特許第6456738号(P6456738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6456738
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】電子制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 9/02 20060101AFI20190110BHJP
   F02D 41/14 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
   F02D9/02 351N
   F02D41/14 320C
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-60453(P2015-60453)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-180346(P2016-180346A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2018年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】100182028
【弁理士】
【氏名又は名称】多原 伸宜
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153349
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 茂
(72)【発明者】
【氏名】溝口 哲也
【審査官】 田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−249952(JP,A)
【文献】 特開2006−138222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/00 − 28/00
F02D41/00 − 45/00
F16K31/00 − 31/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デフォルト機構により全閉位置からの所定の開度域で開方向に付勢されるスロットルバルブの開度を制御する電子制御装置であって、
前記スロットルバルブを駆動するアクチュエータの駆動電圧に応じて前記アクチュエータの基本駆動デューティーを算出し、算出した前記基本駆動デューティーに基づいて駆動デューティーを設定する駆動デューティー設定部と、
前記スロットルバルブが前記全閉位置まで駆動する前に、前記駆動デューティー設定部により設定した前記駆動デューティーで前記アクチュエータを動作させて、前記スロットルバルブを前記全閉位置に向けて駆動する駆動部と、
を有し、
前記駆動デューティー設定部は、
前記スロットルバルブの実角速度と目標角速度との角速度偏差に応じて前記基本駆動デューティーを補正すると共に、前記角速度偏差による補正を前記駆動電圧に応じて行うことにより、前記駆動デューティーを設定する、
ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
前記駆動デューティー設定部は、
前記角速度偏差による補正を無駄時間より長い所定周期で行う、
ことを特徴とする請求項記載の電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デフォルト機構を有する電子制御式のスロットルボディにおけるスロットルバルブの駆動を制御する電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スロットルボディにおけるスロットルバルブの駆動を電子制御する電子制御装置が広く普及している。かかるスロットルボディとしては、スロットルバルブをリターンスプリングで閉方向に付勢するものが知られている。
【0003】
従来の電子制御装置としては、ECU(Engine Control Unit)起動時において、スロットルバルブを強制的に全閉位置に駆動させる全閉突き当て制御処理を行って、予めスロットルバルブの全閉位置を学習してスロットルバルブの駆動を制御するものが知られている。従来の全閉突き当て制御処理では、スロットルボディを破損しない程度の駆動トルクを生じるような一定の駆動デューティーでスロットルバルブを駆動する。この際、スロットルバルブはリターンスプリングにより閉方向に付勢されているため、比較的小さな駆動デューティーでスロットルバルブを駆動させた場合であっても、全閉突き当て制御処理を完了することができる。
【0004】
また、近年、スロットルバルブを駆動しないときに、デフォルトスプリングにより全閉位置からの所定の開度域でスロットルバルブを開方向に付勢するデフォルト機構を備えたスロットルボディが知られている。
