特許第6456965号(P6456965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6456965全身性炎症反応症候群(SIRS)または敗血症を呈する患者らにおける死亡リスクを評価する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6456965
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】全身性炎症反応症候群(SIRS)または敗血症を呈する患者らにおける死亡リスクを評価する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20190110BHJP
【FI】
   G01N33/53 V
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-543450(P2016-543450)
(86)(22)【出願日】2014年9月18日
(65)【公表番号】特表2016-532124(P2016-532124A)
(43)【公表日】2016年10月13日
(86)【国際出願番号】FR2014052318
(87)【国際公開番号】WO2015040328
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2017年8月15日
(31)【優先権主張番号】1358979
(32)【優先日】2013年9月18日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】304043936
【氏名又は名称】ビオメリュー
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
(73)【特許権者】
【識別番号】511264559
【氏名又は名称】オスピス シヴィル ド リヨン
【氏名又は名称原語表記】HOSPICES CIVILS DE LYON
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モヌレ, ギョーム
(72)【発明者】
【氏名】ヴネ, ファビエンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ルパープ, アラン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥマレ, ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラール−メシャン, アストリッド
【審査官】 磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0034499(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/119871(WO,A1)
【文献】 VENET, F. et al.,IL-7 Restores Lymphocyte Functions in Septic Patients,The Journal of Immunology,米国,2012年,vol. 189,pp. 5073-5081
【文献】 FAUCHER, S. et al.,Development of a Quantitative Bead Capture Assay for Soluble IL-7 Receptor Alpha in Human Plasma,PLoS ONE,2009年,Vol. 4, No. 8,e6690
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全身性炎症反応を発生する傷害または感染を受けた患者における死亡リスクを判定するための方法であって:
前記患者から得た生体サンプル、別名試験サンプル中のsCD127の発現を測定する工程と、
参照値と比較して試験サンプルにおいてsCD127の過剰発現が実証される場合に、前記患者における死亡リスクの増加があると判定するために、sCD127の発現を参照値と比較する工程とを含み、
前記参照値が、生存したことが分かっている全身性炎症反応またはSIRSを発生する傷害または感染を受けた患者から得られる生体サンプルにおいて測定されるsCD127の発現レベルに対応するか、生存したことが分かっている全身性炎症反応またはSIRSを発生する傷害または感染を受けた複数の患者から得られるサンプルのプールにおいて測定されるsCD127の発現レベルの平均値に対応する
方法。
【請求項2】
生体サンプルが、SEPSISを示す患者から得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生体サンプルが、重度SEPSISを示す患者から得られることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
生体サンプルが、敗血症ショックの状態にある患者から得られることを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
参照値が、生存したことが分かっている敗血症ショックの患者から得られる生体サンプルにおいて測定されるsCD127の発現レベルに対応するか、生存したことが分かっている敗血症ショックの複数の患者から得られるサンプルのプールにおいて測定されるsCD127の発現レベルの平均値に対応することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
試験サンプル、および参照値を得るために使用される生体サンプルにおけるsCD127の発現が、敗血症ショック後2日以内もしくはその日のうちに、または、敗血症ショックの2日後もしくは1日後に測定されることを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
