(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トレッド部におけるカーカス層の外周側にコードをタイヤ周方向に対して傾斜配列したベルト層と、前記ベルト層の外周側において有機繊維コードをタイヤ周方向に沿って配列したベルト補強層と、を備えた空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト補強層の有機繊維コードとして、ガラス転移温度が90℃〜170℃である脂肪族ポリアミド繊維からなる有機繊維コードを用い、該有機繊維コードを、その80℃における収縮力(N/本)と打ち込み本数(本/25mm)との積が50.0〜65.0を満足するよう配設したことを特徴とする空気入りタイヤ。
【背景技術】
【0002】
タイヤの高速耐久性向上を目的として、ベルト層の外周側に、繊維コードをタイヤ周方向に実質的に平行に配列してなるベルト補強層を設けることが知られている。ベルト補強層を形成する有機繊維コードとしては、ナイロン66やナイロン6などで代表される汎用のナイロン繊維(脂肪族ポリアミド繊維)が一般に用いられている。しかし、汎用の脂肪族ポリアミド繊維を用いたベルト補強層では、高速走行時に発生する高熱による歪みがセットされてしまう特性があるため、長時間走行した後の再走行時にタイヤが振動する要因となる、所謂フラットスポット現象が生じやすい。
【0003】
また、汎用の脂肪族ポリアミド繊維を用いたベルト補強層において、有機繊維コードの打ち込み本数を増やすと、タガ効果としてのベルト拘束力が大きくなり、高速耐久性の更なる向上が見込める。しかし、打ち込み本数を増やすとコードボリュームが多くなり、耐フラットスポット性に対して不利になる。そのため、耐フラットスポット性を改善しつつ、高速耐久性を向上させることは困難である。
【0004】
ところで、特許文献1には、高速耐久性を向上させるために、150℃における収縮応力が0.2cN/dtex以上である片撚り構造のポリオレフィンケトン繊維コードをベルト補強層に用いることが開示されている。特許文献2には、中周波ロードノイズを低減するために、150℃における収縮力が10〜20Nであるポリケトン繊維などからなるコードを、ベルト補強層において、30〜60本/50mmの打ち込み本数で配設することが開示されている。特許文献3には、高速耐久性の向上と軽量化を実現するために、150℃での収縮応力が0.15cN/dtex以上である片撚り構造のナイロン66繊維コードをベルト補強層に用いることが開示されている。特許文献4には、荷重耐久性を維持しながら、高速耐久性を向上するために、150℃における収縮応力が0.30〜0.45cN/dtexであるポリケトン繊維コードを車両内側のベルト補強層に、150℃における収縮応力が0.10〜0.25cN/dtexであるナイロン66繊維コードを車両外側のベルト補強層に用いることが開示されている。このように、従来、ベルト補強層に用いる有機繊維コードとして、150℃での収縮応力ないし収縮力を規定することにより、高速耐久性等を向上させることは提案されているが、実走行時におけるタイヤ内部の温度に即した80℃における収縮力については検討されておらず、特定のガラス転移温度を持つ脂肪族ポリアミド繊維からなる有機繊維コードとの組み合わせで、耐フラットスポット性を向上しつつ、高速耐久性を向上させることは知られていなかった。
【0005】
なお、特許文献5には、耐熱性、流動性、靱性、低吸水性及び剛性に優れ、高い融点を有する脂肪族ポリアミドが開示され、該脂肪族ポリアミドのガラス転移温度が90〜170℃であることが記載されている。しかしながら、この文献は、主として自動車の吸気系部品や冷却系部品などの樹脂部品用途を対象としたものであり、タイヤのベルト補強層を構成する繊維コードへの適用については示唆されてない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態に係る空気入りタイヤは、ベルト層の外周側に配設されるベルト補強層の構成に特徴がある。ベルト補強層は、ベルト層のタイヤ半径方向外側において、タイヤ周方向に沿って配列した有機繊維コードからなるものである。すなわち、ベルト補強層の有機繊維コードは、タイヤ周方向に実質的に平行に、すなわち略0°の角度(好ましくは5°以下の角度)で延びており、該コードがタイヤ幅方向に所定間隔で配列されている。このようなベルト補強層としては、ベルト層の幅方向全体を覆うキャッププライでもよく、あるいはベルト端部を覆うエッジプライでもよい。
