(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
左右両側に車輪が支持されたサスペンション部材を車体フレームに対して位置変位し得るように支承したサスペンション機構に備えられ、上記サスペンション部材の左側及び右側と上記車体フレームとをそれぞれ連結し、上記サスペンション部材の位置変位に応じて、オイルが封入されたシリンダ内でピストンを摺動させながら上部チャンバ室及び下部チャンバ室を容積変化させて、上記オイルの粘性抵抗により減衰力を発生させる一対のサスペンションシリンダと、
上記両サスペンションシリンダの上部チャンバ室と下部チャンバ室とを個別に接続する一対のバイパス通路と、
中立位置において上記両バイパス通路を共に閉鎖すると共に、分圧通路を経て上記両サスペンションシリンダの上部チャンバ室の圧力をそれぞれパイロット圧として両端に受け、該圧力の差に応じて上記中立位置から切り換えられて高圧側の上記サスペンションシリンダの上記バイパス通路を開放するスプールと
を具備することを特徴とする運搬車両のサスペンション装置。
上記パイロット圧遮断機構は、単一のソレノイドにより4ポート型のスプールを駆動して上記両分圧通路を同時に閉鎖するように構成されたことを特徴とする請求項3に記載の鉱山用ダンプトラック。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を鉱山用ダンプトラック用のリアサスペンション装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の鉱山用ダンプトラックを示す側面図、
図2は鉱山用ダンプトラックを示す平面図、
図3は鉱山用ダンプトラックを示す後面図であり、
図2では、車体フレーム及びサスペンション構造を把握し易いように荷台を省略している。以下の説明では車両を主体とし、車両の前後方向を前後、車幅方向を左右、上下方向を上下と表現する。
【0023】
鉱山用ダンプトラック1(以下、車両と称する場合もある)の車体フレーム2(以下、単にフレームと称する)上には土砂等の積荷3を積載する荷台4が配設され、荷台4はヒンジ5及びホイストシリンダ6を介してフレーム2に連結されている。ホイストシリンダ6の伸縮に応じてヒンジ5を支点として荷台4が車両後方に回動し、積荷3を放土し得る。フロントサスペンション7は、フレーム2に対し左右のロアアーム8を揺動可能に支承した独立懸架式として構成されている。それぞれのロアアーム8の左右両端には前輪9が回転可能に支持されており、ロアアーム8の揺動がフロントサスペンションシリンダ10により適宜規制されて緩衝作用及び減衰作用が奏される。フレーム2の前部にはキャブ11が設けられ、このキャブ11に搭乗したオペレータにより車両1の運転操作等が行われる。
【0024】
リアサスペンション12(サスペンション機構)は、球面ジョイント13を中心にリジッドアクスル14(サスペンション部材)を揺動可能に支承した車軸懸架式として構成され、リジッドアクスル14の横方向の移動はラテラルリンク15により規制される。リジッドアクスル14の左右両側にはダブルタイヤの後輪16(車輪)が回転可能に支持され、後輪16が発生する駆動力や制動力は球面ジョイント13を介してフレーム2に伝達される。
【0025】
リジッドアクスル14の左側及び右側にはそれぞれリアサスペンションシリンダ17が配設され、これらのリアサスペンションシリンダ17を介してリジッドアクスル14の左側及び右側とフレーム2とがそれぞれ連結されている。リアサスペンションシリンダ17はリジッドアクスル14の上下方向の移動規制だけでなく、車体のロール方向の移動も規制してスタビライザーの役割も果たす。
なお、リジッドアクスル14の支承構造はこれに限るものではなく、例えば3〜5本のリンクでリジッドアクスル14の全方向を移動規制してもよい。
【0026】
図4はリアサスペンションシリンダと可変減衰装置との配管の接続状態を示す鉱山用ダンプトラックの後面図、
図5はリアサスペンションシリンダと可変減衰装置とを示す油圧回路図である。
鉱山用ダンプトラック1のリアサスペンション12には可変減衰装置18が設けられている。以下に述べるように、この可変減衰装置18により左右のリアサスペンションシリンダ17の減衰力が最適制御されるが、可変減衰装置18の説明に先だって、まずリアサスペンションシリンダ17の基本的な構成及び作動を述べる。
