特許第6457598号(P6457598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6457598
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】R‐Fe‐B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20190110BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20190110BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20190110BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20190110BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20190110BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20190110BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20190110BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F1/057 170
   C22C38/00 303D
   C22C1/04 H
   C22C1/04 J
   B22F3/00 F
   B22F3/24 K
   B22F3/24 L
   B22F3/24 B
   B22F1/00 R
   B22F9/04 C
【請求項の数】6
【外国語出願】
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-163155(P2017-163155)
(22)【出願日】2017年8月28日
(65)【公開番号】特開2018-82145(P2018-82145A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2017年11月10日
(31)【優先権主張番号】201610781202.3
(32)【優先日】2016年8月31日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514130644
【氏名又は名称】▲煙▼台正海磁性材料股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ユー ヨンジアン
(72)【発明者】
【氏名】スン シウヤン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ ナン
(72)【発明者】
【氏名】ティアン シャオドン
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−114200(JP,A)
【文献】 特開2014−236221(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0352847(US,A1)
【文献】 特開2009−302236(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/148356(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02977999(EP,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105845301(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第107026003(CN,A)
【文献】 特開2012−248827(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0280775(US,A1)
【文献】 特開平08−143903(JP,A)
【文献】 特開2001−068332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/24
B22F 9/04
C22C 1/04
C22C 38/00
H01F 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R‐Fe‐B系焼結磁石の製造方法であって、
