特許第6456178号(P6456178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6456178
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】ロングノズル
(51)【国際特許分類】
   B22D 41/56 20060101AFI20190110BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
   B22D41/56
   B22D11/10 320Z
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-29761(P2015-29761)
(22)【出願日】2015年2月18日
(65)【公開番号】特開2016-150365(P2016-150365A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2017年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 太
(72)【発明者】
【氏名】立川 孝一
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−090592(JP,A)
【文献】 特開平03−221248(JP,A)
【文献】 特開昭62−040959(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/136034(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
B22D 41/00−41/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋の下部ノズルとの接合部に、ロングノズル本体から独立してロングノズル本体に着脱及び交換可能な円管状の交換部品を備えたロングノズルにおいて、溶鋼排出後の下部ノズルを外した状態で、前記交換部品を前記ロングノズル本体から、3700N以下の力(以下「分離力」という。)で分離することができるように、前記交換部品の外周側の面と前記ロングノズル本体との間の目地部の、少なくとも前記目地部の上部の露出面を含む一部又は全部に、前記の分離力で前記交換部品を前記ロングノズル本体から分離する際に変形又は崩壊する脆弱材料が、充填されていることを特徴とするロングノズル。
【請求項2】
前記脆弱材料は、単一又は複数の原料粒子からなる粉体を含み、前記粉体の少なくとも一部が相互に結合しておらず、外力により流動可能な状態である、請求項に記載のロングノズル。
【請求項3】
前記脆弱材料は、少なくとも前記交換部品を前記ロングノズル本体から分離する際に、外力により流動可能な状態である、請求項1又は請求項2に記載のロングノズル。
【請求項4】
前記脆弱材料内の最大気孔径が、0.5mm以下である、請求項に記載のロングノズル。
【請求項5】
前記交換部品と前記ロングノズル本体との間の目地部の、前記脆弱材料が充填されている部分を除く一部又は全部に、前記脆弱材料より緻密な材料が配置されている、請求項1から請求項のいずれかに記載のロングノズル。
【請求項6】
前記交換部品の外周側の面の一部又は全部が、ロングノズルの縦軸中心を含む縦方向の断面において、上方に向かって拡径する形状である、請求項1から請求項のいずれかに記載のロングノズル。
【請求項7】
当該ロングノズル使用後の、前記脆弱材料の単位面積当たりの接着強度Mf(MPa)は式1を満足する、請求項1から請求項のいずれかに記載のロングノズル。
Mf ≦ {Fd−(Mo×Ao)}/Af ・・・・・・・・・ 式1
Fd:前記の分離力(N)
Mo:前記脆弱材料を除く他の充填材料の単位面積当たりの接着強度(MPa)
Af:前記脆弱材料の配置面積(mm
Ao:前記脆弱材料を除く他の充填材料の配置面積(mm
