(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリオレフィン系無延伸多層フィルムは、最外層であるラミネート層と、少なくとも1層の中間層と、もう一方の最外層であるヒートシール層とを有する。
【0010】
<ラミネート層>
本発明の多層フィルムにおけるラミネート層はポリオレフィン系樹脂からなる。
上記のポリオレフィン系樹脂は、後述のヒートシール層におけるポリプロピレン系樹脂よりも融点が高いものである。このポリオレフィン系樹脂の融点は、ヒートシール層におけるポリプロピレン系樹脂の融点よりも、3℃以上高いことが好ましく、5℃以上高いことがより好ましく、15℃高いことがさらに好ましい。このことにより、本発明の多層フィルムの製造あるいは積層、ヒートシールなどの際に十分な耐熱性を得ることができる。一方で、上記ポリオレフィン系樹脂の融点とヒートシール層におけるポリプロピレン系樹脂の融点との差は、20℃以下に留めることが好ましい。融点差が過度に大きくなると、多層フィルムにカールが発生する場合があるためである。
【0011】
本発明におけるラミネート層を構成するポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリプロピレン系樹脂、エチレンの単独重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独であるいは2種以上混合して用いられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、その融点が120〜165℃の範囲にあることが好ましく、メルトフローレートMFRが1〜30g/10分の範囲にあることが好ましい。上記融点は、示差走査熱量計(DSC)チャートにおける最大吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)であり;
上記MFRは、JIS K 7210に準拠して測定された値である(融点、MFRとも、本明細書において以下同じ。)。
【0012】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと共重合成分との共重合体を挙げることができる。この共重合成分としては、例えばエチレンおよびα−オレフィンが好ましく、具体的には例えばエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。このポリプロピレン系樹脂における共重合成分の割合は、10モル%以下とすることが好ましく、5モル%以下とすることがより好ましく、3モル%以下とすることがさらに好ましい。
上記エチレン−α−オレフィン共重合体は、上記のポリプロピレン系樹脂に該当するものは包含しない。上記エチレン−α−オレフィン共重合体における共重合成分であるα−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。エチレン−α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィン成分の割合は、1〜20モル%とすることが好ましく、5〜15モル%とすることがより好ましい。
【0013】
本発明の多層フィルムのラミネート層におけるポリオレフィン系樹脂は、上記のようなポリプロピレン系樹脂を含有することが好ましい。ラミネート層は、ポリプロピレン系樹脂のみからなっていてもよく、ポリプロピレン系樹脂とともに、その他の重合体を含有していてもよい。ここで使用されるその他の重合体は、上記したエチレンの単独重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体および熱可塑性エラストマーから選択されることが好ましい。
その他の重合体の含有割合は、ポリオレフィン系樹脂の全体に対して、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下であり、最も好ましくは他の重合体を含有しないことである。
【0014】
[任意成分]
本発明の多層フィルムのラミネート層は、上記のようなポリオレフィン系樹脂以外に、任意的な添加剤として、例えば熱安定剤、加工安定剤、滑剤、増核剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料などを挙げることができる。これらの添加剤は、ポリオレフィン系樹脂を構成する重合体に直接配合する方法によって添加してもよく、あるいはこれらの添加剤を高濃度で含有するマスターバッチとして配合する方法によって添加してもよい。マスターバッチのベース樹脂としては、上記のポリオレフィン系樹脂のうちのいずれかを用いることができる。
上記のような任意成分の使用割合は、ポリオレフィン系樹脂の全体に対して、10重量%以下とすることが好ましく、5重量%以下とすることがより好ましい。最も好ましくはこのような任意成分を含有しないことである。
【0015】
[ラミネート層の厚さ]
本発明の多層フィルムにおけるラミネート層の厚みは、好ましくは1.0〜30μmであり、より好ましくは2.5〜25μmである。ラミネート層をこの範囲の厚みに設定することにより、得られる多層フィルムおよび複合フィルムにおいて、耐熱性および開封性を損なわずに高度の耐衝撃性が得られる点で、好ましい。
【0016】
<中間層>
本発明の多層フィルムにおける中間層の少なくとも1層は長鎖分岐LLDPE(B1)を含有するポリオレフィン系樹脂からなる。
【0017】
[長鎖分岐LLDPE]
本発明における長鎖分岐LLDPE(B1)は、炭素数8以上の分岐を有する直鎖状の低密度ポリエチレンである。
