【実施例1】
【0023】
図1は、本願発明の実施の形態の一例である角形チップのメッキ治具を示す図である。(a)は角形チップを保持していない状態、(b)は角形チップを保持している状態、(c)は形状を示す図である。
【0024】
図1(a)にあるように、メッキ治具1は、枠体3(本願請求項の「枠体」の一例)と、第1保持部5(本願請求項の「第1保持部」の一例)と、第2保持部7(本願請求項の「第2保持部」の一例)(第1保持部5及び第2保持部7が本願請求項の「保持部」の一例である。)と、移動部9(本願請求項の「移動部」の一例)を備える。
【0025】
メッキ治具1は、後に説明するように、硬度の異なる複数の金属を多層化して形成したものである。そのため、通電性を有する。さらに、(特に第1保持部5及び第2保持部7について)弾性を有する。複数の金属の多層構造のため、弾性を容易に調整することができる。
【0026】
枠体3は、
図1(b)にあるように、その内側に、角形チップ13(本願請求項の「工作物」の一例)を収納可能な大きさの空間(本願請求項の「内部空間」の一例)を有する。
【0027】
第1保持部5は、凸の曲線状のものである。一方端は、枠体3と、点11で接続する。第1保持部5の他方端は、移動部9と接続する。第2保持部7も、同様に凸の曲線状のものである。一方端は、移動部9と接続し、他方端は、開放されている。そのため、第1保持部5等の弾性を利用して移動部9を移動させることにより、角形チップ13の接点箇所である第1保持部5及び第2保持部7を共に移動させることができる。ここで、第1保持部5及び第2保持部7は、後述のシミュレーション等の結果から、線幅200μmの一定の電極形状とする。
【0028】
角形チップ13は、例えば以下のようにして取り付けることができる。
図1(a)の内部空間において、第1保持部5と第2保持部7による左下側に形成される空間は、角形チップ13の大きさよりも小さい。移動部9を
図1(a)の右上に移動させることにより、枠体3の内部の左下側の空間を角形チップ13よりも大きくする。そして、角形チップ13を大きくした空間にいれ、移動部9を開放することにより、角形チップ13は、第1保持部5及び第2保持部7が押さえて固定して保持することができる。ここで、第1保持部5及び第2保持部7は、角形チップ13を押さえる向きに凸の曲面であるため、接線により安定して押さえることができる。
【0029】
図1(b)は、角形チップを取り付けた場合を示す図である。角形チップ13は、四角柱であり、4つの側面15、17、19及び21がある。側面15及び17は、枠体3によって押さえられている。側面19(本願請求項の「第1直線部に対応する側面」の一例)は第1保持部5により、側面21(本願請求項の「第2直線部に対応する側面」の一例)は第2保持部7により押さえられている。これにより、チップの取り付けに問題がないことがわかる。また、後に示すように、テスタによる導通を確認しており、角形チップ13に対して側面から給電可能である。
【0030】
図1(c)は、このチップ治具の形状を示す図である。
【0031】
角形チップ13は、例えば、
図2にあるように、厚さが0.2〜0.3mmの柱状の角形基盤と、角形基盤の表面にシード層を有し、柱状の上面のレジストとバンプパターンを用いて、側面のマイクロ取り出し電極を用いて、側面から給電してメッキ処理が可能なものである。
【0032】
メッキ治具1は、例えば、
図3にあるように、次のように製造することができる。大きく、パターニング処理と、精密電鋳処理に分かれる。パターニング処理は、基板上にDFRをラミネートし、メッキ治具1の形状で露光・現像することにより、基板上にDFRのパターンを形成するものである。精密電鋳処理は、形成されたパターンを用いて電鋳処理を行い、DFRを除去し、基板を除去することにより、電鋳を形成して、メッキ治具1を生成する。
【0033】
図4は、本願発明の実施の形態の他の例である角形チップのメッキ治具を示す図である。
図4(a)では、
図1と比較して、強度確保のために保持部と枠体の接点部分(保持部の根元部)を太くしている。
図4(b)は、
図4(a)のチップ取り付け状態を示す。
図4(c)は、2つのばね状に加工した保持部により独立して押さえるものである。
図4(d)は、
図4(c)のチップ取り付け状態を示す。この場合、2か所を同時に変形させる必要がある。
