(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明による多軸同期型設備の駆動制御装置等を各実施の形態に従って図面を用いて説明する。なお、各実施の形態において、同一もしくは相当部分は同一符号で示し、重複する説明は省略する。
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の制御対象となる多軸同期型設備の構成の一例を示したブロック図である。
図1に示すように、多軸同期型設備の製造ユニットは、搬送対象物である原材料を供給する複数の原材料ユニットA1,A2(本例では例えば2台)を有する供給部Aと、複数の製造駆動ユニットB1,B2(本例では例えば2台)を有する製造部Bと、搬送ユニットC1を有する搬送部Cと、複数の裁断ユニットD1、D2(本例では例えば2台:但し図示されているのは1台)を有する製品部Dとから構成されている。
【0013】
供給部Aから連続した搬送対象物(原材料)が送り出されるが、送り出した搬送対象物と製造部Bの間にはテンションモータM11が設けられており、製造部Bでの搬送対象物の張力が一定となるように駆動している。そして、張力が一定に保たれた搬送対象物は原材料ユニットA1,A2から複数の製造駆動ユニットB1,B2に送られる。各製造駆動ユニットB1,B2はそれぞれ複数の機械(例えば、圧延装置、ラミネート装置、エンボス加工機、成型装置 等)をそれぞれ駆動する複数の駆動(製造)モータM21により駆動しており、製造駆動ユニット内の位置がずれないように位置制御を行っている。
【0014】
搬送対象物は、製造駆動ユニットB1,B2の出口部分の各アウトフィード装置30に送られる。各アウトフィード装置30は、各駆動(アウトフィード)モータM31により駆動され、製造部Bを通った搬送対象物の張力を保つ働きをしている。
【0015】
搬送ユニットC1は、製造部Bから送られてきた搬送対象物を下流の製品部Dへ向けて送る複数の搬送用装置40と、搬送対象物の搬送経路を設定する多数の切換装置(図示省略)とを備えている。そして、搬送ユニットC1には、複数の搬送用装置40を駆動する複数の駆動(搬送)モータM41が設けられている。従って各製造駆動ユニットB1,B2を通った搬送対象物は搬送ユニットC1にて、搬送経路が変更され、所定の順番に搬送される。
【0016】
製品部Dは2個の裁断ユニットD1,D2(図には1台のみ示されている)を有している。そして、この各裁断ユニットD1,D2には各種搬送機TTを駆動する複数の製品搬送モータM51(図には1台のみ示されている)が設けられている。また、各裁断ユニットD1,D2は各種の切断装置を駆動する複数の製品切断モータM52が設けられている。各裁断ユニットD1,D2は独立して駆動することが可能となっており、搬送ユニットC1から複数の搬送対象物が搬送され、各裁断ユニットD1,D2は搬送対象物に張力を与えながら、搬送対象物を製品に加工する。また、製品切断モータM52は一定した裁断幅を保つため位置制御を行っている。
【0017】
なお、
図1に示した多軸同期型設備では各部にユニットを1または2台設けているがユニットの数はこれに制限されない。この発明では、搬送対象物である原材料を供給、搬送する供給部A、搬送部C等の駆動部と、製造部Bや製品部D等の慣性の大きな高精度制御部を有する多軸同期型設備を対象として想定している。
【0018】
図2は
図1のような多軸同期型設備の電気系統と共に示されたこの発明の多軸同期型設備の駆動制御装置の構成の一例を示すブロック図である。多軸同期型設備の電気系統は、主電源60に接続されたコンバータ61を備えており、コンバータ61には、上述の各モータM11,M21,M31,M41,M51,M52を駆動する駆動装置62がそれぞれ接続されている(
図2では例示的に3つの駆動装置62が示されている)。また、コンバータ61と駆動装置62とを接続する接続回路63には停電等の電源喪失時において多軸同期型設備に電力を供給するコンデンサ64が接続されている。
【0019】
なお従来の装置では、各駆動装置62に接続されているモータが発電した回生電力は、電源喪失時にスイッチ66をオンして抵抗回路65により消費していたが、この発明においては以下の説明のように回生電力を抵抗回路65で消費する必要はなく、このためのスイッチ66、抵抗回路65は不要となる。そのため破線で示されている。
【0020】
また、コンバータ61は、主電源60からの交流電力(AC)を直流電源(V)70で示した直流電力に変換するものである。駆動装置62は、コンバータ61で変換された直流電力を交流電力に再変換する一方、各モータM11,M21,M31,M41,M51,M52により発電された回生電力(交流電力)を直流電力に変換する。
