(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
皮革製の基材と、前記基材に設けられた刺繍製の意匠部とを備え、前記意匠部は、前記基材上に配置された弾性的に伸縮可能な弾性材を覆うことで盛り上がった状態とされている皮革製品において、
前記意匠部は、投影図で描かれた元デザインの正面意匠を表す主意匠をなしている一般意匠部位と、前記一般意匠部位の外側に隙間なく配置された状態で前記基材上に設けられ且つ前記元デザインの側面意匠又は前記主意匠の影を表す補完意匠部位とで構成され、前記一般意匠部位の周縁には、前記補完意匠部位が配置されている第一周縁部位と、前記補完意匠部位が配置されていない第二周縁部位とが設けられており、
前記意匠部の周縁一部は、前記弾性材が弾性的に潰れることで湾曲形状をなして前記基材側から立ち上がっている前記第一周縁部位と、前記補完意匠部位とで形成されており、
前記周縁一部を除く前記意匠部の周縁部分は、前記第二周縁部位だけで形成されている皮革製品。
前記弾性材と前記基材とを縫合しているステッチ部が設けられているとともに、前記弾性材は、前記ステッチ部による引き締めによって前記基材に向けて潰れた状態となっている請求項1〜4のいずれか一項に記載の皮革製品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここでこの種の意匠部では、元となるデザインをできる限り忠実に再現する必要上、意匠部の周縁の湾曲形状に緩急をつけるなどして、意匠部のエッジ感を部分的に異ならなせたいとの要請がある。例えば斜投影図で描かれた立体感のある元デザインを意匠部で再現する場合、元デザインの主意匠となる正面意匠のほかに、この正面意匠の側面となるべき部分を設けることが好ましい。このような場合には、意匠部の周縁の湾曲形状に緩急をつけて、湾曲形状の緩やかな部分で側面を表すことが考えられる。しかし上述の弾性材をそのまま使用すると、意匠部の周縁が画一的な湾曲形状となり(押出したような立体感となり)、元デザインを忠実に再現するにはやや不向きの構成となっていた。本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、刺繍製の意匠部を、元となるデザインを極力忠実に再現しつつ、基材に対して立体的に形成しておくことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の皮革製品は、皮革製の基材と、基材に設けられた刺繍製の意匠部とを備え、意匠部は、基材上に配置された弾性的に伸縮可能な弾性材を覆うことで盛り上がった状態とされている
。この種の構成では、刺繍製の意匠部を、元となるデザインを極力忠実に再現しつつ、基材に対して立体的に形成しておくことが望まれる。そこで本発明の意匠部は、
投影図で描かれた元デザインの正面意匠を表す主意匠をなしている一般意匠部位と、一般意匠部位の外側に隙間なく配置された状態で基材上に設けられ
且つ元デザインの側面意匠又は前記主意匠の影を表す補完意匠部位とで構成され、
一般意匠部位の周縁には、補完意匠部位が配置されている第一周縁部位と、補完意匠部位が配置されていない第二周縁部位とが設けられている。そして意匠部の周縁一部
は、弾性材が弾性的に潰れることで湾曲形状をなして基材側から立ち上がっている第一周縁部位と、補完意匠部位とで形成されており、
周縁一部を除く意匠部の周縁部分は、第二周縁部位だけで形成されている。本発明では、意匠部の周縁一部の湾曲形状を、一般意匠部位の周縁と補完意匠部位で形成して、意匠部の他の周縁部分に比して緩やかに表現することにより、元となるデザイン
(投影図で描かれた元デザイン)を極力忠実に再現することが可能となる。
【0007】
第2発明の皮革製品は、第1発明の皮革製品におい