【0027】
以下に述べるように、リアサスペンションシリンダ17としては同一構成のものが左右対称に配設され、両シリンダ17に対応して可変減衰装置18も左右対称の内部構造を採っている。そこで、左側に相当する部材番号にはlを付し、右側に相当する部材番号にはrを付して区別する。
【0028】
図5に示すように、リアサスペンションシリンダ17l,17rはシリンダ19l,19rとピストン20l,20rとから構成され、シリンダ19l,19rの上部がフレーム2に連結され、ピストン20l,20rの下部がリジッドアクスル14に連結されている。ピストン20l,20rはシリンダ19l,19r内で上下方向に摺動可能に配設され、このピストン20l,20rによりシリンダ19l,19r内がメインチャンバ室21l,21r(上部チャンバ室)とサブチャンバ室22l,22r(下部チャンバ室)とに区画されている。
ピストン20l,20rには複数のチョーク孔23l,23rが貫設され、これらのチョーク孔23l,23rを介して両チャンバ室21l,21r,22l,22r内が連通している。メインチャンバ室21l,21r及びサブチャンバ室22l,22rの内部には、ガスとオイルとが封入されている。
【0029】
車両1の走行中には、路面の凹凸や旋回に伴うロール等によりフレーム2に対してリジッドアクスル14が位置変位し、それに応じて左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rではシリンダ19l,19r内でピストン20l,20rが摺動し、メインチャンバ室21l,21rとサブチャンバ室22l,22rとが容積変化する。このとき左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rは、チャンバ室21l,21r,22l,22r内でガス及びオイルが圧縮されることによって緩衝作用を奏すると共に、メインチャンバ室21l,21rとサブチャンバ室22l,22rとの間でチョーク孔23l,23rを経てオイルが流通するときの粘性抵抗により減衰作用を奏する。
【0030】
次いで、可変減衰装置18の構成を説明する。
図4,5に示すように、可変減衰装置18はフレーム2に設置されており、左側のリアサスペンションシリンダ17lのメインチャンバ室21l及びサブチャンバ室22lに対し配管24l,25lを介してそれぞれ接続されると共に、右側のリアサスペンションシリンダ17rの21r及びサブチャンバ室22rに対し配管24r,25rを介してそれぞれ接続されている。
【0031】
図6は可変減衰装置18の内部構造を示す断面図である。可変減衰装置18のケーシング27の左右方向中央には、左右一対のバイパス通路28l,28rが互いに並行するように上下方向に形成されている。各バイパス通路28l,28rの上端はメインチャンバ側ポート29l,29rとして開口し、それぞれ左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rのメインチャンバ室21l,21rからの配管24l,24rが接続されている。また、各バイパス通路28l,28rの下端はサブチャンバ側ポート30l,30rとして開口し、それぞれ左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rのサブチャンバ室22l,22rからの配管25l,25rが接続されている。
【0032】
図6に示すように、ケーシング27内には左右のバイパス通路28l,28rを貫通するようにスリーブ孔32が左右方向に形成され、このスリーブ孔32の左右両端は、対応する左右のバイパス通路28l,28rのメインチャンバ側ポート29l,29r付近に対し分圧通路33l,33rを介してそれぞれ連通している。スリーブ孔32内にはメインスプール34(スプール)が配設され、メインスプール34の左右両端にはそれぞれ油室35l,35rが形成されている。
各油室35l,35rは、対応する左右の分圧通路33l,33r、メインチャンバ側ポート29l,29r及び配管24l,24rを介してリアサスペンションシリンダ17l,17rのメインチャンバ室21l,21rと連通してオイルが封入されており、左右のメインチャンバ室21l,21rの圧力がそれぞれパイロット圧としてメインスプール34の左右両端に作用している。
【0033】
