(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記所定の第1サイクル数は、1以上100以下であり、好ましくは1以上20以下であり、より好ましくは1以上15以下であり、さらに好ましくは1以上5以下である、
請求項1または2に記載の方法。
前記有機金属化合物前駆体は、Zn、Fe、In、Co、Cu、Mn、Li、B、Cd、HgおよびPrから成る群から選択される金属イオンまたは金属イオンのクラスタを含む、
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
有機金属構造体材料は、マルチトピック(multi-topic)の有機リンカーにより接続された複数の金属イオンまたは金属イオンのクラスタから成る、有機または無機の結晶性多孔質ハイブリッド材料の一種である。MOF(metal-organic framework、有機金属構造体)は、ポアの大きさを変えることができ、内面の機能化が容易であることから、分離、触媒作用、センシング、ガス貯蔵、バイオメディカルの分野で、または半導体産業におけるlow−k材料として、この数年大きな注目を集めてきた。
【0003】
蒸着やパターニングといった膜加工方法は、有機金属構造体材料の更なる利用可能性を探るための鍵である。MOF膜の堆積は、一般に、有機リンカーと金属塩(金属イオンを与える)が溶解した溶液からの成長に基づくものであると報告されている。
【0004】
MOF膜は、論文(Lu and Hupp, Journal of American Chemical Society, 132(23), 7832-7833, (2010))で報告されているように、上でMOF膜が成長する基板を、溶解した有機リンカーと溶解した金属塩を含む溶剤系溶液に浸漬させることにより堆積させることができる。
【0005】
また、論文(Eddaoudi et. al., Chem. Commun., 2014,50, 2089-2092)で報告されているように、MOF膜は、まず、リンカーが溶解した溶液に基板を浸漬させ、次に、金属塩が溶解した溶液に基板を浸漬させ、各浸漬工程の後には基板を溶媒で洗浄することにより、堆積させることができる。
【0006】
こうした堆積技術は自己制御性を有しないので、均質かつ欠陥のない膜を得るために必要となるサイクル数が大きくなる。前記成長方法を用いて得られる膜の厚さと堆積時間により、さまざまな領域(例えば、堆積時間を短くしてMOF膜の膜厚を小さくすることが要求される領域)で前記成長方法の利用可能性を妨げられるおそれがある。例えばLuとHuppの論文では、メタノール溶剤系溶液と硝酸亜鉛(Zn(NO
3)
2)を用いて、MOFの一種であるZIF−8が製造され、100nm/30分の成長速度が得られている。Eddaoudiらの論文では、150回から300回の成長サイクルの後、厚さ0.5ミクロンから1.6ミクロンの膜が得られている。同論文では、ZIF−8の製造を製造するために、金属イオン溶液と溶剤系(CH
3OH)溶液が用いられている。さらに、これらの堆積技術では溶剤系溶液が大量に用いられるが、溶剤系溶液は通常有毒である。さらに、これらの堆積技術では、塩化物塩と硝酸塩を利用するところ、これらは一般的には金属イオンのソースとして用いられ、腐食の問題や安全上の問題から産業上の要請に適合しない。
【0007】
溶剤系溶液の利用と金属塩の利用に関連して生じる問題は、金属酸化物または金属水酸化物からMOF膜を製造することにより、技術的に解決される。例えば、Stassenらの論文(Cryst. Eng. Comm., 15, 9308-9311, 2013)には、溶剤系溶液を用いずに、MOF膜の一種であるZIF−8を製造することが記載されている。同論文では、スパッタリングにより表面の上にZnOが堆積する。ただし、この技術では、有機リンカーである1−メチルイミダゾールを、粉末の状態で、金属酸化物を含む表面の上に塗布する。このとき、或る産業(例えば半導体産業)では製造環境において粉末を用いることが厳しく禁じられていることから、この技術の利用が制限されるおそれがある。
【0008】
それゆえ、この分野では、より広範の産業に利用可能な方法を用いたMOF薄膜の製造に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0009】
この発明は、添付の特許請求の範囲で開示された方法とデバイスに関する。
【0010】
本発明の実施形態の課題は、基板の上に有機金属構造体(MOF)膜を製造する方法を提供することである。
【0011】
前記課題は、本発明に係る方法によって達成される。
【0012】
第1の態様で、本発明は、基板の上にMOF膜を製造する方法に関する。この方法は、主面を有する基板を準備する工程を含む。有機金属化合物を構成するように選択された有機金属化合物前駆体と、少なくとも1つの有機リガンドとを用いて、前記基板の主面の上にMOF膜が形成される。前記有機金属化合物前駆体と前記少なくとも1つの有機リガンドは、それぞれ気相で供給される。
【0013】
本発明者らは、有機金属化合物前駆体と少なくとも1つの有機リガンドとをそれぞれ気相で用いることにより、産業上の要請により適合する方法でMOF膜を製造できることを見出した。さらに、MOF膜の製造がより広い技術分野に適したものとなり、他の用途への機会が広がる。
【0014】
さらに、本発明者らは、本発明の実施形態に係るMOF膜の製造が自己制御性を有することを見出した。その結果、均質でピンホールフリーの膜を得る上で、多くの反応サイクルが必要とならない。均質でピンホールフリーのMOF膜を得られることは好都合である。
【0015】
均質なMOF膜を得ることにより、膜の特性と性能の形状による変動が小さくなる。また、これにより、膜は、多層スタックへの取り込みにより適したものになる。
【0016】
多層スタックに取り込まれたMOF膜は、2層を互いに分離できる。例えば、MOF膜は、2つの伝導層の間の絶縁体として機能しうる。この場合、ピンホールフリーのMOF膜により、短絡を防止できる。
【0017】
