特許第6457075号(P6457075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6457075ポリエステルまたはラクチドを製造するプロセスにおける環状エステルを含む凝縮相組成物を安定化するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6457075
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】ポリエステルまたはラクチドを製造するプロセスにおける環状エステルを含む凝縮相組成物を安定化するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/00 20060101AFI20190110BHJP
   C08G 63/08 20060101ALI20190110BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
   C08G63/00
   C08G63/08
   C08L101/16ZBP
【請求項の数】12
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-514860(P2017-514860)
(86)(22)【出願日】2015年8月19日
(65)【公表番号】特表2017-527677(P2017-527677A)
(43)【公表日】2017年9月21日
(86)【国際出願番号】EP2015069039
(87)【国際公開番号】WO2016041722
(87)【国際公開日】20160324
【審査請求日】2018年3月7日
(31)【優先権主張番号】14185228.5
(32)【優先日】2014年9月17日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】15166929.8
(32)【優先日】2015年5月8日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】15173141.1
(32)【優先日】2015年6月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505150095
【氏名又は名称】スルザー ケムテック アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コスタ、リボリオ イヴァノ
(72)【発明者】
【氏名】ブラック、ハンス − ペーター
(72)【発明者】
【氏名】タンシーニ、フランセスカ
(72)【発明者】
【氏名】ユー、インチュアン
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05770682(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00
C08G 63/08
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝縮相組成物を安定化するための方法であって、前記凝縮相組成物が、i)少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)前記環状エステルの重合を触媒することができる少なくとも1種の触媒および/または前記環状エステルの重合を開始させることができる少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは前記少なくとも1種の触媒および/もしくは前記少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含有し、
i)前記方法が、環状エステルモノマーからポリエステルを製造するプロセスにおいて使用され、かつ
a)環状エステルを提供するステップ、
b)ポリエステルおよび未反応環状エステルを含む反応混合物を形成するように、反応器内で前記触媒および任意選択的に前記開始剤の存在下で前記環状エステルを重合するステップ、
c)前記反応混合物を脱揮に供し、溶融残渣としての精製されたポリエステル、および、主に、i)前記少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)前記少なくとも1種の触媒および/もしくは前記少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは前記少なくとも1種の触媒および/もしくは前記少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含む蒸気を得るステップ、
d)前記凝縮相組成物を得るように、蒸気流を凝縮に供するステップ
を含み、
少なくとも1種の重合阻害剤が、前記凝縮相組成物における前記重合可能な環状エステルの転化率が15%以下であるような量で安定化剤として前記反応混合物および/または前記凝縮相組成物に加えられ、前記転化率が、100・(c−c)/cであり、cが、前記蒸気流の前記凝縮によって得られる前記凝縮相組成物における前記環状エステルの初期濃度であり、cが、触媒として150ppmのオクタン酸スズ、および開始剤として100mmol/kgのエチル−ヘキサノールを前記凝縮相組成物に加え、続いて前記凝縮相を160℃で12時間不活性雰囲気条件下で熱処理した後の、前記凝縮相組成物における前記環状エステルの濃度であり、
)前記重合阻害剤の少なくとも一部が、前記脱揮から出た前記蒸気流および/または凝縮相組成物に加えられ、かつ/あるいは
)前記重合阻害剤の少なくとも一部が、ステップc)の前に前記反応混合物に加えられ、前記脱揮が、203℃超の温度および4mbar未満の圧力で、または代替として、220℃超の温度および5mbar未満の圧力で行われ、
あるいは、
ii)前記方法が、乳酸からラクチドを製造するプロセスにおいて使用され、かつ
a)乳酸を提供するステップ、
b)ポリ乳酸プレポリマーを含む反応混合物を形成するように、反応器内で前記乳酸を重縮合するステップ、
c)前記反応混合物に触媒を加え、前記反応混合物を解重合するステップ、
d)粗ラクチド流を得るように、前記反応混合物を脱揮するステップ、
e)前記凝縮相組成物を得るように、前記蒸気流を凝縮に供するステップ
を含み、
少なくとも1種の重合阻害剤が、前記凝縮相組成物における前記重合可能な環状エステルの転化率が15%以下であるような量で安定化剤として前記反応混合物および/または前記凝縮相組成物に加えられ、前記転化率が、100・(c−c)/cであり、cが、前記蒸気流の前記凝縮によって得られる前記凝縮相組成物における前記環状エステルの初期濃度であり、cが、触媒として150ppmのオクタン酸スズ、および開始剤として100mmol/kgのエチル−ヘキサノールを前記凝縮相組成物に加え、続いて前記凝縮相を160℃で12時間不活性雰囲気条件下で熱処理した後の、前記凝縮相組成物における前記環状エステルの濃度であり、
前記重合阻害剤の少なくとも一部が、前記脱揮から出た前記蒸気流および/または前記凝縮相組成物に加えられる、方法。
【請求項2】
前記凝縮相組成物における前記重合可能な環状エステルの転化率が、10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下、さらにより好ましくは1%以下、なおより好ましくは0.1%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
選択肢i)における前記少なくとも1種の環状エステルが、ラクチド、L−ラクチド、D−ラクチド、メソ−ラクチド、ε−カプロラクトン、グリコリド、または前述の物質の1種以上の混合物からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応混合物および前記凝縮相組成物が、各々、触媒として、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、インジウム、イットリウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、および前述の金属の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される金属を含む少なくとも1種の有機金属化合物を含有し、前記少なくとも1種の有機金属化合物が、好ましくは、アルキル基、アリール基、ハロゲン化物、酸化物、アルカノアート、アルコキシド、および前述の基の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される残基を有機残基として含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記反応混合物および前記凝縮相組成物が、各々、開始剤として、少なくとも1つのカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を含む少なくとも1種の化合物、ならびに好ましくは、水、アルコール、乳酸、前記環状エステルのオリゴマー、前記環状エステルのポリマー、および前述の物質の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種の重合阻害剤が、好ましくはサリチルアルデヒド誘導体および/またはリン酸エステル等のリン酸誘導体による脂肪族または芳香族モノアミンまたはジアミンの凝縮によって得られるイミンまたはジイミン、好ましくは、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミン、アルカン酸ホスフェート、またはアルコキシル化アルコール系酸ホスフェート化合物、より好ましくは、ステアリン酸ホスフェート化合物、最も好ましくは、モノ−C4−18アルキルホスフェートエステル、ジ−C4−18アルキルホスフェートエステル、またはモノステアリン酸ホスフェートとジステアリン酸ホスフェートとの混合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記重合阻害剤を含む前記凝縮相組成物を、精製ステップ、好ましくは、蒸留ステップまたは溶媒結晶化ステップ、より好ましくは溶融結晶化ステップに供し、精製された凝縮相組成物を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記精製された環状エステルが、選択肢i)において前記反応器にリサイクルされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記凝縮相組成物が、前記重合阻害剤を均質に分布させるように混合される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法を用いて得られる、凝縮相組成物であって、
i)少なくとも95重量%の環状エステル、
ii)前記環状エステルの重合を触媒することができる少なくとも0.5ppmの少なくとも1種の触媒、および/または
前記環状エステルの重合を開始することができる少なくとも0.01mmol/kgの少なくとも1種の開始剤、ならびに
iii)0.001〜0.5重量%の重合阻害剤を含む、凝縮相組成物
【請求項11】
重合の開始前に、触媒および/または重合開始剤が、凝縮相組成物の総量に基づいて、重合触媒の総量が1ppm〜1重量%になり、かつ/または重合開始剤の総量が0.1〜50mmol/kgになるように、前記凝縮相組成物に加えられる、ポリエステルの生成のための請求項10に記載の凝縮相組成物の使用。
【請求項12】
ポリエステルの製造のための請求項10に記載の凝縮相組成物の使用であって、前記凝縮相組成物が、最終組成物の総量に基づいて、前記重合開始剤の総量が0.1〜50mmol/重量kgになるように、重合触媒およびまたは重合開始剤を任意選択的に加えて、環状エステルおよび/またはポリエステルを含む溶融物と混合され、そのようにして得られた前記混合物が、次いでさら重合される、上記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルを環状エステルモノマーから製造するためのプロセスにおいて、またはラクチドを乳酸から製造するプロセスにおいて、i)少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)環状エステルの重合を触媒することができる少なくとも1種の触媒および任意選択的に環状エステルの重合を開始することができる少なくとも1種の開始剤と、を含有する凝縮相組成物を安定化するための方法に関する。さらに、本発明は、そのような方法を用いて得ることができる凝縮相組成物、およびそのような凝縮相組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクチド、グリコリド、ラクトン等の環状エステルは、一般に、微量の水の存在下で生じる加水分解の影響を非常に受けやすい。加水分解反応によって形成されるヒドロキシルおよび/もしくはカルボキシル基、または系中に不純物として存在し得る任意の他のヒドロキシルおよび/もしくはカルボキシル基含有物質は、特にさらに微量の触媒の存在下で、重合開始剤として作用することがある。反応機序のタイプに依り、実際に、アルコールおよび酸の両方が開環反応において開始剤として作用することができ、これは、“Handbook of Ring−Opening Polymerization”,Dubois,Coulembier,Raquez,Wiley−VCH,2009 Weinheimで報告されている通りである。さらに、開始剤、および例えば有機金属化合物等の触媒が、両方とも系中に存在する場合、環状エステル重合の速度は、なおさらに増強され得る。例は、Journal of Polymer Science−A,1994,32,2965−2970においてZhangらによって、またMacromolecules,2000,33,7359−7370においてKowalskiらによって報告されている。
【0003】
微量の前述の開始剤および/または触媒の存在下における、ラクチド、グリコリド、ラクトン等の環状エステルの重合は、たとえ一部のみであったとしても、組成物の粘性増加またはさらには組成物の凝固を引き起こす。
【0004】
