【実施例】
【0062】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。以下の実施例で開示される技術は、本発明者らによって見いだされ、本発明の実行において十分に機能する技術を表し、したがって本発明を実行するための望ましい方法を構成するとみなされ得ることを当業者は認識するであろう。しかし当業者は、本開示を鑑みて、開示される特定の実施例において多数の変更がなされ得ることを認識し、かつ本発明の精神と範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を依然として得ることができるであろう。
【0063】
実施例1:
方法
ウイルスおよび細胞系:本試験全般にわたって、JX−594、ワイス変種ワクシニアウイルス(チミジンキナーゼ[TK]−不活化、hGM−CSF発現)を用いて、以前に発表したように調製した
24。SNU349、SUN482とSNU267(ヒト腎細胞癌;韓国細胞バンク[KCLB]から取得)およびSNU475とSNU398(ヒト幹細胞癌;KCLBから取得)をペニシリンとストレプトマイシンとともに10%FBS(HyClone社)を添加したRPMI1640(Gibco社)培地で培養した。HOP62、H157、H460とPC10(ヒト肺癌;アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション[ATCC]から取得)、HepG2(ヒト肝細胞癌;ATCCから取得)、SF−295(ヒト胆嚢癌;ATCCから取得)、PC−3(ヒト前立腺癌;ATCCから取得)、PANC−1(ヒト膵癌;ATCC)、MCF−7(ヒト乳癌;ATCC)をペニシリンとストレプトマイシンとともに10%FBSを含むDMEM培地で培養した。MRC−5非形質転換細胞(肺線維芽細胞;ATCC)およびHUVEC(内皮細胞;ATCC)MRC−5をペニシリンとストレプトマイシンとともに2%ウシ胎児血清(FBS)を添加した内皮細胞培地EBM−2(Lonza社,MD,USA)で培養した。
【0064】
ウサギVX2腫瘍モデルおよびVX2細胞の単離:VX2腫瘍は、近交系のニュージーランドホワイトウサギ(Samtako社,Oh−San,Korea)の筋肉内で増殖させて、維持した。VX2断片の骨格筋への移植から3週後および4週後に、JX−594(1×10
9pfu)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を注射した。JX−594またはPBS処置後、血清をベースライン、3週後および6週後に収集した。以前に記述したようにVX2を単離した
31。手短に述べると、VX2細胞をVX2組織から酵素で単離して(コラゲナーゼ0.01%、プロテアーゼ0.1%を用いて、4℃で一晩)、10%ウシ胎児血清(FBS)とともにダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)でin vitroで8継代の間、維持した。各細胞生存度試験では、新鮮なVX2細胞を使用した。並行研究では、JX−594を正常な腫瘍のないウサギに注射して、血清を得た。
【0065】
細胞生存率およびCDC分析:血清(熱処置なし)を添加すると、細胞生存率は低下した。CDC活性は、96穴プレート中で5%血清とともにインキュベートした後に、細胞生存率を測定することによって評価した。JX−594投与後の血清中の細胞生存率を、ベースライン(JX−594処置の前)でのウサギまたは患者の血清の細胞生存率に対して正規化した。各細胞系を96穴プレートに播種して、一晩インキュベートした。続いて、DMEM(FBSは添加せず)と血清試料とともに細胞を37℃で4時間インキュベートした。続いて、細胞をPBSと10μLのセルカウンティングキット−8(CCK−8)溶液(CCK−8キット、Dojindo社,Kumamoto,Japan)に曝露し、37℃で2時間インキュベートした。細胞生存率は、450nmでの光学密度で測定した。
【0066】
ウエスタンブロット分析:VX2細胞、ウサギ末梢血単核細胞、SNU349またはSNU739細胞を約1×10