SOFAおよび/またはSAPSII重症度スコアのうち少なくとも一方を推定することと組み合わせて前記患者における死亡リスクを判定するために、sCD127の発現を測定することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
sCD127の発現が、抗sCD127抗体の補助により測定されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
sCD127の発現が、モノクローナル抗sCD127抗体の補助により測定されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
全身性炎症反応を発生する傷害または感染を受けた患者における死亡リスクを評価するための、sCD127の発現のin vitroまたはex vivo測定の使用。
【請求項11】
患者が、敗血症ショックの状態にある患者であることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
sCD127の発現が、抗sCD127抗体の補助により測定されることを特徴とする、請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
sCD127の発現が、モノクローナル抗sCD127抗体の補助により測定されることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
生体サンプルにおいてsCD127の発現を測定するための特異的手段または試薬と、
生存したことが分かっている全身性炎症反応を発生する傷害または感染を受けた複数の患者からのサンプルのプールにおいて測定される量の平均に相当する量のsCD127を含有するように調整されたサンプルである陽性対照サンプル、および/または、生存しなかったことが分かっている全身性炎症反応を発生する傷害または感染を受けた複数の患者からのサンプルのプールにおいて測定される量の平均に相当する量のsCD127を含有するように調整されたサンプルである陰性対照サンプル
を含む、生体サンプルにおけるsCD127の発現をin vitroまたはex vivo測定するためのキット。
【請求項15】
前記生体サンプル中のsCD127の発現を測定するための特異的手段または試薬として抗sCD127抗体を含有することを特徴とする、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に医療分野、特に集中治療の分野に関する。
【0002】
より正確には、本発明は、全身性炎症反応またはSIRSを患者に発生する手術、熱傷、外傷などの傷害を受けた敗血症状態の患者、すなわちSEPSIS、特に重度SEPSIS、別名重篤なSEPSISを示す患者、好ましくは敗血症ショックの患者における死亡リスクを評価する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
敗血症は、感染と関係のある全身性炎症反応症候群である。
【0004】
重度敗血症とは、動脈性低血圧および/もしくは低潅流ならびに/または少なくとも1つの器官の機能不全と関連する敗血症である。
【0005】
敗血症ショックは、妥当な輸液蘇生や昇圧治療を施したにもかかわらず持続する低血圧と関連する重度SEPSISである。
【0006】
SEPSIS、重度SEPSISおよび敗血症ショックの差異は、主に生体機能の全てに対する崩壊度の大きさに帰する。
【0007】
敗血症性症候群を示すSIRSの患者たち、すなわちSEPSIS、重度SEPSIS、または敗血症ショックの結果として敗血症状態にある患者たちは、集中治療室における死亡の主因の1つである。
【0008】
したがって、SIRS、SEPSISまたは重度SEPSIS患者、特に敗血症ショックの状態にある患者における死亡リスクを推定することは、個別治療の提供を可能にし、死のリスクを減少させようと試みるには最も重要である。
【0009】
集中治療室に入院した患者の症状の重症度は、様々な臨床的および生理学的パラメーターの補助により一般に推定される。それらを特に使用して、生存/死亡に関する予測スコアを定義することができる。これらには、特にSOFA(Sequential Organ Failure AssessmentまたはSepsis−related Organ Failure Assessment)およびSAPSII(Simplified Acute Physiology Score II)(また、IGS II[Indice de Gravite Simplifie II])重症度スコアが含まれる。集中治療患者たちの実体的コホートを使用することによって定義されるこれらの合成スコアは、循環血小板数、ビリルビン血症、利尿、年齢、または体温など多数の臨床生物学的パラメーターを含む。数値を算出することにより、これらのスコアを使用して、1つ以上の生理的システム(例えば:心血管、腎臓、脳)の機能が攻撃を受けている程度を評価することができる。それらは、集中治療室への入院の第1日目の間に算出される。SAPSIIスコアの場合、スコアに含まれ、最初の24時間の間または集中治療中の期間に測定されるパラメーターのうち最悪の値だけが考慮される。
【0010】
しかし、患者病歴の臨床的パラメーターの積極的調査を実施するには医師が必要となるので、これらのスコアは臨床用途にほとんど実用的でない。
【0011】
