(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
まず、車速Vで走行中の車両10に作用する外乱により影響を受ける車両10の走行状態を説明する。
【0020】
図1に、本実施形態に係る車両10に作用する外乱及び車両10の走行状態の一例を示す。車両に作用する外乱は、外部から車両に対して物理エネルギが作用する力ベクトルと考えることができる。力ベクトルは、例えば、方向及び力量の各成分により表現することができる。なお、ここでは車両10に作用する外乱の一例として風力Fwを採用した。風力Fwは、例えば、風向及び風速の各成分による物理エネルギで表すことができる。
図2において、矢印xは基準として定めた所定方向を示し、矢印yは基準として定めた所定方向と交差する方向を示す。矢印uは車両10の進行方向Dfに沿う方向を示し、矢印vは進行方向Dfに交差する方向を示す。また、車両10に作用する外乱の一例である風力Fwについて、風向θw、及び風速Vwを示した。また、車両10の走行状態の一例として、操舵角δf、車速V(Vu,Vv)及びヨーレートrを示し、車両10の重心CLに対してスリップ角β、偏揺角βwを示した。
【0021】
図1に示すように、車速Vで走行中の車両10に外乱として風向θw及び風速Vwの風力Fwが作用すると、車速Vに風向θw及び風速Vwの風力Fwが合成されて偏揺角βwにになる。この車両10の走行状態は、ヨーレートrに現れる。そこで、本実施形態では、左右の車輪に駆動力を配分する制御を行い横風等の風力Fwによる外乱により発生するヨーレートrを抑制しつつ、車両10の消費エネルギを抑制する。
【0022】
図2に、本実施形態に係る車両10の駆動機構の構成の一例を示す。
図1に示す車両10は、車輪に作用する駆動力を、左右輪に対して配分の調整が可能な機構の一例としてトルクベクタリング機構を適用したものである。車両10は、車輪としての左右前輪11、12及び左右後輪13、14を備えている。左右前輪11、12は、互いに又は各々独立してサスペンション機構(図示省略)を介して車両10のバネ上としての車体10Aに支持されている。左右前輪11、12は、操舵装置15により左右前輪11、12の向きが変更される。また、左右後輪13、14は、互いに又はそれぞれ独立してサスペンション機構(図示省略)を介して車両10の車体10Aに支持されている。
【0023】
なお、以下の説明を簡単にするために、本実施形態では、左右後輪13,14の2輪に作用する駆動力を、左右輪に配分する場合を説明する。本実施形態の車両10は、2つの左右後輪13、14をメインモータ17及びサブモータ18によって駆動する構成(つまり、後輪駆動の二輪モータ車)を採用する。しかし、開示の技術は、左右後輪13,14の2輪により車輪に作用する駆動力を、左右輪に配分することに限定されない。例えば、左右前輪11、12で駆動力を配分してもよく、また、4輪すべてで駆動力を配分してもよい。なお、
図1において、矢印Dfは車両10の前進方向を示す。
【0024】
左右後輪13、14は、各々メインモータ17及びサブモータ18によるトルク(駆動力)が機構部16を介して伝達される。制御部22は、メインモータ17及びサブモータ18を含む駆動部19に接続され、メインモータ17及びサブモータ18を制御することにより、左右後輪13、14の各々を駆動方向(又は制動方向)に駆動するための駆動力が制御される。制御部22には、車両10の走行状態を検出する検出部21、及び記憶部23が接続されており、これら検出部21、制御部22、及び記憶部23を含んで走行制御装置20を構成している。なお、走行制御装置20は、詳細を後述する演算部24を含んでいる(
図4参照)。
【0025】
メインモータ17は主に前後方向の駆動力を与えるために用いられ、サブモータ18は左右後輪13,14で駆動力差を付けるために用いられる。なお、前後方向の総駆動力はメインモータ17のトルクにより定まる。左右後輪13,14によるトルク(駆動力)を次式に示す。
