【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、次の1から
7に記載のロングノズルを提供する。
【0013】
1.取鍋の下部ノズルとの接合部に、ロングノズル本体から独立してロングノズル本体に着脱及び交換可能な
円管状の交換部品を備えたロングノズルにおいて、溶鋼排出後の下部ノズルを外した状態で、前記交換部品を
前記ロングノズル本体から、3700N以下の力(以下「分離力」という。)で分離することができるように、前記交換部品
の外周側の面と前記ロングノズル本体との間の目地部の、少なくとも
前記目地部の上部の露出面を含む一部又は全部に、
前記の分離力で前記交換部品を前記ロングノズル本体から分離する際に変形又は崩壊する脆弱材料が、充填されていることを特徴とするロングノズル。
【0015】
2.前記脆弱材料は
、単一又は複数の原料粒子からなる粉体を含み、前記粉体の少なくとも一部が相互に結合しておらず、外力により流動可能な状態である、
1に記載のロングノズル。
【0016】
3.前記脆弱材料
は、少なくとも前記交換部品を前記ロングノズル本体から分離する際に、外力により流動可能な状態である、1
又は2に記載のロングノズル。
【0017】
4.前記脆弱材料内の最大気孔径が、0.5mm以下である、
2に記載のロングノズル。
【0018】
5.前記交換部品と前記ロングノズル本体との間の目地部の、前記脆弱材料が充填されている部分を除く一部又は全部に、前記脆弱材料より緻密な材料が配置されている、1から
4のいずれかに記載のロングノズル。
【0019】
6.前記交換部品の外周側の面の一部又は全部が、ロングノズルの縦軸中心を含む縦方向の断面において、上方に向かって拡径する形状である、1から
5のいずれかに記載のロングノズル。
【0020】
7.
当該ロングノズル使用後の、前記脆弱材料の単位面積当たりの接着強度Mf(MPa)は式1を満足する、1から
6のいずれかに記載のロングノズル。
Mf ≦ {Fd−(Mo×Ao)}/Af ・・・・・・・・・ 式1
Fd:前記の分離力(N)
Mo:前記脆弱材料を除く他の充填材料の単位面積当たりの接着強度(MPa)
Af:前記脆弱材料の配置面積(mm
2)
Ao:前記脆弱材料を除く他の充填材料の配置面積(mm
2)
【0021】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0022】
本発明のロングノズルは、前記背景技術に述べたようなメカニズム等による、ロングノズルの下部ノズルとの接合面の損傷を防止するために、この接合面に溶鋼やスラグ等が直接接触しないような下部ノズルとの接合部構造を備えたものである。すなわち、本発明のロングノズルは、ロングノズルの接合面を含む上部の領域を、ロングノズル本体に着脱及び交換が可能な、ロングノズル本体から独立した交換部品を設置した構造としたものである。この構造により、この前記交換部品の上端面が下部ノズルとの接合面になり、この面に溶鋼やスラグが付着しても、この前記交換部品を交換する等によってこの接合面は常に平滑な状態を維持することができる。
【0023】
一方、溶鋼排出後に下部ノズルをロングノズルから外す際は、下部ノズルとロングノズルが離れた後に下部ノズルとロングノズルが相対的に水平方向に離れるように移動するので、下部ノズルから流下した溶鋼やスラグは、ロングノズル上端部付近に付着することになる。
【0024】
このため、前記交換部品とロングノズル本体との間の目地部の、上部の露出面を含む部分には、溶鋼やスラグを侵入させないために、流下する溶鋼やスラグが冷却されて固化するまで存在することができる程度の耐火性を備えた材料を充填して、空間が無い状態にしておく必要がある。
【0025】
この目地部の上部の露出面を含む部分は、ロングノズル内孔への空気等の引き込みを防止する程度の密着性やシール性は必要ない。しかし、この目地部の材料(充填材料)が強度を備えた構造体として、しかも強固に前記交換部品を固定している場合には前記交換部品の交換作業自体が困難になると共に、溶鋼やスラグの一部がこの充填材料の気孔や亀裂等を経路として充填材料の組織に侵入ないし固化して、そこがいわゆる目地部でのアンカー又はスパイクのようになった強固な付着物を形成することがある(この現象を以下「スパイキング現象」ともいう。)。また、付着して固化した鋼やスラグを酸素ランスによる酸素洗浄作業によって除去する際にも、その低融化した鋼の酸化物やスラグが目地部及びその周辺に浸透して固化し、前記交換部品をさらに強固に固定してしまうことがある。
