(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、光ファイバ母材を溶融紡糸して光ファイバ裸線を形成する紡糸工程と、光ファイバ裸線の外周に樹脂からなる未硬化の被覆層(以下、単に未硬化被覆層という)を設けるコーティング工程と、未硬化被覆層を硬化させる硬化工程と、を有する光ファイバの製造方法が知られている。
このような製造方法において、光ファイバの生産能力を高めるためには、線引き線速を高速化させることが必要である。しかしながら、線引き線速を高速化させると、光ファイバが一つの冷却装置若しくは被覆硬化装置などを通過する時間が短くなるため、これらの装置の設置数を増やす必要が生じる。
【0003】
さらに、光ファイバ素線の重要な特性の一つである伝送損失は、溶融炉から引き出された高温の光ファイバ裸線を、除冷炉によってゆっくりと冷却することで低減できる。このため、伝送損失が増大するのを抑えつつ線引き速度を高速化させるためには、徐冷炉の数も増やす必要がある。
ここで、徐冷炉には、被覆層が設けられる前の傷つきやすい光ファイバ裸線が通されている。また、被覆硬化装置には、液状の未硬化被覆層を有する光ファイバ素線が通されている。これらの状態の光ファイバを、方向変換のためのプーリ等に接触させると、光ファイバの強度の低下や被覆層の変形の要因となるため、各装置は光ファイバ母材の溶融炉から下方に向けて直線上に配置する必要があった。
【0004】
以上のように、光ファイバの生産能力を高めるためは、溶融炉から下方に向けて直線上に配置される各装置を増やす必要があるが、高さ方向のスペースが限られる既存の工場建屋内では、このように各装置を増やすことが困難であり、線引き速度の制限をもたらしていた。
この制限を打破する技術として、下記特許文献1では、非接触式方向変換器を開示している。非接触式方向変換器は、その構成部材を光ファイバに接触させることなく、光ファイバの進行方向を変換させることが可能である。非接触式方向変換器を用いることで、未硬化被覆層が形成される前や未硬化被覆層が完全に硬化する前であっても光ファイバの進行方向を変換できるため、各装置を自由に配置することが可能となり、高さ方向のスペースの制限がある場所でも線引き速度の高速化を図ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、光ファイバの被覆層としては、高速で硬化させることができる紫外線硬化型樹脂が一般的に用いられている。被覆層として紫外線硬化型樹脂を用いる場合、被覆硬化装置として紫外線ランプやUV−LEDなどが採用される。ここで、紫外線硬化型樹脂を硬化させる際に、この樹脂の硬化時の温度が、硬化度合や硬化後の樹脂の分子量を決める要因となることが知られている。例えば硬化時の温度が高すぎると、硬化が不十分となる場合や、硬化後の樹脂の分子量が小さいためにヤング率などの特性が悪化する場合がある。特に、線引き速度が高速化されるほど、光ファイバ裸線若しくは未硬化被覆層の冷却に充てられる時間が短くなるため、この問題が生じやすくなる。また、光ファイバ裸線に被覆層となる樹脂材料を安定してコーティングするため、この樹脂材料の粘度を低下させることを目的として樹脂材料の温度を高くする場合があることや、紫外線ランプなどが発する熱を受けることについても、未硬化被覆層の温度を上げる要因となる。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、光ファイバの線引き速度を高速化しつつ、所望の状態の被覆層を有する光ファイバを製造可能な光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1態様に係る光ファイバの製造方法は、光ファイバ母材を溶融紡糸して光ファイバ裸線を形成する紡糸工程と、前記光ファイバ裸線を冷却する第1冷却工程と、前記光ファイバ裸線の外周に樹脂前駆体を含む未硬化被覆層を設けるコーティング工程と、前記未硬化被覆層を硬化させる第1硬化工程および第2硬化工程と、前記第1硬化工程と前記第2硬化工程との間で、非接触式方向変換器によって半硬化被覆層を冷却する第2冷却工程と、を有する。
【0009】
上記態様に係る光ファイバの製造方法によれば、第1硬化工程と第2硬化工程との間で未硬化被覆層を冷却する第2冷却工程を有しているため、第1硬化工程で未硬化被覆層の温度が高まったとしても、第2冷却工程でこの温度を下げることができる。この構成により、第2硬化工程において、未硬化被覆層の温度が高いままこの未硬化被覆層が硬化するのを防ぎ、硬化後の被覆層を所望の状態とすることが可能となる。
