(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6457445
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】医薬タンパク質の新規な安定化剤
(51)【国際特許分類】
C07K 1/02 20060101AFI20190110BHJP
C07K 14/745 20060101ALI20190110BHJP
C07K 14/755 20060101ALI20190110BHJP
C07K 14/535 20060101ALI20190110BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20190110BHJP
A61K 38/37 20060101ALI20190110BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20190110BHJP
C12N 15/27 20060101ALI20190110BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20190110BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20190110BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20190110BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20190110BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20190110BHJP
A61K 47/18 20060101ALN20190110BHJP
A61K 47/34 20170101ALN20190110BHJP
A61K 47/12 20060101ALN20190110BHJP
A61K 47/20 20060101ALN20190110BHJP
【FI】
C07K1/02
C07K14/745
C07K14/755
C07K14/535
A61K38/36
A61K38/37
C12N15/12
C12N15/27
A61P7/00
A61K47/26
A61K47/61
A61K9/08
A61K9/19
!A61K47/18
!A61K47/34
!A61K47/12
!A61K47/20
【請求項の数】21
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-150395(P2016-150395)
(22)【出願日】2016年7月29日
(62)【分割の表示】特願2013-505474(P2013-505474)の分割
【原出願日】2011年4月20日
(65)【公開番号】特開2017-14245(P2017-14245A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2016年8月26日
(31)【優先権主張番号】61/325,975
(32)【優先日】2010年4月20日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】10160470.0
(32)【優先日】2010年4月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500376704
【氏名又は名称】オクタファルマ・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】アイバーソン エルザ
(72)【発明者】
【氏名】オスターバーグ ジョセフィン
(72)【発明者】
【氏名】リップニール ブリタ
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン ウルリカ
(72)【発明者】
【氏名】アガークビスト イレーネ
【審査官】
藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】
特表平05−508315(JP,A)
【文献】
特表2007−527892(JP,A)
【文献】
特表平11−502833(JP,A)
【文献】
特開2009−278980(JP,A)
【文献】
特表昭62−501562(JP,A)
【文献】
特表2006−520366(JP,A)
【文献】
国際公開第2003/086443(WO,A1)
【文献】
特表2008−524338(JP,A)
【文献】
Drug Development and Industrial Pharmacy (2006) Vol.32, pp.765-778
【文献】
Pharmaceutical Research (1997) Vol.14, No.8, pp.969-975
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
A61K 47/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第VII因子、第VIIa因子、第IX因子、第VIII因子、およびHES化G−CSF、ならびにそれらの変異タンパク質または誘導体からなる群より選択される、薬学的または生物学的意義のあるヒト血漿タンパク質または組換えヒト血漿タンパク質であり、分子量が50KDa〜200KDaであるヒト血漿タンパク質を安定化する方法であって、
