(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記温度調整部は、前記非接触式方向変換器の下流側かつ前記コーティング部の上流側に配置された温度測定部による前記光ファイバ裸線の温度の測定結果に基づいて、前記光ファイバ裸線の温度を調整する、
請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
前記温度調整部は、前記硬化部の下流側に配置された被覆径測定部による被覆層の外径の測定結果に基づいて、前記光ファイバ裸線の温度を調整する、請求項1または2に記載の光ファイバの製造方法。
前記温度調整部と前記コーティング部との間における前記光ファイバ裸線の温度が30℃以上100℃以下の範囲内である、請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態に係る光ファイバの製造装置の構成を、
図1を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部を認識可能な大きさとするため縮尺を適宜変更している。
図1に示すように、光ファイバの製造装置1Aは、紡糸部10と、除冷炉11と、冷却器12と、非接触式方向変換器20A〜20Cと、コーティング部30と、硬化部40と、被覆径測定部50と、方向変換器20Dと、引き取り部70と、巻き取り部90と、を備えており、各部が上からこの順に配置されている。
【0020】
紡糸部10は、光ファイバ母材を溶融させる溶融炉などから構成されている。紡糸部10は、光ファイバ裸線3を形成する。
【0021】
除冷炉11は、紡糸部10の溶融炉から引き出された高温の光ファイバ裸線3を、徐々に冷却するための装置である。除冷炉11によって光ファイバ裸線3をゆっくりと冷却することで、光ファイバの伝送損失を低減することができる。
冷却器12は、光ファイバ裸線3を冷却する。冷却器12としては、後述する冷却筒などを採用することができる。なお、冷却器12の下流側に配置されている非接触式方向変換器20A〜20Cでも光ファイバ裸線3は充分に冷却されるため、光ファイバの製造装置1Aは、冷却器12を備えていなくてもよい。
【0022】
非接触式方向変換器20A、20B、20Cは、冷却器12の下流側に、この順に配置されている。各非接触式方向変換器20A、20B、20Cは、光ファイバ裸線3の進行方向をそれぞれ90°、180°、90°変換する。例えば非接触式方向変換器20Aは、光ファイバ裸線3の進行方向を、下方向から水平方向へと約90°変換している。なお、これら非接触式方向変換器の設置数、設置位置、方向変換の角度などは適宜変更してもよい。
【0023】
非接触式方向変換器20A〜20Cは、光ファイバ裸線3を案内するガイド溝を有し、このガイド溝内には、ガイド溝に沿って配線された光ファイバ裸線を浮揚させる流体(ガス)の吹き出し口が形成されている。非接触式方向変換器20A〜20Cは、吹き出し口から空気やヘリウム等のガスを光ファイバ裸線3に吹き付けることで、その構成部材を光ファイバ裸線3に接触させることなく、光ファイバ裸線3を浮上させることが可能である。なお、本実施形態における非接触式方向変換器の構成は、特許第5851636号公報に記載されているものと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0024】
光ファイバ裸線3に吹き付けるガスとして空気を用いる場合、光ファイバ裸線3を浮上させるのに必要となるガス流量は、例えば100〜200L/min程度である。なお、このガス流量は、ガスの吹き出し口の幅などによって適宜変更される。このガス流量を調整することで、光ファイバ裸線3の浮上量、すなわち光ファイバ裸線3の各構成部材に対する通過位置を調整することができる。
【0025】
光ファイバ裸線3の通過位置が大きく変わると、この光ファイバ裸線3が各構成部材に接触してしまい、光ファイバの強度を低下させる要因となる。また、被覆層として紫外線硬化型樹脂が用いられ、硬化部40として用いられる硬化装置がUV−LEDである場合、UV−LEDの照射光には指向性があるため、紫外線を照射できる範囲が比較的小さい。従って、未硬化被覆層に紫外線を確実に照射するために、光ファイバ素線の通過位置をより厳しく管理する必要が生じる。そこで、非接触式方向変換器20A〜20Cの下流側には不図示の位置センサが配置されており、この位置センサが光ファイバ素線の位置を計測する。この計測結果に基づいて、光ファイバ素線の位置が適切な位置となるように、非接触式方向変換器20A〜20Cが光ファイバ素線に吹き付けるガス流量が調整される。
