(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
地震の際、建物のドア枠に対してドアの位置が垂直方向に狂い、ドア錠のボルトが、ドア枠に取り付けられたドア用錠受の内側に強く押し付けられることが起こり得る。ボルトがドア用錠受に強く押し付けられたままだと、ドア開操作を行ってもボルトがドア用錠受から抜けなくなってしまう可能性がある。このような事態を防止するため、従来、耐震性を付与したドア用錠受が利用されている。
【0003】
この種のドア用錠受として、ドア枠に固定される箱受と、箱受の内側に配置される可動体とを組み合わせたものがある。可動体は、ボルトの進退空間になる開放口を有し、箱受に対して垂直方向に一体的に相対移動可能な状態で箱受の内側に配置されている。通常、可動体は、箱受に対して所定の垂直方向位置に規制されている。地震時、可動体は、開放口に進入しているボルトから所定の力以上で押されることにより、箱受に対して垂直方向に相対移動するようになっている。この相対移動により、可動体及びボルト間の垂直方向の相対位置関係が通常時から異常に変化することを防ぎ、ドア開操作によってボルトをドア用錠受から抜くことができる状態を保てる耐震性が実現されている(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
中でも、特許文献1のドア用錠受は、箱受及び可動体の一方に、樹脂ねじの軸を通す貫通口を設け、他方に、その軸をねじ込んで嵌める嵌合口を設け、通常時には、軸に負荷される可動体の重量を箱受側で受けて可動体の垂直方向位置を軸で規制し、地震時には、ドア側のボルトが可動体を垂直方向に押す力が軸にせん断力として作用し、軸のせん断発生により、可動体が箱受に対して垂直方向に相対移動するようになっている。
【0005】
前述の特許文献1のように、可動体の垂直方向位置を軸で規制する構造は、所要の数、配置で貫通口、嵌合口を設けて軸を両口に通すだけでよく、構築が容易である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように軸のせん断に頼って耐震性を発揮する構造では、ボルトから可動体に負荷される外力>軸のせん断に要する力という条件を満足しなければ耐震性を発揮することができず、弱い地震への対応性に限界がある。
【0008】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、通常時、箱受に対する可動体の垂直方向位置を軸で規制する構造としつつ、耐震性を発揮し易いドア用錠受にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明は、ドア枠に固定される箱受と、前記箱受に対して垂直方向に一体的に相対移動可能な状態で当該箱受の内側に配置され、ドア錠のボルトの進退空間になる開放口を有する可動体と、前記箱受及び前記可動体の一方に設けられた貫通口に通されて、他方に設けられた嵌合口に嵌る軸と、を備え、前記貫通口が、前記軸に垂直方向に引っ掛かるように孔幅を変化させた第1孔部と、当該第1孔部から垂直方向に連通する第2孔部とを有し、前記軸が、前記可動体に与えられた垂直方向の外力によって変形させられて前記第1孔部から前記第2孔部に押し込まれるドア用錠受、という構成を採用したものである。
【0010】
上記構成によれば、通常時、貫通口の第1孔部が軸に垂直方向に引っ掛り、軸に負荷される可動体の重量を箱受側で受けて可動体の垂直方向位置を軸で規制することが可能である。
一方、地震時、ドア側のボルトから可動体に垂直方向の外力が与えられると、この外力は、嵌合口に嵌っている軸を貫通口の第1孔部へ押し付ける力として作用する。この押し付けにより、軸が変形させられて、せん断に至る前に第1孔部から第2孔部に押し込まれる。この押し込みに伴い、箱受に対して可動体が垂直方向に相対移動する、という耐震性が発揮される。ここで、軸のせん断に至る前の変形に要する力は、軸のせん断に必要な力よりもずっと小さい。したがって、軸のせん断発生で耐震性を発揮する構造に比して、より小さな外力で耐震性が発揮され易くなる。
【発明の効果】
【0011】