前記分子量が50KDa〜200KDaであるヒト血漿タンパク質を含む溶液に、メレジトースを10mM〜200mMとなるように添加すること、を含み、
塩化ナトリウム、アルギニン、およびグリシンからなる群より選択される少なくとも1種の増量剤を添加すること、
ポロキサマー188、ポリソルベート80、およびポリソルベート20からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤を添加すること、
クエン酸ナトリウム、マレイン酸、ヒスチジン、2−(4−(2−ヒドロキシ−エチル)−1−ピペラジニル)−エタンスルホン酸(HEPES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、およびTris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)からなる群より選択される少なくとも1種のpH緩衝剤を添加すること、
をさらに含む、前記分子量が50KDa〜200KDaであるヒト血漿タンパク質を安定化する方法。
【請求項2】
前記溶液を固体状態に転移させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
凍結乾燥により前記溶液を固体状態に転移させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト血漿タンパク質が溶液中で安定化される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記メレジトースが、前記分子量が50KDa〜200KDaであるヒト血漿タンパク質を含む溶液に、10mM〜100mMとなるように添加される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種の界面活性剤がポロキサマー188を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種の界面活性剤がポリソルベート80を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種の界面活性剤がポリソルベート20を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種のpH緩衝剤がクエン酸ナトリウムを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種の増量剤が塩化ナトリウムを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1種の増量剤がアルギニンを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
メレジトース以外の少なくとも1種の安定化剤、および少なくとも1種の浸透圧調節剤を添加することをさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第VII因子、第VIIa因子、第IX因子、第VIII因子、およびHES化G−CSF、ならびにそれらの変異タンパク質または誘導体からなる群から選択される、分子量が50KDa〜200KDaであるヒト血漿タンパク質と、
10mM〜200mMのメレジトースと、
塩化ナトリウム、アルギニン、およびグリシンからなる群より選択される少なくとも1種の増量剤と、
ポロキサマー188、ポリソルベート80、およびポリソルベート20からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤と、
クエン酸ナトリウム、マレイン酸、ヒスチジン、2−(4−(2−ヒドロキシ−エチル)−1−ピペラジニル)−エタンスルホン酸(HEPES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、およびTris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)からなる群より選択される少なくとも1種のpH緩衝剤と、
を含む組成物。
【請求項14】
液体または固体状態である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
液体状態である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
メレジトース以外の安定化剤、および/または浸透圧調節剤を更に含む、請求項13〜請求項15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
第VII因子、第VIIa因子、第IX因子、第VIII因子、およびHES化G−CSF、ならびにそれらの変異タンパク質または誘導体からなる群から選択される、分子量が50KDa〜200KDaであるヒト血漿タンパク質を、プロセス内安定化中、凍結乾燥プロセス中、溶液中、精製中、もしくは産生中において安定化するための、または少なくとも6ヶ月である長期間安定化するための、
10mM〜200mMのメレジトース;
塩化ナトリウム、アルギニン、およびグリシンからなる群より選択される少なくとも1種の増量剤;