Fl+Fr=(Tm/G・R)
Fl={(Tm/2−Ts/2)/(G・R)}
Fr={(Tm/2+Ts/2)/(G・R)}
但し、Tm[Nm]はメインモータ17のトルク(駆動力)、Tsはサブモータ18のトルク(駆動力)を表す。Gはデファレンシャルギヤのギア比を表し、R[m]は車輪半径を表し、Fl、Fr[N]は左右輪の駆動力を表す。
【0026】
図3に示すように、左右後輪13,14の2輪に作用する駆動力を、左右輪に配分する場合に発生するヨーモーメントMzは、次の(1)式で表すことができる。
Mz=Fr・dr−Fl・dl ・・・(1)
但し、dl、drは車両重心CLから左右駆動力の発生箇所までの距離を表す。
【0027】
従って、車両10におけるヨーレートrをフィードバックしてヨーモーメントMzを制御することで、横風等の外乱により発生するヨーレートrを抑制できる。本実施形態では、ヨーモーメントrを制御する一例としてヨーレートrをフィードバックする次式に示すPI制御器を用いる。
【数1】
・・・(2)
ここで、Kpを比例ゲインとし、KIを積分ゲインとする。これらのゲインを適切に設定すれば、横風等の外乱により発生するヨーレートrを抑制しつつ、車両10の消費エネルギを抑制することができる。なお、ヨーモーメントrの制御は、PI制御器を用いることに限定されるものではない。
【0028】
図4に、PI制御器を用いたヨーモーメントrの制御を行うことが可能な制御部22を含む走行制御装置20の一例を示す。制御部22には、駆動部19、車両10の走行状態を検出する検出部21、及び記憶部23が接続されており、これら駆動部19、検出部21、制御部22、及び記憶部23を含んで走行制御装置20を構成する。
【0029】
検出部21は、第1検出センサ21A、第2検出センサ21B及び第3検出センサ21Cによって構成されており、第1〜第3検出センサ31〜33を含む各種センサからの出力信号が制御部22に入力される。第1検出センサ21Aは、車両10の運転のために運転者によって操作された操作状態を検出するための検出センサとして構成される。第2検出センサ21Bは、車両10の走行状態として、特に走行時に車両10に発生した運動状態を検出するための検出センサとして構成される。第3検出センサ21Cは、走行時に車両10に作用する外乱を検出するための検出センサとして構成される。
【0030】
第1検出センサ21Aとして、例えば車両操舵用のステアリングホイール(図示省略)に対する運転者の操作量(操舵角δf)を検出する操舵角センサが挙げられる。また、第1検出センサ21Aのその他の例として、アクセルペダル(図示省略)に対する運転者による操作量(踏み込み量や、角度、圧力など)を検出するアクセルセンサ、エンジン(図示省略)に設けられてアクセルペダルの操作に応じて作動するスロットルの開度を検出するスロットルセンサ、ブレーキペダル(図示省略)に対する運転者による操作量(踏み込み量や、角度、圧力など)を検出するブレーキセンサ、パーキングブレーキ(図示省略)のオンオフ状態を検出するパーキングブレーキセンサ、イグニッション(図示省略)のオンオフ状態を検出するイグニッションセンサ、蓄電装置(図示省略)の充電状態を検出する蓄電センサなどが挙げられる。
【0031】
第2検出センサ21Bとして、例えば、車両10の車速Vを検出する車速センサ、車両10に発生したヨーレートrを検出するヨーレートセンサ、ヨー加速度を検出するヨー加速度センサ、メインモータ17及びサブモータ18に流れる電流を検出する電流センサ、メインモータ17及びサブモータ18の回転速度を検出するモータ回転速度センサなどが挙げられる。また、第2検出センサ21Bのその他の例として、車体10A(バネ上)の上下方向における上下加速度を検出するバネ上上下加速度センサ、車体10Aに発生した左右方向の加速度を検出する左右加速度センサ(「横Gセンサ」ともいう)、車両10に発生したピッチレートを検出するピッチレートセンサ、車両10に発生したロールレートを検出するロールレートセンサなどが挙げられる。
