(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6456913
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】エラストマーとしての使用のための架橋有機ポリマー
(51)【国際特許分類】
C08J 3/24 20060101AFI20190110BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20190110BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
C08J3/24 ZCEZ
C08L101/12
C08K5/053
【請求項の数】42
【全頁数】61
(21)【出願番号】特願2016-503438(P2016-503438)
(86)(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公表番号】特表2016-512853(P2016-512853A)
(43)【公表日】2016年5月9日
(86)【国際出願番号】US2014030666
(87)【国際公開番号】WO2014145834
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年3月10日
(31)【優先権主張番号】61/801,161
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515107753
【氏名又は名称】デルスパー リミテッド パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ドレイク, ケリー エー.
(72)【発明者】
【氏名】ソン, リ
(72)【発明者】
【氏名】バーゴイン, ウィリアム エフ., ジュニア.
【審査官】
飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−530647(JP,A)
【文献】
特開平11−315139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28
C08K 5/053
C08L 101/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)室温で非エラストマーの芳香族ポリマーを準備する工程;
(b)架橋化合物を使用して該芳香族ポリマーを架橋して、実質的に硬化されている架橋芳香族ポリマーを形成する工程であって、該架橋化合物が下記式(II)
【化26】
[式中、Aは、10,000g/mol未満の分子量を有するアレーン部分であり、R
1は、ヒドロキシド(−OH)、アミン(−NH
2)、ハライド、エーテル、エステルまたはアミドからなる群から選択され、xは、約2.0〜約6.0である]
の構造を有する、工程;および、
(c)該架橋芳香族ポリマーを、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度に加熱する工程
を含むエラストマー材料を調製する方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、工程(b)において、前記芳香族ポリマーが少なくとも約80%硬化されている、方法。
【請求項3】
請求項2に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが少なくとも約90%硬化されている、方法。
【請求項4】
請求項3に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが完全に硬化される、方法。
【請求項5】
請求項1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーがポリ(アリーレンエーテル)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリ(ベンズイミダゾール)、ポリアリーレート、液晶ポリマー(LCP)およびポリアラミドからなる群から選択される、方法。
【請求項6】
請求項1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが下記構造:
【化24】
[式中、Ar
1、Ar
2、Ar
3およびAr
4は、同じかまたは異なるアリールラジカルであり、m=0〜1.0、n=1−mである]
を有するポリマー反復単位を含有するポリ(アリーレンエーテル)である、方法。
【請求項7】
(a)室温で非エラストマーの芳香族ポリマーを準備する工程;
(b)架橋化合物を使用して該芳香族ポリマーを架橋して、実質的に硬化されている架橋芳香族ポリマーを形成する工程;および、
(c)該架橋芳香族ポリマーを、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度に加熱する工程であって、
該芳香族有機ポリマーがポリ(アリーレンエーテル)であり、該ポリマーが下記式(I):
【化25】
の構造を有する反復単位を含有する、工程
を含み、
該架橋化合物が
【化27-1】
【化27-2】
からなる群から選択される構造を有する、
エラストマー材料を調製する、方法。
【請求項8】
請求項1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アレーン部分が約1,000g/mol〜約9,000g/molの分子量を有する、方法。
【請求項9】
請求項1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アレーン部分が約2,000g/mol〜約7,000g/molの分子量を有する、方法。
【請求項10】
請求項1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、工程(b)が、前記有機ポリマーを、前記架橋化合物、ならびに有機酸および/またはアセテート化合物から選択される架橋反応添加剤で架橋する工程をさらに含み、ここで、該架橋反応添加剤が該架橋化合物と反応して、オリゴマー形態の反応性中間体を形成することができ、該反応性中間体オリゴマーが該有機ポリマーを架橋することができる、方法。
【請求項11】
請求項10に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋反応添加剤が、氷酢酸、蟻酸および/または安息香酸から選択される有機酸である、方法。
【請求項12】
請求項
10に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋反応添加剤が、下記式(XI):
【化28】
[式中、Mは、第I族金属または第II族金属であり;R
2は、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、該アルキル基は、1〜約15個の炭素原子を有する炭化水素基を含み、該炭化水素基は、該炭化水素基の鎖に沿ってまたは該鎖の中に0〜約5個のエステル基またはエーテル基を有し、かつR
2は、スルフェート、ホスフェート、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、ハライド、メルカプトまたはカリウムから選択される0〜約5個の官能基を含む]
の構造を有するアセテート化合物である、方法。
【請求項13】
請求項12に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アセテート化合物が、酢酸リチウム水和物 酢酸ナトリウム、および/または酢酸カリウム、ならびにそれらの塩および誘導体から選択される、方法。
【請求項14】
請求項10に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物と前記架橋反応添加剤との重量パーセント比が約10:1〜約10,000:1である、方法。
【請求項15】
請求項14に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物と前記架橋反応添加剤との重量パーセント比が約20:1〜約1000:1である、方法。
【請求項16】
請求項1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、該方法が、前記架橋有機ポリマーを含有する組成物を形成する工程、および該組成物を加熱して成形品を形成する工程をさらに含み、工程(c)が、該成形品を、該架橋有機ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度における使用状態に置く工程をさらに含む、方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法によって形成される物品。
【請求項18】
Oリング、Vリング、Uカップ、ガスケット、シールスタックの少なくとも1つの構成要素、パッカーエレメント、ダイアフラム、フェースシール、ベアリング、バルブシート、アダプタ、ワイパーリング、シェブロン・シール・バックアップ・リング、チュービングからなる群から選択される、請求項17に記載の物品。
【請求項19】
実質的に硬化されている架橋芳香族ポリマーを該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱することによって形成されるエラストマー材料であって、該芳香族ポリマーが架橋前に室温でエラストマーでなく、該芳香族ポリマーが、下記式(II)
【化26】
[式中、Aは、10,000g/mol未満の分子量を有するアレーン部分であり、R
1は、ヒドロキシド(−OH)、アミン(−NH
2)、ハライド、エーテル、エステルまたはアミドからなる群から選択され、xは、約2.0〜約6.0である]
の構造を有する架橋化合物との反応によって架橋されている
、エラストマー材料。
【請求項20】
架橋芳香族ポリマーを含有する組成物を熱成形して成形品を形成する工程であって、該芳香族ポリマーは架橋前に室温でエラストマーでなく、かつ該架橋芳香族ポリマーは実質的に硬化されている工程;および該成形品を該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱する工程であって、該芳香族ポリマーは、下記式(II)
【化26】
[式中、Aは、10,000g/mol未満の分子量を有するアレーン部分であり、R
1は、ヒドロキシド(−OH)、アミン(−NH
2)、ハライド、エーテル、エステルまたはアミドからなる群から選択され、xは、約2.0〜約6.0である]
の構造を有する架橋化合物との反応によって架橋される
工程によって形成される、エラストマー物品。
【請求項21】
エラストマー材料を形成するための組成物であって、下記:
室温で非エラストマーである芳香族ポリマー;および
架橋化合物;
を含有し、該架橋化合物および該芳香族ポリマーが反応して、架橋芳香族ポリマーを形成することができ、該架橋芳香族ポリマーが、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱された場合にエラストマーになり、該架橋化合物が下記式(II)
【化26】
[式中、Aは、10,000g/mol未満の分子量を有するアレーン部分であり、R
1は、ヒドロキシド(−OH)、アミン(−NH
2)、ハライド、エーテル、エステルまたはアミドからなる群から選択され、xは、約2.0〜約6.0である]
の構造を有する、組成物。
【請求項22】
室温でエラストマーでない有機ポリマーをエラストマー用途において使用する方法であって、架橋化合物を使用して該有機ポリマーを架橋して架橋有機ポリマーを形成して、該芳香族ポリマーを実質的に硬化させる工程であって、該架橋化合物が下記式(II)
【化26】
[式中、Aは、10,000g/mol未満の分子量を有するアレーン部分であり、R
1は、ヒドロキシド(−OH)、アミン(−NH
2)、ハライド、エーテル、エステルまたはアミドからなる群から選択され、xは、約2.0〜約6.0である]
の構造を有する、工程;および
該架橋ポリマーがエラストマーになるように、該架橋ポリマーを使用の際に該架橋ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱する工程を含む、方法。
【請求項23】
有機ポリマーをエラストマー組成物において使用する、請求項22に記載の方法であって、
架橋有機ポリマーを含有する組成物を形成する工程;
該組成物を成形品に成形する工程;
該成形品を使用状態に置く工程;および、