【0005】
かかるデフォルト機構を備えたスロットルボディでは、全閉突き当て制御処理において、デフォルトスプリングの付勢力に抗してスロットルバルブを全閉位置まで駆動する必要があり、単にスロットルボディを損傷しない程度の駆動トルクでは全閉突き当て制御処理を完了することができない。従って、デフォルト機構を備えたスロットルボディにおける全閉突き当て制御処理では、デフォルトスプリングの付勢力以上の駆動トルク且つスロットルボディを損傷させない程度の駆動トルクでスロットルバルブを駆動させる必要がある。
【0006】
従来のデフォルト機構を備えるスロットルボディにおける全閉突き当て制御処理は、一定の駆動デューティーでスロットルバルブを駆動するものであるため、デフォルトスプリングの製造過程における品質のばらつき若しくは劣化、又は、電源電圧の変化により、デフォルトスプリングの付勢力以上の駆動トルク且つスロットルボディを損傷させない程度の駆動トルクでスロットルバルブを駆動することは困難である。
【0007】
これに対して、特許文献1は、リターンスプリングにより閉じ方向にスロットルバルブを付勢すると共にオープナースプリングにより開き方向にスロットルバルブを付勢する電子スロットル制御装置に関し、特に、全閉突き当て制御処理において、スロットルバルブの実スロットル開度と目標スロットル開度との開度偏差を小さくするようにフィードバック制御すると共に、目標開度を徐々に引き下げることによりスロットルバルブを緩やかに全閉位置まで駆動させる構成を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−257923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1によれば、スロットルバルブが全閉位置に到達した場合であっても、目標スロットル開度と実スロットル開度との開度偏差がなくならない限り、駆動デューティーを急増させる制御を行うため、スロットルバルブが全閉位置に到達した後に駆動デューティーが最大となって、スロットルボディの機構に対して大きな負荷を与えることとなり、スロットルボディを損傷させる恐れがある。
【0010】
本発明は、以上の検討を経てなされたものであり、デフォルト機構を備えたスロットルボディにおいて、スロットルバルブの全閉突き当て制御処理を完了する前に、スロットルバルブの駆動デューティーを制御することにより、スロットルボディの損傷を招くことなく、全閉突き当て制御処理を確実に完了させる電子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の目的を達成するべく、本発明の第1の局面における電子制御装置は、デフォルト機構により全閉位置からの所定の開度域で開方向に付勢されるスロットルバルブの開度を制御する電子制御装置であって、前記スロットルバルブを駆動するアクチュエータの駆動電圧に応じて前記アクチュエータの基本駆動デューティーを算出し、算出した前記基本駆動デューティーに基づいて駆動デューティーを設定する駆動デューティー設定部と、前記スロットルバルブが前記全閉位置まで駆動する前に、前記駆動デューティー設定部により設定した前記駆動デューティーで前記アクチュエータを動作させて、前記スロットルバルブを前記全閉位置に向けて駆動する駆動部と、を有し、前記駆動デューティー設定部は、前記スロットルバルブの実角速度と目標角速度との角速度偏差に応じて前記基本駆動デューティーを補正すると共に、前記角速度偏差による補正を前記駆動電圧に応じて行うことにより、前記駆動デューティーを設定する
【0014】
また、本発明は、かかる第の局面に加えて、前記駆動デューティー設定部は、前記角速度偏差による補正を無駄時間より長い所定周期で行うことを第の局面とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の局面における構成によれば、デフォルト機構により全閉位置からの所定の開度域で開方向に付勢されるスロットルバルブの開度を制御する電子制御装置であって、前記スロットルバルブを駆動するアクチュエータの駆動電圧に応じて前記アクチュエータの基本駆動デューティーを算出し、算出した前記基本駆動デューティーに基づいて駆動デューティーを設定する駆動デューティー設定部と、前記スロットルバルブが前記全閉位置まで駆動する前に、前記駆動デューティー設定部により設定した前記駆動デューティーで前記アクチュエータを動作させて、前記スロットルバルブを前記全閉位置に向けて駆動する駆動部と、を有し、前記駆動デューティー設定部は、前記スロットルバルブの実角速度と目標角速度との角速度偏差に応じて前記基本駆動デューティーを補正すると共に、前記角速度偏差による補正を前記駆動電圧に応じて行うことにより、前記駆動デューティーを設定することで、デフォルト機構を備えたスロットルボディにおいて、スロットルバルブの全閉突き当て制御処理を完了する前に、スロットルバルブを駆動させる駆動デューティーを適切なデューティー比に調整することにより、スロットルボディの損傷を招くことなく、全閉突き当て制御処理を確実に完了させることができ、スロットルバルブの駆動負荷の状態に応じて駆動デューティーを制御して、スロットルボディの破損を防止することができると共に、駆動電圧に応じてスロットルバルブの駆動トルクの過多を防止することができる。