左右の油室35l,35r内にはそれぞれスプリング36l,36rが配設され、これらのスプリング36l,36rによりメインスプール34は常に
図6に示す中立位置に付勢され、この中立位置では左右のバイパス通路28l,28rを共に閉鎖している。また、メインスプール34は左右両端に作用する圧力に差が生じると、スプリング36l,36rの付勢力に抗してスリーブ孔32内を摺動して高圧側のリアサスペンションシリンダ17l,17rのバイパス通路28l,28rを開放する。
【0034】
例えば、右側のリアサスペンションシリンダ17rのメインチャンバ室21rが圧力上昇した場合には、
図7に示すようにメインスプール34がスリーブ孔32内で左方に摺動して右側のバイパス通路28rを開放し、これにより右側のリアサスペンションシリンダ17rのメインチャンバ室21rとサブチャンバ室22rとを連通させる。また、
図8に示すように左側のリアサスペンションシリンダ17lのメインチャンバ室21lが圧力上昇した場合には、メインスプール34が右方に摺動して左側のリアサスペンションシリンダ17lのメインチャンバ室21lとサブチャンバ室22lとを連通させる。
即ち、以上のメインスプール34の切換機構は、メインチャンバ室21l,21rの圧力をパイロット圧として入力し、その圧力差に応じた切換によりバイパス通路28l,28rを適宜開閉する切換弁37(
図13に示す)として機能するものである。
【0035】
左右のバイパス通路28l,28rの断面積及びリアサスペンションシリンダ17l,17r側への各配管24l,24r,25l,25rの断面積は、リアサスペンションシリンダ17l,17rに設けられたチョーク孔23l,23rの断面積に比較して格段に大きく設定されている。
このため、メインスプール34の摺動により何れかのバイパス通路28l,28rが開放されているときには、その側のリアサスペンションシリンダ17l,17rでは、ほとんどのオイルがバイパス通路28l,28rを経てメインチャンバ室21l,21rとサブチャンバ室22l,22rとの間で流通することになり、チョーク孔23l,23rの流通によって奏されるリアサスペンションシリンダ17l,17rの減衰力が大幅に低下する。
【0036】
ケーシング27には位置センサ43(中立位置検出手段)が設けられている。この位置センサ43は、メインスプール34が中立位置のときにはそのくびれ箇所と対応してオフ状態に保持され、メインスプール34が左右何れかに摺動してバイパス通路28l,28rを開放すると、くびれ箇所以外の部位と対応してON状態に切り換えられる。本実施形態では、位置センサ43として電磁誘導等の磁気を利用した近接スイッチを用いているが、これに限ることはなく任意に変更可能である。
【0037】
図9はメインスプール34を示す正面図、
図10はメインスプール34を示す平面図、
図11はメインスプール34を示す側面図である。メインスプール34の左右両端面には、上記したスプリング36l,36rが当接する座面34aと共にスリット34bが形成されている。メインスプール34が左右何れかのストローク端に達すると、その端面がスリーブ孔32の内面に密着するが、分圧通路33l,33rからの圧力はスリット34bを介してメインスプール34の端面に作用し続け、これにより圧力差に応じたメインスプール34の摺動が問題なく行われる。
【0038】
図6に示すように、可変減衰装置18の左右の分圧通路33l,33rには、分圧通路33l,33rを閉鎖して上記したメインスプール34の切換を規制(ひいては、リアサスペンションシリンダ17l,17rに対する減衰力の低下機能を無効化)するパイロット圧遮断機構38l,38rがそれぞれ設けられ、これらのパイロット圧遮断機構38l,38rは同一構成となっている。
【0039】
パイロット圧遮断機構38l,38rのスリーブ孔39l,39rは分圧通路33l,33rを貫通するように左右方向に形成され、このスリーブ孔39l,39r内には2ポート型のサブスプール40l,40rが摺動可能に配設されている。サブスプール40l,40rはスプリング41l,41rにより分圧通路33l,33rを開放する方向に付勢されると共に、その付勢力に抗してソレノイド42l,42rにより分圧通路33l,33rを閉鎖する方向に駆動されるようになっている。
【0040】
従って、
図6に示すように、左右のサブスプール40l,40rが開放位置にあるときには、上記した圧力差に応じたメインスプール34の切換に応じて左右のバイパス通路28l,28rが適宜開放されて、その側のリアサスペンションシリンダ17l,17rの減衰力が低下する。