このように、この発明は、上記構成の採用により、通常時、箱受に対する可動体の垂直方向位置を軸で規制する構造としつつ、耐震性を発揮し易いドア用錠受にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の第1実施形態に係るドア用錠受を添付図面の
図1〜
図4に基づいて説明する。
図1に示すように、第1実施形態のドア用錠受は、ドア枠Fに固定される箱受10と、箱受10の内側に配置される可動体20とを備える。
【0014】
図1、
図2に示すように、箱受10は、ドアDのドア錠Rと水平方向に対向する方向に開放された箱状になっている。箱受10は、ステンレス鋼板等の耐食性及び機械的強度に優れた金属板製の金具になっている。箱受10は、垂直方向の上部及び下部の両側において、螺子11でドア枠Fにねじ止めすることにより、ドア枠Fに固定されている。このような箱受10は、一般にトロヨケと呼ばれることがある。
【0015】
可動体20は、ドア錠RのボルトBの進退空間になる開放口21を有する。ボルトBは、鎌形のデッドボルトになっている。ドア錠がラッチボルトを備える場合、可動体20には、ラッチボルトの進退用の開放口を追加してもよい。
【0016】
可動体20は、ドアDに対する垂直方向位置を所定範囲の位置に維持しなければならない機能部を一体的に具備したものであり、箱受10に対して垂直方向に一体的に相対移動可能な状態で箱受10の内側に配置される。図示例の可動体20は、前述の機能部としてストライク22と、ストライク22を補強する補強カバー23と、螺子11や箱受10を覆い隠すトップカバー24とを有する。ストライク22〜トップカバー24は、ストライク22の雌ねじ部にねじ込む螺子25により、一体に締結した構造になっている。
【0017】
箱受10の垂直方向に沿った両側壁には、垂直方向に長い長孔部12が形成されている。一方、可動体20には、水平方向に長い長孔部26が長孔部12と水平方向に連通する位置に形成されている。両長孔部12,26間に亘って挿通されたピン30が加締め止めされている。両長孔部12,26及びピン30は、箱受10及び可動体20の垂直方向の上部及び下部の両側に配置されている。これらピン30等は、特許文献2に開示の技術であり、バール等によるドアDのこじ開けに対して防犯性を向上させる目的で採用されている。
【0018】
さらに、第1実施形態のドア用錠受は、
図1、
図3に示すように、箱受10及び可動体20の一方に設けられた貫通口13に通されて、他方に設けられた嵌合口27に嵌る軸31を備える。
【0019】
図示例の貫通口13は、箱受10の垂直方向に沿った両側壁において、垂直方向に長く形成されている。一方、嵌合口27は、可動体20に形成された雌ねじ孔部からなる。嵌合口27は、垂直方向の上部及び下部の両側において、貫通口13と水平方向に連通する位置に形成されている。軸31は、嵌合口27にねじ嵌合される雄ねじ軸からなる。図示例の軸31は、貫通口13を形成する材料よりも軟質な樹脂材料で一体成形された樹脂螺子の軸部となっている。
【0020】
図3、
図4(a)に示すように、貫通口13の孔幅方向は、垂直方向及び軸31に直角な水平方向に設定されている。貫通口13は、垂直方向の孔長さの途中で孔幅d1から孔幅d2に変化させた孔形状になっている。孔幅d1は、軸31の外径以上であって、嵌合口27の雌ねじ孔径と同じに設定されている。孔幅d2は、軸31の外径よりも小さな孔幅d2に設定されている。軸31の外径は、雄ねじ径として設定されている。軸31は、孔幅d1の孔部に通して嵌合口27にねじ込まれる。
【0021】
すなわち、貫通口13のうち、孔幅d1から孔幅d2に変化するまでの孔部分は、軸31に垂直方向に引っ掛かるように孔幅を変化させた第1孔部13aになっている。
【0022】
また、貫通口13のうち、第1孔部13aから垂直方向(図中上側の貫通口13においては垂直方向下向き、図中下側の貫通口13においては垂直方向上向き)に連通する第2孔部13bは、地震時、垂直方向の外力によって軸径を孔幅d2まで変形させられた軸31の移動を垂直方向に長さlだけ許すための孔部分になっている。
【0023】