図4(e)は、ばね状に加工して右上から押さえるものを示す。
図4(f)は、
図4(e)のチップ取り付け状態を示す。
図4(g)は、2つの保持部により独立して押さえるものである。保持部は、円状のものを組み合わせてバネ性を持たせたものである。
図4(h)は、
図4(g)のチップ取り付け状態を示す。この場合も2か所を同時に変形させる必要がある。(a)及び(e)では、一度で接点箇所が両方動く。
【0034】
図1及び
図4により、本願発明の治具により、角形チップを保持することが可能であり、さらに、角形チップに対して側面給電が可能であることがわかる。そのため、角形チップの側面に例えばバンプメッキ用取り付け電極などとして通電部を設けて側面給電を行うことにより、チップの表面に電気メッキのための通電部を設ける必要がなくなる。
【0035】
続いて、複数の金属の積層構造評価について説明する。取り出し電極(
図1の第1保持部5及び第2保持部7)に弾性(バネ性)を持たせるため、Cu、Ni、Au等の金属を組み合わせた積層構造の材料特性評価を行った。実験は、
図5(a)にあるように、メッキ皮膜で引張試験機にてヤング率測定を行った。
図5では、引張試験片を上下に引っ張っている。
図5(b)は、
図5(a)の引張試験片のA−A断面の断面イメージであり、Cu皮膜とNi皮膜を繰り返すことにより多層化している。金属の組み合わせの最適値は、例えば高いヤング率を安定して得られるように硬度に着目したり、最大応力までの変位を大きくするために層毎の膜厚は厚くしたり、最大応力までの変位を大きくするために硬度が低くしたりして決定すればよい。
【0036】
図6は、さまざまな金属電極材質を評価するためにCuとNiの膜厚比を変えた試料による引張試験の追加実験における引張実験片の断面イメージを示す。低硬度で伸びが大きいCu皮膜に対し、上下からサンドイッチ構造でNi皮膜を増加させてNi比を大きくする。Ni皮膜は、高硬度であり、伸びが小さい。
【0037】
今回得られたヤング率などの物性値を用いて、マイクロ取り出し電極構造の簡易シミュレーションを行った。マイクロ取り出し電極構造の電極幅は、片持ち梁のシミュレーションにおいて、断面形状やヤング率等のパラメータを入力することで、塑性変形しない電極幅を決定することができる。
【0038】
図7は、片持ち梁構造を示す図である。荷重F[N]が曲げ応力σmax[MPa]よりも大きいときに塑性変形する。マイクロ取り出し電極へのチップ取り付けを想定し、2mm可動必要と仮定した場合のシミュレーションでは、最大応力を400MPaとした場合、長さが8mm以上あれば、2mm可動させても塑性変形せずにチップを保持できることがわかった。
【0039】
ただし、塑性変形せずにチップを押さえるためには、0.01N程度と低荷重すぎるので、実作業(特にメッキプロセス)で問題ないかをシミュレーションにより確認した。
図8を参照してメッキプロセスにおける外力シミュレーションを説明する。メッキ実作業の噴流による外力を想定し、チップを保持できるかのシミュレーションについて説明する。
図8は、チップを取り付けた電極に噴流が当たる概要を示す図である。保持力P[N]が外力F[N]よりも大きければよい。はりの長さ10mmの場合、電極幅が200μmあれば、噴流による外力が発生してもチップを保持できる。
【0040】
図9は、
図1の電極形状の保持力の追加評価を示す図である。(a)は、保持力試験前を示し、(b)は保持力試験時を示す。(c)は、チップの導通確認を示す。下記の表にあるように、荷重に対して十分な保持力が認められた。また、下記の実験では、導通も確認することができた。
【0041】
【表1】
【0042】
図10は、精密電鋳により作成された構造体の断面観察を示す図である。精密電鋳で作成された構造体は、機械加工等と比較して直線性に優れており、角形チップとの接点に適する。
図1の電極形状の接点箇所の直線性を確認するため、断面試料を作製してSEM観察を行った。(a)は、電極形状を示し、(b)は、A−A断面のSEM断面観察を示す。角形チップとの接点部分を観察した結果、直線性があり、角形チップの接点として問題ないこと、電極幅が約200μm、電鋳厚さが約250μmであること、ディッシングがおさえられた形状であり、ほぼ狙いどおりに取り出し電極を作製できていることがわかった。