特許第6455807号(P6455807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6455807-リチウムイオン二次電池 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6455807
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20190110BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20190110BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20190110BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20190110BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190110BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190110BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20190110BHJP
【FI】
   H01M10/0525
   H01M10/0562
   H01M10/0585
   H01M4/62 Z
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/58
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-83427(P2015-83427)
(22)【出願日】2015年4月15日
(65)【公開番号】特開2016-1597(P2016-1597A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2017年12月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-103037(P2014-103037)
(32)【優先日】2014年5月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐野 篤史
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−129790(JP,A)
【文献】 特開2013−037992(JP,A)
【文献】 特開2011−216235(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157774(WO,A1)
【文献】 Solid State Ionics,1991年 9月,Vol.47,No.3−4,pp.257−264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525、10/0562、10/0585
4/505、4/525、4/58、4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と負極層が固体電解質層を介して交互に積層した焼結体からなる全固体型のリチウムイオン二次電池において、
前記正極層、前記負極層、及び前記固体電解質層に含有されるリチウムとホウ素からなる化合物が前記正極層に含有される正極活物質、前記負極層に含有される負極活物質、及び前記固体電解質層に含有される固体電解質に対してLiCOとして換算したときのリチウム量が4.38mol%から13.34mol%の範囲であり、かつHBOとして換算したときのホウ素量が0.37mol%から1.11mol%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記リチウムとホウ素からなる化合物が前記正極層に含有される正極活物質、前記負極層に含有される負極活物質、及び前記固体電解質層に含有される固体電解質の粒界に存在することを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記リチウムとホウ素からなる化合物がアモルファスであることを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記固体電解質層を構成する固体電解質は、Li3+x1Six11−x1(0.4≦x1≦0.6)、Li1+x2Alx2Ti2−x2(PO(0≦x2≦0.6)、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe(PO)、LiO−V−SiO、LiO−P−Bよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記正極層又は前記負極層を構成する正極活物質又は負極活物質は、リチウムマンガン複合酸化物LiMnx3Ma1−x3(0.8≦x3≦1、Ma=Co、Ni)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNix4Coy4Mnz4(x4+y4+z4=1、0≦x4≦1、0≦y4≦1、0≦z4≦1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMbPO(ただし、Mbは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素)、リン酸バナジウムリチウム(Li(PO又はLiVOPO)、Li過剰系固溶体正極LiMnO−LiMcO(Mc=Mn、Co、Ni)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNix5Coy5Alz5(0.9<a<1.3、0.9<x5+y5+z5<1.1)で表される複合金属酸化物のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記固体電解質層を構成する固体電解質がケイリン酸リチウム(Li3+x1Six11−x1(0.4≦x1≦0.6))であり、前記正極層ならびに前記負極層を構成する活物質材料がリチウムマンガン複合酸化物LiMnx31−x3(0.8≦x3≦1、M=Co、Ni)である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対し、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれており、固体電解質から成る全固体型のリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