さらに、本発明者らは、本発明の実施形態に係るMOF膜の製造方法により、コンフォーマルな(共形の、等角の)MOF薄膜が形成されることを見出した。コンフォーマルな(例えば20nmほどの)MOF薄膜の形成により、三次元形状を有する均質な被覆(カバレッジ)をこうした厚さで容易に得ることができ、好都合である。
【0018】
実施形態では、前記基板の主面には、複数の突起または複数のくぼみが形成されている。前記突起は、独立して(自立して、free-standing)または接続されて、基板から突出した構造を指す。前記突起は、柱、コーン(円錐)、ピラミッド(角錐)、球、半球、立方体など任意の三次元形状を有していてよい。前記基板の主面に複数の突起またはくぼみが形成されていることは好都合である。複数の突起または複数のくぼみが形成された主面を有する基板の上にMOF膜を製造することにより、表面積が増加するので、感度の高いセンサ、アクセス性(アクセシビリティ)が高くしたがって反応速度の大きい(光)触媒や(光)電気化学電池を製造できる。
【0019】
当業者に既知の方法を用いて前記基板を加工し、前記基板と同じ材料で構成された突起を得てもよい。前記突起は、前記基板とは異なる材料で構成されていてもよい。前記突起は、柱(ピラー)、金属ナノワイヤ、半導体ナノワイヤ、カーボンナノチューブまたはカーボンナノシートであってもよい。前記金属ナノワイヤは、多孔質テンプレートへのめっきにより製造されてもよい。前記半導体ナノワイヤは、ボトムアップ型の触媒気相−液相−固相成長、または、触媒エッチング(catalytic etching)により製造されてもよい。
【0020】
実施形態では、前記基板は、MOF膜の形成に適した主面を有する任意の基板である。
【0021】
ある実施形態では、前記基板はSi基板である。
【0022】
ある実施形態では、前記基板はバルクSi基板である。
【0023】
実施形態では、前記基板の主面は誘電体材料層で覆われていてもよい。前記誘電体材料層は、蒸着法により設けられてもよい。好ましい実施形態では、前記誘電体材料層は、原子層堆積(ALD)により堆積させる。前記誘電体材料をALDにより堆積させるのは好都合である。ALDにより堆積した前記誘電体材料は、コンフォーマル層であり、前記基板の主面に形成された突起やくぼみにより画定される形状(トポグラフィ)に追随する。
【0024】
実施形態では、前記誘電体層は、例えば酸化物層を含んでもよい。前記酸化物層は、ALDにより堆積させることができる任意の金属酸化物であってよい。
【0025】
本発明者らは、コンフォーマル層または誘電体材料で基板の主面を覆うことにより、前記コンフォーマル層が、前記基板と、前記基板の上に製造されるMOF膜との間を良好に接着することを見出した。
【0026】
好ましい実施形態では、前記酸化物層はTiO
2、SiO
2またはAl
2O
3であってもよい。より好ましい実施形態では、前記酸化物層はTiO
2である。
【0027】
本発明者らは、前記基板の主面の上に接着層としてTiO
2を設けることにより、連続的なMOF膜が形成されることを見出した。
【0028】
前記酸化物層の厚さは、2nm以上40nm以下である。
【0029】
本発明のある実施形態に係る方法では、MOF膜を形成する工程は、少なくとも、循環反応シーケンスを所定の第1サイクル数、繰り返すことを含む。特定の実施形態では、前記方法は、前記主面を前記有機金属化合物前駆体に曝露することにより循環反応シーケンスを開始し、これにより前記曝露された主面の上に前記有機金属化合物を堆積させることをさらに含む。
【0030】
本発明のある実施形態に係る方法では、前記所定の第1サイクル数は1以上100以下である。好ましい実施形態では、前記所定の第1サイクル数は1以上20以下である。より好ましい実施形態では、前記所定の第1サイクル数は1以上15以下である。さらに好ましい実施形態では、前記所定の第1サイクル数は1以上5以下である、
【0031】
前記好ましい所定の第1サイクル数の循環反応シーケンスを繰り返すことにより、連続的なピンホールフリーのMOF膜が形成されることは、前記実施形態の利点である。
【0032】
本発明のある実施形態では、前記循環反応シーケンスでは分子層堆積(MLD)プロセスが用いられる。前記循環反応シーケンスは、第1パージ工程を実施することを含む。前記第1パージ工程により、未反応の(前記循環反応シーケンスを開始したときからの余剰分の)有機金属化合物前駆体が反応チャンバから除去される。
【0033】
第1パージ工程の後、前記曝露された主面は前記少なくとも1つの有機リガンドに曝露される。前記曝露工程の後、第2パージ工程が実施され、未反応の(余剰分の)有機リガンドが反応チャンバから除去される。
【0034】
ある実施形態では、前記第1パージ工程と前記第2パージ工程はともに、N
2、ArまたはHeなどの不活性ガスを流通させることにより実施できる。
【0035】
他の実施形態では、前記第1パージ工程と前記第2パージ工程は、チャンバを真空引きする(排気する)ことにより実施できる。
【0036】
ある実施形態では、前記第1パージ工程の後、前記第2パージ工程の前に、前記曝露された主面を2つ以上の有機リガンドに曝露してもよい。前記2つ以上の有機リガンドは、前記曝露された主面に蒸気混合物の形で供給してもよい。
【0037】
他の実施形態では、前記2つ以上の有機リガンドはそれぞれ、後に続く前記循環反応シーケンスのサイクルにおいて、前記曝露された主面に供給してもよい。
【0038】
本発明の他の実施形態では、前記循環反応シーケンスは原子層堆積(ALD)プロセスを用いて行われる。ALDを用いる場合、前記循環反応シーケンスは、第1パージ工程を実施することを含む。前記第1パージ工程により、未反応の(前記循環反応シーケンスを開始したときからの余剰分の)有機金属化合物前駆体が反応チャンバから除去される。前記第1パージ工程の後、前記曝露された主面が酸化剤に曝露され、これにより前記基板の上に金属酸化物が形成される。前記酸化剤は水蒸気であってもよい。前記工程の後、第2パージ工程を実施して、酸化剤の余剰分が反応チャンバから除去される。前記方法は、さらに、ALDを用いて前記循環反応シーケンスを実施した後、前記金属酸化物を所定時間、前記少なくとも1つの有機リガンドに曝露する工程をさらに含み、該曝露する工程は、固相−気相シングル成長プロセスを実施し、前記金属酸化物を少なくとも部分的に前記MOF膜に転化させることを含む。