ポロキサマー188、ポリソルベート80、およびポリソルベート20からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤;ならびに
クエン酸ナトリウム、マレイン酸、ヒスチジン、2−(4−(2−ヒドロキシ−エチル)−1−ピペラジニル)−エタンスルホン酸(HEPES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、およびTris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)からなる群より選択される少なくとも1種のpH緩衝剤、
の使用。
【請求項18】
前記ヒト血漿タンパク質が溶液中で安定化される、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記産生が細胞培養での産生である、請求項17または請求項18に記載の使用。
【請求項20】
有効期間を延長するために前記長期間安定化が行われる、請求項17〜請求項19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記長期間安定化が行われ、前記長期間が少なくとも12ヶ月である、請求項17〜請求項20のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質を安定化する方法、分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質の固体状態または液体状態の組成物、およびヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質を安定化するためのメレジトースの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の製薬業界の製剤科学者にとって、治療用タンパク質の安定化は大きな課題である。凝集、沈殿、または変性等のタンパク質の可逆的変化および不可逆的変化の両方を引き起こし得る多くの種類の応力がある。これらの困難のため、これらのデリケートなタンパク質を安定化する薬剤が必要となる。製剤開発は重要なステップであり、精製プロセス中および製剤化プロセス中ならびに最終製品として高い収率でタンパク質活性が得られるように補形剤を注意深く選択する必要がある。これは特にヒト血液タンパク質およびヒト血漿タンパク質に当てはまる。
【0003】
タンパク質製剤の安定化剤として最も広く使用されているのは炭水化物であり、糖類とも呼ばれる。炭水化物は、単糖と呼ばれる基本的炭水化物構成要素が連結されて構成されており、様々な長さであり得、そのため様々な特徴を有し得る。
【0004】
最も一般的に使用されている2つの安定化剤であるスクロースおよびトレハロースはどちらも二糖であるので、2つの単糖から構成されている。
【0005】
最も一般的に使用されている炭水化物安定化剤のうちの2つであるスクロースおよびトレハロースが二糖であるのに対して、メレジトースは三糖である。溶液状態および凍結乾燥状態の両方でタンパク質を安定化するための第1選択肢は二糖であることが一般的に示されている(非特許文献1および2)。ラクトースまたはマルトース等の一部の二糖は、固体状態での保存中にメイラード反応によってタンパク質を分解し得る還元糖である。凍結乾燥標品中で安定化剤として、より大きな糖類を用いた場合、タンパク質−安定化剤相互作用の立体障害のためあまり効率的でないことが文献中に示唆されている(非特許文献2)。
【0006】
概説論文である非特許文献1は、とりわけ、マルトース、グルコースおよびマルトトリオースが1mg・ml
−1でカタラーゼ活性の回復を増加させ得るが、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、およびマルトヘプタオースはそれほど有効でないことを開示している。より大きな糖類による効果がないことから、糖類によるタンパク質安定化は、安定化させる糖類とタンパク質との間の分子間水素結合に干渉し得る糖のグルコシド側鎖の長さに依存し得ることが示唆される。この概説論文は二糖類を安定化剤として推奨している(9/10頁)。
【0007】
特許文献1は、鼻腔内投与可能なポリペプチド標品を調製するための、スタキオース、メレジトースならびに種々の単糖類および二糖類を含む炭水化物の使用を開示している。上記糖類は、噴霧中の剪断応力の影響を低減する薬剤として機能する。
【0008】
特許文献2は、とりわけ、クロマトグラフィープロセス中の水和添加剤としてメレジトースを使用する、第VIII因子のクロマトグラフィー精製を開示している。
【0009】
特許文献3は、(a)乾燥状態および/または(b)高温および/または(c)照射下でデリケートな生体物質または有機化合物を保存する方法を開示しており、当該方法は、前記物質または化合物を含む系に、(i)糖アルコール類およびその他の直鎖ポリアルコール類から選択されるポリヒドロキシ化合物の非還元性グリコシド、または(ii)ラフィノース、スタキオースおよびメレジトースから選択される非還元性オリゴ糖、から選択される糖または糖誘導体を入れることを含む。
【0010】
非特許文献3は、メレジトースおよびデンプンを含む固形製剤中におけるインスリンの安定性について報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2003/086443A号パンフレット