一般に、全固体型リチウムイオン二次電池は、薄膜型とバルク型の2種類に分類される。薄膜型は、PVD法やゾルゲル法などの薄膜技術により、またバルク型は電極活物質や粒界抵抗の低い硫化物系固体電解質の粉末成型により作製される。しかしながら、薄膜型は活物質層を厚くすることや高積層化することが困難であるため電池容量が小さく、また製造コストが高いという問題がある。一方、バルク型には硫化物系固体電解質が用いられているため、露点の管理されたグローブボックス内で電池を作製する必要があり、また、シート化するのが困難なため固体電解質層の薄層化や電池の高積層化が課題であった。
【0004】
このような問題を鑑みて、特許文献1において、空気中で安定な酸化物系固体電解質を用い、各部材をシート化、積層した後、同時に焼成するという、工業的に採用し得る量産可能な製造方法が提唱されている。
【0005】
そして、バルク型全固体型リチウムイオン二次電池は、特許文献2によれば、各部材の収縮率の差に起因するデラミネーション(層間剥離)やノンラミネーション(非接着欠陥)の防止、及び、焼成温度の低温化による製造コストの低減を課題とし、ホウ素化合物を焼結助剤として添加することにより上記課題を克服できるとした例が開示されている。しかしながら、従来の方法ではリチウムイオン二次電池の内部抵抗が高く、容量が小さくなってしまうという課題があった。
【0006】
また、近年において、特許文献3でも各部材をシート化、積層した後、同時に焼成する方法にてバルク型全固体型リチウムイオン二次電池を作製しているが、更なる内部抵抗低減と、容量の向上の要求は絶えることがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特再07−135790号公報
【特許文献2】特許04745323号公報
【特許文献3】特許05193248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたもので、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が低く、容量が大きいリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、正極層と負極層が固体電解質層を介して交互に積層した焼結体からなる全固体型のリチウムイオン二次電池において、正極層、負極層、及び固体電解質層に含有されるリチウムとホウ素からなる化合物が正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質に対してLiCOとして換算したときのリチウム量が4.38mol%から13.34mol%の範囲であり、かつHBOとして換算したときのホウ素量が0.37mol%から1.11mol%であることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、添加されたリチウムとホウ素からなる化合物が、固体電解質/固体電解質界面、正極活物質/正極活物質界面、正極活物質/固体電解質界面、負極活物質/負極活物質界面、負極活物質/固体電解質界面の接触面積を向上させると共に、高リチウムイオン伝導性を有するため、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減させ、容量を向上させることができる。
【0011】
本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、リチウムとホウ素からなる化合物が正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質の粒界に存在することが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、添加されたリチウムとホウ素からなる化合物が、固体電解質/固体電解質界面、正極活物質/正極活物質界面、正極活物質/固体電解質界面、負極活物質/負極活物質界面、負極活物質/固体電解質界面の接触面積を向上させると共に、高リチウムイオン伝導性を有するため、さらにリチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減させ、容量を向上させることができる。
【0013】
また、本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、上記リチウムとホウ素からなる化合物がアモルファスであることが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、リチウムとホウ素からなる化合物の元素が無秩序な配列であり、結晶の様な異方性もないことから、イオン電導性も異方性による抵抗成分がなく、よりリチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減させ、容量を向上させることができる。
【0015】
また、本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、固体電解質層を構成する固体電解質は、Li3+x1Six11−x1(0.4≦x1≦0.6)、Li1+x2Alx2Ti2−x2(PO(0≦x2≦0.6)、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe(PO)、LiO−V−SiO、LiO−P−Bよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、添加されたリチウムとホウ素からなる化合物が固体電解質/固体電解質界面、正極活物質/固体電解質界面、負極活物質/固体電解質界面に存在し、イオン導電性を有することにより、よりリチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減させ、電池容量を向上させることができる。