【0018】
本発明の第の局面における構成によれば、前記駆動デューティー設定部は、前記角速度偏差による補正を無駄時間より長い所定周期で行うことにより、無駄時間を考慮して駆動デューティーを設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態に係る電子制御装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施形態における全閉突き当て制御処理を示すフロー図である。
図3図3は、本発明の実施形態における全閉突き当て制御処理のタイミングチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態に係る電子制御装置につき、詳細に説明する。
【0021】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る電子制御装置1の構成につき、詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る電子制御装置の構成を示すブロック図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態における電子制御装置1は、図示を省略する車両、典型的には自動二輪車や自動四輪車に搭載され、車両に搭載されたバッテリから供給される電力を利用して動作し、車両の各種構成要素を制御自在な制御装置であり、図示を省略するメモリ等を備える。
【0024】
電子制御装置1は、ECU起動時に全閉突き当て制御処理を行って、予めスロットルバルブ11の全閉位置を学習しておく。そして、電子制御装置1は、全閉突き当て制御処理完了後に、アクセル操作量に応じた電子制御を実行する。
【0025】
電子制御装置1は、電子制御スロットル装置10に電気的に接続されている。
【0026】
電子制御スロットル装置10は、図示を省略する自動二輪車や自動四輪車等の車両に搭載された内燃機関に対して空気量を制御するものであり、スロットルバルブ11を駆動してその開度を可変とするアクチュエータである電動モータMと、スロットルバルブ11の開度を検出するスロットル開度センサ12と、を備えている。
【0027】
スロットルバルブ11は、吸気管13の内部に配設されており、スロットルバルブ11に連結されたスロットルレバー14aを介してスロットルシャフト14が全開位置ストッパ15と全閉位置ストッパ16との間の制御範囲θ内でその軸周りに回動することにより、吸気管13の内壁面とスロットルバルブ11との間に形成される空隙を変化させて車両の内燃機関の吸入空気量を調節自在である。また、スロットルバルブ11は、電動モータMにより駆動されないときに、デフォルトスプリング19により所定の開度域で開方向に付勢され、所定のデフォルト開度で開いた状態で停止している。
【0028】
スロットルシャフト14は、駆動ギヤ系のギヤG1、G2を介して電動モータMに接続され、電動モータMによってこれらは駆動される。また、スロットルレバー14aには、スロットルバルブ11を閉方向に付勢するリターンスプリング17と、スロットルバルブ11を開方向に付勢するデフォルトスプリング19と、が配設されている。なお、図1中では、スロットルレバー14aが全閉位置ストッパ16に当接した状態を実線で示し、スロットルレバー14aが全開位置ストッパ15に当接した状態を点線で示す。
【0029】
電子制御装置1は、基本駆動デューティー算出部21、スロットル角速度フィードバック補正係数算出部22、実角速度算出部23、減算器24、スロットル角速度フィードバック制御部25、加算器26及びアクチュエータ駆動回路27を備えている。基本駆動デューティー算出部21、スロットル角速度フィードバック補正係数算出部22、実角速度算出部23、スロットル角速度フィードバック制御部25及びアクチュエータ駆動回路27は、いずれも演算処理装置の機能ブロックとして示す。
【0030】
基本駆動デューティー算出部21は、車両に搭載されているバッテリの電源電圧値を検出する図示しない電源電圧検出部及び加算器26に電気的に接続されている。かかる電源電圧値は、電動モータMを駆動する駆動電圧の電圧値である。基本駆動デューティー算出部21は、電源電圧値と基本駆動デューティーとの対応関係を示す基本駆動デューティー選択テーブルを備えている。このテーブルにおいて、基本駆動デューティーは、電源電圧値が所定値以下の場合に一定値であり、電源電圧値が所定値より大きい場合に電源電圧値の増加に応じて減少する。基本駆動デューティー算出部21は、全閉突き当て制御処理において、図示しない電源電圧検出部で検出した電源電圧値に対応する基本駆動デューティーを、基本駆動デューティー選択テーブルから読み出して、その読み出した基本駆動デューティーを加算器26に出力する。
