特許第6456670号(P6456670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6456670製菓製パン用油脂組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6456670
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】製菓製パン用油脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20190110BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20190110BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20190110BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20190110BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20190110BHJP
【FI】
   A23D9/00 502
   A23D7/00 506
   A21D2/14
   A21D13/80
   A21D13/00
【請求項の数】9
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2014-249262(P2014-249262)
(22)【出願日】2014年12月9日
(65)【公開番号】特開2016-106597(P2016-106597A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】太 田 晶
(72)【発明者】
【氏名】小 川 優 子
(72)【発明者】
【氏名】中 村 雄 己
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/063629(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1位および3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合したSUS型トリグリセリドと、1位および2位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位に不飽和脂肪酸Uが結合したSSU型トリグリセリドと、1位、2位、および3位の全てに飽和脂肪酸Sが結合したSSS型トリグリセリドとを含んでなり、前記SUS型トリグリセリドと前記SSU型トリグリセリドの質量比が0.3:1.0〜1.5:1.0であり、かつ前記SUS型トリグリセリド、前記SSU型トリグリセリド、および前記SSS型トリグリセリドの合計含有量が40質量%以上65質量%以下である、油脂と、
前記油脂の質量に対して0.05質量%以上5.0質量%以下の、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させる、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、
を含んでなり、油脂組成物中の油脂が前記油脂のみからなる、製菓製パン用油脂組成物。
【請求項2】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記油脂の質量に対して、0.1質量%以上4.0質量%以下である、請求項1に記載の製菓製パン用油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂の質量に対して、0.05質量%以上5.0質量%以下の有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルをさらに含んでなる、請求項1または2に記載の製菓製パン用油脂組成物。
【請求項4】
前記油脂中の前記SSU型トリグリセリドの含有量が、10質量%以上25質量%以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製菓製パン用油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製菓製パン用油脂組成物のみからなる油相を含有する、可塑性油脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製菓製パン用油脂組成物を用いる、可塑性油脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製菓製パン用油脂組成物を用いる、製菓製パン生地の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法で得られた製菓製パン生地を用いる、食品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製菓製パン用油脂組成物の製造方法であって、
ラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂を5質量%以上50質量%以下含有してなる前記油脂と、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルと、
を配合する工程を含んでなる、製菓製パン用油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物およびその製造方法に関し、より詳細には、製菓や製パンで好適な原料として用いられる油脂組成物およびその製造方法に関する。さらに該油脂組成物を用いた製菓製パン生地やそれを使用した食品にも関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリンやショートニングなどの可塑性を得るための要因としては、トリグリセリドの結晶型、結晶量、および結晶サイズがある。そのため、製造機内において結晶化するトリグリセリドを持つ油脂を選択し、急冷条件で結晶を充分に析出させ結晶量を確保し適度な硬さとし、その後練ることで微細結晶を生成させ可塑性のある物性を得ている。
【0003】
また、マーガリンやショートニングは製菓や製パンに用いられ、可塑性を有することで、生地への分散性が良好となり、物性に優れた菓子やパンの生地を得ることができる。焼成した製菓や製パンにおいて油脂は食感にも大きく関与しており、徐冷時の油脂結晶が微細結晶を多く含有することで、サクさのある食感を付与することができる。
【0004】
従来、微細結晶を得る技術としては、油脂のトリグリセリドを調整し2鎖長構造とする技術(特許文献1を参照)や製造時に冷却、加圧し、晶析させる技術(特許文献2を参照)が提案されている。さらに、油脂結晶の粗大化を制御する方法として、油脂にジグリセライドを含有する油脂結晶調整剤を添加する技術が提案されている(特許文献3を参照)。
【0005】