さらに、上記第2冷却工程は非接触式方向変換器によって未硬化被覆層を冷却するものである。非接触式方向変換器は、ガスを光ファイバに吹き付けるものであるため冷却能力が高く、短時間で確実に未硬化被覆層を冷却することが可能であり、線引き速度を高速化することができる。また、非接触式方向変換器によって、例えば光ファイバの進行方向を上下方向から水平方向に変換することで、装置全体のサイズが高さ方向に大きくなるのを防ぎつつ、未硬化被覆層が方向変換器の構成部材に接触して変形してしまうことも防ぐことができる。
【0010】
ここで、前記第1硬化工程では、前記半硬化被覆層の硬化度が0.25以上となるまで前記未硬化被覆層を硬化させてもよい。
【0011】
非接触式方向変換器によって被覆層を冷却する第2冷却工程において、未硬化被覆層にガスを吹き付けると、このガスの圧力によって未硬化被覆層が変形してしまうおそれがある。そこで、未硬化被覆層の硬化度が所定の数値以上となるまで、第1硬化工程で未硬化被覆層を硬化させることで、上記したような被覆層の変形を防止することが可能となる。
【0012】
また、前記第2冷却工程において、前記非接触式方向変換器が前記半硬化被覆層に吹き付けるガスの酸素濃度が10%以下であってもよい。
【0013】
被覆層がラジカル硬化性の紫外線硬化型樹脂である場合、未硬化被覆層に吹き付けられるガスの酸素濃度が高いと、酸素阻害による硬化不良が生じる場合がある。そこで、第2冷却工程で未硬化被覆層に吹き付けられるガスの酸素濃度を所定の数値以下とすることで、このような硬化不良が生じるのを防止し、未硬化被覆層をより確実に硬化させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記態様によれば、光ファイバの線引き速度を高速化しつつ、所望の状態の被覆層を有する光ファイバを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態に係る光ファイバの製造装置の構成を、
図1を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため縮尺を適宜変更している。
図1に示すように、光ファイバの製造装置1Aは、紡糸部10と、第1冷却部13と、コーティング部30と、第1硬化部40Aと、非接触式方向変換器20A〜20Cと、第2硬化部40Bと、外径測定部50と、方向変換器20Dと、巻き取り手段90と、を備えており、各部が上からこの順に配置されている。
【0017】
紡糸部10は、光ファイバ母材を溶融させる溶融炉などから構成されている。紡糸部10は、光ファイバ裸線3を形成する。
【0018】
第1冷却部13は、除冷炉11および冷却器12により構成されている。除冷炉11は、紡糸部10の溶融炉から引き出された高温の光ファイバ裸線3を、徐々に冷却するための装置である。除冷炉11によって光ファイバ裸線3をゆっくりと冷却することで、光ファイバの伝送損失を低減することができる。冷却器12としては、冷却筒などを採用することができる。冷却筒とは、水冷した筒の空洞部にガスを導入し、その空洞部にファイバを通過させることでファイバを冷却するものである。空洞部に導入するガスとしては、ヘリウム、窒素、二酸化炭素、もしくはこれらの混合ガスが挙げられる。例えば、ヘリウムおよび窒素の混合ガスを空洞部に導入する場合、ヘリウムと窒素との熱伝達率の違いから、これらの混合比を変えることで、冷却筒を出た光ファイバ裸線3の温度を調整することが可能である。
【0019】
コーティング部30は、ダイコーティングなどによって、光ファイバ裸線3の外周に、樹脂前駆体を含む流動性のある材料(以下、単に樹脂材料という)を塗布(コーティング)して未硬化被覆層を形成する。なお、本実施形態では、第1硬化部40Aを通過前の状態における被覆層を「未硬化被覆層」といい、第1硬化部40Aを通過後、第2硬化部40Bを通過前の状態における被覆層を「半硬化被覆層」という。また、これら硬化部40A、40Bの通過の前後を問わない場合は単に「被覆層」という。
