特許第6457037号(P6457037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6457037アンチブロッキング性ハードコートフィルムの製造方法
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  • 特許6457037-アンチブロッキング性ハードコートフィルムの製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6457037
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】アンチブロッキング性ハードコートフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20190110BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20190110BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20190110BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
   B32B27/16 101
   B32B27/18 Z
   B32B27/20 Z
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-174644(P2017-174644)
(22)【出願日】2017年9月12日
(62)【分割の表示】特願2015-525125(P2015-525125)の分割
【原出願日】2014年6月17日
(65)【公開番号】特開2018-24253(P2018-24253A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2017年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-140335(P2013-140335)
(32)【優先日】2013年7月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邊 良一
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 望
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−062400(JP,A)
【文献】 特開2012−140533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/30
B32B 27/16
B32B 27/18
B32B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材の少なくとも片面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物から形成されたハードコートを有するハードコートフィルムであって、
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が、
(P)ウレタン(メタ)アクリレート系化合物100質量部;
(Q)平均粒子径10〜300nmの有機微粒子0.02〜5質量部;
(R)アクリルシリコン系レベリング剤0.0002〜2質量部
を含み、
ここで上記(R)アクリルシリコン系レベリング剤の配合量が、上記成分(Q)平均粒子径10〜300nmの有機微粒子100質量部に対して、1質量部以上であるハードコートフィルム。
【請求項2】
上記(Q)平均粒子径10〜300nmの有機微粒子の配合量が、上記(P)ウレタン(メタ)アクリレート系化合物100質量部に対して3質量部以下(ただし3を除く)である、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記(R)アクリルシリコン系レベリング剤の配合量が、前記成分(Q)平均粒子径10〜300nmの有機微粒子100質量部に対して3質量部以上である、請求項1または2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のハードコートフィルムであって、
ハードコートフィルムから縦20cm×幅12cmの大きさの試験片を、縦方向がハードコートフィルムのマシン方向となるように、2枚切り出し、2枚の試験片の一方のハードコート面と他方の反対側の裏面とを重ね合わせ、その中央部に縦10cm×横10cm、質量1000gの大きさのステンレス板を載せ(荷重10g/cm)、温度90℃で10分間密着させた後、手でT字剥離を試みたとき、全く密着していない、又は僅かに密着しているが、上側の試験片の片短辺を持ち上げると、下側の試験片は自重で剥れ落ちるというアンチブロッキング性を有するハードコートフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のハードコートフィルムを含むタッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチブロッキング性ハードコートフィルムの製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、アンチブロッキング性、透明性に優れ、タッチパネルの部材として好適なハードコートフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネセンスディスプレイ等の画像表示装置上に設置され、表示を見ながら指やペン等でタッチすることにより入力を行うことのできるタッチパネルが普及している。タッチパネルには、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム基材を含む部材が多用されている。該フィルム基材のタッチ面側の最表面には、タッチパネルの操作時に指の爪やペン先による引掻き傷等が付かないように耐擦傷性のハードコートを形成することが広く行われている。
【0003】
また、タッチパネルにはフィルム基材と、酸化インジウム錫等の金属酸化物薄膜などの透明導電膜との透明導電性積層体が多用されている。該透明導電性積層体には、フィルム基材等からのオリゴマーの析出を抑制したり、積層体の反射色や透過色を調整したりする目的で、ハードコートを形成したり、ハードコートフィルムを積層したりすることが広く行われている。