したがって、当然生死にかかわる可能性がある重篤な症状にある、集中治療室に入院している患者における死亡リスクを容易に且つ迅速に評価するために使用し得る他の手段、特に測定可能なマーカーを供給する真の必要性がある。事実、死亡リスクの増加した対象を識別し得るということは、その支援、追跡および療法をより適切に行い得ることを意味することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この文脈において、本発明は、全身性炎症反応(SIRS)を発生する重度傷害(手術、熱傷、外傷など)を受けた患者、または、SEPSIS、特に重度SEPSISを示す患者、および好ましくは敗血症ショックの状態にある患者における死亡リスクの増加を予測し得る新規「バイオマーカー」を提供することを提案する。この「バイオマーカー」の発現レベルを研究することは、患者の死亡リスクを容易に且つ迅速に評価することができ、可能な全ての予防手法をその後取ることができることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって本発明は、第1の態様において、全身性炎症反応もしくはSIRSを発生する手術、熱傷、外傷などの傷害または感染を受けた患者における死亡リスクを評価する方法であって:前記患者から得た生体サンプル、別名試験サンプル中のsCD127の発現を測定する工程と、sCD127の発現を参照値と比較した後に死亡リスクの増加があるかどうか結論する工程とを含むか、それらのみからなる方法を提供する。
【0014】
本発明の方法は、in vitroまたはex vivoで実施される方法である。本方法は、例えば、SOFAおよびSAPSII重症度スコアとは対照的に、直接測定可能なマーカーを提供することによって、特に集中治療室に入院しているか救急の患者において死亡リスクを容易に評価可能になるという長所を有し、測定は患者のベッドサイドやそのそばの検査室において実施することができる。マーカーの測定は、自動分析機械によってまたは迅速試験として公知の試験方法によって実施するのに十分に適している。
【0015】
sCD127は、CD127、つまりIL−7受容体の可溶性または血漿形態である。CD127、またはIL−7受容体のα鎖は、造血成長因子受容体スーパーファミリーのメンバーである75キロダルトン(kDa)の糖タンパク質である。それは、CD132(共通γc鎖)と共同して膜において発現されて、IL−7受容体を形成する。この受容体は、分化、生存およびリンパ球増殖において重要な役割を果たす。CD127は、細胞外の219アミノ酸(aa)部分、25aa膜貫通部分、および195aa細胞質内部分によって構成される。CD127をコードしているmRNAの選択的スプライシングによって生成されるsCD127と表示される可溶性/血漿形態の存在は、1990年にGoodwin RGら(Cell、1990年、23、941〜951頁)によって記述されているが、今のところその生物学的機能はほとんど理解されていない。
【0016】
本発明の文脈において、用語「sCD127」は、IL−7受容体もしくはIL7Rのα鎖またはIL7R−αまたはIL7RAまたはCDW127としても公知である、IL−7受容体の可溶性または循環性形態(血漿もしくは血清形態としても知られる)を意味するために使用され、特にGoodwinら(Cell、1990年、23、941〜951頁)に記述され、Crawleyら(Journal of Immunology、2010年、184、4679〜4687頁)によってアッセイされている。
【0017】
特に、本発明によるCD127の、したがってsCD127の参照核酸配列は、好ましくは以下の通りである:Ensembl:ENSG00000168685、HPRD−ID:00893およびヌクレオチド配列:NM_002185.2、VEGA遺伝子:OTTHUMG00000090791。
【0018】
さらに、本発明によるCD127の、したがってsCD127の参照タンパク質配列は、好ましくは以下の通りである:NP_002176 XP_942460;バージョン:NP_002176.2 GI:28610151。
【0019】
本発明の方法の文脈において試験しようとするサンプルは、死亡リスクを評価しようとする患者から採取される生体サンプルである。特に、この型の生体サンプルは、マーカーsCD127を含有可能なサンプルから選択される。
【0020】
本発明の文脈において、用語「全身性炎症反応」または「SIRS」は、以下の基準のうち少なくとも2つと関連する応答を意味することを意図する:温度>38℃または<36℃、心拍数>90回/分、呼吸数>20回/分またはpaCO<32mmHg、白血球>12000個/mmまたは<4000個/mm(Boneら、Chest、1992年、1644〜1655頁)。
【0021】
本発明は、SEPSIS、特に重度SEPSISを示す患者らにおける好ましい用途を示す。特に好ましい方式において、本発明の方法は、敗血症ショックの状態にある患者における死亡リスクを評価するのに特に有利である。感染後にSIRSを示す敗血症状態(SEPSIS、重度SEPSIS、および敗血症ショック)の患者らにおいて、感染は様々な起源、特に細菌、ウイルスまたは真菌起源であり得る。
【0022】
第1の好ましい実施において、本発明の方法を利用して、第1の参照値と比較して試験サンプルにおいてsCD127の過剰発現が実証される場合に、患者の死亡リスクの増加があると結論することができる。
【0023】
用語「過剰発現」は、参照値に対する発現レベルの有意な増加を意味する。当業者は、実施しようとする比較、例えば複数のサンプル集団もしくは異なる型のサンプルの比較、1つのサンプル集団もしくは同じ型のサンプルにおける経時的変化の比較、などに応じて、sCD127の発現レベルと比較されるべき参照値を決定するために、使用すべき統計的試験を決定することができる。また、試験されるサンプルの型(例えば血漿、血清、または血液)、実施される免疫学的分析の型(例えばブロット、ELISA)または使用される分析機器の型などに応じて、sCD127の発現レベルの有意な増加を決定することができる。