一方、
図12に示すように、左右のサブスプール40l,40rが閉鎖位置に切り換えられると、左右のメインチャンバ室21l,21rで発生した圧力変化がメインスプール34の左右両端に伝達されなくなる。このため左右何れかのメインチャンバ室21l,21rが圧力上昇しても、メインスプール34は、それに応じて摺動せずに中立位置に保持されて左右のバイパス通路28l,28rを共に閉鎖し、これにより左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rは減衰力を低下されることなく通常通りの減衰作用を奏する。
【0041】
このようにパイロット圧遮断機構38l,38rの役割は、リアサスペンションシリンダ17l,17rの減衰力を低下させる本来の可変減衰装置18の機能を無効化することにある。そのためにソレノイド42l,42rを利用してメインスプール34を直接的に中立位置に保持することなく、ソレノイド42l,42rによりサブスプール40l,40rを駆動して間接的にメインスプール34を中立位置に保持しているのは、以下の理由からである。
【0042】
一般自動車とは比較にならない大重量の鉱山用ダンプトラック1では、リアサスペンションシリンダ17l,17rを機能させるオイルが極めて高圧になる。このため通路断面積の大きなバイパス通路28l,28rのメインスプール34(受圧面積が大)を駆動するには大きな駆動力を要してしまうが、分圧通路33l,33rは通路面積が大幅に小さい(受圧面積が小)ため、これを開閉するにはそれ程の駆動力を必要としない。
そこで、分圧通路33l,33rにパイロット圧遮断機構38l,38rを設けてソレノイド42l,42rによりサブスプール40l,40rを開閉しており、これによりソレノイド42l,42rを大型化することなく所期の目的を達成しているのである。
【0043】
図13はリアサスペンション装置の制御系を示す図であり、同図ではメインスプール34の切換機構を切換弁37として表している。
可変減衰装置18の制御を司るECU(Electronic Control Unit)44は、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えている。ECU44の入力側には上記した位置センサ43、及び車両1のステアリング45のシャフト45aに設けられて操舵角(車両1の旋回挙動)を検出する操舵角センサ46(旋回挙動検出手段)が接続され、ECU44の出力側には上記した左右のパイロット圧遮断機構38l,38rのソレノイド42l,42rが接続されている。
【0044】
車両1の走行中において、ECU44は操舵角センサ46により検出される操舵角θ、及び位置センサ43のオンオフ状態に基づき、左右のパイロット圧遮断機構38l,38rのソレノイド42l,42rを制御する。具体的にはECU44は、操舵角θが予め設定された操舵判定値θ0以上になり且つ位置センサ43がオフ状態のときに、左右のパイロット圧遮断機構38l,38rのソレノイド42l,42rを励磁し、それ以外のときにはソレノイド42l,42rを非励磁状態に保つ(キャンセル手段)。即ち、操舵角θが操舵判定値θ0以上になると車両1の旋回が開始されると予測でき、位置センサ43のオフ状態では中立位置のメインスプール34により両バイパス通路28l,28rが閉鎖されており、この状態に限ってソレノイド42l,42rが励磁されることになる。
【0045】
次に、以上のように構成されたリアサスペンション装置の作用を説明する。
まず、車両1が直進状態で走行している場合について述べる。このときには、ECU44により左右のパイロット圧遮断機構38l,38rのソレノイド42l,42rが非励磁状態に保たれてサブスプール40l,40rが開放位置に切り換えられているため、左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rのメインチャンバ室21l,21rの圧力がメインスプール34の左右両端に作用している。
【0046】
比較的凹凸が少ない路面の走行中には、左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rの伸縮が小さいことから、メインスプール34の左右両端に作用する圧力はほぼ均衡し且つ大きく変動しない。このため、メインスプール34は圧力差に応じて多少は位置変位するもののバイパス通路28l,28rを開放させるまでには至らない。
