特許第6455910号(P6455910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6455910
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】赤外線受光素子
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20190110BHJP
   C01B 32/152 20170101ALI20190110BHJP
   H01L 31/00 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
   G01J1/02 C
   C01B32/152
   H01L31/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-182735(P2013-182735)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-49207(P2015-49207A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】柳 和宏
(72)【発明者】
【氏名】工藤 光
(72)【発明者】
【氏名】河合 英輝
(72)【発明者】
【氏名】竹延 大志
【審査官】 小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0186635(US,A1)
【文献】 国際公開第2009/133891(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0098488(US,A1)
【文献】 特開2007−081185(JP,A)
【文献】 特開2003−017508(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0264185(US,A1)
【文献】 特表2013−502735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00−1/60
5/00−5/62
11/00
H01L 31/00−31/02
31/0232
31/0248
31/0264
31/08
31/10
31/107−31/108
31/111
31/18
51/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられる第1電極と、
前記基板上であって、前記第1電極から離間して設けられる第2電極と、
前記第1電極及び前記第2電極から離間して設けられる第3電極と、
前記第1電極と前記第2電極とに接触し且つ前記第3電極には接触していないように設けられ、単一カイラリティの半導体型カーボンナノチューブを含んで構成されるチャネル部とを備え、
前記第1電極及び前記第2電極は、基板上において互いに対向する位置に設けられており、
前記第3電極は、前記第1電極及び前記第2電極の間に設けられており、該第3電極は、前記チャネル部に電場を発生させることでキャリアを注入する機能を奏するため、電気化学的に安定なAu若しくはPtを用いて形成されており、
前記第1電極及び前記第2電極の間において、前記第3電極と前記チャネル部とに接触して設けられ、且つ前記第1電極と前記第2電極とに接触しないように設けられ、前記チャネル部の抵抗率を制御する制御部材を更に備え、前記制御部材が、前記チャネル部の表面に電気二重層を形成可能な電解質を含んで構成され、前記チャネル部の表面に電気二重層を形成して、電子若しくはホールを、前記チャネル部を構成する半導体型カーボンナノチューブ中にドーピングするように構成されている赤外線受光素子。
【請求項2】
前記電解質が、イオン液体、若しくは塩である請求項に記載の赤外線受光素子。
【請求項3】
前記チャネル部が、複数の前記単一カイラリティの半導体型カーボンナノチューブのネットワークを含んで構成される請求項1又は2に記載の赤外線受光素子。
【請求項4】