該架橋ポリマーを該架橋ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱するように、使用の際に該成形品を加熱する工程をさらに含む、方法。
【請求項24】
(a)室温で非エラストマーの芳香族ポリマーを準備する工程;
(b)架橋化合物を使用して該芳香族ポリマーを架橋して、架橋芳香族ポリマーを形成する工程であって、該架橋化合物が、下記式(II):
【化29】
[式中、Aは、10,000g/mol未満の分子量を有するアレーン部分であり、R
1は、ヒドロキシド(−OH)、アミン(−NH
2)、ハライド、エーテル、エステルまたはアミドからなる群から選択され、xは、約2.0〜約6.0である]
の構造を有する工程;および、
(c)該架橋芳香族ポリマーを、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度に加熱する工程を含む、エラストマー材料を調製する方法。
【請求項25】
請求項24に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、工程(b)において、前記芳香族ポリマーが少なくとも約80%硬化されている、方法。
【請求項26】
請求項25に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが少なくとも約90%硬化されている方法。
【請求項27】
請求項26に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが完全に硬化されている、方法。
【請求項28】
請求項24に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーがポリ(アリーレンエーテル)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリ(ベンズイミダゾール)、ポリアリーレート、液晶ポリマー(LCP)およびポリアラミドからなる群から選択される、方法。
【請求項29】
請求項
28に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが、下記構造:
【化30】
[式中、Ar
1、Ar
2、Ar
3およびAr
4は、同じかまたは異なるアリールラジカルであり、m=0〜1.0、n=1−mである]
を有するポリマー反復単位を含有するポリ(アリーレンエーテル)である、方法。
【請求項30】
請求項29に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、工程(b)が、前記有機ポリマーを、前記架橋化合物、ならびに有機酸および/またはアセテート化合物から選択される架橋反応添加剤で架橋する工程をさらに含み、ここで、該架橋反応添加剤が該架橋化合物と反応して、オリゴマー形態の反応性中間体を形成することができ、反応性中間体オリゴマーが該有機ポリマーを架橋することができる、方法。
【請求項31】
請求項30に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋反応添加剤が、氷酢酸、蟻酸および/または安息香酸から選択される有機酸である、方法。
【請求項32】
請求項
30に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋反応添加剤が、式(XI):
【化31】
[式中、Mは、第I族金属または第II族金属であり;R
2は、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、該アルキル基は、1〜約15個の炭素原子を有する炭化水素基を含み、該炭化水素基が、該炭化水素基の鎖に沿ってまたは該鎖の中に0〜約5個のエステル基またはエーテル基を有し、かつR
2は、スルフェート、ホスフェート、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、ハライド、メルカプトまたはカリウムから選択される0〜約5個の官能基を含む]
の構造を有するアセテート化合物である、方法。
【請求項33】
請求項32に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アセテート化合物が、酢酸リチウム水和物 酢酸ナトリウム、および/または酢酸カリウム、ならびにそれらの塩および誘導体から選択される、方法。
【請求項34】
請求項30に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物と前記架橋反応添加剤との重量パーセント比が約10:1〜約10,000:1である、方法。
【請求項35】
請求項34に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物と前記架橋反応添加剤との重量パーセント比が約20:1〜約1000:1である、方法。
【請求項36】
請求項
29に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記有機ポリマーがポリ(アリーレンエーテル)であり、mが1であり、nが0であり、該ポリマーが、下記式(I):
【化32】
の構造を有する反復単位を含有する、方法。
【請求項37】
請求項
24に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物が
【化33-1】
【化33-2】
からなる群から選択される構造を有する、方法。
【請求項38】
請求項24に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アレーン部分が約1,000g/mol〜約9,000g/molの分子量を有する、方法。
【請求項39】
請求項38に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アレーン部分が約2,000g/mol〜約7,000g/molの分子量を有する、方法。
【請求項40】
請求項24に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、該方法が、前記架橋有機ポリマーを含有する組成物を形成する工程、および該組成物を加熱して成形品を形成する工程をさらに含み、工程(c)が、該成形品を、該架橋有機ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度における使用状態に置く工程をさらに含む、方法。
【請求項41】
請求項24に記載の方法によって形成される物品。
【請求項42】
Oリング、Vリング、Uカップ、ガスケット、シールスタックの少なくとも1つの構成要素、パッカーエレメント、ダイアフラム、フェースシール、ベアリング、バルブシート、アダプタ、ワイパーリング、シェブロン・シール・バックアップ・リング、チュービングからなる群から選択される請求項41に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、その開示の全体が参考として本明細書に援用される2013年3月15日に出願された米国仮特許出願第61/801,161号に対しての利益を35 U.S.C. §119(e)の下に主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、高温エラストマー材料の分野に関し、特に、従来のおよび/または高純度のエラストマーがポリマー分解により性能を失う高温最終用途における、ある種の架橋有機ポリマー材料のエラストマーとしての使用に関する。
【0003】
関連技術の説明
フッ素含有エラストマー、特に、テトラフルオロエチレン(TFE)および他のフッ素化モノマー単位を含有するペルフルオロエラストマー(FFKM)が既知であり、優れた耐化学性、耐溶剤性および耐熱性を示す材料を必要とする最終用途に使用されている。それらは、過酷環境における使用を意図したシーリング製品および他の製品に広く使用されている。さらに、FFKMは、耐化学性に加えて高純度が要求される最終用途にも使用されている。技術の進歩と共に、そのような高耐性化合物にさえ要求される性質が、さらに厳しくなり続けている。航空学、ダウンホール石油掘削、航空宇宙科学、半導体調製、化学薬品調製および薬学調製の分野において、シーリング特性および他のエラストマー特性に関して、300℃以上の高温環境にもさらされる増大する過酷化学環境下でも機能する能力が要求され続けている。高温環境に耐えるそのような材料の能力は、ますます重要になっている。
【0004】
FFKMは優れた耐化学性および耐プラズマ性を与えるが、それらは非充填状態において、より弱い機械的特性を一般に有する。従って、満足できる耐圧縮永久歪性および機械的特性を得るために、充填剤または他の強化系を含有させることが当分野において一般に既知である。そのような材料を高温最終用途において有用にするために、かつ変形に耐えることができ常に増大する厳しい条件に耐えることができる成形品を形成するために、そのような材料をブレンドし、改質し、または充填する方法を見出すことが当分野における目標である。FFKM材料は、一般に、少なくとも1つの過フッ素化硬化部位モノマーを含有する過フッ素化モノマーから調製される。該モノマーを重合させて、硬化剤またはキュアリング剤との反応時に架橋することを意図した硬化部位を有する硬化性過フッ素化ポリマーを形成する。硬化(架橋)後に、ベースポリマー材料が本質的にエラストマーになり、エラストマー性質を示す。
【0005】
耐化学性および/または耐プラズマ性を減少させないようにしつつ機械的特性を強化するために半導体工業および他の工業において使用される一般的な充填剤は、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、TFE基材フルオロプラスチック、硫酸バリウム、ならび他のポリマーおよびプラスチックを包含する。機械的特性およびシーリング特性を犠牲にせずに、種々の最終用途のためにより高い耐熱性、耐化学性および耐プラズマ性の要求に応じるためにそのような材料を向上させる目的で、1つ以上のFFKM硬化性ポリマーのブレンドを作製して、様々な特性も達成される場合がある。
【0006】
そのような組成物におけるフルオロポリマー充填剤の使用は、特により高い温度(例えば、>300℃)の最終用途において、比較的高い圧縮永久歪に負の寄与をする場合もある。成形性および接合性も、そのようなフルオロポリマー充填剤の使用により限定されうる。
【0007】
向上した熱特性を有するベースFFKM化合物を提供するために、独特な硬化系を使用して様々なポリマーも開発されている。この一例は、米国特許第6855774号である。形成される架橋が、耐熱性の増加に寄与すると記載されている。さらに、米国特許第6878778号は、優れた耐化学性および機械的強度、ならびに高温における耐熱性を有する最終材料を生じることに寄与すると記載されている硬化剤を教示している。
【0008】
独特な特性を得るために、ブレンドされたFFKMも開発されている。米国特許第6855774号および第6878778号から形成されるようなFFKM、および他のFFKMもブレンドされている。米国特許第8367776号は、そのようなポリマーと1つ以上の付加的FFKMとの組成物を開示し、ここで、該組成物中の2つのFFKM化合物は、それらのペルフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)モノマー含有量に関して約5〜約25モルパーセントで異なっている。そのようなブレンドは、フルオロプラスチック充填剤を使用せずに充分に機能することができかつそのような充填材料の代替物であり場合によっては改善物である組成物を形成する機能を付与すると記載されている。そのようなブレンドは、きつい化学薬品の存在下の耐亀裂性、ならびに良好な耐熱性および耐プラズマ性を付与する。
【0009】
米国特許公開第2012/0077935A1号は、2つ以上のFFKMのブレンドを記載しており、その中の1つは、高TFE含有量の硬化性ペルフルオロポリマー(米国特許第8367776号に記載)であり、かつその中の1つは、第二硬化性ペルフルオロポリマーのマトリックスに組み込まれたフルオロプラスチックを有する。組み合わされた材料は、向上した高温特性を付与する。そのような材料は、耐化学性および/または耐プラズマ性が必要とされる厳しい環境における使用のための高温エラストマーの現状技術である。
【0010】
