(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した油圧ショベルの吸気構造を転圧機械に転用することも考えられるが、以下の点で問題がある。
上記特許文献1には明示されていないが、固定ブラケットにより支持された中間パイプからホースを介して重量物であるエアクリーナを支持できないため、エアクリーナは独立して機械室内の構造物に固定されているものと推測される。結果として、中間パイプ及び吸気レゾネータの他端を支持する固定ブラケットとは別個に、エアクリーナ用の支持部材を設置する必要が生じ、限られた車体内部に設置スペースを確保することは困難であった。
また転圧機械の生産工程では、狭い車体内部でエンジンの吸気系を構成するエアクリーナや吸気レゾネータ等を個別に組み付ける必要があり、生産性が非常に悪いという問題もあった。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、エンジンの吸気系の占有スペースを縮小し、限られた車体内部のスペースを無駄に消費することなくエンジンの吸気系を設置できると共に、生産工程において車体内部へのエンジンの吸気系の組付作業を容易に実施することができる転圧機械の吸気構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の転圧機械の吸気構造は、車体のエンジン室内に配設されて車体の構造体に取り付けられたブラケットと、ブラケットに固定されたエアクリーナと、導入口より吸気を導入してエアクリーナに案内する第1の吸気管と、エアクリーナにより濾過された吸気をエンジンの吸気マニホールドに案内する第2の吸気管と、第1の吸気管の中間箇所に一端を接続され、他端をブラケットに固定されて閉塞された吸気レゾネータとを備え
、エンジン室内の一側には、車体の側面を経て外気が採り入れられるラジエータ室が画成され、エンジン室内の他側には、ブラケットによりエアクリーナが配設され、第1の吸気管が、導入口をラジエータ室内に開口させると共に、エンジン室を横切ってエアクリーナに接続されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の転圧機械の吸気構造によれば、エアクリーナの固定と吸気レゾネータの他端の支持とが共通のブラケットで行われるため、エンジンの吸気系の占有スペースを縮小し、限られた車体内部のスペースを無駄に消費することなくエンジンの吸気系を設置できると共に、生産工程では、作業し易いエンジン室の外部でエンジンの吸気系をアセンブリー状態として組立可能となり、狭いエンジン室内への作業はアセンブリー化した後の吸気系の組付のみで完了することから、車体内部へのエンジンの吸気系の組付作業を容易に実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を振動ローラ車両の吸気構造に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の吸気構造が適用された振動ローラのフード閉鎖時を示す正面図、
図2は同じく振動ローラのフード開放時を示す正面図、
図3は前部車体の内部を示す平面図である。
振動ローラ1(転圧機械)の車体は、前部転圧輪2を備えた前部車体3(車体)と後部転圧輪4を備えた後部車体5とから構成されている。これらの前部車体3と後部車体5とは、センタピン6を介して水平方向に屈曲可能なアーティキュレート式に連結され、相互に屈曲することで車両を旋回させるようになっている。前部転圧輪2はほぼ車幅と対応する長さを有する金属ドラムから構成され、後部転圧輪4は計4本のゴムタイヤから構成されている。
【0010】
後部車体5上には、水を貯留した貯水タンク7が設置されている。貯水タンク7には、前部及び後部転圧輪2,4の近接位置に配設された前部及び後部散水ノズル8,9が図示しない配管及び散水ポンプを介して接続されている。締め固め作業時には前部及び後部転圧輪2,4への舗装材の付着防止を目的として、貯水タンク7内の水が散水ポンプにより各散水ノズル8,9に供給されて前部及び後部転圧輪2,4へと散水される。
【0011】