【0024】
この実施において、第1の参照値は、生存したことが分かっている全身性炎症反応を発生する傷害または感染を受けた患者、特に生存したことが分かっているSEPSISを示す患者、および好ましくは生存したことが分かっている敗血症ショックの患者から得られる生体サンプルにおいて測定されるsCD127の発現レベルに対応し得る。
【0025】
参照サンプルが、試験サンプルを採取する時刻より早い時刻に採取された場合であっても、この状況において、第1の参照値を構成するsCD127の発現の測定は、死亡リスクを評価しようとする患者から得られるサンプルで実施されるsCD127の発現の測定と並行して、すなわち同時に、は実施されることが好ましい。
【0026】
この第1の参照値は、生存したことが分かっている全身性炎症反応(SIRS)を発生する手術、熱傷、外傷などの傷害または感染を受けた複数の患者、特に生存したことが分かっているSEPSISを示す複数の患者、好ましくは生存したことが分かっている敗血症ショックの状態にある複数の患者から得られるサンプルのプールで測定されるsCD127の発現レベルの平均値に対応し得る。「プール」される参照サンプルが、試験サンプルを採取する時刻より早い時刻に採取された場合であっても、この状況において、第1の参照値を構成するsCD127の発現の測定は、死亡リスクを評価しようとする患者から得られるサンプルで実施されるsCD127の発現を測定する前に、は実施されることが好ましい。
【0027】
この第1の好ましい実施において、特に敗血症ショックの状態にある患者の死亡リスクを評価するために、試験サンプル、および必要に応じて、第1の参照値を得るために使用される生体サンプルにおけるsCD127の発現の測定は、敗血症ショック後4日以内もしくは4日目(D4)、好ましくは敗血症ショック後3日以内もしくは3日目(D3)、より好ましくは敗血症ショック後2日以内もしくは2日目(D2)、特に好ましくは敗血症ショック後のその日のうちもしくは1日目(D1)に実施される。換言すれば、この第1の参照値は、敗血症ショック後4日以内、3日以内、2日以内、その日のうちにまたは敗血症ショックの4日目、3日目、2日目、1日目に作製される。本発明のこの第1の実施の特に有利な実施によると、第1の参照値は、敗血症ショック後2日以内もしくはその日のうちに、または2日目もしくは1日目に作製され、それは、試験される患者の死亡リスクを非常に早期に決定できることを意味する。
【0028】
第2の好ましい実施によると、本発明の方法を使用して、試験サンプルにおいて測定されるsCD127の発現が第2の参照値と比較して有意に減少しない場合に、患者における死亡リスクの増加があると結論することができる。当業者は、パーセンテージの有意な減少を決定することができ、その減少は、試験サンプルの型(例えば血漿、血清または血液)、または免疫学的分析の型(例えばブロット、ELISA)、または分析を行う機器などによって決まる。一般に、試験サンプルにおいて測定されるsCD127の発現が、この第2の参照値と比較して30%を超えて減少しない、好ましくは25%を超えて減少しない、特に20%を超えて減少しない、またはこの第2の参照値と比較して15%を超えてもしくは10%を超えて減少しなかった場合、死亡リスクの増加が結論される。
【0029】
この第2の参照値は、事前にサンプル採取される、前記同じ患者から得られる生体サンプルにおいて、すなわち死亡リスクを評価しようとする患者から得られ、試験サンプルの時刻より早い時刻に得られる生体サンプルにおいて測定されるsCD127の発現レベルに対応し得る。用語「早い」または「前に」は、時間的により早いことを意味するために使用される。好ましくは、第2の参照値は、試験サンプルの直前、すなわち、患者から採取されるサンプルの順序において試験サンプルに先行する生体サンプルにおいて測定されるsCD127の発現レベルに対応する。
【0030】
この第2の好ましい実施において、特に敗血症ショックの状態にある患者の死亡リスクを評価するために、試験サンプルにおけるsCD127の発現は、敗血症ショックの7日後(D7)もしくは約7日後、より好ましくは敗血症ショックの4日後もしくは約4日後、特に敗血症ショックの約3日後または3日後、さらにより好ましくは敗血症ショックの約2日後または2日後に測定される。
【0031】
例として、早いサンプルは、敗血症ショック後48時間以内もしくは48時間後、および試験サンプルの少なくとも24時間前に採取することができ、好ましくは、早いサンプルは、敗血症ショック後48時間以内もしくは48時間後に採取され、試験サンプルは、早いサンプルを採取した後48時間以内または早いサンプルを採取した48時間後に採取される。
【0032】
したがって、本発明の方法は、全ての状況において、試験サンプルを採取した患者における死亡リスクの増加の有無を結論するために、試験サンプルにおけるsCD127の発現を測定する前に、試験サンプルにおいて検出されるべき発現レベルと比較するための参照値(第1の参照値か第2の参照値かにかかわらず)を早い時間に得る工程を含むことができる。
【0033】
したがって、これらの参照値は、それらが第1の参照値かもしくは第2の参照値か、事前にまたは同時に得られたかにかかわらず、試験サンプルにおいて測定されるsCD127の発現の値と比較される。
【0034】
試験サンプルとも称される本発明の方法が実施されるサンプルは、動物またはヒト起源であってもよく、好ましくはヒト起源である。
【0035】
試験サンプルは、生体液、例えば血液、特に静脈から採取される全血(すなわち白血球、赤血球、血小板および血漿を含有する)、血清、血漿、ならびに気管支肺胞洗浄液から選択することができる。
【0036】