【0031】
スロットル角速度フィードバック補正係数算出部22は、図示しない電源電圧検出部及びスロットル角速度フィードバック制御部25に電気的に接続されている。スロットル角速度フィードバック補正係数算出部22は、電源電圧値と角速度フィードバック補正係数との対応関係を示す角速度フィードバック補正係数選択テーブルを備えている。このテーブルにおいて、角速度フィードバック補正係数は、電源電圧値が所定値以下の場合に一定値であり、電源電圧値が所定値より大きい場合に電源電圧値の増加に応じて減少する。スロットル角速度フィードバック補正係数算出部22は、図示しない電源電圧検出部で検出した電源電圧値に対応する角速度フィードバック補正係数を、角速度フィードバック補正係数選択テーブルから読み出して、その読み出した角速度フィードバック補正係数を、後述するスロットル角速度フィードバック制御部25に出力する。
【0032】
実角速度算出部23は、スロットル開度センサ12及び減算器24に電気的に接続されている。実角速度算出部23は、スロットル開度センサ12から所定時間に亘って、スロットルバルブ11の実開度を示す電気信号を受け、その所定時間におけるスロットルバルブ11の実開度の変化量を、スロットルバルブ11の角速度(以下、「実角速度」と記載する)として算出し、算出した実角速度を減算器24に出力する。所定時間は、典型的には1msである。
【0033】
減算器24は、図示しない目標角速度算出部と、実角速度算出部23と、スロットル角速度フィードバック制御部25と、に電気的に接続され、図示しない目標角速度算出部からの目標角速度と実角速度算出部23からの実角速度との差分を演算して角速度偏差として算出し、算出した角速度偏差をスロットル角速度フィードバック制御部25に出力する。
【0034】
スロットル角速度フィードバック制御部25は、スロットル角速度フィードバック補正係数算出部22、減算器24及び加算器26に電気的に接続されている。スロットル角速度フィードバック制御部25は、減算器24で算出した角速度偏差に基づいて角速度フィードバックデューティーを算出し、算出した角速度フィードバックデューティーを加算器26に出力する。図1において、スロットル角速度フィードバック補正係数算出部22からスロットル角速度フィードバック制御部25を横切って延びる矢印は、スロットル角速度フィードバック補正係数算出部22により角速度フィードバックデューティーを補正することを意味している。即ち、角速度フィードバックデューティーは、電源電圧値に応じて補正される。なお、角速度フィードバックデューティーの算出方法については、後述する。
【0035】
加算器26は、基本駆動デューティー算出部21、スロットル角速度フィードバック制御部25及びアクチュエータ駆動回路27と電気的に接続している。加算器26は、基本駆動デューティー算出部21で算出した基本駆動デューティーと、スロットル角速度フィードバック制御部25で算出した角速度フィードバックデューティーと、を加算して駆動デューティーを算出し、算出した駆動デューティーをアクチュエータ駆動回路27に出力する。
【0036】
アクチュエータ駆動回路27は、加算器26及び電動モータMに電気的に接続され、加算器26で算出した駆動デューティーに応じた駆動電力を生成する。アクチュエータ駆動回路27は、生成した駆動電力を電動モータMに供給する。
【0037】
電動モータMは、アクチュエータ駆動回路27に電気的に接続されており、アクチュエータ駆動回路27からの駆動電力を受け、電子制御装置1が算出した駆動デューティーに応じてスロットルバルブ11を目標位置に向かって移動させ、対応して、スロットルバルブ11は、目標位置に向かって移動される。スロットル開度センサ12は、電動モータMによって移動させられたスロットルバルブ11の実開度を検出して、検出した実開度を示す電気信号を実角速度算出部23に出力する。
【0038】
電子制御装置1は、運転者がアクセル操作量を与えるアクセルグリップやアクセルペダルのアクセル開度を電気的に検出し図示を省略する入力量検出器に電気的に接続される。入力量検出器は、電子制御装置1の図示を省略する目標量算出部に電気的に接続して、かかる目標量算出部は、アクセルグリップやアクセルペダルに印加されたアクセル操作量に応じてスロットルバルブ11の目標開度量を算出する。また、電子制御装置1は、図示しない目標開度算出部及びスロットル開度センサ12に電気的に接続され、全閉突き当て制御処理完了後において、これらからの各々の電気信号を受け、目標開度算出部がアクセルペダルやアクセルグリップの操作量に応じて算出したスロットルバルブ11の目標開度量である目標量、及びスロットル開度センサ12が検出したスロットルバルブ11の実開度に応じて、スロットルバルブ11の開度をフィードバック制御する。