【0026】
非接触式方向変換器20A〜20Cを通過した光ファイバ裸線3は、後述する温度調整部13および温度測定部14を通過後、コーティング部30に進入する。
【0027】
コーティング部30は、ダイコーティングなどによって、光ファイバ裸線3の外周に、樹脂前駆体を含む流動性のある材料(以下、単に樹脂材料という)を塗布(コーティング)して未硬化被覆層を形成する。樹脂材料のコーティングは、例えば2層コーティングであり、内側にヤング率の低い一次被覆層用の樹脂材料を塗布し、外側にヤング率の高い二次被覆層用の樹脂材料が塗布される。被覆層としては、例えばウレタンアクリレート系の樹脂などの紫外線硬化型樹脂を用いることができる。なお、コーティング部30は、一次被覆層と二次被覆層とを別々に塗布する構成であってもよいし、一次被覆層と二次被覆層とを同時に塗布する構成であってもよい。なお、本実施形態では、光ファイバ裸線3の外周に被覆層が設けられた状態のものを光ファイバ素線という。
【0028】
なお、安定したコーティングを実現するために、コーティング部30で光ファイバ裸線3に塗布される樹脂材料の粘度は、ある程度低い必要があり、樹脂材料の粘度はその温度を上げることで低下させることができる。従って、コーティング部30で塗布される樹脂材料の温度は予め上げられている。特に、常温時の樹脂材料の粘度が高いほど、コーティング部30で塗布される際の樹脂材料の温度を高くする必要がある。
【0029】
コーティング部30を通過した光ファイバ素線は、未硬化被覆層を硬化させる硬化部40に進入する。被覆層が紫外線硬化型樹脂からなる場合、硬化部40としては、紫外線照射ランプまたはUV−LEDなど、およびこれらを組み合わせた硬化装置を用いることができる。硬化部40として配置する硬化装置の数は、これらの硬化装置を通過した被覆層の硬化度を指標として定めるのがよい。
【0030】
硬化部40を通過した光ファイバ素線は、被覆径測定部50によって被覆層の外径を測定された後、方向変換器20Dによって、下方向から略水平方向へと進行方向を変えられる。そして、引き取り部70により引き取られ、巻取り部90により巻き取られる。なお、硬化部40を通過した光ファイバ素線の被覆層は既に硬化しているため、方向変換器20Dとしては接触式のプーリなどの方向変換器を用いることができる。
引き取り部70は、例えば引取りキャプスタンであり、引き取り部70によって線引き速度が決定される。線引き速度は例えば25m/sec以上である。
巻取り部90は、光ファイバ素線5を巻き取る巻取りボビンなどである。
【0031】
ところで、上述の通り、本実施形態の光ファイバの製造装置1Aでは、コーティング部30の上流側に、非接触式方向変換器20A〜20Cが配置されている。非接触式方向変換器20A〜20Cは、ガスを光ファイバ裸線3に吹き付けるため、光ファイバ裸線3を冷却する能力が高いが、ガスの流量や線引き速度などのばらつきによって、非接触式方向変換器20A〜20Cを通過後の光ファイバ裸線3の温度がばらつく。例えばガスの流量が増大したり線引き速度が減少したりすると、光ファイバ裸線3の温度は低くなり、ガスの流量が減少したり線引き速度が増大したりすると、光ファイバ裸線3の温度は高くなる。このように光ファイバ裸線3の温度がばらつくと、コーティング部30が光ファイバ裸線3の外周に樹脂材料を塗布する際に、塗布される樹脂材料の量が変動する。
【0032】
例えば、光ファイバ裸線3の温度が高すぎると、その表面の濡れ性が低下し、光ファイバ裸線3と樹脂材料との接触角が増大し、光ファイバ裸線3の表面に塗布される樹脂材料の量が小さくなってしまう。また、樹脂材料が一般的な紫外線硬化型樹脂である場合には、光ファイバ裸線3の温度が高すぎると、樹脂材料が硬化する際の樹脂材料の温度も高くなってしまい、硬化不良が生じるおそれもある。
【0033】
一方、光ファイバ裸線3の温度が低すぎると、光ファイバ裸線3と樹脂材料との接触角が減少しすぎて、光ファイバ裸線3の表面上で樹脂材料がスリップする。これにより、被覆層の厚みが不安定となったり、硬化後の被覆層と光ファイバ裸線3との密着性が低下したりするおそれがある。