好ましくは、前記患者から得られる試験サンプルは、血漿または血清のサンプルである。
【0037】
参照値(それらが第1の参照値かまたは第2の参照値かにかかわらず)を決定できるサンプル、別名「参照サンプル」は、試験サンプル(生体液)に関し、異なる性質、特に上述の生物学的性質、のものであってもよい。有利なことに、これらの生体サンプルは、試験しようとする生体サンプルと同じ性質のものであり、または、少なくともsCD127の発現の検出および/もしくは定量化に関して参照値を構成することに適合する性質のものである。
【0038】
特に、第1の参照値を得るために、これらのサンプルは、死亡リスクを評価しようとする対象もしくは患者のものと、特に同じ性別、および/または、類似か同一の年齢、および/または、同じ民族的出身など、同じ特徴もしくは共通の特徴を多く有する個体から得られることが好ましい。この場合、参照サンプルは、生存したことが分かっている全身性炎症反応(SIRS)を発生する手術、熱傷、外傷などの傷害または感染を受けた複数の患者、特に生存したことが分かっているSEPSISを示す複数の患者、および好ましくは生存したことが分かっている敗血症ショックの状態にある複数の患者から得られる生体サンプルのプールにおいて測定されるレベルに対応するsCD127の平均値を含有するように調整された任意の生物学的もしくは非生物学的サンプルによって構成されてもよい。この状況、および特に好ましい変形において、参照サンプルは、その患者/患者たちが生存したことが分かっている敗血症ショックの状態にある1名以上の患者から得られる。
【0039】
特に、第2の参照値を得るためには、参照サンプルは、死亡リスクを評価しようとしており、かつ試験サンプルを採取した患者から得られ生体サンプルであることが好ましく、ただし、試験サンプルの時刻より早い時刻に採取されたサンプルから得られる。好ましくは、第2の参照値は、試験サンプルの時刻の直前の時刻に採取された生体サンプル、すなわちサンプルが患者から採取される順序において試験サンプルに先行するサンプルから得られる。
【0040】
特定の実施において、本発明の方法は、SOFAおよび/またはSAPSII重症度スコアのうち少なくとも一方を推定することと組み合わせて、sCD127の発現を測定して、全身性炎症反応(SIRS)を発生する傷害または感染を受けた患者、特に敗血症ショックの状態にある患者の死亡リスクを評価する工程を含む。この実施において、SOFAスコアは、好ましくは、D.L.Vincentら、Intensive Care Med.1996年;22:707〜710頁に記述されるように算出され、かつ/あるいは、SAPSIIスコアは、好ましくは、D.R.Le Gallら、JAMA、1993年;270:2957〜63頁に記述されるように算出される。
【0041】
本発明の文脈において、用語「発現を測定する」は、in vitroまたはex vivo測定を意味することを意図する。さらに、この用語は、sCD127の、好ましくはタンパク質レベルでの、検出および定量化を意味することを意図する。
【0042】
この点において、sCD127タンパク質発現の存在決定および/または測定に関係するか否かにかかわらず、当業者によく知られている検出および/または定量化の任意の方法を使用して、本発明を実施することができる。sCD127タンパク質の発現を測定する方法の例として、特に、Crawleyら、Journal of Immunology、2010年、184、4679〜4687頁に記述されているものを挙げることができる。
【0043】
特に、sCD127の発現レベルは、sCD127に特異的な手段もしくは試薬の補助により測定され、その手段もしくは試薬を使用して、直接的または間接的に発現の存在を決定しおよび/または発現レベルを定量化することができる。
【0044】
sCD127を検出および/または定量化することが可能であり、言及することができる手段もしくは試薬の例は特異的抗体であり、その抗体はポリクローナルもしくはモノクローナル、好ましくはモノクローナル、またはそのフラグメントもしくは誘導体、例えばFab、F(ab)’2、Sv、scFvフラグメント、あるいは抗体類似体、特に競合特性を持つ親和性タンパク質であってもよい(Nanofitins[商標])。
【0045】
これらの手段または試薬の好ましい例は、IL−7受容体の可溶形態に特異的な、すなわちこの受容体の不溶性の細胞/膜形態のCD127を認識しないものである。しかしながら、分析されるサンプルの性質(例えば血漿または血清対細胞または全血を含有する生体サンプル)など他の何らかの手段によってこれら2つの形態を区別することが可能な限り、可溶形態またはsCD127とIL−7受容体の細胞形態またはCD127の両方を認識する手段または試薬を使用してもよい。
【0046】
sCD127がタンパク質レベルで検出および/または定量化される場合、ウェスタンブロット、ELISA、RIA、IRMA、FIA、CLIA、ECL、フローサイトメトリーもしくは免疫細胞学など標準的な技術を使用することができる。
【0047】
特に有利には、sCD127の発現は、タンパク質レベルで、好ましくはELISA技術の補助により測定される。
【0048】
本発明において、特にこの特定の実施において、sCD127の発現レベルは、抗sCD127抗体の補助により測定されることが好ましく、その抗体はモノクローナルまたはポリクローナル、特に抗sCD127モノクローナル抗体であってもよい。例として、Beckman Coulter(登録商標)から販売されているR34.34抗ヒトCD127モノクローナル抗体または、R&D Systems(登録商標)から販売されている抗CD127ポリクローナル抗体を使用することができる。
【0049】
