【実施例1】
【0014】
図1は実施例1に係る生体振動検知装置の断面図である。
主振動板1は、長方形の上面(以下「上面板2」という。)を有するとともに、上面板2の短辺側の端部は下方にくの字状に曲がっているとともに、下端部が上面板と平行な平面(以下「下端面3」という。)になっている。
主振動板1は樹脂又は金属等の硬質材料でなっており、成型又は折り曲げ等、適宜の方法によって上記の形状となるように加工される。
副振動板4は、上面板2の短辺とほぼ同じ長さの短辺と、主振動板1の両下端の間隔とほぼ同じ長さの長辺を有する長方形の板であり、主振動板1と同様の硬質材料よりなる。
【0015】
主振動板1と副振動板4との間には、上面板2及び副振動板4の短辺に沿って1つずつ支持部材5が配置され、それぞれ上面板2の下面と副振動板4の上面に固定されて、荷重のかからない状態において上面板2と副振動板4がほぼ平行となるように構成される。
また、上面板2と副振動板4との間の中央付近には、1対又は複数対(
図1では2対)の振動伝達部材6、7が配置され、上側の振動伝達部材6は上面板2の下面に、下側の振動伝達部材7は副振動板4の上面にそれぞれ固定される。
そして、圧電素子で構成されている振動センサ8が上下の振動伝達部材6、7の間に挟まれて固定される。
支持部材5には弾力性のある樹脂等の材料やバネ部材を用い、振動伝達部材6、7には弾力性のある樹脂等の材料を用いる。
【0016】
2つの下端面3のほぼ全面には第1調整部材9が固定され、副振動板4の下面のほぼ全面には第2調整部材10が固定される。
そして、2つの第1調整部材9の下面と第2調整部材10の下面は、荷重のかからない状態又は被験者の荷重がかかった状態においてほぼ面一になるようになっている。
第1調整部材9と第2調整部材10には、弾力性のある樹脂等の材料やバネ部材を用いる。
【0017】
図2は振動センサからの信号を処理する回路の概念図である。
なお、本回路は、呼吸信号、心拍信号、いびき信号を抽出するための一例である。
プリアンプ11は、振動センサ8からの信号を受けて増幅する増幅器であり、第1フィルター12、第2フィルター13及び第3フィルター14は、その増幅された信号のうち、それぞれ0.01〜2Hz、5〜20Hz及び30〜300Hzの信号のみを通過させるバンドパスフィルターである。
そして、第1フィルター12、第2フィルター13及び第3フィルター14を通過した信号は、それぞれ第1アンプ15、第2アンプ16及び第3アンプ17で増幅され、増幅された信号は処理装置18に入力される。
【0018】
処理装置18は、増幅された信号を処理して処理結果を表示したり、通信装置19を介して各種の情報を情報端末20に送信したりするものであるが、入力された信号に関する情報を送信する機能のみに絞れば小型化することができる。
通信装置19としては、各種の有線通信装置や無線通信装置のいずれを用いても良く、情報端末20としては、パーソナルコンピュータや携帯端末(スマートフォン又はタブレット端末等)のいずれを用いても良いが、ブルートゥース(登録商標)を用いて携帯端末に送信するようにすれば、システム全体が小型軽量となり手軽に持ち運べるようになるので、睡眠時における各種データの計測、蓄積及び送信が旅先や出張先でも可能となる。
【0019】
図3は実施例1に係る生体振動検知装置の3自由度振動系モデルを示す図である。
まず、各記号について説明すると、m
1は主振動板1の質量、m
2は振動センサ8の質量、m
3は副振動板4の質量、K
1及びC
1は第1調整部材9のばね定数及び粘性係数、K
2及びC
2は支持部材5のばね定数及び粘性係数、K
3及びC
3は上側の振動伝達部材6のばね定数及び粘性係数、K
4及びC
4は下側の振動伝達部材7のばね定数及び粘性係数、K
5及びC