【0004】
フィルム基材にハードコートを形成してハードコートフィルムを製造する場合、透明導電性積層体にハードコートを形成する場合、及び透明導電性積層体とハードコートフィルムとを積層する場合などの製造工程において、積層フィルムをロール状に巻き回した状態で保存することがある。このとき積層フィルムは、ハードコート側の表面とその反対側の裏面とが長時間に亘って圧着されたままになるため、しばしば表面と裏面とが強く付着してしまう。その結果、フィルムロールから積層フィルムを引き出すときに、スムーズに引き出すことができなかったり、積層フィルムのハードコートが破壊してしまったりすることがあった。
【0005】
この不都合を解決する技術としては、ハードコートを形成する塗料に微粒子を含ませてハードコート表面に凹凸を設け、表面と裏面との真の接触面積を小さくする技術が多用されている。しかし、十分なアンチブロッキング性を得るためには、比較的大きなサイズの粒子を使用するか又は微粒子を多量に使用する必要があり、透明性がタッチパネル向けとしては不満足なものになっていた。
【0006】
そこで、フィルム基材のハードコート側の表面とは反対側の裏面に、シリカ等の無機微粒子を含む塗料からなる塗膜を形成して、裏面に凹凸を設けることが提案されている(例えば、特開2011−039978号公報、特開2012−027401号公報参照)。しかし、これらの技術では、十分なアンチブロッキング性を得るためには、アンチブロッキング性コートに使用する塗料に比較的大きなサイズの粒子を含ませるか又は微粒子を多量に含ませる必要がある。裏面であっても、このような塗膜を形成すると、透明性がタッチパネル向けとしては不満足なものになってしまうという不都合がある。また、シリカ等の無機微粒子は、硬度が高いため、製造装置の磨耗という不都合がある。更に高度に分散されたシリカ等の無機微粒子は、表面活性が高く、金属付着力が強いため、塗工ロール等にシリカ等の無機微粒子を含む塗料が付着したとき、該塗工ロール等の掃除作業には、多くの労力を要するという不都合もある。
【0007】
また、ハードコートを形成する塗料のベース樹脂を相分離させることによりハードコート表面に凹凸を設ける提案がなされている(例えば、特開2010−163535号公報参照)。しかし、この技術には、製造時の乾燥・温度条件等にその効果が大きく左右されるため、工業的に安定製造することが難しいという不都合がある。
【0008】
更に、ハードコート層の表面にアンチブロッキング剤を集合させる技術も提案されている(例えば、特開2010−241937号公報参照)。この技術によれば、アンチブロッキング剤として微細な粒子を少量使用すれば十分なアンチブロッキング性が得られるため、ディスプレイ向けとして十分な透明性を確保することができる。しかし特開2010−241937号公報の技術は、「ブロッキング防止剤として、フッ素化合物を表面に有する微粒子を使用することによって、前記微粒子をハードコート層表面にブリードさせ、少量で効果的に表面凹凸を形成させ、その上、ハードコート層の物性と透明性を低下させることなくブロッキング防止性を付与する」ものである。そのため、この技術は、フィルム基材等からのオリゴマーの析出を抑制する目的には使用できない。また、アンチブッロッキング性ハードコート面に酸化インジウム錫薄膜などの導電膜を積層しようとしても、十分な密着強度で積層することは困難である。更に、このフィルムは、指等でタッチすることにより操作するタッチパネル向けとしては、耐汚染性、耐指紋性の点で満足のできるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−039978号公報
【特許文献2】特開2012−027401号公報
【特許文献3】特開2010−163535号公報
【特許文献4】特開2010−241937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、アンチブロッキング性、透明性に優れ、タッチパネルの部材として好適なハードコートフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ハードコート形成用塗料としての特定の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、特定の条件で硬化させると、上記目的を達成できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、フィルム基材の少なくとも片面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物から形成されたハードコートを有するハードコートフィルムの製造方法であって、
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が、
(P)ウレタン(メタ)アクリレート系化合物 100質量部;
(Q)平均粒子径10〜300nmの有機微粒子 0.02〜5質量部;
(R)アクリルシリコン系レベリング剤 0.0002〜2質量部
を含み、
上記方法が、
(1)上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をフィルム基材に塗布し、ウェット塗布膜を形成する工程;
(2)上記ウェット塗布膜を乾燥し、乾燥塗布膜を形成する工程;
(3)上記乾燥塗布膜を、温度50〜90℃の条件において、活性エネルギー線を照射して硬化し、ハードコートフィルムを形成する工程
を含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法により得られるハードコートフィルムは、アンチブロッキング性、透明性に優れる。また、このハードコートフィルムは、耐汚染性、耐指紋性、耐擦傷性にも優れている。そのため、タッチパネル等のディスプレイの保護フィルムなどに好適に使用することができる。
また、本発明の製造方法により得られるハードコートフィルムと透明導電膜とを積層することによって、タッチパネル等のディスプレイに好適に使用することができる透明導電性積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1にて用いられた、温度制御可能な紫外線照射手段の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、フィルム基材の少なくとも片面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物から形成されたハードコートを有するハードコートフィルムの製造方法である。