環状エステルが出発材料として使用される1つの例は、ヒドロキシアルカン酸の環状ジエステルをそれぞれのポリヒドロキシアルカン酸に重合するためのプロセスである。そのような環状エステルおよびそれらの重合から得られるポリマーの具体的な例は、重合後にポリ乳酸をもたらす乳酸の環状ジエステルであるラクチド、重合後にポリグリコリドをもたらすグリコール酸の環状ジエステルであるグリコリド、重合後にポリカプロラクトンをもたらす6−ヒドロキシヘキサン酸の環状モノエステルであるε−カプロラクトンが挙げられる。これらのポリマーは、再生可能資源から作製され、生分解性であるため、特に興味深い。さらに、これらのポリマーの技術的特性は、化石資源に由来するポリマーの技術的特性に非常に近く、それが、これらのポリマーが後者の非常に有望な代替品であると考えられる理由である。
【0005】
例えば、ポリ乳酸は、生物医学分野において、すなわち、例えば、外科用インプラント、フィルム(例えば、包装等)、繊維(例えば、衣服用等)、衛生用品、カーペット、および使い捨てプラスチック製品(例えば、使い捨ての食器または容器等)において幅広い用途を有する。さらに、ポリ乳酸は、繊維強化プラスチック等の複合材料において広い用途が見出されている。
【0006】
一般的に、ポリ乳酸を合成するための2つの代替方法が知られている。第1の方法は、乳酸のポリ乳酸への直接重縮合であり、低分子量ポリマーのみがもたらされる。第2の方法は、ラクチドの開環重合であり、今日のポリ乳酸の工業生産に好ましい方法である。最後に述べた方法の出発材料、すなわちラクチドは、デンプン、糖、またはトウモロコシ等のバイオマスから炭水化物を発酵させて乳酸を生じさせ、次いで、乳酸をオリゴマー化し、その後、ラクチドを得るためにオリゴマーを解重合反応に供することによって一般的に生成される。精製後、次いで、触媒および任意選択的に開始剤の存在下でラクチドを重合し、高分子量ポリ乳酸を形成する。販売可能な品質の生成物を得るために、重合後、未反応ラクチドは、少なくとも0.5重量%未満の最終濃度まで除去されなければならない。そのような未反応ラクチドの除去は、高温および減圧下で行われる、少なくとも1つの脱揮ステップによって達成され得る。例えば、要求される程度のラクチド除去を達成するために、またひいては要求される品質を有するポリマーを得るために、2段階脱揮プロセスが行われてもよい。重合反応を停止するために、通常、重合の終了時、および第1の脱揮ステップの前または後に、ポリマー生成物に阻害剤が加えられる。ラクチドフィード量当たりのポリマー生成物の収率を最大化するために、通常、例えば、凝縮によって、脱揮後に未反応ラクチドが回収され、次いで、任意選択的に凝縮された生成物が精製され、その後、凝縮された生成物が重合反応にリサイクルされる。
【0007】
米国特許第5,770,682号は、ポリ乳酸を調製するための方法を開示しており、本方法は、i)ラクチドのポリ乳酸への開環重合のために触媒の存在下でラクチドの開環重合を行うスップと、ii)得られた反応混合物に触媒を失活させることが可能な化合物を加えるステップと、iii)未変化のラクチドを脱揮によりポリ乳酸から除去するために、反応混合物を含む反応器内の圧力を低下させるおよび/または反応器に不活性ガスを通過させるステップとを含み、触媒を失活させることが可能な化合物は、好ましくは、リン酸、亜リン酸、その誘導体、およびアルミニウム化合物からなる群から選択される。連続する2つの脱揮ステップが行われ、ラクチドを豊富に含む蒸気流が重合反応器にリサイクルされる。しかしながら、この方法において、未精製ラクチドは重合反応器へと戻り、その結果、ラクチドと共に脱揮され得る副生物等の不純物ならびに重合触媒および重合開始剤も反応器へと戻ってリサイクルされ、制御不能な様式で反応混合物に混入する。
【0008】
WO2012/110117A1は、ポリ乳酸を調製するための同様の方法を説明しているが、これは、結晶化によってリサイクルされたラクチド流の精製を利用する。より具体的には、WO2012/110117A1に記載の方法は、i)少なくとも10,000g/molの重量平均分子量を有する未処理のポリ乳酸を得るために、触媒と、触媒キラー化合物または末端キャップ添加剤のいずれかとを使用してラクチドの開環重合を行うステップ、ii)ラクチドと不純物とを含む低沸点化合物を脱揮することによって、未処理ポリ乳酸からこの低沸点化合物を気相流として除去し分離することで、未処理ポリ乳酸を精製するステップ、iii)結晶化によって、脱揮から生じるラクチドを精製し、蒸発した低沸点化合物の気相流から不純物を除去するステップを含み、ここで、ラクチドは精製され、除去された不純物は触媒残渣と少なくとも1つのヒドロキシル基を含有する化合物とを含み、精製されたラクチドは次いでそれを開環重合反応器に戻して供給することによって重合されることになる。
【0009】
重合反応器および脱揮装置がこれらの方法において連続式で動作する一方で、ラクチド流を精製するための結晶化ユニットは、通常、回分式で動作する。これは、ラクチドを例えば凝縮によって脱揮後に収集し、続いて、十分な所望の量のラクチドを収集された後に回分動作式結晶化ユニットに供給する前に、一定期間、つまり通常は数日間、その液体状態で(すなわち、高められた温度で)タンク内に貯蔵する必要があることを意味する。しかしながら、比較的高い温度での長期にわたる貯蔵期間に起因して、ある特定の問題が生じ得る。第1に、熱いラクチドは、部分的にオリゴマー化または重合し得、その結果、ラクチドを含む凝縮相組成物の粘度が増加し、重合反応器にリサイクルされるべきラクチドが消費される。凝縮相組成物のある程度のオリゴマー化および/または重合が生じる場合、粘性組成物は、もはや結晶化ユニット中で処理することができないか、または少なくとも容易には処理することができない。第2に、熱いラクチドは、完全にオリゴマー化または重合し得、その結果、プラント動作中に形成された固体ポリマーを除去することがもはや可能ではないために、生産工程を停止させ、以前は液体であったラクチドが中に貯蔵されていた凝縮器タンクまたは他の容器を、面倒なことに空にするか、またはさらには新たな機器で置き換えなければならない。前述の問題が生じる可能性を少なくとも低下させるために、凝縮器に、貯蔵の間に中に形成する可能性があるオリゴマーおよび/またはポリマーを溶融することができる内部ヒータを搭載してもよい。これにより、望ましくないオリゴマー化および/または重合がある場合に、凝縮器から不要な高粘性物質を溶融させ除去することが可能となる。しかしながら、この解決策は、費用がかかり、かつラクチド流の不要なオリゴマー化および/または重合のリスクを回避はしない。
【0010】
別の例は、乳酸のオリゴマーおよび/またはポリマーの解重合によってラクチド自体を生成するためのプロセスである。このようなプロセスは、典型的には、i)低下した水分圧下の反応器中で重縮合することで乳酸を重合して、ポリ乳酸プレポリマーを含む反応混合物を形成するステップ、ii)反応混合物に触媒を加え、反応混合物をラクチドに解重合するステップ、その後、iii)反応混合物を脱揮して粗蒸気ラクチド流を得た後、凝縮相ラクチド組成物を得るために、この蒸気流を凝縮に供するステップを含む。そのようにして得られた流は、触媒および開始剤等の少量の物質を依然として含有し得、これらがラクチドの不要なオリゴマー化または重合を引き起こし得、その結果、対応する凝縮相ラクチド組成物がさらなる処理を即時に受けない場合、前述の問題、つまり、粘度の増加またはさらには組成物の凝固をもたらすラクチドのオリゴマー化またはさらには重合が生じ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の根底にある目的は、ポリエステルを環状エステルモノマーから製造するプロセスにおいて、またはラクチドを乳酸から製造するプロセスにおいて、重合可能な環状エステルならびにこの環状エステルのオリゴマー化もしくは重合を開始および/もしくは触媒する物質を含有する凝縮相組成物を確実に安定化し、その結果、環状エステルの不要な反応、特にオリゴマー化または重合、ひいては環状エステルの不要な消費、および凝縮相組成物の不要な粘度増加またはさらには凝固を確実に回避するが、それでも、安定した凝縮相組成物をその意図する用途において使用することを可能にするための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、この目的は、
凝縮相組成物を安定化するための方法であって、凝縮相組成物が、i)少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)環状エステルの重合を触媒することができる少なくとも1種の触媒および/または環状エステルの重合を開始することができる少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含有し、
i)本方法は、環状エステルモノマーからポリエステルを製造するプロセスにおいて使用され、かつ
a)環状エステルを提供するステップ、
b)ポリエステルおよび未反応環状エステルを含む反応混合物を形成するように、反応器内で触媒および任意選択的に開始剤の存在下で環状エステルを重合するステップ、
c)反応混合物を脱揮に供し、溶融残渣としての精製されたポリエステル、および、主に、i)少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含む蒸気を得るステップ、
d)凝縮相組成物を得るように、蒸気流を凝縮に供するステップ
を含み、
少なくとも1種の重合阻害剤は、凝縮相組成物における重合可能な環状エステルの転化率が15%以下であるような量で安定化剤として反応混合物および/または凝縮相組成物に加えられ、転化率は、100・(c−c)/cであり、cは、蒸気流の凝縮によって得られる凝縮相組成物における環状エステルの初期濃度であり、cは、触媒として150ppmのオクタン酸スズ、および開始剤として100mmol/kgのエチル−ヘキサノールを凝縮相組成物に加え、続いて凝縮相を160℃で12時間不活性雰囲気条件下で熱処理した後の、凝縮相組成物における環状エステルの濃度であり、
)重合阻害剤の少なくとも一部は、脱揮から出た蒸気流におよび/または凝縮相組成物に加えられ、かつ/あるいは
)重合阻害剤の少なくとも一部は、ステップc)の前に反応混合物に加えられ、脱揮が、203℃超の温度および4mbar未満の圧力で、または代替として、220℃超の温度および/または5mbar未満の圧力で行われ、
あるいは、
ii)本方法は、乳酸からラクチドを製造するプロセスにおいて使用され、かつ
a)乳酸を提供するステップ、
b)ポリ乳酸プレポリマーを含む反応混合物を形成するように、反応器内で乳酸を重縮合するステップ、
c)反応混合物に触媒を加え、反応混合物を解重合するステップ、
d)粗ラクチド流を得るように、反応混合物を脱揮するステップ、
e)凝縮相組成物を得るように、蒸気流を凝縮に供するステップ
を含み、
少なくとも1種の重合阻害剤は、凝縮相組成物における重合可能な環状エステルの転化率が15%以下であるような量で安定化剤として反応混合物および/または凝縮相組成物に加えられ、転化率は、100・(c−c)/cであり、cは、蒸気流の凝縮によって得られる凝縮相組成物における環状エステルの初期濃度であり、cは、触媒として150ppmのオクタン酸スズ、および開始剤として100mmol/kgのエチル−ヘキサノールを凝縮相組成物に加え、続いて凝縮相を160℃で12時間不活性雰囲気条件下で熱処理した後の、凝縮相組成物における環状エステルの濃度であり、
重合阻害剤の少なくとも一部は、脱揮から出た蒸気流におよび/または凝縮相組成物に加えられる方法を提供することによって、満たされる。
【0013】
本発明の中核は、環状エステルのオリゴマー化または重合を開始および/または触媒することができる化合物がどれくらい凝縮相に含まれるかに関係なく、凝縮相組成物がインキュベートされる圧力および温度条件に関係なく、また凝縮相組成物がこれらの条件でインキュベートされる時間に関係なく、凝縮相組成物に含まれる環状エステルのオリゴマー化または重合が完全かつ確実に回避されるように、好ましくは高度に効果的な阻害剤を多く加えることである。この解決手段は、化合物、つまり重合阻害剤が環状エステル組成物に不純物として加えられ、この環状エステル組成物はそのような不純物から精製されるものであり、また少なくとも一部の用途に対しては、言うまでもなく重合阻害剤が非常に不利に働く環状エステル組成物の重合のために重合反応器に戻ることになるため、いささか非論理的である。しかしながら、本発明による方法は、主に重合可能な環状エステルと、環状エステルを重合するための触媒および/または開始剤ならびに/あるいは少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含む、脱揮ステップから誘導される凝縮相組成物を確実に安定化し、ひいては、組成物を工業プラントにおいて運搬することを難しくするかまたは不可能にするだけである環状エステル組成物の不要な粘度増加またはさらには不要な凝固につながる、環状エステル組成物のオリゴマー化または重合のリスクを確実に回避し、さらには環状エステルの不要な消費を確実に回避するが、例えば、長期にわたる昇温でのインキュベーションを一定期間行った後の安定した凝縮相組成物の重合等、安定した凝縮相組成物の後の意図される用途を阻むことはない。したがって、一方では、環状エステルの不要な消費が回避され、もう一方では、環状エステルを含む凝縮相組成物の粘度が低い程度に維持され、その結果、凝縮相組成物が自由に流動することができ、ひいては一方のプラントデバイスから他方へと生産プラントにおいて容易に運搬され得るようになる。重合阻害剤は、脱揮が203℃超の温度および4mbar未満の圧力、または代替的に220℃超温度および/もしくは5mbar未満の圧力で行われる場合、脱揮ステップ後に凝縮相組成物に加えられるか、または脱揮ステップ前に脱揮中の損失を補うより多い量で加えられるかのいずれであってもよい。環状エステル組成物の安定した凝縮相は、その後、そのさらなる使用、例えば重合反応における使用の直前に、加えられた重合阻害剤を含む全ての不純物を除去するために、例えば結晶化によって精製されるか、または未精製形態で使用されてもよい。後者であれば、重合反応に使用する場合、組成物中に存在する重合阻害剤の量を補うだけの過剰量の重合反応の触媒および/または開始剤が加えられ得る。代替として、やはり後者であれば、これは、主にまたは部分的に新しくまだ未反応であり阻害剤を含まない環状エステルから構成された液相組成物と混合され得る。