1)当業者に公知の方法を用いてR‐Fe‐B‐M焼結磁石を製造し、ただし、Rが、Nd、Pr、Dy、Tb、Ho、Gdのうち1種類又は数種類から選ばれ、その総量が26wt%〜33wt%であり、Mが、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Ga、Ca、Cu、Zn、Si、Al、Mg、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Moのうち1種類又は数種類から選ばれ、その総量が0〜5wt%であり、Bの総量が0.5wt%〜2wt%であり、それ以外が、Feであることと、
2)ステップ1)で得られた焼結磁石に対して、脱脂、酸洗い、活性化及び脱イオン水で洗浄処理を行うことと、
3)超微細テルビウム粉末、有機溶剤及び酸化防止剤を均一なスラリーに調製して、ステップ2)で処理された焼結磁石の表面を覆うことと、
4)ステップ3)における磁石に対して焼結、時効処理をし、処理された磁石が次の条件、すなわち、
Hcj(4)−Hcj(1)>10kOe;Br(1)−Br(4)<0.2kGs
を満たすようにし、ただし、Hcj(4)が、ステップ4)を経た後の焼結磁石の保磁力を示し、Hcj(1)が、ステップ1)のみを経た焼結磁石の保磁力を示し、kOeが、保磁力の単位であり、Br(4)が、ステップ4)を経た後の焼結磁石の残留磁気を示し、Br(1)が、ステップ1)のみを経た焼結磁石の残留磁気を示し、kGsが、残留磁気の単位であることと、
を含むことを特徴とするR‐Fe‐B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
ステップ3)における超微細テルビウム粉末が、純粋なテルビウムインゴットを寸法最小方向が1mm〜10mmのインゴットに加工するか、又は純粋なテルビウムインゴットを寸法最小方向が2mm未満〜10mmの粒に破砕して、その後、ジェットミル処理をして平均粉末粒度が0.5〜3μmのテルビウム粉末にするステップと、テルビウム粉末の製造中に、テルビウム粉末の酸素含有量及び炭素含有量を厳格に制御して、製造するテルビウム粉末が酸素含有量<1500ppm、炭素含有量<900ppmとなるようにするステップとにより製造されることを特徴とする、請求項1に記載のR‐Fe‐B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
ステップ3)において、スラリー中のテルビウム粉末の質量パーセントを50〜80%とし、酸化防止剤の質量パーセントを1〜10%とし、酸化防止剤に、1,3,5‐トリクロロトルエン、ジブチルヒドロキシトルエン、4‐ヘキシルレゾルシノールのうち1種類又は数種類を選んで用いることができることを特徴とする、請求項1に記載のR‐Fe‐B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
ステップ3)において、前記焼結磁石が、磁石の少なくとも一方向の厚さ<15mmで、前記焼結磁石の表面を覆う超微細テルビウム粉末層の厚さが10〜100μmであることを特徴とする、請求項1に記載のR‐Fe‐B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
ステップ4)において、真空焼結炉内の温度が850〜970℃、熱処理時間が5〜72h、真空焼結炉内の真空度が10−3〜10−4Paであり、前記時効処理の温度が470〜550℃、処理時間が2〜5hであることを特徴とする、請求項1に記載のR‐Fe‐B系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
平均粉末粒度が1〜2.5μmのテルビウム粉末にして、製造するテルビウム粉末が酸素含有量<1000ppm、炭素含有量<700ppmとなるようにすることを特徴とする、請求項2に記載のR‐Fe‐B系焼結磁石の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R‐Fe‐B系焼結磁石の製造方法に関し、希土類永久磁石材料の分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類永久磁石材料は、その優れた耐温性、高いエネルギー効率比などの特性によってエアコンコンプレッサー、風力発電、自動車などの分野で幅広く応用されている。省エネ・排出削減という情勢が日増しに切迫していくにつれて、モーターの効率を高めることが、各分野でモーターを設計し使用する際に注目される点となっている。これによって、磁石にも使用温度を満たせて界磁を喪失しないことが求められるだけでなく、磁石の用量を減らしつつモーターの磁束密度を高めることが求められ、このため、磁石の保磁力、磁気エネルギー積にもより高い要求が課せられるようになっている。
【0003】
