(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「アルキルリチウム」という用語は、リチウムおよびメチル、エチル
、プロピル、ブチルまたはヘキシル等のアルキル基を含む化合物を意味する。たとえば、
アルキルリチウムはn−ブチルリチウム、t−ブチルリチウムまたはsec−ブチルリチ
ウム等のブチルリチウムであってもよい。
【0013】
4−クロロ−2−フルオロ−3−メトキシフェニルボロン酸(PBA)およびその誘導
体等のボロン酸を生成させるための方法の実施形態が開示される。そのような方法によっ
て、任意の所与の時間における反応性中間体の量を最小にし、従来法に比べてサイクルタ
イムを低減するボロン酸の連続生成が提供される。ボロン酸としては、たとえば4−クロ
ロ−2−フルオロ−3−メトキシフェニルボロン酸が挙げられる。1−クロロ−2−置換
−3−フルオロベンゼン出発物質が第1の反応器中でアルキルリチウムと混合されて反応
混合物を生成する。反応混合物中で1−クロロ−2−置換−3−フルオロベンゼンはアル
キルリチウムと反応してリチウム化中間体を生成する。リチウム化中間体はフッ化リチウ
ムの脱離による分解を受けやすい反応性化学種であり、高反応性の置換ベンザインの望ま
しくない生成をもたらす。たとえば、リチウム化中間体は約−50℃を超える温度で分解
し、約−28℃を超える温度で急速に分解することがある。反応混合物は連続的に第2の
反応器に移送され、次いでホウ酸エステルが第2の反応器に連続的に導入される。第2の
反応器においては、リチウム化中間体の分解が起こる前に、リチウム化中間体が連続的に
ホウ酸エステルと反応してボロン酸エステルが生成される。ボロン酸エステルは水性水酸
化カリウム(KOH)による処理およびそれに続く酸性化によってボロン酸に転化される
。これについてはさらに詳しく記述する。
【0014】
いくつかの実施形態においては、2−クロロ−6−フルオロアニソール(2,6−CF
A)出発物質は溶液中でn−ブチルリチウムと反応して、6−クロロ−2−フルオロ−3
−リチオアニソール(Li−2,6−CFA)を含む反応混合物を生成する。ホウ酸トリ
メチルが連続的に反応混合物に導入され、これがLi−2,6−CFAと反応して4−ク
ロロ−2−フルオロ−3−メトキシフェニルボロン酸エステル(PBA−diMe)を生
成する。次いでPBA−diMeは4−クロロ−2−フルオロ−3−メトキシフェニルボ
ロン酸(PBA)に転化される。
【0015】
少量のリチウム化中間体が連続的に生成され、ホウ酸エステルと反応してボロン酸生成
物を生成する連続プロセスを用いることによって、高活性の反応性リチウム化中間体の蓄
積が低減され、それによってより安全なプロセスが提供される。低減された量の反応物が
所与の時間において−60℃以下の温度に冷却される連続プロセスを用いることによって
、エネルギー効率も改善され、装置の大きさ、装置のコスト、および全体のサイクルタイ
ムが低減される。連続プロセスにおいて滞留時間を短くすることができる可能性により、
顕著な分解なしに、−60℃より高いが−30℃より低い温度などの、より高い温度で操
作することが可能であろう。高温での操作によってエネルギー効率がさらに改善され、装
置の大きさ、装置のコスト、および全体のサイクルタイムが低減される。
【0016】
以下の反応スキームに示すように、PBAの生成の間には、安全性の余裕を提供し、望
ましくない副反応を防止するために、リチウム化中間体(Li−2,6−CFA)は−4
0℃以下、特定の実施形態においては−60℃以下の温度に保たれる。たとえば、リチウ
ム化中間体が−60℃を超える温度に曝されると、リチウム化中間体からのフッ化リチウ
ムの脱離により、高反応性の置換ベンザインの生成が起こる可能性がある。約−28℃を
超える温度では、この分解はもっと速くなる。
【0018】
プロセスの全収率を低下させることに加えて、反応性の置換ベンザインが生成すると安
全性の問題が生じることがある。
【0019】
図1に、ボロン酸を生成させる方法において用いられるシステム100を示す。システ
ム100には、移送チューブ106によって流体連通された2つの反応器(即ち第1の反
応器102および第2の反応器104)が含まれる。第1の反応器102は約200ml
から約5mlの間、特には約25mlの内容積を有する容器または槽である。移送チュー