【0014】
本発明によれば、凝縮相組成物は、気相の凝縮の後に得られる液体組成物である。
【0015】
さらに、環状エステルの重合生成物は、本発明によれば、互いに共有結合した、環状エステルの開環重合に形式的に起因する、少なくとも10個の分子で構成される分子であり、一方で環状エステルのオリゴマー化生成物は、本発明によれば、互いに共有結合した、環状エステルの開環に形式的に起因する、少なくとも2個から最大9個の分子で構成される分子である。
【0016】
本発明は、凝縮相組成物の融点に関しては、それが150℃未満である限り、特に限定的ではない。好ましくは、凝縮相組成物の融点は、−50℃〜130℃未満、より好ましくは−30℃〜120℃、さらにより好ましくは−10℃〜110℃である。当然ながら、本質的に環状エステルと少量の重合開始剤および/または触媒とからなる凝縮相組成物の融点は、本質的には、環状エステルのものと対応する。例えばL−ラクチドは、95℃〜97℃の融点を有し、一方でε−カプロラクトンは−1.5℃の融点を有し、グリコリドは82℃〜83℃の融点を有する。
【0017】
好ましくは、凝縮相組成物における重合可能な環状エステルの転化率は、10%以下であり、ここで、転化率は、上で示したように、100・(c−c)/cであり、cは、蒸気流の凝縮によって得られる凝縮相組成物における環状エステルの初期濃度であり、cは、触媒として150ppmのオクタン酸スズ、および開始剤として100mmol/kgのエチル−ヘキサノールを凝縮相組成物に加え、続いて凝縮相組成物を160℃で12時間不活性雰囲気条件下で熱処理した後の、凝縮相組成物における環状エステルの濃度である。より好ましくは、凝縮相組成物における重合可能な環状エステルの転化率は、5%以下、より好ましくは2%以下、なおより好ましくは1%以下、なおより好ましくは0.1%以下である。
【0018】
さらに、好ましくは、110℃での凝縮相組成物の粘度は、0.1〜500mPas、より好ましくは0.5〜50mPas、なおより好ましくは1〜20mPasであり、粘度は、本発明によれば、高温で液体物質の粘度を測定するのに好適な粘度計またはレオメータを使用して測定される。例として、粘度は、1/s〜10/sの剪断速度での回転条件下で、同軸円筒測定システム(例えば、DIN 54453に準拠、またはISO 3219に準拠)を使用して、レオメータ(例えば、Antoon Paar Physica MCR 301)によって測定することができる。好ましくは、熱い液体を測定する場合、レオメータは、凝縮相を環境から保護し、測定中の物質の蒸発および喪失を防止する加圧セル(例えば、窒素過圧による)を搭載する。換言すると、凝縮相組成物は、110℃で、それぞれ、粘度が液体様である、自由流動可能な液体または溶融物である。
【0019】
また環状エステルの化学的性質に関して、本発明の2つの実施形態i)およびi)は、それらが上で特定した要求される融点を有する限り、特に限定されない。具体的には、任意の環状モノエステル、任意の環状ジエステル、任意の環状トリエステル等が使用されてもよい。特に好適な環状モノエステルは、ε−カプロラクトンであり、環状ジエステルの好ましい例は、ラクチド、L−ラクチド、D−ラクチド、メソ−ラクチド、グリコリド、およびそれらの混合物である。したがって、少なくとも1種の環状エステルは、好ましくは、ラクチド、L−ラクチド、D−ラクチド、メソ−ラクチド、ε−カプロラクトン、グリコリド、または前述の物質の1種以上の混合物からなる群から選択される。
【0020】
上に示したように、i)少なくとも1種の重合可能な環状エステル、ii)少なくとも1種の触媒および任意選択的な少なくとも1種の開始剤、ならびにiii)環状エステルのオリゴマー化および/または重合生成物を含有する、反応混合物の脱揮、ならびに脱揮から導き出される蒸気流の後続の凝縮から得られる凝縮相組成物は、主に、i)少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)少なくとも1種の触媒および/または少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含む流れである。通常、凝縮相組成物は、少なくとも80重量%、より好ましくは90重量%超、さらにより好ましくは95重量%超の重合可能な環状エステルを含む。
【0021】
反応混合物中および凝縮相組成物中に含まれる触媒の化学的性質に関して、本特許出願の特定の制限は存在せず、これは、言うまでもなく、反応混合物の前処理のタイプに依存する。好ましくは、反応混合物および凝縮相組成物は、好ましくは、各々、触媒として、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、インジウム、イットリウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、および前述の金属の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される金属を含む少なくとも1種の有機金属化合物を含有し、少なくとも1種の有機金属化合物は、好ましくは、アルキル基、アリール基、ハロゲン化物、酸化物、アルカノアート、アルコキシド、および前述の基の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される残基を有機残基として含む。
【0022】
前述の金属のうちハロゲン化物、酸化物、アルカノアート、アルコキシドだけでなく、アルキル基またはアリール基を備えるこれらの金属の化合物も、特に好ましい触媒である。さらにより好ましい重合触媒は、この場合、オクタン酸スズ、すなわち2−エチルヘキサン酸スズ(II)である。これらの触媒は、凝縮相組成物の環状エステルがラクチドであるときの選択肢i)およびi)の場合、および選択肢ii)に特に好ましい。
【0023】
通常、反応混合物および任意選択的な凝縮相組成物は、0.0001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.05重量%の量の触媒を含有するが、有機金属化合物の場合、反応混合物中だけでなく凝縮相組成物中の金属の量は、好ましくは0.1〜200ppm、より好ましくは1〜50ppmである。
【0024】
好ましくは、重合触媒に加えて、反応混合物および任意選択的な凝縮相組成物は、それぞれ、重合開始剤または重合共触媒、ならびに触媒および開始剤の可能性のある反応生成物または残渣を含む。通常、反応混合物および凝縮相組成物は、各々、開始剤として、少なくとも1つのカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を含む少なくとも1種の化合物を含有し、これらは環状エステルのオリゴマー化を開始するのに非常に効果的である。好ましくは、反応混合物および任意選択的な凝縮相組成物は、重合開始剤として、水、アルコール、乳酸、環状エステルのオリゴマー、環状エステルのポリマー、および前述の物質の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む。好ましくは、環状エステルのオリゴマーおよび/またはポリマーは、乳酸またはグリコリドのオリゴマーおよび/またはポリマーである。
【0025】
触媒は、関連分野におけるこの用語の通常の定義と一致して、反応によって消費されることなく化学反応の速度を増大させる物質として本発明の範囲内で定義され、重合開始剤または重合共触媒またはプロモーターも、それぞれ、関連分野におけるこの用語の通常の定義と一致して、触媒活性を向上させる物質として定義される。
【0026】
通常、反応混合物は、未処理物質1kg当たり0.1〜100mmol、より好ましくは1〜40mmolに相当する量の開始剤を含有する。
【0027】
i)少なくとも1種の重合可能な環状エステル、ii)少なくとも1種の触媒および任意選択的な少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣、ならびにiii)環状エステルのオリゴマー化生成物および/または重合生成物を含有する反応混合物の脱揮による蒸気流を生成は、任意の既知の脱揮反応器内で、昇温および減圧下で行われてもよい。本発明に従う方法の選択肢i)およびii)では、好ましくは、脱揮は、170℃〜250℃の温度および0.1〜50mbarの圧力で、より好ましくは180℃〜240℃の温度および0.5〜25mbarの圧力で、最も好ましくは190℃〜230℃の温度および1〜10mbarの圧力で行われる。脱揮は真空下で行うことができるが、代替として、窒素、アルゴン、または二酸化炭素等の不活性ガスを、脱揮デバイスを通してパージしてもよい。前述の脱揮条件は、環状エステルとしてラクチドを含む反応混合物を脱揮するのに特に有用であるが、例えば、環状エステルとしてグリコリドまたはε−カプロラクトンを含む反応混合物を脱揮するためにも有用である。本発明に従う方法の選択肢i)では、脱揮は、203℃超の温度および4mbar未満の圧力で、または代替として、220℃超の温度および/または5mbar未満の圧力で行われる。好ましくは、脱揮は、選択肢i)において、205〜220℃の温度および4mbar未満の圧力で、より好ましくは205〜220℃の温度および3mbar未満の圧力で行われる。例えば、脱揮は、選択肢i)において、205℃超の温度および3mbar未満の圧力で、または210℃超の温度および4mbar未満の圧力で行われてもよい。
【0028】
また、凝縮は、任意の凝縮デバイスで行うことができ、脱揮デバイスから出る蒸気流は、凝縮相組成物が凝縮される圧力で、その融点を超える温度とその沸点未満の温度との間に冷却することによって液相に凝縮される。
【0029】
重合阻害剤としては、特に触媒および/または開始剤の存在下で環状エステルのオリゴマー化および/または重合を阻害することができるいかなる種類の物質も、本発明の範囲内で使用され得る。反応混合物および/または凝縮相組成物に加えられる重合阻害剤の量は重合阻害剤の効率と共に減少するため、強力な重合阻害剤を使用することが好ましい。少なくとも1種の重合阻害剤が、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミン等のイミンもしくはジイミン、および/またはリン酸エステル等のリン酸誘導体、好ましくはアルカン酸ホスフェートまたはアルコキシル化アルコール系酸ホスフェート化合物、より好ましくはステアリン酸ホスフェート化合物、最も好ましくはモノ−C4−18アルキルホスフェートエステル、ジ−C4−18アルキルホスフェートエステル、またはモノステアリン酸ホスフェートとジステアリン酸ホスフェートとの混合物である場合に、特に良好な結果が得られる。
【0030】
本発明によれば、重合阻害剤という用語は、重合触媒および重合開始剤の活性を阻害し、それにより重合触媒および重合開始剤の存在下での環状エステルの重合を阻害する薬剤として、関連分野における通常の定義と一致して定義される。
【0031】
本発明のさらなる展開において、凝縮相組成物中の重合阻害剤の量は、組成物の総重量に基づいて0.001〜0.5重量%であることが提案される。より好ましくは、凝縮相組成物中の重合阻害剤の量は、組成物の総重量に基づいて0.01〜0.2重量%、最も好ましくは約0.02〜0.15重量%である。強力な重合阻害剤、例えば、イミンもしくはジイミン、および/またはリン酸エステル等のリン酸誘導体、好ましくはアルカン酸ホスフェートまたはアルコキシル化アルコール系酸ホスフェート化合物、より好ましくはステアリン酸ホスフェート化合物、最も好ましくはモノ−C4−18アルキルホスフェートエステル、ジ−C4−18アルキルホスフェートエステル、またはモノステアリン酸ホスフェートとジステアリン酸ホスフェートとの混合物を使用する場合、最後に述べた量が特に好適である。
【0032】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、環状エステルモノマーからポリエステルを製造するプロセスに使用される本発明による凝縮相組成物を安定化するための方法は、選択肢i)に従って行われ、すなわち、このため、本方法は、
a)環状エステルを提供するステップ、
b)ポリエステルおよび未反応環状エステルを含む反応混合物を形成するように、反応器内で触媒および任意選択的に開始剤の存在下で環状エステルを重合するステップ、
c)反応混合物を脱揮に供し、溶融残渣としての精製されたポリエステル、および、主に、i)少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含む蒸気を得るステップ、
d)凝縮相組成物を得るように、蒸気流を凝縮に供するステップ
を含み、
重合阻害剤の少なくとも一部は、脱揮から出た蒸気流におよび/または凝縮相組成物に加えられる。
【0033】
この実施形態において、重合阻害剤は、脱揮から出た蒸気流におよび/または凝縮相組成物にそれぞれ直接加えられる。脱揮後の、すなわち、脱揮から出た蒸気流中へのまたは凝縮相組成物への、重合阻害剤の添加に起因して、同程度の少量の、つまり正確にその量の重合阻害剤が加えられなければならないが、これは、たとえ昇温の溶融形態での長期保存後であっても凝縮相組成物に含まれる環状エステルのオリゴマー化および/または重合を回避するために必要である。
【0034】
最少量の重合阻害剤を用いて凝縮相組成物を十分に安定化するように作用させるために、本発明のさらなる展開において、凝縮相組成物への重合阻害剤の添加中および好ましくは添加後にも、凝縮相組成物を混合することが提案される。このようにして、凝縮相組成物中における重合阻害剤の均一な分布が保証されるため、最少量の重合阻害剤が凝縮相組成物に加えられるだけでよい。それとは対照的に、凝縮相組成物全体にわたって不均一性が生じた場合、最も低い阻害剤濃度を有する凝縮相組成物の位置にも、凝縮相組成物のオリゴマー化または重合を確実に抑制するのに十分な阻害剤が存在することを保証するために、最少量より多くの重合阻害剤が必要となるであろう。
【0035】
混合は、均質化混合を保証することができる任意の既知の混合機によって、既に蒸気相中でまたは最終凝縮相組成物において行われてもよい。具体的には、任意の好適な静的混合機および/または任意の好適な動的混合機が使用されてもよい。SMI、SMV(商標)、KVM、SMX(商標)、SMX(商標)plus、またはSMXL(商標)Sulzer静的混合機からなる群、インペラまたは螺旋リボンを搭載した動的混合機、アンカーミキサー、ならびに前述の混合機の2つ以上の任意の組み合わせから選択される混合機が使用される場合に、特に良好な結果が得られる。