6細胞/mLで、PRO−PREP(商標)タンパク質抽出溶液(iNtRON Biotechnology社,Korea)中、氷上で30分間溶解した。遠心分離後、SDS−PAGEゲルを用いて50μgのタンパク質を分離し、次いでPVDF膜(Immunobilon−P;Millipore社,Billerica,MA)に転写した。血清を0.1%TBST(5%スキムミルク粉末;0.1%Tween20;50mmol/LのTris;150mmol/LのNaCl)で1/100に希釈して、PVDF膜上で、室温で90分間インキュベートした。次いで、0.1%TBST(ウサギ一次血清)で1/10,00に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ結合型ヤギ抗ウサギIgG(Stanta Cruz社)、または抗ヒトIgG(Sigma社#A1543、1:5,000)(ヒト一次血清)とともに該膜を室温で1時間インキュベートし、次いで増強化学発光(ECLキット;Pierce社,Rockford,IL)で可視化した。
【0067】
蛍光および共焦点顕微鏡観察:各細胞系を6穴プレートに播種して、細胞を24時間インキュベートし、細胞密度は100%に達した。蛍光染色のために、SNU349細胞をカバーガラス底培養皿に3×10
5細胞で播種して、一晩放置した。カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CSFE)および7−アミノ−アクチノマイシンD(7−AAD)(細胞毒性のためのACT1(商標)アッセイ、Cell Technology社)を加えて、生存細胞および死細胞をそれぞれ染色した。生細胞においてCSFE(全細胞中の緑色蛍光)を検出でき、赤色蛍光は死細胞の核中で検出できる。
【0068】
SEREX試験:cDNAライブラリーをSNU449、ヒト肝細胞癌(HCC)細胞系から抽出したmRNAから構築した。このcDNAライブラリーをλZAP発現ベクター(ZAP−cDNA合成キット、[Stratagene社,CA])中にクローニングした。増幅したライブラリーの力価は、1×10
9pfu/mLであり、5×10
5pfuをヒト血清に対する一次免疫スクリーニングで用いた。42℃で6〜8時間のインキュベーション後に、ファージプラークが出現した。次いでそれを、予め30分間、10mMのIPTG(Sigma−Aldrich社,USA)に浸しておいた132mmのニトロセルロース膜(Millipore社,Bedford)に転写した。ニトロセルロース膜を、5%BSA(Santa Cruz社,USA)でブロックした。JX−594処置したHCC患者由来(D57 JX−594注射後)のプールした血清を一次および二次スクリーニングで用いた。最も高いCDC活性を有する患者由来の血清をこの試験のためにプールした(患者#1702、#1703、#1704、#1705、#1712、#1713および#1715)。プールした血清(1:100に希釈した血清6mL)を一次抗体スクリーニングのために加え、1:5000に希釈したアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(Sigma,Aldrich社,USA)を用いて結合抗体を検出し、次いで該膜をBCIP/NBTプレミックス溶液(Sigma−Aldrich社,USA)で発色させた。膜に対応する寒天プレートから青いプラークを抜き取って、クロロホルム20μLを含むSM緩衝液(NaCl 100mM、Tris−HCl(pH7.5)50mM、MgSO
4 10mM)に入れた。70プレートをスクリーニングした(1ラウンドに対して5プレート)後、70個の陽性プラークを単離した。第2ラウンドのスクリーニング(82mmのプレート)後、11個のプラークを単クローンに精製した(>90%高密度の陽性ファージ)。各クローンからDNAを抽出した後、DNAの配列決定を行った。
【0069】