ブ106は約10mlから約0.5mlの間、特には約3mlの内容積を有する中空チュ
ーブである。第2の反応器104は約300mlから約5mlの間、特には約30mlの
内容積を有する容器または槽である。
【0020】
第1の反応器102および第2の反応器104には、各々反応物の添加および生成物の
取り出しのためのポートが含まれる。第1の反応器102および第2の反応器104の各
々には、たとえば共通のヘッダーリーディングを経由して窒素バブラーに流体連通する窒
素チューブが取り付けられている。窒素バブラーへの窒素の流れは、システム100に僅
かな窒素圧を提供するように調節される。反応器102および104の撹拌は、システム
100装置全体をマルチゾーン撹拌プレート128の上に載置し、小さな撹拌棒によって
行うか、または反応器の頭部のポートを通して取り付けた機械駆動の撹拌シャフトによっ
て行う。
【0021】
撹拌は第1の反応器102および第2の反応器104において開始される。システム1
00は、ドライアイスと溶媒(たとえばアセトン、2−プロパノールまたはヘキサン)の
混合物を含む浴108にシステム100を載置することによって、約−50°以下、また
は代替の実施形態においては約−60℃以下に冷却される。大型の槽は覆いをつけて、低
温冷却ユニットを用いて冷却することができる。浴は約−70℃以下等、この温度を維持
するのに充分な温度に維持される。管型反応器デザイン等の異なった実施の場合には、滞
留時間が短いことによってやや高い操作温度が可能であることが認められた。
【0022】
1−クロロ−2−置換−3−フルオロベンゼンの溶液は、1−クロロ−2−置換−3−
フルオロベンゼンを溶媒に溶解することによって調製される。例としてであって限定する
ものではないが、1−クロロ−2−置換−3−フルオロベンゼンとしては2,6−CFA
が挙げられる。好適な溶媒の例としては、これだけに限らないが、無水1,2−ジメトキ
シエタン(DME)、ジエチルエーテル、およびテトラヒドロフラン(THF)が挙げら
れる。1−クロロ−2−置換−3−フルオロベンゼン溶液は、第1の反応器102に流体
連通した第1のポンプ110に装入される。
【0023】
アルキルリチウムはヘキサン等の有機溶媒に分散して、第1の反応器に流体連通した第
2のポンプ112に装入される。たとえば、アルキルリチウムとしてはブチルリチウム(
たとえばn−ブチルリチウム)、メチルリチウム、またはプロピルリチウムが挙げられる
。
【0024】
ホウ酸エステルは第2の反応器104に流体連通した第3のポンプ114に装入される
。たとえば、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリメチルまたはホウ酸トリイソプロピルが
挙げられる。1−クロロ−2−置換−3−フルオロベンゼン溶液は第1のポンプ110を
用いて第1の反応器102に導入され、アルキルリチウムは第2のポンプ112を用いて
第1の反応器に導入される。第1の反応器102への1−クロロ−2−置換−3−フルオ
ロベンゼン溶液およびアルキルリチウムの流量は、たとえばモル当量に基づいて決定され
る。たとえば、第1のポンプ110からの1−クロロ−2−置換−3−フルオロベンゼン
溶液の流量は約2ml/分から約0.2ml/分の間であり、特には約0.7ml/分で
あってよい。第2のポンプ112からのアルキルリチウムの流量は約0.7ml/分から
約0.05ml/分の間であり、特には約0.3ml/分であってよい。他の特定の実施
形態においては、より高い流量を用いてもよい。
【0025】
第1の供給ライン118を用いて、1−クロロ−2−置換−3−フルオロベンゼンの溶
液を第1のポンプ110から反応器のヘッドポート116Aを通して第1の反応器112
に、その中に含まれる液体の表面の下から供給する。第2の供給ライン120を用いて、
アルキルリチウムを第2のポンプ112から反応器のヘッドポート116Aを通して第1
の反応器102に供給する。第2の供給ライン120は第1の反応器102に含まれる液
体の表面上で終止してもよく、流れを液体表面の下に供給してもよい。
【0026】
1−クロロ−2−置換−3−フルオロベンゼンの溶液とアルキルリチウムが第1の反応
器102に供給される際に、浴108は約10分〜約1時間の間、約−60℃の温度に保