【0039】
ある実施形態では、前記所定時間は、前記金属酸化物を前記MOF膜に完全転化させる長さとされる。
【0040】
他の実施形態では、前記所定時間は、前記金属酸化物を前記MOF膜に部分転化させる長さとされる。
【0041】
ある実施形態では、前記金属酸化物は酸化亜鉛(ZnO)である。
【0042】
本発明の他の実施形態では、前記金属酸化物は、前記基板の主面の上に、スパッタリング、物理気相成長法(PVD)または電気化学堆積法(ECD)によりエクサイチュで設けてもよい。
【0043】
本発明の他の実施形態では、前記基板の主面の上に前記金属を供給し、前記金属を熱酸化して、前記金属酸化物を形成してもよい。
【0044】
ある実施形態では、ALDを用いて前記金属酸化物を形成し、続いて前記金属酸化物を前記少なくとも1つの有機リガンドに曝露する前記循環反応シーケンスを、所定の第2サイクル数、繰り返す。この実施形態では、所望の厚さのMOF膜を得られるので、好都合である。
【0045】
本発明の実施形態では、前記有機金属化合物前駆体は、金属イオンまたは金属イオンのクラスタを含む。前記金属イオンのクラスタは、Zn、Fe、In、Co、Cu、Mn、Li、B、Cd、HgおよびPrから成る群から選択されてもよい。ある実施形態では、前記群は、さらに、Mg、Al、Zr、Hf、TiおよびTaを含んでもよい。
【0046】
好ましい実施形態では、前記金属イオンはZnイオンである。
【0047】
本発明の実施形態では、前記少なくとも1つの有機リガンドは、アゾール系リガンドである。
【0048】
好ましい実施形態では、前記アゾール系有機リガンドは、[2−メチルイミダゾール]、[3−(2−ピリジル)−5−(4−ピリジル−1,2,4−トリアゾール]または[4,5−ジクロロイミダゾール]である。[2−メチルイミダゾール]は、ZIF−8と称されるMOF膜の製造に用いられる。[3−(2−ピリジル)−5−(4−ピリジル−1,2,4−トリアゾール]は、MAF−28と称されるMOF膜の製造に用いられる。[4,5−ジクロロイミダゾール]は、ZIF−71と称されるMOF膜の製造に用いられる。
【0049】
より好ましい実施形態では、前記アゾール系有機リガンドは、[2−メチルイミダゾール]であり、ZIF−8膜の製造に用いられる。
【0050】
第2の態様では、本発明は基板構造体に関する。前記基板構造体は、主面を有する基板と、前記主面の上に設けられたMOF膜とを備える。前記MOF膜は、厚さが1nm以上250nm以下であり、ピンホールフリーである。前記基板構造体は、本発明の実施形態の結果として得られる中間構造であってもよい。
【0051】
第2の態様の実施形態では、前記基板は、複数の突起と複数のくぼみが形成された主面を有する。前記突起は、独立してまたは接続されて、基板から突出した構造を指す。前記突起は、柱、コーン(円錐)、ピラミッド(角錐)、球、半球、立方体など任意の三次元形状を有していてよい。
【0052】
前記突起は、前記基板と同じ材料で構成されていてもよい。前記突起は、前記基板とは異なる材料で構成されていてもよい。前記突起は、柱、金属ナノワイヤ、半導体ナノワイヤ、カーボンナノチューブまたはカーボンナノシートであってもよい。前記金属ナノワイヤは、多孔質テンプレートへのめっきにより製造されてもよい。前記半導体ナノワイヤは、ボトムアップ型の触媒気相−液相−固相成長、または、触媒エッチングにより製造されてもよい。
【0053】
ある実施形態では、前記突起は、独立しており、前記基板の一部であり、前記基板から突出している。
【0054】
第2の態様の実施形態では、前記基板の主面は、誘電体材料のコンフォーマル層で覆われている。
【0055】
実施形態では、前記誘電体材料のコンフォーマル層は、例えば酸化物層を含んでもよい。前記酸化物層は、電気絶縁体であってもよい。前記酸化物層は、導体であってもよい。また、前記酸化物層は、イオン導電体であってもよい。
【0056】
好ましい実施形態では、前記酸化物層は、TiO
2、SiO
2またはAl
2O
3であってもよい。より好ましい実施形態では、酸化物層はTiO
2である。前記酸化物層の厚さは、2nm以上40nm以下である。
【0057】
ある実施形態では、前記基板構造体は、スタック(積層体)をさらに含む。前記スタックは、MOF膜から成る複数の層と、屈折率が1.4より大きい材料から成る層と、で構成されている。前記スタックに含まれるMOF膜の層は、本発明の実施形態に係る方法により製造される。前記スタックを備えた基板構造体は、各MOF膜の層が連続的であることから、光学センシング用途において有利である。
【0058】
本発明の第3の態様では、基板の主面の上に有機金属構造体(MOF)膜を製造するための有機金属化合物前駆体と少なくとも1つの有機リガンドの使用が開示されている。前記有機金属化合物前駆体と前記少なくとも1つの有機リガンドはそれぞれ、気相で供給される。
【発明を実施するための形態】
【0062】
特定の実施形態に関して、特定の図面を参照しつつ本発明について説明するが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。図面は概略的なものにすぎず、非制限的である。
【0063】
さらに、明細書の説明と特許請求の範囲で用いられる、第1、第2、第3などは、類似の要素を区別するために用いられているのであって、必ずしも時間的、空間的、序列、または他のいずれかの方法での順序を表すために用いられているのではない。こうして用いられた用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書で説明している本発明の実施形態は、本明細書で説明または図示されているものとは別の順序で動作可能であると理解すべきである。
【0064】
