【文献】
ホワイトアスパラの茹で汁スープのレシピ,2015年 5月10日,インターネット:<URL:http://hokkaido-yasai.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=1024>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0013】
本発明は、以下の工程を有するアスパラガス抽出物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と記載する場合がある。)に関する。
工程(1):原料アスパラガスを、温度80℃以上の条件で加熱処理する工程
工程(2):工程(1)で得られた加熱処理後のアスパラガスに抽出溶媒を接触させ、アスパラガス抽出物を得る工程
【0014】
本発明の製造方法では、原料となるアスパラガスを上記特定の温度条件で加熱処理することにより、加熱処理を行わない場合と比較して、アスパラガスに含まれる有効成分の抽出効率が格段に向上し、生産性良く、β‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性、脱顆粒抑制活性、IgE(免疫グロブリンE;Immunoglobulin E)の抑制活性の少なくとも1以上を有するアスパラガス抽出物を製造することができる。
【0015】
β‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性等の有益な作用を有するアスパラガス抽出物が得られるメカニズムは現在のところ不明な点も多いが、加熱処理により、アスパラガスの組織が変性し、非加熱のアスパラガスからは溶媒抽出が実質的にできない成分が溶出していると考えられる。
【0016】
以下、本発明の製造方法をより詳細に説明する。
【0017】
<工程(1)>
工程(1)は、原料アスパラガスを、温度80℃以上の条件で加熱処理する工程である。
【0018】
(原料アスパラガス)
本発明において、「原料アスパラガス」は、一般に食用で用いられているアスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)の茎部、切下部及び擬葉を含む概念である。
「茎部」は、アスパラガスの若茎の部分であり、可食部である。
また、「切下部」は、アスパラガスの規格外の根元部分とされる部分であり、通常、下から2cm程度である。これらは、通常廃棄されている。
また、「擬葉」は、茎部がさらに伸びた後、枝分かれしてできる茎であり、葉に代わり光合成で養分を作る部分である。
【0019】
原料アスパラガスは、その使用部位に応じて、未加工、又は適当な形状に加工されて工程(1)に供される。すなわち、アスパラガスの茎部、切下部及び擬葉をそのまま、スライス、粉砕、圧搾またはすりおろす等により、細粒物として使用することもできる。
【0020】
廃棄物の有効利用の観点からは、原料アスパラガスとして切下部(すべて切下部である場合も含む)を含むことが好ましい。後述する実施例で示すように、切下部から得られるアスパラガス抽出物も、茎部から得られる抽出物に匹敵するβ‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性を有する。
【0021】
工程(1)での加熱温度は、80℃以上であり、好ましくは90℃以上、100℃以上である。加熱温度が80℃未満であると加熱処理による効果が不十分となって目的とするアスパラガス抽出物が得られなくなる。一方、上限温度は、原料アスパラガスの炭化や酸化などにより目的としない成分が生成しない範囲で決定すればよく、通常、300℃以下、200℃以下、150℃以下である。
なお、工程(1)の加熱処理により原料アスパラガスの殺菌を同時に行うことができるという利点もある。
【0022】
工程(1)での加熱は、水分の共存下で行うことが好ましい。水分の共存下で加熱を行うことにより、原料アスパラガスから含有成分の抽出効率が向上する。
水分の共存下での加熱としては、水で煮込む方法や水蒸気で加熱する方法が挙げられる。このうち、アスパラガスの含有成分の流出が少ない、水蒸気で加熱する方法が好ましい。すなわち、工程(1)での好適な加熱条件のひとつは80℃以上(好適には90℃以上、100℃以上)で水蒸気共存下での加熱(いわゆる蒸焼の状態)である。
【0023】
加熱時間は、β‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性、脱顆粒抑制活性、IgE抑制活性の少なくとも1以上が発現する時間であればよく、原料アスパラガスの部位等や加熱温度、水分の共存の有無等を勘案して決定される。具体的には、80℃以上(好適には90℃以上、100℃以上)での水蒸気共存下の加熱処理の場合、実効的な活性を有する抽出物を得るためには加熱時間は3分以上、好ましくは5分以上である。加熱時間の上限の制限はないが、時間が長すぎると原料アスパラガスの組織が崩れる傾向にあり、また製造コストが増加することを考慮して、適宜加熱時間を設定すればよい。