樹脂材料のコーティングは、例えば2層コーティングであり、内側にヤング率の低い一次被覆層用の樹脂材料を塗布し、外側にヤング率の高い二次被覆層用の樹脂材料が塗布される。被覆層としては、例えばウレタンアクリレート系の樹脂などの紫外線硬化型樹脂を用いることができる。なお、コーティング部30は、一次被覆層と二次被覆層とを別々に塗布する構成であってもよいし、一次被覆層と二次被覆層とを同時に塗布する構成であってもよい。なお、本実施形態では、光ファイバ裸線3の外周に被覆層が設けられた状態のものを光ファイバ素線という。
【0020】
なお、安定したコーティングを実現するために、コーティング部30で光ファイバ裸線3に塗布される樹脂材料の粘度は、ある程度低い必要があり、樹脂材料の粘度はその温度を上げることで低下させることができる。従って、コーティング部30で塗布される樹脂材料の温度は予め上げられており、このことが、未硬化被覆層の温度が高くなる要因の1つとなる。特に、常温時の樹脂材料の粘度が高いほど、コーティング部30で塗布される際の樹脂材料の温度を高くする必要がある。
【0021】
被覆層が紫外線硬化型樹脂からなる場合、第1硬化部40Aとしては、紫外線照射ランプまたはUV−LEDなど、およびこれらを組み合わせた硬化装置を用いることができる。第1硬化部40Aとして配置する硬化装置の数は、これらの硬化装置を通過した被覆層の硬化度Kを指標として定めるのがよい。なお、本実施形態における硬化度Kは、後述するゲル分率を用いて定義される。
【0022】
非接触式方向変換器20A、20B、20Cは、第1硬化部40Aの下流側に、この順に配置されている。各非接触式方向変換器20A、20B、20Cは、光ファイバ素線の進行方向をそれぞれ90°、180°、90°変換する。例えば非接触式方向変換器20Aは、光ファイバ素線の進行方向を、下方向から水平方向へと約90°変換している。なお、これら非接触式方向変換器の設置数、設置位置、方向変換の角度などは適宜変更してもよい。
【0023】
非接触式方向変換器20A〜20Cは、光ファイバ裸線3若しくは光ファイバ素線を案内するガイド溝を有し、このガイド溝内には、ガイド溝に沿って配線されたこれら光ファイバを浮揚させる流体(ガス)の吹き出し口が形成されている。非接触式方向変換器20A〜20Cは、吹き出し口から空気やHe等のガスを光ファイバに吹き付けることで、その構成部材を光ファイバ素線に接触させることなく、光ファイバを浮上させることが可能である。本実施形態における非接触式方向変換器の構成は、特許第5851636号公報に記載されているものと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0024】
光ファイバ素線に吹き付けるガスとして空気を用いる場合、光ファイバ素線を浮上させるのに必要となるガス量は、例えば100〜200L/min程度である。なお、このガス量は、ガスの吹き出し口の幅などによって適宜変更される。このガス量を調整することで、光ファイバ素線の浮上量、すなわち光ファイバ素線の各構成部材に対する通過位置を調整することができる。
【0025】
光ファイバ素線の通過位置が大きく変わると、この光ファイバ素線が各構成部材に接触してしまい、光ファイバの強度を低下させる要因となる。また、第1硬化部40A若しくは第2硬化部40Bとして用いられる硬化装置がUV−LEDである場合、UV−LEDの照射光には指向性があるため、紫外線を照射できる範囲が比較的小さい。従って、未硬化被覆層若しくは半硬化被覆層に紫外線を確実に照射するために、光ファイバ素線の通過位置をより厳しく管理する必要が生じる。そこで、非接触式方向変換器20A〜20Cの下流側には不図示の位置センサが配置されており、この位置センサが光ファイバ素線の位置を計測する。この計測結果に基づいて、光ファイバ素線の位置が適切な位置となるように、非接触式方向変換器20A〜20Cが光ファイバ素線に吹き付けるガス量が調整される。
【0026】
また、被覆層が、ラジカル重合を起こして硬化するラジカル硬化性の紫外線硬化型樹脂である場合、光ファイバ素線に吹き付けられるガスの酸素濃度が高いと、酸素阻害による硬化不良が生じる。このため、非接触式方向変換器20A〜20Cが光ファイバ素線に吹付けるガスの酸素濃度は適正な値に管理される必要がある。例えばガスとして空気を用いる場合には、この空気に含まれる窒素などの酸素以外の気体の含有率を増減させることで、ガスの酸素濃度を調整することができる。
【0027】