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼を取鍋からタンディッシュに排出するロングノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造において取鍋からタンディッシュに溶鋼を排出するにあたっては、溶鋼の酸化やタンディッシュ内上面に存在するスラグの溶鋼内への巻き込み等を抑制するために、ロングノズルを使用することが一般的である。
【0003】
このロングノズルは、取鍋の底部に設置された下部ノズルとパッキング材等を介して接合される。このロングノズルと下部ノズルとの間は、(1)溶鋼中への空気(酸素等)の混入、(2)接合部からの溶鋼の漏れ、(3)炭素を含む材料からなるロングノズル及び下部ノズルの接合部付近の酸化等による損耗等、を抑制するため、高度な密着性を要求される。また、ロングノズルは、取鍋の交換の都度、下部ノズルへの着脱が行われるので、この着脱はロングノズルの使用回数分繰り返される。
【0004】
ところが、この着脱での取り外しの際に、下部ノズルから溶鋼やスラグが流下してロングノズルの下部ノズルとの接合面及びその周辺に付着して固化したり、接合面直下の下部ノズルとの内孔の段差部に形成される、いわゆる縦方向断面三角形の空間(図8の符号9部分)に凝固物が堆積して残留することがある。このような付着物は溶融状態でロングノズル上端部のコーナー部、隙間、気孔又は接合面、これら部位に強固に焼き付いたパッキング材等に付着してこれら組織に侵入した後に凝固する。このため、これら付着物はロングノズルに強固に付着して容易に除去することが困難であることが多い。
【0005】
ロングノズルの接合面は下部ノズルの接合面との高い密着性を得るために、平滑にする必要がある。そのため、取鍋交換の都度、酸素ランスから接合面の付着物に酸素を吹き付けてその付着物を溶融して流下させる洗浄方法、又はその付着物をバール等で除去する方法が採用されているが、このような強固に付着した付着物を除去する際に、ロングノズルの接合面や内孔上端部を損傷して、接合面の平滑性や所定の内孔形状を損なうことが多い。
【0006】
このような接合面の平滑性を得るために、例えばパッキング材に関してシール性を維持した上で剥離性を改善する試みが行われている。例えば特許文献1には、スライディングノズルとロングノズルとの接合面に装着されるパッキング材とその材料であって、装着中の気密性が高く、かつ取鍋交換時における剥離性の優れたパッキング材とその材料を提供することを目的として、(1)パッキング材の中間部にSiOを70〜80重量%、Alを15〜20重量%、アルカリを4〜7重量%を含有し、溶鋼熱により1300〜1400℃の温度で焼結する材料の層、(2)ロングノズルとの接合側にAlを45〜50重量%、SiOを50〜55重量%を含有したセラミック・ファイバーの層、(3)スライディングノズルとの接合側にAlを75〜98重量%含有するアルミナ微粉又は黒鉛をコーテングしたコーテング層、をもつ3層一体構造のパッキング材が開示されている。
【0007】
しかし、この特許文献1の、2つの接合面側に剥離しやすい層を形成したパッキング材をロングノズルの接合面に適用したとしても、パッキング材自体が強固な構造体となってロングノズルと下部ノズル間に存在すること、パッキング材の中間部の高強度の層自体が地金やFeO、スラグ等と反応して一体的になった結合部位を形成すること等により、ロングノズルと下部ノズルとの間は強固に接着した状態となって、ロングノズルを下部ノズルから容易に除去することはできない。
【0008】
また、前記特許文献1のパッキング材は、2つの接合面側に剥離しやすい層を有するが、その層は粗な構造であってしかも高強度な中間部の層に挟まれた厚さの薄い状態であるから、溶融したFeOやスラグ等が毛管現象により奥深くまで浸透しやすくなり、結局、パッキング材はロングノズルと下部ノズルの間を強固に接合した状態となりやすい。
【0009】