たれ、同時に第1の反応器102の中で反応混合物が生成する。反応混合物は1−クロロ
−2−置換−3−フルオロベンゼン、アルキルリチウム、および1−クロロ−2−置換−
3−フルオロベンゼンとアルキルリチウムとの反応によって生成したリチウム化中間体を
含む。1−クロロ−2−置換−3−フルオロベンゼンが2,6−CFAであり、アルキル
リチウムがn−ブチルリチウムである実施形態においては、リチウム化中間体はLi−2
,6−CFAである。
【0027】
第1の反応器102が反応混合物で満たされるにつれて、反応混合物は第1の反応器1
02から移送チューブ106を通って第2の反応器104へ流れ始める。反応混合物が移
送チューブ106を通って第2の反応器104へ流れるのにつれて、第3のポンプ114
を用いてホウ酸エステルを第2の反応器104の中の反応混合物に導入する。たとえば、
第3のポンプ114からのホウ酸エステルの流量は約1ml/分から約0.01ml/分
の間であり、特には約0.08ml/分であってよい。第3の供給ライン122を用いて
、ホウ酸エステルを第3のポンプ114から第2の反応器104の反応器ヘッドポート1
16Bを通して供給する。ホウ酸エステルを第3の供給ライン122から第2の反応器1
04の中に含まれる液体の表面に滴下してもよい。ホウ酸エステルが第2の反応器104
の中に導入されるにつれて、ボロン酸エステルを含む中間体溶液が生成する。1−クロロ
−2−置換−3−フルオロベンゼンが2,6−CFAであり、アルキルリチウムがn−ブ
チルリチウムであり、ホウ酸エステルがホウ酸メチルである実施形態においては、ボロン
酸エステルはPBA−diMeである。
【0028】
第2の反応器104が中間体溶液で満たされるにつれて、中間体溶液は出口チューブ1
26を通ってフラスコ124に移送される。たとえば、中間体溶液は、第2の反応器10
4の中の液量が約30mlに保たれるように、第2の反応器104から取り出される。中
間体溶液は室温でフラスコ124の中に蓄積される。たとえば、中間体溶液は反応が継続
するにつれて20分〜30分ごとにフラスコから取り出される。
【0029】
中間体溶液中のボロン酸エステルは、水性水酸化カリウム(KOH)による処理および
それに続く酸性化によってボロン酸に転化される。ボロン酸エステルがPBA−diMe
である実施形態においては、PBA−diMeは水性水酸化カリウムによる処理およびそ
れに続く酸性化によってPBAに転化される。
【0030】
以下の実施例により、本開示の実施形態をより詳細に説明する。これらの実施例は、本
発明の範囲に関して網羅的または排他的と解釈すべきではない。
【実施例1】
【0031】
PBAの生成のためのプロセスケミストリーの決定
Li−2,6−CFAの新たに調製した溶液を示差走査熱量計(DSC)によって検討
した。試料調製の間、各々の反応物を−78℃以下の温度に保った。次いで試料をDSC
中でゆっくりと加熱し、プロセス中に放出される熱をモニタリングした。
【0032】
図2に示すように、新たに調製したLi−2,6−CFA溶液の窒素中におけるDSC
スキャンを行った。DSCにおいて約−48℃で分解(副)反応が最初に検出された。窒
素中で、ゆっくりとした反応初期相が約−26℃に達するまで観察され、次いで反応が急
速に進行した。ピーク反応温度は約−9℃であり、反応は約1℃で完了する。全反応発熱
量は137J/g溶液、または1370J/g反応物(226kJ/モルLi−2,6−
CFA)である。
【0033】
反応混合物が分解する場合には、所望の生成物の損失および無色透明から黄色、さらに
暗褐色−黒色への反応混合物の着色の増加がある。フッ化リチウムの脱離による分解経路
の裏付けは、GC−MS分析による4,3’−ジクロロ−2−フルオロ−3,2’−ジメ
トキシビフェニルの観察によって得られる。
【0034】
図3に示すように、新たに調製したLi−2,6−CFA溶液の周囲空気中におけるD
SCスキャンも行った。観察された開始温度は同じで、ピーク温度は−5℃にシフトした
。反応熱は発熱142J/g溶液(234.3kJ/モル2,6−Li−CFA)であっ
た。どのような因子によってこの反応の発熱量が窒素中における同じ反応よりも大きくな
るのかは不明である。
【実施例2】
【0035】
連続撹拌タンク装置中におけるPBAの生成
図1に示すシステム100を、内容積約25mlの第1の反応器102、内容積約3m