【0032】
第3検出センサ21Cとして、例えば車両10に対する風力Fwを検出する風力センサが挙げられる。検出する風力Fwについて、その成分を検出するセンサとして、風速Vwを検出する風速センサ、及び風向きを検出する風向きセンサが挙げられる。また、第3検出センサ21Cの他例として、例えばサスペンション機構(図示省略)のストローク量を検出するストロークセンサや、車両10のバネ下の上下方向における上下加速度を検出するバネ下上下加速度センサなどが挙げられる。
【0033】
制御部22は、第1〜第3検出センサ21A〜21Cを含む各種センサからの出力信号に基づいて、メインモータ17及びサブモータ18を制御するための制御信号を出力する機能を有する。また、制御部22は、記憶部23を参照してサブモータ18による左右後輪13,14への駆動力の配分を適切に制御することにより、車両10を走行させつつヨー運動を制御する。これにより制御部22は、車両10の走行状態および車体10Aの挙動を把握して制御することができる。
【0034】
図4に示すように、制御部22は、取得部22A、決定部22B、および出力部22Cを備えている。
【0035】
取得部22Aには、第1検出センサ21A、第2検出センサ21B及び第3検出センサ21Cのそれぞれから信号が入力される。そして、取得部22Aは、第1検出センサ21Aからの入力信号に基づいて、例えば、運転者によるステアリングホイールの操舵角δfなどを取得する。また、取得部22Aは、第2検出センサ21Bからの入力信号に基づいて、例えば、車両10の車速V及びヨーレートrなどを取得する。さらに、取得部22Aは、第3検出センサ21Cからの入力信号に基づいて、例えば、車両10に対する風力Fwの影響の大きさ(風向θw及び風速Vw)などを取得する。このように、取得部22Aは、取得した各種検出値を決定部22Bに出力する。
【0036】
決定部22Bは、取得部22Aからの前記各種検出値を用いて、記憶部23を参照して車両10に作用する風力Fw(風向θwと風速Vw)及び車速Vに対して、駆動部19の消費エネルギが小さくなる左右後輪13,14の駆動力の配分を決定する(詳細は後述)。そして、決定部22Bは、決定したトルクを表す指令値(モータ指令トルク)を出力部22Cに出力する。
【0037】
出力部45は、決定部22Bによって決定されたトルクに対応する駆動信号を駆動部19に出力する。これにより、駆動部19は、メインモータ17、そしてサブモータ18に対して供給する駆動電力(駆動電流)を制御して各々を駆動させる。これにより、左右後輪13,14に駆動トルクが発生する。また、サブモータ18の駆動により、左右後輪13,14への駆動力が適切に配分されてヨーモーメントが発生される。
【0038】
ところで、記憶部23には、車両10に作用する風力Fw及び車速Vに対して、駆動部19の消費エネルギが小さくなる左右後輪13,14の駆動力の配分を決定するために用いる情報が予め記憶される。つまり、制御部22は、時々刻々と変化する各時刻で得られる走行状態(車速V、及び風力Fw)の情報に応じて、最適な制御ゲインに変更してモータ指令トルクを決定し、車両にヨーモーメントを発生させる。つまり、制御部22の制御ゲインは次式に示すように車速Vと風力Fw(風向θwと風速Vw)の関数となる。
【0039】
K(Vu,Vv,Vw,θw) ・・・(3)
【0040】
そこで、車速Vと風力Fwとの関数を予め求めておき、求めた関数を記憶部23に記憶する。または求めた関数をテーブル化して記憶部23に記憶する。車速Vと風力Fwの関数を記憶部23に記憶する処理は、演算部24で行われる。演算部は、要因選択部24A、要因グラフ作成部24B、ルート導出部24C、及び制御ゲイン導出部24Dを含んでいる。