て、第一周縁部位は、補完意匠部位の上に重なった状態とされることにより、基材上の第二周縁部位よりも基材から離れた位置から立ち上がっている。本発明では、補完意匠部位によって、基材に対する一般意匠部位の周縁の立ち上がり位置に差(高低差)を設けることにより、意匠部の周縁一部の湾曲形状をより自然な形で緩やかに表現することができる。
【0008】
第3発明の皮革製品は、第1発明又は第2発明の皮革製品におい
て、基材には、一般意匠部位の内側で盛り上がっている刺繍製の盛り上がり部位が設けられている。そして第二周縁部位の少なくとも一部は、盛り上がり部位に接した状態で形成されることにより、盛り上がり部位が形成されていない状態に比して基材に対する立ち上がり角度が大きくなっている。本発明では、第二周縁部位の少なくとも一部の立ち上がり角度を盛り上がり部位によって大きくすることにより、元となるデザインをより忠実に再現することが可能となる。
【0009】
第4発明の皮革製品は、第3発明の皮革製品において、第二周縁部位には、盛り上がり部位に接している箇所と、盛り上がり部位に接していない箇所とが設けられている。本発明では、一般意匠部位の周縁に第一周縁部位と第二周縁部位を設け、さらに第二周縁部位の立ち上がり角度を部分的に異ならせることで、元となるデザインを更に忠実に再現することが可能となる。
【0010】
第5発明の皮革製品は、第1発明〜第4発明のいずれかの皮革製品において、弾性材と基材とを縫合しているステッチ部が設けられているとともに、弾性材は、ステッチ部による引き締めによって基材に向けて潰れた状態となっている。本発明では、ステッチ部によって弾性材の過度の盛り上がりを抑えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る第1発明によれば、刺繍製の意匠部を、元となるデザインを極力忠実に再現しつつ、基材に対して立体的に形成しておくことができる。また第2発明によれば、刺繍製の意匠部を、基材に対してより確実に立体的に形成しておくことができる。また第3発明によれば、刺繍製の意匠部を、元となるデザインをより忠実に再現しつつ基材に形成しておくことができる。また第4発明によれば、刺繍製の意匠部を、元となるデザインを更に忠実に再現しつつ基材に形成しておくことができる。そして第5発明によれば、刺繍製の意匠部を、基材に対してより適切な立体形状で形成しておくことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1〜
図15を参照して説明する。各図には、便宜上、乗物用シートの前後方向と左右方向と上下方向を示す矢線を適宜図示する。
図1の乗物用シート2は、本発明の皮革製品(天然皮革と合成皮革の少なくとも一方を備えた皮革製品)に相当する部材であり、シートクッション4と、シートバック6と、ヘッドレスト8を有する。これらシート構成部材(4,6,8)は、各々、シート骨格をなすシートフレーム(4F,6F,8F)と、シート外形をなすシートパッド(4P,6P,8P)と、シートパッドを被覆するシートカバー(4S,6S,8S)を有する。そしてシートクッション4の後部にシートバック6(詳細後述)の下部が起倒可能に連結され、シートバック6の上部にヘッドレスト8が設けられている。
【0014】
[シートバック]
シートバック6は、
図1を参照して、乗員の背凭れとなる正面視で略矩形の部材であり、上述の基本構成6F,6P,6Sとともに、刺繍製の意匠部10を有している(各部材及び意匠部の詳細は適宜後述)。この意匠部10は、
図2に示すように基材となるシートカバー6S上に設けられた刺繍製の部位であり、
図3に示す斜投影図で描かれた立体感のある「D(アルファベット)」を元デザイン14としている。そして本実施例では、意匠部10を、後述する