従来技術のフィルムに用いられているLLDPEは、分岐を有する低密度ポリエチレンである点で、本発明における長鎖分岐LLDPE(B1)およびLDPE(低密度ポリエチレン)と共通する。しかし本発明における長鎖分岐LLDPE(B1)は、少なくとも長鎖分岐の含有量、Mw/Mnおよび非結晶性成分量において、従来技術におけるLLDPEおよびLDPEとは異なる。
【0018】
本発明における長鎖分岐LLDPE(B1)は、
13C−NMRによって測定した炭素数8以上の分岐の数が、炭素原子1,000個あたり1.5〜5.0個である。この値は好ましくは2.0〜5.0個であり、より好ましくは2.5〜4.5個である。このような長鎖分岐を有するLLDPEを使用することにより、本発明の多層フィルムを包装体としたときに、引裂き開封性とイージーピール性とが両立されるとの利点を得ることができる。
この点、従来技術におけるLLDPEは、分岐の炭素数は6以下の場合が支配的であり、炭素数8以上の分岐が存在したとしてもその量は少なく、炭素原子1,000個あたり、通常は1個以下であり、多くとも2個以下にとどまる。
一方、LDPEは、
13C−NMRの測定上、炭素数8以上の分岐として検出される成分が炭素数1,000個あたり、5個よりも多い。
従って本発明における長鎖分岐LLDPE(B1)は、
13C−NMRによって測定される炭素数8以上の分岐の量によって、従来技術におけるLLDPEおよびLDPEと区別することができる。
【0019】
本発明における長鎖分岐LLDPE(B1)の分岐構造と、従来技術におけるLLDPEの分岐構造とが、
13C−NMR上どのように測定されるかについて以下に説明する。ここで、分岐として、長鎖分岐LLDPEのC
8分岐(1−デセン構造)および従来技術におけるLLDPEのC
6分岐(1−オクテン構造)に着目することにした。
ポリエチレンの主鎖に存在するメチレン炭素は、
13C−NMR上、化学シフトδ=30ppmに観察される。分岐末端のメチル炭素は、C
8分岐およびC
6分岐の双方とも、化学シフトδ=14.06ppmに現れる。ところが、分岐末端から2番目および3番目の各メチレン炭素の化学シフトは、C
8分岐とC
6分岐とで、下記表1に示されるように相違する。
【0021】
本発明では、このうちの分岐末端から2番目のメチレン炭素に着目し、その化学シフトによって分岐の炭素数が8以上であるか否かを判別することとした。
実際の計算にあたっては、化学シフトδ=22.87ppmに現れるピークの面積の、主鎖のメチレン炭素に帰属される化学シフトδ=30ppmに現れるピークの面積に対する相対値を評価することとなる。
上記のような
13C−NMRの測定は、例えば日本電子(株)製の型式「JNM−ECS400」などの適宜の核磁気共鳴分析装置を用いて、以下の条件で行うことができる。
溶媒:トリクロロベンゼン/重ベンゼンの混合溶媒(75/25容量%)
試料濃度:80mg/2.5mL溶液
測定モード:1H−完全デカップリング
測定温度:120℃
パルス幅:90度パルス
パルス繰返し時間:9秒
積算回数:9,000回
【0022】
本発明における長鎖分岐の含有量は、
C
8分岐の末端から2番目の炭素(化学シフトδ=22.87ppm)のピーク面積を、
重合体鎖を構成するメチレン炭素(化学シフトδ=30ppm)のピーク面積を1,000とした場合の相対値として表される。単位は(個/1,000C)である。
本発明における長鎖分岐LLDPE(B1)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mn(分子量分布)が7.5〜15.0である。この値は、好ましくは8.5〜14.5であり、より好ましくは9.5〜13.5である。このような分子量分布を有する長鎖分岐LLDPEを使用することにより、本発明の多層フィルムを包装体としたときに、引裂き開封性とイージーピール性とが両立されるとの利点を得ることができる。
本発明における長鎖分岐LLDPE(B1)は、GPCによって測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、80,000〜150,000であることが好ましく、90,000〜140,000であることがより好ましい。
【0023】
本発明における長鎖分岐LLDPE(B1)は、昇温溶出分別法によって測定した非結晶性成分量が1〜4重量%である。
昇温溶出分別法は、重合体試料を所定の溶媒中に高温で溶解した溶液をTREF(Temperature Rising Elution Fractionation)カラムに供給し、次いで冷却して該カラム中に重合体試料を析出・吸着させた後、カラムを徐々に昇温して、溶出する留分を分析する方法である。本発明においては、試料供給後のカラムを0℃まで冷却した後に溶媒の供給を開始し、カラム温度を0℃に維持している期間中に溶出する留分を非結晶成分として、該留分の全留分に対する割合を非結晶性成分量として評価する。長鎖分岐LLDPEの非結晶性成分量は、好ましくは1.5〜3.0重量%である。
このような昇温溶出分別法は、例えば、(株)センシュー科学製のTREF装置特型などの適宜の昇温溶出分別(TREF)装置を用いて行うことができる。
上記のような結晶性を有する長鎖分岐LLDPEを使用することにより、本発明の多層フィルムの耐ブロッキング性および腰感(弾性)を確保するとの利点を得ることができる。
参考のため、下記の表2に、代表的な市販品のポリエチレンについて上記各種パラメーターを示した。
【0025】