この明細書を通じて「一実施形態、実施形態」は、当該実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれるということを意味する。したがって、本明細書を通じてさまざまな場所で現れるフレーズ「一実施形態で、実施形態で」は、必ずしもすべてが同じ実施形態を参照するわけではないが、参照してもよい。さらに、本開示から当業者に明らかなように、1つ以上の実施形態に記載された特定の特徴、構造または特性は、任意の適切な方法で組み合わされてよい。
【0065】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明で、本発明のさまざまな特徴は、開示を簡素化し、さまざまな発明の態様の理解を容易にする目的で、1つの実施形態、図面、またはその説明にまとめられていることがあると認識すべきである。ただし、本開示の方法は、特許請求の範囲に記載の発明が、各請求項に明示的に記載された特徴よりも多くの特徴を必要とするという意図を反映していると解釈すべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映しているように、発明の態様は、開示された1つの実施形態のすべての特徴よりも少なくなる。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、この詳細な説明中に明確に包含され、各請求項は、この発明の別々の実施形態としてそれ自身で成立する。
【0066】
さらに、当業者に理解されるように、本明細書で説明する幾つかの実施形態は、他の実施形態の特徴の幾つかは含むが別の幾つかは含まず、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲に含まれ、さまざまな実施形態を構成する。例えば、以下の特許請求の範囲において、特許請求の範囲で請求された実施形態のいずれも、任意の組み合わせで用いることができる。
【0067】
本明細書でなされている説明では、多くの具体的な詳細が記述されている。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細を含まなくても実施できると理解すべきである。他の例では、周知の方法、構造および技術は、説明の理解を不明瞭にしないために、詳細には示されていない。
【0068】
以下の用語は、単に本発明の理解を助ける目的で用いている。
【0069】
本明細書で用いる「循環反応シーケンス(cyclic reaction sequence)」は、膜の形成につながる化学反応を指す。同化学反応では、反応チャンバ内に連続的に前駆体を導入し、各前駆体を導入した後にパージ工程を実施し、これにより循環反応シーケンスが構成される。循環反応シーケンスを繰り返す回数により、膜厚が決定される。
【0070】
本明細書で用いる「パージ工程」は、他で規定しない限り、余剰の材料と反応生成物を反応チャンバから取り除くことを指す。
【0071】
本明細書で用いる「ピンホール」は、他で規定しない限り、層を厚さ方向に貫通する孔を指す。
【0072】
本明細書で用いる「ピンホールフリー」は、他で規定しない限り、層にピンホールが形成されていない状態を指す。
【0073】
本明細書で用いる「自己制御性(self-limiting)」は、他で規定しない限り、表面の上で利用可能な全サイトが反応した後に終了し、その後、反応チャンバ内に他の反応剤が供給されるまで更なる材料が堆積しないような反応を指す。
【0074】
本明細書で用いる「均質」は、他で規定しない限り、膜の二乗平均平方根(RMS)粗さが膜厚の10%未満であることを指す。
【0075】
本明細書で用いる「有機金属構造体(MOF)」は、他で規定しない限り、2つ以上の配位基を有する有機リガンドに配位した金属イオンまたは金属イオンのクラスタから成る多孔質の化合物を指す。典型的には、MOFの構造と特性は、金属と有機リガンドの選択に応じて変わる。さらに、ポアの大きさと形状は、金属の配位数(当該金属に結合可能な有機リガンドの数)と有機リガンドの配向に応じて変わる。
【0076】
本明細書で用いる「配位数」は、他で定義しない限り、分子またはイオンにおいて中心原子に隣接する原子の総数と定義される。
【0077】
本明細書で用いる「連続膜(continuous film)」は、他で規定しない限り、当該膜が形成される表面の上で途切れていない(連続している)膜を指す。
【0078】
本明細書で用いる「突起」は、他で規定しない限り、独立して(接続されないで)または接続されて基板から突出している構造体を指す。突起は、柱(ピラー)、コーン(円錐)、ピラミッド(角錐)、球、半球、立方体など任意の三次元形状を有していてよい。
【0079】
本明細書で用いる「くぼみ(indentation)」は、他で規定しない限り、基板に接続され、または基板から分離して設けられた任意の凹部(例えばトレンチ、キャビティなど、または、不規則かつ/または規則的な形状を有する開口部)を指す。
【0080】
好ましくは、MOF内に存在する有機リガンドは、二座カルボン酸、三座カルボン酸および窒素、硫黄、酸素またはその組合せを含有するヘテロ環式化合物の類から選択される。本発明で用いる有機リガンドは、好ましくは、窒素、硫黄、酸素またはこれらの組合せを含むヘテロ環式化合物の類から選択される。より好ましくは、窒素、硫黄、酸素またはこれらの組合せを含むヘテロ環式化合物は五員環化合物である。さらに好ましくは、五員環化合物はアゾールであり、有機リガンドは「アゾール系(azole-based)」と称する。アゾール系のMOFは、「ゼオライト金属アゾレート構造体(MAF)」、「ゼオライトイミダゾール構造体(ZIF)」、「ホウ素イミダゾール構造体(BIF)」および「四面体イミダゾール構造体(TIF)」としてさらに分類される。より好ましくは、本発明で用いるアゾール系MOFは、MAFまたはZIFである。好ましい実施形態では、ZIFはZIF−8またはZIF−71であり、MAFはMAF−28である。ZIF−8は、有機リガンドとしての[2−メチルイミダゾール]を用いて製造される。MAF−28は、有機リガンドとしての[3−(2−ピリジル)−5−(4−ピリジル)−1,2,4−トリアゾール]を用いて製造される。ZIF−71は、有機リガンドとしての4,5−ジクロロイミダゾールを用いて製造される。