このように従来技術においては、ロングノズルの下部ノズルとの接合部におけるシール性とパッキング材の除去性等の接合部整備の作業性との両立は、未だ十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−132197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、ロングノズルと下部ノズルとの接合部の平滑性等を維持するための整備作業を容易にしつつ、ロングノズルの下部ノズルとの接合部の損傷を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、次の1からに記載のロングノズルを提供する。
【0013】
1.取鍋の下部ノズルとの接合部に、ロングノズル本体から独立してロングノズル本体に着脱及び交換可能な円管状の交換部品を備えたロングノズルにおいて、溶鋼排出後の下部ノズルを外した状態で、前記交換部品を前記ロングノズル本体から、3700N以下の力(以下「分離力」という。)で分離することができるように、前記交換部品の外周側の面と前記ロングノズル本体との間の目地部の、少なくとも前記目地部の上部の露出面を含む一部又は全部に、前記の分離力で前記交換部品を前記ロングノズル本体から分離する際に変形又は崩壊する脆弱材料が、充填されていることを特徴とするロングノズル。
【0015】
.前記脆弱材料は、単一又は複数の原料粒子からなる粉体を含み、前記粉体の少なくとも一部が相互に結合しておらず、外力により流動可能な状態である、に記載のロングノズル。
【0016】
.前記脆弱材料は、少なくとも前記交換部品を前記ロングノズル本体から分離する際に、外力により流動可能な状態である、又は2に記載のロングノズル。
【0017】
.前記脆弱材料内の最大気孔径が、0.5mm以下である、に記載のロングノズル。
【0018】
.前記交換部品と前記ロングノズル本体との間の目地部の、前記脆弱材料が充填されている部分を除く一部又は全部に、前記脆弱材料より緻密な材料が配置されている、1からのいずれかに記載のロングノズル。
【0019】
.前記交換部品の外周側の面の一部又は全部が、ロングノズルの縦軸中心を含む縦方向の断面において、上方に向かって拡径する形状である、1からのいずれかに記載のロングノズル。
【0020】
当該ロングノズル使用後の、前記脆弱材料の単位面積当たりの接着強度Mf(MPa)は式1を満足する、1からのいずれかに記載のロングノズル。
Mf ≦ {Fd−(Mo×Ao)}/Af ・・・・・・・・・ 式1
Fd:前記の分離力(N)
Mo:前記脆弱材料を除く他の充填材料の単位面積当たりの接着強度(MPa)
Af:前記脆弱材料の配置面積(mm
Ao:前記脆弱材料を除く他の充填材料の配置面積(mm
【0021】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0022】
本発明のロングノズルは、前記背景技術に述べたようなメカニズム等による、ロングノズルの下部ノズルとの接合面の損傷を防止するために、この接合面に溶鋼やスラグ等が直接接触しないような下部ノズルとの接合部構造を備えたものである。すなわち、本発明のロングノズルは、ロングノズルの接合面を含む上部の領域を、ロングノズル本体に着脱及び交換が可能な、ロングノズル本体から独立した交換部品を設置した構造としたものである。この構造により、この前記交換部品の上端面が下部ノズルとの接合面になり、この面に溶鋼やスラグが付着しても、この前記交換部品を交換する等によってこの接合面は常に平滑な状態を維持することができる。
【0023】
一方、溶鋼排出後に下部ノズルをロングノズルから外す際は、下部ノズルとロングノズルが離れた後に下部ノズルとロングノズルが相対的に水平方向に離れるように移動するので、下部ノズルから流下した溶鋼やスラグは、ロングノズル上端部付近に付着することになる。
【0024】
このため、前記交換部品とロングノズル本体との間の目地部の、上部の露出面を含む部分には、溶鋼やスラグを侵入させないために、流下する溶鋼やスラグが冷却されて固化するまで存在することができる程度の耐火性を備えた材料を充填して、空間が無い状態にしておく必要がある。
【0025】