また、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加することにより、部分硬化油やエステル交換油などの比較的硬い油脂を含有せず、乳化剤により油脂の硬さを調整する技術が提案されている(特許文献4〜6を参照)。さらに、HLBが8以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを製菓製パンに添加することにより、サクサクとしたソフトな食感を得る技術が提案されている(特許文献7を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−210107号公報
【特許文献2】特開2001−238599号公報
【特許文献3】特開2000−345185号公報
【特許文献4】特開2008−125358号公報
【特許文献5】特開2013−176312号公報
【特許文献6】特開2000−032905号公報
【特許文献7】特開2013−183667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らは、特許文献1〜7に記載の油脂組成物には、以下の技術的課題があることを新たに知見した。特許文献1および2に記載の技術では、微細結晶を長期に維持することは難しい。特にパーム系油脂は対称型である2飽和トリグリセリドを多く含有することから結晶化が遅く、マーガリンやショートニングなどの製造時に結晶化しなかった結晶が、保存中に析出し、その後粗大化し、可塑性が損なわれるという問題がある。また、特許文献3に記載されるような乳化剤の添加では、油脂を製造する急冷条件においては、微細な結晶を形成し、維持することはできるものの、製菓、製パンに用いられた場合、生地は、180〜230℃付近で焼成するため、生地温度は、98℃近くになり、油脂は融解する。その後焼成した菓子やパンは、室温で保存されることとなる。よって可塑性油脂の製造条件である急冷とは相違し徐冷条件となるため、焼成後の菓子やパンにおける油脂の結晶を微細な状態で維持することはできず、サクさのある食感の菓子やパンを得ることはできなかった。特許文献4〜6に記載の技術では、乳化剤により油脂の硬さを調整する事はできるものの、油脂結晶をコントロールするものではなく、微細化されず、サクさのある食感を得ることが難しかった。特許文献7に記載の技術では、サクサクとした食感の菓子やパンを得ることはできるものの、ポリグリセリン脂肪エステルが親水性であるため油脂の結晶を改質する効果はなく、かつ分散性に劣るため食感改良の効果は満足出来るものではなかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、製菓や製パンに用いた場合、生地調製時の作業性に優れ、焼成した菓子やパンなどにサクさのある食感や歯切れを付与することができる油脂組成物を提供することにある。さらに、本発明の目的は、当該油脂組成物を用いて、経時的な硬さの変化がなく、長期に安定した物性を有する可塑性油脂組成物を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、特定の種類のトリグリセリドを特定の含有量で含む油脂と、特定の乳化剤とを配合することにより上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一態様によれば、
1位および3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合したSUS型トリグリセリドと、1位および2位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位に不飽和脂肪酸Uが結合したSSU型トリグリセリドと、1位、2位、および3位の全てに飽和脂肪酸Sが結合したSSS型トリグリセリドとを含んでなり、前記SUS型トリグリセリドと前記SSU型トリグリセリドの質量比が0.3:1.0〜1.5:1.0であり、かつ前記SUS型トリグリセリド、前記SSU型トリグリセリド、および前記SSS型トリグリセリドの合計含有量が40質量%以上65質量%以下である、油脂と、
パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させる、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、
を含んでなる、製菓製パン用油脂組成物が提供される。
【0011】
本発明の態様においては、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記油脂の質量に対して、0.05質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の態様においては、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルをさらに含んでなることが好ましい。
【0013】
本発明の態様においては、前記油脂中の前記SSU型トリグリセリドの含有量が、10質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の他の態様においては、上記の製菓製パン用油脂組成物を含んでなる、可塑性油脂組成物が提供される。
【0015】
本発明の他の態様においては、上記の製菓製パン用油脂組成物を含んでなる、製菓製パン生地が提供される。
【0016】
本発明の他の態様においては、上記の製菓製パン生地を用いて製造された食品が提供される。
【0017】
本発明の他の態様においては、上記の製菓製パン用油脂組成物の製造方法であって、
ラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂を5質量%以上50質量%以下含有してなる前記油脂と、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルと、
を配合する工程を含んでなる、製菓製パン用油脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明による製菓製パン用油脂組成物は、特定乳化剤と特定油脂を使用することにより、マーガリンやショートニングなどの製造条件である急冷時と、製菓や製パンを焼成し冷却されるまでの徐冷時の双方の条件において、油脂結晶の微細化を促進することができる。急冷時において、結晶を充分に析出させ結晶量を確保し適度な硬さとし、その後練ることで微細結晶の生成を促進できる。そのため、マーガリンやショートニングは可塑性に優れ、当該油脂組成物を製菓や製パンに用いた場合、練り込み用油脂組成物においては生地への分散性に優れ、折り込み用油脂組成物においては伸展性が良好となり、作業性の良好な菓子やパンの生地を得ることできる。製菓や製パンにおいて、生地は180〜230℃付近で焼成され、室温まで冷却される。生地中の油脂は焼成温度では98℃近くとなるため一旦融解し、その後室温に置かれるため、徐冷条件下で冷却され、油脂は結晶化する。本願は徐冷条件下においても油脂結晶が微細結晶を多く含有できるため、サクい食感や歯切れが良好な菓子やパンを提供することができる。また本願発明は製造機内での結晶化が促進されるため、マーガリンやショートニングなどの可塑性油脂組成物を長期に保存した場合でも、保存中の物性変化がなく安定な物性のものを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例14の油脂結晶の顕微鏡写真である。