【0017】
また、本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、正極層又は負極層を構成する活物質は、リチウムマンガン複合酸化物LiMnx3Ma1−x3(0.8≦x3≦1、Ma=Co、Ni)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNix4Coy4Mnz4(x4+y4+z4=1、0≦x4≦1、0≦y4≦1、0≦z4≦1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMbPO(ただし、Mbは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNix5Coy5Alz5(0.9<a<1.3、0.9<x5+y5+z5<1.1)で表される複合金属酸化物のいずれかであることが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、添加されたリチウムとホウ素からなる化合物が正極活物質/正極活物質界面、正極活物質/固体電解質界面、負極活物質/負極活物質界面、負極活物質/固体電解質界面に存在し、イオン導電性を有することにより、さらにリチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減させ、電池容量を向上させることができる。
【0019】
また、本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、固体電解質層を構成する固体電解質がケイリン酸リチウム(Li3+x1Six11−x1(0.4≦x1≦0.6))であり、前記正極層ならびに前記負極層を構成する活物質材料がリチウムマンガン複合酸化物LiMnx31−x3(0.8≦x3≦1、M=Co、Ni)であることが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、添加されたリチウムとホウ素からなる化合物が固体電解質/固体電解質界面、正極活物質/正極活物質界面、正極活物質/固体電解質界面、負極活物質/負極活物質界面、負極活物質/固体電解質界面の接触面積を向上させると共に、高リチウムイオン伝導性を有するため、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減させ、電池容量を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、内部抵抗が低く、容量が大きいリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、リチウムイオン二次電池の概念的構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。
【0024】
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極層と負極層が固体電解質層を介して交互に積層した焼結体からなる全固体型のリチウムイオン二次電池において、正極層、負極層、及び固体電解質層がリチウムとホウ素からなる化合物を含有する。
【0025】
(リチウムイオン二次電池の構造)
図1は、本実施形態の一例に係るリチウムイオン二次電池10の概念的構造を示す断面図である。図1に示すリチウムイオン二次電池10は、正極層1と負極層2が固体電解質層3を介して積層されており、正極層1は正極活物質4及びリチウムとホウ素からなる化合物5から構成され、また負極層2は負極活物質6及びリチウムとホウ素からなる化合物5から構成され、さらに固体電解質層3は固体電解質7及びリチウムとホウ素からなる化合物5から構成され、正極集電体層21は正極集電体22から構成され、負極集電体層23は負極集電体24から構成される。
【0026】
焼成前に、正極層1、負極層2及び固体電解質層3に添加されたリチウムとホウ素からなる化合物5は、焼結の際、焼結助剤として機能する。すなわち、温度を上げていくと正極活物質4、負極活物質6及び固体電解質7よりも先に融解し、リチウムとホウ素からなる化合物5の液相を生じ、その液相がセラミックス粒子同士を引き付けると共に、粒界に偏析するため、正極層1中の正極活物質4/正極活物質4界面、正極層1/固体電解質層3界面を構成する正極活物質4/固体電解質7界面、固体電解質層3中の固体電解質7/固体電解質7界面、固体電解質層3/負極層2界面を構成する固体電解質7/負極活物質6界面、負極層2中の負極活物質6/負極活物質6界面の接触面積を向上させる。
【0027】
また、粒界に偏析したリチウムとホウ素からなる化合物5がリチウムイオン伝導性を有するため、リチウムイオン二次電池10の内部抵抗を低減させ、容量を向上させることができる。
【0028】
この時、粒界に偏析するリチウムとホウ素からなる化合物5は、アモルファスであることが望ましい。アモルファスであれば、元素が無秩序な配列であり、結晶の様な異方性もないことから、イオン電導性も異方性による抵抗成分がないため、よりリチウムイオン二次電池10の内部抵抗を低減させ、容量を向上させることができる。
【0029】
粒界に偏析するリチウムとホウ素からなる化合物5がアモルファスであるかどうかは、X線回折測定により判別できる。具体的には、アモルファスであれば結晶性をもっていないためピークが現れず、結晶であればピークが現れることで判別できる。
【0030】
尚、図1では、1個の電池セルが積層されたリチウムイオン二次電池10の断面図が示されている。しかし、本実施形態のリチウムイオン二次電池10に関する技術は、図1に示す1個の電池セルが積層した場合に限らず、集電体層を設けた任意の複数層が積層した電池に適用でき、要求されるリチウムイオン二次電池10の容量や電流仕様に応じて幅広く変化させることが可能である。
【0031】
(固体電解質)