これらの材料の化学的純度および不活性のレベルによって該材料の有利な耐化学性および/または耐プラズマ性を維持しつつ、高温および増大する過酷環境におけるFFKMの機械的性能および圧縮永久歪性能を向上させるために、技術的努力が継続的になされているが、最終消費者がそのような材料の操作条件を追及し続けるので、当分野において増大する関心の的となっている性能の課題が残されている。温度が上昇するにつれて、FFKMは熱的分解する傾向があり、これはそれらの有効範囲を制限する。有効温度範囲をより高くするために、添加剤および様々なブレンディングおよび/または硬化剤の改変が試みられているが、依然として使用制限がある。
【0011】
他のポリマーが高温使用のために周知であるが、良好な機械的特性およびエラストマー特性の両方の組合せが必要とされる場合に、全ての過酷環境において一般に使用されるわけではない。例えば、芳香族ポリマー、例えばポリアリーレンは、熱安定性主鎖を有することが既知であるが、エラストマー挙動が所望される最終用途に一般に適していない。他の状態では室温でエラストマーでないそのような熱安定性ポリマーの架橋を使用し、それによって、架橋材料をそれらのガラス転移温度(Tg)より高い使用温度で使用しうるようにする試みが当分野においてなされている。
【0012】
WO 2011/071619A1は、ダウンホール使用における分解を避けるために高温シーリング要素の使用を開示しており、該要素は、C−N結合を介してポリエーテルエーテルケトン(PEEK)主鎖に結合しているN−Rx−N架橋基を有するPEEKを組み込んでいる。
【0013】
同様に、J.L.Hendrickら、「Elastomeric Behavior of Cross−linked Poly(arylether ketone)s at Elevated Temperatures」、Polymer、Vol.33、No.23、pp.5094−5097(1992)において、PEEKがオリゴマー末端基を介して無水マレイン酸によって架橋されて、そのTgより高い温度でエラストマー特性を示すPEEKを形成している。しかし、そのような系は、機械的特性とエラストマー特性との適切なバランスを必要とする高温最終用途において、FFKMの代替物として有用にするために所望される高温特性および/または加水分解安定性を達成していない。
【0014】
米国特許公開第2013/0012635A1号は、形状記憶材料として有用な熱可塑性材料、および該熱可塑性材料から形成される物品を開示しており、該物品は、形状記憶ポリマーをそのTgより高い温度に加熱し、該ポリマーを付形し、次に、Tgより低い温度に冷却することによってその形状を物品に固定することによって形成される。使用の際に、そのような付形物品は、それらのTgより高い温度に加熱され、最初の成形形状を回復する。使用のために提示されているポリマーは、酸素の存在または不存在において硬化しうる200℃より高い温度で熱安定性を有するポリマーである。架橋剤、例えば、硫黄、シリカ、キノン、ペルオキシ化合物、金属過酸化物、金属酸化物、およびこれらの架橋剤の組合せを、形状記憶ポリマーと共に、架橋のために使用することができる。
【0015】
架橋によってそのような高温エラストマー最終製品の作製を試みる先行技術系のいくつかは、ポリマー上またはポリマー中に特定の官能基を含有させるために複雑な化学合成を使用している。この方法は、ポリマーが合成段階で固定されるので、架橋密度をカスタマイズする機能を制限する。より高い柔軟性が、種々の使用のために最終材料をカスタマイズする機能を可能にしうる。
最後に、FFKMは極めて強いエラストマーとしては知られておらず、前記のように、強度を向上させる努力は、充填剤または特殊ブレンドの使用を含む。しかし、これは、それらの高い耐化学性によって許容される。機械的強度を向上させるために使用される充填剤系は、熱安定性の点で欠点となりうる。しかし、熱安定性を向上させることができ、より良好な機械的特性を達成できれば、高温および厳しい環境における常に増大する要求を満たす材料が当分野において得られる。入手可能な材料における制限により現在は不可能となっているより多くの製品を設計しうる。
従って、過酷化学物質および/または極端な温度条件および/または極端な圧力条件への暴露を含む環境における使用のために、エラストマー挙動を示すことができ良好な機械的特性を有する向上した耐化学性材料が、当分野において常に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第6855774号明細書
【特許文献2】米国特許第6878778号明細書
【特許文献3】米国特許第8367776号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2012/0077935号明細書
【特許文献5】国際公開第2011/071619号
【特許文献6】米国特許出願公開第2013/0012635号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】J.L.Hendrickら、「Elastomeric Behavior of Cross−linked Poly(arylether ketone)s at Elevated Temperatures」、Polymer、Vol.33、No.23、pp.5094−5097(1992)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明の概要
本発明の一実施形態において、本発明は、エラストマー材料を調製する方法を含む。該方法は、下記の工程を含む:(a)室温で非エラストマーの芳香族ポリマーを準備する工程;(b)架橋化合物を使用して該芳香族ポリマーを架橋して、実質的に硬化されている架橋芳香族ポリマーを形成する工程;および、(c)該架橋芳香族ポリマーを、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える(at or above)温度に加熱する工程。
【0019】
該方法の一実施形態において、工程(b)において、芳香族ポリマーは少なくとも約80%硬化されており、好ましくは少なくとも約90%硬化されており、より好ましくは完全に硬化されている。該方法に使用される芳香族ポリマーは、下記からなる群から選択しうる:ポリ(アリーレンエーテル)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリ(ベンズイミダゾール)、ポリアリーレート、液晶ポリマー(LCP)およびポリアラミド。一実施形態において、芳香族ポリマーは、下記構造:
【化1】
[式中、Ar
1、Ar
2、Ar
3およびAr
4は、同じかまたは異なるアリールラジカルであり、m=0〜1.0、n=1−mである]
を有するポリマー反復単位を含有するポリ(アリーレンエーテル)である。
【0020】
有機ポリマーがポリ(アリーレンエーテル)である場合、一実施形態において、mは1であり、nは0であり、該ポリマーは、下記式(I):
【化2】
の構造を有する反復単位を含有する。
【0021】
他の実施形態において、架橋化合物は、下記式(II):
【化3】
[式中、Aは、10,000g/mol未満の分子量を有するアレーン部分であり、R
1は、ヒドロキシド(−OH)、アミン(−NH
2)、ハライド、エーテル、エステルまたはアミドからなる群から選択され、xは、約2.0〜約6.0である]
の構造を有する。架橋化合物は、より好ましくは、下記からなる群から選択される構造を有しうる:
【化4-1】
【化4-2】
【化4-3】
【0022】
前記化合物中のアレーン部分は、約1,000g/mol〜約9,000g/molの分子量、より好ましくは約2,000g/mol〜約7,000g/molの分子量を有しうる。
【0023】
一実施形態において、工程(b)において、前記方法は、有機ポリマーを、架橋化合物、ならびに有機酸および/またはアセテート化合物から選択される架橋反応添加剤で架橋することをさらに含み、ここで、該架橋反応添加剤が架橋化合物と反応して、オリゴマー形態の反応性中間体を形成することができ、該反応性中間体オリゴマーは有機ポリマーを架橋することができる。そのような架橋反応添加剤は、氷酢酸、蟻酸および/または安息香酸から選択される有機酸であってよい。一実施形態において、架橋反応添加剤は、式(XI):
【化5】
[式中、Mは、第I族金属または第II族金属であり;R
2は、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、該アルキル基は1〜約15個の炭素原子を有する炭化水素基を含み、該炭化水素基は炭化水素基の鎖に沿ってまたは該鎖の中に0〜約5個のエステル基またはエーテル基を有し、かつR
2は、スルフェート、ホスフェート、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、ハライド、メルカプトまたはカリウムから選択される0〜約5個の官能基を含む]
の構造を有するアセテート化合物である。この実施形態におけるアセテート化合物は、好ましくは、酢酸リチウム水和物 酢酸ナトリウム、および/または酢酸カリウム、ならびにそれらの塩および誘導体から選択される。
【0024】
架橋反応添加剤が架橋化合物と共に使用される場合、架橋化合物と架橋反応添加剤との重量パーセント比は、好ましくは約10:1〜約10,000:1、より好ましくは約20:1〜約1000:1である。
【0025】
前記方法は、架橋有機ポリマーを含有する組成物を形成し、該組成物を加熱して成形品を形成することをさらに含んでよく、工程(c)は、該成形品を、架橋有機ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度における使用状態に置く(place in use)ことをさらに含む。
【0026】
本発明は、本明細書に記載されている方法によって形成される1つ以上の物品も含み、その例は、Oリング、Vリング、Uカップ、ガスケット、シールスタックの少なくとも1つの構成要素、パッカーエレメント、ダイアフラム、フェースシール、ベアリング、バルブシート、アダプタ、ワイパーリング、シェブロン・シール・バックアップ・リング、チュービングであるが、それらに限定されない。
【0027】
本発明の他の実施形態において、本発明は、実質的に硬化されている架橋芳香族ポリマーを、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱することによって形成されるエラストマー材料を含み、ここで、該芳香族ポリマーは架橋前に室温でエラストマーでなく、かつ該芳香族ポリマーは、架橋化合物との反応によって架橋されているか、または該芳香族ポリマーに結合しているグラフト鎖を有する芳香族ポリマーの熱誘起架橋によって架橋されている。
【0028】
本発明は、さらに、下記によって形成されるエラストマー物品も含む:架橋芳香族ポリマーを含有する組成物を熱成形して成形品を形成し(ここで、該芳香族ポリマーは架橋前に室温でエラストマーでなく、かつ該架橋芳香族ポリマーは実質的に硬化されている);そして、該成形品を架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱する(ここで、該芳香族ポリマーは、架橋化合物との反応によって架橋されているか、または該芳香族ポリマーに結合しているグラフト鎖を有する芳香族ポリマーの熱誘起架橋によって架橋されている)。
【0029】
さらに他の実施形態において、本発明は、エラストマー材料を形成するための組成物を含み、該組成物は、室温で非エラストマーの芳香族ポリマー、および架橋化合物を含有し、該架橋化合物および該芳香族ポリマーが反応して、架橋芳香族ポリマーを形成することができ、該架橋芳香族ポリマーは、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度に加熱された場合にエラストマーになる。
【0030】
本発明はさらに、室温でエラストマーでない有機ポリマーをエラストマー用途に使用する方法を含み、該方法は、下記工程を含む:架橋化合物を使用して有機ポリマーを架橋させて架橋有機ポリマーを形成して、該芳香族ポリマーを実質的に硬化させる工程;および、該架橋ポリマーがエラストマーになるように、該架橋ポリマーを使用の際に該架橋ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱する工程。前記方法は、さらに、下記工程を含みうる:架橋有機ポリマーを含有する組成物を形成する工程;該組成物を成形品に成形する工程;該成形品を使用状態に置く工程;および、該架橋ポリマーを該架橋ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱するように、使用の際に該成形品を加熱する工程。
【0031】
