12の長さ方向中心線に対するテーパ形状のなす角度θは、好ましくは0.2°〜2.5°、より好ましくは0.2°〜1.8°に設定される。
【0021】
芯基材部12のテーパ形状のなす角度θは、芯基材部12の全長にわたって同じ角度θに設定してもよく、芯基材部12の先端側へ行くにしたがって連続的又は段階的に小さくなるように設定してもよい。また、芯露出部12aを全長にわたって同じ直径の軸状に形成し、芯本体12bのみを先端側へ行くにしたがって縮径する緩やかなテーパ形状に形成してもよい。更に、芯露出部12aを省略し、芯本体12bをハンドル基材部11に連設してもよい。
【0022】
次に、基材部10の主要箇所の寸法の一例を挙げる。
ハンドル基材部11の先端部側面のアール(湾曲部)の終点から軟質部20の被覆部20aの基端部までの芯基材部12の露出部12aの長さL2は、操作性を考慮して、例えば10mm〜50mm、好ましくは10mm〜25mmに設定され、清掃用軟質部21の長さL3は歯間に対する清掃性を考慮して、例えば12mm〜22mmに設定されるのが好ましい。
【0023】
芯本体12bの先端側部分の直径は0.4mm〜0.6mmに設定され、芯本体12bの基端部の直径は0.8mm〜2.0mmに設定され、また清掃用軟質部21の芯被覆部21aの先端部分の曲面終端部における直径Dは0.5〜1.2mmに設定され、芯本体12bの先端部から少なくとも5mm以上の芯本体12bの先端側部分を確実に歯間に挿入できるように構成されている。
【0024】
基材部10を構成する合成樹脂材料としては、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、飽和ポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、プロピオン酸セルロース、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)等の熱可塑性合成樹脂材料を採用できる。これらの中でも、基材部10の折れ防止等の観点から、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート等が好ましい。ポリプロピレンは、成形温度が低く、サイクルタイムを短縮して生産性を向上できるとともに、成形設備に対する熱負荷が少ないことから最も好ましい。
【0025】
本発明では、基材部10を構成する合成樹脂材料に繊維材や鉱物等の添加剤を添加してもよい。繊維材としては特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維や、アラミド繊維等の有機繊維等を採用できる。また、鉱物としては、タルクやマイカ等を採用することができる。
【0026】
繊維材や鉱物を添加すると、基材部10の寸法安定性が向上するとともに、基材部10の強度剛性が高くなって変形が効果的に防止されるため、後述するように、成形した基材部10をインサート成形の金型40、41の成形空間42に装填する場合は装填不良も防止できる。更に、繊維材により芯基材部12の熱変形温度を高くできるため、清掃用軟質部21を成形するときのエラストマ材料の熱により、芯基材部12が軟化して変形することを効果的に防止できるとともに、繊維材により強度剛性が高くなるため、エラストマ材料の射出圧による芯基材部12の変形を防止でき、清掃用軟質部21の成形不良を効果的に防止できる。
【0027】
また、繊維材を使用する場合は、繊維材の長さ方向が基材部10の長さ方向に沿うように配向されていることが好ましく、このように構成することで、基材部10の曲げ強度や軸方向に対する座屈強度をより向上でき、歯間清掃具1の使用時における、芯基材部12の折れや座屈をより効果的に防止できる。また、
図5に示す歯間清掃具連結体1Aにおいて、繊維材を基材部10の長さ方向に配向させた場合は、歯間清掃具連結体1Aの連結部13における切り離しが容易になる。
【0028】
繊維材の配合割合は、基材部10の設計形状や基材部10を構成する合成樹脂材料の種類等に応じて適宜選択されるが、合成樹脂材料と繊維材との合計量に対して、好ましくは12〜35重量%、より好ましくは15〜35重量%、さらに好ましくは20〜30重量%である。繊維材の配合割合が12重量%未満の場合には、清掃部2が曲り易くなって、歯間挿入性が低下する傾向がある。また、繊維材の配合割合が35重量%を超えると、清掃部2の耐久性が低下し、折れ易くなる傾向がある。合成樹脂材料がポリプロピレンである場合は、繊維材の配合割合は好ましくは15〜35重量%であり、ポリブチレンテレフタレートである場合は、繊維材の配合割合は好ましくは12〜35重量%、より好ましくは15〜35重量%である。
【0029】
