特許第6456295号(P6456295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6456295部分的な金属層を含むスタックを備える基板、グレージングユニットおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6456295
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】部分的な金属層を含むスタックを備える基板、グレージングユニットおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/36 20060101AFI20190110BHJP
   C03C 27/06 20060101ALI20190110BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
   C03C17/36
   C03C27/06 101H
   B32B15/08 D
【請求項の数】15
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-543501(P2015-543501)
(86)(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公表番号】特表2016-503385(P2016-503385A)
(43)【公表日】2016年2月4日
(86)【国際出願番号】FR2013052830
(87)【国際公開番号】WO2014080141
(87)【国際公開日】20140530
【審査請求日】2016年11月17日
(31)【優先権主張番号】1261191
(32)【優先日】2012年11月23日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】510332431
【氏名又は名称】セーエヌエールエス
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】アルザトゥ,リナ
(72)【発明者】
【氏名】ダルマ,ダヴィ
(72)【発明者】
【氏名】バルセル,エティエンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ,ダヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジュ,ブノワ
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−34486(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/126135(WO,A1)
【文献】 特開平11−38892(JP,A)
【文献】 特開2004−317563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C15/00−23/00
B32B1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を主成分とするまたは銀製の少なくとも一つの金属機能層(140、180、220)および二つの反射防止コーティング(120、160、200、240)を備える薄層スタック(34、35、36)で面(31)をコーティングされた基板(30)であり、前記反射防止コーティングは各々が少なくとも一つの反射防止層(124、164、204、244)を備え、前記金属機能層(140)が二つの反射防止コーティング(120、160)間に配置される基板において、前記または各金属機能層(140、180、220)は表面占有率が50%〜98%である不連続層であり、不連続層が互いに結合された小島の形状で、小島間に覆われていない区域がある組織構造を示す自己構造化層であることを特徴とする基板。
【請求項2】
前記または各不連続金属機能層(140、180、220)は、下記の厚さe:
‐二酸化チタンTiO2を主成分とする層上に堆積された1.0≦e≦4.5nm、または、
‐酸化亜鉛錫SnZnOxを主成分とする層上に堆積された1.0≦e≦4.5nm、または、
‐酸化亜鉛ZnOを主成分とする層上に堆積された1.0≦e≦5.0nm、または、
‐窒化ケイ素Si34を主成分とする層上に堆積された1.0≦e≦7.0nm、または、
‐ニッケルを主成分とする層上に堆積された1.0≦e≦5.0nm、
を示すことを特徴とする、請求項1に記載の基板(30)。
【請求項3】
面(31)と第一の、または単一の不連続金属機能層(140)との間に配置された反射防止コーティング(120)は、550nmで屈折率が1.8〜2.2である材料製の、屈折率が中程度の反射防止層(124)を備え、この屈折率が中程度の反射防止層(124)は酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が中程度の反射防止層(124)の物理的厚さは5〜35nmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の基板(30)。
【請求項4】
各不連続金属機能層(140、180、220)の下方に配置された反射防止コーティング(120、160、200)は、550nmで屈折率が1.8〜2.2である材料製の、屈折率が中程度の反射防止層(124、164、204)を備え、この屈折率が中程度の反射防止層(124、164、204)は酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が中程度の反射防止層(124、164、204)の物理的厚さは5〜35nmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の基板(30)。
【請求項5】
面(31)と第一の、または、単一の不連続金属機能層(140)との間に配置された前記反射防止コーティング(120)は、550nmで屈折率が2.3〜2.7である材料製の、屈折率が高い反射防止層(124)を備え、この屈折率が高い反射防止層(124)は酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が高い反射防止層(124)の物理的厚さは5〜25nmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の基板(30)。
【請求項6】
各不連続金属機能層(140、180、220)の下方に配置された反射防止コーティング(120、160、200)は、550nmで屈折率が2.3〜2.7である材料製の、屈折率が高い反射防止層(124、164、204)を備え、この屈折率が高い反射防止層(124、164、204)は酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が高い反射防止層(124、164、204)の物理的厚さは5〜25nmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の基板(30)。