ところで、光ファイバ素線にガスを吹き付けると、このガスによって被覆層を冷却することができる。本実施形態における非接触式方向変換器20A〜20Cは、この冷却能力に着目して第1硬化部40Aと第2硬化部40Bとの間に配置されている。すなわち、非接触式方向変換器20A〜20Cは、第1硬化部40Aと第2硬化部40Bとの間で半硬化被覆層を冷却する第2冷却部14を構成している。
【0028】
次に、上記のように構成された製造装置1Aを用いた光ファイバの製造方法について説明する。
【0029】
まず、紡糸部10において、光ファイバ母材を溶融紡糸して光ファイバ裸線3を形成する(紡糸工程)。
次に、光ファイバの伝送損失を小さく抑えるために除冷炉11において光ファイバ裸線3を徐々に冷却した上で、冷却器12によって、所定の温度まで光ファイバ裸線3を冷却する(第1冷却工程)。
【0030】
次に、コーティング部30において、光ファイバ裸線3の外周に樹脂前駆体を含む未硬化被覆層を設けて、光ファイバ素線とする(コーティング工程)。このとき、未硬化被覆層として塗布される樹脂材料は、その粘度を低下させるために、予め温度が上げられている。
次に、第1硬化部40Aにおいて、未硬化被覆層を硬化させて半硬化被覆層とする(第1硬化工程)。なお、第1硬化部40Aを出た光ファイバ素線の半硬化被覆層は、硬化装置が発する熱などによってさらに昇温している。
【0031】
次に、非接触式方向変換器20A〜20Cからなる第2冷却部14によって、光ファイバ素線の進行方向を変換しつつ、半硬化被覆層を冷却する(第2冷却工程)。
次に、第2硬化部40Bにおいて、半硬化被覆層をさらに硬化させる(第2硬化工程)。
次に、外径測定部50において、光ファイバ素線の外径を測定する。
そして、方向変換器20Dによって光ファイバ素線の進行方向を略水平方向に変換させ、巻き取り手段90によってこの光ファイバ素線を巻き取る。なお、第2硬化部40Bを通過した光ファイバ素線の被覆層は既に硬化しているため、方向変換器20Dとしては接触式のプーリなどの方向変換器を用いることができる。
【0032】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
本実施形態では、第2冷却部14の構成および第2硬化部40Bの配置が第1実施形態と異なる。
【0033】
図2に示すように、本実施形態の光ファイバの製造装置1Bは、第2冷却部14が、この製造装置1Bの最下部に配置されている。この第2冷却部14は、1つの非接触式方向変換器20Dにより構成されている。非接触式方向変換器20Dは、光ファイバ素線の進行方向を、下方向から水平方向へと約90°変換している。
本実施形態によれば、第2冷却部14、第2硬化部40Bおよび外径測定部50が製造装置1Bの最下部に配置されているため、第1実施形態と比較して製造装置全体の上下方向のサイズを抑えることができる。
【0034】
(実施例)
以下、具体的な実施例を用いて、本実施形態の光ファイバの製造方法をより詳細に説明する。
【0035】
実施例1として、
図1に示す製造装置1Aで光ファイバ素線を製造した。光ファイバ裸線3の外径は125μm、光ファイバ素線の外径は250μmとし、被覆層として2層の紫外線硬化型樹脂(ウレタンアクリレート)を採用した。線引き速度は50m/secとした。第1硬化部40Aとして紫外線照射ランプを2灯設置した。第2冷却部14として、3つの非接触式方向変換器20A(90°変換)、20B(180°変換)、20C(90°変換)を設置した。これら非接触式方向変換器20A〜20Cが光ファイバ素線に吹き付けるガスは、酸素濃度を10%に調整した空気である。第2硬化部40Bとして、紫外線照射ランプを4灯設置した。
これにより得られた光ファイバ素線の被覆層は硬化しており、被覆層の特性も良好であった。第1硬化部40Aを通過後の半硬化被覆層の硬化度はK=0.25であった。
【0036】
ここで、本実施例におけるゲル分率および硬化度Kの定義について説明する。ゲル分率は、下記の方法により算出した。まず、光ファイバ素線を試料としてソックスレー抽出装置に入れ、抽出溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)を用い、温度90℃,時間240分の条件によってソックスレー抽出を行った。その後、温度60℃、時間240分の条件で乾燥させた。そして、この抽出後の不溶分の乾燥重量を抽出前の試料の重量で除すことで、ゲル分率を算出した。なお、抽出時の温度はMEKの沸点以上の温度であればよく、溶出分の抽出が飽和する温度、時間であればよい。また、乾燥時の温度、時間についても、乾燥重量が飽和していればよい。