繊維材や鉱物を添加すると、基材部10の寸法安定性が向上するとともに、基材部10の強度剛性が高くなって変形が効果的に防止されるため、後述するように、成形した基材部10をインサート成形の金型40、41の成形空間42に装填する場合は装填不良も防止できる。更に、繊維材により芯基材部12の熱変形温度を高くできるため、清掃用軟質部21を成形するときのエラストマ材料の熱により、芯基材部12が軟化して変形することを効果的に防止できるとともに、繊維材により強度剛性が高くなるため、エラストマ材料の射出圧による芯基材部12の変形を防止でき、清掃用軟質部21の成形不良を効果的に防止できる。
【0030】
(軟質部)
軟質部20は、
図2に示すように、エラストマ材料を用いて基材部10にインサート成形により一体としたもので、芯基材部12に外装した清掃用軟質部21を備える。ただし、軟質部20として、芯本体12bの基端部に歯間への挿入を規制する環状の挿入規制部を設けたり、ハンドル基材部11に滑り止め部を設けたりすることも可能である(何れも図示せず)。挿入規制部や滑り止め部は、清掃用軟質部21とは独立に成形することも可能であるが、金型構造が複雑になるので、清掃用軟質部21の基部に連なるように形成することが好ましい。
【0031】
清掃用軟質部21は、芯基材部12(芯本体12b)に被覆される芯被覆部21aと、芯被覆部21aに一体的に形成され、芯基材部12の長さ方向に間隔をあけて外方へ突出状に形成した多数の突起部21bと、芯被覆部21aの複数の突起部21b間に形成され、前記長手方向に交差する方向に細長い形状の複数の凹部21cと、を有している。
【0032】
芯被覆部21aの厚みが厚過ぎると芯被覆部21aに覆われた芯本体12bの直径を小さくする必要が生じ、清掃部2の剛性が大きく低下し、歯間清掃時に清掃部2の折れが発生し易くなる傾向がある。また、形状等に大きな影響を及ぼすカルマン渦が成形時に発生し易くなり、不良品率が高まる傾向がある。芯被覆部21の厚みが薄過ぎると、成形時に清掃部2の基端部までエラストマ材料を充填できない場合が生じ、不良品率が高まる傾向がある。このため、芯被覆部21aの厚みは0.08〜0.2mmに設定することが好ましい。
【0033】
一の突起部21bと、それに隣り合う他の突起部21bとは、芯被覆部21aの長手方向及び周方向にそれぞれ間隔をあけて配置されている。複数の突起部21bの配置の一例を挙げれば、芯被覆部21aのインサート成形による成形等を考慮し、芯被覆部21aの周方向には、芯被覆部21aからインサート成形用上下金型(以下単に「上下金型」と呼ぶことがある)の型開閉方向の一側方に突出する一対の突起部21bと、芯被覆部21aから型開閉方向の他側方に突出する一対の突起部21bと、芯被覆部21aから上下金型の合わせ面に沿って一側方へ突出する1つの突起部21bと、芯被覆部21aから該合わせ面に沿って他側方へ突出する1つの突起部21bの計6種類の突起部21bの配列パターンが挙げられる。
【0034】
上記配列パターンにおいて、いずれの組の突起部21bの長さ方向の間隔も、先端側から基端側に亘り規則的にすることにより、突起部21bの欠落を失くすことができる。また、このような複数組の突起部21bは、全体として螺旋状に規則的に並ぶように形成されていてもよい。ただし、突起部21bは、上記以外の配列パターンで形成することも可能である。
【0035】
突起部21bの基端部の断面積や長さ、個数や配設ピッチは、任意に設定可能であるが、成形性及び清掃性を考慮して、突起部21bの基端部の断面積は好ましくは0.03〜1.5mm
2程度であり、突起部21bの長さは好ましくは0.5〜2.0mm程度であり、突起部21bの個数は好ましくは20〜100個であり、突起部21bの配設ピッチは好ましくは0.5〜1.5mmである。また、突起部21bは本実施形態では円錐状の立体形状を有するが、これに限定されず、軸方向に扁平な平板状の先細形状のもの等でもよい。更に、突起部21bの断面形状は本実施形態では円形であるが、これに限定されず、楕円形や多角形等の任意の断面形状でよい。
【0036】
凹部21cは、芯被覆部21aの複数の突起部21b間に複数形成され、芯基材部12(芯被覆部21a)の長手方向に交差する方向に細長い形状を有する。凹部21cは、前記長手方向に一列に並んだ一組の複数の突起部21bの隣接する突起部21bの間に形成されている。凹部21cの数は、適宜決定することができるが、清掃性、後述するインサート成形時の成形性などの観点から、列状に並んだ突起部21bのうち長手方向に隣接する突起部21b間の総数の14〜71%に凹部21cが形成されているのが好ましく、14〜42%がより好ましい。
図1に示す例では、列状(1列)に並んだ突起部21bの突起部間の総数は14個であるため、凹部21cの数は、2〜10個が好ましい。