【0036】
前述の実施形態において、凝縮相組成物に含まれる重合阻害剤の量は、上記のものと同じである。
【0037】
この実施形態は、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、またはポリグリコリドを製造するために、すなわち、ラクチド、L−ラクチド、D−ラクチド、メソ−ラクチド、ε−カプロラクトン、およびグリコリドからなる群から選択される環状エステルを使用するために、特に有用である。
【0038】
重合触媒および重合開始剤として、前述の物質が、上で好ましいと述べた量で本実施形態に使用されてもよい。好ましくは、ステップb)の反応混合物は、0.5〜50重量%、好ましくは1〜15重量%未満の環状エステルを含む。
【0039】
さらに、上で好ましいと述べた脱揮および凝縮条件が本実施形態に使用されてもよい。
【0040】
好ましくは、少なくとも10,000g/mol、好ましくは少なくとも15,000g/mol、より好ましくは少なくとも20,000g/molの絶対重量平均分子量(Mw)を有するポリマーが得られるまで、本実施形態に従う方法のステップb)で重合が行われる。Mwは、絶対較正を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、本発明に従って測定される。測定は、好ましくは、溶媒増強光散乱法、ポリマー溶媒としてクロロホルム、溶出剤としてアセトン、およびPMMA標準で行われる機器パラメータの較正を用いて、トリプル検出(屈折率、粘度計、および右/低角度光散乱)を搭載したViscotek TADmax(Malvern)で行われる。
【0041】
さらに、120℃〜250℃の温度で、より好ましくは150℃〜200℃の温度で、最も好ましくは160℃〜190℃の温度で、ステップb)で重合が行われることが好ましい。
【0042】
任意選択的に、前述の実施形態において、脱揮から出た蒸気流におよび/または凝縮相組成物に加えられる重合阻害剤に加えて、ステップc)の前に、すなわち、溶融残渣としての精製されたポリエステルおよび蒸気を得るために反応混合物を脱揮に供する前に、重合阻害剤が含まれてもよい。
【0043】
本発明の別の実施形態によれば、環状エステルモノマーからポリエステルを製造するプロセスに使用される本発明による凝縮相組成物を安定化するための方法は、選択肢i)に従って行われ、すなわち、このため、本方法は、
a)環状エステルを提供するステップ、
b)ポリエステルおよび未反応環状エステルを含む反応混合物を形成するように、反応器内で触媒および任意選択的に開始剤の存在下で環状エステルを重合するステップ、
c)反応混合物を脱揮に供し、溶融残渣としての精製されたポリエステル、および、主に、i)少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含む蒸気を得るステップ、
d)凝縮相組成物を得るように、蒸気流を凝縮に供するステップ
を含み、
重合阻害剤の少なくとも一部は、ステップc)の前に反応混合物に加えられ、脱揮は、203℃超の温度および4mbar未満の圧力で、または代替として、220℃超の温度および/または5mbar未満の圧力で行われる。
【0044】
重合阻害剤は、この実施形態において、ステップc)の前、すなわち、反応混合物を脱揮に供して、溶融残渣としての精製されたポリエステル、および、主に、i)少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含む蒸気を得る前に、反応混合物に加えられるため、同程度の大量の重合阻害剤が加えられ得るが、そうでないならば、それに加えて、脱揮の後にも、さらなる重合阻害剤が脱揮から出た蒸気流におよび/または凝縮相組成物に加えられる。これは、重合阻害剤の特定の沸点および揮発性に応じて、ステップc)の前に反応混合物に加えられた阻害剤の総量の全てがステップd)において脱揮され、凝縮相組成物中に移送されるわけではないという事実を考慮したものである。
【0045】
この実施形態において、脱揮は、203℃超の温度および4mbar未満の圧力で、または代替として、220℃超の温度および/または5mbar未満の圧力で行われる。前述の脱揮条件は、環状エステルとしてラクチドを含む反応混合物を脱揮するのに特に有用であるが、例えば、環状エステルとしてグリコリド、ε−カプロラクトン、またはそれらの混合物を含む反応混合物を脱揮するためにも有用である。
【0046】
ステップc)の前に反応混合物に含まれる重合阻害剤の量は、前述の実施形態において後者の凝縮相組成物中の重合阻害剤の含有量が、組成物の総重量に基づいて好ましくは0.001〜0.5重量%となるような量である。より好ましくは、凝縮相組成物中の重合阻害剤の量は、組成物の総重量に基づいて0.01〜0.2重量%、最も好ましくは約0.02重量%〜0.15重量%である。強力な重合阻害剤、例えば、イミンもしくはジイミン、および/またはリン酸エステル等のリン酸誘導体、好ましくはアルカン酸ホスフェートまたはアルコキシル化アルコール系酸ホスフェート化合物、より好ましくはステアリン酸ホスフェート化合物、最も好ましくはモノ−C4−18アルキルホスフェートエステル、ジ−C4−18アルキルホスフェートエステル、またはモノステアリン酸ホスフェートとジステアリン酸ホスフェートとの混合物を使用する場合、最後に述べた量が特に好適である。そのような適切な重合阻害剤の含有量を達成するために、前述の好ましい条件で脱揮を行う場合、反応混合物の総重量に基づいて0.001〜0.5重量%、より好ましくは0.01〜0.2重量%、最も好ましくは約0.02〜0.15重量%の重合阻害剤が、この実施形態において、ステップc)の前に反応混合物に加えられなければならない。
【0047】
より具体的には、好ましくは、ステップc)における脱揮は、この実施形態において、203℃超〜300℃の温度および0.1〜5mbar未満の圧力で行われ、重合阻害剤は、イミンもしくはジイミン、リン酸エステル等のリン酸誘導体、アルカン酸ホスフェートまたはアルコキシル化アルコール系酸ホスフェート化合物、および前述の物質の2つ以上を含む混合物からなる群から選択され、ステップc)の前に反応混合物に加えられる重合阻害剤の量は、反応混合物の総重量に基づいて0.01〜0.20重量%である。
【0048】
より好ましくは、ステップc)における脱揮は、この実施形態において、205℃〜220℃の温度および0.5〜4mbar未満の圧力で行われ、重合阻害剤は、イミンもしくはジイミン、リン酸エステル等のリン酸誘導体、アルカン酸ホスフェートまたはアルコキシル化アルコール系酸ホスフェート化合物、および前述の物質の2つ以上を含む混合物からなる群から選択され、ステップc)の前に反応混合物に加えられる重合阻害剤の量は、反応混合物の総重量に基づいて0.01〜0.20重量%である。
【0049】
さらにより好ましくは、ステップc)における脱揮は、205〜220℃の温度および1〜3mbar未満の圧力で行われ、重合阻害剤は、ジイミン、リン酸エステル、アルカン酸ホスフェートまたはエトキシル化アルコール系酸ホスフェート化合物、および前述の物質の2つ以上を含む混合物からなる群から選択され、ステップc)の前に反応混合物に加えられる重合阻害剤の量は、反応混合物の総重量に基づいて0.01〜0.2重量%である。
【0050】
最少量の重合阻害剤を用いて凝縮相組成物を十分に安定化するように作用させるために、この実施形態についても、上で述べた任意の既知の混合方法によって、既に気相中でまたは最終凝縮相組成物において混合を行うことが提案される。
【0051】
また、この実施形態は、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、またはポリグリコリドを製造するために、すなわち、ラクチド、L−ラクチド、D−ラクチド、メソ−ラクチド、ε−カプロラクトン、およびグリコリド、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される環状エステルを使用するために、特に有用である。
【0052】
重合触媒および重合開始剤として、前述の物質が、上で好ましいと述べた量で本実施形態に使用されてもよい。好ましくは、ステップb)の反応混合物は、0.5〜50重量%、好ましくは1〜15重量%未満の環状エステルを含む。
【0053】
さらに、上で好ましいと述べた凝縮条件が、本実施形態に使用されてもよい。
【0054】
好ましくは、少なくとも10,000g/mol、好ましくは少なくとも15,000g/mol、より好ましくは少なくとも20,000g/molのMwを有するポリマーが得られるまで、本実施形態に従う方法のステップb)で重合が行われる。
【0055】
さらに、120℃〜250℃の温度で、より好ましくは150℃〜200℃の温度で、最も好ましくは160℃〜190℃の温度で、ステップb)で重合が行われることが好ましい。
【0056】
任意選択的に、前述の実施形態において、ステップc)の前に反応混合物に加えられる重合阻害剤以外に、脱揮から出た蒸気流におよび/または凝縮相組成物にも重合阻害剤が含まれてもよい。
【0057】
ポリエステルを製造するプロセスにおける使用される組成物であることとは別に、本発明による凝縮相組成物を安定化するための方法は、乳酸からラクチドを製造するプロセスにおいて選択肢ii)に従って使用されてもよく、この方法は、好ましくは、
a)乳酸を提供するステップ、
b)ポリ乳酸プレポリマーを含む反応混合物を形成するように、反応器内で乳酸を重縮合するステップ、
c)反応混合物に触媒を加え、反応混合物を解重合するステップ、
d)粗ラクチド流を得るように、反応混合物を脱揮するステップ、
e)凝縮相組成物を得るように、蒸気流を凝縮に供するステップ
を含み、
重合阻害剤の少なくとも一部、好ましくはその全ては、脱揮から出た蒸気流におよび/または凝縮相組成物に加えられる。解重合ステップとの見込まれる干渉を最小限に抑えるために、重合阻害剤の全てを蒸気流および/または凝縮相に加えることは、これが連続脱揮を用いる連続プロセスにおいて行われる場合には特に、有利である。
【0058】
環状エステルプレポリマーは、本発明によれば、数平均分子量が10,000g/molよりも低い分子である。
【0059】
好ましくは、予備重合ステップは、乳酸を脱水して重合度が約7〜20、好ましくは約10のプレポリマーにするために、1〜300mbarの圧力および最大250℃の温度でステップb)において実施される。この予備重合は、回分式または連続式のいずれかで行われてもよく、好ましくは連続式で行われる。
【0060】
本発明のさらなる展開において、ステップc)における解重合は、1〜10mbarの圧力および150℃〜250℃の温度で連続的に実施されることが提案され、ここでは、好ましくは、触媒としての上で述べた化合物が、上で述べた量で用いられる。
【0061】
さらに、上で好ましいと述べた脱揮および凝縮条件が本実施形態に使用されてもよい。
【0062】
本発明のさらなる展開において、凝縮相組成物中の重合阻害剤の量は、組成物の総重量に基づいて0.001〜0.5重量%であることが提案される。より好ましくは、凝縮相組成物中の重合阻害剤の量は、組成物の総重量に基づいて0.01〜0.2重量%、最も好ましくは約0.02〜0.15重量%である。強力な重合阻害剤、例えば、イミンもしくはジイミン、および/またはリン酸エステル等のリン酸誘導体、好ましくはアルカン酸ホスフェートまたはアルコキシル化アルコール系酸ホスフェート化合物、より好ましくはステアリン酸ホスフェート化合物、最も好ましくはモノ−C4−18アルキルホスフェートエステル、ジ−C4−18アルキルホスフェートエステル、またはモノステアリン酸ホスフェートとジステアリン酸ホスフェートとの混合物を使用する場合、最後に述べた量が特に好適である。
【0063】
最少量の重合阻害剤を用いて凝縮相組成物を十分に安定化するように作用させるために、この実施形態についても、好ましくは上記の混合器を利用して、ステップd)における凝縮中に、およびより好ましくは凝縮後にも、蒸気相中でまたは凝縮相組成物中で、阻害剤を直接混合することが提案される。
【0064】
本発明のさらに特に好ましい実施形態によれば、重合阻害剤を含む凝縮相組成物は、その意図される用途に供される前に精製ステップに供される。精製ステップの間に、重合触媒および/または重合開始剤ならびに重合阻害剤等の凝縮相組成物に含まれる不純物が除去される。そのようにして精製された凝縮相組成物は、その結果、少なくとも本質的に環状エステルからなる。
【0065】
好ましくは、重合阻害剤を含む凝縮相組成物は、その意図される用途に供される前に、精製された凝縮相組成物を得るために、溶融結晶化ステップ、蒸留ステップ、または溶媒結晶化ステップに供され、好ましくは溶融結晶化ステップに供される。
【0066】
より好ましくは、重合阻害剤を含む凝縮相組成物は、その意図される用途に供される前に、精製された凝縮相組成物を得るために溶融結晶化ステップに供される。好ましくは、凝縮相組成物は、溶融結晶化ステップにおいていずれの溶媒も用いることなく結晶化されるが、これは、任意の溶媒を除去するためのさらなるステップが必要ないという利点を有する。
【0067】
溶融結晶化は、好ましくは、静的結晶化、動的結晶化、またはそれらの組み合わせによって行われる。この目的のために、当業者に既知の任意の好適な種類の静的晶析装置および/または動的晶析装置が使用されてもよい。動的晶析装置の特定の好ましい例は、流下液膜式晶析装置である。
【0068】
静的結晶化は、伝熱媒体の内部循環によって加熱もしくは冷却されるチューブを使用することによって、または代替として、垂直に、水平に、もしくは任意の好ましい配向のいずれかに配向され得るプレートを使用することによって行われてもよく、プレートは、結晶化によって精製される必要がある溶融フィードに懸濁される。第1のステップにおいて、精製される物質は、垂直プレートの表面で結晶化され、主に不純物を含む残りの溶融物が第1の残渣として除去される。第2のステップにおいて、結晶塊は、結晶中に含まれる主に残っている不純物を溶融させるために、それぞれ、部分的に溶融されるかまたは「発汗」(“sweated”)させられ、次いで、得られた溶融物が第2の残渣として晶析装置から除去される。次いで、第3のステップにおいて、そのようにして精製された結晶は、溶融され、生成溶融物として除去される。静的結晶化は、高い柔軟性、幅広い操作範囲、容易な操作(結晶スラリの取り扱いおよび濾過が存在しないため)、高い信頼性、および低操作コストという利点を有する。特に、熱感受性物質が精製される場合、静的結晶化が動的結晶化よりも好ましい。