図4の弾性材40にて立体的に盛り上げ、さらに意匠部10の周縁(10a〜10c)を、見栄えの良い湾曲形状としておく。この種の構成では、意匠部10の周縁(10a〜10c)の湾曲形状に緩急をつける(エッジ感を異ならせる)などして、立体感のある元デザイン14をできる限り忠実に再現することが望ましい。そこで本実施例では、後述する構成によって、刺繍製の意匠部10を、元となるデザイン(14)を極力忠実に再現しつつ、シートカバー6Sに対して立体的に形成しておくこととした。以下、各構成について詳述する。
【0015】
[基本構成]
図1のシートバック6は、シートパッド6P(図示省略)を、シートフレーム6F(図示省略)上に配置したのちシートカバー6Sで被覆することで形成されている。ここでシートフレーム6Fは、典型的に正面視で略矩形又はアーチ状の枠体であり、金属や硬質樹脂などの剛性に優れる素材にて形成できる。またシートパッド6Pは、シートバック6の外形形状をなしている部材であり、例えばポリウレタンフォーム(密度:10kg/m
3〜60kg/m
3)などの発泡樹脂で形成できる。このシートパッド6Pの着座面には、着座部6aと、左右の土手部6bとが形成されている。着座部6aは、シート幅方向中央に形成された乗員の着座が可能な部位である。また左右の土手部6bは、着座部6aの側方で相対的に前方に向けて山なりに盛り上がっている部位である。
【0016】
[シートカバー(基材)]
そしてシートカバー6Sは、
図1に示すようにシートの意匠面を構成する面材であり、複数の表皮ピースを縫合することで形成されている。例えばシートカバー6Sの前面は、着座部6aを被覆するメイン表皮ピースSP1と、左右の土手部6bを被覆する一対のサイド表皮ピースSP2、SP3とを縫合することで形成されている。これら各表皮ピースSP1〜SP3の素材として、シートの意匠面を構成可能な面材を用いることができ、例えば皮革(天然皮革,合成皮革)や布帛(織物,編物,不織布)を適宜選択して用いることができる。そして本実施例では、後述する意匠部10を形成するメイン表皮ピースSP1が本発明の基材に相当し、このメイン表皮ピースSP1の素材として皮革を用いている。なお各サイド表皮ピースSP2,SP3の素材は特に限定しないが、本実施例では皮革を用いている。
【0017】
[意匠部]
またメイン表皮ピースSP1の左下には、シートの意匠性向上などの観点から刺繍製の意匠部10が設けられている。この意匠部10は、
図2〜
図4を参照して、斜投影図で描かれた立体感のある「D」を元デザイン14としており、一般意匠部位21と、補完意匠部位22とで構成されている。ここで
図3に示す元デザイン14は、主意匠となる「D」の正面意匠14aと、この正面意匠14aの右側に設けられた右側面意匠14bとを有し、これら各意匠によって「D」という文字に立体感を持たせている。そして一般意匠部位21は、元デザイン14の主意匠となる正面意匠14aを主に構成しており、後述する第一周縁部位21aと第二周縁部位21bとを有している。また補完意匠部位22は、一般意匠部位21の周縁の外側に隙間なく配置されている部位であり、元デザイン14の右側面意匠14bを主に構成している。これら一般意匠部位21と補完意匠部位22は、それぞれ独立に、ミシンを用いた機械刺繍等で構成可能であり、各種の刺繍手法(縫い方)で形成できる。例えば一般意匠部位21と補完意匠部位22の刺繍手法として、意匠部10に求められる外観を考慮して、タタミ縫いとサテン縫いの少なくとも一方を用いることが可能である。本実施例では、サテン縫いを用いて両意匠部位21,22を形成しているとともに、
図4に示す一般意匠部位21の一般刺繍糸YM1と補完意匠部位22の補完刺繍糸YM2とは別の糸材である。なお一般刺繍糸YM1と補完刺繍糸YM2は、それぞれ同種の糸材又は別種の糸材で構成できる。そして各刺繍糸YM1,YM2を別種の糸材とする場合には、これらの色や繊度等の差にて各意匠部位21,22の外観を異ならせたり、材質や嵩高性等の差にて各意匠部位21,22の感触を異ならせたりすることができる。