本発明はさらに、エラストマー材料を調製する方法を含む実施形態を有する。該方法は、下記の工程を含む:(a)室温で非エラストマーの芳香族ポリマーを準備する工程;(b)架橋化合物を使用して該芳香族ポリマーを架橋して、架橋芳香族ポリマーを形成する工程であって、該架橋化合物は、下記式(II):
【化6】
[式中、Aは、10,000g/mol未満の分子量を有するアレーン部分であり、R
1は、ヒドロキシド(−OH)、アミン(−NH
2)、ハライド、エーテル、エステルまたはアミドからなる群から選択され、xは、約2.0〜約6.0である]
の構造を有する工程;および、(c)該架橋芳香族ポリマーを、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度に加熱する工程。
【0032】
前記方法において、工程(b)において、芳香族ポリマーは、好ましくは少なくとも約80%硬化されており、より好ましくは少なくとも約90%硬化されており、最も好ましくは完全に硬化されている。該方法における芳香族ポリマーは、下記芳香族ポリマーのうちの1つ以上であってよい:ポリ(アリーレンエーテル)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリ(ベンズイミダゾール)、ポリアリーレート、液晶ポリマー(LCP)およびポリアラミド。
【0033】
前記方法の一実施形態において、芳香族ポリマーは、下記構造:
【化7】
[式中、Ar
1、Ar
2、Ar
3およびAr
4は、同じかまたは異なるアリールラジカルであり、m=0〜1.0、n=1−mである]
を有するポリマー反復単位を含有するポリ(アリーレンエーテル)である。この方法において、工程(b)は、有機ポリマーを、架橋化合物、ならびに有機酸および/またはアセテート化合物から選択される架橋反応添加剤で架橋することをさらに含んでよく、ここで、該架橋反応添加剤は該架橋化合物と反応して、オリゴマー形態の反応性中間体を形成することができ、該反応性中間体オリゴマーは該有機ポリマーを架橋することができる。架橋反応添加剤は、氷酢酸、蟻酸および/または安息香酸から選択される有機酸であってよい。架橋反応添加剤は、式(XI):
【化8】
[式中、Mは、第I族金属または第II族金属であり;R
2は、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、該アルキル基は1〜約15個の炭素原子を有する炭化水素基を含み、該炭化水素基は該炭化水素基の鎖に沿ってまたは該鎖の中に0〜約5個のエステル基またはエーテル基を有し、かつR
2は、スルフェート、ホスフェート、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、ハライド、メルカプトまたはカリウムから選択される0〜約5個の官能基を含む]
の構造を有するアセテート化合物であってよい。アセテート化合物は、酢酸リチウム水和物 酢酸ナトリウム、および/または酢酸カリウム、ならびにそれらの塩および誘導体から選択される。使用される場合に、架橋化合物と架橋反応添加剤との重量パーセント比は、約10:1〜約10,000:1、好ましくは約20:1〜約1000:1である。
【0034】
本発明のさらに他の実施形態において、有機ポリマーはポリ(アリーレンエーテル)であり、mは1であり、nは0であり、該ポリマーは、下記式(I):
【化9】
の構造を有する反復単位を含有する。
【0035】
さらに、架橋化合物は、下記からなる群から選択される構造を有しうる:
【化10-1】
【化10-2】
【化10-3】
【0036】
前記方法において、アレーン部分は、好ましくは約1,000g/mol〜約9,000g/mol、より好ましくは約2,000g/mol〜約7,000g/molの分子量を有しうる。
【0037】
前記方法は、さらに、架橋有機ポリマーを含む組成物を形成し、該組成物を加熱して成形品を形成することをさらに含んでよく、工程(c)は、該成形品を、架橋有機ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度における使用状態に置くことをさらに含む。
【0038】
本発明は、この方法によって形成される、前記実施形態に関して記載したのと同じであってよい1つ以上の物品も含む。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
(a)室温で非エラストマーの芳香族ポリマーを準備する工程;
(b)架橋化合物を使用して該芳香族ポリマーを架橋して、実質的に硬化されている架橋芳香族ポリマーを形成する工程;および、
(c)該架橋芳香族ポリマーを、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度に加熱する工程
を含むエラストマー材料を調製する、方法:。
(項目2)
項目1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、工程(b)において、前記芳香族ポリマーが少なくとも約80%硬化されている、方法。
(項目3)
項目2に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが少なくとも約90%硬化されている、方法。
(項目4)
項目3に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが完全に硬化される、方法。
(項目5)
項目1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーがポリ(アリーレンエーテル)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリ(ベンズイミダゾール)、ポリアリーレート、液晶ポリマー(LCP)およびポリアラミドからなる群から選択される方法。
(項目6)
項目1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが下記構造:
【化24】
[式中、Ar1、Ar2、Ar3およびAr4は、同じかまたは異なるアリールラジカルであり、m=0〜1.0、n=1−mである]
を有するポリマー反復単位を含有するポリ(アリーレンエーテル)である、方法。
(項目7)
項目6に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記有機ポリマーがポリ(アリーレンエーテル)であり、mが1であり、nが0であり、該ポリマーが下記式(I):
【化25】
の構造を有する反復単位を含有する、方法。
(項目8)
項目1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物が下記式(II)
【化26】
[式中、Aは、10,000g/mol未満の分子量を有するアレーン部分であり、R1は、ヒドロキシド(−OH)、アミン(−NH2)、ハライド、エーテル、エステルまたはアミドからなる群から選択され、xは、約2.0〜約6.0である]
の構造を有する、方法。
(項目9)
項目8に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物が
【化27-1】
【化27-2】
からなる群から選択される構造を有する、方法。
(項目10)
項目8に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アレーン部分が約1,000g/mol〜約9,000g/molの分子量を有する、方法。
(項目11)
項目8に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アレーン部分が約2,000g/mol〜約7,000g/molの分子量を有する、方法。
(項目12)
項目8に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、工程(b)が、前記有機ポリマーを、前記架橋化合物、ならびに有機酸および/またはアセテート化合物から選択される架橋反応添加剤で架橋する工程をさらに含み、ここで、該架橋反応添加剤が該架橋化合物と反応して、オリゴマー形態の反応性中間体を形成することができ、該反応性中間体オリゴマーが該有機ポリマーを架橋することができる、方法。
(項目13)
項目12に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋反応添加剤が、氷酢酸、蟻酸および/または安息香酸から選択される有機酸である方法。
(項目14)
項目12に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋反応添加剤が、下記式(XI):
【化28】
[式中、Mは、第I族金属または第II族金属であり;R2は、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、該アルキル基は、1〜約15個の炭素原子を有する炭化水素基を含み、該炭化水素基は、該炭化水素基の鎖に沿ってまたは該鎖の中に0〜約5個のエステル基またはエーテル基を有し、かつR2は、スルフェート、ホスフェート、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、ハライド、メルカプトまたはカリウムから選択される0〜約5個の官能基を含む]
の構造を有するアセテート化合物である方法。
(項目15)
項目14に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アセテート化合物が、酢酸リチウム水和物 酢酸ナトリウム、および/または酢酸カリウム、ならびにそれらの塩および誘導体から選択される方法。
(項目16)
項目12に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物と前記架橋反応添加剤との重量パーセント比が約10:1〜約10,000:1である方法。
(項目17)
項目16に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物と前記架橋反応添加剤との重量パーセント比が約20:1〜約1000:1である方法。
(項目18)
項目1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、該方法が、前記架橋有機ポリマーを含有する組成物を形成する工程、および該組成物を加熱して成形品を形成する工程をさらに含み、工程(c)が、該成形品を、該架橋有機ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度における使用状態に置く工程をさらに含む方法。
(項目19)
項目1に記載の方法によって形成される物品。
(項目20)
Oリング、Vリング、Uカップ、ガスケット、シールスタックの少なくとも1つの構成要素、パッカーエレメント、ダイアフラム、フェースシール、ベアリング、バルブシート、アダプタ、ワイパーリング、シェブロン・シール・バックアップ・リング、チュービングからなる群から選択される、項目19に記載の物品。
(項目21)
実質的に硬化されている架橋芳香族ポリマーを該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱することによって形成されるエラストマー材料であって、該芳香族ポリマーが架橋前に室温でエラストマーでなく、該芳香族ポリマーが、架橋化合物との反応によって架橋されているか、または該芳香族ポリマーに結合したグラフト鎖を有する芳香族ポリマーの熱誘起架橋によって架橋されている、エラストマー材料。
(項目22)
架橋芳香族ポリマーを含有する組成物を熱成形して成形品を形成する工程であって、該芳香族ポリマーは架橋前に室温でエラストマーでなく、かつ該架橋芳香族ポリマーは実質的に硬化されている工程;および該成形品を該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱する工程であって、該芳香族ポリマーは、架橋化合物との反応によって架橋されるか、または該芳香族ポリマーに結合しているグラフト鎖を有する芳香族ポリマーの熱誘起架橋によって架橋される工程によって形成される、エラストマー物品。
(項目23)
エラストマー材料を形成するための組成物であって、下記:
室温で非エラストマーである芳香族ポリマー;および
架橋化合物;
を含有し、該架橋化合物および該芳香族ポリマーが反応して、架橋芳香族ポリマーを形成することができ、該架橋芳香族ポリマーが、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱された場合にエラストマーになる組成物。
(項目24)
室温でエラストマーでない有機ポリマーをエラストマー用途において使用する方法であって、