以上のことから、非接触式方向変換器20A〜20Cを通過後の光ファイバ裸線3の温度は、コーティング部30に進入する前に、所定の範囲内(例えば30℃〜100℃)で安定するように管理されることが望ましい。
【0034】
そこで本実施形態の製造装置1Aは、光ファイバ裸線3の温度を調整する温度調整部13と、光ファイバ裸線3の温度を測定する温度測定部14と、温度調整部13を制御する制御部15Aと、を備えている。温度調整部13および温度測定部14は、非接触式方向変換器20A〜20Cとコーティング部30との間に配置されている。
【0035】
温度調整部13としては、光ファイバ裸線3を冷却する冷却筒、光ファイバ裸線3を加熱するヒータ、あるいはこれら冷却筒およびヒータなどを組み合わせたものを用いることができる。冷却筒とは、水冷した筒の空洞部にガスを導入し、その空洞部に光ファイバ裸線3を通過させることで、この光ファイバ裸線3を冷却するものである。空洞部に導入するガスとしては、ヘリウム、窒素、二酸化炭素、もしくはこれらの混合ガスが挙げられる。例えば、ヘリウムおよび窒素の混合ガスを空洞部に導入する場合、ヘリウムと窒素との熱伝導率の違いから、これらの混合比を変えることで、冷却筒を出た光ファイバ裸線3の温度を調整することが可能である。ここで、ガスの混合比を変える制御は、例えば冷却筒の温度を変える制御よりも、極めて短時間で行うことが可能であり、応答性がよい。すなわち、ガスの混合比を変えることで光ファイバ裸線3の温度を調整する方式では、温度測定部14による温度測定結果を、温度調整部13の制御へと素早く反映させることができる。
【0036】
なお、温度調整部13としては、冷却機能若しくは加熱機能を有するものであれば、冷却筒若しくはヒータなど以外の装置を用いてもよい。温度調整部13としてどのような装置を用いるかについては、コーティング部30の上流側に配置される非接触式方向変換器の数量、これらのガスの流量、除冷炉11若しくは冷却器12の有無などを考慮して定めるとよい。例えば光ファイバ裸線3の温度が所望の温度より高くなる傾向があれば、温度調整部13として冷却筒などの冷却装置を用い、その逆の傾向があれば、温度調整部13としてヒータなどの加熱装置を用いるとよい。
【0037】
温度測定部14は、温度調整部13の下流側に位置しており、温度調整部13を通過後の光ファイバ裸線3の温度を測定する。温度測定部14としては、赤外線センサを用いた非接触式温度測定器などを用いることができる。温度測定部14は、制御部15Aに有線通信または無線通信によって接続されており、光ファイバ裸線3の温度の測定結果を制御部15Aに入力する。
【0038】
制御部15Aは、PCなどであり、温度測定部14による光ファイバ裸線3の温度の測定結果に基づいて、温度調整部13を制御する。制御部15Aは、PID制御によって温度調整部13を制御することが望ましい。制御部15Aは、不図示のメモリ(ROMなど)を備えており、このメモリには光ファイバ裸線3の目標温度tが記憶されている。目標温度tは、被覆層となる樹脂材料が光ファイバ裸線3に適切に塗布される温度であり、予め設定されている。
【0039】
図2は、制御部15Aによる制御フローの例を説明する図である。
図2に示すように、温度測定部14は、温度調整部13を通過後の光ファイバ裸線3の実温度tmを測定し、これを制御部15Aに入力する。制御部15Aは、実温度tmと目標温度tとを比較し、これらの大小関係に応じた制御信号Q1を温度調整部13に出力する。
【0040】
例えばtm>tである場合、光ファイバ裸線3の温度をより低下させるように温度調整部13を動作させる信号が、制御信号Q1として出力される。温度調整部13が冷却筒である場合、この制御信号Q1を受け取った温度調整部13は、冷却筒の空洞内に導入されるガスの熱伝導率が大きくなるように、ガスの混合比を変更する。
逆に、tm<tである場合には、光ファイバ裸線3の温度をより上昇させるように温度調整部13を動作させる信号が、制御信号Q1として出力される。温度調整部13が冷却筒である場合、この制御信号Q1を受け取った温度調整部13は、冷却筒の空洞内に導入されるガスの熱伝導率が小さくなるように、ガスの混合比を変更する。
【0041】
また、温度調整部13がヒータなどである場合には、制御信号Q1に応じて、ヒータに通電する電流値などが変更される。