ドットブロット分析:各陽性クローンに対して大腸菌(E.coli)溶解物をSM緩衝液で5倍に希釈し、希釈した溶解物1μLをワットマン膜(Whartman社,Germany)の試験紙の上にスポットした。5分間風乾した後に、すべての試験紙をブロッキング溶液に1時間浸した。1:50のJX−594を注射する前(試験当週、2週間前、4週間前)または注射した後(D57)のヒト血清中で、膜を1時間インキュベートした。1:2500に希釈したアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(Sigma−Aldrich社,USA)を用いて結合した抗体を検出し、BCIP/NBT溶液で発色させた。
【0070】
実施例2:CDCを動物モデルおよびヒト患者の両方で誘導させる
腫瘍を有し、JX−594で処置したウサギ由来の血清とともに腫瘍細胞をインキュベートした後、細胞生存率の低下が観察された。
ウサギモデルでCDCの誘導を調べるために、筋肉内に移植したVX2腺癌を有し、JX−594またはPBS対照で処置したウサギから血清を収集した。注射後28日目に収集した血清をin vitroで3%の濃度で、VX2細胞またはウサギ末梢血単核細胞(PBMC)に添加した。細胞生存率の有意な低下(約90%)は、JX−594で処置したVX2腫瘍を有するウサギ由来の血清とともにインキュベートした細胞でのみ観察された(
図1A)。PBSで処置したVX2腫瘍を有するウサギ由来、またはJX−594で処置した腫瘍のないウサギ由来の血清とともにインキュベートしたVX2細胞は、細胞生存率の低下を示さなかった。さらに、PBMCでの生存率は、いずれの処置群に由来する血清とともにインキュベートしても、有意な低下を示さなかった。続いて、JX−594(またはPBS)での処置後の種々の時点で収集した血清とともにインキュベートして、VX2細胞生存率を評価した。VX2腫瘍を有し、JX−594で処置したウサギにおいて18日目以降から収集した血清とともにインキュベートすると、VX2細胞生存率は低下した(
図1B)。血清濃度を上げると(2%まで)、VX2細胞生存率の用量依存的低下を示した(
図1C)。2%血清とともに細胞をインキュベートすると、対照の正常なウサギ血清による処置と比較して、約20%のVX2細胞生存率がもたらされた。VX2を有しJX−594で処置したウサギ由来の血清が新規の抗原に結合するかどうかを評価するために、未処置ウサギおよび腫瘍を有しJX−594で処置したウサギに由来する血清を用いて、VX2細胞溶解物およびPBMC細胞溶解物でウエスタンブロット分析を行った。新規の抗原に対する強い反応性は、VX2細胞系の溶解物でのみ観察され、VX2腫瘍を有するウサギをJX−594で処置すると、複数の新しいバンドが認識され、VX2腫瘍抗原に対するポリクローナル抗体が誘導されたことを示していた(
図1D)。
【0071】
JX−594で処置した患者由来の血清とともにインキュベートしたヒト癌細胞系の細胞生存率の低下のエビデンス。
腫瘍を有しJX−594で処置したウサギ由来のウサギ血清とともにインキュベートすることでもたらされた細胞生存率の有意な低下が認められたので、JX−594で処置した患者から収集した血清においても同様な活性が観察されるかどうかを特定しようとした。本発明者らは、第1相の肝腫瘍試験で治療されている二人の患者由来の血清の試験を開始した。両患者は、JX−594処置後に有意な応答を示し、生存期間は長期であった(患者103:肺癌、生存期間24.5ヵ月;患者301:腎細胞癌、生存期間44.1+ヵ月)
26。実際に、前臨床のモデルでの観察と同様に、JX−594で処置した患者の血清(5%)とともにインキュベートした癌細胞系は、細胞生存率の有意な低下をもたらした(
図2A)。これらの患者の癌と同じ起源の癌細胞系を試験したところ、細胞生存率の時間依存的低下がほとんどの細胞系で観察された。明視野顕微鏡下で細胞を可視化することによって、膜侵襲複合体(MAC)の形成が明らかになり、細胞生存率の低下がCDCによってもたらされることを示した(
図2B)。CSFEおよび7−AADの色素を用いて、生細胞と死細胞をそれぞれ染色した。7−AAD染色は、JX−594免疫患者由来の血清で処置した細胞が細胞死を起こしていることを示している。
【0072】
実施例3:細胞生存率の低下は、抗体に媒介される補体依存性細胞傷害に起因する
次に、JX−594で処置した患者由来の血清が癌細胞の細胞傷害性を媒介する機序を評価するために、抗体および補体の寄与を試験した。JX−594で処置した患者由来の血清を熱不活化させて、全ての補体活性を阻害した。IgGを結合するカラムを用いて、血清由来の抗体を除去した(