図2】比較例11の油脂結晶の顕微鏡写真である。
図3】比較例7の油脂結晶の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
油脂組成物
本発明による製菓製パン用油脂組成物は、特定の種類のトリグリセリドを特定の含有量で含む油脂と、特定の乳化剤とを含むものである。油脂組成物は、乳化剤以外の食品添加物をさらに含んでもよい。油脂組成物は、製菓や製パンに好適な原料として用いることができる。
【0021】
油脂
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに、3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1、2、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。なお、トリグリセリドの構成脂肪酸の略称として、S:飽和脂肪酸、U:不飽和脂肪酸、を用いる。
【0022】
油脂組成物に用いられる油脂は、2飽和トリグリセリドのうち、1位および3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリドであるSUS型トリグリセリドと、1位および2位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリドであるSSU型トリグリセリドと、1位、2位、および3位の全てに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリドであるSSS型トリグリセリドとを含んでなるものである。油脂は、2不飽和トリグリセリドのうち、1位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位および3位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリドであるSUU型トリグリセリドと、1、3位に不飽和脂肪酸Uが結合し、かつ2位に飽和脂肪酸Sが結合した対称型トリグリセリドであるUSU型トリグリセリドと、1位、2位、および3位の全てに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリドであるUUU型トリグリセリドとをさらに含んでもよい。油脂組成物中の油脂の含有量は、好ましくは60〜99.5質量%であり、より好ましくは、70〜99.5、さらに好ましくは80〜98質量%である。
【0023】
飽和脂肪酸Sは、炭素数が好ましくは4〜24、より好ましくは8〜22、さらに好ましくは12〜20である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つまたは3つの飽和脂肪酸Sは、同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。飽和脂肪酸Sとしては、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、およびリグノセリン酸(24)が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
【0024】
不飽和脂肪酸Uは、炭素数が好ましくは14〜24、より好ましくは14〜22、さらに好ましくは14〜20である。また、各トリグリセリド分子に結合している3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸Uとしては、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、およびリノレン酸(18:3)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数と二重結合数の組み合わせである。
【0025】
トリグリセリドの構成脂肪酸の分析において、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計割合は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、それぞれ脂肪酸量を用いて計算にて求めた。また、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)により測定し算出した。
【0026】
前記SUS型トリグリセリドと前記SSU型トリグリセリドの質量比は、0.3:1.0〜1.5:1.0であり、好ましくは0.4:1.0〜1.3:1.0であり、より好ましくは0.5:1.0〜1.2:1.0であり、さらに好ましくは0.6:1.0〜1.0:1.0である。油脂中のSUS型トリグリセリドとSSU型トリグリセリドの質量比が上記範囲内にあれば、製造時に結晶を充分に析出させ結晶量を確保し適度な硬さとし、その後練ることで微細結晶の生成を促進できる。そのため、油脂の伸展性が良好となり、製菓製パン生地に練り込む際、生地分散性のよい油脂を得ることができる。また、ロールイン用油脂としたときには、伸展性が良く、ロールイン後の生地の縮みがなく、焼成したデニッシュ等の層状食品の膜が薄く、きれいな層状食品を得ることができる。更に油脂組成物を保存した場合、2不飽和トリグリセリドおよび3不飽和トリグリセリド等の低融点トリグリセリドに起因する液状油の染みだしがなく安定した物性を得ることができる。
【0027】
油脂中のSUS型トリグリセリド、SSU型トリグリセリドからなる2飽和トリグリセリド、およびSSS型トリグリセリドからなる3飽和トリグリセリドの合計含有量(「2・3飽和量」ということがある)は、油脂全体に対して40〜65質量%であり、好ましくは40〜60質量%であり、より好ましくは40〜55質量%であり、さらに好ましくは43〜53質量%である。SUS型トリグリセリド、SSU型トリグリセリド、およびSSS型トリグリセリドの合計含有量が上記範囲内にあれば、油脂結晶が核となり、結晶化を促進することができる。特に、該合計含有量が40質量%以上であれば、微細結晶量が増加し、サクさ感を強くすることができ、65質量%以下であれば、可塑性油脂組成物を調製したときに適度な硬さや伸展性が得られ、パン生地への分散性が良好となる。また、焼成したパンの口溶けが良好となる。
【0028】
油脂中のSSU型トリグリセリドの含有量は、油脂全体に対して、好ましくは10質量%以上25質量%以下であり、より好ましくは11質量%以上24質量%以下であり、さらに好ましくは12質量%以上23質量%以下である。油脂中のSSU型トリグリセリドの含有量が上記範囲内であれば、SUS型とSSU型の質量比を調整することができ、製造時に結晶を充分に析出させ結晶量を確保し適度な硬さとし、その後練ることで微細結晶の生成を促進できる。そのため、油脂の伸展性が良好となり、製菓製パン生地に練り込む際、生地分散性のよい油脂を得ることができる。また、ロールイン用油脂としたときには、伸展性が良く、ロールイン後の生地の縮みがなく、焼成したデニッシュ等の層状食品の膜が薄く、きれいな層状食品を得ることができる。更に油脂組成物を保存した場合、2不飽和トリグリセリドおよび3不飽和トリグリセリド等の低融点トリグリセリドに起因する液状油の染みだしがなく安定した物性を得ることができる。