本実施形態のリチウムイオン二次電池10の固体電解質層3を構成する固体電解質7としては、電子の伝導性が小さく、リチウムイオンの伝導性が高い材料を用いるのが好ましい。例えば、Li3+x1Six11−x1(0.4≦x1≦0.6)、Li1+x2Alx2Ti2−x2(PO(0≦x2≦0.6)、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe(PO)、LiO−V−SiO、LiO−P−Bよりなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。特にLi1+xAlTi2−x(PO(0≦x≦0.6)に代表されるリン酸チタンアルミニウムリチウムが好ましく、Li1+xAlTi2−x(PO(0≦x≦0.6)であることがさらに好ましい。
【0032】
(正極活物質及び負極活物質)
本実施形態のリチウムイオン二次電池10の正極層1及び負極層2を構成する正極活物質4及び負極活物質6としては、リチウムイオンを効率よく放出、吸着する材料を用いるのが好ましい。例えば、遷移金属酸化物、遷移金属複合酸化物を用いるのが好ましい。具体的には、リチウムマンガン複合酸化物LiMnx3Ma1−x3(0.8≦x3≦1、Ma=Co、Ni)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNix4Coy4Mnz4(x4+y4+z4=1、0≦x4≦1、0≦y4≦1、0≦z4≦1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMbPO(ただし、Mbは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素)、リン酸バナジウムリチウム(Li(PO又はLiVOPO)、Li過剰系固溶体正極LiMnO−LiMcO(Mc=Mn、Co、Ni)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNix5Coy5Alz5(0.9<a<1.3、0.9<x5+y5+z5<1.1)で表される複合金属酸化物のいずれかであることが好ましい。
【0033】
より好ましくはリン酸バナジウムリチウムであることが好ましい。リン酸バナジウムリチウムは、LiVOPO及びLi(POの一方又は両方であることが好ましい。さらに、LiVOPO及びLi(POは、リチウムの欠損がある方が好ましく、LiVOPO(0.94≦x≦0.98)やLi(PO(2.8≦x≦2.95)であればより好ましい。
【0034】
また、正極層1及び負極層2中の材料は全く同じ材料であることが好ましく、かかる構成によれば無極性のリチウムイオン二次電池となるため、回路基板に取り付ける際にも方向を指定する必要がなく実装スピードを格段に向上することができる点でも有利である。
【0035】
ここで、正極層1又は負極層2を構成する活物質には明確な区別がなく、2種類の化合物の電位を比較して、より貴な電位を示す化合物を正極活物質4として用い、より卑な電位を示す化合物を負極活物質6として用いることができる。
【0036】
(正極集電体及び負極集電体)
本実施形態のリチウムイオン二次電池10の正極集電体層21及び負極集電体層23を構成する正極集電体22及び負極集電体24としては、導電率が大きい材料を用いるのが好ましく、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、ニッケルなどを用いるのが好ましい。特に、銅は固体電解質7のLi1+x2Alx2Ti2−x2(PO(0≦x2≦0.6)と反応し難く、さらにリチウムイオン二次電池10の内部抵抗の低減に効果があるため好ましい。また、正極集電体層21及び負極集電体層23を構成する正極集電体22及び負極集電体24は、正極と負極で同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
また、本実施形態におけるリチウムイオン二次電池10の正極集電体層21及び負極集電体層23は、それぞれ正極活物質4及び負極活物質6を含むことが好ましい。
【0038】
正極集電体層21及び負極集電体層23がそれぞれ正極活物質4及び負極活物質6を含むことにより、正極集電体層21と正極層1及び負極集電体層23と負極層2との密着性が向上するため望ましい。
【0039】
その場合の含有比は、集電体として機能する限り特に限定はされないが、正極集電体/正極活物質、又は負極集電体/負極活物質が体積比率で90/10から70/30の範囲であることが好ましい。
【0040】
(リチウムとホウ素からなる化合物)
本実施形態のリチウムイオン二次電池10に添加されるリチウムとホウ素からなる化合物5は、焼成後にリチウムとホウ素を含む化合物であれば良いため、焼成前からリチウムとホウ素を含む化合物を添加しても良いし、焼成の際にリチウムとホウ素を含む化合物を形成するようなリチウム化合物及びホウ素化合物を用いても良い。特に、リチウム化合物としてLiCO、ホウ素化合物としてHBOを用いると、これらの材料は水や二酸化炭素により化合物形態が変化し難いため空気中で秤量することができ、簡便かつ正確にリチウム及びホウ素を添加することが出来るため好ましい。
【0041】
リチウムとホウ素からなる化合物5の成分比は、正極活物質4、負極活物質6、及び固体電解質7に対してLiCOとして換算したときのリチウム量が4.38mol%から13.34mol%の範囲であり、かつHBOとして換算したときのホウ素量が0.37mol%から1.11mol%の範囲であれば好ましい。
【0042】
リチウムとホウ素からなる化合物5は、アルゴンイオンビームと微小プローブを併用し、リチウムイオン二次電池の断面から物理的にサンプリングしてもよいし、あるいは、リチウムとホウ素からなる化合物5のみが溶解される特定の溶媒を用いることでもサンプリング可能である。例えば、リチウムとホウ素からなる化合物5は中性から弱酸性の溶剤でエッチングし、正極活物質4、負極活物質6、及び固体電解質7は、塩酸とフッ化水素酸、あるいは硝酸とフッ化水素酸のような強酸で溶解し、ICP発光分析で分析すればよい。
【0043】
リチウムとホウ素からなる化合物5の成分比は、走査透過型電子顕微鏡と電子エネルギー損失分光法を組み合わせたSTEM−EELS分析、または溶媒に溶解し、ICP発光分析などにより分析可能である。
【0044】