lの移送チューブ106および内容積約30mlの第2の反応器104から構成した。
【0036】
第1の反応器102および第2の反応器104において撹拌を開始した。ヘキサン中ド
ライアイスを含む浴108に第1の反応器102および第2の反応器104を入れること
によってシステム100を約−60℃に冷却し、約−70℃の温度に保った。移送チュー
ブ106が溶媒で覆われていることが保証されるように、浴108の溶媒レベルをチェッ
クした。
【0037】
500mlのボトル中で無水1,2−ジメトキシエタン(DME)(241ml)中の
2−クロロ−6−フルオロアニソール(2,6−CFA)(31.4g、190mmol
)の溶液を調製した。水を除去するためにモレキュラーシーブを加え、2,6−CFA溶
液の含水量が水分約100ppm以下であることが保証されるように、カールフィッシャ
ー滴定で含水量を測定した(実測値約35ppm)。500mlボトル中の2,6−CF
A溶液を天秤上に載置し、定量ポンプ110(即ち第1のポンプ110)への入口チュー
ブを保持するキャップを取り付けた。ヘキサン中n−ブチルリチウム(2.5M、102
ml)の混合物を別の(シリンジ)ポンプ(即ち第2のポンプ112)に装入し、ホウ酸
トリメチル(25.7g、28ml)をシリンジに装入して別のシリンジポンプ(即ち第
3のポンプ114)に載置した。
【0038】
実験の開始に先立って、第1、第2、および第3の供給ライン118、120、122
にはそれぞれ、チューブ出口の直近まで2,6−CFA、n−ブチルリチウムおよびホウ
酸メチルをポンプで満たした。溶媒浴の温度が約−74℃になった時に、2,6−CFA
を含む第1のポンプ110およびn−ブチルリチウムを含む第2のポンプ112を、それ
ぞれ流量0.73ml/分および0.27ml/分で始動した。第1の供給ライン118
はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)チューブからできており、反応器ヘッドポー
ト116Aを経て第1の反応器102の液面下に達していた。n−ブチルリチウムの添加
は第1の反応器102の液面の直上で終止する第2の供給ライン120を経て第1の反応
器102に加えた。
【0039】
溶媒浴をモニタリングし、システム100の温度を約−60℃以下に保つようにドライ
アイスを溶媒浴に加えた。ホウ酸トリメチル用の第3の供給ライン122は、液面上に滴
下するように第2の反応器104中に達していた。約26分後、第1の反応器102が満
たされ、反応混合物が移送チューブを経て第2の反応器104に流れる際に、ホウ酸トリ
メチルの流量を約0.08ml/分として第3のポンプ114を始動した。
【0040】
約37分後、第2の反応器104が満たされた時に、第2の反応器104の中の反応混
合物の体積を約30ml近くに保つように、出口チューブ126からの流れを開始した。
第2の反応器104からの中間体溶液を、室温でフラスコ124に蓄積した。中間体溶液
を秤量し、20〜30分ごとに試料瓶に移した。実験は4時間行った。PBA−diMe
を含む総量約153gの中間体溶液を収集した。内部標準を有するガスクロマトグラフィ
ー(GC)法を用いて、中間体溶液中のPBA−diMeの量を定量した。PBA−di
Meへの転化率は約92%と計算され、元の未転化2,6−CFAも約8%と定量された
。
【0041】
中間体溶液中のPBA−diMeを水性水酸化カリウム(KOH)による処理およびそ
れに続く酸性化によってPBA生成物に転化した。中間体溶液を500mlのフラスコに
移し、撹拌プレート上の冷却した水浴に載置した。22gの45%水性KOHを87ml
の脱イオン水で希釈してKOH溶液を調製し、109gの9%KOH溶液(2当量)とし
た。中間体溶液の温度を約16℃として、滴下漏斗を用いて約10分かけてKOH水溶液
を中間体溶液に滴下した。続いて溶液を20℃で50分間混合して反応混合物を生成させ
た。ブフナー漏斗および水アスピレーターを用いて反応混合物を濾過し、少量(約0.2
g以下)の白色固体を除去した。次いで反応混合物を分液漏斗に移して分離させた。50
分後に下(水)層を500mlのフラスコに移した。塩化ナトリウム(約3g)を加えて
約30分間、反応混合物をtert−ブチルメチルエーテル(105ml、78g)で抽