【0029】
油脂は、原料油脂として、ラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂(A)を含んでなることが好ましい(以降、原料油脂としてのラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂をエステル交換油脂(A)と呼ぶ)。原料油脂として、ラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂(A)を用いることで、高温や経時による液状油の染みだしや長期保存による硬さ変化を少なくすることができる。
【0030】
エステル交換油脂(A)は、ラウリン系油脂5質量%以上30質量%未満と、パーム系油脂70質量%以上95質量%未満とをエステル交換反応したものであることが好ましく、ラウリン系油脂10質量%以上28質量%未満と、パーム系油脂72質量%以上90質量%未満とをエステル交換反応したものであることがより好ましい。ラウリン系油脂とパーム系油脂の配合割合が上記範囲内にあれば、油脂組成物の口溶けがよくなり、低温から高温までの広温度域において可塑性を有するため、適度な硬さや伸展性が得られ、生地への分散性がよくなる。
【0031】
本発明におけるラウリン系油脂とは、ヤシ油やパーム核油、それらの分別油又はそれらの加工油(硬化およびエステル交換反応のうち1以上の処理がなされたもの)等が挙げられ、これらのうち、エステル交換反応に用いる油脂としては、ヤシ油に比べて融点が高く、高融点のエステル交換油脂を容易に得ることができるパーム核油、その分別油や硬化油が好ましい。
【0032】
硬化油を用いる場合、水素添加量によってトランス酸の含有量が増加する虞があるため、硬化油を用いる場合には微水素添加したものか、低温硬化したもの、完全水素添加した極度硬化油が好ましく、特に極度硬化油を用いることが好ましい。ラウリン系油脂中の全構成脂肪酸におけるラウリン酸含量は、40〜55質量%であることが好ましく、特に45〜50質量%であることが好ましい。ラウリン系油脂のヨウ素価は、好ましくは2以下である。ヨウ素価が2以下のラウリン系油脂を用いることで、トランス酸の生成の虞が少なくなる。
【0033】
本発明におけるパーム系油脂とは、パーム油、パーム油の分別油およびそれらの加工油(硬化およびエステル交換反応のうち1以上の処理がなされたもの)であれば何れでもよく、具体的には、1段分別油であるパームオレイン、パームステアリン、パームオレインの2段分別油であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)およびパームミッドフラクション、パームステアリンの2段分別油であるパームステアリン(ソフトステアリン)およびパームステアリン(スーパーステアリン)等が挙げられる。パーム核油は、パームの種子から搾油される油脂であるが、パーム油とは特性が異なり、本発明のパーム系油脂にはパーム核由来の油脂は含まない。
【0034】
ラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂(A)のエステル交換反応に用いるパーム系油脂のヨウ素価は、好ましくは30〜48であり、より好ましくは30〜40である。ヨウ素価が30〜48であるパーム系油脂を用いることで、口溶けを低下させることなく染みだしを抑制できる。特にヨウ素価が30〜40であるパーム系油脂を用いることで、長期間保存しても染みだしを抑制できる。
【0035】
油脂組成物に用いられる油脂は、原料油脂として、上記のエステル交換油脂(A)を5〜50質量%用いることが好ましく、10〜40質量%用いることがより好ましい。原料油脂としてエステル交換油脂(A)を上記量で用いることで、油脂組成物の口溶けがよくなる。さらに、エステル交換油脂(A)中の構成脂肪酸の総炭素数が40〜46であるトリグリセリド量は、5〜40質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましく、10〜35質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
エステル交換油脂を得るために用いるエステル交換反応は、化学的エステル交換反応であっても酵素的エステル交換反応であってもよい。化学的エステル交換反応は、ナトリウムメチラート等の化学触媒を用いて行われる、位置特異性の乏しいエステル交換反応である(ランダムエステル交換反応とも言われる)。
【0037】
化学的エステル交換反応は、例えば、常法に従って、原料油脂を十分に乾燥させ、触媒を原料油脂に対して0.05〜1質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌することにより行うことができる。エステル交換反応終了後は、触媒を水洗にて洗い流した後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0038】
酵素的エステル交換反応は、リパーゼを触媒として用いて行われる。リパーゼとしては、リパーゼ粉末やリパーゼ粉末をセライト、イオン交換樹脂等の担体に固定化した固定化リパーゼを使用するができる。酵素的エステル交換反応によるエステル交換反応は、リパーゼの種類によって、位置特異性の乏しいエステル交換反応とすることもできるし、1,3位特異性の高いエステル交換反応とすることもできる。
【0039】
位置特異性の乏しいエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、アルカリゲネス属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼQLM、リパーゼPL等)、キャンディダ属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼOF等)等が挙げられる。
【0040】
1,3位特異性の高いエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、リゾムコールミーハイ由来の固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製のリポザイムTLIM、リポザイムRMIM等)等が挙げられる。
【0041】
酵素的エステル交換反応は、例えば、リパーゼ粉末または固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%添加した後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌することにより行うことができる。エステル交換反応終了後は、ろ過等によりリパーゼ粉末または固定化リパーゼを除去後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0042】
