(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6456919
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】複数のケージセグメント内に配置された転動体を備えたころがり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/37 20060101AFI20190110BHJP
F16C 33/46 20060101ALI20190110BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20190110BHJP
F16C 19/40 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
F16C33/37
F16C33/46
F16C19/26
F16C19/40
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-506993(P2016-506993)
(86)(22)【出願日】2014年4月11日
(65)【公表番号】特表2016-515689(P2016-515689A)
(43)【公表日】2016年5月30日
(86)【国際出願番号】EP2014057409
(87)【国際公開番号】WO2014167107
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2017年4月11日
(31)【優先権主張番号】102013206347.4
(32)【優先日】2013年4月11日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509015590
【氏名又は名称】アクツィエブーラゲート エスケイエフ
【氏名又は名称原語表記】Aktiebolaget SKF
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】バオジュ リアン
(72)【発明者】
【氏名】イェスコ−ヘニング タンケ
【審査官】
星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/076583(WO,A2)
【文献】
特開2007−198589(JP,A)
【文献】
特開2007−170571(JP,A)
【文献】
特開2012−077882(JP,A)
【文献】
特開2007−146896(JP,A)
【文献】
特表2009−537772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの内レース(2)と少なくとも1つの外レース(3)とを備えたころがり軸受(1)であって、両軸受レース(2,3)の間に、所定の直径(Dw)を有する複数の転動体(4)が配置されており、該転動体(4)は、ケージによって保持されていて、該ケージは、複数のケージセグメント(5)から成っており、各ケージセグメント(5)は、フレーム形の構造体から成っており、該構造体において複数の側部の画定壁(6,7,8)が、1つの転動体(4)のための収容ポケット(9)を形成しており、該収容ポケット(9)は、当該ころがり軸受(1)の負荷のない状態で当該ころがり軸受(1)のピッチ円において、前記収容ポケット(9)の、前記転動体(4)に向いた側面(11,12)と、前記収容ポケット(9)によって収容された転動体(4)との間に、当該ころがり軸受(1)の周方向における遊び(c)が存在するように、寸法設定されており、
1つのケージセグメント(5)がその収容ポケット(9)で1つの転動体(4)を収容し、該転動体(4)に周方向(U)において接続する転動体(4′)が、ケージセグメント(5)によって保持されておらず、その結果、収容ポケット(9)内に位置している転動体(4)と、収容ポケット(9)内に位置していない転動体(4′)とが、周方向(U)において交互に配置されており、
前記ケージセグメント(5)は、周方向(U)において隣接する各1つの転動体(4′)のための2つの当接面(13)を有しており、
前記遊び(c)は、当該ころがり軸受(1)の軸方向で見た各断面において、
cmax≧c≧cminであるという関係を満たしていて、このとき
cmin=0.01*Dw−0.5mmでかつ
cmax=0.02*Dw−0.4mmで、
前記転動体(4)の前記直径(Dw)は少なくとも50mmであり、
