【実施例】
【0040】
[実施例1.二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの製造]
本実施例では、標的核酸の3’末端に由来する少なくとも一つの連続ヌクレオチドに対して相補的な第1相補領域、及び標的核酸の5’末端に由来する少なくとも一つの連続ヌクレオチドに対して相補的な第2相補領域を含み、前記第1相補領域が、前記第2相補領域の3’末端側に位置するポリヌクレオチド(以下、「二重ハイブリダイゼーションプライマー(dual hybridization primer)」または「二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマー(dual hybridization reverse transcription primer)」と称する。)を使用して、標的核酸に相補的な配列を二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの3’末端から生成させた。対照群として、第2相補領域を有しない一般的なプライマー(以下、「線形プライマー(linear primer)」、「3’プライミング逆転写プライマー(3’ priming reverse transcription primer)」、または「3’プライミングプライマー」と称する。)を使用した。また、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーは、第2相補領域の5’末端側に、標的核酸に対して相補的ではない領域(第3領域)を含む。標的核酸に対して相補的ではない領域(第3領域)は、ユニバーサルPCRプライマー配列を含む。
【0041】
図1において、「1」は、標的核酸を示す。「1a」は、標的核酸の3’末端領域を示し、2a部分に対して相補的な核酸配列を有する。「1b」は、標的核酸の5’末端領域を示し、2b部分に対して相補的な核酸配列を有する。「2」は、逆転写プライマーを示す。「2a」は、逆転写プライマーの3’末端部分を示し、1a部分に対して相補的な核酸配列を有する(第1相補領域)。「2b」は、逆転写プライマーの5’末端部分(
図1(B)においては、さらにその5’末端側に第3領域が存在する。)を示し、1b部分に対して相補的な核酸配列を有する(第2相補領域)。「2c」は、PCRプライマー配列を含み、標的核酸に対して相補的ではない配列を有する(第3領域)。「3」は、逆転写酵素によって合成されたDNAを示す。「3b」は、1bと同一の核酸配列であり、ハイブリダイズされた2b部分を逆転写酵素が1bに置換させながら生成した部分を示す。
【0042】
[実施例2.二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーによる標的核酸の検出効果]
二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーと3’プライミング逆転写プライマーとの標的核酸の検出効果を、それぞれ比較した。
【0043】
標的核酸であるmiRNA、3’プライミングプライマー、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマー及びmiRNA特異的PCRプライマーの配列を、表1に示す。表1の二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーにおいて、下線部分の核酸配列は標的核酸の3’末端に対して相補的な第1相補領域を示し、小文字で示した部分は標的核酸の5’末端に対して相補的な第2相補領域を示している。
【0044】
【表1】
【0045】
さらに、ユニバーサルPCRプライマーの配列は、5’−CGGTGAGGTCTTTGGTTCAT−3’(配列番号61)である。
【0046】
二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの第1相補領域の長さは、4残基であり、第2相補領域の長さは、6残基から8残基である。
【0047】
二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの使用による標的核酸の検出を、PCRによって確認した。Super Script III reverse transcriptase(Invitrogen)を使用して、マイクロRNAをcDNAに変換した。逆転写反応のために、12μlのRTマスターミックス(5μlの水、2μlの5×バッファー液、2μlの15mM MgCl
2、1μlの0.1Mジチオトレイトール(DTT)、1μlの10mM dNTPs、1μlのRNAseOUT(Invitrogen)及び1μlのSuper Script III酵素)を、96ウェルプレート内で、2μlの10μM DH(dual−hybridization)−RTプライマー(二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマー)及び5μlの鋳型と混合した。なお、鋳型としては、コピー数5×10