【0069】
流下液膜式晶析装置は、本質的に垂直なチューブであるシステムからなる。結晶化プロセスの間、精製される組成物および伝熱媒体の両方が、流下液膜としてチューブの表面上を落下する。しかしながら、精製される組成物が流下液膜としてチューブの内面上を落下するのに対し、冷却および加熱に使用される伝熱媒体は、チューブの外面を湿潤させるように分布する。結晶化の間、冷伝熱媒体を使用してチューブを冷却し、そうすることで精製される物質がチューブの内面上で結晶化し、主に不純物を含む残りの溶融物が第1の残渣として晶析装置から除去される。結晶化後、結晶中に含まれる主に残っている不純物を溶融させるために、伝熱媒体の温度をやや上昇させることにより部分的溶融または「発汗」をそれぞれ誘導し、次いで、残りの溶融物が第2の残渣として晶析装置から除去される。次いで、より高い温度を適用することにより結晶の最終的な溶融を行って精製された液体を得、それが生成溶融物として除去される。流下液膜式晶析は、大容量を実現し、容易な操作(結晶スラリの取り扱いおよび濾過が存在しないため)、高い信頼性、および低操作コストを特徴とする。
【0070】
好ましくは、結晶化は、組成物の凝固点よりも0.1〜50℃低い温度で凝縮相組成物を冷却することによって、より好ましくは、組成物の凝固点よりも0.5〜25℃低い温度で凝縮相組成物を冷却することによって行われる。
【0071】
前述の実施形態の代替の実施形態によれば、凝縮相組成物が意図される用途に供される前にその精製は行われない。この実施形態において、凝縮相組成物は、ポリ乳酸等のポリエステルへの重合等の後の用途に未精製形態で使用され、残りの重合阻害剤を考慮して、それぞれより多くの量の触媒および開始剤が加えられる。
【0072】
凝縮相組成物の意図される用途は、具体的には、ポリ乳酸等のポリエステルの生成に使用される重合反応器等の反応器、またはラクチド等の環状ジエステルへの解重合のための前駆体物質としてのポリエステル−プレポリマーの生成に使用される予備重合反応器へのリサイクリングであってもよい。
【0073】
凝縮相組成物がリサイクルされる反応器は、具体的には、ループ型反応器またはプラグ流反応器であってもよい。
【0074】
別の特定の態様によれば、本発明は、環状エステルモノマーからポリエステルを製造するプロセスに使用される凝縮相組成物を安定化するための方法に関し、本方法は、好ましくは、
a)環状エステルを提供するステップ、
b)ポリエステルおよび未反応環状エステルを含む反応混合物を形成するように、反応器内で触媒および任意選択的に開始剤の存在下で環状エステルを重合するステップ、
c)反応混合物を脱揮に供し、溶融残渣としての精製されたポリエステル、および、主に、i)少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含む蒸気を得るステップ、
d)凝縮相組成物を得るように、蒸気流を凝縮に供するステップ
を含み、
少なくとも1種の重合阻害剤が、安定化剤としてステップc)の前に反応混合物に加えられ、脱揮は、220℃超の温度および/または5mbar未満の圧力で行われる。
【0075】
好ましくは、脱揮は、220℃超〜300℃の温度および/または1〜5mbarの圧力で、より好ましくは220℃超〜250℃の温度および/または1〜3mbarの圧力で行われる。
【0076】
環状エステル、触媒、および開始剤として、他の実施形態について上で記載した化合物群が、前述の量で使用されてもよい。
【0077】
別の態様によれば、本発明は、環状エステルモノマーからポリエステルを製造するプロセスに使用される凝縮相組成物を安定化するためのプラントに関し、
このプラントは、
a)ポリエステルおよび未反応環状エステルを含む反応混合物を形成するように、触媒および任意選択的に開始剤の存在下で環状エステルを重合するための少なくとも1つの反応器、
b)主に重合環状エステルを含む溶融残渣から、環状エステルと、触媒および/もしくは開始剤ならびに/あるいは少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含む低沸点気相を分離するための少なくとも1つの脱揮デバイス、
c)蒸気流を凝縮相組成物に凝縮するための少なくとも1つの凝縮器デバイス
を備え、
プラントは、脱揮から出た蒸気流および/または凝縮相組成物のいずれかに重合阻害剤を供給するための少なくとも1つの供給ラインをさらに備える。
【0078】
好ましくは、プラントは、重合阻害剤を凝縮相組成物に均質に混合するように適合される、例えば、凝縮器内または凝縮器の下流に位置する混合機をさらに備える。好ましくは、混合機は、上記のような混合機である。代替として、混合機は、既に気相中で混合が行われるように位置してもよい。
【0079】
さらに、プラントは、不純物、具体的には、重合触媒、重合開始剤、および重合阻害剤を、環状エステル含有凝縮相組成物から除去することができる、少なくとも1つの精製デバイスを凝縮器の下流にさらに備えることが好ましい。好ましくは、精製デバイスは、静的晶析装置、動的晶析装置、またはそれらの組み合わせである。この目的のために、当業者に既知の任意の種類の静的晶析装置および/または動的晶析装置が使用されてもよい。動的晶析装置の特定の好ましい例は、流下液膜式晶析装置である。
【0080】
好ましくは、少なくとも1つの精製デバイスは、ラインを介して凝縮器に接続され、精製デバイスから反応器システムに戻る返送ラインをさらに備える。
【0081】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、脱揮デバイスから出た蒸気流は、プラントの洗浄領域で洗浄ステップに供される。例えば、脱揮デバイスから出た蒸気流は、向流カラムに送られ、好ましくは真空下に維持され、そこで水溶液と接触させられ、それによって蒸気流に含まれるラクチドが溶解され、少なくとも部分的に加水分解される。次いで、得られた混合物は、好ましくは熱交換器に誘導され、そこで例えば10〜95℃、好ましくは10〜60℃の温度に加熱され、その後反応器に誘導され、水溶液中でラクチドを完全にまたは少なくともほぼ完全に溶解および加水分解させるために、そこで少なくとも0.1〜30分、好ましくは少なくとも0.1〜10分の滞留時間この温度に維持され、その後さらなる熱交換器に誘導され、そこで例えば5〜25℃、好ましくは5〜15℃、より好ましくは7〜12℃の温度に冷却される。その後、冷却された混合物は、水溶液として向流カラムに再循環される。再循環させた混合物の分流は、再循環システムの任意の場所から、例えば、混合物を第1の熱交換器に誘導する前等に除去され、次いで廃棄される。
【0082】
そのような洗浄領域において、モノステアリン酸ホスフェートおよびジステアリン酸ホスフェート、ならびにそれらの混合物等の従来のホスフェート系重合阻害剤は、多くの場合に、洗浄領域の汚染(fouling:ファウリング)の問題を引き起こすことが本発明の完成過程で明らかになった。そのような汚染は、ラインの閉塞、および不溶性画分として洗浄領域内に不必要に蓄積し得る固体残渣を引き起こし得る。いずれか特定の機構に拘束されることを望むものではないが、この汚染は、重合阻害剤および/またはその分解産物の脱揮によって引き起こされるものであり、これらは洗浄領域内に存在する酸性水溶液に不溶性であるものと考えられる。
【0083】
この問題を解決するための1つの可能性のある手段は、室温で液体であり高度に揮発性でもあるホスフェート系重合阻害剤を使用することであり、このホスフェート系重合阻害剤は、例えば、室温で液体であり760mmHgで275.3℃の沸点を持つため、そのような洗浄領域で使用される場合に真空条件下で高度に揮発性である、リン酸ジブチルである。そのような揮発性ホスフェート系重合阻害剤および/またはそれらの分解産物は、脱揮槽の流出口でガス流と共に洗浄領域に移送されたときにそこで容易に脱揮されるため、洗浄領域および下流の再循環システムにはいずれの汚染も引き起こさないものと考えられた。替わりに、洗浄領域に移送されるがそこで容易には脱揮されない可能性がある阻害剤および/または分解産物の画分は、そこで液体状態であるため、この場合も同様に洗浄領域部にはいずれの汚染も引き起こさないと考えられた。しかしながら、試験を行ったところ、そのような揮発性の高い重合阻害剤を用いても洗浄領域の部分に汚染は生じなかったが、驚くべきことに、第1および/または第2の脱揮チャンバの上流で著しい汚染が生じたことが、本発明において明らかになった。そのような汚染は、該チャンバの表面を覆う暗色の不溶性固形物の形成をもたらす。生産工程時間の関数として、得られたポリエステルポリマー生成物の色が、その後、汚染が進行するにつれて劣化することも分かった。この場合も同様に、いずれか特定の機構に拘束されることを望むものではないが、この汚染は、チャンバ内でそのような揮発性の高いホスフェート系重合阻害剤の気相熱分解が容易に生じ、それによってチャンバ表面に固体残渣を生じることで引き起こされるものと考えられる。
【0084】
驚くべきことに、脱揮チャンバと、エステルを蒸気から除去するため、およびエステル含有量を低下させる再循環のための、その下流にある洗浄領域との両方におけるこれらの汚染の問題は、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミン(CAS番号120−70−7)等のジイミン、または後述する一般式(I)によるホスフェートエステルのいずれかを重合阻害剤として使用することによって、軽減され得ることが、後に明らかになった。この場合も同様に、いずれか特定の機構に拘束されることを望むものではないが、これらのホスフェートエステルが、所定部分の鎖長を調整することによって十分に高い分子量であること、ひいては不揮発性であることで、これらの脱揮チャンバにおける汚染の問題を軽減するものと考えられる。加えて、後の一般式(II)のような極性一般構造を介してホスフェートエステルに親水性を付与することで、ホスフェートエステルおよび/またはその分解産物が十分に親水性となり、ひいては酸性水溶液に可溶性となるため、結果として、洗浄領域およびその再循環システムにおける汚染の問題が回避される。さらに、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミン等のそのようなジイミンは、重合阻害剤の必須の揮発性および親水性特性をバランスさせることにおいて同様に機能するものと考えられる。したがって、そのようなホスフェートエステルおよびジイミンは、ポリエステルを生成するための環状エステルの重合プロセス、特に、脱揮容器および/または洗浄領域が採用される重合プロセスにおいて、有利に用いられ得る。
【0085】
別の態様によれば、本発明は、上記の方法を用いて得られる凝縮相組成物に関する。
【0086】
凝縮相組成物は、好ましくは、
i)少なくとも95重量%の環状エステル、
ii)環状エステルの重合を触媒することができる少なくとも0.5ppmの少なくとも1種の触媒、および/または
環状エステルの重合を開始することができる少なくとも0.01mmol/kgの少なくとも1種の開始剤、ならびに
iii)0.001〜0.5重量%の重合阻害剤
を含む。
【0087】
重合阻害剤としては、特に触媒および/または開始剤の存在下で環状エステルのオリゴマー化および/または重合を阻害することができるいずれの物質も、本発明の範囲内で使用され得る。反応混合物および/または凝縮相組成物に加えられる重合阻害剤の量は重合阻害剤の効率と共に減少するため、強力な重合阻害剤を使用することが好ましい。少なくとも1種の重合阻害剤が、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミン等のイミンもしくはジイミン、および/またはリン酸エステル等のリン酸誘導体、好ましくはアルカン酸ホスフェートまたはアルコキシル化アルコール系酸ホスフェート化合物、より好ましくはステアリン酸ホスフェート化合物、最も好ましくはモノ−C4−18アルキルホスフェートエステル、ジ−C4−18アルキルホスフェートエステル、またはモノステアリン酸ホスフェートとジステアリン酸ホスフェートとの混合物である場合に、特に良好な結果が得られる。
【0088】
別の態様によれば、本発明は、ポリエステルを生成するための前述の凝縮相組成物の使用に関し、凝縮相組成物の総量に基づいて、重合触媒の総量が1ppm〜1重量%になりかつ/または重合開始剤の総量が0.1〜50mmol/kgになるように、重合開始前に、重合触媒および/または重合開始剤が凝縮相組成物に加えられる。
【0089】
別の態様によれば、本発明は、ポリエステルを生成するための前述の凝縮相組成物の使用に関し、凝縮相組成物は、最終組成物の総量に基づいて重合開始剤の総量が0.1〜50mmol/重量kgになるように、重合触媒および/または重合開始剤を任意選択的に加えて、環状エステルおよび/またはポリエステルを含む溶融物と混合され、そのようにして得られた混合物が次いでさら重合される。
【0090】
この実施形態は、ポリ乳酸の生成に特に好適である。
【0091】
本発明のさらなる実施形態によれば、本方法において使用される重合阻害剤は、モノまたはジイミン、リン酸エステル、アルコキシル化アルコール系酸ホスフェート、モノ−および/またはジ−アルキルホスフェート、RPOおよび/またはRPOHからなる群から選択され、式中、各Rは、独立して、C6−16直鎖、分岐鎖、もしくは環状アルキル基、またはそれらの組み合わせである。
【0092】
上で示した理由により、好ましくは、重合阻害剤として、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミン等のジイミン、および/または一般式(I)によるホスフェートエステルが使用される。
【化1】

式中、好ましくは、R’、R’’、およびR’’’は、独立して、一般式(II)のような一般構造を有し、
【化2】