架橋化合物を使用して該有機ポリマーを架橋して架橋有機ポリマーを形成して、該芳香族ポリマーを実質的に硬化させる工程;および
該架橋ポリマーがエラストマーになるように、該架橋ポリマーを使用の際に該架橋ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱する工程を含む、方法。
(項目25)
有機ポリマーをエラストマー組成物において使用する、項目24に記載の方法であって、
架橋有機ポリマーを含有する組成物を形成する工程;
該組成物を成形品に成形する工程;
該成形品を使用状態に置く工程;および、
該架橋ポリマーを該架橋ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱するように、使用の際に該成形品を加熱する工程をさらに含む、方法。
(項目26)
(a)室温で非エラストマーの芳香族ポリマーを準備する工程;
(b)架橋化合物を使用して該芳香族ポリマーを架橋して、架橋芳香族ポリマーを形成する工程であって、該架橋化合物が、下記式(II):
【化29】
[式中、Aは、10,000g/mol未満の分子量を有するアレーン部分であり、R1は、ヒドロキシド(−OH)、アミン(−NH2)、ハライド、エーテル、エステルまたはアミドからなる群から選択され、xは、約2.0〜約6.0である]
の構造を有する工程;および、
(c)該架橋芳香族ポリマーを、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度に加熱する工程を含む、エラストマー材料を調製する方法。
(項目27)
項目26に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、工程(b)において、前記芳香族ポリマーが少なくとも約80%硬化されている、方法。
(項目28)
項目27に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが少なくとも約90%硬化されている、方法。
(項目29)
項目28に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが完全に硬化されている、方法。
(項目30)
項目26に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーがポリ(アリーレンエーテル)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリ(ベンズイミダゾール)、ポリアリーレート、液晶ポリマー(LCP)およびポリアラミドからなる群から選択される、方法。
(項目31)
項目30に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記芳香族ポリマーが、下記構造:
【化30】
[式中、Ar1、Ar2、Ar3およびAr4は、同じかまたは異なるアリールラジカルであり、m=0〜1.0、n=1−mである]
を有するポリマー反復単位を含有するポリ(アリーレンエーテル)である、方法。
(項目32)
項目31に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、工程(b)が、前記有機ポリマーを、前記架橋化合物、ならびに有機酸および/またはアセテート化合物から選択される架橋反応添加剤で架橋する工程をさらに含み、ここで、該架橋反応添加剤が該架橋化合物と反応して、オリゴマー形態の反応性中間体を形成することができ、反応性中間体オリゴマーが該有機ポリマーを架橋することができる、方法。
(項目33)
項目32に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋反応添加剤が、氷酢酸、蟻酸および/または安息香酸から選択される有機酸である、方法。
(項目34)
項目32に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋反応添加剤が、式(XI):
【化31】
[式中、Mは、第I族金属または第II族金属であり;R2は、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、該アルキル基は、1〜約15個の炭素原子を有する炭化水素基を含み、該炭化水素基が、該炭化水素基の鎖に沿ってまたは該鎖の中に0〜約5個のエステル基またはエーテル基を有し、かつR2は、スルフェート、ホスフェート、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、ハライド、メルカプトまたはカリウムから選択される0〜約5個の官能基を含む]
の構造を有するアセテート化合物である、方法。
(項目35)
項目34に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アセテート化合物が、酢酸リチウム水和物 酢酸ナトリウム、および/または酢酸カリウム、ならびにそれらの塩および誘導体から選択される、方法。
(項目36)
項目32に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物と前記架橋反応添加剤との重量パーセント比が約10:1〜約10,000:1である、方法。
(項目37)
項目36に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物と前記架橋反応添加剤との重量パーセント比が約20:1〜約1000:1である、方法。
(項目38)
項目31に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記有機ポリマーがポリ(アリーレンエーテル)であり、mが1であり、nが0であり、該ポリマーが、下記式(I):
【化32】
の構造を有する反復単位を含有する、方法。
(項目39)
項目26に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記架橋化合物が下記からなる群から選択される構造を有する方法:
【化33-1】
【化33-2】
(項目40)
項目26に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アレーン部分が約1,000g/mol〜約9,000g/molの分子量を有する、方法。
(項目41)
項目40に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、前記アレーン部分が約2,000g/mol〜約7,000g/molの分子量を有する、方法。
(項目42)
項目1に記載のエラストマー材料を調製する方法であって、該方法が、前記架橋有機ポリマーを含有する組成物を形成する工程、および該組成物を加熱して成形品を形成する工程をさらに含み、工程(c)が、該成形品を、該架橋有機ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度における使用状態に置く工程をさらに含む方法。
(項目43)
項目26に記載の方法によって形成される物品。
(項目44)
Oリング、Vリング、Uカップ、ガスケット、シールスタックの少なくとも1つの構成要素、パッカーエレメント、ダイアフラム、フェースシール、ベアリング、バルブシート、アダプタ、ワイパーリング、シェブロン・シール・バックアップ・リング、チュービングからなる群から選択される項目43に記載の物品。
【図面の簡単な説明】
【0039】
前記概要ならびに下記の本発明の好ましい実施形態の詳細な説明は、添付の図面と共に読まれる場合に、より深く理解される。本発明を説明するために、現在好ましいとされる実施形態が図面に示されている。しかし、本発明は、示されている詳細な準備および手段に限定されるものではないと理解すべきである。図面について以下に説明する。
【0040】
【
図1】
図1は、本明細書の実施例1に記載されている架橋Ultura(商標)、FFKMおよびカーボン充填FFKMの分解曲線を示すための、G’と温度との関係を示すグラフ図である。
【0041】
【
図2】
図2は、400℃における8.1x10
6Paの剪断弾性率を有する架橋ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)材料および330℃における3.6x10
6の剪断弾性率を有するFFKMの分解曲線を示すための、G’と温度との関係を示すグラフ図である。
【0042】
【
図3】
図3は、実施例1の比較FFKMの分解温度またはそれを超える温度における、充填および非充填架橋ポリアリーレン系の弾性率を示すための、G’対温度を示すグラフ図である。
【0043】
【
図4】
図4は、純ポリフェニレンスルフィド(PPS)(上の曲線)、および実施例2における架橋化合物と組み合わせたPPS(下の曲線)の、平行平板レオロジーを示す粘度と温度との関係のグラフ図である。
【0044】
【
図5】
図5は、純PPS(上のバー)、PPS中8%の架橋化合物(中央のバー)および16%の架橋化合物の、射出成形タイプ1引張試験片形態の実施例2の試料の写真図である。
【0045】
【
図6】
図6は、実施例2の8%架橋化合物/PPS試料についての、経時プロットにおける20分でのGとG’の交差点を示すグラフ図である。
【0046】
【
図7】
図7は、実施例2の16%架橋化合物/PPS試料についての、経時プロットにおける約8分でのGとG’の交差点を示すグラフ図である。
【0047】
【
図8】
図8は、非充填FFKMゴムの試料と比較して、実施例2の8%および16%架橋化合物/PPS試料の比較弾性率を示すための、G’対温度のグラフ図である。
【0048】
【
図9】
図9は、実施例2のPPS/架橋試料のDSCスキャンを示すグラフ図であって、8%架橋化合物試料の低結晶性、および16%架橋化合物試料の測定不能結晶性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
発明の詳細な説明
本出願人は、室温で非エラストマーである架橋芳香族ポリマー、特に、架橋ポリアリーレンポリマーまたはポリフェニレンスルフィドの種類が、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度より高い温度の最終用途に使用した場合に、優れた機械的特性を維持しつつ本質的にエラストマーになることを見出した。従って、そのような材料は、FFKM材料が分解を受けうる条件を含む過酷条件および高温用途において使用することができる。本発明において使用される材料は、複雑な合成なしに架橋することができるので、架橋密度を、様々な最終用途のために調節することができる。該材料は、使用の際に良好な機械的特性を維持しつつ高温安定性を有する。熱安定性は主鎖から生じ、従って、高温最終用途において従来のFFKMより熱分解に対して有利である。
【0050】
本明細書において使用されている「高温」用途は、使用されている有機ポリマーとの関連の中で、下記の用途を包含するが、それらに限定されない:最終用途に使用される有機ポリマーのTgより約30℃高い温度を必要とし、好ましい実施形態において、ポリアリーレンポリマーまたはポリエーテルスルホンおよび同様の高温ポリマーを使用する最終用途、および、従来のFFKMが熱分解を受けうる温度、例えば、約330℃、好ましくは約340℃またはそれを超える温度における用途。「高Tg」材料は、約150℃またはそれを超えるTgを有する材料を包含し、「低Tg」材料は、約150℃未満のTgを有する材料を包含する。「高Tg」材料と「低Tg」材料との温度区別は緩やかであってよく、様々なTgレベルの材料が本発明から利益を受けうることを、当業者は本開示に基づいて理解しうる。
【0051】
エラストマー材料を調製する方法が本発明に含まれる。一実施形態において、第一工程において、室温で非エラストマーである芳香族ポリマーを準備する。「非エラストマー」とは、室温または標準条件下で挙動においてエラストマーでない1つ以上の材料を意味する。
【0052】
本明細書において使用されている「エラストマー」または「エラストマーの」という用語は、ポリマーのガラス転移温度より高い温度で非晶質であり、柔軟性および変形性を可能にし、変形後に該ポリマーの状態をかなりの程度回復することができるポリマーを指す。本発明におけるエラストマーまたはエラストマー材料は架橋鎖として形成され、該架橋鎖において、架橋結合は、エラストマーが、永久に変形されるのではなく、適用された応力が除去された際に元の形状を有意に回復することを可能にする。
【0053】