【0039】
以上のような構成を有する電子制御装置1では、以下に示す全閉突き当て制御処理を実行することによって、スロットルボディの損傷を招くことなく、全閉突き当て制御処理を確実に完了させる。以下、図2に示すフロー図をも参照して、全閉突き当て制御処理を実行する際の電子制御装置1の動作について、詳細に説明する。
【0040】
図2は、本発明の実施形態における全閉突き当て制御処理を示すフロー図である。図3は、本発明の実施形態における全閉突き当て制御処理のタイミングチャートを示す図である。なお、かかるフロー図の動作を実行するプログラムや数式やテーブル、マップ等に関するデータは、電子制御装置1内のメモリに予め格納されている。
【0041】
図2に示すフロー図は、車両のイグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り換えられてECUを起動し、電子制御装置1の制御処理が実質的に開始したタイミングで開始となり、全閉突き当て制御処理はステップS1の処理に進む。かかる全閉突き当て制御処理は、所定の回数に亘って繰り返し実行される。
【0042】
まず、ステップS1の処理では、スロットル開度センサ12からのスロットルバルブ11の実開度THDBWを示す電気信号に基づいて、スロットルバルブ11の実角速度VTHINIを実角速度算出部23により算出する。これにより、ステップS1の処理は完了し、全閉突き当て制御処理はステップS2の処理に進む。
【0043】
ステップS2の処理では、図示しない目標角速度算出部によって算出した目標角速度VTHINILMと、実角速度算出部23で算出した実角速度VTHINIと、の角速度偏差DVTHINIを減算器24により算出する。これにより、ステップS2の処理は完了し、全閉突き当て制御処理はステップS3の処理に進む。
【0044】
ステップS3の処理では、基本駆動デューティー算出部21により、図示しない電源電圧検出部によって検出した電源電圧値VBD2に対応する基本駆動デューティーMDINIBSを、基本駆動デューティー選択テーブルから読み出す。これにより、ステップS3の処理は完了し、全閉突き当て制御処理はステップS4の処理に進む。
【0045】
ステップS4の処理では、スロットル角速度フィードバック補正係数算出部22により、図示しない電源電圧検出部によって検出した電源電圧値VBD2に対応する角速度フィードバック補正係数CFMDOFSを、角速度フィードバック補正係数選択テーブルから読み出す。これにより、ステップS4の処理は完了し、全閉突き当て制御処理はステップS5の処理に進む。
【0046】
ステップS5の処理では、スロットル角速度フィードバック制御部25が備えるタイマ回路で計測するタイマ値がタイマ値閾値より大きいか否かを判定し、タイマ値がタイマ値閾値より大きい場合(ステップS5:YES)に全閉突き当て制御処理はステップS11の処理に進み、タイマ値がタイマ値閾値以下の場合(ステップS5:NO)に全閉突き当て制御処理はステップS6の処理に進む。ステップS5の処理では、典型的には、タイマ値閾値を「0」に設定しておく。
【0047】
ステップS6の処理では、タイマ値がタイマ値閾値以下の場合、スロットル角速度フィードバック制御部25によりタイマ値をリセットする。タイマ値は、典型的には、リセットすることにより「5」に設定される。これにより、ステップS6の処理は完了し、全閉突き当て制御処理はステップS7の処理に進む。
【0048】
ステップS7の処理では、ステップS2において算出した角速度偏差DVTHINIが偏差閾値よりも大きいか否かをスロットル角速度フィードバック制御部25により判定し、角速度偏差DVTHINIが偏差閾値よりも大きい場合(ステップS7:YES)に全閉突き当て制御処理はステップS8の処理に進み、角速度偏差DVTHINIが偏差閾値以下の場合(ステップS7:NO)に全閉突き当て制御処理はステップS12の処理に進む。
【0049】
ステップS8の処理では、ステップS2において算出した角速度偏差DVTHINIが偏差閾値より大きい場合、スロットル角速度フィードバック制御部25によりPI(Proportional-Integral)制御を行う。具体的には、スロットル角速度フィードバック制御部25は、スロットルバルブ11の角速度を減速するための比例項(P項)の係数と、スロットルバルブ11の角速度を一定に保つための積分項(I項)の係数と、を設定し、設定した各係数を用いて比例項及び積分項の値を算出して比例項及び積分項の制御量を調整する。この際、スロットル角速度フィードバック制御部25は、比例項についてはスロットルバルブの角速度を大きく減速させるための大きな係数を設定し、積分項についてはオーバーシュートによる駆動トルクの不足を生じないように小さな係数を設定する。これにより、ステップS8の処理は完了し、全閉突き当て制御処理はステップS9の処理に進む。