出した。反応混合物を分液漏斗に移した。約30分後、下(水)層をフラスコに移し、滴
下漏斗を用いて36%塩酸(HCl)(4当量、36%溶液35g(30ml))を滴下
した。溶液を約15分間撹拌した。白色固体の無定形の塊が観察された。アセトニトリル
(64g、81ml)を加え、溶液を約20分間、約20℃で撹拌した。溶液を分液漏斗
に移し、50分間分離させた。上(有機物)の生成物層を試料瓶に移した。PBA生成物
のアセトニトリル溶液の分析により、13重量%のPBAが示され、PBAの回収率67
%が得られた。
【実施例3】
【0042】
管型反応装置中におけるPBAの生成
図4に示すシステム200を、予備冷却ゾーン202(1/8インチステンレススチー
ルチューブからなる)、第1混合ゾーン203(1/4インチクロスフィッティングおよ
びそれに続くインラインのプラスチック製スタティックミキサーからなる)、第1反応ゾ
ーン204(1/8インチステンレススチールチューブからなる)、第2混合ゾーン20
5(1/8インチクロスフィッティングおよびそれに続くインラインのプラスチック製ス
タティックミキサーからなる)、および第2反応ゾーン206(1/8インチステンレス
スチールチューブからなる)から構成し、全てをドライアイス/ヘキサン浴201に浸漬
した。混合ゾーン203および205におけるインラインのプラスチック製スタティック
ミキサーは2.25インチ×3/16インチの寸法を有しており、反応溶液を強制的に混
合し、それ自体の上に折り重ねるように、これらを各々のセグメントに取り付けた。試薬
の逆流を防ぐため、試薬供給ライン220(1/8インチステンレススチールチューブか
らなる)、221(1/4インチテフロン(登録商標)チューブからなる)、および22
2(1/8インチステンレススチールチューブからなる)にはチェックバルブを取り付け
た。
【0043】
試薬供給ライン220を通して無水1,2−ジメトキシエタン(DME)および無水ヘ
キサンの流れを開始する一方、ドライアイス/ヘキサン浴201を用いて反応器システム
を−60℃の望ましい反応温度に冷却した。熱電対を用いて混合ゾーン203および20
5の流体温度をモニタリングした。
【0044】
13%の2−クロロ−6−フルオロアニソール(2,6−CFA)、57%のDME、
および30%のヘキサン(重量)からなる供給溶液を調製し、ポンプ210のシリンジに
装入した。溶液の凍結温度を低下させ、試薬供給ライン220の閉塞を避けるためにヘキ
サンの添加が必要であった。ヘキサン中2.5Mのブチルリチウムの供給溶液をポンプ2
11のシリンジに装入した。30%のホウ酸トリメチルおよび70%の2−メトキシ−2
−メチルプロパン(重量)の供給溶液を調製し、ポンプ212のシリンジに装入した。溶
液の凍結温度を低下させ、試薬供給ライン222の閉塞を避けるために2−メトキシ−2
−メチルプロパン(TBME)による希釈が必要であった。全ての試薬および溶媒は、装
入に先立ってモレキュラーシーブで乾燥した。
【0045】
シリンジポンプ210を用いて2,6−CFA(DMEおよびヘキサン中)の流れを開
始した。2,6−CFA溶液は試薬供給ライン220を通して0.69mL/分で送液し
、混合ゾーン203に達する前に予備冷却ループ202を通して冷却した。予備冷却ゾー
ン202がほぼ満たされた時に、ポンプ211を用いてブチルリチウム(ヘキサン中)の
流れを開始した。混合ゾーン203において、2,6−CFA溶液を、試薬供給ライン2
21を通して0.31mL/分で送液されたブチルリチウム溶液と混合した。混合ゾーン
203および反応ゾーン204を通る全流量は約1.0mL/分、混合ゾーン203およ
び反応ゾーン204における滞留時間は約7分であった。混合ゾーン203および反応ゾ
ーン204において2,6−CFAとブチルリチウムが反応してLi−2,6−CFAが
生成した。
【0046】
反応ゾーン204がほぼ満たされた時に、シリンジポンプ212を用いてホウ酸トリメ
チル(TBME中)の流れを開始した。Li−2,6−CFA溶液を反応ゾーン204か
ら混合ゾーン205に流し、ここでこれを、試薬供給ライン222を通って0.31mL
/分で送液されたホウ酸トリメチル溶液と混合した。混合ゾーン205および反応ゾーン
206を通る全流量は約1.3mL/分、混合ゾーン205および反応ゾーン206にお
ける滞留時間は約6分であった。混合ゾーン205および反応ゾーン206において、L