本発明による製菓製パン用油脂組成物に用いられる上記エステル交換油脂(A)以外の油脂としては、パーム油、牛脂、豚脂、乳脂、ヤシ油、パーム核油、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、コーン油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が用いられる。油脂中のSUS型トリグリセリド、SSU型トリグリセリド、およびSSS型トリグリセリドの合計含有量のバランスを適宜調整するために、1種あるいは2種以上を選択して、原料油脂全体中の50〜95質量%含有させることが好ましい。
【0043】
乳化剤
本発明による製菓製パン用油脂組成物は、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるポリグリセリン脂肪酸エステルを含むものである。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、パーム油の固化開始温度を1.1℃以上上昇させることが好ましく、より好ましくは1.1℃〜3.0℃上昇させることが好ましい。パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、製造機内の急冷、製菓や製パンの焼成時における徐冷時においても、結晶化が促進され微細結晶を得ることができる。
【0044】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度(℃)の上昇値は、以下のようにして測定した値である。まず、パーム油100質量部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.5質量部を溶解させたサンプルを用意し、それを測定用のアルミニウムパンに3.5mg量り、更にサンプルを何も入れない空パン(リファレンス)を用いて、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)で以下の条件で固化開始温度を測定する。次に、同様に、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度を測定する。固化開始温度(℃)の上昇値は下記式(1)により表され、「ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度」と「ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度」の差を、パーム油の固化開始温度(℃)の上昇値とする。
式(1):
固化開始温度(℃)の上昇値=(ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度)−(ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度)
<測定条件>
示差走査熱量計のセル内の温度を80℃まで昇温し、5分間保持し、完全にサンプルを溶解させた。その後、毎分10℃(10℃/min.)で80℃から−40℃まで降温させ、その過程における固化開始温度(発熱ピークにおける発熱開始温度)を測定する。固化開始温度は、ベースラインとピークとの接線における交点とする。
【0045】
本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値が好ましくは1〜7であり、より好ましくは1〜6である。ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値が上記範囲であれば、親油性であるため、油脂結晶に作用する。
【0046】
本発明においては、上記のようなポリグリセリン脂肪酸エステルとして、市販のものを用いることができる。例えば、阪本薬品工業(株)製のSYグリスターPS−3S、SYグリスターPS−5S、SYグリスターTHL−50、SYグリスターHB―750、SYグリスターDDB−750等が挙げられる。
【0047】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、油脂の質量に対して、好ましくは0.05〜5.0質量%であり、より好ましくは0.1〜4.0質量%であり、さらに好ましくは0.2〜3.0質量%である。ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.05質量以上であれば、結晶が促進され、5.0質量%以下であれば乳化剤としての異味が最終製品の菓子やパンなどに影響を及ぼすのを防ぐことができる。
【0048】
本発明による製菓製パン用油脂組成物は、乳化剤として有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルをさらに含んでもよい。有機酸がコハク酸、クエン酸、乳酸又は酢酸である有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル等から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。乳化剤として有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルを添加することで、歯切れのよいパン類、イースト菓子類、ペストリー等の層状食品、ケーキ等の食品を得ることができる。有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルは、全構成脂肪酸中の好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上が飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸は、パルミチン酸とステアリン酸が主体であることが好ましい。
【0049】
有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、油脂の質量に対して、好ましくは0.05〜5.0質量%であり、より好ましくは0.1〜4.0質量%であり、さらに好ましくは0.2〜3.0質量%である。有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルの含有量が上記範囲内にあれば、より歯切れのよいパン類、イースト菓子類、ペストリー等の層状食品、ケーキ等の食品を得ることができる。
【0050】
食品添加物
本発明による製菓製パン用油脂組成物は、抗酸化剤、香辛料、着色成分、香料、および乳化剤等の食品添加物をさらに含んでもよい。食品添加物は、特に限定されず、従来公知の食品添加物を用いることができる。
【0051】