また、貫通口13は、第1孔部13aに垂直方向に引っ掛かっている軸31が第2孔部13bと反対の垂直方向(図中上側の貫通口13においては垂直方向上向き、図中下側の貫通口13においては垂直方向下向き)に長さl以上の移動を自由に行えるように形成された第3孔部13cを有する。第3孔部13cは、孔幅d1で第2孔部13bと反対の垂直方向に長さl以上に亘って連続している。
【0024】
通常時、
図4(a)中、下側の貫通口13の第1孔部13aが軸31に垂直方向下向きに引っ掛るため、軸31に負荷される可動体20の重量を箱受10側で受けて、箱受10に対する可動体20の垂直方向下向きの位置を軸31で規制することが可能である。また、図中上側の貫通口13の第1孔部13aが軸31に垂直方向上向きに引っ掛かることが可能なため、箱受10に対する可動体20の垂直方向上向きの位置を軸31で規制することも可能である。
【0025】
一方、地震時、
図1に示すドア枠FとドアD間に垂直方向の相対的な位置ずれが生じ、例えば、ボルトBが開放口21の上辺部を垂直方向上向きに押した場合、箱受10に対して可動体20を垂直方向上向きに相対移動させようとする上向きの外力が可動体20に与えられる。図中下側の軸31は、可動体20の嵌合口27に嵌っているので、可動体20と一体に垂直方向に移動可能な状態に保持されている。したがって、図中下側の軸31は、可動体20に与えられた上向きの外力により、ドア枠Fに固定されている箱受10の図中下側の貫通口13の第1孔部13aへ垂直方向上向きに押し付けられる。これにより、図中下側の軸31が孔幅方向に小さくなるように変形させられ、せん断に至る前に孔幅d2以下となり、
図4(b)に示すように図中下側の貫通口13の第2孔部13bに押し込まれる。これに伴い、箱受10に対して可動体20が垂直方向上向きに相対移動する、という耐震性が発揮される。このとき、図中上側の軸31は、図中上側の貫通口13のうち、垂直方向長さl以上かつ孔幅d1をもった第3孔部13c内を垂直方向上向きに円滑に移動するため、可動体20の垂直方向上向きの移動を邪魔しない。
【0026】
なお、図中下側の軸31が長さlを移動して図中下側の貫通口13の上端に当接しても尚、可動体20が上向きに押された場合、図中下側の軸31がせん断される場合は起こり得る。この場合、可動体20が箱受10に対して垂直方向上向きに相対移動可能な限界は、長孔部12内でピン30に許された垂直方向の移動限界で決まることになる。ここでは、
図1に示す可動体20がボルトBにより垂直方向上向きに押された場合を例に説明したが、ボルトBにより垂直方向下向きに押された場合は、
図4(b)の例とは逆に図中上側の軸31が図中上側の貫通口13の第2孔部13bへ押し込まれ、図中下側の軸31が図中下側の第3孔部13cを移動する点で異なるだけなので、詳細な説明を省略する。
【0027】
地震時、第1孔部13aに垂直方向に押し付けられた軸31のせん断に至る前の変形(孔幅d2相当への変形)に要する力は、軸31のせん断に必要な力よりもずっと小さい。したがって、軸31のせん断発生で耐震性を発揮する構造に比して、より小さな外力で耐震性が発揮され易くなる。
【0028】
このように、第1実施形態のドア用錠受は、箱受10及び可動体20の一方に設けられた貫通口13に通されて、他方に設けられた嵌合口27に嵌る軸31がボルトBから可動体20への垂直方向の外力によって変形させられて貫通口13の第1孔部13aから第2孔部13bに押し込まれるようにしているので、通常時、箱受10に対する可動体20の垂直方向位置を軸31で規制する構造としつつ、耐震性を発揮し易くすることができる。
【0029】
なお、第1実施形態の第2孔部13bでは、軸31が垂直方向に第2孔部13bの端に突き当るまで軸31の変形を継続させるように孔幅d2の領域を垂直方向に長く設けたが、第2孔部13bの全域で軸31の変形を継続させる必要性はなく、第1孔部13aから第2孔部13bへ押し込むための軸31の変形が不要になった後は軸31を垂直方向に自由に移動させるように第2孔部の孔幅を広げてもよい。
【0030】