【0013】
図1は、空気入りタイヤの一例としての乗用車用空気入りラジアルタイヤの半断面図である。このタイヤは、左右一対のビード部(1)及びサイドウォール部(2)と、両サイドウォール部(2)間に設けられたトレッド部(3)とを備えて構成されており、一対のビード部(1)間にトロイダル状に延在するカーカス層(4)が設けられている。なお、この例では、タイヤは、タイヤ赤道CLに対して左右対称構造をなす。
【0014】
カーカス層(4)は、トレッド部(3)からサイドウォール部(2)を通り、ビード部(1)においてビードコア(5)で内側から外側に折り返すことにより係止されている。カーカス層(4)は、有機繊維からなるカーカスコードをタイヤ周方向に対し実質上直角に配列してなる少なくとも1プライで構成されている。
【0015】
トレッド部(3)におけるカーカス層(4)の外周側(即ち、タイヤ半径方向外側)にはベルト層(7)が配されている。ベルト層(7)は、カーカス層(4)のクラウン部の外周に重ねて設けられており、1枚又は複数枚のベルトで構成することができ、この例では内側の第1ベルト(7A)と外側の第2ベルト(7B)との2枚で構成されている。ベルト層(7)は、スチールコードをタイヤ周方向に対して一定角度で傾斜させかつタイヤ幅方向に所定間隔にて配列させてなるものであり、2枚のベルト(7A)(7B)間で、スチールコードが互いに交差するように配設されている。
【0016】
ベルト層(7)の外周側(即ち、タイヤ半径方向外側)には、ベルト層(7)とトレッドゴム部(8)との間に、ベルト補強層(9)が設けられている。ベルト補強層(9)は、この例ではベルト層(7)をその全幅で覆うキャッププライであり、タイヤ周方向に実質的に平行に配列した有機繊維コードからなる。ベルト補強層(9)は、ベルト層(7)を周方向に締め付け、タイヤ周方向及び径方向の剛性やベルト拘束力を高めるタガ効果を得て、高速走行時の遠心力によるベルト層(7)のせり上がりや径成長、ベルト層(7)端部の歪みを抑制し、高速での耐久性能と操縦安定性を良好にする。
【0017】
以下、該ベルト補強層を構成する有機繊維コードについて詳細に説明する。
【0018】
本実施形態において、ベルト補強層に用いる有機繊維コードは、ガラス転移温度(Tg)が90〜170℃である脂肪族ポリアミド繊維のヤーンからなる。すなわち、該有機繊維コードは、構成繊維として脂肪族ポリアミド繊維を用いてなるコードであり、該脂肪族ポリアミド繊維のガラス転移温度が90〜170℃であるコードである。このようにガラス転移温度の高い脂肪族ポリアミド繊維を用いることにより、有機繊維コードの復元性が改善されるので、耐フラットスポット性を向上することができる。また、ベルト補強層に耐熱性を付与することができるので、高速走行時の操縦安定性や高速耐久性に有利である。脂肪族ポリアミド繊維のガラス転移温度の下限は、より好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは120℃以上である。脂肪族ポリアミドの延伸率を高めると配向が上がり結晶度が向上することでガラス転移温度が高くなる。しかし、配向を上げすぎると硬くなり、紡糸工程などの加工時に毛羽やフィラメント切れの要因となりやすく、ヤーンの生産性が低下する。そのため、ガラス転移温度は170℃以下であることが好ましく、より好ましくは160℃以下である。ここで、ガラス転移温度は、JIS K7121に準じて測定される。
【0019】
本実施形態に係る脂肪族ポリアミドは、脂肪族骨格を含むポリアミドであり、芳香族骨格のみからなるアラミドは含まれない。脂肪族ポリアミドは、脂肪族ジアミン及び/又は脂肪族ジカルボン酸を用いて重合されたものであり、ここでいう脂肪族には鎖式構造のものだけでなく環式構造を持つ脂環族も含まれる概念である。また、脂肪族ジアミン及び/又は脂肪族ジカルボン酸とともに、芳香族ジアミン及び/又は芳香族ジカルボン酸を併用して重合したものであってもよい。
【0020】