【請求項7】
面(31)から反対側の、第一の、または、単一の不連続金属機能層(140)の上方に配置された反射防止コーティング(160)は、550nmで屈折率が1.8〜2.2である材料製の、屈折率が中程度の反射防止層(164)を備え、この屈折率が中程度の反射防止層(164)は酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が中程度の反射防止層(164)の物理的厚さは、5〜35nmであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の基板(30)。
【請求項8】
面(31)から反対側の各不連続金属機能層(140、180、220)の上方に配置された反射防止コーティング(160、200、240)は、550nmで屈折率が1.8〜2.2である材料製の、屈折率が中程度の反射防止層(164、204、244)を備え、この屈折率が中程度の反射防止層(164、204、244)は酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が中程度の反射防止層(164)の物理的厚さは、5〜35nmであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の基板(30)。
【請求項9】
面(31)から反対側の、第一の、または、単一の不連続金属機能層(140)の上方に配置された反射防止コーティング(160)は、550nmで屈折率が2.3〜2.7である材料製の、屈折率が高い反射防止層(164)を備え、この屈折率が高い反射防止層(164)は酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が高い反射防止層(164)の物理的厚さは、5〜25nmであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の基板(30)。
【請求項10】
面(31)から反対側の各不連続金属機能層(140、180、220)の上方に配置された反射防止コーティング(160、200、240)は、550nmで屈折率が2.3〜2.7である材料製の、屈折率が高い反射防止層(164、204、244)を備え、この屈折率が高い反射防止層(164、204、244)は酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が高い反射防止層(164、204、244)の物理的厚さは、5〜25nmであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の基板(30)。
【請求項11】
前記スタック(35)は、銀を主成分とするまたは銀製の二つの金属機能層(140、180)および三つの反射防止コーティング(120、160、200)を備え、各金属機能層は二つの反射防止コーティング間に配置されていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一つに記載の基板(30)。
【請求項12】
前記スタック(36)は、銀を主成分とするまたは銀製の三つの金属機能層(140、180、220)および四つの反射防止コーティング(120、160、200、240)を備え、各金属機能層は二つの反射防止コーティング間に配置されていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一つに記載の基板(30)。
【請求項13】
少なくとも一つのいわゆる金属機能層(140、180、220)は、この金属機能層(140、180、220)とこの金属機能層の下方にある反射防止コーティング(120)との間に配置された下方遮断コーティング(130)上に直接堆積され、および/または、少なくとも一つのいわゆる金属機能層(140、180、220)はこの金属機能層(140、180、220)とこの金属機能層の上方にある反射防止コーティング(160)との間に配置された上方遮断コーティング(150)下に直接堆積され、および、下方遮断コーティング(130)および/または上方遮断コーティング(150)はニッケルまたはチタンを主成分とする薄層を備え、その物理的厚さe’は0.2nm≦e’≦2.5nmであることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一つに記載の基板(30)。
【請求項14】
スタック(34、35、36)の最後の層(168)である、基板(30)から最も遠い層は酸化物を主成分とし、化学量論で堆積され、二酸化チタンを主成分とするか、あるいは、亜鉛および錫の混合酸化物を主成分とすることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一つに記載の基板(30)。
【請求項15】
シャーシ構造(90)によって共に保持される少なくとも二つの基板(10、30)を備える多重グレージングユニット(100)であって、前記グレージングユニットは外部空間(ES)および内部空間(IS)の間に分離を実現し、その内部では少なくとも一つの挿入ガス層(15)が二つの基板の間に配置され、基板(30)は請求項1〜14のいずれか一つに記載のものである多重グレージングユニット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にガラスなどの剛性無機材料製の透明基板であり、前記基板は太陽放射および/または波長の大きい赤外線放射に作用することができる一つまたは複数の機能層を備える薄層スタックによってコーティングされている基板に関する。
【0002】
本発明は、さらに詳細には、交互になった「n」個の金属機能層、特に銀または銀を含有する金属合金を主成分とする機能層、および「(n+1)」個の反射防止コーティング(ここで、整数n≧1)を備え、その結果、一つまたは各機能層が二つの反射防止コーティング間に配置されている薄層スタックを備える基板、特に透明なガラス基板に関するものである。各反射防止コーティングは少なくとも一つの反射防止層を備え、各コーティングは好ましくは複数の層から構成されており、少なくとも一つの層、さらに各層は、反射防止層である。反射防止層の概念は、ここでは誘電体層の概念と同義であり、誘電体層の概念は、特にその金属の性質によって誘電性になることのできない金属機能層の概念の反対として使用される。
【0003】
本発明は、さらに詳細には、熱絶縁および/または太陽光線からの保護のグレージングユニットを製造するためのそのような基板の使用に関するものである。これらのグレージングユニットは、特に空調の労力を小さくするおよび/または過度な過熱を防止する(いわゆる「ソーラーコントロール」グレージングユニット)および/または建物および車両キャビン内でガラス表面が常に増大することによって生じる外部への散逸エネルギー量を減少させる(いわゆる「低放射性」グレージングユニット)ことを目的とする、建物および車両に装備されるためのものにもなり得る。