磁石の保磁力を高めて磁石における重希土類の使用量を低減するため、業界で現在一般的に認められている方法は、粒界拡散技術である。近年、ネオジム・鉄・ホウ素永久磁石を生産する企業は、量産を実現しようとしてこの技術の研究に力を入れ続けてきた。特許文献JP‐A2004‐304543、JP‐A2004‐377379、JP‐A2005‐0842131には、Tb又はDyの酸化物、フッ化物及びオキシフッ化物をスラリーにして焼結磁石の表面にコーティングし、熱で乾燥させてから高温焼結拡散する方法が開示されている。
【0004】
特許文献JP‐A2006‐058555には、重希土類材料を蒸着しつつ焼結磁石内部に拡散させる方法が開示されており、特許文献JP‐A2006‐344779には、Tb又はDyのフッ化物を蒸着しつつ焼結磁石内部に拡散させる方法が開示されている。これらの特許方法を使用する利点は、金属の蒸気を使用するのに比べて、これらの方法がより安定しており、設備についての要求もより低い点である。また、これらの特許方法を使用すると、磁石を処理する効率も高く、拡散後の磁石の磁性がより明らかに高められる。
【0005】
しかしながら、これらの技術的思想には、次のような欠点もある。すなわち、高温焼結処理をした後の磁石の表面が高酸素層、高フッ素層で覆われるので、高性能の磁石を得るためには、機械による加工と研磨処理をしなければならず、生産コストが高騰するだけでなく、重希土類材料の新たな浪費ともなることである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、先行技術に存在する欠点を解消して、もう一つのR‐Fe‐B系焼結磁石の製造方法を提供することで、当該方法を使用して処理された磁石の外観をよくして、焼結磁石の表面を機械で加工・研磨する必要がないようにして材料を節約するとともに、永久磁石材料の保磁力をより大幅に向上させることを目的とする。
【0007】
本発明の目的を実現するために講じる技術的解決手段は、次の通りである。
【0008】
次の事項を含むことを特徴とするR‐Fe‐B系焼結磁石の製造方法である。
【0009】
1)当業者に公知の方法を用いてR‐Fe‐B‐M焼結磁石を製造する。ただし、Rは、Nd、Pr、Dy、Tb、Ho、Gdのうち1種類又は数種類から選ばれ、その総量は26wt%〜33wt%である。Mは、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Ga、Ca、Cu、Zn、Si、Al、Mg、Zr、Nb、Hf、Ta、W、Moのうち1種類又は数種類から選ばれ、その総量は0〜5wt%である。Bの総量は0.5wt%〜2wt%である。それ以外は、Feである。
【0010】
2)ステップ1)で得られた焼結磁石に対して、脱脂、酸洗い、活性化及び脱イオン水で洗浄処理を行う。
【0011】
3)超微細テルビウム粉末、有機溶剤及び酸化防止剤を均一なスラリーに調製して、ステップ2)で処理された焼結磁石の表面を覆う。
【0012】
4)ステップ3)における磁石に焼結、時効処理をし、処理された磁石が次の条件を満たすようにする。
【0013】
Hcj(4)−Hcj(1)>10kOe;Br(1)−Br(4)<0.2kGs
【0014】
ただし、Hcj(4)は、ステップ4)を経た後の焼結磁石の保磁力を示し、Hcj(1)は、ステップ1)のみを経た焼結磁石の保磁力を示し、kOeは、保磁力の単位である。Br(4)は、ステップ4)を経た後の焼結磁石の残留磁気を示し、Br(1)は、ステップ1)のみを経た焼結磁石の残留磁気を示し、kGsは、残留磁気の単位である。
【0015】
さらに、ステップ3)における超微細テルビウム粉末は、次のステップにより製造される。純粋なテルビウムインゴットを寸法最小方向が1mm〜10mmのインゴットに加工するか、又は純粋なテルビウムインゴットを寸法最小方向が2mm未満〜10mmの粒に破砕して、その後、ジェットミル処理をして平均粉末粒度が0.5〜3μmのテルビウム粉末にする。テルビウム粉末の製造中は、テルビウム粉末の酸素含有量及び炭素含有量を厳格に制御して、製造するテルビウム粉末が酸素含有量<1500ppm、炭素含有量<900ppmとなるようにする。
【0016】
さらに、ステップ3)において、スラリー中のテルビウム粉末の質量パーセントを50〜80%として、酸化防止剤の質量パーセントを1〜10%とする。酸化防止剤には、1,3,5‐トリクロロトルエン、ジブチルヒドロキシトルエン、4‐ヘキシルレゾルシノールのうち1種類又は数種類を選んで用いることができる。
【0017】
さらに、ステップ3)において、前記焼結磁石は、少なくとも一方向の厚さ<15mmである。前記焼結磁石の表面を覆う超微細テルビウム粉末層の厚さは10〜100μmである。
【0018】
さらに、ステップ4)において、真空焼結炉内の温度は850〜970℃、熱処理時間は5〜72h、真空焼結炉内の真空度は10−3〜10−4Paである。前記時効処理の温度は470〜550℃、処理時間は2〜5hである。
【0019】
またさらに、平均粉末粒度が1〜2.5μmのテルビウム粉末にする。製造するテルビウム粉末が酸素含有量<1000ppm、炭素含有量<700ppmとなるようにする。