8のmiRNAを用いた。逆転写反応は、16℃で30分、42℃で1時間、70℃で15分間インキュベートし、該反応によりcDNAを得て、続いて、80μlのTE(pH7.6の10mM Tris、0.1mM EDTA)によってcDNAを5倍希釈した。逆転写反応後に、希釈されたcDNAの5μlと、下記の試薬を混合して20μlの最終反応体積にし、LC480 PCR装置(Roche)を使用して、96ウェル・オプティカルPCRプレートにて、定量的PCR(qPCR:quantitative PCR)を3回反復測定した。PCR反応混合物は、10μlの2×SYBRグリーンPCRマスターミックス(Exiqon)、0.1μlの10uMユニバーサルプライマー、0.1μlの10μM miRNA特異的プライマー、4.8μlの水、及び5μlの試料(前記cDNA)を含む。定量的PCRは、製造業者が推奨する条件にて行い、アンプリコン種類(増幅産物)の分析のために、解離溶解曲線をそれぞれの測定後に生成した。
【0048】
図2は、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの使用によるプライミング効果を示すグラフである。
図2〜5Cにおいて、Cp(crossing point、Cp値)は、サンプルからの蛍光強度が閾値に達して検出可能となるサイクル数を示す。Cp値が低いほど、少ないサイクル数で標的核酸が検出されたこと、すなわち逆転写によって合成されたDNAが多いことを意味する。
図2に示すように、3’プライミング逆転写プライマーを使用した場合に比べ、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーを使用した場合、Cp値が著しく低下した。
【0049】
[実施例3.第1相補領域及び第2相補領域の長さによる標的核酸の検出効果]
第1相補領域と第2相補領域との長さ(残基数)による標的核酸の検出効果を確認した。
【0050】
標的核酸であるmiRNA: 5’−CGGUGAGGUCUUUGGUUCAUUAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG−3’(配列番号62)
miRNA特異的PCRプライマー: 5’−CGCGCTAGCAGCACGTAAAT−3’(配列番号63)
ユニバーサルPCRプライマー: 5’−GTGCAGGGTCCGAGGT−3’(配列番号64)
3’プライミング逆転写プライマー及び二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの配列を、表2に示す。表2において、核酸配列の下線部分は標的核酸の3’末端に対して相補的な第1相補領域を示し、小文字で示した部分は標的核酸の5’末端に対して相補的な第2相補領域を示している。
【0051】
【表2】
【0052】
第1相補領域及び第2相補領域の長さによる標的核酸の検出を、実施例2に記載した定量的PCR法で確認した。
【0053】
図3は、第1相補領域及び第2相補領域の長さによるプライミング効果を示すグラフである。
図3において、「RTx」(xは2から6の整数である。)のうちの「x」は、標的核酸の3’末端に特異的な配列の残基数、すなわち第1相補領域の残基数を示す。
図3に示すように、標的核酸の5’末端に特異的な配列(すなわち、第2相補領域)を逆転写プライマーに含めることで、逆転写プライマーのうち、標的配列の3’末端に特異的な部分(すなわち、第1相補領域)の長さを短くすることができる。
【0054】
[実施例4.標的核酸miR−210に係わる検出感度の確認]
標的核酸であるmiR−210に対して、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーと3’プライミング逆転写プライマーとの検出感度を比較した。
【0055】
標的核酸としてのmiR−210、3’プライミングプライマー、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマー、miRNA特異的PCRプライマーの配列及びユニバーサルPCRプライマーを、表3に示す。表3において、核酸配列の下線部分は標的核酸の3’末端に対して相補的な第1相補領域を示し、小文字で示した部分は標的核酸の5’末端に対して相補的な第2相補領域を示している。
【0056】
【表3】
【0057】
二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの使用による標的核酸の検出を、実施例2に記載した定量的PCR法で確認した。
【0058】
図4は、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの使用による検出感度を示す。
図4に示すように、3’プライミング逆転写プライマーを使用した場合に比べ、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーを使用した場合にCp値が著しく低下した。
【0059】
[実施例5.標的核酸miR−16、miR−21及びmiR−206に係わる検出感度の確認]
標的核酸であるmiR−16、miR−21及びmiR−206それぞれに対して、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの検出感度を比較した。