前記第1電極を構成する材料の仕事関数と前記第2電極を構成する材料の仕事関数とが互いに異なる請求項1〜3のいずれか1項に記載の赤外線受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線受光素子に関する。特に、本発明は、単一カイラリティの半導体型カーボンナノチューブを用いて構成される赤外線受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブ(Carbon NanoTube:CNT)を溶媒中に分散させてCNT分散液を調製し、CNT分散液を原料としてCNT薄膜を成膜し、CNT薄膜をアニール処理してCNT薄膜の−10〜50℃における抵抗温度係数の絶対値を1%/K以上にする工程を含む赤外線センサ材料の作製方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の赤外線センサ材料の作製方法によれば、比較的成膜の容易なCNTを薄膜化するので、プロセス生産性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/049801号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されている赤外線センサ材料の作製方法によるCNT薄膜においてはCNTに金属型CNTが混在しており、熱抵抗変化率(TCR値)が室温において低く、赤外線センサの性能向上に限界があった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、半導体型CNTを用い、高いTCR値を備える赤外線受光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、基板と、基板上に設けられる第1電極と、基板上であって、第1電極から離間して設けられる第2電極と、第1電極及び第2電極から離間して設けられる第3電極と、第1電極と第2電極とに接触して設けられ、単一カイラリティの半導体型カーボンナノチューブを含んで構成されるチャネル部とを備える赤外線受光素子が提供される。
【0007】
また、上記赤外線受光素子において、第3電極とチャネル部とに接触して設けられ、チャネル部の抵抗率を制御する制御部材を更に備えることもできる。
【0008】
また、上記赤外線受光素子において、制御部材が、チャネル部の表面に電気二重層を形成可能な電解質を含んで構成されてもよい。
【0009】
また、上記赤外線受光素子において、電解質が、イオン液体、若しくは塩であってもよい。
【0010】
また、上記赤外線受光素子において、チャネル部が、複数の単一カイラリティの半導体型カーボンナノチューブのネットワークを含んで構成されてもよい。
【0011】
また、上記性期外線受光素子において、第1電極を構成する材料の仕事関数と第2電極を構成する材料の仕事関数とが互いに異なってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る赤外線受光素子によれば、半導体型CNTを用い、高いTCR値を備える赤外線受光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る赤外線受光素子の斜視図である。
図2図1のA−A線における断面図である。
図3図1のB−B線における断面図である。
図4】比較例に係る赤外線受光素子のTCR値を示すグラフである。
図5】実施例1に係る赤外線受光素子のTCR値を示すグラフである。
図6】実施例1に係る赤外線受光素子のTCR値を示すグラフである。
図7】実施例3に係る赤外線受光素子の抵抗値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る赤外線受光素子の斜視図の一例を示す。また、図2は、図1のA−A線における断面の一例を示し、図3は、図1のB−B線における断面の一例を示す。
【0015】
(赤外線受光素子1の構成の概要)
本実施の形態に係る赤外線受光素子1は、電解質を含む部材によって表面に電気二重層が形成されるカーボンナノチューブを備える。そして、赤外線受光素子1は、カーボンナノチューブに対する赤外線の照射によって生じるカーボンナノチューブの抵抗変化を利用した受光素子である。具体的に、赤外線受光素子1は、基板10と、基板10上に設けられる第1電極12と、第1電極12から離間して設けられる第2電極14と、第1電極12及び第2電極14から離間して設けられる第3電極16と、第1電極12と第2電極14との間に設けられ、単一カイラリティの単層カーボンナノチューブを含んで構成されるチャネル部18と、第3電極16とチャネル部18とに接触して設けられ、電解質を含む制御部材20とを備える。
【0016】
(基板10)