【0081】
本明細書で用いる「酸化剤」は、他で規定しない限り、酸化還元反応において他の種から電子を受けとる要素または化合物を指す。本発明で用いられる酸化剤は、好ましくは、酸素プラズマ、オゾンまたは水である。
【0082】
本明細書で用いる「有機金属化合物」は、他で規定しない限り、金属と、有機基の一部である炭素との結合を少なくとも1つ含む化合物を指す。本発明では、前記金属炭素結合を構成する金属として、有機金属化合物として利用可能であって、原子層堆積(ALD)プロセスまたは分子層堆積(MLD)プロセスによるMOF膜の製造に適した任意の金属が用いられる。前記少なくとも1つの金属は、好ましくは、Zn、Fe、In、Co、Cu、Mg、Li、B、Cd、Hg、Al、Pr、Ta、La、Ce、Ir、Rh、Sn、Sb、Bi、Pb、Y、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mo、W、Mn、NaおよびKから成る群から選択することができる。前記少なくとも1つの金属は、好ましくは、Zn、Fe、In、Co、Cu、Mn、Li、B、Cd、Hg、Mg、Al、Zr、Hf、Ti、TaおよびPrから成る群から選択される。より好ましくは、前記少なくとも1つの金属はZnである。
【0083】
本明細書で用いる「ガスフローモード」は、他で規定しない限り、反応チャンバ内の気体の全圧または分圧を所定の値に維持した状態で、反応チャンバに連続的に前駆体ガスを供給するとともに、反応チャンバから前駆体ガスを排気している状態を指す。
【0084】
本明細書で用いる「フラッドモード」は、他で規定しない限り、所定の全圧または所定の分圧が達成されるまで前駆体ガスを反応チャンバ内に導入し、所定時間この状態を維持する条件を指す。通常、フラッドモードは、長い曝露時間が必要になるときに用いられる。長い曝露時間とは、数秒から最大数分(または最大30分)の曝露時間を指してもよい。
【0085】
本明細書で用いる「完全転化(full conversion)」は、他で規定しない限り、所定の材料特性を有する層を、材料特性の異なる層に転化させる(変質させる)ことを指す。
【0086】
本明細書で用いる「部分転化(full conversion)」は、他で規定しない限り、当初の材料特性を有するイニシャル層を、当初の材料特性とは材料特性が異なる一方、当初の材料特性を有するイニシャル層が部分的に残っているような層へ転化させる(変質させる)ことを指す。
【0087】
本発明の実施形態の詳細な説明を用いて、本発明を説明する。本発明の技術的な教示から逸脱しなければ、当業者の知識に従って本発明の他の実施形態を構成できることは明らかである。本発明は、特許請求の範囲の用語によってのみ限定される。
【0088】
図1は、本発明の実施形態に係る、MOF膜(200)を製造する方法(400)の概略的な工程を示すフローチャートである。本発明の実施形態に係る方法は、主面を有する基板を準備する工程(300)から開始する。基板は、半導体基板、金属基板、ガラス基板またはシリコンオンインシュレータ(SOI)基板であってもよい。
【0089】
基板の主面は、誘電体材料のコンフォーマル層で覆われていてもよい。誘電体材料の層は、蒸着法により設けられてもよい。好ましくは、この誘電体材料層は、制御された厚さを有するコンフォーマル層が得られる点で、原子層堆積法(ALD)により堆積させる。誘電体層は、例えば、酸化物層を含んでいてもよい。酸化物層は、ALDにより堆積させることが可能な金属酸化物であってもよい。好ましくは、この酸化物層は、TiO
2、SiO
2またはAl
2O
3であってもよい。より好ましくは、酸化物層はTiO
2である。この酸化物層は、基板と形成されるMOF膜との間を良好に接着する接着層である。さらに、この酸化物層は、連続的なMOF膜を製造するのに役立つ。この酸化物層(接着層)の厚さは、2nm以上40nm以下である。
【0090】
第2の工程(200)では、MOF膜を形成する。本発明の実施形態では、ともに気相で供給される有機金属化合物前駆体(110)と少なくとも1つの有機リガンド(150)とを用いてMOF膜を形成する。MOF膜を形成する工程は、少なくとも、循環反応シーケンスを第1の所定サイクル数、繰り返すことを含む。循環反応シーケンスは、気相の有機金属化合物前駆体に主面を曝露する工程(110)により開始する。
【0091】
本発明の実施形態では、所定の第1サイクル数は、1以上100以下である。好ましくは、所定の第1サイクル数は1以上20以下であり、より好ましくは1以上15以下であり、さらに好ましくは1以上5以下である。
【0092】
本発明の発明者らは、有機金属化合物前駆体と少なくとも1つの有機リガンドとを気相で供給することにより、均質でピンホールフリーのMOF薄膜をコンフォーマルに製造できることを見出した。均質でピンホールフリーのMOF薄膜を製造することは、MOF膜が、(例えばMOF膜をスタック内の中間層として用いたときに)機能を発揮しうる下位層を覆うとともに、2つの層を分離して接触を避けることができるので、好都合である。
【0093】
第1の実施形態では、MOF膜は、循環反応シーケンス(101)を通じてのみ形成される。
図2は、本発明の実施形態に係る方法(400)の工程を示すフローチャートである。方法(400)は、主面(630)を有する基板を準備する第1工程(300)を含む。第2工程で、MOF膜(200)は、反応チャンバ内で分子層堆積(MLD)法を用いて行う循環反応シーケンス(101)を通じてのみ形成される。MLD法では、揮発性の好適な前駆体を用いることが必要となる。こうした好適な前駆体は、ともに気相で供給される、有機金属化合物と少なくとも1つの有機リガンドを含む。少なくとも1つの有機リガンド(150)は、ガスフローモードまたはフラッドモードにおいて、気相で供給してもよい。
【0094】
本発明の実施形態では、2つ以上の有機リガンドを供給してMOF膜を製造してもよい。
【0095】
ある方法では、
図2に示す工程150で、蒸気混合物の形で2つ以上の有機リガンドを供給する。
【0096】