sCD127の発現の測定に関する上記の指示および選好の全ては、試験サンプルおよび参照サンプルにおけるこの発現の測定に等しく適用できる。
【0050】
第2の態様において、本発明は、全身性炎症反応もしくはSIRSを発生する手術、熱傷、外傷などの傷害または感染を受けた患者、特にSEPSIS、特に重度SEPSISを示す患者における死亡リスクを評価するための、sCD127発現のin vitro測定またはex vivo測定の使用も提供する。
【0051】
好ましくは、この使用は、敗血症ショックの状態にある患者における死亡リスクを評価するのに特に有利である。
【0052】
さらに、本発明の使用の文脈において、sCD127の発現は、タンパク質レベルで、特にELISA技術の補助により好ましくは測定される。
【0053】
特に、sCD127の発現は、モノクローナルまたはポリクローナル抗sCD127抗体、好ましくはモノクローナル抗sCD127抗体を使用して測定できる。上記の抗体は、本発明のこの第2の態様において使用することもできる。
【0054】
より広い態様において、本方法およびその組合せに関する上記の好ましい実施の全ては、使用に関する好ましい実施も構成する。より具体的には、本発明による使用は、特に、SOFAおよび/またはSAPSII重症度スコアの少なくとも一方の推定値と組み合わせてsCD127の発現を測定して、全身性炎症反応(SIRS)を発生する傷害または感染を受けた患者、特に敗血症ショックの状態にある患者における死亡リスクを評価する工程を含むことができる。
【0055】
第3の態様において、本発明は:前記生体サンプルにおいてsCD127の発現を測定するための特異的手段または試薬と、生存したことが分かっている患者からのサンプルのプールにおいて測定される量の平均に相当する量のsCD127を含有するように調整されたサンプルである陽性対照サンプル、および/または、生存しなかったことが分かっている患者からのサンプルのプールにおいて測定される量の平均に相当する量のsCD127を含有するように調整されたサンプルである陰性対照サンプルを含む、生体サンプルにおけるsCD127の発現をin vitroまたはex vivo測定するためのキットも提供する。
【0056】
したがって本発明によるキットは、前記生体サンプルにおけるsCD127の発現、および少なくとも1つの対照サンプルを測定するための特異的手段または試薬を含む。
【0057】
特に、本発明のキットを使用して、全身性炎症反応(SIRS)を発生する手術、熱傷、外傷などの傷害または感染の対象となった入院患者、特に敗血症ショックの状態にある患者における死亡リスクを評価することができる。
【0058】
好ましくは、生体サンプル中のsCD127の発現を測定するために使用でき、本発明のキット中に存在する特異的手段または試薬を使用して、sCD127の発現を、好ましくはタンパク質レベルで検出および/または定量化することができる。
【0059】
特に好ましい実施形態において、本発明のキットは、測定しようとする前記生体サンプルにおけるsCD127の発現を可能にする特異的手段または試薬として、モノクローナルまたはポリクローナル抗sCD127抗体、特にモノクローナル抗体を含有する。
【0060】
別の陽性対照サンプルは、生存したことが分かっている少なくとも1名の患者から得られる生体サンプルであってもよい。同様に、別の陰性対照サンプルは、生存しなかったことが分かっている少なくとも1名の患者から得られる生体サンプルでもよい。それが陽性対照か陰性対照かにかかわらず、この型の対照サンプルは、全身性炎症反応(SIRS)を発生する手術、熱傷、外傷などの傷害または感染を受けた1名以上の患者、特にSEPSISを示す1名以上の患者、好ましくは敗血症ショックの状態にある1名以上の患者から特に得られる。
【0061】
好ましくは、キットは陽性対照サンプルと陰性対照サンプルの両方を含み、特にそれぞれは上で定義した調整されたサンプルから選択される。
【0062】
本発明は、本発明の方法を実施するための、特に、全身性炎症反応(SIRS)を発生する手術、熱傷、外傷などの傷害または感染を受けた患者、特にSEPSIS、特に重度SEPSISを示す患者における死亡リスクを評価するための本発明のキットの使用も包含する。好ましくは、本発明のキットを使用することにより、敗血症ショックの状態にある患者における死亡リスクを評価することが可能になる。
【0063】
本方法およびその組合せに関する上記の好ましい実施の全ては、本発明のキットおよびその使用の好ましい実施形態も構成する。
【0064】
非限定的な例として、本発明の主題の実施を示す添付の図を参照して作成される以下の説明から、他の様々な特徴が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】敗血症ショック後の70名の患者においてD1〜2に測定した血漿sCD127濃度のROC曲線、SAPSIIスコアおよびSOFAスコアを示す図である。
図2】敗血症ショック後の70名の患者のD1〜2(A)およびD3〜4(B)におけるsCD127の生存曲線ならびにSAPSIIスコア(C)を示す図である。
図3】敗血症ショック後の70名の患者のD1〜2(A)およびD3〜4(B)におけるsCD127とSAPSIIスコアの組合せの生存曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
<方法>
<生体サンプル>
血漿サンプルを、敗血症ショック後1〜2日目(D1〜2)および3〜4日目(D3〜4)に敗血症ショックの70名の患者から採取し、次いで保管した(遡及的なコホート)。血漿サンプルを、41名の健常ボランティア対象からも採取した。
【0067】
敗血症ショックのため集中治療に入院した28日後に、70名の患者のうち14名の患者、すなわち20%が生存しなかった(「NS」)、一方で56名の患者が生存した(「s」)。