【0037】
また、凹部21cの形成箇所は、後述するインサート成形時の成形性などの観点から、清掃用軟質部21の先端から基端側へ向けて2mmの範囲内の芯被覆部21aの一側面とその反対側の側面に形成されているとともに、清掃用軟質部21の基端から先端側に向けて4mmの範囲内の芯被覆部21aの一側面とその反対側の側面に形成されているのが好ましい。さらに、凹部21cを3箇所以上設ける場合は、清掃用軟質部21の先端側に多く設けるのが好ましい。特に、芯基材部12の先端側が先細りするテーパ形状の場合は、芯基材部12の先端側が剛性が低くなるため、後述するインサート成形時の芯基材部12の変形などを防止することができる。また、先端側が歯間に入りやすいため、その部分に凹部21cが多く設けられることで清掃性が向上する。
【0038】
さらに、凹部21cは、芯被覆部21aの一側面にその長手方向に沿って形成されているとともに、これとは反対側の側面に長手方向に沿って形成されているのが好ましい。このように凹部21cを設けることで、歯間を清掃する場合に、歯間清掃具の対面する両側の歯において除去される歯垢等を一度に凹部21cで容易に捕捉することができる。また、インサート成形時に芯基材部12を対向する保持ピンで確実に保持することができ、芯基材部12の変形を効果的に防止することができる。
【0039】
このように、凹部21cを芯被覆部21aの一側面とそれとは反対側の側面の長手方向に沿って形成した場合における、一方の側面のある1つの凹部21cと、この凹部21cに近接する他方の側面の1つの凹部21cを1対とした場合の両者の位置関係は、突起部21bの配置にもよるが、両者は長手方向にずらして配置されているのが好ましい(例えば、
図2(b)参照。)。このような配置の場合、凹部21cを芯被覆部21aにより多く形成できる傾向にあり、清掃性が向上する。また、表面積を増加させることもできる。さらに、インサート成形時に芯基材部12をより多くの保持ピンで保持し易く、より確実に芯基材部12を保持し易くなる。
【0040】
凹部21cの形状は、細長い形状を有していればよく、例えば、芯被覆部21aの平面視で細長い多角形状、細長い楕円状、これらに準ずる形状などが挙げられる。多角形状としては三角形、四角形以上などが挙げられる。また、凹部21cの底面部は、凹部21c芯基材部12の表面に沿うように形成されるのが好ましい。これにより、芯被覆部21aの厚みを抑制しつつ、凹部21cの深さを確保できる傾向にある。また、凹部21の形状をほぼ円形や、ほぼ正方形とすることもできる。
【0041】
凹部21cの大きさは、突起部21bの配置や形状によるが、例えば、芯被覆部21aの平面視で細長い四角形状の場合、交差方向の長さは、同平面視で芯被覆部21aの一方の側部から他方の側部に亘る直線距離L5の45%〜100%が好ましく、50%〜85%がより好ましい。また、交差方向に直交する最大幅W2は、交差方向の長さの5%〜60%が好ましく、7%〜25%がより好ましい。凹部21cの最大深さは、芯被覆部21aの厚みによるが、厚みの80%〜100%が好ましく、90%〜100%がより好ましい。
【0042】
芯基材部12(芯被覆部21a)の長手方向中心軸に交差する凹部21cの角度αとしては、突起部21bの配置によるが、0°より大きく90°以下であるのが好ましく、成形時の不良防止、金型強度の観点からは、50°〜70°がより好ましい。
【0043】
本実施形態の歯間清掃具1では、上述した特定の凹部21cを形成することで芯被覆部21aの表面積をより大きくすることができるため、固着量をより多くすることが期待できる。また、凹部21cに捕捉した歯垢等に含まれる口腔内細菌を効果的に殺菌することが期待できる。
【0044】
なお、本実施形態の歯間清掃具1では、上述の凹部21cを設けているが、これに限定されず、凹部21cを設けなくてもよい。凹部21cの形成により、カチオン性殺菌剤の固着量は増加するが、清掃用軟質部21を構成するエラストマと特定のカチオン性殺菌剤との固着性の強さにより、凹部21cを形成しなくとも、歯間清掃具1の1〜3回程度の使用では、歯間清掃効果と共に、比較的良好な殺菌効果をも持続的に得ることができる。
【0045】
清掃用軟質部21は、その表面(芯被覆部21a及び突起部21bの各表面)の少なくとも一部に、グルコン酸クロルヘキシジン及び塩化ベンザルコニウムから選択される少なくとも1種のカチオン性殺菌剤からなる固着層(不図示)を有する。前記特定のカチオン性殺菌剤は、清掃用軟質部21を構成するエラストマに対する固着力(又は接着力)が高く、歯間清掃具1の流通中や保存中には清掃用軟質部21の表面から離脱するか又は放出されることは殆どない。一方、歯間清掃具1を用いて歯間の清掃を行なうときには、歯や唾液との接触等により、清掃用軟質部21の表面から該カチオン性殺菌剤が比較的容易に離脱するか又は放出されるので、歯間清掃及び口腔内や歯間部内に存在する細菌の殺菌という2つの効果を同時に得ることができる。