式中、i)n>0であり、Qは、独立して、C1−16の直鎖、分岐鎖、または置換アルキル基であり、Rは、独立して、H、あるいは直鎖、分岐鎖、環状、もしくは置換アルキル基、またはフェニル基誘導体であるか、あるいはii)n=0であり、Rは、独立して、H、あるいはC6−16直鎖、分岐鎖、環状、もしくは置換アルキル基、またはフェニル基誘導体である。好ましくは、R’、R’’、およびR’’’のうちの少なくとも1つは、一般式(I)において、Hである。
【0093】
好ましくは、上の式(I)中、i)R’がHであり、R’’およびR’’’が一般式(II)によるものであるか、またはii)R’およびR’’がHであり、R’’’が一般式(II)によるものであるかのいずれかである。
【0094】
さらに、nは、一般式(II)中、好ましくは0超、より好ましくは2〜20の整数、さらにより好ましくは2〜11の整数である。
【0095】
特に好ましい実施形態によれば、nは、一般式(II)中、2〜20の整数であり、Rは、アルキル基である。さらにより好ましくは、nは、2〜20の整数であり、Rは、炭素原子が16個未満であるアルキル基であり、Qは、CH−CH基である。したがって、好ましい例は、ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)、アルファ−イソトリデシル−オメガ−ヒドロキシ−ホスフェート(CAS9046−01−9)およびポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)、アルファ−ヒドロ−オメガ−ヒドロキシ−モノ−C12−15−アルキルエーテルホスフェート(CAS68071−35−2)である。
【0096】
そのような好ましいクラスの重合阻害剤を反応混合物に加えることによって、物質の透明性および/または外観は非常に良好となり、多くの場合、重合生成物中のヘイズを確実に最小限に抑えることができ、かつ驚くべきことに、脱揮領域および/もしくは洗浄領域における、閉塞、相分離、固体副生物の堆積の発生、ならびに/または機器における汚染および/もしくは機器の清掃に関する諸問題を最小限に抑えることができる。また、そのような好ましいクラスの重合阻害剤は、従来技術において既知であるモノステアリン酸ホスフェートおよびジステアリン酸ホスフェート等の他の阻害剤と比較して、より高い粘性のポリマーの生成を可能にする。加えて、これらの重合阻害剤は、EP2698394A1、WO2014/027037A1、または米国特許第5,770,682号明細書から既知であるもの等の、重合阻害剤を加えるための従来的な既知である方法の全てにおいて使用され得ることが明らかになった。
【0097】
その他、重合阻害剤は、一般的に、[ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)モノ−アルキル−エーテルホスフェート]、[ポリ(オキシ−1,2−エタンジオール)−フェニル−ヒドロキシホスフェート]、または[ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)オメガ−ヒドロキシホスフェート]であってもよい。
【0098】
加えて、本発明による方法の選択肢i)およびi)における環状エステルは、そのプロセスにおいてポリ乳酸が生成されるように、ラクチドであることが好ましい。
【0099】
さらに、本組成物中の化合物の濃度は、0.001〜0.5重量%、より好ましくは0.02〜0.15重量%であることが好ましい。
【0100】
次に、本発明による特定の実施形態を、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1】本発明の第1の実施形態に従って環状エステルモノマーからポリエステルを製造するプロセスにおいて凝縮相組成物を安定化するためのプラントの概略図である。
図2】本発明の第2の実施形態に従って環状エステルモノマーからポリエステルを製造するプロセスにおいて凝縮相組成物を安定化するためのプラントの概略図である。
図3図1または図2に示すプラントの下流に位置する洗浄領域の概略図である。
図4】アルコキシル化アルコール系酸ホスフェートの非存在下(丸)および存在下(四角)で2段階脱揮領域を通る例3のモノマー含有量の遷移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0102】
図1は、本発明の第1の実施形態に従って環状エステルモノマーからポリエステルを製造するプロセスにおいて凝縮相組成物を安定化するためのプラントの概略図である。
【0103】
このプラントは、ポリエステルおよび未反応環状エステルを含む反応混合物を形成するように、触媒および任意選択的に開始剤の存在下で環状エステルを重合するための反応器システム10と、その下流にユニット12と、その下流に第1の脱揮チャンバ14とを備える。ユニット12は、静的混合機、熱交換器、またはそれらの組み合わせである。
【0104】
第1の脱揮チャンバ14の上部から、蒸気ライン16が、ガス除去ライン20および流体除去ライン22を備える凝縮器18に通じている。流体除去ライン22は、リサイクルライン26によって反応器システム10の供給物に接続された静的溶融晶析装置24に通じている。リサイクルライン26には、環状エステル供給ライン28、ならびに重合触媒および重合開始剤のための供給ライン30が通じている。ライン26、28、および30は、フィードライン32と組み合わさって反応器システム10に通じている。
【0105】
第1の脱揮チャンバ14の下部から、液体ライン34がユニット36に通じ、そこからライン38を介して第2の脱揮チャンバ40に通じており、ユニット36は、静的混合機、熱交換器、またはそれらの組み合わせである。第2の脱揮チャンバ40は、ポリマー取り出しライン42および蒸気除去ライン44を備える。
【0106】
重合阻害剤のための3つの供給ライン46、46’、46’’’が提供され、すなわち、1番目の46はユニット12に通じるラインに通じ、2番目の46’はユニット36に通じるライン34に通じ、3番目の46’’は凝縮器18に通じている。
【0107】
続いて、ポリ乳酸を調製するための環状エステル出発材料としてラクチドを使用して、このプラントの連続操作について記載する。
【0108】
新しいラクチドが供給ライン28を介して供給され、新しい重合触媒、すなわちオクタン酸スズ、および新しい重合開始剤、すなわち2−エチルヘキサノールは、供給ライン30を介してリサイクルライン26に供給される。これらの流れの混合物が、任意選択的に静的混合機を含む供給ライン32を介して、1つ以上の重合反応器、好ましくは1〜3つのループ型反応器、および任意選択的に少なくとも1つのプラグ流反応器を備える反応器システム10に供給される。混合物は、反応器システム10内で重合し、反応混合物、すなわち、少なくとも20,000g/molのMwを有するポリ乳酸、未反応ラクチド、重合触媒、および重合開始剤をそれぞれ含有する反応混合物を形成する。供給ライン46を介して、少なくとも重合阻害剤、例えば、モノステアリン酸ホスフェートおよびジステアリン酸ホスフェートの混合物が、この流れに加えられ、組み合わされた流れがユニット12に導かれ、そこで均質に混合される。
【0109】
そのようにして得られた混合物は、次いで、この場合190℃の温度および15mbarの圧力で操作される第1の脱揮チャンバ14に搬送される。これらの条件下で、脱揮チャンバ14内において、主に未反応ラクチドと、触媒および/もしくは開始剤ならびに/あるいは少なくとも1種の触媒および/もしくは少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含む蒸気流と、主にポリ乳酸生成物、触媒の一部、開始剤の一部、およびライン46を介して流れに供給される重合阻害剤の全てまたは少なくとも本質的に全てを含む液体流とが、相分離する。重合阻害剤の全てまたは少なくとも本質的に全てがライン34を介して第1の脱揮チャンバ14から除去された液体流に含まれる理由は、重合阻害剤、つまりモノステアリン酸ホスフェートおよびジステアリン酸ホスフェートの混合物が、これらの脱揮条件、つまり190℃の温度および15mbarの圧力では、揮発性が非常に低く、脱揮チャンバ内で蒸気流中に移送されないためである。重合阻害剤は、反応器システム10から出る流れの中で凝縮相組成物を安定化する目的のためではなく、ポリ乳酸生成物を安定化するという目的のためだけに、すなわち、ポリ乳酸のさらなる重合を回避するために、この場合ライン46を介して加えられるということに留意されたい。
【0110】
ライン46’を介して、さらなる重合阻害剤が粗生成物流に加えられ、そのようにして得られた混合物は、ユニット36に搬送され、そこで均質に混合される。その後、未処理生成物は、第2の脱揮チャンバ40内で第2の脱揮に供され、そこで残留する低沸点不純物、すなわち主にラクチドが、精製されたポリ乳酸生成物流から除去される。精製されたポリ乳酸生成物流がポリマーライン42を介してプラントから除去される一方で、残りの不純物は蒸気除去ライン44を介してプラントから除去される。替わりに、ラクチドを含む残りの不純物は、蒸気ライン16に供給されてもよいか、または凝縮されて流体除去ライン22に供給されてもよい。
【0111】
第1の脱揮チャンバ14内で得られた蒸気は、蒸気ライン16を介して第1の脱揮チャンバ14から出て、凝縮器18に供給される。凝縮器内で、ラクチドを豊富に含む凝縮相が得られる。さらに、モノステアリン酸ホスフェートおよびジステアリン酸ホスフェートの混合物が、そこで得られた凝縮相組成物に凝縮器18のライン46’’を介して重合阻害剤として供給され、均質な混合物を得るように混合される。凝縮相組成物は、均質な混合物として凝縮器18から取り出され、リサイクルライン26を介して静的溶融晶析装置24に搬送され、そこでラクチドが不純物から、すなわち、残りの重合触媒、残りの重合開始剤、および重合阻害剤から分離される。そのようにして得られた精製ラクチドは、ライン26を介して反応器システム10にリサイクルされる。
【0112】
凝縮器18のライン46’’を介して凝縮相組成物に重合阻害剤を加えることにより、この組成物は、その中に含まれる触媒および/または開始剤によって開始されるオリゴマー化および/または重合に対して安定化されるため、安定化された凝縮相組成物は、ラクチドの不要な消費につながるだけでなく、特に、凝縮相組成物の晶析装置への搬送を、不可能ではないにしても困難にするであろう凝縮相組成物の不要な粘性増加にもつながるラクチドのオリゴマー化および/または重合を一切起こすことなく、長期間、すなわち、具体的には数日間、例えば、少なくとも10日間、例えば、120℃の高められた温度で、すなわち溶融状態でインキュベート(incubate)することができる。
【0113】
図2に示すような本発明の第2の実施形態に従って環状エステルモノマーからポリエステルを製造するプロセスにおいて凝縮相組成物を安定化するためのプラントは、凝縮器18への重合阻害剤46’’の供給ラインがないことを除いて、図1に示されるプラントと同一である。この実施形態では、より多くのモノステアリン酸ホスフェートおよびジステアリン酸ホスフェートの混合物が重合阻害剤としてライン46を介して反応システム10から出る反応混合物に供給され、脱揮は、より高い温度およびより低い圧力下で、すなわち、215℃の温度および3mbarの圧力で、第1の脱揮チャンバ内で行われる。この理由から、第1の脱揮チャンバ14から出る蒸気相にライン16を介して十分な量の重合阻害剤が移送され、凝縮器18内で凝縮相組成物が得られ、図1に示されるプラントを用いて得られるものと同様に安定化される。
【0114】
図3は、図1および図2に示す流れ44として第2の脱揮チャンバ40から出る蒸気からラクチドを除去するための、再循環システムまたは循環をそれぞれ有する洗浄領域を示す。蒸気流44は、蒸気噴射器48を通過させられ、次いで向流カラム50に供給され、分配器52によって向流カラム50のヘッドに分配される水溶液と接触させられる。カラム50は、減圧システム54によって減圧下に維持される。蒸気流44からのラクチドは、水溶液中に溶解して少なくとも部分的に加水分解し、次いでカラム50から取り出され、再循環システム56に導入され、そこでポンプ58によって汲み上げられる。この混合物の一部の流れは、除去ライン60を介してプラントから除去され、廃棄される。混合物の残りの部分的な流れは、第1の熱交換器64および第2の熱交換器66を通して汲み上げられ、そこで完全なまたは少なくともほぼ完全なラクチドの溶解および加水分解に好適な温度に加熱され、その後反応器68に輸送され、そこで完全なまたは少なくともほぼ完全なラクチドの溶解および加水分解を達成するのに十分な時間インキュベートされる。その後、混合物は、分配器52に到達する前に、第1の熱交換器64および第3の熱交換器70を通して汲み上げられる。
【0115】
図3に示される実施形態の代替として、洗浄領域が、第1の脱揮チャンバ14から出る蒸気16に接続されてもよい。さらには、洗浄領域は、この実施形態において凝縮器に取って代わってもよいか、または凝縮器18に加えてガス除去ライン20に接続されてもよい。
【0116】
同様に、第2の脱揮チャンバ40から出る蒸気からラクチドを除去するための洗浄領域は、任意選択的に凝縮器と一緒に使用されてもよいことを理解されたい。
【0117】
したがって、重合阻害剤および/またはその分解生成物および/または加水分解生成物は、洗浄領域を有するこれらの実施形態の場合、しばしば再循環システム56においても検出され得る。
【0118】
続いて、非限定的な例によって本発明を説明する。
【0119】
例1
例1−1
ラクチドを溶融させ、触媒としてのオクタン酸スズ(II)および開始剤としての2−エチルヘキサノールと共に、ループ型反応器と下流に位置するプラグ流反応器とで構成された連続重合反応器に供給し、そこでラクチドを触媒および開始剤の存在下で重合した。重合反応器の終点で、反応混合物中の未反応ラクチドの含有量は4〜6重量%であった。
【0120】
次に、モノステアリン酸ホスフェートおよびジステアリン酸ホスフェートの混合物である溶融したリン化合物(企業Adeka Palmaroleから市販品ADK STAB AX−71として入手可能)を重合阻害剤として0.15〜0.2重量%、副流として反応混合物に加え、静的混合器を使用して混合した。未反応ラクチドを除去するために、そのようにして得られた反応混合物を、224℃の温度および4.9mbarの圧力で米国特許第7,942,955(B2)号明細書に記載の脱揮装置中での脱揮に供し、これにおいて、未反応ラクチドを豊富に含む画分を蒸気流として得、ポリマーが豊富な相を溶融残渣として得た。次に、蒸気流を凝縮相に凝縮し、脱揮容器の蒸気流出ラインと接続したホットタンク中に収集した。ホットタンクを100〜105℃の温度に設定した。