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(以降では「塗料」又は「塗料組成物」と称することもある。)は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線により重合・硬化して、ハードコートを形成することが可能なものであり、
(P)ウレタン(メタ)アクリレート系化合物;
(Q)平均粒子径10〜300nmの有機微粒子;及び
(R)アクリルシリコン系レベリング剤を含む。
【0016】
なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの意味である。また、(メタ)アクリロイル基とはアクリロイル基又はメタクリロイル基の意味である。
【0017】
成分(P)は、ウレタン結合と(メタ)アクリロイル基を有する化合物であり、活性エネルギー線を照射して硬化する際の硬化反応が速いという特長を有する。本発明の製造方法は、温度50〜90℃の条件において、活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化する工程を含むため、硬化反応の速い塗料組成物が好ましい。上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が成分(P)を含むことによって、速い硬化反応が実現される。
【0018】
成分(P)は、ウレタン結合と(メタ)アクリロイル基以外の官能基を更に有していてもよい。ウレタン結合と(メタ)アクリロイル基以外の官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、フェニル基、チオール基、リン酸基、エポキシ基、ハロゲン、エーテル結合、エステル結合などを挙げることができる。
【0019】
成分(P)としては、例えば、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーなどを挙げることができる。市販例としては、荒川化学株式会社の多官能ポリウレタンアクリレート「ビームセット575(商品名)」、「ビームセット575CB(商品名)」;サートマー・ジャパン株式会社のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー「CNシリーズ(商品名)」などを挙げることができる。成分(P)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0020】
成分(Q)は、平均粒子径10〜300nmの有機微粒子である。ここでの成分(Q)の「有機微粒子」は、所定範囲内の平均粒子径を有する有機化合物である限りは、特に限定されない。成分(Q)は、上記の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物から形成されたハードコートに好適なアンチブロッキング性を付与するように作用する。そのため、成分(Q)の平均粒子径は、一定以上の大きさであることが求められる。成分(Q)の平均粒子径は、具体的には10nm以上である必要がある。平均粒子径は、好ましくは80nm以上、より好ましくは120nm以上であってよい。
【0021】
一方、成分(Q)は、ハードコートの透明性を保持するため、平均粒子径は一定以下の大きさであることが求められる。成分(Q)の平均粒子径は、具体的には300nm以下であることが必要である。平均粒子径は、好ましくは250nm以下であり、より好ましくは200nm以下である。
【0022】
アンチブロッキング剤は、ハードコートの表面又は表面近傍に存在するときに大きな効果を発現し、ハードコートの内部に完全に埋没しているときは殆ど効果を発現しない。従って、より少量の配合量で好適なアンチブロッキング性を発現させるためには、ハードコートの表面又は表面近傍に集まり易いアンチブロッキング剤を使用することが好ましい。上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含まれる有機微粒子である成分(Q)は、ハードコートの表面又は表面近傍に集まり易い特性を有するため、アンチブロッキング剤として好ましく用いられる。
【0023】
理論に拘束される意図はないが、有機微粒子がハードコートの表面又は表面近傍に集まり易いのは、比重が小さくウェット塗膜の表面に浮いてくる性質を有しているためなどと予想される。
【0024】
成分(Q)としては、特に限定されないが、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、含弗素系樹脂、及びアミノ系化合物とホルムアルデヒドとの硬化樹脂などの樹脂ビーズを挙げることができる。これらの中でアクリル系樹脂の架橋体の微粒子が、ハードコートの表面又は表面近傍に集まり易く、かつ、透明性や耐溶剤性に優れており、好ましい。成分(Q)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0025】
成分(Q)の市販例としては、積水化学工業株式会社の架橋又は未架橋のアクリル樹脂系微粒子「アドバンセルNS(商品名)」;東亞合成株式会社の架橋アクリル樹脂系微粒子「UJシリーズ(商品名)」、「DJシリーズ(商品名)」;JX日鉱日石エネルギー株式会社の架橋アクリル樹脂系微粒子「ENEOSユニパウダー(商品名)」などを挙げることができる。
【0026】
なお本明細書において、微粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒子径分布曲線において、粒子の小さい方からの累積が50質量%となる粒子径である。この平均粒子径は、例えば、日機装株式会社のレーザー回折・散乱式粒度分析計「MT3200II(商品名)」を使用して測定される。
【0027】