好ましい実施形態に係る脂肪族ポリアミドとしては、国際公開第2009/113590号に開示されたポリアミドが挙げられる。すなわち、(a)少なくとも50モル%の脂環族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と、(b)少なくとも50モル%の、主鎖から分岐した置換基を持つジアミンを含むジアミンと、を重合させた、ポリアミドである。
【0021】
上記脂環族ジカルボン酸としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,3−シクロペンタンジカルボン酸などの環式構造の炭素数が3〜10である脂環族ジカルボン酸から選択される少なくとも一種が挙げられ、好ましくは1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。ジカルボン酸は、脂環族ジカルボン酸のみで構成してもよく、また、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、及びヘキサデカン二酸などの鎖式脂肪族ジカルボン酸、並びに、テレフタル酸、イソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から選択される少なくとも一種を併用してもよい。脂環族ジカルボン酸以外のジカルボン酸として、より好ましくは炭素数が10〜18の鎖式脂肪族ジカルボン酸である。
【0022】
上記ジアミンについて、主鎖から分岐した置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、及びイソブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基などが挙げられ、好ましくはメチル基である。主鎖から分岐した置換基を持つジアミンとしては、例えば、2−メチルペンタメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、及び2−メチルオクタメチレンジアミンなどの炭素数3〜20の分岐状飽和脂肪族ジアミンから選択される少なくとも一種が挙げられ、好ましくは2−メチルペンタメチレンジアミンである。ジアミンは、主鎖から分岐した置換基を持つジアミンのみで構成してもよく、また、例えば、直鎖飽和脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、及び芳香族ジアミンから選択される少なくとも一種を併用してもよい。
【0023】
上記ジカルボン酸(a)とジアミン(b)を重合させて脂肪族ポリアミドを製造する方法としては、特に限定されないが、熱溶融重合法を用いることが好ましい。熱溶融重合法は、ジカルボン酸及びジアミンの水溶液又は水の懸濁液、又はジカルボン酸及びジアミン塩と他の成分との混合物の水溶液又は水の懸濁液を、加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法である。重合形態としては、バッチ式でも連続式でもよい。重合装置としては、例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、及びニーダーなどの押出機型反応器などが挙げられる。
【0024】
脂肪族ポリアミド繊維は、上記脂肪族ポリアミド、又は該脂肪族ポリアミドに種々の添加剤を添加した脂肪族ポリアミド組成物を用いて、常法に従い溶融紡糸することで作製することができる。得られた脂肪族ポリアミド繊維からなるヤーンに撚りを付与して生コードを作製し、該生コードに公知の接着処理液を用いたディップ処理を行うことにより、ディップ処理済みコードとしての有機繊維コードが得られる。
【0025】
本実施形態において、ベルト補強層を構成する有機繊維コードは、当該コードの80℃における収縮力F(N/本)と打ち込み本数E(本/25mm)との積P(=F×E)が50.0〜65.0を満足するように配設される。この積Pは、タイヤの実走行時におけるベルト補強層の幅当たりの収縮力の指標となるものである。この積Pが50.0以上であることにより、高速走行時におけるベルト補強層のタガ効果を高めることができるので、高速耐久性を向上することができる。また、この積Pが65.0以下であることにより、タイヤ加硫成型時におけるコードの収縮によるベルト補強層のベルト層へ食い込みを抑制して、高速耐久性を向上することができる。積Pは53.0以上であることが好ましく、より好ましくは55.0以上である。また、積Pは63.0以下であることが好ましく、より好ましくは61.0以下である。