【背景技術】
【0004】
これらの基板は、電子装置内に特に集積化され得、そのとき、スタックは電流伝導用電極として働くことができ(照明装置、ディスプレイ装置、太陽電池パネル、エレクトロクロミックグレージングユニットなど)、または、例えば加熱グレージングユニットのように独特の機能性を示すグレージングユニット内に集積化され得る。
【0005】
そのような特性を基板に付与するために公知のタイプの層スタックは、赤外線および/または太陽放射での反射特性を備える金属機能層、特に銀または銀を含有する金属合金を主成分とする、または、完全に銀製の金属機能層によって構成される。
【0006】
このタイプのスタックでは、したがって、機能層は、各々が通常は複数の層を備える二つの反射防止誘電体コーティング間に配置され、複数の層は各々窒化物タイプの反射防止材料、窒化物または酸化物のケイ素またはアルミニウム製である。
【0007】
しかしながら、しばしば遮断コーティングが一つまたは各反射防止コーティングと金属機能層との間に差し込まれ、基板の方向であって機能層の下方に配置された遮断コーティングは、成形および/または焼き入れタイプの、場合によっては行われる高温での熱処理のとき、金属機能層を保護し、基板から反対側で機能層上に配置された遮断コーティングは、上方の反射防止コーティングの堆積のとき、および、場合によっては成形および/または焼き入れタイプの高温での熱処理のとき、この層を保護する。
【0008】
現在では、一般的に各金属機能層が完全な層であること、すなわち、その表面全体および厚さ全体にわたって、考慮された金属材料から構成されることが望まれている。
【0009】
当業者は、所定の材料(例えば銀)で、この材料の堆積の従来の条件では、完全な層はある一定の厚さだけからしか得られないとみなしている。
【0010】
完全な銀層と反射防止層との間の付着エネルギーは極めて小さく、約1J/m2位であり、二つの反射防止層間の付着エネルギーは銀と他の層との間のそれより5〜9倍高い。したがって、少なくとも一つの銀製または銀を主成分とする機能層を備えるスタックの付着エネルギーは、完全な金属機能層の他の材料とのこの弱い付着エネルギーによって制限される。
【0011】
発明者らは、一つまたは複数の金属機能層を有し、および、単一の金属機能層、または複数の金属機能層が存在するときにはこれらの全ての金属機能層を考慮した条件で完全な層を得るために必要な最低限の厚さよりも薄い厚さを有する薄層スタックを堆積させる可能性に興味を持った。
【0012】
そのようにして、発明者らは、明らかにスタックの面抵抗率が完全な機能層(単数または複数)を有するものよりも高いが、この面抵抗率はやはり特定の用途を可能にすることができることを確認した。
【0013】
特に、発明者らは、スタックの付着エネルギーがそのとき理論モデルが予想していたものよりも高いことを確認した。
【0014】
発明者らは、単一の金属機能層を備えていて、この金属機能層が不連続であるスタックについても、複数の金属機能層を備えていて、これら全ての金属機能層が不連続であるスタックについても同じように、極めて高い機械抵抗および、また、さらにより驚くべきことに極めて高い化学抵抗が得られることがあることを確認した。
【0015】
さらに、発明者らは、そのように作製されたスタックが、反射と同様に透過においても、透明で、ベール(「haze」)または虹色効果がなく、複数の色を有し、完全金属機能層(単数または複数)を備えるスタックで得られるものと類似することがあることを確認した。
【0016】
結局、発明者らは、スタックでコーティングされた基板が成形、焼き入れまたは焼成の熱処理を受けるときでさえ、これらの機械抵抗および化学抵抗の優れた特性が維持されることを確認した。
【0017】
したがって、この確認によって、一つの金属機能層または各金属機能層が比較的高い面抵抗率(例えば10Ω/□より高い)を示すことが許容される用途において、および、機械抵抗、さらに時には化学抵抗に好ましい作用を有する高い付着エネルギーが大きな利点である用途において、このタイプのスタックの使用の道が開かれる。
【0018】
上の例の範囲内で、確かに、スタックのいくつかの、あるいは、全部の機能層が完全であるときよりも高い面抵抗率を有するが、しかし特に耐性があり、したがって、気候条件が強い制約を生じさせる地域で使用できる薄層スタックを作製することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明は、その最も広義な意味において、銀を主成分とするまたは銀製の少なくとも一つの金属機能層および二つの反射防止コーティングを備える薄層スタックで面をコーティングされた基板であり、前記反射防止コーティングは各々が少なくとも一つの反射防止層を備え、いわゆる機能層が二つの反射防止コーティング間に配置される基板において、この基板は前記(すなわち、スタックが銀を主成分とする、または、銀製の単一の金属機能層を備えるときのスタックの単一の金属機能層)、または、各(すなわち、スタックが銀を主成分とする、または、銀製の複数の金属機能層を備えるときのスタックの全部の金属機能層)金属機能層は表面占有率が50%〜98%、さらに53%〜83%、さらに63%〜83%である不連続な層であることを特徴とする基板を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によると、そのように堆積された単数の機能層、または、そのように堆積された各機能層は互いに結合された小島の形状で、小島間に覆われていない区域がある組織構造を示す自己構造化層である。
【0021】
金属機能層がスタックの単一の金属機能層であるとき、または、スタック内に複数の金属機能層があるときに各金属機能層が不連続のときの金属機能層であるときのように、それによって、銀を主成分とする、または、銀製の単数の金属機能層、または、各金属機能層を囲む層の間に、直接接触を有することができる。これらの区域は、強い付着力を有する。最も弱い境界面、したがって、銀および隣接する層間の境界面で場合によっては生じる溝は、また、二つの反射防止層間に広がり、進行するであろうが、それがより高いエネルギーを要求する。したがって、この方法によって、スタックの全体の付着エネルギーがかなり向上されるとみられる。
【0022】
薄層スタックが銀を主成分とするまたは銀製の連続した金属機能層を全く含まないことは、少なくとも一つのそのような連続層の存在がこの連続金属機能層または各連続金属機能層の二つの境界面での付着エネルギーを減少させ、その結果、「弱いリンク(maillon faible)」現象によってスタック全体の抵抗特性を減少させるので、重要である。