成分(Q)の配合量の下限は、ハードコートフィルムのアンチブロッキング性確保の観点から決定することができる。本発明の製造方法で得られるハードコートフィルムでは、ハードコートの表面又は表面近傍にアンチブロッキング剤が集中する。そのため、アンチブロッキング性の発現に最低限必要となる成分(Q)の配合量は、ハードコート1mを形成するのに必要な塗料組成物中における成分(Q)の質量(q)で表すことができる。後述の実施例に関する表2に示すように、質量(q)は少なくとも10mgであってよく、好ましくは15mg以上であってよい。従って、塗料組成物中の任意成分の量により若干の上下はあるが、硬化後のハードコートの厚みを2μmとすれば、成分(P)100質量部に対して、0.5質量部以上、好ましくは0.8質量部以上であってよく;厚みを10μmとすれば、0.1質量部以上、好ましくは0.16質量部以上であってよく;厚みを50μmとすれば、0.02質量部以上、好ましくは0.032質量部以上であってよい。
【0028】
一方、成分(Q)の配合量の上限は、ハードコートフィルムの透明性を確保する観点から決定することができる。成分(Q)の配合量の上限は、成分(P)100質量部に対して、5質量部以下、好ましくは3質量部以下であってよい。
【0029】
成分(R)は、アクリルシリコン系レベリング剤であり、成分(P)よりも極性や表面張力が少し低いという特性を有する。成分(R)は、成分(Q)を塗料組成物中に良好に分散させるともに、ハードコートの表面又は表面近傍に集まり易くするように作用する。ここでの成分(R)の「アクリルシリコン系レベリング剤」は、上記作用を奏するものであって、アクリル基(又はメタクリル基)を有し、かつシリコンを含有するレベリング剤である限りは、特に限定されない。
【0030】
成分(R)の配合量の下限は、成分(Q)を塗料組成物中に分散させ、ハードコートの表面又は表面近傍に集まり易くする効果を得る観点から決定することができる。成分(R)の配合量の下限は、成分(Q)100質量部に対して、成分(R)1質量部以上、好ましくは3質量部以上であってよい。成分(Q)100質量部に対する成分(R)の配合量が1質量部以上であることによって、成分(Q)を分散させ、ハードコートの表面又は表面近傍に集まり易くする効果が十分となり、良好なアンチブロッキング性を得ることができる。
【0031】
成分(R)配合量下限の成分(P)対する量比は、上記のように塗料組成物中の任意成分の量やハードコートの厚みの影響を勘案して決定することができる。例えば、硬化後のハードコートの厚みが2μmのときは、成分(P)100質量部に対して成分(Q)が固形分として0.5質量部以上、好ましくは0.8質量部以上であるから、成分(R)は0.005質量部以上であり、好ましくは0.008質量部以上、より好ましくは0.015質量部以上、最も好ましくは0.024質量部以上であってよい。同様に、硬化後のハードコートの厚みが50μmのときは、成分(P)100質量部に対して成分(Q)が0.02質量部以上、好ましくは0.032質量部以上であるから、成分(R)は0.0002質量部以上であり、好ましくは0.00032質量部以上、より好ましくは0.0006質量部以上、最も好ましくは0.00096質量部以上であってよい。
【0032】
一方、成分(R)の配合量の上限は、酸化インジウム錫薄膜などの導電膜とのハードコートフィルムの積層前のアニール工程において、レベリング剤がハードコート表面にブリードアウトして、ハードコートと導電膜との密着性が低下することのないように決定することができる。成分(R)の配合量の上限は、成分(P)100質量部に対して、2質量部以下、好ましくは1質量部以下であってよい。
【0033】
このようなアクリルシリコン系レベリング剤の市販例としては、楠本化成株式会社の「ディスパロンUVX272(商品名)」、「ディスパロンUVX2280(商品名)」、「ディスパロンUVX2285(商品名)」、「ディスパロンAQ7120(商品名)」、「ディスパロンAQ7180(商品名)」、「ディスパロンLHP810(商品名)」などを挙げることができる。なお、これらの市販品は、溶剤により希釈されているので、アクリルシリコン系レベリング剤(固形分)の量が上記範囲となるように換算した量を用いることができる。
【0034】
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物には、活性エネルギー線による硬化反応を良好に進行させるため、1分子中に2つ以上のイソシアネート基(−N=C=O)を有する化合物(S)及び/又は光重合開始剤(T)を含ませることが好ましい。
【0035】
1分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物(S)としては、例えば、メチレンビス−4−シクロヘキシルイソシアネート;トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体等のポリイソシアネート;及び、上記ポリイソシアネートのブロック型イソシアネート等のウレタン架橋剤などをあげることができる。これらをそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、架橋の際には、必要に応じて、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエートなどの触媒を添加してもよい。
【0036】
光重合開始剤(T)としては、例えば、ベンゾフェノン、メチル−o−ベンゾイルベンゾエート、4−メチルベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタール等のベンゾイン系化合物;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン系化合物;メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン等のアントラキノン系化合物;チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系化合物;アセトフェノンジメチルケタール等のアルキルフェノン系化合物;トリアジン系化合物;ビイミダゾール化合物;アシルフォスフィンオキサイド系化合物;チタノセン系化合物;オキシムエステル系化合物;オキシムフェニル酢酸エステル系化合物;ヒドロキシケトン系化合物;及び、アミノベンゾエート系化合物などを挙げることができる。これらをそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物には、本発明の目的に反しない限度において、成分(P)、(Q)、(R)、(S)、(T)以外のその他の成分を更に含ませることができる。
【0038】