このようにして、温度調整部13は、温度測定部14による光ファイバ裸線3の温度の測定結果に基づいて、実温度tmが目標温度tに近づくように、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度を調整する。
【0042】
次に、上記のように構成された製造装置1Aを用いた光ファイバの製造方法について説明する。
【0043】
まず、紡糸部10において、光ファイバ母材を溶融紡糸して光ファイバ裸線3を形成する(紡糸工程)。
次に、光ファイバの伝送損失を小さく抑えるために除冷炉11において光ファイバ裸線3を徐々に冷却した上で、冷却器12によって、所定の温度まで光ファイバ裸線3を冷却する(第1冷却工程)。
【0044】
次に、非接触式方向変換器20A〜20Cによって、光ファイバ裸線3の進行方向を変換しつつ、光ファイバ裸線3を冷却する(第2冷却工程)。非接触式方向変換器20A〜20Cを通過した光ファイバ裸線3の温度は、上述の通りばらつく。
次に、光ファイバ裸線3の温度を、温度調整部13によって調整する(温度調整工程)。このとき、制御部15Aは、温度測定部14が測定した光ファイバ裸線3の実温度tmが目標温度tに近づくように、温度調整部13を制御する。
【0045】
次に、コーティング部30において、光ファイバ裸線3の外周に樹脂前駆体を含む未硬化被覆層を設けて、光ファイバ素線とする(コーティング工程)。
次に、硬化部40において、未硬化被覆層を硬化させる(硬化工程)。
次に、被覆径測定部50において、光ファイバ素線の外径を測定する。
そして、方向変換器20Dによって光ファイバ素線の進行方向を略水平方向に変換させ、引き取り部70によって光ファイバ素線を引き取りながら、巻き取り部90によってこの光ファイバ素線を巻き取る。
【0046】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
本実施形態では、被覆径測定部50の測定結果に基づいて、温度調整部13を制御する点が第1実施形態と異なる。
【0047】
図3に示すように、本実施形態の光ファイバの製造装置1Bは、有線通信若しくは無線通信によって温度調整部13および被覆径測定部50に接続された制御部15Bを備えている。制御部15Bのメモリには、光ファイバ素線の目標被覆径dcが記憶されている。
なお、
図3の例では、温度調整部13の下流側に温度測定部が設けられていないが、第1実施形態と同様に温度測定部を設けてもよい。
【0048】
図4は、制御部15Bによる制御フローの例を説明する図である。
図4に示すように、被覆径測定部50は、硬化部40を通過後の光ファイバ素線の実被覆径dcmを測定し、これを制御部15Bに入力する。制御部15Bは、実被覆径dcmと目標被覆径dcとを比較し、これらの大小関係に応じた制御信号Q2を温度調整部13に出力する。
【0049】
先述の通り、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度が高い場合、未硬化被覆層としての樹脂材料が光ファイバ裸線3に塗布されにくくなり、被覆径が小さくなる。逆に、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度が高い場合には、被覆径が大きくなる。
そこで、例えばdcm>dcである場合には、光ファイバ裸線3の温度をより上昇させるように温度調整部13を動作させる信号が、制御信号Q2として出力される。逆に、dcm<dcである場合には、光ファイバ裸線3の温度をより低下させるように温度調整部13を動作させる信号が、制御信号Q2として出力される。これら制御信号Q2に応じて、温度調整部13は、冷却筒に導入するガスの混合比などを変更する。
このようにして、温度調整部13は、被覆径測定部50による被覆層の外径の測定結果に基づいて、実被覆径dcmが目標被覆径dcに近づくように、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度を調整する。
【0050】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
本実施形態では、線引き速度および非接触式方向変換器のガス流量が、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度に影響を与えることに着目し、線引き速度および前記ガス流量に基づいて温度調整部13を制御する点が、第1実施形態と異なる。