【特許文献2】国際公開第86/04486A号パンフレット
【特許文献3】国際公開第91/18091A号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Wang W, Lyophilisation and development of solid protein pharmaceuticals, Int J Pharm 203, 1-60, 2000
【非特許文献2】Carpenter J. F., Chang B. S., Garzon-Rodriguez W., Randolph T. W., Rational design of stable lyophilized protein formulations: Theroy and practice, chapter 5, ed Carpenter and Manning, Kluiwer Academic / Plenum Publishers, New York, 2002
【非特許文献3】Mollmann, S. H . et al, Drug Dev. Ind . Pharm. 2006 Jul; (6) : 765-78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質を含む溶液にメレジトースを添加することにより、分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質を安定化する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
好ましくは、上記ヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質の分子量は10KDaを超える。より好ましくは、分子量は10KDa〜300KDaである。最も好ましくは、分子量は20KDa〜200KDaである。ヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質の分子量が50KDa〜100KDa、100KDa〜150KDa、または150KDa〜200KDaであることが有益であり得る。
【0015】
特に、分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質は薬学的または生物学的意義のあるタンパク質である。本発明によって安定化され得る分子量が10KDaを超える薬学的または生物学的意義のあるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質は、組換えにより生成されたヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質であってよい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
「タンパク質」という用語は、化学合成されたタンパク質、培養細胞の遺伝子にコードされる天然合成タンパク質および細胞によって分泌された組換えタンパク質を含む。組換えタンパク質とは、分子生物学的技術により細胞中に導入された導入遺伝子にコードされるものである。タンパク質は化学的方法によってまたは翻訳後プロセス中に酵素によって修飾されてよい。
【0017】
本発明において、「タンパク質」は、ヒトのタンパク質、特に細胞培養によって産生されたものを含むが、更に、植物、昆虫等のその他の供給源のタンパク質および変異タンパク質、人工タンパク質、合成タンパク質、融合タンパク質またはキメラタンパク質も含む。
【0018】
「分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質」という用語は、特に、ヒト血液凝固因子、例えばフィブリノーゲン、フィブリンモノマー、プロトロンビン、トロンビン、FV、FVa、FX、FXa、FIX、FIXa、FVII、FVIIa、FVIII、FXI、FXIa、FXII、FXIIa、FXIII、FXIIIa、フォン・ヴィルブランド因子、ADAMTS13等、輸送タンパク質、例えばアルブミン、トランスフェリン、セルロプラスミン、ハプトグロビン、ヘモグロビン、ヘモペキシン等、プロテアーゼ阻害剤、例えば6−アンチトロンビン、α−アンチトロンビン、α2−マクログロブリン、C1インヒビター、組織因子経路阻害剤(TFPI)、ヘパリンコファクターII、プロテインCインヒビター(PAI−3)、プロテインC、プロテインS、プロテインZ等、免疫グロブリン、例えばポリクローナル抗体(IgG)、モノクローナル抗体、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgA1、IgA2、IgM、IgE、IgD、ベンス・ジョーンズタンパク質等、細胞関連血漿タンパク質、例えばフィブロネクチン、トロンボグロブリン、血小板因子4等、アポリポタンパク質、例えばapoA−I、apoA−II、apoE、補体因子、例えば因子B、因子D、因子H、因子I、C3b不活性化因子、プロペルジン、C4結合タンパク質等、成長因子、例えば血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、形質転換成長因子アルファ(TGF−α)、形質転換成長因子ベータ(TGF−β)、線維芽細胞成長因子(FGF)および肝細胞成長因子、抗血管新生タンパク質、例えばlatent−アンチトロンビンおよびprelatent−アンチトロンビン等、高グリコシル化タンパク質、例えばアルファ−1−酸糖タンパク質、アンチキモトリプシン、インター−α−トリプシンインヒビター、α−2−HS糖タンパク質、C反応性タンパク質、ならびにその他の分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質、例えばヒスチジンリッチ糖タンパク質、マンナン結合レクチン、C4結合タンパク質、フィブロネクチン、GC−グロブリン、プラスミノーゲン、α−1ミクログロブリン、C反応性タンパク質、血液因子、例えばエリスロポイエチン、インターフェロン、腫瘍因子、tPA、gCSFならびにその誘導体および変異タンパク質を含む。