その他の成分としては、例えば、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリアクリル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールポリ(メタ)アクリレート、及び、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有プレポリマー又はオリゴマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルセロソルブ(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、及び、トリメチルシロキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有単官能反応性モノマー;N−ビニルピロリドン、スチレン等の単官能反応性モノマー;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、及び、2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン等の(メタ)アクリロイル基含有2官能反応性モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有3官能反応性モノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有4官能反応性モノマー;及び、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有6官能反応性モノマーなどから選択される1種以上を挙げることができる。また、上記1種以上を構成モノマーとする樹脂を挙げることができる。
【0039】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤、チクソ性付与剤などの添加剤を1種、又は2種以上含んでいてもよい。
【0040】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、塗工し易い濃度に希釈するため、必要に応じて溶剤を含んでいてもよい。溶剤は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の成分、及び、その他の任意成分と反応したり、これらの成分の自己反応(劣化反応を含む)を触媒(促進)したりしないものであれば、特に制限されない。溶剤として、例えば、1−メトキシ−2−プロパノール、酢酸nブチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、及び、ダイアセトンアルコールなどの公知のものを使用することができる。
【0041】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、これらの成分を混合、攪拌することにより得られる。
【0042】
本発明の製造方法は、(1)上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をフィルム基材に塗布し、ウェット塗布膜を形成する工程を含む。
【0043】
ウェット塗布膜の厚みは、特に限定されないが、所望のハードコートの厚みに対応させて、例えば0.5μm〜100μmであってよい。
【0044】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をフィルム基材に塗布する方法は、特に制限されず、公知のウェブ塗布方法を使用することができる。具体的には、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、エアナイフコート及びダイコートなどの方法を挙げることができる。
【0045】
フィルム基材は、高度な透明性を有しているものであれば、特に制限されず、任意の透明樹脂フィルムを使用することができる。中でも、平滑性、耐熱性、機械的強度、剛性や表面硬度にも優れているものが好適に用いられる。
【0046】
このような透明樹脂フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロースなどのセルロースエステル系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、エチレンノルボルネン共重合体などの環状炭化水素系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリマー型ウレタンアクリレート系樹脂、ポリイミド系樹脂などの熱可塑性樹脂のフィルムが挙げられる。また、透明樹脂フィルムには、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び、二軸延伸フィルムが包含される。
【0047】
フィルム基材としての透明樹脂フィルムの厚みは、特に制限されないが、10〜1000μmが好ましい。透明樹脂フィルムの厚みが10μm以上であることによって、十分な剛性を確保することができる。また、透明樹脂フィルムの厚みが1000μm以下であることによって、公知のウェブ塗布方法・装置を用いた塗布を行うことができる。透明樹脂フィルムの厚みは、より好ましくは20〜250μmである。
【0048】
上記の透明樹脂フィルムと任意の1層あるいは2層以上の光学機能膜又は/及び任意の1層あるいは2層以上の透明導電膜との積層体を、フィルム基材として用いてもよい。
【0049】
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をフィルム基材に塗布する前に、フィルム基材の表面に、ハードコートとの接着強度を高めるため、アンカーコートを設けてもよい。
【0050】
アンカーコートを形成するためのアンカーコート剤としては、1−メトキシ−2−プロパノール、酢酸n−ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、アセトンなどの公知の溶剤に良く溶解し、かつ、十分なアンカー効果を得られるものであれば、特に制限はない。アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル系、アクリル系、ポリウレタン系、アクリルウレタン系およびポリエステルウレタン系等の慣用のものを使用することができる。アンカーコート剤の市販例として、東洋紡株式会社の「バイロン24SS(商品名)」、株式会社トクシキの「AU2141NT(商品名)」などを挙げることができる。