【0024】
工程(1)での加熱処理を行う手段は、アスパラガスを加熱できるものであれば特に制限はない。水蒸気加熱を行う場合には蒸気、圧力と温度の設定・調節ができるものであるならば、適宜のものを用いることができ、市販のオートクレーブ、圧力鍋、あるいは圧力釜などを使用することができる。また、電子レンジを加熱手段に用いてもよい。
【0025】
<工程(2)>
工程(2):工程(1)で得られた加熱処理後のアスパラガスに抽出溶媒を接触させ、アスパラガス抽出物を得る工程である。
加熱処理後のアスパラガスは、そのままあるいは適当な処理(粉砕等の加工や乾燥処理)をしたのちに抽出溶媒と接触させて、その含有成分が抽出される。
【0026】
工程(2)において、加熱処理後のアスパラガスは、さらにスライス、粉砕、圧搾またはすりおろす等の加工を行ってもよい。
加熱処理後のアスパラガスは、未乾燥で抽出溶媒に接触させてもよく、乾燥した後に抽出溶媒を接触させてもよい。
【0027】
乾燥を行う場合、加熱処理後のアスパラガスの含水率を通常、30重量%以下、好ましくは10重量%以下まで乾燥させる。
乾燥工程に用いる手段としては特に制限はなく、公知の乾燥方法を採用すればよい。乾燥条件は、アスパラガス乾燥物を目的とする含水量になるように決定すればよい。例えば、温度70℃〜90℃で加熱乾燥する方法がある。
【0028】
一方、より好適な乾燥方法は、余計な加熱を行わない減圧乾燥であり、特に凍結乾燥が好ましく採用される。凍結乾燥では、冷凍処理における温度が−10℃以下であることが好ましい。減圧乾燥は、時間を1〜10時間、乾燥室内温度を5〜20℃として、これを目的とする水分量になるまで繰り返してもよい。
【0029】
本発明において、「抽出物」とは、抽出対象となる加熱処理後のアスパラガスを溶媒抽出して、有効成分の含有量を高めた形態のものを総括した概念である。具体的には加熱処理後のアスパラガスを抽出原料として得られる抽出液、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。なお、抽出液を乾燥して得られる乾燥物も、抽出物に該当するものとする。
【0030】
抽出溶媒としては、加熱処理後のアスパラガスに含有されるβ‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性、脱顆粒抑制活性、IgE抑制活性の少なくとも1以上を発現する有効成分を抽出できるものであればよい。
抽出溶媒の具体例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、グリセリン、エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ヘキサン、エチルアセテート、スクワラン等が挙げられる。なお、抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
これらの抽出溶媒は単独又はこれら2種以上の混合物として使用することができ、2種以上の溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。
【0031】
なお、抽出溶媒には、本発明の効果を損なわない範囲で添加剤を含んでいてもよい。例えば、pH調整剤、粘度調整剤などが挙げられる。
【0032】
本発明において、抽出溶媒がエタノールまたはエタノールと水の混合溶媒であることが好ましい。すなわち、加熱処理後のアスパラガスと、エタノールまたはエタノールと水の混合溶媒とを接触させ、前記加熱処理後のアスパラガスに含有される成分を抽出する製造方法により得られたアスパラガス抽出物は、優れたβ‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性を示す。
【0033】
なお、水を単独で抽出溶媒として使用し、アスパラガス抽出物を得た場合、そのβ‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性はエタノールと水の混合溶媒の場合のアスパラガス抽出物と比較して小さい。
このように抽出溶媒として水単独でなく、エタノールと水の混合溶媒とすることにより、β‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性が向上する理由については、現在のところ完全に明らかではないが、極性の異なる水やエタノールとの相乗作用により、アスパラガス抽出物から、β‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性等を有する含有成分が効率的に抽出されるものと推測される。なお、エタノール100体積%を抽出溶媒とすることもできる。