図3Aの実験概要を参照されたい)。ベースライン血清(JX−594処置前、血清A)、JX−594処置後92日目に得た血清(血清B)、血清Bを熱不活化させたもの(血清C)、および血清BをIgG樹脂に通したもの(血清E)を5%濃度で癌細胞系の単層に添加した。ベースラインで収集した血清は、細胞生存率の低下を示さなかったが、JX−594処置開始後92日目で収集した血清は、強い抗腫瘍活性を示した。しかし、細胞は熱不活化またはIgG欠乏後も生存可能な状態であった。さらに、(ベースラインで収集されそれ自体は細胞生存率の低下を示さない血清Aの添加によって)血清Cの機能的補体を回復させると、抗腫瘍活性の回復がもたらされた。第1相試験で治療された計3名の患者(301−腎細胞癌;103−肺癌;304−黒色腫)に由来する血清試料を用いて同様の観察を行った(
図3B)。血清インキュベーション後の細胞系(患者301)の明視野像を
図3Cに示す。最終的に、細胞生存率における時間依存的増加は、熱不活化の長さに関連して観察された(
図3D)。
【0073】
腫瘍細胞に特異的であり、かつ同じ腫瘍型の細胞においてより有効なCDC活性
次に、JX−594で処置した患者由来の血清が、ex vivoで正常なヒト細胞に対して細胞傷害性を引き起こすことができるかどうかを調べた。HUVEC内皮細胞およびMRC−5肺線維芽細胞は、試験した5名の患者のいずれかに由来する血清とともにインキュベートした場合、細胞生存率の有意な低下を示さなかった。概して、細胞生存率の低下は、その起源が該患者の腫瘍型(腎細胞癌、黒色腫および肝細胞癌)に対応する細胞で観察された(
図4A〜D)。生存期間対CDC第1相。
【0074】
無作為第2相試験で評価したCDC誘導
継続中の無作為第2相試験で処置された肝細胞癌の患者でのCDC誘導を分析した。JX−594で処置された患者由来の血清とともにインキュベートした肝細胞癌の細胞系において細胞生存率の低下が観察された。CDC活性は、時間とともに増加した(
図4B概要、
図4C〜4E個々の細胞系)。
【0075】
実施例4:SEREXスクリーニングは、新規の内在性腫瘍抗原の同定をもたらす
患者血清が新規の抗原を結合するかどうかを評価するために、患者の腫瘍と同じ組織起源の癌細胞系からの細胞溶解物と、患者血清(第1相および第2相試験の患者に由来するもので、有意なCDCを示していた)とを用いて、ウエスタンブロット分析を行った。新規の抗原に対する強い反応性は、JX−594処置後の血清において観察され、患者の内在性腫瘍抗原に対するポリクローナル抗体が誘導されたことを示唆する(
図6)。新規の標的抗原を同定するために、ヒト肝細胞癌の細胞系(SNU449)から生成されたcDNAライブラリー上で強いCDC活性を有する肝細胞癌の患者に由来するプールした血清を用いて、SEREXスクリーニングを行った。2ラウンドのスクリーニングの後、17の候補抗原を同定した(
図7、表1)。抗原のサブセット、例えば、RecQタンパク質様(DNAヘリカーゼQ1様)(RECQL)およびレプチン受容体(LEPR)は、HCCまたは他の癌の標的として以前に同定されているが、その他[ERBB受容体フィードバック阻害因子1(ERRFI1)、リソソームタンパク質膜貫通4アルファ(LAPTM4A)およびRAS癌遺伝子ファミリー(RAB1B)を含む]は、推定のHCC抗原であり、HCC中の新規の標的に潜在的に相当する。JX−594処置の前に収集した患者の血清の反応性を、同定した11の抗原に対する反応性について試験した。抗原のサブセットに対する抗体は、JX−594処置の前に存在していたが、一般に、反応性はJX−594治療後に強くなり、複製能を有するポックスウイルスによる処置が腫瘍抗原を認識するポリクローナル抗体を誘導することを示唆している。
【0076】
実施例5:考察
癌に対する第1の癌免疫療法(Provenge、Dendreon社,Seattle,WA)の承認により、癌治療に対するこの新規の方法が有効となった。自己由来の樹状細胞集団は、患者に再注入する前に、GM−CSFに融合させた前立腺癌の抗原に曝露され、この方法は、去勢抵抗性前立腺癌患者の生存を向上させることが示されている