当該ころがり軸受(1)における遊びが該ころがり軸受(1)のピッチ円(10)において、前記ケージセグメント(5)の前記当接面(13)と、周方向(U)において前記ケージセグメント(5)に隣接する前記転動体(4′)との間に均一に分配されている場合、全遊び(x)が当該ころがり軸受(1)の周方向(U)に存在しており、
前記収容ポケット(9)の前記側面(11,12)と前記収容ポケット(9)に収容された転動体(4)との間における遊び(c)と、前記ケージセグメント(5)の前記当接面(13)と周方向(U)において前記ケージセグメント(5)に隣接する前記転動体(4′)との間における前記全遊び(x)との間に、
c<0.2x
という関係が存在し、
前記ケージは、前記ケージセグメントに対する隣接した前記転動体からの負荷が所定の値を上回った場合に、前記ケージが変形し、前記収容ポケットの内部における前記転動体が前記ケージセグメントによってクランプされるように構成されている
ことを特徴とする、ころがり軸受。
【請求項2】
前記ケージセグメント(5)は転動体によって案内されている、請求項1記載のころがり軸受。
【請求項3】
前記ケージセグメント(5)は転動軌道によって案内されている、請求項1記載のころがり軸受。
【請求項4】
前記ケージセグメント(5)は縁部もしくは肩部によって案内されている、請求項1記載のころがり軸受。
【請求項5】
前記ケージセグメント(5)は一体のプラスチック成形品として形成されている、請求項1から4までのいずれか1項記載のころがり軸受。
【請求項6】
当該ころがり軸受は、円筒ころ軸受である、請求項1から5までのいずれか1項記載のころがり軸受。
【請求項7】
当該ころがり軸受は、円錐ころ軸受である、請求項1から5までのいずれか1項記載のころがり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの内レースと少なくとも1つの外レースとを備えたころがり軸受であって、両軸受レースの間に、所定の直径を有する複数の転動体が配置されており、該転動体は、ケージによって保持されていて、該ケージは、複数のケージセグメントから成っており、各ケージセグメントは、フレーム形の構造体から成っており、該構造体において複数の側部の画定壁が、1つの転動体のための収容ポケットを形成しており、該収容ポケットは、当該ころがり軸受の負荷のない状態において当該ころがり軸受のピッチ円に、収容ポケットの、転動体に向いた側面と、収容ポケットによって収容された転動体との間に、当該ころがり軸受の周方向における遊びが存在するように、寸法設定されている、ころがり軸受に関する。
【0002】
このようなころがり軸受は、国際公開第2012/076583号に基づいて公知である。古典的な一体の軸受ケージの代わりに、ここではケージは複数のケージセグメントによって形成される。この公知の構成には、大きな円錐ころ軸受のための特に良好な適性が得られ、かつここで生じる負荷を特に良好に受け止めることができるという利点がある。さらに個々のケージセグメントは良好に取り付けることができ、同時にケージ重量を僅かにすることができる。ケージセグメントの構成は、転動体の確実な収容と転動体におけるケージセグメントの確実な案内とを可能にする。このときケージセグメントは、規定通りの使用時には互いに接触せず、つまりケージセグメントは互いに結合されていない。
【0003】
別の類似のかつ他の解決策は、米国特許出願公開第2012/0082409号明細書、独国特許出願公開第102006022951号明細書、独国第112009002624号翻訳文、独国実用新案第202008017091号明細書、独国特許出願公開第10246825号明細書、独国特許出願公開第3114325号明細書及び特開2012−26534号公報に開示されている。
【0004】
このとき上に述べたセグメントに分けられたケージは、特に大型軸受では、有効であることが実証されている。ケージセグメントと隣接した転動体との間には、運転時において様々な力が発生する。これらの力は、ころがり軸受の運転状態に関連して、動的な力及び静的な力である。
【0005】
可能な限り多くの転動体を使用できるようにするために、ケージセグメントは、可能な限り薄壁であることが望ましい。しかしながら壁を薄くすることは、ケージが上に述べた力によって損傷することが許されないことにより制限されている。
【0006】