【0041】
要因選択部24Aは、車両運動性能、及び消費エネルギ各々の評価指標となる物理量を選択する。
【0042】
要因グラフ作成部24Bは、車両運動性能に関わる物理量と、消費エネルギに関わる物理量と、車両運動性能に関わる物理量及びエネルギに関わる物理量に依存関係を有する物理量と、を用いて、各物理量を節(ノード)として初期要因グラフを作成する。なお、要因グラフは物理的連成関係を図示表現したものである(詳細は後述する。
図7及び
図8参照)。
【0043】
ルート導出部24Cは、初期要因グラフにおいて消費エネルギに関わる物理量を示す節に直接依存関係を有する各節の中で感度が最大となる節を求め、求めた節に直接依存関係を有する各節の中で感度が最大となる節をさらに求める。感度が最大となる節が車両運動性能に関わる物理量に到達するまで行い、車両運動性能に関わる物理量を示す節と消費エネルギに関わる物理量を示す節を最大感度で結ぶルートを求める。
【0044】
制御ゲイン導出部24Dは、ルートを辿って消費エネルギが最大となる走行状態(車速V、及び風力Fw(風向θw及び風速Vw))および制御ゲインを求め、求めた走行状態(車速V、及び風力Fw(風向θw及び風速Vw))および制御ゲインの関係を記憶部23に記憶する。
【0045】
演算部24における制御は、制御部22の制御ゲインと、車速V及び風力Fwとの対応を求める制御であり、要因選択部24A、要因グラフ作成部24B、ルート導出部24C、及び制御ゲイン導出部24Dの各々は、コンピュータで実行するアルゴリズムにより実現可能である。また、制御部22における制御もコンピュータで実行するアルゴリズムにより実現可能である。
【0046】
図5に、走行制御装置20を実現可能なコンピュータの一例をコンピュータ40として示す。コンピュータ40はCPU42、メモリ(RAM)44、不揮発性の記憶部(ROM)46、および入出力ポート(I/O)56を備え、これらはバス58を介して互いに接続されている。また、I/O56は、第1検出センサ21Aから第3検出センサ21Cの一例である車速センサ60,風速センサ61,ヨーレートセンサ62,ヨー加速度センサ63,操舵角センサ64,電流センサ65,モータ回転速度センサ66,メインモータ17,及びサブモータ18に接続されている。なお、風速センサ61は、風向θwを検出することができる。
【0047】
記憶部46はHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等によって実現できる。記録媒体としての記憶部46には、コンピュータ40を走行制御装置20として機能させるための制御プログラム48、及びマップ54が記憶されている。制御プログラム48は、探索プロセス50、及び配分プロセス52を含んでいる。CPU40は、制御プログラム48を記憶部46から読み出してメモリ44に展開し、探索プロセス50、または配分プロセス52の処理を実行する。これにより、制御プログラム48を実行したコンピュータ40は
図4に示す走行制御装置20として動作する。
【0048】
つまり、制御部22がコンピュータ40で実現され、CPU42が、制御プログラム48に含まれる配分プロセス52を実行することで、コンピュータ40は
図4に示す制御部22として動作される。また、CPU42が、制御プログラム48に含まれる探索プロセス50を実行することで、コンピュータ40は
図4に示す演算部24として動作される。
【0049】
次に、コンピュータ40における処理と共に走行制御装置20の動作をさらに説明する。
【0050】
図6に、CPU40により制御プログラム48に含まれる探索プロセス50が実行されて演算部24として機能するコンピュータ40の最大感度探索処理の流れの一例を示す。
【0051】