【0051】
アンカーコートを設ける場合には、フィルム基材の表面に、慣用の方法でアンカーコート剤を塗布してアンカーコートを形成しておき、このアンカーコートの上に上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布しハードコートを形成することができる。
【0052】
アンカーコートの厚みは、特に限定されないが、通常0.01〜5μm程度であってよい。この厚みは、好ましくは0.05〜2μmである。
【0053】
アンカーコート剤を塗布する方法は特に制限されず、公知のウェブ塗布方法を使用することができる。具体的には、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、エアナイフコート及びダイコートなどの方法を挙げることができる。
【0054】
本発明の製造方法は、(2)上記ウェット塗布膜を乾燥し、乾燥塗布膜を形成する工程を含む。
【0055】
ウェット塗布膜を乾燥する方法としては特に限定されない。乾燥は、例えば、温度30〜120℃、時間3〜120秒間程度の条件で行うことができる。乾燥温度の下限は、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上であってよい。
【0056】
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物がフィルム基材に塗布されるとき、成分(Q)は樹脂組成物中に均一に分散された状態であるため、乾燥前に、成分(Q)がウェット塗布膜の表面又は表面近傍に集まるための時間を確保することが好ましい。そのため、工程(1)でウェット塗布膜を形成後、工程(2)の乾燥が開始するまでの時間(例えば、工業的には、ウェブが塗布ヘッド位置から乾燥炉内に入るまでの搬送に要する時間)を、3秒以上とることが好ましい。この時間は、より好ましくは5秒以上である。なお、乾燥路を延長して乾燥路入口を塗布ヘッドに近付けると、乾燥路滞留時間が延び、より低い温度で乾燥させることが可能になるが、近付け過ぎると、塗布ヘッドの掃除作業などのメンテナンスが煩雑になる傾向がある。このように、作業効率及び生産コストの観点からも、工程(1)でウェット塗布膜を形成後、工程(2)の乾燥が開始するまでの時間は、やはり3秒以上とることが好ましい。
一方、工程(1)及び(2)に関する生産効率の観点から、この時間は、せいぜい30秒程度であることが好ましい。
【0057】
後続する(3)の硬化工程の温度制御を容易にするため、本工程の乾燥温度と(3)工程の温度とを略同じにするのも好ましい実施態様の一つである。
【0058】
本発明の製造方法は、(3)上記乾燥塗布膜を、温度50〜90℃の条件において、活性エネルギー線を照射して硬化し、ハードコートフィルムを形成する工程を含む。
【0059】
従来、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の塗布膜を紫外線などの活性エネルギー線を照射して硬化する工程は、常温付近で行われていた。加温するとフィルム基材の剛性が低下し、ハードコートフィルムに皺が入るなどのトラブルが発生し易くなるためである。
【0060】
それにも係らず、本発明者らは、硬化工程における温度条件を検討したところ、驚くべきことに、特定の温度条件では、ハードコートフィルムのアンチブロッキング性が大きく向上することを見出した。
【0061】
ハードコートフィルムのアンチブロッキング性の向上効果を得るためには、硬化工程の温度は50℃以上にする必要がある。硬化工程の温度は、好ましくは60℃以上である。一方、硬化工程の温度の上限は、フィルム基材の剛性を良好に保ち、ハードコートフィルムに皺などのトラブルが発生することを抑制すべき点を考慮して、設定することが好ましい。硬化工程の温度は、フィルム基材の種類にもよるが、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系フィルムである場合には、通常90℃以下にすることが好ましい。硬化工程の温度は、好ましくは80℃以下である。
【0062】
硬化工程における温度条件を制御する方法は、特に制限されず、任意の方法で行うことができる。例えば、実施例に係る図1のように、活性エネルギー線照射装置と対置したロールに工程(2)で得た積層体を抱かせて、ロールの表面温度を所定温度に制御する方法;活性エネルギー線照射装置周辺を照射炉として囲い、照射炉内の温度を所定温度に制御する方法などを挙げることができる。
【0063】
活性エネルギー線の照射は、任意の装置を用いて行うことができる。例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプなどを光源とする装置を用いることができる。また、活性エネルギー線の照射量は、使用するハードコート形成用塗料としての上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化特性により適宜調節してよい。この照射量は、通常は100〜10000mJ/cmであってよい。
【0064】
上記のようにして得られるハードコートの厚みは、0.5μm以上であることが好ましい。ハードコートの厚みが0.5μm以上であることによって、耐傷付き性の改良効果を十分に得ることができる。一方、ハードコートの厚みの上限は特にない。コスト抑制の観点からは、ハードコートの厚みはせいぜい50μmであってよい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
各種物性の測定方法
(i)アンチブロッキング性
ハードコートフィルムから縦20cm×幅12cmの大きさの試験片を、縦方向がハードコートフィルムのマシン方向となるように、2枚切り出し、2枚の試験片の一方のハードコート面と他方の反対側の裏面とを重ね合わせ、その中央部に縦10cm×横10cm、質量1000gの大きさのステンレス板を載せ(荷重10g/cm)、温度90℃で10分間密着させた後、手でT字剥離を試み、以下の基準で評価した。
◎:全く密着していない。
○:僅かに密着しているが、上側の試験片の片短辺を持ち上げると、下側の試験片は自重で剥れ落ちる。
△:密着しており、上側の試験片の片短辺を持ち上げると、下側の試験片も持ち上がる。しかし、異音の発生はない。
×:強く密着しており、T字剥離を行う際に、異音が発生する。
【0067】
(ii)全光線透過率