【0051】
図5に示すように、本実施形態の光ファイバの製造装置1Cは、紡糸部10と、裸線径測定部16と、冷却器12と、非接触式方向変換器20A〜20Cと、位置検出部18と、温度調整部13と、コーティング部30と、硬化部40と、被覆径測定部50と、方向変換器20Dと、引き取り部70と、巻き取り部90と、を備えており、各部が上からこの順に配置されている。
【0052】
さらに、光ファイバの製造装置1Cは、非接触式方向変換器20Cのガス流量を調整するガス流量調整部17と、制御部15Cと、を備えている。制御部15Cは、裸線径測定部16、ガス流量調整部17、位置検出部18、温度調整部13、および引き取り部70に、有線通信または無線通信によって接続されている。
なお、本実施形態の引き取り部70は、線引き速度Vを検出し、これを制御部15Cに入力するように構成されている。
【0053】
図6は、制御部15Cによる制御フローの例を説明する図である。
図6に示すように、裸線径測定部16は、紡糸部10から引き出された光ファイバ裸線3の外径(以下、裸線外径dfという)を測定し、これを制御部15Cに入力する。制御部15Cは、裸線外径dfと光ファイバ裸線3の目標外径とを比較し、この比較結果に基づいて、線引き速度設定値Vsを引き取り部70に出力する。例えば裸線外径dfが目標外径より大きい場合には、線引き速度Vを増加させるように線引き速度設定値Vsが設定される。また、裸線外径dfが目標外径より小さい場合には、線引き速度Vを減少させるように線引き速度設置値Vsが設定される。このようにして、制御部15Cは、裸線外径dfが目標外径に近づくように、引き取り部70による線引き速度Vを調整する。
【0054】
一方、位置検出部18は、非接触式方向変換器20Cを通過した光ファイバ裸線3の位置(以下、裸線位置Pという)を検出し、これを制御部15Cに入力する。制御部15Cは、裸線位置Pと目標位置とを比較し、この比較結果に基づいて、ガス流量設定値Gsをガス流量調整部17に出力する。例えば裸線位置Pが目標位置よりも非接触式方向変換器20Cのガイド溝の底面に近い場合には、ガス流量Gを増加させるようにガス流量設定値Gsが設定される。また、裸線位置Pが目標位置よりも前記底面から遠い場合には、ガス流量Gを減少させるようにガス流量設定値Gsが設定される。このようにして、制御部15Cは、裸線位置Pが目標位置に近づくように、非接触式方向変換器20Cのガス流量Gを調整する。
【0055】
ここで、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度は、線引き速度Vおよびガス流量Gによって変化する。例えば線引き速度Vが大きく、ガス流量Gが小さいほど、光ファイバ裸線3の温度が高くなる傾向がある。そこで制御部15Cのメモリには、線引き速度V、ガス流量G、および光ファイバ裸線3の温度の相関関係が予め記憶されている。この相関関係は、例えば線引き速度Vを一定にしたままガス流量Gを変化させたり、ガス流量Gを一定にしたまま線引き速度Vを変化させたりしたときの、光ファイバ裸線3の温度変化を測定することで得られる。
図6に示すように、制御部15Cは、前記相関関係を参照し、線引き速度Vおよびガス流量Gに基づいて、光ファイバ裸線3の温度を所定の温度に近づけるように設定された制御信号Q3を、温度調整部13に出力する。
【実施例】
【0056】
以下、具体的な実施例を用いて、上記実施形態を説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0057】
(実施例)
本実施例では、
図7に示す光ファイバの製造装置1Dを用いて光ファイバを製造した。光ファイバの製造装置1Dの基本的な構成は、第2実施形態の製造装置1Bの構成と同様である。ただし、除冷炉および冷却部は設けられておらず、非接触式方向変換器20Aおよび20Bの間には非接触式方向変換器20Eが設けられている。また、非接触式方向変換器20Cと温度調整部13との間には温度測定部14Aが設けられ、温度調整部13とコーティング部30との間には温度測定部14Bが設けられている。
なお、光ファイバの製造装置1Dにおける非接触式方向変換器20A、20E、20B、20Cはそれぞれ、光ファイバ裸線3の進行方向を180°、180°、90°、90°の順に変換する。