抗酸化剤としては、例えば、L−アスコルビン酸やL−アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、および茶抽出物が挙げられる。香辛料としては、例えば、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、およびジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アナトー、およびアスタキサンチン等が挙げられる。香料としては、バターフレーバー、ミルクフレーバー等が挙げられる。乳化剤としては、結晶促進を阻害しないものであれば添加することができる。例えばグリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられるが、特にモノグリセリン脂肪酸エステルを添加すると、パン類、イースト菓子類、ペストリー等の層状食品、ケーキ等の食品の老化を防止することができるので好ましい。
【0052】
油脂組成物の製造方法
本発明による製菓製パン用油脂組成物の製造方法は、上記の油脂と、上記のポリグリセリン脂肪酸エステルとを配合する工程を含むものである。例えば、上記の油脂を溶解し、溶解した油脂中に上記のポリグリセリン脂肪酸エステルと、必要に応じてポリグリセリン脂肪酸エステル以外の上記の乳化剤や上記の食品添加物とを添加し、公知の方法で均一に分散および溶解することによって製造することができる。
【0053】
用途
本発明による製菓製パン用油脂組成物は、可塑性油脂組成物の製造に好適に用いることができる。可塑性油脂組成物としては、ショートニングや、水、添加物等を含有するマーガリン類等を挙げることができる。マーガリン類の乳化形態としては、W/O型、O/W/O型、O/W、W/O/W型であっても構わない。このような可塑性油脂組成物は、パン類、イースト菓子類、ペストリー等の層状食品、ケーキ等の食品の製造にも好適に用いることができる。
【0054】
マーガリン類の場合には、本発明の製菓製パン用油脂組成物を65〜99.5質量%添加することが出来る。また水以外に牛乳、脱脂乳などの乳、クリーム、ナチュラルチーズやプロセスチーズなどのチーズ、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、加糖れん乳、無糖れん乳、加糖脱脂れん乳、無糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白濃縮ホエイパウダー、ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウムなどの乳製品、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、小麦蛋白などの植物蛋白、糖質としてはグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの単糖、ラクトース、スクロース、マルトースなどの二糖類、オリゴ糖、トレハロース、糖アルコールなどの糖類、デンプン、デンプン分解物、多糖類、乳化剤、塩類、酸味料、pH調整剤などを添加できる。
【0055】
マーガリン類、ショートニングは、従来公知の方法で製造することができる。具体的にはマーガリン類は本発明の製菓製パン用油脂組成物を含有する乳化液を、ショートニングは本発明の製菓製パン用油脂組成物を、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の冷却混合機で急冷しながら混和することにより得ることができる。
【0056】
また、本発明による製菓製パン用油脂組成物は、製菓製パン生地の製造に好適に用いることができる。本発明による製菓製パン用油脂組成物は、製菓製パン生地への分散性が良好であり、製菓製パン生地へ練り込み易い物性である。このような製菓製パン生地を用いて、パン類、イースト菓子類、ペストリー等の層状食品、ケーキ等の食品を製造することで、サクさがあり、口溶けの良い食品を得ることができる。
【0057】
本発明の製菓製パン用油脂組成物を使用した製菓製パン生地は、冷凍生地として冷凍保存されてもよく、焼成する他、電子レンジ調理、蒸す、揚げるなどの調理をすることにより、食品を得ることができる。
【0058】
本発明の製菓製パン生地を使用した食品としては、例えば、食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッドなどのパン類、シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ブリオッシュ、ドーナツなどのイースト菓子、デニッシュ、クロワッサン、パイ等の層状食品、バターケーキ、パウンドケーキ、スポンジ、ビスケット、クッキー、ケーキドーナツ、ブッセ、ホットケーキ、ワッフルなどのケーキ等が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0060】
製パン用(パン練り込み用)マーガリンの製造
表1および表2に記載の配合割合(質量部)で油脂を混合し、75℃に加熱後、乳化剤を添加して、実施例1〜10および比較例1〜6の油脂組成物を得た。トリグリセリドの構成脂肪酸の分析において、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計割合は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、それぞれ脂肪酸量を用いて計算にて求めた。また、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)により測定し算出した。それぞれの結果を、表1および表2に示した。
【0061】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度(℃)の上昇値は、以下のようにして測定した。まず、パーム油(ヨウ素価53)100質量部にポリグリセリン脂肪酸エステル0.5質量部を溶解させたサンプルを用意し、それを測定用のアルミニウムパンに3.5mg量り、更にサンプルを何も入れない空パン(リファレンス)を用いて、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)で以下の条件で固化開始温度を測定した。次に、同様に、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度を測定した。固化開始温度(℃)の上昇値は下記式(1)により表され、「ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度」と「ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度」の差を、パーム油の固化開始温度(℃)の上昇値とした。
式(1):
固化開始温度(℃)の上昇値=(ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度)−(ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度)
<測定条件>