後部車体5上の前側位置にはステアリング10を備えた操作台11が設置され、操作台11の後側には運転席12が設置されている。運転席12に着座した作業者はステアリング10及び操作台両脇の前後進レバー13や足下のブレーキペダルを操作し、その操作に応じて振動ローラ1が走行するようになっている。
【0012】
前部車体3はフレームとして機能する前壁14、左右両側壁15,16、後壁17及び底壁18により形作られ、その内部には上方に開口するようにエンジン室19が画成されている。エンジン室19内の後部にはHST(Hydro Static Transmission)の動力源であるエンジン20が搭載され、エンジン20の前側にはHSTの作動油タンク21(構造体)及びバッテリ22が設置されている。エンジン20で駆動される図示しない油圧ポンプにより、作動油タンク21内の作動油が前部及び後部転圧輪2,4の油圧モータに供給されて各転圧輪2,4を回転駆動する。
【0013】
エンジン室19内の右側(一側)には隔壁24によりラジエータ室25が画成され、このラジエータ室25内にはラジエータ26が配設されている。ラジエータ室25内は図示しないスリットを介して外部と連通し、外部から採り入れられた外気とラジエータ26内を循環する冷却水との間で熱交換が行われてエンジン20の冷却作用を奏する。
【0014】
図4はエンジン20の吸気系のレイアウトを示す右斜め前方より見た斜視図、
図5は同じくエンジン20の吸気系のレイアウトを示す分解斜視図である。
図3〜5に示すように、作動油タンク21は底壁18上に強固に固定されて本発明の構造体として機能し、その上面には一対のボルト27によりブラケット28が取り付けられ、ブラケット28はエンジン室19内の左側(他側)、即ちエンジン20を挟んでラジエータ室25の反対側に位置している。ブラケット28は鋼板により製作され、全体として、作動油タンク21の上面に重ねられた水平面28a、水平面28aに対して直交するように溶接されて車両後方に向けて延設された垂直面28b、及び垂直面28bの後部を所定角度に折曲して形成された固定面28cから構成されている。
【0015】
ブラケット28の固定面28cの後端部には一対のボルト孔29が貫設され、これらのボルト孔29に挿入されたボルト30により固定面28cにはエアクリーナ31が締結されている。エアクリーナ31は基本的に前後方向に延びる円筒形状をなしているが、周辺の機器との干渉防止のために、やや前部を右方、後部を左方にずらした姿勢で配設されている。このようなエアクリーナ31の配設状態となるように、ブラケット28の垂直面28bに対する固定面28cの角度が設定されている。但し、ブラケット28の形状はこれに限るものではなく、エンジン室19内の周辺機器のレイアウト等に応じて任意に変更可能である。
【0016】
ラジエータ室25の隔壁24には導入口32が開口形成され、この導入口32とエアクリーナ31の入口31aとは第1の吸気管33を介して接続されている。第1の吸気管33は、T型パイプ34と、そのT型パイプ34の両端に対しそれぞれの一端を嵌め込まれた可撓性を有する一対のゴムホース35,36とから構成されている。
【0017】
一方のゴムホース35の他端は隔壁24の導入口32に嵌め込まれ、他方のゴムホース36の他端はエアクリーナ31の入口31aに嵌め込まれ、各接続箇所はホースバンド37で締結されている。結果として第1の吸気管33は、エンジン室19内の右側に位置するラジエータ室25からエンジン室19を横切って左側に位置するエアクリーナ31まで延設され、ラジエータ室25内に採り入れられた外気をエンジン20の吸入空気としてエアクリーナ31まで案内する役割を果たす。
【0018】
エアクリーナ31の出口31bとエンジン20の吸気マニホールド38とは第2の吸気管39を介して接続され、この第2の吸気管39は、T型パイプ40と、そのT型パイプ40の一端及び分岐端に対しそれぞれの一端を嵌め込まれた一対のゴムホース41,42とから構成されている。一方のゴムホース41の他端はエアクリーナ31の出口31bに嵌め込まれ、他方のゴムホース42の他端は吸気マニホールド38に嵌め込まれ、各接続箇所はホースバンド37で締結されている。なお、T型パイプ40の他端にはホースバンド37により第2の吸気レゾネータ43が接続されている。
【0019】