【0050】
ステップS9の処理では、スロットル角速度フィードバック制御部25によりPI制御を行って、ステップS2において算出した角速度偏差DVTHINIに応じた角速度フィードバックデューティーMDINIOFSを算出する。具体的には、スロットル角速度フィードバック制御部25は、ステップS8において算出した比例項の値と積分項の値とを加算して角速度フィードバックデューティーMDINIOFSを算出すると共に、角速度フィードバックデューティーMDINIOFSに対して、ステップS4で算出した角速度フィードバック補正係数CFMDOFSを乗算して角速度フィードバックデューティーMDINIOFSを補正する。これにより、ステップS9の処理は完了し、全閉突き当て制御処理はステップS10の処理に進む。
【0051】
ステップS10の処理では、加算器26により、ステップS3において算出した基本駆動デューティーMDINIBSを、ステップS9において算出した角速度フィードバックデューティーMDINIOFSで補正して、駆動デューティーUIを算出する。具体的には、加算器26は、ステップS9において算出した角速度フィードバックデューティーMDINIOFSをステップS4において算出した角速度フィードバック補正係数CFMDOFSで補正した値と、ステップS3において算出した基本駆動デューティーMDINIBSと、を加算して駆動デューティーUIを算出する。これにより、ステップS10の処理は完了し、今回の一連の全閉突き当て制御処理の初回の処理は終了する。
【0052】
一方、ステップS11の処理では、スロットル角速度フィードバック制御部25によりタイマ値から「1」を減算してタイマ値をデクリメントする。これにより、ステップS11の処理は完了し、全閉突き当て制御処理はステップS10の処理に進む。
【0053】
ここで、ステップS5、ステップS6及びステップS11の処理は、機械的時定数に応じた応答遅れによるスロットルバルブ11の角速度のオーバーシュートを防止するために行うものである。具体的には、角速度偏差に応じた駆動デューティーを設定する際に、駆動デューティーを設定し、スロットルバルブ11の実角速度が変化し始めて一定になるまでの無駄時間(遅れ時間)より長い所定周期で、タイマ値がタイマ値閾値以下になるように、タイマ値及びタイマ値閾値を設定する。
【0054】
また、ステップS12では、スロットル角速度フィードバック制御部25によりPI制御を行う。具体的には、スロットル角速度フィードバック制御部25は、積分項の値を「0」に設定する。これにより、ステップS12の処理は完了し、全閉突き当て制御処理はステップS9の処理に進む。
【0055】
電子制御装置1は、全閉突き当て制御処理において、図2のフロー図の処理を繰り返すことにより、駆動デューティーを抑制するように制御する。これにより、駆動トルクの増加又は駆動トルクの過多によるスロットルボディの破損を防ぐことができる。
【0056】
かかる全閉突き当て制御処理では、図3(a)に示すように、初回の全閉突き当て制御処理において、スロットルバルブ11が全閉位置に到達する時刻t4前の時刻t1に、電源電圧値に応じた適切な駆動デューティーを設定する。ここで、スロットルバルブ11を閉じる方向に駆動する際の駆動デューティーを負の値とし、スロットルバルブ11を開く方向に駆動する際の駆動デューティーを正の値とする。
【0057】
そして、電子制御装置1は、タイマ値がタイマ値閾値以下になるまで図2のステップS1からステップS12の処理を繰り返し実行し、タイマ値がタイマ値閾値以下になった際に、スロットル角速度フィードバック制御部25により角速度偏差に応じた角速度フィードバックデューティーを算出し、算出した角速度フィードバックデューティーを用いて駆動デューティーを抑制する。これにより、図3(a)に示すように、スロットルバルブ11が全閉位置に到達する時刻t4前の時刻t2に、電源電圧値に応じた適切な駆動デューティーを設定する。時刻t2で設定される駆動デューティーは、時刻t1で設定される駆動デューティーよりも抑制されているので、スロットルバルブ11の駆動トルクの過多を防止することができる。時刻t1から時刻t2までの時間は、時刻t1において駆動デューティーを設定し、スロットルバルブ11の実角速度が変化し始めてから一定値になるまでの無駄時間より長くなっている。
【0058】
スロットルバルブ11が全閉位置に到達する時刻t4前の時刻t2から時刻t3までにおいても上記と同様の処理を行うことにより、時刻t3で設定される駆動デューティーは、時刻t2で設定される駆動デューティーよりも抑制されているので、スロットルバルブ11の駆動トルクの過多を防止することができる。時刻t2から時刻t3までの時間は、時刻t2において駆動デューティーを設定し、スロットルバルブ11の実角速度が変化し始めてから一定値になるまでの無駄時間より長くなっている。このように、電子制御装置1は、駆動デューティーを段階的に徐々に抑制する。