【0068】
<ELISAによるIL−7受容体の可溶形態(sCD127)のアッセイ>
「コーティング」
水(pH9.6)500mL中にNaCO0.8g、NaHCO1.4gおよびNaN0.1gを含有する「コーティング」緩衝液を調製した。
【0069】
「コーティング」緩衝液に希釈した捕捉抗体(Ab)(マウス抗ヒトCD127モノクローナル抗体R34.34、Beckman Coulter[登録商標])100μLを、プレートのウェル当たり([Ab]=8μg/mL)で付着させた。次いでプレートを、覆い、4℃で終夜インキュベートした。
【0070】
ウェルの内容物を次いで吸引し、ウェルを少なくとも300μLの0.05%PBS−Tween20洗浄緩衝液で3回洗浄した。各洗浄において液体の全てを慎重に除去した。最後の洗浄の後、プレートを吸着性の紙の上に反転させ、微量の緩衝液を全て排除した。
【0071】
「ブロッキング」
ウェル当たりブロッキング緩衝液(10%ウシ胎仔血清[FCS]/PBS−Tween20、0.05%)150μLの補助により非特異的定着をブロッキングし、次いでプレートを37℃で1時間インキュベートした。
【0072】
再び、ウェルの内容物を吸引し、ウェルを少なくとも300μLの0.05%PBS−Tween20洗浄緩衝液で3回洗浄した。各洗浄において液体の全てを慎重に除去した。最後の洗浄の後、プレートを吸着性の紙の上に反転させ、微量の緩衝液を全て排除した。
【0073】
サンプルおよび対照
C.Janot−Sardetら、Journal of Immunological Methods、2010年、28、115〜123頁にしたがって、PBS5%FCS希釈緩衝液に希釈したヒト組換えIL−7Rα/CD127Fcキメラ(R&D Systems,カタログ番号:306−IR)を用いて、換算表を以下の表1に記載の通り作製した。
【0074】
【表1】
【0075】
サンプルまたは対照(60ng/mLならびに10ng/mLの濃度で即時におよびアリコートに再構成したCD127Fcキメラの溶液)100μLを、各ウェルに添加し、次いでプレートを37℃で1時間インキュベートした。
【0076】
再び、ウェルの内容物を吸引し、ウェルを少なくとも300μLの0.05%PBS−Tween20洗浄緩衝液で3回洗浄した。各洗浄において液体の全てを慎重に除去した。最後の洗浄の後、プレートを吸着性の紙の上に反転させ、微量の緩衝液を全て排除した。
【0077】
検出抗体
PBS/5%FCSに希釈した検出抗体(1%TBS−BSA1mLで再構成したビオチン化ヤギポリクローナル抗CD127抗体、R&D Systems[登録商標])100μLを各ウェルに添加し([Ab]=200ng/mL)、次いでプレートを37℃で1時間インキュベートした。
【0078】
再び、ウェルの内容物を吸引し、ウェルを少なくとも300μLの0.05%PBS−Tween20洗浄緩衝液で3回洗浄した。各洗浄において液体の全てを慎重に除去した。最後の洗浄の後、プレートを吸着性の紙の上に反転させ、微量の緩衝液を全て排除した。
【0079】
露出
ストレプトアビジン−HRP100μLを、各ウェルに添加した([ストレプトアビジン−HRP]=8μL/mL)。次いでプレートを覆い、周囲温度で30分間インキュベートした。
【0080】
再び、ウェルの内容物を吸引し、ウェルを少なくとも300μLの0.05%PBS−Tween20洗浄緩衝液で3回洗浄した。各洗浄において液体の全てを慎重に除去した。最後の洗浄の後、プレートを吸着性の紙の上に反転させ、微量の緩衝液を全て排除した。この洗浄ステージにおいて、吸引の前にウェルを1分間〜2分間洗浄緩衝液により浸漬した。
【0081】
発色基質TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、bioMerieux #XX7LF1UC)の2つのフラスコを、体積対体積で混合し、この基質溶液100μLを各ウェルに付着させた。次いでプレートを覆い、周囲温度で30分間インキュベートした。
【0082】
最終的に、プレートを、450nmでの吸光度測定により読み取った。
【0083】
<多変量解析>
Coxモデルにより、「危険率」およびその95%信頼区間(95%CI)とその有意性を推定した。SAPSIIおよびSOFAスコアは、その値と死のリスク(生存者対非生存者)との直線関係を仮定して連続変数の形態でモデルに含まれた。統計分析は、SPSS(バージョン17.0、SPSS、Chicago、IL)およびGraphPad Prism(バージョン5.03、GraphPad Software、La Jolla、CA)ソフトウェアを使用して実施した。0.05未満のp値を、有意と見なした。
【0084】
<生存比較分析(「対数順位(log rank)」検定)>
ROC(受診者動作特性)曲線を、上記のソフトウェアを使用して生成し、ヨーデン指数により最良の感度および特異性を得るために最適化された濃度または最適sCD127閾値を定義した。この指標は、考察しているマーカーの増分値について感度と特異性のパラメーターを組み合わせるものである。したがって、最も高いヨーデン指数を提供するマーカーの最適化した濃度、すなわち最適化した感度および特異性を決定した。この最適化した値に基づいて患者たちの層化後にカプランマイヤー生存曲線を得た。群間の生存の差異を、これらの生存曲線の傾きに基づいて算出した「対数順位」検定および「危険率」(および95%の信頼区間)を使用して評価した。
【0085】
<結果>
IL−7受容体の可溶形態(sCD127)のアッセイ
血漿sCD127の濃度を、敗血症ショックの70名の患者由来血漿サンプルにおいて上記の通り測定し、これらの患者におけるSOFAおよびSAPSII重症度スコアを、入院の最初の24時間に利用可能な臨床的および生理学的データに基づいて評価した。