別の方法(図示せず)では、工程150で、循環反応シーケンス(101)の連続するサイクルにおいて、2つ以上の有機リガンドをそれぞれ供給する。
【0097】
基板(610)の主面(630)は、MLD法に適したものとなるように、前処理工程を実施して前処理を行ってもよい。
【0098】
前処理工程の種類は、MOF膜を基板内(または基板の上)で用いる用途に応じて変えてもうよい。
【0099】
前処理工程は、例えば、オゾンまたは酸素プラズマを用いて行う酸化工程であってもよい。
【0100】
循環反応シーケンス(101)は、反応チャンバに気相の有機金属化合物前駆体(110)を供給することにより開始する。第2工程では、第1パージ工程(120)を実施して、反応チャンバから有機金属化合物前駆体の余剰分を除去する。続いて、第3工程では、反応チャンバに気相で供給される少なくとも1つの有機リガンドに基板を曝露する(150)。第4工程では、第2パージ工程を実施する(140)。
【0101】
当業者に理解されるように、有機金属化合物前駆体の流量と有機リガンドの流量は、MOF膜の製造プロセスに応じて変わる。
【0102】
有機金属化合物前駆体の流量と有機リガンドの流量は、有機金属化合物前駆体の蒸気圧と有機リガンドの蒸気圧に応じて変わる。
【0103】
当業者により理解されるように、有機金属化合物前駆体の流量と有機リガンドの流量は、MOF膜が製造される基板の種類により変化する。
【0104】
第1パージ工程と第2パージ工程はともに、N
2、ArまたはHeのような不活性ガスを流通させることにより実施できる。
【0105】
また、第1パージ工程と第2パージ工程は、チャンバを真空引きする(evacuate)ことにより行うことができる。
【0106】
MLDプロセスを行うのであれば、基板の温度は20℃以上400℃以下である。好ましくは、基板の温度は100℃以上180℃以下である。
【0107】
当業者に理解されるように、基板の温度は、MOF膜を製造するための有機金属化合物前駆体と有機リガンドの種類に応じて変わる。
【0108】
反応チャンバの圧力は1気圧以下である。
【0109】
図2に示す、有機金属化合物前駆体(110)を供給する時間と有機リガンド(150)を供給する時間は、0.1秒以上10秒以下であってもよい。フラッドモードを用いた場合、時間は、数秒から最大数分(または最大30分)に長くなる可能性がある。
【0110】
図2に示す、第1パージ工程(120)と第2パージ工程(140)の時間は、効率的にパージを行うために、1秒以上30秒以下、または30秒以上であり、例えば最大1分であってもよい。
【0111】
通常、1サイクルにつき、約0.05nm以上約2nm以下のMOF膜が成長する。
【0112】
循環反応シーケンス(101)を第1の所定サイクル数、繰り返し、これにより所定の膜厚を有するMOF膜が得られる。
【0113】
第2の実施形態では、固相−気相シングルステップ成長プロセス(500)と循環反応シーケンス(102)とを組み合わせることにより、MOF膜が形成される(200)。
【0114】
図3は、本発明の実施形態に係る方法(400)の工程を示すフローチャートである。方法(400)は、主面(630)を有する基板を準備する第1工程(300)を含む。
【0115】
基板の主面は、誘電体材料のコンフォーマル層で覆われていてもよい。この誘電体材料層は、蒸着法により設けられてもよい。この誘電体材料層は、厚さを制御でき且つコンフォーマル成長させることができる点で、原子層堆積(ALD)により堆積させることが好ましい。この誘電体材料層は、例えば酸化物層を含んでいてもよい。この酸化物層は、ALDにより堆積させることが可能な任意の金属酸化物であってもよい。好ましくは、この酸化物層は、TiO
2、SiO
2またはAl
2O
3であってもよい。より好ましくは、この酸化物層はTiO
2である。この酸化物層は、基板と、形成されるMOFとを良好に接合する接合層である。また、酸化物層は、連続的なMOF膜の製造に役立つ。この酸化物層(接合層)の厚さは、2nm以上40nm以下である。
【0116】
第2工程では、MOF膜(200)が製造される。MOF膜の製造は、原子層堆積(ALD)プロセスにより行われる循環反応シーケンスの結果として、基板の上に金属酸化物を形成することから開始する。さらに、循環反応シーケンスは、シングルステップの固相−気相成長プロセスと結び付けられ、これにより金属酸化物がMOF膜に転化する。金属酸化物がMOF膜に完全転化すると、酸化物層(接着層である)は基板とMOF膜とを良好に接着する。
【0117】
基板の主面(630)は、ALDプロセスに適するように前処理してもよい。
【0118】
典型的に、前処理工程は、オゾンまたは酸素プラズマを用いて行われる酸化工程であってもよい。
【0119】
循環反応シーケンス(102)は、気相の有機金属化合物前駆体(110)を反応チャンバに供給することにより開始する。金属酸化物の形成の第2工程では、第1パージ工程(120)を実施して余剰の有機金属化合物前駆体を反応チャンバから除去する。第1パージ工程に続いて、金属酸化物の形成の第3工程では、基板を酸化剤に曝露する(130)。酸化剤は、水、オゾンまたは酸素プラズマであってもよい。
【0120】
第4工程では、第2パージ工程を実施する(140)。
【0121】
第1パージ工程と第2パージ工程はともに、不活性ガス(例えばN
2、ArまたはHe)を供給することにより実施する。
【0122】
また、第1パージ工程と第2パージ工程は、チャンバを真空引きすることにより実施してもよい。
【0123】
ALDプロセス中に金属酸化物が上に形成される基板の温度は、90℃以上360℃以下であってもよい。好ましくは、ALDプロセス中に金属酸化物が上に形成される基板の温度は、240℃である。
【0124】
ALDプロセス中に金属酸化物を形成する圧力は、1Torr以下である。
【0125】
図3に示すように、有機金属化合物前駆体(110)を供給する時間と酸化剤(130)を供給する時間は、0.1秒以上10秒以下であってもよい。フラッドモードを用いた場合、時間は、数秒から最大数分(または最大30分)に長くなる可能性がある。