【0046】
清掃用軟質部21の表面への該カチオン性殺菌剤の固着方法としては特に限定されないが、例えば、清掃用軟質部21と該カチオン性殺菌剤の溶液又は分散液とを接触させる方法等が挙げられる。接触の具体例としては、例えば、清掃用軟質部21を該カチオン性殺菌剤の溶液又は分散液に浸漬する方法、該溶液又は分散液を清掃用軟質部21に噴霧する噴霧方法、該溶液又は分散液を清掃用軟質部21にローラ、刷毛等で塗布する方法等が挙げられる。これらの中でも、該カチオン性殺菌剤が清掃用軟質部21を構成するエラストマに固着し易い点を考慮すれば、該カチオン性殺菌剤が均一に固着し、固着量も増加することから、浸漬法及び噴霧法が好ましく、浸漬法がより好ましい。
【0047】
ここで、該カチオン性殺菌剤の溶液や分散液を得るために用いられる溶剤としては特に限定されないが、例えば、水、エタノール、グリセリン等が挙げられ、該カチオン性殺菌剤の溶解性等の観点から、水が好ましい。カチオン性殺菌剤の溶液又は分散液には、必要に応じて、固着させる該カチオン性殺菌剤以外の他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、例えば、該カチオン剤性殺菌剤以外のカチオン性殺菌剤(塩酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウム等)、アニオン性殺菌剤(ラウロイルサルコジンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等)、ノニオン性殺菌剤(トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等)、洗口液に含まれる各種成分、殺菌剤や抗菌剤を含む市販品(そのまま又は溶媒希釈物)等が挙げられる。
【0048】
また、該カチオン性殺菌剤の溶液又は分散液における濃度は特に限定されないが、清掃用軟質部21に十分量の該カチオン性殺菌剤を固着させる観点等から、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.3〜20重量%、さらに好ましくは0.5〜20重量%である。該カチオン性殺菌剤の濃度が前記範囲にある溶液又は分散液を用いることにより、清掃用軟質部21表面への該カチオン性殺菌剤の固着量は、通常0.05μg/mm
2以上となり、清掃用軟質部21全体として優れた殺菌効果を発揮できる。固着量は、より好ましくは0.2μg/mm
2、さらに好ましくは0.24μg/mm
2以上、特に好ましくは1.0μg/mm
2以上、最も好ましくは1.05μg/mm
2以上である。なお、該カチオン性殺菌剤の固着量の上限は、使用するカチオン性殺菌剤の種類に応じてその殺菌力から適宜設定することができる。溶液又は分散液中の該カチオン性殺菌剤の濃度が0.1重量%未満では清掃用軟質部21表面への該カチオン性殺菌剤の固着量が少なくなり、該カチオン性殺菌剤の効果が不十分になるおそれがある。また、20重量%を超えると、軟質清掃部21表面への該カチオン性殺菌剤の固着量に殆ど変化がないので、不経済である。
【0049】
該カチオン性殺菌剤の溶液又は分散液を清掃用軟質部21表面に塗布した後、風乾、熱乾等の方法で乾燥させることで、清掃用軟質部21の表面に該カチオン性殺菌剤が放出可能に固着された歯間清掃具1が得られる。乾燥処理は、例えば、20〜150℃の温度で、30秒間〜12時間行うとよい。
【0050】
軟質部20(清掃用軟質部21)を構成するエラストマとしては、スチレン系、オレフィン系、ポリアミド系(例えば、6ナイロン、6−6ナイロン、6−10ナイロン、6−12ナイロン等をハードセグメントとして有するナイロン系エラストマ)、ウレタン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマや、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴムなどの熱硬化性エラストマなどを採用できる。これらの中でも、上記カチオン性殺菌剤の固着し易さ等の観点から、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、及びポリエステル系エラストマが好ましく、スチレン系エラストマがより好ましい。スチレン系エラストマの中では、ショアA硬度が25〜50であるものが好ましく、30〜40であるものがより好ましい。また、基材部10を構成する合成樹脂材料との相溶性を有するエラストマが好ましく、例えば基材部10をポリプロピレンで構成する場合には、軟質部20をオレフィン系エラストマ又はスチレン系エラストマで構成することが好ましい。