多くのエラストマー材料は、機械的特性、例えば、引張強度、曲げ強度、伸び率および弾性率を測定することによるだけでなく、変形後に回復する材料の能力を評価することによっても評価される。これに関連して評価される1つの特性は、耐圧縮永久歪性である。本明細書において使用されている「圧縮永久歪」は、変形圧縮荷重が除去された後に、歪んだままであり、その原形にもどらない材料の性質を指す。圧縮永久歪値は、材料が回復できない原歪みのパーセンテージとして表わされる。例えば、0%の圧縮永久歪値は、変形圧縮荷重の除去後に、材料がその原形に完全に戻ることを示す。逆に、100%の圧縮永久歪値は、材料が、適用された変形圧縮荷重から全く回復しないことを示す。30%の圧縮永久歪値は、原歪みの70%が回復したことを意味する。より高い圧縮永久歪値は、一般に、シール漏れの可能性を示唆し、従って、30%またはそれ未満の圧縮永久歪値がシーリング技術に好ましい。
【0054】
本発明において、室温で非エラストマーである芳香族ポリマーは、好ましくは、ポリアリーレンポリマーを包含する。単一の有機ポリマーを架橋させてもよく、または1つ以上の種類のそのような有機ポリマーを同時に架橋させてもよく、好ましくは、先ず、ポリマーを合わし、次に、合わしたポリマーを架橋化合物と反応させるか、または以下に詳しく記載するようにポリマー主鎖にグラフト鎖を有する有機ポリマーにおいて架橋を熱的に誘起することによって架橋しうる。
【0055】
少なくとも1つの有機ポリマーは、単独でまたは組み合わせて使用される多くの高ガラス転移温度有機ポリマーのいずれか1つ以上であってよく、その例は、下記の有機ポリマーであるが、それらに限定されない:ポリ(アリーレンエーテル)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリ(ベンズイミダゾール)、ポリアリーレート、液晶ポリマー(LCP)およびポリアラミド。好ましくは、架橋化合物との反応に付す前に、前記ポリマーは非官能化であり、即ち、それらは好ましくは化学的に不活性であり、ダウンホール工具製品または他の過酷最終用途におけるそれらの使用に不利益となりうるどのような官能基も担持していない。
【0056】
本発明の1つの好ましい実施形態において、有機ポリマーは、下記構造:
【化11】
[式中、Ar
1、Ar
2、Ar
3およびAr
4は、同じかまたは異なるアリールラジカルであってよく、例えば、架橋化合物のアレーン部分として先に挙げた基であってよく、m=0〜1.0、n=1−mである]
を有するポリマー反復単位を含有するポリ(アリーレンエーテル)である。
【0057】
より好ましくは、有機ポリマーは、nが0であり、mが1である前記一般構造に従った構造を有するポリ(アリーレンエーテル)であり、下記式(I)の反復単位を有し、好ましくは約10,000〜約30,000の数平均分子量(Mn)を有する:
【化12】
【0058】
さらに、好ましいポリマーは、本発明の範囲に含まれる少なくとも1個のグラフト鎖を有するポリアリーレン主鎖の、熱誘起架橋から形成しうる。そのような材料は米国特許第6060170号に記載されており、該特許は、そのようなポリマーの形成および得られる最終生成物の記載に関して、参照により本明細書に組み入れられる。該有機ポリマーは、同時係属出願PCT/US2011/061413と同様に架橋化合物の使用によって直接的に架橋させてもよく、または本明細書に詳しく記載されている架橋反応添加剤とさらに反応させることによって架橋させてもよい。
【0059】
本発明に使用するのに好適な架橋ポリアリーレン有機ポリマーは、例えば、高温ポリマー、Ultura(商標)としてGreene,Tweed and Co.,Inc.,Kulpsville,Pennsylvaniaから商業的に入手しうる。
【0060】
架橋化合物を使用する場合、本発明の特定の実施形態において、使用しうる架橋化合物は、単一の化合物であってもよく、または2つ以上のそのような架橋化合物の組合せであってもよい。従って、本発明は、単一の架橋化合物だけに限定されない。そのような架橋化合物を芳香族ポリマーと組み合わせて、本発明の架橋組成物を形成することができ、該組成物において、有機ポリマーは前記有機ポリマーのいずれかであってよい。好ましくは、架橋化合物は、下記式(II):
【化13】
[式中、Aは、10,000g/mol未満の分子量を有するアレーン部分であり、R
1は、ヒドロキシド(−OH)、アミン(−NH
2)、ハライド、エーテル、エステルまたはアミドであることができ、xは、約2.0〜約6.0である]
の構造を有する。
【0061】
前記架橋化合物上のアレーン部分Aは、例えば下記構造を包含するがそれらに限定されないより複雑な架橋化合物構造を形成するための、架橋部位を与える:
【化14-1】
【化14-2】
【化14-3】
【0062】
アレーン部分Aは、下記構造(XIIa〜XIIj)を包含するがそれらに限定されない種々の構造を有するように変化させうる:
【化15】
【0063】
アレーン成分Aは、最も好ましくは、4,4’−ビフェニルまたは下記式:
【化16】
のジラジカルである。
【0064】
アレーン成分Aは、必要に応じて、1個以上の官能基(例えば、スルフェート、ホスフェート、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、ハライドまたはメルカプトであるがそれらに限定されない)を使用して官能化されていてもよい。
【0065】
好ましい実施形態において、架橋化合物は9,9’−(ビフェニル−4,4’−ジイル)ビス(9H−フルオレン−9−オール)である。
【0066】
本発明の架橋化合物として使用するのに好ましいジオール構造を以下に示す:
【化17】
【0067】
好ましい有機ポリマーは、Ultura(商標)のような市販材料、および前記のような、ポリエーテルエーテルケトン、高温ポリエーテルエーテルケトン、架橋性グラフトポリアリーレンエーテル、1,4−ポリアリーレンエーテルおよび類似ポリマーを包含する。必要に応じて、非晶質ポリアリーレン、例えばメタおよびオルト配向性の非晶質ポリエーテルエーテルケトンを使用して、より低い温度、例えば約150℃〜約160℃においてもエラストマー特性を与えることができる。1,4−ポリアリーレンエーテルを使用して、約100℃の範囲のより低いガラス転移温度を得ることができる。ポリフェニレンスルフィドも、同様のガラス転移温度のために使用することができる。
【0068】
種々の配向性の様々な1,4−ポリエーテルエーテルケトンの例を以下に示す:
【化18】
前記の上の構造(XIII)は、パラ−ヒドロキノンモノマーを使用して形成される市販のポリエーテルエーテルケトンを表わす。前記の中央(XIV)および下(XV)の構造は、それぞれ、オルト−PEEKおよびメタ−PEEKを表わす。本発明に使用するのに好ましい高温市販ポリアリーレンエーテル有機ポリマーも以下に示す:
【化19】
低Tg材料、即ち約150℃未満のTgを有する材料の用途であって、該用途において、そのような材料をエラストマー材料として使用することができ、より高い温度用途において本発明から利益を得ることができる用途は、好ましくは、低Tg材料のTgより約30℃またはそれを超える温度を有する最終用途である。同様に、高Tg材料、即ち約150℃またはそれを超えるTgを有する材料の用途であって、該用途において、そのような材料をエラストマー材料として使用することができ、より高い温度用途において本発明から利益を得ることができる用途は、好ましくは、高Tg材料のTgより約30℃またはそれを超える温度を有する最終用途である。
【0069】
低Tg用途において、1,4−ポリアリーレンエーテルにおけるようなポリアリーレンエーテルが下記(XVI)に示され、これは約90℃のTgを有する。ポリフェニレンスルフィドは、ポリアリーレンエーテルと同様の構造(XVII)およびガラス転移温度を有し、従って、両方とも同様のエラストマー特性を生じる。しかし、チオエーテル結合は、ポリアリーレンエーテルにおけるようなエーテル結合より低い耐酸化性であるので、高酸化環境のためには、ポリフェニレンエーテルが、耐酸化性エラストマー組成物のための好ましいベースポリマーでありうる:
【化20】
【0070】
架橋化合物は、例えば、ハロゲン化アレーンをアルキルリチウムで処理して、ハロゲンをリチウムと交換し、次に、9−フルオレノンおよび酸を添加することによって形成することができる。この形成方法は、同時係属国際特許出願第PCT/US2011/061413号においてより詳しく説明され提示されており、該出願は、架橋化合物の形成方法に関する関連部分について、参照により本明細書に組み入れられる。
【0071】
有機ポリマーを含有する架橋組成物は、前記のような架橋反応添加剤も任意に含有しうる。1つ以上のそのような添加剤を与えてよい。架橋反応添加剤は、架橋化合物のオリゴマー化を促進することができる有機酸および/またはアセテート化合物を包含する。一実施形態において、オリゴマー化は、1つ以上の有機酸(氷酢酸、酢酸、蟻酸、乳酸、クエン酸、蓚酸、尿酸、安息香酸および類似化合物を包含する)を使用して酸触媒作用によって行うことができる。先に列挙した架橋化合物の1つを使用するオリゴマー化反応は、以下の通りである:
【化21】
【0072】
他の実施形態において、無機アセテート化合物、例えば、下記式(XI):
【化22】
[式中、Mは、第I族金属または第II族金属である]
の構造を有する無機アセテート化合物を、有機酸の代わりに、または有機酸と組み合わせて、使用してもよい。式(XI)におけるR
2は、好ましくは、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であってよい。例えば、R
2は、1〜約15個の炭素原子を有する炭化水素基であってよく、該炭化水素基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、エテニル、プロペニル、ブテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル等の、直鎖および異性体型を包含する。R
2は、0〜約5個のエステル基またはエーテル基を、炭化水素基の鎖に沿ってまたは鎖の中に有してもよい。好適なR
2は、アリール基およびアラルキル基であって、それらの基はフェニル、ナフチルおよび類似の基に基づくアリール基およびアラルキル基を包含し、それらの基はそれぞれ、アリール構造上に、0〜約5個の炭素原子を有する任意低級アルキル基を含有しうる。R
2は、必要に応じて、0〜約5個の官能基、例えば、スルフェート、ホスフェート、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、ハライド、メルカプトおよび/またはカリウムを、構造上にさらに含有しうる。
【0073】
アセテート化合物での架橋化合物のオリゴマー化は、有機酸を添加した場合に得られるのと同じ反応生成物であるオリゴマー化架橋組成物を与えることができる。架橋反応添加剤は、酢酸リチウム水和物、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、酢酸フランシウム、酢酸ベリリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、および/または酢酸ラジウム、ならびにそれらの塩および誘導体であってよい。より好ましくは、架橋反応添加剤は、酢酸リチウム水和物、酢酸ナトリウムおよび/または酢酸カリウム、ならびにそのような化合物の塩および誘導体である。1つの架橋化合物を使用するオリゴマー化反応は、下記のように進めることができる:
【化23】
【0074】
架橋組成物は、架橋化合物および架橋反応添加剤の両方を該組成物中に含有する場合、最良の結果を得るために、好ましくは約10:1〜約10,000:1、より好ましくは約20:1〜約1000:1の架橋化合物と架橋反応添加剤との重量パーセント比を有する。本発明に使用するための架橋組成物の作製において、一実施形態において、有機ポリマーの添加前に前記成分を合わして、有機ポリマー組成物を作製し、次に、その組成物を架橋のために反応させる。または、それらを全て同時に合わしてもよい。そのような反応添加剤は、より良好な結果を得るために、反応速度を調節し、反応を遅らせるために、ポリアリーレンエーテルと共に使用するのに好ましい。
【0075】
そのような架橋組成物に使用される架橋化合物を含有するそのような組成物において、架橋化合物は、架橋組成物の重量に基づいて、好ましくは約70wt%〜約98wt%、より好ましくは約80wt%〜約98wt%、最も好ましくは約85wt%〜約98wt%である。架橋反応添加剤が使用される場合、架橋組成物中の架橋反応添加剤の量は、好ましくは約2wt%〜約30wt%、より好ましくは約2wt%〜約20wt%、最も好ましくは約2wt%〜約15wt%である。そのような有機ポリマー組成物において、有機ポリマーと、架橋化合物および架橋反応添加剤の合計重量(両方が共に使用される場合)との重量パーセント比は、最良の結果を得るために、好ましくは約1:1〜約100:1、より好ましくは約3:1〜約10:1である。