示差走査熱量計のセル内の温度を80℃まで昇温し、5分間保持し、完全にサンプルを溶解させた。その後、毎分10℃(10℃/min.)で80℃から−40℃まで降温させ、その過程における固化開始温度(発熱ピークにおける発熱開始温度)を測定した。固化開始温度は、ベースラインとピークとの接線における交点とした。
【0062】
さらに、実施例14、比較例11、および比較例7の油脂組成物を20℃で72時間放置した後の顕微鏡写真(OPTIPHOT2−POL Nikon社製、倍率100倍)を、それぞれ図1図3に示す。図1では、細かい結晶が析出していた。図2では、結晶が成長し、非結晶部分が少なかった。図3では、油脂の白い結晶部分と黒い非結晶部分(液体部分)がはっきりと分かれた。これらの結果から、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、結晶化が促進され、微細結晶を得ることができることが分かった。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
続いて、上記で製造した油脂組成物84質量部を75℃に調温して油相とした。一方、水14.5質量部に脱脂粉乳1.5質量部を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相をミキサーで撹拌しながら該水相を徐々に添加し、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷し、捏和して、下記の配合割合の製パン用(パン練り込み用)マーガリンを得た。
製パン用(パン練り込み用)配合
油脂組成物 84質量部
水 14.5質量部
脱脂粉乳 1.5質量部
【0066】
食パンの製造
上記で製造した製パン用(パン練り込み用)マーガリンを用いて、下記の配合および製造条件で食パンを製造した。具体的には、イーストを分散させた水、イーストフード、および強力粉をミキサーボールに投入し、フックを使用し、下記条件にてミキシング、発酵を行い、中種生地を得た。その後、本捏配合の製パン用(パン練り込み用)マーガリン以外の材料および中種生地を添加し低速3分、中低速3分でミキシングした後、マーガリンを投入し、さらに低速3分、中低速4分でミキシングしパン生地を得た。捏上温度は28℃であった。その後、室温で20分フロアタイムを取った後、220gに分割・丸目を行なった。次いで、ベンチタイムを20分とった後、 モルダー成形し、6本をU字にして3 斤型プルマン型に入れ、38℃、湿度80%のホイロで45分発酵させた後、200℃で40分間焼成して食パンを得た。焼成したパンを室温で放冷させた後、20℃の恒温槽に保存した。
食パンの配合
・中種配合
強力粉 70質量部
イースト 2.5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部
・本捏配合
強力粉 30質量部
上白糖 6質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 2質量部
製パン用(パン練り込み用)マーガリン 5質量部
水 25質量部
食パンの製造条件
・中種条件
ミキシング: 低速4分、中低速1分
捏上げ温度: 24℃
発酵時間: 27℃、75%、4時間
終点温度: 29℃
・本捏条件
ミキシング: 低速3分、中低速3分、(製パン用(パン練り込み用)マーガリン投入)、低速3分、中低速4分
捏上温度: 28℃
フロアタイム:20分
分割: 220g
成型: 3斤プルマン型(220g×6本 U字型詰め)
ホイロ: 38℃、80%、45分
焼成: 200℃ 40分
【0067】
実施例1〜10および比較例1〜6で製造した製パン用(パン練り込み用)マーガリンおよび食パンについて、下記の評価を行った。それぞれの評価結果は表3および表4に示す。
【0068】
・マーガリンの硬さ変化
マーガリンを円柱状の容器に入れ、表面が平らになるように、スパテラでカットし15℃で2日、30日保存したときの硬さをペネトロメーターを用いて測定した。AOCS公定法Cc16−60の円錐型コーンアダプターの先端をマーガリンの表面に接触する位置にセットし、5秒間落下させたときの進入距離(mm)の10倍をペネトロ値とし、硬さの指標とした。30日目と2日目とのペネトロ値の変化率((|30日目のペネトロ値−2日目のペネトロ値|)/2日目のペネトロ値×100)により硬さの変化を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:15%未満
○:15%以上25%未満
△:25以上35%未満
×:35%以上
【0069】
・生地への分散性
マーガリンを生地に添加したときのマーガリンの塊がなくなる時間を目視により評価した。
評価基準
◎:1分30秒〜2分以内で分散した。
○:2分超〜2分30秒以内で分散した。
△:2分30秒超〜3分以内で分散した。
×:3分超で分散した。
【0070】
・食感(サクさ)
焼成した食パンを20℃で1日(D+1)および3日(D+3)保存した後、パネル10名により食パンのサクさ感を以下のように評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0071】
・歯切れ
焼成した食パンを20℃で1日(D+1)保存した後、パネル10名により食パンの歯切れを以下のように評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0072】
・口溶け
焼成した食パンを20℃で1日保存した後、パネル10名により食パンの口溶けを以下のように評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
製パン用(ロールイン用)マーガリンの製造
表5および表6に記載の配合割合(質量部)で、製パン用(パン練り込み用)マーガリンの製造と同様にして、実施例11〜20および比較例7〜12の油脂組成物を得た。油脂組成物中のトリグリセリドの含有量を、製パン用(パン練り込み用)マーガリンの製造と同様にして、測定した。測定結果は、表5および表6に示すとおりである。
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
続いて、上記で製造した油脂組成物84質量部を75℃に調温して油相とした。一方、水13.5質量部に脱脂粉乳1.5質量部および食塩1.0質量部を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相をミキサーで撹拌しながら該水相を徐々に添加し、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷し、捏和して、25cm×21cm×1cmのシート状に成型した下記の配合割合の製パン用(ロールイン用)マーガリンを得た。
製パン用(ロールイン用)マーガリン配合
油脂組成物 84質量部
水 13.5質量部
脱脂粉乳 1.5質量部
食塩 1.0質量部
【0079】
デニッシュの製造