基板10は、半導体材料、高分子材料、セラミック材料、若しくは金属材料等を用い、赤外線受光素子1としての機械的強度を確保できる厚さを有して形成される。例えば、基板10は、シリコン基板(Si基板)、ポリマー基板、又はガラス基板等を用いることができる。また、基板10は、表面に絶縁層11を有する。絶縁層11は、例えば、二酸化ケイ素(SiO)層等を用いることができるが、絶縁層11に断熱効果を備えさせることを目的として、パラキシレン系ポリマーであるパリレン(登録商標)からなるパリレン層を用いることもできる。絶縁層11は、真空蒸着法、スパッタリング法等の成膜技術又は熱酸化法を用いて基板10上に形成される。
【0017】
(第1電極12、第2電極14)
第1電極12は、基板10上にソース電極として形成される。第1電極12は、基板10上に絶縁層11を介して設けられる。一方、第2電極14は、基板10上であって、第1電極12から離間した位置にドレイン電極として設けられる。第2電極14も、基板10上に絶縁層11を介して設けられる。例えば、第1電極12及び第2電極14は、平面視にて略長方形状を有し、基板10上に互いに対向する位置に設けられる。
【0018】
ここで、単層カーボンナノチューブを含んで構成されるチャネル部18のみかけの熱抵抗変化率(TCR値)を増加させることを目的として、第1電極12と第2電極14とを、互いに異なる仕事関数を有する金属材料を用いて構成することができる。例えば、金(Au)を用いて第1電極12を構成し、チタン(Ti)を用いて第2電極14を構成することができる。また、Tiを用いて第1電極12を構成し、Auを用いて第2電極14を構成することもできる。なお、第1電極12又は第2電極14を構成する金属材料としては、インジウム(In)、タンタル(Ta)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、タングステン(W)、銅(Cu)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、若しくは白金(Pt)等を用いることもできる。
【0019】
(第3電極16)
第3電極16は、基板10上であって、第1電極12及び第2電極14から離れた位置にゲート電極として設けられる。例えば、第3電極16は、平面視にて略長方形状を有し、第1電極12及び第2電極14の間に設けられる。第3電極16は、チャネル部18に電場を発生させることでキャリアを注入する機能を奏するので、電気化学的に安定なAu若しくはPt等の金属材料を用いて形成される。なお、第1電極12、第2電極14、及び第3電極16は、真空蒸着法、スパッタリング法等の成膜技術を用いて形成することができる。
【0020】
(チャネル部18)
チャネル部18は、第1電極12と第2電極14との双方に接触して設けられ、単一カイラリティのカーボンナノチューブを含んで構成される。具体的に、チャネル部18は、単一カイラリティの複数の単層カーボンナノチューブを含んで形成されるネットワークであって、シート状に形成される。本実施の形態に係る単層カーボンナノチューブは、カイラリティを(n,m)で表した場合(ただし、n及びmは0以上の整数である)、「n−m」が3の倍数ではない単層カーボンナノチューブを用いる。すなわち、本実施の形態に係る単層カーボンナノチューブは、単一カイラリティの半導体型単層カーボンナノチューブ(以下、単一カイラリティの半導体型単層カーボンナノチューブを単に「半導体型Single−walled Carbon Nanotube(SWCNT)」と表す。)である。半導体型SWCNTを用いることにより、チャネル部18の抵抗を所望の抵抗に制御することができる。
【0021】
また、本実施の形態に係る半導体型SWCNTは、赤外線受光素子1が受光する赤外線吸収波長に応じた直径を有する。例えば、赤外線受光素子1の赤外線吸収波長を約1.8μmにする場合、直径1.4nm程度の半導体型SWCNTを用いてカーボンナノチューブネットワークを形成する。同様に、赤外線受光素子1の赤外線吸収波長を約1.0μmにする場合、直径0.8nm程度の半導体型SWCNTを用いてカーボンナノチューブネットワークを形成する。金属型のSWCNTの場合、赤外線吸収波長の直径依存性は不明であるが、半導体型SWCNTを用いた場合、直径が小さいほど赤外線吸収波長が短くなる(すなわち、直径が大きいほど、光吸収が赤外領域にシフトする。)。したがって、赤外線受光素子1が受光する赤外線吸収波長に応じた直径を有する半導体型SWCNTを用いてカーボンナノチューブネットワークを形成する。
【0022】