【0037】
上記ゲル分率は、被覆層へのUV照射量の増大に伴って上昇し、あるUV照射量で飽和する。UV照射量とは、1つのUV照射装置からのUV照度(mW/cm2)に照射時間(秒)を掛けた値である。さらに、光ファイバの製造装置における上記照射時間は、UV照射装置内を光ファイバ素線が通過する距離(m)を、線引き速度(m/sec)で割った値で定義される。すなわち、UV照射量とゲル分率との関係は、線引き速度、UV照射装置の数、またはUV照度を変えて複数のサンプルを作製し、それぞれのサンプルのゲル分率を評価することで得られる。
【0038】
ここで、ゲル分率が飽和するUV照射量の下限値をW1とし、そのときの飽和ゲル分率をG1とする。次に、W1の10分の1のUV照射量(W2)でサンプルを作製し、これにより得られたゲル分率をG2とする。さらに、評価対象であるサンプルのゲル分率をG3とするとき、この評価対象のサンプルの硬化度Kは、下記数式(1)により定義される。
K=(G3−G2)/(G1−G2)…(1)
【0039】
実施例2として、
図2に示す製造装置1Bで光ファイバ素線を製造した。第1硬化部40Aとして紫外線照射ランプを1灯設置した。第2冷却部14として、1つの非接触式方向変換器20D(90°変換)を使用した。第2硬化部40Bとして、紫外線照射ランプを2灯設置した。その他の構成は実施例1と同様である。本実施例では、線引き速度10m/secで光ファイバ素線を線引きした。これにより得られた光ファイバ素線の被覆層は硬化しており、被覆層の特性も良好であった。
【0040】
比較例1として、
図1の形態から第2冷却部14を除いた構成で、線引き速度50m/secで光ファイバ素線を製造した。これにより得られた光ファイバ素線の被覆層は硬化していたが、被覆層のヤング率が実施例1と比較して約20%低下していた。これは、第1硬化部40Aを通過することで半硬化被覆層が昇温したままの状態で、光ファイバ素線が第2硬化部40Bに進入し、半硬化被覆層の温度が高い状態で硬化したためであると考えられる。すなわち、実施例1よりも温度が高い状態で半硬化被覆層が硬化することで、被覆層であるウレタンアクリレートの分子量が小さくなり、ヤング率が低下したと考えられる。
【0041】
比較例2として、
図2の形態から非接触式方向変換器20Dを接触型の方向変換器(プーリ)に変更し、線引き速度10m/secで光ファイバ素線を製造した。これにより得られた光ファイバ素線の被覆層の断面は変形しており、真円でなかった。これは、第2硬化部40Bを通過する前の、被覆層の硬化が不充分な状態で、光ファイバ素線がプーリに接触したためであると考えられる。
【0042】
比較例3として、
図1の形態から、非接触式方向変換器20A〜20Cの位置を、コーティング部30と第1硬化部40Aとの間に変更した。この構成により得られた光ファイバ素線は、被覆径が長手方向で大きく変動していた。これは、被覆層が未硬化の状態で、非接触式方向変換器20A〜20Cによるガスが光ファイバ素線に吹き付けられたことにより、ガスの圧力で未硬化被覆層が変形してしまったためであると考えられる。
【0043】
比較例4として、実施例1の構成で、非接触式方向変換器20A〜20Cが光ファイバ素線に吹き付けるガスを、酸素濃度が20%の空気とした。これにより得られた光ファイバ素線は、被覆層の硬化が不充分であり、表面がべとついていた。これは、被覆層として採用したウレタンアクリレートがラジカル硬化性の紫外線硬化型樹脂であり、吹き付けられたガスの酸素濃度が高いことで、酸素阻害による硬化不良を生じたためであると考えられる。実施例1のガスの酸素濃度が10%であり、比較例4のガスの酸素濃度が20%であることから、非接触式方向変換器20A〜20Cが光ファイバ素線に吹き付けるガスの酸素濃度は10%以下であることが好ましい。
【0044】
比較例5として、実施例1の構成から、第1硬化部40Aとして用いる紫外線照射ランプを1灯に変更した。なお、線引き速度は50m/secであり、実施例1と同様である。第1硬化部40Aを通過後の半硬化被覆層の硬化度は、K=0.20であった。これにより得られた光ファイバ素線の被覆層の断面形状は真円でなかった。これは、実施例1と比較して、第1硬化部40Aとしての紫外線照射ランプの配置数を減少させた結果、被覆層の硬化が不充分な状態で光ファイバ素線に非接触式方向変換器20A〜20Cのガスが吹き付けられ、被覆層が変形したためであると考えられる。