下記の配合および製造条件でデニッシュを製造した。具体的には、製パン用(一般練り込み用)マーガリンおよび製パン用(ロールイン用)マーガリン以外の材料をミキサーに投入し、低速3分、中低速5分ミキシングを行った後、製パン用(一般練り込み用)マーガリンを入れ低速2分、中低速4分ミキシングを行い、生地を得た。この生地を、フロアタイムをとった後、0℃で一晩リタードさせた。この生地に製パン用(ロールイン用)マーガリンを折り込み、ゲージ厚3mmで3折り2回を加え−10℃にて30分リタードし、3折り1回を加え−10℃にて60分リタードさせた。その後ゲージ厚3mmとした後、10cm角(10cm×10cm)にカットし、ホイロ後、焼成してデニッシュを得た。
デニッシュの配合
強力粉 100質量部
上白糖 10質量部
食塩 1.6質量部
脱脂粉乳 4質量部
製パン用(一般練り込み用)マーガリン
(アドフリー440ミヨシ油脂製乳化剤無添加マーガリン) 10質量部
イースト 4質量部
水 63質量部
製パン用(ロールイン用)マーガリン 生地100質量部に対して20質量部
デニッシュ生地の製造条件
ミキシング: 低速3分、中低速5分、 (製パン用(一般練り込み用)マーガリン投入)、低速2分、中低速4分
捏上温度: 25℃
フロアタイム:27℃ 75% 30分
リタード: 0℃ 一晩
ロールイン: 3折×2回 −10℃にてリタード30分
3折×1回 −10℃にてリタード60分
成型: シーターゲージ厚3mm 10cm角(10cm×10cm)にカット
ホイロ: 35℃ 75% 60分
焼成: 200℃ 14分
【0080】
実施例11〜20および比較例7〜12で製造した製パン用(ロールイン用)マーガリンおよびデニッシュについて、下記の評価を行った。それぞれの評価結果は表7および表8に示す。
【0081】
・マーガリンの硬さ変化
マーガリンを円柱状の容器に入れ、表面が平らになるように、スパテラでカットし15℃で2日、30日保存したときの硬さをペネトロメーターを用いて測定した。AOCS公定法Cc16−60の円錐型コーンアダプターの先端をマーガリンの表面に接触する位置にセットし、5秒間落下させたときの進入距離(mm)の10倍をペネトロ値とし、硬さの指標とした。30日目と2日目とのペネトロ値の変化率((|30日目のペネトロ値−2日目のペネトロ値|)/2日目のペネトロ値×100)により硬さの変化を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:15%未満
○:15%以上25%未満
△:25以上35%未満
×:35%以上
【0082】
・ロールイン時の作業性
約2Kgの生地にシート状の製パン用(ロールイン用)マーガリン400gをのせ、折り込み時の製パン用(ロールイン用)マーガリンの作業性を以下のように評価をした。
評価基準
◎:油脂切れなく、伸び非常に良好であった。
○:油脂切れなく、伸び良好であった。
△:やや油脂切れがあるが、伸び良好であった。
×:油脂切れが起こるか、生地に練り込まれる傾向があった。
【0083】
・ロールイン後の縮み
3mm厚に成型した生地を10cm角にカットし、10枚重ねたときの高さを測定し、以下のように評価した。
評価基準
◎:55mm以下
○:55mm超60mm以下
△:60mm超65mm以下
×:65mm超
【0084】
・デニッシュ層の形成状態
焼成したデニッシュを中央部でカットし、層の形成状態を目視により以下のように評価した。
評価基準
◎:膜が非常に薄く、きれいな層を形成していた。
〇:膜が薄く、きれいな層を形成していた。
△:やや膜が厚く、層の形成が少なかった。
×:膜が厚く、層の形成が少なかった。
【0085】
・食感(サクさ)
焼成したデニッシュを20℃で1日(D+1)および3日(D+3)保存した後、パネル10名によりデニッシュのサクさ感を以下のように評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0086】
・歯切れ
焼成した食パンを20℃で1日(D+1)保存した後、パネル10名により食パンの歯切れを以下のように評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0087】
・口溶け
焼成したデニッシュを20℃で1日保存した後、パネル10名によりデニッシュの口溶けを以下のように評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0088】
【表7】
【0089】
【表8】
【0090】
製菓用(ロールイン用)マーガリンの製造
表9および表10に記載の配合割合(質量部)で、製パン用(ロールイン用)マーガリンの製造と同様にして、実施例21〜30および比較例13〜18の油脂組成物を得た。油脂組成物中のトリグリセリドの含有量を、製パン用(パン練り込み用)マーガリンの製造と同様にして、測定した。測定結果は、表9および表10に示すとおりである。
【0091】
【表9】
【0092】
【表10】
【0093】
続いて、上記で製造した油脂組成物84質量部を75℃に調温して油相とした。一方、水13.5質量部に脱脂粉乳1.5質量部および食塩1.0質量部を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相をミキサーで撹拌しながら該水相を徐々に添加し、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷し、捏和して、25cm×21cm×1cmのシート状に成型した下記の配合割合の製菓用(ロールイン用)マーガリンを得た。
製菓用(ロールイン用)マーガリン配合
油脂組成物 84質量部
水 13.5質量部
脱脂粉乳 1.5質量部
食塩 1.0質量部
【0094】
パイの製造
下記の配合および製造条件でパイを製造した。具体的には、上記で製造した製菓用(ロールイン用)マーガリン以外の材料をミキサーに投入し、低速3分、中高速5分ミキシングを行った後、0℃にて一晩リタードさせた。この生地に製菓用(ロールイン用)マーガリンを折り込み、ゲージ厚4mmで3折り、4折りを加え0℃にて60分リタードさせた。さらにゲージ厚4mmで3折り、4折りを加え0℃にて60分リタードさせた。その後ゲージ厚3mmに延ばした後、10cm角(10cm×10cm)にカットし、焼成してパイを得た。
パイの配合
強力粉 80質量部
薄力粉 20質量部
上白糖 5質量部
食塩 1質量部
全卵(正味) 10質量部
製パン用(一般練り込み用)マーガリン
(アドフリー440ミヨシ油脂製乳化剤無添加マーガリン) 10質量部
冷水 40質量部
製菓用(ロールイン用)マーガリン 生地100質量部に対して70質量部
パイ生地の製造条件
ミキシング: 低速3分、中高速5分
リタード: 0℃ 60分
ロールイン: 3折×1回
(ゲージ厚4mm)4折×1回 0℃にてリタード60分
3折×1回
4折×1回 0℃にてリタード60分
成型: シーターゲージ厚3mm 10cm角(10cm×10cm)にカット
焼成: 175℃ 20分
【0095】
実施例21〜30および比較例13〜18で製造した製菓用(ロールイン用)マーガリンおよびパイについて、上記の製パン用(ロールイン用)マーガリンと同様の評価を行った。それぞれの評価結果は表11および表12に示す。
【0096】
【表11】
【0097】
【表12】
図1
図2
図3