【0051】
本発明では、清掃用軟質部21の表面に特定のカチオン性殺菌剤が放出可能に固着されていることにより。カチオン性殺菌剤が、歯間清掃中に唾液等により清掃用軟質部21の表面から溶出することで歯表面や歯茎等に存在する細菌に作用して歯間の清掃性をより向上させることができる。
【0052】
尚、殺菌剤の放出特性は、例えば次のようにして測定することができる。
ブレインハートインフュージョン(BHI)培地にテストピースを設置し、嫌気条件で、37℃、3日間、S.mutansを培養した後、テストピース(例えば、歯間清掃具の清掃部や、25mm×5mm×2mmの試験片など。)の中心点から、その長辺方向に対して直交する方向に、S.mutansの存在が認められない円(阻止円)の幅を測定する。経験上、阻止円の幅が10.5mm以上である場合に良好な放出特性があると判断できる。
【0053】
本発明では、殺菌剤以外に、必要に応じて、他の成分が付着されていてもよい。例えば、グリセリンなどの多価アルコール、ミントなどの香料、ステビアやサッカリンなどの甘味料、クエン酸などの有機酸、有機酸の塩や無水物、硫酸ナトリウムなどの無機塩、色素、界面活性剤などが挙げられる。
【0054】
<製造方法>
(歯間清掃具の製造方法)
次に、本発明の第1実施形態である歯間清掃具1の製造方法について説明する。この歯間清掃具1の製造方法では、基材部の芯基材部の少なくとも一部の軟質部を成形する金型の成形空間にセットし、金型の合わせ面と略直交状に清掃用軟質部成形部内に突出するように対向配置した一対の保持ピンを1組とする少なくとも2組の保持ピンで、芯基材部の先端側部分と基端側部分とを含む芯基材部の長さ方向の2か所以上を、金型における清掃用軟質部成形部の略中央部にそれぞれ保持した状態で、清掃用軟質部成形部に対して先端側から基端部側へ向けてエラストマ材料が充填されるように、成形空間にエラストマ材料を充填して軟質部を成形する工程を有することを特徴とする。
【0055】
この工程において使用する金型の清掃用軟質部成形部は、芯基材部を被覆する芯被覆部を成形する芯被覆部成形部と、芯被覆部に一体的に形成され、芯基材部の長手方向に間隔をあけて外方へ突出状に形成された多数の突起部を成形する多数の突起部成形部とを有する。また、保持ピンは、芯基材部の長手方向に交差する方向に細長い先端部形状を有し、突起部成形部の間の芯被覆部成形部から清掃用軟質部成形部内に突出するように配置され、芯基材部を保持した部分に、芯被覆部の複数の突起部間に形成された、長手方向に交差する方向に細長い形状の複数の凹部を形成する。
【0056】
このように、歯間清掃具1の製造方法では、保持ピンを、芯基材部の長手方向に交差する方向に細長い先端部形状を有するように構成した。このため、保持ピンを、金型に形成された突起部成形部の間の芯被覆部成形部から清掃用軟質部成形部内に突出させることができる。つまり、保持ピンを設けるために突起部成形部を潰す必要がない。
また、突起部成形部を潰すことなく、保持ピンを多数設けることができる。そのため、芯基材部を安定して支持することができる。また、エラストマ材料の射出圧や射出時の熱による変形を防止することができる。これらの結果、歯間清掃具や歯間清掃具連結体を安定して生産することができる。
さらに、芯被覆部に多数の突起部と凹部を形成することもできるため、歯間清掃具の清掃性を向上させることができる。また、殺菌剤を固着させる場合、表面積を増やすことができるため、殺菌剤の固着量を増やすことができる。
【0057】
歯間清掃具1の製造方法の実施形態を、
図6〜8を参照しつつ説明する。
本発明の歯間清掃具の製造方法では、先ず、基材部10を射出成形により成形する。そして成形した基材部10を金型40、41の成形空間42にセットした後、成形空間42にエラストマ材料を充填して軟質部20を成形する。
【0058】
金型40、41には、成形した基材部10に対応する位置に成形空間42が形成される。金型40、41と基材部10間には成形空間42として、芯基材部12を取り囲む清掃用軟質部成形部46が形成されている。また、金型40、41に形成される清掃用軟質部成形部46は、金型40、41にそれぞれ形成される2つ1組の突起部21bと、金型40、41の合わせ面40a、41aに沿って突出する2つの突起部21bとを成形する突起部成形部46b、及び、芯被覆部21aを成形する芯被覆部成形部46cを備える。突起部21bを規則的に多数設けるとともに、保持ピンを多数設ける観点から、突起部成形部46bは、成形空間42にセットされた芯基材部12の長手方向に沿って複数の列状に並んでいるのが好ましい。