この目地部の上部の露出面を含む部分は、ロングノズル内孔への空気等の引き込みを防止する程度の密着性やシール性は必要ない。しかし、この目地部の材料(充填材料)が強度を備えた構造体として、しかも強固に前記交換部品を固定している場合には前記交換部品の交換作業自体が困難になると共に、溶鋼やスラグの一部がこの充填材料の気孔や亀裂等を経路として充填材料の組織に侵入ないし固化して、そこがいわゆる目地部でのアンカー又はスパイクのようになった強固な付着物を形成することがある(この現象を以下「スパイキング現象」ともいう。)。また、付着して固化した鋼やスラグを酸素ランスによる酸素洗浄作業によって除去する際にも、その低融化した鋼の酸化物やスラグが目地部及びその周辺に浸透して固化し、前記交換部品をさらに強固に固定してしまうことがある。
【0026】
そこで本発明は、前記交換部品とロングノズル本体との間の目地部の、少なくとも上部の露出面を含む一部又は全部に、わずかな外力、具体的には前記交換部品を、動力を使用しない人力で取り外すことができる程度の力で変形又は崩壊する脆弱材料を充填した構造とする。すなわち本発明は、溶鋼やスラグが付着する、少なくとも上部の露出面を含む前記目地部に、溶鋼やスラグが浸透して固化しても、下部ノズルを取り外して前記交換部品の上面が露出した状態で、動力を使用しない人力により変形又は崩壊する程度以下の強度の材料(脆弱材料)を配置することで、固化した鋼やスラグを容易に除去することを可能とし、さらには前記交換部品をロングノズル本体から容易に除去することをも可能とするものである。
【0027】
ここで「前記交換部品を、動力を使用しない人力で取り外すことができる程度の力」とは、前記交換部品の内孔側下端に金属製バール先端を当接して「てこ」の原理で前記交換部品を上方に押し上げる作業において、当該交換部品をロングノズル本体から分離することができる程度以下の力のことをいい、バールをも使用しない程度の力をも含む(以下単に「人力」ともいう。)。
【0028】
これを充填材料の接着強度で示すと、前記交換部品の内孔側下端のバール先端の加重を当該交換部品のロングノズル本体との接触面積で除した値以下の接着強度であればよいということである。この具体的な例を次に示す。
【0029】
図6に示すように、操業において一般的に行われている典型的な方法及びロングノズルの形状等で次の条件にてシミュレーションを行った。すなわち、最短と考えられる約1000mm程度の金属製バールを使用し、このバールのロングノズル側の先端を交換部品の内孔側下端に当接し、ロングノズル本体の内孔の上端部を支点とし、バールの反ロングノズル側すなわち作業者側の端部から約100mmの点を作業者が握るとの条件下、作業者がバールを押し下げることで交換部品を上方に押し上げて取り外す場合を想定した。
【0030】
この場合、作業者が握るバール端部から約100mmの位置に約62kgの荷重(人間1人の平均体重に相当)を下方に作用させたとき、前記荷重に支点までの長さを乗じたモーメントを、交換部品とロングノズル本体との目地部の中で接着している部分の総面積(以下「総接着面積」ともいう。)で除した値以下の接着強度であれば、人力で容易に除去することができる。
【0031】
ここで、接着強度は、脆弱材料、その他の充填材料それぞれの充填材料につき、操業で曝される温度で熱処理した後のJISR2213に準じる測定方法による接着曲げ強度を、それぞれの面積に乗じて、その合計を前記の総接着面積で除した値を、当該交換部品の接着強度とみなせばよい。
【0032】
例えば、交換部品の内径:100mm、外径:160mm、高さ:30mm、ロングノズル本体の内径:166mm、交換部品上端面からの上方への飛び出し寸法:30mm、交換部品とロングノズル本体の間の目地部の厚さ:3mmの構造にて、かつ、溶鋼通過経路である内孔に面する、交換部品とロングノズル本体との間のほぼ水平方向の目地には接着性の無いシール材(例えばファイバーシート等)を使用した場合には、前記のモーメントを交換部品の外周側面の面積0.015で除した値である、約0.25MPa以下が前記交換部品の単位面積当たりの最大許容接着強度となる。
【0033】
また、前記のほぼ水平方向の目地に接着性の有るシール材(例えばファイバーシート等)を使用した場合には、前記のモーメントを交換部品の外周側面の面積0.027で除した値である約0.14MPa以下が前記交換部品の単位面積当たりの最大許容接着強度となる。
【0034】