このような状況でメインスプール34の左右のスプリング36l,36rは、メインスプール34をより確実に中立位置に保つ役割を果たす。これにより左右のバイパス通路28l,28rが閉鎖状態に保持され、左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rは本来の緩衝作用及び減衰作用を奏する。
【0047】
また走行中の路面の凹凸が激しい場合には、
図14に示すように片側の後輪16のみが段差を乗り越える状況が発生する。例えば特許文献1の技術のように、段差乗り越え側のリアサスペンションシリンダ17l,17rの路面への追従性が悪い場合には、リアサスペンションシリンダ17l,17rを介してフレーム2が突き上げられることにより、フレーム2にロール軸回りの応力が発生して多大なダメージを与えてしまう。
【0048】
このとき本実施形態では、段差乗り越え側のリアサスペンションシリンダ17l,17rのメインチャンバ室21l,21rが圧力上昇して、メインスプール34の左右両端に作用する圧力に差が生じる。例えば
図15に示すように右側の後輪16が段差を乗り越えた場合には、右側のリアサスペンションシリンダ17rのメインチャンバ室21rの圧力上昇を受けて、
図7に示すようにメインスプール34が左方に摺動して右側のバイパス通路28rを開放する。よって、右側のリアサスペンションシリンダ17rでは、メインチャンバ室21rから押し出されたオイルが可変減衰装置18のバイパス通路28rを経てサブチャンバ室22rへと流通し、その減衰力が大幅に低下する。
【0049】
減衰力の低下は路面への追従性の向上につながり、
図15に示すように、右側のリアサスペンションシリンダ17rは段差に応じて急激に圧縮されるため、リアサスペンションシリンダ17rを介したフレーム2への突き上げが防止される。左側の後輪16が段差を乗り越えた場合も同様であり、左側のリアサスペンションシリンダ17lの減衰力が低下して上記と同じ作用を奏する。よって、本実施形態のリアサスペンション装置によれば、路面の段差を乗り越える際のリアサスペンションシリンダ17l,17rの追従性を向上でき、もって路面からの突き上げによりフレーム2に発生する応力を低減することができる。
【0050】
なお、以上の説明から明らかなように、車両1の段差の乗り越え時に、その側のリアサスペンションシリンダ17l,17rの減衰力が瞬間的に低下するだけであり、低下した減衰力は乗り越えの直後に本来の値に回復する。また、左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rのバネ定数は、段差の乗り越えに関わらず終始変化しない。このため段差を乗り越えた後に、車両1は速やかに通常の水平姿勢に復帰して何ら問題なく走行を継続可能となる。
【0051】
一方、車両1の旋回のために運転者によりステアリング45が操作され、このときメインスプール34が中立位置にある場合には、ECU44により左右のパイロット圧遮断機構38l,38rのソレノイド42l,42rが励磁されてそれぞれのサブスプール40l,40rが閉鎖位置に切り換えられる。このためメインスプール34が中立位置に保持されて左右のバイパス通路28l,28rを共に閉鎖し、左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rが通常通りの減衰作用を奏する。運転者による操舵開始から車両1の旋回開始によりロールが発生するまでには若干のタイムラグがあるため、ロールの発生以前にソレノイド42l,42rの励磁によりバイパス通路28l,28rの閉鎖が完了する。
【0052】
車両1の走行安定性のためには旋回時のロールを抑制することが望ましく、特に本実施形態のような鉱山用ダンプトラック1では、空荷時に比較して積荷時に車体重量が増加するだけでなく、
図1に示すように重心位置が1.5倍程度も高くなる。よって、鉱山用ダンプトラック1では特にロール抑制がより重要視されるが、この旋回時に可変減衰装置18が機能すると、旋回外側(メインチャンバ室21l,21rが圧力上昇した側)のリアサスペンションシリンダ17l,17rの減衰力が低下してロールを助長させる可能性がある。
【0053】