5は第2調整部材10のばね定数及び粘性係数、x
1は主振動板1の変位量、x
2は振動センサ8の変位量、x
3は副振動板4の変位量を示す。
【0020】
ここで、主振動板1の上面に力Fが加わり第2調整部材10の下面に変位uが伝わった場合の運動方程式は次の数式で表される。
【数1】
【0021】
上記のとおり、実施例1に係る生体振動検知装置は、その特有の構造により3自由度振動系となるため、支持部材5、上側の振動伝達部材6、下側の振動伝達部材7、第1調整部材9並びに第2調整部材10のばね定数及び粘性係数を調整することによって、異なる3つの周波数帯の振動を精度良く検知することが可能となる。
実際に支持部材5、上側の振動伝達部材6、下側の振動伝達部材7、第1調整部材9並びに第2調整部材10のばね定数及び粘性係数を調整するに際しては、数1の運動方程式を用いてコンピュータシミュレーションを行い、設計周波数の組み合わせに対して最適な設計パラメータ、すなわち各部材のばね定数(K
i)及び粘性係数(C
i)を決定することとなる。
設計プロセスとしては、まず各部材のばね定数(K
i)を中心設計周波数f
1〜f
3が得られるように決定する。次に呼吸周期や心拍周期は生理状態によって変化するので、その周波数の変化も感度よくカバーするため、各部材の粘性係数(C
i)を調整する。
例えば、中心設計周波数(f
i)におけるゲインの極大値(g
i)の1/√2(71%)以上となる周波数範囲を求め、その周波数範囲が設計仕様の周波数変化範囲に収まるように、粘性係数(C
i)を決定する。
【0022】
そして、様々な設計周波数の組み合わせについて上記のシミュレーションを行って各部材のばね定数(K
i)及び粘性係数(C
i)を決定するとともに、その決定値に基づいて生体振動検知装置を試作し、実際に呼吸信号、心拍信号及びいびき信号の計測を行って解析を行った結果、以下の事象を見出すに至った。
(1)呼吸信号:基本的に第1調整部材9のばね定数(K
1)と支持部材5のばね定数(K
2)を調整することによって精度良く検知できる周波数が決まるが、体重を加えることで、周波数が下がることから、設計周波数を2〜10倍ほど高めに設定した方が良い。
(2)心拍信号:基本的に第2調整部材10のばね定数(K
5)と振動伝達部材6のばね定数(K
3)又は振動伝達部材7のばね定数(K
4)を調整することによって精度良く検知できる周波数が決まる。
そして、心拍信号はパルス的な信号であるため、設計周波数は実際の心拍信号の周波数より6〜20倍ほど高めに設定した方が良い。
(3)いびき信号:基本的に振動伝達部材6のばね定数(K
3)又は振動伝達部材7のばね定数(K
4)を調整することによって精度良く検知できる周波数が決まり、実際のいびき信号の周波数(20〜200Hz)とほぼ同じ設計周波数とすれば良い。
【0023】
上記の知見を得て中心設計周波数が、それぞれf
1=0.5〜3Hz、f
2=5〜20Hz、f
3=50〜200Hzの範囲内になるようにm
1〜m
3及びK
1〜K
5を決定した。
一例として、m
1=1(kg)、m
2=m
1/100=10(g)及びm
3=100(g)とし、K
1=50、K
2=100、K
3=5000、K
4=25、K
5=25(単位は全てN/m)とした時、f
1=1.68Hz、f
2=8.28Hz、f
3=113.38Hzの中心設計周波数が得られた。
そして、それぞれのK
1〜K
5の値及びC
1〜C
5の決定値から試作した生体振動検知装置を用いて測定した結果、精度良く呼吸信号、心拍信号及びいびき信号を計測できることを確認した。
【0024】