【0059】
なお、本実施形態では、スロットルバルブ11の実角速度と目標角速度との角速度偏差を算出して、無駄時間よりも長い所定期間毎に、算出した角速度偏差を用いて駆動デューティーを補正したが、角速度偏差を用いて駆動デューティーを補正しなくてもよい。
【0060】
角速度偏差を用いて駆動デューティーを補正しない場合、アクチュエータ駆動回路27は、図3(b)及び(c)に示すように、スロットルバルブ11が全閉位置に到達する時刻t6前の時刻t5に、電源電圧値に応じた一定の駆動デューティーでスロットルバルブ11を駆動する。アクチュエータ駆動回路27は、電源電圧値が大きいほど小さい駆動デューティーでスロットルバルブ11を駆動する。
【0061】
以上の本実施形態の構成によれば、スロットルバルブ11を駆動する電動モータMの駆動電圧に応じて電動モータMの基本駆動デューティーを算出すると共に、算出した基本駆動デューティーに基づいて駆動デューティーを設定し、スロットルバルブ11が全閉位置まで駆動する前に、設定した駆動デューティーで電動モータMを動作させて、スロットルバルブ11を全閉位置に向けて駆動することで、デフォルト機構を備えたスロットルボディにおいて、スロットルバルブの全閉突き当て制御処理を完了する前に、スロットルバルブを駆動させる駆動デューティーを適切なデューティー比に調整することにより、スロットルボディの損傷を招くことなく、全閉突き当て制御処理を確実に完了させることができる。
【0062】
また、本実施形態の構成によれば、スロットルバルブ11の角速度と目標角速度との角速度偏差に応じて基本駆動デューティーを補正することで、駆動デューティーを設定することにより、スロットルバルブの駆動負荷の状態に応じて駆動デューティーを制御して、スロットルボディの破損を防止することができる。
【0063】
また、本実施形態の構成によれば、スロットルバルブ11の角速度と目標角速度との角速度偏差による補正を駆動電圧に応じて行うことにより、駆動デューティーを設定することにより、駆動電圧に応じてスロットルバルブの駆動トルクの過多を防止することができる。
【0064】
また、本実施形態の構成によれば、スロットルバルブ11の角速度と目標角速度との角速度偏差による補正を無駄時間より長い所定周期で行うことにより、無駄時間を考慮して駆動デューティーを設定することができる。
【0065】
また、本実施形態の構成によれば、デフォルトスプリング19の製造過程における品質のばらつき又は劣化により、スロットルバルブ11に対するデフォルトスプリング19による付勢力が異なったり変化する場合であっても、スロットルボディの損傷を招くことなく、全閉突き当て制御処理を確実に完了させることができる。
【0066】
また、本実施形態の構成によれば、スロットルバルブ11の駆動トルクを監視するために電動モータMに流れる電流の電流値を検出するセンサ等を追加することなく、スロットルバルブ11の駆動デューティーを設定することにより、安価な電子制御装置1を提供することができる。
【0067】
なお、本発明は、部材の種類、形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【0068】
具体的には、PI制御により角速度偏差に応じた角速度フィードバックデューティーを算出したが、PID(Proportion-Integral-Derivative)制御等により角速度偏差に応じた角速度フィードバックデューティーを算出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明においては、デフォルト機構を備えたスロットルボディにおいて、スロットルバルブの全閉突き当て制御処理を完了する前に、スロットルバルブを駆動させる駆動デューティーを適切なデューティー比に調整することにより、スロットルボディの損傷を招くことなく、全閉突き当て制御処理を確実に完了させる電子制御装置を提供することができ、その汎用普遍的な性格から自動二輪車等の電子制御装置に広範に適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0070】
1…電子制御装置
10…電子スロットル制御装置
11…スロットルバルブ
12…スロットル開度センサ
13…吸気管
14…スロットルシャフト
14a…スロットルレバー
15…全開位置ストッパ
16…全閉位置ストッパ
17…リターンスプリング
19…デフォルトスプリング
21…基本駆動デューティー算出部
22…スロットル角速度フィードバック補正係数算出部
23…実角速度算出部
24…減算器
25…スロットル角速度フィードバック制御部
26…加算器
27…アクチュエータ駆動回路
G1、G2…ギヤ
M…電動モータ
図1
図2
図3