上記のような本発明における長鎖分岐LLDPE(B1)は、上記の要件を満たすものである限り、どのような方法によって合成されたものであってもよい。例えば公知のチーグラー・ナッタ触媒を、好ましくは適当なドナー化合物とともに用いる方法;フィリップス触媒を用いる方法;メタロセン触媒を用いる方法などにより製造することができる。これらのうち、メタロセン触媒を用いる方法によることが、上記の特性を有する重合体を容易に得られる点で好ましい。
【0026】
メタロセン触媒は、置換または無置換のシクロペンタジエニル配位子を少なくとも1個、好ましくは2個有するメタロセン型遷移金属化合物と、助触媒と、からなる触媒である。上記助触媒としては、例えば有機アルミニウム化合物;有機ホウ素化合物と陽イオンとの錯体;イオン交換性ケイ酸塩などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。メタロセン触媒は、適当な無機物質に担持されていてもよい。メタロセン触媒は、当業界において既に公知であり、当業者は適当なメタロセン触媒をその目的に応じて適宜選択して用いることができる。
【0027】
[その他の重合体]
本発明の多層フィルムにおける中間層の上記少なくとも1層は、上記のような長鎖分岐LLDPE(B1)以外に、その他の重合体を含有していてもよい。
ここで使用することのできるその他の重合体としては、例えばポリプロピレン系樹脂(B2)、長鎖分岐LLDPE(B1)以外のポリエチレン(B3)、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。
ポリプロピレン系樹脂(B2)としては、例えばラミネート層を構成するポリオレフィン系樹脂としてのポリプロピレン系樹脂について、上記に説明した樹脂と同様の樹脂を使用することができる。
長鎖分岐LLDPE(B1)以外のポリエチレン(B3)としては、例えばHDPE、LLDPE、LDPEなどを挙げることができる。
【0028】
本発明の多層フィルムにおける中間層が上記した他の重合体のうちポリプロピレン系樹脂(B2)および長鎖分岐LLDPE(B1)以外のポリエチレン(B3)よりなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含有することにより、前記多層フィルムを包装体としたときのイージーピール強度を調整することができるので好ましい。
上記のような観点から、本発明の多層フィルムの中間層の上記少なくとも1層におけるポリオレフィン系樹脂は、
長鎖分岐LLDPE(B1)のみからなるか、あるいは、
長鎖分岐LLDPE(B1)と、
上記のようなポリプロピレン系樹脂(B2)および長鎖分岐LLDPE(B1)以外のポリエチレン(B3)よりなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と
からなることが好ましい。
【0029】
本発明の多層フィルムの中間層の上記少なくとも1層は、上記のようなポリオレフィン系樹脂のみからなり、その他の樹脂を含有しないことが好ましい。
本発明の多層フィルムの中間層の上記少なくとも1層におけるポリオレフィン系樹脂は、上記のような樹脂をそれぞれ以下のような割合で含有することが好ましい。
長鎖分岐LLDPE(B1):好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上
ポリプロピレン系樹脂(B2):好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下、および
長鎖分岐LLDPE(B1)以外のポリエチレン(B3):好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下
上記において、長鎖分岐LLDPE(B1)、ポリプロピレン系樹脂(B2)および長鎖分岐LLDPE(B1)以外のポリエチレン(B3)の合計は100重量%である。
【0030】
[任意成分]
本発明の多層フィルムの中間層は、ラミネート層の任意成分として記載したような添加剤を、同様の態様で含有していてもよい。
【0031】
[中間層の態様]
本発明の多層フィルムにおける中間層は、一層のみからなっていてもよく、二層以上が積層されたものであってもよい。後者の場合、中間層を構成する各層は、上記のようなポリオレフィン系樹脂から選択される。各層を構成するポリオレフィン系樹脂は、それぞれ、ポリオレフィン系樹脂の種類、ならびに任意成分であるその他の重合体および添加剤の有無ならびにその種類および含有割合のすべてが同じであってもよく、これらのうちの1つ以上が相違していてもよい。
中間層の厚みは、好ましくは5〜80μmであり、より好ましくは10〜50μmである。中間層をこの範囲の厚みに設定することにより、多層フィルムとしたときの剛性を損なわずに、得られる多層フィルムおよび複合フィルムにおいて、高い耐衝撃性および優れた写像性が得られる点で、好ましい。
中間層がポリオレフィン系樹脂の積層体からなる場合、その積層数は2〜4層であることが好ましく、2〜3層であることがより好ましい。各層のポリオレフィン系樹脂は同一でも異なっていてもよい。この積層体の厚みは、中間層の厚みとして上記した範囲内とすることが好ましい。積層体を構成する各層の厚みは、2〜40μmとすることが好ましく、5〜25μmとすることがより好ましい。
【0032】
<ヒートシール層>
本発明の多層フィルムにおけるヒートシール層は、ポリプロピレン系樹脂を含有するポリオレフィン系樹脂からなる。
このポリプロピレン系樹脂は、プロピレン−エチレン共重合体(C)を70重量%以上含有するポリプロピレン系樹脂を含有することが好ましい。このヒートシール層のポリプロピレン系樹脂における重合体は、上記プロピレン−エチレン共重合体(C)のみからなっていてもよく、該プロピレン−エチレン共重合体(C)とともにその他の重合体を含有していてもよい。