【0018】
[弾性材]
ここで意匠部10では、一般意匠部位21のみが、
図4及び
図5に示すように弾性材40によって盛り上がった状態とされている。この弾性材40は、弾性的に伸縮可能な面状の部材であり、後述する意匠部10の形成作業時において、一般意匠部位21の一般刺繍糸YM1とメイン表皮ピースSP1の間に介装される。そして弾性材40は、概ね一般意匠部位21の外形に倣った形状を有し、元デザイン14の正面意匠14aと同一形状を有している。この種の弾性材40の素材は、一般意匠部位21の一般刺繍糸YM1をメイン表皮ピースSP1に縫い付ける際の引き締め力によって潰れ変形可能な素材であればよく、ポリウレタンフォームなどの発泡樹脂のマット材、ゴム弾性を有する樹脂製の板材、繊維を三次元的に交絡又は積層してなる面材を例示できる。そして一般意匠部位21の周縁(後述の第一周縁部位21aと第二周縁部位21b)は、各々、弾性材40の上隅側が弾性的に潰れることで湾曲形状をなしてメイン表皮ピースSP1側から立ち上がっている。
【0019】
[意匠部の周縁(第一周縁部位・第二周縁部位)]
意匠部10の周縁(内周縁10a、外周縁10b,10c)には、
図2及び
図4を参照して、一般意匠部位21の周縁で構成されている箇所と、一般意匠部位21の周縁と補完意匠部位22とで構成されている箇所が設けられている。この一般意匠部位21の周縁には、補完意匠部位22が外側に配置されている第一周縁部位21aと、補完意匠部位22が外側に配置されていない第二周縁部位21bとが設けられている(
図4及び
図5では、便宜上、各周縁部位にハッチを付けて図示している)。そして意匠部10の内周縁10aは、一般意匠部位21の第二周縁部位21bで構成されており、この第二周縁部位21bは、弾性材40の潰れ変形にてテーパ状に湾曲している。すなわち第二周縁部位21bは、
図5を参照して、メイン表皮ピースSP1の表面から第一の湾曲形状CV1で直接立ち上がっている(メイン表皮ピースに対する第二周縁部位の立ち上がり角度θ1)。なお第一の湾曲形状CV1(及び後述の第二の湾曲形状CV2)は、意匠部10を断面で見た場合にその断面のR形状をなす部分である。
【0020】
また意匠部10の外周縁(左外周縁10b,右外周縁10c)には、
図2及び
図4を参照して、第二周縁部位21bのみで構成されている箇所と、第一周縁部位21a及び補完意匠部位22で構成されている箇所とが設けられている。例えば意匠部10の左外周縁10bは、元デザイン14(正面意匠14a)の左外縁部分をなして正面視で弓なりに湾曲している部分である。この意匠部10の左外周縁10bは、第二周縁部位21bのみで構成されており、メイン表皮ピースSP1の表面から第一の湾曲形状(符号省略)で直接立ち上がっている。
【0021】
また意匠部10の右外周縁10cは、元デザイン14の右外縁部分(右側面意匠14b等)をなして上下に延びている部分であり、第一周縁部位21aと補完意匠部位22とで構成されている。そして意匠部10の右外周縁10cでは、
図5を参照して、第一周縁部位21aが、補完意匠部位22の上に重なった状態(ラップした状態)とされている。これにより第一周縁部位21aは、第二周縁部位21bよりもメイン表皮ピースSP1から離れた位置から立ち上がっている。本実施例では、メイン表皮ピースSP1の表面位置H0よりも前方に一段高い位置H1に第一周縁部位21aの立ち上がり起点21xが配置されている。なお第二周縁部位22の立ち上がり起点(符号省略)の位置はメイン表皮ピースSP1の表面位置H0と概ね同一である。