【0020】
先行技術と比較した本特許方法の利点は、次の点である。フッ化物及びオキシフッ化物を使用しないので、拡散が完了した後の磁石内のフッ素及び酸素の含有量が高まることはないが、フッ素及び酸素の含有量が高すぎると磁石の磁気性能が低下する。また、拡散後の磁石の外観も清潔になり、表面の高酸素層、高フッ素層を機械で加工してすり減らす必要もなくなって、加工コストが節約され、プロセスも簡素化される。本発明では、ネオジム・鉄・ホウ素焼結磁石の表面に平均粉末粒度が1〜2.5μmのテルビウム粉末の層を設けて拡散しており、フッ化物、酸化物及びオキシフッ化物を使用して処理した後に比べて、磁石の外観もよくなり、同じように機械で加工する必要もなくなる。蒸気拡散法に比べても、当該方法では、磁石の保磁力の向上>10kOeで、残留磁気が0.2kGs未満低下し、蒸気拡散法を使用して処理された磁石よりも磁石の性能が遥かに優れたものとなる。当該方法を使用して処理された磁石は、性能に優れ、モーターに使用するとモーターにおける永久磁石の使用量を削減することができる上、重希土類の使用量も大幅に低減して、コストを低減している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の原理及び特徴について説明するが、挙げられた実例は、本発明を解釈するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0022】
本発明で使用する処理された焼結磁石は、次の方法を用いて製造して得ることができる。
【0023】
まず、焼結する半製品の合金については、真空又は不活性ガス、典型的にはアルゴンガス雰囲気において金属原料又は合金原料を溶融することで、1300〜1600℃、より好ましくは1400〜1500℃の温度で鋳込み始める。また、溶融体を急冷ローラに鋳込んで鱗片を形成し、急冷ローラの回転速度を20〜60r/min、より好ましくは30〜50r/minとして、急冷ローラ内に冷却水を通す。次に、鱗片をHD製粉、ジェットミルにより粒度が1〜10μm、より好ましくは2〜5μmの粉末にする。さらに次に、15KOeの磁場で配向し、プレス成形をする。さらに次に、圧粉体をArガス雰囲気下の焼結炉に入れて、900〜1300℃で1〜100h焼結し、より好ましくは1000〜1100℃で2〜50h焼結する。さらに次に、450〜650℃の温度で2〜50h、より好ましくは450〜500℃で4〜20h時効処理(時効処理とは、合金加工物に固溶化処理、冷間塑性変形又は鋳造、鍛造をした後で、高い温度に置くか又は室温を保ってその性能、形状、寸法を時間とともに変化させる熱処理プロセスをいう)をして、焼結する半製品を得る。さらに次に、焼結する半製品を最大辺長寸法に沿って100mm、異方性方向の寸法に沿って最大15mmの焼結磁石に加工する。
【0024】
その後、焼結磁石に30sの超音波脱脂、稀硝酸中での2度の15sの酸洗い、稀硫酸での15sの活性化処理、脱イオン水洗浄を順に行えば、処理された焼結磁石として使用に供することができる。
【0025】
本発明で使用するテルビウム粉末は、次の方法を用いて製造して得ることができる。
【0026】
純粋なテルビウムインゴットを寸法最小方向が10mm未満、より好ましくは5mm未満、最も好ましくは1mm未満のインゴットに加工する。又は純粋なテルビウムインゴットを寸法最小方向が10mm未満、より好ましくは5mm未満、最も好ましくは2mm未満の粒に破砕する。次に、ジェットミル処理をして粒度が0.5〜3μm、より好ましくは1〜2.5μmのテルビウム粉末にする。
【0027】
作られたテルビウム粉末の平均粉末粒度が3μm超だと、磁石で焼結磁石の表面を覆うときに磁石の表面との有効接触面積が小さくなって、高温処理をするときの焼結磁石の表面の粒界相とテルビウム粉末との有効接触に支障となって、拡散効果も明らかでなくなり、最終的に磁石の保磁力の向上も明らかなものでなくなる。作られたテルビウム粉末の平均粉末粒度が0.5μm未満だと、粉末粒度が低すぎて粉末の活性が高まって、テルビウム粉末が極めて酸化しやすくなるので、取扱可能性も著しく低下し、使用コストが大幅に上昇することになる。
【0028】
テルビウム粉末の製造中は、テルビウム粉末の酸素含有量及び炭素含有量を厳格に制御して、製造するテルビウム粉末が酸素含有量<1500ppm、炭素含有量<900ppm、より好ましくは酸素含有量<1000ppm、炭素含有量<700ppmとなるようにする。製造するテルビウム粉末が酸素含有量>1500ppmである場合、テルビウム粉末のうち粉末粒度の小さい粒が酸化されて、高温下で、焼結磁石の粒界にあるネオジムと置換が生じなくなることで処理の効果も低下することになる。炭素含有量>900ppmである場合、テルビウム粉末と焼結磁石との接触が阻害されることで磁石の処理効果に影響することになる。