ゆえに本発明の課題は、冒頭に述べた軸受を、上に述べた欠点を排除できるように改良することである。従ってケージセグメントは、一方では、可能な限り多数の転動体を軸受内において収容できるようにするために、周方向において小さく保たれ得るように構成されることが望まれている。しかしながらまた他方では、ケージセグメントは、高負荷が作用する運転状態においても軸受の転動特性に対して不都合な影響が生じないように構成されることが望まれている。これによって全体として、ころがり軸受の改善された転動特性が得られるようになる。
【0007】
この課題を解決するために本発明の構成では、
遊びは、ころがり軸受の軸方向で見た各断面において、
cmax≧c≧cminであるという関係を満たしていて、このとき
cmin=0.01*Dw−0.5mmでかつ
cmax=0.02*Dw−0.4mmで、
転動体の直径は少なくとも50mmであるようにした。
【0008】
このように構成されていると、遊び(単位mm)は、直径が転動体の軸方向長さにわたっていずれにせよ(円筒ころ軸受の場合のように)一定でない限りは、軸方向で見た各断面において転動体の直径Dw(単位mm)に基づいて、確定された範囲において生じる。転動体の直径Dwは、前記係数(0.01もしくは0.02)を掛けられて、前記それぞれの値(0.5mmもしくは0.4mm)を減じられ、これによって最小の遊びと最大の遊びを得ることができる。
【0009】
このと
き、ケージセグメントがその収容ポケットで転動体を収容し、該転動体に周方向において接続する転動体が、ケージセグメントによって保持されておらず、その結果、収容ポケット内に位置している転動体と、収容ポケット内に位置していない転動体とが、周方向において交互に配置されている。このときケージセグメントは、好ましくは、周方向において隣接する各1つの転動体のための2つの当接面を有している。
【0010】
一般的に、ころがり軸受における遊びが該ころがり軸受のピッチ円において、ケージセグメントの当接面と、周方向においてケージセグメントに隣接する転動体との間に均一に分配されている場合、全遊びがころがり軸受の周方向に存在している。収容ポケットの側面と収容ポケット内に収容された転動体との間における遊び(c)と、ケージセグメントの当接面と周方向においてケージセグメントに隣接する転動体との間における全遊び(x)との間に
、
c<0.2x
という関係が存在する。
【0011】
ケージセグメントは転動体によって、転動軌道によって又は縁部もしくは肩部によって案内されていていよい。
【0012】
ケージセグメントは、好ましくは一体のプラスチック成形品として形成されている。
【0013】
本発明による提案は、好ましくは、円錐ころ軸受又は円筒ころ軸受において使用される。
【0014】
本発明によるコンセプトは、ケージポケット内において空隙(Luft)を生ぜしめ、この空隙は、転動体の公称運転状態におけるケージの負荷時に、転動体がケージの内部において自由転動することができ、転動体を取り囲むケージによって挟まれることのないように調節されている。これに対して、著しく高い負荷を伴うまれに生じる運転状態では、このような負荷によってケージが圧縮され、この際に転動体がその支持作用を発揮し、ケージを損傷に対して保護するようになっている。このような条件下における転動体の挟み込みは、このような現象がまれにしか生じないこと及びその発生時間が短いことに基づいて、軸受のさらなる運転特性に対して不都合な影響を及ぼすことはない。従って、比較的小さな全体寸法でも、極端な運転状態に対してより高い安全性が得られる。
【0015】
転動体はケージセグメント面のポケットの内部に、軸受の周方向において確定された空隙(c)を有している。この空隙は、ケージセグメントに対して作用する負荷が特定の値を上回った場合に、収容ポケット内に位置する転動体とケージセグメントとの間における接触が発生し、これにより追加的な支持作用が生じてケージの力受け止め能力が改善されるように、選択されかつ調節されている。
【0016】
軸受周囲の大きな領域が負荷を受けていない場合、ケージセグメントは負荷を受けていない領域のそれぞれ下側部分において、その上に位置している転動体の総質量によって負荷を加えられる。空隙(c)は、このような負荷を受けている場合でも、収容ポケットの内部において転動体がクランプされて動かなくならないように十分に大きく寸法設定されている。
【0017】
ころがり軸受の通常運転時において空隙(c)は十分な寸法に設定されているので、動的な過程もしくは動作によって、収容ポケットの内部における転動体のクランプを生ぜしめるような大きな変形が生じることはない。転動体が収容ポケット内においてなお空隙を有しているような力を、コントロールして調節することができるので、どの程度の負荷において接触が発生しかつどの程度の負荷であれば接触が生じないかを、選択することができる。