【0060】
標的核酸としてのmiR−16、miR−21及びmiR−206、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマー、miRNA特異的PCRプライマーの配列及びユニバーサルPCRプライマーを、表4に示す。表4において、核酸配列の下線部分は標的核酸の3’末端に対して相補的な第1相補領域を示し、小文字で示した部分は標的核酸の5’末端に対して相補的な第2相補領域を示している。
【0061】
【表4】
【0062】
二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの使用による標的核酸の検出を、実施例2に記載した定量的PCR法で確認した。
【0063】
図5AはmiR−16についての検出感度、
図5BはmiR−21についての検出感度、
図5CはmiR−206についての検出感度を示す。
図5Aから
図5Cに示すように、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーを使用した場合、Cp値が著しく低かった。
【0064】
[実施例6.標的核酸miR−16及びmiR−210に対する検出特異性の確認]
標的核酸であるmiR−16及びmiR−210それぞれに対して、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの検出特異性を確認した。
【0065】
標的核酸であるmiR−16及びmiR−210、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマー、miRNA特異的PCRプライマーの配列及びユニバーサルPCRプライマーを、表5に示す。表5において、核酸配列の下線部分は標的核酸の3’末端に対して相補的な第1相補領域を示し、小文字で示した部分は標的核酸の5’末端に対して相補的な第2相補領域を示している。表5において太字の核酸は、置換された核酸を示す。例えば、miR16−M1Aは、miR−16の5’末端から最初の核酸であるウラシル(U)がアデノシン(A)に置換された配列であるということを示す。以下、表5中のmiR16−M1AからmiR16−M22Uまでを「変異miR16」、miR210−M1AからmiR210−M22Gまでを「変異miR210」と総称する。
【0066】
【表5】
【0067】
核酸配列が置換された標的核酸に係わる二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの特異性を、実施例2に記載した定量的PCR法で確認した。
【0068】
図6AはmiR−16に関する特異性、及び
図6BはmiR−210に関する特異性を示す。
図6A(または
図6B)において、ΔCp値は、変異miR16(または変異miR210)を用いた場合のCp値から、miR−16(またはmiR−210)を用いた場合のCp値を差し引いた値である。
図6Aまたは
図6Bにおいて、ΔCp値が高いほど、使用プライマーのmiR−16(またはmiR−210)に対する特異性が高いことを意味する。
図6A及び
図6Bから分かるように、5’末端及び3’末端で、3’プライミングプライマーに比べ、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーで向上した特異性が示された。
【0069】
[実施例7.Let−7ファミリーの間の交差反応性の確認]
Let−7ファミリーについて、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの検出特異性(交差反応性)を確認した。
【0070】
標的核酸、二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマー及びmiRNA特異的PCRプライマーの配列を、表6に示す。表6において、核酸配列の下線部分は標的核酸の3’末端に対して相補的な第1相補領域を示し、小文字で示した部分は標的核酸の5’末端に対して相補的な第2相補領域を示している。表6において太字の核酸は、Let−7aに対して、Let−7ファミリーに属するその他のmiRにおいて置換されている核酸を示す。
【0071】
【表6】
【0072】
Let−7ファミリーに対する二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの交差反応性(%)を実施例2に記載した定量的PCR法で確認した。
【0073】
【表7】
【0074】
表7は、Let−7ファミリーに対する二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの交差反応性(%)を示す。交差反応性は以下の方法により算出した。すなわち、miRNAから得られたCp値とmiRNAのアイソフォームから得られたCp値との差(ΔCp値)を算出し、ΔCp値が1の場合は2倍の差があるもの仮定して交差反応性を算出した。交差反応性が低いほど、表的配列に対する特異性が高いことを示す。表7に示すように、Let−7ファミリーに対する二重ハイブリダイゼーション逆転写プライマーの交差反応性は、5%未満と非常に低いことが確認された。