【0026】
有機繊維コードの80℃における収縮力Fは、特に限定されないが、2.00〜3.00N/本であることが、耐フラットスポット性と高速耐久性を両立する上で好ましい。収縮力Fは、2.05〜2.50N/本であることがより好ましい。なお、収縮力Fの値は、例えば、コードを構成する脂肪族ポリアミド繊維の延伸時における処理温度、張力、速度及び時間などの条件を調整すること、脂肪族ポリアミドの分子量や結晶化度を調整すること、紡糸後に適宜延伸や熱セットを行うこと、接着処理液を用いたディップ処理時における処理液配合、処理温度、張力、速度及び時間などの条件を調整すること、コードの繊度や撚り数を調整すること等により行うことができ、上記範囲内に設定することができる。例えば、コードの繊度を大きくすると、収縮力は大きくなる。また、ディップ処理時における張力が大きいと、収縮力が大きくなる傾向がある。ここで、収縮力Fは、ディップ処理済みコードとしての80℃における熱収縮力であり、JIS L1017に準じて測定される、コード1本当たりの収縮力(N)である。
【0027】
有機繊維コードの公称繊度F(表示繊度とも称される。)は、特に限定されないが、900〜5000dtexであることが好ましく、より好ましくは1000〜3000dtexであり、更に好ましくは、1500〜2500dtexである。ここで、有機繊維コードの公称繊度は、複数のヤーンを撚り合わせる場合、全ヤーンの公称繊度の合計である。
【0028】
有機繊維コードの打ち込み本数(エンド数)Eは、上記収縮力Fの値に応じて上記積Pの範囲を満足するように設定することができ、例えば、15〜40本/25mmでもよく、20〜35本/25mmでもよく、22〜33本/25mmでもよい。
【0029】
本実施形態の有機繊維コードのコード構造としては、多数の脂肪族ポリアミドフィラメントを束ねてなるヤーンに一方向の撚りを付与した片撚り構造でもよく、あるいはまた、脂肪族ポリアミドフィラメントのヤーンをZ方向に撚って下撚糸とし、得られた下撚糸を複数本引き揃えて下撚り方向と逆方向であるS方向に撚り合わせた構造でもよく、例えば2本の下撚糸を撚り合わせた双撚り構造でもよい。撚り数(上撚り数)としては、特に限定されず、例えば10〜50回/10cmでもよく、25〜45回/10cmでもよく、30〜42回/10cmでもよい。なお、下撚り数については、通常は上撚り数と同じ値に設定することができる。
【0030】
以上よりなる有機繊維コードを用いて、ベルト補強層をベルト層の外周側に巻き付けた状態にて生タイヤ(グリーンタイヤ)を作製し、得られた生タイヤを加硫成型することで空気入りタイヤが得られる。ベルト層上にベルト補強層を形成する際には、上記有機繊維コードを1本又は複数本引き揃えてゴム被覆したものを、生タイヤのベルト層上に螺旋状に巻き付けるか、又は、有機繊維コードを引き揃えた幅広のゴム引きシートをベルト層上に一周巻きすればよい。好ましくは、前者の螺旋状に巻き付けることである。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
[測定方法・試験方法]
実施例における各測定方法及び試験方法は以下の通りである。
【0033】
・ガラス転移温度:JIS K7121に準じて、PERKIN−ELMER社製Diamond−DSCを用いて測定。測定条件は、試料をホットステージ(Mettler社製EP80)で溶融させて得られた溶融状態のサンプルを、液体窒素を用いて急冷し、固化させて測定サンプルとし、該測定サンプル10mgを用いて昇温スピード20℃/分の条件下、30〜350℃の範囲で昇温して、ガラス転移温度を測定。
【0034】
・80℃収縮力:JIS L1017に準じて、ディップ処理済みの有機繊維コードをつかみ間隔250mmとし、初荷重は公称繊度×0.0441cNとして、80℃の恒温槽へ試料を入れ、5分経過後に生じた力を記録し、初荷重を差し引いた値を収縮力として算出した。
【0035】
・ヤーン生産性:紡糸終了時、目視でヤーンを観測し、形状に問題ないものを○、毛羽、フィラメント切れ発生したものは×と評価。
【0036】