【0023】
本発明の意味において、「不連続層」によって、本発明によるスタックの表面でのいずれかのサイズの方形を考慮するとき、そのとき、この方形では、不連続機能層は方形の表面の50%〜98%、さらに方形の表面の53%〜83%、さらに各々63%〜83%しか占めないことが理解される必要がある。
【0024】
考慮する方形は、コーティングの主要な部分に位置する。本発明の範囲内では、特定の縁部、または、それに加えて最終的な使用では隠される特定の輪郭を実現することは重要ではない。
【0025】
不連続性とは、従来技術によって無限ではない面抵抗率を測定することができるようなものである。したがって、層を構成する金属材料の集積がこの材料の全欠如体積によって分離されているが、互いに結合している不連続機能層(または各不連続機能層)を得ることが重要である。
【0026】
本発明によると、自己構造化機能層(単数または複数)を備えるこのタイプのスタックは連続機能層(単数または複数)を備えるスタックより高い付着エネルギーを示し、それらの光学的特性(光透過率、光反射率および放射率)は、主に暑いまたは温暖な気候の地域でのいくつかの特定の用途で許容できる範囲にとどまりながら、減少し、その地域では、約20%〜30%の放射率はふさわいものでありえる。
【0027】
本発明の意味での「コーティング」とは、単一層または異なる材料の複数の層がコーティングの内部に存在することがあることを理解しなければならない。
【0028】
「スタック」とは、互いに堆積された薄層の集合を意味し、これらの層の間には無機基板(ガラスなど)または有機基板(プラスチック材料シートなど)が挟まれていないことを理解する必要がある。
【0029】
従来のように、「材料を主成分とする層」とは、その層の大部分がこの材料からなり、すなわち、材料の化学元素、または場合によってはその安定したストイキメトリーで考慮される材料の製品が、考慮される層の原子百分率で少なくとも50%を構成することを理解する必要がある。
【0030】
また、従来のように、本発明の意味での「反射防止層」とは、その性質の観点から、材料は「非金属」であり、すなわち、金属ではないことを理解する必要がある。本発明の文脈では、この語は可視光の波長の範囲全体(380nm〜780nm)で5以上のn/k比を示す材料を意味する。
【0031】
nは所定の波長での材料の実際の屈折率を意味し、kは所定の波長での屈折率の虚数部分を示し、n/k比は所定の波長で算出されることが喚起される。
【0032】
本明細書中に表示される屈折率の値は、従来のように波長550nmで測定された値である。
【0033】
本発明によると、前記または各不連続金属機能層は、下記の厚さe:
‐二酸化チタンTiO2を主成分とする層上に堆積された1.0≦e≦4.5nm、さらに1.0≦e≦4.0nm、または2.0≦e≦4.5nm、さらに2.0≦e≦4.0nm、または、
‐酸化亜鉛錫SnZnOxを主成分とする層上に堆積された1.0≦e≦4.5nm、さらに1.0≦e≦4.0nm、または2.0≦e≦4.5nm、さらに2.0≦e≦4.0nm、または、
‐酸化亜鉛ZnOを主成分とする層上に堆積された1.0≦e≦5.0nm、さらに1.0≦e≦4.5nm、または2.0≦e≦5.0nm、さらに2.0≦e≦4.5nm、または、
‐窒化ケイ素Si34を主成分とする層上に堆積された1.0≦e≦7.0nm、さらに1.0≦e≦6.0nm、または2.0≦e≦7.0nm、さらに2.0≦e≦6.0nm、または、
‐ニッケルを主成分とする層上に堆積された1.0≦e≦5.0nm、さらに1.0≦e≦4.0nm、または2.0≦e≦5.0nm、さらに2.0≦e≦4.0nm
を示すことがある。
【0034】
好ましくは、本発明によるスタックは基板の面上に直接堆積される。
【0035】
本発明による単一の不連続金属機能層を備えるスタックとしては、下記のものがある。
‐本発明の一実施態様では、面と前記金属機能層との間に配置された前記反射防止コーティングは、屈折率が1.8〜2.2である材料製の、屈折率が中程度の反射防止層を備え、この層は好ましくは酸化物を主成分とする。この屈折率が中程度の反射防止層の物理的厚さは、5〜35nmであることがある。
‐さらに、前記金属機能層の下方に配置された前記反射防止コーティングは、屈折率が2.3〜2.7である材料製の、屈折率が高い反射防止層を備え、この屈折率が高い反射防止層は好ましくは酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が高い反射防止層の物理的厚さは、好ましくは、5〜25nmであることが可能である。
‐本発明の別の実施例では、面から反対側の前記金属機能層の上方に配置された前記反射防止コーティングは、屈折率が1.8〜2.2である材料製の、屈折率が中程度の反射防止層を備え、この層は好ましくは酸化物を主成分とする。この屈折率が中程度の反射防止層の物理的厚さは、好ましくは、5〜35nmである。
【0036】
さらに、前記金属機能層の上方に配置された前記反射防止コーティングは、屈折率が2.3〜2.7である材料製の、屈折率が高い反射防止層を備え、この屈折率が高い反射防止層は好ましくは酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が高い反射防止層の物理的厚さは、好ましくは5〜25nmである。前記スタックは、銀を主成分とするまたは銀製の不連続な二つの金属機能層および三つの反射防止コーティングだけを備えることがあり、各金属機能層は二つの反射防止コーティング間に配置されている。
【0037】
前記スタックは、銀を主成分とするまたは銀製の不連続な三つの金属機能層および四つの反射防止コーティングだけを備えることがあり、各不連続金属機能層は二つの反射防止コーティング間に配置されている。
【0038】
本発明による複数の不連続金属機能層を備えるスタックとしては、下記のものがある。
‐本発明の一実施態様では、面と第一の金属機能層との間に配置された、または各々の金属機能層の下方に配置された前記反射防止コーティングは、屈折率が1.8〜2.2である材料製の、屈折率が中程度の反射防止層を備え、この層は好ましくは酸化物を主成分とする。この屈折率が中程度の反射防止層の物理的厚さは、5〜35nmであることがある。
‐さらに、第一の、または各々の、金属機能層の下方に配置された前記反射防止コーティングは、屈折率が2.3〜2.7である材料製の、屈折率が高い反射防止層を備え、この屈折率が高い反射防止層は好ましくは酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が高い反射防止層の物理的厚さは、好ましくは5〜25nmであることが可能である。
‐本発明の別の実施例では、最後の、または、各々の、面から反対側の金属機能層の上方に配置された前記反射防止コーティングは、屈折率が1.8〜2.2である材料製の、屈折率が中程度の反射防止層を備え、この層は好ましくは酸化物を主成分とする。この屈折率が中程度の反射防止層の物理的厚さは、好ましくは5〜35nmである。