【0026】
そこで本発明は、前記交換部品とロングノズル本体との間の目地部の、少なくとも上部の露出面を含む一部又は全部に、わずかな外力、具体的には前記交換部品を、動力を使用しない人力で取り外すことができる程度の力で変形又は崩壊する脆弱材料を充填した構造とする。すなわち本発明は、溶鋼やスラグが付着する、少なくとも上部の露出面を含む前記目地部に、溶鋼やスラグが浸透して固化しても、下部ノズルを取り外して前記交換部品の上面が露出した状態で、動力を使用しない人力により変形又は崩壊する程度以下の強度の材料(脆弱材料)を配置することで、固化した鋼やスラグを容易に除去することを可能とし、さらには前記交換部品をロングノズル本体から容易に除去することをも可能とするものである。
【0027】
ここで「前記交換部品を、動力を使用しない人力で取り外すことができる程度の力」とは、前記交換部品の内孔側下端に金属製バール先端を当接して「てこ」の原理で前記交換部品を上方に押し上げる作業において、当該交換部品をロングノズル本体から分離することができる程度以下の力のことをいい、バールをも使用しない程度の力をも含む(以下単に「人力」ともいう。)。
【0028】
これを充填材料の接着強度で示すと、前記交換部品の内孔側下端のバール先端の加重を当該交換部品のロングノズル本体との接触面積で除した値以下の接着強度であればよいということである。この具体的な例を次に示す。
【0029】
図6に示すように、操業において一般的に行われている典型的な方法及びロングノズルの形状等で次の条件にてシミュレーションを行った。すなわち、最短と考えられる約1000mm程度の金属製バールを使用し、このバールのロングノズル側の先端を交換部品の内孔側下端に当接し、ロングノズル本体の内孔の上端部を支点とし、バールの反ロングノズル側すなわち作業者側の端部から約100mmの点を作業者が握るとの条件下、作業者がバールを押し下げることで交換部品を上方に押し上げて取り外す場合を想定した。
【0030】
この場合、作業者が握るバール端部から約100mmの位置に約62kgの荷重(人間1人の平均体重に相当)を下方に作用させたとき、前記荷重に支点までの長さを乗じたモーメントを、交換部品とロングノズル本体との目地部の中で接着している部分の総面積(以下「総接着面積」ともいう。)で除した値以下の接着強度であれば、人力で容易に除去することができる。
【0031】
ここで、接着強度は、脆弱材料、その他の充填材料それぞれの充填材料につき、操業で曝される温度で熱処理した後のJISR2213に準じる測定方法による接着曲げ強度を、それぞれの面積に乗じて、その合計を前記の総接着面積で除した値を、当該交換部品の接着強度とみなせばよい。
【0032】
例えば、交換部品の内径:100mm、外径:160mm、高さ:30mm、ロングノズル本体の内径:166mm、交換部品上端面からの上方への飛び出し寸法:30mm、交換部品とロングノズル本体の間の目地部の厚さ:3mmの構造にて、かつ、溶鋼通過経路である内孔に面する、交換部品とロングノズル本体との間のほぼ水平方向の目地には接着性の無いシール材(例えばファイバーシート等)を使用した場合には、前記のモーメントを交換部品の外周側面の面積
0.015m
2で除した値である、約
0.25MPa以下が前記交換部品の単位面積当たりの最大許容接着強度となる。
【0033】
また、前記のほぼ水平方向の目地に接着性の有るシール材(例えばファイバーシート等)を使用した場合には、前記のモーメントを交換部品の外周側面の面積
0.027m
2で除した値である約
0.14MPa以下が前記交換部品の単位面積当たりの最大許容接着強度となる。
【0034】
なお、このシミュレーションの例は、現在の鋼の連続鋳造操業におけるロングノズル等のほぼ最大の大きさに相当するので、前述の条件下の最大許容接着強度約
0.14MPa又は約
0.25MPaも、当該技術分野でのほぼ最大値と考えてよい。