【0045】
第1硬化部40Aを通過後の半硬化被覆層の硬化度Kが、実施例1では0.25であり、比較例5では0.20であることから、この硬化度Kは0.25以上とすることが望ましい。なお、線引き速度が速くなるほど、1つの硬化装置を光ファイバ素線が通過する時間が短くなり、未硬化被覆層若しくは半硬化被覆層に吸収される紫外線量が小さくなる。従って、線引き速度に合わせて、第1硬化部40Aを通過後の半硬化被覆層の硬化度Kが0.25以上となるように、第1硬化部40Aとして配置される硬化装置の台数を調整するとよい。
【0046】
比較例6として、実施例1の構成から、非接触式方向変換器20A〜20Cの位置を、コーティング部30の前に変更した。すなわち、第1硬化部40Aと第2硬化部40Bとの間に、第2冷却部14を設置していない構成である。線引き速度は、50m/secとした。これにより得られた光ファイバ素線の被覆層は硬化しているが、被覆層のヤング率が実施例1と比較して約20%低下していた。これは、光ファイバ裸線3の状態における冷却は充分であったものの、光ファイバ素線が第1硬化部40Aを通過することで半硬化被覆層が昇温し、その状態のまま第2硬化部40Bに進入したことで、温度が高い状態で半硬化被覆層が硬化したためであると考えられる。つまり、被覆層を一つの硬化部で一度に硬化させるのではなく、複数の硬化部に分割した上で、これらの硬化部同士の間に冷却部を設けることで、温度が上昇しながら被覆層が硬化してしまうのを抑制することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の製造方法によれば、第1硬化工程と第2硬化工程との間で半硬化被覆層を冷却する第2冷却工程を有しているため、第1硬化工程で半硬化被覆層の温度が高まったとしても、第2冷却工程でこの温度を下げることができる。この構成により、第2硬化工程において、半硬化被覆層の温度が高いままこの半硬化被覆層が硬化するのを防ぎ、硬化後の被覆層を所望の状態とすることが可能となる。
【0048】
さらに、第2冷却工程は非接触式方向変換器20A〜20Cによって半硬化被覆層を冷却するものである。非接触式方向変換器20A〜20Cは、ガスを光ファイバに吹き付けるものであるため冷却能力が高く、短時間で確実に半硬化被覆層を冷却することが可能であり、線引き速度を高速化することができる。また、非接触式方向変換器20A〜20Cによって、例えば光ファイバの進行方向を上下方向から水平方向に変換しながら半硬化被覆層を冷却することで、装置全体のサイズが高さ方向に大きくなるのを防ぎつつ、半硬化被覆層が方向変換器の構成部材に接触して変形してしまうことも抑えることができる。
【0049】
また、第1硬化工程において、半硬化被覆層の硬化度Kが0.25以上となるまで、未硬化被覆層を硬化させることで、非接触式方向変換器20A〜20Cのガスの圧力によって被覆層が変形してしまうのを抑えることができる。
【0050】
また、第2冷却工程において、非接触式方向変換器20A〜20Cが半硬化被覆層に吹き付けるガスの酸素濃度を10%以下とすることで、被覆層がラジカル硬化性の紫外線硬化型樹脂であっても、酸素阻害による被覆層の硬化不良が生じるのを抑えることができる。
【0051】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0052】
例えば、前記実施形態の製造装置1A、1Bでは冷却器12として冷却筒を用いたが、他の構成の冷却器12を採用してもよい。例えば、非接触式方向変換器を冷却器12として採用することも可能である。
また、前記実施形態の製造装置1A、1Bは除冷炉11を備えていたが、光ファイバ素線に要求される伝送損失のレベルに応じて、この除冷炉11を備えていない構成を採用してもよい。
【0053】
また、前記実施形態の製造装置1A、1Bは2つの硬化部40A、40Bを備えていたが、硬化部は3つ以上設けられていてもよい。この場合、複数個所に分割された各硬化部同士の間に、それぞれ非接触式方向変換器が配置されていてもよい。
【0054】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。