なお、このシミュレーションの例は、現在の鋼の連続鋳造操業におけるロングノズル等のほぼ最大の大きさに相当するので、前述の条件下の最大許容接着強度約0.14MPa又は約0.25MPaも、当該技術分野でのほぼ最大値と考えてよい。
【0035】
前記脆弱材料、前記脆弱材料を除く充填材料(「他の充填材料」)の単位面積当たりの接着強度を設計するにあたっては、前記式1を満足するように構成すればよい。この場合、前記「他の充填材料」は1種類にとどまらず、部位に応じて複数でもよい。
【0036】
なお、それぞれの接着強度は、例えば、内孔面に接し内孔面から近い部位に配置される材料に関しては、内孔面の溶鋼温度約1500℃と外周側端面の温度との平均温度での、外周側に配置される材料に関してはその外周側温度での酸化雰囲気中での熱処理及び冷却を経た後の接着強度を使用してもよい。すなわち、操業条件、ロングノズルの形状ないし構造、材質等の個別の条件に応じた最適な条件下の接着強度を使用すればよい。
【0037】
前記の程度の強度を得るための脆弱材料は、脆弱材料の構成粒子の少なくとも一部が相互に結合しておらず、外力により流動可能な状態であることが最も好ましい。すなわち、例えば結合機能を備える材料を含まない粉体を充填した状態である。このような流動可能な状態にある材料上に溶鋼やスラグが流下して材料の粒子間に浸透した場合には、直ちに冷却し固化して不規則な形状となる。その不規則な形状の固化物であっても、充填した材料が流動可能であることから、これら固化物は容易に除去することができる。同時に、前記交換部品とロングノズル本体との間にバール等の治具を差し込もうとした際には差し込むことができる空間を容易に形成することができるので、前記交換部品の除去も容易に行うことができる。なお、交換部品の除去には交換部品の下端の、ロングノズル本体との内孔側の境界部にバールを差し込めばよいので、交換部品の上端部外周側のロングノズル本体との境界部にはバールを差し込む必要性はほとんどない。
【0038】
前記の脆弱材料は、前記の固化物や前記交換部品の除去時に容易に流動することができればよいのであって、目地部に配置される際(すなわち供給する製品の形態)又は鋳造の操業中ないし前記交換部品の取り外し作業前においては保形性を備えていてもよい。
【0039】
前記の脆弱材料に溶鋼やスラグが流下する場合には、経験上、脆弱材料内の最大気孔径は約0.5mm以下程度であれば流下時の衝撃等による数mm程度の浸透はあるものの、すぐに温度が降下して固化状態になり、脆弱材料中の深部にまで浸透することはない。例えばステンレス鋼等の、より低粘性の鋼、スラグ等の浸透を抑制するためには、脆弱材料内の最大気孔径は約0.3mm以下程度であることがさらに好ましい。これら約0.5mm以下、約0.3mm以下の気孔径は、これら気孔の形状が粒子の形状や充填状態等に依存してそもそも不規則であることから、厳格な数値化は困難である。これらの気孔径は操業における多くの経験から知見したものであって、概ね開孔側(上方)を面としてその気孔部分の最大の長さと言い換えることができる。
【0040】
なお、本発明においては、前記交換部品をロングノズル本体から容易に除去するために、この交換部品を人力で取り外すことができる程度の範囲に脆弱材料が充填されているということでもある。例えば、前記の総接着強度が、前記交換部品を人力で容易に除去できる程度以下であれば、脆弱材料の目地部上部の露出面からの深さは、溶鋼又はスラグ流下時に脆弱材料が残留してさえいれば、またその浸透を防止できる程度の厚さでありさえすれば、例えば数mm程度の表層のみであってもよい。
【0041】
前記交換部品の形状については、その外周側の面の一部又は全部が、ロングノズルの縦軸中心(内孔の溶鋼流下方向の軸の中心)を含む縦方向の断面において、上方に向かって拡径する形状で、前記交換部品の半径方向の厚さが確保できる範囲においてできるだけ傾斜角度が大きい方が好ましい。すなわち前記交換部品を上方向に除去しやすくするために、その外周側の面は垂直ではなくできる限り上方に向かって拡径し、その角度が大きいことが好ましい。
【0042】