第2の吸気レゾネータ43の機能は周知のものであり、エンジン20から第2の吸気管39に伝搬される吸気音を第2の吸気レゾネータ43の閉塞端から反射される吸気音と干渉させて相殺することにより吸気音の低減を図っており、その作用は以下の第1の吸気レゾネータ46についても同様である。
【0020】
一方、ブラケット28の右方に面した垂直面28b(一側面)には環状をなす接続口45が溶接され、この接続口45にはゴムホース46の一端が嵌め込まれている。ゴムホース46の他端は第1の吸気管33を構成するT型パイプ34の分岐端に嵌め込まれ、各接続箇所はホースバンド37で締結されている。結果としてゴムホース46は第1の吸気管33の中間箇所から分岐すると共に、反対側の端部をブラケット28により閉塞されることで吸気レゾネータとして機能し、以下、このゴムホースを第1の吸気レゾネータ46と称し、閉塞端を自由端と称する。
【0021】
なお、第1の吸気レゾネータ46に所期の吸気音の低減機能を奏するために、第1の吸気管33からの第1の吸気レゾネータ46の分岐位置(換言するとT型パイプ34の位置であり、両側の一対のゴムホース35,36の長さで決定される)が設定されている。
【0022】
図1,2に示すように、前部車体3上にはフード47が配設され、このフード47は前端に設けられた図示しないヒンジを中心としてエンジン室19を開閉し得るようになっている。前部車体3を構成する左右両側壁15,16はそれぞれ前半部に比して後半部が段差状に低められており、換言すると、左右両側壁15,16の後半部は下方に抉られた形状をなしている。
【0023】
このような左右両側壁15,16の形状に対応して、フード47の左右両側は前半部に比して後半部が段差状に低められており、換言すると、左右両側の後半部は下方に膨出する形状をなしている。また、図示はしないが、前部車体3の左右両側壁15,16を連結する後壁17も同一高さに、フード47の左右両側を連結する後側も同一高さに設定されている。
【0024】
以上の形状設定により、
図1に示すフード47の閉鎖時には、大きな隙間を生じることなくエンジン室19がフード47により閉鎖される一方、
図2に示すフード47の開放時には、エアクリーナ31及びその周辺部位が左側方に向けて露出される。
【0025】
そして、エンジン20の運転中においては外部からラジエータ室25内に外気が採り入れられてエンジン20の冷却に利用されると共に、その一部が吸入空気として第1の吸気管33を経てエアクリーナ31内に流入する。エアクリーナ31内で濾過された後の吸入空気は第2の吸気管39を経て吸気マニホールド38に流入し、エンジン20のシリンダ内での燃焼に供される。また、運転中のエンジン20から伝搬される吸気音は、第1及び第2の吸気レゾネータ46,43の作用により低減される。
【0026】
運転中のエンジン20は振動を発生することから、その吸気系にもトラブル防止のための振動対策が必要になる。基本的に吸気レゾネータは、吸気管の中間箇所から分岐させて端部を閉塞した構成のため、全長が短い第2の吸気レゾネータ43では片持ち支持(T型パイプ40側でのみ支持)で原理的に機能すると共に、振動にも十分に耐え得る。しかし、全長が長い第1の吸気レゾネータ46を片持ち支持すると、振動に同期した自由端(閉塞端側)の揺れによりホース抜けが発生することから、トラブル防止のために自由端を支持する必要がある。
【0027】
そして本実施形態では、元々エアクリーナ31の固定のために設けられているブラケット28を利用して第1の吸気レゾネータ46の自由端が支持されている。即ち、エアクリーナ31の固定と第1の吸気レゾネータ46の自由端の支持とが共通のブラケット28で行われるため、エンジン20の吸気系の占有スペースを縮小できる。結果として、エンジン20の振動に起因する第1の吸気レゾネータ46のホース抜け等のトラブルを未然に防止した上で、限られたエンジン室19内のスペースを無駄に消費することなくエンジン20の吸気系を設置することができる。
【0028】
また、このようにエアクリーナ31及び第1の吸気レゾネータ46に対するブラケット28を共通化したことにより、生産工程では、エンジン室19の外部でエンジン20の吸気系をアセンブリー状態として組立可能となる。具体的には、ブラケット28に対してエアクリーナ31を固定し、エアクリーナ31に第1及び第2の吸気管33,39を接続すると共に、それぞれの吸気管に対応する第1及び第2の吸気レゾネータ46,43を接続し、第1の吸気レゾネータ46については自由端側をブラケット28の接続口45に接続する。