32。非特異的な免疫賦活方法も、免疫賦活サイトカイン、例えばIL−2による処置を含む癌免疫療法として評価されている。免疫賦活サイトカインまたは同時刺激分子と関連して、腫瘍抗原を発現する多くの複製不可能なウイルスワクチンが腫瘍ワクチンとして評価されている。腫瘍特異的免疫応答を誘導するのに有効ではあるが、これらの戦略が患者にとって有意な延命効果をもたらしたことはなく、ウイルスワクチンが規制機関によって承認されたことは未だない。腫瘍抗原に対する抗体の全般的な誘導は観察されているが
9、33、これらの抗体が機能的であるかどうか、例えば該抗体がCDCを媒介するかどうかは不明である。
【0077】
腫瘍溶解性ウイルスの複製と導入遺伝子発現は、臨床試験で再現性よく示されているが、全身的、機能的な抗癌免疫の誘導は、現在までにJX−594または他の腫瘍溶解性ウイルスを用いたいかなる試験でも系統的に評価されなかった。CD3+CD4+リンパ球とCD3+CD8+リンパ球、NK細胞および種々の炎症性サイトカインの全般的な誘導は実証されている
26。HSV−hGM−CSFによる黒色腫の臨床試験(Oncovex,BioVex社,Cambridge,MA)において、腫瘍試料に由来するT細胞の表現型分析は、末梢血T細胞との明白な違いを示唆した。非処置の対照患者に由来するT細胞と比較して、ワクチン接種後に退行が起こった腫瘍において、T細胞(MART−1)特異的T細胞によって認識される黒色腫関連の抗原が増加した。機能的抗腫瘍免疫は評価しなかった
28。前臨床試験は、腫瘍溶解性ウイルスが機能的な癌特異的免疫を誘導することができることを実証したが、その臨床データは不足している
24、34〜38。
【0078】
補体系は、自然免疫系の一部である一連の血清タンパク質を含む。補体系は、感染に対する防御において作用し(例えば、侵入する細菌をオプソニン化するかまたは直接、溶解することによって)、また、自然免疫と適応免疫を関連付ける
30。特に、補体タンパク質は、外来抗原に応答して誘導された抗体によってオプソニン化された細胞を溶解する可能性を有する。実際に、補体依存性細胞傷害性(CDC)は、細胞を殺傷する最も強力な系の一つである
30。CDC活性は、悪性腫瘍の治療で現在使用されているモノクローナル抗体(mAb)によって利用される。リツキシマブ(CD20に特異的なmAb)の抗腫瘍効果へのCDCの寄与は、前臨床試験で広範に評価されている
39〜41。さらに、濾胞性リンパ腫患者におけるリツキシマブ治療における補体系の関与は、C1q補体カスケード遺伝子に多型を有する患者での進行時間が延びたことが観察されたことによって裏付けされている
42。他の抗体は、癌細胞系または患者の試料においてCDCを媒介することが示されており、例えば、慢性リンパ性白血病用のアレムツズマブ
43および他の起源の癌細胞系用のパニツムマブとセツキシマブが挙げられる
44。これらの観察は、腫瘍標的化モノクローナル抗体の固有のCDC活性を向上させる戦略の開発
45〜47、ならびにCDC活性を向上させる薬剤との併用につながった
48。しかし、CD20を発現する正常なPBMCに対する細胞傷害性の相乗作用が観察される可能性があるため、癌特異的でない治療薬、例えばリツキシマブによるCDC活性のさらなる増強に伴ういくつかの懸念がある
48。
【0079】
ワクシニアウイルスは、ウイルスの全身伝播を容易にするために補体依存性中和に抵抗性であることが示された。これは、細胞外エンベロープウイルス(EEV)型のワクシニアの外側の被膜内に補体調節タンパク質が含まれることに起因している
49。しかし、ワクシニアウイルスに感染した腫瘍細胞は、放出されたビリオンのエンベロープへの取り込みのための補体調節タンパク質が欠乏しているために、補体媒介中和をより受けやすい可能性があることが実証された
49、50。腫瘍微小環境内のJX−594感染細胞からのGM−CSFの発現により、NK細胞とマクロファージの刺激および増大を介してCDC媒介殺傷を増強し得る
51。実際に、JX−594の複製は腫瘍内で炎症を引き起こすことができ、および炎症性浸潤物はJX−594によって腫瘍内で処置された黒色腫の病変部で検出された
29。