このように第一周縁部位21aの立ち上がり起点21xを相対的に高くしておくことで、弾性材40の潰れ度合いが相対的に小さくなる。さらに補完意匠部位22は、第一周縁部位21aの立ち上がり起点21xに一連となるように連なって右側に張出している。このため意匠部10の右外周縁10cは、第一周縁部位21aと補完意匠部位22とが一連となった第二の湾曲形状CV2をなしてメイン表皮ピースSP1から立ち上がっている。この第二の湾曲形状CV2では、弾性材40の潰れが小さく且つ相対的に左右の寸法が大きくなっており、第二周縁部位21bで構成された第一の湾曲形状CV1よりも曲率が小さくされて緩やかとなっている。
【0022】
ここで第一周縁部位21aの立ち上がり起点21xは、補完意匠部位22上の適宜の位置に設定できるが、補完意匠部位22の頂点22x付近(又は頂点22xの右側)に設定することが望ましい。そして第一周縁部位21aを補完意匠部位22の頂点22x付近から立ち上がらせることにより、第一周縁部位21aと補完意匠部位22とがより自然な形で連なった外観を呈する。こうして第一周縁部位21aと補完意匠部位22との境界部分をぼかして自然な断面となるように形成することで、見栄えの良い第二の湾曲形状CV2で右側面意匠14bを表現することが可能となる。
【0023】
[意匠部の形成手法]
本実施例の意匠部10は、
図6〜
図9を参照して、補完意匠部位22と一般意匠部位21をこの順で形成し、さらに一般意匠部位21を弾性材40で盛り上げることで形成できる。例えば本実施例では、
図6及び
図7を参照して、補完意匠部位22を、正面視で矩形をなすようにメイン表皮ピースSP1の適宜の位置にミシンによるサテン縫いで形成したのち、その上から弾性材40の原反(詳細後述)を配置しておく。このとき補完意匠部位22の補完刺繍糸YM2の右端と左端は、
図7に示すようにメイン表皮ピースSP1に縫い付けられて引き締められた状態となっている。そして補完意匠部位22は、左右方向の中央側が嵩高となって山なりに盛り上がっており、頂点22x付近が最も前方に高くなった状態とされている。
【0024】
つぎに
図8及び
図9を参照して、メイン表皮ピースSP1に一般意匠部位21を形成し、この一般意匠部位21を弾性材40で盛り上げておく。このとき本実施例では、一般意匠部位21を網羅可能な矩形状の弾性材40の原反を用意し、この弾性材40の原反をメイン表皮ピースSP1上に配置しておく。つぎに一般意匠部位21を、弾性材40の原反の上からメイン表皮ピースSP1の適宜の位置にミシンによるサテン縫いで形成し、一般刺繍糸YM1を、弾性材40を跨ぐように刺繍していく。このとき第一周縁部位21aの一般刺繍糸YM1の針落ち点を、補完意匠部位22の上(本実施例では頂点22x付近)に設定しておくことが望ましい。こうすることで第一周縁部位21aを、補完意匠部位22に重なるように形成することができ、さらに一般意匠部位21の立ち上がり起点21xを頂点22x付近に配置することができる。そして一般意匠部位21の一般刺繍糸YM1で弾性材40を覆った状態とし、残余の原反部分(EX)を除去する。こうして形成された一般意匠部位21は、弾性材40の弾性力によって、メイン表皮ピースSP1から盛り上がった状態で配置される。そして一般刺繍糸YM1が弾性材40を跨ぐように刺繍されることで、弾性材40の潰れ方に変化が生じ、一般意匠部位21の周縁21a,21bがテーパ状となって対応する
図5の湾曲形状CV1,CV2となる。
【0025】
[シートバックの形成]
図1を参照して、シートフレーム6F上のシートパッド6Pをシートカバー6Sにて被覆することで、このシートカバー6Sによってシートの意匠面が構成される。この状態においては、
図2及び
図4に示すようにメイン表皮ピースSP1の左下に刺繍製の意匠部10が配置され、この意匠部10によって、シートバック6の意匠性等を向上させている。特に本実施例の意匠部10は、