【0018】
しかしながらまたケージ空隙(c)は、好ましくは、ケージセグメントに対する隣接した転動体の負荷が特定の値を上回った場合に、ケージの変形が大きくなり、ケージセグメントの収容ポケットの内部における転動体がケージセグメントによってクランプされ、ひいてはケージが転動体によって支持されるように調節される。これによってケージが耐えることができる負荷の値が高まる。
【0019】
提案された最小及び最大のケージ空隙は、ケージ材料の弾性特性を考慮し、適宜なころ寸法に対する上に述べた関係から、すなわち、
cmax≧c≧cminであるという関係から生ぜしめられ、このとき
cmin=0.01*Dw−0.5mmでかつ
cmax=0.02*Dw−0.4mmで、
c(単位mm)は、軸受の周方向におけるケージポケット内の空隙であり、Dw(単位mm)はころ直径である。
【0020】
安価なプラスチックケージエレメントは、比較的大きなころ質量においても使用することができる。
【0021】
提案されたコンセプトによって、好ましくは、大型軸受に円筒ころ又は円錐ころが備え付けられ、このとき好ましくは、交換セグメントが設けられており、つまり多ポケットセグメントケージも可能である。
【0022】
そして好適に、隣接した転動体の支持作用によって、セグメント化された軸受ケージに作用する耐えられる負荷が高められる。
【0023】
図面には、本発明の1つの実施形態が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】円錐ころ軸受の一部を、軸線方向で見た図である。
【
図2】
図1に示した円錐ころ軸受隣接した3つの円錐ころと、真ん中の円錐ころがケージセグメントによって保持されている様子を、拡大して示す軸方向で見た断面図である。
【0025】
図面には、円錐ころ軸受において使用するために本発明に係るコンセプトが略示されている。
【0026】
円錐ころ軸受として形成されたころがり軸受1は、内レース2及び外レース3を有しており、このとき転動体4,4′は両軸受レース2,3の間に配置されている。転動体4,4′は、古典的なケージによって保持されるのではなく、転動体の間に配置されたケージセグメント5が設けられている。これに関する詳細は、本出願人の国際公開第2012/076583号を参照のこと。
【0027】
各ケージセグメント5は、フレーム状の構造体を有しており、この構造体は、4つの画定壁によって形成され、図面においては画定壁5,6,7を見ることができ、つまり転動体4のための収容ポケット9を形成する全部で4つの壁のうち、3つの壁を見ることができる。
【0028】
それぞれ軸方向で見た断面において、円錐形の転動体4は、直径Dwを有している。このとき転動体4は、ピッチ円10(転動体4の中心点が描く円)上に位置している。
【0029】
ケージポケット9は、画定壁6,7に形成された側面11,12によって画定され、これらの側壁11,12は少なくとも部分的に転動体4の形状に合わせられている。
【0030】
このとき周方向Uにおいて、ケージセグメント5の収容ポケット9内に位置している転動体4と、ケージセグメント5によって保持されていない転動体4′とは交互に配置されている。しかしながらこれらの転動体4,4′を案内するために、当接面(Anlaufflaeche)13がケージセグメント5の両側に設けられている。
【0031】
図2には、ピッチ円10の遊びcが示されており、この遊びcを1つの転動体4は、収容ポケット9における軸受の負荷なしの状態で有している(
図2に示した対称的な図示において遊びcは両側面11,12に半分ずつ分割されている)。
【0032】
図2には同様に、周囲Uにわたって均一に分配されて設けられた遊びx/z(zは転動体の数を示す)がピッチ円10に示されており、この遊びx/zは、周方向Uにおいて転動体4′と当接面13との間に存在している。つまり遊びxは、転動体列の、全周にわたって集められた全遊びである。
【0033】
収容ポケット9における遊びcの大きさと全遊びxに対する遊びcの比に対しては、上において記載した関係が言える。
【符号の説明】
【0034】
1 ころがり軸受
2 内レース
3 外レース
4 転動体
4′ 転動体
5 ケージセグメント
6 画定壁
7 画定壁
8 画定壁
9 収容ポケット
10 ピッチ円
11 側面
12 側面
13 当接面
Dw 転動体の直径
c 遊び
x (全)遊び
z 転動体の数
K 定数
U 周方向
r 半径方向