【0080】
本明細書において、本発明者らは、腫瘍溶解性ウイルスで処置された患者において機能的抗腫瘍免疫が誘導された第1のエビデンスを示す。腫瘍を有するウサギならびにさまざまに進行した難治性腫瘍を有する患者の双方から得た血清で示されたように、JX−594はex vivoで腫瘍細胞の抗体依存性CDCを誘導する。抗癌免疫療法として複製能を有する腫瘍溶解性ポックスウイルスを使用することは、他の免疫療法戦略に勝る大きな利点を有する:1)抗癌免疫応答の誘導は、治療の作用機序の一つに相当し;その他には、腫瘍細胞の直接感染と溶解、および急性の腫瘍血管シャットダウンが含まれる;2)腫瘍溶解性ポックスウイルス感染は、患者特異的/テーラード免疫応答を引き起こす;3)ex vivoでの処置ステップは何ら治療に必要でない(有効ではあるが、臨床的に確認されたProvenge方法は手がかかるものであり、各患者の免疫細胞のex vivo処置を必要とする)、および4)免疫賦活は腫瘍細胞の活性ウイルス感染によって引き起こされ、それによって腫瘍微小環境内で炎症反応が引き起こされる。免疫療法分野での大きな障害は、動員され腫瘍内で活性化される活性化免疫エフェクター細胞に関するものである。腫瘍溶解性ポックスウイルスは、適応免疫応答の誘導を刺激するための最適なビヒクルに相当するが、同時に腫瘍微小環境内で炎症性サイトカインおよび局所炎症応答の誘導を引き起こし、これにより、腫瘍での免疫細胞の動員および活性化を確実にする。
【0081】
本明細書で概説する系は、新規の患者内在性腫瘍抗原を同定することができる機序を表す。SEREXスクリーニングは、以前に特徴決定された腫瘍抗原(これにより現在の方法を確証する)、および、HCCの治療のための新規の潜在的な標的に相当する新規の腫瘍関連抗原を同定した。本明細書に概要を述べる実験計画は、(1)複製能を有する腫瘍溶解性ポックスウイルスによる患者の治療、(2)機能的抗腫瘍免疫(CDCアッセイ)のex vivoでの測定、および(3)標的抗原を同定するための、高いCDC活性を含む患者血清のSEREXスクリーニングの実施を含み、新規の腫瘍抗原の発見のための新規の方法を表す。この方法は、複数の関連抗原(抗体によって認識されることが可能な患者の内在性抗原)の同定を可能にし、該抗原に対する抗体の生成が安全である(抗体は有害効果のないヒトにおいて生成されたために)。本発明者らは、HCC患者でのこの方法に関する概念証明を本明細書に示したが、しかしこの方法論はいずれの他の腫瘍型でも同様に用いることが可能である。
【0082】
加えて、本発明者らが現在評価しているのは、JX−594で処置した患者における腫瘍抗原、ワクシニアウイルスならびにJX−594導入遺伝子β−ガラクトシダーゼに対する細胞傷害性Tリンパ球の誘導である。JX−594誘導CDCに関しては、ソラフェニブ(第2相試験でレジメンが試験されている)を含む抗血管新生薬との併用療法の効果を現在、調査している。
【0083】
実施例6:
CDCを媒介する腫瘍特異的抗体の誘導に対する腫瘍溶解性ワクシニア、GM−CSFおよびレオウイルスの効果
複製能を有する腫瘍溶解性ウイルスが、CDCを媒介する腫瘍特異的抗体を差次的に誘導することを示すように試験を設計した。抗体誘導は、免疫賦活サイトカインの発現によって促進させることができる。これらのうちまず、第一に
CDC応答を媒介する腫瘍特異的抗体の誘導に対する腫瘍溶解性ワクシニア、GM−CSFおよびレオウイルスの効果を評価し、データを図9に示す。
【0084】
VX2腫瘍を有するウサギにPBS、ヒトGM−CSFを発現するUV不活化JX−594、ヒトGM−CSFを発現するJX−594、マウスJX−594を発現するJX−594、JX−963またはレオウイルスの静脈内注入の処置を週に2回施した(n=2)。各ウイルスは、1×10
9pfuの用量で投与した。ベースライン、処置開始後3週目に血清を収集した。ウサギ血清をA2780細胞とともにin vitroで、表示した濃度で3時間インキュベートした。処置前の血清とともにインキュベートしたA2780細胞の生存と比較した細胞生存率をCCK−8キットを用いて評価した。
【0085】