図4の弾性材40にて立体的に盛り上げられており、さらに意匠部10の周縁(10a〜10c)が見栄えの良い湾曲形状となっている。そして意匠部10は、元となるデザインをできる限り忠実に再現する必要があり、本実施例においては、
図3の斜投影図で描かれた元デザイン14の立体感を再現することが望まれる。すなわち意匠部10においては、意匠部10の周縁の湾曲形状に緩急をつけるなどして、
図3の元デザイン14の正面意匠14a(主意匠)と右側面意匠14bとを極力忠実に再現することが望ましい。
【0026】
そこで本実施例の意匠部10は、
図4及び
図5に示すように、正面意匠14a(主意匠)をなしている一般意匠部位21と、一般意匠部位21の外側に隙間なく配置された状態でメイン表皮ピースSP1上に設けられている補完意匠部位22とで構成されている。そして右側面意匠14bを表現すべき意匠部10の右外周縁10cの湾曲形状は、一般意匠部位21の第一周縁部位21aと補完意匠部位22で形成されている。すなわち意匠部10の右外周縁10cでは、第一周縁部位21aと補完意匠部位22とが一連となった第二の湾曲形状CV2をなしてメイン表皮ピースSP1から立ち上がっている。こうして意匠部10の右外周縁10cの湾曲形状を、第一周縁部位21aと補完意匠部位22で形成して相対的に緩やかに表現することにより、
図3に示す元デザイン14の右側面意匠14bを極力忠実に再現することが可能となる。特に本実施例では、
図5を参照して、第一周縁部位21aの立ち上がり位置H1を相対的に高くして補完意匠部位22に概ね一連でつなげることにより、第二の湾曲形状CV2をより自然な形で緩やかに表現できる。さらに本実施例では、正面意匠14aを構成すべき意匠部10の周縁部分(内周縁10a,左外周縁10b)を第二周縁部位21bで構成している。この第二周縁部位21bは、
図5に示すように大きな曲率の第一の湾曲形状CV1を有している。このため意匠部10では、正面意匠14a(主意匠)となるべき部分がよりシャープな印象を有して立体的に盛り上がった状態となり、正面意匠14aの立体感をメリハリ良く表現することができる。
【0027】
以上説明した通り本実施例では、意匠部10の周縁一部(10c)の湾曲形状を、一般意匠部位21の第一周縁部位21aと補完意匠部位22で形成して、意匠部10の他の周縁部分(10a,10b)に比して緩やかに表現することにより、元となるデザイン(14)を極力忠実に再現することが可能となる。さらに本実施例では、補完意匠部位22によって、メイン表皮ピースSP1に対する一般意匠部位21の周縁の立ち上がり位置に高低差を設けることにより、意匠部10の周縁一部(10c)の湾曲形状をより自然な形で緩やかに表現することができる。このため本実施例によれば、刺繍製の意匠部10を、元となるデザイン(14)を極力忠実に再現しつつ、シートカバー6Sに対して立体的に形成しておくことができる。
【0028】
[変形例1]
ここで意匠部の構成は、上述の構成のほか、各種の構成を取り得る。例えば
図10に示す変形例1の意匠部10Aでは、一般意匠部位21が実施例と同様にサテン縫いで形成されているが、補完意匠部位22Aがタタミ縫いで形成されている点が実施例と異なっている。すなわち本変形例の意匠部10Aでは、第一周縁部位21aの右側にタタミ縫いの補完意匠部位22Aが配置され、この補完意匠部位22Aは、補完刺繍糸YM2の複数の縫目が左右方向に並列することで相対的に左右の寸法が大きくなっている。このため本変形例では、元デザイン14の右側面意匠14bが大きく表現されている場合に、この右側面意匠14bを、補完意匠部位22Aにて極力忠実に再現することができる。
【0029】
[変形例2]
また