また、本発明においては、前記交換部品とロングノズル本体との間の目地部の、前記脆弱材料が充填されている部分を除く一部又は全部、特に、溶鋼通過経路であるロングノズル内孔に面した部分を含む少なくとも一部又は全部には、シール性を確保するために、溶鋼通過時において前記脆弱材料より緻密な材料(パッキング材)を配置することが好ましい。
【発明の効果】
【0043】
以上のように本発明によれば、目地部の外部への露出面に亀裂が生じたり、その亀裂に侵入した溶鋼やスラグがその亀裂部位でいわゆるアンカーとなって固化した鋼やスラグが強固に接合部に付着する等の現象がなく、したがって前記交換部品を固定化することがない。その結果、ロングノズル本体の下部ノズルとの接合部の平滑性等を維持しつつ、取鍋交換時のロングノズルの下部ノズルとの接合部の整備作業を容易にしつつ、前記接合部の損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明のロングノズルの一例を、下部ノズルとの接合構造と共に示す縦方向断面図である。
図2】本発明のロングノズルの他の例を、下部ノズルとの接合構造と共に示す縦方向断面図である。
図3】本発明のロングノズルの他の例を、下部ノズルとの接合構造と共に示す縦方向断面図である。
図4】本発明のロングノズルの他の例を、下部ノズルとの接合構造と共に示す縦方向断面図である。
図5】本発明のロングノズルの他の例を、下部ノズルとの接合構造と共に示す縦方向断面図である。
図6】ロングノズル本体から交換部品を取り外す典型的な方法を示す説明図である。
図7】従来のロングノズルの一例を、下部ノズルとの接合構造と共に示す縦方向断面図である。
図8】従来のロングノズルの一例を、緻密質目地材(パッキング材)表面の損傷状態及び内孔側への付着物の付着状態と共に示す縦方向断面図である。
図9】前記交換部品を備えたロングノズルでの、付着物の付着状況及び付着物が目地部上部の露出面から目地部下方深くまで浸透した場合を示す縦方向断面図(イメージ図)である。
図10】前記交換部品を備えたロングノズルであるが、目地部に緻密質目地材(パッキング材)のみを使用した比較例を、下部ノズルとの接合構造と共に示す縦方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の具体的な実施形態を図1図5に例示して説明する。
【0046】
これらの実施形態では、ロングノズル本体10の内孔6側の上端部に、着脱及び交換可能な部品(前記交換部品)1を備えており、下部ノズル11はこの交換部品1の上部と接合される。
【0047】
交換部品1とロングノズル本体10との間の目地部において、内孔6に面する部分を含む一部には、空気の侵入を抑制する程度の緻密性を備えたパッキング材5が配置されている。そして、このパッキング材5と連続して、前記目地部の少なくとも上部の露出面2を含む一部に、脆弱材料(目地材)4が配置(充填)されている。
【0048】
なお、前述の緻密性を備えたパッキング材5は、脆弱材料4とは異なる材料でもよいが、脆弱材料4と同様の材料を設置時又は下部ノズルとの接合時等の圧力により圧縮した結果緻密性を備えるものでもよい。
【0049】
また、脆弱材料4を充填する部分は、前記目地部の少なくとも上部の露出面を含んでいれば、特に制限する必要はない。ただし、交換部品1とロングノズル本体10との目地部において、ロングノズル縦方向に面を有する部分(交換部品1の外周面)の目地部全部が脆弱材料4であること(図2図5の実施形態)が、付着物侵入時の付着物除去性及び交換部品1の除去性を高めるためには好ましい。
【0050】
この脆弱材料4は、最も強度が小さい場合の例としては、当初から材料の構成粒子及び交換部品1やロングノズル本体10との結合機能を備えない、例えば単なる粉体が挙げられる。このような粉体としては、アルミナ質、シリカ質、ジルコニア質、アルミナ−シリカ質、アルミナ−シリカ−ジルコニア質、アルミナ−マグネシア質、アルミナ−スピネル質、マグネシア質、ジルコニア質等、又はこれら材質に炭素を含有する材料等の、単一又は複数の原料粒子からなる粉体等を、少なくとも前述の付着物や交換部品等を容易に除去することができる程度以下の焼結性にとどめることが必要である。