【0034】
また、水、エタノールは、経口投与可能であり、また、皮膚外用剤、化粧料組成物として適用可能である溶媒である。
【0035】
水とエタノールの割合は任意であるが、水とエタノールの合計を100体積%としたときに、エタノールが30体積%以上80体積%以上、好ましくは40体積%以上70体積%以上である。
【0036】
加熱処理後のアスパラガスから抽出物を抽出する方法は特に限定されず、常法に従って行なれる。例えば、加熱処理後のアスパラガスと、抽出溶媒とを互いに充分に攪拌し混合後、加熱処理後のアスパラガスから溶媒中に、有効成分が十分に抽出されるまで一定期間静置する。抽出時間は、抽出溶媒の種類や、加熱処理後のアスパラガスと抽出溶媒との割合によっても変化するが、0.5〜6時間程度である。
また、抽出物に含まれる残渣を取り除くため、濾過や遠心分離を行ってもよい。また、得られた抽出液はそのまま利用してもよいが、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
なお、この抽出操作は品質劣化を避けるために常温で行うのが好ましいが、抽出効率を上げるために加温状態にして行うことも可能である。また、必要に応じてアスパラガス抽出物の割合を高めるため、減圧濃縮や凍結乾燥により溶媒除去してもよい。
【0037】
加熱処理後のアスパラガスに対する抽出溶媒の量は特に制限はないが、通常、加熱処理後のアスパラガスに対して重量比で1〜100倍量程度である。
【0038】
<アスパラガス抽出物及びその応用>
本発明のアスパラガス抽出物は、β‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性、脱顆粒抑制活性及びIgE抑制活性の少なくとも1以上の活性を有することを特徴とする。本発明のアスパラガス抽出物は、上述した本発明の製造方法によって製造することができる。
本発明のアスパラガス抽出物は、そのまま使用してもよいし、さらに抽出、粉砕などの加工を行ってもよい。また、アスパラガス抽出物と任意の成分を組み合わせて、アスパラガス抽出物を含有する組成物としてもよい。任意成分の配合割合は、その目的に応じて適宜選択して決定することができる。
【0039】
(医薬組成物)
本発明のアスパラガス抽出物は、後述する実施例で示すようにβ‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性、脱顆粒抑制活性、IgE(免疫グロブリンE;Immunoglobulin E)の抑制活性を有し、これらの活性に関連する抗アレルギー作用、抗炎症作用を有する。そのため、本発明のアスパラガス抽出物は、その有効量を薬学的に許容される基材とともに配合して医薬組成物(以下、「本発明の医薬組成物」と記載する場合がある。)としてもよい。
【0040】
本明細書において、「医薬組成物」とは、対象となる疾患の予防、治療、症状の改善の少なくともひとつに対して有用な薬剤を意味する。また、本明細書において、「医薬組成物」には、医薬品のみならず、医薬部外品も含む。
【0041】
本発明の医薬組成物は、本発明のアスパラガス抽出物以外にもその効能を損なわない範囲で他の薬剤や薬理学的に許容される任意の成分を含んでもよい。また、本発明のアスパラガス抽出物そのものを、本発明の医薬組成物として使用してもよい。
【0042】
本発明の医薬組成物は、β‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性、脱顆粒抑制活性、IgE抑制活性が関与する疾患の予防、治療、症状の改善の少なくともひとつに対して有用である。すなわち、「予防」には、当該疾患または症状の発症の抑制および遅延が含まれる。また、「治療」には、当該疾患または症状の病態の改善および寛解、並びに当該疾患または症状の進展の抑制が含まれる。
【0043】
本発明の医薬組成物の対象となる、疾患又は症状の具体例として、例えば、アトピー性皮膚炎、炎症(急性炎症、慢性炎症等)、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹、食物アレルギー、好酸球性肺炎等が挙げられる。
【0044】
本発明の医薬組成物は、本発明のアスパラガス抽出物を含有していればよく、どのような形態の薬剤であっても構わない。本発明の医薬組成物の形態としては、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、又はカプセル剤等の剤型がある。本発明の医薬組成物の形態は、固体又は液体同士でもよいし、固体と液体でも良いし、特に限定されない。投与方法としては、経口又は非経口であってもよい。本発明の医薬組成物の好適な態様としては、経口剤や皮膚外用剤が挙げられる。
【0045】