【0029】
本発明で使用するスラリーは、次の方法を用いて製造して得ることができる。
【0030】
超微細テルビウム粉末、有機溶剤及び酸化防止剤を一定の割合で混合し、均一に撹拌してスラリーを得る。
【0031】
スラリー中のテルビウム粉末の質量パーセントとして好ましくは50〜80%とする。スラリー中のテルビウム粉末の質量パーセントが高すぎると、形成されるスラリーの粘度も大きくなって、焼結磁石の表面に均一なコーティング層を形成するのに支障となる上、焼結磁石の表面をコーティングしたときのコーティング層の厚さを制御しにくくなり、磁石全体の磁気性能を均一に向上させるのに支障となる。テルビウム粉末の質量パーセントが低すぎると、磁石の表面をコーティングするテルビウム粉末の分布が不均一になって、場合によってはテルビウム粉末の分布がない部分も現れてしまうことで、磁石の磁気性能の向上にも影響することになる。
【0032】
酸化防止剤を選択するときは、1,3,5‐トリクロロトルエン、ジブチルヒドロキシトルエン、4‐ヘキシルレゾルシノールの1種類又は数種類を選んで用いることができる。
【0033】
酸化防止剤の質量パーセントは1〜10%とする。スラリー中の酸化防止剤の含有量が低すぎると、超微細テルビウム粉末の一部が酸化してしまうことで磁石の性能の向上も低下することになる。スラリー中の酸化防止剤の含有量が多すぎると、磁石の表面のコーティング層内の有機物含有量が高くなってしまうことで、熱処理の際に熱処理設備内の真空度に影響し、また、磁石の表面に炭素が残留して焼結磁石の内部に入ることになり、いずれにしても磁石の性能の向上に不都合な効果を及ぼすことになる。
【0034】
有機溶剤としては、酸化防止剤と溶解可能で揮発しやすい上に粘度の小さいアルコール類、ケトン類、エーテル類が好ましいが、エチルアルコール、アセトン、ブタノンなどを選んでもよい。有機溶剤と酸化防止剤の溶解が徹底しなければ、コーティング層が不均一になって超微細テルビウム粉末が酸化することになってしまう。有機溶剤の揮発性が劣れば、焼結磁石の表面にコーティングした後で均一な乾燥塗膜を形成しにくくなる。また、有機溶剤の粘度が大きすぎれば、焼結磁石の表面にコーティングするときの流動性が制限され、コーティング層が不均一になってしまう。
【0035】
本発明による焼結磁石の表面を純粋なテルビウム粉末のコーティング層で均一に覆う方法には、スプレー、スラリー浸漬、シルクスクリーン印刷などの方法が含まれるが、これらには限られない。例えば、スプレーする方法を用いるなら、まず磁石を掛具に掛けてスラリーを磁石の表面にスプレーし、その後、熱で乾燥させると、テルビウム粉末の層で表面が均一に覆われた磁石を得ることができる。
【0036】
焼結磁石の表面のテルビウム粉末のコーティング層は、厚さが10〜100μmでなければならない。コーティング層の厚さが10μm未満になると、拡散効果も顕著ではなくなって、熱処理をした後の焼結磁石の性能の向上も明らかでなくなり、磁石の中心箇所の性能も殆ど変わらなくなって、磁石の表面と中心の性能の一致性が低くなる。コーティング層の厚さが100μm超になると、熱処理の際に焼結磁石の表面とテルビウム粉末のコーティング層との界面に容易に合金が形成されて、磁石の表面がすくわれ、焼結磁石を損傷することになってしまう。
【0037】
本実施態様においては、上記の方法を使用して磁石の表面をテルビウム粉末のコーティング層で覆った後、焼結磁石を真空焼結炉に入れる。真空焼結炉内の温度は850〜970℃に設定し、熱処理時間は5〜72hとし、真空焼結炉内の単位面積当たりの圧力は10−3〜10−4Paに制御する。
【0038】
真空焼結炉内の温度が800℃未満だと、焼結磁石の表面に付着するテルビウム原子の粒界層への拡散速度が遅くなって、テルビウム原子が焼結磁石の内部に効果的に入ることができなくなり、その結果、表層のテルビウム原子の濃度が高すぎるようになって、中心の含有量が低くなり、場合によってはテルビウム原子が入らないことになる。温度が1000℃より高いと、テルビウム原子が結晶粒内に拡散されるとともに焼結磁石の表面の性能を劣化させて、残留磁気と最大磁気エネルギー積を大幅に低下させる上、焼結磁石の表面で容易に融解して合金が形成され、磁石と外観を損なうことになってしまう。
【0039】
熱処理時間が5h未満だと、表面を覆うテルビウムが十分な時間、粒界に沿って焼結磁石の中心に拡散されないことで、焼結磁石の表層の磁気性能が中心よりも明らかに高くなって、磁石の均一性を劣化させることになるとともに焼結磁石全体の磁気性能も高く向上しなくなる。処理時間が72hを超えると、焼結磁石の表面に付着するテルビウムを消耗し終わった後(磁石の内部に拡散されて入るか、又は蒸発して処理室雰囲気に入る)も、Pr、Ndなどの希土類元素のような焼結磁石内部の希土類元素が揮発し続けることで焼結磁石の磁気性能を劣化させることになってしまう。