上述したように固体電解質にLi1+x2Alx2Ti2−x2(PO(0≦x2≦0.6)、正極活物質及び負極活物質の一方又は両方にLiVOPO及びLi(POに代表されるリン酸バナジウムリチウムを用いる場合、正極層1または負極層2にチタン及びアルミニウムの一方又は両方の成分が分布していることが好ましい。このような構成にすることにより正極層1及び負極層2の一方又は両方と固体電解質層3の界面抵抗がより低減され、ひいては内部抵抗が低減される。
また、このチタンまたはアルミニウムは、正極層1または負極層2中で濃淡を持って分布していることが好ましい。さらに、固体電解質層3に近い側よりも、固体電解質層から遠い側(つまり正極集電体層21または負極集電体層23に近い側)の方がその成分の元素濃度が低い状態で存在することがより好ましい。また、本実施形態では、正極層1と正極集電体層21、または負極層2と負極集電体層23の界面近傍まで、すなわち正極層1または負極層2の全域に渡って分布することにより、界面抵抗の低減、ひいては内部抵抗の低下を図ることができる。
【0045】
正極層1または負極層2中にチタン及びアルミニウムの両方を含む場合にはそのチタン及びアルミニウムは同じ範囲に分布していてもよく、また異なる範囲に分布していてもよい。とくにアルミニウムがチタンよりも広く分布していることが好ましい。さらに、正極集電体層または負極集電体層に達するまで分布していることが好ましい。このような構成にすることにより正極層1及び負極層2の一方又は両方と固体電解質層3の界面抵抗がより低減され、ひいては内部抵抗が低減され、信頼性に優れたリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0046】
本実施形態において、正極層1及び負極層2の一方又は両方が固体電解質層3との密着性をより向上させ、界面抵抗の低減をより図るためには正極層1及び負極層2の厚みは10μm以下であることが望ましく、さらに5μm以下であればより好ましい。
【0047】
また、本実施形態におけるチタン及びアルミニウムの一方または両方の成分は、正極層1中又は負極層2中で正極活物質4又は負極活物質6の粒子表面を覆うように分布することが好ましい。
【0048】
さらに、そのチタンまたはアルミニウムは、前記正極活物質4又は負極活物質6の粒子内部にまで存在することが好ましく、更に粒子表面から粒子内部に濃度勾配を持って分布していることが好ましい。
【0049】
本実施形態のリチウムイオン二次電池10の固体電解質層3、正極層1及び負極層2を構成する材料はX線回折測定により物質同定可能である。また、チタン及びアルミニウムの分布は、EPMA−WDS元素マッピングなどにより分析可能である。
【0050】
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、正極集電体層21、正極層1、固体電解質層3、負極層2、及び負極集電体層23の各材料をペースト化し、塗布乾燥してグリーンシートを作製し、係るグリーンシートを積層し、作製した積層体を同時焼成することにより製造する。
【0051】
ペースト化の方法は、特に限定されないが、例えば、ビヒクルに上記各材料の粉末を混合してペーストを得ることができる。ここで、ビヒクルとは、液相における媒質の総称である。ビヒクルには、溶媒、バインダーが含まれる。係る方法により、正極集電体層21用のペースト、正極層1用のペースト、固体電解質層3用のペースト、負極層2用、負極集電体層23用のペーストを作製する。
【0052】
作製したペーストをPET(ポリエチレンテレフタレート)などの基材上に所望の順序で塗布し、必要に応じ乾燥させた後、基材を剥離し、グリーンシートを作製する。ペーストの塗布方法は、特に限定されず、スクリーン印刷、塗布、転写、ドクターブレード等の公知の方法を採用することができる。
【0053】
作製した正極集電体層21用、正極層1用、固体電解質層3用、負極層2用、及び負極集電体層23用のそれぞれのグリーンシートを所望の順序、積層数で積み重ね、必要に応じアライメント、切断等を行い、積層体を作製する。並列型又は直並列型の電池を作製する場合は、正極層1の端面と負極層2の端面が一致しないようにアライメントを行い積み重ねるのが好ましい。
【0054】
積層ブロックを作製するに際し、以下に説明する正極層ユニット及び負極層ユニットを準備し、積層ブロックを作製してもよい。
【0055】
その方法は、まずPETフィルム上に固体電解質層3用ペーストをドクターブレード法でシート状に形成し、固体電解質層3用シートを得た後、その固体電解質層3用シート上に、スクリーン印刷により正極層1用ペーストを印刷し乾燥する。次に、その上に、スクリーン印刷により正極集電体層21用ペーストを印刷し乾燥する。更にその上に、スクリーン印刷により正極層1用ペーストを再度印刷、乾燥し、次いでPETフィルムを剥離することで正極層ユニットを得る。このようにして、固体電解質層3用シート上に、正極層1用ペースト、正極集電体層21用ペースト、正極層1用ペーストがこの順に形成された正極層ユニットを得る。
同様の手順にて負極層ユニットも作製し、固体電解質層3用シート上に、負極層2用ペースト、負極集電体層23用ペースト、負極層2用ペーストがこの順に形成された負極層ユニットを得る。
【0056】
正極層ユニット一枚と負極層ユニット一枚を、正極層1用ペースト、正極集電体層21用ペースト、正極層1用ペースト、固体電解質層3用シート、負極層2用ペースト、負極集電体層23用ペースト、負極層2用ペースト、固体電解質層3用シートの順に形成されるように積み重ねる。このとき、一枚目の正極層ユニットの正極集電体層21用ペーストが一の端面にのみ延出し、二枚目の負極層ユニットの負極集電体層23用ペーストが他の面にのみ延出するように、各ユニットをずらして積み重ねる。この積み重ねられたユニットの両面に所定厚みの固体電解質層3用シートをさらに積み重ね積層ブロックを作製する。
【0057】
作製した積層ブロックを一括して圧着する。圧着は加熱しながら行うが、加熱温度は、例えば、40〜95℃とする。
【0058】
圧着した積層ブロックを、例えば、窒素雰囲気下で600℃〜1000℃に加熱し焼成を行う。焼成時間は、例えば、0.1〜3時間とする。
【実施例】
【0059】
(実施例1−1〜1−20)
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、部表示は、断りのない限り、重量部である。
【0060】
(正極活物質及び負極活物質の作製)