特に興味深いのは、第IX因子、第VIII因子、G−CSF、vWF、アンチトロンビン(AT)、肝細胞成長因子(HGF)、ポリクローナルIgG、アルファ−1アンチトリプシン、因子H、因子I、C1−エステラーゼインヒビター、第VII因子およびこれらの組合せである。しかし、インスリンは単純に分子量が約5,700Daであるので、インスリン等のポリペプチドは「分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質」という用語に含まれない。
【0019】
「ヒト血液タンパク質」および「ヒト血漿タンパク質」という用語は、誘導体、特に半減期が延長されるように改変された分子を含む。半減期延長のための改変としては、限定されるものではないが、融合タンパク質、突然変異誘発によって修飾されたタンパク質および共有結合または非共有結合によりコンジュゲートに連結されたタンパク質が含まれる。本発明によれば、ヒト血漿タンパク質またはヒト血液タンパク質は、特に分子の分子量を20〜200KDaにするようにヒドロキシエチルデンプン(HES)分子に共有結合していてよい。
【0020】
分子量に言及する場合、これは化合物の分子量を指す(すなわち、タンパク質に共有結合した任意の化学物質の分子量を含む)。
【0021】
本発明は、特に、溶液を固体状態に転移させる方法を提供する。
【0022】
本発明は、医薬品のための分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質の新規な安定化剤の発見に関する。
【0023】
驚くべきことに、組換え第VIII因子(170KDa)、第IX因子(55kDa)およびHES化G−CSF(120kDa)等の分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質の安定化剤としてメレジトースを用いることができることが見出された。同様な分子量のヒト血液タンパク質およびヒト血漿タンパク質は同様な安定化要件を有することが予想される。例えば、第IX因子は、ビタミンK依存性のヒト血漿タンパク質であり、他の全てのビタミンK依存性のヒト血漿タンパク質と生化学的類似点を有する。Glaドメインはこれら全てのビタミンK依存性タンパク質に共通する構造的特徴であり、Glaドメインのすぐ後ろに各タンパク質(プロトロンビンを除く)は1または複数のEGF様ドメインを有する。ビタミンK依存性タンパク質はその生理学的機能を発揮するためにCa
2+イオンを必要とし、カルシウム結合部位には少なくともGlaドメインおよびEGF様ドメインが含まれる。カルシウム結合により、これらのタンパク質はリン脂質/細胞膜に結合でき、したがってその生物学的活性を完全に発揮することができる。7個のヒト血漿タンパク質がその生合成についてビタミンK依存性であることが知られている。これらは、プロトロンビン(第II因子、72KDa)、第VII因子/第VIIa因子(50/50KDa)、第IX因子(55KDa)または第IXa因子、第X因子(59KDa)または第Xa因子、プロテインC(62KDa)、プロテインS(69KDa)およびプロテインZ(62KDa)である。
【0024】
驚くべきことに、分子量が20〜200KDaのヒドロキシルエチルデンプン(HES)分子に共有結合したヒト血液タンパク質およびヒト血漿タンパク質がメレジトースを用いた安定化に適していることが見出された。
【0025】
メレジトースは、凍結乾燥製剤および溶液の両方においてタンパク質活性を維持する優れた能力を示した。
【0026】
本発明において、溶液を固体状態に転移させるステップは、メレジトース添加後の凍結乾燥である。メレジトースをトレハロースまたはスクロース等のその他の糖と併用してもよい。メレジトース(melezitoseまたはmelicitose)は、例えばCinara pilicornis等のアブラムシを初めとする植物の樹液を食べる多くの昆虫により酵素反応で生成される非還元性の三糖である。IUPAC名は(2R,3R,4S,5S,6R)−2−[[(2S,3S,4R,5R)−4−ヒドロキシ−2,5−ビス(ヒドロキシメチル)−3−[[(2R,3R,4S,5S,6R)−3,4,5−トリヒドロキシ−6−(ヒドロキシルメチル)−2−テトラヒドロピラニル]オキシ]−2−テトラヒドロフラニル]オキシ]−6−(ヒドロキシルメチル)−テトラヒドロピラン−3,4,5−トリオールである。
【0027】
メレジトースの分子量は504.44g/molである。
【0030】