【0059】
清掃用軟質部成形部46の先端側において金型40、41の合わせ面40a、41aには、清掃用軟質部成形部46の先端部に開口するゲート47が形成され、ゲート47は金型40、41に形成したランナ48に連通され、ランナ48からゲート47を経て成形空間42にエラストマ材料が供給されるように構成されている。なお、ゲート47の直径は0.1mm以上1.0mm以下に設定することが好ましい。
【0060】
金型40、41には、清掃用軟質部成形部46の先端側部分と途中部と基端側部分とにそれぞれ対応させて1対の先端側保持ピン50と複数の1対の途中部保持ピン51(ただし、この途中部保持ピン51は、必要に応じて設けているが、省略することもある。)と1対の基端側保持ピン52とが設けられるのが好ましい。また、これら一対の保持ピン50〜52は、金型40、41の合わせ面40a、41aと略直交方向、言い換えると金型40、41の型開閉方向に移動自在に設けられるのが好ましい。このように構成すると、
図8に示すように、これら一対の保持ピン50〜52の先端部を清掃用軟質部成形部46内に突出させて、各組の保持ピン50〜52の先端部間に芯基材部12を挟持することで、清掃用軟質部成形部46の中央部に精度良く位置決め保持できる。
【0061】
保持ピン50〜52は、突起部成形部46bの間の芯被覆部成形部46cから清掃用軟質部成形部46内に突出するように配置される。また、一対の保持ピン50〜52は、清掃用軟質部成形部46の長手方向にずらして配置するのが好ましく、一方の保持ピンの仮想延長部分が他方の保持ピンと接しないように、相互に互い違いに配置するのがより好ましい(例えば、
図7(b)参照。)。これにより、突起部成形部46bの間により多くの保持ピン50〜52を配置できる傾向にあるため、インサート成形時に芯基材部12をより多くの保持ピンで保持することができ、より確実に芯基材部12を保持できる。また、保持ピンで保持した部分に凹部21cが形成されるため、凹部21cを芯被覆部21aにより多く形成できる傾向にあり、清掃性を向上することができる傾向にある。
【0062】
保持ピン50〜52は、芯基材部12の長手方向に沿って複数の列状に並べられた隣接する突起部成形部46bの間に設けるのが好ましい。また、突起部成形部46bが多数の場合は、列状に並べられた隣接する突起部成形部46bの間には1つの保持ピン50〜52を設けるのが好ましい。さらに、保持ピン50〜52は、列状に並べられた突起部成形部46bにおいてその隣接する突起部成形部46b間の総数の14〜71%に配置するのが好ましく、14〜42%がより好ましい。
図6に示す例では、列状に並んだ突起部成形部46bの突起部成形部46b間の総数は14個(14組)であるため、保持ピン50〜52の数は、2〜10個(2〜10組)が好ましく、2〜6個(2〜6組)がより好ましい。但し、保持ピンの数が2個(2組)の場合は、先端側保持ピン50と基端側保持ピン52とで構成される。
【0063】
保持ピン50〜52の先端部形状は、芯基材部12の長手方向に交差する方向に細長い形状を有しておればよい。細長い形状とは、長手方向の最大幅と短手方向の最大幅の比(長/短)が5/3以上であるものを意味する。また、芯基材部12の保持力、凹部21cの表面積を確保する観点からは、20/1以下が好ましく、13/1以下がより好ましい。
【0064】
保持ピンの先端部形状としては、具体的には、例えば、保持ピン50〜52の長手方向に直交する方向の断面(横断面)が細長い多角形状、細長い楕円形状、これらに準ずる細長い形状であるのが好ましい。また、多角形のうち、保持ピンの作製し易さ、安定した芯基材部の保持のため、四角形がより好ましい。即ち、横断面が細長い四角形状であるのがより好ましい。保持ピンの先端部形状は、ほぼ円形、ほぼ正方形などでも良い。
【0065】
芯基材部12の長手方向中心軸に交差する保持ピン50〜52の角度βとしては、突起部成形部46bの配置によるが、0°より大きく90°以下であるのが好ましく、成形時の不良防止、金型強度の観点からは、50°〜70°がより好ましい。
【0066】
保持ピン50〜52のうちの芯基材部12に当接する先端面は、保持ピン50〜52の軸方向と直交する平坦な面で構成してもよいし、芯基材部12の外周面に沿った円弧面、外周面より小さな曲率の円弧面で構成してもよい。このうち、外周面に沿った面形状(
図1に示す芯基材部12に対しては円弧面形状)の場合は、芯基材部のホールド性をより向上できる点で好ましい。
【0067】