【0021】
ただし、コンバータ61は、電力供給時においては、多軸同期型設備から発生した回生電力を主電源60へ回帰させることができるが、電源喪失時においては多軸同期型設備から発生した回生電力を回帰させることができないように構成されている。
【0022】
また、コンデンサ64は多軸同期型設備の通常運転時において、電力を蓄電するとともに、電源喪失時においては、多軸同期型設備に電力を供給するものである。
【0023】
そして
図2のDCUがこの発明による多軸同期型設備の駆動制御装置の駆動制御部であり、例えばマイクロプロセッサからなる。駆動制御部DCUには、搬送対象物の速度を検出する速度検出部SSE、各モータの回転速度、トルクを検出する回転速度検出部RSSE、トルク検出部TSEが接続されている。
【0024】
図3はこの発明の実施の形態1における多軸同期型設備の電源喪失時の一連の制御動作を説明するためのグラフである。
図4はそのときのこの発明の多軸同期型設備の駆動制御装置の制御の動作フローチャートを示す。なおこの制御は駆動制御部DCUで行われる。
【0025】
図3の(a)は、電源喪失前後における
図1の各モータM11、M21、M31、M41、M51、M52の出力およびこれらの出力の総和の時間的変化を示す。(b)は、電源喪失前後における速度レート(搬送対象物の搬送速度レート)の時間変化を示す。(c)は、電源喪失前後におけるコンバータ61の二次側DC電圧の時間変化を示す。(a)において、横軸は時間、縦軸は
図1の各テンションモータM11、製造モータM21、アウトフィードモータM31、搬送モータM41、製品搬送モータM51、製品切断モータM52の出力、およびこれらの総和Tの時間的変化を示す。(b)において、横軸は時間、縦軸は速度レートとなっており、(c)において、横軸は時間、縦軸はコンバータ61の二次側DC(直流)電圧となっている。また、時刻t
0は電源喪失発生時刻であり、時刻t
1は電源喪失検出後の減速停止の開始時刻である。時刻t
2は電源喪失を検知した後、タイマで所定時間をカウントしたカウント終了時の時刻である。この所定時間は、電源喪失または減速停止の開始から、製造駆動ユニットB1,B2でクラッチが切れるまでの時間に相当する。クラッチ(図示省略)は駆動モータと該駆動モータにより駆動される例えば圧延装置、ラミネート装置等の製造装置を結合するもので、クラッチが切れていれば駆動モータが回転しても製造装置は動かない。
【0026】
次に動作について説明する。電源喪失発生(時刻t
0)前において、多軸同期型設備は通常用速度指令による速度レートK1(
図3の(b))に基づいて通常運転を行い、搬送対象物の搬送速度が一定となるように生成されている。このとき、コンバータ61の二次側DC電圧も一定に維持している。
【0027】
この状態において、電源喪失が発生する(時刻t
0)と(
図4のステップS3)、そのときの搬送対象物の搬送速度を計測して(例えば
図2に示した速度検出部SSEで計測)(ステップS4)、各駆動モータ(M11〜M52)の想定出力がゼロになる、すなわち各ユニットの力行状態または回生状態の各モータの出力の合算値がゼロとなる減速レートK2(=Ys)を算出し(ステップS5)、減速レートをYsに切り替える(ステップS6)。電源喪失発生後、所定の時間をタイマでカウントするまで(所定時間カウント終了時刻t
2)、減速レートK2は、演算周期毎に製造モータM21の想定出力がクラッチ入り状態の計算式(ステップS1)を使用して生成される。
【0028】
ここで、ステップS1では、あらかじめ、クラッチ入り状態における、搬送対象物の各搬送速度Sでの各減速レートY時の各駆動モータの出力W=∫(Y)を実験により測定し、測定結果を演算式(第1の演算式)として設定し、例えば記憶部(図示省略)に格納しておき、ステップS5ではこの演算式を使用する。
なお、上記測定を、多軸同期型設備を構成する各ユニットのユニット構成、搬送対象物の質量、搬送対象物の搬送ルートの異なる組み合わせ毎に行い測定結果をそれぞれ演算式として格納し、駆動制御部DCUが多軸同期型設備の状況に合わせて演算式を選択して使用してもよい。このような演算式に基づいて求める各駆動モータの出力は、多軸同期型設備を構成する各ユニットのユニット構成、搬送対象物の質量、搬送対象物の搬送ルートが考慮された値となる。
【0029】
所定時間カウントが終了すると(時刻t