【0086】
同じ測定を、41名の健常ボランティア対象(HV)から得たサンプルでも実施した。
【0087】
結果を、下記の表2〜4に要約する。
【0088】
敗血症ショックの患者の死亡を予測するsCD127の能力
研究しようとする事象、すなわち死亡率に関して、血漿sCD127の濃度の測定の予測能力を研究した。2つの参照スコア、SAPSIIおよびSOFAの予測能力についても、同じ事象について研究した。
【0089】
結果を、敗血症ショックの70名の患者における、D1〜2に測定したsCD127のROC(受診動作特性)曲線ならびにSAPSIIおよびSOFA重症度スコアの形で図1に表す。
【0090】
下記の表2に報告する曲線下面積の評価は、公知のSOFAおよびSAPSIIスコアの予測成績が血漿sCD127の測定のそれと比較できることを意味する。
【0091】
【表2】
【0092】
D1〜2に測定したsCD127の値について、ヨーデン指数を使用して最適な閾値を44.45ng/mLと定義した。その閾値は、感度86%;特異性71%、陽性予測値(試験が閾値を越える場合に、患者が死亡することになる確率)43%および陰性予測値(試験がこの閾値以下である場合、患者が生存することになる確率)95%をもたらした。
【0093】
同様に、D3〜4に測定したsCD127の値について、最適な閾値を48.10ng/mLと定義し、その閾値は、感度71%;特異性86%、陽性予測値56%および陰性予測値92%をもたらした。
【0094】
これと比較して、D1に測定したSOFAスコアでは、感度は64.3%、特異性は66.1%であり、陽性予測値32.1%および陰性予測値88.1%であった。
【0095】
D1に測定したSAPSIIスコアでは、感度は71.4%、特異性は55.4%であり、陽性予測値28.6%および陰性予測値88.6%であった。
【0096】
したがって、D1〜2における患者由来血漿中のsCD127の濃度の測定が、敗血症ショック後の死の予測について従来使用されてきたSOFAおよびSAPSIIスコアより良好な能力を有することをこれらの結果は示している(ROC曲線下面積に基づく)。
【0097】
多変量解析
sCD127の血漿中濃度と敗血症ショックの患者に対する公知の危険因子と比較される死のリスク(SAPSIIおよびSOFAスコアによって評価される機能不全の器官の初期重症度および数)との関連の独立性を評価するために、単一および多変量ロジスティック回帰分析を上記の通り実施した。
【0098】
SOFAスコア、SAPSIIスコアならびにD1〜2およびD3〜4において得られるsCD127の測定との多変量解析を実施した。下記の表3および4に要約される結果は、sCD127の測定が、敗血症ショック後の死亡率の予測に関する公知の2つの危険因子、すなわちSOFAおよびSAPSIIから完全に独立しているマーカーであることを示す。
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
カプランマイヤー生存曲線
D1〜2とD3〜4におけるsCD127のROC曲線およびヨーデン指数を使用して決定した最適な閾値に基づき生存曲線を確立した。SAPSIIスコアに基づく患者の層化後の生存曲線も生成した(53に等しい閾値)。結果を図2A、2Bおよび2Cに示す。
【0102】
D1〜2(図2A)かD3〜4(図2B)かにかかわらず、これらの結果は、sCD127の最適な閾値の関数として引かれる2本の生存曲線の間の有意差を示す(D1〜2[図2A]:「危険率」=10.22;[95%CI]:3.36〜31.13;p<0.001、「対数順位」検定;D3〜4[図2B]:「危険率」=28.50;[95%CI]:7.519〜108.0);p<0.001、「対数順位」検定。
【0103】
それに対し、SAPSIIスコアに基づく層化後、死亡率に有意差は実証されなかった(図2C:p=0.082、「対数順位」検定、「危険率」=2.55、[95%CI]:0.887〜7.309)。
【0104】
最終的に、上記の通り、D1〜2とD3〜4におけるsCD127のROC曲線およびヨーデン指数を使用して決定した最適な閾値と、SAPSIIの最適な閾値(53に等しい閾値)に基づく患者の層化後の、sCD127の増大値とSAPSIIスコアの増大値との組合せの死のリスクの予測能力を評価した。したがって対応する生存曲線も生成し、その結果をそれぞれ図3Aおよび3Bに表す。
【0105】
D1〜2かD3〜4かにかかわらず、これらの結果は、最も低い濃度のsCD127および最も低いSAPSIIスコアを有する患者たちは、より高い濃度のsCD127および最も高いSAPSIIスコアを有する患者たちと比較して、生存の可能性がはるかに高いことを示している:
D1〜2(図3A):p<0.001、対数順位検定、危険率=12.98;[95%CI]:3.453〜48.83。
D3〜4(図3B):p<0.001、対数順位検定、危険率=50.94;[95%CI]:9.352〜277.4)。
【0106】
これらの結果は、sCD127とSAPSIIまたはSOFAスコアの少なくとも一方とを組み合わせた測定が、集中治療に入院している患者たちの死亡率の予測力を増大し得ることを実証している。
【0107】
結果として、この一連の結果は、血漿中のsCD127の発現を測定することが、集中治療室に入院している患者、特に敗血症ショックの状態にある患者における死亡リスクを評価するには非常に有用で、信頼性の高い免疫学的マーカーであることを実証している。加えて、このパラメーターは、これらのスコアによる死のリスクの予測能力を改善するために通常の臨床スコアと組み合わせることができる。
【0108】
本発明の範囲を逸脱せずに様々な修飾が提供され得るので、本発明は、記載および表示されている例に限定されない。
図1
図2
図3