・耐フラットスポット性:内圧200kPaで組み込んだ試作タイヤを排気量2000ccの試験車両(セダン)に装着し、タイヤ1本当たりの荷重を4.31kNとして速度100km/hにて1時間走行させた後、16時間静置させた。その後、テストドライバーによる官能評価を行った。評価は、走りはじめの上下方向及び前後方向の振動の大きさについて行い、比較例1の空気入りタイヤの振動の大きさを5点とした0〜10点の10段階で評価した。点数が大きいほど振動が小さく、従って、耐フラットスポット性に優れることを意味する。
【0037】
・高速耐久性:ECE−R30延長準拠。タイヤ内圧320kPaで、荷重はJATMA規定の最大荷重の80%とした。0〜150km/hで10分走行後、150km/hで10分走行させた。その後、10分毎に10km/hずつ段階的に速度を上昇させ、故こm障が発生するまで走行させた。故障が発生するまでの走行距離を、比較例1のタイヤを100として指数表示した。指数が大きいほど高速耐久性が優れていることを示す。
【0038】
[実施例・比較例]
タイヤサイズが195/65R15であって、
図1に示すようにベルト補強層(9)を備える乗用車用空気入りラジアルタイヤを試作した。ベルト補強層(キャッププライ)を構成する有機繊維コードの構成は、実施例及び比較例の各タイヤについて、下記表1に示す通りであり、ベルト補強層以外の構成は、全ての共通の構成とした。
【0039】
詳細には、ベルト層は、2+1×0.27mmのスチールコードよりなるものを2枚とした(コード打ち込み本数は18本/25.4mm、コード角度は+25°/−25°)。カーカス層は、ポリエステル繊維の1670dtex/2コードを23本/25mmで配列したものの1プライとした。
【0040】
ベルト補強層を構成する有機繊維コードは、いずれも下撚りしたヤーンを2本撚り合わせて得られた双撚り構造とした(詳細には、公称繊度940dtexのポリアミド繊維からなる下撚りしたヤーンを2本撚り合わせて得られた双撚り構造)。表1中、比較例1及び6のNy66はナイロン66である。その他の実施例及び比較例の高Tg−PAは、国際公開第2009/113590号の[0057]〜[0062]に記載された熱溶融重合法により作製した脂肪族ポリアミドを、常法に従い溶融紡糸して作製したものである。なお、いずれのコードも下撚り数は、表1中の撚り数(上撚り数)と同数に設定した。実施例3と比較例4,5は、同材質かつ同繊度のコードを用いた例であり、撚り数等を変更することで80℃収縮力Fを調整するとともに、打ち込み本数Eを変更して、両者の積Pの値を表1に記載の通りに調整した。
【0041】
得られた各タイヤを用いて、耐フラットスポット性と高速耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すように、ガラス転移温度の低いナイロン66繊維を用いた比較例1に対し、実施例1〜5では、ガラス転移温度が90〜170℃の脂肪族ポリアミド繊維を用い、かつ、80℃収縮力と打ち込み本数との積Pが規定範囲内であるため、耐フラットスポット性を向上しつつ、高速耐久性を向上させることができた。これに対し、比較例2では、脂肪族ポリアミド繊維のガラス転移温度が低く、耐フラットスポット性の改善効果が不十分であった。比較例3では、脂肪族ポリアミド繊維のガラス転移温度が高すぎて、ヤーンの生産性に劣っていた。比較例4,5では、ガラス転移温度の高い脂肪族ポリアミド繊維を用いたため、比較例1に対して耐フラットスポット性については改善されていたものの、比較例4では、80℃収縮力と打ち込み本数との積Pが小さいため、高速走行時に、ベルト補強層のタガ効果が不十分であり、高速耐久性が向上しなかった。また、比較例5では、80℃収縮力と打ち込み本数との積Pが大きいため、タイヤ加硫成型時におけるコードの収縮により、ベルト補強層がベルト層に食い込み、高速耐久性が低下した。比較例6は、ガラス転移温度の低いナイロン66繊維を用いたものにおいて、コードの打ち込み本数を多くすることにより、80℃収縮力と打ち込み本数との積Pを規定範囲内にしたものであり、打ち込み本数を多くしたことにより高速耐久性は向上した。しかし、ナイロン66繊維では収縮力が小さいため、上記積Pを大きくしようとすると、打ち込み本数を多くする必要があり、そのため、ナイロン66繊維自体のガラス転移温度が低いことによる耐フラットスポット性の悪化だけでなく、そのコードボリュームが多くなることにより、耐フラットスポット性が更に悪化した。