【0126】
図3に示すように、第1パージ工程(120)と第2パージ工程(140)の時間は、パージを効率的に行うために、1秒以上30秒以下、または30秒より長くてもよい。
【0127】
循環反応シーケンス(102)を第1の所定サイクル数、繰り返し、これにより所定の膜厚を有する金属酸化物が得られる。
【0128】
金属酸化物の形成に続いて、シングルステップの固相−気相成長(500)プロセスを実施する。金属酸化物を少なくとも1つの有機リガンド(150)に曝露する。これにより、金属酸化物はMOF膜に転化する。
【0129】
金属酸化物の形成に続くシングルステップの固相−気相成長プロセスは、ALDチャンバから基板を除去することなく、ALDチャンバ内でインサイチュ(in-situ)に実施してもよい。
【0130】
あるいは、基板の上に金属酸化物を形成する工程は、スパッタリング、物理気相成長法(PVD)、電気化学堆積法または金属の熱酸化により行ってもよい。この例では、シングルステップの固相−気相成長プロセスによる金属酸化物のMOF膜への転化は、エクサイチュ(ex-situ)で行ってもよい。
【0131】
少なくとも1つの有機リガンドは、ガスフローモードで供給してもよいし、フラッドモードで供給してもよい。
【0132】
シングルステップの固相−気相成長プロセス(500)は、20℃以上400℃以下の基板温度で実施してもよい。好ましくは、基板の温度は100℃以上180℃以下である。
【0133】
シングルステップの固相−気相成長(500)を行う温度は、循環反応シーケンス(102)の結果としてALDにより得られる金属酸化物の厚さの転化の程度に影響を与える。金属酸化物のMOF膜への転化は、水蒸気が失われることにより阻害される。このような水分の蒸発は、高温であるほど速くなる。一方、十分な転化速度とMOFの結晶性を実現する温度が要求される。例えば、80℃未満の成長温度で成長させたMOF膜は、結晶性を有しない。相反するこれらの影響を相殺するために、工程(500)を実施する間に反応チャンバ内に水蒸気を追加してもよい。
【0134】
シングルステップの固相−気相成長プロセス中の反応器の圧力は、1atm以下である。
【0135】
金属酸化物をMOF膜に転化させる役割を果たす金属酸化物の臨界厚さが存在する。金属酸化物の臨界厚さは50nm以上150nm以下である。好ましくは、金属酸化物の臨界厚さは10nm以上30nm以下である。
【0136】
金属酸化物の厚さが臨界厚さ未満である場合、少なくとも1つの有機リガンドに金属酸化物を曝露する時間は、金属酸化物の厚さに応じた長さである。当該時間は、金属酸化物をMOF膜に完全転化させるために金属酸化物の厚さに直接に比例する。
【0137】
ただし、少なくとも1つの有機リガンドに金属酸化物を曝露する時間を調節することにより、金属酸化物をMOF膜に部分転化させてもよい。金属酸化物の部分転化により、形成されるMOF膜の下側に接する形で未転化の金属酸化物が生じる。
【0138】
金属酸化物の厚さが臨界厚さより大きい場合、少なくとも1つの有機リガンドに金属酸化物を曝露する時間は、金属酸化物の厚さとは無関係である。金属酸化物のMOF膜への完全転化は達成されず、未転化の金属酸化物がMOF膜と基板との間に存在する。
【0139】
基板の主面の上に接着層が存在しないときには、金属酸化物のMOF膜への部分転化が好都合である。未転化の金属酸化物が、基板と、形成されるMOF膜との間で接着層として機能する。
【0140】
図4aから
図4dでは、基板の上に製造され、金属酸化物の当初厚さが異なる2つのMOF膜を比較している。符号610を付した基板は、Si基板である。符号650を付した金属酸化物はZnOである。Si基板(610)に前処理工程を実施し、これによりSi基板(610)の主面(630)の上にSiO
2(640)を形成する。
【0141】
図4(a)を参照すると、当初厚さ25nmのZnOを用いた場合に、ZnOがMOF膜(620)へ完全転化することがわかる。
図4(a)に示すMOF膜(620)はZIF−8である。ZnOがZIF−8へ完全転化していることは、SiO
2(640)とZIF−8(620)との間にコントラスト差がないことにより決定される。これは、
図4(b)にも概略的に図示している。
【0142】
図4(b)では、基板には符号610が付されている。基板の主面(630)の上には、酸化物が存在する(640)。この酸化物はSiO
2である。MOF膜(620)は、ZnOの完全転化により製造され、これによりZnO層はもはや視認されず、得られるMOF膜(620)は酸化物(640)の上に位置する。ZnOが完全転化したときにはSiO
2が基板とMOF膜との間で接着層として機能するので好都合である。ただし、
図4(c)に示すように、ZnOの当初厚さが320nmである例では、MOF膜に転化していない未反応のZnO(650)が見られる。ここで、未反応のZnO(650)の膜厚は約177nmである。
図4(c)に示すMOF膜(620)はZIF−71である。SiO
2(640)とZIF−71(620)とのコントラスト差により、未反応のZnO(650)の存在が明らかになる。これは、
図4(d)にも概略的に図示している。同図で、未反応のZnO膜には符号650を付している。
【0143】
図5は、
図4(a)に示される試料のXRDスペクトルを示す。シミュレーションにより得られたパターン(1)は、ZIF−8の結晶情報ファイル(Crystallographic Information File (CIF))から得られる結晶格子情報を用いて計算されたXRDパターンである。ZIF−8についてのCIFは、ゼオライトイミダゾール構造体の優れた科学的、熱的安定性から得られる(Proceedings of the National Academy of Sciences, 103(27), 10186-10191)。シミュレーションによるパターン(1)と実験によるパターン(2)を比較することにより、ZIF−8膜が形成されていることがわかる。
【0144】
図6(a),(b)では、金属酸化物の上に形成されるMOF膜が比較される。基板の主面の上には、接着層が存在する。