【0051】
これらは鉱物相としても前述の焼結性の要件を満たせば、特に限定する必要はない。しかし、ガラス相を多量に含む等により約800℃以下程度でも高い焼結性を有したり、化合を生じる材料は避けることが好ましい。また、変態等により特異又は高い熱膨張・収縮を示す鉱物、例えば、シリカ系鉱物、ジルコニア系鉱物の、溶鋼等の高温度に曝された際に高い膨張や変態挙動等を示す、例えばカイヤナイト等を使用することは、本発明の効果を妨げることがなく、むしろ固定化を抑制することもあるので、使用することが可能である。
【0052】
これらの粒子の形状等は特に制限する必要はなく、目地部の幅との関係で、流動性(変形能)を得ることができつつ、目地部に充填することができさえすれば、粒径、粒子形状等は制限する必要はない。しかし、例えば、流動性を確保するためには目地部の幅に対する粒径は経験上約1/2程度が好ましく、約1/3程度以下で、粒径分布が狭い(すなわち同じ程度の大きさの集団)であることがより好ましい。また粒子形状はできる限り球状に近いものが好ましい。
【0053】
このような結合機能を備えない状態の粉体であれば、外力に対し流動性(変形能と同じ)を備えるので、溶融状態の物質が付着した場合に、またそれが材料内部の気孔を経由して下方に浸透しても、それらが強固なスパイク状態になることはなく、容易に除去することができる。
【0054】
また、このような外力に対する流動性を当初から備えないで設置当初は保形性や強度を備えていても、鋳造の操業中、すなわち高温度に曝され、又は酸化雰囲気に曝されることで強度が低下し、付着物を容易に除去できる程度の流動性を備えるに至る形態の材料でもよい。このような材料の例としては、有機系の樹脂や接着剤を結合材として含むパッキング材等が挙げられる。これらの材料の場合は有機系の樹脂や接着剤を結合材が熱間で分解、又は酸化して消失することで、材料自体の強度が低下又は消失し、材料としての流動性(変形能)を示すことになる。
【0055】
なお、図1図5の実施形態では、交換部品1と下部ノズル11との間の目地部、及び交換部品1とロングノズル本体10との間の目地部において内孔6に面する部分を含む一部に、シール性を確保するために緻密性を備えたパッキング材5を配置したが、これらの目地部の平滑度が空気を内孔側に引き込まない程度、又は漏鋼を生じない程度であれば、パッキング材5は必ずしも配置しなくてもよい。
【0056】
また、パッキング材を使用する場合における「緻密性」の程度は、個別の操業、設備等の諸条件によって変動するものであって、必ずしも特定の数値化に馴染む性質の特性ではない。一般的には、例えば約600℃、約39.2×10Pa程度でパッキング材を加圧した条件下、真空容器の真空度を約2.6×10Pa程度(繊維質の例)〜約8×10Pa程度(耐火粒子等の成形物の例)に維持可能な程度のパッキング効果を示す材料が使用できる。
【0057】
交換部品の材質、物性等は、下部ノズルとの接合状態を保持できる程度の強度等を備えていて、鋳造用ノズルに必要な耐食性、耐熱衝撃性、耐熱性等を備えていれば、特に制限する必要はない。ロングノズル又は下部ノズルと同じ材料でもよい。具体的には、アルミナ質、アルミナ−シリカ質、アルミナ−シリカ−ジルコニア質、アルミナ−マグネシア質、アルミナ−スピネル質、マグネシア質、ジルコニア質等、又はこれら材質に炭素を含有する材料等の、一般的に鋳造用ノズル等に使用される耐火物であればよい。また特に強度や耐食性、耐酸化性等を高めるために金属、共有結合性の化合物等を含んでもよい。
【0058】
なお、図7〜10には、参考までに、前記図面の簡単な説明に記載のとおり、従来のロングノズルの一例等を示している。
【実施例】
【0059】
[実施例A]
実施例Aは、上部に露出面(水平方向の面)を有する目地部に、緻密質パッキング材(金属含有の強接着機能を備える材料、下記表1の「パッキング材−A」)、脆弱材料として、(ア)設置時には保形性を備えるが、熱処理後に強度をほとんど有しない材質(下記表1、2の「パッキング材−B」)、(イ)単なる粉体(結合材を有さず強度を有していない、下記表1、2の「耐火原料」)を適用した場合の、溶鋼、スラグ、及び交換部品(耐火物成形体)の除去性を調査した実験例を示す。