なお、最大感度探索処理では、走行状態(車速V、及び風力Fw(風向θw及び風速Vw))および制御ゲインの関係は、駆動モータの消費エネルギE、車両のダイナミクスや空力特性が連成された所謂フルビークルモデルによる数値シミュレーションを実施する、または実験を実施して行う。ここで、感度や各設計パラメータを求める際は、数値シミュレーションを行うか実験を行うこととする。
【0052】
また、本実施形態では、次式に示す風力Fw(風向θw及び風速Vw)による横力モデルMswと、風力FwによるヨーモーメントモデルMwとを用いて車両のダイナミクスや空力特性をシミュレーション可能とする。
Msw=Msw(Vu,Vv,Vw,β,βw,dβw,θw,δf,r)
Mw = Mw(Vu,Vv,Vw,β,βw,dβw,θw,δf,r)
【0053】
また、ここでは、設計パラメータを、走行状態(車速V、風力Fw(風向θw及び風速Vw))と、制御ゲインとする。また、評価指標を、車両運動性能、及び消費エネルギEとする。
【0054】
まず、CPU40は、ステップ100で、車両運動性能、及び消費エネルギ各々の評価指標となる物理量を選択する。このステップ100は、要因選択部24Aの機能に対応する。次のステップ102では、車両運動性能に関わる物理量と、消費エネルギに関わる物理量と、車両運動性能に関わる物理量及び消費エネルギに関わる物理量に依存関係を有する物理量と、を用いて、各物理量を節(ノード)として初期の要因グラフを作成する。このステップ102の処理は、要因グラフ作成部24Bの機能に対応する。
【0055】
図7に、初期の要因グラフの一例を示す。
図7に示す例では、の一例を示す。
図7では、△は差分を表し、Pmはメインモータ17の消費エネルギ[J]を表し、Psはサブモータ18の消費エネルギ[J]を表す。Cdは抗力係数を表し、Cyはヨーモーメント係数を表し、Csは横力係数を表す。
【0056】
車両運動性能の評価指標となる物理量として選択された車両運動性能に関わる物理量を、車速V(Vu、Vv)、及びヨーレートrの差分を示す節とするノードとした。これら選択された車両運動性能に関わる物理量を示すノード群を、車両運動サブグラフとした。また、消費エネルギの評価指標となる物理量に関わる物理量を、メインモータ17の消費エネルギPmの差分、及びサブモータ18の消費エネルギPsの差分を示すノードとした。これら消費エネルギに関わる物理量を示すノード群を、消費エネルギサブグラフとした。車両運動性能に関わる物理量及びエネルギに関わる物理量に依存関係を有する物理量を、スリップ角β、操舵角δf、偏揺角βw、偏揺角速度dβwの差分を示すノードとした。また、抗力係数Cd、ヨーモーメント係数Cy、横力係数Csの差分を示すノードとした。これら車両運動性能及び消費エネルギに関わる物理量に依存関係を有する物理量を示すノード群を、空力特性サブグラフとした。なお、各節としたノード間で依存性を有することを示すために、依存性を有する節(ノード)間をつないだ線分を辺とした。
【0057】
次に、
図6のステップ104では、初期の要因グラフにおいて消費エネルギに関わる物理量を示す節に直接依存関係を有する各節の中で感度が最大となる節(ノード)を導出し、求めた節に直接依存関係を有する各節の中で感度が最大となる節をさらに導出する。次のステップ106では、感度が最大となる節が車両運動性能に関わる物理量に到達するまでステップ104の処理を実行し、車両運動性能に関わる物理量を示す節と消費エネルギに関わる物理量を示す節を最大感度で結ぶルートを導出する。ステップ104及びステップ106の処理は、ルート導出部24Cの機能に対応する。
【0058】
次のステップ108では、ステップ106で導出したルートに基づいて走行状態(車速V、風力Fw)及び制御ゲインを導出する。つまり、ルートを辿って消費エネルギが最大となる走行状態(車速V、及び風力Fw(風向θw及び風速Vw))および制御ゲインを求める。
【0059】