ヒートシール層のポリプロピレン系樹脂にプロピレン−エチレン共重合体(C)の配合は、得られる多層フィルムおよび複合フィルムの、耐ブロッキング性、低温ヒートシール性、ヒートシール部の強度およびヒートシール部の耐ピンホール性の向上に寄与する。ヒートシール層のポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン−エチレン共重合体(C)の割合が70重量%よりも少ない場合には、上記効果の発現の程度が不足し、好ましくない。ヒートシール層のポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン−エチレン共重合体(C)の割合は、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。
【0033】
上記プロピレン−エチレン共重合体(C)は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比で表される分子量分布Mw/Mnが好ましくは1.5〜3.5であり、より好ましくは1.8〜3.2であり、さらに好ましくは2.0〜3.0である。プロピレン−エチレン共重合体(C)のMw/Mnが1.5よりも小さいと溶融張力が過小となって、製膜性に劣りがちとなる。一方で多層フィルムとしたときの耐ブロッキング性を確保し、多層フィルムおよび複合フィルムにおける光学的特性を確保する観点から、Mw/Mnは3.5以下とすることが好ましい。上記プロピレン−エチレン共重合体(C)は、そのMwが45万〜10万であることが好ましく、40万〜20万であることがより好ましい。
上記プロピレン−エチレン共重合体(C)は、JIS K 7210に準拠して230℃において荷重2.16kgにて測定したメルトフローレートMFRが好ましくは1〜30g/10分であり、より好ましくは5〜15g/10分である。MFRが1g/10分より小さいと溶融粘度が高すぎるので、多層フィルムの製造時に製膜機(例えば押出機)内の圧力が過度に高くなり、生産性が低下することのほか、膜厚不均一、メルトフラクチャーなどの外観不良を引き起こす場合がある。一方でMFRが30g/10分を超えると、中間層の樹脂との溶融粘度差が過大になることに起因して外層の膜厚が不均一となることのほか、多層フィルムとしたときの耐ブロッキング性が損なわれる場合がある。
【0034】
上記プロピレン−エチレン共重合体(C)は、融点が120〜140℃であることがより好ましく、120〜135℃であることがさらに好ましい。この範囲の温度に融点を示すプロピレン−エチレン共重合体(C)は、多層フィルムを製造する際の耐熱性と、多層フィルムまたは複合フィルムにしたときの透明性と、のバランスに優れることとなる点で好ましい。
上記プロピレン−エチレン共重合体(C)におけるエチレン単位の含有割合は、好ましくは1〜10モル%であり、より好ましくは2〜5モル%である。エチレン単位の含有割合をこの範囲に設定することにより、得られる多層フィルムにおいて、透明性を損なわずに優れた耐ブロッキング性を発現することが可能となり、好ましい。
上記プロピレン−エチレン共重合体(C)は、メタロセン系触媒を用いて重合されたものであるのが好ましく、メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン−エチレン共重合体(C)は、得られる多層フィルムが高度の耐ブロッキング性を示し、しかも多層フィルムおよび複合フィルムとしたときに優れた光学特性を示すこととなる点で、好ましい。
【0035】
メタロセン触媒は、置換または無置換のシクロペンタジエニル配位子を少なくとも1個、好ましくは2個有するメタロセン型遷移金属化合物と、助触媒と、からなる触媒である。上記助触媒としては、例えば有機アルミニウム化合物;有機ホウ素化合物と陽イオンとの錯体;イオン交換性ケイ酸塩などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。メタロセン触媒は、適当な無機物質に担持されていてもよい。メタロセン触媒は、当業界において既に公知であり、当業者は適当なメタロセン触媒をその目的に応じて適宜選択して用いることができる。
【0036】
[その他の重合体]
上記その他の重合体としては、本発明の効果を阻害しないものである限り、特に制限なく選択して使用することができる。しかしながら、本発明の主要な特徴の1つである包装材料の引裂開封性の向上を考慮する場合には、その他の重合体として、上記プロピレン−エチレン共重合体(C)以外のポリプロピレン系樹脂(A1)を使用することが好ましい。ポリプロピレン系樹脂(A1)は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比で表される分子量分布Mw/Mnが好ましくは4以上であり、より好ましくは4.5〜10であり、さらに好ましくは5〜8である。ポリプロピレン系樹脂(A1)のMw/Mnが4よりも小さい場合、得られる多層フィルムおよびこれを用いて製造される複合フィルムの引裂強度が過度に高くなり、包装材料における引裂開封性の改良効果が発現し難いこととなる。これは、Mw/Mnが4よりも小さい場合、多層フィルムの製造時に溶融配向が起こり難いことに起因するものと考えられる。一方で、多層フィルム製造時の溶融張力を適当な範囲にとどめ、多層フィルムとしたときの耐ブロッキング性を確保する観点から、Mw/Mnは10以下とすることが好ましい。上記ポリプロピレン系樹脂(A1)は、そのMwが45万〜10万であることが好ましく、40万〜20万であることがより好ましい。