‐さらに、最後の、または、各々の、金属機能層の上方に配置された前記反射防止コーティングは、屈折率が2.3〜2.7である材料製の、屈折率が高い反射防止層を備え、この屈折率が高い反射防止層は好ましくは酸化物を主成分とし、および/または、この屈折率が高い反射防止層の物理的厚さは、好ましくは5〜25nmである。
【0039】
本発明の別の一実施態様では、少なくとも一つの機能層は、機能層と機能層の下方にある反射防止コーティングとの間に配置された下方遮断コーティング上に直接堆積され、および/または、少なくとも一つの機能層は機能層と機能層の上方にある反射防止コーティングとの間に配置された上方遮断コーティング下に直接堆積され、また下方遮断コーティングおよび/または上方遮断コーティングはニッケルまたはチタンを主成分とする薄層を備え、その物理的厚さe’は0.2nm≦e’≦2.5nmである。
【0040】
上方にある反射防止コーティングの最後の層、基板から最も遠い層は酸化物を主成分とすることがあり、そのとき、好ましくはストイキメトリーで堆積される。層は、特に二酸化チタン(TiOx)を主成分とするか、あるいは、亜鉛および錫の混合酸化物(SnzZnyx)を主成分とすることがある。
【0041】
そのように、スタックは、好ましくはストイキメトリーで堆積された最後の層(英語では「overcoat」)、すなわち保護層を備えることがある。この層は堆積後スタック内でストイキメトリー的に実質的に酸化されている。
【0042】
本発明は、また、シャーシ構造によって共に保持される少なくとも二つの基板を備える多重グレージングユニットに関するものであり、前記グレージングユニットは外部空間および内部空間の間に分離を実現し、その内部では少なくとも一つの挿入ガス層が二つの基板の間に配置され、一つの基板は本発明によるものである。
【0043】
ある変形形態では、本発明によるスタックはグレージングユニットの面4に配置される。
【0044】
本発明によるグレージングユニットは、本発明によるスタックを支持する少なくとも一つの基板を組み込み、それは場合によっては少なくとも一つの他の基板に組み合わされている。各基板は透明でも着色されていてもよい。基板の一つは少なくとも特にバルク着色されたガラス製のことがある。着色の種類の選択は製造が終了したグレージングユニットに求める光透過率のレベルおよび/または求める比色分析のアスペクトによって変化する。
【0045】
本発明によるグレージングユニットは少なくとも一つの熱可塑性ポリマーシートによって特に少なくとも二つのガラスタイプの剛性基板に組み合わされた薄層化された構造を示すことがあり、その結果、ガラス/薄層スタック/シート(単数または複数)/ガラス/ガラスシートのタイプの構造を示す。ポリマーは特にポリビニルブチラールPVB、エチレン酢酸ビニルEVA、ポリエチレンテレフタレートPET、ポリ塩化ビニルPVCを主成分とすることがある。
【0046】
本発明は、また、薄層スタックでコーティングされた基板および特に本発明による基板を作製するための少なくとも一つの銀を主成分とするまたは銀製の金属機能層および二つの反射防止コーティングの使用に関するものであり、前記(すなわち、スタックが銀を主成分とするまたは銀製の単一の金属機能層を備えるときのスタックの単一の金属機能層)、または、各(すなわち、スタックが銀を主成分とするまたは銀製の複数の金属機能層を備えるときのスタックの全部の金属機能層)金属機能層は、表面占有率50%〜98%、さらに53%〜83%、さらに63%〜83%の不連続層である。
【0047】
本発明は、また、薄層スタックでコーティングされた基板および特に本発明による基板を作製するための少なくとも一つの銀を主成分とするまたは銀製の金属機能層および二つの反射防止コーティングの堆積方法に関するものであり、前記(すなわち、スタックが銀を主成分とする、または、銀製の単一の金属機能層を備えるときのスタックの単一の金属機能層)、または、各(すなわち、スタックが銀を主成分とする、または、銀製の複数の金属機能層を備えるときのスタックの全部の金属機能層)金属機能層は、表面占有率50%〜98%、さらに53%〜83%、さらに63%〜83%の不連続層である。
【0048】
好ましくは、本発明によって、そのように、透明基板上に堆積され、可視光領域での光透過率TL>50%および可視光内光反射率(スタック側)RLが20%未満で、透過および反射においても比較的ニュートラルな色であるが、基板だけの場合よりも低い放射率を示す機能単層の薄層スタックを作製することができる。
【0049】
好ましくは、本発明によって、そのように、銀を主成分とするまたは銀製の全部の金属機能層が不連続であり、それによって、スタックが高い機械抵抗および/または高い化学抵抗を示す、薄層1、2、3、4、さらにより多くの金属機能層(単数または複数)のスタックを作製することができる。
【0050】
本発明の詳細および好ましい特徴は、下記の添付図面を参照しておこなう下記の実施例の説明から明らかになるであろう。但し、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、本発明による機能単層スタックを図示したものであり、不連続機能層が下方遮断コーティング上に直接、および、上方遮断コーティング下に直接堆積されている。
図2図2は、図1による機能単層スタックを組み込んだ二重グレージングユニットの解決法を図示したものである。
図3図3は、左から右へ、表面占有率が53%〜98%の銀製機能層の場合の、二つのモードのTEM(透過型電子顕微鏡)の画像である。
図4図4は、図3の四つのケースの不連続層について測定し、これらの同じ四つのケースについて、銀の面積比(英語では、「Silver Surface Fraction」、SFF)、すなわち、表面占有率に応じたモデルによる理論値Gmに比較した付着エネルギーAd(J/m2)を示したものである。
図5図5は、銀層の厚さeに応じたZタイプの薄層スタックの可視光領域での光透過率TLを黒の三角形で、可視光領域での光反射率RLを黒の長方形で示したものである。
図6図6は、銀層の厚さeに応じたZタイプの薄層スタックおよびスタックのない基板の理論放射率を反転した黒の三角形で、測定した放射率を黒丸で示したものである。
図7図7は、可視光領域での光透過率TLを勾配が1.0〜8.0nmの銀層の厚さeに応じたYタイプの薄層スタックについて黒のひし形で、および、勾配が0.0〜2.0nmの銀層の厚さeに応じたYタイプの薄層スタックについて黒の正方形で示したものである。
図8図8は、赤外線内光吸収Absを勾配が1.0〜8.0nmの銀層の厚さeに応じたYタイプの薄層スタックについて黒のひし形で、および、勾配が0.0〜2.0nmの銀層の厚さeに応じたYタイプの薄層スタックについて黒の正方形で示したものである。