次のステップ110では、ステップ108で求めた走行状態(車速V、風力Fw)および制御ゲインの近傍で微小の値だけ変動させて数値計算を行い、次のステップ112で性能判定を行う。つまり、走行状態(車速V、風力Fw)および制御ゲインに対して、微小の値だけ変動させた場合に、数値計算結果を解析して予め定めた閾値以上の消費エネルギが低減されている場合は、ステップ112で肯定判断し、本処理ルーチンを終了する。一方、ステップ112で否定判断した場合は、ステップ114で、要因グラフ上で、予め定めた閾値以下の感度の辺および節を取り除く要因グラフの修正を実施した後にステップ104へ処理を戻す。なお、ステップ104からステップ110の処理を予め定めた試行回数を超え、かつステップ112で否定判断した場合は、これまでの処理で未考慮の物理現象をもとに要因グラフに新規の辺および節を追加した後にステップ104へ処理を戻す。ステップ108からステップ114の処理は、制御ゲイン導出部24Dの機能に対応する。
【0060】
図6に示す処理ルーチンが終了した後には、
図7に示す初期の要因グラフから修正した最適グラフを導出し、制御効果が現れやすい走行状態(車速V、風力Fw)および最適制御ゲインを求める。ここで、Kvは前方方向車速を維持する制御のための制御ゲインを表し、Krはヨーレートrを抑制する制御のための制御ゲインを表す。
【0061】
図9に、
図7における各モータの消費エネルギの差分を示すノードと直接結合した物理量差分を示すノードの感度を示す。第1列目に各モータの消費エネルギ差分を、第2列目に物理量差分を、第3列目〜第9列目に一例としての数値計算条件を記載した。消費エネルギ差分の上位2つはメインモータ17に関する指標となっており、それ以外はサブモータ18の指標となっている。消費エネルギEの大きさは、E2>E1>>E3>E5>E4となっており、消費エネルギE1と消費エネルギE3とは10倍以上の開きがある。従って、サブモータ18の消費エネルギ差分は様々な物理量から影響を受けるもののメインモータ17の1/10以下であり、感度が低いことが確認できる。特に、車両幅方向の車速Vvの差分△Vv,横力係数の差分△Csは影響が非常に小さいため、該当するノードは削除しても影響が少ないと考えられる。
【0062】
図8には、影響が少ないと思われたノード及び辺を削除した修正が施された修正後の要因グラフを示す。このように、空力特性変化の影響は車速変化の影響に比べて小さいことから、車速Vを維持することに最もエネルギを消費しやすいことがか確認できる。つまり、
図8に太線矢印で示したように、ヨーレートrの差分△rから車両走行方向の車速Vuの差分△Vuへ、そしてメインモータ17の消費エネルギの差分△Pmへ至るルートが最大感度ルートとなり、このルートで消費エネルギ差分を最大化する走行状態(車速V、風力Fw)および制御ゲインを導出する。
【0063】
ところで、ヨーレートrの差分△rが、車両走行方向の車速Vuの差分△Vuに与える影響を大きくするためには、風力Fwにより車両に発生するヨーモーメントMzを大きくする必要がある。ヨーモーメントMzを大きくすることは、車速Vおよび風力Fw(風向θw及び風速Vw)を限りなく大きく設定することになる。例えば、100km/hで走行する車両10に10m/s(で例えば車両に対して直角横方向)の横風が当たる走行状態(Vu=100[km/h],Vw=10[m/s])を初期値として、消費エネルギ差分を最大化する走行状態(車速V、風力Fw)および制御ゲインを探索する場合を考える。
【0064】
図10に、ケース1からケース3の3種類の走行状態について探索した探索位置及び方向を示す。
【0065】
図10に示す点DTは初期値を表しており、領域AR0は初期値よりも消費エネルギの低減が期待できない領域で、領域AR1は初期値よりも消費エネルギの低減を期待できる領域である。このため、領域AR1内を探索すればよく、ケース1からケース3の3種類の方向性が考えられる。
図11に、各々の走行状態で消費エネルギの低減の可能性を簡単に得るために、ヨーレートを抑制する制御のための制御ゲインKrだけを微小値だけ大小に変動させた場合に低減された消費エネルギ量を示す。