i−2,6−CFAはホウ酸トリメチルと反応してPBA−diMe生成物が生成した。
排出ライン223を通してPBA−diMe生成物を流し、受け入れジャー214に収集
し、引き続いて蓄積した。PBA溶液の分析によって2,6−CFAからPBAへの転化
率は45%であることが示された。
【実施例4】
【0047】
インサイチュIR分光法によってモニタリングされたLi−2,6−CFAの分解
冷却浴中の250mL丸底フラスコ
インサイチュのIR分光法によってその熱分解のモニタリングを可能にするため、Li
−2,6−CFA化学種を発生させた。250mLのガラス製丸底フラスコにDMEを装
入した。2−プロパノールを満たした冷却浴の中にフラスコを降下させ、低温フィンガー
で約−60℃まで冷却した。撹拌を開始した。フラスコの深さを調節して溶液の温度を約
−50℃に制御した。フラスコの頸部にあるポートを通して反応溶液中にインサイチュI
R分光器のプローブを挿入し、データ収集を開始した。約−50℃におけるDMEのバッ
クグラウンドシグナルを得た。
【0048】
フラスコに2,6−CFAを添加してDME中2,6−CFAの13%(重量)溶液を
生成させた。反応溶液を約−58℃に冷却した。2,6−CFAをLi−2,6−CFA
に転化させるため、1.15モル当量のブチルリチウム(ヘキサン中2.5M)をシリン
ジによってフラスコの液面上に送達した。溶液の温度を−50℃未満に保つために添加速
度を制御した。溶液を1時間反応させた。
【0049】
反応溶液の温度をゆっくりと上昇させ、Li−2,6−CFAの消失または分解生成物
の生成を示すIRバンドの変化を観察することによって、インサイチュIRによりLi−
2,6−CFAの分解をモニタリングした。Li−2,6−CFA溶液の温度を約−45
℃まで上昇させて10分間保ったが、分解は観察されなかった。次いで温度を上昇させて
、
図5に示すように約−40℃の温度に20分間、−35℃に10分間、−30℃に30
分間保った。−30℃でゆっくりとした分解が認められたが、反応溶液の温度を約−25
℃に上昇させると、分解速度は顕著に増大した。反応溶液の温度を約−20℃に上昇させ
ると、速度はさらに加速されて、温度を維持する浴の能力を超える溶液温度の加速度的上
昇がもたらされた。
【0050】
固体冷却デバイス中の150mL直壁槽
冷却浴および丸底フラスコによって得られる温度制御は正確でなく、各々のホールドポ
イントにおいて数℃の変動が生じた。−30℃を超える温度でより良い精度を得るため、
正確な温度制御および熱流量の変化に対する迅速かつ自動化された応答を可能にする固体
冷却デバイスで囲まれた150mLのガラス製の直壁反応器中でインサイチュIRによる
検討を行った。デバイスの低温限界は−40℃であった。
【0051】
DMEおよび2,6−CFAを槽に装入し、約8%(重量)の2,6−CFA溶液を作
製した。撹拌を開始した。反応溶液を約−35℃に冷却した。反応器の頭部にあるポート
を通して反応溶液中にインサイチュIR分光器のプローブを挿入し、IRデータの収集を
開始した。Li−2,6−CFA化学種を発生させるため、1.15モル当量のブチルリ
チウム(ヘキサン中2.5M)を反応槽の液面上にシリンジを通して送達した。溶液を−
40℃で約30分間反応させた。
【0052】
溶液の温度を−28℃に上昇させて保持したが、分解は殆どまたは全く観察されなかっ
た。溶液の温度を−26℃に上昇させると、
図6に示すように、分解生成物のIRシグナ
ルの強度が増加することが観察された一方、Li−2,6−CFAのIRシグナルは減少
することが観察された。溶液の温度を−24℃に上昇させると、分解速度のさらなる増加
が観察された。これらのデータから、精密な温度制御を行った際の分解挙動の詳細な見解
が得られ、Li−2,6−CFAの分解は−28℃を超える温度で急速に加速され始める
ことが示唆された。
【0053】
本発明には種々の改変および代替の形態が可能であるが、図面において例として特定の
実施形態を示し、本明細書において詳細に記述した。しかし、本発明は開示した特定の形
態に限定されることを意図していないことを理解されたい。むしろ、本発明は以下に添付
した特許請求の範囲およびその法的均等物によって定義される本発明の範囲内にある全て
の改変、均等物、および代替物を包含するものである。