図9図9は、可視光領域での光反射率RLを勾配が1.0〜8.0nmの銀層の厚さeに応じたYタイプの薄層スタックについて黒のひし形で、および、勾配が0.0〜2.0nmの銀層の厚さeに応じたYタイプの薄層スタックについて黒の正方形で示したものである。
図10図10は、λ波長に応じた、および、銀層の厚さeに応じたYタイプ薄層スタックの吸収スペクトルを示したものである。
図11図11は、銀層の厚さに応じた実施例1〜4のスタックの面抵抗率RをΩ/□で示したものである。
図12図12は、銀層の厚さに応じた実施例1〜4のスタックの赤外線吸収Abを示したものである。
図13図13は、銀層の厚さに応じた実施例1〜4のスタックのダイアグラムLabにおける透過色ctを示したものである。
図14図14は、銀層の厚さに応じた実施例1〜4のスタックの、スタック側の、ダイアグラムLabにおける反射色Crを示したものである。
図15図15は、銀層の厚さeに応じた実施例6の可視光領域での光透過率TLを破線で、および、可視光領域での光反射率RLを実線で示したものである。
図16図16、は銀層の厚さeに応じた実施例6の赤外線吸収を示したものである。
図17図17は、銀層の厚さeに応じた実施例6の放射率を破線で、および、面抵抗率を実線で示したものである。
図18図18は、本発明による機能二層スタックを示し、二つの不連続機能層の各々が反射防止コーティングの上に直接、および、反射防止コーティングの下に直接堆積されている。
図19図19は、本発明による機能三層スタックを示し、三つの不連続機能層の各々が反射防止コーティングの上に直接、および、反射防止コーティングの下に直接堆積されている。
【0052】
図1、2、18および19において、さまざまな層またはさまざまな要素の厚みの間の割合は、図面を見やすくするため、厳密には守られていない。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1は、透明なガラス基板30、および、より詳細にはこの基板30の面31上に堆積された本発明による機能単層スタック34の構造を示しており、その構造において、銀または銀を含有する合金を主成分とし、好ましくは銀だけからなる単一の機能単層140は二つの反射防止コーティングの間に配置され、下方にある反射防止コーティング120は基板30の方向であって機能層140の下方に位置し、上方にある反射防止コーティング160は基板30から反対側で機能層140の上方に配置されている。
【0054】
これらの二つの反射防止コーティング120、160は、各々が少なくとも一つの反射防止層124、164を備える。
【0055】
場合によっては、一方では、機能層140は、下方にある反射防止コーティング120と機能層140との間に配置された下方遮断コーティング130の上に直接堆積されることがあり、他方では、機能層140は、機能層140と上方にある反射防止コーティング160との間に配置された上方遮断コーティング150の下に直接堆積されることがある。
【0056】
下方および/または上方遮断層は、金属の形態で堆積され、金属層として表示されているが、それらの第一の機能はスタックの堆積中に酸化して、機能層を保護することなので、実際には酸化層である。
【0057】
この反射防止コーティング160は、特に酸素のストイキメトリーで、とりわけ酸化物を主成分とする任意の保護層168によって終了されることができる。
【0058】
図2のように、機能単層スタックが二重グレージングユニットの構造の多重グレージングユニット100内で使用されるとき、このグレージングユニットはシャーシ構造90によって共に保持され、挿入ガス層15によって互いに分離されている二つの基板10、30を備える。
【0059】
グレージングユニットはこのように外部空間ESおよび内部空間ISの分離を実現する。
【0060】
本発明によるスタックは、その機械抵抗が高いという事実から、面4(建物に入る太陽光線の入射方向を考慮して建物の最も内側のシート上およびその内部を向いた面上)に配置できる。
【0061】
図2は、外部空間ESと接触する基板30の外側面31上に配置された薄層スタック34の面4でのこの配置(建物に入る太陽光線の入射方向が二重矢印によって図示されている)を図示しており、基板30のもう一つの面29は挿入ガス層15と接触している。
【0062】
しかしながら、また、この二重グレージングユニット構造では、基板の一つはシート化された構造を示すことが考えられる。しかし、そのような構造には、挿入ガス層が存在しないので、混同が起こり得ることはない。
【0063】
第一の期間に、実施される研究は、構造が基板/ZnO/Ag/ZnOで、各ZnO層の厚さが10nmであるZタイプスタック、次に構造が基板/ZnO/Ag/ZnOで、各ZnO層の厚さが5nmであるYタイプスタックについてであり、続いて五つのシリーズの実施例を実現して、不連続層の枠内の様々な材料を試験して、最終的に完全なスタックの例を実現した。
【0064】
全部のスタックについて、下記に層の堆積条件を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
堆積層は、このように三つのカテゴリーに分類することができる。
i)可視光波長の全範囲にわたって5を上回るn/k比を示す誘電性/反射防止性材料層:Si34:Al、TiOx、TiO2、ZnO、SnZnOx
ii)赤外線および/または太陽放射での反射特性を有する材料製の金属機能層:Ag
iii)スタックの堆積のとき機能層をその性質の変更に対して保護するための上方遮断および下方遮断層:Ni、NiCr;それらの厚さが極めて小さい(2nm以下)とき、それらの光学的およびエネルギー特性についての影響は一般的に無視される。
【0067】
下記の全実施例において、薄層スタックは、SAINT−GOBAIN社によって流通されているPlaniluxブランドの、厚さ4mmの透明なカルシウムソーダガラス製基板上に堆積される。
【0068】
これらのスタックについて、
‐Rはスタックの面抵抗率をΩ/□で示し、
‐Abは赤外線域内での吸収を示し、
‐TLは照明D65によって2°で測定した可視光領域での光透過率%であり、
‐RLは、照明D65によって2°で測定したガラス側(スタックが堆積されている側の反対側の基板の面)可視光領域での光反射率%を示し、
‐Ctは照明D65によって2°で測定したLABシステム内での透過a*およびb*における色を示し、
‐Crはコーティングした基板の側(面31)で照明D65によって2°で測定したLABシステム内での反射a*およびb*における色を示す。
【0069】
本発明によると、金属機能層140は、表面占有率(機能層のすぐ下に配置され、金属機能層によって被覆された層の表面の割合)が50%〜98%の不連続層である。
【0070】
図3は、左から右へ、構造が基板/ZnO/Ag/ZnOで、各ZnO層の厚さが10nmであるZスタックで得られた、
‐銀の厚さ2nmで得られた表面占有率53%、