重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、いずれもゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定したポリスチレン換算の値である。
【0037】
ポリプロピレン系樹脂(A1)は、JIS K 7210に準拠して230℃において荷重2.16kgにて測定したメルトフローレートMFRが好ましくは1〜30g/10分であり、5〜15g/10分であることがより好ましい。MFRが1g/10分より小さいと溶融粘度が高すぎるため、多層フィルムの製造時に製膜機(例えば押出機)内の圧力が過度に高くなり、生産性が低下することのほか、膜厚不均一、メルトフラクチャーなどの外観不良を引き起こす場合がある。一方でMFRが30g/10分を超えると、中間層の樹脂との溶融粘度差が過大になることに起因して外層の膜厚が不均一となることのほか、多層フィルムとしたときの耐ブロッキング性が損なわれる場合がある。
上記ポリプロピレン系樹脂(A1)は、融点が120〜150℃であることが好ましく、130〜145℃であることがより好ましい。この範囲の温度に融点を示すポリプロピレン系樹脂(A1)は、多層フィルムを製造する際の耐熱性と、多層フィルムおよび複合フィルムにしたときの透明性と、のバランスに優れることとなる点で好ましい。ここで、樹脂の融点とは、示差走査熱量計(DSC)チャートにおける最大吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)をいう。
【0038】
上記ポリプロピレン系樹脂(A1)は、プロピレンの単独重合体であっても、プロピレンと共重合成分との共重合体であってもよい。ここで使用される共重合成分としては、エチレンおよびα−オレフィンが好ましく、具体的には例えばエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。ポリプロピレン系樹脂(A1)における共重合成分の割合は、10モル%以下とすることが好ましく、5モル%以下とすることがより好ましく、3モル%以下とすることがさらに好ましい。
ヒートシール層は、上記プロピレン−エチレン共重合体(C)のみからなるか、あるいはプロピレン−エチレン共重合体(C)およびポリプロピレン系樹脂(A1)のみからなるものであることが好ましい。
【0039】
[任意成分]
本発明の多層フィルムのヒートシール層は、ラミネート層の任意成分として記載したような添加剤を、同様の態様で含有していてもよい。
【0040】
[ヒートシール層の厚み]
本発明の多層フィルムにおけるヒートシール層の厚みは、好ましくは2〜30μmであり、より好ましくは2.5〜25μmである。ヒートシール層をこの範囲の厚みに設定することにより、得られる多層フィルムおよび複合フィルムにおいて、低温ヒートシール性および耐ピンホール性を損なわずに高度の耐衝撃性が得られる点で、好ましい。
【0041】
<ポリオレフィン系無延伸多層フィルムの厚み>
本発明のポリオレフィン系無延伸多層フィルムの厚みは、その使用態様および用途によって適宜に設定することができる。ここで使用態様とは、本発明の多層フィルムをそのまま包装材料として使用するか、あるいはフィルム基材と貼り合せて複合フィルムとして使用するか、の選択であり、
用途とは、包装材の内容物の種類、重量などをいう。
本発明のポリオレフィン系無延伸多層フィルムの厚みは、例えば10〜200μmとすることができ、好ましくは15〜150μmであり、さらに好ましくは18〜100μmである。
【0042】
<ポリオレフィン系無延伸多層フィルムの製造方法>
本発明の多層フィルムは、実質的に延伸を伴わない方法であれば任意の方法によって製造することができる。「実質的に延伸を伴わない」とは、フィルムの製造過程においてごくわずかの配向が生ずることまでもが禁止される趣旨ではなく、フィルムが明示的な延伸工程を経由しないことを意味する。従って、例えば通常採用される条件下の押出工程を採用した場合に押出方向に若干の配向が生ずることは許容されると解されるべきである。
本発明の多層フィルムを製造する方法としては、例えば押出法、キャスト法などの適宜の方法を採用することができる。本発明の多層フィルムの各層を構成する樹脂は、いずれも適度のMFRを有し、溶融型の製膜機に対する適合性が高いので、上記のうち押出法を採用すると、本発明の効果を最大限に発現できる点で好ましい。押出法のダイとしては、Tダイ、環状ダイなどを使用することができる。しかしながら、層の厚みを精密にコントロールして、優れた光学的特性を得る観点からは、環状ダイを使用することは好ましくなく、Tダイなどを使用することが好ましい。
【0043】
本発明の多層フィルムは、ラミネート層、少なくとも1層の中間層およびヒートシール層を有するから、少なくとも3層からなる多層構造を有する。フィルムを多層化する方法としては、例えば共押出法、インラインラミネート法などの公知の方法を採用することができる。上記共押出法としては、例えばマルチマニホールド法、フィードブロック法などを挙げることができる。これらのうち共押出法を採用することが、各層の厚みを幅方向で均一にコントロールすることが可能であるので好ましい。
本発明の多層フィルムは、これをそのまま、あるいはこれをフィルム基材と貼り合せた複合フィルムの形態で、包装材料として適用することが予定されている。従って、前者の場合には、最外層表面に製品の出所の明示あるいは意匠的効果の発現のために、印刷が施されることがあり、