保持ピン50〜52の断面積は、先端側保持ピン50、複数の途中部保持ピン51、基端側保持ピン52の順番で大きくなるように構成されている。また、複数の途中部保持ピン51も、先端側から基端側に向かうに従い断面積が大きくなるように構成されている。清掃用軟質部成形部46の先端側部分は通路面積が小さくなるので、先端側保持ピン50の断面積を最も小さくすることで、エラストマ材料の流通抵抗を極力小さく設定するとともに、成形時に発生するカルマン渦の影響を抑えることにより、清掃用軟質部成形部46に対するエラストマ材料の充填不良を防止できるとともに、芯基材部12の過度の溶融を防止できる。もっとも、保持ピン50〜52の断面積は同じに設定することも可能である。
【0068】
先端側保持ピン50は、清掃用軟質部成形部46の先端部46aから基端側へ向けて2mmの範囲内に相当する芯基材部部分に先端が接する位置に設けられ、その先端側保持ピン50の芯基材部12に接する部分の断面積は0.03mm
2〜0.2mm
2に設定されるのが好ましい。なお、「芯基材部に接する部分の断面積」は、保持ピンの先端付近の横断面積を意味する場合がある。また、基端側保持ピン52は、清掃用軟質部成形部46の基端部から先端側へ向けて4mmの範囲内に相当する芯基材部部分に先端が接する位置に設けられ、その基端側保持ピン52の先端付近の断面積は0.05mm
2〜0.5mm
2に設定されるのが好ましい。また、途中部保持ピン51は、先端側保持ピン50と基端側保持ピン52の間に上述した数が配置される。複数個設ける場合は、先端側に多く配分するのが好ましい。また、途中部保持ピン51の先端付近の断面積は0.04mm
2〜0.3mm
2に設定されるのが好ましく、先端側から基端側に向かうに従い大きくなるように設定されるのが好ましい。
以上のような構成により、成形時における芯基材部12の固定を確実にするだけでなく、成形時に発生するカルマン渦による成形体への影響を防止することが期待できる。
【0069】
図7に示すように、成形空間42に芯基材部12をセットして型閉じした状態で、
図8に示すように、1対の先端側保持ピン50と、1対の複数の途中部保持ピン51と、1対の基端側保持ピン52とを清掃用軟質部成形部46内に突出させて、これら複数組の保持ピン50〜52により芯基材部12を保持し、ランナ48を通じてゲート47にエラストマ材料を射出供給して、清掃用軟質部成形部46へエラストマ材料を充填する。そして、芯基材部12を保持した部分に、芯被覆部21aの複数の突起部21b間に、芯基材部12の長手方向に交差する方向に細長い形状の複数の凹部21cが形成される。
【0070】
このとき、保持ピン50〜52の断面積を清掃用軟質部成形部46の基部側へ行くにしたがって大きく設定していると、清掃用軟質部成形部46の先端部からの基端側へのエラストマ材料の充填が保持ピン50〜52により極力阻害されないようにしつつ、保持ピン50〜52と芯基材部12との接触面積を増やして、芯基材部12を安定性良く保持できることになり、射出圧に多少バラツキが生じたとしても、芯基材部12の湾曲を防止して、精度良くエラストマ材料からなる清掃用軟質部21を成形することができる。特に、保持ピン50〜52が、芯基材部の長手方向に交差する方向に細長い先端部形状を有し、途中部保持ピン51を多数配置することができるため、芯基材部12をより一層安定性良く保持でき、芯基材部12の射出圧等による変形をより一層効果的に防止できる。
【0071】
こうして、基材部10に対して軟質部20を被覆した後、合成樹脂からなるランナ部37及びゲート部36を除去するとともに、ランナ48及びゲート47にて成形されたエラストマからなるランナ部55及びゲート部56を除去して歯間清掃具1を得ることができる。
【0072】
<試験例1>
歯間清掃具の軟質部を構成する材質(エラストマ)に対する殺菌剤の固着量を確認するため、以下の試験を行った。以下において、特に断らない限り、「%」及び「部」は重量基準である。なお、本試験例で用いた殺菌剤及び主な試薬は、具体的には次のものである。
【0073】
(殺菌剤)
グルコン酸クロルヘキシジン:丸石製薬(株)製、20%水溶液、Lot.0819
塩化ベンザルコニウム(BAC):ナカライテクス(株)製、Lot.M2H0576
塩化ベンゼトニウム(BZC):和光純薬(株)製、Lot.DCE2914
ラウロイルサルコシンナトリウム(LC):日光ケミカルズ(株)製、Lot.4427
ラウリル硫酸ナトリウム(SLS):ナカライテクス(株)製、Lot.M3E8791
トリクロサン(TC);BASFジャパン株式会社、Lot.10055212
イソプロピルメチルフェノール(IPMP):大阪化成(株)製、Lot.30316
(主な試薬)
エタノール:シグマアルドリッチ社製、Lot.M3333
【0074】
(試験片の調製)