通常、メレジトースは約1000mMまでの量で存在する。下限は目的のタンパク質に対する十分な安定化効果が得られるメレジトースの量によって異なる。実施例の方法論および当業者の通常の知識を用いて当業者は好適な量を容易に決定することができる。可能な範囲は、例えば、最終製剤に関連して、10mM〜約200mMまたは約10mM〜約100mMである。
【0031】
好ましくは、量は20mM超または30mM超である。
【0032】
好ましくは、ヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質の量に対するメレジトースの量は、重量に基づく計算で、1:10〜1:5000、好ましくは1:50〜1:150または1:1000〜1:3000であり、すなわち、メレジトースの量はタンパク質の量より多い。
【0033】
好ましい実施形態では、薬学的1回投与量のタンパク質中に10〜100mgのメレジトースが含まれる。
【0034】
本発明の主題は、分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質およびメレジトースを含む組成物である。当該組成物は液体または固体状態で存在し得る。
【0035】
本発明の一実施形態では、本発明の組成物は、増量剤、界面活性剤、緩衝剤、更なる安定化剤および/または浸透圧調節剤(tonicity modifier)を更に含んでいる。
【0036】
本発明に係る界面活性剤は、表面および界面に吸着し、それにより、吸着によるタンパク質の活性消失を抑制する化合物である。この種の活性消失は、製薬プロセス全体ならびに患者への投与前および投与中における再構成された製品の取扱い中に起こり得る。一般的に用いられている界面活性剤はポリソルベート80、ポリソルベート20およびポロキサマー、特にポロキサマー188である。更に、アルブミン、特に組換えアルブミン等のタンパク質も界面活性剤として用いることができる。組換えアルブミンも本発明の実施形態に従って用いることができる。
【0037】
pH緩衝剤とは、製剤化するタンパク質の最適なpH範囲に緩衝する能力を有する化合物を指す。本発明は、適宜、クエン酸ナトリウム、マレイン酸、ヒスチジン、2−(4−(2−ヒドロキシ−エチル)−1−ピペラジニル)−エタンスルホン酸(HEPES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、またはTris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)をpH緩衝剤として含む。緩衝剤は、タンパク質の機能性が維持される範囲にpHを維持する量で存在する。これはタンパク質によって異なる。各タンパク質の好ましい範囲、特に分子量が10KDaを超えるヒト血液タンパク質またはヒト血漿タンパク質の好ましい範囲は当業者に知られている。例として、クエン酸ナトリウムはpHを6.5〜7.5に維持する。クエン酸ナトリウムの好適な形態は二水和物の形態である。一般的に、本発明に係る組成物は、凍結乾燥形態であり得るが、凍結乾燥される溶液、凍結乾燥された組成物から再構成された溶液等の溶液形態も取り得る。
【0038】
浸透圧調節剤とは、浸透圧のバランスをとるために製剤中に存在する化合物を指す。本発明は、適宜、塩化ナトリウム、アルギニン、グリシン、塩化カリウム、糖または糖アルコールを浸透圧調節剤として含む。
【0039】
メレジトースは凍結乾燥保護特性を示すが、更なる凍結乾燥保護剤(cryo/lyoprotectant)が存在してもよい。これは、凍結乾燥プロセスの凍結ステップおよび乾燥ステップ中ならびにその後の凍結乾燥生成物の保存中におけるタンパク質活性の消失を更に低減または防止するために製剤中に存在する化合物である。本発明は、適宜、スクロースおよびトレハロース等の非還元性二糖ならびにマルトースおよびラクトース等の還元性二糖を更なる凍結乾燥保護剤として含む。
【0040】
増量剤とは、凍結乾燥ケーキを機械的に支えるためおよび乾燥重量を増やすために製剤中に存在する補形剤を指す。増量剤は、塩化ナトリウムのように結晶状であってもよく、アルギニンのようにアモルファス状であってもよい。増量剤の量は、最終製剤に対して10重量%まで可能である。本発明は、適宜、塩化ナトリウム、グリシン、マンニトール、スクロースまたはアルギニンを増量剤として含む。
【0041】
本発明の更なる主題は、凍結乾燥製剤等の乾燥状態のタンパク質を長期間、少なくとも6ヶ月、好ましくは少なくとも12ヶ月、より好ましくは少なくとも18ヶ月、更により好ましくは24ヶ月安定化するためのメレジトースの使用である。
【0042】
以下に非限定的な例を用いて本発明を更に説明する。
【0043】
活成分析−第VIII因子
発色性アッセイ(chromogenic assay)または1段階アッセイ(one stage assay)を用いて第VIII因子活性を測定し、第VIII因子の単位を国際単位(IU)で表した。
【0044】
発色性アッセイは欧州薬局方に記載されている方法である。この方法は、補因子としての第VIII因子の生物学的活性を測定する2段階の測光法である。第VIII因子は第X因子を第Xa因子へと活性化し、これが酵素切断されて、分光測定で定量可能な生成物が生じる。
【0045】
1段階凝固アッセイ(one−stage clotting assay)は、リン脂質、コンタクトアクチベーター(contact activator)およびカルシウムイオンの存在下で第VIII因子欠乏血漿の凝固時間を補正する第VIII因子含有サンプルの能力に基づく。フィブリン塊(fibrin clot)が出現するまでの時間を1段階で測定する。