【0040】
最後に、上記の処理を所定時間実施した後、加熱を止めて、真空焼結炉内の温度を200℃以下まで低下させた後で改めて加熱を開始して、真空焼結炉内の温度を470〜550℃まで上昇させ、処理時間を2〜5hとする。上記の熱処理を所定時間実施してから、真空焼結炉内にArガスを通入させて室温まで冷却する。
【0041】
実施例1〜7
ネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウム、電解鉄、コバルト、銅、ガリウム、アルミニウム、ジルコニウム、ホウ素を重量比でNd‐23.8%、Pr‐5%、Dy‐0.6%、Tb‐0.4%、Fe‐68.29%、Co‐0.5%、Cu‐0.13%、Ga‐0.1%、Al‐0.1%、Zr‐0.12%、B‐1%
の割合にして、不活性ガス環境下の真空溶解炉に鋳込みを完了して、鋳込温度を1450℃とし、急冷ローラの回転速度を60r/minとすると、得られる鱗片の厚さは約0.3mmとなる。鱗片をHD製粉、ジェットミルにより平均粒度が3.5μmの粉末にする。15KOeの磁場で配向し、プレス成形をして、コンパクトにする。コンパクトにしたものをArガス雰囲気下の焼結炉に入れて、1100℃で5h焼結して圧粉体を得、圧粉体を500℃の温度で5h時効して、焼結する半製品を得る。機械で加工することで、焼結する半製品を寸法が40mm*20mm*4mmの50M磁石に加工して、Moとする。
【0042】
50M焼結磁石(40mm*20mm*4mm)に対して、脱脂、酸洗い、活性化及び脱イオン水洗浄をしてから乾燥処理する。磁石を掛具に掛けて平均粉末粒度が0.8μm、1.2μm、1.6μm、2μm、2.4μm、3μm、5μmのテルビウム粉末を使用して、それぞれエチルアルコール、1,3,5‐トリクロロトルエンと重量比12:7:1でスラリーJ1、J2、J3、J4、J5、J6及びJ7にする。その後、スラリーJ1、J2、J3、J4、J5、J6及びJ7をそれぞれ使用して磁石の表面にスプレーした後で熱風を用いて磁石を乾燥させ、磁石の表面に厚さが25±3μmのテルビウム粉末のコーティング層を形成し、これらの5種類の磁石をそれぞれMl、M2、M3、M4、M5、M6及びM7とする。これらの磁石を真空焼結炉内に置いて、970℃の温度の真空条件下(単位面積当たりの圧力は10−3〜10−4Paの範囲)で24h処理し、その後、500℃で5h時効処理をして、Arガスを通して室温まで冷却する。測定・分析をしたところ、その性能は、表1に示す通りとなる。
【0043】
【表1】
【0044】
比較したところ、次のことが理解される。磁石M1のHcjは、約3kOe増加しており、平均粉末粒度が0.8μmのテルビウム粉末がコーティング層を形成する過程で酸化を生じていることが示されている。磁石M2、M3、M4、M5のHcjは、10kOe超増加しており、平均粉末粒度が1〜2.5μmのテルビウム粉末が形成するコーティング層で磁石のHcjの向上に対する効果が最もよいことが示されている。磁石M6のHcjは約8kOe増加しており、磁石M7のHcjは約7kOe増加している。
【0045】
実施例8〜11
実施例1中と同一の溶解、製粉、成形、熱処理及びワイヤーカットの方法を使用して50M磁石を製造する。50M焼結磁石(40mm*20mm*4mm)に対して、脱脂、酸洗い、活性化及び脱イオン水洗浄をしてから乾燥処理する。磁石を掛具に掛けて平均粉末粒度がそれぞれ1.2μm、1.6μm、2μm、2.4μmのテルビウム粉末を使用して、エチルアルコールと重量比2:1でそれぞれスラリーJ8、J9、J10及びJ11にする。その後、スラリーJ8、J9、J10及びJllをそれぞれ使用して磁石の表面にスプレーした後で熱風を用いて磁石を乾燥させ、磁石の表面に厚さが25μmのテルビウム粉末のコーティング層を形成し、これらの3種類の磁石をそれぞれM8、M9、M10及びM11とする。これらの磁石を真空焼結炉内に置いて、970℃の温度の真空条件下(単位面積当たりの圧力は10−3〜10−4Paの範囲)で24h処理し、その後、500℃で5h時効処理をして、Arガスを通して室温まで冷却する。測定・分析をしたところ、その性能は、表2に示す通りとなる。
【0046】
【表2】
【0047】
酸化防止剤を添加しないスラリーにより形成するコーティング層では、熱処理をした後で磁石のHcjが向上しないことから、テルビウム粉末がコーティング層を形成する過程で酸化を生じていることが示されていることが理解される。
【0048】
以上の記載は、本発明の望ましい実施例であるにすぎず、本発明を限定するためのものではないので、およそ本発明の趣旨及び原則の中で行われるいかなる修正、均等な置換、改良などもすべて本発明の保護範囲内に含まれるべきものである。