JIS K7361−1:1997に従い、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH2000」(商品名)を用いて測定した。
【0068】
(iii)ヘーズ
JIS K7136:2000に従い、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH2000」(商品名)を用いて測定した。
【0069】
(iv)耐汚染性(油性マジック)
ハードコートフィルムのハードコート表面を油性赤マジックによってスポット汚染した後、汚染部分を時計皿で被覆し、室温で24時間放置した。
次いで、汚染部分を、イソプロピルアルコールを十分含ませたキムワイプ(商品名)を用いて、キムワイプに新たに汚れが付かなくなるまで拭いて洗浄した後、上記部分を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:汚染無し。
○:汚染が僅かに残っている。
△:汚染がかなり残っている。
×:汚染が著しく残っている。
【0070】
(v)耐汚染性(水性マジック)
ハードコートフィルムのハードコート表面を水性赤マジックによってスポット汚染した後、汚染部分を時計皿で被覆し、室温で24時間放置した。
次いで、汚染部分を、流水で十分洗浄した後、水道水を十分含ませたキムワイプ(商品名)を用いて、キムワイプに新たに汚れが付かなくなるまで拭いて洗浄した後、上記部分を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:汚染無し。
○:汚染が僅かに残っている。
△:汚染がかなり残っている。
×:汚染が著しく残っている。
【0071】
(vi)耐指紋性
アップル社の静電容量式タッチパネルを備えた携帯端末「iPad(商品名)」のタッチパネル操作面にハードコートフィルムをハードコートがタッチ面となるように貼り合わせ、携帯端末を5分間操作した後に指紋が目立つかどうかを目視観察した。
試験は10名が各々行い、指紋が目立つ場合を0点、目立たない場合を1点として各人の点数を集計し、以下の基準で評価した。
◎:8〜10点
△:4〜7点
×:0〜3点
【0072】
(vii)耐擦傷性
縦200mm×横25mmのサンプルを、縦方向がハードコートフィルムのマシン方向となるように採取し、これをハードコートが表面になるようにJIS L0849の学振試験機に置いた。続いて、学振試験機の摩擦端子に#0000のスチールウールを取り付けた後、250g荷重(1cm×1cm)を載せ、試験片の表面を10往復擦った。
上記表面を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:傷がない。
○:1〜5本の傷がある。
△:6〜10本の傷がある。
×:11本以上の傷がある。
【0073】
(viii)鉛筆硬度
JIS K5600−5−4に従い、750g荷重の条件で、三菱鉛筆株式会社の鉛筆「ユニ」(商品名)を用いて、ハードコートの表面の硬度を評価した。
【0074】
(ix)透明導電性薄膜との密着性
ハードコートフィルムを80℃で1時間アニール処理した後、そのハードコート表面に、直流マグネトロンスパッタリング法を用いて、インジウム−錫複合酸化物からなる透明導電性薄膜(厚み20nm)を形成した。ターゲットは酸化錫を10質量%含有した酸化インジウムとし、印加直流電力は1.0KWとし、センターロール温度は23℃とし、スパッタ中のアルゴンガス分圧は0.67Paとした。また酸素ガスを、表面抵抗値が最小になるように微量流したが、その分圧は7.5×10−3Paであった。
次に押出機と多層Tダイとを備える製膜装置を用い、三井・デュポンポリケミカル株式会社の亜鉛アイオノマー「ハイミラン1650(商品名)」と株式会社プライムポリマーのポリエチレン「エボリュー4030(商品名)」との共押出フィルム(全体厚み100μm、層比:アイオノマー/ポリエチレン/ポリエチレン=1/2/1)を製膜した。
続いて、上記で得た透明導電性薄膜を積層したハードコートフィルムから、縦100mm×幅20mmの短冊状の試験片Aを、フィルムのマシン方向がサンプルの縦方向となるように切出した。同様に上記で得た共押出フィルムから、縦100mm×幅20mmの短冊状の試験片Bを、フィルムのマシン方向がサンプルの縦方向となるように切出した。そして上記で得た試験片Aの透明導電性薄膜面と試験片Bのアイオノマー面とを、温度130℃、圧力0.5MPa、時間2秒、シール面積は縦10mm×幅15mmの条件で、ヒートシールした。24時間、室温、相対湿度50%の条件で状態調節した後、T型剥離法により、試験速度200mm/分の条件で剥離強度を測定した。なお、剥離は全ての実施例、比較例において、透明導電性薄膜とハードコートとの界面において起こった。
【0075】
使用した原材料
(P)ウレタン(メタ)アクリレート系化合物;
(P1)荒川化学株式会社の4官能ウレタンアクリレート「ビームセット575CB(商品名)」
【0076】
(Q)平均粒子径10〜300nmの有機微粒子;
(Q1)積水化学工業株式会社の架橋アクリル樹脂系微粒子「アドバンセルNS K−001(商品名)」、平均粒子径150nm
【0077】
(R)アクリルシリコン系レベリング剤;
(R1)楠本化成株式会社のアクリルシリコン系レベリング剤「ディスパロンUVX272(商品名)」
【0078】
(S)イソシアネート;
(S1)日本ポリウレタン工業株式会社製のヘキサメチレンジイソシアネート三量体「コロネートHX(商品名)」
【0079】
(T)光重合開始剤;
(T1)チバ・ジャパン株式会社のα−ヒドロキシアセトフェノン系光重合開始剤「IRGACURE127(商品名)」
【0080】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の調製
上記(P1)100質量部に対し、上記(Q1)1.5質量部、上記(R1)0.2質量部(固形分換算値)、上記(T1)3質量部、メチルエチルケトン40質量部、及びメチルイソブチルケトン40質量部を混合・攪拌し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を得た。
【0081】
実施例1
図1を参照して説明する。