2)(ステップS7)、そのときの搬送対象物の搬送速度を計測する(ステップS4)。製造モータM21の想定出力はクラッチ切状態の演算式を使用し、各ユニットの力行または回生状態の各モータの出力の合算値がゼロとなる減速(停止)レートK3(=Ys)を算出し(ステップS8)、減速レートをYsに切り替える(ステップS9)。その後、減速レートK3は、演算周期毎に製造モータM21の想定出力がクラッチ切状態の演算式(ステップS2)を使用し、設備の減速停止が完了するまで生成する(ステップS10)。なお、製造モータM21は駆動されていても装置が回転しない場合(クラッチが切れている場合)もあるため、クラッチ切の状態の演算式(S2)を使用して減速レートの生成を行う。
【0030】
すなわちステップS2では製造モータM21がクラッチ切り状態において、ステップS1と同様に、あらかじめ、搬送対象物の各搬送速度Sでの各減速レートY時の各駆動モータの出力W=∫(Y)を実験により測定し、測定結果を演算式として設定し、例えば上記第1の演算式と同じ記憶部(図示省略)に第2の演算式として格納しておき、ステップS8ではこの第2の演算式を使用する。
なおステップS1と同様に、上記測定を、多軸同期型設備を構成する各ユニットのユニット構成、搬送対象物の質量、搬送対象物の搬送ルートの異なる組み合わせ毎に行い測定結果をそれぞれ演算式として格納し、駆動制御部DCUが多軸同期型設備の状況に合わせて演算式を選択して使用してもよい。このような演算式に基づいて求める各駆動モータの出力は、多軸同期型設備を構成する各ユニットのユニット構成、搬送対象物の質量、搬送対象物の搬送ルートが考慮された値となる。
また、測定結果を演算式とせずにそのまま格納して使用してもよい。そこで、測定結果、演算式をモータ出力情報、ステップS1,S2等での特定の条件でのそれぞれの測定結果、演算式をモータ出力データとする。
【0031】
搬送モータM41、製品搬送モータM51、製品切断モータM52は、搬送される対象物の質量により、負荷が変わることから、駆動されている製造ユニットの台数より、出力値をあらかじめ設定された倍数nをかけて計算する。
【0032】
以上のように実施の形態1によれば、駆動制御部DCUが演算を行う周期毎に各駆動モータM11,M21,M31,M41,M51,M52の出力値の総和を0となるように減速レートを切り替えた減速停止パターンとしたことから、コンバータ61の二次側を流れる電流は、ほぼ0となり、力行電力も回生電力も相殺されて発生しなくなるという効果が得られる。これにより、回生電力の消費用抵抗回路65を削除することができコンパクトにすることが可能となる。
【0033】
また、同様の制御動作を通常の減速停止時にも適用することで、減速停止時に電力の消費を発生させない経済的な多軸同期型設備を提供できる。
【0034】
実施の形態2.
図5はこの発明の実施の形態2による多軸同期型設備の駆動制御装置の制御のフローチャートである。実施の形態1では各駆動モータM11,M21,M31,M41,M51,M52の出力値の総和を0となる減速レートの切替を行ったが、実施の形態2では、駆動制御部DCUで各駆動モータM11,M21,M31,M41,M51,M52の回転速度及びトルクを演算周期毎にで計算または計測することにより、想定していない負荷の変動があった場合に、負荷変動分にて変化したと考えられるコンバータ61の二次側DC電圧を補正して、想定していない負荷変動が連続しても同期して減速停止を可能とする。
【0035】
そこで、
図2に示すように駆動制御部DCUには各駆動モータM11,M21,M31,M41,M51,M52の回転速度及びトルクを検出するための回転速度検出部RSSE、トルク検出部TSEに接続されている。
【0036】
次に動作について説明する。演算周期毎に各駆動モータM11,M21,M31,M41,M51,M52の実際の回転速度及びトルクを回転速度検出部RSSE、トルク検出部TSEにより計測し(ステップS11)、現状の各駆動モータの出力値を算出し、その総和ΣWnを計算する(ステップS12)。その総和の値が想定していない負荷変動による出力値のずれとなることから、実施の形態1のステップS1,S5における各駆動モータM11,M21,M31,M41,M51,M52の計算上の想定出力の総和ΣWsに、ステップS12の負荷変動による出力値のずれ分ΣWnを加味して、ΣWs−ΣWn=0になるように減速レートK2(=Ys)を算出し(ステップS13)、減速レートをYsに切り替える(ステップS6)。なお、タイマで所定の時間カウントするまで(時刻t
2)は(ステップS7)、毎演算周期に製造モータ21の想定出力がクラッチ入り状態の演算式(ステップS1)を使用する。
【0037】