【0058】
本実施例では、温度調整部13として、冷却筒を用いた。冷却筒の空洞内に導入するガスとして、ヘリウムおよび窒素の混合気体を用いた。光ファイバ裸線3の目標外径を125μm、光ファイバ素線の目標外径(目標被覆径dc)を250μmとした。被覆層として、紫外線硬化型樹脂(ウレタンアクリレート)を採用した。制御部15Bに、
図4に示すような制御を実行させ、被覆径測定部50による実被覆径dcmの測定結果が、目標被覆径dcである250μmに近づくように、温度調整部13を制御させた。
【0059】
より詳しくは、dcm>dcの場合には、温度調整部13に導入される混合ガスのうち、ヘリウムの混合比を減少させる制御信号Q2を、制御部15Bが出力する。ヘリウムは窒素よりも熱伝導率が大きいため、ヘリウムの混合比を減少させることで冷却筒の冷却性能が低下し、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度が上昇する。これにより、コーティング部30において光ファイバ裸線3に塗布される樹脂材料の量が減少し、被覆径を減少させることができる。
逆に、dcm<dcの場合には、温度調整部13に導入される混合ガスのうち、ヘリウムの混合比を上昇させる制御信号Q2を制御部15Bが出力することで、被覆径を増大させることができる。
【0060】
上記のように構成された光ファイバの製造装置1Dにおいて、線引き速度を、28〜50m/secの範囲で変化させた。なお、上記の通り、線引き速度によってコーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度が変化するため、コーティング部30として設置されるダイスの出口径を適宜変更している。
この結果、温度測定部14Aで測定された光ファイバ裸線3の温度は、線引き速度が28m/secで103℃、33m/secで143℃、44m/secで229℃、50m/secで271℃であった。
これに対し、温度測定部14Bで測定された光ファイバ裸線3の温度は、線引き速度が28m/secで30℃、33m/secで37℃、44m/secで56℃、50m/secで68℃となった。
このように、温度調整部13を通過前の光ファイバ裸線3の温度が103℃〜271℃であったのに対し、温度調整部13を通過後の光ファイバ裸線3の温度は30℃〜68℃となった。
【0061】
被覆層が硬化した後の被覆層の外径は250μmで安定しており、コーティングの不良や硬化不良などは見られなかった。このことから、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度として、少なくとも30℃〜68℃の範囲内は適切であることが判る。
また、線引き速度を±1m/secの範囲で変動させても、被覆層の外径の変動は±1μm以内となり、コーティングの安定性が良好であることが確認された。
【0062】
(比較例1)
比較例1として、実施例と同様の製造装置1Dを用いて、制御部15Bによる温度調整部13の制御を行なわずに光ファイバ素線を製造した。この結果、線引き速度を±1m/secの範囲で変動させると、被覆層の外径が±5μm程度変動した。
比較例1と実施例との対比から、実施例における制御部15Bの温度調整部13への制御が適切であり、被覆層の外径を安定させる効果が得られていることが判る。
【0063】
(比較例2)
比較例2として、実施例における製造装置1Dの構成から、温度調整部13を除いた装置によって、光ファイバ素線を製造した。すなわち、非接触式方向変換器20Cを通過した光ファイバ裸線3が、温度調整工程を経ることなく、コーティング部30に進入する構成である。この構成で線引き速度を32m/secとすると、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度は100℃となり、線引き速度を35m/secとすると、同温度は116℃となった。
【0064】
この結果、線引き速度が32m/sec未満の範囲ではコーティング不良などがみられなかったものの、線引き速度が32m/secでは、線引き速度が安定しているにも関わらず、被覆層の外径が±5μm程度変動した。また、線引き速度が35m/secでは、光ファイバ裸線3に被覆層となる樹脂材料がコーティングされなかった。これは、光ファイバ裸線3の温度が100℃の場合に、適切に樹脂材料が塗布される温度の上限に近く、同温度が116℃の場合に、この上限を超えてしまったためであると考えられる。