正極活物質及び負極活物質として、以下の方法で作製したLiMnOを用いた。LiCOとMnCOとを出発材料とし、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥した。得られた粉体を800℃で2時間、空気中で仮焼した。仮焼品を粗粉砕し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式粉砕を行った後、脱水乾燥して正極活物質粉末及び負極活物質粉末を得た。この粉体の平均粒径は0.40μmであった。作製した粉体の組成がLiMnOであることは、X線回折装置を使用して確認した。
【0061】
(正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製)
正極層用ペースト及び負極層用ペーストは、この正極活物質粉末及び負極活物質粉末100部に、表1の実施例1−1〜1−20の含有量となるようにHBO粉末0.37mol%〜1.69mol%及びLiCO粉末2.19mol%〜17.79mol%、バインダーとしてエチルセルロース15部と、溶媒としてジヒドロターピネオール65部とを加えて、混合・分散して正極層用ペースト及び負極層用ペーストを作製した。
【0062】
(固体電解質層用ペーストの作製)
固体電解質として、以下の方法で作製したLi3.5Si0.50.5を用いた。LiCOとSiOとLiPOを出発材料とし、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥した。得られた粉体を950℃で2時間、空気中で仮焼した。仮焼品を粗粉砕し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式粉砕を行った後、脱水乾燥して固体電解質の粉末を得た。この粉体の平均粒径は0.49μmであった。作製した粉体の組成がLi3.5Si0.50.5であることは、X線回折装置を使用して確認した。
【0063】
次いで、この粉末100部に、表1の実施例1−1〜1−20の含有量となるようにHBO粉末0.37mol%〜1.69mol%及びLiCO粉末2.19mol%〜17.79mol%、溶媒としてエタノール100部、トルエン200部をボールミルで加えて湿式混合した。その後ポリビニールブチラール系バインダー16部とフタル酸ベンジルブチル4.8部をさらに投入し、混合して固体電解質層用ペーストを調製した。
【0064】
(固体電解質層用シートの作製)
この固体電解質層用ペーストをドクターブレード法でPETフィルムを基材としてシート成形し、厚さ9μmの固体電解質層用シートを得た。
【0065】
(正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製)
正極集電体及び負極集電体として用いた重量比70/30のAg/PdとLiMnOとを体積比率で80/20となるように混合した後、LiMnOに対して表1の実施例1−1〜1−20の含有量となるようにHBO粉末0.37mol%〜1.69mol%及びLiCO粉末2.19mol%〜17.79mol%、バインダーとしてエチルセルロース10部と、溶媒としてジヒドロターピネオール50部を加えて混合・分散して正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストを作製した。ここで重量比70/30のAg/Pdは、Ag粉末(平均粒径0.3μm)及びPd粉末(平均粒径1.0μm)を混合したものを使用した。
【0066】
(端子電極ペーストの作製)
銀粉末とエポキシ樹脂、溶剤とを三本ロールで混錬・分散し、熱硬化型の導電ペーストを作製した。
【0067】
これらのペーストを用いて、以下のようにしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0068】
(正極層ユニットの作製)
上記の固体電解質層用シート上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで正極層用ペーストを印刷し、80℃で10分間乾燥した。次に、その上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで正極集電体層用ペーストを印刷し、80℃で10分間乾燥した。更にその上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで正極層用ペーストを再度印刷し、80℃で10分間乾燥し、次いでPETフィルムを剥離した。このようにして、固体電解質層用シート上に、正極層用ペースト、正極集電体層用ペースト、正極層用ペーストがこの順に印刷・乾燥された正極層ユニットのシートを得た。
【0069】
(負極層ユニットの作製)
上記の固体電解質層用シート上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで負極層用ペーストを印刷し、80℃で10分間乾燥した。次に、その上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで負極集電体層用ペーストを印刷し、80℃で10分間乾燥した。更にその上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで負極層用ペーストを再度印刷し、80℃で10分間乾燥し、次いでPETフィルムを剥離した。このようにして、固体電解質層用シート上に、負極層用ペースト、負極集電体層用ペースト、負極層用ペーストがこの順に印刷・乾燥された負極層ユニットのシートを得た。
【0070】
(積層体の作製)
次に正極層ユニットと負極層ユニットを、正極層用ペースト、正極集電体層用ペースト、正極層用ペースト、固体電解質層用シート、負極層用ペースト、負極集電体層用ペースト、負極層用ペースト、固体電解質層用シートの順に形成されるように積み重ねた。このとき、正極層ユニットの正極集電体層用ペーストが一の端面にのみ延出し、負極層ユニットの負極集電体層用ペーストが他の面にのみ延出するように、各ユニットをずらして積み重ねた。この積み重ねられたユニットの両面に厚さ500μmとなるように固体電解質層用シートを積み重ね、その後、これを温度80℃で圧力1000kgf/cm〔98MPa〕で成形し、次いで切断して積層ブロックを作製した。その後、積層ブロックをジルコニアの匣鉢中に100個並べて、同時焼成して積層体を得た。同時焼成は、大気中で昇温速度200℃/時間で焼成温度840℃まで昇温して、その温度に2時間保持し、焼成後は自然冷却した。同時焼成後の電池外観サイズは、3.7mm×3.2mm×0.35mmであった。