また、本発明のアスパラガス抽出物は、医薬品、医薬部外品以外の製品に配合してもよい。そのような用途のうち、好適な具体例としては、サプリメント、機能性食品、化粧料組成物が挙げられる。
【0046】
(サプリメント)
本発明のサプリメントは、アスパラガス抽出物を含有する。本発明のサプリメントの形態は、特に制限されず、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、糖衣錠、フィルム剤、トローチ剤、チュアブル剤、溶液、乳濁液、懸濁液等の任意の形態でよい。
本発明のサプリメントは、アスパラガス抽出物以外に、サプリメントとして通常使用される任意の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、アミノ酸,ペプチド;ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンB、葉酸等のビタミン類;ミネラル類;糖類;無機塩類;クエン酸またはその塩;茶エキス;油脂;プロポリス、ローヤルゼリー、タウリン等の滋養強壮成分;ショウガエキス、高麗人参エキス等の生薬エキス;ハーブ類:コラーゲン等が挙げられる。
【0047】
(機能性食品)
本発明のアスパラガス抽出物は、日常的に経口摂取しやすいように、各種の食品、飲料と混ぜて機能性食品とすることで、長期的に摂取することも容易である。
ここでいう「機能性食品」とは、一般食品に加えて、健康の維持の目的で摂取する食品および/又は飲料を意味し、保健機能食品である特定保健用食品や栄養機能食品や、健康食品、栄養補助食品、栄養保険食品等を含む概念である。この中でも保健機能食品である特定保健用食品や栄養機能食品が好ましい機能性食品の態様である。なお、機能性食品として製品化する場合には、食品に用いられる様々な添加剤、具体的には、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤漂白剤、防菌防黴剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料等を添加していてもよい。
【0048】
本発明の機能性食品の対象となる、食品、飲料は特に限定されるものではない。例えば、食品として、ソーセージ、ハム、魚介加工品、ゼリー、キャンディー、チューインガムなどの食品類が挙げられる。また、飲料としては、各種の茶類、清涼飲料水、酒類、栄養ドリンクなどが挙げられる。
【0049】
本発明のアスパラガス抽出物を、機能性食品に配合する割合は任意であるが、β‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性、脱顆粒抑制活性、IgE抑制活性の少なくとも1以上に有意性がある範囲で配合割合が選択される。
【0050】
(食品添加剤)
また、本発明のアスパラガス抽出物は、それ自体またはこれに他の成分を添加して食品添加剤として使用することも可能である。他の成分は、飲食品添加剤として使用可能であるならば特に制限はない。食品添加剤の添加対象となる飲料、食品についても任意であり、特に制限はない。
【0051】
本発明のアスパラガス抽出物を、食品添加剤に配合する割合は任意であるが、β‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性、脱顆粒抑制活性、IgE抑制活性の少なくとも1以上に有意性がある範囲で配合割合が選択される。
【0052】
本発明のアスパラガス抽出物は、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。そのため、ペットフード等の動物用のサプリメントや機能性食品へ添加することもできる。
【0053】
(化粧料組成物)
本発明の化粧料組成物は、上記アスパラガス抽出物を含有することを特徴とする。本発明のアスパラガス抽出物は、各種化粧料基材及び化粧料添加物に対して任意に配合できる。
【0054】
本発明の化粧料組成物は、慣用の化粧料基材を適宜配合し、所望の剤型とすることができる。その形態は特に制限はないが、化粧水、乳液、ジェル、クリーム、パック、ヘアトニック、ヘアクリームファンデーション、水性軟膏、スプレー等の形態が挙げられる。また、本発明において、化粧料組成物は、入浴剤、ボディーソープ、シャンプー等の入浴用組成物も含む概念である。
【0055】
また、本発明の化粧料組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で通常化粧料や皮膚外用医薬、入浴用製品で使用される任意の成分を添加することができる。かかる任意成分の具体例としては、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素剤、金属封鎖剤、防腐剤、pH調整剤、香料、ミツロウ等が挙げられる。これら任意成分の配合割合は、その目的に応じて適宜選択して決定することができる。