後者の場合には、最外層表面上に、通常はラミネート層の表面上に、フィルム基材が貼付されることとなる。このような場合に、インクまたは接着剤との親和性ないし密着性を向上する目的で、最外層表面上に、通常はラミネート層の表面上に、インラインまたはオフラインで表面処理を施してもよい。この表面処理としては、例えばコロナ放電処理、フレームまたは火焔処理などを挙げることができる。
【0044】
<複合フィルム>
本発明の複合フィルムは、フィルム基材上に、上記のような多層フィルムを、該多層フィルムのラミネート層側を貼付面として貼付して得られるものである。本発明の複合フィルムは、低温ヒートシール性、ヒートシール強度およびヒートシール部の耐ピンホール性が良好であり、さらに包装材料としたときの引裂開封性にも優れる。
【0045】
[フィルム基材]
本発明の複合フィルムにおけるフィルム基材を構成する材料としては、包装材料の用途に応じて適宜に決定することができる。例えばポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂およびポリアミド系樹脂よりなる群から選択される樹脂、または金属を挙げることができる。フィルム基材は、これらのうちから選択される1種以上の材料を含有する層であることができ、あるいは、このような層の複数からなる積層体であってもよい。
フィルム基材の厚みは、包装材料の用途に応じて任意であるが、例えば5〜75μmとすることができ、好ましくは10〜50μmである。
【0046】
[複合フィルムの厚み]
本発明の複合フィルムの総厚みは、包装材料の用途に応じて任意に設定することができるが、例えば15〜250μmとすることができ、好ましくは20〜200μmであり、より好ましくは23〜150μmである。
【0047】
<複合フィルムの製造方法>
複合フィルムの製造方法は、フィルム基材上に、本発明の多層フィルムを、そのラミネート層側を貼付面として貼付することができる方法であれば、特に限定されない。
フィルム基材と多層フィルムのラミネート層との間の接着は、適当な接着剤によってもよく、熱圧着によってもよい。ここで使用される接着剤としては、市販の接着剤を用いてもよく、あるいは溶融樹脂例えば溶融したポリエチレン系樹脂を用いてもよい。接着剤の塗布方法としては、例えばグラビア、グラビアリバース、オフセットなどの転写手段;バー、コンマバーなどの掻き取り手段などを挙げることができる。
フィルム基材と多層フィルムとを、必要に応じて接着剤層を介して、積層する方法としては、例えばドライラミネーション法、熱ラミネーション法などを挙げることができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の実施例および比較例における各評価は、それぞれ以下の手順によった。
【0049】
<多層フィルムの評価>
(1)ヘーズ
透明性の指標として、日本電色工業(株)製、ヘイズメーター(型番:NDH5000)を用い、JIS K 7136に準拠してヘーズの測定を行った。
【0050】
(2)グロス
光沢性の指標として、スガ試験機(株)製、光沢計(型番:UGV−5D)を用い、JIS K 7105に準拠してグロスの測定を行った。このグロスの評価は、多層フィルムのラミネート層側の面およびヒートシール層側の面の両面についてそれぞれ行った。
【0051】
(3)像鮮明度
写像性の指標として、スガ試験機(株)製、写像性測定器(型番:ICM−1DP)を用い、JIS K 7105に準拠し、光学櫛のスリット幅を0.125mmとして像鮮明度の測定を行った。
【0052】
(4)ブロッキング強度
耐ブロッキング性の指標として、ブロッキング強度を、以下のような引張試験によって調べた。
120mm×120mmの正方形に切り出した多層フィルムを、相接するフィルム間でラミネート層とヒートシール層とが接するように10枚重ねにし、その最上面の全面に10kgの荷重をかけた状態で、温度40℃および湿度70%RHの恒温恒湿機中で3日間すなわち72時間保管した。保管後の多層フィルムのうち、上層の2枚および下層の2枚を除去して真ん中の6枚をとり、隣接する2枚ずつをペアとして剥がし取り、3組のペアを得た。各ペアは、2枚の多層フィルムがラミネート層とヒートシール層とを接して上記の条件で圧着されたものである。この各ペアを30mm×120mmの長方形に切り出し、3つの試験片を得た。各試験片の短辺の一端から剥がして行き、圧着部分が40mmの長さで残るようにした。各試験片に残った圧着部分30mm×40mmが耐ブロッキング性の測定領域となる。
そして、(株)島津製作所製、オートグラフ(型番:AG−500D)を用い、上記試験片の剥がした部分の層を2つのチャックにそれぞれ挟み、測定温度23℃雰囲気、引張速度50mm/分の条件で引張試験を行い、試験片が完全に剥がれるまでの応力の最大値を調べた。n数を3として該最大値の平均値(kPa)を取り、これをブロッキング強度とした。
【0053】
(5)衝撃強度
耐衝撃性の指標として、(株)東洋精機製、フィルムインパクトテスターを用い、次の条件で衝撃強度の測定を行った。
試験片寸法:120mm×120mm
測定温度:23℃雰囲気および0℃雰囲気
【0054】
(6)引裂強度(トラウザー引裂法)
耐引裂き性の指標として、JIS K 7128−1に準拠して、(株)島津製作所製、オートグラフ(型番:AG−500D)を用い、次の条件で引裂強度の測定を行った。
試験片寸法:長辺(縦)100mm、短辺(横)50mm
スリット:試験片の一方の短辺の中央部(長辺から25mmの位置)に、長辺に平行に設けられた長さ20mmの切り込み
引張速度:500mm/分
測定温度:23℃雰囲気
【0055】
<複合フィルムの評価>
(7)ヒートシール強度
