【実施例】
【0059】
(実施例1−1〜1−20)
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、部表示は、断りのない限り、重量部である。
【0060】
(正極活物質及び負極活物質の作製)
正極活物質及び負極活物質として、以下の方法で作製したLi
2MnO
3を用いた。Li
2CO
3とMnCO
3とを出発材料とし、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥した。得られた粉体を800℃で2時間、空気中で仮焼した。仮焼品を粗粉砕し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式粉砕を行った後、脱水乾燥して正極活物質粉末及び負極活物質粉末を得た。この粉体の平均粒径は0.40μmであった。作製した粉体の組成がLi
2MnO
3であることは、X線回折装置を使用して確認した。
【0061】
(正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製)
正極層用ペースト及び負極層用ペーストは、この正極活物質粉末及び負極活物質粉末100部に、表1の実施例1−1〜1−20の含有量となるようにH
3BO
3粉末0.37mol%〜1.69mol%及びLi
2CO
3粉末2.19mol%〜17.79mol%、バインダーとしてエチルセルロース15部と、溶媒としてジヒドロターピネオール65部とを加えて、混合・分散して正極層用ペースト及び負極層用ペーストを作製した。
【0062】
(固体電解質層用ペーストの作製)
固体電解質として、以下の方法で作製したLi
3.5Si
0.5P
0.5O
4を用いた。Li
2CO
3とSiO
2とLi
3PO
4を出発材料とし、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥した。得られた粉体を950℃で2時間、空気中で仮焼した。仮焼品を粗粉砕し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式粉砕を行った後、脱水乾燥して固体電解質の粉末を得た。この粉体の平均粒径は0.49μmであった。作製した粉体の組成がLi
3.5Si
0.5P
0.5O
4であることは、X線回折装置を使用して確認した。
【0063】
次いで、この粉末100部に、表1の実施例1−1〜1−20の含有量となるようにH
3BO
3粉末0.37mol%〜1.69mol%及びLi
2CO
3粉末2.19mol%〜17.79mol%、溶媒としてエタノール100部、トルエン200部をボールミルで加えて湿式混合した。その後ポリビニールブチラール系バインダー16部とフタル酸ベンジルブチル4.8部をさらに投入し、混合して固体電解質層用ペーストを調製した。
【0064】
(固体電解質層用シートの作製)
この固体電解質層用ペーストをドクターブレード法でPETフィルムを基材としてシート成形し、厚さ9μmの固体電解質層用シートを得た。
【0065】
(正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製)
正極集電体及び負極集電体として用いた重量比70/30のAg/PdとLi
2MnO
3とを体積比率で80/20となるように混合した後、Li
2MnO
3に対して表1の実施例1−1〜1−20の含有量となるようにH
3BO
3粉末0.37mol%〜1.69mol%及びLi
2CO
3粉末2.19mol%〜17.79mol%、バインダーとしてエチルセルロース10部と、溶媒としてジヒドロターピネオール50部を加えて混合・分散して正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストを作製した。ここで重量比70/30のAg/Pdは、Ag粉末(平均粒径0.3μm)及びPd粉末(平均粒径1.0μm)を混合したものを使用した。
【0066】
(端子電極ペーストの作製)
銀粉末とエポキシ樹脂、溶剤とを三本ロールで混錬・分散し、熱硬化型の導電ペーストを作製した。
【0067】
これらのペーストを用いて、以下のようにしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0068】
(正極層ユニットの作製)
上記の固体電解質層用シート上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで正極層用ペーストを印刷し、80℃で10分間乾燥した。次に、その上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで正極集電体層用ペーストを印刷し、80℃で10分間乾燥した。更にその上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで正極層用ペーストを再度印刷し、80℃で10分間乾燥し、次いでPETフィルムを剥離した。このようにして、固体電解質層用シート上に、正極層用ペースト、正極集電体層用ペースト、正極層用ペーストがこの順に印刷・乾燥された正極層ユニットのシートを得た。
【0069】
(負極層ユニットの作製)
上記の固体電解質層用シート上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで負極層用ペーストを印刷し、80℃で10分間乾燥した。次に、その上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで負極集電体層用ペーストを印刷し、80℃で10分間乾燥した。更にその上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで負極層用ペーストを再度印刷し、80℃で10分間乾燥し、次いでPETフィルムを剥離した。このようにして、固体電解質層用シート上に、負極層用ペースト、負極集電体層用ペースト、負極層用ペーストがこの順に印刷・乾燥された負極層ユニットのシートを得た。
【0070】
(積層体の作製)
次に正極層ユニットと負極層ユニットを、正極層用ペースト、正極集電体層用ペースト、正極層用ペースト、固体電解質層用シート、負極層用ペースト、負極集電体層用ペースト、負極層用ペースト、固体電解質層用シートの順に形成されるように積み重ねた。このとき、正極層ユニットの正極集電体層用ペーストが一の端面にのみ延出し、負極層ユニットの負極集電体層用ペーストが他の面にのみ延出するように、各ユニットをずらして積み重ねた。この積み重ねられたユニットの両面に厚さ500μmとなるように固体電解質層用シートを積み重ね、その後、これを温度80℃で圧力1000kgf/cm