【0076】
架橋のための有機ポリマー組成物の作製において、架橋化合物および架橋反応添加剤成分を、有機ポリマーの添加前に合わして、有機ポリマー組成物を形成するのが好ましい。
またはそれらを全て同時に合わしてもよい。
【0077】
有機ポリマー組成物中の架橋化合物の量は、架橋化合物、架橋反応添加剤および有機ポリマーを含有する非充填有機組成物の総重量に基づいて、好ましくは約1wt%〜約50wt%、より好ましくは約5wt%〜約30wt%、最も好ましくは約8wt%〜約24wt%である。
【0078】
有機ポリマー組成物中の架橋反応添加剤の量は、架橋化合物、架橋反応添加剤および有機ポリマーを含有する非充填有機ポリマー組成物の総重量に基づいて、好ましくは約0.01wt%〜約33wt%、より好ましくは約0.1wt%〜約10wt%、最も好ましくは約0.2wt%〜約2wt%である。
【0079】
有機ポリマー組成物中の有機ポリマーの量は、架橋化合物、架橋反応添加剤および有機ポリマーを含有する非充填有機ポリマー組成物の総重量に基づいて、好ましくは約50wt%〜約99wt%、より好ましくは約70wt%〜約95wt%、最も好ましくは約75wt%〜約90wt%である。
【0080】
有機ポリマー組成物は、架橋の前に配合によってさらに充填および/または強化してもよく、該ポリマー組成物を使用して形成される複合品および他の完成品の弾性率、衝撃強度、寸法安定性、耐熱性および電気特性を向上させるために、1つ以上の添加剤を含有してもよい。エラストマー最終用途を考慮した場合に、本明細書に記載のいくつかの充填剤は当業者に既知であるように最小限にしうるかまたは省きうることに留意して、これらの添加剤は、当分野で既知であるかまたは開発されるあらゆる好適かつ有用な添加剤であることができる。本発明に使用するための充填剤の例は、下記充填剤を包含するが、それらに限定されない:連続または非連続の長いまたは短い強化繊維、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、ガラス繊維織物、炭素繊維織物、アラミド繊維、ホウ素繊維、PTFE繊維、セラミック繊維、ポリアミド繊維など;および/または1つ以上の充填剤、例えば、カーボンブラック、シリケート、繊維ガラス、硫酸カルシウム、ホウ素、セラミック、ポリアミド、アスベスト、フルオログラファイト、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、ボラックス(ホウ酸ナトリウム)、活性炭、パーライト、テレフタル酸亜鉛、グラファイト、タルク、マイカ、炭化ケイ素ウィスカまたはプレートレット、ナノフィラー、二硫化モリブデン、フルオロポリマー充填剤、カーボンナノチューブおよびフラーレンチューブ。好ましくは、添加剤は、強化繊維、例えば、連続または不連続の長いまたは短い炭素繊維、PTFE繊維、および/またはガラス繊維を包含する。
【0081】
架橋のための有機ポリマー組成物の作製において、オリゴマー化架橋組成物(または組み合わしたそれの成分)を有機ポリマーと合わして有機ポリマー組成物を作製するのと共にまたはほぼ同時に、1つ以上の添加剤を該有機ポリマー組成物に添加するのが好ましいが、強化充填剤または他の充填剤を与える方法は、そのような材料を組み込む様々な方法に従ってもよく、本発明の範囲を限定するものではないと考えるべきである。添加剤の量は、有機ポリマー組成物の重量に基づいて、好ましくは約0.5wt%〜約65wt%、より好ましくは約5.0wt%〜約40wt%である。
【0082】
さらに、架橋される有機ポリマー組成物は、調製工程を補助するために、当分野で既知であるかまたは開発される安定剤、難燃剤、顔料、可塑剤、界面活性剤および/または分散剤を包含する他の配合成分をさらに含有しうる。有機ポリマー組成物の作製において、オリゴマー化架橋組成物(または組み合わしたそれの成分)を有機ポリマーと合わして有機ポリマー組成物を作製するのと共にまたはほぼ同時に、1つ以上の添加剤を該有機ポリマー組成物に添加するのが好ましいが、前記のように、そのような材料を与える方法は、様々な方法に従ってもよく、本発明の範囲を限定するものではないと考えるべきである。
【0083】
配合成分が使用される場合、有機ポリマー組成物に組み込むことができる配合成分の量(そのような成分の合計量)は、有機ポリマー組成物の重量に基づいて、好ましくは約5wt%〜約60wt%、より好ましくは約10wt%〜約40wt%、最も好ましくは約30wt%〜約40wt%である。本発明の有機ポリマーを本開示に従って最終用途材料の主鎖として使用した場合に、該有機ポリマーは一般に本質的により強いので、FFKMの強化に従来関連していた充填剤の必要性は一般に最小限にしうることを理解すべきである。
【0084】
前記のような少なくとも1つ以上の有機ポリマーおよび1つ以上の架橋化合物、ならびにいくつかの実施形態においてはさらに1つ以上の架橋反応添加剤を含有する本明細書に記載の架橋組成物を作製した後に、得られた架橋組成物を加熱して、架橋化合物のオリゴマー化を誘起する。前記方法の一実施形態において、オリゴマー化が酸触媒作用によって起こる。酸触媒作用は、有機酸が架橋添加剤として使用される場合に使用される。式(II)の架橋化合物のR
1官能基が、化合物の残部から解離されて、カルボカチオンを与え、次に、該カルボカチオンが有機ポリマーのフリーデル・グラフツアルキル化を受けることができ、その結果、結合形成を生じる。架橋化合物のオリゴマー化は、ドーピングによって起こりうる。ドーピングは、下記によって行われる:全組成物を硬化のために反応させかつ/または得られた組成物を熱成形して物品を形成する前に、組成物中の固体形態の反応物を約−100℃〜約−300℃の低温で物理的に混合する。
【0085】
反応したオリゴマー化架橋組成物を有機ポリマーに添加して、架橋性組成物を形成することも、任意に本発明の範囲に含まれる。非修飾架橋化合物を有機ポリマーに直接添加し、架橋反応添加剤とブレンドして、オリゴマー化および有機ポリマーへの結合を同時に行ってもよい。反応性オリゴマー化架橋化合物が有機ポリマーと反応した時点で、架橋反応添加剤(使用される場合)の使用が、ある特定芳香族ポリマー、特にポリアリーレンエーテルのための有機ポリマーの架橋の速度を調節するのを補助し、それによって、先行技術架橋組成物を含有するそのような有機ポリマー組成物において同じ架橋化合物を使用するが架橋反応添加剤は使用しないで起こる架橋速度と比較して、硬化工程のより遅い時点で架橋が起こる。その結果、鋳型の完全充填、および様々な熱成形法の間に複合ポリマーから形成されるより優れた最終熱成形/押出等の製品を生じる。
【0086】
化合物が前記のように架橋されて、充填または非充填であってよい架橋芳香族ポリマーを形成する。
【0087】
架橋芳香族ポリマーは、好ましくは、該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度に加熱される。この温度は、架橋有機ポリマーの性質によって変化しうる。好ましいポリアリーレンポリマーの場合、ガラス転移温度は約80℃〜約350℃、より好ましくは約100℃〜約280℃である。加熱は、意図的に行ってもよくまたは最終使用用途(高温用途の場合がある)における熱の適用によって行なってもよいが、架橋が、実質的に行われ(即ち材料が実質的に硬化されている)、より好ましくは、高温最終用途における使用の前に完了しているのが好ましい。本明細書において使用されている「実質的に硬化されている」とは、材料をその最終用途に使用した場合に、該材料の潜在的エラストマー特性に強い影響を及ぼさない程度に硬化されている、好ましくは、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは100%まで可能限り完全に硬化されていることを意味する。
【0088】
さらに、前記架橋有機ポリマーを含有する組成物を形成した後に、該組成物を加熱して成形品を形成することが好ましい。それを行う例は、本発明の有機ポリマー組成物の粉末を形成し、該粉末をペレットにし、次に、該ペレットを熱成形工程に付すことを包含するが、それに限定されない。有機ポリマー組成物の熱成形は、押出、射出成形、圧縮成形、および/または射出/圧縮成形を包含する当分野で既知のまたは開発される種々の方法によって行うことができる。本発明の有機ポリマー組成物のペレットは、例えば、ホットスプルーを含むコールドランナーシステムを有するArburg(登録商標)38トン射出成形機で射出成形することができる。
【0089】
製品を形成するための熱成形は、熱硬化、高エネルギーの適用による硬化、熱硬化、プレス硬化、蒸気硬化、加圧硬化、e−ビーム硬化、および方法の任意組合せによる硬化等を包含するがそれらに限定されない当分野で既知のまたは開発される任意の方法によって行ってよい。必要に応じて、後硬化処理も適用しうる。本発明の有機ポリマー組成物は、該組成物を、約250℃〜約500℃より高い、より好ましくは約350℃〜約450℃より高い温度に暴露することによって硬化される。
【0090】
前記の組成物および/または方法は、石油化学工業に使用されるダウンホール工具および用途における使用のための製品中に、または該製品の調製のために、使用しうる。特に、該製品は、下記からなる群から選択される:エラストマーコーティングおよびフィルム、エラストマーカプセル化製品、絶縁体、パッキン、コネクタ、および従来エラストマーが高温により有用でない他の製品、例えば、下記の形のシーリングアセンブリ:Oリング、Vリング、Uカップ、ガスケット、シールスタック、パッカー、ダイアフラム、フェースシール、ベアリング、バルブシート、アダプタ、ワイパーリング、シェブロン・バックアップ・リング、およびチュービング。
【0091】
最終使用において、使用温度の最終適用は、架橋有機ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度であり、該ガラス転移温度は使用される材料に依存して変化しうる。本発明における架橋有機ポリマーは、下記のガラス転移温度を有する:架橋ポリアリーレンの場合は約80℃〜約300℃、架橋ポリスルホンの場合は約180℃〜約360℃、ポリエーテルスルホンの場合は約200℃〜約290℃、ポリイミドの場合は約200℃〜約380℃、ポリアミドの場合は約40℃〜約100℃、ポリウレアの場合は約−50℃〜約260℃、ポリウレタンの場合は約−65℃〜約100℃、ポリフタルアミドの場合は約80℃〜約130℃、ポリアミド−イミドの場合は約200℃〜約280℃、ポリ(ベンズイミダゾール)の場合は約180℃〜約300℃、ポリアリーレートの場合は約180℃〜約380℃、LCPの場合は約50℃〜約160℃、およびポリアラミドの場合は約170℃〜約250℃。
【0092】
前記の教示は、下記のような様々な他の実施形態に使用でき、該実施形態において、各成分は先に詳述したものと同様であってよい。エラストマー材料は、例えば、架橋芳香族ポリマーをそのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱することによって形成しうる。この実施形態において、芳香族ポリマーは、架橋化合物および/または反応性架橋添加剤との反応によって架橋されるか、または米国特許第6060170号のような該芳香族ポリマーに結合したグラフト鎖を有する芳香族ポリマーの熱誘起架橋によって架橋される。
【0093】
前記のようなエラストマー物品も、下記によって形成しうる:架橋芳香族ポリマーを含有する前記のような組成物を熱成形して成形品を形成し、そして、該成形品を該架橋芳香族ポリマーのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱する。芳香族ポリマーは、前記のような架橋化合物および/または反応性架橋添加剤との反応によって架橋されるか、または該芳香族ポリマーに結合したグラフト鎖を有する芳香族ポリマーの熱誘起架橋によって架橋される。
【0094】
エラストマー材料は、室温で非エラストマーの芳香族ポリマーを準備し、それを架橋化合物および/または架橋反応添加剤と合わせることによって形成しうる。次に、架橋化合物および任意の架橋反応添加剤(別々に添加されるか、またはオリゴマーに形成される)を、該芳香族ポリマーと合わせて、架橋芳香族ポリマーを形成し、該架橋芳香族ポリマーはそのガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱した場合にエラストマーになる。