ヒートシール性の指標として、2枚の複合フィルムのヒートシール層同士を相接し、各温度でヒートシールした際の強度を、以下のような引張試験によって調べた。
複合フィルムを15mm×200mmの長方形に切り出し、2枚を一組としてヒートシール層同士が相接するように重ね合わせ、(株)安田精機製作所製、YSSヒートシーラーを用いて、以下の条件でヒートシールして試験片を得た。
シールバー幅:5mm
シール圧力:0.1MPa
シール時間:1.0秒
シール温度:150℃、160℃および170℃に変量
上記で得られた試験片のヒートシール部分である5mm×15mmの領域が、それぞれのヒートシール強度の測定領域となる。ここで、長方形の長辺がフィルムの押出方向と一致する場合を「縦」方向の試験片とし、長方形の長辺がフィルムの押出方向と直交する場合を「横」方向の試験片として、1種類の複合フィルムについて2方向×3温度=6種類ずつの試験片を作成した。
(株)島津製作所製、オートグラフ(型番:AG−500D)を用い、各温度でヒートシールした後の試験片のヒートシールしていない部分を開いて2つのチャックにそれぞれ挟み、引張速度300mm/分の条件で引張試験を行い、応力の最大値を調べた。
上記の応力の最大値が3N/15mm以上であれば、当該温度で十分なヒートシール強度が得られていると評価することができ;
13N/15mm以下であれば、イージーピール性を有していると評価することができる。
【0056】
(8)イージーピール性(官能試験)
イージーピール性を調べるために、包装体を人の手により開封する官能試験を行った。
縦ピロー包装機((株)東京自働機械製作所製、型式「TWX1N」)を用いて、複合フィルムのヒートシール層同士を以下の条件でヒートシールして縦120mmおよび横100mmの包装体を得た。
ヒートシール温度 120℃
ヒートシール時間 0.6秒
ヒートシール圧力 0.5MPa
上記で得られた包装体のヒートシールされた袋口上部から30mm離れた部分において、ヒートシールされずに対向している複合フィルム表面のそれぞれを右手と左手の指先でそれぞれ保持し、人間の手によって開封した。
このときの感触(剥離感)を以下の基準で評価し、イージーピ−ル性の指標とした。
A:容易且つ滑らかに剥離できた場合(極めて良好)
B:僅かな抵抗感があったが容易に剥離できた場合(良好)
C:抵抗感がやや大きかったが剥離は可能であった場合(可)
D:剥離できなかった場合またはヒートシール部以外の部分が破壊された場合(不良)
【0057】
(9)引裂き開封性
2枚の複合フィルムのヒートシール層同士をヒートシールした後の引裂き開封性を調べた。
複合フィルムを150mm×100mmの長方形に切り出し、2枚を一組としてヒートシール層同士が相接するように重ね合わせ、(株)安田精機製作所製、YSSヒートシーラーを用いて、以下の条件で4辺をヒートシールして、疑似製袋体を得た。この疑似製袋体の4辺は、端部までヒートシールされている。
ヒートシール温度:160℃
シール圧力:0.1MPa
ヒートシール時間:1.0秒
シール幅:5mm
得られた疑似製袋体の一片のヒートシール部に、カッターを用いて端部から垂直方向に10mmの切れ目を入れ、該切れ目部を横方向(疑似製袋体の面に平行、且つ切れ目の方向に垂直の方向)に手で引裂き、該引裂きに要した力および引裂き部の状態を調べ、以下の基準で判定し、下記の計算式により評価した。
軽い力で切れ目から直線的に切れ、フィルムの伸びや毛羽立ちなどがない:A(極めて良好)
引裂く際に多少重く感じるが、真っ直ぐに切れる:B(良好)
引裂く際に非常に重く感じ、切れたフィルムが伸びて毛羽立ちができている:C(不良)
切れ目からフィルムが伸び、切れない:D(極めて不良)
試験は、3人の試験員によって各自10個の試験片にて行い、合計30個の試験片のうちの「A」判定であった割合を、下記数式(1)により百分率で表して評価した。
「A」判定の割合(%)=(「A」判定の個数÷30)×100 (1)
【0058】
(10)耐ピンホール性
ヒートシール部の耐ピンホール性の指標として、ヒートシール部の探傷試験を行った。
複合フィルムを150mm×100mmの長方形に切り出し、ヒートシール層が内側になるように短辺の中央で2つに折り返した。短辺部分のうちの1辺を開口部として残し、残りの2辺(短辺のうちの1辺部分および長辺)につき、(株)安田精機製作所製、YSSヒートシーラーを用いて、以下の条件でヒートシールして封筒状の疑似製袋体を得た。
ヒートシール温度:160℃
シール圧力:0.1MPa
ヒートシール時間:1.0秒
シール幅5mm
この疑似製袋体の開口部から、(株)タセト製、染色浸透探傷剤、「浸透液 FP−S 標準型」を噴霧し、シール部からの液漏れ状態を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
ヒートシール部よりの液漏れなし:○(耐ピンホール性良好)
ヒートシール部よりの液漏れあり:×(耐ピンホール性不良)
【0059】
実施例1
<多層フィルムの製造>
中間層用のスクリュー径75mmの単軸押出機が1台、両外層(ラミネート層およびヒートシール層)用のスクリュー径50mmの単軸押出機が2台の合計3台の押出機からなる3種3層構成のTダイ方式フィルム製膜装置を用い、各押出機に以下のように樹脂を供給した。
中間層用押出機;b−LLDPE−1(住友化学(株)製、品番:CU7004、融点=108℃、MFR=3.0g/10分(190℃)、Mw/Mn=11.9、密度=0.924g/cm
3、非結晶性成分=2.5重量%、長鎖分岐含有量=4.12個/1,000C)100重量部