【0056】
本発明のアスパラガス抽出物を、化粧料組成物に配合する割合は任意であるが、β‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性、脱顆粒抑制活性、IgE抑制活性の少なくとも1以上に有意性がある範囲で配合割合が選択される。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例の混合溶媒において示す「%」は、特に明示しない限り「体積%」を示す。また、抽出溶媒が混合溶媒の場合、バランスである水は省略して記載する。例えば、「50%エタノール」と記載した場合、50体積%エタノールと50体積%水との混合溶媒を意味する。
【0058】
<評価方法>
後述する実験例における評価方法は以下の通りである。
(1)RBL-2H3細胞株を用いた脱顆粒試験(β‐ヘキソサミニダーゼ放出活性の評価)
5×10
5 cellsのラット好塩基球様細胞株RBL-2H3(JCRB)をTyrode Buffer(Sigma)で洗浄した後、サンプル溶液及び10μMのcalcium ionophore A23187(Sigma)を含むTyrode Bufferで懸濁し、37℃で30分間反応させた。その後、5分間氷冷し、反応を停止させ、遠心分離により上清を回収した。
回収した上清に2mMのp-nitrophenyl N-2-actyl-β-D-glucosamine /citrate buffer (pH4.5) (Sigma)を加え、37℃でインキュベートした。30分間静置後、carbonate buffer (pH10)を添加して反応を停止させ、吸光波長405nmでβ‐ヘキソサミニダーゼを検出、定量した。
また、β‐ヘキソサミニダーゼ放出活性を脱顆粒反応の指標として、アレルギー反応及び炎症反応への影響を評価した。
【0059】
(2)アトピー性皮膚炎モデルマウスへの影響の評価
6週齢、オスのNC/Nga マウスを日本SLCから購入した。 これらのマウスは12時間の明暗転サイクルが保たれた SPF (Specific pathogen free) 環境下で飼育した。 給餌及び給水は自由摂取とした。
アスパラガス抽出物を検討するため、それぞれのサンプルを1日1回経口投与した。比較対照であるコントロール群にはサンプル溶媒のみを投与した。 マウスのアトピー性皮膚炎を誘導するため、まず剃毛した胸部及び腹部、フットパットにエタノール/アセトン (3:1,v/v) に溶解した5重量%ピクリルクロライド(東京化成工業)を塗布した。続いて4日目から実験終了時までオリーブオイル(Filippo Berio)に溶解した1重量%ピクリルクロライドを1週間に一度背部及び耳介に塗布し、アトピー性皮膚炎を誘発させた。1週間に1度皮膚炎症症状を、(i)発赤・出血、(ii)浮腫、(iii)脱毛・組織欠損、(iv)乾燥、(v)発疹を0(無し)、1(軽度)、2(中程度)、3(重度)で点数化し、評価した。
また、尾より採血しIgE抗体量をELISA kit (eBioscience)により測定した。
【0060】
<原料アスパラガスの切り分け>
原料アスパラガスとして、佐賀県産アスパラガス(Asparagus officinalis)を使用した。当該原料アスパラガスを可食部の茎部(穂先から25cm)と、非可食部の切下部(根元部分、下から2cm)に切り分け、茎部をさらに上部(7cm)、中部(9cm)、下部(9cm)に切り分けた(
図1の左図参照)。
【0061】
1.アスパラガス抽出物の評価
評価1−1:アスパラガス茎部(可食部)からのアスパラガス抽出物(茎部、加熱水蒸気処理、50%エタノール抽出物)によるRBL-2H3の脱顆粒阻害の評価
上述したアスパラガス茎部の上部、中部及び下部をそれぞれ1cm程度に切り分け、5分間加熱水蒸気処理(100℃の水蒸気)した後、凍結乾燥(−10℃以下で凍結し、その後室温(約25℃)で減圧乾燥、以下においても同様)を行い、得られた乾燥物を粉砕してアスパラガスパウダーとした。
得られたアスパラガスパウダー2gを50%エタノールに加え、室温(約25℃)で4時間撹拌した。その後、10,000g、4℃の条件で1時間遠心分離した後、上澄み液を2号の濾紙で濾過し、抽出液を回収した。得られた抽出液はエバポレーターにより有機溶媒を除去した後に、凍結乾燥を行い、実験例1のアスパラガス抽出物(茎部、50%エタノール抽出物)を得た。
【0062】
<比較例1(茎部、未加熱処理、50%エタノール抽出物>
加熱水蒸気処理したアスパラガス茎部に代えて、加熱処理を行っていない未加熱のアスパラガス茎部を使用した以外は、実施例1と同様にして比較例1(非加熱)のアスパラガス抽出物(茎部、50%エタノール抽出物)を得た。
【0063】