グラビア方式の塗工装置を使用し、東レ株式会社の二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系フィルム「ルミラーU(商品名)、厚み50μm」をフィルム基材として、上記で得た活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をハードコートの硬化後厚みが3μmとなるように塗布し、温度80℃、2分間の条件で乾燥してウェブ3を得た。このウェブ3を、高圧水銀灯タイプの紫外線照射装置1と直径25.4cmの鏡面金属ロール2とを対置した硬化装置を使用し(図1参照)、鏡面金属ロールの温度80℃、照射量200mJ/cm、ライン速度15m/min、抱き角(図中4)120°の条件で硬化し、得られたハードコートフィルムを巻管に巻き取った。なお、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のウェット塗布膜を形成後、該塗膜の乾燥を開始するまでの時間は7秒であった。常温にて24時間の養生後、上記(i)〜(ix)の物性試験を行った。結果を表1に示す。
【0082】
実施例2
鏡面金属ロールの温度を60℃に変更したこと以外は、全て実施例1と同様に、ハードコートフィルムの形成及び物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0083】
実施例3
鏡面金属ロールの温度を50℃に変更したこと以外は、全て実施例1と同様に、ハードコートフィルムの形成及び物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0084】
参考例1
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のウェット塗布膜を形成後、該塗膜の乾燥を開始するまでの時間が2秒になるように乾燥路入口位置を変更したこと以外は、全て実施例1と同様に、ハードコートフィルムの形成及び物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0085】
比較例1
鏡面金属ロールの温度を30℃に変更したこと以外は、全て実施例1と同様に、ハードコートフィルムの形成及び物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0086】
比較例2
鏡面金属ロールの温度を100℃に変更したこと以外は、全て実施例1と同様に、ハードコートフィルムの形成を行った。
フィルム基材の剛性が低下してハードコートフィルムに皺が入り、外観良好なサンプルを得ることができなかった。そのため上記物性の試験は省略した。
【0087】
実施例4
更に上記(S1)3質量部を含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を使用したこと以外は、全て実施例2と同様に、ハードコートフィルムの形成及び物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0088】
比較例3
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を調製する際に、成分(R1)を使用しなかったこと以外は、全て実施例1と同様に、ハードコートフィルムの形成及び物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0089】
実施例5〜10、参考例2
用いる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の配合、及びハードコート厚みを表2に示すように変更したこと以外は、全て実施例1と同様に、ハードコートフィルムの形成及び物性測定を行った。結果を表2に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
本発明の製造方法によって得られたハードコートフィルムは、アンチブロッキング性、透明性、耐汚染性、耐指紋性、耐擦傷性、鉛筆硬度に優れ、透明導電膜との密着強度も良好なレベルにあった。
一方、比較例1は、乾燥塗布膜に活性エネルギー線を照射して硬化する工程が50〜90℃の範囲よりも低いため、アンチブロッキング性に劣っていた。また、比較例2は、乾燥塗布膜に活性エネルギー線を照射して硬化する工程が50〜90℃の範囲よりも高いため、良好な外観のハードコートフィルムを得ることができなかった。比較例3は、成分(R)を用いていないため、アンチブロッキング性に劣っていた。
本発明に包含され得る諸態様の例は、以下のように要約される。
[態様1].
フィルム基材の少なくとも片面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物から形成されたハードコートを有するハードコートフィルムであって、
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が、
(P)ウレタン(メタ)アクリレート系化合物100質量部;
(Q)平均粒子径10〜300nmの有機微粒子0.02〜5質量部;
(R)アクリルシリコン系レベリング剤0.0002〜2質量部
を含み、
ここで上記(R)アクリルシリコン系レベリング剤の配合量が、上記成分(Q)平均粒子径10〜300nmの有機微粒子100質量部に対して、1質量部以上であるハードコートフィルム。
[態様2].
上記態様[1]に記載のハードコートフィルムであって、
ハードコートフィルムから縦20cm×幅12cmの大きさの試験片を、縦方向がハードコートフィルムのマシン方向となるように、2枚切り出し、2枚の試験片の一方のハードコート面と他方の反対側の裏面とを重ね合わせ、その中央部に縦10cm×横10cm、質量1000gの大きさのステンレス板を載せ(荷重10g/cm)、温度90℃で10分間密着させた後、手でT字剥離を試みたとき、全く密着していない、又は僅かに密着しているが、上側の試験片の片短辺を持ち上げると、下側の試験片は自重で剥れ落ちるというアンチブロッキング性を有するハードコートフィルム。
[態様3].
上記態様[1]又は[2]に記載のハードコートフィルムを含むタッチパネル。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によって製造されるハードコートフィルムは、アンチブロッキング性、透明性に優れるため、タッチパネルの部材として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0094】
1:紫外線照射装置
2:鏡面金属ロール
3:ウェブ
4:抱き角
図1