【0029】
以上でエンジン20の吸気系がアセンブリー化され、その吸気系をエンジン室19内に配設した上で、ブラケット28をボルト27により作動油タンク21の上面に固定し、第1の吸気管33の上流側の端部を隔壁24の導入口32に接続し、第2の吸気管39の下流側の端部をエンジン20の吸気マニホールド38に接続すれば、その組付作業が完了する。
【0030】
このように吸気系をアセンブリー化する作業については、作業し易いエンジン室19の外部で容易に実施でき、狭いエンジン室19内への作業はアセンブリー化した後の吸気系の組付のみで完了することから、その生産性を大幅に向上することができる。
【0031】
一方、吸気音の低減機能を奏するために第1の吸気レゾネータ46の自由端を閉塞する必要があり、且つ振動対策のために自由端を支持する必要もある。本実施形態では、鋼板製のブラケット28に環状の接続口45を溶接し、その接続口45に第1の吸気レゾネータ46の自由端を嵌め込んでおり、このような非常に簡単な構成により第1の吸気レゾネータ46の自由端の閉塞と支持とを達成している。よって、ブラケット28の共通化と相俟ってエンジン20の吸気系の構成を簡略化でき、これにより製造コストを低減できるという効果も得られる。
【0032】
また、
図3から明らかなように、第1の吸気管33をエンジン室19内の右側に位置するラジエータ室25からエンジン室19を横切って左側に位置するエアクリーナ31まで延設している。ラジエータ26の熱交換のために低温の外気導入を要するラジエータ室25は前部車体3の側部に配置する必要があり、エアクリーナ31は交換や清掃のために前部車体3の側部に配置することが望ましい。一方で、エンジン20に供給する吸入空気は可能な限り低温であることが望ましく、且つ第1の吸気管33からの第1の吸気レゾネータ46の分岐位置を最適化するために、ある程度の第1の吸気管33の長さを確保する必要がある。
【0033】
上記したラジエータ室25、エアクリーナ31及び第1の吸気管33のレイアウトによれば、以上の全ての要件を満足できる。即ち、エンジン室19内の右側へのラジエータ室25の配置はラジエータ26の熱交換の促進に貢献し、エンジン室19内の左側へのエアクリーナ31の配置は交換や清掃の容易化に貢献し、ラジエータ室25からエアクリーナ31までの第1の吸気管33の延設は、吸入空気の低温化及び第2の吸気レゾネータの分岐位置の最適化に貢献する。
【0034】
エアクリーナ31の配置に関してさらに述べると、例えばエアクリーナ31がエンジン20の直上に配置されたり、或いは作動油タンク21とバッテリ22との間に配置されたりすると、前部車体3の側部に立った作業者がエアクリーナ31に手が届かず、その交換や清掃等の作業が実施し難いものとなる。本実施形態のようにエアクリーナ31がエンジン室19内の左側に配置されると、作業者の間近にエアクリーナ31が位置して交換や清掃作業を容易に実施することができる。
【0035】
しかも、エアクリーナ31の交換や清掃には、前部車体3の左側壁15及びフード47の左側の形状設定も貢献している。即ち、
図2に示すように左側壁15の後半部が下方に抉られた形状をなしているため、フード47を開放すると、エアクリーナ31及びその周辺部位が左側方に向けて露出する。よって、エアクリーナ31の交換や清掃作業は上方からのアクセスのみならず、前方や後方或いは下方からもアクセス可能となり、一層容易に作業を実施することができる。
【0036】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では振動ローラ1に具体化したが、その種別はこれに限るものではなく任意に変更可能である。よって、例えばマカダムローラやタイヤローラ等に適用してもよい。
【0037】
また上記実施形態では、前部車体3の底壁18上に固定された作動油タンク21の上面にブラケット28を取り付けたが、車体の構造体はこれに限るものではない。例えば、ブラケット28を配置すべき位置に前部車体3を形作る何れかの壁(例えば左側壁15)が存在する場合には、その壁を構造体としてブラケット28を直接固定してもよい。