図1(右図)に実施例1(加熱処理)、比較例(非加熱)のアスパラ抽出物のRBL-2H3細胞株を用いた脱顆粒試験(β‐ヘキソサミニダーゼ放出活性の評価)の結果を示す。なお、
図1において、比較対照であるコントロール群(アスパラガス抽出物 添加なし)を100%としている。
比較例1である非加熱のアスパラガス抽出物では、コントロール群とほとんど差がなく、β‐ヘキソサミニダーゼの放出にほぼ影響を及ぼしていない。これに対し、加熱処理を行った実施例1(加熱処理)の抽出物では上部、中部、下部のいずれも、β‐ヘキソサミニダーゼの放出を阻害した。
なお、実施例1(加熱5分間)と同様に、3分間から15分間加熱処理を行ったアスパラガス抽出物についても同様にβ‐ヘキソサミニダーゼの放出を阻害活性が確認された(図示せず)。
【0064】
評価1−2:様々な抽出溶媒からのアスパラガス抽出物の評価
佐賀県産アスパラガスの茎部を使用し、上記1−1と同様を得たアスパラガスパウダーとした。
得られたアスパラガスパウダー2gずつをそれぞれ100mLの超純水、50%エタノール、又は80%エタノールに加え、室温(約25℃)で4時間撹拌した。
その後、アスパラガスパウダーと溶媒の混合物を撹拌後に、10,000g、4℃の条件で1時間遠心分離した後、上澄み液を2号の濾紙で濾過し、それぞれの抽出液を回収した。
超純水を用いて得た抽出液は0.22μmフィルター(Nunc)にかけ、凍結乾燥を行い、得られた乾燥物をアスパラガス抽出物(水抽出物)とした。
50%エタノール、80%エタノールを用いて得た抽出液はエバポレーターにより有機溶媒を除去した後に、凍結乾燥を行い、アスパラガス抽出物とした。
いずれの抽出物も細胞試験を行う際はジメチルスルホキシド (DMSO、Wako)もしくは50%エタノールに溶解し、0.22μmフィルターにかけ、使用した。
【0065】
図2にアスパラガス茎部各種溶媒抽出物によるβ‐ヘキソサミニダーゼ放出抑制活性を示す。
水抽出物、50%及び80%エタノール抽出物は濃度依存的にβ‐ヘキソサミニダーゼの放出を有意に阻害していることがわかる。
【0066】
評価1−3:アスパラガス切下部(非可食部)からのアスパラガス抽出物の評価
原料として、アスパラガス茎部から、アスパラガス切下部に代えた以外は、実施例1のアスパラガス抽出物の製造方法と同様にして、実施例2のアスパラガス抽出物(切下部、50%エタノール抽出物)を得た。
図3(右図)に加熱処理したアスパラガス切下部(非可食部)のβ‐ヘキソサミニダーゼの放出を阻害活性の評価結果を示す。また、
図3には茎部(可食部)の結果も併せて示した。原料であるアスパラガス茎部及び切下部の加熱処理は5分、7分、10分とした。
その結果、
図3(右図)に示すように、アスパラガス切下部から作製したアスパラガス抽出物は可食部と同様にβ‐ヘキソサミニダーゼの放出を抑制していることが確認された。
【0067】
以上の結果から、加熱処理は脱顆粒放出抑制活性(β‐ヘキソサミニダーゼの放出抑制活性)に優れたアスパラガス抽出物を作製するための重要な工程であり、この処理を行ったアスパラガス茎部及び切下部の抽出物は、部位によらず脱顆粒反応を阻害することが明らかになった。
また、水―エタノール混合溶媒を抽出溶媒とした場合、得られるアスパラガス抽出物が優れたβ‐ヘキソサミニダーゼの放出作用を示すことが確認された。
【0068】
評価1−4:アスパラガス抽出物の経口投与のアトピー性皮膚炎及び血中IgE濃度への影響
アスパラガス抽出物のアレルギー反応への影響を検討するため、アトピー性皮膚炎モデルマウスを用いて皮膚炎症症状及び血中IgE濃度への影響を検討した。なお、アスパラガス抽出物として茎部の50%エタノール抽出物を使用した。
実験は、上記実験方法(2)アトピー性皮膚炎モデルマウスへの影響の評価の通り行った。
【0069】
図4はマウス背部の皮膚炎症スコア及び試験開始12週目の背部の様子を示したものである。炎症スコアのグラフではPBSのみを投与したコントロール群と比べ、アスパラガス抽出物を投与したマウスでスコアの上昇が抑制され、試験開始7週目から有意な差が認められた。また、試験12週目の背部の写真からもアスパラガス抽出物投与群では炎症症状の悪化が抑制、もしくは改善した様子が確認された。
同様に、
図5はマウス耳介の皮膚炎症スコア及び試験開始12週目の耳介の様子を示したものである。この結果からも、アスパラガス抽出物投与群は炎症スコアの上昇を抑え、著しく耳介の炎症症状の悪化を予防したことが確認された。
また、
図6に示されるように、アスパラガス抽出物の経口投与による血中IgE濃度への影響を評価したところ、アスパラガス抽出物の経口投与は肥満細胞や好塩基球等の脱顆粒反応の引き金となる血中IgE濃度を低下させることが確認された。
【0070】
以上の結果から、アスパラガス抽出物は、IgE濃度の上昇やアトピー性皮膚炎症状の悪化といったI型及びIV型アレルギーの予防、改善に有用であることが示された。