図4は試作したセンサによって得られたセンサ出力とそのセンサ出力をプリアンプ11、第1フィルター12、第2フィルター13、第3フィルター14、第1アンプ15、第2アンプ16、第3アンプ17及び処理装置18を用いて処理して得られた呼吸成分、心拍成分及びいびき成分の信号のグラフであり、呼吸、心拍及びいびきによる振動が1台の生体振動検知装置で精度良く検知できていることが分かる。
【実施例2】
【0025】
図5は実施例2に係る生体振動検知装置の断面図である。
なお、実施例1と共通する構成が多いので、振動センサ8A〜8Cを除いて
図1の番号と同じ番号を付してある。
そして、主振動板1、副振動板4、第1調整部材9及び第2調整部材10は、実施例1に係る生体振動検知装置と同じ構成なので説明は省略する。
また、支持部材5、振動伝達部材6、7及び振動センサ8A〜8Cについても、各部材を構成する材料等は全て実施例1と同じである。
【0026】
実施例2が実施例1と相違している点は、支持部材5、上下の振動伝達部材6、7及び圧電素子で構成されている振動センサ8の数である。
支持部材5は、上面板2及び副振動板4の短辺に沿った箇所に1つずつ配置されるとともに、中央付近に配置されている振動伝達部材6、7及び振動センサ8Bの両側近傍に上面板2及び副振動板4の短辺と平行に1つずつ配置され、それぞれ上面板2の下面と副振動板4の上面に固定されており、実施例1と同様、荷重のかからない状態において上面板2と副振動板4がほぼ平行となるように構成されている。
また、振動伝達部材6、7及び振動センサ8A〜8Cは、上面板2及び副振動板4の間の中央付近と、その両短辺側に1つずつ配置されている。
そして、上側の振動伝達部材6は上面板2の下面に、下側の振動伝達部材7は副振動板4の上面にそれぞれ固定され、振動センサ8A〜8Cは上下の振動伝達部材6、7の間に挟まれて固定されている。
【0027】
実施例2に係る生体振動検知装置の場合、3自由度振動系モデルは実施例1より複雑になるが、同様のシミュレーションによって各部材のばね定数(K
i)及び粘性係数(C
i)を決定することで、3つの周波数帯の振動を精度良く検知できる生体振動検知装置を製作することが可能である。
そして、実施例1と同様の信号処理回路を用いて睡眠時における各種データの計測、蓄積及び送信等が可能であり、3つの振動センサを備えていることから、被験者の姿勢や位置が変わっても、出力の大きい振動センサからの信号を利用することで、実施例1の生体振動検知装置より精度良く呼吸、心拍及びいびきによる振動を検知することができる。
【0028】
さらに、実施例2に係る生体振動検知装置の場合、3つの振動センサ8A〜8Cがある程度の間隔をもって並設されているので、3つの振動センサ8A〜8Cの並んでいる方向が被験者の左右方向になるように、胴部や頭部の下に生体振動検知装置を位置させれば、被験者の姿勢や左右方向の位置を検知することも可能となる。
図6は、実施例2に係る生体振動検知装置の出力信号と被験者の姿勢との関係を示すグラフであり、振動センサ8A〜8Cから得られたセンサ出力のグラフを上から順に並べてある。
この例では、計測開始当初において、振動センサ8Aは仰向けに横になっている被験者の右側、振動センサ8Bは同被験者の中央付近、振動センサ8Cは同被験者の左側に位置させた。
そして、計測の初期においては振動センサ8Aのセンサ出力が大きくなり、計測の中期においては振動センサ8Bのセンサ出力が大きくなり、計測の後期においては振動センサ8Cのセンサ出力が大きくなっている。
これらの結果から、この例では計測の初期において被験者は右を向いており、その後計測の中期において被験者は仰向けになっており、さらに計測の後期において被験者は左を向いているものと判断される。
なお、3つのセンサ出力の大きさの関係には様々なパターンが存在するが、それらのパターンと被験者の姿勢や位置との関係を解析していくことで、被験者の姿勢や位置を的確に判断できるようになり、さらにその判断結果を考慮することで呼吸、心拍及びいびきによる振動の検知精度を向上させることが可能となる。