‐銀の厚さ3nmで得られた表面占有率63%、
‐銀の厚さ4nmで得られた表面占有率84%、
‐銀の厚さ5nmで得られた表面占有率98%、
を示す。
【0071】
本明細書中で、不連続機能層の厚さeを参照するとき、機能層によって被覆された区域で測定した厚さまたは平均の厚さが重要ではなく、機能層が連続しているとしたら得られるであろう厚さが重要である。
【0072】
層の堆積速度(またはより正確には金属機能層の堆積チャンバー内での基板の進行速度)、単位時間で噴霧された材料の量、および堆積が行われる面積を考慮すると、この値に近づきやすい。この厚さは、連続機能層と直接比較できるので、極めて実用的である。
【0073】
したがって、厚さeは、堆積した層が連続していたら測定されるであろう厚さである。
【0074】
実際、もし従来のようにマグネトロン噴霧による同じ堆積条件(極めて弱い圧力、ターゲットの組成、基板の進行速度、陰極での電力)で、機能層の厚さが10nmならば、機能層の厚さを半分に、すなわち、5nmにするには、基板の進行速度を半分にする必要があり、それで十分である。
【0075】
この図3では、二つのモード(黒‐白)で図示された、TEMによって観察されたものである。この図の四つの部分では、銀は白であり、ZnOは黒である。
【0076】
このタイプのスタックZでは、銀の厚さが5nmより大きいと付着エネルギーはほぼ一定であることが確認された。このエネルギーは1.0〜1.5J/m2であり、それは十分に弱い。
【0077】
図4は、不連続金属機能層140の前記の四つのケースでスタックZについて測定した付着エネルギーGe(黒の点を伴う曲線)を示す。この付着エネルギーは、5nmより大きい銀の厚さで確認した付着エネルギーより常に大きい。
【0078】
さらに、この測定された結合エネルギーGeは、科学文献で使用されるモデルによって計算した理論結合エネルギーGm(白色正方形を伴う曲線)より大きい。
【0079】
図5は、黒の三角形によって銀製の金属機能層の厚さeに応じたZタイプのスタックの光透過率TLを示す。この光透過率は、銀の厚さが5nm以下で、すなわち、表面占有率が50%〜98%で、60〜80%の有効的な範囲にある。
【0080】
図5は、さらに、黒の長方形によって銀製の金属機能層の厚さeに応じたZタイプのスタックの光反射率RLを示す。この光反射率は、銀の厚さが5nm以下で、すなわち、表面占有率が50%〜98%で、10〜20%の有効的な範囲にある。
【0081】
図6は、参考として、コーティングのない、基板だけの放射率εGを示す。それは、約90%に位置する水平直線である。
【0082】
図6は、さらに、Zタイプスタックについて、銀の厚さが5nm以下で、すなわち、表面占有率が50%〜98%で、基板だけの放射率より小さい放射率εz(黒の丸)を測定することができることを示す。
【0083】
下記表1は、銀層の厚さおよび表面占有率に応じたZタイプスタックについて測定した放射率をまとめたものである。
【0084】
【表2】
【0085】
理論計算は、Zタイプスタックについて、銀の厚さが5nm以下で、すなわち、表面占有率が50%〜98%で、基板だけの放射率より小さい放射率εz(反転した黒の三角形)を得ることができることを示すが、それは確認されたものより大きい。
【0086】
そのように、図5および6は、光反射率が比較的小さく、光透過率が比較的高く、放射率が少し高いが、図4に見られるように、付着エネルギーが極めて高くても、複数の用途に使用することができるZタイプスタックを作製することができることを示す。
【0087】
Zタイプスタックで観察した現象をより良く理解しようとして、構造が基板/ZnO/Ag/ZnOで、各ZnO層の厚さが5nmである「Yタイプ」と呼ばれる第二のスタックを試験したが、銀の勾配を、一方では1.0〜0.8nm、他方では0〜2.0nmにして試験した。
【0088】
吸収は、0〜2.0nm間で連続して増大し、2%(素のガラスの吸収)から20〜23%の吸収になるのが観察された。前記のように、吸収は次に銀2〜6nm間で大きく減少し、その結果、5〜6%の値に達する。また、Agの厚さが小さいと、吸収レベルの一部は、大きくなる反射性のレベルと関連することに気づくことが有利でもある。これは、光学干渉作用を調節して、吸収レベルを軽く調整することができるであろうことを意味する。
【0089】
そのうえ、0〜約2nm間で、Yタイプスタックの色は次第に青色になり(Labシステム参照)、それとともに、b*が極めて大きく減少することが観察された。約2〜約4nm間で、展開は劇的に変更され、a*およびb*が大きく増加するとともに赤色になる。結局、約4〜約8nm間で、色は再度青色/ニュートラルに向かう。これらの展開の解釈は、図10で、下記のように銀の厚さに応じた吸収スペクトルの展開を見ることによって得られる。
‐極めて小さい銀の厚さ(1.0〜2.5nm)で、吸収スペクトルはピークを示し、その位置は、Agの厚さを増大させ、1nmで675nmから2.5nmで695nmまで通過して、ピークを赤色に動かす。このピークは確かにAgの「ナノ物体」の表面プラズモンに対応する。
‐2.5〜4.0nmで、吸収のピークの位置は、695nmから535nmまで通過して青色の方へ移動し、その強さをかなり失う。平行して、赤色/IR近傍の吸収レベルは高いままである。この厚さの範囲は、50%〜83%の表面占有率を示す不連続銀層に対応する。
‐最後に、6.0〜8.0nmで、吸収レベルは大きく減少して、反射がより高くなる。銀層が連続するためには、厚さの範囲が重要である。
【0090】
Yタイプスタックの面抵抗率を局所的に測定した。このタイプのスタックでは、3.0nmから面抵抗率を測定することが可能であって、Ag膜のパーコレーションの開始を示している。
【0091】
基板の側であって直接下方に選択された層の種類(「湿潤層」128と呼ばれる)に応じた機能層の異なる厚みを試験するために、1〜5の番号を付した五組の実施例を実行し、実施例の各組について様々なパラメータを測定した。
【0092】
これらの実施例では、二つの反射防止コーティング120、160は各々が反射防止層124、164を備える。
【0093】
下記の表2は、実施例1〜5の層の各々の幾何学的または物理的厚さ(光学的厚さではない)をナノメートルで表示する。
【0094】
【表3】
【0095】
全実施例の反射防止層124および実施例4の湿潤層128は窒化ケイ素を主成分とし、より正確には、Si34:Al(図11〜14では「SiN」と表記)製である。それらはアルミニウム8質量%でドープされたシリコン製金属ターゲットから堆積される。
【0096】
全実施例の反射防止層164および実施例3の湿潤層128は酸化亜鉛を主成分とし、より正確には、ZnO(図11〜14では「AZO」と表記)製である。それらは酸化亜鉛ZnOから構成されるセラミックターゲットから堆積される。しかしながら、例えば金属ターゲットを使用して、酸素の存在下で反応性噴霧を実施することができる。