2〔98MPa〕で成形し、次いで切断して積層ブロックを作製した。その後、積層ブロックをジルコニアの匣鉢中に100個並べて、同時焼成して積層体を得た。同時焼成は、大気中で昇温速度200℃/時間で焼成温度840℃まで昇温して、その温度に2時間保持し、焼成後は自然冷却した。同時焼成後の電池外観サイズは、3.7mm×3.2mm×0.35mmであった。
【0071】
(端子電極形成工程)
積層体の端面に端子電極ペーストを塗布し、150℃、30分の熱硬化を行い、一対の端子電極を形成してリチウムイオンニ次電池を得た。
【0072】
(比較例1−1〜1−6)
正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製、固体電解質層用シートの作製、正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製において、H
3BO
3粉末を添加せず、表1の比較例1−1〜1−6の添加量となるようにLi
2CO
3粉末のみを0mol%〜17.79mol%添加したこと以外は実施例1−1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0073】
(比較例1−7〜1−10)
正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製、固体電解質層用シートの作製、正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製において、Li
2CO
3粉末を添加せず、表1の比較例1−7〜1−10の添加量となるようにH
3BO
3粉末のみを0.37mol%〜1.69mol%添加したこと以外は実施例1−1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0074】
(電池特性の評価)
同時焼成した積層体から任意の10個を選択し、それぞれの端子電極にリード線を取り付け、繰り返し充放電試験を行った。測定条件は、充電及び放電時の電流はいずれも2.0μA、充電時及び放電時の打ち切り電圧をそれぞれ4.0V及び0Vとした。5サイクル目の放電容量ならびに内部抵抗を表1に示す。
なお、表1に記載のLi
2CO
3換算のリチウム含有量ならびにH
3BO
3換算のホウ素含有量は、正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質に対するLi
2CO
3として換算したときのリチウム含有量とH
3BO
3として換算したときのホウ素含有量である。
【0075】
ここで、正極活物質、負極活物質、固体電解質、及びリチウムとホウ素からなる化合物のリチウム及びホウ素の含有量は、アルゴンイオンビームと微小プローブを用いてリチウムイオン二次電池から正極層、負極層、及び固体電解質層をサンプリングした後、正極活物質、負極活物質及び固体電解質は硝酸とフッ化水素酸に、リチウムとホウ素からなる化合物は弱酸性の溶剤に溶解し、ICP発光分析により分析した。
【0076】
【表1】
【0077】
なお、表1に示す通り、ICP発光分析により得られたリチウムイオン二次電池のLi
2CO
3換算のリチウム含有量及びH
3BO
3換算のホウ素含有量は、正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製、固体電解質層用シートの作製、正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製において添加したLi
2CO
3の添加量ならびにH
3BO
3の添加量と同一であった。
【0078】
表1より、実施例1−1〜1−20ではいずれの結果においても放電容量が4.0uA以上、内部抵抗120kΩ以下であり、リチウムのみが含有されている比較例1及びホウ素のみが含有されている比較例2と比較して格段に内部抵抗が低く、容量が大きくなることが分かった。また、実施例において、正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質に対してLi
2CO
3換算のリチウム含有量が4.38mol%から13.34mol%の範囲であり、かつH
3BO
3換算のホウ素含有量が0.37mol%から1.11mol%の範囲であるとき、さらに内部抵抗が低く、容量が大きいリチウムイオン二次電池が得られることが分かった。
【0079】
(実施例2−1)
正極活物質及び負極活物質としてLi
3V
2(PO
4)
3、正極集電体及び負極集電体としてCuを用い、そして同時焼成を窒素中で行ったこと以外は、実施例1−1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0080】
(実施例2−2)
正極活物質及び負極活物質としてLi
3V
2(PO
4)
3、正極集電体及び負極集電体としてCuを用い、そして同時焼成を窒素中で行ったこと以外は、実施例1−2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0081】
(実施例2−3)
正極活物質及び負極活物質としてLi
3V
2(PO
4)
3、正極集電体及び負極集電体としてCuを用い、そして同時焼成を窒素中で行ったこと以外は、実施例1−3と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0082】
(実施例2−4)
正極活物質及び負極活物質としてLi
3V
2(PO
4)
3、正極集電体及び負極集電体としてCuを用い、そして同時焼成を窒素中で行ったこと以外は、実施例1−4と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0083】
(実施例2−5)
正極活物質及び負極活物質としてLi
3V
2(PO
4)
3、正極集電体及び負極集電体としてCuを用い、そして同時焼成を窒素中で行ったこと以外は、実施例1−5と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0084】
(電池特性の評価)
同時焼成した積層体から任意の10個を選択し、それぞれの端子電極にリード線を取り付け、繰り返し充放電試験を行った。測定条件は、充電及び放電時の電流はいずれも2.0μA、充電時及び放電時の打ち切り電圧をそれぞれ4.0V及び0Vとした。5サイクル目の放電容量ならびに内部抵抗を表2に示す。