【0121】
その後、凝縮相組成物中のリンの含有量を31P−NMRおよびICP−MSによって測定した。その結果、凝縮相は34ppmのリンを含有した。
【0122】
この例は、224℃の温度および4.9mbarの圧力での未反応ラクチドと重合阻害剤としてのリン化合物ADK STAB AX−71とを含む組成物の脱揮により、測定可能な量の重合阻害剤が凝縮相に移送されることを示す。
【0123】
例1−2
例1−1において脱揮後に得られたポリマーが豊富な溶融残渣を、225℃の温度および1.0mbarの圧力で行ったさらなる脱揮に供した。得られた蒸気流を凝縮し、そのようにして得られた凝縮相を、31P−NMRおよびICP−MSによって、リン含有量について分析した。
【0124】
その結果、凝縮相は260ppmのリンを含有した。
【0125】
この例は、225℃の温度および1.0mbarの圧力での未反応ラクチドと重合阻害剤としてのリン化合物ADK STAB AX−71とを含む組成物の脱揮により、測定可能な量の重合阻害剤が凝縮相に移送されることを示す。
【0126】
比較例1
比較例1−1
脱揮を203℃の温度および4.0mbarの圧力で行ったことを除いて、例1−1を繰り返した。得られた蒸気流を凝縮し、そのようにして得られた凝縮相を、31P−NMRおよびICP−MSによって、リン含有量について分析した。
【0127】
その結果、凝縮相は測定可能な量のリン化合物を含有しなかった。
【0128】
比較例1−2
脱揮を199℃の温度および3.1mbarの圧力で行ったことを除いて、例1−1を繰り返した。得られた蒸気流を凝縮し、そのようにして得られた凝縮相を、31P−NMRおよびICP−MSによって、リン含有量について分析した。
【0129】
その結果、凝縮相は測定可能な量のリン化合物を含有しなかった。
【0130】
比較例1−1および1−2は、約200℃の温度および約3〜4mbarの圧力での未反応ラクチドと重合阻害剤としてのリン化合物ADK STAB AX−71とを含む組成物の脱揮により、測定可能な量の重合阻害剤が凝縮相に移送されないことを示す。
【0131】
例2
例2−1
ラクチドを溶融させ、ラクチド1kgあたり100ppmの触媒としてのオクタン酸スズ(II)および20mmolの開始剤としての2−エチルヘキサノールと共に、ループ型反応器と下流に位置するプラグ流反応器とで構成された連続重合反応器に供給し、そこでラクチドを触媒および開始剤の存在下で重合した。重合反応器の終点で、反応混合物中の未反応ラクチドの含有量は4重量%であった。
【0132】
次に、溶融したリン化合物(企業Adeka Palmaroleから市販品ADK STAB AX−71として入手可能)を重合阻害剤として0.15〜0.2重量%、副流として反応混合物に加え、ステーティング混合器を使用して混合した。未反応ラクチドを除去するために、そのようにして得られた反応混合物を、224℃の温度および4.0±1.0mbarの圧力で米国特許第7,942,955(B2)号明細書に記載の脱揮装置中での脱揮に供し、これにおいて、未反応ラクチドを豊富に含む画分を蒸気流として得、ポリマーが豊富な相を溶融残渣として得た。次に、蒸気流を凝縮相に凝縮し、脱揮容器の蒸気流出ラインと接続したホットタンク中に収集した。ホットタンクを100〜105℃の温度に設定した。
【0133】
その後、150ppmの触媒としてのオクタン酸スズおよび100mmol/kgの開始剤としてのエチル−ヘキサノールを凝縮相組成物に加え、続いて凝縮相を160℃で12時間不活性雰囲気条件下で熱処理した後の凝縮相中に含まれる重合可能な環状エステルの転化率を決定することによって、凝縮相の安定性を評価した。凝縮相組成物における重合可能な環状エステルの転化率は、100・(c−c)/cとして計算した。この式中、cは、蒸気流の凝縮によって得られた凝縮相組成物中の環状エステルの初期濃度であり、cは、前述の熱処理後の凝縮相組成物中の環状エステルの濃度である。cおよびcの両方の濃度は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0134】
凝縮相中の重合可能な環状エステルの転化率は、5重量%未満であった。
【0135】
この例は、重合阻害剤を反応混合物に加え、そのようにして得られた、未反応ラクチド、触媒、重合開始剤、および重合阻害剤としてのリン化合物ADK STAB AX−71を含む組成物の脱揮を、224℃の温度および約4.0mbarの圧力で、得られた蒸気流が凝縮する前に行うことによって、測定可能な量の重合阻害剤が凝縮相に移送され、未反応ラクチドを重合されることから保護するので、安定した凝縮相が得られることを示す。
【0136】
例2−2
例2−1において凝縮後に得られた凝縮相のアリコート(aliquot)を結晶化によって精製した。
【0137】
より具体的には、ガラスバイアルに9.6gの凝縮相を充填した後、密封した。組成物を120℃の炉内で溶融させた後、それを90℃に冷却することによって第1の結晶化ステップに供した。20時間後、初期の安定化した組成物の88.5%の重量分率に相当する8.5gと等しい量は固体結晶画分C1へと凝固したが、初期組成物の11.5%の重量分率に相当する残りの1.1gは液体画分L1のままであった。
【0138】
液体画分L1をガラスバイアルから除去した後、バイアルを再度密封し、固体画分C1を、まず画分C1を溶融させた後、それを3時間95℃、次に18時間90℃、最後に7時間85℃に冷却することによって第2の精製ステップに供した。この第2の精製ステップの終了時に、組成物の相は、液相L2(11.3重量%)と固体結晶相C2(88.7重量%)とに分離した。
【0139】
リンの含有量を各相について測定した。
【0140】
第1の結晶化ステップ後に得られた固体結晶画分C1は20ppmのリンを含有し、第2の結晶化ステップ後に得られた固体結晶画分C2は13ppmのリンを含有し、一方で、第1の結晶化ステップ後に得られた液体画分L1は115ppmのリンを含有し、第2の結晶化ステップ後に得られた液体画分L2は86ppmのリンを含有した。
【0141】
これらの結果は、重合阻害剤が、結晶化によって凝縮相から実質的に除去され得ることを示す。
【0142】
比較例2
比較例2−1
脱揮を204℃の温度および4.0mbarの圧力で行ったことを除き、また重合阻害剤を加えなかったことを除いて、例2−1を繰り返した。
【0143】
凝縮相中の重合可能な環状エステルの転化率は、78.2±0.6重量%であった。
【0144】
この比較例は、重合可能な環状エステル、重合触媒、および重合開始剤を含有する反応混合物を脱揮した後、いずれの重合阻害剤も組成物に加えずに、脱揮において得られた蒸気相を凝縮することによって得られる凝縮相が、安定でなく、しかし昇温で著しく重合することを示す。
【0145】
比較例2−2
脱揮を203℃の温度および4.0mbarの圧力で行ったことを除いて、例2−1を繰り返した。
【0146】
凝縮相中の重合可能な環状エステルの転化率は、50.7±3.3重量%であった。
【0147】
この比較例は、重合可能な環状エステル、重合触媒、重合開始剤、および重合阻害剤を含有する反応混合物を約200℃および約4mbarの圧力で脱揮した後、脱揮において得られた蒸気相を凝縮することによって得られる凝縮相が、安定でなく、しかし昇温で著しく重合することを示す。
【0148】
例3
図1に示されるようなプラントを、環状エステルとしてラクチドを用いて操作した。ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)、アルファ−ヒドロキシ−オメガ−ヒドロキシ−モノ−C12−15−アルキルエーテルホスフェート(CAS番号:68071−35−2)を重合阻害剤として使用し、位置46で、ループ型およびプラグ流反応器10の流出口で重合流に加えた。数日間の連続操作中に3回の運転を行ったところ、阻害剤濃度は、重合反応器に供給されるラクチドに対してそれぞれ、0.04重量%、0.05重量%、および0.1重量%であった。図3に示されるような洗浄システムは、第2の脱揮装置40の流出口から出る蒸気流44と流体接続していた。重合プラントを連続して数日間操作し続け、プラントの操作中に汚染(fouling)の発生を連続的に監視した。
【0149】
向流カラム50または再循環システム56のいずれにおいても固形物堆積の証拠は観察することができなかった。
【0150】
プラントの操作中、3回の運転の各々につき、従来の水中ペレタイザーを使用して重合プラントの除去ライン42でポリ乳酸生成物をペレット化し、ミリメートルサイズ範囲のペレットのサンプルを特徴付けのために収集した。得られた結果を表1および表2に要約する。
【表1】

【表2】
【0151】
表1に要約した結果は、本発明に従うことで、残留モノマーが低く、ラクチド再形成に対する高い安定性を有するPLAが得られたことを示している。残留モノマーは、一貫して0.3重量%よりも少なく、さらには0.2%よりも少なかった。ラクチド再形成は、一貫して0.3%未満であった。
【0152】
さらに、表2に要約した結果は、全ての試料が極めて良好な外観を有していたことを示している。黄色度指数の許容される値がYI<30、好ましくはYI<20未満であるのに対し、これらの例ではさらに低い黄色度指数、すなわち、ペレットの結晶化時に一貫して10よりも低い、さらには3よりも低い黄色度指数が記録された。同様に、ヘイズについても、HはH<10未満であり、一貫してH<3未満であった。
【0153】
ラクチド残留モノマーの含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)によって測定した。内部標準としての1−オクタノールと一緒に試料をジクロロメタンに溶解した。1mlの溶液を10mlの貧溶媒溶液、すなわち、アセトン/ヘキサン(5/95体積/体積)の混合物と混合することにより、溶液からポリマーを沈殿させた。ポリマーの完全な沈殿を保証するために最終溶液を1〜2時間振盪し、そのようにして得られた最終溶液からの上清を次いで濾過し、GCに注入した。
【0154】
黄色度指数は、以下のように色彩色差計を使用して測定した:ペトリ皿に15gのPLAペレットを充填し、イルミナントCおよび2°観測者を用いて、ASTM D1925の方法に準拠して黄色度指数YIを測定した。
【0155】
ラクチド再形成は以下のように測定した:最初に、試料中に残留するラクチドモノマー含有量を、ガスクロマトグラフィーによって測定し、試料中のラクチドの重量パーセントとして定量化した(RM1)。次いで、試料ペレットを70℃の不活性雰囲気下で少なくとも4時間乾燥させ、メルトフローインデックス機器に装填し、試験時間と等しい時間、所望の温度でMFIキャピラリ内で加熱した。試験時間が過ぎてから、材料を細いひもとしてMFI流出口から取り出し、再びGCによりラクチド中のその含有量を測定した(RM2)。次いで、ラクチド再形成の程度をΔRM=RM2−RM1として測定し、試験中に再形成されたラクチドの量を測定した。
【0156】
ASTM D1003(ISO/DIS14782)に従って、Haze−Gard Plus(登録商標)装置(BYK Gardner GmbH、Germany)を用いて透過ヘイズを測定した。透過ヘイズは、以下のように定義される:
H=100*Tdif/T
式中、Tdifは拡散透過率であり、Tは全透過率である。標本の均一性を検証するために、試料の10ヶ所の異なる位置でヘイズを測定した。標本は以下のように調製した:PLAペレットを80℃で4時間、窒素流下で乾燥させた。次いで、200℃に加熱したプレスを使用してペレットを3×2×0.5cmのプレートに成形し、ペレットが溶解した後、水冷プレスで急速に冷却した。次いで、同じプレスシステムを使用して、欠陥(例えば気泡)のない標本を厚さ1mmのフィルムにさらにプレスし、次いで測定に使用した。
【0157】
図4は、ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)、アルファ−ヒドロキシ−オメガ−ヒドロキシ−モノ−C12−15−アルキルエーテルホスフェート(CAS番号:68071−35−2)の非存在下および存在下で2段階脱揮領域を通るモノマー含有量の遷移を示す。破線は、工業的に適した材料を生成するための最大許容値を表す。実線は、見やすくするために提供される。この図は、オーバーヘッド脱揮システムへのモノマーの望ましくない損失を最小限に抑えるという観点から、重合阻害剤としてアルコキシル化アルコール系酸ホスフェートを使用することのさらなる利点を示している。特定の機構に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、これは、そのような重合阻害剤が、モノマーを遊離させ、後続の脱揮を通してその望ましくない損失をもたらす望ましくないバックバイティング(back−biting)および他の連鎖の解重合反応を最小限に抑える上で効果的であることを示していると考える。したがって、本発明の好ましい実施形態において、重合阻害剤としてのアルコキシル化アルコール系酸ホスフェートの添加は、重合阻害剤が加えられない場合と比べて、オーバーヘッドシステムに脱揮されるモノマーの量を実質的に減少させる。当業者は、この違いを、オーバーヘッドシステムへの流量として(例えば、定められた期間にわたって脱揮される質量を積算することによって測定されるkg/h)、または脱揮システムに流入する供給流の供給量に対する相対的な割合として測定および表すことができることを理解するであろう。いくつかの特定の好ましい実施形態において、第1の脱揮ユニットに入るモノマー含有量は、全ての供給流と比べて少なくとも0.5%減少し、第2の脱揮ユニットでは少なくとも1%、好ましくは2%減少する。また、アルコキシル化アルコール系酸ホスフェート重合阻害剤、具体的にはポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)、アルファ−ヒドロキシ−オメガ−ヒドロキシ−モノ−C12−15−アルキルエーテルホスフェート(CAS番号:68071−35−2)の使用も、重合阻害剤が加えられなかった比較例と比べて、2つの脱揮ユニットのいずれかの後に採取されたポリマー試料の黄色度指数を著しく低下させたことが観察された(図示せず)。したがって、本発明の好ましい実施形態において、重合阻害剤としてのアルコキシル化アルコール系酸ホスフェートの添加は、重合阻害剤が加えられない場合と比べて、脱揮ユニット(複数可)を出るポリマー塊の黄色度指数を実質的に低下させる。本発明のある特定の好ましい実施形態において、これらの重合阻害剤の使用は、YI−D1925に従って測定した場合、最終ポリマーペレットの黄色度指数を少なくとも5、好ましくは10低下させることが明らかになった。