図11に示す変形例2の意匠部10Bでは、補完意匠部位22が、一般意匠部位21の代わりに弾性材40によって盛り上がった状態とされている点が実施例と異なっている。そして本変形例では、補完意匠部位22を盛り上げることにより、元デザイン14の右側面意匠14bの立体感を相対的に強調することが可能となる。なお本変形例では、一般意匠部位21と補完意匠部位22の双方を弾性材(図示省略)で盛り上げることができ、このとき補完意匠部位22を、一般意匠部位の弾性材よりも肉厚な弾性材40で盛り上げておくことが好ましい。
【0030】
[変形例3]
また
図12に示す変形例3の意匠部10Cでは、意匠部10の右外周縁10cが、第一周縁部位21aと補完意匠部位22とが隙間なく隣接して配置されている点が実施例と異なっている。本変形例では、補完意匠部位22と一般意匠部位21とをこの順で形成することができ、逆の順序で形成することもできる。例えば逆の順序で形成した場合には、補完意匠部位22を、予め形成された一般意匠部位21の適宜の位置に追加することが可能となり、補完意匠部位22の形状や配置位置の自由度を高めることが可能となる。
【0031】
[変形例4]
また
図13に示す変形例4の意匠部10Dでは、一般意匠部位21をなす一般刺繍糸YM1と弾性材40との間に接着層55が設けられている。本変形例では、接着層55によって、一般意匠部位21の一般刺繍糸YM1が弾性材40から浮き上がることを極力回避することができる。このため本変形例では、一般刺繍糸YM1を弾性材40に沿って配置して、一般意匠部位21を適切な状態で盛り上げておくことにより、意匠部10Dの見栄え向上に資する構成となる。なお接着層55は、ホットメルトタイプの接着材のシートを弾性材40とともに一般刺繍糸YM1で覆ったのち、この一般刺繍糸YM1(一般意匠部位21)の上から熱を加えることで形成できる。また接着層は、テープ状の接着材で形成でき、液状の接着剤を固化させることでも形成できる。
【0032】
[変形例5(盛り上がり部位)]
また
図14に示す変形例5の意匠部10Eでは、メイン表皮ピースSP1に、一般意匠部位21の内側で盛り上がっている刺繍製の盛り上がり部位50が設けられている。この盛り上がり部位50は、サテン縫い又はタタミ縫いでメイン表皮ピースSP1上に形成することができ、一般意匠部位21の第二周縁部位21bに沿うように配置されている。そして第二周縁部位21bの少なくとも一部は、盛り上がり部位50に接した状態で形成されることにより、盛り上がり部位50が形成されていない状態(
図5に示すθ1を参照)に比してメイン表皮ピースSP1に対する立ち上がり角度θ2(θ2>θ1)が大きくなっている。こうして本変形例では、第二周縁部位21bの少なくとも一部の立ち上がり角度θ2を盛り上がり部位50によって大きくすることができる。そして第二周縁部位21bを急角度で立ち上がらせて意匠部10Eの縁を際立たせることにより、元デザイン14をより忠実に(例えばよりシャープな印象を持たせて)再現することが可能となる。
【0033】
さらに変形例5では、意匠部10Eの周縁に、第一周縁部位21aと、盛り上がり部位50に接している第二周縁部位21bと、盛り上がり部位50に接していない第二周縁部位21bとを設けることができる。そして盛り上がり部位50に接している第二周縁部位21bの立ち上がり角度θ2は、
図5に示す盛り上がり部位50に接していない第二周縁部位21bの立ち上がり角度θ1よりも大きくなってよりシャープな印象を持つこととなる。こうして意匠部10Eでは、第二周縁部位21bの立ち上がり角度を部分的に異ならせることで、元デザイン14を更に忠実に(緻密に)再現することが可能となる。
【0034】
[変形例6(ステッチ部)]
また