なお、表2に記載のLi
2CO
3換算のリチウム含有量ならびにH
3BO
3換算のホウ素含有量は、正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質に対するLi
2CO
3換算のリチウム含有量とH
3BO
3換算のホウ素含有量である。
【0085】
ここで、正極活物質、負極活物質、固体電解質、及びリチウムとホウ素からなる化合物のリチウム及びホウ素の含有量は、アルゴンイオンビームと微小プローブを用いてリチウムイオン二次電池から正極層、負極層、及び固体電解質層をサンプリングした後、正極活物質、負極活物質及び固体電解質は硝酸とフッ化水素酸に、リチウムとホウ素からなる化合物は弱酸性の溶剤に溶解し、ICP発光分析により分析した。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示す通り、ICP発光分析により得られたリチウムイオン二次電池のLi
2CO
3換算のリチウム含有量及びH
3BO
3換算のホウ素含有量は、正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製、固体電解質層用シートの作製、正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製において添加したLi
2CO
3の添加量ならびにH
3BO
3の添加量と同一であった。
【0088】
また、表2より、正極活物質及び負極活物質としてLi
3V
2(PO
4)
3を用いた場合においても、H
3BO
3換算のホウ素含有量が0.37mol%の時、Li
2CO
3換算のリチウム含有量が4.38mol%から13.34mol%の範囲である場合に、内部抵抗が低く、容量が大きいリチウムイオン二次電池が得られることが分かった。
【0089】
(実施例3−1)
正極活物質としてLiCoO
2及び負極活物質としてLi
4Ti
5O
12を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0090】
(実施例3−2)
正極活物質としてLiCoO
2及び負極活物質としてLi
4Ti
5O
12を用いたこと以外は、実施例1−2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0091】
(実施例3−3)
正極活物質としてLiCoO
2及び負極活物質としてLi
4Ti
5O
12を用いたこと以外は、実施例1−3と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0092】
(実施例3−4)
正極活物質としてLiCoO
2及び負極活物質としてLi
4Ti
5O
12を用いたこと以外は、実施例1−4と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0093】
(実施例3−5)
正極活物質としてLiCoO
2及び負極活物質としてLi
4Ti
5O
12を用いたこと以外は、実施例1−5と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0094】
(電池特性の評価)
同時焼成した積層体から任意の10個を選択し、それぞれの端子電極にリード線を取り付け、繰り返し充放電試験を行った。測定条件は、充電及び放電時の電流はいずれも2.0μA、充電時及び放電時の打ち切り電圧をそれぞれ4.0V及び0Vとした。5サイクル目の放電容量ならびに内部抵抗を表3に示す。
なお、表3に記載のLi
2CO
3換算のリチウム含有量ならびにH
3BO
3換算のホウ素含有量は、正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質に対するLi
2CO
3換算のリチウム含有量とH
3BO
3換算のホウ素含有量である。
【0095】
ここで、正極活物質、負極活物質、固体電解質、及びリチウムとホウ素からなる化合物のリチウム及びホウ素の含有量は、アルゴンイオンビームと微小プローブを用いてリチウムイオン二次電池から正極層、負極層、及び固体電解質層をサンプリングした後、正極活物質、負極活物質及び固体電解質は硝酸とフッ化水素酸に、リチウムとホウ素からなる化合物は弱酸性の溶剤に溶解し、ICP発光分析により分析した。
【0096】
【表3】
【0097】
表3に示す通り、ICP発光分析により得られたリチウムイオン二次電池のLi
2CO
3換算のリチウム含有量及びH
3BO
3換算のホウ素含有量は、正極層用ペースト及び負極層用ペーストの作製、固体電解質層用シートの作製、正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製において添加したLi
2CO
3の添加量ならびにH
3BO
3の添加量と同一であった。
【0098】
また、表3より、正極活物質としてLiCoO
2及び負極活物質としてLi
4Ti
5O
12を用いた場合においても、H
3BO
3換算のホウ素含有量が0.37mol%の時、Li
2CO
3換算のリチウム含有量が4.38mol%から13.34mol%の範囲である場合に、内部抵抗が低く、容量が大きいリチウムイオン二次電池が得られることが分かった。
【0099】
実施例1−1〜1−20、実施例2−1〜2−5、及び実施例3−1〜3−5のリチウムイオン二次電池のSTEM−EELS分析及びICP発光分析を行った結果、リチウムとホウ素からなる化合物が正極層に含有される正極活物質、負極層に含有される負極活物質、及び固体電解質層に含有される固体電解質の粒界に存在していることが確認された。また、X線回折測定結果より、リチウムとホウ素からなる化合物がアモルファスであることが確認された。
【0100】
以上の結果より、適切な添加量のLi
2CO
3とH
3BO
3の場合、それらは昇温の際にリチウムとホウ素からなる化合物となり、固体電解質/固体電解質界面、正極活物質/正極活物質界面、正極活物質/固体電解質界面、負極活物質/負極活物質界面、及び負極活物質/固体電解質界面において焼結助剤として機能した後、リチウムイオン伝導性を有するアモルファスな化合物として、粒界に偏析するため、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減させ、容量を向上させることができたと考えられる。