【0035】
前記脆弱材料、前記脆弱材料を除く充填材料(「他の充填材料」)の単位面積当たりの接着強度を設計するにあたっては、前記式1を満足するように構成すればよい。この場合、前記「他の充填材料」は1種類にとどまらず、部位に応じて複数でもよい。
【0036】
なお、それぞれの接着強度は、例えば、内孔面に接し内孔面から近い部位に配置される材料に関しては、内孔面の溶鋼温度約1500℃と外周側端面の温度との平均温度での、外周側に配置される材料に関してはその外周側温度での酸化雰囲気中での熱処理及び冷却を経た後の接着強度を使用してもよい。すなわち、操業条件、ロングノズルの形状ないし構造、材質等の個別の条件に応じた最適な条件下の接着強度を使用すればよい。
【0037】
前記の程度の強度を得るための脆弱材料は、脆弱材料の構成粒子の少なくとも一部が相互に結合しておらず、外力により流動可能な状態であることが最も好ましい。すなわち、例えば結合機能を備える材料を含まない粉体を充填した状態である。このような流動可能な状態にある材料上に溶鋼やスラグが流下して材料の粒子間に浸透した場合には、直ちに冷却し固化して不規則な形状となる。その不規則な形状の固化物であっても、充填した材料が流動可能であることから、これら固化物は容易に除去することができる。同時に、前記交換部品とロングノズル本体との間にバール等の治具を差し込もうとした際には差し込むことができる空間を容易に形成することができるので、前記交換部品の除去も容易に行うことができる。なお、交換部品の除去には交換部品の下端の、ロングノズル本体との内孔側の境界部にバールを差し込めばよいので、交換部品の上端部外周側のロングノズル本体との境界部にはバールを差し込む必要性はほとんどない。
【0038】
前記の脆弱材料は、前記の固化物や前記交換部品の除去時に容易に流動することができればよいのであって、目地部に配置される際(すなわち供給する製品の形態)又は鋳造の操業中ないし前記交換部品の取り外し作業前においては保形性を備えていてもよい。
【0039】
前記の脆弱材料に溶鋼やスラグが流下する場合には、経験上、脆弱材料内の最大気孔径は約0.5mm以下程度であれば流下時の衝撃等による数mm程度の浸透はあるものの、すぐに温度が降下して固化状態になり、脆弱材料中の深部にまで浸透することはない。例えばステンレス鋼等の、より低粘性の鋼、スラグ等の浸透を抑制するためには、脆弱材料内の最大気孔径は約0.3mm以下程度であることがさらに好ましい。これら約0.5mm以下、約0.3mm以下の気孔径は、これら気孔の形状が粒子の形状や充填状態等に依存してそもそも不規則であることから、厳格な数値化は困難である。これらの気孔径は操業における多くの経験から知見したものであって、概ね開孔側(上方)を面としてその気孔部分の最大の長さと言い換えることができる。
【0040】
なお、本発明においては、前記交換部品をロングノズル本体から容易に除去するために、この交換部品を人力で取り外すことができる程度の範囲に脆弱材料が充填されているということでもある。例えば、前記の総接着強度が、前記交換部品を人力で容易に除去できる程度以下であれば、脆弱材料の目地部上部の露出面からの深さは、溶鋼又はスラグ流下時に脆弱材料が残留してさえいれば、またその浸透を防止できる程度の厚さでありさえすれば、例えば数mm程度の表層のみであってもよい。
【0041】
前記交換部品の形状については、その外周側の面の一部又は全部が、ロングノズルの縦軸中心(内孔の溶鋼流下方向の軸の中心)を含む縦方向の断面において、上方に向かって拡径する形状で、前記交換部品の半径方向の厚さが確保できる範囲においてできるだけ傾斜角度が大きい方が好ましい。すなわち前記交換部品を上方向に除去しやすくするために、その外周側の面は垂直ではなくできる限り上方に向かって拡径し、その角度が大きいことが好ましい。
【0042】
また、本発明においては、前記交換部品とロングノズル本体との間の目地部の、前記脆弱材料が充填されている部分を除く一部又は全部、特に、溶鋼通過経路であるロングノズル内孔に面した部分を含む少なくとも一部又は全部には、シール性を確保するために、溶鋼通過時において前記脆弱材料より緻密な材料(パッキング材)を配置することが好ましい。