【0095】
エラストマー用途において有機ポリマーを使用する方法を含む実施形態も本発明の範囲に含まれる。架橋化合物を使用して有機ポリマーを架橋させて、架橋有機ポリマーを形成するが、米国特許第6060170号の熱誘起グラフト法を使用して調製することもできる。次に、架橋ポリマーがエラストマーになるように、該架橋ポリマーを使用の際にガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱する。架橋有機ポリマーを成形品に成形することもでき、次に、該成形品を使用状態に置いて、該成形品が高温最終用途での使用の際に該成形品に適用される熱に曝されるようにし、それによって架橋ポリマーがガラス転移温度またはそれを超える温度で加熱されて、材料をエラストマーにする。
【0096】
本発明を、以下の非限定的実施例に関してさらに説明する。
【実施例】
【0097】
実施例1
一般に、有機ポリマーの自己架橋において、または非修飾架橋化合物を含有する有機ポリマー組成物、例えばポリアリーレン組成物において、架橋の形成は、約380℃(ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の一般的加工温度)で約2分以内に完了しうる。この反応の程度は、動的粘度測定によって追跡することができる。該方法は、本出願人の同時係属米国非仮出願第14/165497号に記載されている。
【0098】
同様の測定を使用して、ゲル化点、温度(℃)に対するG’(Pa)を測定する場合に、分解点を示すことができる。Greene,Tweed & Co.,Inc.,Kulpsville,PAからの架橋Ultura(商標)ポリマーの試料の動的機械分析(レクタンギュラートーション)を行い、テトラフルオロエチレン(TFE)、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)および硬化部位モノマー(一般的なペルオキシド硬化性FFKM材料の形成のための当分野で周知のペルオキシド硬化剤および共硬化剤との架橋を可能にする官能基を有する)の充填および非充填ペルオキシド硬化性ターポリマーと比較した。
【0099】
図1から分かるように、形成されたFFKM材料の激しい分解が350℃およびそれを超える温度(and above)起こり、一方、架橋Ultura(商標)材料は安定したままであった。これは、これらの温度におけるFFKMの弾性率の有意な低下によって示され、一方、Ultura試料の弾性率は、少なくとも400℃までの温度において維持されている。
【0100】
同様の結果が、400℃において8.1x10
6Paの剪断弾性率を有する架橋ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)材料を使用し、330℃において3.6x10
6の剪断弾性率を有するFFKMと比較して、
図2に示されている。
【0101】
前記架橋ポリアリーレンポリマーは、高温性能のエラストマー材料および最終製品を得るために、充填剤および架橋化合物および/または必要に応じて反応性架橋添加剤と配合することができる市販材料の使用を可能にする。架橋レベルは、前記の架橋化合物および/または反応性架橋添加剤(または前記の熱誘起法)を使用して調節することができ、使用される架橋添加剤の量を単に調節することによって、様々なエラストマー効果のためにより高いまたはより低い架橋密度を与えることができる。
【0102】
図1は、試験された非充填架橋ポリアリーレンの弾性率が、試験されたFFKM(充填剤添加または不添加)より高かったことを示す。本発明の架橋ポリアリーレンへの充填剤の添加は、既に有利な特性をさらに増加することを可能にしうる。
図3は、比較FFKMの分解温度またはそれを超える温度において、充填架橋ポリアリーレン系に関して試験した温度における、より高い弾性率を示す。
【0103】
添付の
図1〜3における、試験された比較FFKMに対する相対的向上が、下記表1に示され、該表は、試験されたFFKMおよびポリアリーレンエーテル材料の比較剪断弾性率を示している。FFKMは350℃の温度で一般に分解するので、大部分のFFKMデータ点は287℃で記録されたことに留意すべきである。架橋ポリアリーレン材料特性は、350℃で測定された。
【表1】
【0104】
実施例2
この実施例において、架橋ポリフェニレンスルフィド(PPS)について試験を行い、該試験は、本明細書の式(II)に従って形成される架橋剤(特に、9,9’−(ビフェニル−4,4’−ジイル)ビス(9H−フルオレン−9−オール))の様々なレベルを有するPPSを配合し、さらに該材料に結晶性が観察されず該材料がゴムのように挙動するように該材料を硬化させることを目的として行われた。
【0105】
高性能エラストマー材料の一般的な架橋密度は3〜7%である(参照:Klingender,R.C.,Ed.;In Handbook of Specialty Elastomers;CRC Press:Boca Raton,FL 2008,102)。108の反復単位重量を有し、9,9’−(ビフェニル−4,4’−ジイル)ビス(9H−フルオレン−9−オール)を架橋化合物(514の反復単位重量)として含有するPPSについて、下記表2に示されているパーセンテージの混合物が、1.8%〜6.6%の範囲のモル比を生じた(ここで、モルは100グラムバッチに基づいて算出された)。従って、PPSと前記架橋化合物との配合を、2〜7%の範囲の架橋パーセンテージ(計算される100グラム試料中のPPSの反復単位のモル濃度に基づく)を生じるために必要とされる量を使用するように決定した。
【表2】
【0106】
手順: 高分子量PPS粉末を、16wt%の量の架橋化合物とSPEXフリーザーミルで混合した。約20mgの粉末混合物を、手動Carver(登録商標)液圧プレスにおいて、5トンの加圧力で圧縮して、直径8mmのタブレットにした。8mmの平行平板レオロジー測定をタブレット上で行って、適切な硬化温度を決定した(
図4参照)。変曲点および粘度の有意な増加に基づいて、380℃より高い温度で硬化が起こると考えられた。
図4参照;該図は、上の曲線において純PPS、下の曲線においてPPSと架橋化合物の平行平板レオロジーを示している。純PPSの粘度のゆるやかな減少、および370℃より高い温度における架橋PPSの粘度の急激な増加があったことに注目すべきである。
【0107】
材料: PPS:高分子量市販グレードのPPS(Fortron(登録商標)、Celeneseより)を使用した。架橋化合物は、99.9%の純度の実施例1と同じ架橋化合物であった。PPS中に8%、16%および24%の架橋化合物の混合物を、Thermo Haake(商標)押出機で、>295℃の融解温度において、インライン配合によって調製した。各試料の重量は以下の通りである:
・PPS=1860グラム
・PPSおよび8%架橋化合物=2105グラム
・PPSおよび16%架橋化合物=2043グラム
・PPSおよび24%架橋化合物=2025グラム
【0108】
純PPS、PPSと8%架橋化合物、およびPPSと16%架橋化合物のペレットを、Arburg(商標)38トン射出成形機で試験片に射出成形し、>310℃の温度で処理した。PPS中に24%の架橋化合物の混合物は、高ジオール含有量が架橋速度を増加させ、試験片の射出成形を容易に可能にしなかったので、容易射出成形可能でなかった。
【0109】
図5は、純PPS(上のバー)、PPS中8%の架橋化合物(中央のバー)、およびPPS中16%の架橋化合物の、射出成形タイプ1引張試験片の写真図である。
【0110】
前記引張試験片からの試料を、8mmの円板にカットし、380℃に60分間維持することによって平行平板レオロジーにより試験した。
【0111】
後硬化試験を380℃の温度で1時間行い、該試験は、8%架橋化合物/PPS試料の射出成形引張試験片からカットした8mmの円板において行った。
図6は、8%架橋化合物/PPS試料について、経時的にプロットされたGとG’の交差点を示し、該交差点は20分で生じた。同じ試験を、16%架橋化合物/PPS試料について行った。
図7は、16%架橋化合物/PPS試料について、経時的にプロットされたGとG’の交差点を示し、該交差点は約8分で生じた。
【0112】
次に、硬化材料を温度勾配によって分析して、温度に対する弾性率特性(ゴム状平坦域における弾性率を含む)を決定した。
【0113】
図8は、非充填FFKMゴムの試料と比較した、8%および16%架橋化合物/PPS試料の比較弾性率を示している。プロットは、100℃〜180℃の温度における8%試料の第二弾性率平坦域を示し、これはいくらかの結晶性を示している。16%プロットは、150℃より高い温度におけるゴム状挙動を示している。この試験は8mmの円板試料のDMAを使用して行った。
図8において、三角は8%試料を表わし、四角は16%試料を表わし、丸は非充填FFKM試料を表わす。下記表2は、異なる温度における比較弾性率を示す。
【表3】
【0114】
FFKMの弾性率に対する各試料の比較を示すために、弾性率比(FFKMに対して標準化)を下記表4に示す。
【表4】
【0115】
60分間の等温保持をFFKM試料において行い、その時点で弾性率が>99%低下し、該材料の激しい分解を示唆した。これと対照的に、試験されたPPS/架橋化合物試料は、60分間の等温保持後に安定した剪断弾性率を維持した。これは、硬化したPPS/架橋化合物系が、FFKMより強くかつ熱安定性であることを強く示唆している。
【0116】
図9は、8%および16%架橋化合物を含有する2つのPPS試料の熱挙動を示すDSCスキャンである。DSCは、8%試料における低結晶性、および16%試料における測定不能結晶性を示した。結晶性を、下記表5に関して説明する。
【表5】
【0117】
前記データに関して、103.8J/gが100%結晶性PPSの融解熱であることに留意。要約すれば、結果は、約8%〜約24%の範囲の架橋化合物が、PPSと充分に配合されたことを示した。しかし、PPS中約24%の量は容易に射出成形可能ではなく、成形された場合は16%ブレンドより高いTgを有しうる。
【0118】
PPS中8%架橋化合物は、低レベルの結晶性を示したにすぎず、これは好ましくはないが改善点である(いくらかの融解がTg〜300℃の温度範囲で起こりうるので好ましくない)。PPS中16%架橋化合物は、120℃程度のTgを示し、結晶性を示さなかった。従って、それは130℃〜380℃、および400℃を超える分解温度まで、挙動においてエラストマーでありうる。比較において、FFKMエラストマーは、16%架橋化合物/PPS試料より低い弾性率対温度および低い熱安定性を有し、該試料は、試験された最高性能試料および最適PPS化合物であった。この配合物は、付形物の射出成形を可能にし、標準FFKMと比較して、優れた熱安定性およびエラストマー特性を有する材料を生じた。
【0119】
この実施例に示されているそのような材料、ならびに本発明および本明細書の開示に従って作製される他の材料は、きつい化学薬品および/操作条件への耐性を有するエラストマー材料を必要とする高温最終用途に曝露される前記のような多種多様な最終用途に使用することができる。そのような材料は、形状変更ポリマーとしての用途も有し、該用途において、材料が該材料のガラス転移温度より高い温度に加熱され、再びガラス転移温度より高い温度に加熱されるまで伸長状態を維持するように冷却される。そのような方法は他のポリマーに適用することもでき、それによって、材料に様々なガラス転移温度を与えることができ、または所定ポリマー、例えば1,4−ポリアリーレンエーテル(約90℃のガラス転移温度を有する)またはポリフェニレンスルフィド(これも約90℃のTgを有する)のエラストマー使用範囲を広げるために種々の融点を与えることができ、エラストマーは、その材料を使用しそれを架橋して形成することができ、約100℃〜約120℃のガラス転移温度を与え、架橋からの結晶性を減少させ、それによって該材料を約140℃およびまたはそれを超える温度でエラストマーとして使用しうるようにする。溶剤および可塑剤を使用して、本発明の架橋材料のガラス転移温度の降下および結晶性の抑制を可能にすることもでき、それによって材料のガラス転移温度をより低い範囲に変化させることができる。
【0120】
前記実施形態の広い発明概念を逸脱せずに、前記実施形態に変更を加えうることは当業者に理解される。従って、本発明は、開示されている特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって限定される本発明の趣旨および範囲に含まれる改変を包含するものとする。