図11に示すように、ケース2において顕著に消費エネルギが低減されており、ケース1が次に消費エネルギが低減されている。このことから、車速Vおよび風力Fw(風向θw及び風速Vw)は大きければ大きいほど良好で、風力Fwは車速Vよりも単位速度増加に対する感度が高いことを確認できる。
【0066】
従って、走行状態(車速V、風力Fw)および制御ゲインを探索する場合、消費エネルギの低減が期待できない領域AR0と、消費エネルギの低減を期待できる領域AR1と定めてから探索する領域を絞っていくことで、最大感度ポイントへ到達するまでの処理時間を短縮することができる。また、探索過程においてある探索ポイントにおける消費エネルギ低減レベルが予め定めた基準値を満たさなければ、領域AR0における消費エネルギ低減効果は極めて小さいと予想されるため、消費エネルギ低減レベルが予め定めた基準値を満たさない領域では、制御ゲインKrに関する最適化は不要であり、消費エネルギ低減レベルが予め定めた基準値以上である領域AR1の範囲内で制御ゲインKrに関する最適化を行えば良いため、各走行状態(車速V、風力Fw)に応じた制御ゲイン調整の効率が向上する。なお、空力特性に関する感度が高い場合は、空力特性を考慮した車両10の走行状態(車速V、風力Fw)を考慮しながら制御ゲインを決定すればよい。
【0067】
次に、上記最大感度探索処理が終了して、車両10の走行状態(車速V、風力Fw)及び制御ゲインが記憶部23に記憶された場合の制御部22の動作をさらに説明する。
【0068】
図12に、CPU40により制御プログラム48に含まれる配分プロセス52が実行されて制御部22として機能するコンピュータ40の配分処理の流れの一例を示す。
【0069】
まず、CPU40は、ステップ120で、第1検出センサ21A、第2検出センサ21B及び第3検出センサ21Cの各々から入力された入力信号に基づいて、センサ値などの情報を取得する。ステップ120の処理は、取得部22Aの機能に対応する。
【0070】
次に、CPU40は、ステップ122で、取得した各種検出値を用いて、記憶部23を参照して車両10に作用する風力Fw(風向θw及び風速Vw)及び車速Vに対して、制御ゲインを変更して、駆動部19の消費エネルギが小さくなる左右後輪13,14の駆動力の配分を決定する。次のステップ124では、決定したトルクを表す指令値(モータ指令トルク)を出力する。ステップ122の処理は、決定部22Bの機能に対応し、ステップ124の処理は、出力部22Cの機能に対応する。
【0071】
以上説明したように、本実施の形態によれば、左右の車輪に駆動力を配分する制御を行い風力等の外乱により発生するヨーレートrを抑制しつつ、車両10の消費エネルギを抑制することができる。
【0072】
なお、本実施形態では、風力Fwをセンサにより直接計測する場合を説明したが、センサにより物理量を直接計測することに限定されない。つまり、風力Fw(その成分である風向θw及び風速Vw)は、センサにより検出することなく、車速V、ヨー加速度および操舵角δfから推定することができる。車両ヨー慣性モーメントIz、風力Fwにより車両に発生するヨーモーメントMzw、トルクベクタリング機構により車両10に発生するヨーモーメントMzm、操舵により車両10に発生するヨーモーメントMzsとヨー加速度drの関係について次の(4)式に示す。
Iz・dr=Mzw(Vu,Vv,Vw,θw,r)+Mzm+Mzs(Vu,Vv,r,δf)
・・・(4)
【0073】
(4)式を用いて、次の(5)式の右辺の情報を取得可能であり、ヨーモーメントMzwを求めることができ、ヨーモーメント係数は既知であり、車速Vおよびヨーレートrは取得可能なため風力Fwを逆算することができる。
Mzw(Vu,Vv,Vw,θw,r)=Iz・dr−Mzm−Mzs(Vu,Vv,r,δf)
・・・(5)