【0158】
比較例3−1
阻害剤濃度が0.1重量%になるようにモノステアリン酸ホスフェートとジステアリン酸ホスフェートとの混合物が位置46で重合流に加えられたことを除いて、例3と同じ方法を繰り返した。
【0159】
洗浄システムにおいて広範な汚染(fouling)が観察された。より具体的には、汚染は、向流カラム50内で溶液上に浮遊するワックス状残渣の形態であり、再循環システム56の操作を困難にした。
【0160】
この例は、全てのリン系化合物が、ポリ乳酸の生成のための重合プラントに使用できるわけではないことを明確に証明している。
【0161】
比較例3−2
ジブチルホスフェートが位置46で重合流に加えられたことを除いて、比較例3−1と同じ方法を繰り返した。2回の運転が行われ、すなわち、ラクチドフィードに対して、1回目は0.1重量%の阻害剤濃度、2回目は0.04重量%の阻害剤濃度であった。
【0162】
両方の運転において、阻害剤投入の数時間後、既に、脱揮槽14にあるガラス窓を通して、脱揮装置の壁およびガラス窓に材料の層が堆積し始めたことを観察することができた。脱揮装置の高い温度に起因して、そのような材料の層は、黒い炭化層へと変化した。
【0163】
位置46’で重合流にジブチルホスフェートが加えられた別個の運転において同様の減少が観察され、ガラス窓および脱揮装置40の壁に材料の堆積を引き起こした。
【0164】
また、この比較例は、全てのリン系化合物が、ポリ乳酸の生成のための重合プラントに使用できるわけではないことを明確に示している。
【0165】
例4および比較例4
溶液は、5mlの乳酸および5mlの水を、表3に報告したとおり秤量された阻害剤と一緒にバイアル中で混合することによって調製した。
【0166】
溶液の調製後、直ちに全てのバイアルをキャップで密封した。室温で純粋な状態にある各添加剤の物理的状態を、表3の3番目の列に報告する。
【0167】
次いで、溶液を30分間振盪し、数時間静置した。次いで、溶液の物理的状態を観察した。ADK−AX−71を含有する溶液を除く全ての溶液が流動性の液体からなっており、例えば、それらは明らかにいずれの固体残渣または不溶性固形物のような画分を含まなかった。
【0168】
ADK−AX−71を含有する溶液中に懸濁された材料の存在が、緩徐な可溶化または実際の不溶性の問題によるものであるかを確認するために、全ての溶液を130℃の炉内で2時間さらに加熱して阻害剤が完全に溶解したことを確実にし、次いで、室温まで冷却させた。
【0169】
不溶性画分の存在または非存在を表3に報告する。
【表3】
【0170】
例5
20mlバイアルに5gのラクチドおよび0.19重量%のN,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミンを充填した。バイアルを80℃の炉内に5時間入れてラクチドを乾燥させた。乾燥後、バイアルを密封し、160℃に加熱してラクチドを溶解させた。次いで、0.1mlのオクタン酸スズ/エチル−ヘキサノールの1%(重量/重量)溶液をバイアルに注入し、混合物を均質化するために振盪し、一晩反応させた。
【0171】
いずれの阻害剤も加えずに、第2のバイアルにも同じ手順を適用した。
【0172】
反応後、両方のバイアルを冷却し、ガスクロマトグラフィーによりそれらの含有量を分析した。そのように記載した手順を、2回は阻害剤を用いて、2回は阻害剤を用いずに繰り返して再現性を確認した。下の結果は、2回繰り返した平均である。
【0173】
N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミンの非存在下で重合した試料では72%の平均ラクチド転化率が測定された一方で、5%をはるかに下回るかなり低い平均転化率がN,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミンの存在下で測定された。
【0174】
これらの結果は、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミンが非常に効果的な触媒阻害剤であり、上記例に示されるように、図3に描かれた洗浄システムにおいて何らの汚染(fouling)問題を引き起こすことも予想されないことを示している。
本発明に包含され得る諸態様は、以下のとおり要約される。
[態様1]
凝縮相組成物を安定化するための方法であって、前記凝縮相組成物が、i)少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)前記環状エステルの重合を触媒することができる少なくとも1種の触媒および/または前記環状エステルの重合を開始させることができる少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは前記少なくとも1種の触媒および/もしくは前記少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含有し、
i)前記方法が、環状エステルモノマーからポリエステルを製造するプロセスにおいて使用され、かつ
a)環状エステルを提供するステップ、
b)ポリエステルおよび未反応環状エステルを含む反応混合物を形成するように、反応器内で前記触媒および任意選択的に前記開始剤の存在下で前記環状エステルを重合するステップ、
c)前記反応混合物を脱揮に供し、溶融残渣としての精製されたポリエステル、および、主に、i)前記少なくとも1種の重合可能な環状エステルと、ii)前記少なくとも1種の触媒および/もしくは前記少なくとも1種の開始剤ならびに/あるいは前記少なくとも1種の触媒および/もしくは前記少なくとも1種の開始剤の反応生成物または残渣とを含む蒸気を得るステップ、
d)前記凝縮相組成物を得るように、蒸気流を凝縮に供するステップ
を含み、
少なくとも1種の重合阻害剤が、前記凝縮相組成物における前記重合可能な環状エステルの転化率が15%以下であるような量で安定化剤として前記反応混合物および/または前記凝縮相組成物に加えられ、前記転化率が、100・(c−c)/cであり、cが、前記蒸気流の前記凝縮によって得られる前記凝縮相組成物における前記環状エステルの初期濃度であり、cが、触媒として150ppmのオクタン酸スズ、および開始剤として100mmol/kgのエチル−ヘキサノールを前記凝縮相組成物に加え、続いて前記凝縮相を160℃で12時間不活性雰囲気条件下で熱処理した後の、前記凝縮相組成物における前記環状エステルの濃度であり、
)前記重合阻害剤の少なくとも一部が、前記脱揮から出た前記蒸気流および/または凝縮相組成物に加えられ、かつ/あるいは
)前記重合阻害剤の少なくとも一部が、ステップc)の前に前記反応混合物に加えられ、前記脱揮が、203℃超の温度および4mbar未満の圧力で、または代替として、220℃超の温度および5mbar未満の圧力で行われ、
あるいは、
ii)前記方法が、乳酸からラクチドを製造するプロセスにおいて使用され、かつ
a)乳酸を提供するステップ、
b)ポリ乳酸プレポリマーを含む反応混合物を形成するように、反応器内で前記乳酸を重縮合するステップ、
c)前記反応混合物に触媒を加え、前記反応混合物を解重合するステップ、
d)粗ラクチド流を得るように、前記反応混合物を脱揮するステップ、
e)前記凝縮相組成物を得るように、前記蒸気流を凝縮に供するステップ
を含み、
少なくとも1種の重合阻害剤が、前記凝縮相組成物における前記重合可能な環状エステルの転化率が15%以下であるような量で安定化剤として前記反応混合物および/または前記凝縮相組成物に加えられ、前記転化率が、100・(c−c)/cであり、cが、前記蒸気流の前記凝縮によって得られる前記凝縮相組成物における前記環状エステルの初期濃度であり、cが、触媒として150ppmのオクタン酸スズ、および開始剤として100mmol/kgのエチル−ヘキサノールを前記凝縮相組成物に加え、続いて前記凝縮相を160℃で12時間不活性雰囲気条件下で熱処理した後の、前記凝縮相組成物における前記環状エステルの濃度であり、
前記重合阻害剤の少なくとも一部が、前記脱揮から出た前記蒸気流および/または前記凝縮相組成物に加えられる、方法。
[態様2]
前記凝縮相組成物における前記重合可能な環状エステルの転化率が、10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下、さらにより好ましくは1%以下、なおより好ましくは0.1%以下である、上記態様1に記載の方法。
[態様3]
選択肢i)における前記少なくとも1種の環状エステルが、ラクチド、L−ラクチド、D−ラクチド、メソ−ラクチド、ε−カプロラクトン、グリコリド、または前述の物質の1種以上の混合物からなる群から選択される、上記態様1または2に記載の方法。
[態様4]
前記反応混合物および前記凝縮相組成物が、各々、触媒として、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、インジウム、イットリウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、および前述の金属の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される金属を含む少なくとも1種の有機金属化合物を含有し、前記少なくとも1種の有機金属化合物が、好ましくは、アルキル基、アリール基、ハロゲン化物、酸化物、アルカノアート、アルコキシド、および前述の基の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される残基を有機残基として含む、上記態様1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[態様5]
前記反応混合物および前記凝縮相組成物が、各々、開始剤として、少なくとも1つのカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を含む少なくとも1種の化合物、ならびに好ましくは、水、アルコール、乳酸、前記環状エステルのオリゴマー、前記環状エステルのポリマー、および前述の物質の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、上記態様1〜4のいずれか一項に記載の方法。
[態様6]
前記少なくとも1種の重合阻害剤が、好ましくはサリチルアルデヒド誘導体および/またはリン酸エステル等のリン酸誘導体による脂肪族または芳香族モノアミンまたはジアミンの凝縮によって得られるイミンまたはジイミン、好ましくは、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミン、アルカン酸ホスフェート、またはアルコキシル化アルコール系酸ホスフェート化合物、より好ましくは、ステアリン酸ホスフェート化合物、最も好ましくは、モノ−C4−18アルキルホスフェートエステル、ジ−C4−18アルキルホスフェートエステル、またはモノステアリン酸ホスフェートとジステアリン酸ホスフェートとの混合物である、上記態様1〜5のいずれか一項に記載の方法。
[態様7]
前記重合阻害剤を含む前記凝縮相組成物を、精製ステップ、好ましくは、蒸留ステップまたは溶媒結晶化ステップ、より好ましくは溶融結晶化ステップに供し、精製された凝縮相組成物を得る、上記態様1に記載の方法。
[態様8]
前記精製された環状エステルが、選択肢i)において前記反応器にリサイクルされる、上記態様7に記載の方法。
[態様9]
前記凝縮相組成物が、前記重合阻害剤を均質に分布させるように混合される、上記態様1〜8のいずれか一項に記載の方法。
[態様10]
上記態様1〜9のいずれか一項に記載の方法を用いて得られる、凝縮相組成物。
[態様11]
i)少なくとも95重量%の環状エステル、
ii)前記環状エステルの重合を触媒することができる少なくとも0.5ppmの少なくとも1種の触媒、および/または
前記環状エステルの重合を開始することができる少なくとも0.01mmol/kgの少なくとも1種の開始剤、ならびに
iii)0.001〜0.5重量%の重合阻害剤を含む、上記態様10に記載の凝縮相組成物。
[態様12]
重合の開始前に、触媒および/または重合開始剤が、凝縮相組成物の総量に基づいて、重合触媒の総量が1ppm〜1重量%になり、かつ/または重合開始剤の総量が0.1〜50mmol/kgになるように、前記凝縮相組成物に加えられる、ポリエステルの生成のための上記態様10または11に記載の凝縮相組成物の使用。
[態様13]
ポリエステルの製造のための上記態様10または11に記載の凝縮相組成物の使用であって、前記凝縮相組成物が、最終組成物の総量に基づいて、前記重合開始剤の総量が0.1〜50mmol/重量kgになるように、重合触媒およびまたは重合開始剤を任意選択的に加えて、環状エステルおよび/またはポリエステルを含む溶融物と混合され、そのようにして得られた前記混合物が、次いでさら重合される、上記使用。
【符号の説明】
【0175】
10 反応器システム
12 ユニット(混合機(複数可)および/または熱交換器)
14 第1の脱揮チャンバ
16 蒸気ライン
18 凝縮器
20 ガス除去ライン
22 流体除去ライン
24 静的溶融晶析装置
26 リサイクルライン
28 環状エステル(ラクチド)供給ライン
30 触媒および開始剤用供給ライン
32 供給ライン
34 液体(溶融物)ライン
36 ユニット(混合機(複数可)および/または熱交換器)
38 ライン
40 第2の脱揮チャンバ
42 ポリマー取り出しライン
44 蒸気除去ライン
46、46’、46’’ 重合阻害剤(複数可)用供給ライン
48 噴射器
50 向流カラム
52 水溶液用分配器
54 減圧システム
56 再循環システム
58 ポンプ
60 除去ライン
62 ライン
64 第1の熱交換器
66 第2の熱交換器
68 反応器
70 第3の熱交換器
図1
図2
図3
図4