なお、カーボンナノチューブネットワークは、例えば、ニトロセルロース紙にカーボンナノチューブの膜を形成し、その後、溶媒除去する膜転写法やインクジェット法を用いて形成することができる。また、カイラリティとは、カーボンナノチューブの炭素原子の原子配列の相違に起因する構造であり、アームチェア型、ジグザグ型、及びらせん構造型(キラル型)等が挙げられる。
【0023】
(制御部材20)
制御部材20は、第3電極16の表面とチャネル部18の表面との双方に接触して設けられ、チャネル部18の抵抗率を制御する。具体的に、制御部材20は、チャネル部18の表面に電気二重層を形成可能な電解質を含んで形成される。例えば、制御部材20は、イオン液体若しくは塩を用いて形成される。イオン液体としては、例えば、N,N,N-Trimethyl-N-propylammonium bis (trifuluoromethanesulfonyl)imide(TMPA-TFSI)や、1-ethyl-3methylimidazolium bis(trifuluoromethylsulfonyl)imide(EMIM-TFSI)等を用いることができ、塩としては、例えば、リチウム塩等を用いることができる。塩を用いる場合、塩を水溶媒若しくは有機溶媒に溶解させて用いる。
【0024】
ここで、イオン液体を用いる場合、第3電極16の表面とチャネル部18の表面との双方に接触するようにイオン液体を第3電極16及びチャネル部18の上面に塗布することで制御部材20を形成できる。また、イオン液体をUV照射により硬化させた硬化物、所定の硬化剤をイオン液体に添加して生成したイオンゲルを制御部材20として用いることができる。同様にして、塩が溶解している溶液を所定の媒体に含侵させて得られる固体物や固体電解質を制御部材20として用いることもできる。硬化物、イオンゲル、若しくは固体物を制御部材20として用いる場合、電子若しくはホールの半導体型SWCNTへの注入の制御を容易にすることを目的として、薄膜にすることが好ましい。
【0025】
制御部材20の機能をより詳細に説明する。制御部材20は、半導体型SWCNTを用いて構成されるチャネル部18の表面に電気二重層を形成することで、電子若しくはホールを半導体型SWCNT中に注入(ドーピング)する。これにより、チャネル部18の抵抗率を外部から電気的に変化させることができる。
【0026】
すなわち、半導体型SWCNTであっても、欠陥の存在や周囲に存在するドーパントの影響によって金属的な振る舞いをする場合がある(つまり、抵抗値が低い場合がある。)。この場合に、制御部材20は、半導体型SWCNTの表面に電気二重層を形成し、電子若しくはホールを半導体型SWCNT中にドーピングすることで、半導体型SWCNTのフェルミエネルギーの位置を制御する。
【0027】
具体的に、制御部材20は、半導体型SWCNTのバンドギャップの中央付近にフェルミエネルギーが位置するようにフェルミエネルギーを制御することで、チャネル部18の抵抗率を高くすることができる。例えば、制御部材20は、半導体型SWCNTを用いて構成されるチャネル部18に電圧が印加された場合に、電子若しくはホールをチャネル部18に注入することで、半導体型SWCNTのバンドギャップの中間にフェルミエネルギーの位置を移動させる(一例として、第3電極16であるゲート電極のゲート電圧を制御して、チャネル部18の抵抗値を高くするように制御する)。この場合、チャネル部18に電圧値を制御しつつ電圧を印加すると、制御部材20中のプラスイオン若しくはマイナスイオンが第3電極16に引き寄せられる。その結果、半導体型SWCNTを用いて構成されるチャネル部18に電子若しくはホールが注入され、チャネル部18の表面に電気二重層が形成される。すなわち、制御部材20は、様々なドーパントの影響を消失させ、チャネル部18の抵抗率を外部から電気的に制御できる状態にする機能を有する。
【0028】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る赤外線受光素子1は、第1電極12と第2電極14とを単一カイラリティの単層半導体型カーボンナノチューブを用いて構成されるチャネル部18によって接続し、チャネル部18のフェルミエネルギーの位置を制御部材20によって移動させることができるので、TCR値を大幅に向上させることができる。したがって、本実施の形態に係る赤外線受光素子1によれば、高いTCR値を備える赤外線受光素子を提供することができる。
【実施例1】
【0029】