【0097】
下記表3はちょうど下方に位置する層の種類に応じて不連続機能層を実現することができた銀製の機能層の最大の厚さをまとめたものである。
【0098】
【表4】
【0099】
十分に高い光透過率TL(50%より高い)および十分に低い光反射率RL(20%以下)が得られることが確認された。
【0100】
【表5】
【0101】
さらに、下記のことが確認された。
‐スタックの面抵抗率Rは、図11に見られるように妥当な値(200Ω/□未満)を示すことができた。
‐吸収は、図12に見られるように、比較的少なくなり得た(25%以下)。
‐透過色Ctは、図13に見られるように、青色‐緑色内にあり得た(a*は負または微かに正)。および、
‐反射色Crは、図14に見られるように、青色‐緑色内にあり得た(a*は負または微かに正)。
【0102】
色は、透過でも反射でも、試験用に最適化されていなかったが、反射防止層の厚さに応じた最適化の規則は、完全(または連続)金属機能層のスタックの場合と同様であると思われる。
【0103】
これらの観察を確認するために、図1を参照して下記の構造及びナノメートルでの幾何学的または物理的厚さ(および光学的厚さではない)を示す実施例6に基づいて、一連の実施例を実行した。
【0104】
【表6】
【0105】
この実施例6は、ZnO製の機能層の下に湿潤層を備える実施例3に基づいて、および、欧州特許出願公開第718250号明細書の教示にしたがって、すなわち、ZnO/Ag集合の各側に窒化ケイ素のバリア層を備えて、焼き入れ可能なタイプの低放射性スタック構造を示している。
【0106】
実施した第一の試験は、HH(高湿度)試験である。それは所望の期間(7日、14日および56日)、気候チャンバー内にサンプルを置いて、それらを観察するためにチャンバーのスイッチを消さずにそれらを引き出す。銀の厚さ1、2、3、4および5nmでは、欠陥はほとんど出現せず、期間内で変化しない。反対に、6、7および8nmでは試験7日目から腐食が出現し、増大するだけである。
【0107】
銀の厚さが小さいほど、スタックは従来から実施されるような機械抵抗試験ESTに耐性があることが分かった。銀の厚さが1および2nmでは、第一の傷が7Nで発現するが、Agが8nmを比較すると、そこでは0.3Nから発現する。これらの結果は、第一の実験のとき観察される付着エネルギーの増大と一貫性がある。
【0108】
成形または焼き入れの熱処理をシミュレートして、650℃で10分間の焼成後(ESTTT試験用)、観察も類似している。Agの厚さが小さいほど、傷はより急速に出現する。Agの厚さが1および2nmでは、第一の傷が3Nで発現するが、Agが8nmを比較すると、そこでは0.1Nから発現する。
【0109】
実施例6の組の光学「性能」を評価するために、銀の厚さに応じた可視光領域での光透過率および可視光領域での光反射率を図15に示し、銀の厚さに応じた光吸収を図16に示し、銀の厚さに応じた面抵抗率を図17に示した。
【0110】
光吸収は、銀が1〜3nmの間に比較的大きな値(約16〜18%)まで増加し、次に3nmの後、減少して、厚さ6〜8nmの連続した銀層を備える従来の低放射性スタックの「通常の」値に近い値に近づく。3nmの後の吸収の減少は光反射率の増大と同時に起きるものである。
【0111】
3nmから100Ω/□未満の面抵抗率を測定できることが確認された。吸収に応じた面抵抗率曲線は、5〜40Ω/□の面抵抗率について吸収の急速な増大を示す。次に、この吸収は約20%の最大値周辺で安定化する。
【0112】
さらに、Agの厚さが小さい(1〜4nm)と、透過色は青色に位置することが注目された。
【0113】
図18および19は、各々、透明なガラス基板30、および、より詳細にはこの基板30の面31上に堆積された本発明による機能二層スタック35の構造および本発明による機能三層スタック36の構造を図示している。
【0114】
銀または銀を含む合金を主成分とする、および、好ましくは銀だけからなる各機能層140、180、220は二つの反射防止コーティング間に配置され、下方にある反射防止コーティング120、160、200は基板30の方向であって各機能層140、180、220の下方に配置され、上方にある反射防止コーティング160、200、240は基板30から反対側で各機能層140、180、220の上方に配置される。
【0115】
各反射防止コーティング120、160、200、240は、少なくとも一つの反射防止層124、164、204、244を備える。
【0116】
本発明による、銀を主成分とするまたは銀製の不連続な金属機能層の強い付着エネルギーに関する発明の用途を開発するために、図1、18および19を参照して、下記の構造および幾何学的または物理的なナノメートル単位の厚さ(光学的厚さではない)を示す三つの実施例を実行した。
【0117】
【表7】
【0118】
堆積された二酸化チタンTiO2製の反射防止層124、164、204および244は光学指数2.4(550nmで)を示す。
【0119】
これらのスタックは厚さ4mmの透明なガラス基板上に堆積された。
【0120】
これらの実施例7〜9はまた理論上の付着エネルギーに比較して付着エネルギーの増大を示す。
【0121】
下記の表8は実施例7〜9の主要な光学的特性を示し、これらの特性を、厚さ4mmのガラス基板の方向であって下方が厚さ10nmの窒化ケイ素を主成分とする層によって、上方が厚さ30nmの窒化ケイ素を主成分とする層によって囲まれた厚さ1.5nmのNbN製の単一の窒化機能層を備える、吸収によるソーラーコントロールスタック(実施例10)と比較する。
【0122】
【表8】
【0123】
したがって、下記のように、中程度の、実施例10と同様な範囲にある可視光領域での光透過率(50%〜70%)および中程度の、実施例10と同様な範囲にある選択度s(約1.1)を示す、
‐不連続機能層を備える金属機能単層スタック(実施例7)、
‐二つの不連続機能層を備える金属機能二層スタック(実施例8)、
‐三つの不連続機能層を備える金属機能三層スタック(実施例9)
が作製可能であることが確認された。
【0124】
さらに、得られる色は、透過色(Ct)も反射色(Cr)も、求める範囲、青色、青色−緑色内にある。
【0125】
本発明は、例として前記のように記載したが、特許請求の範囲に記載したような範囲を越えることなく、本発明の様々な変更が可能であることは当業者には明らかであろう。
【符号の説明】
【0126】
10、30 基板
15 挿入ガス層
31 面
34、35、36 薄層スタック
90 シャーシ構造
100 多重グレージングユニット
120、160、200、240 反射防止コーティング
124、164、204、244 反射防止層
140、180、220 金属機能層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13-14】
図15
図16
図17
図18
図19