以上のことから、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度は、100℃以下となるように管理されることが望ましい。
【0065】
(比較例3)
比較例3は、比較例1と同様の構成の製造装置を用いて、線引き速度を10m/secとした。すなわち、線引き速度を低速にしつつ、光ファイバ裸線3を冷却筒によって冷却してから、コーティング部30に進入させる構成である。この構成では、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度が20℃となった。
この結果、光ファイバ裸線3に被覆層は形成されたものの、硬化後の被覆層と光ファイバ裸線3との密着性が弱く、この光ファイバ素線を指で軽くしごく程度で、被覆層が光ファイバ裸線3から剥離されてしまった。これは、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度が低すぎるために生じる現象であると考えられる。
一方、実施例1では、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度が30℃(線引き速度28m/sec)の場合に、被覆層が正常に形成されることが確認されている。従って、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度は、30℃以上となるように管理されることが望ましい。
【0066】
以上説明したように、製造装置1A〜1Dを用いた光ファイバの製造方法によれば、非接触式方向変換器20Cの下流側かつコーティング部30の上流側に配置された温度調整部13によって、光ファイバ裸線3の温度を調整する温度調整工程を有している。これにより、非接触式方向変換器を用いながら、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度がばらつくのを抑えて、光ファイバ裸線3の外周に所望の状態の被覆層を形成することができる。
【0067】
また、第1実施形態において説明したように、温度測定部14による光ファイバ裸線3の温度の測定結果に基づいて、温度調整部13が光ファイバ裸線3の温度を調整するように構成した場合には、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度をより高精度に調整することができる。
【0068】
また、第2実施形態において説明したように、被覆径測定部50による被覆層の外径の測定結果に基づいて、温度調整部13が光ファイバ裸線3の温度を調整するように構成した場合には、被覆層の外径が変動するのを、より直接的に抑えることが可能となる。
【0069】
また、第3実施形態の構成では、前記相関関係を参照し、線引き速度Vおよびガス流量Gに基づいて温度調整部13を制御することで、これら線引き速度Vおよびガス流量Gに応じた最適な温度設定値を定めることができる。
【0070】
また、実施例において説明したように、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度を、30℃以上100℃以下の範囲内とした場合には、被覆層と光ファイバ裸線3との密着性が不充分となったり、被覆層となる樹脂材料が光ファイバ裸線3に適切に塗布されなかったりするのを抑えることができる。
なお、温度調整部13を制御する際の各種ばらつきを吸収するために、上記温度範囲には、10℃程度の余裕を持たせるとよい。この場合、コーティング部30に進入する光ファイバ裸線3の温度を、40℃以上90℃以下の範囲内にするとよい。
【0071】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0072】
例えば、前記第1実施形態の温度測定部14は、温度調整部13とコーティング部30との間に配置されていたが、温度測定部14は非接触式方向変換器20Cの下流側かつコーティング部30の上流側の任意の位置に配置することができる。例えば、非接触式方向変換器20Cと温度調整部13との間に、温度測定部14を配置してもよい。
【0073】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。