[単一カイラリティの単層カーボンナノチューブの精製方法]
本実施例では(6,5)カイラリティの単層カーボンナノチューブを用いた。単一カイラリティの半導体型単層カーボンナノチューブの精製方法としては、公知の種々の精製方法を用いることができる。ここでは、実施例において採用した(6,5)カイラリティの単層カーボンナノチューブの精製方法について説明する。
【0030】
まず、炭素含有化合物による還元前に、酸化モリブデン(MoO)と相互作用させることで活性コバルト種(Co)を非金属状態で安定化するCoMoCAT法によって作製された市販の単層カーボンナノチューブ原料(アルドリッチ社製、SG65)を準備した。この単層カーボンナノチューブ原料を、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を界面活性剤として2%含む水溶液(以下、「SDS2%水溶液」と表す)に分散させた分散溶液を調製した。この分散処理には、超音波洗浄機、及びホーン型ホモジナイザーを用いた。続いて、超遠心機を用いて分散溶液を遠心分離し、その上澄み液を採取した。そして、採取した上澄み液について以下の分離精製処理を実行した。
【0031】
まず、GEヘルスケア社製のSephacrylゲルを所定のカラム管に充填した。そして、当該ゲルをSDS2%水溶液で置換した。続いて、当該カラム管に上記で採取した上澄み液を注入すると共に、SDSを2.5%含む水溶液を注入した。この際にカラム管から排出される溶液は廃棄した。更に、SDSを5%含む水溶液をカラム管に注入し、この際にカラム管から排出される溶液を採取した。これにより、(6,5)単層カーボンナノチューブ溶液を採取した。
【0032】
[赤外線受光素子の作製]
まず、シリコン基板を準備した。そして、シリコン基板上に厚さが200nmのSiO絶縁膜を形成した。そして、絶縁膜上に、Auからなる第1電極12としてのソース電極と、Tiからなる第2電極14としてのドレイン電極と、Auからなる第3電極16としてのゲート電極をそれぞれ形成した。
【0033】
次に、ソース電極とドレイン電極との間に、上記説明で得られた(6,5)単層カーボンナノチューブ溶液を用いて半導体型SWCNTのネットワークからなるシート状のチャネル部18を形成した。シート状のチャネル部18は、膜転写法を用いて形成した。続いて、制御部材20を形成する領域の外縁を囲むように、シリコンラバー製の囲いを形成した。そして、囲いの中にイオン液体(関東化学社製のN,N,N-Trimethyl-N-propylammonium bis (trifuluoromethanesulfonyl)imide(TMPA -TFSI))を注入した。
【0034】
これにより、ソース電極とドレイン電極との間、及びソース電極とゲート電極との間の電圧を制御することで、チャネル部18のフェルミエネルギーの位置を自在に制御することができる本実施例に係る赤外線受光素子を作製した。一方、比較例として、イオン液体を備えない赤外線受光素子も同様に作製した。なお、比較例に係る赤外線受光素子の構成は、イオン液体を備えない点を除き、実施例に係る赤外線受光素子と同一の構成にした。
【0035】
図4は、比較例に係る赤外線受光素子のTCR値を示すグラフであり、図5及び図6は、実施例1に係る赤外線受光素子のTCR値を示すグラフである。
【0036】
実施例に係る赤外線受光素子と比較例に係る赤外線受光素子のTCR値を真空プローバ―システム(Grail10)を用いて測定した。
【0037】
図4に示すように、イオン液体を備えない比較例に係る赤外線受光素子のTCR値(≡dR/RdT)は、300Kにおいて約−0.7%程度であった。一方、図5に示すように、実施例1に係る赤外線受光素子において、ソース電極とドレイン電極との間の電圧を0.5Vに設定し、ソース電極とゲート電極との間の電圧を0Vに設定した場合におけるTCR値は−2.57%となり、比較例に比べて大きく改善された。
【0038】
更に、図6に示すように、ソース電極とドレイン電極との間の電圧を0.1Vに設定し、ソース電極とゲート電極との間の電圧を−2.1Vに設定することにより、半導体型SWCNTの状態を高ドープ状態にした。この場合における実施例に係る赤外線受光素子のTCR値は−0.56%となった。すなわち、実施例に係る赤外線受光素子によれば、ソース電極とドレイン電極との間の電圧、及びソース電極とゲート電極との間の電圧を制御することにより、赤外線受光素子のTCR値を大きく変化させる制御ができることが示された。これは、ゲート電圧を制御することにより赤外線受光素子のTCR値を大きく変化させる制御ができること(すなわち、広い範囲で制御できること)を示すものである。