所定時間がカウントされると(ステップS7)、演算周期毎に各駆動モータM11,M21,M31,M41,M51,M52の実際の回転速度及びトルクを計測し(ステップS11)、現状の各駆動モータの出力値を算出しその総和ΣWnを計算する(ステップS12)。そして製造モータM21の想定出力はクラッチ切状態の演算式(ステップS2)を使用した各駆動モータM11,M21,M31,M41,M51,M52の計算上の想定出力の総和ΣWsに、ステップS12の負荷変動による出力値のずれ分ΣWnを加味して、ΣWs−ΣWn=0になるように減速(停止)レートK3を算出し(ステップS14)、減速レートを切り替える(ステップS9)。その後も、減速レートK3は、演算周期毎に製造モータM21の想定出力がクラッチ切状態の演算式(S2)を使用し、各駆動モータM11,M21,M31,M41,M51,M52の計算上の想定出力の総和ΣWsに負荷変動による出力値のずれ分ΣWnを加味して0になるように減速レートを生成し(ステップS14)、減速レートの切替えを行う。減速停止が完了するまで同処理を実施する(ステップS10)。
【0038】
以上のように実施の形態2によれば、減速停止中に想定外の負荷変動が発生しても、その発生分を演算周期ごとで補正することから、力行電力及び回生電力を相殺させて、特にほとんど発生させることない、という効果が得られる。
【0039】
実施の形態3.
図6はこの発明の実施の形態3による多軸同期型設備の駆動制御装置の制御のフローチャートである。製造部Bは製造(駆動)モータM21のクラッチが切れると、対象物から離れるため、装置の持つ慣性のみとなる。そのため、減速停止させる場合は、回生電力の発生源となる。実施の形態1及び2では、その回生電力を抑えるために減速レートを切り換えていたが、クラッチ切り後は対象物の製造とは関係ないことから製造(駆動)ユニットB1,B2の同期は無視をして、対象物を搬送しているテンションモータM11、アウトフィードモータM31、搬送(駆動)モータM41、製品搬送(駆動)モータM51、製品切断(駆動)モータM52の駆動用電力分のみを製造(駆動)モータM21より供給する。
【0040】
次に動作について説明する。電源喪失検出時から所定時間をカウントする(ステップS7)までの動作(時刻t
2まで)は、実施の形態1と同一の動作である。
この実施の形態では、クラッチ切り状態の演算式として、あらかじめ、搬送対象物の各搬送速度Sでの各減速レートY時の、製造モータM21以外のテンションモータM11、アウトフィードモータM31、搬送モータM41、製品搬送モータM51、製品切断モータM52の出力W=∫(Y)を実験により測定し、測定結果を演算式として設定し、例えば上記第1、第2の演算式と同じ記憶部(図示省略)に第3の演算式として格納しておく(ステップS15)。
なお、上記実施の形態と同様に、上記測定を、多軸同期型設備を構成する各ユニットのユニット構成、搬送対象物の質量、搬送対象物の搬送ルートの異なる組み合わせ毎に行いそれぞれの測定結果をモータ出力情報として格納して、選択して使用してもよい。
【0041】
所定時間をカウントすると(ステップS7)、製造モータM21以外のテンションモータM11、アウトフィードモータM31、搬送モータM41、製品搬送モータM51、製品切断モータM52は回転速度検出部RSSE、トルク検出部TSEによる計測により現在の回転速度及びトルクより出力値を算出し、総和を計算する(ステップS16)。搬送対象物の搬送に必要な出力値と同等または同じ電力を製造モータM21より発生させるためのトルク値を、駆動している製造モータM21の台数及びそのときの製造モータM21の回転速度より求める(ステップS17)。製造モータM21より発生するトルクを対象物搬送分だけ発生させるように、製造モータM21にトルク制限をかける(ステップS18)。本演算を減速停止が完了するまで実施する(ステップS10)。トルク制限値を演算周期毎に切り替えることにより、クラッチ切り後は減速レート一定で減速停止動作を行う。
【0042】
以上のように実施の形態3によれば、減速レートの切替により全体の出力を抑えるのではなく、搬送対象物の搬送に必要分の電力を製造(駆動)モータM21から供給することにより、製造(駆動)ユニットB1,B2の使用台等に関係なく、一定の減速レートにて減速停止が可能となり、力行電力及び回生電力を相殺させて、殆ど発生させることがなく、一定時間で減速停止が可能になるという効果が得られる。
【0043】
なお、この発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、上記各実施の形態の可能な組み合わせを全て含む。