【0046】
活成分析−第IX因子
1段階凝固アッセイおよび/または発色性アッセイを用いて第IX因子の生物学的活性を測定し、現在のWHOの第IX因子濃縮物標準によって定義される国際単位(IU)で第IX因子の単位を表した。
【0047】
1段階凝固アッセイは欧州薬局方に記載されている方法である。当該アッセイの原理は、リン脂質、コンタクトアクチベーターおよびカルシウムイオンの存在下で第IX因子欠乏血漿の凝固時間を補正する第IX因子含有サンプルの能力に基づく。フィブリン塊が出現するまでの時間を1段階で測定する。第IX因子活性は凝固時間に反比例する。
【0048】
発色性アッセイは2段階の測光法である。第1段階では、トロンビン、リン脂質およびカルシウムの存在下で活性化第XI因子(XIa)が第IX因子を活性化して第IXa因子にする。第IXa因子はトロンビン活性化第VIII因子(VIIIa)と酵素複合体を形成し、これがリン脂質およびカルシウムの存在下で第X因子を活性化して第Xa因子にする。第2段階では、第Xa因子が第Xa因子特異的発色基質を加水分解することにより、分光測定で定量可能な発色団基pNAを遊離させる。第IX因子活性は、生成した第Xa因子の量に正比例する。
【0049】
分析−組換えHES化G−CSF
HES−G−CSFのResource S HPLC分析
溶離液Aでサンプルを0.1mg/mLに希釈する。20μgをResource S 1mLカラム(GEヘルスケア社、ドイツ、ミュンヘン)に注入する。
溶離液A:20mM 酢酸ナトリウム、pH4.0
溶離液B:20mM 酢酸ナトリウム、0.5M NaCl、pH4.0
流量:1mL/分
グラジエント:
0%〜8%、1.8〜2.0分
8%〜52%、2.0〜13.0分
52%〜100%、13.0〜13.6分
【0050】
凝集したHES−G−CSFはピーク幅が大きくなることが示されているので、HES−G−CSFのピーク幅を品質基準として取る。ピーク幅の増加は、熱応力または剪断応力の前後のHES−G−CSFピーク幅の差として定義される。
【実施例】
【0051】
実施例
組換え第VIII因子
実験に用いる第VIII因子は、欧州特許出願公開第1739179A号(Schroder et al)に記載のプロセスに従ってヒト細胞系HEK293F中で産生された組換えヒトBドメイン欠失第VIII因子タンパク質である。精製プロセスは、5つのクロマトグラフィーステップからなり、ヒトグリコシル化様パターン(Sandberg et al、国際出願第PCT/EP2009/060829号)を示す高純度の第VIII因子タンパク質標品が得られた(Winge et al、国際公開第2009/156430A号)。
【0052】
血漿由来第IX因子
これらの実験に用いる材料は、SD処理およびナノ濾過された高純度の第IX因子濃縮物である市販の製品Nanotiv(登録商標)に由来する。これらの実験に使用する前に、ゲル濾過カラムを用いて材料を更に精製し、第IX因子のモノマーピークをその後の実験に用いた。
【0053】
組換えHES化G−CSF
用いる細胞系は、無血清増殖に適応させたヒト胚腎臓細胞293(HEK293)に由来する細胞系である。この宿主、HEK293Fを、G−CSFのcDNAコード配列を有する発現カセットで安定的にトランスフェクトした。カセットに強力なプロモーターを用いた。一般的なプロセスは欧州特許第1739179(Schroder et al)にも記載されている。
【0054】
精製プロセスは、4つのクロマトグラフィーステップからなり、高純度なG−CSFタンパク質標品が得られた。G−CSFタンパク質を、分子量が約100KDaのヒドロキシルエチルデンプン(HES)誘導体に結合させた。最後に、1ステップのクロマトグラフィーにより未反応HES誘導体およびG−CSFからHES−G−CSFを精製し、全体の分子量が約120KDaの分子を得た。
【0055】
実施例1:溶液中でのメレジトースによるrFVIIIの安定化
調製
上記実験セクションの記載に従って組換え第VIII因子(rFVIII)を調製した。この実験では、溶液中のrFVIIIに対するメレジトースの安定化効果を、一般的に用いられている安定化剤であるトレハロースと比較した。rFVIII濃度は100IU/mlとした。本実験で調べた製剤の組成を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
製剤を+25℃で7日間保存して経時的タンパク質活性を評価した。一定の間隔でサンプルを取り、上記実験セクションに記載の通り、発色性アッセイで分析した。結果を、初期値に対するパーセンテージとして表2に要約する。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例1の結論:本実験は、驚くべきことに、メレジトースが、より低いモル濃度にも関わらず、溶液中のrFVIIIに対してトレハロースと同等な安定化効果を有することを示している。
【0060】
実施例2:凍結乾燥形態でのメレジトースによるrFVIIIの安定化
調製
上記実験セクションの記載に従って組換え第VIII因子(rFVIII)を調製した。本実験では、凍結乾燥プロセス中および凍結乾燥製剤中でのメレジトースの安定化効果を、一般的に用いられている安定化剤であるトレハロースと比較した。rFVIII濃度は100IU/mlとした。本実験で調べた製剤の組成を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