【0071】
(端子電極形成工程)
積層体の端面に端子電極ペーストを塗布し、150℃、30分の熱硬化を行い、一対の端子電極を形成してリチウムイオンニ次電池を得た。
【0072】
(比較例1−1〜1−6)
正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製、固体電解質層用シートの作製、正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製において、HBO粉末を添加せず、表1の比較例1−1〜1−6の添加量となるようにLiCO粉末のみを0mol%〜17.79mol%添加したこと以外は実施例1−1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0073】
(比較例1−7〜1−10)
正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製、固体電解質層用シートの作製、正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製において、LiCO粉末を添加せず、表1の比較例1−7〜1−10の添加量となるようにHBO粉末のみを0.37mol%〜1.69mol%添加したこと以外は実施例1−1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0074】
(電池特性の評価)
同時焼成した積層体から任意の10個を選択し、それぞれの端子電極にリード線を取り付け、繰り返し充放電試験を行った。測定条件は、充電及び放電時の電流はいずれも2.0μA、充電時及び放電時の打ち切り電圧をそれぞれ4.0V及び0Vとした。5サイクル目の放電容量ならびに内部抵抗を表1に示す。
なお、表1に記載のLiCO換算のリチウム含有量ならびにHBO換算のホウ素含有量は、正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質に対するLiCOとして換算したときのリチウム含有量とHBOとして換算したときのホウ素含有量である。
【0075】
ここで、正極活物質、負極活物質、固体電解質、及びリチウムとホウ素からなる化合物のリチウム及びホウ素の含有量は、アルゴンイオンビームと微小プローブを用いてリチウムイオン二次電池から正極層、負極層、及び固体電解質層をサンプリングした後、正極活物質、負極活物質及び固体電解質は硝酸とフッ化水素酸に、リチウムとホウ素からなる化合物は弱酸性の溶剤に溶解し、ICP発光分析により分析した。
【0076】
【表1】
【0077】
なお、表1に示す通り、ICP発光分析により得られたリチウムイオン二次電池のLiCO換算のリチウム含有量及びHBO換算のホウ素含有量は、正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製、固体電解質層用シートの作製、正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製において添加したLiCOの添加量ならびにHBOの添加量と同一であった。
【0078】
表1より、実施例1−1〜1−20ではいずれの結果においても放電容量が4.0uA以上、内部抵抗120kΩ以下であり、リチウムのみが含有されている比較例1及びホウ素のみが含有されている比較例2と比較して格段に内部抵抗が低く、容量が大きくなることが分かった。また、実施例において、正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質に対してLiCO換算のリチウム含有量が4.38mol%から13.34mol%の範囲であり、かつHBO換算のホウ素含有量が0.37mol%から1.11mol%の範囲であるとき、さらに内部抵抗が低く、容量が大きいリチウムイオン二次電池が得られることが分かった。
【0079】
(実施例2−1)
正極活物質及び負極活物質としてLi(PO、正極集電体及び負極集電体としてCuを用い、そして同時焼成を窒素中で行ったこと以外は、実施例1−1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0080】
(実施例2−2)
正極活物質及び負極活物質としてLi(PO、正極集電体及び負極集電体としてCuを用い、そして同時焼成を窒素中で行ったこと以外は、実施例1−2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0081】
(実施例2−3)
正極活物質及び負極活物質としてLi(PO、正極集電体及び負極集電体としてCuを用い、そして同時焼成を窒素中で行ったこと以外は、実施例1−3と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0082】
(実施例2−4)
正極活物質及び負極活物質としてLi(PO、正極集電体及び負極集電体としてCuを用い、そして同時焼成を窒素中で行ったこと以外は、実施例1−4と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0083】
(実施例2−5)
正極活物質及び負極活物質としてLi(PO、正極集電体及び負極集電体としてCuを用い、そして同時焼成を窒素中で行ったこと以外は、実施例1−5と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0084】
(電池特性の評価)
同時焼成した積層体から任意の10個を選択し、それぞれの端子電極にリード線を取り付け、繰り返し充放電試験を行った。測定条件は、充電及び放電時の電流はいずれも2.0μA、充電時及び放電時の打ち切り電圧をそれぞれ4.0V及び0Vとした。5サイクル目の放電容量ならびに内部抵抗を表2に示す。