【0029】
実施例1及び2の生体振動検知装置に関する変形例を列記する。
(1)実施例1及び2の主振動板1は
図1のような断面としたが、端部をコの字状としても良く、端部をくの字状やコの字状とせずに上面板を長方形の板とし、上面板の短辺付近の下面に直接第1調整部材を設けても良い。
(2)実施例1及び2の副振動板2は長方形の板としたが、主振動板1の中央部の下方を含むように配置できれば円形の板や多角形の板でも良い。
また、実施例1の主振動板1と同様に端部をくの字状又はコの字状として、その下端面に第2調整部材を設けても良い。
さらに、実施例1では第2調整部材を副振動板2の下面のほぼ全面に設けたが、四隅付近のみ又は四隅付近と適宜の箇所のみに設けるようしても良い。
(3)実施例1においては、2つの支持部材5を上面板2及び副振動板4の短辺に沿って配置したが、支持部材5は四隅付近が含まれていればどのように配置しても良い。
例えば、四隅付近に4つの支持部材を配置、四隅付近と適宜の箇所に多数の支持部材を配置、長辺付近に2つの支持部材を配置、上面板2及び副振動板4の周辺付近にロの字状の支持部材を配置、上下の振動伝達部材6、7及び振動センサ8が配置されている箇所以外のほぼ全面に支持部材を配置等が考えられる。
実施例2においても、同様に4つの支持部材5を上面板2及び副振動板4の短辺に平行に配置するのに代えて、様々な配置の仕方が考えられる。
(4)実施例1及び2においては、1対又は複数対の振動伝達部材6、7を配置し、振動センサ8を上下の振動伝達部材6、7の間に挟んで固定したが、1つ又は複数の振動伝達部材6のみを上面板2の下面に固定又は1つ又は複数の振動伝達部材7のみを副振動板4の上面に固定し、振動センサ8を振動伝達部材6と副振動板4の間又は上面板2と振動伝達部材7の間に挟んで固定しても良い。
(5)実施例1においては、振動センサ8を圧電素子で構成したが、圧電素子に限らず振動を検知できるものであればどのような素子で構成しても良い。
また、実施例2においても、振動センサ8A〜8Cを圧電素子で構成したが、これらは実施例1と同様、振動を検知できるものであればどのような素子で構成しても良い。
ただし、実施例2において被験者の姿勢や左右方向の位置を精度良く検知するためには、それぞれのセンサにかかる圧力を検知できた方が好ましいので、振動センサ8A〜8Cは圧力を検知できる素子で構成した方が良く、圧力を検知できない素子で構成した場合、圧力が検出可能な素子を併設すると良い。
(6)実施例1及び2においては、支持部材5、振動伝達部材6、7、第1調整部材及び第2調整部材を固定したが、様々な周波数帯の振動に対応できるようにするために、それらのうち、少なくともいずれかひとつを着脱可能として、異なる弾力性のもの(異なるばね定数及び粘性係数を有するもの)に交換できるようにしても良い。
(7)実施例1及び2においては、3つの周波数帯の振動を精度良く検知できるようにするため、3自由度振動系を構成するように主振動板1と副振動板4との相対位置及び主振動板1及び副振動板4と載置面との相対位置も変化できるように、支持部材5、第1調整部材9及び第2調整部材10を弾力性のある材料で構成したが、検知したい振動の周波数帯が2つの場合には、第2調整部材10を除くか弾力性のない剛体とすることで主振動板1と副振動板4との相対位置だけが変化できる2自由度振動系を構成する生体振動検知装置(
図3において副振動板4の変位量x3を0)としても良い。
ただし、検知したい振動の周波数帯が2つの場合であっても、3自由度振動系を構成する生体振動検知装置の方が、2つの周波数帯の振動を精度良く検知できるようにするための調整は容易である。