これによって、制御部22の制御ゲインは次の(6)式のような関数表現できる。
K(Vu,Vv,r,dr,δf) ・・・(6)
【0074】
なお、上記では、外乱の一例である風力Fwとして風向θw及び風速Vwの各成分を用いた場合を説明したが、両方の成分を用いることに限定されない。例えば、風向θwを予め定めた風向θw0に設定し、時々刻々と変化する風速Vwのみを用いて近似的に風力Fwを表してもよい。また、風向θw及び風速Vwの各成分を予め定めた数の段階的な物理量に分類し、風向θw及び風速Vwの少なくとも一方の物理量を、分類された一定範囲内で共通にしてもよい。また、風向θwは、2次元に限定されるものではなく、3次元であってもよい。また、風力Fwは、風向θw及び風速Vwに限定されるものではなく、例えば断続的に風力Fwが変化する場合や風向θw及び風速Vwの少なくとも一方が継時的に変化する場合等の時間成分を含めてもよい。
【0076】
次に、第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態は、第1実施形態と同様の構成のため、同一構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0077】
図13に、本実施形態に係る車両10の駆動機構の構成の一例を示す。
図13に示す車両10は、車輪に作用する駆動力を、左右輪に対して配分の調整が可能な機構のその他の一例として、インホイールモータ機構を適用したものある。本実施形態は、メインモータ17及びサブモータ18は当該モータが対応する左右後輪13、14の内部にモータ30,32が取り付けられる。
【0078】
インホイールモータ機構は、各車輪に直接モータが取り付けられているため、左右独立に駆動力を発生可能であり、前後方向の総駆動力は各モータトルクの和で決定される。
図13では左右後輪13、14にインホイールモータ機構を取り付けているが、左右前輪11、12でも、4輪すべてでも良い。
【0079】
本実施形態に係る左右後輪13,14によるトルク(駆動力)を次式に示す。
Fl=(Tl/R)
Fr=(Tr/R)
但し、Tl[Nm]はモータ30のトルク(駆動力)、Trはモータ32のトルク(駆動力)を表す。
【0080】
本実施形態は、トルクベクタリング機構と相違するインホイールモータ機構であるが、(1)式で表されるヨーモーメントMzを制御する点に相違はない。しかし、インホイールモータ機構は左右独立駆動であるため、次の式に示すモータトルクに関する座標変換を行う。
【数2】
・・・(7)
【0081】
つまり、トルクベクタリング機構の場合と同様に制御則に基づいて、Tm,Tsを計算し、(7)式を用いてTl,Trに変換すればよい。
また、トルクベクタリング機構の場合、要因グラフにおける消費エネルギサブグラフはPm,Psから構成されているが、インホイールモータの場合は左右輪のインホイールモータの消費エネルギーを表すPl,Pr に置き換わることになる。空力特性サブグラフおよび車両運動サブグラフは特に変更する必要はない。
【0082】
上記では、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態をとることが可能である。
【0083】
なお、上記実施形態では、車輪に作用する駆動力を、左右輪に対して配分の調整が可能な機構の一例として、トルクベクタリング機構及びインホイールモータ機構を説明したが、トルクベクタリング機構及びインホイールモータ機構に限定されるものではなく、左右輪に対して配分の調整が可能な機構を備えていればよい。
【0084】
また、上記実施の形態では、記憶部に記憶したプログラムを実行することにより行われる処理を説明したが、プログラムの処理をハードウエアで実現してもよい。
【0085】
さらに、上記各実施形態における処理は、プログラムとして光ディスク等の記憶媒体等に記憶して流通するようにしてもよい。