【0060】
本実験例では、前記交換部品を模擬して外径φ160mm−内径φ100mm×高さ30mmの円管状の耐火物成形体を作製し、これをその外周側に3mm幅の目地部が形成されるように、内径φ166mm×高さ30mmの耐火物製の円管内に設置した。そして、前記の目地部に、前記の緻密質パッキング材、脆弱材料を各例ごとに装填して供試料とした。なお、前記交換部品(耐火物成形体)及びその外周周囲の円管には、アルミナ約50質量%、シリカ約20質量%、炭素約30質量%から成る、ロングノズルに一般的に使用されている材料を使用した。
【0061】
これら各々の供試料の目地部上部の露出面(上部露出面部の目地)に約1550℃の溶鋼、取鍋スラグを注ぎ、冷却後にこれら溶鋼、取鍋スラグ、及び前記交換部品(耐火物成形体)を除去してその除去時の容易性を、手作業により確認した。
【0062】
評価は、手作業で容易に除去できる(すなわちバールを使用しない)場合を◎、バールを使用すると容易に除去できる場合を○、バール使用により除去できるもののやや接着が観られた場合を△、除去が困難であった場合を×、の4段階の定性的評価とした。
【0063】
表1に供試料と各実験結果を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
従来材質である緻密質パッキング材を使用した比較例1では、スラグ、溶鋼のいずれの場合にも目地部の接着が強固であり、除去性が不良であった。
【0066】
これに対し、脆弱材料(ア)、(イ)を使用した実施例1〜7では、いずれも除去性(解体性は良好であった。単なる粉体として整粒化した耐火原料粒子をそのまま使用した実施例2〜7は、粒子の形態(球状か破砕粒か)に拘わらず、良好な除去性を示した。なお、1mm以下の耐火原料粒子を充填した場合は、スラグが深く浸透した部分が生じて、一部の目地部がやや一体化したため、やや除去性が低下する傾向が観られたが、人力で容易に除去することは可能であった。
【0067】
また、耐火原料粒子の大きさ(1mm以下、0.5mm以下)の違いによる除去性は、前記の1mm以下でのスラグの場合を除きほとんど差異はなく、また粉体の成分による差異も観られなかった。
【0068】
[実施例B]
実施例Bは、前記実施例Aの脆弱材料としての(ア)、(イ)の代表例を、目地部の厚さ、及び前記交換部品外周面の上方に向かう拡径程度、すなわち目地部の角度を変えて除去性を調査した実験例を示す。実験装置、方法は前述実施例Aと同じである。
【0069】
表2に供試料と各実験結果等を示す。
【0070】
【表2】
【0071】
拡径のない、円柱状の前記交換部品外周形状を備えた実施例のうち、上部露出面部の目地厚さが5mm、3mmの実施例8、1、14、4の場合、除去性は良好であったが、上部露出面部の目地厚さが1mmの実施例9、実施例15では、除去性がやや低下した。これらの例では、前記交換部品の除去性を損なうほどのスラグや溶鋼の目地内への浸透はないものの、目地厚さが小さいために、前記交換部品除去時の動き代が小さくなって、やや除去性が低下した。
【0072】
前記交換部品外周形状を、上方向に向かって拡径した、すなわちロングノズルの鉛直方向に対して角度を有する例では、いずれも除去性は大幅に向上した。
【0073】
これらのことから、拡径しない円柱状であっても除去性は良好であったことから、少しでも拡径している場合は、除去性がさらに向上することがわかる。
【0074】
なお、この実施例Bの目地厚さ1mmの場合は、その充填作業性の点から、耐火原料粉体の粒度構成を0.5mm以下とした。
【符号の説明】
【0075】
1 交換部品
2 目地部の上部露出面
3 空間(目地部の材料非充填部)
4 脆弱材料(上部露出面を含む目地の一部)
5 緻密質パッキング材(ロングノズル内孔面を含む目地の一部)
6 ロングノズルの内孔
7 ロングノズルの縦方向中心軸(内孔の溶鋼流下方向の中心軸)
8 損傷部位
9 付着物
10 ロングノズル本体
11 下部ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10