【実施例2】
【0039】
実施例2として、直径1.4nmの半導体型SWCNTを赤外線受光素子のチャネル部18に用いた場合におけるTCR値の制御結果を示す。
【0040】
まず、平均直径が1.4nmの半導体型の単層カーボンナノチューブ原料(名城ナノカーボン社製、ArcSO)30mgを準備した。この単層カーボンナノチューブ原料を30mlのデオキシコール酸ナトリウム2%水溶液に分散させた分散溶液を調製した。この分散処理には、超音波洗浄機、及びホーン型ホモジナイザーを用いた。続いて、超遠心分離機を用いて分散溶液を遠心分離し、その上澄み液を採取した。そして、密度勾配遠心分離法を用いて、当該上澄み液から半導体型SWCNTを抽出した。
【0041】
具体的に、ドデシル硫酸ナトリウムを2%含み、イオディキサノール濃度が40%から27.5%になっている密度勾配液を挿入した遠心チューブの上端に、SWCNTの上澄み液を注入し、超遠心分離した。その結果、高純度の直径1.4nmの半導体型SWCNTを、密度の違いを利用して抽出することができた。なお、更に純度の高い半導体型SWCNTは、この超遠心分離を再度実行することで得ることができる。得られた試料を洗浄し、メンブレンフィルター上に薄膜を形成した。そして、形成した薄膜を基板に転写することで薄膜付基板を得た。なお、基板としては、シリコン基板、パリレン基板等を用いることができる。
【0042】
次に、実施の形態において説明したような赤外線受光素子を作製した。具体的に、上記工程で得られた薄膜付基板に、Auからなるソース電極を形成すると共に、Tiからなるドレイン電極を形成した。ここで、上記で得られた直径1.4nmの半導体型SWCNTから構成される薄膜を所定形状に加工し、ソース電極とドレイン電極との間のチャネル部18として用いた。また、Auからなるゲート電極を形成すると共に、制御部材20としては実施例1と同様にイオン液体を用いた。これにより、実施例2に係る赤外線受光素子を作製した。
【0043】
続いて、実施例2に係る赤外線受光素子のソース電極とドレイン電極との間の電圧を0.1Vに設定し、ソース電極とゲート電極との間の電圧を0Vにした場合のTCR値を測定した。その結果、TCR値は−1.89%であった。また、ソース電極とドレイン電極との間の電圧を0.1Vに設定し、ソース電極とゲート電極との間の電圧を1Vに設定した場合のTCR値を測定した。その結果、TCR値は0.71%であった。これにより、ソース電極とドレイン電極との間、及びソース電極とゲート電極との間の電圧を制御することで、TCR値を制御できることが示された。
【実施例3】
【0044】
実施例3として、パリレン(登録商標)基板上に半導体型SWCNTから構成されるチャネル部を備える赤外線受光素子を作製し、当該赤外線受光素子に赤外線を照射した場合における抵抗変化を測定した。
【0045】
まず、基板にパリレン(登録商標)を蒸着することで、表面にパリレン層が形成された基板(以下、「パリレン基板」と表す。)を作製した。次に、パリレン基板上にAuからなるソース電極と、Auからなるドレイン電極とを形成すると共に、ソース電極とドレイン電極との間に、半導体型SWCNTを用いて構成されるチャネル部を形成した。これにより、実施例3に係る赤外線受光素子を作製した。なお、用いた半導体型SWCNTは、実施例2において説明した半導体型SWCNTと同一である。
【0046】
続いて、実施例3に係る赤外線受光素子のソース電極とドレイン電極との間の電圧を0.1Vに設定した。この状態で、黒体輻射炉の温度を150℃に設定し、ZnSeの窓を通して実施例3に係る赤外線受光素子に黒体輻射(赤外線)を照射した。その結果を図7に示す。
【0047】
図7に示すように、黒体輻射のON−OFFにより、チャネル部の抵抗値が有意に変化することが明らかになった。これにより、実施例3に係る赤外線受光素子は、赤外線受光素子として利用可能であることが示された。
【0048】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない。
【符号の説明】
【0049】
1 赤外線受光素子
10 基板
11 絶縁層
12 第1電極
14 第2電極
16 第3電極
18 チャネル部
20 制御部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7