長さ5mm、幅5mm、厚み2mmの直方体の下記の各種エラストマ材料からなるテストピースを用意した。また、カチオン性殺菌剤(グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトリウム)、アニオン性殺菌剤(ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム)について、1%水溶液を調製した。なお、グルコン酸クロルヘキシジンについては、上記の1%に加え、0.001%、0.01%、0.1%、5%、10%、20%水溶液を調製した。また、ノニオン性殺菌剤(トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール)については、50%エタノール水溶液を溶媒とする1%溶液を調製した。
上記で調製した殺菌剤溶液に各テストピースを浸漬した後、37℃で一晩乾燥し、各殺菌剤が放出可能に固着された試験片を得た。
【0075】
尚、各種エラストマ材料は以下の通りである。
・スチレン系エラストマ:三菱化学(株)製、商品名「ラバロン(商標名)」
・オレフィン系エラストマ:三菱化学(株)製、商品名「サーモラン(商標名)」
・ポリエステル系エラストマ:東洋紡、商品名「ペルプレン(商標名)」
【0076】
(試験片による殺菌剤の放出特性の評価)
クリーンベンチ中にて、S. mutansの種菌一白金耳分を採取し、ブレインハートインフュージョン(BHI)培地に接種し、嫌気条件下37℃で1晩培養し、S. mutans培養液を得た。
【0077】
得られたS. mutans培養液を、トリプチケースソイ寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン社製、商品名「Trypticase Soy Agar)の平板培地に均一に塗抹した。その後、前述のようにして得られたテストピースを、厚み方向の面が培地面に接するように設置し、嫌気条件で、37℃、2日間、S.mutansを培養した。テストピースの対角線の交点(中心点)を中心として、テストピースに固着させた各殺菌剤により生ずる阻止円(S.mutansの生育が認められないほぼ円形の領域)の径を測定した。測定箇所は、テストピース1個あたり2箇所とし、その平均値を求めた。また、阻止円が15mm以上で殺菌効果が非常に大きい場合を「◎」、阻止円が10mm以上、15mm未満で殺菌効果がやや低い場合を「△」、及び阻止円が10mm未満で、殺菌効果が不十分である場合を「×」と評価した。結果を表1〜3に示す。
【0081】
表1〜表3の結果から、各種殺菌剤のうち、特定のカチオン性殺菌剤をエラストマに固着させることにより、殺菌効果が顕著に向上することが明らかである。このことから、寒天培地のような水を主体とする媒体の存在下では、試験片に固着した該カチオン性殺菌剤が該媒体におけるより広い領域まで行き渡り、その殺菌効果を示すことが判る。即ち、試験片が優れた薬剤放出性を示すことが判る。
【0082】
<試験例2>
殺菌剤としてグルコン酸クロルヘキシジン、及びエラストマとしてスチレン系エラストマ(ラバロン)を用い、グルコン酸クロルヘキシジン水溶液の濃度(表4では「殺菌剤濃度」と略称する)を表4に示す以外は、試験例1と同様にして、阻止円の径を測定した。結果を表4に示す。また、下記の方法に従って、グルコン酸クロルヘキシジンの試験片(エラストマ片)に対する固着量を測定した。この結果も表4に併記する。
【0083】
(グルコン酸クロルヘキシジン固着量の測定)
試験片からグルコン酸クロルヘキシジンを抽出するために、メタノール800ml、水200mlの混合溶液にラウリル硫酸ナトリウム40gとクエン酸一水和物21gとを添加混合し、抽出用溶液を調製した。
【0084】
グルコン酸クロルヘキシジンを上述の方法で固着させた試験片を、上記で得られた抽出用溶液1mlに浸漬し、超音波処理10分、ボルテックスミキサーで撹拌処理10分行い、サンプルを得た。このサンプルを高速液体クロマトグラフィ((株)島津製作所製、製品名LC−10A)により測定し、グルコン酸クロルヘキシジンを定量した。結果を表4に示す。
高速液体クロマトグラフィの条件は下記の通りである。
【0085】
検出器:紫外吸光光度計
測定波長:259nm
カラム:ODSカラム(野村化学(株)製、Develosol ODS−K−5(5μm))、内径4.6mm、長さ150mm
カラム温度:40℃
移動相:0.1 mol/L過塩素酸ナトリウム混液(アセトニトリル420mLに水580mLを加え、これに過塩素酸ナトリウム一水和物14gを加えたもの。)
流速:グルコン酸クロルヘキシジンの保持時間を約14分に設定
【0087】
表4から、グルコン酸クロルヘキシジンの0.1〜20%水溶液を用いてエラストマを処理することにより、エラストマに所定量のグルコン酸クロルヘキシジンが固着し、優れた殺菌効果が得られることが明らかである。