図6(a)では接着層はSiO
2であり、
図6(b)では接着層はTiO
2である。形成されるMOF膜はZIF−8である。金属酸化物はZnOであり、
図6(a)のSiO
2または
図6(b)のTiO
2の上に堆積しており、厚さは10nmである。ZnOが露出した基板を、大気圧下、100℃で300分間、2メチルイミダゾールに曝露する。次に、100℃のN
2雰囲気下で、5分間パージを行う。TiO
2は、スパッタリングにより基板の主面の上に設けられ、厚さは約40nmである。SiO
2は、化学気相成長法(CVD)により基板の主面の上に設けられ、厚さは約100nmである。接着層の種類が、形成されるMOF膜の連続性に影響を与えることがわかる。
【0145】
接着層としてSiO
2を用いたときにはZIF−8内に不連続部または切れ目(10)が存在するが、接着層としてTiO
2を用いたときには連続的なZIF−8が形成される。
【0146】
これら2つの異なるMOF膜を製造するための実験の詳細を
図7に示している。
【0147】
第3の実施形態(別途図で説明はしていない)では、
図3に示すALDを所定の第1サイクル数、行うことで循環反応シーケンス(102)を実施し、金属酸化物を形成できる。この金属酸化物は、厚さ50nm以下の厚さを有しうる。次に、シングルステップの固相−気相成長プロセス(500)中に金属酸化物を有機リガンドに曝露し、1サイクルのMOF堆積を行う。この1サイクルを所定の第2サイクル数、繰り返すことをスーパーサイクルと称する。
【0148】
典型的に、前記1サイクルを繰り返す回数である所定の第2サイクル数は、以下の式で与えられる。
【0150】
式(1)は、金属酸化物がMOF膜に転化する際に膨張(expansion)が生じない場合に有効である。ただし、理論的には、前記1サイクルを繰り返す回数である所定の第2サイクル数は、膨張に応じて変わり、1以上50以下である。したがって、厚さ5nm以上250nm以下のMOF膜を製造するためには、前記1サイクルを繰り返す回数である所定の第2サイクル数は、膨張を考慮すると以下の式で与えられる。
【0152】
このスーパーサイクルは、2つの例により行うことができる。第1の例では、循環反応シーケンス(102)中にALDにより形成される金属酸化物は、MOF堆積の各サイクルの後に気相の有機リガンド(500)に曝露され、MOF膜に完全転化する。このMOF堆積の1サイクルを繰り返すことにより、スーパーサイクルが構成される。第1の例では、ピンホールフリーで連続的かつ均一な所望の厚さのMOF膜を形成できて好都合である。
【0153】
第2の例では、循環反応シーケンス(102)中にALDにより形成される金属酸化物は、MOF膜に完全転化しない。これは、前記臨界厚さを超える厚さの金属酸化物を堆積させるか、金属酸化物の厚さが前記臨界厚さよりも小さい場合は、金属酸化物を気相の有機リガンドに曝露する時間を調節することにより、可能となる。このMOF堆積の1サイクルを繰り返すことにより、スーパーサイクルが構成される。この第2の例によれば、金属酸化物とMOF膜の層構造が形成され、例えばフォトニックセンシングに利用できて好都合である。
【0154】
図8に示すように、第4の実施形態では、基板(610)とMOF膜(620)とを備えた基板構造体(600,601)が得られる。
【0155】
MOF膜(620)は、説明した実施形態のいずれかにしたがって製造される。
【0156】
図8(a)では、基板の主面(630)の上に誘電体材料層(640)が設けられていない基板構造体を概略的に示している。ZnO膜を完全転化させずにMOF膜を形成する場合には、誘電体材料層が設けられていない基板構造が有利である可能性がある。ZnO膜が完全転化していない場合、ZnO膜が基板と、形成されるMOF膜との間に残る。この残っているZnO膜(
図8(a)には示していない)は、基板とMOF膜との間の接着層としても機能しうる。
【0157】
図8(b)には、基板(610)の主面(630)の上に設けられた接合層(640)を有する基板構造体を概略的に示している。こうした基板構造体の例では、ZnOを完全に転化させることによりMOF膜を形成してもよい。変形例として(
図8(b)には示していない)、ZnOを部分的に転化させることによりMOF膜を形成してもよい。これにより、接合層(640)と、形成されるMOF膜(620)との間に設けられた未転化の(転化していない)ZnO膜(
図8(b)には示していない)が得られる。
【0158】
(想定される用途)
本発明の実施形態に係る方法によれば、前駆体を気相で供給することによりMOF膜を製造できる。さらに、この方法によれば自己制御膜成長を行うことができ、これにより、厚さを1nm以上250nm以下としても、均質なピンホールフリーのMOF膜を得ることができる。こうしたMOF膜を製造する方法は、半導体の製造に特に好適である。多孔質構造を有すること、および、誘電率が低いことから、バックエンドオブライン(BEOL)における絶縁体間材料または絶縁体内材料として、MOF膜を利用できる。BEOLでは、絶縁体間材料または絶縁体内材料の誘電率は、RC(抵抗−静電容量)遅延を低減させるように、好ましくはSiO
2の誘電率(4.0)よりも低い。
【0159】
また、前記方法は、MOF膜を有するコーティングセンサに特に適している。MOF膜では、分子の寸法が均一であってポアの内部を機能化できる。それゆえ、分子の選択的な認識が可能となる。さらに、開示している方法により堆積した薄いMOF膜は、MEMS製造プロセスを用いた統合に適している。
【0160】
本発明の実施形態に係るMOF膜の製造方法は、マイクロエレクトロニクス用途でMOF膜を製造および/または利用するのに好都合である。
【0161】
また、上述の方法は、(光)触媒に特に好適である可能性がある。薄く均一な層により、触媒の活性サイトへのアクセス性が向上する。
【0162】
前記方法は、(光)電気化学電池にも適している。
【0163】
上述の方法により製造されるMOF膜を用いるのに適した別の用途は、フォトニックセンシングである。MOF層と高屈折率材料が交互に設けられたスタックを、フォトニックセンシング用に製造できる。