ラミネート層用押出機;PP−1(日本ポリプロ(株)製、品番:WFX4TA、融点=126℃、MFR=7.0g/10分(230℃)、Mw/Mn=3.0)70重量部およびPP−2(日本ポリプロ(株)製、品番:FW3GT、融点=148℃、MFR=7.0g/10分(230℃)、Mw/Mn=5.3)30重量部の混合物
ヒートシール層用押出機;PP−1(日本ポリプロ(株)製、品番:WFX4TA、融点=126℃、MFR=7.0g/10分(230℃)、Mw/Mn=3.0)100重量部
【0060】
3つの押出機のいずれについても樹脂温度220℃、滞留時間1分、Tダイ温度230℃の条件で各Tダイより押出し、3層を合わせて25℃の冷却ロールを通して多層フィルムを得た。この多層フィルムは、3層構成であり、総厚みが30μmであり、3層の厚み構成がおよそ1:2:1であった。
次いで、この多層フィルムのラミネート層側の表面の濡れ張力が42mN/mとなるようにコロナ放電処理を施し、さらに40℃において24時間エージングすることにより、ポリオレフィン系無延伸多層フィルムを得た。
このポリオレフィン系無延伸多層フィルムを用いて、上記(1)〜(6)の評価を行った。評価結果は表5に示した。
【0061】
<複合フィルムの製造>
上記のポリオレフィン系無延伸多層フィルムのラミネート層面を、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに貼付して、複合フィルムを製造した。
サン・トックス(株)製、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(品番:サントックス−OP PA20、厚み:20μm、片面コロナ処理品)のコロナ処理面に対し、ドライラミネート用接着剤(東洋モートン(株)製の主剤(品番:TM−595)15g、同社製の硬化剤(品番:CAT−56)2.7gおよび酢酸エチル36.8gを混合した溶液)を、アプリケーター(2ミル設定)により塗布し、80℃において1分間乾燥した。次いで、この接着剤層上に、上記で得られたポリオレフィン系無延伸多層フィルムのラミネート層を、ハンドローラーにて押し付けながら積層した後、40℃において3日間エージングすることにより、複合フィルムを得た。なお、上記の単位「ミル」とは0.001インチの意味であり、1ミルは約25.3995μmに相当する。
上記で得た複合フィルムを用いて、上記(7)〜(10)の評価を行った。評価結果は表5に示した。
【0062】
実施例2〜10および比較例1〜4
上記実施例1において、各層用の押出機に供給する樹脂の種類および配合量を、それぞれ、表3および表4に記載のとおりとしたほかは、実施例1と同様にしてポリオレフィン系無延伸多層フィルムおよび複合フィルムを製造し、それぞれ評価した。
評価結果は表5および表6に示した。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
【表9】
【0070】
【表10】
【0071】
【表11】
【0072】
【表12】
【0073】
なお、表3および表4における樹脂原料の略称は、それぞれ次の意味である。
b−LLDPE−1:住友化学(株)製、品番「CU7004」
b−LLDPE−2:住友化学(株)製、品番「GT140」
b−LLDPE−3:住友化学(株)製、品番「GH051」
LLDPE−1:宇部丸善ポリエチレン(株)製、品番「1540F」
LLDPE−2:宇部丸善ポリエチレン(株)製、品番「2040FC」
LLDPE−3:ダウ・ケミカル日本(株)製、品番「KC8852G」
LDPE−1:住友化学(株)製、品番「L405」
PP−1:日本ポリプロ(株)製、品番「WFX4TA」
PP−2:日本ポリプロ(株)製、品番「FW3GT」
【0074】
上記の樹脂原料のパラメーターを、下記の表7に示した。
表7のMFR欄の数値は、JIS K 7210に準拠して荷重2.16kgにて測定したメルトフローレートである。測定温度は、ポリエチレン系樹脂については190℃、ポリプロピレン系樹脂については230℃とした。
融点は、示差走査熱量計(DSC)によって測定した融点のピーク温度である。
「長鎖分岐」欄に示した長鎖分岐の含有量は、下記の条件下で測定した
13C−NMRの結果から下記数式(2)に従って算出した、炭素原子1,000個あたりの炭素数8以上の分岐の数である。
【0075】
[
13C−NMR測定条件]
測定装置:日本電子(株)製、型式「JNM−ECS400」
溶媒:トリクロロベンゼン/重ベンゼンの混合溶媒(75/25容量%)
試料濃度:80mg/2.5mL溶液
測定モード:1H−完全デカップリング
測定温度:120℃
パルス幅:90度パルス
パルス繰返し時間:9秒
積算回数:9,000回
長鎖分岐含有量(個/1000C)=A÷B×1,000 (2)
(数式(2)中、Aは化学シフトδ=22.87ppmのピーク面積であり、
Bは化学シフトδ=30ppmのピーク面積である。)
【0076】
非結晶成分含有量は、以下の条件下の昇温溶離分別法において、試料供給後のカラムを0℃まで冷却した後に溶媒の供給を開始し、カラム温度を0℃に維持している期間中に溶出する留分が全留分に対して占める重量割合である。
測定装置:(株)センシュー科学製、型番「TREF装置特型」
カラム:内径10mm×300mm
充填剤:クロモソルブP NAW(ジーエルサイエンス(株)製、30/60mesh)
試料溶液濃度:5mg/mL
試料溶液注入量:2mL
溶媒:オルトジクロロベンゼン
流速:1mL/min
試料注入温度:140℃
降温速度:5℃/h
冷却到達温度:0℃
冷却到達温度における維持時間:30分
昇温速度:5℃/h
検出器:赤外検出器
測定波数:3.42μm
【0077】
【表13】