これらの試験から、ヒトGM−CSF(ウサギにおいて生物学的に活性であるサイトカイン)を発現するJX−594が2.5%の血清濃度で開始したCDCを誘導したことがわかる。CDC活性は、5%の血清濃度で最大限に達した。同様に、JX−963は、2.5%の血清濃度でCDCを誘導し、5%の血清濃度で最大CDCに達した。(複製不可能にさせる)ヒトGM−CSFを発現するUV不活化JX−594で処置したウサギから収集した血清またはPBSとともにインキュベートしたA2780は、試験したいずれの濃度でもCDCを誘導しなかったので、CDCを媒介する抗体の誘導は、ウサギにおいて腫瘍溶解性ワクシニア複製に依存していた。同様に、現在、腫瘍溶解剤として臨床開発中である二重鎖RNAウイルスであるレオウイルスで処置したウサギから収集した血清は、試験したいずれの濃度でもCDCを誘導しなかった。最終的に、マウスGM−CSF(ウサギにおいてヒトGM−CSFほど生物学的に活性でない)を発現するJX−594による処置は、高濃度の血清でのみCDCを誘導した。これらの結果は、免疫賦活サイトカインGM−CSFの発現がCDCを媒介する抗腫瘍抗体の誘導を増強し得ることを示している。
【0086】
実施例7:
ヒト癌細胞におけるCDCを媒介する腫瘍特異的抗体の誘導に対する腫瘍溶解性ワクシニア、GM−CSFおよびVSVの効果
次の一連の試験で、
CDC応答を媒介する腫瘍特異的抗体の誘導に対する腫瘍溶解性ワクシニア、GM−CSFおよびVSVの効果を評価し、そのデータを図10に示す。
【0087】
これらの実験のために、VX2腫瘍を有するウサギにヒトGM−CSFを発現するJX−594(1×10
9pfu)、マウスJX−594を発現するJX−594(1×10
9pfu)、ウエスタンリザーブワクシニア(1×10
9pfu)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)(6×10
8pfu)またはウサギGM−CSFを発現するVSV(6×10
8pfu)の静脈内注入の処置を週に2回施した(n=2)。ベースラインと処置開始後3週目に血清を収集した。ウサギ血清をA2780細胞とともにin vitroで、表示した濃度で3時間、インキュベートした。処置前血清とともにインキュベートしたA2780の生存と比較した細胞生存率をCCK−8キットを用いて評価した。
【0088】
この実験では、ヒトGM−CSFを発現するJX−594(JX−594)がCDC媒介抗体の誘導で最も有効であり、1.25%および2.5%の血清とともにインキュベートした後に細胞生存率が明らかに低下した。対照的に、マウスGM−CSF(ウサギにおいてヒトGM−CSFほど生物学的に活性でない)を発現するJX−594で処置すると、高濃度の血清でのみCDCを誘導した(さらなる対照としてのマウスGM−CSFを発現するVSVは、試験したいずれの濃度でもCDCを誘導しなかったことに留意されたい)。さらに、ワクシニアの野生型ウエスタンリサーブ系統(GM−CSFをコードしない)によるウサギの処置は、CDCを媒介する抗体の誘導においてより効果がなかった。最後に、一本鎖陰性センスRNAウイルスVSVによる処置は、試験した最も高い血清濃度(10%)でのみ、CDC媒介抗体を誘導した。これらの結果は、腫瘍溶解性ウイルスの生態に応じて、異なるレベルのCDC応答が観察され得ることを示唆している。
【0089】
実施例8:
ヒト癌細胞におけるCDCを媒介する腫瘍特異的抗体の誘導に対する腫瘍溶解性HSVおよびVSV−GM−CSFの効果
この一連の実験では、
ヒト癌細胞におけるCDCを媒介する腫瘍特異的抗体の誘導に対する腫瘍溶解性HSVおよびVSV−GM−CSFの効果を評価し、そのデータを図11に示す。
【0090】
VX2腫瘍を有するウサギにマウスGM−CSFを発現するVSV(6×10
8pfu)または単純ヘルペスウイルス(HSV)(1×10
9pfu)の静脈内注入の処置を週に2回施した(n=2)。ベースラインと処置開始後3週目に血清を収集した。ウサギ血清をA2780細胞とともにin vitroで、表示した濃度で3時間、インキュベートした。処置前血清とともにインキュベートしたA2780の生存と比較した細胞生存率をCCK−8キットを用いて評価した。
【0091】