図15に示す変形例6の意匠部10Fには、弾性材40とメイン表皮ピースSP1とを縫合しているステッチ部60が設けられている。すなわち本変形例では、ステッチ部60が、一般意匠部位21の上からメイン表皮ピースSP1上に縫い付けられており、このステッチ部60の引き締め力によって、弾性材40が、メイン表皮ピースSP1に向けて潰れた状態となっている。こうして本変形例では、ステッチ部60によって弾性材40の過度の盛り上がりを抑えることにより、メイン表皮ピースSP1に対して意匠部10Fをより適切な立体形状で形成することができる。なお本変形例では、ステッチ部60にて、弾性材40だけをメイン表皮ピースSP1に縫合して縫い付けておく構成とすることもできる。
【0035】
本実施形態のシートバック(皮革製品)は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。本実施形態では、意匠部10の構成(形状,寸法,配置位置,形成数など)を例示したが、意匠部の構成を限定する趣旨ではない。意匠部は、シートバック(シートカバー)の適宜の位置に複数又は単数形成することが可能であり、必ずしも着座面側に設ける必要はない。また意匠部の形状も適宜選択可能であり、意匠性向上のために各種の形状を取ることができ、またロゴとして用いる場合には複数又は単数の文字をなすように構成することもできる。そして各意匠部位は、サテン縫いとタタミ縫いの少なくとも一つで構成することができ、サテン縫いとタタミ縫いの双方で構成することもできる。例えば各意匠部位として、タタミ縫いの模様を施した上にサテン縫いの模様や文字などを形成することができる。なお意匠部を形成するに際しては、意匠部の外形を大まかに示す下縫いを基材に施すこともできる。また意匠部は、ミシンを用いた機械刺繍で形成する場合のほか、意匠部の少なくとも一部を手縫いで形成することもできる。そして実施例の構成と各変形例の構成は適宜組み合わせて用いることが可能である。
【0036】
また本実施形態では、元デザイン14に応じた一般意匠部位21と補完意匠部位22の構成(形状,寸法,配置関係など)を例示したが、各意匠部位の構成を限定する趣旨ではない。例えば元デザインとして、中心投影図や平行投影図などによって立体的に描かれた文字や図を採用でき、補完意匠部位によって側面意匠や主意匠の影などを再現することができる。また一般意匠部位と補完意匠部位は、各々、元デザインに応じて複数又は単数設けることができ、例えば本実施例では、一般意匠部位の外縁周囲(前後左右)の適宜の位置に補完意匠部位を設けることができ、必要に応じて一般意匠部位の内縁に補完意匠部位を設けることもできる。また一般意匠部位の周縁には、補完意匠部位の形成位置に応じて第一周縁部位と第二周縁部位とが複数又は単数形成されることとなる。
【0037】
また本実施形態では、乗物用シート2を一例に本実施例の構成を説明したが、本実施例の構成は、皮革を備えた各種の部材に適用することができる。すなわち皮革製品として、乗物内装品や、家庭用の内装品や、バッグやカバンなどの被服雑貨を例示できる。なお乗物内装品として、乗物用シートのほか、ドア部やインストルメントパネルや天井部やコンソールなどの各種部材を例示でき、本実施例の構成は、車両や航空機や電車や船舶などの乗物に搭載される乗物内装品に適用できる。また乗物用シートにおいては、シートバックのほか、シートクッションやヘッドレストやアームレスト等の各種シート構成部材のシートカバーに本実施形態の構成を適用できる。そして意匠部の構成は、皮革製品の種類に応じて適宜変更可能である。
【解決手段】意匠部10の周縁は、弾性材40が弾性的に潰れることで湾曲形状をなして基材側から立ち上がっており、意匠部10は、主意匠をなしている一般意匠部位21と、一般意匠部位21の外側に隙間なく配置された状態で基材上に設けられている補完意匠部位22とで構成され、意匠部10の周縁一部(10c)の湾曲形状は、一般意匠部位21の周縁(21a)と補完意匠部位22で形成されている。