溶液を1.5mlずつ実験室規模の凍結乾燥器で凍結乾燥した。凍結乾燥ステップのタンパク質回収率は製剤2Bで93%、製剤2Aで86%であった。経時的タンパク質活性を評価するために、凍結乾燥サンプルを+25℃および+40℃で最大4週間保存した。サンプルを注射用蒸留水1.5mLで再構成し、上記実験セクションに記載の発色性アッセイで分析した。結果を表4に要約する。
【0063】
【表4】
【0064】
実施例2の結論:驚くべきことに、本実験は、凍結乾燥ステップにおいてメレジトースがトレハロースより低いモル濃度でrFVIIIを保護できること、および保存中にメレジトースがトレハロースよりも良くrFVIIIを安定化することを示している。
【0065】
実施例3:凍結乾燥形態でのメレジトースによるrFVIIIの安定化
調製
上記実験セクションの記載に従って組換え第VIII因子(rFVIII)を調製した。本実験では、凍結乾燥プロセスおよび凍結乾燥製剤中における種々の濃度のメレジトースの安定化効果を比較し、更に安定化効果を四糖であるスタキオースと比較した。rFVIII濃度は170IU/mlでとした。本実施例で調べた製剤の組成を表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
溶液を1.5mlずつ実験室規模の凍結乾燥器で凍結乾燥した。凍結乾燥ステップのタンパク質回収率はメレジトースを含む製剤で91〜100%、安定化剤としてスタキオースを含む製剤3Dでは84%であった。経時的タンパク質活性を評価するために、凍結乾燥サンプルを+25℃および+40℃で最大12ヶ月保存した。
【0068】
サンプルを注射用蒸留水1.5mLで再構成し、上記実験セクションに記載の発色性アッセイで分析した。結果を表6にまとめる。
【0069】
【表6】
【0070】
実施例3の結論:本実験は、メレジトースが凍結乾燥ステップおよび凍結乾燥形態中でのrFVIIIの安定化剤として極めて良く機能することを示している。本実験は更に、スタキオースがメレジトース含有製剤と比べて25℃および40℃の両方で保存中にあまり十分な結果を示していないことから、スタキオースが凍結乾燥製剤のための好ましい安定化剤でないことを示している。
【0071】
実施例4:凍結乾燥形態でのメレジトースによる血漿第IX因子の安定化
調製
上記実験セクションの記載に従って血漿由来第IX因子(pFIX)を調製した。本実験は、pFIXに対するメレジトースの安定化効果を調べる。pFIX濃度は100IU/mlとした。本実験で調べた製剤の組成を表7に示す。
【0072】
【表7】
【0073】
溶液を1.5mlずつ実験室規模の凍結乾燥器で凍結乾燥した。凍結乾燥サンプルを+5℃、+25℃および+40℃で最大6ヶ月保存して経時的タンパク質活性を評価した。注射用蒸留水1.5mlでサンプルを再構成し、上記実験セクションに記載の発色性アッセイで分析した。
【0074】
結果
凍結乾燥ステップのタンパク質回収率は約100%であった。安定性試験の結果を表8に示す。
【0075】
【表8】
【0076】
実施例4の結論:本実験は、驚くべきことに、メレジトースが凍結乾燥形態の第IX因子の安定化剤として良く機能することを示している。
【0077】
実施例5:凍結乾燥形態でのメレジトースによるHES化組換えG−CSFの安定化
調製
上記実験セクションの記載に従って組換えHES化G−CSF(rHES−G−CSF)を調製した。本実験では、凍結乾燥形態のrHES−G−CSFに対するメレジトースの安定化効果を、一般的に用いられている安定化剤トレハロースと比較した。rHES−G−CSF濃度は0.3mg/mlとし、調べた製剤の組成を表9に示す。
【0078】
【表9】
【0079】
溶液を1.5mlずつ実験室規模の凍結乾燥器で凍結乾燥した。+40℃で4週間保存後に、上記実験セクションに記載のResource S法を用いてタンパク質回収率を測定した。結果を表10に要約する。
【0080】
【表10】
【0081】
実施例5の結論:本実験は、メレジトースが、rHES−G−CSFに対して、等モル濃度の一般的に用いられている安定化剤トレハロースよりも優れた安定化効果を有することを示している。
【0082】
実施例6:凍結乾燥ステップでのメレジトースによる血漿第IX因子の安定化
調製
上記実験セクションの記載に従って、血漿由来第IX因子(pFIX)を調製した。本実験では、四糖であるスタキオースと比べた凍結乾燥ステップでのpFIXに対するメレジトースの安定化効果を調べた。pFIX濃度は100IU/mlとした。本実験で調べた製剤の組成を表11に示す。
【0083】
【表11】
【0084】
溶液を1.5mlずつ実験室規模の凍結乾燥器で凍結乾燥した。上記実験セクションに記載の発色アッセイで、凍結乾燥ステップ前後にサンプルを分析した。
【0085】
結果
凍結乾燥ステップのタンパク質回収率は、製剤6Aでは約100%であったが、製剤6Bでは84%であった。
【0086】
実施例6の結論:本実験は、凍結乾燥ステップにおける第IX因子の安定化剤としてメレジトースが良く機能することを示している。しかし、スタキオースは、凍結乾燥ステップで有意な活性の消失が生じていることから、安定化剤として好適な候補ではない。