また、第1実施形態では、貫通口13を垂直方向上向き又は下向きの一方向の軸規制に有効な孔形状とし、上下2か所に貫通口13を垂直方向に相反する向きで配置すると共に、対応の嵌合口27及び軸31を配置したが、貫通口を垂直方向上向き及び下向きの両方向の軸規制に有効な孔形状とし、1箇所に統合することも可能である。例えば、
図5に変更例を示すように、1つの貫通口13’は、軸31に垂直方向上向きに引っ掛かる図中下側の第1孔部13aと、これに垂直方向下向きに連通する第2孔部13bと、軸31に垂直方向下向きに引っ掛かる図中上側の第1孔部13aと、これに垂直方向上向きに連通する第2孔部13bとで構成することができる。
【0031】
また、第1実施形態では、前述の軸31の変形を容易化するため、軸31を樹脂製としたが、貫通口13を形成する材料よりも軟質であれば変形の容易化を図ることができる。軸31の外径や孔幅d2の設定次第で変形に必要な力の大きさを変更することができる。せん断に要する力よりも小さな力で軸31を孔幅d2へ変形させることが可能な限り、例えば、軸31を軟質金属製にすることも可能である。
【0032】
また、第1実施形態では、軸31を雄ねじ軸としたが、軸を嵌合口に対する圧入によって固定されるピン部材から構成してもよい。また、軸を雄ねじ軸とする場合、第1実施形態のような頭付き雄ねじ部品にする必要性はなく、ボルト及びナットで構成し、これに伴い、嵌合口をボルト径に対応の単なる軸通孔にすることも可能である。
【0033】
また、第1実施形態では、可動体20を一体に締結されたユニットとしたが、可動体は、軸に力を伝達可能な限り、箱受に対して垂直方向に一体的に相対移動可能な状態で箱受の内側に配置されておればよい。その一例としての第2実施形態を
図6、7に基づいて説明する。なお、以下では、第1実施形態との相違点を述べるに留める。
【0034】
第2実施形態の箱受40は、ストライク50と共にドア枠Fに螺子70で固定されるようになっている。可動体60は、ストライク50の受け口に連通する開放口61を有する。
【0035】
開放口61は、マグネットホルダ62の内側に形成されている。マグネットホルダ62の天部には、磁石63が固定されている。なお、磁石63は、ドアDの開閉検知用に設置されているものである。ドアDを閉じてボルトBが開放口61内に進出しているとき、ドアDの磁気センサ(図示省略)が磁石63の磁界を出力信号に変換することにより、ドアDが閉じた状態にあることを検知可能となっている。すなわち、磁石63は、ドアDに対する垂直方向の位置を所定範囲に維持することを要する機能部になっている。第2実施形態は、ドアDに対する磁石63の配置の都合上、マグネットホルダ62の天部とボルトBが近くなっており、地震時、マグネットホルダ62の天部にボルトBが強く押し付けられる可能性があるが、ストライク50とボルトB間にゆとりがあり、ボルトBがストライク50に強く押し付けられることが原因でボルトBが抜けなくなる心配がないものとなっている。
【0036】
可動体60は、貫通口64を形成した保持プレート65を上下一対で有する。マグネットホルダ62は、上下両側において、箱受40の垂直方向に沿った背面壁に滑り接触可能な状態に突き当てられた脚部66を有する。脚部66は、保持プレート65に垂直方向に当接している。箱受40の垂直方向に沿った背面壁には、嵌合口41が形成されている。保持プレート65は、軸71により、箱受40に取り付けられている。マグネットホルダ62は、箱受40の垂直方向に沿った背面壁と、ストライク50とによって挟まれ、箱受40に対して垂直方向に相対移動可能となっている。
【0037】
このように、第2実施形態の可動体60は、マグネットホルダ62と、磁石63と、上下一対の保持プレート65とで構成され、マグネットホルダ62がボルトBにより垂直方向に押されると、箱受40に対して同垂直方向に相対移動するマグネットホルダ62の脚部66によって保持プレート65が同垂直方向に押されて移動させられるので、箱受40に対して垂直方向に一体的に相対移動することができる。なお、第2実施形態では、可動体60に貫通口64を設け、箱受40に嵌合口41を設けたが、逆の配置にしてもよい。
【0038】
今回開示された各実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。