この実験では、HSVがCDC媒介抗体の誘導で最も有効であり、5%および10%の血清とともにインキュベートした後に細胞生存率が明らかに低下した。GM−CSFを発現するVSVは、この実験においてCDCを誘導しなかった(だが、10%血清の条件では、高い可変性が観察された)。
【0092】
実施例9:
in vivo標的腫瘍に由来するウサギ癌細胞におけるCDCを媒介する腫瘍特異的抗体の誘導に対する腫瘍溶解性ワクシニア、GM−CSFおよびVSVの効果
この一連の実験では、
in vivo標的腫瘍由来のウサギ癌細胞におけるCDCを媒介する腫瘍特異的抗体の誘導に対する腫瘍溶解性ワクシニア、GM−CSFおよびVSVの効果を評価し、そのデータを図12に示す。
【0093】
VX2腫瘍を有するウサギにヒトGM−CSFを発現するJX−594(1×10
9pfu)、マウスJX−594を発現するJX−594(1×10
9pfu)、ウエスタンリザーブワクシニア(1×10
9pfu)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)(6×10
8pfu)またはウサギGM−CSFを発現するVSV(6×10
8pfu)またはヒトGM−CSFを発現するUV不活化JX−594の静脈内注入の処置を週に2回施した(n=2)。ベースラインと処置開始後3週目に血清を収集した。ウサギ血清をVX2細胞とともにin vitroで24時間、インキュベートした。処置前血清とともにインキュベートしたVX2の生存と比較した細胞生存率をCCK−8キットを用いて評価した。
【0094】
VX2標的細胞でCDCを誘導するために、腫瘍溶解性ウイルス投与の前に収集した血清中に含有されるさらなる補体を3%の処置後血清に添加した。前の実験と同様、UV不活化JX−594は、この設定でCDCを媒介する抗体を誘導することができなかった。ヒトGM−CSFを発現するJX−594、マウスGM−CSFを発現するJX−594およびウエスタンリザーブワクシニアは、このアッセイにおいてすべてCDCを誘導し、CDCを媒介する抗腫瘍抗体を誘導する複製能を有するワクシニアウイルスの能力を裏付けた(この設定では、標的細胞は腫瘍に由来し、腫瘍溶解性ウイルスで処置されたウサギ内で該腫瘍に対して抗体が産生された)。VSV(±マウスGM−CSF)は、試験した全ての腫瘍溶解性ワクシニアウイルスよりも抗腫瘍抗体を誘導するのに効果的でなかった。
【0095】
実施例10:
腫瘍溶解性ワクシニアおよびマウスGM−CSFの発現は、マウス腫瘍モデルにおいてCDCを媒介する腫瘍特異的抗体の誘導を媒介する
本実施例において、
マウス腫瘍モデルでCDCを媒介する腫瘍特異的抗体の誘導を媒介した腫瘍溶解性ワクシニアおよびマウスGM−CSFの効果を評価し、そのデータを図13に示す。
【0096】
CT26腫瘍を有するマウスに、ヒトGM−CSFを発現するJX−594、マウスJX−594を発現するJX−594、PBSまたはヒトGM−CSFを発現するUV不活化JX−594の静脈内注入の処置を週4回施した(n=3)。各ウイルスを1×10
7pfuの用量で投与した。ベースラインと処置開始後4週目に血清を収集した。マウス血清をA2780細胞とともにin vitroで24時間、インキュベートした。処置前血清とともにインキュベートしたA2780の生存と比較した細胞生存率をCCK−8キットを用いて評価した。
【0097】
CDC実験を同種マウスモデル(CT26皮下腫瘍を有するBalb/Cマウス)で繰り返した。マウスGM−CSFを発現するJX−594は、CDCを媒介する抗腫瘍抗体の誘導で最も強力であった。ヒトGM−CSFを発現するJX−594(JX−594;ヒトGM−CSFはげっ歯動物で活性でないことが知られている)ならびにマウスGM−CSFを発現するUV不活化JX−594の両方は、CDC誘導に対して中程度の効果(PBSとマウスGM−CSFを発現するJX−594に比較して)があった。これは、このマウスモデルにおいて、複製ならびに高レベルのマウスGM−CSF発現(複製能を有するワクシニア骨格による処置後のみに生じる)の両方が、in vitroでCDCを媒介する高力価の抗腫瘍抗体を誘導するのに必要であることを示し得る。
【0098】
引用文献
【0099】
【表1】