しかしながら、上記のように車両1の旋回に伴うロールの発生以前に分圧通路33l,33rが閉鎖されてバイパス通路28l,28rの開放が未然に防止されるため、左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rは減衰力を低下させることなく、通常通りの減衰力を発生して車両1のロールを効果的に抑制する。よって、本実施形態のリアサスペンション装置によれば、段差を乗り越え時のフレーム2の応力を低減した上で、車両1の旋回時のロールを抑制して十分な走行安定性を確保することができる。
また、ステアリング45が操作されたとしても、メインスプール34が中立位置にないとき、換言すると左右何れかのバイパス通路28l,28rが開放されているときには、ソレノイド42l,42rは非励磁状態に保たれる。何れかのバイパス通路28l,28rが僅かでも開いている状態で車両1の旋回が開始されると、開いている側のバイパス通路28l,28rを経てオイルが流れ、その側のリアサスペンションシリンダ17l,17rの減衰力が低下して旋回に適さなくなる。中立位置に関する条件を付加することにより、このような事態を未然に防止することができる。
【0054】
加えて、以上の説明から明らかなように本実施形態のリアサスペンション装置は従来からの左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rに対して可変減衰装置18を付加したものであり、可変減衰装置18とは関係なくリアサスペンションシリンダ17l,17rが独立して機能する。このため、可変減衰装置18が故障した場合であっても、左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rは通常の緩衝機能及び減衰機能を奏するため、車両1が走行不能に陥る事態を未然に防止することができる。
【0055】
ところで、本実施形態では可変減衰装置18の左右の分圧通路33l,33rにそれぞれパイロット圧遮断機構38l,38rを設けて、メインスプール34の左右両端に作用する圧力をそれぞれのパイロット圧遮断機構38l,38rにより個別に制御したが、左右のパイロット圧遮断機構38l,38rを単一のものに置き換えてもよく、以下に別例として説明する。
【0056】
図16は別例のリアサスペンション装置の制御系を示す図、
図17は別例の可変減衰装置及びパイロット圧遮断機構の内部構造を示す断面図である。
この別例においては、パイロット圧遮断機構51が単一のものに統合されると共に、可変減衰装置18に対し別体としてフレーム2上の近接位置に配設されている。このため可変減衰装置18は、上記実施形態のものから左右のパイロット圧遮断機構38l,38rが省略され、上記した切換弁37としてのみ機能する。
なお、可変減衰装置18と左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rとの接続状態は上記実施形態と同様であり、左右のメインチャンバ側ポート29l,29rは配管24l,24rを介して左右のメインチャンバ室21l,21rと接続され、左右のサブチャンバ側ポート30l,30rは配管25l,25rを介して左右のサブチャンバ室22l,22rと接続されている。
【0057】
一方、パイロット圧遮断機構51のケーシング52には左右一対の分圧通路52l,52rが形成され、これらの分圧通路52l,52rを貫通するようにスリーブ孔53が左右方向に形成されている。スリーブ孔53内には4ポート型のサブスプール54が摺動可能に配設され、スプリング55により左右の分圧通路52l,52rを開放する方向に付勢されると共に、その付勢力に抗してソレノイド56により左右の分圧通路52l,52rを閉鎖する方向に駆動されるようになっている。
【0058】
左右の分圧通路52l,52rの上側のポートは、それぞれ配管57l,57r及び配管24l,24rを介して左右のリアサスペンションシリンダ17l,17rのメインチャンバ室21l,21rと接続されている。また、左右の分圧通路52l,52rの下側のポートは、それぞれ配管58l,58rを介して可変減衰装置18の左右の分圧通路33l,33rと接続されている。
【0059】