なお、表2に記載のLiCO換算のリチウム含有量ならびにHBO換算のホウ素含有量は、正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質に対するLiCO換算のリチウム含有量とHBO換算のホウ素含有量である。
【0085】
ここで、正極活物質、負極活物質、固体電解質、及びリチウムとホウ素からなる化合物のリチウム及びホウ素の含有量は、アルゴンイオンビームと微小プローブを用いてリチウムイオン二次電池から正極層、負極層、及び固体電解質層をサンプリングした後、正極活物質、負極活物質及び固体電解質は硝酸とフッ化水素酸に、リチウムとホウ素からなる化合物は弱酸性の溶剤に溶解し、ICP発光分析により分析した。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示す通り、ICP発光分析により得られたリチウムイオン二次電池のLiCO換算のリチウム含有量及びHBO換算のホウ素含有量は、正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製、固体電解質層用シートの作製、正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製において添加したLiCOの添加量ならびにHBOの添加量と同一であった。
【0088】
また、表2より、正極活物質及び負極活物質としてLi(POを用いた場合においても、HBO換算のホウ素含有量が0.37mol%の時、LiCO換算のリチウム含有量が4.38mol%から13.34mol%の範囲である場合に、内部抵抗が低く、容量が大きいリチウムイオン二次電池が得られることが分かった。
【0089】
(実施例3−1)
正極活物質としてLiCoO及び負極活物質としてLiTi12を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0090】
(実施例3−2)
正極活物質としてLiCoO及び負極活物質としてLiTi12を用いたこと以外は、実施例1−2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0091】
(実施例3−3)
正極活物質としてLiCoO及び負極活物質としてLiTi12を用いたこと以外は、実施例1−3と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0092】
(実施例3−4)
正極活物質としてLiCoO及び負極活物質としてLiTi12を用いたこと以外は、実施例1−4と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0093】
(実施例3−5)
正極活物質としてLiCoO及び負極活物質としてLiTi12を用いたこと以外は、実施例1−5と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0094】
(電池特性の評価)
同時焼成した積層体から任意の10個を選択し、それぞれの端子電極にリード線を取り付け、繰り返し充放電試験を行った。測定条件は、充電及び放電時の電流はいずれも2.0μA、充電時及び放電時の打ち切り電圧をそれぞれ4.0V及び0Vとした。5サイクル目の放電容量ならびに内部抵抗を表3に示す。
なお、表3に記載のLiCO換算のリチウム含有量ならびにHBO換算のホウ素含有量は、正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質に対するLiCO換算のリチウム含有量とHBO換算のホウ素含有量である。
【0095】
ここで、正極活物質、負極活物質、固体電解質、及びリチウムとホウ素からなる化合物のリチウム及びホウ素の含有量は、アルゴンイオンビームと微小プローブを用いてリチウムイオン二次電池から正極層、負極層、及び固体電解質層をサンプリングした後、正極活物質、負極活物質及び固体電解質は硝酸とフッ化水素酸に、リチウムとホウ素からなる化合物は弱酸性の溶剤に溶解し、ICP発光分析により分析した。
【0096】
【表3】
【0097】
表3に示す通り、ICP発光分析により得られたリチウムイオン二次電池のLiCO換算のリチウム含有量及びHBO換算のホウ素含有量は、正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製、固体電解質層用シートの作製、正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製において添加したLiCOの添加量ならびにHBOの添加量と同一であった。
【0098】
また、表3より、正極活物質としてLiCoO及び負極活物質としてLiTi12を用いた場合においても、HBO換算のホウ素含有量が0.37mol%の時、LiCO換算のリチウム含有量が4.38mol%から13.34mol%の範囲である場合に、内部抵抗が低く、容量が大きいリチウムイオン二次電池が得られることが分かった。
【0099】
実施例1−1〜1−20、実施例2−1〜2−5、及び実施例3−1〜3−5のリチウムイオン二次電池のSTEM−EELS分析及びICP発光分析を行った結果、リチウムとホウ素からなる化合物が正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質の粒界に存在していることが確認された。また、X線回折測定結果より、リチウムとホウ素からなる化合物がアモルファスであることが確認された。
【0100】
以上の結果より、適切な添加量のLiCOとHBOの場合、それらは昇温の際にリチウムとホウ素からなる化合物となり、固体電解質/固体電解質界面、正極活物質/正極活物質界面、正極活物質/固体電解質界面、負極活物質/負極活物質界面、及び負極活物質/固体電解質界面において焼結助剤として機能した後、リチウムイオン伝導性を有するアモルファスな化合物として、粒界に偏析するため、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減させ、容量を向上させることができたと考えられる。
【符号の説明】
【0101】
1 正極層
2 負極層
3 固体電解質層
4 正極活物質
5 リチウムとホウ素からなる化合物
6 負極活物質
7 固体電解質
10 リチウムイオン二次電池
21 正極集電体層
22 正極集電体
23 負極集電体層
24 負極集電体
図1