パイロット圧遮断機構51のソレノイド56は、上記実施形態と同様にステアリング45の操舵角θに応じてECU44により制御され、その励磁状態に応じてサブスプール54により左右の分圧通路33l,33rが同時に開閉される。重複する説明はしないが、サブスプール54の開放位置では可変減衰装置18によるリアサスペンションシリンダ17l,17rに対する減衰力の低下機能が奏され、サブスプール54の閉鎖位置では当該機能が無効化される。
【0060】
そして、この別例では、パイロット圧遮断機構51の左右の分圧通路33l,33rを共通のサブスプール54及びソレノイド56で開閉する構成のため、左右のパイロット圧遮断機構38l,38rを個別に設けた上記実施形態に比較して、部品点数を減少させて製造コストを低減することができる。
さらに、この別例では、可変減衰装置18に対し別体でパイロット圧遮断機構51を設けているため、それぞれの構成が簡略化されると共に汎用品を流用することが可能となり、これらの要因により製造コストを一層低減することができる。
【0061】
ところで、上記実施形態では、ステアリング45の操舵角θに基づきパイロット圧遮断機構38l,38rのソレノイド42l,42rを励磁することにより、車両1の旋回に伴うロールの発生よりも先行して可変減衰装置18のバイパス通路28l,28rを閉鎖したが、これに限るものではない。
例えば車両1の旋回動作は、ステアリング操作に応じて左右の前輪9(従動輪)に操舵角が形成され、左右前輪9の回転速度に差(旋回内輪<旋回外輪)が生じて前輪及び後輪でそれぞれ旋回内輪から旋回外輪への荷重移動が発生し、これによりロールが発生する過程を経て行われる。そこで、左右前輪9の回転速度の差(車両1の旋回挙動)に基づきパイロット圧遮断機構38l,38rのソレノイド42l,42rを励磁するようにしてもよい。
【0062】
より具体的には、
図18に示すように、左右の前輪9に車輪速センサ61l,61r(旋回挙動検出手段)を設けて検出情報をECU44(
図13に示す)に入力させる。そして、左右前輪9の車輪速Nfの差が予め設定された回転判定値Nf0以上になり且つ位置センサ43がオフ状態のときには、パイロット圧遮断機構38l,38rのソレノイド42l,42rを励磁し、それ以外のときにはソレノイド42l,42rを非励磁状態に保つように構成すればよい。この場合でも上記実施形態と同様のパイロット圧遮断機構38l,38rに関する作用効果を得ることができる。
【0063】
例えば鉱山用ダンプトラック1を自動操縦化した場合には、必ずしも前輪9の操舵に応じてステアリング45を回転させる必要はないため、ステアリング45を中立位置で固定したまま前輪9をアクチュエータで操舵して車両1を旋回させる構成もあり得る。このときにはステアリング45の操舵角に基づく手法は採用できないが、この別例のように従動輪である前輪9の車輪速Nfの差を指標とすれば、的確にメインスプール34の切換を規制して車両1のロールを抑制することができる。
【0064】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、鉱山用ダンプトラック1のサスペンション装置に具体化したが、運搬車両を対象としたものであればこれに限るものではなく、例えば通常の大型トラックのサスペンション装置として具体化してもよい。
【0065】
また上記実施形態では、リジッドアクスル14を備えた車軸懸架式のサスペンション装置として具体化したが、これに限らず独立懸架式のサスペンション装置としてもよい。例えば上記実施形態の鉱山用ダンプトラック1はフロントサスペンション7が独立懸架式として構成されているため、そのサスペンション装置としてもよい。具体的には左右のロアアーム8(サスペンション部材)と車体フレーム2との間に配設されるフロントサスペンションシリンダ10を
図5,6に示す構成のものとして可変減衰装置18を付加すればよい。また、鉱山用ダンプトラック1のリアサスペンション12を独立懸架式として構成して可変減衰装置18を付加してもよい。
【0066】
また上記実施形態では、ステアリング45が操作されたときに、左右のパイロット圧遮断機構38l,38rのソレノイド42l,42rを励磁してサブスプール40l,40rを共に閉鎖位置に切り換えたが、これに限るものではない。少なくとも車両1の旋回外輪側の分圧通路33l,33rを閉鎖すればメインスプール34を中立位置に保持できるため、ステアリング45の操作方向に基づき旋回外側を判別して、旋回外輪側のパイロット圧遮断機構38l,38rのソレノイド42l,42rのみを励磁して分圧通路33l,33rを閉鎖するようにしてもよい。